説明

積層型複合電子部品

【課題】中間接合層の緻密性および保形性に優れ、特にバリスタ素子部の特性劣化が少ない積層型複合電子部品を提供すること。
【解決手段】バリスタ素子部20とフェライト素子部30と中間接合層40とを有する積層型複合電子部品である。中間接合層が、SiO:30〜60重量%、ZnO:0〜20重量%、Al:0〜20重量%、B:0〜5重量%、アルカリ土類金属酸化物:30〜50重量%、およびアルカリ金属酸化物:0〜1重量%を含むガラス組成物で実質的に構成してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえばバリスタ素子部とフェライト素子部などの複数の素子部が内蔵された積層型複合電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ機器等などの電子部品では、機器自らノイズを発生させないように、また、外部から機器内にノイズを侵入させないように、回路基板の入出力部や回路途中にチップインダクタ、チップコンデンサ、チップバリスタ等が組み込まれている。
【0003】
しかしながら、これらの多くのチップ部品を回路基板に実装すると、これらのチップ部品が基板面積を多く占有してしまい、実装スペースが拡大してしまうという課題がある。また、部品点数が増えることによりコストアップの問題が生じてしまう。
【0004】
そこで、各チップ部品を構成する素子部を互いに接合させた状態で一体化焼結させて積層電子部品を作り、部品のコンパクト化、実装スペースの削減化等を図る試みがなされている。積層電子部品は内部に導体電極を内蔵し、その場合、デバイスの導体損失を低減するためには高導電率の電極材料を用いることが好ましい。しかし、高導電率のAgやCuは融点が低く、1000℃を超えるようなセラミックスの焼成条件では使用できない。従って、低温で焼結可能となるよう、焼結温度の高い素子部には低融点の酸化物やガラス組成物を焼結助剤として添加する手法が用いられる。低温焼成はエネルギーコスト、また高融点のPdやPtは高価であるため、電極材料コストの観点からも望ましい。
【0005】
しかしながら、異なる機能を持つ素子部は、異なる材質で構成され、その接合部界面での剥離やクラックもしくは変形などが問題となる。さらに、接合部界面において、各素子部同士からの成分の拡散による特性変動を抑制する必要がある。特に低融点である焼結助剤は拡散しやすい挙動を持ち、成分拡散を容易に起こしやすいという問題がある。
【0006】
成分拡散の問題を解消するために、たとえば特許文献1では、コンデンサ素子部とフェライト素子部との接合部に、特定のガラス層を含む中間接合層を形成することが提案されている。その特許文献1では、特定のガラス層を形成することで、各素子部同士からの成分の拡散による特性変動を抑制できると記載されている。
【0007】
しかしながら、その特許文献1に記載のガラス層から成る中間接合層を、バリスタ素子部とフェライト素子部との積層型複合電子部品に用いる場合には、以下に示すような課題がある。すなわち、特許文献1に記載のガラス層から成る中間接合層では、アルカリ金属酸化物の量が多すぎると共に、酸化ビスマスの量が多すぎるなどの理由から、中間接合層の緻密性または保形性が悪く、特にバリスタ素子部の特性が劣化するという課題がある。
【0008】
半導体材料を焼結させた多結晶体で構成されるバリスタ材料については、バリスタ特性を発現する粒界の状態が顕著に特性に反映され、誘電体や磁性体よりも粒界成分(焼結助剤含む)の拡散や流入(流出)が特性変動を引き起こしやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−244140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、中間接合層の緻密性および保形性に優れ、特にバリスタ素子部の特性劣化が少ない積層型複合電子部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明に係る積層型複合電子部品は、
バリスタ層と内部電極層とを有するバリスタ素子部と、フェライト層と内部導体層とを有するフェライト素子部と、これらの双方の素子部を接合するために介在される中間接合層と、を有する積層型複合電子部品であって、
