説明

移動体

【課題】外部に補正用の基準部材を設置することなく、物体の位置を測定するセンサの取り付け角度ずれに起因する誤差を補正することが可能な移動体を提供する。
【解決手段】車体11に搭載され、走行上計測を必要とする物体が存在する第1の領域及びその他の第2の領域を計測領域とし、物体の位置を計測するセンサ12と、車体11に設けられ、第2の領域の予め決められた位置に配置された基準部材13と、センサ12が計測した基準部材13の位置と予め決められた位置とに基づいて、センサ12の取り付け角度ずれに起因する誤差を補正する補正部22を有し、車体11の移動を制御する制御装置14とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載された移動体は、較正用の障害物を移動体の外部に設置し、この障害物を障害物センサにより測定して、較正用の障害物情報を取得する。移動体は、この障害物情報に基づいて移動量を補正している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−134743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、外部に補正用の基準部材を設置することなく、物体の位置を測定するセンサの取り付け角度ずれに起因する誤差を補正することが可能な移動体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的に沿う第1の発明に係る移動体は、車体に搭載され、予め決められた領域に存在する物体の位置を計測可能なセンサと、
前記車体に設けられ、進行方向に対して前記センサの後方側に位置する後方領域の予め決められた位置に配置された基準部材と、
前記センサが計測した前記基準部材の位置と、前記基準部材の前記予め決められた位置に基づいて、前記センサの取り付け角度ずれに起因する誤差を補正する補正部を有し、前記車体の移動を制御する制御装置とを備える。
【0006】
第1の発明に係る移動体において、前記センサの計測領域には計測不可領域を一部に有し、前記計測不可領域は、前記基準部材の両端部を除く中間部にあることが好ましい。
【0007】
第1の発明に係る移動体において、前記センサは、予め決められた走査中心軸回りにレーザ光を走査し、前記物体に反射した前記レーザ光を検出することによって前記予め決められた領域に存在する前記物体の位置を検出するレーザレンジファインダであり、
前記制御装置は、前記レーザレンジファインダの前記走査中心軸を中心とする回転方向に対する取り付け角度ずれに起因する誤差を補正することができる。
【0008】
第1の発明に係る移動体において、前記基準部材の進行方向側の面に、光を拡散反射させる拡散反射面と光を吸収する吸収面とが形成され、
前記拡散反射面は、前記センサの計測領域に配置され、
前記拡散反射面と前記吸収面との境界線は、正面視して前記走査軸から予め決められた角度だけ傾斜した直線とすることができる。
【0009】
第1の発明に係る移動体において、前記傾斜した直線に代えて階段状の折れ線が用いられてもよい。
【0010】
第1の発明に係る移動体において、前記基準部材は、前記車体の構造部材の一部を構成することができる。
【0011】
前記目的に沿う第2の発明に係る移動体は、車体に搭載され、走行上計測を必要とする物体が存在する第1の領域及びその他の第2の領域を計測領域とし、前記物体の位置を計測するセンサと、
前記車体に設けられ、前記第2の領域の予め決められた位置に配置された基準部材と、
前記センサが計測した前記基準部材の位置と前記予め決められた位置とに基づいて、前記センサの取り付け角度ずれに起因する誤差を補正する補正部を有し、前記車体の移動を制御する制御装置とを備える。
【0012】
前記目的に沿う第3の発明に係る移動体は、車体に搭載され、予め決められた領域に存在する物体の位置を計測するセンサと、
前記車体に設けられ、進行方向に対して前記センサの後方側に位置する後方領域の予め決められた位置に設けられた基準部材と、
予め決められたタイミングで前記センサが計測した前記基準部材の位置と前記予め決められた位置とに基づいて、経年変化による前記センサの測定誤差を補正する補正部を有し、前記車体の移動を制御する制御装置とを備える。
【発明の効果】
【0013】
請求項1〜6記載の移動体においては、車体に設けた補正用の基準部材を用いて、物体の位置を測定するセンサの取り付け角度ずれに起因する誤差を補正することが可能である。
