移動装置
【課題】病院や工場などの走行面と床面とを差別化して認識し判断することが困難な走行環境において、確実に認識したいガイドラインを正確かつ迅速に認識して所望の場所に移動できる移動装置を提供する。
【解決手段】本発明の移動装置10は、ガイドライン15の位置を含んだ地図情報を記憶する記憶部16とカメラ12により撮像した撮像画像を処理する撮像画像分析部17とを含む制御部18と、を備え、撮像画像の分析S1を行い、複数のラインを抽出するライン抽出処理S2と、ガイドライン15の撮像画像と地図情報とにおけるそれぞれの位置をマッチングさせるノイズ処理S3A、長さ処理S3Bおよび角度マッチング処理S3Cからなるラインマッチング処理S3とを行い、ガイドライン15の撮像画像と地図情報とにおけるそれぞれの位置をマッチングさせ、地図情報における動作領域の自己の位置を把握しつつ移動している。
【解決手段】本発明の移動装置10は、ガイドライン15の位置を含んだ地図情報を記憶する記憶部16とカメラ12により撮像した撮像画像を処理する撮像画像分析部17とを含む制御部18と、を備え、撮像画像の分析S1を行い、複数のラインを抽出するライン抽出処理S2と、ガイドライン15の撮像画像と地図情報とにおけるそれぞれの位置をマッチングさせるノイズ処理S3A、長さ処理S3Bおよび角度マッチング処理S3Cからなるラインマッチング処理S3とを行い、ガイドライン15の撮像画像と地図情報とにおけるそれぞれの位置をマッチングさせ、地図情報における動作領域の自己の位置を把握しつつ移動している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カメラで撮像した画像情報から抽出した床面のガイドラインの位置情報を基に装置自体の位置を把握し、自律的に移動する移動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
外部の景色から画像情報を取り込み、その画像情報から次に移動する方向を示すガイドラインを認識して移動すべき方向を定め、所望の場所に移動する移動装置が開発されている。
【0003】
例えば、床面のライン(ガイドライン)を抽出する一般的な移動装置としては、画像処理による路面上のライン抽出を用いた車両のレーン逸脱警報や、ステアリングの補助制御を行うレーンキープサポートシステム等を搭載した車両が考えられる。特に画像処理によるライン抽出では、移動装置の様々な走行環境を考慮して、常に安定したライン抽出を行なうことが求められている。
【0004】
ラインを抽出する技術として、ラインのエッジ強度によってしきい値を設定することにより抽出する処理領域を限定し、ラインが破線の場合でも確実にライン抽出を行い、安定かつ高速に走行レーンを検出する技術がある(例えば、特許文献1参照)。特許文献1は、路面中に描かれた走行レーンの左右の白線を、それぞれ独立した処理によって検出するものである。そして、この左右の白線があるそれぞれの領域について、エッジ抽出処理、しきい値設定処理および輪郭抽出処理を行う領域を限定することにより、処理時間を短縮すると同時に、画像内に存在するノイズ成分を避けることができ、高速に安定した走行レーンの検出を行うことができるとしている。
【0005】
また、道路などの路面画像を画像処理する画像処理手段として、異なる複数の画像処理アルゴリズムを有し、複数の画像処理アルゴリズムの中から車両が走行している道路に適したラインの画像処理アルゴリズムを選択してラインを抽出している技術も提案されている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2は、走行レーンのガイドラインを示す白線、道路鋲、ポストコーンなど複数種類のレーンマークに対応した複数の画像処理アルゴリズムを予め設けているものである。そして、車両が走行している道路に適した画像処理アルゴリズムを選択して走行レーンを検出しているので、複数種類のレーンマークを安定して検出して、レーンの認識精度を向上させることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−341825号公報
【特許文献2】特開2003―123058号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の従来の例によれば、走行面と背景が比較的容易に判断できる走行環境において移動装置が動作している。そのため、移動装置が進行する方向において、ガイドラインが存在する位置を容易に特定できる環境を想定している。
【0008】
一方、病院や工場などの建物の中は、外部の道路などとは異なり、さまざまな形状や材質の物体が不規則に置かれ、場所ごとの区画標示や通路標示用のラインが複雑に引かれている。さらに、走行面と床面とを差別化して認識するために明るさが重要であるが、この明るさなどの判断が困難な走行環境では、ガイドラインと類似したラインが数多く存在すると、これらのラインの中からガイドラインを誤って検出してしまう場合が多いという課題を有している。また、上記の従来の例においては、建物の中を移動する移動装置がガイドラインを正確かつ迅速に認識して進行する構成や方法については何も示されていない。
【0009】
本発明は上記従来の課題を解決するものであり、ラインが複雑に引かれ、さらに走行面と床面とを差別化して認識し判断することが困難な走行環境において、確実に認識したいガイドラインを正確かつ迅速に認識して、所望の場所に移動できる移動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の移動装置は、動作領域の床面および路面の少なくともいずれかに配置されたガイドラインを含む画像を撮像するカメラと、前記カメラを支持する装置本体と、前記装置本体を支持すると共に前記動作領域を移動可能な車体部と、前記ガイドラインの位置を含む地図情報を記憶する記憶部と前記カメラにより撮像した撮像画像を処理する撮像画像分析部とを含む制御部と、を備えた移動装置において、前記撮像画像分析部が、前記撮像画像から複数のラインを抽出するライン抽出処理と、このライン抽出処理により抽出された前記複数のラインについてノイズ処理,長さ処理および角度マッチング処理を行うことで前記撮像画像における前記ガイドラインの位置と前記地図情報における位置とをマッチングさせるラインマッチング処理で前記ガイドラインを認識する制御部であることを特徴とする。
【0011】
このような構成とすることにより、複数の画像処理アルゴリズムを用意することなく単一の画像処理アルゴリズムによりラインが複雑に引かれ、さらに走行面と走行面ではない床面とを差別化して認識し判断することが困難な走行環境において容易に正確かつ迅速に所望のガイドラインを認識することができる。したがって、移動装置はガイドラインを目印として認識し自分自身の位置を算出することにより、正確かつ迅速に動作領域内の目的地まで移動することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の移動装置によれば、病院や工場などの屋内の環境において区画標示や道路標示用のラインが複雑に引かれ、さらに走行面と床面とを差別化して認識し判断することが困難な走行環境においても、確実に認識したいガイドラインを正確かつ迅速に認識して所望の場所に移動できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態1にかかる移動装置を示す図で、(a)移動装置の全体を示す斜視図、(b)移動装置の主要な構成要素を示すブロック図、(c)移動装置が所望のガイドラインを認識するときの画像処理アルゴリズムの部分的なフローチャート
