説明

移動体位置検知装置及び車両位置検知運転支援システム

【課題】本発明では、道路上における走行中の車両の位置を検出することができる移動体位置検知装置を提供する。
【解決手段】走行中の道路上での移動体の相対的な位置を検知する移動体位置検知装置は、路側に設置した送信機からの電波を受信する3つのアンテナと、各アンテナで受信した電波間の位相差を検知する位相差検出回路と、所定の位相差検出回路による検出の結果、位相差がない場合、他の位相差検出回路のそれぞれで検出された位相差が等しい場合、それらの位相差を加算し、その加算した位相差に基づいて、3つのアンテナの配置関係に応じた受信側基準点と送信機との間の距離を、送信機に対する受信側基準点の相対位置として算出する相対位置算出回路と、を備えることにより、上記課題の解決を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路上における走行中の車両の位置検出技術に関する。
【背景技術】
【0002】
正確に車両の走行位置の検出ができれば、それにより車両の走行車線誘導や運転支援は可能となる。車両の走行位置検出方法としては、GPSや車両にテレビカメラ等を搭載し道路の車線表示や路肩施設から光学的に検出する方法、道路車線の舗装面に磁気片(ネール)や磁気テープ、ICタグなどの送信機を埋設又は貼付することにより、磁界の強弱、極性または位相の相違によりこれをマーカとして検出する方法(特許文献1、特許文献2、特許文献3)、道路に沿って高周波電流を流した電線を敷設しこの電磁界強度から車両位置を検出する方法(特許文献4)、地上に複数の送信機を配置しその電波から位置を検出する双曲線航法による方法(特許文献5)などが考案されている。
【0003】
ICタグなどによる道路側から道路位置及び付属道路要素を走行支援のためにその近くを走る車両に伝達する手法は、特許文献1や特許文献3にある。
【特許文献1】特開2001−357485号公報
【特許文献2】特開2006−275904号公報
【特許文献3】特開2005−293054号公報
【特許文献4】特開平09−016886号公報
【特許文献5】特開2007−225558号公報
【特許文献6】特開2004−185108号公報
【特許文献7】特許3094106号公報
【非特許文献1】日立評論(2004年9月 Vol.85 No.9)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、例えばGPS航法では車両の絶対位置を知ることができるが、車両単独での計測だけでは通常速度で移動中には細かな位置を得るだけの精度はないので、走行車線上の位置(道路車線の縁などとの相対位置)までは知ることはできない。
【0005】
また、テレビカメラ等による光学的な計測による位置情報の取得では、目標物が雪や霧などの気象条件、夜間等における外光の影響、舗装面の磨耗や雑草等による目標物の喪失による欠測が相当程度発生する。
【0006】
道路舗装面に磁気ネール等を埋設や貼付する方法は、多車線での誘導、道路交通による道路表層やそのものの磨耗、埋設等これらの道路に設置することによる道路の耐久性や車両からの衝撃等による欠損など保守管理や管理のために大規模な交通規制が必要とされなどの問題がある。
【0007】
IDタグによるものも車両自体の車線上の走行位置までは検知できていない。
特許文献5では、その発射する電波またはその電波に加重する信号の位相または信号時刻を正確に合わせ、それぞれ厳密に同期を取る必要がある。この方法を道路での車両位置検出に応用する場合、広い範囲にわたる多くの送信機それぞれを連続して同期制御を行うには多くの費用や困難さを伴う。また電波の波長毎に複数の同位相となる点が存在し、その中から1つだけを特定することは困難である。
【0008】
上記課題に鑑み、本発明では、道路上における走行中の車両の位置を検出することができる移動体位置検知装置及び車両位置検知運転支援システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる走行中の道路上での移動体の相対的な位置を検知する移動体位置検知装置は、路側に設置される送信機からの電波を受信する第1〜第3の受信手段と、前記第1の受信手段で受信した電波と前記第3の受信手段で受信した電波との位相差、前記第2の受信手段で受信した電波と前記第3の受信手段で受信した電波との位相差、前記第1の受信手段で受信した電波と前記第2の受信手段で受信した電波との位相差を検出をそれぞれ検出する第1〜第3の位相差検出手段と、前記第3の位相差検出手段による検出の結果、位相差がない場合、前記第1及び第2の位相差検出手段のそれぞれで検出された第1及び第2の位相差が等しいか判定し、該第1及び第2の位相差が等しい場合、該第1の位相差と第2の位相差を加算したものを第3の位相差とし、該第3の位相差に基づいて、前記第1〜第3の受信手段の配置関係に応じた受信側基準点と、前記送信機との間の距離を該送信機に対する受信側基準点の相対位置として算出する相対位置算出手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
