説明

積層ゴム支承体の製造方法および積層ゴム支承体

【課題】機械加工による仕上げ工程を必要とせずに、実質的に鋳造のみで、例えば、鉛、錫、錫合金などからなる寸法精度の高いプラグを作製することを可能にして、信頼性の高い積層ゴム支承体を効率よく製造できるようにする。
【解決手段】金型A内のプラグ原料20を、下部から上部に向かって徐々に凝固させて所定の高さまで凝固させた後、上部フランジを取り外して上蓋25をセットし、上蓋の余剰原料逃がし用貫通孔25aに入り込んだ溶融プラグ原料が凝固しないように、余剰原料逃がし用貫通孔内のプラグ原料を加熱しつつ、本体胴21を冷却して金型A内のプラグ原料のうちプラグとなる部分を凝固させた後、余剰原料逃がし用貫通孔内の溶融プラグ原料の加熱を停止し、余剰原料逃がし用貫通孔内の溶融プラグ原料を凝固させ、上蓋を取り外して、余剰原料逃がし用貫通孔に入り込んでいたプラグ原料の余剰部分20aを除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、構造物の免震などに用いられる積層ゴム支承体および積層ゴム支承体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、建築物、土木構造物、機器等を免震するために、図18に示すような積層ゴム支承体(プラグ入り免震装置)が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
この積層ゴム支承体は、図18に示すように、弾性材料層を構成するゴムなどからなる弾性板51と、剛性材料層を構成する環状の剛性板52とを交互に積層して相互に固定してなる環状の積層体53と、積層体53に形成された円筒状の内周面59で規定される貫通孔62に配された円柱状鉛(プラグ)54と、円柱状鉛54の下面及び上面にそれぞれ当接して積層体53の下面及び上面のそれぞれにボルトなど(図示せず)により取り付けられたフランジプレート68及び69とを具備し、例えば、一方のフランジプレート68側が基礎などの構造物に固定され、他方のフランジプレート69側に建築物などの構造物が載置されるように構成されている。
【0004】
そして、この積層ゴム支承体(プラグ入り免震装置)によれば、建物などを安定に支持しながら地震発生時には水平方向に変形して地震エネルギーを低減するという機能を発揮する。すなわち、この積層ゴム支承体は、従来の積層ゴムとダンパの両機能を備えている。また、この積層ゴム支承体を用いることにより、設置スペースを削減することが可能になるとともに、施工性を向上させることができるという効果が得られる。
【0005】
ところで、上述の特許文献1の積層ゴム支承体では、プラグ材料として鉛が使用されていることから、環境保護のため、鉛に代わる材料として、非鉛材料である錫または錫合金をプラグ材料とする積層ゴム支承体が提案されている(特許文献2参照)。
【0006】
しかしながら、上記特許文献1の鉛プラグを用いた積層ゴム支承体(プラグ入り免震装置)、あるいは錫、錫合金プラグを用いた上記特許文献2の積層ゴム支承体においては、積層体の貫通孔にプラグを挿入する際に、プラグが要求される寸法精度を満たしていない場合、プラグとその周囲の積層体との間に隙間が発生することになり、十分な性能を発揮できない場合が生じる。
【0007】
それゆえ、意図する機能を発揮させようとすると寸法精度の高いプラグを用いることが必要となるが、溶融させたプラグ原料(鉛、あるいは錫、錫合金など)を鋳型に流し込む一般的な鋳造によるプラグの作製方法では、目標とする寸法精度を確保することは困難である。
【0008】
そこで、従来は、鋳造後に機械加工を行うことにより、要求される寸法精度を確保するようにしており、この機械加工がコストの増大を招く一因となっているのが実情である。
【特許文献1】特開平9−105441号公報
【特許文献2】特開2006−9852号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するものであり、機械加工による仕上げ工程を必要とせずに、鋳造のみで、例えば、鉛、錫、錫合金などからなる寸法精度の高いプラグを作製することが可能で、低コストで、信頼性の高い積層ゴム支承体を効率よく製造することが可能な積層ゴム支承体の製造方法、および該製造方法により製造される、信頼性が高く、しかも、経済性に優れた積層ゴム支承体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の積層ゴム支承体の製造方法は
