説明

移動体機構

【課題】 移動体機構の性能を向上させること
【解決手段】 本発明の移動体機構は、移動体を駆動するためのコイルを有する電磁石と、前記電磁石に発生する誘起電圧を計測するサーチコイルと、入力部を有し、前記入力部に入力される指令情報と計測された誘起電圧の積分値とに基づいて前記電磁石をフィードバック制御する制御機構であって、前記コイルに電流を供給するアンプを含む制御機構と、前記アンプの入力部の信号を時間積分する第1積分器を有し、前記指令情報が零を示すときに前記第1積分器の出力を前記制御機構の前記入力部にフィードバックして前記アンプが前記コイルに供給する電流を零とするオフセット補償機構と、を備え、前記制御機構は、前記サーチコイルで計測された誘起電圧を時間積分する第2積分器を有し、前記第2積分器の入力部に前記第2積分器のドリフトを補正するためのドリフト補正信号が入力される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体を位置決めする移動体機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造プロセスに用いられる露光装置としては、ステッパと呼ばれる装置とスキャナと呼ばれる装置が知られている。ステッパは、ステージ装置上の半導体ウエハを投影レンズ下でステップ移動させながら、レチクル上に形成されているパターン像を投影レンズでウエハ上に縮小投影し、1枚のウエハ上の複数箇所に順次露光していくものである。一方、スキャナは、ウエハステージ上のウエハとレチクルステージ上のレチクルとを投影レンズに対して相対移動させ、この相対移動(走査移動)中にスリット状の露光光を照射し、レチクルパターンをウエハに投影するものである。ステッパおよびスキャナは、解像度および重ね合わせ精度の性能面から露光装置の主流と見られている。
【0003】
装置性能の指標の一つに、単位時間当たりに処理されるウエハの枚数を示すスループットが挙げられる。高スループット実現のために、ウエハステージやレチクルステージには、高速移動が要求される。低発熱で高速駆動を可能にした従来のレチクルステージは、特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開2000−106344号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の露光装置では、電磁石に与える指令情報が零であっても、電磁石の駆動コイルに流れる電流には、外乱の影響によってオフセット電流が流れてしまう。これによって、わずかなオフセット電流があるだけでも、力誤差が生じてしまい、正確な力を発生させることができない。
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、例えば、移動体機構の性能を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の側面は、移動体を駆動するためのコイルを有する電磁石と、前記電磁石に発生する誘起電圧を計測するサーチコイルと、入力部を有し、前記入力部に入力される指令情報と計測された誘起電圧の積分値とに基づいて前記電磁石をフィードバック制御する制御機構であって、前記コイルに電流を供給するアンプを含む制御機構と、
前記アンプの入力部の信号を時間積分する第1積分器を有し、前記指令情報が零を示すときに前記第1積分器の出力を前記制御機構の前記入力部にフィードバックして前記アンプが前記コイルに供給する電流を零とするオフセット補償機構と、を備え、前記制御機構は、前記サーチコイルで計測された誘起電圧を時間積分する第2積分器を有し、前記第2積分器の入力部に前記第2積分器のドリフトを補正するためのドリフト補正信号が入力されることを特徴とする。
【0007】
本発明の第2の側面は、移動体を駆動するためのコイルを有する電磁石と、入力部を有し、前記入力部に入力される指令情報に基づいて前記電磁石をフィードバック制御する第1制御機構であって、前記コイルに電流を供給するアンプを含む第1制御機構と、前記指令情報が零を示すときには前記アンプが前記コイルに供給する電流を零とする前記オフセット補償機構と、前記電磁石と前記移動体との間隙を計測するギャップセンサと、前記ギャップセンサで計測された間隙に基づいて補正係数を算出するギャップ補正器と、前記指令情報に基づいて前記電磁石に与える電流を算出する電流算出器と、前記電流算出器によって算出された前記電流に前記補正係数を乗ずる乗算器と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、例えば、移動体機構の性能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。