このように構成することにより、走行中の車両と路側に設置した送信機との距離(該送信機に対する受信側基準点の相対位置)を検出することができる。
前記移動体位置検知装置において、前記第1、第3、第2の受信手段が前記移動体の進行方向と同方向に順に等間隔dで配置されている場合、もしくは、前記第1、第3の受信手段が前記移動体の進行方向と同方向に順に間隔dで配置され、前記第2の受信手段が前記第3の受信手段から前記第1、第3の受信手段のなす線分の垂直方向に前記電波の波長λだけ離れた位置に配置されている場合、前記受信側基準点は前記第3の受信手段であって、前記相対位置算出手段は、前記第3の位相差ωに基づいて、該送信機と該受信側基準点と距離WをW = (d2−α2) / 2 (α=λω/ 360)より、算出し、または、前記第1、第2の受信手段が前記移動体の進行方向と同方向に順に中点を挟んで等間隔dで配置され、前記第3の受信手段が該中点から距離rの位置に配置されている場合、もしくは、前記第3、第1の受信手段が前記移動体の進行方向と垂直方向に前記電波の波長λだけ離されて配置され、該第3、第1の受信手段のなす線分を該第3の受信手段側にrだけ延長させ、該延長させた線分を底辺とし、該底辺からdだけ離しかつ該dが直角三角形の斜辺とならない位置に第2の受信手段が配置されている場合、前記受信側基準点はそれぞれ、前記第1、第2の受信手段の中点の位置もしくは前記直角三角形の直角の位置に形成され、前記相対位置算出手段は、前記第3の位相差ωに基づいて、該送信機と該受信側基準点と距離WをW = {d2−(r−α)2} / 2(r−α) (α=λω/ 360)より、算出して、前記送信機との間の距離Wを、該送信機に対する受信側基準点の相対位置として取得することを特徴とする。
【0011】
このように構成することにより、アンテナの配置に応じて、送信機に対する受信側基準点の相対位置を検出することができる。
前記移動体位置検知装置を含む車両位置検知運転支援システムは、前記受信した電波から道路に関する情報である道路諸元情報を抽出して記録する記録手段と、前記送信機に対する受信側基準点の相対位置と、前記道路諸元情報とに基づいて、前記移動体の道路上での位置を算出する走行位置・予測演算手段と、前記算出された前記移動体の道路上での位置に関する情報を出力する制御を行う出力制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
このように構成することにより、道路上における走行中の車両の位置が検出され、その検出された位置に基づいて、道路上における位置を特定することができる。
前記車両位置検知運転支援システムは、さらに、前記移動体の走行速度を検知する速度検知手段と、前記移動体のステアリングの舵角を検知する舵角検知手段と、を備え、前記走行位置・予測演算手段は、前記検知された前記走行速度及び前記舵角及び前記道路諸元情報に基づいて、現在の前記移動体の走行位置が走行車線範囲内にあるかを判定すると共に、前記検知された前記走行速度及び前記舵角及び前記道路諸元情報に基づいて、所定時間後の前記移動体の位置を算出し、該道路諸元情報に基づいて、該算出された所定時間後の前記移動体の位置が所定の走行車線範囲にあるかを判別し、前記出力制御手段は、前記走行位置・予測演算手段により前記移動体が前記走行車線範囲を逸脱と判定された場合、その旨を警告する出力を行うことを特徴とする。
【0013】
このように構成することにより、走行中の車両が走行車線内を走行できるように、運転手を誘導することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、道路上における走行中の車両の位置を検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、道路を移動中の車両がその走行位置を検知することを目的とする。本実施形態では、道路の路側または中央分離帯から数10m程度の範囲内を移動する移動体の位置の標定を行うことについて説明する、さらに、その測位された値に基づいて車両の運転支援、車線誘導を行うシステムについて説明する。
【0016】
