説明

移動体姿勢計測装置

【課題】従来に比べて移動体の姿勢の計算が簡易なものとし、また、移動体の姿勢の算出値の精度を向上させる。
【解決手段】移動体に設けられて衛星の信号を受信する基準アンテナ11及びn個(1,2,3,…)のユーザアンテナ12で受信した衛星の信号から前動体と前記衛星との位置関係を算出する。また、各アンテナで受信した衛星信号の搬送波位相を測定する。そして、この搬送波位相から一重位相差又は二重位相差を計算する。基準アンテナとユーザアンテナとの位置関係、移動体と衛星との位置関係、及び一重位相差又は二重位相差の関係に基づいて、一重位相差又は二重位相差に対する未知の整数値アンビギュイティ、移動体の未知の姿勢成分、及び一重位相差又は二重位相差についての初期値を算出する。非線形推定法を利用して初期値を収束させることにより、未知の整数値アンビギュイティ及び移動体の未知の姿勢成分を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GPSなどの衛星航法システムを用いて船舶などの移動体の姿勢を計測する移動体姿勢計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶などの移動体の姿勢は、方位ψ、ピッチθ、ロールφを使って表すことができる。移動体に固定された右手系直交座標(移動体座標系)を定義したとき、これらの量は次のように定義される。
【0003】
方位とは、局所座標系のx軸から移動体座標系のx軸の局所座標系のx‐y平面への射影へのなす角度である。
【0004】
ピッチとは、移動体座標系のx軸の局所座標系のx‐y平面への射影から移動体座標系のx軸へのなす角度である。
【0005】
ロールとは、移動体座標系のx軸を中心とした、移動体座標系y軸の局地座標系の水平面からの回転角である。
【0006】
このような移動体の姿勢を検出する移動体姿勢検出装置としては、GPS、GLONASSなどの衛星航法システムを用いたものが知られている。すなわち、この移動体姿勢検出装置は、複数のアンテナで受信されるGPS衛星などの信号から移動体の姿勢を検出するものである。
【0007】
このように、移動体に設置された複数のアンテナで受信されるGPS衛星からの信号から姿勢情報を正確に算出する場合には、各アンテナ間の一重位相差または二重位相差を用いる。
【0008】
図1に示すように、一重位相差とは、ある基線bを構成する基準アンテナ101及びユーザアンテナ102にそれぞれ接続された基準受信機103、ユーザ受信機104により測定された、同一の衛星105からの信号の搬送波位相の差分である。この差分と基準アンテナ101及びユーザアンテナ102により構成される基線ベクトルbの間には行路差から次の関係式が成り立つ。
【数1】

……(1)
ここで、yは一重位相差、hは衛星105への単位方向ベクトル、bは基線ベクトル、aは整数の値、Δtは受信機103,104の位相の取得タイミングのズレを表す時計誤差、eは観測誤差である。添え字sは一重位相差であることを意味する。また、単位は波数で表している。式(1)は、一重位相差位相と行路差hsTbの間には、ある波長λの整数倍とΔtを足し合わせた分だけの差があることを示している。例えば、各アンテナで瞬間的な位相を観測したとき、その値の範囲は[-0.5:0.5]となる。
【0009】
このとき、一重位相差の値は[-1.0:1.0]でしか表されないため、行路差hsTbとの間には、ある波長λの整数倍とΔtを足し合わせた分だけの差があることになる。この整数値は整数値アンビギュイティと呼ばれ、式(1)のasにあたる。
【0010】
また、二重位相差とは、ある基線における基準衛星の一重位相差と基準衛星以外の一重位相差との差分である。基準衛星iと衛星kの二重位相差と基線の関係は、
【数2】

……(2)
と表される。
【0011】
ここで、
【数3】

……(3)
【数4】

……(4)
【数5】

……(5)
【数6】

……(6)
を意味する。ここで、添え字dは二重位相差に関する値であることを表している。このように二重位相差を計算することで、時計誤差を打ち消すことができる(なお、二重位相差については特許文献3を参照)。
【0012】
次に、従来における移動体の姿勢の算出法について図2を参照して説明する。ここでは、移動体を船舶111とし、船舶111内にアンテナ112〜114を3つ配置し、二重位相差を用いて算出する場合を例に取り説明する。基準アンテナ112から各ユーザアンテナ113,114への基線ベクトルb,bより、船舶111の姿勢は、
【0013】
【数7】

