説明

積層微多孔性フィルムの製造方法、及び電池用セパレータ

【課題】優れた強度と良好な気孔率を備えた積層微多孔性フィルムの製造方法を提供すること。
【解決手段】第1の樹脂組成物から形成される第1の微多孔性フィルムと、第2の樹脂組成物から形成される第2の微多孔性フィルムとが積層された、積層微多孔性フィルムの製造方法であって、(1)第1の樹脂組成物から第1の無孔フィルムを形成する工程、
(2)前記第1の樹脂組成物の融点TmA(℃)よりも低い融点TmB(℃)を有する第2の樹脂組成物から第2の無孔フィルムを形成する工程、(3)前記第1の無孔フィルムと前記第2の無孔フィルムとをロール圧着して無孔積層フィルムを形成する工程、(4)前記無孔積層フィルムを乾式法により開孔して積層微多孔性フィルムを形成する工程、をこの順で含み、前記ロール圧着時の線圧が1.0〜7.0kg/cmであることを特徴とする製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層微多孔性フィルムの製造方法、及び電池用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
微多孔性フィルム、特にポリオレフィン系微多孔性フィルムは、精密濾過膜、電池用セパレータ、コンデンサー用セパレータ、及び燃料電池用材料などに使用されており、特にリチウムイオン電池用セパレータとして好適に使用されている。近年、リチウムイオン電池は、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータなどの小型電子機器用途として使用されている一方で、ハイブリッド電気自動車などへの応用も図られている。
【0003】
ここで、ハイブリッド電気自動車用のリチウムイオン電池には、短時間に多くのエネルギーを取り出すための、より高い出力特性が要求される。また、ハイブリッド電気自動車用のリチウムイオン電池は、一般に大型でかつ高エネルギー容量を必要とするため、より高い安全性の確保が要求される。
【0004】
リチウムイオン電池が備える電池用セパレータは、安全性を確保するために、シャットダウン(SD)機能を備えることが必須とされている。SD機能とは、電池内部の温度が過度に上昇した場合に、電池用セパレータの電気抵抗を急激に増大させることにより、電池反応を停止させて、それ以上の温度上昇を防止する機能である。SD機能の発現機構としては、例えば、微多孔性フィルム製の電池用セパレータの場合、所定の温度まで電池内部温度が上昇すると、その多孔質構造を喪失して無孔化し、イオン透過を遮断することが挙げられる。しかし、このように無孔化してイオン透過を遮断しても、温度が更に上昇してフィルム全体が溶融し破膜してしまった場合は、電気的絶縁性を維持できなくなってしまう。このようにフィルムがその形態を保持できなくなり、イオン透過を遮断することができなくなる温度を破膜温度という。破膜温度が高いほど電池用セパレータは耐熱性に優れているといえる。また、SDが開始する温度と破膜温度との差が大きいほど、安全性に優れているといえる。
さらに、リチウムイオン電池の大電流での放電性能や低温での放電性能を向上させるために、セパレータが電解液を保液した状態での流れるイオンの抵抗をできるだけ小さくする必要があり、電解液を含ませた状態での電気抵抗が低いセパレータが望まれている。
【0005】
このような事情に対応可能なセパレータとして用いることのできる微多孔性フィルムを提供することを目的として、例えば、特許文献1には、共押出成形法により、高融点樹脂層と低融点樹脂層を有する積層フィルムを成形し、延伸して積層微多孔性フィルムを製造する方法が提案されている。
また、特許文献2には、ポリプロピレンフィルムとポリエチレンフィルムを別々に成形した後、積層し、アニールしてから延伸することで透気性の良好な積層微多孔性フィルムを製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2883726号公報
【特許文献2】特許第3003830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、例えば、電池用セパレータに要求される物性は多岐にわたり、特に、過酷な条件下で電池用セパレータが使用される場合には、突刺強度等の物理的な強度の向上が望まれている。
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、優れた強度と良好な気孔率を備えた積層微多孔性フィルムの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、第1の樹脂組成物から構成される第1の微多孔性フィルムと、前記第1の樹脂組成物よりも低い融点を有し、第2の樹脂組成物から構成される第2の微多孔性フィルムと、を備える積層フィルムを成形する工程にて、無孔積層フィルムを熱圧着して形成する際の線圧を1.0〜7.0kg/cmの範囲に調整することで、優れた強度と良好な気孔率を備えた積層微多孔性フィルムを実現し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]
第1の樹脂組成物から形成される第1の微多孔性フィルムと、第2の樹脂組成物から形成される第2の微多孔性フィルムとが積層された、積層微多孔性フィルムの製造方法であって、以下の(1)〜(4)の各工程、
(1)第1の樹脂組成物から第1の無孔フィルムを形成する工程、
(2)前記第1の樹脂組成物の融点TmA(℃)よりも低い融点TmB(℃)を有する第2の樹脂組成物から第2の無孔フィルムを形成する工程、
(3)前記第1の無孔フィルムと前記第2の無孔フィルムとをロール圧着して無孔積層フィルムを形成する工程、
(4)前記無孔積層フィルムを開孔して積層微多孔性フィルムを形成する工程、
をこの順で含み、前記ロール圧着時の線圧が1.0〜7.0kg/cmであることを特徴とする製造方法。
[2]
前記ロール圧着時の温度が(TmB−8)℃を超え、(TmB+3)℃未満である、[1]に記載の製造方法。
[3]
前記積層微多孔性フィルムが表層と中間層とからなる3層構成を有すると共に、当該表層が前記第1の微多孔性フィルムにて形成され、当該中間層が前記第2の微多孔性フィルムにて形成される、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]
