説明

磁界角計測装置,回転角計測装置およびそれを用いた回転機,システム,車両および車両駆動装置

【課題】磁気抵抗素子をブリッジ構成で用いた回転角計測装置において、異常が発生すると正しい角度が出力されないので、それを用いた上位システムも機能停止するという課題があった。
【解決手段】ブリッジ60,61をそれぞれ構成するハーフブリッジのうち、正しい方のハーフブリッジの出力信号に基づいた磁界角度(回転角度)を信号151として出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗素子(以後、MR(Magnetoresistive)素子と称す)を用いて構成された磁界角計測装置、およびそれを用いた回転角計測装置に関する。
【0002】
また、本明細書において、位置センサとは、回転体の位置(回転角)を検出する回転角センサや、並進運動をする移動体の位置センサなどを指す。
【背景技術】
【0003】
回転体の回転角や位置を計測する回転角計測センサまたは位置センサでは、回転体に磁石などの磁界発生体を取り付け、磁界角計測センサでその磁界の方向を計測する。
【0004】
なお、本明細書において、位置センサとは、回転体の位置(回転角)を検出する回転角センサや、並進運動をする移動体の位置センサなどを指す。
【0005】
このような磁界角計測センサとして磁気抵抗素子を用いたものが知られている。磁気抵抗素子とは、素子に印加される磁界の方向や強度に応じて電気抵抗値が変化するものである。
【0006】
磁気抵抗効果素子(MR素子)には、異方性磁気抵抗層素子(Anisotropic Magneto-resistance、以下「AMR素子」)や、巨大磁気抵抗効果素子(Giant Magnetoresistance、以下「GMR素子」と呼ぶ)、トンネル磁気抵抗素子(Tunneling Magnetoresistance、以下「TMR素子」)などが知られている。以下、GMR素子を用いた磁界検出装置を例に、従来技術の概要を記す。
【0007】
GMR素子の基本構成を図2に示す。GMR素子は、第1の磁性層(固定磁性層、あるいはピン磁性層)13と第2の磁性層(自由磁性層)11とを有し、両者の磁性層の間に非磁性層(スペーサ層)12を挟み込んだ構成をとる。GMR素子に外部磁界30を印加すると、固定磁性層の磁化方向は変化せず固定されたままであるのに対し、自由磁性層の磁化方向20は外部磁界の方向に応じて変化する。
【0008】
本明細書では、固定磁性層の磁化方向22の角度をピン角(pin angle)と呼び、θpで表す。
【0009】
GMR素子の両端に電圧を印加すると素子抵抗に応じた電流が流れるが、その素子抵抗の大きさは固定磁性層の磁化方向(ピン角)θpと自由磁性層の磁化方向θfとの差Δθ=θf−θpに依存して変化する。したがって、固定磁性層の磁化方向θpが既知であれば、この性質を利用してGMR素子の抵抗値を測ることで自由磁性層の磁化方向θf、すなわち外部磁界の方向を検出することができる。
【0010】
GMR素子の抵抗値がΔθ=θf−θpにより変化するメカニズムは以下の通りである。
【0011】
薄膜磁性膜中の磁化方向は、磁性体中の電子のスピンの方向と関連している。したがって、Δθ=0の場合は自由磁性層中の電子と固定磁性層の電子とでは、スピンの向きが同一方向である電子の割合が高い。逆にΔθ=180°の場合には両者の磁性層中の電子は、スピンの向きが互いに逆向きの電子の割合が高い。
【0012】
図3は自由磁性層11,スペーサ層12,固定磁性層13の断面を模式的に示したものである。自由磁性層11および固定磁性層13中の矢印は多数電子のスピンの向きを模式的に示したものである。図3(A)はΔθ=0の場合であり、自由磁性層11と固定磁性層13のスピンの向きが揃っている。図3(B)はΔθ=180°の場合であり、自由磁性層11と固定磁性層13のスピンの向きが逆向きになっている。(A)のθ=0の場合、固定磁性層13から出た右向きスピンの電子は、自由磁性層11中でも同じ向きの電子が多数を占めているため自由磁性層11中での散乱が少なく、電子軌跡810のような軌跡を通る。一方、(B)のΔθ=180°の場合は、固定磁性層13から出た右向きスピンの電子は、自由磁性層11に入ると逆向きスピンの電子が多いため、散乱を強く受け、電子軌跡811のような軌跡を通る。このようにΔθ=180°の場合では電子散乱が増えるため、電気抵抗が増加する。
【0013】
Δθ=0〜180°の中間の場合は、図3(A),(B)の中間の状態になる。GMR素子の抵抗値は
【0014】
【数1】

となることが知られている。G/RはGMR係数と呼ばれ、数%〜数10%である。
【0015】
このように電子スピンの向きによって、電流の流れ方(すなわち電気抵抗)を制御できることから、GMR素子はスピンバルブ素子とも呼ばれる。
【0016】
また、膜厚が薄い磁性膜(薄膜磁性膜)では、面の法線方向の反磁界係数が極端に大きいため、磁化ベクトルは法線方向(膜厚方向)に立ち上がることはできず、面内に横たわっている。GMR素子を構成する自由磁性層11,固定磁性層13はいずれも十分薄いため、それぞれの磁化ベクトルは面内方向に横たわっている。
【0017】
磁気センサとして用いる場合は、図4に示したように、4個のGMR素子R1(51−1)〜R4(51−4)を使ってホイートストン・ブリッジ60を構成する。ここで、R1(51−1),R3(51−3)の固定磁性層の磁化方向をθp=0とし、R2,R4の固定磁化層の磁化方向をθp=180°と設定する。自由磁性層の磁化方向θfは外部磁界で決まるので4個のGMR素子で同一となるため、Δθ2=θf−θp2=θf−θp1−π=Δθ1+πの関係が成り立つ。ここで、Δθ1は、θp=0を基準としているので、Δθ1=θと置き換える。したがって、(数1)式からわかるように、R1,R3では(n=1,3):
【0018】
【数2】

となり、R2,R4では(n=2,4):
【0019】
【数3】

となる。
【0020】
図4のブリッジ回路60に励起電圧e0を印加した時の端子Vc1,Vc2間の差電圧ΔV=Vc2−Vc1は以下のようになる:
【0021】
【数4】

これに(数2),(数3)式を代入し、n=1〜4についてRn0が等しいと仮定し、R0=Rn0とおくと:
【0022】
【数5】

となる。このように、信号電圧Δvはcosθに比例するので、磁界の方向θを検出することができる。また、このブリッジ回路は、cosθに比例した信号を出力するのでCOSブリッジと呼ぶ。
【0023】
固定磁化層の方向をCOSブリッジと90度変えたブリッジ61を考える。すなわち、θp=90°,270°のGMR素子でブリッジを構成する。上記と同様に計算すると信号電圧ΔVs(=Vs2−Vs1)は:
【0024】
【数6】

というようにsinθに比例するので、このブリッジ61をSINブリッジと呼ぶ。COSブリッジとSINブリッジの2つの出力信号の比の逆正接を計算することで、磁界ベクトルの方向θm(磁界角度)が求まる。
【0025】
【数7】