【0014】
特に、請求項2記載の移動体においては、計測範囲外となる計測不可領域をもつセンサの取り付け角度ずれに起因する誤差を補正することが可能である
【0015】
請求項3記載の移動体においては、レーザレンジファインダのヨー方向の取り付け角度ずれに起因する誤差を補正することが可能である。
【0016】
請求項4記載の移動体においては、レーザレンジファインダのヨー方向の取り付け角度ずれに起因する誤差に加え、ピッチ方向の取り付け角度ずれに起因する誤差を補正することが可能である。
【0017】
請求項5記載の移動体においては、レーザレンジファインダのヨー方向の取り付け角度ずれに起因する誤差に加え、ピッチ方向の取り付け角度ずれに起因する誤差を補正することが可能である。
【0018】
請求項6記載の移動体においては、本発明の構成をとらない場合に比べて、車体の構造を簡素にすることができる。
【0019】
請求項7記載の移動体においては、車体に設けた補正用の基準部材を用いて、物体の位置を測定するセンサの取り付け角度ずれに起因する誤差を補正することが可能である。
【0020】
請求項8記載の移動体においては、車体に設けた補正用の基準部材を用いて、センサの測定誤差を補正することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る移動体の斜視図である。
【図2】同移動体の機能ブロック図である。
【図3】同移動体が有する基準部材とレーザレンジファインダの位置関係を示す斜視図である。
【図4】同移動体が有するレーザレンジファインダがレーザ光を走査する様子を示す説明図である。
【図5】同移動体が有する制御装置の機能ブロック図である。
【図6】同移動体が有するレーザレンジファインダが基準部材を計測する様子を示す正面図である。
【図7】同移動体が有するレーザレンジファインダの計測データを示すグラフである。
【図8】本発明の第2の実施の形態に係る移動体が有するレーザレンジファインダがレーザ光を走査する様子を示す説明図である。
【図9】同移動体が有するレーザレンジファインダが基準部材を計測する様子を示す正面図である。
【図10】同移動体が有するレーザレンジファインダの計測データを示すグラフである。
【図11】(A)、(B)はそれぞれ、本発明の第3の実施の形態に係る移動体が有するレーザレンジファインダが基準部材を計測する様子を示す正面図、側面図である。
【図12】同移動体が有するレーザレンジファインダの計測データを示すグラフである。
【図13】本発明の第4の実施の形態に係る移動体が有するレーザレンジファインダが基準部材を計測する様子を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
【0023】
本発明の第1の実施の形態に係る移動体10は、工場、オフィス、病院及び商業施設等において、自律して移動することにより物品の搬送等に使用される。
図1、図2に示すように、この移動体10は、車体11、レーザレンジファインダ(センサの一例)12、基準部材13、制御装置14及び駆動装置15を備えている。
車体11は、4つの車輪18を備えている。各車輪18を独立して駆動することにより、移動体10は前進、後退及び旋回することができる。
【0024】
レーザレンジファインダ12は、予め決められた領域に存在する物体の位置(相対位置)を計測するセンサである。レーザレンジファインダ12は、予め決められた走査軸回りにレーザ光を走査し、物体に反射したレーザ光を検出する。レーザレンジファインダ12は、レーザ光を照射してから、その照射したレーザ光が反射して戻ってくるまでの時間に基づいて、物体までの距離と角度、即ち相対位置を求めることができる。レーザレンジファインダ12は、予め決められた角度ピッチ(例えば、0.2〜0.5度)でレーザ光を走査するので、物体の外形状を求めることができる。
レーザレンジファインダ12が物体を計測できる領域(計測領域)は、予め決められた半径内の領域である。
レーザレンジファインダ12は、車体11の前方側に搭載されている。レーザレンジファインダ12は走査軸を中心とする回転方向の取り付け角度ずれをもって設置される。具体的には、図3に示すように、車体11の進行方向をX軸の正方向として、車体11に固定された3次元直交座標系XYZを定義すると、レーザレンジファインダ12は、Z軸回り(ヨー方向)の角度ずれ(Θze)をもって取り付けられている。そのため、レーザレンジファインダ12の計測結果には、角度ずれ(Θze)に起因する誤差が含まれている。
