説明

移動体制御システム

【課題】速度発電機やGPS、加速度センサ、ドップラーレーダーなどの位置推定手法は、列車状態や周辺環境などによって推定精度が常に変化するため、走行前に適切な誤差を想定して安全余裕距離として設定することが難しく、過剰な安全余裕距離が設定され、運行密度が低下する可能性がある。
【解決手段】車上装置1は、位置推定装置11と位置精度評価装置12と送信装置14と受信装置15と停止目標情報を元に列車の走行速度を制御する速度制御装置13とを有し、地上装置2は、各列車からの列車位置情報及び位置精度情報を受信する受信装置21と受信情報を元に各列車の在線確率を算出する在線確率算出装置22と在線確率情報を元に停止目標を算出する停止目標算出装置23と停止目標を送信する送信装置24とを有し、位置推定精度が走行中に変化した場合、その変化に追従して最適な停止目標を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複数の移動体の推定した位置に基づいて移動体制御を行うシステムに関し、特に各列車の推定した列車位置に基づいて列車制御を行うシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
移動体システム、例えば、鉄道システムでは、列車同士が衝突しないように鉄道信号システムによって走行制御している。従来の軌道回路を用いた信号システムでは、1軌道回路に1列車の在線だけを許可することで、列車間の安全を確保している。このため、軌道回路の長短で通常運行の列車間隔が決まる。高密度運行を行うためには列車間隔を縮める必要がある事から、短い軌道回路を用いることになる。ただし、軌道回路は数100mおきに設備を設置する必要があり、設備の導入・保守費用が高くなるという欠点を持っている。
【0003】
信号システムを含む鉄道保安システムにおいては、コスト削減や列車制御の高機能化という観点から、軌道回路によらずに列車制御する方式として、無線信号方式が検討されている。無線信号方式では、一般に、車上に搭載された装置(以下、車上装置)で自列車位置を算出し、無線によって地上に設置された制御装置(以下、地上装置)に自列車位置を伝送し、地上装置はその列車が安全に進行できる限界地点を算出して列車に伝送する。この限界地点を停止目標とし、各列車は停止目標までに安全に停止できるように自列車を制御する。
【0004】
位置推定手法としては速度発電機を利用した手法が広く用いられるが、車輪の空転や車輪径の変化等に起因し、推定位置の誤差は列車走行距離が延びるに従って蓄積される。蓄積される位置検知誤差を補正するため、トランスポンダが利用される。トランスポンダは位置情報を車上装置へ送信する装置であり、線路に沿って設置されている。トランスポンダの設置間隔から発生しうる位置誤差の最悪値を想定して安全のための余裕距離を固定的に設定し、停止目標が算出される。
【0005】
トランスポンダの数が少なく間隔が広いと位置誤差が大きくなり、安全余裕距離も大きくなる。安全余裕距離が大きいと列車間隔の拡大による運行密度の低下などの課題が発生する。また、トランスポンダによる位置補正情報を車上装置が取りこぼした場合、位置誤差が大きくなり、設定された安全余裕距離では安全が保障されないため、取りこぼしを考慮して、予め安全余裕距離をトランスポンダ2個分の走行を許容する値に設定し、2個連続で取りこぼした場合は、緊急停車により安全を確保していた。
【0006】
そのため、必要以上に安全余裕距離を長く設定する必要があったり、トランスポンダの異常で列車が停車したり、安全余裕距離を短くするためにトランスポンダの設置数が増加してコスト増を招くという問題があった。
【0007】
これを解決するための技術として、特許文献1に示すように、トランスポンダによる位置補正が行われなかった場合は安全余裕距離を一定量(次のトランスポンダ到着までに発生する誤差分)だけ増加させて走行する方式がある。
【0008】
また、例えば、特許文献2には、誤差を含んだセンサ情報を元にその精度を定量評価し、各地点において移動体が存在する確率を算出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−120484号公報
