説明

移動体運動計測装置

【課題】
移動体の運動状態の計測のためのセンサやその算出手段に工夫を凝らして、移動体の運動状態を十分な精度で算出することを図る。
【解決手段】
移動体上の複数箇所に速度ベクトルデータ計測手段を設けて、指定された時間間隔で計測された速度ベクトルデータを使って、前記複数箇所の相互間の距離を拘束条件として前記移動体の運動状態を算出し、その算出された運動状態を前記速度ベクトルデータの計測時刻から指定された遅延時間後に出力する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体の運動状態を時系列的に計測するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、移動体の時々刻々と変化する位置、速度、加速度、角速度などをセンサにより計測し、この計測結果を統合し移動体の動的な運動状態を把握する装置がある。
【特許文献1】特開2005−17191号公報
【特許文献2】特開2002−318274号公報
【特許文献3】特開平7−239236号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
移動体の運動状態を把握するために取り付けられるセンサとしては、加速度センサ、角速度センサ、ドプラ速度センサ、光学式速度センサ、RTKGPS測位装置など、複数のセンサが用いられている。これらセンサの出力を総合的に処理するという方法では演算が煩雑になるだけでなく、多数のセンサからの出力値の計測時刻同期問題や、それぞれに内在する誤差が原因で、十分な精度は得られない。更に算出した運動状態を外部装置に実時間で出力する際、算出時間遅れが調整できない。
【0004】
また、例えばセンサとして移動体の所定一箇所にベクトル速度計を設置し、これにより移動体の前後又は左右方向への移動速度を検出して、移動体横滑り角を求めることも行われているが、ベクトル速度計は、移動体の前後ないし左右方向への速度とローリングやピッチング等による回転速度とを重畳して検出してしまうので、その出力からたとえば移動体横滑り角を求めようとしても、誤差が大きくて十分な精度は得られない。
【0005】
そこで本発明の目的は、移動体の運動状態の計測のためのセンサやその算出手段に工夫を凝らして、移動体の運動状態を十分な精度で算出できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために本発明の移動体運動計測装置は、移動体上の複数箇所に速度ベクトルデータ計測手段を設けて、指定された時間間隔で計測された速度ベクトルデータを使って、前記複数箇所の相互間の距離を拘束条件として前記移動体の運動状態を算出し、その算出された運動状態を前記速度ベクトルデータの計測時刻から指定された遅延時間後に出力することを特徴とする
【0007】
移動体の速度ベクトルデータ計測には、測位用衛星からの信号とデータに基づく、いわゆ
るグローバルポジショニングシステム(以下、GPSという)のみを移動体上に複数個配置して利用する。そのため、異なった種類のセンサからの出力値の場合に生じる計測時刻同期問題や、それぞれに内在する誤差の問題を解決した計測ができる。また、前記複数箇所の相互間の距離を拘束条件として同じ種類のセンサからの出力値を用いて運動状態を算出するため、高精度な運動状態が算出できる。さらに算出された運動状態を指定された時間遅れの後に出力して他の計測器に提供するので、結果の時刻同期問題も解消する事ができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、以上詳述したとおり、種々のセンサを取り扱うこと無く、計測時刻同期問題を解消した高精度な運動状態を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は本発明の実施形態、図2は実施形態の移動体運動計測装置のブロック図を示す。
本実施形態の移動体運動計測装置2は、例えばテストコースにおいて移動体1の走行中の動的な運動状態の変化等を計測するためのものであり、2つ以上の速度ベクトル計測部10a、10b、…と運動状態算出部20と運動状態出力部30とからなる。
【0010】