複数のゴム板と複数の金属板とを上下方向に交互に積層してなる積層体に、少なくとも一つの貫通孔を上下方向に形成し、前記貫通孔と嵌合する、金属製で柱状のプラグを前記貫通孔内に配設してなる積層ゴム支承体の製造方法において、
前記プラグを作製する工程が、
(a)本体胴と、底板と、溶融プラグ原料の投入口となる開口部を有する上部フランジとを組み合わせて、プラグ鋳造用の金型を形成する工程と、
(b)溶融プラグ原料を、湯面が前記上部フランジの前記開口部にまで達するように鋳込む工程と、
(c)前記金型内の溶融プラグ原料が下部から上部に向かって徐々に凝固して行くように、前記金型を下部から上部に向かって段階的にまたは連続的に冷却する工程と、
(d)プラグ原料の凝固高さが、湯面から所定の範囲内の高さにまで達した時点で、前記上部フランジを取り外して、前記本体胴の上端部を超える余剰の溶融プラグ原料を逃がす余剰原料逃がし用貫通孔を備えた上蓋を、溶融プラグ原料が上蓋との接触時に凝固してしまわないような温度に加熱された状態で前記本体胴の上端部に取り付ける工程と、
(e)前記上蓋の前記余剰原料逃がし用貫通孔に入り込んだ溶融プラグ原料が凝固しないように、前記上蓋の前記余剰原料逃がし用貫通孔内のプラグ原料を加熱しつつ、前記本体胴を冷却して、本体胴内の溶融プラグ原料を上部に向かって徐々に凝固させることにより、前記金型内のプラグ原料のうち前記プラグとなる部分を凝固させる工程と、
(f)前記プラグ原料の前記プラグとなる部分を凝固させた後、前記上蓋の前記余剰原料逃がし用貫通孔内の溶融プラグ原料の加熱を停止し、前記上蓋の前記余剰原料逃がし用貫通孔に入り込んだ溶融プラグ原料を凝固させる工程と、
(g)前記上蓋を取り外して、前記余剰原料逃がし用貫通孔に入り込んでいるプラグ原料の余剰部分を除去する工程と
を具備することを特徴としている。
【0011】
また、本発明の積層ゴム支承体の製造方法は、前記(d)の、前記上部フランジを取り外して、前記上蓋を前記本体胴の上端部に取り付ける時点が、プラグ原料の凝固高さが、湯面から20mm以内の高さになった時点であることを特徴としている。
【0012】
また、本発明は、前記プラグが円柱形状を有するものである場合において、前記金型を構成する前記本体胴として、内径寸法が、作製すべきプラグの外径寸法より0.1mm〜1.0mm大きく、かつ、高さ寸法が、作製すべきプラグの高さ寸法より0.1mm〜1.0mm大きい本体胴を用いることを特徴としている。
【0013】
また、本発明は、前記(c)の、前記金型を下部から上部に向かって冷却する工程において、冷却用気体を前記本体胴の外周面に吹き付けるとともに、冷却用気体の吹き付け領域を前記本体胴の下部の領域から上部の領域に向かって段階的に拡大することにより、前記金型内の溶融プラグ原料を下部から上部に向かって徐々に凝固させることを特徴としている。
【0014】
また、本発明は、前記上蓋の前記余剰原料逃がし用貫通孔が前記上蓋の中央部に形成されており、かつ前記余剰原料逃がし用貫通孔が下側から上側に向かって内径が徐々に小さくなるようなテーパ形状を有する貫通孔であることを特徴としている。
【0015】
また、本発明は、前記(g)の余剰部分を除去する工程で前記余剰部分を除去した後に、除去部分を平滑に処理するための工程を備えていることを特徴としている。
【0016】
また、本発明は、前記プラグを構成する金属材料が、鉛、錫、および錫合金から選ばれる少なくとも1種であることを特徴としている。
【0017】
また、本発明の積層ゴム支承体は、複数のゴム板と複数の金属板とを上下方向に交互に積層してなる積層体に、少なくとも一つの貫通孔を上下方向に形成し、前記貫通孔内に、前記貫通孔と嵌合するプラグを配設してなる積層ゴム支承体であって、前記プラグとして、請求項1〜6のいずれかに記載の方法で作製され、上下のいずれか一方の端面において余剰部分が除去された構造を有するプラグが用いられていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
