説明

窒化物単結晶の製造方法、窒化物単結晶、およびデバイス

【課題】結晶性が良好な窒化物単結晶を速い速度で成長させる方法を提供する。
【解決手段】シード、窒素元素を含有する溶媒、周期表13族金属元素を含む原料物質、および前記溶媒の1.5〜15mol%の量の鉱化剤を入れたオートクレーブ内の温度および圧力を、前記溶媒が超臨界状態および/または亜臨界状態となるように制御して前記シードの表面にアモノサーマル法により窒化物単結晶を成長させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超臨界状態および/または亜臨界状態の溶媒を、原料物質および鉱化剤とともに用いてシード上に窒化物単結晶を成長させる窒化物単結晶の製造方法に関する。また、該製造方法により製造した窒化物単結晶、および該窒化物単結晶を用いたデバイスにも関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)に代表される窒化物半導体は、発光ダイオードおよびレーザーダイオード等の電子素子に適用される物質として有用である。電子素子の製造方法は、現在サファイアまたは炭化ケイ素等のような基板上にMOCVD(Metal-Organic Chemical Vapor Deposition)法などの気相エピタキシャル成長により作成されている。
しかし、この方法ではGaNの格子定数と熱膨張係数が異なる基板上にGaN結晶をヘテロエピタキシャル成長させるため、得られるGaN結晶に転位や格子欠陥が発生しやすく、青色レーザー等で応用可能な品質を得ることが困難であるという問題があり、近年、上記基板に代わる、ホモエピタキシャル基板用の高品質な窒化ガリウム塊状単結晶が期待されている。
【0003】
窒化ガリウム塊状単結晶の合成法には、アンモニアに代表される窒素含有溶媒に原料や鉱化剤を溶解させ、温度と圧力を調整して超臨界状態を形成し、系内に温度差を設けることにより溶媒への溶質溶解度の温度依存性を利用して結晶成長を行うアモノサーマル法がある。
しかしアモノサーマル法で窒素含有溶媒のみを用いる手法では窒化物原料の溶解度が十分でなく、窒化物単結晶の成長速度は非常に小さい。このため窒化物原料の溶解度を高めるために溶媒に鉱化剤を添加することが重要である。アモノサーマル法の鉱化剤としては、窒化物含有溶媒に溶解させた際に生成する溶液のpHが元の溶媒より高くなる塩基性鉱化剤と、窒化物含有溶媒に溶解させた際に生成する溶液のpHが元の溶媒より低くなる酸性鉱化剤がある。塩基性鉱化剤を用いた場合と酸性鉱化剤を用いた場合の溶媒の性質の違いは、水溶媒の塩基性溶液と酸性溶液を用いた場合の違いに相当し、両者は溶媒として化学反応に与える影響に大きな違いが見られる。例えばアモノサーマル法で塩基性鉱化剤を用いた場合に好適な反応圧力は比較的高い(150〜300MPa)のに対して、酸性鉱化剤を用いる場合に好適な反応圧力は比較的低い(100〜200MPa)。このため、酸性鉱化剤を用いる方が工業的に実施しやすい。また酸性鉱化剤を用いるアモノサーマル法では、オートクレーブ内壁に白金に代表される貴金属を用いると内壁成分の溶出が抑制される。このため、酸性鉱化剤を用いるアモノサーマル法によれば、得られる窒化物結晶に含まれる不純物の混入を抑えることができるという利点がある。このため、酸性鉱化剤を用いるアモノサーマル法に関する研究が種々行われており、特許文献1では、反応中に系内に発生する結晶核を成長させる手法(自発核発生法)で具体的な検討がなされている。
【特許文献1】特開2005−289787号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1において具体的に検討されているような自発核発生法では、大きな結晶を製造することができないうえ、結晶方位の制御もできない。また、アモノサーマル法、特に酸性鉱化剤を用いるアモノサーマル法の結晶成長速度は、工業的に窒化物単結晶を合成する手法とするには大きく不足している。このため、産業上利用可能な手法とするためには、大きな結晶を結晶方位を制御しながら速い速度で製造することが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明では、自発核発生法のかわりに、系内にあらかじめシード(種結晶)存在させておいてその表面に結晶を成長させる手法(シード法)を用いて、結晶成長速度の向上を図り、大きな結晶を方位を制御しながら製造することを考えた。しかしながら、単に特許文献1に記載される条件を原理が大きく異なるシード法にそのまま適用しても、結晶成長速度を十分に向上させ、方位を制御した結晶を大きく成長させることはできなかった。このため、本発明者らは、特許文献に示唆されていない条件変更を種々行って、試行錯誤を繰り返した結果、特定の条件を満たす場合に限って結晶性が良好な窒化物単結晶が十分な速度で大きく成長することを見出した。本発明は、このような知見に基づいて提供されたものであり、具体的には以下の技術的構成を含むものである。