……(7)
【数8】

……(8)
【数9】

……(9)
となる。ここで、g{-}は、基線ベクトルから各姿勢情報を計算する関数である。
【0014】
この関数g{-}は具体的に次のように表される。ここでの添え字x,y,zは各基線の局地座標系における各x,y,z軸の値であることを示す。
【0015】
【数10】

……(10)
【数11】

……(11)
【数12】

……(12)
【0016】
ここで、
【数13】

……(13)
である。また、arg(-)は複素数の偏角である。
【0017】
基線ベクトルb,bについての観測方程式は、
【数14】

……(14)
【数15】

……(15)
と表せる。ここで、y(bi)は基線iで観測された位相差により構成されるベクトルである。a(bi)は基線iで観測された位相差に対応する整数値アンビギュイティにより構成されるベクトルである。H(bi)は基線iで観測された基線ベクトルと位相差の関係を表すベクトルhにより構成される行列である。e(bi)は基線iで観測される位相差に混入する観測誤差により構成されるベクトルである。
【特許文献1】特許第3502007号公報
【特許文献2】特開2006‐105635号公報
【特許文献3】特開2002‐54946号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、前述の従来における移動体の姿勢の算出法では、基線ベクトルb,bを求めるために、2つの連立方程式(14)(15)を別々に求める必要がある。このことから、前述の従来における移動体の姿勢の算出法では、整数値アンビギュイティベクトルad(b1),ad(b2)をそれぞれ別々に求めており、よって、計算が煩雑であるという不具合があった。
【0019】
また、全二重位相差の観測数に対して未知数は方位、ピッチ、ロールの3つであるが、基線ベクトルb,bを求めることから未知数は6つとして求めている。このことから、基線ベクトルb,bから算出された姿勢ベクトルの精度が劣化してしまうという不具合もあった。
【0020】
そこで、本発明の目的は、従来に比べて移動体の姿勢の計算が簡易なものとし、また、移動体の姿勢の算出値の精度を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
(1)本発明は、姿勢の計測対象となる移動体に設けられて衛星の信号を受信するn個(2,3,4,…)のアンテナと、前記各アンテナで受信した衛星の信号から前記移動体と前記衛星との位置関係を算出する位置関係算出手段と、前記各アンテナで受信した衛星信号の搬送波位相を測定する搬送波位相測定手段と、前記搬送波位相測定手段で測定した搬送波位相から一重位相差又は二重位相差を計算する位相差計算手段と、前記移動体の未知の姿勢成分の初期値を算出する初期値算出手段と、前記各アンテナの位置関係、前記移動体と前記衛星との位置関係、及び前記一重位相差又は二重位相差の関係に基づいて、非線形推定法を利用して前記初期値を収束させることにより、未知の整数値アンビギュイティ及び前記移動体の未知の姿勢成分を算出する姿勢等算出手段と、を備えている移動体姿勢計測装置である。
【0022】
(2)前記初期値算出手段は、未知の前記整数値アンビギュイティのうちの幾つか又は全てに対する候補、それぞれの当該候補に対する前記未知の姿勢成分についての初期値を算出し、前記姿勢等算出手段は、前記整数値アンビギュイティ候補を既知として前記各候補の姿勢成分の初期値を前記非線形推定法により収束させて前記各候補の残りの未知な整数値アンビギュイティ及び前記各候補に対応する前記未知の姿勢成分を算出する算出手段と、前記候補の中から正しい候補を選出する選出手段と、を備えているようにしてもよい。
【0023】
(3)前記姿勢等算出手段は、前記非線形推定法として非線形最小二乗法を用いるようにしてもよい。
【0024】
(4)前記姿勢等算出手段で算出された整数値アンビギュイティ及び前記移動体の姿勢により前記一重位相差又は二重位相差における誤差推定量を求める誤差推定量算出手段と、前記誤差推定量を用いた評価指数値により、前記整数値アンビギュイティ及び前記移動体の姿勢の正しさを検定する検定手段と、をさらに備えているようにしてもよい。