本発明においては、上述の金型に溶融プラグ原料を鋳込んだ後、金型内の溶融プラグ原料が下部から上部に向かって徐々に凝固して行くように、金型を下部から上部に向かって段階的にまたは連続的に冷却し、プラグ原料の凝固高さが、湯面から所定の範囲内の高さにまで達した時点で、上部フランジを取り外して、本体胴の上端部を超える余剰の溶融プラグ原料を逃がす余剰原料逃がし用貫通孔を備えた上蓋を、溶融プラグ原料が上蓋との接触時に凝固してしまわないような温度に加熱された状態で前記本体胴の上端部に取り付け、上蓋の余剰原料逃がし用貫通孔に入り込んだ溶融プラグ原料が凝固しないように、上蓋の余剰原料逃がし用貫通孔内のプラグ原料をを加熱しつつ、本体胴を冷却して、本体胴内の溶融プラグ原料を上部に向かって徐々に凝固させることにより、金型内のプラグ原料のうちプラグとなる部分を凝固させた後、余剰原料逃がし用貫通孔内の溶融プラグ原料の加熱を停止し、上蓋の余剰原料逃がし用貫通孔に入り込んだ溶融プラグ原料を凝固させ、その後、上蓋を取り外して、余剰原料逃がし用貫通孔に入り込んでいるプラグ原料の余剰部分を除去するようにしているので、機械加工により仕上げ工程を必要とせず、鋳造のみで寸法精度の高いプラグを作製することが可能になる。したがって、このプラグを用いることにより、低コストで、信頼性の高い積層ゴム支承体を効率よく製造することが可能になる。
【0019】
すなわち、通常の鋳造の場合、凝固していない部位に向かって、凝固収縮が進行することから寸法安定性が損なわれるが、本発明においては、金型の下部から冷却することにより、金型内の溶融プラグ原料を、下部から上部に向けて凝固させるようにしているので、凝固は溶融している部位、すなわち、金型の上部に向かってのみ進行し、凝固収縮も上部に向かってのみ進行するため、プラグの径方向の寸法安定性を維持することが可能になる。
【0020】
しかしながら、鋳造物の下部から冷却を開始することにより、プラグの径方向の寸法安定性を維持するようにした場合、通常は、最終的に凝固する箇所がプラグの上端部となるため、そこに凝固収縮が集中し、端部表面を滑らかに凝固させることができなくなるため、高さ方向の寸法安定性を維持することが困難になる。
【0021】
これに対し、本発明のように、プラグ原料の凝固高さが、湯面から所定の範囲内の高さにまで達した時点で、余剰原料逃がし用貫通孔を有する予熱された上蓋を乗せ、徐々に凝固させることにより、余剰原料逃がし用貫通孔以外の領域で上蓋に接している部分の溶融プラグ原料は、上蓋に確実に接した状態で平滑に凝固し、上記余剰原料逃がし用貫通孔内の溶融プラグ原料が最終的に凝固する。
その結果、最終的な凝固箇所が上記余剰原料逃がし用貫通孔内となり、滑らかに凝固しない部分がそこに集中する。そして、最終的な凝固箇所である、この余剰原料逃がし用貫通孔に入り込んでいた部分は余剰部分として除去されるため、余剰部分が除去された部分を平滑になるように処理するだけで、高さ方向にも寸法安定性に優れた鋳造体を容易かつ確実に形成することが可能になる。
【0022】
また、従来の鋳造方法では、鋳造体の収縮量に応じて、押し湯を行うが、本発明の場合、上蓋が余剰原料逃がし用貫通孔開口部を有していることから、必要量をいくらか超える量のプラグ原料を最初に供給しておきさえすれば、その後に押し湯の必要性がなく、工程を簡略化することができる。
【0023】
また、鋳造体本体は、凝固直後は金型を構成する本体胴の内径と同じ寸法になるが、凝固後のさらなる温度低下に伴い、プラグの構成材料に固有の線膨張係数に沿って収縮するため、金型の本体胴の内面をテーパ形状にしなくても、確実に脱型することができる。
【0024】
なお、鋳造体は、材料に固有の線膨張係数に沿って収縮するため、プラグの寸法安定性(寸法公差)を確保するためには、予め本体胴の内径寸法および高さ寸法を、作製しようとするプラグを構成する材料の線膨張係数を考慮して、決定することが望ましい。
【0025】
また、請求項1の(d)の工程において、上部フランジを取り外して、上蓋を本体胴の上端部に取り付ける時点を、プラグ原料の凝固高さが、湯面から20mm以内の高さになった時点とした場合、余剰原料逃がし用貫通孔以外の領域で上蓋に接している部分の溶融プラグ原料を、上蓋に確実に接した状態で平滑に凝固させることが可能になり、高さ方向にも寸法安定性に優れたプラグを確実に形成することが可能になり、本発明をより実効あらしめることができる。