【0006】
[1] シード、窒素元素を含有する溶媒、周期表13族金属元素を含む原料物質、および前記溶媒の1.5〜15mol%の量の鉱化剤を入れたオートクレーブ内の温度および圧力を、前記溶媒が超臨界状態および/または亜臨界状態となるように制御して前記シードの表面にアモノサーマル法により窒化物単結晶を成長させる工程を含むことを特徴とする窒化物単結晶の製造方法。
[2] 前記窒化物単結晶が六方晶であることを特徴とする[1]に記載の窒化物単結晶の製造方法。
[3] 前記窒化物単結晶を成長させるときの温度が300〜600℃であることを特徴とする[1]または[2]に記載の窒化物単結晶の製造方法。
[4] 前記窒化物単結晶を成長させるときの圧力が80〜200MPaであることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか1項に記載の窒化物単結晶の製造方法。
[5] 前記溶媒がアンモニアまたはその誘導体であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれか1項に記載の窒化物単結晶の製造方法。
[6] 前記原料物質が窒化ガリウム多結晶および/またはガリウムを含むことを特徴とする[1]〜[5]のいずれか一項に記載の窒化物単結晶の製造方法。
[7] 前記鉱化剤が酸性鉱化剤であることを特徴とする[1]〜[6]のいずれか一項に記載の窒化物単結晶の製造方法。
[8] 前記酸性鉱化剤がアンモニウム塩を含むことを特徴とする[7]に記載の窒化物単結晶の製造方法。
[9] 前記オートクレーブの内壁の少なくとも一部が貴金属からなることを特徴とする[1]〜[8]のいずれか一項に記載の窒化物単結晶の製造方法。
[10] シード、窒素元素を含有する溶媒、周期表13族金属元素を含む原料物質、および鉱化剤を入れたオートクレーブ内の温度および圧力を、前記溶媒が超臨界状態および/または亜臨界状態となるように制御して前記シードの表面にアモノサーマル法により窒化物単結晶を50μm以上成長させる工程を含み、前記鉱化剤の前記溶媒に対する使用量比を前記窒化物単結晶の平均結晶成長速度が15μm/day以上となる範囲内で選択することを特徴とする窒化物単結晶の製造方法。
[11] [1]〜[10]のいずれか一項に記載の製造方法により製造した窒化物単結晶。
[12] [11]に記載の窒化物単結晶を用いたデバイス。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法によれば、結晶性が良好な窒化物単結晶を速い速度で大きく成長させることができる。このため、比較的厚い結晶を短時間に製造することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下において、本発明の窒化物単結晶の製造方法等について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0009】
(本発明の特徴)
本発明の製造方法は、シード、窒素元素を含有する溶媒、周期表13族金属元素を含む原料物質、および鉱化剤を入れたオートクレーブ内の温度および圧力を、前記溶媒が超臨界状態および/または亜臨界状態となるように制御して前記シードの表面にアモノサーマル法により窒化物単結晶を成長させる工程を含むものである。この工程において、本発明では、鉱化剤を溶媒の1.5〜15mol%の量で使用するか、あるいは、窒化物単結晶の平均結晶成長速度が15μm/day以上となる量で鉱化剤を使用することを特徴とする。
【0010】
鉱化剤が溶媒の1.5mol%未満の量であると、窒化物単結晶の成長速度が遅いか、窒化物単結晶が成長しないという事態に至ることが多い。また、鉱化剤が溶媒の15mol%超であると、核発生を十分に抑えることができなくなりシード表面に単結晶を成長させにくくなることが多い。このため、本発明では鉱化剤を溶媒の1.5〜15mol%の量で使用する。鉱化剤は溶媒の3〜12mol%の量で使用することが好ましく、4〜10mol%の量で使用することがより好ましい。なお、ここでいう鉱化剤の使用量や溶媒の使用量は、オートクレーブの蓋をする時点における鉱化剤や溶媒の量を意味する。