【0026】
このように磁気抵抗素子は磁界方向を直接検出するという特徴がある。
【0027】
特に自動車や産業用機械,ロボットなどで使用する回転角センサでは、センサ出力値として間違った値を出力される事態を避けなければならない。回転角センサに異常が生じた場合にそれを検出する方法が、例えば特許文献1に開示されている。
【0028】
特許文献1では、ブリッジの2つの出力V1とV2の和(V1+V2)が所定の範囲を超えた場合に、センサが故障と判定し、センサから誤った角度情報が出力されないような処置をとる。このようにして、そのセンサを用いた車などの安全性を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0029】
【特許文献1】特開2005−49097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
近年、電気自動車などの車両の電動化が進んでいる。
【0031】
また、電子的な信号のみで動作させる「X−by−Wire」に代表される電子化も進んでいる。例えば、電動パワーステアリングの例を挙げると、完全に電子化されたSteer−by−Wireシステムにおいては、運転者がハンドルで与えた指令信号は、いったん電子的な信号(角度情報など)に変換され、それがステアリング制御装置に伝達され、電子的な信号に応じた制御でステアリング駆動モータを動作させる。
【0032】
このように、電動化,電子化された車両システムにおいては、例えばモータの制御を行っている回転角センサに異常が発生して、センサ動作が停止すると、そのモータが動作できなくなるため、車両システム自体が動作できなくなるという問題があった。
【0033】
このような問題の発生を防ぐために、回転角センサを2つ設置しておき、一方のセンサに異常が発生した場合に他方のセンサを動作させるなどの冗長センサ構成を用いるなどの対応をしている。しかしながら、冗長構成を用いるとコストアップするという課題や、システムの小型化に支障が生じるなどの課題があった。
【0034】
また、自動車で代表される車両の例を挙げたが、産業用機械や、ロボットなどの分野においても、回転角センサが故障した際にシステム全体が停止してしまうという同様な課題があった。
【0035】
本発明の目的は、センサに異常が発生した場合でもシステムの動作を継続可能な計測結果を出力可能で、かつシステムの小型化に寄与できる磁界角計測装置又は回転角計測装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0036】
上記の課題は、下記の構成により解決することができる。
【0037】
磁気抵抗素子で構成されるCOSブリッジ及びSINブリッジと、COSブリッジの出力信号とSINブリッジの出力信号とを受けて磁界角度を検出する検出部とを備え、前記検出部は、COSブリッジまたはSINブリッジのおのおのの、いずれか一方のハーフブリッジに異常が発生した場合に、正常な方のハーフブリッジから出される信号に基づいて角度信号を出力するようにする。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、磁界角計測装置または回転角計測装置に異常が発生した場合でも、正しい角度情報の出力を継続することが可能になった。
【0039】
これにより、磁界角計測装置または回転角計測装置に異常が発生した場合でも、車両などの上位システムを稼働させることが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明による第1の実施例の磁界角計測装置の構成を示す図である。
【図2】GMR素子の構成を示す図である。
【図3】GMR素子の抵抗変化のメカニズムを説明する図である。
【図4】磁気抵抗素子で構成されたブリッジの構成を示す図である。
【図5】MRブリッジ部の構成例を示す図である。
【図6】GMR素子の配線パターンを示す図である。
【図7】本発明の実施例2で用いる冗長化部の構成を示す図である。
【図8】本発明の実施例2の磁界角計測装置の構成を示す図である。
【図9】本発明の実施例3の磁界角計測装置の構成を示す図である。
【図10】本発明の実施例3のスイッチ切替の組み合わせを示す表である。
【図11】本発明の実施例4の磁界角計測装置の構成を示す図である。
【図12】本発明の実施例5の回転角計測装置の構成を示す図である。
【図13】本発明の実施例6の回転機の構成を示す図である。
【図14】本発明の実施例6の回転機の構成を示す図である。
【図15】本発明の実施例7のEPSの構成を示す図である。
【図16】本発明の実施例8の構成を示す図である。
【図17】本発明の実施例9の車両駆動装置を示す図である。
【図18】本発明の実施例10の車両駆動装置を示す図である。
【図19】本発明のデータ出力信号の構成例を示す図である。
【図20】本発明の磁界角計測装置のパッケージ構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0042】
第1の実施例では磁気抵抗素子として巨大磁気抵抗素子(GMR素子)を用いた例を示す。
【0043】
図1は、本実施例による磁界角検出装置の構成図である。
【0044】
磁界角検出装置は、COSブリッジ60とSINブリッジ61と、検出部302とで構成される。COSブリッジ60とSINブリッジ61を合わせてMRブリッジ部70と呼ぶ。ここで、「MR」は磁気抵抗素子(Magneto-Resistance)の略である。
【0045】
COSブリッジ60は、4個のGMR素子51で構成されており、図4に記載のようにGMR素子51の固定層のスピン方向(ピン角)を適切に設定することで、ブリッジの信号電圧(Vc2−Vc1)が磁界角度θの余弦cosθに比例するようになっている。また、SINブリッジ61も同様に、4個のGMR素子52で構成されており、GMR素子52のピン角を適切に設定することで、ブリッジの信号電圧(Vs2−Vs1)が磁界角度θの正弦sinθに比例するようになっている。
【0046】
言い換えると、ブリッジの信号電圧(Vc2−Vc1)が磁界角度θの余弦cosθに比例するものがCOSブリッジ60と定義され、信号電圧(Vs2−Vs1)が磁界角度θの正弦sinθに比例するものがSINブリッジ61と定義される。この際、2つの信号がそれぞれcosθとsinθとに比例するように、磁界角θの基準角度を適切に設定する。
【0047】
また、後に詳述する通り、異方性磁気抵抗素子(AMR素子)を用いた磁界角検出装置においては、COSブリッジとSINブリッジは以下のように定義される。実効磁界角θeff=2θを定義し、ブリッジの信号電圧(Vc2−Vc1)が実効磁界角度θeff=2θの余弦cos(θeff)に比例するものがCOSブリッジと定義され、信号電圧(Vs2−Vs1)が実効磁界角度θeffの正弦sin(θeff)に比例するものがSINブリッジと定義される。この際、2つの信号がcos(θeff)とsin(θeff)に比例するように、磁界角度の基準角度を適切に選択する。AMR素子を用いた場合に関しては、後の実施例で詳述する。
【0048】
検出部302は、各ブリッジの信号電圧Vc1,Vc2,Vs1,Vs2を入力し、それらの信号を用いて磁界角度θを求めて出力する。正常動作時においては、(数2)〜(数7)の関係を用いて磁界角度を求める。
【0049】
図1に示したように、COSブリッジ60とSINブリッジ61には励起電圧e0を印加し、他方の端子をアース電位(Ground電位、図では「GND」と表記)に設定した。これは通常のブリッジと同様の結線である。励起電圧e0は、本実施例では5Vに設定した。
【0050】
また、図1ではMRブリッジ部70と検出部302間の結線の図示を省略したが、励起電圧e0を供給する電源部は検出部302内に設けた。また、アース電位も検出部302から両ブリッジに供給した。本明細書の、他の図でも、MRブリッジ部70と検出部302間での励起電位とアース電位の結線の図示を省略したが、上記の通り、適切に結線をする。
【0051】
なお、励起電圧e0とアース電位とを供給する電源部は検出部302とは別に設けてもよい。また、励起電圧を供給する電源部は定電圧の代わりに定電流電源を用いてもよい。
【0052】
図5は、本実施例で用いたGMR素子ブリッジが収められたセンサ素子パッケージ265の構成を示す。センサ素子パッケージ265内には、GMR素子51が形成されたウエハ260が収められている。ウエハ260にはCOSブリッジ60とSINブリッジ61が形成されている。それぞれのブリッジは、4個のGMR素子51,52を用いてホイートストンブリッジを構成している。ウエハ260上のパッド262とセンサ素子パッケージ265の対応する端子とは、ワイヤボンディングで接続されている。
【0053】
GMR素子51の配線パターンの例を図6(A)に示した。GMR素子51の配線パターンは、所望の抵抗値になるように、配線の幅と長さの比(アスペクト比)が設定されている。
【0054】
次に、GMR素子51が正常な場合の検出部302の動作について述べる。
【0055】
GMR素子51が正常な場合には、
ΔVc21=Vc2−Vc1
ΔVs21=Vs2−Vs1
とすると、(数5),(数6)より次式を得る:
【0056】
【数8】