【特許文献2】特開2009−264977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ただし、速度発電機やGPS(Global Positioning System)、加速度センサ、ドップラーレーダーなどの位置推定手法は、列車状態や周辺環境などによって推定精度が常に変化するため、走行前に適切な誤差を想定して安全余裕距離として設定する事が難しい。このため、過剰な安全余裕距離が設定される可能性がある。
【0011】
本発明の目的は、自列車や先行列車の位置推定精度が走行中に変化した場合、その変化に追従して列車の安全性・運行密度・省エネルギーの観点から最適な停止目標を算出できる列車制御システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の第一の特徴は、自移動体位置を推定する位置推定装置と、位置推定装置の推定精度を評価する位置精度評価装置と、自移動体位置情報および位置精度情報を地上装置へ送信する送信装置と、地上装置から送信された停止目標情報を受信する受信装置と、停止目標情報を元に自移動体の走行速度を制御する速度制御装置を列車が有する構成であることを要旨とする。
【0013】
また地上装置は、各移動体から送信された移動体位置情報および位置精度情報を元に各移動体の停止目標を算出し、該移動体へ送信することを特徴とする。
【0014】
本発明の移動体制御システムは、複数の移動体の各移動体の存在位置を推定する位置推定装置と、前記位置推定装置の位置推定精度を評価する位置精度評価装置と、前記各移動体の走行速度を制御する速度制御装置と、前記各移動体の停止目標を算出する停止目標算出装置により構成され、前記停止目標算出装置は、前記位置精度評価装置が評価した前記各移動体の位置推定精度の評価結果に応じて前記複数の移動体のそれぞれの移動体の停止目標を算出し、前記速度制御装置は、前記停止目標算出装置が算出した前記停止目標に応じて前記各移動体の走行速度を制御することを特徴とする。
【0015】
本発明の移動体制御システムは、更に、各地点における各移動体の在線確率を算出する在線確率算出装置を備えており、前記停止目標算出装置は、前記位置精度評価装置が評価した位置推定精度の評価結果、または、前記在線確率算出装置が算出した各移動体の各地点における在線確率のうち少なくとも1つの結果に応じて停止目標を算出することを特徴とする。
【0016】
また、本発明の移動体制御システムは、将来における各移動体の位置推定装置の位置精度及び在線確率のうち、少なくとも1つを予測する位置精度予測装置を備えており、前記位置精度予測装置は、前記位置精度評価装置が評価した位置推定精度の評価結果、または、前記在線確率算出装置が算出した各移動体の在線確率のうち少なくとも1つの将来の変動を予測することを特徴とする。
【0017】
また、本発明の移動体制御システムは、走行路の地形データ、トランスポンダの設置位置データ、周辺の構造物データ、走行ダイヤデータ、車両性能データ、GPS衛星データ、天候データ、過去の走行において収集した位置情報、位置精度情報、在線確率情報のうち、少なくとも1つを記録するデータベースを備えており、前記位置精度予測装置は、前記データベースの情報を元に、前記位置精度評価装置が評価した位置推定精度の評価結果、または、前記在線確率算出装置が算出した各移動体の在線確率のうち少なくとも1つの将来の変動を予測することを特徴とする。
【0018】
また、本発明の移動体制御システムは、前記移動体は、自己の位置精度を監視する位置精度監視装置を備えており、前記位置精度監視装置は、該移動体の位置精度が閾値以上に劣化した場合、前記位置推定装置の異常と判断し、該移動体を停止することを特徴とする。
【0019】
また、本発明の移動体制御システムは、前記位置精度監視装置が監視する位置推定精度の閾値を決定する監視閾値設定装置を備えており、前記位置精度監視装置による監視閾値を、走行路の地形データ、トランスポンダの設置位置データ、周辺の構造物データ、走行ダイヤデータ、車両性能データ、GPS衛星データ、天候データ、過去の走行において収集した位置情報、位置精度情報、在線確率情報のうち、少なくとも1つに応じて変更することを特徴とする。
【0020】
また、本発明の移動体制御システムは、前記停止目標算出装置が停止目標を算出する際、同一走行路を走行する複数移動体の在線確率を算出し、それらの複数移動体の在線確率の積が設定された閾値を越える地点を停止目標として算出することを特徴とする。