【0026】
なお、鋳造体は、材料に固有の線膨張係数に沿って収縮するため、プラグの寸法公差を確保するためには、予め本体胴の内径寸法および高さ寸法を、作製しようとするプラグの寸法や構成材料を考慮して決定することが望ましいことは上で述べたが、プラグが円柱形状を有するものである場合において、本体胴として、内径寸法が、製造しようとするプラグの外径寸法より0.1mm〜1.0mm大きく、かつ、高さ寸法が、製造しようとする前記プラグの高さ寸法より0.1mm〜1.0mm大きい本体胴を用いることにより、一般的な積層ゴム支承体に用いられるプラグを、通常の、鉛、錫、および錫合金を用いて製造する場合に、鋳造後の冷却収縮による目標寸法との間の差を小さくして、寸法が公差の範囲内にあるプラグを確実に製造することが可能になる。
【0027】
また、金型を下部から上部に向かって冷却する工程において、冷却用気体を本体胴の外周面に吹き付けるとともに、冷却用気体の吹き付け領域を本体胴の下部の領域から上部の領域に向かって段階的に拡大するようにした場合、金型内の溶融プラグ原料を下部から上部に向かって徐々に凝固させることが可能になり、特殊な設備を用いたりすることなく、低コストで寸法精度の高いプラグを効率よく作製することが可能になり、本発明をさらに実効あらしめることができる。
【0028】
また、上蓋の余剰原料逃がし用貫通孔を、下側から上側に向かって、内径が小さくなるようなテーパ形状を有する貫通孔とすることにより、プラグ原料の余剰部分を確実に逃がして、寸法精度の高いプラグを効率よく作製することができる。
【0029】
また、余剰部分を除去する工程でプラグ原料の余剰部分を除去した後に、除去部分を平滑に処理することにより、寸法精度の高いプラグを、それほどの手間をかけることなく得ることが可能になり、信頼性の高い積層ゴム支承体を効率よく製造することができる。
【0030】
また、プラグを構成する金属材料として、鉛、錫、および錫合金から選ばれる少なくとも1種を用いることにより、建物などを安定に支持しながら地震発生時には水平方向に変形して地震エネルギーを低減する機能を十分に発揮しうる積層ゴム支承体を確実に製造することが可能になる。
【0031】
また、本発明の積層ゴム支承体は、プラグとして、請求項1〜7のいずれかに記載の方法で製造され、上下のいずれか一方の端面において余剰部分が除去された構造を有する、低コストで作製され、寸法精度の高いプラグが用いられているので、信頼性が高く、しかも経済性に優れた低コストの積層ゴム支承体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の実施例を示して、その特徴とするところを詳しく説明する。
【実施例1】
【0033】
図1(a)は本発明の一実施例にかかる積層ゴム支承体を示す図、図1(b)は図1(a)の積層ゴム支承体において用いられているプラグの形状を示す斜視図である。
【0034】
この積層ゴム支承体は、図1に示すように、弾性材料層を構成するゴムなどからなる弾性板1と、金属などからなる剛性材料層を構成する環状の剛性板2とを交互に積層して相互に固定してなる環状の積層体3と、積層体3の円筒状の内周面9で規定される貫通孔12に挿入されたSn合金製で円柱状のプラグ4と、積層体3の下面及び上面のそれぞれに、連結鋼板15,16を介してボルト17により取り付けられたフランジプレート18,19とを備えている。
【0035】
そして、この積層ゴム支承体は、例えば、フランジプレート18側が基礎などの構造物に固定され、フランジプレート19側に建築物などの構造物が載置されるように構成されている。
【0036】
なお、図1の積層ゴム支承体において用いられているプラグ4は、円柱形状を有しており、直径が159.5mm、高さが400mmの寸法を有している。
また、プラグ4の構成材料としては、錫99.5重量%、ビスマス0.3重量%を含有し、残部を不純物とする錫−ビスマス合金が用いられている。
なお、積層ゴム支承体に用いられるプラグとしては、通常は円柱形状で、直径が50〜300mm、高さが200〜600mmのものが多い。
【0037】
