説明

神経因性疼痛治療剤

【課題】難治性疾患である神経因性疼痛に対し優れた治療効果を有する神経因性疼痛治療剤を提供すること。

【解決手段】上記課題は、DCMB((±)−2,3−ジクロロ−α−メチルベンジルアミン)等のフェニルエタノールアミンN−メチル転移酵素(PNMT)阻害薬を有効成分として含有する神経因性疼痛治療剤、PNMT阻害薬を有効成分として含有する神経因性疼痛治療用医薬組成物、PNMT阻害薬を用いる神経因性疼痛の治療方法などによって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経因性疼痛に対して優れた疼痛抑制作用を有する神経因性疼痛治療剤、そのような治療剤を用いる神経因性疼痛の治療方法等に関する。
【0002】
神経因性疼痛は末梢神経系または中枢神経系の損傷、機能障害などを原因として生じる痛みであり、モルヒネなどオピオイド系の薬物でさえも十分に奏効しない難治性疼痛である。神経因性疼痛を伴う疾患としては、例えば、帯状疱疹後神経痛、三叉神経痛、糖尿病性神経痛、術後や外傷後の遷延痛など、痛覚過敏やアロディニアの症状を呈する疾患を挙げることができる。
【0003】
従来の薬物療法において使用されてきた鎮痛剤としては、モルヒネに代表される中枢性オピオイド系鎮痛薬、インドメタシンに代表される非ステロイド系抗炎症剤(NSAIDs)などが知られている。しかし、これらの鎮痛剤は神経因性疼痛に対して一般的に効果が小さく、通常の侵害受容性疼痛に有効である鎮痛剤(特に麻薬性鎮痛薬など)は特に効果が小さいことが知られている。そして、麻薬性鎮痛薬の神経因性疼痛に対する鎮痛効果の不十分さが神経因性疼痛の大きな特徴とされ、場合によってはその特徴を利用して神経因性疼痛の診断を行なっている。
【0004】
神経因性疼痛の発生には様々な要素が複雑に関係していると考えられている。これまで、神経因性疼痛の治療法としては、神経ブロックや、脊髄硬膜外電気刺激などの神経外科学的治療、三環系抗うつ薬、バクロフェン等の薬剤の腰部髄腔内投与などが知られている。しかし、これらの治療法には、十分な効果が得られなかったり、副作用を伴うという問題がある。また、外用剤として、カプサイシンクリームが、神経末端から放出される発痛物質サブスタンスPを枯渇させ、疼痛を軽減させることにより、帯状疱疹後神経痛、乳房切除後の疼痛症候群に効果があるという報告もある。しかし、カプサイシンによる灼熱痛を伴うという問題もあるなど、有用性や安全性の面で問題がある。このように、神経因性疼痛は難治性の疾患であり、未だ有効な治療法は確立されていない。
【0005】
カテコールアミン(ドーパンミンやノルエピネフリン、エピネフリンの総称)あるいはセロトニンやヒスタミンといった、これらモノアミン作動系の神経伝達物質は、痛みに対する関連性が強い化学物質とされており、これまでにも多くの報告がなされている。
ヒスタミンは神経伝達物質および神経調節物質としての機能を有し、中枢神経系や末梢神経系で働くことが明らかにされており、血圧や痛みの調節に関与している。
セロトニンは、体内セロトニンの90%以上が消化管粘膜に存在し、胃腸管や血管周囲の腸壁神経系でセロトニン神経系を形成しているが、脳幹の縫線核においても神経系が見出されており、この脳のセロトニン神経系は、気分や睡眠、食欲、体温、痛み、血圧および嘔吐などに関連する神経伝達物質として働いている。
【0006】
そして、チロシン -> ド―パ -> ドーパミン -> ノルエピネフリン -> エピネフリンの経路で生成されるカテコールアミンも生理学的反応において様々な役割を演じている。ドーパミンは、ノルエピネフリンの前駆物質であるが、神経伝達物質としての作用は、腎臓の血管を拡張させたり、腸管平滑筋の弛緩を起こしたり、あるいはエピネフリン受容体を介して血圧にも影響を与えている。エピネフリンは血圧や平滑筋、すい臓などの代謝系に関連しており、また、ノルエピネフリンは脳内のアラームシステムとも言われ、ここが異常となると、様々なストレス関連障害が発生する。
このように、これら生理活性アミンは、種々の受容体サブタイプを介して生理作用を発現することから、例えば、ある受容体サブタイプに特異的に作用する薬物(作動薬)、これらのアミンの作用に特異的に拮抗する薬物(拮抗薬)、あるいは作用を遮断する薬物(遮断薬)は、神経因性の疼痛に対しての効果が期待された。
