説明

積層フィルム

【課題】高温多湿の環境下でも透明ガスバリア材として利用できる積層フィルムを提供することを課題とする。
【解決手段】ポリエチレンテレフタレート(PET)からなる基材の少なくとも一方の面に、リアクティブイオンエッチング(RIE)による前処理を施し、この前処理を施した基材面上にプライマー層を積層し、このプライマー層上に無機化合物層を積層し、この無機化合物層にガスバリア被覆層を積層する。また、前記RIEによる前処理が、少なくともアルゴンガス、窒素ガス、酸素ガス、水素ガス、炭酸ガスのうち、いずれか1種類のガスを含む混合ガスを用いて1回以上実施されることを特徴とする積層フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は積層フィルムに関し、特に、透明性を有するガスバリア材として、食品、医薬品、精密電子部品等の包装分野、また産業資材分野に用いられるものである。
【背景技術】
【0002】
近年、食品や非食品及び医薬品等の包装に用いられる包装材料は、内容物の変質を抑制しそれらの機能や性質を保持するために、包装材料を透過する酸素、水蒸気、その他内容物を変質させる気体による影響を防止する必要があり、これらを遮断するガスバリア性等を備えることが求められている。そのため従来から、温度・湿度などの影響が少ないアルミ等の金属箔をガスバリア層として用いた包装材料が一般的に用いられてきた。
【0003】
ところが、アルミ等の金属箔を用いた包装材料は、温度・湿度の影響がなく高度にガスバリア性に優れるが、包装材料を透視して内容物を確認することができない、使用後の廃棄の際は不燃物として処理しなければならない、検査の際、金属探知器が使用できないなどの欠点を有していた。
【0004】
そこで、これらの欠点を克服した包装材料として、高分子フィルム上に、真空蒸着法やスパッタリング法等の形成手段により酸化ケイ素、酸化アルミニウム等の無機化合物の蒸着膜を形成したフィルムが開発されている(特許文献1、特許文献2)。これらの蒸着フィルムは、透明性及び酸素、水蒸気等のガス遮断性を有していることが知られ、金属箔等では得ることのできない透明性、ガスバリア性を有する包装材料として好適とされている。
【0005】
しかしながら、従来のような蒸着フィルムでは、太陽電池用バックシートなど長期間水分と接触するような場合、蒸着層と十分な密着性を発現することが出来なかった。
【0006】
そこで、これらの欠点を克服したガスバリア積層フィルムとして、ポリエチレンナフタレート(PEN)からなる基材の少なくとも一方の面に、リアクティブイオンエッチング(RIE)による前処理を施し、前記前処理を施した基材面上に透明プライマー層を積層し、前記透明プライマー層上に無機化合物層を積層することを特徴とする積層フィルムが特許文献3に開示されている。
しかしながら、基材として用いられるポリエチレンナフタレートは、紫外線を吸収し、黄色に変色するため、太陽電池用バックシートなど屋外にて用いる用途には、意匠性の面から適さない。また、ポリエチレンナフタレートは非常に高価であるため、コスト面での問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第3442686号公報
【特許文献2】特公昭63−28017号公報
【特許文献3】特開2008−80540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高温多湿の環境下でも透明ガスバリア材として利用できる積層フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を達成するための手段として、請求項1に係る発明は、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなる基材の少なくとも一方の面に、リアクティブイオンエッチング(RIE)による前処理を施し、前記前処理を施した基材面上にプライマー層を積層し、前記プライマー層上に無機化合物層を積層し、前記無機化合物層上にガスバリア被覆層を積層することを特徴とする積層フィルムである。
【0010】
また請求項2に係る発明は、前記RIEによる前処理が、少なくともアルゴンガス、窒素ガス、酸素ガス、水素ガス、炭酸ガスのうち、いずれか1種類のガスを含む混合ガスを用いて1回以上実施されることを特徴とする請求項1に記載の積層フィルムである。
【0011】
また請求項3に係る発明は、前記RIEによる前処理が、 プラズマの自己バイアス値を200V以上2000V以下とし、Ed値(プラズマ密度×処理時間)を100W・s・m−2以上10000W・s・m−2以下とする低温プラズマ処理であることを特徴とする請求項1または2に記載の積層フィルムである。