したがって、
【0057】
【数9】

により磁界角度θが求まる。磁界角度θは角度出力として出力端子90を通じて外部に出力される。
【0058】
ここで、θ=atan2(y,x)は、引数x,yが正か負かに応じて、θ=0〜360°(または−180〜180°)の値を適切に出力する関数である。例えば、x,yともに正の場合は、atan2(y,x)=ArcTan(y/x)であり、x,yともに負の場合は、atan2(y,x)=ArcTan(y/x)+180°である。
【0059】
本明細書においては、「異常(fault)」と「故障(failure)」という用語を次のように使い分ける。
【0060】
「異常(fault)」とは、システムの内部状態の特性が正常な許容値を超えた状態を表す。
【0061】
「故障(failure)」とは、システムがその機能の実現が継続的にできなくなった事態を指す。
【0062】
ここで、システムとは、磁界角計測装置や回転角計測装置、あるいはそれを用いた回転機や、車両駆動装置などを指す。また、本明細書では、上記定義の「故障」と同じ意味で「機能停止」という言葉も用いる。
【0063】
次に、GMR素子に異常が発生した場合の動作を述べる。
【0064】
GMR素子に異常発生する要因を述べる。GMR素子の故障原因には局所的な抵抗増大がある。これは、GMR素子が数nm(ナノメートル)程度の厚さの薄膜で構成したものなので、過大な電流が流れたりした際に、GMR素子の一部が欠損することがある。
【0065】
図6(B)にこれを模式的に示す。図6は、ブリッジを構成する4つのGMR素子51のうち、1つを模式的に示したものである。GMR素子51である配線は、図2にそくして述べたように、自由磁性層11,スペーサ層12,固定磁性層13とを含む。(A)は正常な状態のGMR素子51で矢印は電流が流れる方向を示す。(B)はパターンの一部が欠損により細くなったGMR素子51で、電流通路のうち欠損部53(細くなった部分)が高抵抗化してしまう。
【0066】
一例として、図4に示したSINブリッジ61のなかのGMR素子R1(52−1)が図6(B)のように素子の一部に欠損部53が発生した場合を考える。この場合、抵抗増加の原因は欠損により細くなったため配線断面積が減少して抵抗が増えるためである。すなわち、細くなった部分(欠損部53)が局部的にバルク抵抗値が上昇するためである。これに対し、磁気抵抗効果は、図3に即して述べたように、配線101全体における自由磁性層11−スペーサ層12界面および固定磁性層13−スペーサ層12界面での散乱に起因するものであるから、前述の局部的なバルク抵抗増加が起こっても磁気抵抗効果による変化量はあまり影響を受けない。したがって、配線の欠損により増加する抵抗成分は磁界方向に依存しない成分である。そこで、磁界方向非依存項の増加率をb倍として、定式化すると:
【0067】
【数10】

【0068】
【数11】

他の故障原因として、ワイヤボンディングの劣化がある。一例として、図5のVs1端子263とウエハ・パッド262とを結線するワイヤの接続が劣化して接続不良が生じると、センサ素子パッケージ265のVs1端子の信号電圧は不定になる。
【0069】
ここで、COSブリッジ60を第1のハーフブリッジHBc1と第2のハーフブリッジHBc2との2つのハーフブリッジで構成されると見なして考える。ここで、第1のハーフブリッジHBc1は、GMR素子R1(51−1),信号出力Vc1,GMR素子R4(51−4)で構成される。第2のハーフブリッジHBc2は、GMR素子R2(51−2),信号出力Vc2,GMR素子R3(51−3)で構成される。
【0070】
SINブリッジ61についても同様に、第1のハーフブリッジHBs1と第2のハーフブリッジHBs2とで構成されると見なす。ここで、第1のハーフブリッジHBs1は、GMR素子R1(52−1),信号出力Vs1,GMR素子R4(52−4)で構成される。第2のハーフブリッジHBs2は、GMR素子R2(52−2),信号出力Vs2,GMR素子R3(52−3)で構成される。
【0071】
本発明においては、上記のようにSINブリッジ61を構成する2つのハーフブリッジHBs1,HBs2の一方に異常が発生した場合に、正常な方のハーフブリッジの信号を用いて磁界角度θを求める。具体例で述べると、ハーフブリッジHBs1で異常が発生した場合には、正常な方のハーフブリッジHBs2の出力信号Vs2を用いて磁界角度を求める。
【0072】
また、COSブリッジ60を構成する2つのハーフブリッジHBc1,HBc2の一方で異常が発生した場合には、正常な方のハーフブリッジの出力信号を用いて磁界角度を求める。
【0073】
具体的には以下のようにする。GMR素子Rs3とRs4とで構成されるハーフブリッジHBs2が出力する信号Vs2と励起電圧e0の1/2の電圧(以下、「中間電圧Vm」と呼ぶ)との差をとってから、2倍したものをΔVs2mとすると、以下のようになる:
【0074】
【数12】

すなわち、(数8)と比較してわかるように、ΔVs2mは、SINブリッジ61の正常時の出力信号ΔVs21と等しくなる。したがって、以下のようにして、正しい磁界角度θが求まる。
【0075】
【数13】

【0076】
このようにして求めた磁界角度θを検出器から出力する。このようにして、本発明の磁界角計測装置80の検出部302は、GMR素子に異常が発生した場合でも、正しい磁界角度θの出力を継続することができる。このため、磁界角度計測装置を組み込んだ上位システムは動作を停止することなく、継続することができる。
【0077】
上記の説明では、GMR素子Rs1,Rs4で構成されるハーフブリッジHBs1で異常が発生した場合の例を述べた。GMR素子Rs2,Rs3で構成されるハーフブリッジHBs2の方で異常が発生した場合には、
【0078】
【数14】

を用いて
【0079】
【数15】

として磁界角度θを計算すればよい。また、COSブリッジ60のGMR素子に異常が発生した場合も同様にして正しい磁界角度θを求められる。
【0080】
上記のように、正常な方なハーフブリッジの出力信号を用いて磁界角度を算出する磁界角計測装置80の動作状態を、「バックアップ動作モード」と呼ぶことにする。これと対比して、COSブリッジ60,SINブリッジ61とも異常がなく、信号ΔVc21とΔVs21とを用いて磁界角度を算出する動作状態を「通常動作モード」と呼ぶことにする。
【0081】
バックアップ動作モードでは、(数12)からわかるように計測値Vs2を2倍している。したがって、計測値に含まれるノイズも2倍になるので、通常動作モードと比べると、計測値のS/N比が低下する。このため、磁界角度θは計測精度が通常動作モード時よりやや低下する場合がある。このように、バックアップ動作モードでは、計測精度は劣化する場合があるが、正しい磁界角度θを出力する。
【0082】
次に、(1)GMR素子に異常が発生したことの検出方法と、(2)どのハーフブリッジに異常が発生したかの同定方法を順に述べる。
【0083】
まず、(数12)と同様にして、各ハーフブリッジの出力電圧Vc1,Vc2,Vs1,Vs2と中間電圧Vmとの差信号を2倍または−2倍した量を、以下の通りに定義する。
【0084】
【数16】

【0085】
なお、(数12)からわかるように、(数16)の各式において最後の等号はそれぞれのハーフブリッジが正常な場合にのみ成り立つ。
【0086】
(数16)で定義した量は、それぞれの値が正常時において、差動信号ΔVc21またはΔVs21と同じ値になるように、係数±2の極性を適宜設定している。
【0087】
(数16)からわかるように、正常時においてはΔVc1m=ΔVc2mおよびΔVs1m=ΔVs2mが成立する。したがって、ΔVc1mとΔVc2mとが等しく無い場合は、COSブリッジ60の中で異常が発生したことがわかる。同様にして、ΔVs1mとΔVs2mとが等しく無い場合は、SINブリッジ61の中で異常が発生したことがわかる。
【0088】
このようにして、COSブリッジ60で異常が発生したか、あるいはSINブリッジ61で異常が発生したかを検出できる。
【0089】
次に、あるブリッジで異常が発生した場合に、そのブリッジを構成するいずれのハーフブリッジで異常が発生したかを同定する工程を述べる。すなわち、正常なハーフブリッジを同定する工程である。ここでは、一例として、GMR素子Rs1,Rs4で構成されるハーフブリッジHBs1に異常が発生した場合を想定する。その他の場所で異常が発生した場合も同様な手順で異常場所の同定ができることは明らかである。
【0090】
3角関数の恒等式「(cosθ)2+(sinθ)2=1」を考慮すると、(数8),(数16)とから、正常動作時には以下の関係が成り立つ。
【0091】
【数17】

【0092】
(数17)はハーフブリッジが正常動作の場合にのみ成立する。したがって、関係式(数17)が成立しないハーブブリッジで異常が発生したと同定できる。
【0093】
実際には、測定ノイズなどの影響を除くため、以下のように判定する。まず、次の残差量を計算する:
【0094】
【数18】