レーザレンジファインダ12が床面と実質的に平行になるようにレーザ光を走査することによって、移動体10は、障害物回避、環境地図作成、自己位置推定、経路計画、及び物体の形状認識をしながら目的地まで移動する。
【0025】
基準部材13は車体11に対し、予め決められた位置(設計上の位置)に設けられている。基準部材13は、平面視して移動体10の進行方向と交差する方向に延びる略矩形状の板状部材である。基準部材13の進行方向(図3に示すX方向)側の面には、光を拡散反射させる拡散反射面が全面に形成されている。拡散反射面は、レーザレンジファインダ12が照射するレーザ光を全方向に反射する素材により形成される。この拡散反射面は、例えば紙や樹脂で構成することができる。
基準部材13は、図1、図3に示すように、移動体10の進行方向に対してレーザレンジファインダ12の後方側に設けられている。そのため、図4に示すように、レーザレンジファインダ12がレーザ光を走査することにより、基準部材13の相対位置が計測される。
一般に、移動体10の進行方向に対してレーザレンジファインダ12の前方側に位置する領域(前方領域)に存在する物体は、移動体10が移動する上で障害となるので、その物体を計測(検出)する必要がある。移動体10の進行方向に対してレーザレンジファインダ12の後方側に位置する領域(後方領域)に存在する物体は、移動体10が移動する上で障害とならないことが多く、必ずしもその物体を検出する必要はない。即ち、レーザレンジファインダ12は、走行上計測を必要とする物体が存在する第1の領域(例えば前方領域)及び走行上無視しても支障のない物体が存在する第2の領域(例えば後方領域)を計測領域とし、基準部材13はこの第2の領域に配置されている。
【0026】
制御装置14は、図5に示すように、記憶部20、決定部21、及び補正部22を備え、車体11(移動体10)の移動を制御する。
記憶部20は、地図情報を記憶している。記憶部20は、例えばハードディスクやフラッシュメモリ等の記憶媒体によって構成される。
決定部21は、移動体10の進行方向を決定する。決定部21は、記憶部20から環境情報を読み出す。決定部21は、読み出した環境情報とレーザレンジファインダ12の計測結果とを比較して移動体10の位置を把握する。決定部21は、把握した位置に基づいて、移動体10が予め決められた走行経路に沿って移動するように、第1の移動指令(角度ずれに起因する誤差の一例)を出力する。この第1の移動指令は、角度ずれ(Θze)に起因する誤差を含んだ測定位置に基づいて求められている。そのため、第1の移動指令も誤差を含んでいる。決定部21は、制御装置14に搭載されたCPU(不図示)が実行するソフトウェア(プログラム)により実現される。
補正部22は、レーザレンジファインダ12の角度ずれに起因する第1の移動指令の誤差を補正する。補正部22は、後述する方法により角度ずれ(Θze)を求める。補正部22は求めた角度ずれ(Θze)に基づいて、決定部21が出力する第1の移動指令を修正し、第2の移動指令として出力する。補正部22は、制御装置14に搭載されたCPUが実行するソフトウェア(プログラム)として実現される。
【0027】
駆動装置15は、制御装置14(補正部22)が出力した第2の移動指令に基づいて、車輪18を駆動する。
【0028】
ここで、補正部22が実行する、レーザレンジファインダ12の角度ずれ(Θze)の導出方法について説明する。
レーザレンジファインダ12により基準部材13が走査されると、図6に示すように、A1−A2間の黒丸で示す各計測点について計測データ(距離及び角度)が得られる。点A1及び点A2は、それぞれ正面視して基準部材13の左端及び右端に最も近い計測点である。各計測点は、レーザレンジファインダ12がレーザ光を走査する角度ピッチに対応する。計測データは図7において、黒丸で示される。黒丸で示された計測データを結ぶ直線L11は、基準部材13の実際の相対位置を表している。直線L10は、基準部材13の設計上の位置を表している。
【0029】
角度ずれ(Θze)は、直線L11と直線L10がなす角度として表れる。直線L11と直線L10がなす角を求めることで、角度ずれ(Θze)を求めることができる。
【0030】
補正部22は、前述の通り、求めたZ軸回りの角度ずれ(Θze)に基づいて、決定部21が出力する第1の移動指令を修正し、第2の移動指令として出力する。即ち、補正部22は、角度ずれ(Θze)に起因する誤差を補正する。
【0031】