【0007】
例えば、抗うつ剤はすでに、鎮痛補助剤として、主に慢性疼痛の治療に用いられている。しかしながら、第一、第二世代といわれる三環系および四環系の抗うつ剤の殆どは、セロトニンとノルエピネフリンの両者の再取り込み阻害作用を有しているが、非選択性であり、抗コリン作用による口渇、便秘、排尿障害、かすみ目や抗ヒスタミン作用による眠気、あるいは抗アドレナリンα1作用による起立性低血圧といった多くの副作用を有することが判明している。また、第三世代の抗うつ剤といわれるSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)を用いた慢性疼痛処置法(特許文献1)もあるが、一般的には、眠気、吐き気、口渇、便秘や幻覚、妄想といった精神病症状を起こしたり、時に、過敏症として造血障害、肝障害、そしてほかの抗精神病薬との併用により強度の筋強直、嚥下困難、頻脈、発熱など、または精神安定剤との併用により、心室性不整脈など心血管系の副作用があるなど、脳内セロトニン活性の異常亢進によるセロトニン症候群という副作用発症の危険性が潜むため、この薬剤の取扱には専門家の指導を必要とする。最も副作用の少ないとされる第四世代のSNRI(セロトニン・ノルエピネフリン再取り込み阻害剤)についても、一般的には、眠気、吐き気、口渇、便秘などがあり、心臓、腎臓、肝臓の障害者には痙攣や白血球減少、緑内障を起こしやすいという副作用をもつ。これもSSRI同様、併用薬との相互作用も多いため取扱には十分な注意が必要である。
【0008】
そのほか、モノアミン作動系神経伝達物質に作用を及ぼす化合物によって、痛みを軽減あるいは改善する方法は幾らか知られている(特表2004-513916号公報(特許文献1);特表平9-511739号公報(特許文献2);特表2002-523366号公報(特許文献3);特表2002-537245号公報(特許文献4);特表2000-507544号公報(特許文献5)等)。
例えば、特表平9-511739号公報及び特表2002-537245号公報には、非炎症性局所疾患やフィブロミアルギア(線維筋痛症)等に対してセロトニン(5−HT3)受容体拮抗薬を使用することが記載されている。特表2002-523366号公報(特許文献3)には、疼痛を含む様々な機能障害に対して、ドーパミン再取り込み阻害剤を使用することが記載されている。
また、特表2000-507544号公報(特許文献5)には、非定型的抗精神病薬(クロザピン、リスペリドン、クエチアピン、ペロスピロン、オランザピンなど)と痛みに用いる薬剤との併用剤が記載されている。さらに、特表2002-503224号公報(特許文献6)には、相乗鎮痛剤としてのセロトニン再取り込み阻害剤、複合セロトニン−ノルエピネフリン再取り込み阻害剤、セロトニンレセプター作動剤及び拮抗剤等が記載されている。
【0009】
一方、フェニルエタノールアミンN−メチル転移酵素(PNMT)は、カテコールアミン作動系において最後の段階であるノルエピネフリンからエピネフリンの生合成を触媒する酵素であり、血圧調節や神経内分泌機能にも重要な役割を果たしている。
しかしながらこれまでに、(±)−2,3−ジクロロ−α−メチルベンジルアミン(DCMB)を代表とするPNMT阻害剤が、難治性である神経因性疼痛に対し有効であることは、何の記載も示唆もされていない。
【特許文献1】特表2004-513916号公報
【特許文献2】特表平9-511739号公報
【特許文献3】特表2002-523366号公報
【特許文献4】特表2002-537245号公報
【特許文献5】特表2000-507544号公報
【特許文献6】特表2002-503224号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように神経因性疼痛の治療に有効な薬剤は未だ知られていないのが現状であり、そのような薬剤の開発が望まれている。このような状況において、本発明の目的は、神経因性疼痛という難治性疼痛に優れた効果を発揮する新規な神経因性疼痛治療剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記の課題を達成すべく独自の発想に基づき研究を進めたところ、難治性神経因性疼痛モデルにおいて、DCMBを代表とするPNMT(フェニルエタノールアミンN−メチル転移酵素)阻害薬が高い鎮痛効果を示すことを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、次のような神経因性疼痛治療剤、神経因性疼痛の治療のための医薬組成物、神経因性疼痛の治療方法などを提供する。