ここで、j=1または2であり、SINブリッジ61を構成する2つのハーフブリッジの信号ΔVs1mとΔVs2mに対応して、ΔRes(1)とΔRes(2)を求める。残差量ΔRes(j)は、正常なブリッジの信号電圧(ΔVc21)の2乗と、他方のブリッジのハーフブリッジの信号電圧と中間電圧Vmの差を2倍したもの(ΔVsjm)を2乗したものとの和を、定数値から減算したものである。この残差量の絶対値が大きい方が異常発生箇所であると判定する。
【0095】
このようにして、Rs1,Rs4で構成されるハーフブリッジHBs1で異常が発生したことが同定できるので、正常な方のハーフブリッジHBs2の出力信号Vs2を用いて、ΔVs2mを計算し、(数13)で磁界角度θを計算すればよい。このようにして、正しい磁界角度が計算される。
【実施例2】
【0096】
本発明の第2の実施例では、異常箇所の同定と冗長動作を行う、好ましい回路構成の例を述べる。
【0097】
本実施例の磁界角検出装置では、検出部302内に冗長化部311を有する。冗長化部311の構成を図7に示す。
【0098】
冗長化部311は、第1のハーフブリッジ65−1(HBq1)の出力信号Vq1と第2のハーフブリッジ65−2(HBq2)の出力信号Vq2、および中間電圧Vmを入力する。ここで、q=cまたはsであり、それぞれCOSブリッジ60,SINブリッジ61に対応した添字である。以下、添字「q」はこの意味で用いる。
【0099】
中間電圧Vmは励起電圧e0の1/2である、e0/2に等しい。
【0100】
中間電圧Vmの生成回路は、励起電圧e0を基準にしたレシオメトリック(ratiometric)な回路であることが好ましい。レシオメトリックとは、励起電圧e0が変化した場合でも、生成電圧Vmがe0の一定の比率に保たれる回路を意味する。Vm生成回路をレシオメトリックにする効果は後述する。
【0101】
本実施例では、中間電圧Vmは、励起電圧e0を抵抗R1(331−1),R2(331−2)で電圧分割して生成する。抵抗R1(331−1),R2(331−2)の抵抗値は等しくする。このようにすることで、レシオメトリック(ratiometric)になるので、励起電圧e0が変動した場合でも中間電圧Vmはe0の1/2に保たれる。
【0102】
中間電圧Vmを生成する回路(図7では抵抗R1,R2(331−1,331−2))は、検出部302内に設ければよい。あるいは、励起電圧e0を生成する電源部を検出部302とは別に設ける場合には、電源部内に中間電圧生成回路を設けてもよい。
【0103】
これらの信号を入力すると、冗長化部311は出力信号ΔVq21,ΔVq1m,ΔVq2m、および異常検出信号FDqを出力する。ΔVq21は(数8)で定義される量であり、ΔVq1m,ΔVq2mは(数16)で定義される量である。
【0104】
次に、冗長化部311の内部構成を述べる。
【0105】
2つのハーフブリッジ出力信号の差動増幅をしてΔVq21=(Vq2−Vq1)を出力する。これは正常動作時に使用する信号である。
【0106】
第1のハーブリッジ信号Vq1は、中間電圧Vmとの差動増幅し、反転増幅により(−2)倍に増幅する。このようにして、ΔVq1m=2(Vq1−Vm)が得られる。第2のハーブリッジ信号Vq2は、中間電圧Vmとの差動増幅し、非反転増幅により(+2)倍に増幅する。このようにして、ΔVq2m=2(Vq2−Vm)が得られる。
【0107】
異常検出信号FDqは、ΔVq1mとΔVq2mとの差分出力を異常判定部に入力することで異常検出信号を生成する。(ΔVq1m−ΔVq2m)は、正常動作時には0になるので、異常判定部ではコンパレータ回路により、ある閾値を超えたら異常検出信号を生成するようにしている。
【0108】
本実施例の冗長化部311の構成には以下の2つのポイントがある。
【0109】
第1に、ハーフブリッジの出力信号と中間電圧Vmとの差動信号を増幅していることである。
【0110】
特に、前述の通り、中間電圧Vm生成回路をレシオメトリックにしているので、励起電圧e0が変動した場合でも、e0とVmの比率は一定に保たれる。(数8),(数16)からわかるように、ΔVq21,ΔVq1m,ΔVq2mのいずれの信号も励起電圧e0に比例する。(数13)に示したように、磁界角度θを算出する際には、これらの信号の比をとるので、励起電圧e0が変動しても磁界角度θの値には影響しない。このように、ハーフブリッジの出力信号と中間電圧Vmとの差動信号を増幅することにより、励起電圧が変動しても出力信号への影響が低減されるという効果がある。
【0111】
第2に、ハーフブリッジ出力信号と中間電圧の差動信号との増幅の極性を変えていることである。一方は反転増幅し、他方は非反転増幅している。これにより、(数16)と(数8)からわかるように、正常動作時にはΔVq21,ΔVq1m,ΔVq2mが等しい値を与えるので、検出部302の信号処理が簡略化される。
【0112】
第2の実施例での検出部302の構成を図8を用いて述べる。
【0113】
検出部302は、COSブリッジ60の出力信号を入力する冗長化部311−1と、SINブリッジ61の出力信号を入力する冗長化部311−2とを備える。それぞれの冗長化部の出力信号は、信号処理部303に入力される。信号処理部303には、本実施例ではマイコンを用いたが、これに限定されるわけではない。
【0114】
信号処理部303に入力される信号は、ΔVc21,ΔVc1m,ΔVc2m,FDcおよびΔVs21,ΔVs1m,ΔVs2m,FDsである。したがって、これらの信号を用いて、第1の実施例と同じ方法で、異常箇所の同定を行い、異常発生時にも正しい磁界角度θを出力することができる。
【0115】
以上、COSブリッジ60とSINブリッジ61のいずれか一方で異常が発生した場合を述べた。
【0116】
次に、COSブリッジ60とSINブリッジ61の両方で異常発生した場合を述べる。COSブリッジ60とSINブリッジ61のそれぞれで1つのハーフブリッジが正常な場合は下記の方法で正しい磁界角度θを出力することができる。
【0117】
この場合、COSブリッジ60,SINブリッジ61のそれぞれの異常検出信号FDc,FDsが発信され、2つのブリッジで異常が発生したことが検知できる。この場合、それぞれのブリッジ60,61において正しい方のハーフブリッジを同定し、次のようにして正しい磁界角θを求める。
【0118】
【数19】

【0119】
ここで、COSブリッジ中の正しいハーフブリッジはi0(=1または2)であり、SINブリッジ中の正しいハーフブリッジはj0(=1または2)である。
【0120】
次に、正しい方のハーフブリッジを同定する工程を述べる。まず、以下の4つの量を求める。
【0121】
【数20】