【0011】
また、本発明の別の側面では、さらに窒化物単結晶の平均結晶成長速度が15μm/day以上となる量で鉱化剤を使用することが好ましい。窒化物単結晶の平均結晶成長速度は20μm/day以上であることがより好ましく、23μm/day以上であることがさらに好ましい。ここでいう平均結晶成長速度は、オートクレーブ内のシードの表面にアモノサーマル法により窒化物単結晶が成長しうる状態におかれている期間(成長期間)中の結晶成長速度の平均値を意味するものであり、通常は成長した窒化物単結晶の厚みを成長期間経過後に測定して成長期間の長さ(日数)で除することにより求められる。ただし、結晶成長速度15μm/day以上で結晶成長をさせた後に結晶成長速度が著しく低下しているにもかかわらず成長期間を延長して平均結晶成長速度を低下させる態様は、本発明を利用しているものとみなす。
窒化物単結晶の平均結晶成長速度は、オートクレーブ内に入れる原料や溶媒の種類や量等によって変わるが、上記の溶媒に対する鉱化剤の好ましい使用量の範囲を満たす場合に、窒化物単結晶の平均結晶成長速度が上記の範囲となることが多い。
【0012】
本発明において製造対象となる窒化物結晶は、使用する原料に依存するが、主としてB、Al、Ga、In等の第13族元素の単独金属の窒化物(例えば、GaN、AlN)の結晶または合金の窒化物(例えば、GaInN、GaAlN)の結晶であることが好ましく、窒化ガリウム結晶であることがさらに好ましい。
【0013】
(使用材料)
本発明では、溶媒として窒素元素を含有する溶媒を用いる。窒素元素を含有する溶媒としては、成長させる窒化物単結晶の安定性を損なうことのない溶媒を挙げることができ、具体的には、アンモニア、ヒドラジン、尿素、アミン類(例えば、メチルアミンのような第1級アミン、ジメチルアミンのような第二級アミン、トリメチルアミンのような第三級アミン、エチレンジアミンのようなジアミン)、メラミン等を挙げることができる。これらの溶媒は単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。
【0014】
本発明で用いる溶媒に含まれる水や酸素の量はできるだけ少ないことが望ましく、これらの含有量は1000ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがより好ましく、0.1ppm以下であることがさらに好ましい。アンモニアを溶媒として用いる場合、その純度は通常99.9%以上であり、好ましくは99.99%以上であり、さらに好ましくは99.999%以上であり、特に好ましくは99.9999%以上である。
【0015】
本発明の製造方法に用いる鉱化剤は、溶媒に対する原料の溶解度を高める化合物であり、通常は、ハロゲン元素、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属を含む化合物である。中でも、成長させる結晶が酸素元素を含まないようにするために、アンモニウムイオンやアミドなどの形で窒素元素を含む化合物を使用することが好ましい。本発明では、鉱化剤は1種類のみを選択して使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0016】
本発明で成長させる窒化物単結晶に不純物が混入するのを防ぐために、必要に応じて鉱化剤は精製、乾燥してから使用する。本発明で用いる鉱化剤の純度は、通常は95%以上、好ましくは99%以上、さらに好ましくは99.99%以上である。鉱化剤に含まれる水や酸素の量はできるだけ少ないことが望ましく、これらの含有量は1000ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがより好ましく、1.0ppm以下であることがさらに好ましい。
【0017】
本発明では、酸性鉱化剤と塩基性鉱化剤のいずれも用いることができる。
塩基性鉱化剤としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属と窒素元素とを含む化合物が挙げられ、具体的にはアルカリ土類金属アミド、希土類アミド、窒化アルカリ金属、窒化アルカリ土類金属、アジド化合物、その他ヒドラジン類の塩が挙げられる。好ましくはアルカリ金属アミドであり、その具体例としてナトリウムアミド、カリウムアミド、リチウムアミドが挙げられる。