【図2】本発明の実施の形態1にかかる移動装置の画像処理アルゴリズムのフローチャート
【図3】移動装置のカメラにより撮像した移動装置の動作領域である進行方向の工場内の撮像画像の模式図で、(a)取り込み処理がされた撮像画像の模式図、(b)ライン抽出処理を開始した撮像画像の模式図
【図4】(a)撮像画像にラインしきい値設定処理S2Bを行い、それぞれの画像成分を白と黒との2値表示をした撮像画像の模式図、(b)図4(a)の撮像画像からライン抽出した撮像画像の模式図
【図5】基準座標軸を設定して図4(b)の撮像画像において選択された複数のラインの一部を表示してラインの長さと基準座標軸に対する角度とを決定する手法を示す図
【図6】認識画像においてノイズ処理をしたのちのラインを示した図
【図7】(a)実空間の現実の長さにおいて長さ処理S3Bを行った図、(b)図7(a)の処理後に残ったラインのそれぞれの角度に対して角度マッチング処理を行っていることを示す図
【図8】ラインのそれぞれの角度に対して角度マッチング処理を行った図
【図9】図3から図7までのライン抽出処理およびラインマッチング処理を行った説明と同一の処理を他の撮像画像に対して行った例を示す図で、(a)検出本数を絞り込むにしたがい撮像画像に示された物体の認識の長さの尺度が上がることを示す図、(b)装置の位置精度が±0.3mとなるときのラインの検出本数を3つの異なる撮像画像について実施した結果を示す図
【図10】ラインマッチング処理を本発明の移動装置の処理の順で行った場合とその他の処理で行った場合とでガイドラインをマッチングにより認識するまでにかかった時間の例について示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、同じ構成要素については同じ符号を付しており、説明を省略する場合もある。また、図面は理解しやすくするために、それぞれの構成要素を主体に模式的に示している。
【0015】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1にかかる移動装置10を示す図で、図1(a)は移動装置10の全体を示す斜視図、図1(b)は移動装置10の主要な構成要素を示すブロック図、図1(c)は移動装置10が所望のガイドラインを認識するときの画像処理アルゴリズムの部分的なフローチャートである。
【0016】
図1(a)に示すように本実施の形態1の移動装置10は、移動する動作領域の少なくとも一部について床面11および路面(図示せず)のうちの少なくともいずれかを含んで画像を撮像するカメラ12と、動作領域を自走自在に移動できる車体部13と、カメラ12を支持し、車体部13に支持された装置本体14と、を備えている。
【0017】
図1(b)に示すように移動装置10は、例えばこの装置本体14に、床面11bおよび路面のうちの少なくともいずれかの上に配置されたガイドライン15の位置を含んだ地図情報(図示せず)を記憶する記憶部16と、カメラ12により撮像した撮像画像を処理する撮像画像分析部17と、を含む制御部18を備えている。なお、制御部18はカメラ12が配置されたカメラヘッド部12aや車体部13に内蔵されていてもよく、移動装置10のいずれかの部分に配置されていてもよい。
【0018】
図1(c)に示すように、本実施の形態1では、制御部18の撮像画像分析部17において、カメラ12からのガイドライン15を含む撮像画像の取り込み処理S1を行い、その後、この取り込んだ撮像画像から複数のラインを抽出するライン抽出処理S2と、ガイドライン15の撮像画像における位置と地図情報における位置とをマッチングさせるラインマッチング処理S3とを行うことにより、ガイドライン15の認識を行っている。ここで、ラインマッチング処理S3においては、後述するように、ノイズ処理S3A、長さ処理S3Bおよび角度マッチング処理S3Cを行うことにより、ガイドライン15の撮像画像における位置と地図情報における位置とをマッチングさせている。このような構成要素と認識のフローチャートにより、制御部18は地図情報における動作領域における自己の位置を把握し、移動装置10を動作領域で移動させている。
【0019】
このような構成とすることにより、ラインが複雑に引かれ、さらに走行面11aと走行面ではない床面11bとを差別化して認識することが困難な走行環境において、複数の画像処理アルゴリズムを用意することなく、単一の画像処理アルゴリズムにより、容易に正確かつ迅速に所望のガイドライン15を認識することができる。したがって、移動装置10はガイドライン15を目印として認識して自分自身の位置を算出することにより、正確かつ迅速に動作領域内の目的地まで移動することができる。
【0020】
次に、移動装置10がガイドライン15を認識する時の画像処理アルゴリズムについて、具体的に説明する。
【0021】
図2は、本実施の形態1の移動装置10の画像処理アルゴリズムのフローチャートである。
【0022】
図2に示すように、画像処理アルゴリズムは、最初にカメラ12による移動装置10の進行方向の床面11bを含んだ走行面11aおよびその周辺の撮像画像の取り込み処理S1から始まっている。この撮像画像は、撮像画像分析部17においてライン抽出処理S2が行われて、例えば単位長さに対する明暗の変化の度合いにより、ガイドライン15を含む様々な物体などのラインエッジが抽出される。その結果、後述するように、撮像画像に設定された基準座標軸に対して、角度と長さとを有する複数のラインが抽出される。
【0023】
すなわち、ライン抽出処理S2は、図2に示すように、ラインエッジ抽出処理S2A、ラインしきい値設定処理S2B、ライン選択処理S2C、線分近似処理S2D、ライン数算出処理S2Eを含んで構成されている。ここで、ラインエッジ抽出処理S2Aは、撮像画像を分析して複数のラインのラインエッジを抽出する処理で、ラインしきい値設定処理S2Bは、ラインエッジを抽出するために明るさのしきい値であるラインしきい値を設定する処理である。ライン選択処理S2Cは、ラインエッジ抽出処理S2Aから得られるエッジ画像よりラインしきい値を用いて画像情報に描かれたラインを選択する処理で、線分近似処理S2Dは、このライン選択処理S2Cにより選択されたラインを線分に近似する処理である。そして、ライン数算出処理S2Eは、この線分近似処理S2Dにより線分に近似されたラインの数を算出する処理である。
【0024】
このような構成とすることにより、複雑な撮像画像からガイドライン15を見出すために単純化された形状である線分を、複数のラインとして抽出し、正確かつ迅速に所望のガイドライン15を認識することができる。
【0025】
このようにして撮像画像から複数のラインが抽出された後に、ラインマッチング処理S3が行われる。すなわち、ラインマッチング処理S3は、ノイズ処理S3Aと、長さ処理S3Bと、角度マッチング処理S3Cとを含み、ノイズ処理S3A、長さ処理S3Bおよび角度マッチング処理S3Cはこの順序で行った後に、撮像画像と地図情報19とに表示されるガイドライン15をマッチングさせて認識している。
【0026】
ここで、ノイズ処理S3Aは、ライン抽出処理S2により抽出された複数のラインのうち、所定の長さ以下(例えば1m以下)の長さのラインを、撮像画像におけるノイズとして除去する処理である。このように、認識したいガイドライン15の長さよりも十分に短い長さ(本実施の形態1では1m以下)のラインを、ノイズとして除去している。