【0012】
また請求項4に係る発明は、前記プライマー層が、シランカップリング剤あるいはその加水分解物と、ポリオールとイソシアネート化合物との複合材料からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の積層フィルムである。
【0013】
また請求項5に係る発明は、前記シランカップリング剤あるいはその加水分解物に、ポリオールの水酸基または2官能以上のイソシアネート化合物のイソシアネート基の少なくともどちらか一方と反応する官能基を含むことを特徴とする請求項4に記載の積層フィルムである。
【0014】
また請求項6に係る発明は、前記複合材料中に、一般式M(OR)(M:金属元素、R:CH3、C25などのアルキル基、n:金属元素の酸化数)で表される金属アルコキシドあるいは前記金属アルコキシドの加水分解物を添加することを特徴とする請求項4または5に記載の積層フィルムである。
【0015】
また請求項7に係る発明は、前記プライマー層の厚さが0.01〜1μmであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の積層フィルムである。
【0016】
また請求項8に係る発明は、前記無機化合物が、少なくとも酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化錫、酸化亜鉛のいずれか1種類を含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の積層フィルムである。
【0017】
また請求項9に係る発明は、前記ガスバリア被覆層が、水溶性高分子化合物と金属アルコキシドおよびまたはその加水分解物およびまたはその重合物の少なくとも1種類以上を含有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の積層フィルム
【0018】
また請求項10に係る発明は、前記水溶性高分子化合物が、ポリビニルアルコールまたはエチレン−ビニルアルコール共重合体、セルロース、デンプンのうち少なくとも1種類以上を含有することを特徴とする請求項9に記載の積層フィルムである。
【0019】
また請求項11に係る発明は、前記金属アルコキシド中の金属が少なくともSi、Al、Ti、Zrのいずれか1種類を含むことを特徴とする請求項6または9に記載の積層フィルムである。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなる基材の少なくとも一方の面に、リアクティブイオンエッチング(RIE)による前処理を施し、この前処理を施した基材面上にプライマー層を積層するので、高温多湿の環境下でも、この基材と、このプライマー層との密着性が改善して、ガスバリア性を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のガスバリア積層フィルム5の一例を表す断面図
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は本発明のガスバリア積層フィルム5の一例を表す断面図である。本発明のガスバリア積層フィルムは、2つの主面を有する樹脂基材1の少なくとも一方の主面上にプラズマを利用したリアクティブイオンエッチング(RIE)による前処理を施し、プライマー層2と無機化合物層3とガスバリア被覆層4を積層した構造を有する。
【0023】
上述した樹脂基材1はポリエチレンテレフタレート(PET)であり、基材の厚さは、実用的には3〜200μmが好ましい。
【0024】
また、この樹脂基材1の表面に、周知の種々の添加剤や安定剤、例えば帯電防止剤、可塑剤、滑剤、酸化防止剤を必要に応じて適用することができる。
【0025】
この樹脂基材1とプライマー層2との密着を強化するために、表面にプラズマを利用したリアクティブイオンエッチング(RIE)による前処理を施すことが有効である。このRIEによる処理を行うことで、発生したラジカルやイオンにより樹脂基材1の表面に官能基を持たせるなどの化学的効果と、表面をイオンエッチングして不純物等を除去し、且つ平滑化するといった物理的効果の2つの効果を同時に得ることが可能である。
【0026】
RIEとは、被処理基材上に発生させたプラズマから生成したイオンによって、被処理基材を強力に処理する方法である。この時、自己バイアスと呼ばれる高周波プラズマ特有の電位を、プラズマ電位と基材との間でいかに高く保つかがポイントとなる。通常モードのプラズマでは、自己バイアスは掛かるものの、プラズマと電極間での電位差となって現れてしまい、プラズマと基材間には大きな電位差は生まれない。これを改善する目的で基材側に電極を設置するなどしてRIEモードに維持し、強い処理を行うことが可能である。