速度ベクトル計測部10a、10b、…では、GPSの受信アンテナ11a、11b、…を移動体上の複数箇所に配置して測位用衛星の電波を受信する。単独測位方式のGPSでは公知の如く、人工衛星3から送信される電波の位相信号と搬送波に変調されている航法データとを利用して、GPSシステム時刻に同期して周期1秒から0.01秒間隔で受信点の緯度、経度及び高さのメートル精度の位置情報と、緯度、経度及び高さのミリメートル精度の速度情報が得られる。運動計測に必要となる高精度な相対位置情報はGPSの速度情報を積分して得る。
【0011】
本実施形態では速度ベクトル計測部10は、単独測位方式のGPSを用いる。速度ベクトル計測部10で計測された速度ベクトルデータは運動状態算出部20に出力する。
【0012】
運動状態算出部20では、速度ベクトル計測部10a、10b、…で逐次計測された速度ベクトルデータを用いて、運動状態を算出する。さらに運動状態算出部20では逐次得られた速度ベクトルデータのほか、算出した種々の運動状態に関するデータを記録、表示する機能を行なう事も可能である。
【0013】
運動状態出力部30では、運動状態算出部20で算出した種々の運動状態を速度ベクトルデータの計測時刻から指定された遅延時間後に出力することで、たとえばタイヤスリップ比計測装置など運動状態データを利用する外部装置がほかのデータとの同期を取れるようにする。
【0014】
次に、種々の運動状態の算出について図3をもとに説明する。移動体1の3箇所以上の位置変化が解れば、公知のように、3次元空間での運動状態が算出できるが、ここでは2つ
の速度ベクトル計測部10a、10bの受信アンテナ11a、11bを移動体1の前後方向に、受信アンテナ11bから見た受信アンテナ11aの方向を移動体1の前方方向と一致させて配置し、この2つの速度ベクトル計測部10a、10bからの速度ベクトルデータを使って算出する運動状態について説明する。なお、受信アンテナ11bから見た受信アンテナ11aの相対初期位値は事前に計測され既知とする。
【0015】
速度ベクトル計測部10aの受信アンテナ11aは移動体1上の前方に配置して取り付けられ、測位用衛星からの電波を受信して受信アンテナ設置箇所での時刻tにおける東西、南北、上下の速度ベクトルデータ(AEvt,ANvt,AUvt)を1秒間に1回から100回の頻度で計測し出力する。速度ベクトル計測部10bの受信アンテナ11bは移動体1上の後方に配置して取り付けられ、測位用衛星からの電波を受信して受信アンテナ設置箇所での時刻tにおける東西、南北、上下の速度ベクトルデータ(BEvt、BNvt、BUvt)を1秒間に1回から100回の頻度で計測し出力する。
【0016】
移動体1上の2箇所で計測された速度ベクトルデータは運動状態算出部20に送られ、運動状態として移動体1の位置、前方方位、速度、横滑り角、ヨーレイトを以下の様な公知の算出方法で算出する。なお、運動状態としてはこれら以外にも目的とするものを必要に応じて公知の算出方法で算出する事が可能である。
【0017】
移動体1の位置として、受信アンテナ11a、11bの中間点の水平位置(Ept、Npt)は、受信アンテナ11aにおける速度成分(AEvt,ANvt,AUvt)、受信アンテナ11bにおける速度成分(BEvt、BNvt、BUvt)の平均速度成分((AEvt+BEvt)/2,(ANvt+BNvt)/2)に計測時間間隔を掛けた値を前回に算出した水平位置(Ept−1、Npt−1)に加算することで算出する。
【0018】
移動体1の位置として、受信アンテナ11aの水平位置(AEqt、ANqt)は、受信アンテナ11aにおける速度成分(AEvt,ANvt)に計測時間間隔を掛けた値を前回算出した水平位置(AEpt−1、ANpt−1)に加算することで算出する。
【0019】
移動体1の位置として、受信アンテナ11bの水平位置(BEqt、BNqt)は、受信アンテナ11bにおける速度成分(BEvt,BNvt)に計測時間間隔を掛けた値を前回算出した水平位置(BEpt−1、BNpt−1)に加算することで算出する。
【0020】
移動体1の前方方位Whは、受信アンテナ11bから見た受信アンテナ11aの方向が移動体1の前方方向と一致させて配置しているので、受信アンテナ11bの水平位置(BEqt、BNqt)から受信アンテナ11aの水平位置(AEqt、ANqt)を見た方位として((ANqt−BNqt)/(AEqt−BEqt)の逆正接を求める事で算出する。
【0021】
なお、これで得られる方位は東の方位を0度、北の方位を90度としたものであるが、北の方位を0度、東の方位を90度とする事も算出式を変えることで容易に行なえる。さらに本例では、受信アンテナ11bから見た受信アンテナ11aの方位を移動体1の前方方位と一致させて配置したが、ずらして配置した場合でもその取り付けずれ角をバイアスと
