説明

移動剛体摺接用固定側摺動材及びその植毛部の成形方法

【課題】 パイルで形成される植毛部によって、良好な意匠性の確保、摺動抵抗の軽減、および優れた耐摩耗性の維持を図ることのできる固定側摺動材を提供する。
【解決手段】 移動剛体との摺接面1dに植毛部2を設けた固定側摺動材1において、植毛部2を形成するパイル2aの先端部を溶融してカールすると共に、隣接するパイル2aの先端部同士を融着する。固定側摺動材1には、グラスラン、ベルトラインインナー、およびベルトラインアウターを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動剛体例えば自動車のドアガラスに摺接する摺接面に、植毛を施したグラスラン、ベルトラインインナー、ベルトラインアウターなどの固定側摺動材及びその植毛部の成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のグラスラン、ベルトラインインナー、あるいはベルトラインアウターなどの固定側摺動材において、移動剛体に摺接する摺接面にパイルによって植毛部を形成したものが多く存在する。この植毛部は、ファブリック調の意匠性を現出するという効果の他に、移動剛体との摺動抵抗を軽減すると共に、摺接面の耐摩耗性を向上させるという効果を発揮する。
【0003】
しかし、植毛部のみによって長期にわたり高い耐摩耗性を得るのは難しい。パイルは水に濡れると脱落し易いからである。こうした点に鑑み、通常、植毛部にコーティング剤を塗布することによって脱落を防止し、耐摩耗性を確保するといった手段が採られている。
【0004】
また、摺動抵抗の軽減を目的として、グラスランに植毛したパイルを溶融して滑剤層を形成する技術が創案されている(例えば、特許文献1参照)。また、接着剤層の中で、パイル同士を三次元ランダムに配向して相互に絡めて、当該パイルの脱落を防止し、耐摩耗性を高めた技術も創案されている(例えば、特許文献2参照)。また、意匠性を高めるために、湾曲したパイルを植毛し、摺接面を覆い隠すといった技術も創案されている(例えば、特許文献3参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の技術は植毛したパイルの全体を溶融して滑剤層を形成するので、パイルの原形が壊され、パイルが本来持っているファブリック調の意匠性を消滅させてしまうといった問題がある。また、特許文献2に記載の技術は、パイル同士が接着剤層の中では相互に絡み合っているものの、接着剤層から露出した部分は絡み合っていないので、摺接面が視覚されてしまい、意匠性に劣るといった問題がある。さらに、特許文献3に記載の技術は、植毛部で摺接面を覆い隠して意匠性を高めることができるものの、パイルが脱落し易いために短期間で摺動抵抗が大きくなり、摺接面の耐摩耗性が低下するといった問題がある。
【0006】
本発明はこうした問題に鑑み創案されたもので、パイルで形成される植毛部によって、良好な意匠性の確保、摺動抵抗の軽減、および優れた耐摩耗性の長期間にわたる確保を図ることのできる移動剛体摺接用固定側摺動材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
図1乃至図5を参照して説明する。請求項1に記載の移動剛体摺接用固定側摺動材1は、移動剛体3との摺接面に植毛部2を設けたものであって、前記植毛部2を形成するパイル2aの先端部Eを溶融し、隣接するパイル2aの先端部E同士を融着したことを特徴とするものである。
【0008】
請求項2に記載の移動剛体摺接用固定側摺動材1は、請求項1に記載の発明においてパイル2aの先端部Eをカールさせたものである。
【0009】
請求項3に記載の移動剛体摺接用固定側摺動材1は、請求項1または2に記載の発明において、移動剛体3が自動車のドアガラスで、固定側摺動材1が、自動車のグラスラン1a、ベルトラインインナー1bまたはベルトラインアウター1cであることを特徴とするものである。
【0010】
請求項4に記載の移動剛体摺接用固定側摺動材1は、請求項1または2に記載の発明において、パイル2aの先端部Eの溶融を、加熱体によって行なうことを特徴とするものである。