【0027】
RIEによる前処理を行うためのガス種としては、アルゴン、酸素、窒素、水素、炭酸ガスを使用することが出来る。これらのガスは単独で用いても、2種類以上のガスを混合して用いてもよい。また、2基の処理装置を用いて、連続して処理を行ってもよい。
【0028】
加工速度、エネルギーレベルなどで示される処理条件は、基材種類、用途、放電装置特性などに応じ、適宜設定するべきである。ただし、プラズマの自己バイアス値は200V以上2000V以下、Ed=プラズマ密度×処理時間で定義されるEd値が100W・s・m−2以上10000W・s・m−2以下にすることが必要であり、これより若干低い値でも、ある程度の密着性を発現するが、未処理品に比べて優位性が高くない。また、高い値であると、強い処理がかかりすぎて基材表面が劣化し、密着性が下がる原因になる。プラズマ用の気体及びその混合比などに関してはポンプ性能や排気口の取り付け位置などによって、導入した気体の流れが装置によって異なるので、気体の流量は、用途、基材、装置特性に応じて適宜設定するべきである。
【0029】
プライマー層2としては、例えばアクリルポリオール、ポリビニルアセタール、ポリエステルポリオール、及びポリウレタンポリオール等から選択されるポリオール類と、2官
能以上のイソシアネート化合物との2液反応によって得られる有機高分子、またはポリイソシアネート化合物および水との反応によりウレア結合を有する有機化合物、ポリエチレンイミンまたはその誘導体、ポリオレフィン系エマルジョン、ポリイミド、メラミン、フェノール、また有機変性コロイダルシリカのような無機シリカ、シランカップリング剤およびその加水分解物のような有機シラン化合物を主剤とするものなどが挙げられる。特にアクリルポリオールとイソシアネート化合物、シランカップリング剤の組み合わせが好ましい。この組み合わせからなるプライマー層2を用いると、樹脂基材1と無機化合物層3の間に、安定した高い密着性を得ることができる。
【0030】
イソシアネート化合物としては、例えば、2、4−トリレンジイソシアネート、2、6−トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、4、4−ジフェニルメタンジイソシアネート及びその水素添加体などの各種ジイソシアネート系モノマーを使用することが可能である。また、これらのジイソシアネート系モノマーを、トリメチロールプロパンやグリセロールなどの3官能の活性水素含有化合物と反応させたアダクトタイプや、水と反応させたビューレットタイプや、イソシアネート基の自己重合を利用したトリマー(イソシアヌレート)タイプなど3官能性の誘導体やそれ以上の多官能性の誘導体を用いても構わない。
【0031】
前記シランカップリング剤の例としては、任意の有機官能基を含むシランカップリング剤を用いることができ、例えばエチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、Y−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、Y−クロロプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、Y−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、Y−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等のシランカップリング剤或いはその加水分解物の1種ないしは2種以上を用いることができる
【0032】
さらにこれらのシランカップリング剤のうち、ポリオールの水酸基またはイソシアネート化合物のイソシアネート基と反応する官能基を持つものが特に好ましい。例えばY−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、Y−イソシアネートプロピルトリメトキシシランのようなイソシアネート基を含むもの、Y−メルカプトプロピルトリエトキシシランのようなメルカプト基を含むものや、Y−アミノプロピルトリエトキシシラン、Y−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−Y−アミノプロピルトリエトキシシラン、Y−フェニルアミノプロピルトリメトキシシランのようなアミノ基を含むものがある。さらにY−グリシドキシプロピルトリメトキシシランやβ−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のようにエポキシ基を含むものや、ビニルトリメトキシシラン、ビニル(β−メトキシエトキシ)シラン等のようなシランカップリング剤にアルコール等を付加し水酸基等を付加したものでも良く、これら1種ないしは2種以上を用いることができる。