以下、この積層ゴム支承体に用いられているプラグ4の製造方法について、図2〜図17を参照しつつ説明する。
【0038】
(1)まず、図2に示すように、本体胴21と、底板22と、溶融させたプラグ原料20(図7参照)の投入口となる開口部23aを有する上部フランジ23とを組み合わせて、本体胴21の上端が作製すべきプラグ4(図1参照)の上端となるような、プラグ鋳造用の金型Aを形成する。
【0039】
この金型Aを構成する本体胴21は、図3(a),(b)に示すように、そのパイプ状部材21aの下端部に、底板22を連結するためのフランジ部(鍔部)21bを備えている。また、本体胴21は、製作すべきプラグ4の外径寸法よりも0.1〜1.0mm大きい内径寸法と、製作すべきプラグ4の高さ寸法よりも、0.1〜1.0mm大きい高さ寸法と、5mm以上の板厚を有している。
【0040】
また、底板22としては、図4(a),(b)に示すように、本体胴21を構成するフランジ部21bの外径と同じ外径を有する、穴の形成されていない閉止フランジが用いられている。
【0041】
さらに、上部フランジ23としては、図5(a),(b)に示すように、本体胴21のパイプ状部材21aの内径と同じか、それよりも20mm程度まで小さい直径の開孔23aを中央に有し、かつ、パイプ状部材21aの外径よりも大きい外径を有する開口フランジが用いられている。
【0042】
さらに、金型Aは、後述するように、プラグ原料20の凝固高さが、湯面から所定の範囲内の高さにまで達した時点で、上部フランジ23を取り外した後に本体胴21の上端部に取り付けられる、本体胴21の上端部を超える余剰の溶融プラグ原料20を逃がす余剰原料逃がし用貫通孔25aを備えた上蓋25を備えている(図6参照)。
なお、この上蓋25の余剰原料逃がし用貫通孔25aは、内周面が滑らかに加工されており、かつ、下端側の直径が5mm以上で、内周面が傾斜した裾広がりの形状(テーパ形状)を有しており、溶融したプラグ原料20が入り込みやすいように構成されている。
【0043】
(2)それから、本体胴21と、底板22と、上部フランジ23とを組み合わせた金型A(図2)を、加熱炉にて、100℃〜400℃に予熱する。
また、上蓋25も加熱炉にて100℃〜400℃に予熱しておく。
一方、プラグ原料20である錫合金を、所定の釜内で、溶湯温度が、融点〜融点+200℃の範囲内の温度に加熱する。
【0044】
(3)それから、溶融したプラグ原料20を、予熱された金型Aに鋳込む。このとき、図7に示すように、凝固時にも湯面が金型Aを構成する本体胴21の上端よりも高い位置になるように、かつ、上部フランジ23の開口部23aから溢れないようにプラグ原料20を金型Aに投入する。
【0045】
(4)プラグ原料20を鋳込んだ後、図8に示すように、下部送風手段26a、中央送風手段26b、上部送風手段26cを備えた冷却用治具26を、金型Aの近傍の所定の位置に設置する。この冷却手段26は、下部送風手段26a、中央送風手段26b、上部送風手段26cのそれぞれから、金型Aの下部、中央部、および上部に冷却用空気を供給することができるように構成されており、金型A内の溶融したプラグ原料20を下部から上部に向かって徐々に凝固させることができるように構成されている。
【0046】
冷却を行うにあたっては、まず、下部送風手段26aから冷却用空気を供給して、金型Aの下部から冷却を開始する。
このとき、外気と接している金型Aの上部のプラグ原料20が先に凝固してしまわないように、加熱手段(この実施例ではバーナ)27により上部フランジ23の開口部23aから加熱を行う(図8参照)。
【0047】
(5)プラグ原料20の凝固位置(凝固高さ)が、下部送風手段26aからの冷却用空気の供給位置を超える高さH1に達すると、金型Aの中央送風手段26bからも冷却用空気の供給を行って、金型Aの下部の冷却を継続しつつ、金型Aの中央部についても冷却を開始する(図9)。
さらに凝固位置(凝固高さ)が、中央送風手段26bからの冷却用空気の供給位置を超える高さH2に達すると、上部送風手段26cからも冷却用空気の供給を行って、金型Aの下部および中央部の冷却を継続しつつ、金型Aの上部についても冷却を開始する(図10)。
【0048】