前記第1の樹脂組成物が、ポリプロピレン100質量部と、ポリフェニレンエーテル5〜90質量部とを含有する熱可塑性樹脂組成物であり、
前記第1の微多孔性フィルムが、前記ポリプロピレンを含む相の海部と、前記ポリフェニレンエーテルを含む相の島部とからなる海島構造を有する、[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]
前記島部の粒径が0.01μm〜10μmである、[4]に記載の製造方法。
[6]
前記第2の樹脂組成物がエチレン系樹脂組成物である、[1]〜[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7]
[1]〜[6]のいずれかに記載の製造方法により製造された積層微多孔性フィルムからなる電池用セパレータ。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた強度と良好な気孔率を備えた積層微多孔性フィルムが製造される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】(A)破膜温度の測定装置の概略図。(B)破膜温度の測定装置のサンプル部分を示す平面図。(C)破膜温度の測定装置のサンプル部分を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の本実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
なお、本明細書において特に明記されていない限り、「主成分として含む」、「主体とする」とは、特定成分が、該特定成分を含む組成物(マトリックス成分)中に含まれる割合として好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上含まれ、100質量%含まれてもよいことを意味する。
【0013】
本実施形態の積層微多孔性フィルムの製造方法は、
第1の樹脂組成物から構成される第1の微多孔性フィルムと、前記第1の樹脂組成物よりも低い融点を有する第2の樹脂組成物から構成される第2の微多孔性フィルムと、を備える積層微多孔性フィルムの製造方法であって、以下の(1)〜(4)の各工程をこの順で含む。
(1)第1の樹脂組成物から第1の無孔フィルムを形成する工程、
(2)前記第1の樹脂組成物の融点TmA(℃)よりも低い融点TmB(℃)を有する第2の樹脂組成物から第2の無孔フィルムを形成する工程、
(3)前記第1の無孔フィルムと前記第2の無孔フィルムとをロール圧着して無孔積層フィルムを形成する工程、
(4)前記無孔積層フィルムを開孔して積層微多孔性フィルムを形成する工程。
【0014】
[(1)工程及び(2)工程]
第1の樹脂組成物及び第2の樹脂組成物は、それぞれの融点TmA、TmBがTmA>TmBを満足するものであれば、その材質は同質であっても異質であってもよい。ここで、TmAは第1の樹脂組成物の融点、TmBは第2の樹脂組成物の融点を示す。
【0015】
第1の樹脂組成物の融点TmAと第2の樹脂組成物の融点TmBとの差は5℃以上であることが好ましく、より好ましくは10℃以上である。一方、上限としては、特に制限はなく、好ましくは180℃以下である。融点の差が5℃以上であると、積層微多孔性フィルムを電池用セパレータとして用いた場合、異常電流により電池の内部温度が上昇した際に、低融点の樹脂層が溶融しても高融点の樹脂層は溶融することなく保持されやすい。その結果、電池用セパレータのフィルム形状又はシート形状が保持され、安全性が向上する傾向にある。
なお、TmAは、好ましくは150℃以上280℃以下である。TmAを上記範囲に設定することは、破膜温度と成膜性のバランスが良好となる傾向にあるため好ましい。また、TmBは、好ましくは100℃以上150℃未満である。TmBを上記範囲に設定することは、積層微多孔性フィルムを電池用セパレータとして用いた際、電池の安全性が飛躍的に向上する傾向にあるため、好ましい。
【0016】
第1の樹脂組成物は、ポリオレフィン樹脂やポリエステル樹脂等を主成分として形成されることが好ましい。
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブテン−1、ポリ−4−メチルペンテン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、等が挙げられる。
また、ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、等が挙げられる。
【0017】
中でも、第1の樹脂組成物としては、ポリプロピレン100質量部と、ポリフェニレンエーテル(PPE)1〜90質量部(好ましくは5〜90質量部、さらに好ましくは10〜80質量部、特に好ましくは20〜65質量部)とを含有する熱可塑性樹脂組成物であることが好ましい。このような樹脂組成物を用いることは、より耐熱性に優れた積層微多孔性フィルムを得る観点、又は、積層微多孔性フィルムの延伸性の観点から好ましい。
【0018】
ここで、前記PPは、PPを主成分として含む重合体であり、ホモポリマーであってもコポリマーであってもよい。コポリマーである場合、ランダムコポリマーであってもよいし、ブロックコポリマーであってもよい。また、コポリマーである場合、共重合成分に限定はなく、例えば、エチレン、ブテン、ヘキセン等が挙げられる。ポリプロピレンがコポリマーである場合、プロピレンの共重合割合は50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であってもよく、90質量%以上であってもよい。
【0019】
PPは、1種類を単独で、又は2種類以上を混合して用いられる。また、PPを得る際に用いられる重合触媒としても特に制限はなく、例えば、チーグラー・ナッタ系の触媒やメタロセン系の触媒などが挙げられる。また、PPの立体規則性に関しても特に制限はなく、アイソタクチック又はシンジオタクチックのPPが用いられる。
また、PPは、いかなる結晶性や融点を有するものであってもよい。得られる微多孔性フィルムの物性や用途に応じて、異なる結晶性や融点を有する2種以上のPPを特定の配合比率で配合したものであってもよい。
【0020】
なお、PPのメルトフローレート(MFR)としては、好ましくは0.1〜100g/10分、より好ましくは0.1〜80g/10分である。