本発明では、電波の可逆進性により双曲線航法の原理における送信点と受信点との位置関係を逆にし、それぞれの送信点から発射される電波は互いに同期していることが必須とされることの問題をなくせて、受信点の位置を移動体に伝達できる程度に接近させ、その位置を幾何学的に特定することができる。これにより、測位のための演算処理を軽減し、かつ複数の並んだ送信点に対しても順次に、送信点の位置から受信点を測位することができる。
【0017】
本実施形態では、1の送信点から送信された電波を3つの受信点で受信し、送信点に対する受信点の相対位置(距離)を求める。このとき、その距離を直接伝播時間で測るのでなく、使用している電波の波長を単位とし単位波長をその位相差で計測する。1の送信点から発する発射時刻及び位相が同一の電波を3箇所の受信点で受信し、その伝達時間等により送信点と各受信点のそれぞれの距離を測定する。これにより、その距離と受信点の幾何学的位置関係から一点に集約される送信点の位置が定まる。これにより数学的距離とその方向が特定できる。本発明では特に移動体に搭載する3つの受信アンテナの位置関係に基づいて計測される送信波の伝達時間差を位相差として検出し、位相角の差の値が一定の条件を満たすようにして、測位のための演算処理の方法を軽減する。
【0018】
図1は、本実施形態における車両位置検知運転支援システムの全体構成を示す。車両10には、3つの受信アンテナa(a0,a1,a2)、移動体位置検知装置2、表示装置3、舵角センサー4、速度センサー5が搭載されている。路側には、送信機6が設置されている。
【0019】
送信機6は、所定の周波数の電波を送信する。受信アンテナa(a0,a1,a2)は、送信機6からの送信波を受信する。移動体位置検知装置2は、受信アンテナaで受信された電波に基づいて、その送信機に対する車両10の相対的位置を検知する。表示装置3は、移動体位置検知装置2の処理結果に基づいて、様々な情報が表示される。舵角センサー4は、ステアリングの回転角度を検知する。速度センサー5は、車両の走行距離及び速度を検知する。
【0020】
図2は、本実施形態における受信アンテナの設置例を示す。図2(A)は、アンテナa0,a1,a2を車両10の進行方向と同方向に直列に間隔dで配置した例である。図2(B)は、車両10の進行方向と同方向に配置したアンテナa1−a2間の中点から距離rの位置にアンテナa0を配置した例である。図2(C)は、アンテナa0,a2間をd、アンテナa0,a1間を送信機6から送信される電波の波長λと同じ長さλとする直角三角形状に配置した例である。図2(D)は、図2(C)のアンテナa0−a1を直交点a0からrだけ横に移動させて配置した例である。
【0021】
アンテナa0−a1間の距離またはa0−a2間の距離をd、アンテナa1,a2を結ぶ線分からアンテナa0までの距離をrとし、アンテナa0,a1間、またはa0,a2間で計測される位相差をωとすれば、線分a1−a2に対して垂直方向にある送信点との距離Wは、次式(1)または(2)により求められる。ここで、α =λω/ 360である。
【0022】
図2(B)(D)の場合:W = {d2−(r−α)2} / 2(r−α) (1)
図2(A)(C)の場合:W = (d2−α2) / 2α (2)
なお、上記の説明は送信点と受信アンテナを含む平面上での場合についてである。実際には、送受信点の高さの違いにより測位される距離は、水平面上に投影される水平距離W0とは異なる。水平距離W0を算出する場合、送信アンテナと受信アンテナとの高さの差をHとすれば、
W0 = (W2−H2)1/2 (3)
により水平距離W0を求めてもよい。
【0023】
図3は、本実施形態における移動体位置装置2の構成概念図である。移動体位置検知装置2は、送信機6からの送信波3つのアンテナa0,a1,a2で受信し、各アンテナで受信した送信波の位相を検知し、その位相差に基づいて、送信機6と移動体との相対位置を標定するものである。移動体位置装置2は、位相差検出回路21(21a,21b,21c)、位相弁別回路22、信号ゲート回路23(23a,23b)、絶対値変換回路24(24a,24b)、相対位置算出回路25から構成される。
【0024】
図4は、本実施形態における移動体位置装置2の処理フローを示す。図3を参照しながら、図4のフローについて説明する。まず、移動体位置装置2は、アンテナa0,a1,a2により、送信機6から送信されたUHFまたはSHF帯の電波を受信する(S1)。
【0025】