【0027】
長さ処理S3Bは、複数のラインのうち、長さの長いラインから除去して複数のラインのライン数を所定のライン数以下にする処理である。また、角度マッチング処理S3Cは、所定のライン数のラインの後述する基準座標軸に対する角度の大きさを撮像画像と地図情報19とのそれぞれでマッチングする処理である。
【0028】
このようにして処理することにより、設定した画像処理アルゴリズムにより迅速に複数のラインを処理することができ、正確かつ迅速にガイドライン15を認識することができる。
【0029】
また、角度マッチング処理S3Cは、画像情報に表示される複数のラインのライン数が、ガイドライン15のライン数の2倍以上かつ4倍以下の範囲に入るまで角度のしきい値を変化させて行っている。
【0030】
このようにして処理することにより、正確なガイドライン15を画像認識により認識するに際し、最短の時間で認識することができる。
【0031】
詳しくは、ガイドライン15のライン数の4倍を超えたライン数で地図情報19のガイドライン15との画像認識によるマッチングを行うと、ガイドライン15としてのラインを正しく認識するのに長い時間がかかる。また、ガイドライン15のライン数の2倍未満のライン数で地図情報19のガイドライン15との画像認識によるマッチングを行おうとすると、角度マッチング処理S3Cに多大な時間がかかってしまう。したがって、表示されるラインのライン数が、ガイドライン15のライン数の2倍以上かつ4倍以下とすることにより、正確かつ最短の時間でガイドライン15を認識することができる。
【0032】
このようにして処理することにより、移動装置10は、撮像画像における位置と地図情報19における位置とをマッチングさせつつ、動作領域の所望の目的地まで迅速かつ正確に移動することができる。なお、ここで使用する地図情報19は、移動装置10自体に予め与えていた情報でもよいし、別途予めカメラ12により撮影した撮像画像から作成した情報でもよい。
【0033】
次に移動装置10が、例えば工場内を移動するときにガイドライン15を認識する時の画像処理アルゴリズムと、この画像処理アルゴリズムに基づいて上述のライン処理を行っている具体的な処理の内容について、詳細に説明する。
【0034】
図3は移動装置10のカメラ12により撮像した移動装置10の動作領域である進行方向の工場内の撮像画像20の模式図で、図3(a)は取り込み処理S1がされた撮像画像20の模式図、図3(b)はライン抽出処理S2を開始した撮像画像20の模式図である。図3(a)および(b)の撮像画像20は、撮像画像の取り込み処理S1により移動装置10の記憶部16に取り込まれている。
【0035】
図3(a)に示すように、移動装置10の進行方向の正面には、ガイドライン15に挟まれた床面11および走行面11aに沿って配置された床面11bが、撮像画像20に示されている。また、図3(a)の正面方向の遠くには工場の壁面20aやこの壁面20aに設けられた扉20bや窓20cが映し出されている。また、工場内にはガイドライン15に沿って、主にガイドライン15に挟まれた領域の外側に多数の装置20dや設備20eが配置されている。そして、天井側には照明器具20fが取り付けられており、この照明器具20fが工場内を照らす照明光の一部が照り返しの画像20gとなって、床面11に映し出されている。
【0036】
ライン抽出処理S2においてラインエッジ抽出処理S2Aを行う前に撮像画像20について2値化を行うために、図3(b)に示すように明暗のみが表示されるように処理を行う。このように処理した画像についてラインエッジ抽出処理S2Aが行われる。ここでは、SobelフィルタのX、Y方向のエッジを抽出するものなどのラインの角度を考慮したエッジ抽出フィルタを用いてもよい。
【0037】
図4(a)は撮像画像20にラインしきい値設定処理S2Bを行い、それぞれの画像成分を白と黒との2値表示をした撮像画像20の模式図、図4(b)は図4(a)の撮像画像20からライン抽出した撮像画像20の模式図を示すものである。
【0038】
図4(a)に示すように撮像画像20を2値化すると、窓20c、装置20d、設備20eの一部である明るい側面や照り返しの画像20gなどが、ガイドライン15と共に白抜きの領域として表示される。そして、ラインしきい値設定処理S2Bにおいて、図4(a)に示すような白抜きの領域と黒の領域とのエッジ画像より、撮像画像20における単位長さでの明るさの変化の傾きを求め、この変化の傾きに基づいてラインしきい値を設定する。
【0039】
そうすると、図4(b)に示すように、認識したいガイドライン15とラインマッチングを行うラインが多数表示されることとなる。ここでは主なラインを表示しているが、L1からL44まで40数本のラインが表示されている。対象としている撮像画像の画面の解像度は横1280本×縦960本を想定しており、工場や病院などの屋内では100本余りのラインが抽出されるのが一般的である。本実施の形態1では、ラインが抽出し易い画像を用いたため、ノイズは比較的現れていない。
【0040】
図4(b)の撮像画像で表示されるラインに対して、認識したい地図情報のガイドラインのラインをラインマッチングすると、膨大な時間がかかる。したがって、図2の画像処理アルゴリズムのフローチャートにおいて説明したように、効率的にラインマッチング処理S3を行う。そのために、ライン抽出処理S2の後に、ライン選択処理S2Cによって図4(b)において撮像画像20に描かれたラインを逐一選択し、線分近似処理S2Dにより選択されたラインを線分に近似している。そして、ライン数算出処理S2Eにより線分に近似されたラインの数を算出している。
【0041】
なお、ラインしきい値設定処理S2Bにおいて、しきい値はライン輪郭を示すエッジ成分を抽出できるように設定している。例えば、撮像画像20の全てのエッジ成分のエッジ強度の最大値および平均値を基に設定することができる。また、ライン抽出においてしきい値を越えるエッジ強度の画素を検索し、最初にしきい値を越えた画素を白線輪郭として抽出することによって、ライン抽出を行なうことができる。また、ラインの線分近似処理S2Dは、例えば直線検出アルゴリズムの1つであるHough変換や最小2乗法等の手法をライン輪郭に用いて行なうこともできる。
【0042】
図5は、基準座標軸を設定して、図4(b)の撮像画像20において選択された複数のラインの一部を表示してラインの長さと基準座標軸に対する角度とを決定する手法を示す図である。
【0043】
図5に示すように、ラインの長さLkは、ラインの長さを示す2つの座標点Pk1(xk1、yk1)およびPk2(xk2、yk2)から計算することができる。ここで、図5に示すように画像上の座標点は、実際の実世界の座標点および長さに位置および長さが換算されて計算されている。したがって、ラインの長さLkは、実世界の実空間上現実の長さとして把握され、画像処理アルゴリズムによりガイドライン15とマッチングがなされることとなる。
【0044】
また、ラインの角度θkも同様に、現実の位置により現実の角度として図5に示すθkの値として求められている。
【0045】
本実施の形態1では、図5に示した計算手法により図4(b)に示すL1からL44のラインの長さを全て求めた後に、ノイズ処理S3Aにより1m以下のラインを撮像画像20から全て省いている。これは、本実施の形態1の撮像画像20においては、ガイドライン15は1mを超えていることが予め判っているためである。