して加減する事で移動体1の前方方位算出は容易に行なえる。
【0022】
次に、受信アンテナ11a、11bの取り付け間隔Lが一定であるとの拘束条件を用いて、受信アンテナ11a、11bの水平位置を以下のような矛盾の無い値として算出する。
【0023】
移動体1の位置として、受信アンテナ11aの水平位置(AEpt、ANpt)は、受信アンテナ11a、11bの中間点の水平位置(Ept、Npt)から移動体1の前方方位Whの方向へ取り付け間隔Lの半分の距離の所にあるので、受信アンテナ11aの水平位置の東西成分AEptは、前方方位Whの余弦に間隔Lの半分を掛けた値を中間点の水平位置の東西成分Eptに加える事で算出する。同様に受信アンテナ11aの水平位置の南北成分ANptは、前方方位Whの正弦に間隔Lの半分を掛けた値を中間点の水平位置の南北成分Nptに加える事で算出する。
【0024】
移動体1の位置として、受信アンテナ11bの水平位置(BEpt、BNpt)は、受信アンテナ11a、11bの中間点の水平位置(Ept、Npt)から移動体1の前方方位Whの反対方向へ取り付け間隔Lの半分の距離の所にあるので、受信アンテナ11bの水平位置の東西成分BEptは、前方方位Whの余弦に間隔Lの半分を掛けた値を中間点の水平位置の東西成分Eptから減ずる事で算出する。同様に受信アンテナ11bの水平位置の南北成分BNptは、前方方位Whの正弦に間隔Lの半分を掛けた値を中間点の水平位置の南北成分Nptから減ずる事で算出する。
【0025】
移動体1の速度として、受信アンテナ11a、11bの中間点の水平速度(Evt、Nvt)は、受信アンテナ11a、11bの中間点の今回の水平位置(Ept、Npt)と前回の位置(Ept−1、Npt−1)の差を計測時間間隔で割る事で算出する。
【0026】
移動体1の移動方向の速度成分Vmや移動方位Wmは公知の算出方法を使って水平速度(Evt、Nvt)から算出する。また、前方方向の速度成分Vhや横方向の速度成分Vsは、水平速度(Evt、Nvt)と前方方位Whを公知の算出方法を使って算出する。
【0027】
移動体1の横滑り角Wsについては、前方方位Whと移動方位Wmとの差から算出する
【0028】
移動体1のヨーレイトYは、受信アンテナ11aにおける速度成分(AEvt,ANvt,AUvt)、受信アンテナ11bにおける速度成分(BEvt、BNvt、BUvt)から水平速度差(AEvt−BEvt,ANvt−BNvt)を算出し、
((ANvt−BNvt)/(AEvt−BEvt))の逆正接を計測時間間隔で割る事で算出する。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の移動体運動計測装置は、例えばテストコースにおいて車両の走行中の運動状態を計測するためのものであり、本発明によれば、種々のセンサを取り扱うこと無く、計測時刻同期問題を解消した高精度な運動状態を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施形態を示す全体構成図である。
【図2】実施形態の移動体運動計測装置のブロック図である
【図3】実施形態の運動状態に係る図である
【符号の説明】
【0031】
1−移動体
2−移動体運動計測装置
10−速度ベクトル計測部
11−受信アンテナ
20−運動状態算出部
30−運動状態出力部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
測位用衛星からの信号とデータに基づいて移動体の運動状態を計測する装置であって、
移動体上の複数箇所の速度ベクトルデータを、指定された時間間隔で計測する速度ベクトルデータ計測手段と、
前記複数箇所の相互間の距離を拘束条件とし、前記速度ベクトルデータを使って、前記移動体の運動状態を算出する運動状態算出手段と、
前記運動状態を、前記速度ベクトルデータの計測時刻から指定された遅延時間後に出力する運動状態出力手段とを備えることを特徴とする移動体運動計測装置。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−57242(P2007−57242A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−239505(P2005−239505)
【出願日】平成17年8月22日(2005.8.22)
【出願人】(504430293)有限会社バイオスシステム (4)
【Fターム(参考)】