説明

立体的回路基板とその製造方法、およびその製造に用いるスキージ

【課題】円筒状の筐体の表面にフィルム回路基板が貼着された立体的回路基板において、フィルム回路基板の端部間に隙間がある場合でも、表面が絶縁性樹脂で均一に被覆されており、全周にわたって表面に凹凸のない立体的回路基板を提供する。
【解決手段】立体的回路基板(1)の表面全体に絶縁性樹脂を付着させ、円形に形成されたスキージ(21,22,23)に内嵌させ、立体的回路基板(1)と円形スキージ(21,22,23)を基板の軸方向に相対移動させて、フィルム回路基板(6)の表面および隙間(7)の上に、所定の厚さで、かつ該隙間(7)を充填した状態で、絶縁性樹脂(4)の層を形成し、必要に応じて、硬化後に、研削することにより、絶縁性樹脂層(4)の表面の最大高さRyを10μm以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒状の筐体表面にフィルム回路基板が貼着されている立体的回路基板およびその製造方法、並びにその製造に用いるスキージに関する。
【背景技術】
【0002】
複写機や携帯電話などの電子機器の小型化、多機能化、および低コスト化に伴い、筐体の内面や外面に、回路基板をコンパクトに貼着することが要求されている。また、このような回路基板として、平面的ではなく立体的なものが必要とされる場合がある。
【0003】
このような立体的回路基板としては、たとえば、ローラなどの円筒状の筺体の表面全周にフィルム回路基板を形成したものがある。このような立体的回路基板は、特に複写機の分野において、現像用ローラ、帯電ローラ、転写ローラに適用されている(特許文献1参照)。
【0004】
立体的回路基板の形成方法としては種々のものがあるが、たとえば、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの絶縁性フィルムの表面に、銅などの導体層を設けた基材を用いて導体層をパターニングし、得られたフィルム回路基板をローラの表面全周に貼着することが提案されている。このようなフィルム回路基板は、多量に、かつ、低コストで製造することができるため、これをローラなどの円筒状の筺体表面に貼着して立体的回路基板を製造することができれば、有利であると考えられる。このため、円筒状の筺体表面にフィルム回路基板を貼着するための手段について、さまざまな検討が行われている。
【0005】
特許文献2には、フィルムを円筒状の缶体にロータリーカッタ方式で貼着する方法が記載されている。この方法では、自立保持不能な柔軟性フィルムを、高い精度で所望の長さに切断し、切断により得られたフィルムを缶体に供給して、良好にラミネートを行うことにより、フィルムの缶体への貼着を可能としている。この貼着方法は、缶体やボトルなどの飲料容器の表面にラベルを貼ることを目的として開発されたものである。そのため、ラベルを貼る位置精度などを厳密に管理する必要がなく、また、飲料容器の表面全周にラベルを貼着する場合は、フィルムに重なりや間隙が生じても問題となることはない。
【0006】
これに対して、電子機器用途のフィルム回路基板を、円筒状の筐体の表面全周にわたって貼着する場合に、貼着後にフィルム回路基板に重なりや間隙があると、回路を構成する配線に短絡や導通不良が発生し、回路の電気的特性に影響を及ぼすため、大きな問題となる。このような要求に応じるべく、フィルム回路基板を精度良く切断し、貼着時に重なりや浮き、大きな間隙が生じないよう貼着する必要がある。
【0007】
たとえば、このようなフィルム回路基板の貼着手段として、本発明者は、特許文献3および4において、円筒状の筺体を回転可能に水平に回転機構上に載置し、絶縁性フィルムと配線により形成されているフィルム回路基板を、絶縁性フィルムを下向きにして水平に搬送し、円筒状の筺体を回転させつつ、貼着時に、円筒状の筺体または絶縁性フィルム上に形成された接着剤層の接着力を発揮させ(たとえば、セパレータ付き接着剤フィルムの場合には、直前にセパレータを除去し、熱硬化型の接着剤では、直前に加熱する。)、フィルム回路基板を筺体の表面に接着剤層を介して押圧して、フィルム回路基板を円筒状の筺体の表面に貼着することを提案している。
【0008】
このように、筺体にフィルム回路基板を貼着する場合、従来、外部との電気的な接点の貼着後の位置を確認しながら、該接点を外部と容易に接続できるように、フィルム回路基板の表面側に配線を形成している。このため、配線を保護すると共に、絶縁性を確保するために、フィルム回路基板の貼着後に、絶縁性の樹脂を配線表面の全体にわたって塗布している。
【0009】
しかしながら、フィルム回路基板を精度良く切断した場合でも、切断に起因してフィルム回路基板に形状や大きさのバラツキが存在し、かつ、筐体自体にも仕上がり径のバラツキが存在するため、フィルム回路基板の重なりや間隙をなくすことができず、基本的には重なりを防止するためのマージンが要求される関係から、貼着後において、フィルム回路基板の端部間にさまざまな幅の間隙が生じてしまうのが現状である。特許文献3および4の装置では、円筒状の筒体へのフィルム回路基板の押圧力を調整することで、この隙間の幅をある程度調整できるが、隙間をなくすことはできない。