続いて、本発明の第2の実施の形態に係る移動体30について説明する。第1の実施の形態に係る移動体10と同一の構成要素については、同じ符号を付して詳しい説明を省略する。
図8に示すように、本実施の形態においては、レーザレンジファインダ32の計測範囲が第1の実施の形態と相違する。レーザレンジファインダ32が物体を計測できる領域(計測領域)は、予め決められた半径及び角度範囲で決まる扇形状の領域である。この計測領域は中心角が180度を超える(例えば270度)扇形状の領域である。
以下、レーザレンジファインダ32の扇形状の計測領域のうち、前方側の半円状の領域を前方計測領域、計測領域から前方計測領域を除いた後方側の左右の領域を後方計測領域と呼ぶ。レーザレンジファインダ32の後方側の計測範囲外となる領域を計測不可領域と呼ぶ。この計測不可領域は、中心角が180度未満(例えば90度)の扇形状の領域である。
【0032】
図8に示すように、基準部材13は、両端部が後方計測領域に、中間部が計測不可領域に配置されるように設けられる。そのため、レーザレンジファインダ32がレーザ光を走査することにより、基準部材13の両端部の相対位置がそれぞれ計測される。
【0033】
次に、補正部が実行する、レーザレンジファインダ32のZ軸回りの角度ずれ(Θze)の導出方法について説明する。
レーザレンジファインダ32により基準部材13が走査されると、図9に示すように、両端部のB1―B2間及びB3―B4間の黒丸で示す各計測点について計測データ(距離及び角度)が得られる。各計測点は、レーザレンジファインダ32がレーザ光を走査する角度ピッチに対応する。点B1及び点B4は、それぞれ正面視して基準部材13の左端及び右端に最も近い計測点である。点B2及びB3は、それぞれ後方計測領域と計測不可領域の境界に最も近い計測点である。その計測データは図10において、黒丸で示される。黒丸で示された計測データを結ぶ直線L21は、基準部材13の実際の相対位置を表している。直線L20は、基準部材13の設計上の位置を表している。
【0034】
角度ずれ(Θze)は、直線L21と直線L20がなす角度として表れる。直線L21と直線L20がなす角を求めることで角度ずれ(Θze)を求めることができる。
【0035】
補正部は、前述の通り、求めたZ軸回り角度ずれ(Θze)に基づいて、決定部21が出力する第1の移動指令を修正し、第2の移動指令として出力する。即ち、補正部は、角度ずれ(Θze)に起因する誤差を補正する。
【0036】
続いて、本発明の第3の実施の形態に係る移動体について説明する。第1、第2の実施の形態に係る移動体10、30と同一の構成要素については、同じ符号を付して詳しい説明を省略する。
本実施の形態においては、レーザレンジファインダ12のZ軸回り(ヨー方向)の角度ずれ(Θze)に加え、Y軸回り(ピッチ方向)の角度ずれ(Θye)に起因する誤差を補正することができる。この角度ずれ(Θye)は、意図的に設けられるものと、意図的でなく設けられているものとがある。前者について一例を述べると、移動体10が複数のレーザレンジファインダ12を搭載している場合に、互いのレーザ光が干渉して誤検出することがある。この誤検出を回避するため、予め決められた大きさの角度ずれ(Θye)を意図的に設ける場合がある。後者について一例を述べると、部品の寸法誤差により意図せず角度ずれ(Θye)が生じる場合がある。
【0037】
図11に示す基準部材43は車体11に対し、予め決められた位置(設計上の位置)に設けられている。基準部材43は、平面視して移動体の進行方向と交差する方向に延びる板状の部材である。図11(A)、(B)に示すように、基準部材43の進行方向(図3に示すX方向)側の面には、光を拡散反射させる拡散反射面46及び光を吸収する吸収面(図11に示す網掛け部)47が全面に形成されている。拡散反射面46は、レーザレンジファインダ12が照射するレーザ光を全方向に反射する素材により形成される。この拡散反射面46は、例えば紙や樹脂で構成することができる。吸収面47は、レーザ光を吸収する素材により形成される。この吸収面47は、例えば黒色のフェルトで構成することができる。拡散反射面46は、正面視して基準部材43の左右両端部に設けられる。拡散反射面46は三角形状であり、拡散反射面46を除く基準部材43の中央側にある吸収面47は台形状である。拡散反射面46と吸収面47との境界をなす2つの直線(境界線)は、それぞれ基準部材43の下側左右の頂点と交差する。つまり、境界線は正面視してレーザレンジファインダ12の走査軸から予め決められた角度だけ傾斜している。