【0122】
ここで、i,jは1または2であり、ハーフブリッジHBc1,HBs1またはHBc2,HBs2に対応した番号である。(i,j)の全ての組み合わせについて(数20)を求めるので、4個のΔRes2(i,j)を計算することになる。4個のハーフブリッジのうち正常なハーフブリッジどうしの組み合わせでは、「(cosθ)2+(sinθ)2=1」の関係により(数20)はゼロになる。実際には、信号にノイズ成分が含まれることを考慮し、(数20)で定義される量ΔRes2(i,j)がある一定の閾値以下になる組み合わせ(i0,j0)を見つける。
【0123】
正しいハーフブリッジを同定する工程を完了したら、(数19)により正しい角度を求める。
【実施例3】
【0124】
本発明の第3の実施例での磁界角検出装置を図9を用いて述べる。
【0125】
図9は本実施例での検出器の構成を示したものである。冗長化部311−1,冗長化部311−2の出力信号を切替スイッチ313−1(SW1),313−2(SW2)にそれぞれ入力する。これにより、信号処理部303のアナログ信号入力端子の個数を2個に低減できる。アナログ入力端子は、通常アナログ−デジタル変換器(以下ADCと呼ぶ、Analog-Digital Converter)を用いるので、ロジック信号入力端子と比較して高価であり、使用個数を減らすことが望まれていた。
【0126】
本実施例での切替スイッチ313の切替状態を図10を用いて説明する。
【0127】
まず、正常動作時では、切替スイッチSW1(313−1)は1aの位置に接続し、切替スイッチSW2(313−2)は2aの位置に接続する。このようにすると、ΔVc21とΔVs21とが信号処理部303に入力されるので、(数9)に従って磁界角度θを求め、磁界角度信号θとして出力する。出力される磁界角度信号は、デジタル信号でも、アナログ信号でも、いずれでもよい。
【0128】
次に、SINブリッジ61に異常が発生した場合の切替スイッチ313の動作を図10(A)に示す。
【0129】
SINブリッジ61に異常が発生すると、異常検出信号FDsが有効になるので、SINブリッジ61に異常があることを検知できる。すると、図10(A)の(ii)に示したように、切替スイッチSW1(313−1)を1dに、SW2(313−2)を2bに設定する。こうすると、信号処理部303にはΔVs2mとΔVs1mとが入力されるので、(数17)を用いて異常発生したハーフブリッジを同定する。これ以降は、切替スイッチ313を図10(A)の(iii)または(iv)の位置に設定して、バックアップ動作に移行する。(iii)か(iv)のいずれに設定するかは、異常発生場所の同定結果に応じて、正常な方のハーフブリッジの信号が信号処理部303に入力されるように設定する。このようにして、(数13)または(数15)に基づいて、正しい磁界角度を出力する。
【0130】
COSブリッジ60に異常が発生した場合は、図10(B)にしたがって、切替スイッチ313を切り替える。
【0131】
最後に、COSブリッジ60とSINブリッジ61の両方に異常が発生した場合を述べる。この場合は図10(C)にしたがって切替スイッチ313を切り替える。
【0132】
次に、COSブリッジ60とSINブリッジ61の両方から異常検出信号FDcとFDsが発せられた場合の処理を述べる。
【0133】
この場合は、図10(C)にしたがって、切替スイッチ313を切り替える。図10(c)のステップ(ii)〜(v)の4つのステップ毎に、(数20)式で定義される残差量Δres2(i,j)を計算し、正常なハーフブリッジをCOS,SINブリッジ内でそれぞれ見つける。そして、正常な組み合わせが見つかったら、(ii)〜(v)のいずれかに設定して、(数19)式を用いて正しい磁界角度θを算出する。
【実施例4】
【0134】
本発明を用いた第4の実施例の磁界角計測装置80を図11を用いて述べる。
【0135】
本実施例の磁界角計測装置では、検出部302は磁界角度θを出力するとともに、異常伝達信号155と停止伝達信号156をそれぞれ出力端子91と92に出力する。異常伝達信号155(Fault Signal)は、磁界角計測装置の中で異常発生を検知したが、バックアップ動作モードで動作することで正しい角度θを出力していることを伝達する信号である。
【0136】
一方、停止伝達信号156(Failure Signal)は、磁界角計測装置内での異常の程度が深刻なために正しい角度を出力していない、すなわち磁界角計測装置としての機能を停止していることを通知する信号である。停止伝達信号156が発せられるケースは、例えば、COSブリッジ60を形成する2つのハーフブリッジが2本とも異常になった場合である。
【0137】
本実施例では、実施例1と同様の方法で磁界角計測装置内の異常を検出し、バックアップ動作モードに移行する。そして、バックアップ動作モードで動作中は、異常伝達信号155を発する。
【0138】
図11では、異常伝達信号155と停止伝達信号156とを別の出力端子で出力している。異常伝達信号155と停止伝達信号156とは、1本の信号線にまとめてもよい。1本にまとめる具体的な方法例としては、信号電圧レベルを複数用意することで2種類の信号状態を伝達する方法、あるいは、デジタル信号を用いて異常伝達信号155と停止伝達信号156とのそれぞれに対応するエラーコードを出力する方法などがある。
【0139】
また、角度出力151と異常伝達信号155と停止伝達信号156とを1本の信号線にまとめてもよい。具体的には、角度θを表すデジタル信号とは識別可能な、エラーコード信号を2種類あらかじめ決めておき、そのエラーコードを異常伝達信号155と停止伝達信号156とに割り当てればよい。
【0140】
異常伝達信号155と角度出力151とを同一の信号線で出力する具体例を図19を用いて述べる。
【0141】
本例では、異常伝達信号と角度出力を16ビット長のデジタルデータの形で出力する。このデジタルデータの構成を図19に示した。本データは、第1ビット〜第12ビットに角度情報591が含まれ、第15ビットに停止伝達信号593のフラグ、第16ビットに異常伝達信号593のフラグが含まれる。このデータ構造のデータが磁界角計測装置80の検出部302から出力される。このようにすると、このデータを受信したシステムでは、磁界角度θの情報とともに、磁界角計測装置が通常モードで動作しているのかバックアップ動作モードで動作しているのかを知ることができる。
【0142】
このように、出力信号線の本数を減らすことで、低コストな磁界角度計測装置が実現できる。さらに、デジタルデータで信号を出力することで、ノイズ耐性を高めることができる。
【0143】
図19に図示したように、角度信号591と異常伝達信号593をセットにして、ひとまとまりのデータとして出力する構成とすることにより、データ受信側は角度信号591の計測品質を同時に知ることができ、適切な処理を行えるという効果がある。
【0144】
本実施例では、図19のデータ構造の信号をシリアル通信で送信する。伝送クロック周波数を16MHzとして、1μsで図19のデータを送信できる。このように、角度信号591と異常伝達信号593とを実質的に同時に送信できる。
【0145】
このように、異常伝達信号を出力すると、磁界角計測装置が組み込まれている上位システムでは、磁界角形速装置の動作状態を把握できるので、その動作状態に応じた処置をとることができる。具体的な処置は、磁界角形速装置が使用されるシステムによって異なるが、例えば、バックアップ動作モードで動作中は、システムの機能や性能に制限をかけることで安全性を高めるという処置が行える。
【0146】
図20は、図1の構成または、図11の構成の磁界角計測装置80のパッケージ構成の例を示した図である。
【0147】
MRブリッジ部70にはCOSブリッジ60とSINブリッジ61が収められている。MRブリッジ部70と検出部302との間には6本の配線があり、その構成は、励起電圧e0とアース電位GNDの2本と、ハーフブリッジ出力信号4本(Vc1,Vc2,Vs1,Vs2)である。検出部302からの出力信号は磁界角度出力151と異常伝達信号出力155である。なお、磁界角度出力151と異常伝達信号出力155とは、図19に示したように、デジタルデータの形でひとかたまりのデータにまとめ、1本の信号線で出力してもよい。その他、検出部302には、外部からの外部から供給される電源電圧端子(Vcc)とアース電位端子とがある。
【0148】
図20の構成の内部構成は図11の構成になっている。
【0149】
図20の構成においては、MRブリッジ部70と検出部302とをそれぞれ樹脂などの材料でモールドしている。このパッケージ構成においては、モールド部でのストレスや残留応力などの原因により、MRブリッジと検出部302間の配線が断線することがある。
【0150】