【0021】
また、本発明の移動体制御システムは、前記停止目標算出装置が停止目標を算出する際に用いる在線確率の積の閾値を、移動体走行時の安全性、運行密度、省エネルギー性能に関する要求のうち、少なくとも1つに応じて変更することを特徴とする。
【0022】
また、本発明の移動体制御システムは、前記停止目標算出装置が、現時点の停止目標より後方の停止目標地点を算出した場合、停止目標を更新せず、現時点の停止目標を引き続き使用することを特徴とする。
【0023】
また、本発明の移動体制御システムは、停止目標算出装置が算出した各移動体の停止目標に代えて、走行路の各地点における各移動体の制限速度を使用することを特徴とする。
【0024】
また、本発明の移動体制御システムは、モニタを備えており、前記各装置の処理状況をモニタに表示する、もしくは音声にて処理状況を知らせる手段を備えることを特徴とする。
【0025】
また、本発明は列車制御システムに適用され、前記移動体は軌道走行路を走行する列車であって、前記列車の車上装置には、自列車の在線位置を推定する位置推定装置と前記位置推定装置の位置推定精度を評価する位置精度評価装置と自列車の走行速度を制御する速度制御装置とが備えられ、前記軌道走行路に沿って設置された地上装置には、各列車の停止目標を算出する停止目標算出装置が備えられており、前記地上装置から前記車上装置に前記停止目標算出装置が算出した各列車の停止目標が、送信され、前記車上装置の前記速度制御装置は、受信した前記停止目標に応じて走行速度を制御して列車制御を行うことを特徴とする。
【0026】
また、本発明は列車制御システムに適用され、前記移動体は軌道走行路を走行する列車であって、前記列車の車上装置には、自列車の在線位置を推定する位置推定装置と自列車の走行速度を制御する速度制御装置とが備えられ、前記軌道走行路に沿って設置された地上装置には、前記位置推定装置の位置推定精度を評価する位置精度評価装置と各列車の停止目標を算出する停止目標算出装置が備えられており、前記車上装置から前記地上装置へ前記位置推定装置が推定した在線位置が送信され、前記地上装置の前記位置精度評価装置は受信した前記在線位置の位置推定精度を評価し、前記停止目標算出装置は各列車の停止目標を算出し、前記地上装置から前記車上装置に前記停止目標算出装置が算出した各列車の停止目標が、送信され、前記車上装置の前記速度制御装置は、受信した前記停止目標に応じて列車の走行速度を制御することを特徴とする。
【0027】
また、本発明の移動体制御システムは、列車制御システムに適用され、前記移動体は軌道走行路を走行する列車であって、前記列車の車上装置には、自列車の走行速度を制御する速度制御装置が備えられ、前記軌道走行路に沿って設置された地上装置には、各列車の在線位置を推定する位置推定装置と前記位置推定装置の位置推定精度を評価する位置精度評価装置と各列車の停止目標を算出する停止目標算出装置が備えられており、前記地上装置から前記車上装置に前記停止目標算出装置が算出した各列車の停止目標が、送信され、前記車上装置の前記速度制御装置は、受信した前記停止目標に応じて列車の走行速度を制御することを特徴とする。
【0028】
また、本発明は列車制御システムに適用され、前記移動体は軌道走行路を走行する列車であって、前記各列車の車上装置には、自列車の在線位置を推定する位置推定装置と前記位置推定装置の位置推定精度を評価する位置精度評価装置と各地点における各列車の在線確率を算出する在線確率算出装置と各列車の停止目標を算出する停止目標算出装置と自列車の走行速度を制御する速度制御装置とが備えられており、前記各列車の車上装置の前記位置推定装置は前記位置推定装置により推定された在線位置の位置推定制度を評価し、前記在線確率算出装置は前記位置推定精度に応じて自列車の在線確率を算出し、前記停止目標算出装置は各列車の停止目標を算出し、前記車上装置は、同一軌道走行路を走行する後発列車に前記停止目標を送信し、また、他列車から停止目標を受信した場合に、前記速度制御装置は、前記停止目標に応じて列車の走行速度を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明は、例えば、列車制御システムに適用され、自列車や先行列車の位置推定精度が走行中に変化した場合でも、その変化に追従し、列車の安全性・運行密度・省エネルギーの観点から最適な停止目標を算出可能な列車制御システムが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は本発明の実施例1による列車制御システムの構成の一例を示す図である。