【0046】
図6は、撮像画像20においてノイズ処理S3Aをしたのちのラインを示した図である。また、図7(a)は、実空間の現実の長さにおいて、例えば3m以上の長い線を省いた長さ処理S3Bを行った図で、図7(b)は、図7(a)の処理後に残ったラインのそれぞれの角度θ1からθ12に対して、角度マッチング処理S3Cを行っていることを示す図である。ここで、撮像画像20の左半分の角度θ1からθ6については、ガイドライン15の角度であるθpを基準として、±Δθp(例えばΔθpは5度)としてこの範囲の角度に入るラインをガイドライン15として選択している。
【0047】
図8は角度マッチング処理S3Cを行った図である。図8のようにして、ガイドライン15としてのラインを選択する。そして、最終的にガイドライン15の候補として残ったラインについては、地図情報19を用いて1本づつラインマッチングを行い、真のガイドライン15を認識する。
【0048】
図9(a)および(b)は、図3から図7までのライン抽出処理S2およびラインマッチング処理S3を行った説明と同一の処理を他の撮像画像に対して行った例を示す図で、図9(a)は検出本数を絞り込むに従ってガイドライン15とマッチングした結果、装置自体の位置の認識精度(以下、「位置精度」とする)が上がることを示す図、図9(b)は位置精度が±0.3mとなるときのラインの検出本数を3つの異なる撮像画像について実施した結果を示す図である。
【0049】
図9(a)および(b)に示すように、位置精度を上げるために検出本数を絞り込んでいく。この例では、検出本数を50本にまで絞り込むためにノイズ処理S3Aを行い、16本にまで絞り込むために長さ処理S3Bを行っている。
【0050】
すなわち、長さ処理S3Bは、画像情報に表示される複数のラインのライン数が16本以下になるまで長さのしきい値を変化させて、行われている。ここで、長さのしきい値とは、その長さ以上のラインを省くときの長さで、例えば4mの長さから10cmづつしきい値を変化させて、検出本数を16本以下になるまで変化させている。
【0051】
このような構成とすることにより、設定した画像処理アルゴリズムにより迅速に複数のラインを処理することができ、正確かつ迅速にガイドライン15を認識することができる。
【0052】
図10は、ラインマッチング処理S3を本発明の移動装置10の処理の順で行った場合とその他の処理で行った場合とで、ガイドライン15をマッチングにより認識するまでにかかった時間の例について示す図である。
【0053】
図10に示すように、本実施の形態1の移動装置10の処理の順(すなわち、ノイズ処理S3A、長さ処理S3B、角度マッチング処理S3Cの順)で処理の区分9Aのように処理のフローを行うと、0.2secで行なうことができる。しかしながら、区分9Bのように処理の順を入れ替えると2.5倍の時間がかかり、区分9Cのようにノイズ処理S3Aのみであると約5倍の時間がかかる。さらに区分9Dのように、処理をしないでラインマッチングをいきなり行うと10倍の時間がかかる。
【0054】
したがって、撮像画像を認識してその結果を常にフィードバックして動作領域の目的地まで正確に移動していくためには、本実施の形態1の移動装置10のような画像処理アルゴリズムが必要であり、これが有効であることがわかる。
【0055】
上述したように、本実施の形態1の移動装置によれば、抽出されるラインの数に応じてラインの採用条件が厳しくなり、マッチングに有効なラインを限定できる。ラインの数によって限定するために複数のラインが存在した場合でも、従来の技術とは異なり、撮像画像を分析する画像の領域を限定せず、取得した画像の情報を最大限に活かしながらマッチングすることができる。すなわち、本実施の形態1の移動装置10は、単純な画像認識アルゴリズムを用いて、認識したいガイドラインを地図情報とマッチングすることができる。
【0056】
したがって、工場や病院などの区画標示・道路標示用ラインが複雑に引かれ、走行面と床面の判断が困難な走行環境においてもカメラで撮像した床面の画像に存在するノイズを除去し確実にラインを抽出できる移動装置を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の移動装置によれば、病院や工場などの屋内の環境において区画標示や道路標示用のラインが複雑に引かれ、さらに走行面と床面とを差別化して認識し判断することが困難な走行環境においても、確実に認識したいガイドラインを正確かつ迅速に認識して所望の場所に移動できる。したがって、病院や工場などの区画標示・道路標示用ラインが複雑に引かれたものと同様の様々な走行環境を持った建物や屋外の場所においても有用であり、移動装置の活用が期待できる。
【符号の説明】
【0058】
10 移動装置
11,11b 床面
11a 走行面
12 カメラ
12a カメラヘッド部
13 車体部
14 装置本体
15 ガイドライン
16 記憶部
17 撮像画像分析部
18 制御部
19 地図情報
20 撮像画像
20a 壁面
20b 扉
20c 窓
20d 装置
20e 設備
20f 照明器具
20g 照り返しの画像
【技術分野】
【0001】
本発明は、カメラで撮像した画像情報から抽出した床面のガイドラインの位置情報を基に装置自体の位置を把握し、自律的に移動する移動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
外部の景色から画像情報を取り込み、その画像情報から次に移動する方向を示すガイドラインを認識して移動すべき方向を定め、所望の場所に移動する移動装置が開発されている。
【0003】
例えば、床面のライン(ガイドライン)を抽出する一般的な移動装置としては、画像処理による路面上のライン抽出を用いた車両のレーン逸脱警報や、ステアリングの補助制御を行うレーンキープサポートシステム等を搭載した車両が考えられる。特に画像処理によるライン抽出では、移動装置の様々な走行環境を考慮して、常に安定したライン抽出を行なうことが求められている。
【0004】
ラインを抽出する技術として、ラインのエッジ強度によってしきい値を設定することにより抽出する処理領域を限定し、ラインが破線の場合でも確実にライン抽出を行い、安定かつ高速に走行レーンを検出する技術がある(例えば、特許文献1参照)。特許文献1は、路面中に描かれた走行レーンの左右の白線を、それぞれ独立した処理によって検出するものである。そして、この左右の白線があるそれぞれの領域について、エッジ抽出処理、しきい値設定処理および輪郭抽出処理を行う領域を限定することにより、処理時間を短縮すると同時に、画像内に存在するノイズ成分を避けることができ、高速に安定した走行レーンの検出を行うことができるとしている。
【0005】
また、道路などの路面画像を画像処理する画像処理手段として、異なる複数の画像処理アルゴリズムを有し、複数の画像処理アルゴリズムの中から車両が走行している道路に適したラインの画像処理アルゴリズムを選択してラインを抽出している技術も提案されている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2は、走行レーンのガイドラインを示す白線、道路鋲、ポストコーンなど複数種類のレーンマークに対応した複数の画像処理アルゴリズムを予め設けているものである。そして、車両が走行している道路に適した画像処理アルゴリズムを選択して走行レーンを検出しているので、複数種類のレーンマークを安定して検出して、レーンの認識精度を向上させることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−341825号公報