酸性鉱化剤としては、ハロゲン元素を含む化合物で、ハロゲン化アンモニウム等が挙げられる。具体的には、塩化アンモニウム、ヨウ化アンモニウム、臭化アンモニウムが挙げられ、中でも塩化アンモニウムが好ましい。
本発明では、特に酸性鉱化剤を用いることが好ましい。酸性鉱化剤は超臨界状態のアンモニア溶媒への溶解性が高く、好適な反応圧力が低く、かつオートクレーブの内壁を構成するようなPt等の貴金属に対する反応性が小さいという有利な特性を有する。
【0018】
鉱化剤と周期表13族金属元素を含む原料物質との使用割合は、鉱化剤/周期表13族金属元素(モル比)が通常0.0001〜100となる範囲内であり、GaNであれば鉱化剤/Ga(モル比)が通常0.001〜20となる範囲内が好ましい。使用割合は、原料や鉱化剤などの種類や目的とする結晶の大きさなどを考慮して適宜決定することができる。
【0019】
本発明では、周期表13族金属を含む原料を用いる。好ましくは13族窒化物結晶の多結晶原料および/またはガリウムであり、より好ましくは窒化ガリウムおよび/またはガリウムである。多結晶原料は、完全な窒化物である必要はなく、条件によっては13族元素がメタルの状態(ゼロ価)である金属成分を含有してもよく、例えば、結晶が窒化ガリウムである場合には、窒化ガリウムと金属ガリウムの混合物が挙げられる。
【0020】
本発明において原料として用いる多結晶原料の製造方法は、特に制限されない。例えば、アンモニアガスを流通させた反応容器内で、金属またはその酸化物もしくは水酸化物をアンモニアと反応させることにより生成した窒化物多結晶を用いることができる。また、より反応性の高い金属化合物原料として、ハロゲン化物、アミド化合物、イミド化合物、ガラザンなどの共有結合性M−N結合を有する化合物などを用いることができる。さらに、Gaなどの金属を高温高圧で窒素と反応させて作製した窒化物多結晶を用いることもできる。
【0021】
本発明において原料として用いる多結晶原料に含まれる水や酸素の量は、少ないことが好ましい。多結晶原料中の酸素含有量は、通常1.0質量%以下、好ましくは0.1質量%以下、特に好ましくは0.0001質量%以下である。多結晶原料への酸素の混入のしやすさは、水分との反応性または吸収能と関係がある。多結晶原料の結晶性が悪いほど表面にNH基などの活性基が多く存在し、それが水と反応して一部酸化物や水酸化物が生成する可能性がある。このため、多結晶原料としては、通常、できるだけ結晶性が高い物を使用することが好ましい。結晶性は粉末X線回折の半値幅で見積もることができ、(100)の回折線(ヘキサゴナル型窒化ガリウムでは2θ=約32.5°)の半値幅が、通常0.25°以下、好ましくは0.20°以下、さらに好ましくは0.17°以下である。
【0022】
本発明では、シードを用いる。シードとしては、本発明の製造方法により成長させる窒化物の単結晶を用いることが望ましいが、必ずしも同一の窒化物でなくてもよい。ただし、その場合には、目的の窒化物と一致し、もしくは適合した格子定数、結晶格子のサイズパラメータを有するシードであるか、またはヘテロエピタキシー(すなわち若干の原子の結晶学的位置の一致)を保証するよう配位した単結晶材料片もしくは多結晶材料片から構成されているシードを用いる必要がある。シードの具体例としては、例えば窒化ガリウム(GaN)を成長させる場合、GaNの単結晶の他、窒化アルミニウム(AlN)等の窒化物単結晶、酸化亜鉛(ZnO)の単結晶、炭化ケイ素(SiC)の単結晶等が挙げられる。
【0023】
シードは、溶媒への溶解度および鉱化剤との反応性を考慮して決定することができる。例えば、GaNのシードとしては、MOCVD法やHVPE法でサファイア等の異種基板上にエピタキシャル成長させた後に剥離させて得た単結晶、金属GaからNaやLi、Biをフラックスとして結晶成長させて得た単結晶、LPE法を用いて得たホモ/ヘテロエピタキシャル成長させた単結晶、本発明法を含む溶液成長法に基づき作製された単結晶およびそれらを切断した結晶などを用いることができる。
【0024】
(オートクレーブ)
本発明の製造方法は、オートクレーブ中で実施する。
本発明に用いるオートクレーブは、窒化物単結晶を成長させるときの高温高圧条件に耐え得るもの中から選択する。本発明に用いるオートクレーブは、耐圧性と耐浸食性を有する材料で構成されているものが好ましく、特にアンモニア等の溶媒に対する耐浸食性に優れたNi系の合金、ステライト(デロロ・ステライト・カンパニー・インコーポレーテッドの登録商標)等のCo系合金を用いることが好ましい。より好ましくはNi系の合金であり、具体的には、Inconel625(Inconelはハンティントン アロイズ カナダ リミテッドの登録商標、以下同じ)、Nimonic90(Nimonicはスペシャル メタルズ ウィギン リミテッドの登録商標、以下同じ)、RENE41が挙げられる。