[第1の実施形態]
図1に、本発明の好適な第1の実施形態に係る移動体機構を用いたステージ装置の構成を示す。
【0010】
このステージ装置では、不図示のベース上にガイド102が固定されている。ガイド102に対して1軸方向に滑動自在に工作物を載置する移動体としてのステージ101が支持されている。ステージ101の片方の側面には、リニアモータ可動子103が固定されている。リニアモータ可動子103は、4極の磁石とこの磁石の磁束を循環させるためのヨークとを一体にしたものが、上下に配置されている。また、リニアモータ可動子103には、不図示のベースに固定されたリニアモータ固定子104が非接触で対面している。リニアモータ固定子104は、複数のコイルを一列に並べたものを固定子枠で固定したもので構成される。
【0011】
リニアモータは、一般的なブラシレスDCモータの展開タイプであり、磁石とコイルの相対的な位置関係に応じて、駆動コイル及びその電流の方向を切り替えて、所望の方向に所望の力を発生するものである。ステージ101上には、不図示のレーザ干渉計用のコーナーキューブが設けられており、不図示のレーザ干渉計によってステージ101の移動方向の変位が計測される。ステージ101は、不図示の移動指令器からの指令とステージ101の変位計測値とに基づいて、不図示のステージ制御系によって位置決め制御される。さらに、ステージ101のもう片方の側面には、磁性体板105が設けられている。この磁性体板105を両側から挟むようにして、電磁石本体106aと電磁石本体106bとを含む1対の電磁石ユニットが設けられている。
【0012】
1対の電磁石ユニットは、電磁石搬送体120上のナット部107に固定されている。ナット部107は、モータ108と送りネジ109によって、ステージ101と略同一方向に移動することができる。その結果、1対の電磁石ユニットは、モータ108と送りネジ109によってステージ101と略同一方向に移動することができる。また、送りネジ109の一端は、軸受け110によって支えられている。これらのモータ108、送りねじ109、及び軸受け110もまた、不図示のベース上に固定されている。また、1対の電磁石ユニットを構成する各々の電磁石本体106a、106bと磁性体板105との間は、わずかな空隙を介して互いに非接触に保たれている。各々の電磁石本体106a、106bは、E型のヨークと中央の歯に設けられた駆動コイルから構成され、駆動コイルに電流を流すとヨークと磁性体板105との間に吸引力が働くようになっている。各々の電磁石本体106a、106bの駆動コイルは、別々に電圧または電流を制御できるようになっている。その結果、両コイルに流す電圧電流を調整することによって、各々の電磁石と磁性体板105との間に働く吸引力を調整することができ、さらに、1対の電磁石本体106a、106bから磁性体板105に作用する合力とその合力の方向とを調整することができる。
【0013】
電磁石搬送体120は、不図示の位置センサによってその移動方向の変位が計測される。また、電磁石搬送体120は、不図示の電磁石搬送体制御系によって位置決め制御される。電磁石搬送体制御系は、電磁石搬送体120の加減速力を適宜フィードフォワードすることによって、加減速時の電磁石搬送体120の位置決め偏差を小さく抑えることができる。ステージ101を移動させるときには、ステージ101にはフィードバック系を用いた位置決め制御が、電磁石搬送体120にはフィードフォワード及びフィードバック系を用いた位置決め制御が、電磁石本体106a、106bにはステージ101に加減速力を伝えるためのフィードフォワード系を用いた位置決め制御が、それぞれ行われるのが望ましい。その結果、ステージ101のリニアモータには、ステージ101自体の加減速力を発生させる必要がなくなり、精密な位置決めに必要な力をフィードバック制御するだけでよいため、発熱を非常に小さく抑えることができる。
【0014】