これらのシランカップリング剤は、一端に存在する有機官能基がポリオールとイソシア化合物からなる複合材料中で相互作用を示し、もしくはポリオールの水酸基またはイソシアネート化合物のイソシアネート基と反応する官能基を含むシランカップリング剤を用いることで共有結合をもたせることによりさらに強固な透明プライマー層2を形成し、他端のアルコキシ基等の加水分解によって生成したシラノール基が無機化合物中の金属や、無機化合物の表面の活性の高い水酸基等と強い相互作用により無機化合物との高い密着性を発現し、目的の物性を得ることができるものである。よって上記シランカップリング剤を金属アルコキシドとともに加水分解反応させたものを用いても構わない。また上記シランカップリング剤のアルコキシ基がクロロ基、アセトキシ基等になっていても何ら問題はなく、これらのアルコキシ基、クロロ基、アセトキシ基等が加水分解し、シラノール基を形成するものであればこの複合材料に用いることができる。
【0033】
またポリオールとは、高分子中に二つ以上のヒドロキシル基をもつもので、後に加える
イソシアネート化合物中のイソシアネート基と反応させるものである。中でもアクリル酸誘導体モノマーを重合させて得られるポリオールもしくは、アクリル酸誘導体モノマーおよびその他のモノマーを共重合させて得られるポリオールであるアクリルポリオールが特に好ましい。中でもエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレートやヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシルブチルメタクリレートなどのアクリル酸誘導体モノマーを単独で重合させたものや、スチレン等のその他のモノマーを加え共重合させたアクリルポリオール等が好ましく用いられる。またイソシアネート化合物との反応性を考慮するとヒドロキシル価が5〜200(KOHmg/g)の間であることが好ましい。
【0034】
ポリオールとシランカップリング剤の配合比は、重量比換算で1/1〜1000/1の範囲であることが好ましく、より好ましくは2/1〜100/1の範囲にあることである。溶解および希釈溶剤としては、溶解および希釈可能であれば特に限定されるものではなく、例えば酢酸エチル・酢酸ブチル等のエステル類、メタノール・エタノール・イソプロピルアルコール等のアルコール類、メチルエチルケトン等のケトン類、トルエン・キシレン等の芳香族炭化水素類等が単独及び任意に配合したものが用いることができる。しかし、シランカップリング剤を加水分解するために塩酸等の水溶液を用いることがあるため、共溶媒としてイソプロピルアルコール等と極性溶媒である酢酸エチルを任意に混合した溶媒を用いることが好ましい。
【0035】
またシランカップリング剤とポリオールの配合時に反応を促進させるために反応触媒を添加しても一向に構わない。添加される触媒としては、反応性及び重合安定性の点から塩化錫(SnCl、SnCl)、オキシ塩化錫(SnOHCl、Sn(OH)Cl)、錫アクコキシド等の錫化合物、チタンキレートであることが好ましい。特に、環境面から、チタンキレートを用いることが好ましい。添加量は、少なすぎても多すぎても触媒効果が得られないため、3官能オルガノシランに対してモル比換算で1/10〜1/10000の範囲であることが好ましく、更には1/100〜1/2000の範囲にあることが望ましい。
【0036】
更に上記混合物の調液時に液安定性を向上させるために、金属アルコキシド或いはその加水分解物を添加しても一向に構わない。この金属アルコキシドとは、テトラエトキシシラン(Si(OC)、トリプロポキシアルミニウム(Al(OC)など一般式M(OR)(M:金属元素、R:CH、Cなどの一般式C2n+1で表わされるアルキル基)で表せるもの或いはその加水分解物である。なかでもテトラエトキシシランやトリプロポキシアルミニウム或いは両者の混合物が、水系の溶媒中において比較的安定であるので好ましい。この金属アルコキシドの加水分解物を得る方法は、シランカップリング剤とともに加水分解を行っても構わないし、単独に酸等を添加して行ったのち添加しても構わない。
【0037】
プライマー層2は、このようなシランカップリング剤を直接或いはあらかじめ加水分解反応させたものまたは金属アルコキシドとともに加水分解したもの(このときに上述した反応触媒等を一緒に添加しても一向に構わない)を、ポリオールやイソシアネート化合物と混合して複合溶液を作製するか、またシランカップリング剤、ポリオールを溶媒中にあらかじめ混合しておき(この時上述した反応触媒、金属アルコキシドを一緒に添加しても一向に構わない)加水分解反応を行ったもの、更にはシランカップリング剤とポリオールを混合しただけのもの(この時上述した反応触媒、金属アルコキシドを一緒に添加しても一向に構わない)の中に、イソシアネート化合物を加え複合液を作製し樹脂基材1にコーティングして形成する。