基準部材43は、移動体の進行方向に対してレーザレンジファインダ12の後方側に設けられている。
【0038】
次に、補正部が実行する、レーザレンジファインダ12の角度ずれ(Θze、Θye)の導出方法について説明する。
レーザレンジファインダ12は、Z軸回りの角度ずれ(Θze)に加え、Y軸回りの角度ずれ(Θye)をもって取り付けられている。そのため、レーザ光の走査軌跡は、図6に示す走査軌跡(A1−A2)よりも上側を通る。具体的には、レーザレンジファインダ12により基準部材43が走査されると、図11に示すように、点C1、点C4を通る走査軌跡に沿ってレーザ光が照射される。点C1及び点C4は、それぞれ正面視して基準部材43の左端及び右端に最も近い計測点である。レーザ光は拡散反射面46で拡散反射され、吸収面47で吸収される。その結果、拡散反射面46上のC1−C2間及びC3−C4間の黒丸で示す各計測点について計測データ(距離及び角度)が得られる。各計測点は、レーザレンジファインダ12がレーザ光を走査する角度ピッチに対応する。点C2及び点C3は、それぞれ拡散反射面46と吸収面47の境界に最も近い計測点である。その計測データは図12において、黒丸で示される。黒丸で示された計測データを結ぶ直線L31は、実際の基準部材43の相対位置を表している。直線L30は、基準部材43の設計上の位置を表している。
【0039】
Z軸回り角度ずれ(Θze)は、直線L31と直線L30がなす角度として表れる。直線L31と直線L30がなす角を求めることでZ軸回りの角度ずれ(Θze)を求めることができる。
【0040】
Y軸回りの角度ずれ(Θye)は、次のように求められる。
1)事前準備を行う。レーザレンジファインダ12の取り付け位置を調整し、Y軸回りの角度ずれ(Θye)が0度となるように設置する。レーザ光を走査すると、拡散反射面46上のDT1−DT2間及びDT3−DT4間の黒丸で示す各計測点について計測データ(距離及び角度)が得られる。点DT1及び点DT4は、それぞれ正面視して基準部材43の左端及び右端に最も近い計測点である。点DT2及び点DT3は、それぞれ拡散反射面46と吸収面47の境界に最も近い計測点である。基準部材43の上辺からDT1までの距離(Hd)を予め記憶しておく。
2)レーザレンジファインダ12を通常通り(Y軸回りの角度ずれ(Θye)が存在する状態で)取り付け、C1−C2間の距離を計測する。
3)拡散反射面46の第1辺の長さ(M)及び第2辺の長さ(Hp)は既知であるので、C1−C2間の距離と第1辺の長さ(M)との比から、基準部材43の上辺からC1までの距離(Hb)が求まる。
4)予め記憶した距離(Hd)と距離(Hb)との差(ΔH)を求める。
5)基準部材43からレーザレンジファインダ12までの既知の距離(L)と求めた差(ΔH)から、Y軸回りの角度ずれ(Θye)が求まる(図11(B)参照)。
【0041】
補正部は、前述の通り、求めたZ軸回り角度ずれ(Θze)及びY軸回りの角度ずれ(Θye)に基づいて、決定部21が出力する第1の移動指令を修正し、第2の移動指令として出力する。即ち、補正部は、角度ずれ(Θze、Θye)に起因する誤差を補正する。
【0042】
なお、本実施の形態においては、レーザレンジファインダ12の計測領域は、予め決められた半径内の領域であるが、前方計測領域及び後方計測領域で構成される扇形形状の領域であっても良い。ただし、後方計測領域内に拡散反射面が入る必要がある。
【0043】
続いて、本発明の第4の実施の形態に係る移動体について説明する。第1、第2の実施の形態に係る移動体と同一の構成要素については、同じ符号を付して詳しい説明を省略する。本実施の形態においては、レーザレンジファインダ12のZ軸回り(ヨー方向)の角度ずれ(Θze)に加え、Y軸回り(ピッチ方向)の角度ずれ(Θye)に起因する誤差を補正することができる。
【0044】
図13に示す基準部材53は車体11に対し予め決められた位置(設計上の位置)に設けられている。基準部材53は、平面視して移動体の進行方向と交差する方向に延びる板状の部材である。図13に示すように、基準部材53の進行方向(図3に示すX方向)側の面には、光を拡散反射させる拡散反射面56及び光を吸収する吸収面(図13に示す網掛け部)57が全面に形成されている。拡散反射面56は、レーザレンジファインダ12が照射するレーザ光を全方向に反射する素材により形成される。この拡散反射面56は、例えば紙や樹脂で構成することができる。吸収面57は、レーザ光を吸収する素材により形成される。この吸収面57は、例えば黒色のフェルトで構成することができる。拡散反射面56は、正面視して基準部材53の左右両端部に設けられる。拡散反射面56と吸収面57との左右の境界線は、それぞれ階段状の折れ線となっている。この折れ線は、基準部材53の短辺に略平行な第1線分と、長辺に略平行な第2線分とが複数接続されて構成される。