前記中間接合層が、ガラス層で構成され、
前記ガラス層が、
SiO:30〜60重量%、
ZnO:0〜20重量%、
Al:0〜20重量%、
:0〜5重量%、
アルカリ土類金属酸化物:30〜50重量%、および
アルカリ金属酸化物:0〜1重量%を含むガラス組成物で実質的に構成してあることを特徴とする。ただし、好ましくは、酸化ビスマスは実質的に含まない。なお、酸化ビスマスを実質的に含まないとは、0.2重量%以下であることを意味する。
【0012】
本発明に係る積層型複合電子部品では、中間接合層が、特定のガラス組成物で構成してあることから、中間接合層の緻密性および保形性が向上し、素子部間での相互拡散を抑制し、特にバリスタ素子部の特性劣化が少ない。また、素子部間の接合界面である中間接合層において、変形やクラックを生じさせず、密着性に優れた積層型複合電子部品を実現することができる。
【0013】
好ましくは、ガラス層が、フィラーを含む。フィラーとしては、特に限定されず、酸化ニッケル、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化チタン、チタン酸ストロンチウム、ケイ酸ジルコニウム、ケイ酸マグネシウム、石英シリカ、溶融シリカなどが例示され、フェライト層がNiを含む場合には、フィラーとしては、好ましくは酸化ニッケルが用いられる。
【0014】
好ましくは、前記ガラス組成物とフィラーとの合計体積に対して、フィラーを50体積%未満、さらに好ましくは20〜35体積%含む。
【0015】
フィラーを所定量で含ませることで、中間接合層の焼結挙動(熱収縮挙動)や熱膨張係数を調節することができ、バリスタ素子部およびフェライト素子部の密着性をさらに向上させることができる。
【0016】
ガラス層は、非晶質のガラスあるいは結晶質のガラスのいずれでも形成しても良いが、フィラーを含ませる場合には、非晶質のガラスが好ましい。非晶質のガラスの場合には、フィラーを比較的に多く含ませることが可能になる。
【0017】
中間接合層を構成するガラス層は、単層であっても複層であっても良い。ガラス層を複層にする場合には、バリスタ素子部からフェライト素子部に向けて、物性値が異なる複数のガラス層であっても良い。
【0018】
また、ガラス層に含まれるガラス組成物は、単一のガラス組成物でなく、複数のガラス組成物の混合であっても良い。複数のガラス組成物の混合割合を変化させることで、中間接合層の焼結挙動や熱膨張係数を調節することができ、バリスタ素子部およびフェライト素子部の密着性をさらに向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係る積層型複合電子部品の斜視図である。
【図2】図2は図1のII−II線に沿う概略断面図である。
【図3】図3は図1および図2に示す積層型複合電子部品の分解斜視図である。
【図4】図4は積層型複合電子部品における中間接合層の温度と収縮率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る積層型複合電子部品2は、略直方体形状のセラミックチップ4を有し、チップ4の長手方向(X軸)の両端には、一対の端部外部電極6および8が形成してある。また、これらの端部外部電極6および8の中間に位置するチップ4の長手方向(X軸)の中間位置に位置するチップ4の短手方向(Y軸)の両側面には、一対の中間外部電極10が形成してある。これらの外部電極6,8,10は、チップ4の外面で、それぞれ相互に絶縁されている。
【0021】
図2および図3に示すように、チップ4の内部には、バリスタ素子部20と、フェライト素子部30とが積層方向(Z軸)に沿って形成してあり、これらの素子部20および30は、中間接合層40により接合してある。本実施形態では、バリスタ素子部20は、第1内部電極層24と、バリスタ層22と、第2内部電極層25とを有し、これらが交互に積層してある。
【0022】
図3に示す第1内部電極層24の引出部24aは、図1に示す端部外部電極6に接続してあり、第2内部電極25においてY軸方向に引き出される一対の引出部25aは、図1に示す中間外部電極10,10にそれぞれ接続してある。
【0023】