図4は、図1の一対の電磁石ユニットのいずれか一方の電磁石制御系を示す図である。電磁石で発生する力は、電磁石と磁性体板との間の磁束の2乗に比例した値となる。電磁石制御系には、加減速力に応じてその絶対値の平方根の次元となる磁束の次元を持つ指令情報(以下「磁束指令」という。)が不図示のステージ全体のシーケンス制御を司る主制御器から送られる。電磁石ヨーク部301には、駆動コイル302とともにサーチコイル303が設けられており、電磁石の出力情報として誘起電圧が計測される。この誘起電圧は、第2積分器(gはゲイン)304によって時間積分することにより、磁束の次元となる(以下「検出磁束」という。)。サーチコイル303の巻き数、サーチコイル303を設けた部分の電磁石ヨーク部301の断面積、及び第2積分器304のゲインgから所望の力を発生するときの磁束の大きさが算出でき、磁束指令もこの値が入力される。
【0015】
電磁石制御系は、入力部として加算器305を有し、入力された磁束指令と検出磁束の差分である磁束誤差を加算器305で算出し、適宜のゲインをゲイン部306で乗じて駆動アンプ307にその信号を送る。駆動コイル302は、駆動アンプ307により電圧電流が制御され、電磁石には所望の磁束が発生する。すなわち、電磁石には、所望の吸引力が発生する。なお、電磁石制御系には、装置立ち上げ時に検出磁束を零にするための積分器リセット信号S1の入力系が設けられている。第2積分器304へ積分器リセット信号S1が入力されると、第2積分器304の出力は零となる。
【0016】
しかし、電磁石制御系には、次のような外乱が加わる。外乱Aは、駆動コイル302の電流にオフセットを与えてしまう外乱である。この外乱Aは、各部の外乱をまとめて等価外乱として表現したものであり、その内訳は磁束指令値のオフセット、差分器およびゲイン部306のオフセット、駆動アンプ307のオフセットである。外乱Bは、第2積分器304にドリフトを生じさせる外乱を等価的に表したものである。理想的な状態としては、磁束指令が零を示すときには、駆動コイル302に流れる電流が零、検出磁束が零、磁束誤差が零、となることである。この理想状態がこれらの外乱A、Bにより崩れてしまう。例えば、電磁石に所望の力を発生させるとき(磁束指令が零を示さないとき)に駆動コイル302に流れる電流をE、磁束指令が零を示すときにこれらの外乱により流れてしまうオフセット電流をeとする。初期のオフセット電流は、制御時もそのまま保持される。また、吸引力は、電流の2乗に比例するので、力誤差は、
(E+e)−E=2Ee+e…(1)
に比例したものとなる。eの次元を無視とすると、磁束指令が零を示すときには力誤差が零であるが、最大力を発生させる時点での誤差は2Eeの項が影響する。従って、わずかなオフセット電流があっても力誤差に影響してしまう。
【0017】
図2では、これらの等価外乱A、Bの影響を取り除くことができる。サーチコイル303からの誘起電圧を時間積分する第2積分器304の入力口には、ドリフト補正信号S2の入力端が設けられている。このドリフト補正信号S2は、主制御器により次のように前もって算出しておく。ステージを静止しておき、電磁石の駆動コイル302をショートしておく。こうすると、磁束の変化は起きないので、サーチコイル303からの信号は零となる。第2積分器304を一旦リセットした後、ある時間第2積分器304を動作させてその出力を観察する。本実施形態の第2積分器304のドリフト特性として、積分動作時間と積分器出力変動量とから等価外乱Bが算出できる。ドリフト補正信号S2としては、この外乱Bを打ち消すべく、例えば、外乱Bを示す信号と絶対値が同じで符号が反対の値を用いればよい。この等価外乱Bの変動要因としては、電気素子の熱的な特性変動が考えられる。この変動の速さは、ゆっくりとしたものであると考えられる。従って、ある有限な時間内においては、第2積分器304のドリフトはほぼ抑えることができる。後述するが、このドリフトの補正にわずかな誤差が生じていてもよい。勿論、第2積分器304のドリフトがはじめから問題とならない程度であれば、この機能は省いてもよい。
【0018】