また、PPは、特開昭44−15422号公報、特開昭52−30545号公報、特開平6−313078号公報、特開2006−83294号公報に記載されているような公知の変性ポリプロピレン樹脂であってもよい。
【0021】
前記PPEとしては、例えば、下記一般式(3)で表される繰り返し単位を有するものが挙げられる。
【0022】
【化1】

【0023】
ここで、式(3)中、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜7の低級アルキル基、フェニル基、ハロアルキル基、アミノアルキル基、炭化水素オキシ基、及び、少なくとも2個の炭素原子がハロゲン原子と酸素原子とを隔てているハロ炭化水素オキシ基、からなる群より選ばれる基を示す。
【0024】
PPEの具体例としては、例えば、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンエーテル)が挙げられる。さらに、PPEとして、例えば、2,6−ジメチルフェノールと他のフェノール類(例えば、2,3,6−トリメチルフェノール及び2−メチル−6−ブチルフェノール)との共重合体のようなポリフェニレンエーテル共重合体も挙げられる。これらの中では特に、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、並びに、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体が好ましく、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)がより好ましい。
【0025】
また、PPEの製造方法に関しては、特に限定されるものではなく、公知の製造方法で得られるPPEであれば、本実施形態に用いることができる。
PPEとしては、上述のPPEとスチレン系モノマー、及び/又はα,β−不飽和カルボン酸若しくはその誘導体(例えば、エステル化合物、酸無水物化合物)とを、ラジカル発生剤の存在下又は非存在下、溶融状態、溶液状態又はスラリー状態で80〜350℃の温度で反応させることによって得られる公知の変性PPEを用いることも可能である。さらに、上述のPPEと該変性PPEとの任意の割合の混合物であってもよい。本実施形態で用いるPPEの還元粘度は、0.15〜2.5であることが好ましく、0.30〜2.00であることがより好ましい。
【0026】
本実施形態におけるPPEとしては、上述のPPEの他に、PPEに対してポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン及び/又はゴム補強したシンジオタクチックポリスチレン等の他のポリマーを加えたいわゆるポリマーアロイも好適に用いられる。なお、その場合、以下のPPEの配合量には他のポリマーの質量も含むものとする。
【0027】
第1の樹脂組成物としてPPとPPEを含む熱可塑性樹脂組成物を用いる場合、当該熱可塑性樹脂組成物は、更に混和剤を含むことが好ましい。
混和剤は、PPのマトリックス中にPPEを分散粒子化させるための分散剤として作用する。さらには、混和剤は、積層微多孔性フィルムに良好な気孔率及び透気度を付与する効果を奏する。
【0028】
このような混和剤としては、PPEの分散性の観点から、水添ブロック共重合体であることが好ましい。この水添ブロック共重合体としては、例えば、ビニル芳香族化合物に由来する構造単位を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックAと、共役ジエン化合物に由来する構造単位を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックBと、からなるブロック共重合体に水素を添加したブロック共重合体が挙げられる。
【0029】
ビニル芳香族化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−tert−ブチルスチレン及びジフェニルエチレンからなる群より選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。これらの中でもスチレンが好ましい。
【0030】
ビニル芳香族化合物に由来する構造単位を主体とする重合体ブロックAは、ビニル芳香族化合物に由来する構造単位を70質量%以上含有する重合体ブロックであることが好ましく、ビニル芳香族化合物のホモ重合体ブロック、又は、ビニル芳香族化合物とそのビニル芳香族化合物と共重合可能なモノマーとの共重合体ブロックが挙げられる。
【0031】
共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン及び2,3−ジメチル−1,3−ブタジエンからなる群より選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。これらの中でも、ブタジエン、イソプレン及びこれらの組み合わせが好ましい。共役ジエン化合物に由来する構造単位を主体とする重合体ブロックBは、共役ジエン化合物に由来する構造単位を少なくとも70質量%以上含有する重合体ブロックであることが好ましく、共役ジエン化合物のホモ重合体ブロック、又は、共役ジエン化合物とその共役ジエン化合物と共重合可能なモノマーとの共重合体ブロックが挙げられる。
【0032】
重合体ブロックBにおけるミクロ構造(共役ジエン化合物の結合形態)については、1,2−ビニル結合量と3,4−ビニル結合量との合計(以下、単に「ビニル結合量」と略す。)が40〜90%であることが好ましく、より好ましくは45〜85%である。かかるビニル結合量が上記範囲であると、ポリフェニレンエーテル樹脂の分散性が向上する傾向にある。
【0033】
また、上記の構造を有するブロック共重合体の数平均分子量は、5,000〜1,000,000の範囲であることが好ましい。ブロック共重合体の数平均分子量が上記範囲であると、ポリフェニレンエーテル樹脂の分散性が向上する傾向にある。
なお、このブロック共重合体の分子構造は、直鎖状、分岐状、放射状又はこれらの任意の組み合わせのいずれであってもよい。
【0034】
このような構造を有するブロック共重合体は、それに含まれる脂肪族系二重結合(ビニル結合)に水素を添加することにより、水添ブロック共重合体、すなわち、ビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体の水素添加物となり、混和剤として好適に用いられる。