本実施形態では、図3に示すように、インダクタ部30は、フェライト層32と内部導体層34〜39とが交互に積層してある構造を有する。内部導体層34〜39で挟まれるフェライト層32には、スルーホール電極33が形成してあり、内部導体層34〜39は、所定のコイルパターンで接続され、フェライト素子を形成している。内部導体層34〜39の内、積層方向(Z軸)の端部に位置する内部導体層34には、一対の引出部34aが形成してあり、それぞれの引出部34aは、図1に示す端部外部電極6および8にそれぞれ接続してある。
【0024】
したがって、図1〜図3に示す積層型複合電子部品2は、単一のチップ部品の内部に、バリスタ素子部20とフェライト素子部30とが内蔵された構造となっている。しかも、図2に示すように、積層型複合電子部品2の内部では、バリスタ素子部20と、フェライト素子部30との間は、中間接合層40により区切られている。
【0025】
バリスタ素子部20におけるバリスタ層22は、内部電極層24および25間に印加される電圧に対して抵抗値が非直線的に変化する電圧非直線性が発現する材質であれば特に限定されず、たとえば酸化亜鉛、酸化スズ、酸化チタン、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウムやその他の酸化物半導体材料を主成分とするバリスタ材などが例示されるが、好ましくは酸化亜鉛を主成分とするバリスタ材で構成される。酸化亜鉛を主成分とするバリスタ材としては、主成分としてZnOを95〜98モル%含有し、その他の添加成分として、ビスマス酸化物、コバルト酸化物、スズ酸化物、マンガン酸化物、アルミニウム酸化物、クロム酸化物、アンチモン酸化物、ホウ素酸化物、カルシウム酸化物、シリコン酸化物、Prなどの希土類の酸化物などが例示される。
【0026】
バリスタ素子部20における内部電極層24および25は、たとえばAg、Cu、Au、Pt、Pd、あるいはこれらの合金などで構成される。
【0027】
バリスタ層22の厚みは、特に限定されないが、好ましくは100〜400μmである。また、内部電極層24および25の厚みは、特に限定されないが、好ましくは5〜20μmである。
【0028】
フェライト素子部30におけるフェライト層32は、特に限定されないが、たとえばNi−Cu−Zn系の磁性フェライトや、非磁性のZn系フェライトから構成される。
【0029】
Ni−Cu−Zn系の磁性フェライトとしては、たとえば、酸化鉄がFe換算で40〜50モル%、酸化ニッケルがNiO換算で5〜35モル%、酸化亜鉛がZnO換算で1〜35モル%、酸化銅がCuO換算で1〜15モル%含有されているものが例示される。このようなNi−Cu−Zn系フェライトは、ZnやFeの一部をMg、Mnの少なくとも1種で置換した組成としてもよい。さらに、添加成分として、SiO、CaCO、ZrO、SnO、TiO、MoO、Bi、WO、CoO等を、合計10重量%以下含有していてもよい。
【0030】
非磁性のZn系フェライトとしては、たとえば、酸化鉄がFe換算で40〜50モル%、酸化亜鉛がZnO換算で残部モル%含有されているものが例示される。このような非磁性のZn系フェライトは、ZnまたはFeの一部をNi、Mg、Mn、Cuの少なくとも1種で置換した組成としてもよい。この場合、通常、Ni、Mg、Mn、Cuの置換は10モル%以内とされる。さらに、添加成分として、SiO、CaCO,ZrO、SnO、TiO、MoO、Bi、WO、CoO等を、合計10重量%以下含有していてもよい。
【0031】
内部導体層34〜39は、たとえばAg、Cu、Au、Pt、Pd、あるいはこれらの合金などで構成される。
【0032】
フェライト層32の厚みは、特に限定されないが、好ましくは200〜500μmである。また、内部導体層34〜39のそれぞれの厚みは、特に限定されないが、好ましくは5〜20μmである。
【0033】
本実施形態では、中間接合層40はガラス層で構成され、ガラス層を構成するガラス組成物は、非晶質でも結晶質であっても良い。ただし、非晶質である場合には、後述するフィラーとの相性が良く、フィラーを比較的に多く含ませることが可能になる。
【0034】