【図2】図2は本発明の実施例1による列車制御イメージの一例を示す図である。
【図3】図3は本発明の実施例1での制御フローを示す図である。
【図4】図4は本発明の実施例1での停止目標を算出するイメージの一例を示す図である。
【図5】図5は本発明の実施例2による列車制御システムの構成の一例を示す図である。
【図6】図6は本発明の実施例3による位置精度監視装置と監視閾値設定装置を備えた列車制御システムの構成示す図である。
【図7】図7は本発明の実施例4による地上装置を用いない列車制御システムの構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。ただし、図面は模式的なものであることに留意すべきである。
【実施例1】
【0032】
図1に本実施例の構成を示す。本実施例では、車上装置1は自列車位置を推定する位置推定装置11と、位置推定装置11の推定精度を評価する位置精度評価装置12と、自列車位置情報および位置精度情報を地上装置2へ送信する送信装置14と、地上装置2から送信された停止目標情報を受信する受信装置15と、停止目標情報を元に自列車の走行速度を制御する速度制御装置13により構成される。
【0033】
また地上装置2は、各列車から送信された列車位置情報および位置精度情報を受信する受信装置21と、列車位置情報および位置精度情報を元に走行路の各地点において列車が在線している確率(以下、在線確率)を算出する在線確率算出装置22と、同一走行路を走行する列車の在線確率を元に各列車の停止目標を算出する停止目標算出装置23と、停止目標情報を該列車へ送信する送信装置24により構成される。
【0034】
図2は、本実施例による制御イメージを表している。図3は、本実施例による制御フロー概略を表している。
【0035】
車上装置1は、位置推定装置11より得られた位置情報の推定精度を評価して地上装置2へ送信する。地上装置2は車上装置1から受け取った位置精度情報より該列車の在線確率を算出し、同一走行路を走行する先行列車の在線確率を考慮して該列車の停止目標を算出し、車上装置1へ送信する。車上装置1は停止目標を受信した場合、自列車が停止目標へ安全に停止できるように走行速度を制御する。
【0036】
本制御により、列車状態や周辺環境などによって推定精度が常に変化する位置推定装置11を用いた場合でも、その変化に追従して列車の安全性・運行密度・省エネルギーの観点から最適な停止目標を算出できる。
【0037】
位置推定装置11により列車在線位置を推定する場合、例えばGPS、軌道回路、加速度センサ、ジャイロセンサ、速度発電機、トランスポンダ、無線LANの電波情報、超音波センサ、ドップラーレーダー、カメラ、赤外線センサ、車軸検知器(アクセルカウンター)のいずれかの装置を用いて算出しても良い。
【0038】
位置推定装置11は、上記装置のうち1種類の装置を用いても良いし、複数種類の装置を組み合わせて用いても良い。また、走行地点によって使用する装置を変更しても良い。位置推定の詳細技術については、従来の列車制御システムやカーナビゲーションシステムなどで幅広く利用されている技術であるため、詳細については割愛する。
【0039】
速度制御装置13により走行速度を制御する場合、列車の推定位置もしくは在線確率、走行速度、停止目標までの距離、地形情報(走行路の曲率、勾配など)、車両性能(モータ性能、ブレーキ性能、重量など)のうち、少なくとも一つを用いて算出する。
【0040】
安全性を確保しつつ、運行密度や省エネルギーを考慮して走行速度を算出する方法は公知の技術が多々あり、例えば、平成7年鉄道技術連合シンポジウムで発表された駅間の速度制限を考慮した省エネルギー運転曲線作成方法を用いることが考えられる。
【0041】
停止目標算出装置23により停止目標を算出する場合、例えば、同一走行路を走行する2列車の在線確率を算出し、それら在線確率の積が設定された閾値を越える地点を停止目標として算出しても良い。
【0042】
本手法により停止目標を算出する場合の制御イメージを図4に示す。本制御により、地上装置2は各車上装置1の位置推定精度の変化に応じた停止目標を設定する事ができ、要求される安全性を満たしつつ、各列車の位置推定装置11の性能に応じた列車制御が可能となる。
