説明

移動体用位置推定装置

【課題】道路形状や周辺環境に影響されずに高精度に移動体の位置を推定する移動体用位置推定装置を提供すること。
【解決手段】移動体に搭載され、移動体の位置を推定する移動体用位置推定装置に、移動体に搭載された慣性航法センサ群(加速度センサ、ヨーレートセンサなど)の出力に基づいて移動体の位置を推定する第一の推定手段と、少なくともノード情報を含む地図情報を記憶した記憶手段と、ノード情報から予測された移動体の予想移動軌跡に基づいて移動体の位置を推定する第二の推定手段と、第一の推定手段により推定された移動体位置と第二の推定手段により推定された移動体位置とを合成処理して移動体の最終推定位置を決定する合成手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、移動体に搭載され、該移動体の位置を推定する移動体用位置推定装置に係り、特に、道路形状や周辺環境に影響されずに高精度に移動体の位置を推定する移動体用位置推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば車両などの移動体に搭載され、該移動体の位置を推定する移動体用位置推定装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような装置は、典型的には、ナビゲーションシステムに含まれている。
【0003】
ここで、移動体の位置を検出・推定する手法としては、GPS(Global Positioning System;全地球測位システム)を利用して当該移動体の絶対座標を取得する手法が周知である。
【0004】
また、GPS衛星からの電波受信状態が良好でないときに備えて、加速度センサやヨーレートセンサなどの慣性航法センサ群を移動体に搭載しておき、GPSを利用して移動体の位置を検出できないときには慣性航法センサ群の出力から移動体位置を推定する手法も周知である。
【0005】
既存のGPSは、RTK(Real Time Kinematic)−GPSなどの高精度GPSよりも測位精度が悪く、数十メートル程度の誤差を生じ得る。また、慣性航法センサ群は、いわゆるドリフトにより時間の経過と共に精度が劣化するという性質を有する。
【0006】
そこで、従来のナビゲーションシステムにおいては、検出・推定した移動体位置を予め保持している地図情報に照らした際に移動体位置が道路上に位置しなかった場合、いわゆるマップマッチング処理により道路上のいずれかの位置へ移動体位置を補正した上でユーザに提示するのが一般的である。
【0007】
この点、特許文献1には、GPS電波を受信できないときに慣性航法センサを利用して移動体の位置及び速度を計算する場合、慣性航法センサのセンサ誤差及び出力誤差を地図情報に基づいて補正する装置が開示されている(段落[0031]〜[0040]記載の「実施の形態2」参照)。
【特許文献1】特開平9−189564号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来のマップマッチング処理及び上記特許文献1に開示された地図情報を用いた補正処理はいずれも、地図情報が正確であるということを前提として、検出・推定された移動体位置の精度を地図情報の精度に揃える処理であって、結果として得られる補正後の移動体位置の精度は地図情報の精度を超えるものではない。
【0009】
地図情報は、一般的に、複数のノードと、ノード間を結ぶ複数の直線リンクとから構成される。すなわち、従来のマップマッチング処理とは、検出・推定された移動体位置がいずれのリンク上にも位置しない場合に、当該移動体位置をいずれかのリンク上のいずれかの地点へ修正する処理に他ならない。
【0010】
ところが、地図情報を記憶しておく記憶媒体の容量は有限であることから、地図情報にはノードが設定されるべきすべての道路形状変極点がノードとして登録されているわけではなく、ある程度「間引かれて」設定されている。すなわち、地図情報に含まれるノードとリンクによって描かれる道路形状は、実際の道路形状を必ずしも完全に再現したものではない。
【0011】
このように必ずしも精度が良くない地図情報(ノード&リンク情報)を基準となる正しい情報であるものとした従来のマップマッチング処理や上記特許文献1に開示された補正処理によれば、補正後の移動体位置が依然として比較的大きい誤差を含んでいる可能性があると共に、検出・推定された移動体位置の精度がマップマッチングなどの補正処理により一層劣化する可能性すらある。
【0012】
