説明

神経性止血法

被験体のコリン作動性抗炎症経路の活性化による、この被験体の出血時間を減少させる方法が開示される。このコリン作動性抗炎症経路は、迷走神経の直接的または間接的刺激によって活性化され得る。このコリン作動性抗炎症経路はまた、有効量のコリン作動性アゴニストであるアセチルコリンエステラーゼインヒビターの被験体への投与によっても活性化され得る。例えば、本開示により、迷走神経の電気的刺激によって実験マウスにおいて出血時間が減少することが示された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本発明は、2004年3月25日に出願された米国特許仮出願番号第60/556,096号の利益を主張する。
【0002】
上記出願の教示全体は、本明細書中で参考として援用される。
【0003】
(政府の援助)
本発明は、その全体または一部が、Space and Naval Warfare Systems Center−San DiegoおよびDefense Advanced Research Programs Agencyからの助成金N66001−03−1−8907 P00003によって支援されている。政府は、本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0004】
(発明の背景)
損傷、手術、遺伝性出血性障害、または特定の疾病時(ビタミンK欠損症、重症肝傷害など)または治療時(抗凝固薬の使用または抗生物質の長期使用など)に発症する出血性障害の結果として出血多量が起こり得る。
【0005】
出血性障害に関連するいくつかのリスクには、関節の瘢痕または関節疾患、眼の出血による失明、失血による慢性貧血、および大量の失血または脳などの重要部位における出血によって起こり得る死が含まれる。
【0006】
出血性障害は、血液凝固能力の喪失に起因する。この能力の喪失は、最も一般的には、血液凝固因子の欠損に起因する。他の稀な原因には、血小板欠損または血小板機能障害が含まれる。血友病Aは、最も頻繁に起こる遺伝性凝固障害の1つである。血友病A患者は、第VIII因子の欠損の結果として頻繁に出血する傾向がある。血友病Aなどの出血性障害患者のための一般的な治療法には、因子代償療法が含まれる。これは、出血を予防または制御するための第VIII因子濃縮物の血流への注射である。
【0007】
因子代償療法を使用して、高リスクの外科的処置における術後出血を減少させることもできる。しかし、因子代償療法の主な欠点は、血液製剤の注入による肝炎などの血液感染症に曝露されるリスクが高くなることである。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
被験体のコリン作動性抗炎症経路の活性化によって被験体の出血時間を減少させることができることが発見された。コリン作動性抗炎症経路を、被験体の迷走神経の直接刺激によって活性化することができる。例えば、本発明者らは、迷走神経の電気的刺激によって実験マウスにおいて出血時間が減少することを示した(実施例1および2を参照のこと)。コリン作動性抗炎症経路を、被験体への有効量のコリン作動性アゴニストの投与によって活性化することもできる。例えば、本発明者らは、実験マウスへのニコチンの投与によってマウスの出血が減少することをさらに示した(実施例3を参照のこと)。これらの発見に基づいて、このような治療を必要とする被験体の出血時間の減少方法を本明細書中に開示する。
【0009】
本発明の1つの実施形態は、コリン作動性抗炎症経路の活性化による被験体の出血を減少させる方法である。例えば、コリン作動性抗炎症経路を、被験体の迷走神経の刺激によって活性化することができる。迷走神経を、被験体への有効量のムスカリン性アゴニストの投与によって間接的に刺激することができる。適切なムスカリン性アゴニストの例には、ムスカリン、McN−A−343、MT−3、およびCNI−1493が含まれる。コリン作動性抗炎症経路を、被験体への有効量のコリン作動性アゴニストの投与によって活性化することもできる。適切なコリン作動性アゴニストの1つの例は、ニコチンである。最も好ましくは、コリン作動性アゴニストは、α7ニコチンレセプター選択性であり、適切なα7選択性ニコチンアゴニストの例には、GTS−21、3−(4−ヒドロキシ−2−メトキシベンジリデン)アナバセイン、コリン、コカインメチオダイド、トランス−3−シンナミリデンアナバセイン、トランス−3−(2−メトキシ−シンナミリデン)アナバセイン、トランス−3−(4−メトキシシンナミリデン)アナバセインが含まれる。コリン作動性抗炎症経路を、被験体の迷走神経の電気的刺激または迷走神経の機械的刺激によって活性化することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(発明の詳細な説明)
本発明は、被験体のコリン作動性抗炎症経路(CAP)の活性化によって被験体の出血時間を減少させることができるという発見に基づく。本明細書中で使用される、「被験体」は、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒト患者であるが、ペット(companion animal)(例えば、イヌまたはネコ)、家畜(例えば、ウマ、ウシ、またはヒツジ)、または実験動物(例えば、ラット、マウス、またはモルモット)でもあり得る。
【0011】
本明細書中で使用される、「コリン作動性抗炎症経路」は、コリン作動性アゴニストによって活性化され、被験体の炎症を減少させる被験体の生化学的経路をいう。コリン作動性抗炎症経路は、2003年12月5日出願の米国特許出願番号第2004/0204355号および2001年5月15日出願の米国特許第6,610,713号(それぞれの教示全体が本明細書中で参考として援用される)に記載されている。本発明で、コリン作動性抗炎症経路の活性化によって被験体の出血時間も減少することが見いだされた。
【0012】
コリン作動性抗炎症経路を、被験体の迷走神経の刺激(直接または間接的)によって活性化することもできる。迷走神経の刺激によって遠心性迷走神経線維からアセチルコリンが放出されることが当該分野で周知である(2001年5月15日出願の米国特許第6,610,713 B2号(教示全体が本明細書中で参考として援用される)に記載されている)。本明細書中で使用される、「迷走神経」には、主な迷走神経から分岐した神経、迷走神経につながった神経節または節後神経が含まれる。出血時間に及ぼす迷走神経刺激の影響は、必ずしもアセチルコリン放出に起因するものに限られない。迷走神経刺激による出血時間の減少を部分的または完全に担う他の機構も本発明の範囲に含まれる。非限定的な例には、セロトニンアゴニストの放出または他の神経伝達物質の刺激が含まれる。
【0013】
被験体における出血時間をいう場合、用語「減少する」または「減少した」は、未処置コントロールを超える出血時間の少なくとも小さいが測定可能な減少を含む。好ましい実施形態では、出血時間は、未処置コントロールよりも少なくとも20%減少し、より好ましい実施形態では、減少は少なくとも70%であり、さらにより好ましい実施形態では、減少は少なくとも80%である。
【0014】
本発明の1つの実施形態では、被験体におけるコリン作動性抗炎症経路の活性化および出血時間の減少は、迷走神経の間接的刺激によって達成される。本明細書中で使用される、「間接的刺激」には、迷走神経を刺激する二次的プロセスまたは二次的薬剤に関する方法が含まれる。二次的薬剤の1つの例は、薬理学的迷走神経刺激物質である。
【0015】
好ましい実施形態では、薬学的迷走神経刺激物質は、脳内のムスカリンレセプターを活性化するアゴニスト(例えば、ムスカリンアゴニスト)である。本明細書中で使用される、「ムスカリンアゴニスト」は、ムスカリンレセプターに結合して活性化し、所望の生理学的効果(ここでは、出血時間の減少)を得ることができる化合物である。ムスカリンレセプターは、ムスカリンアゴニスト(例えば、ムスカリン)の認識部位を含むコリン作動性レセプターである。1つの実施形態では、ムスカリンアゴニストは、非選択性であり、ムスカリンレセプターに加えて他のレセプター(例えば、別のコリン作動性レセプター)に結合することができる。このようなムスカリンアゴニストの例は、アセチルコリンである。好ましい実施形態では、ムスカリンアゴニストは、他のコリン作動性レセプター(例えば、ニコチンレセプター)よりも高い親和性(例えば、少なくとも10%高い親和性、20%高い親和性、50%高い親和性、75%高い親和性、90%高い親和性、または95%高い親和性)でムスカリンレセプターに結合する。
【0016】
好ましい実施形態では、ムスカリンアゴニストは、M1、M2、またはM4ムスカリンレセプターに選択性を示す(米国特許第6,602,891号、米国特許第6,528,529号、米国特許第5,726,179号、米国特許第5,718,912号、米国特許第5,618,818号、米国特許第5,403,845号、米国特許第5,175,166号、米国特許第5,106,853号、米国特許第5,073,560号、および2003年2月26日出願の米国特許出願番号第2004/0048795号(その各内容全体が本明細書中で参考として援用される)に開示される)。本明細書中で使用される、「M1、M2、またはM4レセプターに選択性を示すアゴニスト」は、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または少なくとも5つの他のムスカリンレセプターサブタイプ(例えば、M3またはM5ムスカリンレセプター)ならびに/または少なくとも1つ、少なくとも2つ、または少なくとも5つの他のコリン作動性レセプターへの結合よりも高い親和性でM1、M2、および/またはM4レセプターに結合するアゴニストである。好ましい実施形態では、アゴニストは、ムスカリンおよび/またはM1、M2、および/またはM4レセプター以外のコリン作動性レセプターサブタイプよりも少なくとも10%高い親和性、20%高い親和性、50%高い親和性、75%高い親和性、90%高い親和性、または95%高い親和性で結合する。当業者に公知のレセプター結合アッセイを使用して、結合親和性を決定することができる。
【0017】
これらの方法に有用な好ましいムスカリンアゴニストの非限定的な例には、ムスカリン、McN−A−343、およびMT−3が含まれる。最も好ましい実施形態では、ムスカリンアゴニストは、以下の構造式:
【0018】
【化8】