【0043】
上記手法により停止目標を算出する場合、先行列車もしくは自列車の位置推定精度が劣化すると、以前の停止目標の地点より、停止目標が後方に下がる場合がある。この場合、状況によっては自列車が停止目標までに止まれず、非常ブレーキが掛かって乗り心地や省エネルギー性が著しく悪化する事が想定される。
【0044】
本事象への対策として、例えば、位置推定精度が劣化して停止目標が現時点の停止目標より後方の地点を算出した場合、停止目標は更新せず、現時点の停止目標を引き続き使用する。例えばトンネル内など、GPSによる位置精度が極端に劣化した場合、トンネル通過中はトンネル入り口近辺に停止目標が固定され、トンネル通過した時点でトンネル出口近辺に停止目標が移動する事となる。なお、先行列車が後退する可能性がある場合、後退する可能性のある距離を差し引いた地点を停止目標としても良い。
【0045】
停止目標算出装置23により停止目標を算出し、同一走行路を走行する2列車の在線確率の積より停止目標を算出する場合、停止目標を算出する際に用いられる在線確率の積の閾値は、状況に応じて変更しても良い。
【0046】
例えば走行する列車や走行路によって要求される安全性や運行密度、省エネルギー性能が異なる場合、それぞれの要求に応じて閾値を設定する事で、要求に応じた最適な制御が可能となる。
【0047】
例えば、通常より高い安全性が求められる状況においては閾値を下げ、高い運行密度が要求される状況においては閾値を上げる事により、要求に応じた列車制御が可能となる。
【0048】
在線確率算出装置22により在線確率を算出する場合、例えばカーナビゲーションシステムで用いられている技術のひとつであるカルマンフィルターを用いても良い。カルマンフィルターとは、 離散的な誤差のある観測値から、時間変化する量を推定するために用いられる手法である。
【0049】
例えば、カーナビゲーションシステムでは、自動車に搭載した加速度センサやGPS信号情報を統合し、自動車の位置を推定するのに用いられている。誤差を含んだセンサ情報を元にその精度を定量評価し、各地点において移動体が存在する確率を算出する技術は、例えば、上述した特許文献2がある。これらの技術は工学分野で広く用いられる方法であるため、詳細については割愛する。
【0050】
上記構成では地上装置2が在線確率算出装置22を備えているが、本装置は車上装置1が備えても良い。本構成の場合、車上装置1は位置推定精度を評価した後、自列車の在線確率を算出して地上装置2へ送信する。地上装置2は車上装置1から受け取った在線確率情報を元に、同一走行路を走行する先行列車の在線確率を考慮して該列車の停止目標を算出し、車上装置1へ送信する。
【0051】
上記構成では車上装置1が位置精度評価装置12を備えているが、本装置は地上装置2が備えても良い。本構成の場合、車上装置1は位置推定装置11より得た位置情報を地上装置2へ送信する。地上装置2は、車上装置1から受け取った位置情報を元に、該列車の位置推定装置11の位置推定精度を評価する。以降の処理は上記構成における処理と同様である。
【0052】
上記構成では車上装置1が自列車の位置推定装置11を備えているが、本装置は地上装置2が備えても良い。本構成は、例えば軌道回路やアクセルカウンターなどを位置推定装置11として用いた場合に該当する。本構成では、地上装置2は、各列車の車上装置1から情報を受け取らなくても、地上装置2に備えた位置推定装置11により取得した位置情報を元に、位置推定装置11の位置推定精度を評価する。以降の処理は上記構成における処理と同様である。これにより、車上装置1の構成を簡素化できる。
【0053】
上記では、GPSを用いた場合を適用例として挙げているが、GPS以外の衛星による測位システム(例えばガリレオ、GLONASS、北斗等)にも適用可能である。
【0054】
上記では、地上装置2が停止目標情報を車上装置1へ送信するが、停止目標の代わりに各地点における該列車の制限速度を車上装置1へ送信しても良い。
【実施例2】
【0055】
実施例1では、位置精度評価装置12は位置推定装置11の現時点での精度評価を元に走行制御しており、これから先の走行における精度変化は考慮していない。実施例2の構成では、車上装置1もしくは地上装置2は、各列車の位置情報精度もしくは在線確率の変化を予測する位置精度予測装置26を備える。