一例を図1に示す。いま、図1(a)に示すように、実際の道路形状Rに対して、地図情報ではノードNとノードNが設定されており、破線で示したノードNは道路が湾曲している地点であるにもかかわらず例えば記憶媒体の容量の制限などに起因して地図情報内にはノード情報として設定されなかったものとする。すると、同じく破線で示したリンクL及びLもリンク情報として設定されないことになり、地図情報にはノードNとノードNを直線で結ぶリンクLが設定されることになる。すなわち、この地図情報によれば、道路形状はリンクLに沿っているものとして認識され、表示されることになる。
【0013】
このような地図情報を基準としてマップマッチング処理を行うと、例えば図1(b)に示すように、GPSや慣性航法センサ群により検出・推定された移動体位置が位置Pであっても、或いは、実際の道路上の一点である位置Pであったとしても、マップマッチング処理により図示したようなリンクL上の移動体位置Vに補正されてしまうことになる。
【0014】
従来、マップマッチング処理の精度を向上させる手法は様々なものが提案されているが、上記のように検出・推定された移動体位置を地図情報に含まれるいずれかのリンク上のいずれかの地点へ修正することを固有の目的とするマップマッチング処理では、原理上、細部にどのような具体的手法を採用したとしても地図情報の精度に収束してしまうことは内在的な制約として避けられない。
【0015】
たとえ検出・推定された移動体位置が道路上に位置するように補正され、ナビゲーションシステムにおける表示の問題が見かけ上解決されたとしても、移動体位置の精度が悪いと様々な不都合を生じる。
【0016】
例えば、高精度GPSを車両に搭載し、数センチメートル程度の誤差しか含まれない高精度な位置検出を行って、検出された車両位置を様々な車両制御に利用するいわゆるナビゲーションシステム協調運転支援システム(例えば、警報や制動介入による交差点一時停止支援制御など)においては、GPS電波の受信状態が悪くなっても車両制御継続のために車両位置を高精度に検出し続けなければならない。このような場合に、上記特許文献1に開示された装置のように慣性航法センサ及びその出力を地図情報で補正する手法では、自車両位置を基礎とした車両制御を継続し難いほど位置推定精度が劣化する可能性がある。
【0017】
本発明はこのような課題を解決するためのものであり、移動体の位置検出・推定精度を地図情報精度に揃えてしまう従来のマップマッチングとは根本的に異なる概念により、道路形状や周辺環境に影響されずに高精度に移動体の位置を推定する移動体用位置推定装置を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、移動体に搭載され、該移動体の位置を推定する移動体用位置推定装置であって、上記移動体に搭載された慣性航法センサ群(加速度センサ、ヨーレートセンサなど)の出力に基づいて当該移動体の位置を推定する第一の推定手段と、少なくともノード情報を含む地図情報を記憶した記憶手段と、上記ノード情報から予測された上記移動体の予想移動軌跡に基づいて当該移動体の位置を推定する第二の推定手段と、上記第一の推定手段により推定された移動体位置と、上記第二の推定手段により推定された移動体位置とを合成処理して上記移動体の最終推定位置を決定する合成手段とを有する移動体用位置推定装置である。
【0019】
この一態様において、上記第一の推定手段は、上記合成手段により上記移動体の最終推定位置が決定されるたびに、最新の最終推定位置を新たなスタート地点として上記慣性航法センサ群の出力に基づいて移動体位置を推定する。
【0020】
この一態様においては、A)道路情報に含まれるノード情報とリンク情報に関して、既述のような「ノード飛び」によりリンク情報は比較的精度が良くないが、道路情報に含まれているノード情報自体は比較的精度が良いという考察、及び、B)慣性航法センサ群の出力に関して、B−1)時間がたつほど誤差が累積されて実際値との乖離が大きくなるが、基準となるスタート地点からあまり時間が経過していない段階では誤差が比較的小さいという考察、及び、B−2)瞬間瞬間での移動体の進行方向について比較的精度良く推定できるという考察、を前提としている。
【0021】
すなわち、この一態様においては、隣接するノード間の実際の道路形状がリンク情報で表される直線ではない場合であっても、上記合成手段が、慣性航法センサ群出力から推定した移動体推定位置も考慮することによって、当該ノード間の実際の道路形状が慣性航法センサ群出力から求めた移動体進行方向から推定された上で最終的な移動体推定位置を判断できるようにすることができる。