を有するN,N’−ビス(3,5−ジアセチルフェニル)デカンジアミドテトラキス(アミジノヒドラゾン)テトラヒドロクロリド(CNI−1493)である。
【0019】
別の実施形態では、ムスカリンアゴニストは、CNI−1493化合物である。本明細書中で使用される、「CNI−1493化合物」は、芳香族グアニルヒドラゾン(より適切には、アミジノヒドラゾンと呼ばれる)(すなわち、NH(CNH)−NH−N=)であり、例えば、構造式I:
【0020】
【化9】

を有する化合物およびその薬学的に受容可能な塩であって、ここで、
は、NH(CNH)−NH−N=CH−、NH(CNH)−NH−N=CCH−、またはH−であり、X、X’およびX’は、独立して、NH(CNH)−NH−N=CH−またはNH(CNH)−NH−N=CCH−であり、Zは、−NH(CO)NH−、−(C)−、−(CNH)−、または−A−(CH−A−であり、nは、2〜10であり(その非置換、1C−メチル置換、2C−メチル置換、または1価または2価不飽和誘導体である)、そして、Aは、独立して、−NH(CO)−、−NH(CO)NH−、−NH−、または−O−である。好ましい実施形態は、Aが1官能性である化合物も含む。XおよびXはHであり、X’およびX’は、独立して、NH(CNH)−NH−N=CH−またはNH(CNH)−NH−N=CCH−であり、Zは、−A−(CH−A−であり、nは3〜8であり、Aは、−NH(CO)−または−NH(CO)NH−である場合の構造式Iを有する化合物およびその薬学的に受容可能な塩も含まれる。XおよびXはHであり、X’およびX’は、独立して、NH(CNH)−NH−N=CH−またはNH(CNH)−NH−N=CCH−であり、Zは、−O−(CH−O−である場合の構造式Iの化合物およびその薬学的に受容可能な塩も含まれる。
【0021】
CNI−1493化合物のさらなる例には、Xは、NH(CNH)−NH−N=CH−、NH(CNH)−NH−N=CCH−、またはH−であり、X、X’、およびX’は、NH(CNH)−NH−N=CH−またはNH(CNH)−NH−N=CCH−であり、Zは、−O−(CH−O−であり、nは2〜10である場合の構造式Iの化合物、その薬学的に受容可能な塩、および、XはH以外であり、Xは、Xに対してメタ位またはパラ位であり、X’は、X’に対してメタ位またはパラ位である場合の関連する属が含まれる。別の実施形態には、Xは、NH(CNH)−NH−N=CH−、NH(CNH)−NH−N=CCH−、またはHであり、X、X’、およびX’は、NH(CNH)−NH−N=CH−またはNH(CNH)−NH−N=CCH−であり、Zは、−NH−(C=O)−NH−である場合の構造式Iを有する化合物、その薬学的に受容可能な塩、およびXは、H以外であり、Xは、Xに対してメタ位またはパラ位であり、X’は、X’に対してメタ位またはパラ位である場合の関連する属が含まれる。
【0022】
CNI−1493化合物には、構造式II:
【0023】
【化10】

を有する芳香族グアニルヒドラゾン化合物およびその薬学的に受容可能な塩も含まれ、
ここで、X、X、およびXは、独立して、NH(CNH)−NH−N=CH−またはNH(CNH)−NH−N=CCH−であり、X’、X’、およびX’は、独立して、H−、NH(CNH)−NH−N=CH−、またはNH(CNH)−NH−N=CCH−であり、m、m、およびmが0である場合、Zは、(C)であり、独立して、m、m、およびmが2〜6である場合、Zは、Nであり、Aは、−NH(CO)−、−NH(CO)NH−、−NH−、または−O−である。構造式IIの化合物のさらなる例には、X’、X’、およびX’がH以外である場合、X、X、およびXからなる基の対応する置換基がそれぞれX’、X’、およびX’に対してメタ位またはパラ位である属、m、m、およびmは0であり、Aは−NH(CO)−である属、ならびにm、m、およびmは2〜6であり、Aは−NH(CO)NH−である属、ならびにその薬学的に受容可能な塩が含まれる。CNI−1493化合物およびこのような化合物の作製方法の例は、米国特許第5,854,289号(その内容が、本明細書中で参考として援用される)に記載されている。
【0024】
あるいは、コリン作動性抗炎症経路を、被験体への有効量のコリン作動性アゴニストの投与によって活性化し、それにより、被験体の出血時間を減少させる。本明細書中で使用される、「コリン作動性アゴニスト」は、コリン作動性レセプターに結合して活性化し、所望の生理学的効果(ここでは、被験体の出血時間の減少)を得ることができる化合物である。当業者は、いくつかの周知の方法のいずれかによって任意の特定の化合物がコリン作動性アゴニストであるかどうかを決定することができる。好ましい実施形態では、コリン作動性アゴニストを、in vivoでの治療に使用しているか、天然に産生する。開示される発明における使用に適切なコリン作動性アゴニストの非限定的な例には、アセチルコリン、ニコチン、ムスカリン、カルバコール、ガランタミン、アレコリン、セビメリン、およびレバミゾールが含まれる。好ましい実施形態では、コリン作動性アゴニストは、アセチルコリン、ニコチン、またはムスカリンである。
【0025】
より好ましい実施形態では、コリン作動性アゴニストは、α7選択性ニコチンコリン作動性アゴニストである。本明細書中で使用される、「α7選択性ニコチンコリン作動性アゴニスト」は、被験体中でα7ニコチンコリン作動性レセプターに選択的結合して活性化する化合物である。ニコチンコリン作動性レセプターは、リガンド型五量体イオンチャネルである。ヒトでは、異なる構造および薬理学的性質を有する多数のホモおよびヘテロ五量体レセプターを形成する16種の異なるサブユニット(α1〜7、α9〜10、β1〜4、δ、ε、およびγ)が同定されている(Lindstrom,J.M.,Nicotinic Acetylcholine Receptors.「Hand Book of Receptors and Channels:Ligand−and Voltage−Gated Ion Channels」R.Alan(編)North CRC Press Inc.,(1995);Leonard,S.,& Bertrand,D.,Neuronal nicotinic receptors:from structure to function.Nicotine & Tobacco Res.3:203−223(2001);Le Novere,N.,& Changeux,J−P.,Molecular evolution of the nicotinic acetylcholine receptor:an example of multigene family in excitable cells,J.Mol.Evol.,40:155−172(1995))。
【0026】
本明細書中で使用される、「コリン作動性アゴニスト」は、アゴニストが少なくとも1つの他のニコチンレセプターを活性化する範囲よりも広い範囲でアゴニストがα7ニコチンコリン作動性レセプターを活性化する場合、α7ニコチンコリン作動性レセプターに選択性を示す。α7選択性ニコチンアゴニストが、少なくとも1つを超える他のニコチンレセプター(好ましくは、少なくとも2つ、3つ、または5つの他のニコチンレセプター)よりも少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、最も好ましくは少なくとも50倍のα7ニコチンレセプターを活性化することが好ましい。最も好ましくは、α7選択性ニコチンアゴニストは、いかなる測定可能な程度(すなわち、十分に制御された比較において未処置レセプターに対してP=0.05で有意)にも別のニコチンレセプターを活性化しない。
【0027】
このような活性化の相違を、例えば、in vitroレセプター結合アッセイを使用した任意の公知の方法(NovaScreen Biosciences Corporation(Hanover MD)によって得られた方法、WO 02/44176(α4β2試験)、米国特許第6,407,095号(神経節型の末梢ニコチンレセプター)、米国特許出願公開番号第2002/0086871号(目的のレセプターでトランスフェクトしたGHCl細胞から調製した膜への標識リガンドの結合)、およびWO 97/30998号に開示の方法など)による種々のレセプターの活性化の比較によって測定することができる。α7レセプターに選択的なアゴニストの決定方法を記載した参考文献には、米国特許第5,977,144(表1)、WO02/057275号(41〜42ページ)、およびHolladayら,Neuronal Nicotinic Acetylcholine Receptors as Targets for Drug Discovery,Journal of Medicinal Chemistry,40:4169−4194(1997)(これらの参考文献の教示全体が、本明細書中で参考として援用される)が含まれる。他のニコチンレセプターサブタイプのアッセイは、当業者に公知である。
【0028】
1つの実施形態では、α7選択性ニコチンアゴニストは、構造式III:
【0029】
【化11】