この中間接合層40を構成するガラス層は、SiOを30〜60重量%、好ましくは40〜55重量%含む。SiOが少なすぎると、中間接合層40の緻密性および保形性が低下し、素子部20および30間での各成分の相互拡散を抑制する効果が低下する。SiOが多すぎると、アルカリ金属やホウ素(B)を多く入れないとガラス化が困難になる傾向にあり、緻密性が低下し、素子部20および30間での各成分の相互拡散を抑制する効果が低下する傾向にある。
【0035】
また、ガラス層は、ZnOを0〜20重量%、好ましくは10重量%以下含み、好ましくは、実質的にZnOを含まない。ZnOを含ませることで、中間接合層40の耐久性を向上させるが、ZnOが多すぎると、緻密性が低下し、素子部20および30間での各成分の相互拡散を抑制する効果が低下する傾向にある。
【0036】
さらに、ガラス層は、Alを0〜20重量%、好ましくは10重量%以下含むが、実質的に含まなくても良い。Alを含ませることで、中間接合層40の耐久性を向上させるが、多すぎると、素子部20および30間での接合特性が劣化すると共に、相互拡散を抑制する効果が低下する傾向にある。
【0037】
また、ガラス層は、Bを0〜5重量%、好ましくは0〜4.8重量%、さらに好ましくは0〜2重量%含むが、実質的に含まなくても良い。Bを含ませることで、SiOが溶融しやすくなるが、多すぎると、素子部20および30間での接合特性が劣化すると共に、中間接合層40の保形性が劣化し、相互拡散を抑制する効果が低下する傾向にある。
【0038】
また、ガラス層は、アルカリ土類金属酸化物を30〜50重量%、好ましくは35〜45重量%含む。アルカリ土類金属酸化物を所定量以上含ませることで、ガラスの耐久性や保形性を向上させるが、多すぎると、ガラス化しなくなる傾向にある。アルカリ土類金属としては、特に限定されないが、たとえばMg,Ca,Sr,Baが好ましく用いられる。
【0039】
さらに、ガラス層は、アルカリ金属酸化物を0〜1重量%、好ましくは0〜0.5重量%、さらに好ましくは0〜0.3重量%含むが、実質的に含まなくても良い。アルカリ金属酸化物を含ませることで、SiOが溶融しやすくなるが、多すぎると、ガラスの耐久性が低下する傾向にある。アルカリ金属としては、特に限定されないが、たとえばLi,Na,Kが好ましく用いられ、特に好ましくはLiが用いられる。
【0040】
本実施形態では、ガラス層には、その他の金属酸化物が含まれてもよい。その他の金属酸化物としては、たとえばチタン酸化物、ジルコニア酸化物、スズ酸化物、ビスマス酸化物、ランタン系列元素の酸化物などである。その他の酸化物は、好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは8重量%以下、特に好ましくは7重量%以下である。ただし、本実施形態では、好ましくは、酸化ビスマスは実質的に含まない。酸化ビスマスを実質的に含まないとは、0.2重量%以下であることを意味する。
【0041】
本実施形態では、このようなガラス層から成る中間接合層40には、フィラーを含ませても良い。フィラーとしては、特に限定されず、酸化ニッケル、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化チタン、チタン酸ストロンチウム、ケイ酸ジルコニウム、ケイ酸マグネシウム、石英シリカ、溶融シリカなどが例示され、フェライト層がNiを含む場合には、フィラーとしては、好ましくは酸化ニッケルが用いられる。
【0042】
好ましくは、ガラス組成物とフィラーとの合計体積に対して、フィラーを0〜50体積%未満、さらに好ましくは20〜35体積%含む。ガラス層に含まれるフィラーは、必ずしも一種類である必要はなく、複数種類でも良い。
【0043】
フィラーを所定量で含ませることで、中間接合層40の焼結挙動や熱膨張係数を調節することができ、バリスタ素子部およびフェライト素子部の密着性をさらに向上させることができる。
【0044】
中間接合層40の厚さは、複合一体化焼結物のコンパクト化を図るためにはできる限り薄いことが望ましく、その厚さは60〜300μm、好ましくは60〜180μmである。
【0045】
本実施形態では、中間接合層40を構成するガラス層は、その軟化点が、中間接合層40に接触するバリスタ層22およびフェライト層32の焼結(収縮)開始温度よりも高温であり、好ましくは800°C以上である。また、ガラス層は、900°C以下で焼結(個化)する熱的性質を有することが好ましく、焼成後のガラス層の空孔率は、10体積%以下であることが好ましい。中間接合層40自体の熱収縮率は、900°Cの焼成温度にて、16.0±3.0%であることが好ましい。