【0012】
(1)フェニルエタノールアミンN−メチル転移酵素(PNMT)阻害薬を有効成分とし て含有する神経因性疼痛治療剤。
(2)前記PNMT阻害薬が、
(±)-2,3−ジクロロ−α−メチルベンジルアミン
((±)-2,3-dichloro-alpha-methylbenzylamine:DCMB);
8,9-ジクロロ-2,3,4,5-テトラヒドロ-1H-2-ベンズアゼピン
(8,9-dichloro-2,3,4,5-tetrahydro-1H-2-benzazepine);
7,8-ジクロロ-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン
(7,8-dichloro-1,2,3,4-tetrahydroisoquinoline);
2-シクロオクチル-2-ヒドロキシエチルアミン
(2-cyclooctyl-2-hydroxyethylamine);
(±)-7-アミノスルホニル-3-フルオロメチル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン
((±)-7-Aminosulfonyl-3-fluoromethyl-1,2,3,4-tetrahydroisoquinoline);
(±)-3-フルオロメチル-7-(N-2,2,2-トリフルオロエチルアミノスルホニル)-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン
((±)-3-Fluoromethyl-7-(N-2,2,2-trifluoroethylaminosulfonyl)-1,2,3,4-tetrahydroisoquinoline);
(±)-3-フルオロメチルl-7-(N-3,3,3-トリフルオロプロピルアミノスルホニル)-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン)
((±)-3-Fluoromethyl-7-(N-3,3,3-trifluoropropylaminosulfonyl)-1,2,3,4-tetrahydroisoquinoline);及び
それらの薬学的に許容し得る塩から選択される上記(1)記載の神経因性疼痛治療剤。
(3)前記PNMT阻害薬が、(±)−2,3−ジクロロ−α−メチルベンジルアミン(DCMB)及びそれらの薬学的に許容し得る塩から選択される上記(2)記載の神経因性疼痛治療剤。
【0013】
(4)神経因性疼痛が、帯状疱疹後神経痛、三叉神経痛、糖尿病性神経痛、がん性疼痛、術後や外傷後の遷延痛、痛覚過敏、アロディニア、開胸術後痛、CRPS、多発性硬化症による疼痛、AIDS、視床痛、脊髄障害による対麻痺性疼痛、無知覚性疼痛及び幻肢痛における神経因性疼痛から選択される一以上の症状である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の神経因性疼痛治療剤。
(5)フェニルエタノールアミンN−メチル転移酵素(PNMT)阻害薬及び薬学的に許容し得る担体を含有する神経因性疼痛治療のための医薬組成物。
(6)フェニルエタノールアミンN−メチル転移酵素(PNMT)阻害薬の有効量を哺乳動物に投与して神経因性疼痛を治療する方法。
(7)神経因性疼痛治療剤の製造のためのフェニルエタノールアミンN−メチル転移酵素(PNMT)阻害薬の使用。
【発明の効果】
【0014】