の化合物およびその薬学的に受容可能な塩であり、
ここで、Rは水素またはメチルであり、nは0または1である。好ましい実施形態では、α7選択性ニコチンアゴニストが、(−)−スピロ[1−アザビシクロ[2.2.2]オクタン−3,5’−オキサゾリジン−2’−オン]である。構造式IIIの化合物の調製方法は、米国特許第5,902,814号(その内容全体が、本明細書中で参考として援用される)に記載されている。
【0030】
別の実施形態では、α7選択性ニコチンアゴニストは、構造式IV:
【0031】
【化12】

の化合物、その鏡像異性体、またはその薬学的に受容可能な塩であり、ここで、mは1または2であり、nは0または1であり、Yは、CH、N、またはNOであり、Xは、酸素または硫黄であり、Wは、酸素、H、またはFであり、AはNまたはC(R)であり、GはNまたはC(R)であり、DはNまたはC(R)であり、但し、A、G、およびDのうち、窒素であるのはたった1つであるが、Y、A、G、およびDのうちの少なくとも1つは窒素またはNOであり、Rは、水素またはC〜Cアルキルであり、R、R、およびRは、独立して、水素、ハロゲン、C〜Cアルキル、C〜Cアルケニル、C〜Cアルキニル、アリール、ヘテロアリール、OH、OC〜Cアルキル、CO、−CN、−NO、−NR、−CF、または−OSOCFであるか、RとRまたはRとRは、それぞれ合わせて、AおよびGまたはGおよびDをそれぞれ共有し、0個と2個との間の窒素を含む別の6員環の芳香環または複素芳香環を形成することができ、1〜2つの以下の置換基で置換されている:独立して、水素、ハロゲン、C〜Cアルキル、C〜Cアルケニル、C〜Cアルキニル、アリール、ヘテロアリール、OH、OC〜Cアルキル、CO、−CN、−NO、−NR、−CF、または−OSOCF;RおよびRは、独立して、水素、C〜Cアルキル、C(O)R、C(O)NHR、C(O)OR、SO10であるか、合わせて(CHQ(CHであってよく、QはO、S、NR11、または結合であり、jは2〜7であり、kは0〜2であり、R、R、R、R10、およびRllは、独立して、C〜C、アルキル、アリール、またはヘテロアリールである。好ましい実施形態では、α7選択性ニコチンアゴニストは、mは2であり、nは0であり、Xは酸素であり、AはC(R)であり、GはC(R)であり、DはC(R)である構造式IVの化合物である。特に好ましい実施形態では、α7選択性ニコチンアゴニストは、α7選択性ニコチンアゴニストは、(R)−(−)−5’−フェニルスピロ[1−アザビシクロ[2.2.2]オクタン−3,2’(3’H)−フロ[2,3−b]ピリジン]である。構造式IVの化合物の調製方法は、米国特許第6,110,914号(その内容全体が、本明細書中で参考として援用される)に記載されている。
【0032】
さらに別の実施形態では、α7選択性ニコチンアゴニストは、構造式V:
【0033】
【化13】

の化合物であり、ここで、R、R、およびRは、水素またはC〜Cアルキルであるか、Rは、水素またはC〜Cアルキルであり、RおよびRは、存在しないか、水素またはC〜Cアルキルであり、Rは、
【0034】
【化14】

であり、ここで、R、R、およびRは、水素、必要に応じて各アルキル中に1〜4個の炭素を有するN,N−ジアルキルアミノに置換されたC〜Cアルキル、必要に応じて各アルキル中に1〜4個の炭素を有するN,N−ジアルキルアミノに置換されたC〜Cアルコキシ、アルコキシ中に1〜4個の炭素を有するカルボアルコキシ、アミノ、アシル中に1〜4個の炭素を有するアミド、シアノ、および各アルキル中に1〜4個の炭素を有するN,N−ジアルキルアミノ、ハロ、ヒドロキシル、またはニトロである。
【0035】
好ましい実施形態では、α7選択性ニコチンアゴニストは、Rがテトラヒドロピリジン環の3位に結合した構造式Vの化合物である。別の好ましい実施形態では、好ましくは、フェニル環の4位または2位に結合することができるRは、アミノ、ヒドロキシル、クロロ、シアノ、ジメチルアミノ、メチル、メトキシ、アセチルアミノ、アセトキシ、またはニトロである。1つの特に好ましい実施形態では、α7選択性ニコチンアゴニストは、Rがヒドロキシルであり、R、R、およびRが水素である構造式Vの化合物である。別の特に好ましい実施形態では、α7選択性ニコチンアゴニストは、Rがアセチルアミノであり、R、R、およびRが水素である構造式Vの化合物である。別の特に好ましい実施形態では、α7選択性ニコチンアゴニストは、Rがアセトキシであり、R、R、およびRが水素である構造式Vの化合物である。別の特に好ましい実施形態では、α7選択性ニコチンアゴニストは、Rがメトキシであり、R、R、およびRが水素である構造式Vの化合物である。別の特に好ましい実施形態では、α7選択性ニコチンアゴニストは、Rがメトキシであり、RおよびRが水素であり、さらに、Rがフェニル環の2位に結合する場合、フェニル環の4位に結合するRはメトキシまたはヒドロキシである構造式Vの化合物である。
【0036】
好ましい実施形態では、α7選択性ニコチンアゴニストは、3−(2,4−ジメトキシベンジルジン)アナバセイン(GTS−21)(DMXB−Aとしても公知)、3−(4−ヒドロキシベンジリデン)アナバセイン、3−(4−メトキシベンジリデン)アナバセイン、3−(4−アミノベンジリデン)アナバセイン、3−(4−ヒドロキシ−2−メトキシベンジリデン)アナバセイン、3−(4−メトキシ−2−ヒドロキシベンジリデン)アナバセイン、トランス−3−シンナミリデンアナバセイン、トランス−3−(2−メトキシ−シンナミリデン)アナバセイン、またはトランス−3−(4−メトキシシンナミリデン)アナバセインである。
【0037】
構造式Vの化合物の調製方法は、米国特許第5,977,144号および米国特許第5,741,802号(その内容全体が、本明細書中で参考として援用される)に記載されている。
【0038】
さらなる実施形態では、α7選択性ニコチンアゴニストが、構造式VI:
【0039】
【化15】