次に、アンテナa1とa2のそれぞれ受信された電波の位相差は、位相差検出回路21cで検出され、位相弁別回路22へ出力される。位相弁別回路22は、位相差検出回路21cから出力された位相差がない(同位相)と判定した場合(S2で「Yes」)、信号ゲート23a,23bへ開信号を出力する。この開信号を受信すると、信号ゲート23a,23bが開いて、アンテナa1,a0間の位相差検出回路21aで検出された位相差ω1、及びアンテナa2,a0間の位相差検出回路21bで検出された位相差ω2をそれぞれ、絶対値変換回路24a,24bを介して、相対位置算出回路25へ出力する。
【0026】
相対位置算出回路25は、ω1とω2が等しいかどうかを判定する(S3)。ω1とω2が等しい場合(S3で「Yes」)、相対位置算出回路25は、ω=ω1+ω2よりωを算出し、α=λω/ 360よりαを算出する(S4)。相対位置算出回路25は、アンテナa0,a1,a2の配置に応じて、式(1)または式(2)より、送信機6とアンテナ側の基準点位置(小さい○で示される部分、以下、「アンテナ側基準点」という)との距離を、送信機に対する受信側基準点の相対位置として算出する(S5)。
【0027】
図5は、本実施形態における移動体位置検知装置2を搭載した車両位置検知運転支援システムの概要を示す。車両位置検知運転支援システム30は、受信アンテナa0,a1,a2、移動体位置検知装置2、デコーダ部31、走行位置・予測演算部32、道路・景観画像データ記録装置33、出力制御部34、表示装置3、スピーカ35、舵角センサー4、速度センサー5から構成される。移動体位置検知装置2は、受信部26を有する。
【0028】
路側に設置されている送信機6は、道路位置・諸元記録部38を有している。道路位置・諸元記録部38は、道路上の所定の基準点からの距離、キロポスト、地理上の経緯度などの位置情報、またはその位置情報に追加してその位置またはその近隣の道路幅員構成、道路の方位、道路線形要素や曲率半径、道路勾配、道路の進行方向の景観画像データや道路地図情報データ等の情報(道路諸元情報)を記録している。送信機6は、道路位置・諸元記録部38に記録されている道路諸元情報を、位相信号に重畳して送信する。
【0029】
受信部26は、送信機6から送信された電波を受信アンテナa0,a1,a2を介して受信し、道路諸元情報信号成分をデコーダ部31へ出力する。デコーダ部31は、受信部26から出力された道路諸元情報信号を復調することにより道路データや景観画像データを取得する。道路・景観画像データ記録装置33は、デコーダ部31から出力された道路関連データや景観画像データを記録する。
【0030】
走行位置・予測演算部32は、移動体位置検知装置2により算出された送信機6と受信側基準点の間の距離Wを示す距離データ(相対位置データ)と、道路・景観画像データ記録装置33に記録された道路関連データとに基づいて、走行している道路上における車両の走行位置を検出する。また、走行位置・予測演算部32は、速度センサー5から得られる車両走行データと、舵角センサー4から得られる舵角データとに基づいて、ある短時間後のその車両の走行先位置を演算する。また、走行位置・予測演算部32は、ある短時間後の走行先位置での舵角で、走行車線上の範囲から逸脱する恐れがないか、適正な車線上を走行維持するために転舵を必要とするか否かを判定する。
【0031】
出力制御部34は、走行位置・予測演算部32からの出力データを表示装置3に表示させるために、その出力形態を制御したり、スピーカ35に警告音を出力したりする。
上記の構成に基づいて、以下に、車両位置検知運転支援システムの動作を説明する。道路の路側または中央分離帯もしくはその両方に、微弱電波を発する簡易な送信機6を道路に沿って並べて設置する。このとき、それぞれの送信機6から送信される電波が干渉を起こさない程度以上の一定間隔空けて送信機6を設置する。または、送信機6相互で干渉しない15mから30m程度の一定間隔でスロットをもつ同軸ケーブルを路側に敷設してもよい。この場合、各スロットの位置が各送信機の位置に相当する。
【0032】
このように、送信機6は予め定められた既知の位置に設置されている。よって、走行車両の側面に垂直な方向に送信点があることを位相比較により検知することができる。このとき、移動体位置検知装置2は、送信機6からの微弱電波に基づいて送信点と車両との間の距離を演算する。これにより送信点を基準として、送信点と車両との間の相対位置を判別することが可能となる。また、送信機6と受信機26の間での路車間通信により、送信機6から発射する電波にこれら記憶している情報を加重することにより必要な情報が車両に伝達される。なお、情報伝達機能が満足されるなら送信機6と受信機26の間の通信手段については特段限定されるものでなく、これらを含めた既存またはこれから開発されるであろう通信手段によることでもよい。
【0033】