PNMT阻害薬を有効成分とする本発明の神経因性疼痛治療剤は、帯状疱疹後神経痛、三叉神経痛、糖尿病性神経痛、がん性疼痛、術後や外傷後の遷延痛、痛覚過敏、アロディニア等の症状を呈する神経因性疼痛の治療に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、PNMT(フェニルエタノールアミンN−メチル転移酵素)阻害薬を有効成分として含有する神経因性疼痛治療剤、PNMT阻害薬及び薬学的に許容できる担体を含有する神経因性疼痛の治療のための医薬組成物、PNMT阻害薬を用いる神経因性疼痛の治療方法を提供する。PNMTの特異的阻害薬としてDCMB((±)−2,3−ジクロロ−α−メチルベンジルアミン)は良く知られているが、驚くべきことに、本発明者は、このPNMT阻害薬であるDCMBが単独で神経因性疼痛に対し治療効果があることを初めて見出した。特に、これまである種のモノアミン作動系神経伝達に働く化合物(セロトニン(5−HT3)受容体拮抗薬、ドーパミン再取り込み阻害剤)による疼痛の緩和や改善は知られていたが、PNMT阻害薬であるDCMBになんらかの鎮痛作用があるとは考えられてはいなかった。したがってこれまでに神経因性疼痛モデルにおいてDCMBによる疼痛抑制効果を検討した報告は一切ない。このような事実は、本発明の独創性を示す証左となる。
【0016】
本明細書中、「フェニルエタノールアミンN−メチル転移酵素(PNMT)阻害薬」は、カテコールアミン作動系における最後の段階であるノルエピネフリンからエピネフリンの生合成を触媒する酵素の働きを阻害する化合物であることを意味する。エピネフリン生合成阻害作用は、公知の手法、例えば、Endocrinology Vol. 141, No. 3 1142-1150 (2000)に記載の方法によって確認することができる。
本明細書において用いる「治療」なる用語は、一般的には、ヒト及びヒト以外の哺乳動物の症状を改善させることを意味する。また「改善」なる用語は、例えば、本発明の治療剤を投与しない場合と比較して、疾患の程度が軽減する場合及び悪化しない場合を指し、予防という意味をも包含する。さらに「医薬組成物」なる用語は、本発明において有用な活性成分(DCMB等)と医薬の調製において用いられる担体等の添加物を含有する組成物を意味する。
【0017】
本発明で好ましく用いられるPNMT(フェニルエタノールアミンN−メチル転移酵素)阻害薬として、例えば、
(±)-2,3−ジクロロ−α−メチルベンジルアミン(DCMB:この塩酸塩はLY-78335);
8,9-ジクロロ-2,3,4,5-テトラヒドロ-1H-2-ベンズアゼピン(LY-134046);
7,8-ジクロロ-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン(SKF 64139);
2-シクロオクチル-2-ヒドロキシエチルアミン(好ましくはその塩酸塩(UK-1187A));
(±)-7-アミノスルホニル-3-フルオロメチル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン;
(±)-3-フルオロメチル-7-(N-2,2,2-トリフルオロエチルアミノスルホニル)-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン(好ましくはその塩酸塩);
(±)-3-フルオロメチルl-7-(N-3,3,3-トリフルオロプロピルアミノスルホニル)-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン(好ましくはその塩酸塩)及びそれらの薬学的に許容し得る塩が例示される。なお、これらのPNMT阻害薬の中では、特に、DCMBが好ましい。
上記したPNMT阻害薬は、公知であり、メルクインデックス(The Merck Index, 13th Edition(2001)、各種文献、薬理学の参考書(例えば、The pharmacological basis of therapeutics 9th Edition, McGraw Hill)等に記載されている。特に、DCMBは市販されており、例えば、Sigma−Aldrich社より入手できる。また、DCMBは、同社のホームページにて、その物理化学的性状、関連する主要文献等を確認できる。
【0018】
なお、本明細書中、「フェニルエタノールアミンN−メチル転移酵素(PNMT)阻害薬を有効成分として含有する」という用語は、PNMT阻害薬として公知の化合物およびこの化合物の医薬的に許容し得る形態(例えば、その塩、エステル、アミド、水和または溶媒和形態、ラセミ混合物、光学的に純粋な形態、プロドラッグ等)での使用を全て包含する意味で用いられる。