【0025】
これらの合金の組成比率は、系内の溶媒の温度や圧力条件、および系内に含まれる鉱化剤およびそれらの反応物との反応性および/または酸化力・還元力、pHの条件に従い、適宜選択すればよい。これらをオートクレーブの内面を構成する材料として用いるには、オートクレーブ自体をこれらの合金を用いて製造してもよく、内筒として薄膜を形成してオートクレーブ内に設置してもよく、任意のオートクレーブの材料の内面にメッキ処理を施してもよい。
【0026】
オートクレーブの耐浸食性をより向上させるために、貴金属の優れた耐浸食性を利用して、貴金属をオートクレーブの内表面をライニングまたはコーティングしてもよい。また、オートクレーブの材質を貴金属とすることもできる。ここでいう貴金属としては、Pt、Au、Ir、Ru、Rh、Pd、Ag、およびこれらの貴金属を主成分とする合金が挙げられ、中でも優れた耐浸食性を有するPtを用いることが好ましい。
【0027】
本発明の製造方法に用いることができるオートクレーブを含む結晶製造装置の具体例を図1に示す。図中、1はバルブ、2は圧力計、3はオートクレーブ、4は結晶成長領域、5は原料充填領域、6はバッフル板、7は電気炉、8は熱電対、9は原料、10はシード、11は導管を示す。
【0028】
バッフル板6は、結晶成長領域4と原料充填領域5を区画するものであり、開孔率が2〜20%であるものが好ましく、3〜10%であるものがより好ましい。バッフル板の表面の材質は、前記の反応容器の材料と同一であることが好ましい。また、より耐浸食性を持たせ、成長させる結晶を高純度化するために、バッフル板の表面は、Ni、Ta、Ti、Nb、Pd、Pt、Au、Ir、pBNであることが好ましく、Pd、Pt、Au、Ir、pBNであることがより好ましく、Ptであることが特に好ましい。
【0029】
バルブ1、圧力計2、導管11についても、少なくとも表面が耐浸食性の材質で構成されるものを用いることが好ましい。例えば、SUS316(JIS規格)であり、Inconel625を使用することがより好ましい。なお、本発明の製造方法を実施する際に用いる結晶製造装置には、バルブ、圧力計、導管は必ずしも設置されていなくても構わない。
【0030】
(製造工程)
本発明の製造方法を実施する際には、まず、オートクレーブ内に、シード、窒素元素を含有する溶媒、周期表13族金属元素を含む原料物質、および鉱化剤を入れて封止する。このとき、鉱化剤の使用量は、溶媒の1.5〜15mol%とするか、あるいは、後の窒化物単結晶の平均結晶成長速度が15μm/day以上となる量とする。これらの材料をオートクレーブ内に導入するのに先だって、オートクレーブ内は脱気しておいてもよい。また、材料の導入時には、窒素ガスなどの不活性ガスを流通させてもよい。
【0031】
オートクレーブ内へのシードの装填は、通常は、周期表13族金属元素を含む原料物質および鉱化剤を充填する際に同時または充填後に装填する。シードは、オートクレーブ内表面を構成する貴金属と同様の貴金属製の治具に固定することが好ましい。装填後には、必要に応じて加熱脱気をしてもよい。
【0032】
超臨界状態では一般的には、粘度が低く、液体よりも容易に拡散されるが、液体と同様の溶媒和力を有する。亜臨界状態とは、臨界温度近傍で臨界密度とほぼ等しい密度を有する液体の状態を意味する。例えば、原料充填領域では、超臨界状態として原料を溶解し、結晶成長領域では亜臨界状態となるように温度を変化させて超臨界状態と亜臨界状態の原料の溶解度差を利用した結晶成長も可能である。
【0033】
超臨界状態にする場合、反応混合物は、一般に溶媒の臨界点よりも高い温度に保持する。アンモニア溶媒を用いた場合、臨界点は臨界温度132℃、臨界圧力11.35MPaであるが、オートクレーブの容積に対する充填率が高ければ、臨界温度以下の温度でも圧力は臨界圧力を遥かに越える。本発明において「超臨界状態」とは、このような臨界圧力を越えた状態を含む。反応混合物は、一定の容積のオートクレーブ内に封入されているので、温度上昇は流体の圧力を増大させる。一般に、T>Tc(1つの溶媒の臨界温度)およびP>Pc(1つの溶媒の臨界圧力)であれば、流体は超臨界状態にある。
【0034】