このような移動体位置検知装置2を車両に搭載することにより、車両と送信機との距離と、その測定時間間隔とに基づいて、自らの位置走行車線上の走行位置を補正し、標定できる。例えば、車両が道路の直線方向に対して、φ度斜め方向に走行している場合、送信機からの距離は、受信電波の位相差から求められる距離にcosφを乗じて、道路上での実際の横位置に換算されることにより得られる。
【0034】
また、次に横位置が計測されるときの横位置は、路側等の送信機6の設置間隔をLとするとき、−Lsinφcosφだけ道路の直進方向に対して横方向にずれることになる。このずれの値と前の転で検知された横方向の位置から外挿される予測位置との比較により、横方向の位置を保持して走行しようとする場合の指標を得ることができる。
【0035】
また、走行位置・予測演算部32は、移動体位置検知装置2により算出された位置情報に、その位置での道路の幅員構成の値を加えまたは減じて、車両の道路横方向での車線上での位置を算出する。この演算処理によって検出測位された自車の道路上の位置は、車載の表示装置によって表示される。これにより、道路の幅員構成や送信機の路側等での設置位置の違いを吸収することができる。そして、この一連の動作は、道路に沿って並べられた送信機の横を車両が通過する毎に反復して行われることで、その車両の車線上の走行軌跡を継続して検知ことができる。
【0036】
次に、この車両走行位置検知の手段を使っての車両運転支援、走行位置誘導について説明する。車両が送信機の設置位置の横を通過する毎に反復して標定される位置情報によりその車両の短時間後の進路を次のように予測する。車両が走行しているときの走行先軌跡位置は、ステアリングを一定速度で回転している場合はクロソイド曲線上にあり、進路方向から一定の舵角に固定されている場合は円弧上にある。しかしながら、走行方向の操舵において、人の反応時間程度の短い時間では、進路方向に対し、そのときのステアリング操作による一定の舵角方向に直線的に進行するものとしても、理論的な進行位置と実際に進行した位置との誤差は些少である。車の運転者は、通常走行ではその目標の進路方向になるようステアリングの角度を調整するような操作を絶えず行っている。したがって、適正な進路方向と実際の進路方向との誤差は累積されるものでなく、絶えず運転者によって補正されている。
【0037】
本実施形態における走行支援の機能では、道路の横手方向の位置情報とその道路の車線幅、路肩幅等の情報、速度センサー5による速度情報および角度センサー4からのその車両のステアリングの舵角検出値データによる舵角情報を使用して、一定の短時間後の車両軌跡位置を予測演算し、その一定短時間後の位置が走行車線(その道路状況により隣接車線を含め)上の域内にあるかどうかを判断する。その予測演算について、図6及び図7を用いて説明する。
【0038】
図6は、本実施形態における走行位置・予測演算部32による車両軌跡位置の予測演算を説明するための図である。図7は、本実施形態における運転支援斜線位置表示フローを示す。図7において、車両に搭載した3つのアンテナにより送信機からの電波を受信し(S21)、図3で説明したように位相弁別回路22により位相差を検出する(S22)。それらの位相差から送信機T1が車両側面の垂直方向にあるとき(S23)、図2、図3で説明したように、相対位置算出回路25は、その受信電波の位相差より、送信点と車両との距離W1を標定する(S24)。走行位置・予測演算部32は、今回標定したW1が前回標定した距離W2と等しいとき、W1の値でW2を更新し(S26)、再び送信点と車両との距離W1が標定される(S24)。W1とW2が等しい間、S24からS26の処理が繰り返される。W1とW2が等しくない場合、走行位置・予測演算部32は、傾斜角度(W2−W1)/Lを算出する(S27)。ここで、W1,W2の差を送信機の設置間隔Lで割った値(W2−W1)/Lは、車両の送信機T1から送信機T2へ至る進路に対する傾斜角の正弦の値である。この送信機の設置間隔は、予め道路・景観画像データ記録装置33に記録されていてもよいし、送信機から送信されてもよい。走行位置・予測演算部32は、この傾斜角度から算出される余弦の値とW2との積により、送信点との距離を道路の横方向距離W0-2に換算する(S28)。それから、走行位置・予測演算部32は、送信機から送信されて道路・景観画像データ記録装置33に記録された道路幅・路側幅データを読み出し(S41、S42、S43)、算出した距離W0-2から、その距離により特定される位置に対応する路側幅d1及び送信点と道路境間の距離d3を差し引くことにより、車両の道路車線上の実走行位置を算出する(S28)。走行位置・予測演算部32は、道路幅・路側幅データに含まれる路側幅、車線幅、及び予め道路・景観画像データ記録装置33に記録されている当該車両の車両幅と、算出した実走行位置とを比較し、当該車両が走行車線を逸脱していないかどうかを判定する(S29)。当該車両が走行車線を逸脱していると判定した場合、出力制御部34は、スピーカ35により所定の警告を行うと共に、警告表示を行う(S104)。当該車両が走行車線を逸脱していないと判定した場合、出力制御部34は、道路側道・走行位置を表示装置3に描画またはデジタル表示で表示する(S102,S103)。