【0019】
したがって、本発明において用いられる有効成分としての化合物はフリー体であっても、医薬的に許容される塩であってもよい。このような「塩」は、酸塩と塩基塩を含む。酸塩としては、たとえば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、リン酸塩、酸性リン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、クエン酸塩、酸性クエン酸塩、酒石酸塩、重酒石酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、グルコン酸塩、糖酸塩、安息香酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、1,1'−メチレン−ビス−(2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸)塩などが挙げられる。塩基塩としては、たとえば、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、N−メチルグルカミン塩などの水溶性アミン付加塩、低級アルカノールアンモニウム塩、薬学的に許容することができる有機アミンの他の塩基から誘導される塩を挙げることができる。
【0020】
本発明の神経因性疼痛治療剤及び組成物は、神経因性疼痛の治療に有効である。そのような神経因性疼痛の例としては、例えば、帯状疱疹後神経痛、三叉神経痛、糖尿病性神経痛、がん性疼痛、術後や外傷後の遷延痛、痛覚過敏、アロディニア、開胸術後痛、CRPS、多発性硬化症による疼痛、AIDS、視床痛、脊髄障害による対麻痺性疼痛、無知覚性疼痛、幻肢痛における神経因性疼痛、などが含まれる。また、病態において帯状疱疹後神経痛と共通点の多い、フィブロミアルギア(線維筋痛症)も治療効果が期待できる。
【0021】
本発明の神経因性疼痛治療剤の投与形態は特に制限は無く、経口的あるいは非経口的に投与することが出来る。本発明の神経因性疼痛治療剤の有効成分であるPNMT阻害薬であるDCMB等は単独で配合されても良いが、これに製薬学的に許容しうる担体あるいは製剤用添加物を配合して製剤の形態で提供することもできる。この場合、本発明の有効成分であるDCMBは、例えば、製剤中、0.1〜99.9重量%含有することができる。
【0022】
製薬学的に許容しうる担体あるいは添加剤としては、例えば賦形剤、崩壊剤、崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、溶解剤、溶解補助剤、等張化剤、pH調整剤、安定化剤等を用いることが出来る。
【0023】
経口投与に適する製剤の例としては、例えば散剤、錠剤、カプセル剤、細粒剤、顆粒剤、液剤またはシロップ剤等を挙げることが出来る。経口投与の場合、微晶質セルロース、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸ジカリウム、グリシンのような種々の賦形剤を、澱粉、好適にはとうもろこし、じゃがいもまたはタピオカの澱粉、およびアルギン酸やある種のケイ酸複塩のような種々の崩壊剤、およびポリビニルピロリドン、蔗糖、ゼラチン、アラビアゴムのような顆粒形成結合剤と共に使用することができる。また、ステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、タルク等の滑沢剤も錠剤形成に非常に有効であることが多い。同種の固体組成物をゼラチンカプセルに充填して使用することもできる。これに関連して好適な物質としてラクトースまたは乳糖の他、高分子量のポリエチレングリコールを挙げることができる。経口投与用として水性懸濁液および/またはエリキシルにしたい場合、活性成分を各種の甘味料または香味料、着色料または染料と併用する他、必要であれば乳化剤および/または懸濁化剤も併用し、水、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン等、およびそれらを組み合わせた希釈剤と共に使用することができる。