図2の点線内の部分がオフセット外乱Aに対処するためのオフセット補償機構201である。磁束指令が零を示すときには、駆動アンプ307への入力端の値を第1積分器201bで積分し(ゲインg)、加算器305に負帰還を行なう。このループの作用により、磁束指令が零を示すときには、駆動アンプ307の入力端の値は常に零となる。なお、駆動アンプ307自体にもオフセットを持つことが考えられる。すなわち、零指令を駆動アンプ307に入力しても駆動コイル302に電流が供給されてしまい、駆動コイル302の電流を完全に零とするには駆動コイル302の入力端に或る値を入れなければならないときである。この値は、前もって駆動コイル302の特性を調べておき、オフセット補償機構201へ駆動アンプオフセット調整S3として主制御器から送られる。よって、磁束指令が零を示すときに、駆動コイル302に流れる電流を確実に零にすることができる。このループにより、先に述べた積分器ドリフトの補正残りも打ち消すことができる。すなわち、積分器ドリフトによる加算器305へのオフセットの入力を許す系になっている。
【0019】
駆動タイミング指令S4には、磁束指令が零を示すか否かの信号が送られる。磁束指令が零を示さないときは、駆動タイミング指令S4によってホールドスイッチ201a(第1ホールドスイッチ)が作用し、実質的に点線内のループが切られ、直前の値がホールドされて加算器305に送られる。駆動が終了して磁束指令が零を示すと、再び駆動タイミング指令S4によってホールドスイッチ201aが作用し、オフセット補償機構(点線内)201のループが構成され、駆動コイル302の電流が零となる。このようにして第2積分器304のドリフトによる影響を無くし、駆動コイル302のオフセット電流を零にすることができるので、磁束指令通りの磁束を発生することができ、結果として所望の力を発生することができる。しかしながら、この方法によると、わずかなドリフトは取りきれないで残る。従って、長期間に渡ってステージ駆動を行なっていると、ドリフトのために第2積分器304の出力の動作範囲を超えるオーバーフローを起こす可能性がある。これを防ぐために、ステージの移動が行なわれない時間を見計らって、主制御器からの指令により第2積分器304のリセット動作を行なう。
[第2の実施の形態]
以下、本発明の第2の実施の形態に係る移動体機構を用いたステージ装置の構成について説明する。図7は、本発明の第2の実施の形態に係るステージ装置の概略構成を示す概念図である。ステージ装置は、概略的には、第1の実施の形態に係るステージ装置のうち一部の機能を変更した構成を有する。即ち、本発明の第2の実施の形態に係るステージ装置は、第1の実施の形態に係るステージ装置のサーチコイル303に代わって、電磁石本体106(電磁石本体106a及び106bのいずれか一方)と磁性体板105との間隙を計測するギャップセンサ611(ギャップセンサ611a及び611bのいずれか一方)が設けられている。
【0020】
図8は、図7の一対の電磁石ユニットのいずれか一方の電磁石制御系を示す図である。この電磁石制御系には、図7のステージ101の加減速に基づいて、所要の指令情報(力指令)が入力される。電磁石が発生する吸引力は、駆動コイル302に流れる電流の2乗に比例するため、電磁石制御系内の電流算出器701は、指令情報(力指令)に基づいて、電磁石本体106の駆動コイル302に流すべき電流値を算出する。駆動電流アンプ702は、電流算出器701で算出された電流値(電流指令)に基づいて、駆動コイル302の駆動を行なう。電磁石に発生する吸引力は、電磁石本体106と磁性体板105との間隙をhとすると、およそ1/hに比例する。この比例係数は、予め測定しておくのが望ましい。電磁石本体106の近傍には、ギャップセンサ611が設けられている。ギャップセンサ611は、電磁石からの出力情報としての電磁石本体106と磁性体板105との間隙を計測し、ギャップ補正器703によって補正係数αが算出される。電磁石制御系の乗算器704は、電流算出器701により算出された電流値(電流指令)に補正係数αを乗ずる操作を行う。これらの構成によって、ギャップ変動に対する吸引力の変動を抑えることができる。
【0021】
図3は、本発明の第2の実施の形態に係る電磁石制御系を示す図であり、概略的には、第1の実施の形態に係る図2の電磁石制御系のうち一部の機能を変更した構成を有する。即ち、第1の実施の形態に係る電磁石制御系のサーチコイル303、第2積分器304に代わって、それぞれギャップセンサ611、ギャップ補正器703が設けられている。また、第1の実施の形態に係る電磁石制御系のゲイン306に代わって、乗算器704が設けられており、これによって加算器305の出力にギャップ補正器703で算出された補正係数αを乗ずる操作が行われる。
【0022】