【0035】
ブロック共重合体の水素添加率(ブロック共重合体の脂肪族系二重結合のうち水素添加されているものの割合(%))は、水素添加前のブロック共重合体が有する脂肪族系二重結合の全量を基準として、80%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以上である。ブロック共重合体の水素添加率が上記範囲であると、ポリフェニレンエーテル樹脂の分散性が向上する傾向にある。
【0036】
混和剤が、上記熱可塑性樹脂組成物中に占める割合は、PP100質量部に対して、好ましくは1〜20質量部、より好ましくは1〜15質量部である。混和剤の割合が上記範囲であると、PPEの分散性が向上し、この分散性に起因した積層微多孔性フィルムの気孔率及び透気度がより良好なものとなる。
【0037】
なお、第1の樹脂組成物には、上記各成分の他に、必要に応じて付加的成分、例えば、オレフィン系エラストマー、酸化防止剤、金属不活性化剤、熱安定剤、難燃剤(有機リン酸エステル系化合物、ポリリン酸アンモニウム系化合物、芳香族ハロゲン系難燃剤、シリコーン系難燃剤等)、フッ素系ポリマー、可塑剤(低分子量ポリエチレン、エポキシ化大豆油、ポリエチレングリコール、脂肪酸エステル類等)、三酸化アンチモン等の難燃助剤、耐候(光)性改良剤、ポリオレフィン用造核剤、スリップ剤、無機又は有機充填材及び強化材(ポリアクリロニトリル繊維、カーボンブラック、酸化チタン、炭酸カルシウム、導電性金属繊維、導電性カーボンブラック等)、各種着色剤、離型剤等が添加されてもよい。
【0038】
第2の樹脂組成物としては、上述した第1の樹脂組成物と同様の樹脂組成物を用いることができる。
中でも、第2の樹脂組成物としては、PEを主成分として形成される、エチレン系樹脂組成物であることが好ましい。
PEとしては、例えば、いわゆる高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンが挙げられる。なかでも、高密度ポリエチレンが好適に用いられる。
また、PEのMFRは、好ましくは0.01〜10g/10分であり、より好ましくは0.1〜3g/10分であり、さらに好ましくは0.8〜2.0g/10分であり、特に好ましくは1.0〜1.6g/10分である。PEのMFRが0.01g/10分以上であると、樹脂フィルムにフィッシュアイが発生し難くなり、10g/10分以下であるとドローダウンが起こり難くなり、成膜性が良好となる。
更に、PEの密度は、好ましくは945〜970kg/m3であり、より好ましくは955〜970kg/m3であり、更に好ましくは960〜967kg/m3であり、特に好ましくは963〜967kg/m3である。PEの密度が945kg/m3以上であると、透気性のより良好な微多孔性フィルムが得られ、970kg/m3以下であると、延伸する際に膜が破断し難くなる傾向にあるため好ましい。
【0039】
樹脂組成物から無孔フィルムを形成する方法としては、例えば、Tダイやサーキュラーダイを用いて押出成形する方法が挙げられる。
押し出し後のドロー比、即ち、フィルムの巻取速度(単位はm/分である)を樹脂組成物の押出速度(ダイリップを通過する溶融樹脂の流れ方向の線速度であり、単位はm/分である)で除した値としては、好ましくは10〜500、より好ましくは100〜400、更に好ましくは150〜350の範囲である。ドロー比を当該範囲に設定することは、ポリマー鎖を高度に配向させ、後述する工程(4)における開孔を良好に実施する観点から好ましい。フィルムの巻取速度は、好ましくは2〜400m/分、より好ましくは10〜200m/分である。
【0040】
[(3)工程]
(1)工程及び(2)工程により得られた各無孔フィルムは、ロール圧着されて無孔積層フィルムが形成される。より具体的には、例えば、各無孔フィルムが原反ロールスタンドから巻き出され、加熱されたロール間でニップされ圧着されることで積層される。積層の際は、各樹脂フィルムの弾性回復率が実質的に低下しないように熱圧着することが好ましい。
【0041】
ロール圧着時の温度(熱圧着温度)としては、好ましくは(TmB−20)℃以上(TmB+10)℃以下、より好ましくは(TmB−8)℃を超えて(TmB+3)℃未満、更に好ましくは(TmB−5)℃以上(TmB+2)℃以下である。熱圧着温度を上記範囲とすることは、積層フィルム間の剥離強度を高めてその後の各延伸工程で剥がれが生じ難くする観点や、第2の樹脂組成物が溶解してその弾性回復率が低下することを防止し、所期の課題を解決し得る積層微多孔性フィルムを実現する観点から好ましい。
【0042】
また、ロール圧着時の線圧としては、1.0〜7.0kg/cmであり、好ましくは3.0〜7.0kg/cmであり、より好ましくは5.0〜7.0kg/cmである。
本発明者らは熱圧着時の線圧を上記範囲内に設定することで、強度と気孔率のバランスが顕著に改善された積層微多孔性フィルムを実現し得ることを見出した。この要因は完全には解明できていないものの、本発明者らは、その一つの要因として下記のように考えている。すなわち、熱圧着時の線圧を1.0kg/cm以上にすることで、各樹脂フィルムの結晶サイズが小さくなり、後述の延伸工程において、小孔径を有する積層微多孔性フィルムが得られ、その結果、突刺強度低下の原因となる大孔径の割合が少なくなり、優れた突刺強度を備えた積層微多孔性フィルムが得られると考えられる。また、熱圧着時の線圧を7.0kg/cm以下にすることで、各樹脂フィルムの結晶配向性が崩れず、後述の延伸工程において、結晶間の開裂が発生しやすくなり、その結果、良好な気孔率を備えた積層微多孔性フィルムが得られると考えられる。
なお、ロール圧着時の巻き出し速度としては、好ましくは0.5〜8m/分である。また、無孔積層フィルムの剥離強度は、好ましくは3〜60g/15mmである。
【0043】
[(4)工程]
本実施の形態の積層微多孔性フィルムは、前記無孔積層フィルムを開孔して得られる。
開孔方法としては、乾式法を採用することが好ましい。乾式法とは、溶媒の配合/抽出により孔を形成する湿式法とは異なり、延伸により開孔する方法(ポリマーの結晶領域と非晶領域との界面を起点として孔を形成する方法)を指す。
ここで、ポリマーの結晶領域を成長させる方法としては、例えば、ポリマーを押出成形する際にポリマー鎖の配向度を高め、更にアニール処理を施して結晶を成長させる方法が挙げられる。ポリマー鎖の配向度を高める方法としては、例えば工程(1)や(2)におけるドロー比を上述の範囲に設定する方法が挙げられる。