【0024】
非経口投与に適する製剤としては、例えば注射剤、坐剤等を挙げることが出来る。非経口投与の場合、本発明の有効成分をゴマ油または落花生油のいずれかに溶解するか、あるいはプロピレングリコール水溶液に溶解した溶液を使用することができる。水溶液は必要に応じて適宜に緩衝し(好適にはpH8以上)、液体希釈剤をまず等張にする必要がある。このような水溶液は静脈内注射に適し、油性溶液は関節内注射、筋肉注射および皮下注射に適する。これらすべての溶液を無菌状態で製造するには、当業者に周知の標準的な製薬技術で容易に達成することができる。さらに、本発明の有効成分は皮膚など局所的に投与することも可能である。この場合は標準的な医薬慣行によりクリーム、ゼリー、ペースト、軟膏の形で局所投与するのが望ましい。
【0025】
本発明の神経因性疼痛治療剤の投与量は特に限定されず、疼痛の種類、患者の年齢や症状、投与経路、治療の目的、併用薬剤の有無等の種々の条件に応じて適切な投与量を選択することが可能である。本発明の神経因性疼痛治療剤の投与量は、例えば、成人(例えば、体重60kg)1日当たり100から25000mg程度、好ましくは150から9000mgである。注射剤として投与する場合の投与量は、例えば、成人(例えば、体重60kg)1日当たり100から5000mg程度、好ましくは180から1800mgである。これらの1日投与量は2回から4回に分けて投与されても良い。
【0026】
実 施 例
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0027】
(使用した実験材料及び一般的実験方法)
(1)モデル動物
実験動物として、6週齢の雄性ラット(体重:196.2〜221.9g)に、L5/L6脊髄神経に完全結紮を施し作製した疼痛過敏症モデルを用いた。
(2)群分け
機械刺激テストは、Dynamic Planter Aesthesiometer(37400、ウゴバジル社)、熱刺激テストは、足底熱刺激装置(Planter test 7370、ウゴバジル社)を用いて、モデル動物の足の疼痛閾値をそれぞれ測定し、各実験日の投与前に測定した疼痛閾値が均一になるように前臨床パッケージVersion5.0(SASインスティチュートジャパン)を用いて群分けした。なお、機械刺激では、モデル動物の足の疼痛閾値が8.0g以上の動物は試験から除外し、熱刺激では、モデル足の疼痛閾値が10秒以上の動物は試験から除外した。
【0028】
(3)被験物質の調製
被験物質について必要量を秤量し、媒体である生理食塩液に溶解させ、最高濃度の3mg/ml液を調製した。各濃度の投与液はそれぞれの最高用量の調合液を媒体で希釈し、全て用時調製とした。
(4)投与方法
披験物質は、脊髄への直接作用の確認を目的としているが、脳関門を通過することが確認されているため、簡易な投与方法である腹腔内投与とした。注射筒及び注射針を用いて、10ml/kgの容量で腹腔内に投与した。
【実施例1】
【0029】
(機械刺激方法)
疼痛過敏症モデルの雄性ラット(344.2〜436.9g)を1群5匹使用。DCMB((±)−2,3−ジクロロ−α−メチルベンジルアミン)投与前と、投与後20分、40分及び60分に最大圧力:15.0g、最大圧力まで到達する時間:20秒に設定した刺激装置を用いて左足蹠の疼痛閾値を測定した。その結果を図1に示す。図中、"**"は Dunnettの多重検定法によりP<0.01で優位差があること、"*"は Dunnettの多重検定法によりP<0.05で優位差があることを示す(以下同様)。
図1に示すように、生理食塩液を投与した対照群では、投与後の最大疼痛閾値が5.7gを示したのに対し、DCMBを投与した群では(a)0.3mg/kg投与の場合、投与後の最大閾値が6.3g、(b)3mg/kg投与の場合、投与後の最大閾値が8.9g、(c)30mg/kg投与の場合、投与後の最大閾値が12.0gを示した。このように、DCMBの投与は、3mg/kg及び30mg/kgの投与で疼痛閾値を有意に上昇させ、神経因性疼痛における鎮痛効果が確認された。
【実施例2】
【0030】
(熱刺激方法)