【0039】
送信機T2の横を走っているこの車両の舵角の変化があまり変わらない程度の短時間t後の推定進路位置は、そのまま直線状に進むとみなす。走行位置・予測演算部32は、その位置において、S27で算出された道路に対する車両の傾斜角度と、そのときの車両の舵角センサー4からの舵角データ(舵角θ)との和の正弦値と、速度センサーからの車速データ(車速V)から、
距離Z = Vt sin { (sin‐1(W2−W1) / L) + θ}
を算出する(S30)。距離Zだけその位置での道路の直進方向から横にずれることになる。このずれた位置を推定進路位置という。tは任意であるが、ここでは運転者の反応時間や送信点間隔から、t=1〜3秒程度に設定するのがよい。走行位置・予測演算部32は、S29と同様に、推定進路位置が走行車線を逸脱していないか判定する(S31)。車両が走行車線から逸脱することが予測される場合には、出力制御部34は、スピーカ35により所定の警告を行うと共に、表示装置3に警告表示を行う(S104)。車両が走行車線から逸脱しないことが予測される場合には、出力制御部34は、進行予測位置を表示装置3に表示する(S105)。また、出力制御部34は、舵角データを表示装置3に表示する(S106)。
【0040】
これらの一連の予想演算はその車両の道路横方向の位置検出を行う15mないし30m毎に、あるいはその間において検出した位置情報等を一時的記憶と補間により繰り返して行う。その結果、その車両がその走行車線の範囲を逸脱すると判断される場合は、出力制御部34により警告信号が発せられ、ステアリングの操舵角度の修正を促す旨のメッセージを表示装置3に表示する。このようにして運転の支援を行うことができる。
【0041】
また、当該車両に、車両の進行方向を撮像するカメラが搭載されていれば、そのカメラで進行方向を撮影する(S11)。また、送信機から送信されて道路・景観画像データ記録装置33に記録された景観画像データを読み出す(S13)。カメラ画像が鮮明であれば(S12)、カメラ画像を進行方向の景観画像として表示する(S15,S101)。カメラ画像が不鮮明またはカメラによる画像がなく、道路・景観画像データ記録装置33に記録された景観画像データがあれば、その景観画像を進行方向の景観画像として表示する(S16,S17,S101)。景観画像データもなければ、ブランク画像を進行方向の景観画像として表示する(S16,S18,S101)。
【0042】
図8は、本実施形態における表示装置3に表示される画面の表示例を示す。図8の画面は、図7のS101〜S106に基づいて、出力制御部34により、表示される。符号51は、当該車両(自車)の現在の走行位置を示す。符号52は、直進方向の走行先位置を示す(S102)。符号53は、上述の演算によって求められる短時間後の走行予想先位置を示す(S105)。符号54は、走行車線のそれぞれの側線であって、路側の送信機からの情報と道路・景観画像データ記録装置33の記憶データから取得されるデータから作成される道路車線側線を示す(S102)。符号53及び符号54で示す描画部分は、そのときの舵角に応じて表示画面上で左右及び角度を移動させることができる(S106)。符号55は、車の進行方向に対するそのときの操作舵角の向きを示す(S106)。符号56は、進行方向の景観画像を示す(S101)。景観画像データは、道路・景観画像データ記録装置33に予め記録されていてもよいし、送信機から送信されてもよい。道路・景観画像データ記録装置33に記録された景観画像データは、道路・景観画像データ記録装置33に記録された静止画の景観画像またはCG画像を表示する。また、上述したように視界が良好のときはこの画像に換えて車載のカメラで撮影される画像をその明るさと輝度比によって判断し切り替えて表示することができる。符号57は、その位置での道路の車線数、車線幅、車線上の走行位置のデジタル表示と警告表示灯を示す(S103,S104)。
【0043】