【0056】
図5に、地上装置2が位置精度予測装置26を備えた場合の構成を示す。地上装置2は位置精度予測装置26により予測した位置推定精度を用いて該列車の在線確率を算出し、同一走行路を走行する先行列車の在線確率を考慮して該列車の停止目標を算出し、車上装置1へ送信する。
【0057】
車上装置1は停止目標を受信した場合、自列車が停止目標へ安全に停止できるように走行速度を制御する。本制御により、地上装置2は各車上装置1の位置推定精度の将来の変化にも対応して停止目標を設定する事ができ、より安全性・運行密度・省エネルギー性を向上した列車制御が可能となる。
【0058】
様々な情報を元に逐次変化するデータの傾向を予測する方法は多くの手法が提案されており、例えば上述のカルマンフィルターは、センサ情報を元に過去、現在、未来の各時点における目標物の位置を推定することにも用いられる。これらの方法を適用する事で、位置推定精度、および在線確率を算出する事が可能となる。
【0059】
また好ましくは、地上装置2は過去の走行において収集した各列車の位置情報、位置精度情報、在線確率情報のうち、少なくとも1つを記録するデータベースを備え、記録した該情報を元に位置情報精度の変化を予測する前記位置精度予測装置26を備えても良い。
【0060】
また好ましくは、地上装置2は走行路の地形データ、トランスポンダの設置位置データ、周辺の構造物データ(トンネル位置など)、走行ダイヤ、車両性能データ、GPS衛星データ、天候データのうち、少なくとも1つを記録するデータベースを備え、記録した該情報を元に位置情報精度の変化を予測する前記位置精度予測装置26を備えても良い。
【実施例3】
【0061】
図6に、車上装置1が位置精度監視装置16と監視閾値設定装置17を備えた場合の構成を示す。図6において、車上装置1は自列車の位置精度を監視する位置精度監視装置16を備え、位置精度が閾値以上に劣化した場合、位置推定装置11の異常と判断し、列車を停止する手段を備える。
【0062】
図6において、データベースが記録した情報を元に、位置精度監視装置16が監視する位置推定精度の閾値を決定する監視閾値設定装置17を備え、例えばトンネル内やビル街におけるGPSによる位置推定精度の劣化や、雨天時の空転・滑走による速度発電機による位置推定精度の劣化など、事前に予測可能な状況においては位置精度監視装置16による監視閾値を変更する手段を備える。
【0063】
位置推定精度の監視閾値を変更する事により、例えばGPSを用いる場合はビル街やトンネル内など精度が劣化して当然となる箇所では監視閾値を下げることにより、位置推定精度が劣化したとしても位置推定装置11が異常であると誤判定するのを避けられ、前記位置精度監視装置による異常判定の信頼性が向上できる。
【0064】
また好ましくは、前記地上装置2もしくは前記車上装置1はモニタを備え、前記各装置の処理状況をモニタに表示する、もしくは音声にて処理状況を知らせる手段を備える。
【0065】
省エネルギーを考慮した列車走行を行う場合、無駄な加減速を減らし、惰行運転を増やす事が重要となる。位置推定精度の変化により停止目標が大きく変動する環境では、停止目標に追従して速度を変更すると無駄な加減速が増え、省エネルギー性が低下する原因となる。前記位置精度予測装置26を用いることにより、停止目標の変動を予測する事が可能となるため、将来の停止目標の変動まで考慮して最適な走行速度を算出できる。
【実施例4】
【0066】
実施例1ないし実施例4の構成では、地上装置2による制御が前提となっている。実施例4は、車上装置1aおよび車上装置1bは在線確率算出装置22、および停止目標算出装置23を備え、地上装置2を用いない構成とする。
【0067】
図7に、本実施例の構成を示す。本構成では、車上装置1aおよび車上装置1bは、位置推定装置11より得られた位置情報の推定精度を評価し、位置精度情報より自列車の在線確率を算出し、同一走行路を走行する後発列車に対して停止目標を送信する。
【0068】