図2と同様に、外乱Aは、電流算出器701や駆動電流アンプ702などで生じる駆動コイル302のオフセット電流を与える外乱を等価的に示したものである。図3の点線内の部分が外乱Aに対処するためのオフセット補償機構201である。力指令が零を示すときには、駆動電流アンプ702への入力端の値を第1積分器201bで積分し(ゲインg)、加算器305に負帰還される。オフセット補償機構201のループの作用によって、力指令が零を示すときには、駆動電流アンプ702の入力端の値は常に零となる。力指令が零を示すときには、ホールドスイッチ201aに駆動タイミング指令S4として例えば零が送られ、第1積分器201bからの出力が加算器305に送られる。力指令が零を示さないときは、ホールドスイッチ201aに駆動タイミング指令S4として例えば1が送られて、実質的に点線内のループが切られ、ループが切られる直前にホールドスイッチ201aによって保持された第1積分器201bの出力が、加算器305に送られる。なお、駆動電流アンプ702自体のオフセット値は、予め駆動電流アンプ702の特性を調べておき、図3に示すように主制御器からオフセット補償機構201に対し、駆動アンプオフセット調整S3の信号を送ることによって取り除くことができる。従って、力指令が零を示すときに、駆動コイルに流れる電流を確実に零にすることができる。この駆動アンプオフセット調整S3の信号としては、例えば、駆動電流アンプ702の特性を示す信号と、絶対値が同じで符号が反対のものを用いればよい。
【0023】
[第3の実施形態]
図5に、第3の実施形態に係る電磁石制御系の構成を示す。基本的な磁束のフィードバック系およびオフセット補償機構201は、図2と同様である。図5のドリフト補償機構401において、磁束指令が零を示すときには、第2積分器304の出力である検出磁束にゲイン(g)401aを乗じて、第2積分器304の入力端に負帰還を行なう。この時の第2積分器304とゲイン要素401aとを含む閉ループの伝達関数t(s)は、
【0024】

と、1次遅れの形となる。
【0025】
よって、非常に低い速度の変動を持った外乱Bがこの系に加わったときの定常状態での応答は、ほぼ一定値となり、ドリフトは抑えられる。この伝達関数t(s)の時定数については、外乱Bの変動よりも早ければよく、それほど小さな値は必要とされない。この時定数は、1秒程度の時定数となるようなゲインにgを設定すればよい。第2積分器304の出力には、定常的にある値が出力されうるが、図2の制御系と同様にオフセット補償機構201の働きにより、この値は除去される。
【0026】
磁束指令が零を示さないときには、駆動タイミング指令S5がホールドスイッチ401b(第2ホールドスイッチ)に与えられて、ドリフト補償機構401のループが実質的に切られ、第2積分器304の入力端への帰還項は直前の値にホールドされる。この動作により、加減速中は第2積分器304のドリフトが抑えられ、かつ、第2積分器304は純粋な積分器として作用する。なお、駆動タイミング指令S5は、上記の駆動タイミング指令S4と同様の指令信号を用いることが可能である。
【0027】
駆動が終了して磁束指令が再び零になったときは、駆動タイミング指令S5がホールドスイッチ401bに与えられて、再びドリフト補償機構401の閉ループが閉じられる。したがって、外乱Bに変動があっても磁束指令が零を示すときに自動的にドリフトが抑えられることになり、長期間のステージ駆動を行なってもドリフト成分の全部または一部が蓄積されて第2積分器304がオーバーフローすることはない。上記の第1の実施形態で説明した図2の制御系に比べて、ドリフト補償機構401のループを閉じるだけでドリフトの補正が行なわれるので、予めドリフト補正値を求める作業が必要とされない。ただし、このドリフト補償機構を用いる場合は、第2積分器304の出力のオフセットを容認するので、図2に示したオフセット補償機構201の使用が必要となる。
【0028】
[第4の実施形態]