基準部材53は、移動体の進行方向に対してレーザレンジファインダ12の後方側に設けられている。
【0045】
次に、補正部が実行する、レーザレンジファインダ12の角度ずれ(Θze、Θye)の導出方法について説明する。
レーザレンジファインダ12は、Z軸回りの角度ずれ(Θze)に加え、Y軸回りの角度ずれ(Θye)をもって取り付けられている。そのため、レーザ光の走査軌跡は、図6に示す走査軌跡(A1−A2)よりも上側を通る。具体的には、レーザレンジファインダ12により基準部材53が走査されると、図13に示すように、点D1、点D4を通る走査軌跡に沿ってレーザ光が照射される。点D1及び点D4は、それぞれ正面視して基準部材53の左端及び右端に最も近い計測点である。レーザ光は拡散反射面56で拡散反射され、吸収面57で吸収される。その結果、拡散反射面56上のD1−D2間及びD3−D4間の黒丸で示す各計測点について計測データ(距離及び角度)が得られる。各計測点は、レーザレンジファインダ12がレーザ光を走査する角度ピッチに対応する。点D2及び点D3は、それぞれ拡散反射面46と吸収面47の境界に最も近い計測点である。その計測データを結ぶと直線L41(不図示)が求まる。
【0046】
Z軸回りの角度ずれ(Θze)は、直線L41と設計上の基準部材53の位置を表す直線L40がなす角度として表れる。直線L41と直線L40がなす角を求めることでZ軸回りの角度ずれ(Θze)を求めることができる。
【0047】
Y軸回りの角度ずれ(Θye)は、次のように求められる。
1)事前準備を行う。レーザレンジファインダ12の取り付け位置を変更して計測し、Y軸回りの角度ずれ(Θye)と、基準部材53の左側の短辺からこの短辺に略平行な第1線分までの距離(N1〜N5)との関係を参照テーブルとして予め記憶しておく。
2)レーザレンジファインダ12を通常通り(Y軸回りの角度ずれ(Θye)が存在する状態で)取り付け、D1−D2間の距離を計測する。
3)計測した距離に基づいて参照テーブルを参照し、Y軸回りの角度ずれ(Θye)が求まる。
【0048】
補正部は、前述の通り、求めたZ軸回り角度ずれ(Θze)及びY軸回りの角度ずれ(Θye)に基づいて、決定部21が出力する第1の移動指令を修正し、第2の移動指令として出力する。即ち、補正部は、角度ずれ(Θze、Θye)に起因する誤差を補正する。
【0049】
なお、本実施の形態においては、レーザレンジファインダ12の計測領域は、予め決められた半径内の領域であるが、前方計測領域及び後方計測領域で構成される扇形形状の領域であっても良い。ただし、後方計測領域内に拡散反射面が入る必要がある。
【0050】
なお、本発明は、前述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲での変更は可能である。例えば、前述のそれぞれ実施の形態や変形例の一部又は全部を組み合わせて本発明を構成する場合も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0051】
前述の各実施の形態における基準部材は、車体11の構造部材の一部を構成することもできる。また、基準部材は板状であったが、これに限らず、少なくとも拡散反射面が形成された部材であれば良い。また、基準部材の吸収面に代えて、レーザ光を鏡面反射(全反射)させる鏡面としても良い。更に、第2〜第4の実施の形態においては、基準部材の両端部がレーザレンジファインダの後方計測領域に入るように構成されていたが、一方の側のみが後方計測領域に入るようにしても良い。なお、基準部材を分割して構成し、それぞれを後方計測領域に配置しても良い。
【0052】
前述の各実施の形態においては、移動体の移動指令の誤差を補正するものであったが、例えば経年劣化(経年変化)によるレーザレンジファインダの測定誤差を補正するために使用することもできる。予め決められたタイミングで各実施の形態に記載した補正方法を実行することで、劣化した測定誤差を補正できることは詳細な説明をするまでも無く明らかである。
【0053】