超臨界条件では、窒化物単結晶の十分な成長速度が得られる。反応時間は、特に鉱化剤の反応性および熱力学的パラメータ、すなわち温度および圧力の数値に依存する。窒化物単結晶の合成中あるいは成長中、オートクレーブ内は10MPa〜500MPa程度の圧力で保持することが好ましい。圧力は、温度およびオートクレーブの容積に対する溶媒体積の充填率によって適宜決定される。本来、オートクレーブ内の圧力は、温度と充填率によって一義的に決まるものではあるが、実際には、原料、鉱化剤などの添加物、オートクレーブ内の温度の不均一性、および死容積の存在によって多少異なる。
【0035】
オートクレーブ内の温度範囲は、下限値が通常150℃以上、好ましくは200℃以上、特に好ましくは300℃以上であり、上限値が通常800℃以下、好ましくは700℃以下、特に好ましくは600℃以下である。好ましい温度範囲は150〜800℃、より好ましくは200〜700℃、さらに好ましくは300〜600℃である。また、オートクレーブ内の圧力範囲は、下限値が通常20MPa以上、好ましくは30MPa以上、さらに好ましくは50MPa以上、特に好ましくは80MPa以上であり、上限値が通常500MPa以下、好ましくは400MPa以下、さらに好ましくは300MPa以下、特に好ましくは200MPa以下である。好ましい圧力範囲は、20〜500MPa、より好ましくは50〜300MPa、さらに好ましくは80〜200MPaである。
【0036】
上記のオートクレーブの温度範囲、圧力範囲を達成するためのオートクレーブへの溶媒の注入割合、すなわち充填率は、オートクレーブのフリー容積、すなわち、オートクレーブに多結晶原料、および種結晶を用いる場合には、種結晶とそれを設置する構造物の体積をオートクレーブの容積から差し引いて残存する容積、またバッフル板を設置する場合には、さらにそのバッフル板の体積をオートクレーブの容積から差し引いて残存する容積の溶媒の沸点における液体密度を基準として、通常20〜95%、好ましくは40〜90%、さらに好ましくは50〜85%とする。
【0037】
オートクレーブ内での窒化物単結晶の成長は、熱電対を有する電気炉などを用いてオートクレーブを加熱昇温することにより、オートクレーブ内をアンモニア等の溶媒の亜臨界状態または超臨界状態に保持することにより行われる。加熱の方法、所定の反応温度への昇温速度に付いては特に限定されないが、通常、数時間から数日かけて行われる。必要に応じて、多段の昇温を行ったり、温度域において昇温スピードを変えたりすることもできる。また、部分的に冷却しながら加熱したりすることもできる。
【0038】
なお、上記の「反応温度」は、オートクレーブの外面に接するように設けられた熱電対によって測定されるものであり、オートクレーブの内部温度と近似することができる。
【0039】
所定の温度に達した後の反応時間については、窒化物単結晶の種類、用いる原料、鉱化剤の種類、製造する結晶の大きさや量によっても異なるが、通常、数時間から数百日とすることができる。反応中、反応温度は一定にしてもよいし、徐々に昇温または降温させることもできる。所望の結晶を生成させるための反応時間を経た後、降温させる。降温方法は特に限定されないが、ヒーターの加熱を停止してそのまま炉内にオートクレーブを設置したまま放冷してもかまわないし、オートクレーブを電気炉から取り外して空冷してもかまわない。必要であれば、冷媒を用いて急冷することも好適に用いられる。
【0040】
オートクレーブ外面の温度、あるいは推定されるオートクレーブ内部の温度が所定温度以下になった後、オートクレーブを開栓する。このときの所定温度は特に限定はなく、通常、−80℃〜200℃、好ましくは−33℃〜100℃である。ここで、オートクレーブに付属したバルブの配管接続口に配管を接続し、水などを満たした容器に通じておき、バルブを開けてもよい。
さらに必要に応じて、真空状態にするなどしてオートクレーブ内のアンモニア溶媒を十分に除去した後、乾燥し、オートクレーブの蓋等を開けて生成した窒化物結晶および未反応の原料や鉱化剤等の添加物を取り出すことができる。
【0041】
このようにして、本発明の製造方法により窒化物単結晶を製造することができる。所望の結晶構造を有する窒化物単結晶を製造するためには、製造条件を適宜調整することが必要である。
【0042】
本発明の製造方法により製造した窒化物単結晶は、そのまま使用してもよいし、加工してから使用してもよい。本発明の製造方法によれば膜厚が厚い窒化物単結晶を比較的短時間に製造することができる。例えば膜厚が50μm以上の窒化物単結晶も製造可能である。また、本発明の製造方法により製造した窒化物単結晶は、結晶性が良好であるために、発光ダイオードやレーザーダイオードを始めとする様々な電子素子等のデバイスの製造に広く利用されうる。