【0022】
この一態様によれば、移動体の位置を推定する際に、従来のマップマッチングのように移動体推定位置をいかなる場合でも道路情報に含まれるいずれかのリンク上へ持ってくる考えを排除し、道路情報により推定された移動体位置と慣性航法センサ群出力より推定された移動体位置とを総合的に判断することによって、両推定手法のうち精度が比較的良い部分同士のみを組み合わせ、すなわち道路情報に含まれるノード情報と慣性航法センサ群出力より推定される移動体進行方向とに基づいた移動体位置推定を実現することができるため、従来のマップマッチング手法よりも大幅に精度良く移動体位置を推定することができる。
【0023】
なお、この一態様においては、高精度GPSが利用可能であれば誤差が非常に小さい移動体絶対位置が検出可能であることに鑑み、上記移動体用位置推定装置が通信(例えば高精度GPS)を利用して上記移動体の位置の絶対座標を検出する位置検出手段を更に有する場合には、上記第一の推定手段、上記第二の推定手段、及び上記合成手段は、上記位置検出手段が上記通信を実行できないとき(GPS電波の受信状態が悪いときなど)のみ作動するように設定することが好ましい。
【0024】
この場合、上記第二の推定手段は、例えば、上記ノード情報のうち上記移動体の周辺のノードをa)直線で又はb)所定の補間方法(例えば、クロソイド補間、スプライン補間、など)に基づいて曲線で結んで推定道路形状線と引き、上記位置検出手段によって検出された当該移動体の位置と上記推定道路形状線との道路幅方向のずれ量を求め、上記推定道路形状線を該ずれ量だけずらした線を上記予想移動軌跡とし、1)最後に移動体位置を推定したときから上記移動体の移動距離を検出する距離検出手段により検出された移動距離だけ上記予想移動軌跡に沿って移動した位置を新たな移動体位置として推定する、或いは、2)上記第一の推定手段により推定された移動体位置から上記予想移動軌跡に下ろした垂線と該予想移動軌跡との交点を移動体位置として推定することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、道路形状や周辺環境に影響されずに高精度に移動体の位置を推定する移動体用位置推定装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら実施例を挙げて説明する。なお、GPSを利用した位置検出装置及び慣性航法センサ群出力に基づいて位置推定装置の基本概念、主要なハードウェア構成、作動原理、及び基本的な制御手法等については当業者には既知であるため、詳しい説明を省略する。
【実施例】
【0027】
以下、図2〜6を用いて、本発明の一実施例に係る移動体用位置推定装置について説明する。本実施例では、代表的な一例として、移動体が車両であるものとする。
【0028】
図2は、車両に搭載された本実施例に係る移動体用位置推定装置200の概略構成図である。
【0029】
移動体用位置推定装置200は、自車両の現在位置の絶対座標を検出する手段として、例えばRTK−GPSなどの高精度GPS装置201を有する。
【0030】
移動体用位置推定装置200は、更に、自車両の車速を検出する手段として、車輪速センサ202を有する。
【0031】
移動体用位置推定装置200は、更に、慣性航法センサ群203を有する。本実施例において、慣性航法センサ群203は、一例として、ヨーレートセンサと加速度センサ(前後、左右、上下)とを含むものとする。
【0032】
移動体用位置推定装置200は、更に、地図情報を予め記憶した記憶部204を有する。本実施例において、記憶部204は任意の記憶媒体でよい。また、記憶部204に記憶された地図情報は、例えば通信を利用して、適宜最新のデータに更新されることが好ましい。
【0033】
移動体用位置推定装置200は、更に、高精度な自車両の位置及び向きを推定する演算部205を有する。演算部205は、例えば、マイクロプロセッサを含む。
【0034】
本実施例において、演算部205は、自車両の位置と向きを高精度に算出又は推定し、その結果を自車両現在位置の情報を利用する例えば運転支援システムなどへ提供する。移動体用位置推定装置200自体は、ナビゲーションシステムの一部分であってもよい。
【0035】
次いで、図3のフローチャートを参照して、移動体用位置推定装置200による高精度な自車両位置及び向きの推定処理の流れについて説明する。
【0036】
まず、高精度GPS装置201は、GPS電波の受信レベルや電波を受信できているGPS衛星の数などからGPSデータの信頼性が十分であるか或いは信頼できないほど劣化しているかを判断する(S301)。