(6)そして、凝固が進み、凝固位置(凝固高さ)が湯面から5〜20mm程度の高さH3になった時点で、必要に応じて、余剰の溶融プラグ原料20を取り除いた後(溶融プラグ原料が本体胴の上端部よりいくらか上の位置になるようにする)、上部フランジ23を取り外す(図11)。
このとき、溶融プラグ原料20は、表面張力により、図12に示すように盛り上がった状態となる。
【0049】
(7)それから、プラグ原料20の凝固していない部分が上蓋25との接触時に凝固してしまわないような温度に加熱された、テーパ形状の原料逃がし用貫通孔25aを備えた上蓋25を、余剰原料逃がし用貫通孔25aが裾広がりとなるような姿勢で本体胴21の上端部にセットする。
上蓋25がセットされると、表面張力で金型Aの本体胴21の上端から上に盛り上がっている部分の溶融プラグ原料20は余剰原料逃がし用貫通孔25aに速やかに移行する(図13)。
【0050】
(8)それから、図13に示すように、上蓋25の余剰原料逃がし用貫通孔25aに入り込んだ溶融プラグ原料が凝固しないように、加熱手段(この実施例ではバーナ)27により、上蓋25の余剰原料逃がし用貫通孔25a内の溶融プラグ原料20を加熱しつつ、金型Aの本体胴21の冷却を続ける。
【0051】
(9)その後、図14に示すように、凝固位置が金型Aの本体胴21の上端にまで到達した時点でバーナ27による余剰原料逃がし用貫通孔25a内の溶融プラグ原料20の加熱を停止し、図15に示すように、余剰原料逃がし用貫通孔25a内の溶融プラグ原料20の凝固を完了させる。
【0052】
(10)余剰原料逃がし用貫通孔25a内の溶融プラグ原料20の凝固が完了した後、上蓋25を取り外す(図16参照)。このとき余剰原料逃がし用貫通孔25aがテーパ形状を有しているので、凝固したプラグ原料の温度が融点以下100℃以上の状態でも、上蓋25を容易に取り外すことができる。
【0053】
(11)上蓋25を取り外した後、図17に示すように、余剰原料逃がし用貫通孔25a内で凝固した部分(余剰部分)20aを除去する。余剰部分20aの除去はカッターなどによる切り取りの方法などにより行うことができる。
そして、凝固したプラグ原料(鋳造体)の上記余剰部分20aを除去した跡を紙ヤスリなどにより研磨して平滑にする仕上げ処理を行う。
【0054】
(12)それから、鋳造体の表面温度を室温付近まで低下させた後、本体胴21を凝固したプラグ原料すなわち鋳造体からゆっくりと取り外し脱型する。そして、必要に応じて、脱型した鋳造体の表面を紙ヤスリなどで簡単に仕上げる。
これにより、手間のかかる高精度機械加工による仕上げ工程を必要とせずに、実質的に鋳造のみで、寸法精度の高いプラグ4(図1(b))が得られる。
【0055】
このプラグ4を用いて、図1(a)に示すような積層ゴム支承体を構成することにより、低コストで、信頼性の高い積層ゴム支承体を提供することが可能になる。
【0056】
なお、上記実施例では、下部送風手段26a、中央送風手段26b、上部送風手段26cを備えた冷却用治具26を用いて金型Aを下部から上部に段階的(3段階)に冷却するようにした場合を例にとって説明したが、冷却の段階は3段階に限られるものではなく、プラグの寸法、構成材料などの条件を考慮して段数を決定することができる。
【0057】
また、金型Aの下部から上部に向かっての冷却を段階的にするのではなく、連続的に下部から上部に向かって冷却するようにしてもよい。
また、上記実施例ではプラグの構成材料として錫合金を用いた場合を例にとって説明したが、プラグの構成材料として鉛や鉛合金などを用いることも可能であり、さらに他の材料を用いることも可能である。
【0058】
本発明はさらにその他の点においても上記の実施例に限定されるものではなく、金型の具体的な構成、上蓋の具体的な構成、上蓋の余剰原料逃がし用貫通孔の形状、プラグの形状や寸法、作製すべきプラグの寸法と金型の寸法との関係、1つの積層ゴム支承体が備えるプラグの数、複数のゴム板と複数の金属板とを上下方向に交互に積層してなる積層体の具体的な構造、金型へのプラグ原料の鋳込み条件、余剰原料逃がし用貫通孔に入り込んでいた余剰部分の除去方法、金型を冷却するための冷却治具の具体的な構成などに関し、発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、機械加工による仕上げ工程などを実質的に必要とせず、鋳造のみで、寸法精度の高いプラグを製造することを可能になり、該プラグを用いることにより、低コストで、信頼性の高い積層ゴム支承体を提供することが可能になる。