【0025】
(5)前記姿勢等算出手段で算出された整数値アンビギュイティ及び前記移動体の姿勢により前記一重位相差又は二重位相差における誤差推定量を求める誤差推定量算出手段をさらに備え、前記選出手段は、前記誤差推定値を用いた評価指数値により前記候補の中から正しい候補を選出するようにしてもよい。
【0026】
(6)前記初期値算出手段は、前記姿勢成分のうち傾斜成分を測定し、当該傾斜成分により前記未知の姿勢の初期値を算出するようにしてもよい。
【0027】
(7)前記姿勢等算出手段で算出された前記整数値アンビギュイティを保存する保存手段をさらに備え、前記姿勢等算出手段は、前記保存手段に保存されている前記整数値アンビギュイティのうち有効なものを既知なものとして利用して、未知の前記整数値アンビギュイティ及び前記移動体の未知の姿勢成分を算出するようにしてもよい。
【0028】
(8)前記姿勢等算出手段で算出された前記姿勢の値を保存する保存手段をさらに備え、
前記初期値算出手段は、前記保存手段に保存されている前記姿勢の値により前記初期値の算出を行うようにしてもよい。
【0029】
(9) (2)の発明において、前記初期値算出手段は、前記n個のアンテナのうち2つのアンテナが構成する基線について観測される前記一重位相差又は二重位相差のうち2つ以上の位相差の前記整数値アンビギュイティに対して、当該2つ以上の位相差に対する当該整数値アンビギュイティを決定したとき、当該2つ以上の位相差及び前記衛星の配置の関係から推定される前記基線の基線長が実際の基線と近くなるものを前記候補として算出し、推定された当該基線を利用して残りの前記未知の整数値アンビギュイティに対する初期値と前記未知の姿勢成分に対する初期値とを求めるようにしてもよい。
【0030】
(10) (9)の発明において、前記初期値算出手段は、前記姿勢成分のうち傾斜成分を測定し、当該傾斜成分により前記2つ以上の位相差に対する整数値アンビギュイティを算出するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、整数値アンビギュイティベクトルをすべて同時に解くことができるので、従来に比べて移動体の姿勢の計算が簡易なものとなる。
【0032】
また、整数値アンビギュイティベクトルを解く際に基線間の配置の関係を利用するので、得られた整数値アンビギュイティベクトルの確度が飛躍的に向上する。さらに、従来のように複数の基線ベクトルを求める必要はない等のため、移動体の姿勢の算出値の精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
次に、本発明の実施形態について説明する。以下では、本発明の実施形態である移動体姿勢計測装置で使用されているアルゴリズムについて最初に説明し、次に、このアルゴリズムを使用した移動体姿勢計測装置の構成や動作について説明する。また、以下の例では、移動体が船舶であるものとして説明する。
【0034】
[アルゴリズムについて]
最初に、本発明の実施形態である移動体姿勢計測装置で使用されているアルゴリズムについて詳細に説明する。
【0035】
(1)ユーザアンテナ数を2とした場合
まず、図2に示すように、船舶111内に基準アンテナ112の他にユーザアンテナ113,114を2つ配置した場合を念頭において説明する。この場合の基線を基線b1,b2とする。
【0036】
このアルゴリズムの特徴は、複数の線形連立方程式を方位ψ、ピッチθ、ロールφを用いて一つの非線形な連立方程式で表し、非線形推定法を用いて整数値アンビギュイティベクトルを算出しながら姿勢状態を算出することである。このアルゴリズムの詳細は以下のとおりである。
【0037】
まず、船体座標系(移動体座標系)における各基線ベクトルをbv1,bv2とする。これらのベクトルは既知である。基線ベクトルb,bとbv1,bv2との関係は、次の座標変換行列U(ψ,θ,φ)を用いて、
【0038】
【数16】