従来の構成では、4本のハーフブリッジ出力信号のうち1本でも断線すると、正しい磁界角度が出力されなくなっていた。これに対し、本発明を用いた構成では、4本のハーフブリッジ出力信号のうち1本が断線した場合には、断線していない方のハーフブリッジ出力信号を用いて磁界角度を算出することで、正しい磁界角度θが出力される。
【実施例5】
【0151】
本発明の第5の実施例として、回転角計測装置82を図12を用いて述べる。
【0152】
回転角計測装置82は、磁束発生体であるセンサ磁石202と磁界角計測装置80とで構成される。センサ磁石202は回転体121に設置されており、回転体121は回転中心線226を回転中心として回転する。
【0153】
センサ磁石202は磁束発生体であるから、図12に図示した方向の磁界を発生する。回転体121が回転すると、磁界角計測装置80の位置の磁界方向も回転する。したがって、磁界角度を計測することで、回転体121の回転角θrが計測できる。
【0154】
本実施例で用いる磁界角計測装置80は実施例1の磁界角計測装置80と同様の構成にする。これにより、回転角計測装置82に含まれる磁気抵抗素子のハーフブリッジのうち1個で異常が発生しても、正常時と比べて計測精度は多少低下するが、正しい回転角度θrが得られる。したがって、回転角計測装置82が含まれる上位システムの機能を継続することができるという効果がある。
【実施例6】
【0155】
図13を用いて、本発明の第6の実施例として、磁界角計測装置を用いた回転機を述べる。回転機にはモータと発電機とがあるが、ここではモータを例に述べる。
【0156】
図13は本実施例の回転機の断面図を示す。本実施例はモータ部100と回転角検出部200とで構成される。
【0157】
モータ部100は、複数の固定磁極と複数の回転磁極との磁気的作用により複数の回転磁極が回転することにより回転トルクを発生するものであって、複数の固定磁極を構成するステータ110及び複数の回転磁極を構成するロータ120から構成される。ステータ110は、ステータコア111と、ステータコア111に装着されたステータコイル112から構成されている。ロータ120は、ステータ110の内周側に空隙を介して対向配置され、回転可能に支持されている。本実施例では、モータ100として、三相交流式の表面磁石型同期モータを用いている。
【0158】
筐体は、円筒状のフレーム101と、フレーム101の軸方向両端部に設けられた第1ブラケット102および第2ブラケット103から構成されている。第1ブラケット101の中空部には軸受106が、第2ブラケット103の中空部には軸受107がそれぞれ設けられている。これらの軸受は回転軸121を回転可能なように支持している。
【0159】
フレーム101と第1ブラケット102との間にはシール部材(図示せず)が設けられている。シール部材は、環状に設けられたOリングであり、フレーム101と第1ブラケット102によって軸方向及び径方向から挟み込まれて圧縮する。これにより、フレーム101と第1ブラケット102との間を封止でき、フロント側を防水できる。また、フレーム101と第2ブラケット103との間もシール部材(図示せず)により防水されている。
【0160】
ステータ110は、ステータコア111と、ステータコア111に装着されたステータコイル112から構成され、フレーム101の内周面に設置されている。ステータコア111は、複数の珪素鋼板を軸方向に積層して形成した磁性体(磁路形成体)であり、円環状のバックコアと、バックコアの内周部から径方向内側に突出して、周方向に等間隔に配置された複数のティースから構成されている。
【0161】
複数のティースのそれぞれには、ステータコイル112を構成する巻線導体が集中的に巻回されている。複数の巻線導体は、ステータコイル112の一方のコイルエンド部(第2ブラケット103側)の軸方向端部に並置された結線部材によって相毎に電気的に接続され、さらには3相巻線として電気的に接続されている。3相巻線の結線方式にはΔ(デルタ)結線方式とY(スター)結線方式がある。本実施例では、Δ(デルタ)結線方式を採用している。
【0162】
ロータ120は、回転軸121の外周面上に固定されたロータコアと、ロータコアの外周表面に固定された複数のマグネットと、マグネットの外周側に設けられたマグネットカバーとを備えている。マグネットカバーは、マグネットのロータコアからの飛散を防止するためのものであって、ステンレス鋼(俗称SUS)などの非磁性体から形成された円筒部材又は管状部材である。
【0163】
次に、回転角検出部200の構成を説明する。
【0164】
回転角検出部200は、磁界角計測装置201(以下、磁界センサ・モジュール201と呼ぶ)とセンサ磁石202とで構成されている。回転角検出部200はハウジング203と第2ブラケット103とで囲まれた空間に設置されている。センサ磁石202は回転軸121と連動して回転する軸に設置されており、回転軸121が回転位置を変えると、それに応じて発生する磁界方向が変化する。この磁界方向を磁界センサ・モジュール201で検出することにより回転軸121の回転角(回転位置)を計測できる。
【0165】
磁界センサ・モジュール201は、回転軸121の回転中心線226上に磁界センサ・モジュール201のMRブリッジ部70が配置されるように設置すると、センサ磁石202が発生する磁界の空間分布に誤差が少なくなるので好ましい配置である。
【0166】
センサ磁石202は、2極着磁された2極磁石、あるいは4極以上に着磁された多極磁石である。
【0167】
磁界センサ・モジュール(磁界角計測装置)は、本発明の実施例4に記載の磁界角計測装置80を用いた。
【0168】
磁界センサ・モジュール201はハウジング203に設置されている。ハウジング203は磁束方向に影響を与えないように、アルミニウムや樹脂など磁化率の絶対値が0.1以下の材料で構成するのが好ましい。本実施例では樹脂で構成した。
【0169】
なお、磁界センサ・モジュール201はモータ部に対して固定されていればよく、ハウジング203以外の構成要素に固定してももちろん構わない。モータ部に対して固定されていれば、回転軸121の回転角が変化してセンサ磁石202の方向が変化した場合、磁界センサ201部での磁界方向変化を検出することで回転軸121の回転角を検出することができるからである。
【0170】
磁界センサ・モジュール201にはセンサ配線208が接続されている。センサ配線208により磁界センサ201の出力信号を伝送する。
【0171】
次に、本実施例の回転機の制御構成を図14を用いて述べる。
【0172】
磁界角計測装置80の出力信号は、回転機制御コントローラ(回転機制御ECU)411に入力される。回転機制御コントローラに入力される信号は、磁界角度(回転角)θと異常伝達信号と停止伝達信号の3種である。これら3種の信号は、3本の信号線を用いて個別に伝送してもよいし、先に述べたように、例えばデジタル信号の形で、1本の信号線上で時分割的に伝送してもよい。
【0173】
また、異常伝達信号を回転機制御コントローラで使用しないのであれば、回転機制御コントローラに入力する信号は、回転角θ信号のみでもよい。
【0174】
回転機制御コントローラは、入力された回転角θを基にして、回転機に与えるべき適切な駆動電圧を計算し、回転機駆動部412に信号を出力し、回転機駆動部412から出力された駆動波形により回転機100が駆動される。
【0175】
回転機制御コントローラでの回転機制御方法には各種あるが、本実施例ではベクトル制御による方法を用いた。
【0176】
本実施例によれば、磁界角計測装置80を構成するMRブリッジ部70の一部のハーフブリッジに異常が発生した場合でも、バックアップ動作モードに移行して正しい角度が回転機制御コントローラに入力されるので、回転機はその機能動作を継続できるという効果がある。
【0177】
また、バックアップ動作モード時には、回転機制御コントローラに異常伝達信号が入力される。この場合、回転機制御コントローラは、本回転機が組み込まれている上位のシステムに異常伝達信号を送信する。上位システムでは、回転機から送信された異常伝達信号に基づき、システムの機能を制限するなど、適切な処置を行うことができる。
【0178】
なお、図14においては、MRブリッジ部70と検出部302とを磁界角計測装置80の内部に配置することによりセンサ磁石202の近傍に配置する構成を示したが、本実施例はこの構成に限定するものではない。他の構成例として、検出部302内の信号処理部303を回転機制御コントローラの近傍に配置してもよいし、また、信号処理部303を回転機制御コントローラ内に組み込んでもよい。
【0179】
信号処理部303をマイコンで構成する場合には、信号処理部303の機能を回転機制御コントローラに取り込むことで、使用するマイコンを減らせるので、低コストな回転機を実現できるという効果がある。
【0180】
なお、図13,図14の説明では、回転機としてモータの例を示した。本明細書では、「回転機」とはモータのみでなく、「発電機」、すなわち機械的エネルギーを電気エネルギーに変換する機械も含む。発電機の場合であっても、図13と図14と同様の構成で本発明の効果が得られる。