疼痛過敏症モデルの雄性ラット(367.4〜485.4g)を1群5匹使用。DCMB投与前と、投与後20分、40分及び60分に熱刺激強度35に設定した足底熱刺激装置を用いて左足蹠の疼痛閾値を測定した。その結果を図2に示す。
図2に示すように、生理食塩液を投与した対照群では、投与後の最大疼痛閾値が7.5秒を示したのに対し、DCMBを投与した群では、(a)0.3mg/kg投与の場合、投与後の最大閾値が7.9秒、(b)3mg/kg投与の場合、投与後の最大閾値が9.4秒、(c)30mg/kg投与の場合、投与後の最大閾値が11.4秒を示した。このように、DCMBの投与は、10mg/kgの投与で疼痛閾値を有意に上昇させ、神経因性疼痛における鎮痛効果が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0031】
以上述べたように、本発明のDCMB等のPNMT阻害薬を含有する神経因性疼痛治療剤は、種々の原因による神経因性疼痛の症状を改善する作用を有するので、神経因性疼痛の治療に有効に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、実施例1の実験結果を示す図であって、疼痛過敏症のラットにDCMBを腹腔内投与し、機械刺激に対する痛覚閾値の変化を示した図である。
【図2】図2は、実施例2の実験結果を示す図であって、疼痛過敏症のラットにDCMBを腹腔内投与し、熱刺激に対する痛覚閾値の変化を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェニルエタノールアミンN−メチル転移酵素(PNMT)阻害薬を有効成分として含有する神経因性疼痛治療剤。
【請求項2】
前記PNMT阻害薬が、
(±)-2,3−ジクロロ−α−メチルベンジルアミン(DCMB);
8,9-ジクロロ-2,3,4,5-テトラヒドロ-1H-2-ベンズアゼピン;
7,8-ジクロロ-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン;
2-シクロオクチル-2-ヒドロキシエチルアミン;
(±)-7-アミノスルホニル-3-フルオロメチル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン;
(±)-3-フルオロメチル-7-(N-2,2,2-トリフルオロエチルアミノスルホニル)-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン;
(±)-3-フルオロメチルl-7-(N-3,3,3-トリフルオロプロピルアミノスルホニル)-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン;及び
それらの薬学的に許容し得る塩から選択される前記請求項1記載の神経因性疼痛治療剤。
【請求項3】
前記PNMT阻害薬が、(±)−2,3−ジクロロ−α−メチルベンジルアミンである前記請求項2記載の神経因性疼痛治療剤。
【請求項4】
神経因性疼痛が、帯状疱疹後神経痛、三叉神経痛、糖尿病性神経痛、がん性疼痛、術後や外傷後の遷延痛、痛覚過敏、アロディニア、開胸術後痛、CRPS、多発性硬化症による疼痛、AIDS、視床痛、脊髄障害による対麻痺性疼痛、無知覚性疼痛及び幻肢痛における神経因性疼痛から選択される一以上の症状である前記請求項1〜3のいずれかに記載の神経因性疼痛治療剤。
【請求項5】
フェニルエタノールアミンN−メチル転移酵素阻害薬及び薬学的に許容し得る担体を含有する神経因性疼痛治療のための医薬組成物。
【請求項6】
フェニルエタノールアミンN−メチル転移酵素阻害薬の有効量を哺乳動物に投与して神経因性疼痛を治療する方法。
【請求項7】
神経因性疼痛治療剤の製造のためのフェニルエタノールアミンN−メチル転移酵素阻害薬の使用。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−332030(P2007−332030A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−33896(P2005−33896)
【出願日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【Fターム(参考)】