【特許文献2】特開2003―123058号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の従来の例によれば、走行面と背景が比較的容易に判断できる走行環境において移動装置が動作している。そのため、移動装置が進行する方向において、ガイドラインが存在する位置を容易に特定できる環境を想定している。
【0008】
一方、病院や工場などの建物の中は、外部の道路などとは異なり、さまざまな形状や材質の物体が不規則に置かれ、場所ごとの区画標示や通路標示用のラインが複雑に引かれている。さらに、走行面と床面とを差別化して認識するために明るさが重要であるが、この明るさなどの判断が困難な走行環境では、ガイドラインと類似したラインが数多く存在すると、これらのラインの中からガイドラインを誤って検出してしまう場合が多いという課題を有している。また、上記の従来の例においては、建物の中を移動する移動装置がガイドラインを正確かつ迅速に認識して進行する構成や方法については何も示されていない。
【0009】
本発明は上記従来の課題を解決するものであり、ラインが複雑に引かれ、さらに走行面と床面とを差別化して認識し判断することが困難な走行環境において、確実に認識したいガイドラインを正確かつ迅速に認識して、所望の場所に移動できる移動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の移動装置は、動作領域の床面および路面の少なくともいずれかに配置されたガイドラインを含む画像を撮像するカメラと、前記カメラを支持する装置本体と、前記装置本体を支持すると共に前記動作領域を移動可能な車体部と、前記ガイドラインの位置を含む地図情報を記憶する記憶部と前記カメラにより撮像した撮像画像を処理する撮像画像分析部とを含む制御部と、を備えた移動装置において、前記撮像画像分析部が、前記撮像画像から複数のラインを抽出するライン抽出処理と、このライン抽出処理により抽出された前記複数のラインについてノイズ処理,長さ処理および角度マッチング処理を行うことで前記撮像画像における前記ガイドラインの位置と前記地図情報における位置とをマッチングさせるラインマッチング処理で前記ガイドラインを認識する制御部であることを特徴とする。
【0011】
このような構成とすることにより、複数の画像処理アルゴリズムを用意することなく単一の画像処理アルゴリズムによりラインが複雑に引かれ、さらに走行面と走行面ではない床面とを差別化して認識し判断することが困難な走行環境において容易に正確かつ迅速に所望のガイドラインを認識することができる。したがって、移動装置はガイドラインを目印として認識し自分自身の位置を算出することにより、正確かつ迅速に動作領域内の目的地まで移動することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の移動装置によれば、病院や工場などの屋内の環境において区画標示や道路標示用のラインが複雑に引かれ、さらに走行面と床面とを差別化して認識し判断することが困難な走行環境においても、確実に認識したいガイドラインを正確かつ迅速に認識して所望の場所に移動できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態1にかかる移動装置を示す図で、(a)移動装置の全体を示す斜視図、(b)移動装置の主要な構成要素を示すブロック図、(c)移動装置が所望のガイドラインを認識するときの画像処理アルゴリズムの部分的なフローチャート
【図2】本発明の実施の形態1にかかる移動装置の画像処理アルゴリズムのフローチャート
【図3】移動装置のカメラにより撮像した移動装置の動作領域である進行方向の工場内の撮像画像の模式図で、(a)取り込み処理がされた撮像画像の模式図、(b)ライン抽出処理を開始した撮像画像の模式図
【図4】(a)撮像画像にラインしきい値設定処理S2Bを行い、それぞれの画像成分を白と黒との2値表示をした撮像画像の模式図、(b)図4(a)の撮像画像からライン抽出した撮像画像の模式図
【図5】基準座標軸を設定して図4(b)の撮像画像において選択された複数のラインの一部を表示してラインの長さと基準座標軸に対する角度とを決定する手法を示す図
【図6】認識画像においてノイズ処理をしたのちのラインを示した図
【図7】(a)実空間の現実の長さにおいて長さ処理S3Bを行った図、(b)図7(a)の処理後に残ったラインのそれぞれの角度に対して角度マッチング処理を行っていることを示す図
【図8】ラインのそれぞれの角度に対して角度マッチング処理を行った図
【図9】図3から図7までのライン抽出処理およびラインマッチング処理を行った説明と同一の処理を他の撮像画像に対して行った例を示す図で、(a)検出本数を絞り込むにしたがい撮像画像に示された物体の認識の長さの尺度が上がることを示す図、(b)装置の位置精度が±0.3mとなるときのラインの検出本数を3つの異なる撮像画像について実施した結果を示す図
【図10】ラインマッチング処理を本発明の移動装置の処理の順で行った場合とその他の処理で行った場合とでガイドラインをマッチングにより認識するまでにかかった時間の例について示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、同じ構成要素については同じ符号を付しており、説明を省略する場合もある。また、図面は理解しやすくするために、それぞれの構成要素を主体に模式的に示している。
【0015】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1にかかる移動装置10を示す図で、図1(a)は移動装置10の全体を示す斜視図、図1(b)は移動装置10の主要な構成要素を示すブロック図、図1(c)は移動装置10が所望のガイドラインを認識するときの画像処理アルゴリズムの部分的なフローチャートである。
【0016】
図1(a)に示すように本実施の形態1の移動装置10は、移動する動作領域の少なくとも一部について床面11および路面(図示せず)のうちの少なくともいずれかを含んで画像を撮像するカメラ12と、動作領域を自走自在に移動できる車体部13と、カメラ12を支持し、車体部13に支持された装置本体14と、を備えている。
【0017】
図1(b)に示すように移動装置10は、例えばこの装置本体14に、床面11bおよび路面のうちの少なくともいずれかの上に配置されたガイドライン15の位置を含んだ地図情報(図示せず)を記憶する記憶部16と、カメラ12により撮像した撮像画像を処理する撮像画像分析部17と、を含む制御部18を備えている。なお、制御部18はカメラ12が配置されたカメラヘッド部12aや車体部13に内蔵されていてもよく、移動装置10のいずれかの部分に配置されていてもよい。
【0018】