……(16)
と表される。
【0039】
ここで、座標変換行列U(ψ,θ,φ)は、次のような関数である。
【数17】

……(17)
二重位相差と移動体の姿勢との関係は次の方程式で表される。
【数18】

……(18)
【数19】

……(19)
【0040】
そして、基線L1と基線L2の観測値を一つの式にまとめて、
【数20】

……(20)
と表す。ここで、
【数21】

……(21)
である。ここで、(20)式を観測モデル式と呼び、(21)式を状態変数ベクトルと呼ぶ。この状態変数ベクトルを用いて表された観測モデル式により、整数値アンビギュイティと移動体の姿勢とが算出される。
【0041】
今、整数値アンビギュイティベクトルaは未知であるとする。このとき、xを推定するには、この観測方程式f(x)のXに関して微分することで得られた行列、
【数22】

……(22)
を用いて、初期点x(xにハット)を適当な値に設定して、非線形推定として非線形最小二乗法を用いて、
【数23】

……(23)
を収束させることで求めることができる。
【0042】
未知である整数値アンビギュイティベクトルa(aにハット)は、
【数24】

……(24)
として毎回を計算する。ここで、round(-)は、一番近い整数への丸め込みを意味する。
【0043】
あるいは、ある回数lを設けて、
【数25】

……(25)
としても良い。
【0044】
また、(23)式においてのQは重み行列であり、適当な値を設定するが、
【数26】

……(26)
もしくは、
【数27】

……(27)
として設定するのが普通である。ここで、E{-}は期待値、Iは単位行列を意味する。
【0045】
以上のように、初期点を設定して非線形フィルタを収束させることで移動体の姿勢を算出し、また、この収束時に未知な整数値アンビギュイティベクトルを求めることができる。
収束時の残差は、
【0046】
【数28】

……(28)
と求めることができ、その残差二乗和rは、
【数29】

……(29)
と求めることができる。
【0047】
また、観測雑音の推定分散量は、観測モデル式(20)における観測数がmであり、状態変数ベクトルの要素数をn(ここでは3となる)とすれば、
【数30】

……(30)
として表すことができる。
【0048】
このσ(σにハット)と閾値σthとを比較し、算出された移動体の姿勢と整数値アンビギュイティベクトルとを検定することができる。
【0049】
このような手段によると、従来の手段と比べて移動体の姿勢を解くための観測値が多くなるので推定された姿勢の精度が向上する。
【0050】
また、基線間の配置の関係を利用するので、観測誤差の推定分散も向上し、得られた方位と整数値アンビギュイティが誤っている場合には値が大きくなることから、算出された姿勢の検定結果の確度が飛躍的に向上する。
【0051】
(2)整数値アンビギュイティベクトルの値がわかっている場合
前述の例は整数値アンビギュイティベクトルの値がすべて不明である場合の例について説明したが、以下では、整数値アンビギュイティベクトルaのうちいくつかはすでに値が判明している場合について考える。
【0052】
まず、(20)式を整数値アンビギュイティベクトルがすでに定まっているものと、定まっていないものとに分けて、
【数31】

……(31)
と表す。ここで、添え字pは、整数値アンビギュイティベクトルが決まっているものを表し、添え字qは整数値アンビギュイティベクトルが決まっていないものを表す。
【0053】
そして、状態ベクトルの初期点x(xにハット)を適当な値に設定して、
【数32】

……(32)
を収束させることで姿勢情報を算出する。
【0054】
ここで、
【数33】

……(33)
である。
【0055】
未知である整数値アンビギュイティベクトルaは、
【数34】

……(34)
として毎回算出する。
【0056】
もしくは、ある回数lを設けて、
【数35】

……(35)
としても良い。
【0057】
収束した移動体の方位に対して、観測誤差の推定分散σ(σにハット)をもとめ、閾値σthを比較することで、算出された移動体の姿勢と整数値アンビギュイティベクトルを検定することができる。
【0058】
この場合、すべての整数値アンビギュイティベクトルを未知の値とした前述の場合に比べて、初期値xの値が適切な値でなく、誤った姿勢に収束した場合、固定された整数値アンビギュイティベクトル値の影響により推定分散量が大きくなることから、算出された姿勢ベクトルの検定の確度が向上する。
【0059】
以上のことを利用して、何らかの方法によってaに対する候補及びそれぞれの候補に対する状態ベクトルの初期値xが与えられていたときに、正しい候補を選び出すことを考える。
【0060】
に対する候補及びそれぞれの候補に対する状態ベクトルの初期値xの算出方法としては次の方法が考えられる。まず、pに関する式を、基線iに関する観測モデル式のうちの2つ以上の観測位相差から構成される観測モデル式を用いて次のように構成する。
【数36】

……(36)
【0061】
このとき、基線は、
【数37】

……(37)
と推定できる。
【0062】
そこで、基線iの基線長は既知であるということを利用して、
【数38】

……(38)
となるaを候補とする。
【0063】
2つの観測位相差では、(37)式を解くことはできないが、基線iのZ成分をbz(i)と(bにハット)適当に与えて、
【数39】

……(39)
と、基線の水平方向のみを推定するようにすれば解くことができる。ここで、Hxy(p),hz(p)はそれぞれHの水平方向成分の行列、垂直方向成分の行列である。
【0064】
このとき、
【数40】