の化合物またはその薬学的に受容可能な塩であり、
ここで、
XはOまたはSであり、Rは、H、OR、NHC(O)R、またはハロゲンであり、
は、C〜Cアルキルである。特に好ましい実施形態では、α7選択性ニコチンアゴニストは、N−[(3R)−l−アザビシクロ[2.2.2]オクト−3−イル]−4−(4−ヒドロキシフェノキシ)ベンズアミド、N−[(3R)−1−アザビシクロ[2.2.2]オクト−3−イル]−4−(4−アセトアミドフェノキシ)ベンズアミド、N−[(3R)−l−アザビシクロ[2.2.2]オクト−3−イル]−4−(フェニルスルファニル)ベンズアミド、またはN−[(3R)−l−アザビシクロ[2.2.2]オクト−3−イル]−4−(3−クロロフェニルスルホニル)ベンズアミドである。
【0040】
構造式VIを有する化合物の調製方法は、米国特許出願第2002/0040035号(その内容全体が、本明細書中で参考として援用される)に記載されている。
【0041】
さらに別の実施形態では、α7選択性ニコチンアゴニストは、(1−アザ−ビシクロ[2.2.2]オクト−3−イル)−カルバミン酸1−(2−フルオロフェニル)−エチルエステルである。この化合物の調製方法は、米国特許出願第2002/0040035号(その内容全体が、本明細書中で参考として援用される)に記載されている。
【0042】
さらにより好ましい実施形態では、α7選択性ニコチンアゴニストは、GTS−21、3−(4−ヒドロキシ−2−メトキシベンジリデン)アナバセイン、(R)−(−)−5’−フェニルスピロ[1−アザビシクロ[2.2.2]オクタン−3,2’オクタン−3,2’(3’H)−フロ[2,3−b]ピリジン]、(−)−スピロ−[1−アザビシクロ[2.2.2]オクタン−3,5’−オキサゾリジン−2’−オン、またはコカインメチオダイドであり、さらなるα7選択性ニコチンアゴニストには、トランス−3−シンナミリデンアナバセイン、トランス−3−(2−メトキシ−シンナミリデン)アナバセイン、またはトランス−3−(4−メトキシシンナミリデンアナバセイン)が含まれる。
【0043】
さらに別の実施形態では、α7選択性ニコチンアゴニストは、α7ニコチンレセプターの選択アゴニスト(最も好ましくは、特異的アゴニスト)である抗体である。抗体は、ポリクローナルまたはモノクローナルであってよく、ヒト、非ヒト真核生物、細胞、真菌、または細菌に由来することができ、ゲノムまたはベクター負荷コード配列によってコードすることができ、抗体の生成および産生のための当該分野で周知の種々の方法および手順に全てしたがって、アジュバントを使用の有無にかかわらず天然または組換えα7またはそのフラグメントに対して誘発することができる。このような有用な抗体の他の例には、キメラ抗体、単鎖抗体、および種々のヒトまたはヒト化抗体型、ならびにFabフラグメントおよび特定の発現系から産生されたフラグメントのような種々のフラグメントが含まれるが、これらに限定されない。
【0044】
さらなる実施形態では、α7選択性ニコチンアゴニストは、α7ニコチンレセプターの選択アゴニスト(最も好ましくは、特異的アゴニスト)であるアプタマーである。アプタマーは、タンパク質または低分子(例えば、ステロイドまたは薬物など)などの特定の標的分子に結合する一本鎖オリゴヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドアナログである。したがって、アプタマーは、抗体に類似のオリゴヌクレオチドである。しかし、アプタマーは、抗体より小さく、一般に、50〜100ntの範囲である。その結合は、アプタマーオリゴヌクレオチドによって形成された二次構造に非常に依存する。RNAおよび一本鎖DNA(またはアナログ)の両方についてのアプタマーが公知である。例えば、Burkeら,J.Mol.Biol.,264(4):650−666(1996);EllingtonおよびSzostak,Nature,346(6287):818−822(1990);Hiraoら,Mol Divers.,4(2):75−89(1998);Jaegerら,The EMBO Journal 17(15):4535−4542(1998);Kenschら,J.Biol.Chem.,275(24):18271−18278(2000);Schneiderら,Biochemistry,34(29):9599−9610(1995);ならびに米国特許第5,496,938号;同第5,503,978号;同第5,580,737号;同第5,654,151号;同第5,726,017号;同第5,773,598号;同第5,786,462号;同第6,028,186号;同第6,110,900号;同第6,124,449号;同第6,127,119号;同第6,140,490号;同第6,147,204号;同第6,168,778号;および同第6,171,795号を参照のこと。アプタマーを、トランスフェクトしたベクターから発現することもできる(Joshiら,J Virol,76(13),6545−6557(2002))。
【0045】
事実上任意の特定の標的に結合するアプタマーを、SELEX(指数的リガンド連続強化法を示す)と呼ばれる反復プロセスの使用によって選択することができる(Burkeら,J.Mol.Biol.,264(4):650−666(1996);EllingtonおよびSzostak,Nature,346(6287):818−822(1990);Schneiderら,Biochemistry,34(29):9599−9610(1995);Tuerkら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89:6988−6992(1992);TuerkおよびGold,Science,249(4968):505−510(1990))。プロセスを改良し、特定の環境下で使用可能ないくつかのSELEXの変形形態が開発されている。例えば、米国特許第5,472,841号;同第5,503,978号;同第5,567,588号;同第5,582,981号;同第5,637,459号;同第5,683,867号;同第5,705,337号;同第5,712,375号;および同第6,083,696号を参照のこと。したがって、任意の特定のオリゴペプチド(α7ニコチンレセプターが含まれる)に対するアプタマーの産生には、過度の実験は必要ない。
【0046】
上記のように、化合物を、薬学的に受容可能な塩の形態で投与することができる。これには、十分な酸性、十分な塩基性、または両方の官能基を有し、それにより、任意の多数の有機塩基または無機塩基および有機酸または無機酸と反応し、塩を形成することができる本明細書中に開示の化合物が含まれる。塩基性基を有する化合物から酸付加塩を形成するために一般的に使用される酸は、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、およびリン酸などの無機酸ならびにp−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、p−ブロモフェニルスルホン酸、炭酸、コハク酸、クエン酸、安息香酸、および酢酸などの有機酸である。このような塩の例には、硫酸塩、ピロ硫酸塩、重硫酸塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、リン酸塩、リン酸一水素塩、リン酸二水素塩、メタリン酸塩、ピロリン酸塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物、酢酸塩、プロピオン酸塩、デカン酸塩、カプリル酸塩、アクリル酸塩、蟻酸塩、磯酪酸塩、カプロン酸塩、ヘプタン酸塩、プロピオン酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、スベリン酸塩、セバシン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、ブチン−1,4−ジオエート、ヘキシン−1,6−ジオエート、安息香酸塩、クロロ安息香酸塩、メチル安息香酸塩、ジニトロ安息香酸塩、ヒドロキシ安息香酸塩、メトキシ安息香酸塩、フタル酸塩、スルホン酸塩、キシレンスルホン酸塩、フェニル酢酸塩、フェニルプロピオン酸塩、フェニル酪酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、γ−ヒドロキシ酪酸塩、グリコール酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、プロパンスルホン酸塩、ナフタレン−1−スルホン酸塩、ナフタレン−2−スルホン酸塩、およびマンデル酸塩などが含まれる。
【0047】
このような薬学的に受容可能な塩を、薬学的に受容可能なカチオンを供与する塩基を使用して作製することができ、アルカリ金属塩(特に、ナトリウムおよびカリウム)、アルカリ土類金属塩(特に、カルシウムおよびマグネシウム)、アルミニウム塩およびアンモニウム塩、ならびに生理学的に許容可能な有機塩基(トリメチルアミン、トリエチルアミン、モルホリン、ピリジン、ピペリジン、ピコリン、ジシクロヘキシルアミン、N,N’−ジベンジルエチレンジアミン、2−ヒドロキシエチルアミン、ビス−(2−ヒドロキシエチル)アミン、トリ−(2−ヒドロキシエチル)アミン、プロカイン、ジベンジルピペリジン、−ベンジル−β−フェネチルアミン、デヒドロアビエチルアミン、N,N’−ビスデヒドロアビエチルアミン、グルカミン、N−メチルグルカミン、コリジン、キニーネ、キノリン、ならびにリジンおよびアルギニンなどの塩基性アミノ酸など)から作製した塩が含まれる。これらの塩を、当業者に公知の方法によって調製することができる。
【0048】
本明細書中で使用される、用語「アルキル」には、他で示さない限り、直鎖または分岐部分を有する1価の飽和炭化水素ラジカル(典型的には、C〜C10、好ましくはC〜C)が含まれる。アルキル基の例には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、およびt−ブチルが含まれるが、これらに限定されない。
【0049】
本明細書中で使用される、用語「アルケニル」には、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を有する上記定義のアルキル部分が含まれる。アルケニル基の例には、エテニルおよびプロピルが含まれるが、これらに限定されない。
【0050】
本明細書中で使用される、用語「アルキニル」には、少なくとも1つの炭素−炭素三重結合を有する上記定義のアルキル部分が含まれる。アルキニル基の例には、エチニルおよび2−プロピニルが含まれるが、これらに限定されない。
【0051】
本明細書中で使用される、用語「アルコキシ」は、アルキルが上記のように定義された「アルキル−O−」基を意味する。
【0052】
本明細書中で使用される、用語「シクロアルキル」には、アルキルが上記のように定義されている非芳香族飽和環式アルキル部分が含まれる。シクロアルキルの例には、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、およびシクロヘプチルが含まれるが、これらに限定されない。「ビシクロアルキル」基は、2つの環からなる非芳香族飽和炭素環式基である。ビシクロアルキル基の例には、ビシクロ−[2.2.2]−オクチルおよびノルボルニルが含まれるが、これらに限定されない。用語「シクロアルケニル」および「ビシクロアルケニル」は、炭素環員を連結する1つまたは複数の炭素−炭素二重結合(「環内」二重結合)および/または炭素環員および隣接する非環炭素を連結する1つまたは複数の炭素−炭素二重結合(「環外」二重結合)を含むこと以外は上記定義の非芳香族炭素環式シクロアルキル部分およびビシクロアルキル部分をいう。シクロアルケニル基の例には、シクロペンテニルおよびシクロヘキセニルが含まれるが、これらに限定されない。ビシクロアルケニル基の非限定的な例は、ノルボレニルである。シクロアルキル基、シクロアルケニル基、ビシクロアルキル基、およびビシクロアルケニル基には、これらの各カテゴリーについて上記と類似しているが、1つまたは複数のオクソ部分に置換された基も含まれる。オクソ部分を有するこのような基の例には、オクソシクロペンチル、オクソシクロブチル、オクソシクロペンテニル(ococyclopentenyl)、およびノルカンフォリルが含まれるが、これらに限定されない。
【0053】
本明細書中で使用される、用語「シクロアルコキシ」には、シクロアルキルが上記で定義されている「シクロアルキル−O−」が含まれる。
【0054】
本明細書中で使用される、用語「アリール」は、炭素環式基をいう。アリール基の例には、フェニルおよびナフチルが含まれるが、これらに限定されない。
【0055】
本明細書中で使用される、用語「ヘテロアリール」は、1つまたは複数のヘテロ原子(O、S、またはN)を含む芳香族基をいう。ヘテロアリール基は、単環式または多環式であり得る。本発明のヘテロアリール基には、1つまたは複数のオクソ部分で置換された環系も含まれ得る。ヘテロアリール基の例には、ピリジニル、ピリダジナル、イミダキソリル、ピリミジニル、ピラゾリル、トリアゾリル、ピラジニル、キノリル、イソキノリル、テトラゾリル、フリル、チエニル、イソキサゾリル、チアゾリル、オキサゾリル、イソチアゾリル、ピロリル、キノリニル、イソキノリニル、インドリル、ベンズイミダゾリル、ベンゾフラニル、シンノリニル、インダゾリル、インドリジニル、フタラジニル、ピリダジニル、トリアジニル、イソインドリル、プリニル、オキサジアゾリル、チアゾリル、チアジダゾリル、フラザニル、ベンゾフラザニル、ベンゾチオフェニル、ベンゾトリアゾリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾキサゾリル、キナゾリニル、キノキサリニル、ナフチリジニル、ジヒドロキノリル、テトラヒドロキノリル、ジヒドロイソキノリル、テトラヒドロイソキノリル、ベンゾフリル、フロフリジニル、ピロロピリミジニル、およびアザインドイルが含まれるが、これらに限定されない。