【実施例】
【0043】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。なお、以下の実施例および比較例では、図1に示す結晶製造装置を用いて結晶成長を試みた。
【0044】
(実施例1)
白金を内張りした内寸が直径16mm、長さ160mmのオートクレーブ3(Inconel 625製:容積約30ml)内に、原料9としてHVPE法で製造したGaN多結晶を4.92gおよびGaを3.07g入れ、次いでその上から鉱化剤として十分に乾燥した純度99.99%のNH4Clを2.50g充填した。
【0045】
次いで、底から80mm上方にバッフル板6を設置し、その上の結晶成長領域4に5mm角の厚み200μmのGaNシード10を設置した後、素早くバルブ1が装着されたオートクレーブ3の蓋を閉じ、オートクレーブ3の計量を行った。次いで、オートクレーブ3に付属したバルブ1を介して導管11を真空ポンプ部に通じるように操作し、バルブ1を開けてオートクレーブ3内を真空脱気した。その後、真空状態を維持しながら、オートクレーブ3をドライアイス/メタノールによって冷却し、一旦バルブ1を閉じた。次いで、導管11をバルブ1を介してNH3ボンベに通じるように操作した後、再びバルブ1を開け、外気に触れることなくNH3を連続してオートクレーブ3内に充填した。流量を制御して、NH3をオートクレーブ3の空洞部の70%に相当する液体として充填(−33℃のNH3濃度で換算)した後、再びバルブ1を閉じた。オートクレーブ3の温度を室温に戻し、外表面を十分に乾燥させて充填したNH3の増加分の計量を行った。オートクレーブ3内のNH3に対するNH4Clの比は5.9mol%であった。
【0046】
続いて、オートクレーブ3を上下に2分割されたヒーターで構成された電気炉7内に収納した。オートクレーブ3の下部外面の温度が550℃に、上部外面の温度が500℃になるように温度差をつけながら6時間かけて昇温し、オートクレーブ3の下部外面の温度が550℃に、上部外面の温度が500℃に達した後、その温度でさらに96時間保持した。オートクレーブ3内の圧力は170MPaであった。また、保持中の温度幅は±5℃以下に制御した。その後、オートクレーブ3の下部外面の温度が50℃になるまで約9時間かけて降温した後、ヒーターによる加熱を止め、電気炉7内で自然放冷した。オートクレーブ3の下部外面の温度がほぼ室温まで降下したことを確認した後、まずオートクレーブ3に付属したバルブ1を開放し、オートクレーブ3内のNH3を取り除いた。その後、オートクレーブ3を計量し、NH3の排出を確認した。その後、一旦バルブ1を閉じ、真空ポンプに通ずるように導管を操作し、バルブ1を再び開放し、オートクレーブ3のNH3をほぼ完全に除去した。
【0047】
その後、オートクレーブ3の蓋を開け、内部を確認したところ、シード10表面に厚さ110μmのGaN結晶が成長しており、結晶成長速度は27.5μm/dayであった。シード表面に成長したGaN結晶を取り出してSEM(走査型電子顕微鏡)により結晶面状態を観察したところ、針状結晶や粒塊などは見られなかった。さらにX線回折測定した結果、結晶型はヘキサゴナル型であり、シードと同じ方位でC軸配向しており、結晶性が極めて良好であることが確認された。
【0048】
(実施例2、実施例3および比較例1〜3)
実施例1の製造条件と原料および溶媒の使用量を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にしてGaN結晶の成長を試みた。その結果、実施例2、実施例3および比較例3については、シード表面にGaN結晶が成長したが、比較例1および比較例2についてはシード表面にGaN結晶が成長しなかった。
シード表面に成長したGaN結晶を取り出してSEM観察を行ったところ、実施例2および実施例3については針状結晶や粒塊などが見られなかったが、比較例3についてはシード表面に自発核発生による微結晶が多数析出しており、単結晶ではなかった。さらに、実施例2および実施例3で得られた結晶についてX線回折測定を行った結果、結晶型はヘキサゴナル型であり、シードと同じ方位でC軸配向しており、結晶性が極めて良好であることが確認された。
【0049】
実施例1および実施例3は、実施例2に比べて結晶成長速度がより速かった。これは鉱化剤濃度がより好適な範囲にあるためであると考えられる。