【0037】
電波環境が良好である場合などGPSの信頼性が十分であると判断された場合(S301の「NO」)、演算部205は高精度GPS装置201によって検出された自車両現在位置の絶対座標により自車両の位置を高精度に検出できると共に、この絶対座標の時間変化を監視することによって自車両の向き(進行方向)も高精度に算出できる。検出・算出された自車両の位置及び向きは、上述のように運転支援システムなどへ提供される(S306)。
【0038】
他方、電波環境が良好でない場合などGPSの信頼性が低下していると判断された場合(S301の「YES」)、演算部205は、以降のS303〜S305において、GPSが利用できない代わりに、慣性航法センサ群203を利用して、自車両の位置及び向きを高精度に推定する。
【0039】
より具体的には、演算部205は、記憶部204に記憶された地図情報から推定した自車両位置及び向きと慣性航法センサ群203出力から推定した自車両位置及び向きの双方を総合的に考慮して最終的な自車両の位置及び向きを推定する。
【0040】
まず、演算部205は、記憶部204に記憶された地図情報に基づいて、自車両の位置及び向きを推定する(S303)。このS303における推定処理の詳細について、図5を参照しながら図4のフローチャートに沿って説明する。
【0041】
演算部205は、高精度GPS装置201よりGPSの信頼性が低下したと判断されると、最後にGPSデータにより取得された自車両位置Xを記憶部204に記憶された地図情報に照らして、その最後にGPSデータにより取得された自車両位置X周辺のノード位置N及びリンク位置Lを抽出する(S401)。
【0042】
次いで、演算部205は、最後にGPSデータにより取得された自車両位置Xから自車両がいずれのリンクL上に位置するかを判断し、そのリンクL上において最後にGPSデータにより取得された自車両位置Xの前後の所定数のノードN〜Nを例えばクロソイド補間やスプライン補間などにより滑らかな近時曲線Sで結ぶ(S402)。
【0043】
次いで、演算部205は、最後にGPSデータにより取得された自車両位置Xがノード情報Nから近似により推定された道路形状曲線Sから道路幅方向にどのくらいずれているかを表すオフセット量ΔXを算出する(S403)。ここで、オフセット量ΔXは、正負いずれの値も採り得るパラメータであり、道路幅方向における右方向又は左方向のいずれかを予めオフセット量ΔXの正方向と決めておく。
【0044】
次いで、演算部205は、推定道路形状曲線Sをオフセット量ΔXだけオフセットさせた(平行移動させた)曲線Pを予想走行軌跡として算出する(S404)。
【0045】
次いで、演算部205は、最後にGPSデータにより自車両位置が取得された位置Xの時点からの経過時間と車輪速センサ202の出力とに基づいて、位置Xからの自車両の移動距離Dを算出し、自車両が予想走行軌跡Pに沿って移動したものと仮定して予想走行軌跡P上での現在位置Xを求める(S405)。
【0046】
さらに、演算部205は、位置Xにおける予想走行軌跡Pの傾きを自車両の向き(ヨー、ピッチ)として推定する(S406)。
【0047】
このようにして、本実施例においては、地図情報のうち比較的精度が良いと考えられるノード位置Nと最後にGPSにより検出できた自車両位置Xとを基準として、自車両がノード情報のみから推定された道路形状線に対して位置Xにおける相対的位置関係を保ちながらこの推定道路形状線に沿って移動したと仮定した場合の位置X及び向きが推定される。
【0048】
図3に戻る。このようにして地図情報から自車両位置及び向きが推定される(S303)と、次いで、演算部205は、慣性航法センサ群の出力に基づいて、従来通り、自車両の位置及び向きを推定する(S304)。
【0049】
ここでは、地図情報に基づく推定処理が先で、慣性航法センサ群出力に基づく推定処理が後のように説明及び図示しているが、両者の実施順は逆でもよく、同時平行で実施されてもよい。
【0050】
このようにして、地図情報に基づいて自車両の位置及び向きが推定され、さらに、慣性航法センサ群出力に基づいて自車両の位置及び向きが推定されると、次いで、演算部205は、これら双方の推定結果が反映されるように例えばカルマンフィルタによる推定や最尤推定などを利用した合成処理を行って最終的な自車両の推定位置及び向きを決定する(S305)。
【0051】