【0010】
この間隙については、フィルム回路基板の表面保護用に樹脂を塗布した際に、その間隙を埋設できれば、短絡や導通不良防止に有効である。このような塗布方法として、一般的な樹脂の塗布方法であるスプレー方式を挙げることができる。このスプレー方式は、平坦面を一定の厚さに塗布する方法としては優れているが、隙間がある場合に、この隙間を埋めて全体的に表面をフラットとなるように塗布することは難しい。すなわち、スプレー方式では、スプレーのノズルから樹脂が均一に吐出するため、凹凸を有する面でも、その凹凸にならって均一に塗布することできるが、隙間のように凹んでいる部分を充填することは困難である。したがって、この場合には、樹脂を塗布しても間隙の段差を十分に埋めきれずに、フィルム回路基板の端部が露出してしまう場合がある。
【0011】
また、別の手段として、これも一般的な樹脂の塗布方法であるが、スキージを用いる方法がある。スキージは、平板状のヘラのような道具であり、この平板状スキージにより、被塗布面上に付着した樹脂を均すことにより、一定の厚さに樹脂を塗布することができる。この平板状スキージは、限られた平面への均一塗布には一般的かつ有効な手段であり、被塗布面から一定の距離を保って樹脂を均一に均すため、被塗布面に多少の凹凸があっても、樹脂の厚みで凹部を充填することが可能となる。
【0012】
平板状スキージを円筒面により構成される被塗布面に適用する場合、図8に示すように、平板状スキージ(24)を円筒状の筺体(11)の軸方向に伸長するように配置し、筺体(11)の円筒面にスキージ(24)のエッジを対向または当接させながら、筺体(1)を回転させることにより、絶縁性樹脂(4)を円筒面上に均一に塗布することが可能となる。
【0013】
スキージの硬さは種々のものがあり、硬度が低いと、被塗布面表面の凹凸に追従しやすく、被塗布面へのダメージも小さくなるが、印加される印圧が弱くなるので、樹脂の転写力が弱くなってしまう。一方、セラミック製などの硬度が高く、先端が鋭利な形状のものは転写力が強く、より均一な塗布が可能となるが、このようなスキージとの接触は被塗布面にダメージを与えるため、塗布厚を制御するために被塗布面とスキージ先端との距離を一定に設定する必要がある。特に、立体的回路基板の場合、表面に微細な配線が形成されているため、その接触により被塗布面の表面を削ってしまうと、配線が破損して、断線などの問題が生ずる。円筒(1)が長尺となるほど、円筒(1)と平板状スキージ(24)を全長にわたって並行に保持する必要があり、薄い塗布厚さに制御しようとすると、円筒(1)の真円度や平板状スキージ(24)の直進性などにおいて、きわめて高い精度が要求されてしまう。
【0014】
また、この場合に、問題となるのが、スキージを離すタイミングと、スキージ痕である。たとえば、平板状スキージ(24)を離すところで、スキージには樹脂が溜まっており、スキージが離れる際に樹脂を塗布面に残してしまい、スキージ痕が発生する。特に、エンドレスな円筒面に樹脂を塗布する場合、樹脂の粘度が低いと塗布と同時に樹脂が円筒面の下に垂れてしまうため、垂れない程度の粘度が必要とされており、反対に粘度が高くなると、平板状スキージ(24)に溜まった樹脂が、スキージを離すときに糸を引くようになって、スキージ痕の発生がさらに問題となってしまう。
【0015】
このように、円筒状の筺体の表面全周にわたってフィルム回路基板が貼着された立体的回路基板において、その表面を凹凸がなくフラットなものは実現できていないのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平6−59568号公報
【特許文献2】特開平10−236446号公報
【特許文献3】特開2009−147081号公報
【特許文献4】特開2009−170578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、円筒状の筐体の表面にフィルム回路基板が貼着された立体的回路基板であって、該表面を保護し、かつ回路配線間を絶縁するために、絶縁性樹脂で均一に被覆する際に、フィルム回路基板の貼着時に該フィルム回路基板の端部間の隙間による、つなぎ目の段差部分(凹部)も含めて、立体的回路基板の全周にわたって絶縁性樹脂層を均一にかつフラットに形成させ、表面に凹凸のない立体的回路基板を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、円筒状の筐体の表面に接着剤層を介してフィルム回路基板が貼着されており、かつ、該貼着されたフィルム回路基板の端部間に隙間が存在している、立体気回路基板に関する。
【0019】
特に、本発明では、前記フィルム回路基板の表面および前記隙間の上に、所定の厚さで、かつ該隙間を充填した状態で、絶縁性樹脂の層が形成されており、該絶縁性樹脂層の表面の最大高さRyが10μm以下となっていることを特徴とする。
【0020】
このような表面に凹凸のない立体的回路基板は、次のような製造方法によって、初めて達成されるものである。