……(40)
となるaを候補とする。aに対する状態変数ベクトルは、推定された基線ベクトルの水平方向成分により計算される概略方位と、適当に与えたロール、ピッチとする。
【0065】
以上のとおり、bz(i)(bにハット)、ロール、ピッチは、傾斜計などの計測装置の測定値を基にすることで、状態変数ベクトルの精度を向上させることができ、aが正しい値に収束しやすくすることができる。以上のようにして得られた各候補に対して、状態変数ベクトル(姿勢)、整数値アンビギュイティベクトル、観測誤差の推定分散量を計算して、推定分散量から適当な判断基準を用いて正しい候補を選び出す。適当な判断基準の例としては、一番小さい推定分散量と二番目に小さい推定分数量を用いて、その比をある闇値rthと比較することで一番小さい推定分散量を持つ候補を検定できる。各候補においての推定分敵量は正しいものは小さク、誤っているものは大きいので、選び出される候補の検定の確度が向上する。
【0066】
(3)一重位相差のモデル
以上の例では二重位相差を用いて移動体の姿勢を推定する場合について述べたが、二重位相差の代わりに一重位相差を用いることも可能である。
【0067】
これは、二重位相差の観測モデル式(20)と、(21)式で表される状態変数ベクトルを、一重位相差の観測モデル式(41)式と状態変数ベクトル(42)式に代えて、前述の二重位相差の場合と同様に解けばよい。
【数41】

……(41)
【数42】

……(42)
ここでcbiは基線iについて観測される一重位相差の要素数を持つ要素の値が1であるベクトル、Δtbiは基線iについての時計誤差である。
【0068】
(4)ロール、ピッチ測定可能のモデル
移動体の姿勢のうち、ピッチ若しくはロール又はその両者を、例えば傾斜計などの計測装置により求め、その得られた値よりピッチ若しくはロール又はその両者を定数で与え、方位のみを推定することも可能である。
【0069】
いま、傾斜計などの計測装置より得られたピッチの値、ロールの値をθ,φとし、この値を用いて移動体の方位のみを推定することを考えれば、二重位相差においては、観測モデル式と状態変数ベクトルを、
【数43】

……(43)
【数44】

……(44)
として解けば良い。
【0070】
一重位相差においては、
【数45】

……(45)
【数46】

……(46)
として解けばよい。
【0071】
また、Δtb1若しくはΔtb2又はその両者の値が既知であるならば、その値を与えた観測モデル式を用いて解くことも可能である。
【0072】
(5)ユーザアンテナ数をn個とした場合
次に、前述のようにユーザアンテナ数を2個には限定せず、図3に示すように一般的にn個(1,2,3,…)とする場合について考える。
【0073】
移動体座標系における基準アンテナから各ユーザへの基線ベクトルをbv1,bv2,…,bvnと表す。これらのベクトルは既知である。局地座標系における基準アンテナから各ユーザへの基線ベクトルb,b,bは、
【数47】