図1(c)に示すように、本実施の形態1では、制御部18の撮像画像分析部17において、カメラ12からのガイドライン15を含む撮像画像の取り込み処理S1を行い、その後、この取り込んだ撮像画像から複数のラインを抽出するライン抽出処理S2と、ガイドライン15の撮像画像における位置と地図情報における位置とをマッチングさせるラインマッチング処理S3とを行うことにより、ガイドライン15の認識を行っている。ここで、ラインマッチング処理S3においては、後述するように、ノイズ処理S3A、長さ処理S3Bおよび角度マッチング処理S3Cを行うことにより、ガイドライン15の撮像画像における位置と地図情報における位置とをマッチングさせている。このような構成要素と認識のフローチャートにより、制御部18は地図情報における動作領域における自己の位置を把握し、移動装置10を動作領域で移動させている。
【0019】
このような構成とすることにより、ラインが複雑に引かれ、さらに走行面11aと走行面ではない床面11bとを差別化して認識することが困難な走行環境において、複数の画像処理アルゴリズムを用意することなく、単一の画像処理アルゴリズムにより、容易に正確かつ迅速に所望のガイドライン15を認識することができる。したがって、移動装置10はガイドライン15を目印として認識して自分自身の位置を算出することにより、正確かつ迅速に動作領域内の目的地まで移動することができる。
【0020】
次に、移動装置10がガイドライン15を認識する時の画像処理アルゴリズムについて、具体的に説明する。
【0021】
図2は、本実施の形態1の移動装置10の画像処理アルゴリズムのフローチャートである。
【0022】
図2に示すように、画像処理アルゴリズムは、最初にカメラ12による移動装置10の進行方向の床面11bを含んだ走行面11aおよびその周辺の撮像画像の取り込み処理S1から始まっている。この撮像画像は、撮像画像分析部17においてライン抽出処理S2が行われて、例えば単位長さに対する明暗の変化の度合いにより、ガイドライン15を含む様々な物体などのラインエッジが抽出される。その結果、後述するように、撮像画像に設定された基準座標軸に対して、角度と長さとを有する複数のラインが抽出される。
【0023】
すなわち、ライン抽出処理S2は、図2に示すように、ラインエッジ抽出処理S2A、ラインしきい値設定処理S2B、ライン選択処理S2C、線分近似処理S2D、ライン数算出処理S2Eを含んで構成されている。ここで、ラインエッジ抽出処理S2Aは、撮像画像を分析して複数のラインのラインエッジを抽出する処理で、ラインしきい値設定処理S2Bは、ラインエッジを抽出するために明るさのしきい値であるラインしきい値を設定する処理である。ライン選択処理S2Cは、ラインエッジ抽出処理S2Aから得られるエッジ画像よりラインしきい値を用いて画像情報に描かれたラインを選択する処理で、線分近似処理S2Dは、このライン選択処理S2Cにより選択されたラインを線分に近似する処理である。そして、ライン数算出処理S2Eは、この線分近似処理S2Dにより線分に近似されたラインの数を算出する処理である。
【0024】
このような構成とすることにより、複雑な撮像画像からガイドライン15を見出すために単純化された形状である線分を、複数のラインとして抽出し、正確かつ迅速に所望のガイドライン15を認識することができる。
【0025】
このようにして撮像画像から複数のラインが抽出された後に、ラインマッチング処理S3が行われる。すなわち、ラインマッチング処理S3は、ノイズ処理S3Aと、長さ処理S3Bと、角度マッチング処理S3Cとを含み、ノイズ処理S3A、長さ処理S3Bおよび角度マッチング処理S3Cはこの順序で行った後に、撮像画像と地図情報19とに表示されるガイドライン15をマッチングさせて認識している。
【0026】
ここで、ノイズ処理S3Aは、ライン抽出処理S2により抽出された複数のラインのうち、所定の長さ以下(例えば1m以下)の長さのラインを、撮像画像におけるノイズとして除去する処理である。このように、認識したいガイドライン15の長さよりも十分に短い長さ(本実施の形態1では1m以下)のラインを、ノイズとして除去している。
【0027】
長さ処理S3Bは、複数のラインのうち、長さの長いラインから除去して複数のラインのライン数を所定のライン数以下にする処理である。また、角度マッチング処理S3Cは、所定のライン数のラインの後述する基準座標軸に対する角度の大きさを撮像画像と地図情報19とのそれぞれでマッチングする処理である。
【0028】
このようにして処理することにより、設定した画像処理アルゴリズムにより迅速に複数のラインを処理することができ、正確かつ迅速にガイドライン15を認識することができる。
【0029】
また、角度マッチング処理S3Cは、画像情報に表示される複数のラインのライン数が、ガイドライン15のライン数の2倍以上かつ4倍以下の範囲に入るまで角度のしきい値を変化させて行っている。
【0030】
このようにして処理することにより、正確なガイドライン15を画像認識により認識するに際し、最短の時間で認識することができる。
【0031】
詳しくは、ガイドライン15のライン数の4倍を超えたライン数で地図情報19のガイドライン15との画像認識によるマッチングを行うと、ガイドライン15としてのラインを正しく認識するのに長い時間がかかる。また、ガイドライン15のライン数の2倍未満のライン数で地図情報19のガイドライン15との画像認識によるマッチングを行おうとすると、角度マッチング処理S3Cに多大な時間がかかってしまう。したがって、表示されるラインのライン数が、ガイドライン15のライン数の2倍以上かつ4倍以下とすることにより、正確かつ最短の時間でガイドライン15を認識することができる。
【0032】
このようにして処理することにより、移動装置10は、撮像画像における位置と地図情報19における位置とをマッチングさせつつ、動作領域の所望の目的地まで迅速かつ正確に移動することができる。なお、ここで使用する地図情報19は、移動装置10自体に予め与えていた情報でもよいし、別途予めカメラ12により撮影した撮像画像から作成した情報でもよい。
【0033】
次に移動装置10が、例えば工場内を移動するときにガイドライン15を認識する時の画像処理アルゴリズムと、この画像処理アルゴリズムに基づいて上述のライン処理を行っている具体的な処理の内容について、詳細に説明する。
【0034】
図3は移動装置10のカメラ12により撮像した移動装置10の動作領域である進行方向の工場内の撮像画像20の模式図で、図3(a)は取り込み処理S1がされた撮像画像20の模式図、図3(b)はライン抽出処理S2を開始した撮像画像20の模式図である。図3(a)および(b)の撮像画像20は、撮像画像の取り込み処理S1により移動装置10の記憶部16に取り込まれている。
【0035】
図3(a)に示すように、移動装置10の進行方向の正面には、ガイドライン15に挟まれた床面11および走行面11aに沿って配置された床面11bが、撮像画像20に示されている。また、図3(a)の正面方向の遠くには工場の壁面20aやこの壁面20aに設けられた扉20bや窓20cが映し出されている。また、工場内にはガイドライン15に沿って、主にガイドライン15に挟まれた領域の外側に多数の装置20dや設備20eが配置されている。そして、天井側には照明器具20fが取り付けられており、この照明器具20fが工場内を照らす照明光の一部が照り返しの画像20gとなって、床面11に映し出されている。
【0036】
ライン抽出処理S2においてラインエッジ抽出処理S2Aを行う前に撮像画像20について2値化を行うために、図3(b)に示すように明暗のみが表示されるように処理を行う。このように処理した画像についてラインエッジ抽出処理S2Aが行われる。ここでは、SobelフィルタのX、Y方向のエッジを抽出するものなどのラインの角度を考慮したエッジ抽出フィルタを用いてもよい。