【0038】
プライマー層2の厚みは、一般的には乾燥後の厚さで、0.005〜5μmの範囲になるようにコーティングすることが望ましく、より好ましくは0.01〜1μmである。0
.01μm未満の場合は塗工技術の点から均一な塗膜が得られ難く、逆に1μmを越える場合は不経済となるためである。
【0039】
無機化合物層3に使用される材料としては、例えばケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、錫、及びマグネシウムなどの酸化物、それらの窒化物、及びそれらの弗化物、及びこの酸化物、窒化物、及び弗化物の複合材料があげられる。なかでも、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化錫、酸化亜鉛、のうち少なくとも1種類を含む材料が望ましい。とりわけ、酸化ケイ素はバリア性が高く、高温高湿下においても高いバリア性を維持し、安全性も高いため、好ましい。
【0040】
この無機化合物層3は、真空蒸着法、イオンプレーティング法、などの成膜プロセスにより形成することができる。例えば、酸化ケイ素の蒸着層をフィルム片面に形成する場合、蒸着物質として一酸化ケイ素あるいは二酸化ケイ素を用い、10−3〜10−5Torrの真空下で、抵抗加熱、誘導加熱、あるいは電子ビームで加熱蒸発させる真空蒸着法で成膜することができる。酸素ガスを供給しながら行う反応蒸着法も採用でき、この場合、金属ケイ素を用いてもよい。また、無機化合物層3は、スパッタリング法、CVD法、などの成膜プロセスによっても形成することができる。
【0041】
無機化合物層3の膜厚は、用途やガスバリア被覆層4の膜厚によって変わるが、数十Åから5000Åが望ましい。更には、50Å以下では、連続した薄膜が得られなくなり、また3000Åを超えると、クラックが発生し易くなる為、より好ましい膜厚は、50Åから3000Åである。
【0042】
ガスバリア被覆層4は、ガスバリア性を持った被膜層であり、水溶性高分子と1種以上の金属アルコキシドまたはその加水分解物を含む水溶液或いは水/アルコール混合溶液を主剤とするコーティング剤を用いて形成される。例えば、水溶性高分子を水系(水或いは水/アルコール混合)溶媒で溶解させたものに金属アルコキシドを直接、或いは予め加水分解させるなど処理を行ったものを混合したものを溶液とする。この溶液を無機化合物層3にコーティング後、加熱乾燥し形成される。
【0043】
ガスバリア被膜層4の塗布液に用いられる水溶性高分子は、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリビニルピロリドン、デンプン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム等が挙げられる。特にポリビニルアルコール(以下、PVAと略す)をガスバリア被膜層4のコーティング剤に用いた場合にガスバリア性が最も優れるので好ましい。ここでいうPVAは、一般にポリ酢酸ビニルをけん化して得られるものである。PVAとしては例えば、酢酸基が数十%残存している、いわゆる部分けん化PVAから酢酸基が数%しか残存していない完全PVA等用いることができ、これ以外のものを用いてもよい。
【0044】
また金属アルコキシドは、一般式、M(OR)(M:Si,Ti,Al,Zr等の金属、R:CH,C等のアルキル基)で表せる化合物である。具体的にはテトラエトキシシラン〔Si(OC〕、トリイソプロポキシアルミニウム〔Al(O−2’−C〕などがあげられ、中でもテトラエトキシシラン、トリイソプロポキシアルミニウムが加水分解後、水系の溶媒中において比較的安定であるので好ましい。
【0045】
この溶液中にガスバリア性を損なわない範囲で、イソシアネート化合物、シランカップリング剤、或いは分散剤、安定化剤、粘度調整剤、着色剤などの公知の添加剤を必要に応じて加えることも可能である。
【0046】
乾燥後のガスバリア被覆層4の厚みは特に限定しないが、厚みが50μm以上を越える
とクラックが生じ易くなる可能性があるため、0.01〜50μmとすることが望ましい。ガスバリア被覆層4の形成方法としては、通常のコーティング方法を用いることができる。例えばディッピング法、ロールコート、グラビアコート、リバースコート、エアナイフコート、コンマコート、ダイコート、スクリーン印刷法、スプレーコート、グラビアオフセット法等を用いることができる。これらの塗工方式を用いて無機化合物層3の上に塗工する。