……(47)
と表される。
【0074】
よって、二重位相差と姿勢の関係は、
【数48】

……(48)
と表される。
【0075】
これにより、観測モデルと状態変数ベクトルを、
【数49】

……(49)
【数50】

……(50)
として解けばよい。
【0076】
一重位相差の場合は、
【数51】

……(51)
【数52】

……(52)
として解けばよい。
【0077】
なお、基線が1つの場合でも、移動体のロール又はピッチに定数を与えたモデルを使えば同様に計算を行うことができる。
【0078】
[移動体姿勢計測装置の構成・動作]
次に、上述のアルゴリズムを用いた移動体姿勢計測装置について説明する。
【0079】
図4は、本実施形態の移動体姿勢計測装置1の構成を説明するブロック図である。移動体姿勢計測装置1は、衛星受信部2と、処理部3とからなる。
【0080】
信号受信部2は、移動体姿勢計測装置1で姿勢を計測すべき船舶などの移動体に設けられ、それぞれ衛星の信号を受信する基準アンテナ11と、複数個(n個(1,2,3,…))のユーザアンテナ12(第1ユーザアンテナ、第2ユーザアンテナ、…、第nユーザアンテナ)とを備えている。各アンテナ11,12は、衛星信号処理部13にそれぞれ個別に用意された各信号受信機14と接続されている。各信号受信機14では、各アンテナ11,12で受信した信号から周知の手段により、移動体と衛星との位置関係、すなわち、衛星の方位角情報、仰角情報、並びに、各衛星から受信した各アンテナ11,12での衛星信号の搬送波位相の位相情報を算出し、この情報を処理部3に出力する。
【0081】
処理部3は、信号受信部2から受信したから姿勢を算出する。
【0082】
すなわち、概略姿勢等保存部21は、移動体の概略姿勢の情報(また、存在するのであれば、その姿勢について定まっているいくつかの整数値アンビギュイティ)を記憶している。
【0083】
計算部26は各種計算を行う。まず、整数値アンビギュイティ計算部22は、各衛星についての方位角情報、仰角情報、及び各アンテナ11,12での位相情報、並びに概略姿勢等保存部21に記憶されている概略姿勢(また、存在するのであれば、その姿勢について定まっているいくつかの整数値アンビギュイティ)又は概略方位候補算出部28において算出されたaに対する候補(前述の(36)〜(40)式に基づいて計算する)及びそれぞれの候補に対する状態ベクトルの初期値x(xにハット)が与えられていたとき、二重位相差の連立方程式((20)式と(21)式)又は一重位相差の連立方程式((51)式と(52)式)に基づいて二重位相差又は一重位相差を計算し、初期値(前述の初期点x(xにハット))に適当な値を設定して(例えば、前述の概略姿勢を初期値とする)、未知の整数値アンビギュイティを計算する。具体的には、(24)式又は(25)式により計算することができる。
【0084】
また、姿勢推定部23は、非線形推定法を用いて移動体の姿勢を推定する(例えば、前述の非線形最小二乗法を用いて(23)式を収束させることで求める)。なお、姿勢成分はすべて計算で求めるのではなく、概略方位候補算出部28、整数値アンビギュイティ計算部22、姿勢推定部23は、図5に示すように傾斜測定装置30を備えた船体傾斜測定部29を用いてロール、ピッチ又はその両者を測定し、その測定値を補助として用いるようにしてもよい。
【0085】
また、収束判定部24は、姿勢推定部23で判定した移動体の姿勢の値が収束しているか否かを判定し、収束していないときは、整数値アンビギュイティ計算部22、姿勢推定部23による前述の演算を再度行う。
【0086】
収束判定部24で移動体の姿勢の値が収束していると判定したときは、分散推定値計算部25で、移動体の姿勢の値の収束時の分散推定値を計算する(前述の(30)式で計算できる)。
【0087】
姿勢決定部27は、分散推定値計算部25で得られた分散推定値を用いて、得られた整数値アンビギュイティと移動体の姿勢の値とが正しいか否かを検定する。具体的には、前述のとおり、(30)式のσ(σにハット)と閾値σthとを比較することにより行う。また、複数のアンビギュイティの候補がある場合は、候補の中で1番小さい推定分散量と2番目に小さい推定分散量の比をある閾値rthを用いて検定する。決定された整数値アンビギュイティと姿勢計測値は概略姿勢等保存部21に保存され、次回の方位計算のとき又はアンビギュイティの決定のときに使用される。
【0088】
以上説明した移動体姿勢計測装置1によれば、整数値アンビギュイティベクトルをすべて同時に解くことができるので、従来に比べて移動体の姿勢の計算が簡易なものとなる。
【0089】
また、従来のように複数の基線ベクトルを求める必要はない等のため、移動体の姿勢の算出値の精度を向上させることができる。
【0090】
さらに、算出値に対して計算される観測誤差の推定分散量の精度が向上し、算出された姿勢計測値と整数値アンビギュイティベクトルの検定の確度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】一重位相差について説明する概念図である。
【図2】基準アンテナが2個の場合のアンテナ配置について説明する説明図である。