【0056】
上記ヘテロアリール基は、C結合またはN結合(可能な場合)であり得る。例えば、ピロール由来の基は、ピロール−1−イル(N結合)またはピロール−3−イル(C結合)であり得る。
【0057】
本発明の文脈では、二環式炭素環式基は、環原子のみとして炭素を保持する二環式化合物である。環構造は、特に、芳香族、飽和、または部分飽和であり得る。このような可能物の例には、インダニル、ナフタレニル、またはアズレニルが含まれるが、これらに限定されない。
【0058】
本発明の文脈では、アミノ基は、第一級(−NH)、第二級(−NHR)、または第三級(−NR)であり得、ここで、RおよびRは、アルキル、アルケニル、アルキニル、アルコキシ、シクロアルキル、シクロアルコキシ、アリール、ヘテロアリール、または二環式炭素環式基である。
【0059】
別の実施形態では、迷走神経の間接的刺激によってコリン作動性抗炎症経路の活性化および被験体の出血時間の減少を行う。この方法は、被験体に有効量の非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)を投与する工程を含む。適切なNSAIDの例には、アスピリン、インドメタシン、およびイブプロフェンが含まれる。あるいは、被験体への有効量のアミオダロンまたはα−メラノサイト刺激ホルモン(MSH)の投与によって迷走神経を間接的に刺激する。
【0060】
薬理学的迷走神経刺激物質(すなわち、ムスカリンアゴニスト、NSAID、αMSH、およびアミオダロン)およびコリン作動性アゴニストの投与経路は、処置すべき状態に依存する。当業者は、投与経路および投薬量を、過度の実験を行うことなく標準的な用量−応答研究と組み合わせて決定することができる。これらの決定で考慮すべき関連環境には、処置されるべき状態(単数または複数)、投与すべき組成物の選択、各被験体の年齢、体重、および応答、ならびに被験体の症状の重症度が含まれる。
【0061】
本発明に有用な組成物を、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、鞘内注射、または皮下注射などによって非経口で投与することができる。溶液または懸濁液への薬物の組み込みによって非経口投与を行うことができる。このような溶液または懸濁液には注射用の水、生理食塩水、不揮発油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、または他の合成溶媒などの滅菌希釈剤が含まれ得る。非経口処方物には、抗菌薬(例えば、ベンジルアルコールまたはメチルパラベンなど)、抗酸化薬(例えば、アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウムなど)、およびキレート剤(EDTAなど)が含まれ得る。酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液またはリン酸緩衝液などの緩衝液および塩化ナトリウムまたはデキストロースなどの等張化剤を添加することもできる。非経口調製物を、ガラス製またはプラスチック製のアンプル、使い捨てシリンジ、または複数回投与用バイアルに封入することができる。
【0062】
直腸投与には、直腸または大腸への薬学的組成物の投与が含まれる。座剤または軟膏を使用してこれを行うことができる。座剤処方物を、当該分野で公知の方法によって作製することができる。例えば、グリセリンを約120℃に加熱し、グリセリンに薬物を溶解し、加熱グリセリンを混合し(その後に精製水を添加することができる)、加熱混合物を座剤の鋳型に注ぐことによって座剤処方物を調製することができる。
【0063】
経皮投与は、皮膚を介した薬物の経皮吸収を含む。経皮処方物には、パッチ、軟膏、クリーム、ゲル、および蝋膏などが含まれる。好ましい実施形態では、コリン作動性アゴニストであるニコチンを、ニコンパッチによって経皮投与する。
【0064】
経食道デバイスには、デバイス内に含まれた薬物を食道組織に浸透させて血中に拡散させる、食道表面に配置したデバイスが含まれる。
【0065】
本発明は、有効量の薬剤の鼻腔内投与を含む。本明細書中で使用される、「鼻腔内投与」は、被験体の鼻道または鼻腔の粘膜への薬物の投与を含む。本明細書中で使用される、「薬物の鼻腔内投与のための薬学的組成物」には、周知の方法によって調製された投与されるべき有効量の薬物を含む薬物、例えば、鼻内噴霧、点鼻薬、懸濁液、ゲル、軟膏、クリーム、または粉末が含まれる。鼻用タンポン(nasal tampon)または鼻用スポンジを使用して薬物を投与することもできる。
【0066】
したがって、開示の方法を使用して経口、口内(lingual)、舌下、口腔、および口腔内(intrabuccal)への投与のためのデザインされた薬物組成物を使用し、当該分野で周知の手段によって過度に実験することなく、例えば、不活性希釈剤または食用キャリアを使用して作製することができる。組成物を、ゼラチンカプセルに封入するか、錠剤内に圧縮することができる。経口治療のための投与の目的のために、本発明の薬学的組成物を、賦形剤とともに組み込み、錠剤、トローチ、カプセル、エリキシル、懸濁液、シロップ、オブラート、およびチューインガムの形態で使用することができる。
【0067】
錠剤、丸薬、カプセル、およびトローチなどは、結合剤、賦形剤(recipient)、崩壊剤、潤滑剤、甘味料、および香味物質を含むことができる。結合剤のいくつかの例には、微結晶性セルロース、トラガカントガム、またはゼラチンが含まれる。賦形剤の例には、デンプンまたはラクトースが含まれる。崩壊剤のいくつかの例には、アルギン酸およびコーンスターチなどが含まれる。潤滑剤の例には、ステアリン酸マグネシウムまたはステアリン酸カリウムが含まれる。流動促進剤の例には、コロイド状二酸化ケイ素が含まれる。甘味料のいくつかの例には、スクロースおよびサッカリンなどが含まれる。香味物質の例には、ペパーミント、サリチル酸メチル、およびオレンジフレーバーなどが含まれる。これらの種々の組成物の調製で使用される材料は、薬学的に純粋であり、使用量で無毒でなければならない。
【0068】
ムスカリンアゴニストが血液脳関門を通過するか、血液脳関門を持たない脳室周囲器官を介して脳を透過することができる場合、ムスカリンアゴニストを、上記のように被験体に経口、非経口、鼻腔内、膣内、直腸、口内、舌下、口腔、口腔内、または経皮に投与することができる。脳ムスカリンアゴニストを、脳室内注射によって投与することもできる。血液脳関門を通過するか、血液脳関門を持たない脳室周囲器官を介して脳を透過することができる場合、NSAID、アミオダロン、およびαMSHを、脳室内注射または上記技術の1つによって投与することもできる。
【0069】
有効量を、本明細書中で、所望の生物学的効果(ここでは、被験体の出血時間の減少)を達成するのに治療的または予防的に十分な薬物の量と定義する。有効量の例は、典型的には、約0.5g/25g体重〜約0.0001ng/25g体重、好ましくは約5mg/25g体重〜約1ng/25g体重の範囲である。
【0070】
本発明のさらに別の実施形態は、被験体の出血時間の減少方法に関する。この方法は、迷走神経の直接的刺激によってコリン作動性抗炎症経路を活性化する工程を含む。本明細書中で使用される、「迷走神経の直接的刺激」は、迷走神経または迷走神経によって支配されている器官との直接的接触を含むプロセスを含む。このようなプロセスの1つの例は、迷走神経の電気刺激である。迷走神経の直接的刺激によってアセチルコリンが放出され、脳内または迷走神経に支配されている周辺器官の出血時間を減少させる。迷走神経は、主な器官(咽頭、喉頭、食道、心臓、肺、胃、膵臓、脾臓、腎臓、副腎、小腸、大腸、結腸、および肝臓が含まれる)を脆弱にする。
【0071】
迷走神経を、迷走神経全体(すなわち、求心性神経および遠心性神経の両方)の刺激または遠心性神経の分離およびその直接的刺激によって刺激することができる。後者の方法を、両線維型が存在する神経領域での遠心性線維からの求心性線維の分離によって行うことができる。あるいは、例えば、遠心性線維によって支配されている標的器官付近に求心性線維が存在しない遠心性線維を刺激する。遠心性線維を、標的器官を直接(例えば、電気的に)刺激し、それにより、器官を支配する遠心性線維を刺激することによって刺激することもできる。他の実施形態では、迷走神経の神経節または節後ニューロンを刺激することができる。迷走神経を切断して遠位末端を刺激し、それにより、遠心性神経線維のみを刺激することができる。
【0072】
多数の方法によって迷走神経を直接刺激することができる。非限定的な例には、ニードル、超音波、または振動などの機械的手段、赤外線、可視光線、または紫外線、および電磁場などの電磁波放射、熱または別のエネルギー源が含まれる。機械的刺激を、頸動脈マッサージ、眼球心臓反射、ダイブ反射(dive reflex)、およびヴァルサルヴァ法によって行うこともできる。遠心性迷走神経線維を、赤外線、可視光線、または紫外線、熱または別のエネルギー源によって刺激することもできる。
【0073】
好ましい実施形態では、迷走神経を、例えば、Cyberonics NCP.RTMまたは電気プローブなどの市販の迷走神経刺激装置を使用して電気的に直接刺激する。当業者は、過度に実験することなく出血時間の減少に有用な刺激量を決定することができる。出血時間を減少させるために必要な有効電気刺激量の例には、パルス幅2ms、シグナル周波数1〜5Hzで5秒間、10秒間、30秒間、1分間、5分間、10分間、20分間、30分間、または1時間の0.1,0.5、1、2、3、5、または10Vの定電圧が含まれるが、これらに限定されない。あるいは、出血時間の減少に必要な電気刺激には、約0.01〜1V、約0.01〜0.1V、または約0.01〜0.05Vの定電圧、約1mA〜約100mA、約1mA〜約10mA、約1mA〜約5mAの範囲のシグナル電流、約0.1〜約5msのパルス幅、約0.1〜約30Hz、約1〜約30Hz、または約10〜約30Hzのシグナル周波数、1〜120秒、約10〜約60秒、または約20〜約40秒のシグナルオンタイム(signal on−time)、5分間、2時間まで、2時間超、4時間超、8時間超、12時間超、または約2〜約48時間、約4〜約36時間、約6〜約36時間、約12〜約36時間、約16〜約30時間、約20〜約28時間のシグナルオフタイム(signal off−time)が含まれるが、これらに限定されない。あるいは、当業者が2つの連続したシグナルの間の望ましい時間間隔を用意に決定することができる場合、シグナルオフタイムを定義しなくてもよい。
【0074】
例には、約0.01V〜約1Vの範囲のシグナル電圧、約0.1ms〜約5msの範囲のパルス幅、約0.1Hz〜約30Hzの範囲のシグナル周波数、約1秒〜約120秒のシグナルオンタイムが含まれる。シグナルオフタイムを定義しなくてもよい。約0.01V〜約0.1Vのシグナル電圧、約0.1ms〜約1msの範囲のパルス幅、約1Hz〜約30Hzの範囲のシグナル周波数、約10秒〜約60秒の範囲のシグナルオンタイム、2時間超の範囲のシグナルオフタイム。約0.01V〜約0.05Vの範囲のシグナル電圧、約0.1ms〜約0.5msの範囲のパルス幅、約10Hz〜約30Hzの範囲のシグナル、約20秒〜約40秒の範囲のシグナルオンタイム、約2時間〜約24時間の範囲のシグナルオフタイム。約1mA〜約5mAのシグナル電流、約0.1ms〜約0.5msの範囲のパルス幅、約10Hz〜約30Hzの範囲のシグナル、約20秒〜約40秒の範囲のシグナルオンタイム。シグナルオフタイムを定義しなくてもよい。
【0075】
特定の実施形態では、被験体のコリン作動性抗炎症経路の活性化に十分な迷走神経の電気刺激では、被験体の心拍数を減少しない。
【0076】
好ましい実施形態では、迷走神経を、埋め込み型デバイスによって直接刺激する。
【0077】
別の実施形態では、コリン作動性抗炎症経路を、被験体への有効量のアセチルコリンエステラーゼインヒビターの投与によって活性化する。アセチルコリンエステラーゼインヒビターの例には、タクリン、ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン、メトリホナート、フィゾスチグミン、ネオスチグミン、エドロホニウム、ピリドスチグミン、デマカリウム、およびアンベノニウムが含まれる。
【0078】
なおさらなる実施形態では、本発明は、コリン作動性抗炎症経路の活性化と感覚刺激を組み合わせることによって出血を減少させるように被験体を条件付け(conditioning)する工程を含む、被験体の出血時間の減少に関する。条件付けは、動物が最終的に生理学的刺激があったかのように神経刺激に応答するように知覚神経刺激を一過性に生理学的刺激と組み合わせる動物の訓練方法である。例えば、パブロフは、ベルを鳴らす刺激と同時にイヌに食物刺激を与える(唾液分泌と組み合わせる)予備実験にしたがって、イヌをベルを鳴らすことに対して唾液分泌で反応するように訓練した。
【0079】
したがって、本発明は、感覚刺激の経験時に被験体の出血時間が減少するように被験体を条件付ける方法に関する。この方法は、
(a)コリン作動性抗炎症経路を活性化し、刺激と迷走神経の刺激とを組み合わせるのに十分な時間内で被験体に感覚刺激を提供する工程、および
(b)感覚刺激のみで出血時間を減少させるのに十分な組み合わせを強化するのに十分な時間間隔および持続時間で(a)を繰り返す工程とを含む。
【0080】
これらの方法の条件付け工程(工程(a))では、CAPを、前に考察した任意の手段によって活性化することができる。刺激−活性化手順の繰り返しの間の時間間隔はまた、組み合わせの強化を最適化するために十分に短くなければならない。一般的な時間間隔は、1日2回である。条件付けの持続時間はまた、組み合わせを最適に強化するのに十分にでなければならない。一般的な持続時間は、少なくとも1週間である。当業者は、最適な時間間隔および持続時間を、過度に実験することなく、当該分野で公知の標準的方法によって決定することができる。