【実施例7】
【0181】
本発明による第7の実施例として電動パワーステアリング(Electric Power-Assisted Steering、EPSと略す)の例を図15に示した。
【0182】
ハンドル501に機械的に連結したステアリング・シャフト503は、ギアなどで構成された連結部504を介して回転軸121と連動した動きをする。回転軸121はモータ100の回転軸であり、一方の端にセンサ磁石202が設置されている。センサ磁石202の近傍には磁界角計測装置80(以下、磁界センサ・モジュール201と呼ぶ)が設置されており、回転軸121の回転角を計測してECU411に送信する。ECU411は、ステアリング・コラム502内に設置されたトルク・センサ(図示せず)からの信号と、磁界センサ・モジュール201からの回転角信号θとから、適切なモータ駆動量を算出し、モータ駆動部412に信号を送信する。これによりモータ100は回転軸121を介してステアリング・シャフト503の動きをアシストする。
【0183】
本実施例において、磁界角計測装置80には本発明の実施例4に記載の磁界角計測装置を用いた。これにより、MRブリッジを行使するハーフブリッジに異常が発生した場合でも、正しい磁界角(回転角)が出力されるので、電動パワーステアリングとしての機能を継続できるという効果がある。
【0184】
これは、油圧システムや機械系によるバックアップが無いステア・バイ・ワイヤ(Steer-by-Wire)システムにおいて、特に重要な機能である。
【実施例8】
【0185】
本発明を用いた第8の実施例である車両580を図16を用いて述べる。
【0186】
本実施例は、電動パワーステアリング・システムが用いられた車両580である。電動パワーステアリングで使用している磁界角計測装置80は、本発明の第4の実施例の回転角計測装置である。
【0187】
磁界角計測装置80に異常が発生した場合、異常の種類によりバックアップ動作モードに移行して異常伝達信号が発せられる。あるいは、バックアップ動作モードが不可能な異常の場合には、停止伝達信号が発せられる。
【0188】
この停止伝達信号は、電動パワーステアリング・システム(EPSシステム)582の上位システム581に伝達される。あるいは、電動パワーステアリング・システム(EPSシステム)582の電子コントロールユニット(ECU)を経由して、上位システム581に伝達してもよい。あるいは、図16には図示していないが、EPSシステム582以外のシステム・レイヤーを経由して上位システム581に伝達してもよい。
【0189】
異常伝達信号が上位システム581に伝達されると、上位システム581は下記の動作の全て、またはいくつかの組み合わせの動作を行う。
【0190】
第1は、運転席の表示システム584に異常を表示したり、アラームベルなど音により異常が発生したことを運転者に伝える。こうすることで、車両580は動作は可能であるが、できるだけ速やかに車両修理ステーションなどに行くように運転者に指示する。
【0191】
第2は、上位システム581は機能制限モードに移行する。機能制限モードでは、車両580の最高速度を制限するなど、機能を制限して安全性を高め、かつ修理ステーションに移動するために必要な動作を提供する。本実施例では、車両駆動システム586に機能制限を行い、最高速度を制限するようにする。
【0192】
第3に、上位システム581は、無線発信システム585を用いて車両修理ステーション588に異常発生を伝達する。これにより、車両修理ステーション588は、該当車両が来た際に速やかに修理を行うことができる。また、該当車両が一定期間経過後も修理に来ない場合には、車両所有者に修理を促すことができる。
【0193】
このようにして、本実施例の車両580によれば、磁界角計測装置80に異常が発生してバックアップ動作モードに移行した場合、車両修理ステーションに移動するための機能を提供する一方で、最高速度などの性能や機能を制限することで、安全性を高める。また、異常発生を複数の手段と、運転者や修理ステーションなど複数の関係者に伝達することで、速やかに異常を修理することを促すという効果がある。
【実施例9】
【0194】
本発明の第9の実施例を図17を用いて説明する。本実施例は回転角計測装置を用いたハイブリッド自動車駆動装置の例である。
【0195】
図17は自動車の動力として内燃機関エンジンと電気モータとを組み合わせたハイブリッド自動車駆動装置の模式図である。エンジン553の出力回転軸と発電機552,駆動モータ551とは同軸上に配置されており、それぞれは動力分配機構554の働きで適切に動力が伝達される。動力分配の仕方は、車両の走行状態,加速指令状態,バッテリーの充電状態などの情報に基づいて適切に設定される。また、動力分配機構554から動力シャフト558に動力を伝達する動力結合機構557が設けられている。
【0196】
駆動モータ551には、本発明の実施例6に記載の回転機を用いた。駆動モータ551は実施例6に記載したように、モータ部100と回転角検出部200とで構成される。回転角検出部200は駆動モータ551の回転角を検出する駆動モータ回転角センサ560を構成する。
【0197】
発電機552には発電機回転角センサ562が設置されている。発電機の回転シャフトにはセンサ磁石563が設置されており、センサ磁石563が発生する磁界の方向を発電機回転角センサ562で計測する。発電機回転角センサ562には、実施例1に記載の磁界角計測装置を用いた。
【0198】
本実施例の構成によれば、回転角計測装置82のMRブリッジ部70に異常が発生した場合に、正常な方のハーフブリッジを用いることで正しい回転角θが出力されるので、バックアップ動作モードで動作可能になる。これにより、車両全体が停止することが防げるという効果がある。
【0199】
また、本実施例において、駆動モータや発電機回転角センサ562に異常が発生して、バックアップ動作モードになった場合に、異常伝達信号を上位システムに伝達すると更に好ましい。
【0200】
上位システムは、異常伝達信号を受け取ると、車両の最高速度を制限するなどの処置をとることで、安全の確保をとる。さらに、異常状態を運転者に通知するアラーム発信や、車両修理ステーションへの通信による異常通知などにより、速やかに修理を行うなどの処置を行えるという効果がある。
【0201】
また、異常発生時の機能制限として、発電機による回生ブレーキ機能の制限も有用である。発電機回転角センサがバックアップモードになった場合には、発電機による回生ブレーキ機能を停止し、ブレーキ機能は油圧システムなどを用いた機械的なブレーキでまかなうようにする。このようにすることで、発電機の機能不良に起因するブレーキ不足など危険な状態を発生させず、安全性を確保できるという効果がある。
【実施例10】
【0202】
上記の実施例ではハイブリッド自動車の駆動装置の例を示したが、本発明の第10の実施例として、電気自動車の駆動装置の例を図18を用いて述べる。
【0203】
図18は自動車の動力電気モータ用いた電気自動車駆動装置の模式図である。駆動モータ551と発電機552とは同軸上に配置されており、それぞれは動力分配機構554の働きで適切に動力が伝達される。動力分配の仕方は、車両の走行状態,加速指令状態,バッテリーの充電状態などの情報に基づいて適切に設定される。
【0204】
駆動モータ511には、本発明の実施例6に記載の回転機を用いた。駆動モータ511は実施例6に記載したように、モータ部100と回転角検出部200とで構成される。
【0205】
発電機552には発電機回転角センサ562が設置されている。発電機の回転シャフトにはセンサ磁石563が設置されており、センサ磁石563が発生する磁界の方向を発電機回転角センサ562で計測する。発電機回転角センサ562には、実施例1に記載の磁界角計測装置を用いた。
【0206】
本実施例の構成によれば、回転角計測装置82のMRブリッジ部70に異常が発生した場合に、正常な方のハーフブリッジを用いることで正しい回転角θが出力されるので、バックアップ動作モードで動作可能になる。これにより、車両全体が停止することが防げるという効果がある。
【0207】
電気自動車においては駆動モータが機能停止すると車両が完全に停止してしまうので、本発明の効果は特に有効である。
【0208】
以上では、MRブリッジ部70の磁気抵抗素子としてGMR素子を用いた例を述べた。
【0209】
本発明は、GMR素子に限定されるものではなく、他の磁気抵抗素子にも適用可能である。ここでは、異方性磁気抵抗素子(Anisotropic Magneto-resistance、AMR素子)を用いた例を述べる。
【0210】
AMR素子では、電流の流れる方向を示す角度α(以下、電流方向αと呼ぶ)と磁界角度をθmとすると、その素子の抵抗値が次式にしたがって変化する。
【0211】
【数21】