【0050】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の製造方法によれば、結晶性が良好な窒化物単結晶を速い速度で成長させることができる。比較的厚い結晶を短時間に製造することが可能であることから、本発明は、発光ダイオードやレーザーダイオードを始めとする様々な電子素子の製造に広範囲に利用されることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】実施例および比較例で用いた結晶製造装置の概略断面図である。
【符号の説明】
【0053】
1 バルブ
2 圧力計
3 オートクレーブ
4 結晶成長領域
5 原料充填領域
6 バッフル板
7 電気炉
8 熱電対
9 原料
10 シード
11 導管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シード、窒素元素を含有する溶媒、周期表13族金属元素を含む原料物質、および前記溶媒の1.5〜15mol%の量の鉱化剤を入れたオートクレーブ内の温度および圧力を、前記溶媒が超臨界状態および/または亜臨界状態となるように制御して前記シードの表面にアモノサーマル法により窒化物単結晶を成長させる工程を含むことを特徴とする窒化物単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記窒化物単結晶が六方晶であることを特徴とする請求項1に記載の窒化物単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記窒化物単結晶を成長させるときの温度が300〜600℃であることを特徴とする請求項1または2に記載の窒化物単結晶の製造方法。
【請求項4】
前記窒化物単結晶を成長させるときの圧力が80〜200MPaであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の窒化物単結晶の製造方法。
【請求項5】
前記溶媒がアンモニアまたはその誘導体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の窒化物単結晶の製造方法。
【請求項6】
前記原料物質が窒化ガリウム多結晶および/またはガリウムを含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の窒化物単結晶の製造方法。
【請求項7】
前記鉱化剤が酸性鉱化剤であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の窒化物単結晶の製造方法。
【請求項8】
前記酸性鉱化剤がアンモニウム塩を含むことを特徴とする請求項7に記載の窒化物単結晶の製造方法。
【請求項9】
前記オートクレーブの内壁の少なくとも一部が貴金属からなることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の窒化物単結晶の製造方法。
【請求項10】
シード、窒素元素を含有する溶媒、周期表13族金属元素を含む原料物質、および鉱化剤を入れたオートクレーブ内の温度および圧力を、前記溶媒が超臨界状態および/または亜臨界状態となるように制御して前記シードの表面にアモノサーマル法により窒化物単結晶を50μm以上成長させる工程を含み、前記鉱化剤の前記溶媒に対する使用量比を前記窒化物単結晶の平均結晶成長速度が15μm/day以上となる範囲内で選択することを特徴とする窒化物単結晶の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の製造方法により製造した窒化物単結晶。
【請求項12】
請求項11に記載の窒化物単結晶を用いたデバイス。

【図1】
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【公開番号】特開2012−184162(P2012−184162A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−103487(P2012−103487)
【出願日】平成24年4月27日(2012.4.27)
【分割の表示】特願2006−122108(P2006−122108)の分割
【原出願日】平成18年4月26日(2006.4.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年3月22日 社団法人応用物理学会発行の「2006年(平成18年)春季 第53回応用物理学関係連合講演会予稿集 第1分冊」に発表
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】