【0081】
感覚刺激は、五感のいずれかに由来し得る。適切な感覚刺激の非限定的な例は、ベル、ブザー、および1フレーズの音楽(musical passage)などの音、ピン、羽での接触、および電気ショックなどの触感、甘味、酸味、塩味、およびサッカリン摂取などの味または特定の化学物質の摂取、および静止画像、トランプ、または短編ビデオの提示のような視覚画像である。
【0082】
本発明の方法を、理想的には、血友病A、血友病B、フォンウィルブランド病、無フィブリノゲン血症、第II因子欠損症、パラ血友病、第VII因子欠損症、スツアート・プラウアー因子欠損症、ハーゲマン因子欠損症、フィブリン安定化因子欠損症、血栓形成傾向、遺伝性血小板機能障害(例えば、ベルナール・スーリエ症候群、グランツマン血小板無力症、灰色血小板症候群、スコット症候群、メイ・ヘグリン異常、アルポート症候群、およびウィスコット・オールドリッチ症候群)、または後天性血小板機能障害(例えば、普通薬(血液抗凝血薬、抗生物質、麻酔薬)および病状(白血病、心臓のバイパス手術、および慢性腎疾患)に起因する障害)などの損傷、手術、または出血性障害に起因する出血多量を罹患しているか罹患のリスクのある被験体の治療上または予防的処置に適合させる。本方法は、特に、手術を受けるか手術中の出血性障害を離間した被験体に適切である。
【0083】
本発明は、以下の実施例によって例証されるが、これは本発明を制限することを決して意図しない。
【実施例】
【0084】
(実施例1 迷走神経の電気刺激を使用したマウスモデル(雄Balb/cマウス)における出血時間の減少)
マウスを2つの群に分けた。両群でマウス頸部を筋肉組織まで切開し、左迷走神経を分離した。第1群では、1ボルトの電流を、迷走神経に20分間通した。第2の群(コントロール群)では、迷走神経の分離のみを行い、群を20分間処置しなかった。
【0085】
両群のマウスの尾を、37℃の生理食塩水中で5分間温めた。次いで、尾を先端から2mm切断し、尾からの血液を、37℃生理食塩水中に採取した。
【0086】
実験結果を図1に示す。迷走神経の電気刺激により、コントロール群と比較してマウスの出血時間が有意に減少し、それにより、迷走神経の刺激により被験体の末梢性の出血時間が減少することが示された。
【0087】
(実施例2 迷走神経の電気刺激を使用したマウスモデル(雄Balb/cマウス)における出血時間の減少)
マウスを2つの群に分けた。両群でマウス頸部を筋肉組織まで切開した。両群のマウスの尾を、37℃の生理食塩水中で5分間温めた。
【0088】
両群で左迷走神経を分離した。第1群では、1ボルトの電流を、迷走神経に30秒間通した。第2の群(コントロール群)は、30秒間処置しなかった。
【0089】
次いで、尾を先端から2mm切断し、尾からの血液を、37℃生理食塩水中に採取した。
【0090】
この実験結果を図2に示す。本実施例では実施例1の2つのパラメーターを変更し、第1に、刺激の持続時間を20分間から30秒間に短縮し、第2に、迷走神経刺激前にマウの尾を予め温めた。迷走神経刺激前にマウスの尾を予め温めた目的は、刺激と切離との間の遅延を最小にするためであった。この刺激と切離との間の遅延の減少により、マウスの尾を電気刺激工程と切離工程との間で予め温めた実施例1で示した減少に匹敵する出血時間の減少が認められた。
【0091】
(実施例3 ニコチン投与を使用したマウスモデル(雄Balb/cマウス)における出血時間の減少)
マウスを秤量し、ケタミン(100mg/kg)およびキシラジン(10mg/kg)を各マウスに投与した。
【0092】
次いで、マウスを2群に分けた。20分後、群1にニコチン(0.3mg/kg)を注射し、第2群(コントロール群)に生理食塩水を注射した。162mg/mlストック溶液からニコチン溶液を取り出し、エタノールで10倍希釈し、生理食塩水(PBS)でさらに250倍に希釈し、0.0648μg/μlの最終溶液にし、マウス25gあたり115μlをマウスに注射した。
【0093】
5分後、2群に生理食塩水を注射した。
【0094】
20分後、2つのマウス群由来のマウスの尾を、37℃の水中での撹拌によって温めた。次いで、尾を新しい外科用メスで先端から2mm切断した。直ちに尾を3mlの予め温めた生理食塩水を含む蛍光標識細胞分取(FACS)チューブ中に浸漬させた。チューブを、37℃の水を含むビーカー中に撹拌しながら保持した。全出血期間を通して、尾を、チューブの底付近に保持した。
【0095】
ストップウォッチを使用して、出血時間を計測した。
【0096】
次いで、ヘパリン処理針での心穿刺によってマウスをCOで安楽死させた。
【0097】
マウスへのニコチンの投与によって有意に出血時間が減少するため、コリン作動性アゴニストによるコリン作動性抗炎症経路の活性化によって被験体の末梢性の出血が減少することが確立された。本実施例の結果を、図3に示す。
【0098】
(実施例4 コリン作動性アゴニストによるマウスモデル(雄Balb/cマウス)における出血時間の減少)
雄Balb/cマウス(約25g)に、コリン作動性アゴニストであるGTS−21(4mg/kgを含む125μLのPBS)またはPBS(賦形剤コントロール、125μL)を(腹腔内(IP))注射した。1時間後、マウスをケタミン/キシラジン(100mg/kg/10mg/kg、腹腔内)で麻酔した。血管拡張状態を正常にするための尾の37℃生理食塩水への5分間の浸漬後、外科用メスで2mmの尾を切断し、生理食塩水浴に戻した(Nagashimaら,Journal of Clinical Investigation(109)101−110,(2002);Snyderら,Nature Medicine(5),64−70,(1999)を改変)。総出血時間を記録し、出血の徴候が30秒間認められない場合、止血したと見なした。一旦止血されると、動物を、CO窒息によって安楽死させた。データを秒で記録し、平均+/−標準誤差(SE)で示す。統計分析のためにスチューデントt検定を使用した。結果を図4に示す。
【0099】
マウスへのGTS−21の投与により、出血時間が有意に減少し、それにより、コリン作動性アゴニストによるコリン作動性抗炎症経路の活性化によって被験体の末梢性の出血時間が減少することが確立された。
【0100】
(実施例5 凝固カスケードの測定)
雄Balb/cマウス(約25g)を、左迷走神経分離のみ(偽手術)または左迷走神経電気刺激(1ボルト、パルス幅2ms、1Hz)のいずれかに30秒間供した。刺激直後に、動物を安楽死させ、心穿刺によって採血し、Hemochron JR全血微小凝固システム(International Technidyne Corp,Edison NJ)を使用して分析した。それぞれの特定の試験キュベット(プロトロンビン時間(PT)、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)、活性化凝固時間(ACT))は、化学試薬、安定剤、および緩衝液の乾燥調製物を予め充填した内臓型使い捨て試験室である。試験キュベットに、50μlの新鮮な全血を充填した。キュベット試薬との混合後、サンプルを、血餅終点に達するまで血餅形成についてモニタリングした。データを、平均+/−平均の標準誤差(SEM)として示し、スチューデントt検定によって分析した。結果を図5〜7に示す。
【0101】
図5〜7は、凝固カスケードは、有意に迷走神経刺激の影響を受けないことを示す。
【0102】
(実施例6 コリン作動性アゴニストによる意識のあるマウスの出血時間の阻害)
動物に、コリン作動性アゴニストであるニコチン(0.3mg/kgを含む125μL PBS、n=7)またはPBS(賦形剤コントロール、125μL、n=4)に(腹腔内)注射した。1時間後、マウスを拘束デバイス上に置き、尾を37℃の水中に5分間浸漬し、外科用メスで20mmの尾を切断し、切断尾を37℃の生理食塩水に入れた。ストップウォッチを使用して、総出血時間を測定した。視覚的に出血が認められず、かつ30秒間再出血が起こらなかった場合に計測を停止した。データを秒で記録し、平均+/−SEとして示す。統計分析のために、スチューデントt検定を使用した。結果を図8に認めることができる。
【0103】
マウスへのニコチンの投与により、出血時間が有意に減少し、それにより、コリン作動性アゴニストによるコリン作動性抗炎症経路の活性化によって意識のある被験体の末梢性の出血時間が減少することが確立された。
【0104】
(実施例7 ニコチン投与前の出血時間の減少に及ぼすα7アンタゴニストMLA投与の効果)
雄Balb/cマウス(約25g)を、以下の3つの群に分けた:A、B、およびC。A群およびC群に、α7アンタゴニストであるメチリルカコニチン(methyllycaconitine)(MLA、4mg/kg、IP、200μL PBS中)、B群にPBS(賦形剤コントロール、125μL)を注射した。15分後、A群にPBS(賦形剤コントロール、125μL)を注射し、B群およびC群にニコチン(0.3mg/kgを含む125μL PBS)を注射した。30分後、マウスを麻酔した(ケタミン(100mg/kg、IP)およびキシラジン(10mg/kg、IP))。血管拡張状態を正常にするための尾の37℃生理食塩水への5分間の浸漬後、外科用メスで2mmの尾を切断し、生理食塩水浴に戻した(Nagashimaら,Journal of Clinical Investigation(109)101−110,(2002);Snyderら,Nature Medicine(5),64−70,(1999)を改変)。
【0105】
総出血時間を記録し、出血の徴候が30秒間認められない場合、止血したと見なした。一旦止血されると、動物を、CO窒息によって安楽死させた。データを秒で記録し、平均+/−SEで示す。統計分析のためにスチューデントt検定を使用した。
【0106】
結果を図9に示し、これはニコチン投与後の出血時間の減少を示す。MLAは、ニコンによって誘導された出血時間の減少を阻害し、ニコチンによってα7コリン作動性レセプターサブユニットを介して出血時間が減少することが示唆される。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】図1は、迷走神経の1ボルトで20分間の刺激後の実験マウスの出血時間の減少(秒)示すグラフである。この結果を、迷走神経が分離されているが刺激されていないコントロール群のより長い出血時間と比較する。
【図2】図2は、迷走神経の1ボルトで30秒間の刺激後の実験マウスの出血時間の減少(秒)示すグラフである。この結果を、迷走神経が分離されているが刺激されていないコントロール群のより長い出血時間と比較する。
【図3】図3は、ニコチン投与後の実験マウスの出血時間の減少(秒)を示すグラフである。この結果を、生理食塩水を投与したコントロール群のより長い出血時間と比較する。
【図4】図4は、尾切断後の2つの実験マウス群の出血時間の減少(秒)を示すグラフである。第1の群に切断前にGTS−21を投与し、コントロール群に生理食塩水を投与した。
【図5】図5は、迷走神経の電気刺激(1V、パルス幅2ms、1Hzで30秒間)後の実験マウスのプロトロンビン時間(PT)(秒)を示すグラフである。
【図6】図6は、迷走神経の電気刺激(1V、パルス幅2ms、1Hzで30秒間)後の実験マウスの活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)(秒)を示すグラフである。
【図7】図7は、迷走神経の電気刺激(1V、パルス幅2ms、1Hzで30秒間)後の実験マウスの活性化凝固時間(ACT)(秒)を示すグラフである。
【図8】図8は、ニコチン投与後の意識のある実験マウスの出血時間(秒)の減少を示すグラフである。この結果を、生理食塩水を投与したコントロール群のより長い出血時間と比較する。
【図9】図9は、ニコチン投与前のマウスへのα7アンタゴニストであるMLAの投与の効果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療を必要とする被験体の出血を減少させる方法であって、コリン作動性抗炎症経路を活性化する工程を包含する、方法。
【請求項2】
前記被験体がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記コリン作動性抗炎症経路が、迷走神経の刺激によって活性化される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記コリン作動性抗炎症経路が、脳内の迷走神経の刺激によって活性化される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記迷走神経が、前記被験体への有効量のムスカリン性アゴニストの投与によって間接的に刺激される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ムスカリン性アゴニストが、ムスカリン、McN−A−343、またはMT−3である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ムスカリン性アゴニストが、芳香族アミジノヒドラゾンである、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記ムスカリン性アゴニストが、N,N’−ビス(3,5−ジアセチルフェニル)デカンジアミドテトラキス(アミジノヒドラゾン)テトラヒドロクロリド(CNI−1493)である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ムスカリン性アゴニストが、構造式I:
【化1】