【0011】
請求項5の発明は、請求項4の発明において、加熱体がプラズマ照射,ホットエアー,熱ロールまたは熱板による押さえ,あるいはバーナーのいずれか一つ又はそれらの組合せによることを特徴とするものである。
【0012】
請求項6の発明は、移動剛体3との摺接面1dに植毛部2を設けた固定側摺動材1の植毛部2の成形方法であって、前記摺接面に接着剤を塗布する工程と前記接着剤2bの塗布された箇所に多数本のパイル2aを植毛する工程と前記接着剤2bを硬化させて、前記多数本のパイル2aを前記摺接面1dに固定させる工程と前記摺接面1d上のパイル2aの先端部を加熱体で溶融させカールすると共に、隣接するパイル2aの先端同士を融着する工程を備えたことを特徴とする移動剛体摺接用固定側摺動材の植毛部の成形方法である。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の移動剛体摺接用固定側摺動材1は、移動剛体3との摺接面に植毛部2を設けたものにおいて、植毛部2を形成するパイル2aの先端部Eを溶融して、隣接するパイル2aの先端部E同士を融着したので、優れた摺動性と耐摩耗性を確保することができる。
【0014】
すなわち、隣接するパイル2aの先端部E同士が融着していることによって相互に保持し合うため、各パイル2aが脱落し難くなる。これにより、植毛部2による優れた摺動性を長期間にわたって維持することができ、また、摺接面の耐摩耗性を長期にわたって確保することができる。
【0015】
請求項2の発明は、請求項1の発明の構成に加えて、パイル2aの先端部Eをカールし、かつ、隣接するパイル2aの先端部E同士を融着しているので、摺接面をパイル2aによって覆い隠すことができる。これによって、ファブリック調の優れた意匠性を現出することができる。また、パイル2aの先端部Eのみを溶融してカールおよび融着させるので、パイル2aの全体が倒れることがない。これにより、植毛部2の外観および触感を損なうことなく維持することができ、優れたファブリック調の意匠性をそのまま確保することができる。
【0016】
請求項3に記載の移動剛体摺接用固定側摺動材1は、請求項1または2に記載の発明と同様の効果を発揮する。また、移動剛体3が自動車のドアガラスで、固定側摺動材1が自動車のグラスラン1a、ベルトラインインナー1bまたはベルトラインアウター1cであるので、これらの摺接面に優れた摺動性、耐摩耗性および意匠性を与えることができる。
【0017】
請求項4に記載の移動剛体摺接用固定側摺動材1は、請求項1または2の発明においてパイル2aの先端部Eの溶融を、加熱体によって行なうもので、パイル2aの先端部Eを容易に融着させることができる。
【0018】
請求項5の発明は、請求項4の加熱体をプラズマ照射,ホットエアー,熱ロールまたは熱板による押さえ,或はバーナーのいずれか一つ又はそれらの組合せによることを特徴とするもので、請求項4と同様な効果を有する。
【0019】
請求項6の発明によれば、移動剛体摺接用固定側摺動材の植毛部を容易確実に成形することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】固定側摺動材を備える自動車を示す側面図である。
【図2】本発明の第一実施形態に係る固定側摺動材(グラスラン)を示すもので、図1のX−X線断面図である。
【図3】直線状のパイルを立設した状態を示す拡大図である。
【図4】図3に示すパイルの先端部をカールし、隣接する先端部同士を融着させた状態を示す拡大図である。
【図5】本発明の第二実施形態に係る固定側摺動材(ベルトラインインナー,アウター)を示すもので、図1のY−Y線断面図である。