【0046】
また、中間接合層40を構成するガラス層では、バリスタ層22またはフェライト層32の材料に対して、焼成中、収縮開始後は同じ収縮率となる温度の差(TMA評価)が、40°C以内であることが好ましい。さらに、中間接合層40を構成するガラス層と、バリスタ層22またはフェライト層32とでは、室温から700°Cにおいて、各温度の熱膨張係数の差異は、好ましくは2ppm/K以内、さらに好ましくは1ppm/K以内である。
【0047】
図1〜図3に示す積層型複合電子部品2は、たとえば以下のようにして製造される。すなわち、図3に示すように、まず、バリスタ層22と成るグリーンシート、フェライト層32となるグリーンシート、中間接合層40となるグリーンシートをそれぞれ製造する。各グリーンシートは、それぞれ焼成後に上述した組成となる成分が分散してあるスラリー(もしくは塗料、以下同じ)を用いて、ドクターブレード法などの厚膜形成法により形成される。
【0048】
次に、バリスタ層22と成るグリーンシートの表面には、内部電極層24および25となる電極ペースト膜をそれぞれ印刷法などにより形成する。また、フェライト層32となるグリーンシートの表面には、それぞれ内部導体層34〜39を形成すると共に、スルーホール電極33を形成する。
【0049】
中間接合層40となるグリーンシートは、焼成後に上述したガラス組成となる成分を含むスラリーにより形成してあり、単一であっても複数であってもよい。中間接合層40を構成するグリーンシートが、複数である場合には、全て同じガラス組成で構成することなく、組成を変化させても良い。
【0050】
たとえばバリスタ素子部20に近い中間接合層40のグリーンシートは、バリスタ層22を構成するグリーンシートとの密着性に優れたガラス組成としても良い。また、フェライト素子部30に近い中間接合層40のグリーンシートは、フェライト層32を構成するグリーンシートとの密着性に優れたガラス組成としても良い。そして、それらの間に位置する中間接合層40のグリーンシートは、それらの中間のガラス組成にしても良い。
【0051】
中間接合層40を構成することになるグリーンシートには、1種類のガラス組成物から成るガラス粒子を含ませても良いが、2種類以上のガラス組成物から成るガラス粒子を含ませても良い。複数種類のガラス組成物の混合割合を変化させることで、中間接合層の焼結挙動や熱膨張係数を調節することができ、バリスタ素子部およびフェライト素子部の密着性をさらに向上させることができる。
【0052】
なお、グリーンシートに含まれるガラス粒子の粒径は、特に限定されないが、好ましくは0.5〜2.0μmである。また、グリーンシートには、ガラス粒子と共に、フィラーを添加しても良い。フィラーの種類および添加割合は、前述したとおりである。フィラーは、粒状でも良いが、必ずしも粒状である必要はなく、扁平、あるいは繊維状でもよい。フィラーの代表長さ(粒の場合には粒径、繊維状の場合には長さ、その他の形状の場合には最大長さ)は、好ましくは0.25〜4.0μmであり、ガラス粒子の粒径に比較して、0.5〜2倍である。
【0053】
次に、これらのグリーンシートを加圧積層して積層体を形成し、切断後のグリーンチップを、必要に応じて脱バインダ処理した後、焼成処理を行う。焼成温度は、好ましくは、850〜950°Cである。
【0054】
その後に、たとえば銀を主成分とする外部電極ペーストを、図1に示す外部電極6,8,10のパターンで塗布し、これらを所定温度(たとえば、600〜700°C)にて焼き付け、さらに電気めっきを施すことにより、外部電極6,8,10を形成する。電気めっきとしては、NiとSn、CuとNiとSn、NiとAu、NiとPdとAu、NiとPbとAg、またはNiとAg等を用いることができる。このようにして図1に示す積層型複合電子部品2が得られる。
【0055】
本実施形態に係る積層型複合電子部品2では、中間接合層40が、特定のガラス組成物で構成してあることから、素子部20,30間の接合界面である中間接合層40において、変形やクラックを生じさせず、密着性に優れた積層型複合電子部品2を実現することができる。
【0056】