また他列車より停止目標を受信した場合、自列車が停止目標へ安全に停止できるように走行速度を制御する。本実施例の制御イメージは実施例1の制御イメージ(図2、図4参照)と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の各実施例では列車制御システムを対象としているが、同一の構成により自動車制御、エレベータ制御などの移動体制御システムにおいても適用可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 車上装置
2 地上装置
11 位置推定装置
12 位置精度評価装置
13 速度制御装置
14 送信装置
15 受信装置
16 位置精度監視装置
17 監視閾値設定装置
21 受信装置
22 在線確率算出装置
23 停止目標算出装置
24 送信装置
26 位置精度予測装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の移動体の各移動体の存在位置を推定する位置推定装置と、前記位置推定装置の位置推定精度を評価する位置精度評価装置と、前記各移動体の走行速度を制御する速度制御装置と、前記各移動体の停止目標を算出する停止目標算出装置により構成され、
前記停止目標算出装置は、前記位置精度評価装置が評価した前記各移動体の位置推定精度の評価結果に応じて前記複数の移動体のそれぞれの移動体の停止目標を算出し、
前記速度制御装置は、前記停止目標算出装置が算出した前記停止目標に応じて前記各移動体の走行速度を制御することを特徴とする移動体制御システム。
【請求項2】
請求項1記載の移動体制御システムにおいて、
各地点における各移動体の在線確率を算出する在線確率算出装置を備えており、
前記停止目標算出装置は、前記位置精度評価装置が評価した位置推定精度の評価結果、または、前記在線確率算出装置が算出した各移動体の各地点における在線確率のうち少なくとも1つの結果に応じて停止目標を算出することを特徴とする移動体制御システム。
【請求項3】
請求項2記載の移動体制御システムにおいて、
将来における各移動体の位置推定装置の位置精度及び在線確率のうち、少なくとも1つを予測する位置精度予測装置を備えており、
前記位置精度予測装置は、前記位置精度評価装置が評価した位置推定精度の評価結果、または、前記在線確率算出装置が算出した各移動体の在線確率のうち少なくとも1つの将来の変動を予測することを特徴とする移動体制御システム。
【請求項4】
請求項3記載の移動体制御システムにおいて、
走行路の地形データ、トランスポンダの設置位置データ、周辺の構造物データ、走行ダイヤデータ、車両性能データ、GPS衛星データ、天候データ、過去の走行において収集した位置情報、位置精度情報、在線確率情報のうち、少なくとも1つを記録するデータベースを備えており、
前記位置精度予測装置は、前記データベースの情報を元に、前記位置精度評価装置が評価した位置推定精度の評価結果、または、前記在線確率算出装置が算出した各移動体の在線確率のうち少なくとも1つの将来の変動を予測することを特徴とする移動体制御システム。
【請求項5】
請求項1記載の移動体制御システムにおいて、
前記移動体は、自己の位置精度を監視する位置精度監視装置を備えており、
前記位置精度監視装置は、該移動体の位置精度が閾値以上に劣化した場合、前記位置推定装置の異常と判断し、該移動体を停止することを特徴とする移動体制御システム。
【請求項6】
請求項5記載の移動体制御システムにおいて、
前記位置精度監視装置が監視する位置推定精度の閾値を決定する監視閾値設定装置を備えており、
前記位置精度監視装置による監視閾値を、走行路の地形データ、トランスポンダの設置位置データ、周辺の構造物データ、走行ダイヤデータ、車両性能データ、GPS衛星データ、天候データ、過去の走行において収集した位置情報、位置精度情報、在線確率情報のうち、少なくとも1つに応じて変更することを特徴とする移動体制御システム。
【請求項7】
請求項2記載の移動体制御システムにおいて、
前記停止目標算出装置が停止目標を算出する際、同一走行路を走行する複数移動体の在線確率を算出し、それらの複数移動体の在線確率の積が設定された閾値を越える地点を停止目標として算出することを特徴とする移動体制御システム。
【請求項8】
請求項7記載の移動体制御システムにおいて、
前記停止目標算出装置が停止目標を算出する際に用いる在線確率の積の閾値を、移動体走行時の安全性、運行密度、省エネルギー性能に関する要求のうち、少なくとも1つに応じて変更することを特徴とする移動体制御システム。
【請求項9】
請求項1記載の移動体制御システムにおいて、