【0044】
一方、アニールの方法としては、例えば、フィルムを加熱ロール上に接触させる方法、加熱気相中に曝す方法、フィルムを芯体上に巻き取り加熱気相若しくは加熱液相中に曝す方法、及びこれらを組み合わせて行う方法等が挙げられる。
アニール処理が実施される時期としては、開孔前であれば特に制限はなく、上述した(1)〜(3)のいずれの工程に含まれていてもよい。即ち、アニールは各フィルムを積層する前に行ってもよく、積層した後に行ってもよい。積層する前にアニールを施す場合、高融点樹脂フィルムと低融点樹脂フィルムのそれぞれに適した条件でアニールを施すことができる。これにより、気孔率、透気度及び熱収縮率のバランスが更に良好な積層微多孔性フィルムが得られる。一方、積層した後にアニールを施す場合、アニール前の樹脂の非晶部の比率が高い状態で樹脂フィルム同士を熱圧着により積層することになるため、接着強度が高い積層微多孔性フィルムが得られる。
【0045】
前記第1の無孔フィルムを単独でアニールする場合の加熱温度は、気孔率、透気度及び熱収縮率のバランスの観点から、好ましくは(TmA−50)℃以上(TmA−2)℃以下であり、より好ましくは(TmA−40)℃以上(TmA−10)℃以下である。
一方、前記第2の無孔フィルムを単独でアニールする場合の加熱温度は、気孔率、透気度及び熱収縮率のバランスの観点から、好ましくは(TmB−30)℃以上(TmB−2)℃以下であり、より好ましくは(TmB−15)℃以上(TmB−2)℃以下である。
更に、第1の無孔フィルムと、第2の無孔フィルムとを積層した後、無孔積層フィルムのアニールを行なう場合、加熱温度は、接着強度が高い積層微多孔性フィルムを得るという観点から、好ましくは(TmB−30)℃以上(TmB−2)℃以下であり、より好ましくは(TmB−15)℃以上(TmB−2)℃以下である。
なお、加熱時間は、10秒間〜100時間が好ましく、より好ましくは1分間〜10時間である。
【0046】
第1の無孔フィルムは、熱処理後の弾性回復率が、好ましくは80〜95%であり、より好ましくは84〜92%である。また、第2の無孔フィルムは、熱処理後の弾性回復率が、好ましくは50〜80%であり、より好ましくは60〜75%である。各樹脂フィルムの弾性回復率が上記範囲内であると、多孔化の程度が十分な積層微多孔性フィルムが得られる傾向にある。
【0047】
(4)工程としては更に、以下の(a)工程、又は(a)工程及び(b)工程を含むことが好ましい。
(a)無孔積層フィルムを少なくとも一方向に1.05倍〜2.0倍に冷延伸する冷延伸工程。
(b)前記冷延伸工程の後に、フィルムを少なくとも一方向に1.05倍〜5.0倍に熱延伸する熱延伸工程。
【0048】
冷延伸工程の延伸温度は、破断を防ぐ観点から−20℃以上、気孔率、透気度の観点から(TmB−60)℃以下が好ましい。より好ましくは0℃以上50℃以下の温度である。ここで、冷延伸の延伸温度は冷延伸工程におけるフィルムの表面温度を意味する。ここでフィルムの表面温度は、接触式温度計により測定することができる。
【0049】
冷延伸工程における延伸倍率は、1.05倍〜2.0倍であることが好ましく、より好ましくは1.1倍以上2.0倍未満である。冷延伸は、少なくとも一方向に行うが、フィルムの押出し方向(以下、「MD方向」という。)及びフィルムの幅方向(以下、「TD方向」という。)の両方向に行ってもよい。好ましくは、フィルムの押出し方向にのみ一軸延伸を行うことが好ましい。
【0050】
一方、熱延伸工程の延伸温度は、破断を防ぐ観点から(TmB−60)℃以上、気孔率、透気度の観点から(TmB−2)℃以下が好ましい。より好ましくは(TmB−30)℃以上(TmB−2)℃以下である。ここで、熱延伸工程の延伸温度とはフィルムの表面温度を意味する。
【0051】
熱延伸工程の延伸倍率は、1.05倍〜5.0倍であることが好ましく、より好ましくは1.1倍〜5.0倍、さらに好ましくは2.0倍〜5.0倍である。熱延伸は、少なくとも一方向に対して行い、MD、TD両方向に行ってもよいが、冷延伸の延伸方向と同じ方向に行うことが好ましく、より好ましくは冷延伸の延伸方向と同じ方向にのみ一軸延伸を行う。
【0052】
更に、(4)工程は熱固定工程を含むことが好ましい。熱固定工程を設けることは、延伸時に作用した応力残留による積層微多孔性フィルムの延伸方向への収縮を抑制し得るばかりか、得られる積層微多孔性フィルムの層間剥離強度を向上させる観点からも好適である。この熱固定の方法としては、熱固定後の積層微多孔性フィルムの長さが3〜50%減少する程度熱収縮させる方法(以下、この方法を「緩和」という。)、延伸方向の寸法が変化しないように固定する方法等が挙げられる。
熱固定温度は、(TmB−30)℃以上(TmB−2)℃以下であることが好ましく、(TmB−15)℃以上(TmB−2)℃以下であることがより好ましい。ここで、熱固定温度とは、フィルムの表面温度を意味する。
【0053】
上記冷延伸工程、熱延伸工程、その他の延伸工程及び熱固定を施す工程においては、ロール、テンター、オートグラフ等により、1段階又は2段階以上で、1軸方向及び/又は2軸方向に延伸、熱固定する方法を採用し得る。これらの中でも、本実施形態で得られる積層微多孔性フィルムに要求される物性や用途の観点から、ロールによる2段階以上の1軸延伸、熱固定を施すことが好ましい。
【0054】
本実施形態の積層微多孔性フィルムは、第1の微多孔性フィルムと第2の微多孔性フィルムの積層体であるが、それらの積層の態様は特に限定されない。その態様の具体例としては、(a)1つの第1の微多孔性フィルムと1つの第2の微多孔性フィルムとからなる積層体、(b)1つの第1の微多孔性フィルムとその両側に積層された第2の微多孔性フィルムとからなる積層体、(c)1つの第2の微多孔性フィルムとその両側に積層された第1の微多孔性フィルムとからなる積層体、(d)第1の微多孔性フィルム−第2の微多孔性フィルム−第1の微多孔性フィルム−第2の微多孔性フィルムというように、それぞれの樹脂フィルムが交互に配置された積層体、が挙げられる。中でも、前記積層微多孔性フィルムが表層と中間層とからなる3層構成を有すると共に、当該表層が前記第1の微多孔性フィルムにて形成され、当該中間層が前記第2の微多孔性フィルムにて形成されることが好ましい。
【0055】