この車両位置検知運転支援システムは、それぞれ単独で出力処理され単独で機能する。よって、前述の表示装置、機能に限らず、既に実用化され一部実施されまたは公知のACCやLCA装置などのAHS等、例えば車両に別に搭載されている非特許文献1によりその試作が公開されているところの運転支援装置や特許文献6でのGPSによる車両の位置検知、特許文献7の車線逸脱防止システムの位置検出支援設備の機能など、他の車両位置検出手段の変わりまたはそれらの補完として使用されることを何ら妨げるものでない。むしろ車載の監視カメラや車載レーダによる障害物検知機能と合わせて行うことにより、特に視界不良時等のこの主要目的である走行誘導と運転支援システムの機能をより一層確実にする。
【0044】
なお、所定間隔のスロットをもつ同軸ケーブルに接続する送信機でなく、個別に設置する微弱電波を使う送信機の場合は、いわゆるRFIDタグのような簡易なものでよい。この場合、そのRFIDタグの動作電力は、車両から送信機とは異なる周波数の電波により供給してもよいし、車両の走行騒音や振動を一種のマイクロフォンのように振動板で受け発電するような超小型発電機による発電電力により供給してもよい。
【0045】
本実施形態によれば、雨や霧などの気象変化による影響が軽微なUHFまたはSHF帯の微弱電波を使用した数10メートル程度の狭域での無線による測位が可能となる。この装置は車両等の移動体に搭載できる程度の大きさであり、これにより移動体側から送信点を測位でき、反対にあらかじめ特定されている送信点の位置から移動体の在る方向とその距離も知ることができる。
【0046】
本実施形態によれば、送信機を道路に沿って必要な範囲に並べて配置するというインフラの整備を行うことで、車両位置検知運転支援システムを搭載した車両が、雨や霧などの視界不良の時にも自らの走行車線位置を逐次検知しながら走行する。これにより適正走行車線位置の保持、その位置への操舵誘導、及び車線逸脱防止の警告などの運転支援を行うことができる。特に今まで自動車運転が困難な気象条件の下でも、運転者の負担軽減を図ることができる。
【0047】
また、車両位置検知運転支援システムでの送信機はそれぞれ単独で動作させるものであり、干渉を生じない程度の距離を置くことにより複雑な動作制御を行う必要ものなく、かつ微弱電波を使用した簡易なものである。この送信機は、RFIDに類するような簡易な送信機でよく、道路のインフラとして整備する場合、道路に沿って必要範囲に数多く並べて配置したとしても道路側のインフラ整備は比較的経済的に構築できるものであり、共通基準を定めることにより特定の道路に限らず広く活用することができる。しかも、この送信機は道路車線上路面内ではなく道路の路側または分離帯に設置されるので、その維持管理も比較的容易である。
【0048】
車両位置検知運転支援システムは移動する車両において共通に使うことができる。そして、検知されるその車両の位置情報は、他の操舵システム等で必要とされる車両位置データの検出取得のひとつの方法として利用してもよく、より一層の機能向上を図ることができる。
【0049】
なお、本発明は、以上に述べた実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の構成または実施形態を取ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本実施形態における車両位置検知運転支援システムの全体構成を示す。
【図2】本実施形態における受信アンテナの設置例を示す。
【図3】本実施形態における移動体位置装置の構成概念図である。
【図4】本実施形態における移動体位置装置の処理フローを示す。
【図5】本実施形態における移動体位置検知装置2を搭載した車両位置検知運転支援システムの概要を示す。
【図6】本実施形態における走行位置・予測演算部32による車両軌跡位置の予測演算を説明するための図である。
【図7】本実施形態における運転支援斜線位置表示フローを示す。
【図8】本実施形態における表示装置に表示される画面の表示例を示す。
【符号の説明】
【0051】
a(a0,a1,a2)・・・アンテナ、2・・・移動体位置検知装置、3・・・表示装置、4・・・舵角センサー、5・・・速度センサー、6・・・送信機、10・・・車両、21(21a,21b,21c)・・・位相差検出回路、22・・・位相弁別回路、23(23a,23b)・・・信号ゲート回路、24(24a,24b)・・・絶対値変換回路、25・・・相対位置算出回路、26・・・受信部、30・・・車両位置検知運転支援システム、31・・・デコーダ部、32・・・走行位置・予測演算部、33・・・道路・景観画像データ記録装置、34・・・出力制御部、35・・・スピーカ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行中の道路上での移動体の相対的な位置を検知する移動体位置検知装置であって、