【0037】
図4(a)は撮像画像20にラインしきい値設定処理S2Bを行い、それぞれの画像成分を白と黒との2値表示をした撮像画像20の模式図、図4(b)は図4(a)の撮像画像20からライン抽出した撮像画像20の模式図を示すものである。
【0038】
図4(a)に示すように撮像画像20を2値化すると、窓20c、装置20d、設備20eの一部である明るい側面や照り返しの画像20gなどが、ガイドライン15と共に白抜きの領域として表示される。そして、ラインしきい値設定処理S2Bにおいて、図4(a)に示すような白抜きの領域と黒の領域とのエッジ画像より、撮像画像20における単位長さでの明るさの変化の傾きを求め、この変化の傾きに基づいてラインしきい値を設定する。
【0039】
そうすると、図4(b)に示すように、認識したいガイドライン15とラインマッチングを行うラインが多数表示されることとなる。ここでは主なラインを表示しているが、L1からL44まで40数本のラインが表示されている。対象としている撮像画像の画面の解像度は横1280本×縦960本を想定しており、工場や病院などの屋内では100本余りのラインが抽出されるのが一般的である。本実施の形態1では、ラインが抽出し易い画像を用いたため、ノイズは比較的現れていない。
【0040】
図4(b)の撮像画像で表示されるラインに対して、認識したい地図情報のガイドラインのラインをラインマッチングすると、膨大な時間がかかる。したがって、図2の画像処理アルゴリズムのフローチャートにおいて説明したように、効率的にラインマッチング処理S3を行う。そのために、ライン抽出処理S2の後に、ライン選択処理S2Cによって図4(b)において撮像画像20に描かれたラインを逐一選択し、線分近似処理S2Dにより選択されたラインを線分に近似している。そして、ライン数算出処理S2Eにより線分に近似されたラインの数を算出している。
【0041】
なお、ラインしきい値設定処理S2Bにおいて、しきい値はライン輪郭を示すエッジ成分を抽出できるように設定している。例えば、撮像画像20の全てのエッジ成分のエッジ強度の最大値および平均値を基に設定することができる。また、ライン抽出においてしきい値を越えるエッジ強度の画素を検索し、最初にしきい値を越えた画素を白線輪郭として抽出することによって、ライン抽出を行なうことができる。また、ラインの線分近似処理S2Dは、例えば直線検出アルゴリズムの1つであるHough変換や最小2乗法等の手法をライン輪郭に用いて行なうこともできる。
【0042】
図5は、基準座標軸を設定して、図4(b)の撮像画像20において選択された複数のラインの一部を表示してラインの長さと基準座標軸に対する角度とを決定する手法を示す図である。
【0043】
図5に示すように、ラインの長さLkは、ラインの長さを示す2つの座標点Pk1(xk1、yk1)およびPk2(xk2、yk2)から計算することができる。ここで、図5に示すように画像上の座標点は、実際の実世界の座標点および長さに位置および長さが換算されて計算されている。したがって、ラインの長さLkは、実世界の実空間上現実の長さとして把握され、画像処理アルゴリズムによりガイドライン15とマッチングがなされることとなる。
【0044】
また、ラインの角度θkも同様に、現実の位置により現実の角度として図5に示すθkの値として求められている。
【0045】
本実施の形態1では、図5に示した計算手法により図4(b)に示すL1からL44のラインの長さを全て求めた後に、ノイズ処理S3Aにより1m以下のラインを撮像画像20から全て省いている。これは、本実施の形態1の撮像画像20においては、ガイドライン15は1mを超えていることが予め判っているためである。
【0046】
図6は、撮像画像20においてノイズ処理S3Aをしたのちのラインを示した図である。また、図7(a)は、実空間の現実の長さにおいて、例えば3m以上の長い線を省いた長さ処理S3Bを行った図で、図7(b)は、図7(a)の処理後に残ったラインのそれぞれの角度θ1からθ12に対して、角度マッチング処理S3Cを行っていることを示す図である。ここで、撮像画像20の左半分の角度θ1からθ6については、ガイドライン15の角度であるθpを基準として、±Δθp(例えばΔθpは5度)としてこの範囲の角度に入るラインをガイドライン15として選択している。
【0047】
図8は角度マッチング処理S3Cを行った図である。図8のようにして、ガイドライン15としてのラインを選択する。そして、最終的にガイドライン15の候補として残ったラインについては、地図情報19を用いて1本づつラインマッチングを行い、真のガイドライン15を認識する。
【0048】
図9(a)および(b)は、図3から図7までのライン抽出処理S2およびラインマッチング処理S3を行った説明と同一の処理を他の撮像画像に対して行った例を示す図で、図9(a)は検出本数を絞り込むに従ってガイドライン15とマッチングした結果、装置自体の位置の認識精度(以下、「位置精度」とする)が上がることを示す図、図9(b)は位置精度が±0.3mとなるときのラインの検出本数を3つの異なる撮像画像について実施した結果を示す図である。
【0049】
図9(a)および(b)に示すように、位置精度を上げるために検出本数を絞り込んでいく。この例では、検出本数を50本にまで絞り込むためにノイズ処理S3Aを行い、16本にまで絞り込むために長さ処理S3Bを行っている。
【0050】
すなわち、長さ処理S3Bは、画像情報に表示される複数のラインのライン数が16本以下になるまで長さのしきい値を変化させて、行われている。ここで、長さのしきい値とは、その長さ以上のラインを省くときの長さで、例えば4mの長さから10cmづつしきい値を変化させて、検出本数を16本以下になるまで変化させている。
【0051】
このような構成とすることにより、設定した画像処理アルゴリズムにより迅速に複数のラインを処理することができ、正確かつ迅速にガイドライン15を認識することができる。
【0052】
図10は、ラインマッチング処理S3を本発明の移動装置10の処理の順で行った場合とその他の処理で行った場合とで、ガイドライン15をマッチングにより認識するまでにかかった時間の例について示す図である。
【0053】
図10に示すように、本実施の形態1の移動装置10の処理の順(すなわち、ノイズ処理S3A、長さ処理S3B、角度マッチング処理S3Cの順)で処理の区分9Aのように処理のフローを行うと、0.2secで行なうことができる。しかしながら、区分9Bのように処理の順を入れ替えると2.5倍の時間がかかり、区分9Cのようにノイズ処理S3Aのみであると約5倍の時間がかかる。さらに区分9Dのように、処理をしないでラインマッチングをいきなり行うと10倍の時間がかかる。
【0054】
したがって、撮像画像を認識してその結果を常にフィードバックして動作領域の目的地まで正確に移動していくためには、本実施の形態1の移動装置10のような画像処理アルゴリズムが必要であり、これが有効であることがわかる。
【0055】
上述したように、本実施の形態1の移動装置によれば、抽出されるラインの数に応じてラインの採用条件が厳しくなり、マッチングに有効なラインを限定できる。ラインの数によって限定するために複数のラインが存在した場合でも、従来の技術とは異なり、撮像画像を分析する画像の領域を限定せず、取得した画像の情報を最大限に活かしながらマッチングすることができる。すなわち、本実施の形態1の移動装置10は、単純な画像認識アルゴリズムを用いて、認識したいガイドラインを地図情報とマッチングすることができる。