【図6】本発明に係る固定側摺動材の性能実験を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る移動剛体摺接用固定側摺動材1の第一実施形態を、自動車を例にして図1乃至図4に示す。これは自動車のドアフレーム4に取付けられ、移動剛体3にインナーリップL1およびアウターリップL2が摺接するグラスラン1aであり、その摺接面1dに無数のパイル2aによって植毛部2を設けたものである。そして、植毛部2を形成するパイル2aの先端部Eを溶融してカールすると共に、隣接するパイル2aの先端部E同士を融着したものである。本実施形態では、インナーリップL1とアウターリップL2の摺接面1dのみに植毛部2を形成しているが、底壁部L3の移動剛体3よりなるドアガラスに対向する対向面Fにも植毛部2を形成することができる。
【0022】
なお、図3は、直線状のパイル2aを直立状および傾斜状に設けた状態を示し、図4は、パイル2aの先端部Eをカールし、隣接するパイル2aの先端部E同士を融着させた状態(本発明に係る固定側摺動材1)を示す。
【0023】
このグラスラン1aは、隣接するパイル2aの先端部E同士が融着していることによる相互保持作用によって各パイル2aが脱落し難くなり、従って、植毛部2による優れた摺動性を長期にわたって維持することができ、摺接面1dの耐摩耗性を長期にわたって確保することができる。
【0024】
また、パイル2aの先端部Eをカールし、隣接するパイル2aの先端部E同士を融着しているので、摺接面1dをパイル2aによって覆い隠すことができ、ファブリック調の優れた意匠性を現出することができる。また、パイル2aの先端部Eのみを溶融してカールおよび融着させるので、パイル2aの全体が倒れることがなく、従って、植毛部2の外観および触感を損なわず、優れた意匠性を維持することができる。
【0025】
本発明に係る移動剛体摺接用固定側摺動材1の第二実施形態を、自動車を例にして図5に示す。この固定側摺動材1は、自動車のドアパネル5に取付けられ、インナーリップL1およびアウターリップL2が移動剛体3よりなるドアガラスの内面に摺接するベルトラインインナー1bと、同じくインナーリップL1とアウターリップL2が移動剛体3の外面に摺接するベルトラインアウター1cである。これらにも、植毛部2を形成する無数のパイル2aの先端部Eを溶融してカールすると共に、隣接するパイル2aの先端部E同士を融着している。
【0026】
こうすることによって、隣接するパイル2aの同士の相互作用によって各パイル2aが脱落するのを防止して、植毛部2による優れた摺動性を長期にわたって維持することができる。また、植毛部2によって摺接面1dの耐摩耗性を長期にわたって確保することができる。また、パイル2aの先端部Eをカールし、隣接するパイル2aの先端部E同士を融着しているので、摺接面1dをパイル2aによって覆い隠すことができ、ファブリック調の優れた意匠性を現出することができる。
【0027】
なお、上記実施形態におけるパイル2dの形成は次のようにして行われる。まず、固定側摺動材1の摺接面1dに接着剤2bを塗布する。次に静電植毛によりパイル2aを接着剤2bへ起立した状態で植毛する。これに熱を加えて接着剤2bを硬化させる。その後、カールの形成およびパイル2aの先端部E同士の融着を、加熱体で行っている。加熱体によるプラズマ照射は、通常、希薄ガス空間の中に一対の電極を対向させ、この電極に高周波あるいはマイクロ波を与えてガス分子を励起させ、電離させることによってプラズマを形成し、これを直立状態および傾斜状態で植毛したパイル2aに向けて照射して行うものである。
【0028】
なお、カールの形成およびパイル2aの先端部E同士の融着は、プラズマ照射の他に、直立状体のパイル2aに、ホットエアーを吹きかけたり、熱ロールで軽く加圧したり、あるいはバーナーの火炎を照射するなどの手段によっても行うことができる。
【0029】
以上のように、直線状のパイル2aを静電植毛した後にパイル2aの先端をカールさせるため、予めカールしたパイル2aを使用するよりも廉価で先端が一様にカールする。また、静電植毛するためパイル2aが起立した状態で、しっかりと接着剤に植えられる。よって、予めカールしたパイルを無造作に接着させるよりも抜けにくい。
【実施例1】
【0030】