図6に、第4の実施形態に係る電磁石制御系の構成を示す。図6は、第3の実施形態で説明した図5の変形例である。ドリフトを補正するには、ドリフト成分が含まれている信号を用いればよい。オフセット補償機構201の信号には、ドリフト成分が含まれている。また、オフセット外乱Aの変動もドリフト外乱Bと同様に非常にゆっくりとした系であるので、オフセット補正信号の動的な成分は、ほとんどがドリフト成分である。よって、図6におけるオフセット補償機構201内のホールドスイッチ201aからの出力(駆動アンプ307の入力部の信号を第1積分器201bで積分した信号)にドリフト補償機構501のゲイン(g)501aを乗じて第2積分器304の入力端に負帰環する構成を用いても、ドリフトの補正およびオフセット補正を行なうことができ、磁束指令による指令通りの吸引力を電磁石に発生させることができる。なお、ゲイン(g)501aは、第3の実施形態におけるゲイン(g)401aと同様の構成要素を用いることが可能である。
本実施形態の構成の利点は、検出磁束をドリフト補償機構501に取り込む必要が無いことである。例えば、デジタル計算機を利用して制御系を組む際に、デジタル系への取り込みの口数を減らすことができる。図5の構成でも図6の構成でも性能は同様であるが、磁束指令が零を示すときにおける第2積分器304の出力およびオフセット補正値の平衡値が異なる。
【0029】
以上説明したように、上記の実施形態1〜4における電磁石制御系によれば、電磁石で発生する吸引力と物理的相関のある磁束を検出してフィードバック制御を行なっているので、高精度に吸引力を制御できる。また、磁束検出系での積分器のドリフトや非駆動時の駆動コイルのオフセット電流を排除する構成となっているので、電気系の外乱に対して強固な制御系となっている。さらに、加減速力の伝達に電磁継ぎ手を用いた場合は、その電磁継ぎ手の制御系の構成を提供することができる。
【0030】
なお、上記の実施形態1〜4におけるステージ装置の可動部は、半導体露光装置におけるウエハステージ系のウエハを搭載するステージ構造体、および/または、レチクルステージ系のレチクルを搭載するステージ構造体として用いることが可能である。
【0031】
従って、本発明の好適な実施の形態に係る移動体機構によれば、電磁石に正確な力を発生させることができる。また、本発明の好適な実施の形態に係る移動体機構によれば、低発熱かつ高精度のステージ等の移動体機構が得られる。また、本発明の好適な実施の形態に係る移動体機構を制御するための電磁石制御系によれば、加減速力等の駆動指令の伝達に、高精度な制御系、かつ外乱に対して強固な制御系を提供することが可能となる。
【0032】
[他の実施形態]
図9は、本発明の好適な実施の形態に係る移動体機構を半導体製造プロセスに用いられる露光装置に適用したときの構成を示す概略図である。図9において、照明光学系901から出た光は原版であるレチクル902上に照射される。レチクル902はレチクルステージ903上に保持され、レチクル902のパターンは、縮小投影レンズ904の倍率で縮小投影されて、その像面にレチクルパターン像を形成する縮小投影レンズ904の像面は、Z方向と垂直な関係にある。露光対象の試料である基板905表面には、レジストが塗布されており、露光工程で形成されたショットが配列されている。制御対象としての基板905は、移動体としてのステージ101上に載置されている。ステージ101は、基板905を固定するチャック、X軸方向とY軸方向に各々水平移動可能な駆動器としてのXYステージ等を有する。ステージ101の位置情報は、ステージ101に固着されたミラー907に対して、レーザ干渉計908により計測されている。本発明の好適な実施形態に係る移動体機構によれば、ステージ101を高精度に駆動することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の好適な第1の実施形態に係るステージ装置の構成を示す図である。
【図2】図1のステージ装置の電磁石制御系の構成を示す図である。
【図3】本発明の好適な第2の実施形態に係るステージ装置の電磁石制御系の構成を示す図である。
【図4】図3で用いた電磁石制御系のうち、制御系の基本構成と制御系に加わる外乱を表す図である。
【図5】本発明の好適な第3の実施形態に係るステージ装置の電磁石制御系の構成を示す図である。
【図6】本発明の好適な第4の実施形態に係るステージ装置の電磁石制御系の構成を示す図である。
【図7】レチクルステージの構成を示す図である。
【図8】図7の一方の電磁石本体の制御系を示す図である。
【図9】露光装置の構成を示す概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体を駆動するためのコイルを有する電磁石と、
前記電磁石に発生する誘起電圧を計測するサーチコイルと、