前記停止目標算出装置が、現時点の停止目標より後方の停止目標地点を算出した場合、停止目標を更新せず、現時点の停止目標を引き続き使用することを特徴とする移動体制御システム。
【請求項10】
請求項1記載の移動体制御システムにおいて、
前記停止目標算出装置が算出した各移動体の停止目標に代えて、走行路の各地点における各移動体の制限速度を使用することを特徴とする移動体制御システム。
【請求項11】
請求項1記載の移動体制御システムにおいて、
モニタを備えており、前記各装置の処理状況をモニタに表示する、もしくは音声にて処理状況を知らせる手段を備えることを特徴とする移動体制御システム。
【請求項12】
請求項1記載の移動体制御システムにおいて、
前記移動体は軌道走行路を走行する列車であって、
前記列車の車上装置には、自列車の在線位置を推定する位置推定装置と前記位置推定装置の位置推定精度を評価する位置精度評価装置と自列車の走行速度を制御する速度制御装置とが備えられ、前記軌道走行路に沿って設置された地上装置には、各列車の停止目標を算出する停止目標算出装置が備えられており、
前記地上装置から前記車上装置に前記停止目標算出装置が算出した各列車の停止目標が、送信され、前記車上装置の前記速度制御装置は、受信した前記停止目標に応じて走行速度を制御して列車制御を行うことを特徴とする移動体制御システム。
【請求項13】
請求項1記載の移動体制御システムにおいて、
前記移動体は軌道走行路を走行する列車であって、
前記列車の車上装置には、自列車の在線位置を推定する位置推定装置と自列車の走行速度を制御する速度制御装置とが備えられ、前記軌道走行路に沿って設置された地上装置には、前記位置推定装置の位置推定精度を評価する位置精度評価装置と各列車の停止目標を算出する停止目標算出装置が備えられており、
前記車上装置から前記地上装置へ前記位置推定装置が推定した在線位置が送信され、
前記地上装置の前記位置精度評価装置は受信した前記在線位置の位置推定精度を評価し、前記停止目標算出装置は各列車の停止目標を算出し、
前記地上装置から前記車上装置に前記停止目標算出装置が算出した各列車の停止目標が、送信され、前記車上装置の前記速度制御装置は、受信した前記停止目標に応じて列車の走行速度を制御することを特徴とする移動体制御システム。
【請求項14】
請求項1記載の移動体制御システムにおいて、
前記移動体は軌道走行路を走行する列車であって、
前記列車の車上装置には、自列車の走行速度を制御する速度制御装置が備えられ、前記軌道走行路に沿って設置された地上装置には、各列車の在線位置を推定する位置推定装置と前記位置推定装置の位置推定精度を評価する位置精度評価装置と各列車の停止目標を算出する停止目標算出装置が備えられており、
前記地上装置から前記車上装置に前記停止目標算出装置が算出した各列車の停止目標が、送信され、前記車上装置の前記速度制御装置は、受信した前記停止目標に応じて列車の走行速度を制御することを特徴とする移動体制御システム。
【請求項15】
請求項1記載の移動体制御システムにおいて、
前記移動体は軌道走行路を走行する列車であって、
前記各列車の車上装置には、自列車の在線位置を推定する位置推定装置と前記位置推定装置の位置推定精度を評価する位置精度評価装置と各地点における各列車の在線確率を算出する在線確率算出装置と各列車の停止目標を算出する停止目標算出装置と自列車の走行速度を制御する速度制御装置とが備えられており、
前記各列車の車上装置の前記位置推定装置は前記位置推定装置により推定された在線位置の位置推定制度を評価し、前記在線確率算出装置は前記位置推定精度に応じて自列車の在線確率を算出し、前記停止目標算出装置は各列車の停止目標を算出し、前記車上装置は、同一軌道走行路を走行する後発列車に前記停止目標を送信し、また、他列車から停止目標を受信した場合に、前記速度制御装置は、前記停止目標に応じて列車の走行速度を制御することを特徴とする移動体制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−144068(P2012−144068A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−1831(P2011−1831)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】