【0212】
但し、ここで、最後の式では、磁界角度θの基準角度を電流方向αに設定した。なお、電流方向αは、配線のパターン形状により設定できる。
【0213】
図4のCOSブリッジ60において、MR素子R1とR3の電流方向をα=0とし、MR素子R4とR2の電流方向をα=90°に設定する。すると、信号電圧ΔVc21=Vc2−Vc1は以下のようになる。
【0214】
【数22】

【0215】
図4のSINブリッジ61では、MR素子R1とR3の電流方向をα=45°とし、MR素子R4とR2の電流方向をα=135°に設定する。すると、信号電圧ΔVs21=Vs2−Vs1は以下のようになる。
【0216】
【数23】

【0217】
したがって、
【0218】
【数24】

により磁界角度θが求まる。
【0219】
ここで、実効磁界角度θeffを、θeff=2θと定義する。すると、AMR素子で構成したブリッジ回路の信号出力は、COSブリッジ60がcos(θeff)に比例し、SINブリッジ61がsin(θeff)に比例する。
【0220】
このように、AMR素子を用いた磁界角計測装置については、有効磁界角θeff=2θと定義し、有効磁界角θeffの余弦cos(θeff)に比例する信号を出力するブリッジをCOSブリッジ60、有効磁界角θeffの正弦sin(θeff)に比例する信号を出力するブリッジをSINブリッジ61と定義する。この際、2つの信号がcos(θeff)とsin(θeff)に比例するように、磁界角度の基準角度を適切に選択する。
【0221】
すなわち、GMR素子のブリッジ回路の式(数8)と(数9)とほぼ対応した形になる。
【0222】
次に各ハーフブリッジの信号電圧と中間電圧Vm=e0/2との差電圧を求めると次式を得る。
【0223】
【数25】

【0224】
これは(数16)と対応している。
【0225】
ここで、SINブリッジ61で異常が発生した場合を考える。この場合正常な方のハーフブリッジの信号ΔVsjm(j=1または2)を用いて:
【0226】
【数26】

として磁界角度θが求まる。
【0227】
次に、正常な方のハーフブリッジを同定する工程を具体的に述べる。関係式「(cosθeff)2+(sinθeff)2=1」が成り立つので、次式で定義される残差量:
【0228】
【数27】

(j=1または2)を計算し、これが閾値以下になるハーフブリッジが正常である方のハーフブリッジであると同定できる。
【0229】
したがって、GMR素子を用いて述べた上記の実施例は、AMR素子を用いた場合にも有効であることは明らかである。
【符号の説明】
【0230】
51,52 GMR素子
53 欠損部
60 COSブリッジ
61 SINブリッジ
65 ハーフブリッジ
70 MRブリッジ部
71,72 ハーフブリッジ出力端子
80 磁界角計測装置
82 回転角計測装置
100 モータ部
110 ステータ
111 ステータコア
112 ステータコイル
120 ロータ
121 回転体
151 角度出力
155 異常伝達信号
156 停止伝達信号
200 回転角検出部
202 センサ磁石
226 回転中心線
260 ウエハ
262 ウエハ・パッド
265 センサ素子パッケージ
302 検出部
303 信号処理部
311 冗長化部
313 切替スイッチ
331 抵抗
411 電子制御コントロールユニット
412 駆動部
501 ハンドル
502 ステアリング・コラム
503 ステアリング・シャフト
504 連結部
551 駆動モータ
552 発電機
553 エンジン
554 動力分配機構
557 動力結合機構
558 動力シャフト
560 駆動モータ回転角センサ
562 発電機磁界角センサ
563 センサ磁石
580 車両
581 上位システム
582 EPSシステム
583 車両駆動システム
584 運転席表示システム
585 無線発信システム
588 車両修理ステーション
591 角度情報データ
592 異常信号データ
593 停止信号データ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気抵抗素子で構成されるCOSブリッジと、SINブリッジと、検出部とで構成される磁界角度計測装置であって、
前記検出部は、COSブリッジまたはSINブリッジのおのおのの、いずれか一方のハーフブリッジに異常が発生した場合に、正常な方のハーフブリッジから出される信号に基づいて角度信号を出力する磁界角計測装置。
【請求項2】
請求項1に記載の磁界角計測装置において、正常なハーフブリッジを同定する手段を有する磁界角計測装置。
【請求項3】
請求項2に記載の磁界角計測装置において、前記正常な方のハーフブリッジから出される信号に基づいて角度信号を出力する際に、前記検出部が異常伝達信号を出力する磁界角計測装置。
【請求項4】
請求項3に記載の磁界角計測装置において、前記異常伝達信号とは別に停止伝達信号を有する磁界角計測装置。
【請求項5】
請求項3に記載の磁界角計測装置において、前記異常伝達信号は、前記角度信号と同一の信号線を用いてデジタル信号で出力されることを特徴とする磁界角計測装置。
【請求項6】
回転体に取り付けられた磁束発生体と、請求項1に記載の磁界角計測装置とを有する回転角計測装置であって、前記磁束発生体が生成する磁界の方向を計測することで前記回転体の回転角を計測する回転角計測装置。
【請求項7】
ロータとステータを有する回転機であって、前記ロータと連動して回転する磁束発生体と、請求項1に記載の磁界角計測装置とを有し、前記磁束発生体が発生する磁界の方向を前記磁界角計測装置で計測する回転機。
【請求項8】
請求項3に記載の磁界角計測装置が組み込まれたシステムであって、前記システムは通常動作モードと機能制限モードとを有し、前記機能制限モードでは前記システムの機能の一部を制限するものであって、前記磁界角計測装置が前記異常伝達信号を出力した場合に、前記機能制限モードで動作するシステム。
【請求項9】
請求項3に記載の磁界角計測装置を用いた車両であって、前記車両は通常動作モードと機能制限モードとを有し、前記磁界角計測装置が前記異常伝達信号を出力した場合に、前記機能制限モードで動作する車両。
【請求項10】
請求項9に記載の車両であって、前記機能制限モードでの車両の最高速度が前記通常動作モードでの最高速度よりも小さいことを特徴とする車両。
【請求項11】
請求項7に記載の回転機を有する車両駆動装置。
【請求項12】
請求項7に記載の回転機をモータとして有する車両駆動装置であって、前記磁界角計測装置が前記正常な方のハーフブリッジから出される信号に基づいて角度信号を出力する際に、前記検出部が異常伝達信号を出力し、前記異常伝達信号が出力された際に前記モータの最高速度を制限する車両駆動装置。
【請求項13】
発電機とモータとを有する車両駆動装置であって、前記発電機に請求項3に記載の磁界角計測装置が設置されており、前記磁界角計測装置が前記異常伝達信号を出力している場合には、前記発電機による回生ブレーキ機能を制限することを特徴とする車両駆動装置。
【請求項14】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の磁界角計測装置であって、前記磁気抵抗素子は巨大磁気抵抗素子であることを特徴とする磁界角計測装置。
【請求項15】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の磁界角計測装置であって、前記磁気抵抗素子は異方性磁気抵抗素子であることを特徴とする磁界角計測装置。
【請求項16】
請求項1に記載の磁界角計測装置であって、前記検出部は前記ハーフブリッジの出力信号と、前記ハーフブリッジへの励起電圧の1/2の電圧である中間電圧との差動検出器を有することを特徴とする磁界角計測装置。
【請求項17】
請求項1に記載の磁界角計測装置であって、前記異常が、前記一方のハーフブリッジと前記検出部との間の断線であることを特徴とする磁界角計測装置。
【請求項18】
請求項2に記載の磁界角計測装置において、前記正常な方のハーフブリッジから出される信号に基づいて角度信号を出力する際に、前記検出部が異常伝達信号を出力する磁界角計測装置。
【請求項19】
請求項18に記載の磁界角計測装置において、前記異常伝達信号とは別に停止伝達信号を有する磁界角計測装置。
【請求項20】
請求項18に記載の磁界角計測装置において、前記異常伝達信号は、前記角度信号と同一の信号線を用いてデジタル信号で出力されることを特徴とする磁界角計測装置。
【請求項21】
請求項16に記載の磁界角計測装置であって、前記中間電圧は前記励起電圧からレシオメトリックな回路で生成することを特徴とする磁界角計測装置。
【請求項22】
磁気抵抗素子で構成されるCOSブリッジと、SINブリッジと、検出部とで構成される磁界角度計測装置の角度算出方法であって、
前記検出部は、COSブリッジまたはSINブリッジのおのおのの、いずれか一方のハーフブリッジに異常が発生した場合に、正常な方のハーフブリッジから出される信号に基づいて角度信号を算出する磁界角計測装置の角度算出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−137457(P2012−137457A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291545(P2010−291545)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】