また、本実施形態に係る積層型複合電子部品2では、中間接合層40が、特定のガラス組成物で構成してあり、焼結の過程において流動性が高すぎる液相成分を含まないなどの理由から、中間接合層40の緻密性および保形性が向上する。そのため本実施形態では、中間接合層40が素子部20,30間での相互拡散を抑制し、特にバリスタ素子部20の特性劣化が少ない。
【0057】
一般的に、バリスタ素子部20のバリスタ層22が、低融点ガラスや低融点酸化物(たとえばB、Biなど)などのように、焼成過程において液相となる成分を、バリスタ層22の全体に対して1.0重量%以上有する場合には、フェライト素子部30との相互拡散が生じやすい。バリスタ層に用いられる低融点ガラスとしては、たとえばBを20重量%以上含み融点が700°C以上のガラス、あるいはBiを70重量%以上含み融点が700°C以上のガラスが例示される。このような低融点ガラスや低融点酸化物、特にBiなどの酸化物を含む場合には、フェライト素子部30との相互拡散が生じやすい。
【0058】
本実施形態では、このような低融点ガラスや低融点酸化物、特にBiなどの酸化物をバリスタ層22が含む場合でも、中間接合層40が、特定のガラス組成物で構成してあることから、素子部20,30間での相互拡散を抑制し、バリスタ素子部20の特性劣化がすくない。
【0059】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
たとえば、積層型複合電子部品におけるバリスタ素子部20およびフェライト素子部30の内部電極パターンは、図示する実施形態に限定されず、種々に改変することができる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
実施例1および比較例1
〔バリスタ素子部のバリスタ層〕
【0061】
図3に示すバリスタ素子部20のバリスタ層22を形成するために、主成分であるZnOが97モル%、Coが2.4モル%、Biが0.3モル%、Pr11が0.2モル%、およびCaCOが0.1モル%となるように秤量した。この秤量物を有機バインダーとともに溶媒中に分散させてスラリーを形成した。
【0062】
この後、このスラリーからドクターブレード法により厚さ30μmのバリスタ用グリーンシートを作製した。
〔フェライト素子部のフェライト層〕
【0063】
図3に示すフェライト素子部30のフェライト層32を形成するために、Feが49モル%、NiOが20モル%、CuOが11モル%、ZnOが20モル%となるように秤量した。この秤量物に純水を加えてボールミルで24時間混合してスラリーを形成した。このスラリーをろ過、乾燥させて造粒した後、700℃の温度で2時間仮焼きした。次いで、仮焼き物に純水を加えてさらに微粉砕した。
【0064】
次いで、得られた微粉末をろ過、乾燥させた後、有機バインダーとともに溶媒中に分散させてスラリーを形成した。この後、このスラリーからドクターブレード法により厚さ20μmのフェライト用グリーンシートを作製した。
〔中間接合層〕
【0065】
図3に示す中間接合層40となるグリーンシートを準備した。このグリーンシートには、表1に示す試料番号1〜10の組成を有するガラス組成物から成るガラス粒子を含ませた。試料番号2,3,4,10が、非晶質ガラス粒子であり、試料番号1,5,6,7,8,9が結晶質ガラスである。
【0066】
【表1】

【0067】
表1において、空欄は、各成分を実質的に含まないことを示す。なお、各成分毎に、実質的に含まない範囲が異なり、たとえばアルカリ金属、Bの場合には、0.1重量%以下を、実質的に含まない範囲とし、ZnO、Alの場合には、0.5重量%以下を、実質的に含まない範囲とする。
【0068】
中間接合層40となるグリーンシートに含まれるガラス粒子の平均粒径は、1.2μmであった。中間接合層40となるグリーンシートの厚みは、30μmであり、3枚のグリーンシートを積層して中間接合層40を構成した。
〔積層および焼成〕
【0069】
上記組成で構成された厚さ30μmのバリスタ用グリーンシートを8枚と、表1に示される組成のガラス組成を有する厚さ30μmの中間接合層用グリーンシートを3枚と、上記組成で構成された厚さ20μmのフェライト層を18枚とを、積層方向に100MPaの圧力を加えて圧着し、積層体を形成した。次いで、この積層体を所定の寸法に切断し、グリーンチップを得た。