この合成処理について図6を参照して説明する。本実施例における合成処理では、地図情報に含まれるノード情報に関しては位置精度が比較的良好であるとの考察に基づき、ノード情報を基準として推定した自車両位置Xを加味することによって、最終的な推定自車両位置のノードに対する相対的位置関係の精度を向上させる。
【0052】
また、慣性航法センサ群の出力は、基準となるスタート地点から長時間経過すると誤差が累積されて精度が悪くなるが、瞬間瞬間での車両の進行方向に関しては検出精度が比較的良好であるとの考察に基づき、慣性航法センサ群出力に基づいて推定した自車両位置Xを加味することによって、地図情報にノードが設定されていない領域であっても車両の進行方向に反映された実際の道路形状を加味し、最終的な推定自車両位置の実際の道路形状に対する位置精度を向上させる。
【0053】
図6において、位置XにおいてGPSの信頼性が低下したものとする。位置XP1は、上述のようにノード情報と位置Xからの移動距離Dに基づいて推定された自車両位置を示している。また、位置XI1は、位置Xをスタート地点として従来通りGPSに代えて慣性航法センサ群の出力のみを用いて推定した自車両位置を示している。既述のように、慣性航法センサ群の出力に基づく推定は、図6に破線で示すように、スタート地点Xから離れるほど誤差が累積されて実際の道路位置からの乖離が大きくなる。
【0054】
そこで、本実施例では、実際のノード位置との相対的位置関係について比較的精度が良いと考えられる推定位置XP1と、曲率などの道路形状については比較的精度良く反映していると考えられる推定位置XI1とを双方の精度が良好な点がいずれも反映されるように合成処理することによって、最終的な自車両推定位置XF1を決定する。
【0055】
最終的な自車両推定向きも、地図情報に基づいて推定された向きと、慣性航法センサ群出力に基づいて推定された向きとを上記位置推定の場合と同様に両推定の長所が組み合わされるように合成処理することによって得られる。
【0056】
図3に戻る。このようにして最終的な自車両推定位置及び向きを求めると、演算部205はこれら結果を例えば運転支援システムなどへ提供する(S306)。
【0057】
S303〜S305の工程は、GPSの信頼性が復帰するまで繰り返される。再度図6を参照すると、最終的な自車両推定位置XF1が決定された後、次の最終的な自車両推定位置XF2を決定する際には、決定されたばかりの位置XF1が新たなスタート地点として用いられる。すなわち、地図情報に基づく推定位置XP2の推定において位置XP1からの距離Dが用いられる。また、慣性航法センサ群出力に基づく推定位置XI2の推定においては、位置XF1を新たなスタート地点とするため、位置XI2に含まれる累積された誤差は比較的小さくて済む。
【0058】
このように、本実施例によれば、ノード情報に基づいて推定された自車両位置及び向きと慣性航法センサ群出力に基づいて推定された自車両位置及び向きとを双方考慮して、ノード位置に対する相対的位置関係と道路形状の双方に対して精度の良い自車両推定位置及び向きを決定することができる。
【0059】
なお、上記一実施例においては、慣性航法センサ群の一例としてヨーレートセンサと加速度センサの組み合わせを挙げたが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、車輪速センサと舵角センサの組み合わせであってもよい。
【0060】
また、上記一実施例においては、地図情報に基づいて自車両位置を推定する際に、自車両周辺のノードを補間処理によって滑らかな曲線Sに結び、これをオフセットしたものを予想走行軌跡Pとする場合を好ましい例として例示したが、補間処理を省きより簡素な処理とすることを狙いとして曲線Sの代わりに地図情報に含まれたリンク情報を用いることも当然可能である。
【0061】
さらに、上記一実施例においては、地図情報に基づいて自車両位置を推定する際に、予想走行軌跡P上を車輪速センサ202の出力に基づいて算出された移動距離Dだけ移動したところを推定位置Xとしたが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、同時期に慣性航法センサ群出力に基づいて推定された位置Xから予想走行軌跡Pへ下ろした垂線と予想走行軌跡Pとの交点を地図情報に基づく推定位置Xとしてもよい。この場合、車輪速センサは不要となる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、例えば車両などの移動体に搭載され、該移動体の位置を推定する移動体用位置推定装置に利用できる。車両に搭載される場合、本発明に係る移動体用位置推定装置はナビゲーションシステムの一部として構成されることが好ましい。また、この場合、搭載される車両の外観、重量、サイズ、走行性能等は問わない。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】従来のマップマッチング処理の問題点を説明するための図である。