本実施形態における第1の微多孔性フィルムは、ポリプロピレン樹脂を含む相である海部と、ポリフェニレンエーテル樹脂を含む相である島部とからなる海島構造を有することが好ましい。本実施形態において「海島構造」とは、ポリフェニレンエーテル樹脂を含む相の粒子からなる島成分間に、海部であるポリプロピレン樹脂を含む相の骨格が形成した構造のことである。換言すると、ポリプロピレン樹脂からなる母体(マトリックス)中にポリオレフィンエーテル樹脂が複数の島状に分散している構造をいう。
【0056】
島部の粒径は、好ましくは0.01μm〜10μm、より好ましくは0.1μm〜5μmである。島部の粒径を上記範囲とすることは、最終的に得られる積層微多孔性フィルムの開孔部を、フィルム厚み方向、フィルム面方向において、より均一に分散することに寄与し得るため好ましい。開孔部が均一に分散した積層微多孔性フィルムは電池用セパレータとして好適である。
【0057】
島部の長軸径と短軸径との比(長軸径/短軸径)は、好ましくは1〜5であり、より好ましくは1〜3である。長軸径と短軸径との比を上記範囲に調整することは、積層微多孔性フィルムの開孔性の観点から好適である。
なお、用いるポリプロピレン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、及び混和剤を適宜選択することで、上述のような粒径、長軸径と短軸径との比を有するポリフェニレンエーテル樹脂を含む相の粒子(島部)をマトリックス(海部)であるポリプロピレン樹脂を含む相中に分散させることができる。
【0058】
[積層微多孔性フィルムの物性]
本実施形態の積層微多孔性フィルムの気孔率は、好ましくは20%〜70%、より好ましくは35%〜65%、更に好ましくは45%〜60%である。気孔率が20%以上であると、積層微多孔性フィルムを電池用セパレータとして用いた場合に十分なイオン透過性を確保し得る。一方、気孔率が70%以下であると、積層微多孔性フィルムが十分な機械強度を確保し得る。なお、気孔率は、各層を構成する樹脂組成物の組成、延伸温度、延伸倍率等を適宜設定することにより上述の範囲に調整することができる。
【0059】
本実施形態の積層微多孔性フィルムの透気度は、好ましくは10秒/100cc〜5000秒/100cc、より好ましくは50秒/100cc〜1000秒/100cc、更に好ましくは100秒/100cc〜500秒/100ccである。透気度を5000秒/100cc以下とすることは、積層微多孔性フィルムの十分なイオン透過性を確保する観点から好適である。一方、透気度を10秒/100cc以上とすることは、欠陥のないより均質な積層微多孔性フィルムを得る観点から好適である。なお、透気度は、各層を構成する樹脂組成物の組成、延伸温度、延伸倍率等を適宜設定することにより上述の範囲に調整することができる。
【0060】
本実施形態の積層微多孔性フィルムの膜厚は、5〜40μmが好ましく、10〜30μmがより好ましい。膜厚が5μm以上であると、機械的強度に優れる傾向にあり、40μm以下であると、電池の小型化に有効となる傾向にある。
また、積層微多孔性フィルムの突刺強度としては、電極間の短絡による電池不良の観点から、好ましくは2〜10Nであり、より好ましくは3〜10Nである。
【0061】
本実施形態における積層微多孔性フィルムは、優れた気孔率と透気度とを有しており、リチウムイオン電池用セパレータとして好適に利用できる。
なお、本明細書中の各物性は、特に明記しない限り、以下の実施例に記載された方法に準じて測定することができる。
【実施例】
【0062】
次に、実施例及び比較例を挙げて本実施の形態をより具体的に説明するが、本実施形態はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例における各種特性の評価方法は以下の通りである。
【0063】
(1)融点
JIS K−7121に準拠した方法により測定した。
【0064】
(2)メルトフローレート(MFR)
MFRは、JIS K7210に準拠して、ポリプロピレン樹脂は210℃、2.16kgの条件で、ポリエチレン樹脂は190℃、2.16kgの条件で測定した。MFRの単位はg/10分である。
【0065】
(3)密度
JIS K7112に準拠して測定した。密度の単位はkg/m3である。
【0066】
(4)還元粘度
30℃において0.5g/dlの濃度のクロロホルム溶液の条件下で、ウベローデ粘度管を用いて測定した。
【0067】
(5)ビニル結合量
共役ジエン化合物が重合前に有していた全ビニル結合の数に対する、重合後に重合体ブロックB中に残存する1,2−及び3,4−ビニル結合の合計数の割合(%)を指す。赤外分光スペクトルから導出される。ただし、NMRスペクトルを用いて導出した「ビニル結合量」の値を、赤外分光スペクトルから導出した値に換算してもよい。その換算は、ビニル結合量が同量の重合体について、それぞれ赤外分光スペクトル及びNMRスペクトルから「ビニル結合量」を導出して、それらの測定法の間の検量線を作成して行うことができる。
【0068】
(6)数平均分子量
ポリスチレンを標準物質としたゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定した。
【0069】
(7)水素添加率
ビニル結合量と同様に、赤外分光スペクトルにより導出されるが、NMRスペクトルによって導出した水素添加率の値を赤外分光スペクトルから導出した値に換算したものであってもよい。
【0070】
(8)熱処理後の弾性回復率(第1の無孔フィルム)
幅10mm、長さ50mmの短冊状に切り出して試験片を得た。その試験片を引張試験機の所定位置にセットし、25°C、65%相対湿度の条件下、50mm/分の速度で長さ方向に100%まで(すなわち、100mmの長さになるまで)伸長した。その後、直ちに同速度(50mm/分)で試験片を弛緩させて荷重がゼロになった時の試験片の長さを測定した。そして、下記式(1)に基づいて熱処理後の弾性回復率を導出した。
熱処理後の弾性回復率(%)=((100%伸張時の試験片の長さ)−(弛緩させて荷重がゼロになった時の試験片の長さ))/(伸張前の試験片の長さ)×100 (1)
【0071】
(9)熱処理後の弾性回復率(第2の無孔フィルム)