【0070】
その後、このグリーンチップを、900°Cで2時間焼成して焼結体サンプルを作製した。その後、焼結体サンプルの外面に、図1に示す外部電極6,8,10を形成した。なお、図3に示す内部電極層24,25や内部導体34〜39は、積層体の形成前に、予め所定の導体ペーストを塗設することにより形成された。
〔測定および評価〕
【0071】
このようにして形成した複合積層型電子部品のサンプルについて、中間接合部の緻密性、保形性、クラックや剥離の有無、バリスタ素子部のバリスタ電圧V1mA について測定および評価した。
【0072】
中間接合部の緻密性の評価は、FE−SEM観察により定性評価した。空孔がほとんどない場合を◎とし、空孔が少ない場合を○とし、空孔が多い場合を×とした。
【0073】
中間接合部の保形性の評価は、複合積層型電子部品の焼結後の形状観察により定性評価した。バリスタとフェライトに挟まれた中間接合部がグリーンチップの直方体形状を維持している場合を◎とし、形状は維持しているが、端部が丸みを帯びている場合を○とし、発泡、ガラス溶融による変形、あるいは接合界面からの流出が見られた場合を×とした。
【0074】
クラックや変形の有無は、各試料番号のサンプル20個について、外観の観察を行い、クラックや剥離が観察されたサンプルの個数が、1以下の場合を◎と判断し、2〜4の場合を○と判断し、5以上の場合を×と判断した。
【0075】
さらに、バリスタ素子部のバリスタ電圧V1mA については、以下のようにして評価した。すなわち、バリスタ素子に電流が1mA流れるときのバリスタ電圧を、バリスタ厚さ1mmあたりにの数値に換算し、それをV1mA と定義し、各試料番号のサンプル20個について、バリスタ電圧V1mA の平均を求め、その平均値を、接合V1mA とした。また、積層型複合電子部品としない以外は同じ条件で、単体のバリスタ素子のサンプルを作製し、同じサンプル数で、バリスタ電圧V1mA の平均を求め、その平均値を、単体V1mA とした。
【0076】
そして、バリスタ電圧の変化率として、ΔV1mA =接合V1mA /単体V1mA を求めた。ΔV1mA が1に近いほど、バリスタ特性の変化が少ないことを示す。表1では、ΔV1mA が0.85以上1.15以下、好ましくは0.87以上1.13以下、さらに好ましくは0.9以上1.1未満である場合に、バリスタ特性の変化が少ないことを示している。
【0077】
表1に示すように、試料番号7〜10の比較例1に比較して、試料番号1〜6の実施例1では、中間接合層40が特定のガラス組成のガラス層で構成してあるために、変形やクラックを生じさせず、密着性に優れた積層型複合電子部品を実現できることが確認できた。また、比較例1に比較し、本実施例1では、中間接合層40が、特定のガラス組成物で構成してあることから、中間接合層40の緻密性および保形性が向上し、素子部20,30間での相互拡散を抑制し、特にバリスタ素子部20の特性劣化が少ないことが確認できた。
【0078】
なお、試料番号7のサンプルでは、シリコン酸化物が少なく、ホウ素酸化物が多いため、保形性が悪く、特性評価のできる積層型複合電子部品が得られなかったと考えられる。また、試料番号8のサンプルでは、亜鉛酸化物が多く含まれるために、緻密性が悪く、バリスタ特性の劣化が大きく、しかもクラックや剥離が見られたと考えられる。
【0079】
さらに、試料番号9のサンプルでは、シリコン酸化物の量が少ないと共にアルミニウム酸化物の量が多いために、クラックや剥離が多いと共に、バリスタ特性の劣化が大きいと考えられる。さらにまた、試料番号10のサンプルでは、多量のシリコン酸化物をホウ素酸化物でガラス化しているが、保形性が悪く、しかもクラックや剥離が見られ、特性評価のできる積層型複合電子部品が得られなかったと考えられる。
実施例2、参考例1および2
【0080】
実施例2では、表1に示す試料番号1〜6の組成を持つガラス粒子と共に、表2に示すフィラーを、ガラス粒子75体積%に対してフィラー25体積%の割合で分散させたスラリーを形成し、中間接合材のみのグリーンチップとして、試料11〜28を製造し、グリーンチップの収縮挙動と焼結体の熱膨張係数とを測定した。結果を表2に示す。
【0081】
【表2】