【0047】
ガスバリア被覆層4の乾燥法は、熱風乾燥、熱ロール乾燥、高周波照射、赤外線照射、UV 照射などガスバリア被覆層4に熱をかけて、水やアルコールなどの溶媒を飛ばす方法であれば、これらのいずれでも、またこれらを2種類以上組み合わせてもかまわない。
【0048】
ガスバリア被覆層4上には必要に応じて、印刷層を積層する事も可能である。あるいは、接着剤を介して複数の樹脂を積層する事も可能である。また、プライマー層2、無機化合物層3、ガスバリア被膜層4が設けられた樹脂基材1の面の反対面にも印刷層、ヒートシール層、接着剤を介する複数の樹脂の積層が可能である。
以下本発明のガスバリア積層体を具体的な実施例を挙げて更に説明する。
【実施例1】
【0049】
厚さ12μmの二軸延伸PET(フタムラ(株)製、FE2001)を基材とし、プラズマを利用したリアクティブイオンエッチング(RIE)による前処理を施した。この時、電極には周波数13.56MHzの高周波電源を用い、処理ガスにはアルゴンを用いた。プライマー層溶液(A)は下記の割合で混合し、これを塗布液とした。前処理を施された面に、バーコーターを用いて塗布し、乾燥機で120℃、1分間乾燥させ、0.2μmのプライマー層を塗工した。
このプライマー層上に、酸化ケイ素を電子ビーム方式により加熱させ、所定の膜組成になるように調整し、膜厚400Åの酸化ケイ素蒸着層を形成した。
ポリビニルアルコール、テトラエトキシシラン、シランカップリング剤の組み合わせからなるガスバリア被覆層溶液を、上記酸化ケイ素蒸着層の上面にバーコーターを用いて塗布し、乾燥機で120℃、1分間乾燥させ、膜厚約0.3μmのガスバリア被覆層を形成し、ガスバリア積層フィルムを得た。
<プライマー層溶液(A)>
希釈溶媒中、Y−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン1重量部に対し、アクリルポリオール9重量部及びポリエステルポリオール1重量部を量りとり混合攪拌する。ついでイソシアネート化合物としてトリレンジイソシアネートをアクリルポリオールとポリエステルポリオールのOH基に対しNCO基が等量となるように加えた混合溶液を任意の濃度に希釈したものをプライマー層溶液(A)とした。
【実施例2】
【0050】
プライマー層に下記方法にて調液したプライマー層溶液(B)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2の積層フィルムを作製した。
<プライマー層溶液(B)>
希釈溶媒中、Y−グリシドキシプロピルトリメトキシシランあるいはその加水分解物、テトラエトキシシランあるいはその加水分解物、チタンキレートの混合溶液1重量部に対し、アクリルポリオール9重量部及びポリエステルポリオール1重量部を量りとり混合攪拌する。ついでイソシアネート化合物としてトリレンジイソシアネートをアクリルポリオールとポリエステルポリオールのOH基に対しNCO基が等量となるように加えた混合溶液を任意の濃度に希釈したものをプライマー層溶液(B)とした。
【0051】
<比較例1>
上記PET基材において、プラズマを利用したリアクティブイオンエッチング(RIE
)による前処理を施さず、コロナ処理を施した以外は、実施例1と同様の方法で、比較例2の積層フィルムを作製した。
【0052】
<比較例2>
上記PET基材において、プラズマを利用したリアクティブイオンエッチング(RIE)による前処理を施さず、PET基材にコロナ処理を施し、かつ上記プライマー層を用いなかった以外は、実施例1と同様の方法で、比較例2の積層フィルムを作製した。
【0053】
実施例1〜2、比較例1〜2の積層フィルム上に、ポリカーボネート系接着剤を用いて、ドライラミネートにより、上記各積層フィルムについて、耐加水分解性ポリエチレンテレフタレート(50μm)/積層フィルム/耐加水分解性ポリエチレンテレフタレート(50μm)の各積層サンプルを作製した。
【0054】
上記各積層サンプルを用いて、105℃×100%RHにて、48時間および96時間のプレッシャークッカーテスト(PCT)を行った。上記各積層サンプルの水蒸気バリア性の変化は、モダンコントロール社製PERMATRAN3/31を用いて、JIS K7129 B法に準拠し、40度、相対湿度90%の雰囲気下で測定した。また、上記各積層サンプルにおける積層フィルムと耐加水分解性ポリエチレンテレフタレートとの間のラミネート強度の変化は、オリエンテック社テンシロン万能試験機RTC−1250を用いて測定した(JIS Z1707準拠)。を測定した。結果を表1に示す。
【表1】