路側に設置される送信機からの電波を受信する第1〜第3の受信手段と、
前記第1の受信手段で受信した電波と前記第3の受信手段で受信した電波との位相差、前記第2の受信手段で受信した電波と前記第3の受信手段で受信した電波との位相差、前記第1の受信手段で受信した電波と前記第2の受信手段で受信した電波との位相差を検出をそれぞれ検出する第1〜第3の位相差検出手段と、
前記第3の位相差検出手段による検出の結果、位相差がない場合、前記第1及び第2の位相差検出手段のそれぞれで検出された第1及び第2の位相差が等しいか判定し、該第1及び第2の位相差が等しい場合、該第1の位相差と第2の位相差を加算したものを第3の位相差とし、該第3の位相差に基づいて、前記第1〜第3の受信手段の配置関係に応じた受信側基準点と、前記送信機との間の距離を該送信機に対する受信側基準点の相対位置として算出する相対位置算出手段と、
を備えることを特徴とする移動体位置検知装置。
【請求項2】
前記第1、第3、第2の受信手段が前記移動体の進行方向と同方向に順に等間隔dで配置されている場合、もしくは、前記第1、第3の受信手段が前記移動体の進行方向と同方向に順に間隔dで配置され、前記第2の受信手段が前記第3の受信手段から前記第1、第3の受信手段のなす線分の垂直方向に前記電波の波長λだけ離れた位置に配置されている場合、前記受信側基準点は前記第3の受信手段であって、前記相対位置算出手段は、前記第3の位相差ωに基づいて、該送信機と該受信側基準点と距離Wを
W = (d2−α2) / 2 (α=λω/ 360)
より算出し、または、
前記第1、第2の受信手段が前記移動体の進行方向と同方向に順に中点を挟んで等間隔dで配置され、前記第3の受信手段が該中点から距離rの位置に配置されている場合、もしくは、前記第3、第1の受信手段が前記移動体の進行方向と垂直方向に前記電波の波長λだけ離されて配置され、該第3、第1の受信手段のなす線分を該第3の受信手段側にrだけ延長させ、該延長させた線分を底辺とし、該底辺からdだけ離しかつ該dが直角三角形の斜辺とならない位置に第2の受信手段が配置されている場合、前記受信側基準点はそれぞれ、前記第1、第2の受信手段の中点の位置もしくは前記直角三角形の直角の位置に形成され、前記相対位置算出手段は、前記第3の位相差ωに基づいて、該送信機と該受信側基準点と距離Wを
W = {d2−(r−α)2} / 2(r−α) (α=λω/ 360)
より算出して、前記送信機との間の距離Wを、該送信機に対する受信側基準点の相対位置として取得する
ことを特徴とする車両位置検知運転支援システム。
【請求項3】
請求項2に記載の移動体位置検知装置を含む車両位置検知運転支援システムであって、
前記受信した電波から道路に関する情報である道路諸元情報を抽出して記録する記録手段と、
前記送信機に対する受信側基準点の相対位置と、前記道路諸元情報とに基づいて、前記移動体の道路上での位置を算出する走行位置・予測演算手段と、
前記算出された前記移動体の道路上での位置に関する情報を出力する制御を行う出力制御手段と、
を備えることを特徴とする車両位置検知運転支援システム。
【請求項4】
前記車両位置検知運転支援システムは、さらに、
前記移動体の走行速度を検知する速度検知手段と、
前記移動体のステアリングの舵角を検知する舵角検知手段と、
を備え、
前記走行位置・予測演算手段は、前記検知された前記走行速度及び前記舵角及び前記道路諸元情報に基づいて、現在の前記移動体の走行位置が走行車線範囲内にあるかを判定すると共に、前記検知された前記走行速度及び前記舵角及び前記道路諸元情報に基づいて、所定時間後の前記移動体の位置を算出し、該道路諸元情報に基づいて、該算出された所定時間後の前記移動体の位置が所定の走行車線範囲にあるかを判別し、
前記出力制御手段は、前記走行位置・予測演算手段により前記移動体が前記走行車線範囲を逸脱と判定された場合、その旨を警告する出力を行う
ことを特徴とする請求項3に記載の車両位置検知運転支援システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−156633(P2010−156633A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−335769(P2008−335769)
【出願日】平成20年12月29日(2008.12.29)
【出願人】(597165618)株式会社ネクスコ東日本エンジニアリング (18)
【出願人】(505398941)東日本高速道路株式会社 (66)
【Fターム(参考)】