幅15mm、長さ2インチ(5.08cm)の短冊状に切り出して試験片を得た。その試験片を引張試験機の所定位置にセットし、25°C、65%相対湿度の条件下、2インチ/分の速度で長さ方向に50%まで(すなわち、3インチの長さになるまで)伸長した。次いで、1分間、その伸長状態で試験片を保持し、その後、同速度(2インチ/分)で試験片を弛緩させて荷重がゼロになった時の試験片の長さを測定した。そして、下記式(2)に基づいて熱処理後の弾性回復率を導出した。
熱処理後の弾性回復率(%)=((50%伸張時の試験片の長さ)−(弛緩させて荷重がゼロになった時の試験片の長さ))/((50%伸張時の試験片の長さ)−(伸張前の試験片の長さ))×100 (2)
【0072】
(10)膜厚(μm)
ダイヤルゲージ(尾崎製作所社製、商品名「PEACOCK No.25」)にて測定した。
【0073】
(11)気孔率(%)
フィルムから10cm×10cm角のサンプルを切り出し、そのサンプルの体積と質量とから下記式を用いて算出した。
気孔率(%)=(体積(cm3)−質量(g)/樹脂組成物の密度(g/cm3))/体積(cm3)×100
【0074】
(12)透気度(秒/100cc)
JIS P−8117に準拠したガーレー式透気度計にて測定した。なお、膜厚を20μmに換算した値を透気度とした。
【0075】
(13)海島構造の観察、島部の粒径
測定対象を試料台に積載後、その測定対象に対して約3nm厚みのオスミウムコーティングを施し、加速電圧を1kVに設定した走査型電子顕微鏡(HITACHI S−4700、倍率:5,000倍)を用いて透過型電子顕微鏡写真を得、海島構造を観察した。
また、その写真から島部の粒子100個を任意に選定し、各粒子の最大長(長軸径)と最小長(短軸径)を測定した。粒子100個について長軸径の相加平均値を島部の粒径とした。
【0076】
(14)破膜温度(耐破膜性)
図1に破膜温度の測定装置の概略図を示す。図1(A)はその全体図であり、図1(B)、図1(C)はその測定装置におけるサンプルを概略的に示す平面図である。まず、図1(B)に示すように、厚さ10μmのニッケル箔2A上に積層微多孔性フィルム1を積層し、積層微多孔性フィルム1の縦方向(MD方向)(図面のXの方向)端部の上からテフロン(登録商標)テープ(図中斜線で示す。以下同様。)を貼り付けて、積層微多孔性フィルム1をニッケル箔2A上に固定した。ここで、積層微多孔性フィルム1は、予め電解液として1mol/Lのホウフッ化リチウム溶液(溶媒:プロピレンカーボネート/エチレンカーボネート/γ−ブチルラクトン=1/1/2(質量比))が含浸されたものを用いた。一方、図1(C)に示すように、厚さ10μmのニッケル箔2B上にテフロン(登録商標)テープを貼り合わせてマスキングした。ただし、ニッケル箔2Bの中央部に15mm×10mmの窓(開口)の部分を残した。
次いで、図1(A)に示すように、上述のように加工したニッケル箔2Aとニッケル箔2Bとを積層微多孔性フィルム1を挟むようにして重ね合わせた。さらに、その両側からガラス板3A、3Bによって2枚のニッケル箔2A、2Bを挟み込んだ。このとき、ニッケル箔2Bの窓の部分と、積層微多孔性フィルム1とが相対するように位置合わせした。2枚のガラス板3A、3Bは市販のダブルクリップ(図示せず。)で挟んで固定した。そして、これらを、オーブン8内に収容した。
次に、電気抵抗測定装置(安藤電気製LCRメーター、商品名「AG−4311」)4をニッケル箔2A、2Bに接続した。また、温度計6と接続されている熱電対5をテフロン(登録商標)を用いてガラス板3Aに固定した。測定した電気抵抗及び温度を記録するデーターコレクター7を電気抵抗測定装置4及び温度計6に接続した。
このような装置を用いて、オーブンにより25℃から200℃まで2℃/分でガラス板3Aの温度を昇温しながら、連続的にニッケル箔2A、2B間の電気抵抗を測定した。なお、電気抵抗は1kHzの交流にて測定した。ニッケル箔2A、2B間の電気抵抗値が一旦103Ωに達し、その後、その電気抵抗値が再び103Ωを下回るときの温度を破膜(ショート)温度とした。破膜温度が180℃未満の場合を「×」、180℃以上から200℃未満の場合を「○」、200℃以上の場合を「◎」と評価した。
【0077】
(15)突刺強度(N)
(株)カトーテック社製のハンディー圧縮試験器KES−G5型に、直径1mm、先端の曲率半径0.5mmの針を装着し、温度23±2℃、針の移動速度0.2cm/secで突刺試験を行った。これを膜厚みの測定値を元に20μm厚みに換算し、突刺強度とした。
突刺強度(N)=測定突刺強度×20/膜厚(μm)
【0078】
ポリフェニレンエーテル樹脂(a−1):2,6−キシレノールを酸化重合して得た還元粘度0.54のPPEを用いた。
ポリプロピレン樹脂(b−1):融点が165℃、MFRが0.4g/10分、密度が910kg/m3であるPPを用いた。
混和剤(c−1):ポリスチレン(1)−水素添加されたポリブタジエン−ポリスチレン(2)の構造を有し、結合スチレン量43%、数平均分子量95,000、水素添加前のポリブタジエンの1,2−ビニル結合と3,4−ビニル結合との合計量80%、ポリスチレン(1)の数平均分子量30,000、ポリスチレン(2)の数平均分子量10,000、ポリブタジエン部水素添加率99.9%の、スチレン−ブタジエンブロック共重合体の水素添加物を用いた。
ポリエチレン樹脂組成物(Ac−1):融点が133℃、MFRが1.3g/10分、密度が960kg/m3であるポリエチレン樹脂組成物を用いた。
【0079】
[製造例1]
ポリプロピレン樹脂(b−1)を、口径20mm、L/D=30、260℃に設定した単軸押出機にフィーダーを介して投入し、押出機先端に設置したリップ厚3.0mmのTダイから押し出した。その後直ちに、溶融した樹脂に25℃の冷風を当て、95℃に冷却したキャストロールでドロー比250倍、巻き取り速度10m/分の条件で巻き取り、フィルム(B−1)を成形した。このフィルム(B−1)の熱処理(130℃に加熱された熱風循環オ−ブン中で1時間アニールする処理)後の弾性回復率は90%であった。
【0080】
[製造例2]
ポリプロピレン樹脂(b−1)と、ポリプロピレン樹脂(b−1)100質量部に対してポリフェニレンエーテル樹脂(a−1)11質量部と、混和剤(c−1)3質量部とを準備した。また、第一原料供給口及び第二原料供給口を有する二軸押出機を準備した。上記核原料口は、押出機のほぼ中央に位置していた。温度260〜320℃、スクリュー回転数300rpmに設定した上記二軸押出機に(a−1)成分、(b−1)成分、(c−1)成分を供給して溶融混練し、熱可塑性樹脂組成物をペレットとして得た。得られた熱可塑性樹脂組成物の融点は、165℃であった。