【図3】基準アンテナがn個の場合のアンテナ配置について説明する説明図である。
【図4】本発明の一実施の形態である移動体姿勢計測装置のブロック図である。
【図5】図5の移動体姿勢計測装置の変形例を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0092】
1 移動体姿勢計測装置
11 基準アンテナ
12 ユーザアンテナ
22 整数値アンビギュイティ計算部
23 姿勢推定部
24 収束判定部
25 姿勢決定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
姿勢の計測対象となる移動体に設けられて衛星の信号を受信するn個(2,3,4,…)のアンテナと、
前記各アンテナで受信した衛星の信号から前記移動体と前記衛星との位置関係を算出する位置関係算出手段と、
前記各アンテナで受信した衛星信号の搬送波位相を測定する搬送波位相測定手段と、
前記搬送波位相測定手段で測定した搬送波位相から一重位相差又は二重位相差を計算する位相差計算手段と、
前記移動体の未知の姿勢成分の初期値を算出する初期値算出手段と、
前記各アンテナの位置関係、前記移動体と前記衛星との位置関係、及び前記一重位相差又は二重位相差の関係に基づいて、非線形推定法を利用して前記初期値を収束させることにより、未知の整数値アンビギュイティ及び前記移動体の未知の姿勢成分を算出する姿勢等算出手段と、
を備えている移動体姿勢計測装置。
【請求項2】
前記初期値算出手段は、未知の前記整数値アンビギュイティのうちの幾つか又は全てに対する候補、それぞれの当該候補に対する前記未知の姿勢成分についての初期値を算出し、
前記姿勢等算出手段は、
前記整数値アンビギュイティ候補を既知として前記各候補の姿勢成分の初期値を前記非線形推定法により収束させて前記各候補の残りの未知な整数値アンビギュイティ及び前記各候補に対応する前記未知の姿勢成分を算出する算出手段と、
前記候補の中から正しい候補を選出する選出手段と、
を備えている、
請求項1に記載の移動体姿勢計測装置。
【請求項3】
前記姿勢等算出手段は、前記非線形推定法として非線形最小二乗法を用いる、請求項1又は2に記載の移動体姿勢計測装置。
【請求項4】
前記姿勢等算出手段で算出された整数値アンビギュイティ及び前記移動体の姿勢により前記一重位相差又は二重位相差における誤差推定量を求める誤差推定量算出手段と、
前記誤差推定量を用いた評価指数値により、前記整数値アンビギュイティ及び前記移動体の姿勢の正しさを検定する検定手段と、
をさらに備えている請求項1に記載の移動体姿勢計測装置。
【請求項5】
前記姿勢等算出手段で算出された整数値アンビギュイティ及び前記移動体の姿勢により前記一重位相差又は二重位相差における誤差推定量を求める誤差推定量算出手段をさらに備え、
前記選出手段は、前記誤差推定値を用いた評価指数値により前記候補の中から正しい候補を選出する、
請求項2に記載の移動体姿勢計測装置。
【請求項6】
前記初期値算出手段は、前記姿勢成分のうち傾斜成分を測定し、当該傾斜成分により前記未知の姿勢の初期値を算出する、請求項1又は2に記載の移動体姿勢計測装置。
【請求項7】
前記姿勢等算出手段で算出された前記整数値アンビギュイティを保存する保存手段をさらに備え、
前記姿勢等算出手段は、前記保存手段に保存されている前記整数値アンビギュイティのうち有効なものを既知なものとして利用して、未知の前記整数値アンビギュイティ及び前記移動体の未知の姿勢成分を算出する、
請求項1又は2に記載の移動体姿勢計測装置。
【請求項8】
前記姿勢等算出手段で算出された前記姿勢の値を保存する保存手段をさらに備え、
前記初期値算出手段は、前記保存手段に保存されている前記姿勢の値により前記初期値の算出を行う、
請求項1又は2に記載の移動体姿勢計測装置。
【請求項9】
前記初期値算出手段は、前記n個のアンテナのうち2つのアンテナが構成する基線について観測される前記一重位相差又は二重位相差のうち2つ以上の位相差の前記整数値アンビギュイティに対して、当該2つ以上の位相差に対する当該整数値アンビギュイティを決定したとき、当該2つ以上の位相差及び前記衛星の配置の関係から推定される前記基線の基線長が実際の基線と近くなるものを前記候補として算出し、推定された当該基線を利用して残りの前記未知の整数値アンビギュイティに対する初期値と前記未知の姿勢成分に対する初期値とを求める、請求項2に記載の移動体姿勢計測装置。
【請求項10】
前記初期値算出手段は、前記姿勢成分のうち傾斜成分を測定し、当該傾斜成分により前記2つ以上の位相差に対する整数値アンビギュイティを算出する、請求項9に記載の移動体姿勢計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−64555(P2008−64555A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−241649(P2006−241649)
【出願日】平成18年9月6日(2006.9.6)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】