したがって、本発明は、積層ゴム支承体及びその製造技術の分野に広く適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】(a)は本発明の一実施例にかかる積層ゴム支承体を示す図、(b)は(a)の積層ゴム支承体において用いられているプラグの形状を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施例においてプラグを鋳造するのに用いた金型の構成を示す図である。
【図3】本発明の実施例において用いた金型を構成する本体胴の構成を示す図であり、(a)は平面図、(b)は正面断面図である。
【図4】本発明の実施例において用いた金型を構成する底板の構成を示す図であり、(a)は正面断面図、(b)は平面図である。
【図5】本発明の実施例において用いた金型を構成する上部フランジの構成を示す図であり、(a)は正面断面図、(b)は平面図である。
【図6】本発明の実施例において用いた上蓋の構成を示す図であり、(a)は正面断面図、(b)は平面図である。
【図7】本発明の実施例において、金型に溶融プラグ原料を鋳込んだ状態を示す図である。
【図8】本発明の実施例において、溶融プラグ原料を鋳込んだ金型の下部を冷却している状態を示す図である。
【図9】本発明の実施例において、溶融プラグ原料を鋳込んだ金型の下部および中央部を冷却している状態を示す図である。
【図10】本発明の実施例において、溶融プラグ原料を鋳込んだ金型の下部、中央部および上部を冷却している状態を示す図である。
【図11】本発明の実施例において、金型内のプラグ原料の凝固位置(凝固高さ)が湯面から5〜20mm程度の高さになった時点で上部フランジを取り外した状態を示す図である。
【図12】本発明の実施例において、金型内のプラグ原料の凝固位置(凝固高さ)が湯面から5〜20mm程度の高さになった時点で上部フランジを取り外したときの湯面の状態を模式的に示す図である。
【図13】本発明の実施例において、金型の上部フランジを取り除いた後、上蓋を取り付けた状態を示す図である。
【図14】本発明の実施例において、金型内のプラグ原料の凝固位置(凝固高さ)が金型の本体胴の上端にまで到達した状態を示す図である。
【図15】本発明の実施例において、金型内のプラグ原料が全て凝固した状態を示す図である。
【図16】本発明の実施例において、金型を構成する本体胴から上蓋を取り除いた状態を示す図である。
【図17】本発明の実施例において、プラグ原料(鋳造体)の上蓋の余剰原料逃がし用貫通孔内で凝固した部分(余剰部分)を除去した状態を示す図である。
【図18】従来の積層ゴム支承体の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0061】
1 弾性板
2 剛性板
3 積層体
4 プラグ
15,16 連結鋼板
17 ボルト
18,19 フランジプレート
20 プラグ原料
21 本体胴
21a パイプ状部材
21b フランジ部(鍔部)
22 底板
23 上部フランジ
23a 開口部
25 上蓋
25a 余剰原料逃がし用貫通孔
26 冷却用治具
26a 下部送風手段
26b 中央送風手段
26c 上部送風手段
27 加熱手段(バーナ)
A 金型
H1,H2,H3 凝固位置(凝固高さ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のゴム板と複数の金属板とを上下方向に交互に積層してなる積層体に、少なくとも一つの貫通孔を上下方向に形成し、前記貫通孔と嵌合する、金属製で柱状のプラグを前記貫通孔内に配設してなる積層ゴム支承体の製造方法において、
前記プラグを作製する工程が、
(a)本体胴と、底板と、溶融プラグ原料の投入口となる開口部を有する上部フランジとを組み合わせて、プラグ鋳造用の金型を形成する工程と、
(b)溶融プラグ原料を、湯面が前記上部フランジの前記開口部にまで達するように鋳込む工程と、
(c)前記金型内の溶融プラグ原料が下部から上部に向かって徐々に凝固して行くように、前記金型を下部から上部に向かって段階的にまたは連続的に冷却する工程と、