前述の各実施の形態において、補正部はレーザレンジファインダの取り付け角度ずれに起因する移動指令の誤差を補正していた。これに代えて、角度ずれに起因するレーザレンジファインダの計測誤差(角度ずれに起因する誤差の一例)を含んだ計測値そのものを補正しても良い。レーザレンジファインダの補正された計測値が決定部に入力され、決定部が補正された計測値に基づいて移動指令を求め、この移動指令を駆動装置15に出力して移動体を制御することができる。
【0054】
前述の各実施の形態において、レーザレンジファインダは走査軸が1軸(Θz軸回り)の1軸走査型であったが、走査軸が2軸(Θy軸及びΘz軸回り)の2軸走査型であっても適用できる。この場合、特に第3及び第4の実施の形態により、Z軸回りの角度ずれ(Θze)に加え、Y軸回りの角度ずれ(Θye)を補正することができる。
【符号の説明】
【0055】
10:移動体、11:車体、12:レーザレンジファインダ、13:基準部材、14:制御装置、15:駆動装置、18:車輪、20:記憶部、21:決定部、22:補正部、30:移動体、32:レーザレンジファインダ、43:基準部材、46:拡散反射面、47:吸収面、53:基準部材、56:拡散反射面、57:吸収面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に搭載され、予め決められた領域に存在する物体の位置を計測可能なセンサと、
前記車体に設けられ、進行方向に対して前記センサの後方側に位置する後方領域の予め決められた位置に配置された基準部材と、
前記センサが計測した前記基準部材の位置と、前記基準部材の前記予め決められた位置に基づいて、前記センサの取り付け角度ずれに起因する誤差を補正する補正部を有し、前記車体の移動を制御する制御装置とを備えた移動体。
【請求項2】
請求項1記載の移動体において、前記センサの計測領域には計測不可領域を一部に有し、前記計測不可領域は、前記基準部材の両端部を除く中間部にある移動体。
【請求項3】
請求項1又は2記載の移動体において、前記センサは、予め決められた走査中心軸回りにレーザ光を走査し、前記物体に反射した前記レーザ光を検出することによって前記予め決められた領域に存在する前記物体の位置を検出するレーザレンジファインダであり、
前記制御装置は、前記レーザレンジファインダの前記走査中心軸を中心とする回転方向に対する取り付け角度ずれに起因する誤差を補正する移動体。
【請求項4】
請求項3記載の移動体において、前記基準部材の進行方向側の面に、光を拡散反射させる拡散反射面と光を吸収する吸収面とが形成され、
前記拡散反射面は、前記センサの計測領域に配置され、
前記拡散反射面と前記吸収面との境界線は、正面視して前記走査軸から予め決められた角度だけ傾斜した直線である移動体。
【請求項5】
請求項4記載の移動体において、前記傾斜した直線に代えて階段状の折れ線が用いられている移動体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の移動体において、前記基準部材は、前記車体の構造部材の一部を構成する移動体。
【請求項7】
車体に搭載され、走行上計測を必要とする物体が存在する第1の領域及びその他の第2の領域を計測領域とし、前記物体の位置を計測するセンサと、
前記車体に設けられ、前記第2の領域の予め決められた位置に配置された基準部材と、
前記センサが計測した前記基準部材の位置と前記予め決められた位置とに基づいて、前記センサの取り付け角度ずれに起因する誤差を補正する補正部を有し、前記車体の移動を制御する制御装置とを備えた移動体。
【請求項8】
車体に搭載され、予め決められた領域に存在する物体の位置を計測するセンサと、
前記車体に設けられ、進行方向に対して前記センサの後方側に位置する後方領域の予め決められた位置に設けられた基準部材と、
予め決められたタイミングで前記センサが計測した前記基準部材の位置と前記予め決められた位置とに基づいて、経年変化による前記センサの測定誤差を補正する補正部を有し、前記車体の移動を制御する制御装置とを備えた移動体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−221957(P2011−221957A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93282(P2010−93282)
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】