を有する化合物またはその薬学的に受容可能な塩であって、
ここで、
は、NH(CNH)−NH−N=CH−、NH(CNH)−NH−N=CCH−、またはH−であり、
、X’およびX’は、独立して、NH(CNH)−NH−N=CH−またはNH(CNH)−NH−N=CCH−であり、
Zは、−NH(CO)NH−、−(C)−、−(CNH)−、または−A−(CH−A−であり、
nは、2〜10であり、そして
Aは、独立して、−NH(CO)−、−NH(CO)NH−、−NH−、または−O−である、
請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記ムスカリン性アゴニストが、構造式II:
【化2】

を有する化合物またはその薬学的に受容可能な塩であって、
ここで、
、X、およびXは、独立して、NH(CNH)−NH−N=CH−またはNH(CNH)−NH−N=CCH−であり、
X’、X’、およびX’は、独立して、H−、NH(CNH)−NH−N=CH−、またはNH(CNH)−NH−N=CCH−であり、
Zは、(C)であり、かつm、m、およびmは0であるか、または
Zは、Nであり、かつ、独立して、m、m、およびmは2〜6であり、
Aは、−NH(CO)−、−NH(CO)NH−、−NH−、または−O−である、
請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記ムスカリン性アゴニストが、前記被験体の脳に直接投与される、請求項5に記載の方法。
【請求項12】
前記ムスカリン性アゴニストが、前記被験体の脳を透過することができる、請求5に記載の方法。
【請求項13】
前記コリン作動性抗炎症経路が、前記被験体への有効量のコリン作動性アゴニストの投与によって活性化される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記コリン作動性アゴニストが、アセチルコリン、ニコチン、ムスカリン、カルバコール、ガランタミン、アレコリン、セビメリン、またはレバミゾールである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記コリン作動性アゴニストがニコチンである、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記コリン作動性アゴニストが、α7ニコチンレセプター選択性である、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記α7選択性ニコチンアゴニストが、構造式III:
【化3】