(d)プラグ原料の凝固高さが、湯面から所定の範囲内の高さにまで達した時点で、前記上部フランジを取り外して、前記本体胴の上端部を超える余剰の溶融プラグ原料を逃がす余剰原料逃がし用貫通孔を備えた上蓋を、溶融プラグ原料が上蓋との接触時に凝固してしまわないような温度に加熱された状態で前記本体胴の上端部に取り付ける工程と、
(e)前記上蓋の前記余剰原料逃がし用貫通孔に入り込んだ溶融プラグ原料が凝固しないように、前記上蓋の前記余剰原料逃がし用貫通孔内のプラグ原料を加熱しつつ、前記本体胴を冷却して、本体胴内の溶融プラグ原料を上部に向かって徐々に凝固させることにより、前記金型内のプラグ原料のうち前記プラグとなる部分を凝固させる工程と、
(f)前記プラグ原料の前記プラグとなる部分を凝固させた後、前記上蓋の前記余剰原料逃がし用貫通孔内の溶融プラグ原料の加熱を停止し、前記上蓋の前記余剰原料逃がし用貫通孔に入り込んだ溶融プラグ原料を凝固させる工程と、
(g)前記上蓋を取り外して、前記余剰原料逃がし用貫通孔に入り込んでいるプラグ原料の余剰部分を除去する工程と
を具備していることを特徴とする積層ゴム支承体の製造方法。
【請求項2】
前記(d)の、前記上部フランジを取り外して、前記上蓋を前記本体胴の上端部に取り付ける時点が、プラグ原料の凝固高さが、湯面から20mm以内の高さになった時点であることを特徴とする請求項1記載の積層ゴム支承体の製造方法。
【請求項3】
前記プラグが円柱形状を有するものである場合において、前記金型を構成する前記本体胴として、内径寸法が、作製すべきプラグの外径寸法より0.1mm〜1.0mm大きく、かつ、高さ寸法が、作製すべきプラグの高さ寸法より0.1mm〜1.0mm大きい本体胴を用いることを特徴とする請求項1または2記載の積層ゴム支承体の製造方法。
【請求項4】
前記(c)の、前記金型を下部から上部に向かって冷却する工程において、冷却用気体を前記本体胴の外周面に吹き付けるとともに、冷却用気体の吹き付け領域を前記本体胴の下部の領域から上部の領域に向かって段階的に拡大することにより、前記金型内の溶融プラグ原料を下部から上部に向かって徐々に凝固させることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の積層ゴム支承体の製造方法。
【請求項5】
前記上蓋の前記余剰原料逃がし用貫通孔が前記上蓋の中央部に形成されており、かつ前記余剰原料逃がし用貫通孔が下側から上側に向かって内径が徐々に小さくなるようなテーパ形状を有する貫通孔であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の積層ゴム支承体の製造方法。
【請求項6】
前記(g)の余剰部分を除去する工程で前記余剰部分を除去した後に、除去部分を平滑に処理するための工程を備えていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の積層ゴム支承体の製造方法。
【請求項7】
前記プラグを構成する金属材料が、鉛、錫、および錫合金から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の積層ゴム支承体の製造方法。
【請求項8】
複数のゴム板と複数の金属板とを上下方向に交互に積層してなる積層体に、少なくとも一つの貫通孔を上下方向に形成し、前記貫通孔内に、前記貫通孔と嵌合するプラグを配設してなる積層ゴム支承体であって、
前記プラグとして、請求項1〜7のいずれかに記載の方法で作製され、上下のいずれか一方の端面において余剰部分が除去された構造を有するプラグが用いられていることを特徴とする積層ゴム支承体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate


【公開番号】特開2009−61468(P2009−61468A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−230306(P2007−230306)
【出願日】平成19年9月5日(2007.9.5)
【出願人】(390036663)木村化工機株式会社 (27)
【出願人】(399117730)住友金属鉱山シポレックス株式会社 (195)
【Fターム(参考)】