本発明者らは、本発明に係る移動剛体摺接用固定側摺動材1の性能を確認すべく実験を行った。この実験は、本発明に係る固定側摺動材1の試料Pと、従来の二つの固定側摺動材1の試料Pを使用して行った。従来の二つの固定側摺動材1のうちの一つは、通常の植毛部2を備えるもの(従来品A)であり、もう一つは、植毛部2の上に、水性ウレタン塗料をコーティングしたもの(従来品B)である。
【0031】
また、この実験は、各試料Pの上面(摺接面に植毛部2を設けた部分)に幅Wが20mmで厚みTが4mmの実験用ガラスGの下端部(半円状部分)を、3kgfの力で押圧しながら、140mmのストロークSを毎分60往復させ、その往復運動を植毛部2が擦り切れるまで連続して行った。また、それぞれ二種類の試料Pを準備し、一つは水に濡れていない常態時の状態とし、もう一つは水に濡れた状態とした(試験前に常温の水に10分浸漬し、実験用ガラスGを500回往復させる毎に2ccの水を滴下した)。
【0032】
その実験結果を、表1に示す。
【表1】





【0033】
この実験により、本発明に係る固定側摺動材1は、常態時では従来品B(植毛部にコーティングを施したもの)と同じ耐摩耗性を発揮し、水濡れ時では、従来品Aおよび従来品Bよりも明らかに耐摩耗に優れることを確認した。
【符号の説明】
【0034】
1 固定側摺動材
1a グラスラン
1b ベルトラインインナー
1c ベルトラインアウター
1d 摺接面
2 植毛部
2a パイル
2b 接着剤
3 移動剛体
4 ドアフレーム
5 ドアパネル
E 先端部
F 対向面
G 実験用ガラス
L1 インナーリップ
L2 アウターリップ
L3 底壁部
P 試料
S ストローク
T 厚み
W 幅
【先行技術文献】
【特許文献】
【0035】
【特許文献1】特開平5−305813号公報
【特許文献2】特開2006−321459号公報
【特許文献2】特開2008−6972号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動剛体(3)との摺接面に植毛部(2)を設けた固定側摺動材であって、前記植毛部を形成するパイル(2a)の先端部(E)を溶融し,隣接するパイルの先端部同士を融着したことを特徴とする移動剛体摺接用固定側摺動材。
【請求項2】
移動剛体(3)との摺接面に植毛部(2)を設けた固定側摺動材であって、前記植毛部を形成するパイル(2a)の先端部(E)を溶融してカールすると共に,隣接するパイルの先端部同士を融着したことを特徴とする移動剛体摺接用固定側摺動材。
【請求項3】
移動剛体(3)が自動車のドアガラスで、固定側摺動材(1)が自動車のグラスラン(1a),ベルトラインインナー(1b)またはベルトラインアウター(1c)であることを特徴とする請求項1または2に記載の移動剛体摺接用固定側摺動材。
【請求項4】
パイル(2a)の先端部(E)の溶融を、加熱体によって行ったものであることを特徴とする請求項1または2に記載の移動剛体摺接用固定側摺動材。
【請求項5】
加熱体が、プラズマ照射,ホットエアー,熱ロールまたは熱板による押さえ,あるいはバーナーのいずれか一つ又はそれらの組合せによることを特徴とする請求項4に記載の移動剛体摺接用固定側摺動材。
【請求項6】
移動剛体(3)との摺接面(1d)に植毛部(2)を設けた固定側摺動材(1)の植毛部(2)の成形方法であって、前記摺接面に接着剤(2b)を塗布する工程と、該接着剤の塗布された箇所に多数本のパイル(2a)を植毛する工程と、前記接着剤を硬化させて、前記多数本のパイルを前記摺接面に固定させる工程と、前記摺接面上のパイルの先端部を加熱体で溶融させカールすると共に、隣接するパイルの先端同士を融着する工程を備えたことを特徴とする移動剛体摺接用固定側摺動材の植毛部の成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−163066(P2010−163066A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−7318(P2009−7318)
【出願日】平成21年1月16日(2009.1.16)
【出願人】(000196107)西川ゴム工業株式会社 (454)
【Fターム(参考)】