の化合物またはその薬学的に受容可能な塩であって、
ここで、
Rは水素またはメチルであり、そして
nは0または1である、
請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記α7選択性ニコチンアゴニストが、(−)−スピロ−[1−アザビシクロ[2.2.2]オクタン−3,5’−オクタン−3,5’オキサゾリジン−2’−オンである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記α7選択性ニコチンアゴニストが、構造式IV:
【化4】

の化合物、その鏡像異性体、またはその薬学的に受容可能な塩であって、
ここで、
mは1または2であり、
nは0または1であり、
Yは、CH、N、またはNOであり、
Xは、酸素または硫黄であり、
Wは、酸素、H、またはFであり、
AはNまたはC(R)であり、
GはNまたはC(R)であり、
DはNまたはC(R)であり、
但し、A、G、およびDのうち、窒素であるのはたった1つであるが、Y、A、G、およびDのうちの少なくとも1つは窒素またはNOであり、
は、水素またはC〜Cアルキルであり、
、R、およびRは、独立して、水素、ハロゲン、C〜Cアルキル、C〜Cアルケニル、C〜Cアルキニル、アリール、ヘテロアリール、OH、OC〜Cアルキル、CO、−CN、−NO、−NR、−CF、または−OSOCFであるか、あるいは、RとRまたはRとRは、それぞれ合わせて、AおよびGまたはGおよびDをそれぞれ共有し、0個と2個との間の窒素原子を含む別の6員環の芳香環または複素芳香環を形成することができ、1〜2つの以下の置換基で置換されている:独立して、水素、ハロゲン、C〜Cアルキル、C〜Cアルケニル、C〜Cアルキニル、アリール、ヘテロアリール、OH、OC〜Cアルキル、CO、−CN、−NO、−NR、−CF、または−OSOCF
およびRは、独立して、水素、C〜Cアルキル、C(O)R、C(O)NHR、C(O)OR、SO10であるか、合わせて(CHQ(CHであり得、ここで、QはO、S、NR11、または結合であり、
jは2〜7であり、
kは0〜2であり、そして
、R、R、R10、およびRllは、独立して、C〜C、アルキル、アリール、またはヘテロアリールである、
請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記α7選択性ニコチンアゴニストが、(R)−(−)−5’−フェニルスピロ[1−アザビシクロ[2.2.2]オクタン−3,2’オクタン−3,2’(3’H)−フロ[2,3−b]ピリジン]である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記α7選択性ニコチンアゴニストが、構造式V:
【化5】

の化合物であって、
ここで、
は、水素またはC〜Cアルキルであり、
およびRは、独立して、存在しないか、水素またはC〜Cアルキルであり、そして
は、
【化6】

であり、ここで
、R、およびRは、独立して、水素、必要に応じて各アルキル中に1〜4個の炭素を有するN,N−ジアルキルアミノに置換されたC〜Cアルキル、必要に応じて各アルキル中に1〜4個の炭素を有するN,N−ジアルキルアミノに置換されたC〜Cアルコキシ、アルコキシ中に1〜4個の炭素を有するカルボアルコキシ、アミノ、アシル中に1〜4個の炭素を有するアミド、シアノ、および各アルキル中に1〜4個の炭素を有するN,N−ジアルキルアミノ、ハロ、ヒドロキシル、またはニトロである、
請求項16に記載の方法。
【請求項22】
前記α7選択性ニコチンアゴニストが、トランス−3−シンナミリデンアナバセイン、トランス−3−(2−メトキシ−シンナミリデン)アナバセイン、またはトランス−3−(4−メトキシシンナミリデンアナバセイン、3−(4−ヒドロキシ−2−メトキシベンジリデン)アナバセイン、または3−(2,4−ジメトキシベンジルジン)アナバセイン(GTS−21)である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記α7選択性ニコチンアゴニストが、構造式VI:
【化7】

の化合物またはその薬学的に受容可能な塩であって、
ここで
XはOまたはSであり、
Rは、H、OR、NHC(O)R、またはハロゲンであり、そして
は、C〜Cアルキルである、
請求項16に記載の方法。
【請求項24】
前記α7選択性ニコチンアゴニストが、(1−アザ−ビシクロ[2.2.2]オクト−3−イル)−カルバミン酸1−(2−フルオロフェニル)−エチルエステルである、請求項16に記載の方法。
【請求項25】
前記α7選択性ニコチンアゴニストがコカインメチオダイドである、請求項16に記載の方法。
【請求項26】
前記α7選択性ニコチンアゴニストがコリンである、請求項16に記載の方法。
【請求項27】
前記迷走神経が間接的に刺激される、請求項3に記載の方法。
【請求項28】
前記迷走神経が、経皮デバイスまたは経食道デバイスで間接的に刺激される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記迷走神経が直接刺激される、請求項3に記載の方法。
【請求項30】
前記迷走神経が電気的に刺激される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
遠心性迷走神経が刺激される、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記遠心性迷走神経が電気的に刺激される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記迷走神経が、埋め込み型デバイスで直接刺激される、請求項29に記載の方法。
【請求項34】
前記コリン作動性抗炎症経路が、前記被験体へのアセチルコリンエステラーゼインヒビターの投与によって活性化される、請求項1に記載の方法。
【請求項35】
前記被験体が血友病の状態に罹患している、請求項1に記載の方法。
【請求項36】
前記被験体が、血友病以外の凝固障害に罹患している、請求項1に記載の方法。
【請求項37】
前記被験体が、創傷に起因する出血に罹患している、請求項1に記載の方法。
【請求項38】
前記被験体が手術を受けている、請求項1に記載の方法。
【請求項39】
手術前に前記コリン作動性抗炎症経路が刺激される、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2007−530586(P2007−530586A)
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−505209(P2007−505209)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【国際出願番号】PCT/US2005/009954
【国際公開番号】WO2005/092308
【国際公開日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【出願人】(506320303)ザ ファインスタイン インスティテュート フォー メディカル リサーチ (3)
【Fターム(参考)】