表1から、PET基材1の表面に対してRIEの前処理を行うことで、高温多湿の環境下でも、PET基材1とこの表面に積層したプライマー層2との密着性低下が抑制され、なおかつ、水蒸気バリア性を維持できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなる基材の少なくとも一方の面に、リアクティブイオンエッチング(RIE)による前処理を施し、この前処理を施した基材面上にプライマー層を積層し、前記プライマー層上に無機化合物層を積層し、前記無機化合物層にガスバリア被覆層を積層したフィルムに関するものである。前記フィルムは、高温多湿の環境下でも、基材とプライマー層との密着性が改善して、なおかつガスバリア性を維持できるため、太陽電池用バックシートを例とした、長期間水分と接触しても、ガスバリア性や密着性の保持を要求される産業資材用途へ、安価に提供することができる。
【符号の説明】
【0056】
1・・・樹脂基材
2・・・プライマー層
3・・・無機化合物層
4・・・ガスバリア被覆層
5・・・ガスバリア積層フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンテレフタレート(PET)からなる基材の少なくとも一方の面に、リアクティブイオンエッチング(RIE)による前処理を施し、前記前処理を施した基材面上にプライマー層を積層し、前記プライマー層上に無機化合物層を積層し、前記無機化合物層上にガスバリア被覆層を積層することを特徴とする積層フィルム。
【請求項2】
前記RIEによる前処理が、少なくともアルゴンガス、窒素ガス、酸素ガス、水素ガス、炭酸ガスのうち、いずれか1種類のガスを含む混合ガスを用いて1回以上実施されることを特徴とする請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項3】
前記RIEによる前処理が、 プラズマの自己バイアス値を200V以上2000V以下とし、Ed値(プラズマ密度×処理時間)を100W・s・m−2以上10000W・s・m−2以下とする低温プラズマ処理であることを特徴とする請求項1または2に記載の積層フィルム。
【請求項4】
前記プライマー層が、シランカップリング剤あるいはその加水分解物と、ポリオールとイソシアネート化合物との複合材料からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の積層フィルム。
【請求項5】
前記シランカップリング剤あるいはその加水分解物に、ポリオールの水酸基または2官能以上のイソシアネート化合物のイソシアネート基の少なくともどちらか一方と反応する官能基を含むことを特徴とする請求項4に記載の積層フィルム。
【請求項6】
前記複合材料中に、一般式M(OR)(M:金属元素、R:CH3、C25などのアルキル基、n:金属元素の酸化数)で表される金属アルコキシドあるいは前記金属アルコキシドの加水分解物を添加することを特徴とする請求項4または5に記載の積層フィルム。
【請求項7】
前記プライマー層の厚さが0.01〜1μmであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の積層フィルム。
【請求項8】
前記無機化合物が、少なくとも酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化錫、酸化亜鉛のいずれか1種類を含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の積層フィルム。
【請求項9】
前記ガスバリア被覆層が、水溶性高分子化合物と金属アルコキシドおよびまたはその加水分解物および/またはその重合物の少なくとも1種類以上を含有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の積層フィルム。
【請求項10】
前記水溶性高分子化合物が、ポリビニルアルコールまたはエチレン−ビニルアルコール共重合体、セルロース、デンプンのうち少なくとも1種類以上を含有することを特徴とする請求項9に記載の積層フィルム。
【請求項11】
前記金属アルコキシド中の金属が少なくともSi、Al、Ti、Zrのいずれか1種類を含むことを特徴とする請求項6または9に記載の積層フィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2010−179506(P2010−179506A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−23365(P2009−23365)
【出願日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】