ポリプロピレン樹脂(b−1)に代えて上述のようにして得られた熱可塑性樹脂組成物のペレットを用いたこと以外は製造例1と同様にしてフィルム(A−1)を成形した。このフィルムにおけるPPEを含む相である島部の粒径は、0.1〜2.5μmであった(海島構造が観察された)。また、このフィルムの熱処理(130℃に加熱された熱風循環オ−ブン中で1時間アニールする処理)後の弾性回復率は88%であった。
【0081】
[製造例3]
ポリエチレン樹脂組成物(Ac−1)を、口径20mm、L/D=30、180℃に設定した単軸押出機にフィーダーを介して投入し、押出機先端に設置したリップ厚3.0mmのTダイから押し出した。その後直ちに、溶融した樹脂に25℃の冷風を当て、95℃に冷却したキャストロールでドロー比300倍、巻き取り速度10m/分の条件で巻き取り、フィルム(C−1)を成形した。このフィルム(C−1)の熱処理(130℃に加熱された熱風循環オ−ブン中で1時間アニールする処理)後の弾性回復率は70%であった。
【0082】
[実施例1]
フィルム(C−1)の両側をフィルム(A−1)で挟み込み、外層がフィルム(A−1)、内層がフィルム(C−1)の構造を有する3層積層フィルムを次のようにして製造した。まず、フィルム(A−1)とフィルム(C−1)とをそれぞれ巻き出し速度4.0m/分で巻き出し、加熱ロールに導き、そこで熱圧着温度132℃、線圧1.3kg/cmで熱圧着し、その後、同速度で25℃の冷却ロールに導いて巻き取って積層フィルムを得た。この積層フィルムに対して130℃に加熱された熱風循環オーブン中で1時間アニールを施した。
次に、アニール後の積層フィルムを25℃の温度で縦方向に1.3倍で一軸延伸して、延伸積層フィルムを得た(冷延伸工程)。次いで、延伸積層フィルムを125℃の温度で縦方向に3.0倍で一軸延伸して積層微多孔性フィルムを得た(熱延伸工程)。その後、125℃の温度で0.8倍に緩和させて熱固定を施し、積層微多孔性フィルムを得た。得られた積層微多孔性フィルムについて各種物性を評価した。その結果を表1に示す。
【0083】
[実施例2〜6、比較例1,2]
表1に記載の条件とした以外は実施例1と同様にして積層微多孔性フィルムを得た。得られた積層微多孔性フィルムについて各種物性を評価した。その結果を表1に示す。
【0084】
【表1】

【0085】
本実施形態の積層微多孔性フィルム(実施例1〜6)は、いずれも、優れた強度と良好な気孔率を示した。なお、実施例1〜5においては、外層に海島構造が観察された(島部の粒径は、0.1〜2.5μmであった)。
これに対し、熱圧着時の線圧が1kg/cm未満で積層微多孔性フィルムを製造した比較例1は良好な気孔率を得てはいるが弱い強度を示した。また、熱圧着時の線圧が7kg/cmを超える比較例2は、優れた強度を有しているものの気孔率が低下する傾向を示した。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本実施形態の製造方法により製造される積層微多孔性フィルムは、電池用セパレータ、特にリチウムイオン二次電池用セパレータとしての産業上利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0087】
1 積層微多孔性フィルム
2A ニッケル箔
2B ニッケル箔
3A ガラス板
3B ガラス板
4 電気抵抗測定装置
5 熱電対
6 温度計
7 データーコレクター
8 オーブン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の樹脂組成物から形成される第1の微多孔性フィルムと、第2の樹脂組成物から形成される第2の微多孔性フィルムとが積層された、積層微多孔性フィルムの製造方法であって、以下の(1)〜(4)の各工程、
(1)第1の樹脂組成物から第1の無孔フィルムを形成する工程、
(2)前記第1の樹脂組成物の融点TmA(℃)よりも低い融点TmB(℃)を有する第2の樹脂組成物から第2の無孔フィルムを形成する工程、
(3)前記第1の無孔フィルムと前記第2の無孔フィルムとをロール圧着して無孔積層フィルムを形成する工程、
(4)前記無孔積層フィルムを開孔して積層微多孔性フィルムを形成する工程、
をこの順で含み、前記ロール圧着時の線圧が1.0〜7.0kg/cmであることを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記ロール圧着時の温度が(TmB−8)℃を超え、(TmB+3)℃未満である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記積層微多孔性フィルムが表層と中間層とからなる3層構成を有すると共に、当該表層が前記第1の微多孔性フィルムにて形成され、当該中間層が前記第2の微多孔性フィルムにて形成される、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記第1の樹脂組成物が、ポリプロピレン100質量部と、ポリフェニレンエーテル5〜90質量部とを含有する熱可塑性樹脂組成物であり、
前記第1の微多孔性フィルムが、前記ポリプロピレンを含む相の海部と、前記ポリフェニレンエーテルを含む相の島部とからなる海島構造を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記島部の粒径が0.01μm〜10μmである、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記第2の樹脂組成物がエチレン系樹脂組成物である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法により製造された積層微多孔性フィルムからなる電池用セパレータ。

【図1】
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【公開番号】特開2012−161936(P2012−161936A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21883(P2011−21883)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】