【0056】
したがって、工場や病院などの区画標示・道路標示用ラインが複雑に引かれ、走行面と床面の判断が困難な走行環境においてもカメラで撮像した床面の画像に存在するノイズを除去し確実にラインを抽出できる移動装置を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の移動装置によれば、病院や工場などの屋内の環境において区画標示や道路標示用のラインが複雑に引かれ、さらに走行面と床面とを差別化して認識し判断することが困難な走行環境においても、確実に認識したいガイドラインを正確かつ迅速に認識して所望の場所に移動できる。したがって、病院や工場などの区画標示・道路標示用ラインが複雑に引かれたものと同様の様々な走行環境を持った建物や屋外の場所においても有用であり、移動装置の活用が期待できる。
【符号の説明】
【0058】
10 移動装置
11,11b 床面
11a 走行面
12 カメラ
12a カメラヘッド部
13 車体部
14 装置本体
15 ガイドライン
16 記憶部
17 撮像画像分析部
18 制御部
19 地図情報
20 撮像画像
20a 壁面
20b 扉
20c 窓
20d 装置
20e 設備
20f 照明器具
20g 照り返しの画像
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動作領域の床面および路面の少なくともいずれかに配置されたガイドラインを含む画像を撮像するカメラと、
前記カメラを支持する装置本体と、
前記装置本体を支持すると共に前記動作領域を移動可能な車体部と、
前記ガイドラインの位置を含む地図情報を記憶する記憶部と前記カメラにより撮像した撮像画像を処理する撮像画像分析部とを含む制御部と、を備えた移動装置において、
前記撮像画像分析部が、前記撮像画像から複数のラインを抽出するライン抽出処理と、このライン抽出処理により抽出された前記複数のラインについてノイズ処理,長さ処理および角度マッチング処理を行うことで前記撮像画像における前記ガイドラインの位置と前記地図情報における位置とをマッチングさせるラインマッチング処理で前記ガイドラインを認識する制御部であること
を特徴とする移動装置。
【請求項2】
前記ラインマッチング処理は、所定の長さ以下のラインを前記撮像画像におけるノイズとして除去する前記ノイズ処理、長さの長いラインから除去して前記複数のラインのライン数を所定のライン数以下にする長さ処理、前記所定のライン数のラインの基準座標軸に対する角度の大きさを前記撮像画像と前記地図情報とのそれぞれでマッチングする角度マッチング処理の順序で行った後に、前記撮像画像と前記地図情報とに表示される前記ガイドラインをマッチングさせて認識する処理であること
を特徴とする請求項1に記載の移動装置。
【請求項3】
前記角度マッチング処理は、前記画像情報に表示される前記複数のラインのライン数が前記ガイドラインのライン数の2倍以上かつ4倍以下の範囲に入るまで角度のしきい値を変化させて行われる処理であること
を特徴とする請求項2に記載の移動装置。
【請求項4】
前記長さ処理は、前記画像情報に表示される前記複数のラインのライン数が16本以下になるまで長さのしきい値を変化させて行われる処理であること
を特徴とする請求項2または3に記載の移動装置。
【請求項5】
前記ライン抽出処理は、前記撮像画像を分析して前記複数のラインのラインエッジを抽出するラインエッジ抽出処理と、前記ラインエッジを抽出するために明るさのしきい値であるラインしきい値を設定するラインしきい値設定処理と、前記ラインエッジ抽出処理から得られるエッジ画像より前記ラインしきい値を用いて前記画像情報に描かれたラインを選択するライン選択処理と、このライン選択処理により選択されたラインを線分に近似する線分近似処理と、この線分近似処理により線分に近似されたラインの数を算出するライン数算出処理と、を含んで構成されること
を特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の移動装置。
【請求項1】
動作領域の床面および路面の少なくともいずれかに配置されたガイドラインを含む画像を撮像するカメラと、
前記カメラを支持する装置本体と、
前記装置本体を支持すると共に前記動作領域を移動可能な車体部と、
前記ガイドラインの位置を含む地図情報を記憶する記憶部と前記カメラにより撮像した撮像画像を処理する撮像画像分析部とを含む制御部と、を備えた移動装置において、
前記撮像画像分析部が、前記撮像画像から複数のラインを抽出するライン抽出処理と、このライン抽出処理により抽出された前記複数のラインについてノイズ処理,長さ処理および角度マッチング処理を行うことで前記撮像画像における前記ガイドラインの位置と前記地図情報における位置とをマッチングさせるラインマッチング処理で前記ガイドラインを認識する制御部であること
を特徴とする移動装置。
【請求項2】
前記ラインマッチング処理は、所定の長さ以下のラインを前記撮像画像におけるノイズとして除去する前記ノイズ処理、長さの長いラインから除去して前記複数のラインのライン数を所定のライン数以下にする長さ処理、前記所定のライン数のラインの基準座標軸に対する角度の大きさを前記撮像画像と前記地図情報とのそれぞれでマッチングする角度マッチング処理の順序で行った後に、前記撮像画像と前記地図情報とに表示される前記ガイドラインをマッチングさせて認識する処理であること
を特徴とする請求項1に記載の移動装置。
【請求項3】
前記角度マッチング処理は、前記画像情報に表示される前記複数のラインのライン数が前記ガイドラインのライン数の2倍以上かつ4倍以下の範囲に入るまで角度のしきい値を変化させて行われる処理であること
を特徴とする請求項2に記載の移動装置。
【請求項4】
前記長さ処理は、前記画像情報に表示される前記複数のラインのライン数が16本以下になるまで長さのしきい値を変化させて行われる処理であること
を特徴とする請求項2または3に記載の移動装置。
【請求項5】
前記ライン抽出処理は、前記撮像画像を分析して前記複数のラインのラインエッジを抽出するラインエッジ抽出処理と、前記ラインエッジを抽出するために明るさのしきい値であるラインしきい値を設定するラインしきい値設定処理と、前記ラインエッジ抽出処理から得られるエッジ画像より前記ラインしきい値を用いて前記画像情報に描かれたラインを選択するライン選択処理と、このライン選択処理により選択されたラインを線分に近似する線分近似処理と、この線分近似処理により線分に近似されたラインの数を算出するライン数算出処理と、を含んで構成されること
を特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の移動装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2010−282393(P2010−282393A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−134849(P2009−134849)
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
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