【0082】
表2に示す熱膨張係数は、焼結体の線膨張挙動から計算した、室温を基準とした700°Cにおいての熱膨張係数(ppm/K)である。また、表2に示す収縮温度は、TMAにて収縮挙動を測定した場合に、たとえば図4に示すように、5%の収縮率の場合における温度と、10%の収縮率の場合における温度とを求めた。
【0083】
参考例1では、実施例2におけるバリスタ素子部単体での熱膨張係数と収縮温度を実施例2と同様にして求めた。また、参考例2では、フェライト素子部における熱膨張係数と収縮温度を実施例2と同様にして求めた。
【0084】
表2に示すように、実施例2では、ガラス組成物とフィラーとの組合せを変えることにより、参考例1に示すバリスタ素子部、または参考例2に示すフェライト素子部のそれぞれに対して近い物性(熱膨張係数、収縮温度)や、それらの中間の物性に設定できることが確認された。
実施例3および比較例2
【0085】
実施例3では、表1に示す試料番号1〜6の組成を持つガラス粒子を一種類以上と共に、表3に示すフィラーを一種類以上添加させると共に、その添加割合を変化させた以外は、実施例2と同様に、中間接合材のみのグリーンチップとして、試料31〜40を製造し、熱膨張係数と収縮温度を測定した。結果を表3に示す。なお、表3では、実施例1と同様にして評価した緻密性に関しても表記した。また、表3では、表2に示す試料番号13,17,23の実施例2と共に、試料番号29および30の参考例1および2も表記した。
【0086】
【表3】

【0087】
表3に示すように、比較例2に係る試料番号31、34および38では、フィラーの添加量が50体積%と多すぎて、中間接合材の緻密性が低下し、熱膨張係数と収縮温度の一部が測定できなかった。したがって、フィラーを含ませる場合には、50体積%未満が好ましい。
【0088】
表3に示すように、フィラーの添加量が50未満、好ましくは40体積%以下である場合には、フィラーの種類や添加量を変化させることで、参考例1に示すバリスタ素子部、または参考例2に示すフェライト素子部のそれぞれに対して近い物性(熱膨張係数、収縮温度)や、それらの中間の物性に設定できることが確認された。
【0089】
表3の試料番号35の実施例3に示すように、フィラーを2種類以上含有させることでも、熱収縮特性を調整することができることが確認できた。また、表3の試料番号39および40の実施例3に示すように、ガラス組成物を2種類以上含有させることで、各ガラス組成物の中間の熱収縮特性が得られ、熱収縮特性を調整することができることが確認できた。
【符号の説明】
【0090】
2… 積層型複合電子部品、
4… セラミックチップ
6,8… 端部外部電極
10… 中間外部電極
20… バリスタ素子部
22… バリスタ層
24,25… 内部電極層
30… フェライト素子部
32… フェライト層
34〜39… 内部導体層
40… 中間接合層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バリスタ層と内部電極層とを有するバリスタ素子部と、フェライト層と内部導体層とを有するフェライト素子部と、これらの双方の素子部を接合するために介在される中間接合層と、を有する積層型複合電子部品であって、
前記中間接合層が、ガラス層で構成され、
前記ガラス層が、
SiO:30〜60重量%、
ZnO:0〜20重量%、
Al:0〜20重量%、
:0〜5重量%、
アルカリ土類金属酸化物:30〜50重量%、および
アルカリ金属酸化物:0〜1重量%を含むガラス組成物で実質的に構成してあることを特徴とする積層型複合電子部品。
【請求項2】
前記ガラス組成物とフィラーとの合計体積に対してフィラーを50体積%未満含む請求項1に記載の積層型複合電子部品。
【請求項3】
前記フィラーが酸化ニッケルである請求項2に記載の積層型複合電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−199200(P2011−199200A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−66956(P2010−66956)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】