入力部を有し、前記入力部に入力される指令情報と計測された誘起電圧の積分値とに基づいて前記電磁石をフィードバック制御する制御機構であって、前記コイルに電流を供給するアンプを含む制御機構と、
前記アンプの入力部の信号を時間積分する第1積分器を有し、前記指令情報が零を示すときに前記第1積分器の出力を前記制御機構の前記入力部にフィードバックして前記アンプが前記コイルに供給する電流を零とするオフセット補償機構と、を備え、
前記制御機構は、前記サーチコイルで計測された誘起電圧を時間積分する第2積分器を有し、
前記第2積分器の入力部に前記第2積分器のドリフトを補正するためのドリフト補正信号が入力されることを特徴とする移動体機構。
【請求項2】
前記第2積分器のドリフトを検出し、該検出結果にもとづいて前記ドリフト補正信号を前記第2積分器の入力部に加えるドリフト補償機構を備えることを特徴とする請求項に記載の移動体機構。
【請求項3】
前記ドリフト補償機構は、前記第2積分器の出力にゲインを乗じて前記第2積分器の入力部フィードバックするように構成されていることを特徴とする請求項に記載の移動体機構。
【請求項4】
前記ドリフト補償機構は、前記ドリフトを示す信号と絶対値が略同一で、かつ、符号が反対の信号を前記第2積分器に加えるよう構成されていることを特徴とする請求項に記載の移動体機構。
【請求項5】
前記オフセット補償機構は、前記第1積分器の出力が入力され、前記指令情報が零であるか否かに応じて切り替えられる第1ホールドスイッチを有し、
前記第1ホールドスイッチは、前記指令情報が零であるときに前記第1積分器の出力を前記制御機構の入力部にフィードバックし、前記指令情報が零でないときに該フィードバックのループを切るとともに直前に保持された前記第1積分器の出力を前記制御機構の入力部に与えることを特徴とする請求項3に記載の移動体機構。
【請求項6】
前記ドリフト補償機構は、前記第2積分器の出力が入力され、前記指令情報が零であるか否かに応じて切り替えられる第2ホールドスイッチを有し、
前記第2ホールドスイッチは、前記指令情報が零であるときに前記第2積分器の出力にゲインを乗じて前記第2積分器の入力部にフィードバックし、前記指令情報が零でないときに該フィードバックのループを切るとともに直前に保持された前記第2積分器の出力を前記第2積分器の入力部に与えることを特徴とする請求項5に記載の移動体機構。
【請求項7】
前記オフセット補償機構は、前記第1積分器の出力が入力され、前記指令情報が零であるか否かに応じて切り替えられる第1ホールドスイッチを有し、前記第1ホールドスイッチは、前記指令情報が零であるときに前記第1積分器の出力を前記制御機構の入力部にフィードバックし、前記指令情報が零でないときに該フィードバックのループを切るとともに直前に保持された前記第1積分器の出力を前記制御機構の入力部に与え、
さらに、前記第1ホールドスイッチの出力にゲインを乗じて前記第2積分器の入力部にフィードバックするドリフト補償機構を備えることを特徴とする請求項1に記載の移動体機構
【請求項8】
移動体を駆動するためのコイルを有する電磁石と、
入力部を有し、前記入力部に入力される指令情報に基づいて前記電磁石をフィードバック制御する第1制御機構であって、前記コイルに電流を供給するアンプを含む第1制御機構と、
前記指令情報が零を示すときには前記アンプが前記コイルに供給する電流を零とする前記オフセット補償機構と、
前記電磁石と前記移動体との間隙を計測するギャップセンサと、
前記ギャップセンサで計測された間隙に基づいて補正係数を算出するギャップ補正器と、
前記指令情報に基づいて前記電磁石に与える電流を算出する電流算出器と、
前記電流算出器によって算出された前記電流に前記補正係数を乗ずる乗算器と、を備えることを特徴とする移動体機構。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2009−89598(P2009−89598A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−1066(P2009−1066)
【出願日】平成21年1月6日(2009.1.6)
【分割の表示】特願2003−128227(P2003−128227)の分割
【原出願日】平成15年5月6日(2003.5.6)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】