【図2】本発明の一実施例に係る移動体用位置推定装置の概略構成図である。
【図3】本発明の一実施例に係る移動体用位置推定装置による位置及び向き推定処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】本発明の一実施例に係る移動体用位置推定装置による地図情報に基づいた位置及び向き推定処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】本発明の一実施例に係る移動体用位置推定装置による地図情報に基づいた位置及び向き推定処理を説明するための図である。
【図6】本発明の一実施例に係る移動体用位置推定装置による合成処理を説明するための図である。
【符号の説明】
【0064】
200 移動体用位置推定装置
201 高精度GPS装置
202 車輪速センサ
203 慣性航法センサ群
204 記憶部
205 演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に搭載され、該移動体の位置を推定する移動体用位置推定装置であって、
前記移動体に搭載された慣性航法センサ群の出力に基づいて当該移動体の位置を推定する第一の推定手段と、
少なくともノード情報を含む地図情報を記憶した記憶手段と、
前記ノード情報から予測された前記移動体の予想移動軌跡に基づいて当該移動体の位置を推定する第二の推定手段と、
前記第一の推定手段により推定された移動体位置と、前記第二の推定手段により推定された移動体位置とを合成処理して前記移動体の最終推定位置を決定する合成手段と、を有することを特徴とする移動体用位置推定装置。
【請求項2】
請求項1記載の移動体用位置推定装置であって、
前記第一の推定手段は、前記合成手段により前記移動体の最終推定位置が決定されるたびに、最新の最終推定位置を新たなスタート地点として前記慣性航法センサ群の出力に基づいて移動体位置を推定する、ことを特徴とする移動体用位置推定装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の移動体用位置推定装置であって、
通信を利用して前記移動体の位置の絶対座標を検出する位置検出手段を更に有し、
前記第一の推定手段、前記第二の推定手段、及び前記合成手段は、前記位置検出手段が前記通信を実行できないときのみ作動する、ことを特徴とする移動体用位置推定装置。
【請求項4】
請求項3記載の移動体用位置推定装置であって、
前記第二の推定手段は、
前記ノード情報のうち前記移動体の周辺のノードを結んで推定道路形状線と引き、
前記位置検出手段によって検出された当該移動体の位置と前記推定道路形状線との道路幅方向のずれ量を求め、
前記推定道路形状線を前記ずれ量だけずらした線を前記予想移動軌跡とする、ことを特徴とする移動体用位置推定装置。
【請求項5】
請求項4記載の移動体用位置推定装置であって、
前記第二の推定手段は、前記周辺のノードを所定の補間方法に基づいて曲線で結び前記推定道路形状線とする、ことを特徴とする移動体用位置推定装置。
【請求項6】
請求項4又は5記載の移動体用位置推定装置であって、
前記第二の推定手段は、
前記移動体の移動距離を検出する距離検出手段を含み、
最後に移動体位置を推定したときから前記距離検出手段により検出された移動距離だけ前記予想移動軌跡に沿って移動した位置を新たな移動体位置として推定する、ことを特徴とする移動体用位置推定装置。
【請求項7】
請求項4又は5記載の移動体用位置推定装置であって、
前記第二の推定手段は、前記第一の推定手段により推定された移動体位置から前記予想移動軌跡に下ろした垂線と該予想移動軌跡との交点を移動体位置として推定する、ことを特徴とする移動体用位置推定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−139601(P2007−139601A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−334395(P2005−334395)
【出願日】平成17年11月18日(2005.11.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】