【0021】
すなわち、本発明の立体的回路基板の製造方法は、貼着されたフィルム回路基板の端部間に隙間が存在する状態で、前記フィルム回路基板の表面および前記隙間の上に、絶縁性樹脂を付着させ、その状態で該立体的回路基板を、円形に形成されたスキージに挿入し、該立体的回路基板と該円形スキージを該立体的回路基板の軸方向において相対的に移動させることにより、前記フィルム回路基板の表面および前記隙間の上に、所定の厚さで、かつ該隙間を充填した状態で、絶縁性樹脂の層を形成することを特徴としている。
【0022】
さらに、前記絶縁性樹脂層を硬化させた後、該硬化後の絶縁性樹脂層を研削することにより、該絶縁性樹脂層の表面の最大高さRyを1μm以下とすることが好ましい。
【0023】
また、本発明の立体的回路基板の製造方法に用いうる、本発明の円形スキージは、少なくとも内径を有し、円筒状の筺体の表面に接着剤層を介してフィルム回路基板が貼着された立体的回路基板を内嵌できる円形スキージであって、該円形スキージがウレタンゴム、ニトリルゴム、シリコーンゴム、またはこれらの混合材料からなり、前記内径が、前記フィルム回路基板の外径よりも0〜1mm小さいサイズを有し、前記立体的回路基板に絶縁性樹脂を付着した後、該立体的回路基板の軸と同軸上を、円形スキージまたは円形スキージの内端部の変形により、該内径が拡張しつつ、前記立体的回路基板と軸方向に相対的に移動することによって、該立体的回路基板の表面上に前記絶縁性樹脂を所定の厚さに塗布することを可能とするものである。
【0024】
もしくは、少なくとも内径を有し、円筒状の筺体の表面に接着剤層を介してフィルム回路基板が貼着された立体的回路基板を内嵌できる円形スキージであって、該円形スキージがセラミック材料からなり、前記内径が、前記フィルム回路基板の外径に対して、該立体的回路基板の表面に塗布される絶縁性樹脂層の厚みに相当するクリアランスを有する大きさであり、前記立体的回路基板に絶縁性樹脂を付着した後、該立体的回路基板の軸と同軸上を、前記立体的回路基板と軸方向に相対的に移動することによって、該立体的回路基板の表面上に前記絶縁性樹脂を所定の厚さに塗布することを可能とするものである。
【0025】
なお、円形スキージの形状は特に限定されず、前記軟質もしくは硬質材料をリング状に形成したもの、もしくは、前記軟質もしくは硬質材料を平板状に形成し、該平板の中央に円形開口を形成したもの、その他、立体的回路基板を内嵌できる内径を有するものであれば、任意の形状を採用できる。
【発明の効果】
【0026】
本発明により、回路配線にダメージを与えることなく、貼着されたフィルム回路基板の端部間の隙間に起因する、つなぎ目の段差部分(凹部)の存在にも拘わらず、該凹部への絶縁性樹脂の充填により、回路配線間の短絡や導通不良の防止が図られつつ、立体的回路基板の表面に全周にわたって所定厚さでかつ均一な絶縁性樹脂層を形成できる共に、該絶縁性樹脂層の表面をフラットにでき、表面に凹凸のない立体的回路基板が提供される。
【0027】
このような凹凸のないという表面特性は、立体的回路基板を回転する部分に適用する場合に必要とされるものであり、特に複写機の分野で用いられるローラ部品に適用する場合に、このような表面特性が画像特性を左右する重要な要素となるため、本発明は顕著な効果を奏するといえる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、円筒状の立体的回路基板をリング状の円形スキージに挿入した状態を示す概略斜視図(a)と概略断面図(b)である。
【図2】図2は、円筒状の立体的回路基板にリング状の円形スキージを用いて樹脂を塗布している状態を示す部分的に拡大した概略断面図である。
【図3】図3は、円筒状の立体的回路基板をカット型の円形スキージに挿入した状態を示す概略斜視図(a)と概略断面図(b)である。
【図4】図4は、円筒状の立体的回路基板にカット型の円形スキージを用いて樹脂を塗布している状態を示す部分的に拡大した概略断面図である。
【図5】図5は、図3および図4の形態の代替実施形態であって、より硬度の高いカット型の円形スキージを用いた場合の樹脂を塗布している状態を示す概略断面図である。
【図6】図6は、円筒状の立体的回路基板の表面研磨を、円筒研削盤により行っている状態を示す概略斜視図である。
【図7】本発明により樹脂が均一に塗布され、かつ表面研磨が施された円筒状の立体的回路基板の例を示す概略断面図である。
【図8】従来の平板状スキージを用いて、円筒に樹脂を塗布している状態を示す概略斜視図(a)と概略断面図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明について、図面を参照しながら、その実施形態について具体的に説明を行うが、本発明はこれらの実施形態に限定されるわけではない。
【0030】
本発明は、円筒状の筐体の表面にフィルム回路基板が貼着された立体的回路基板であって、回路配線が立体的回路基板の表面に形成されており、かつ、貼着後のフィルム回路基板の端部間に隙間が形成されているものについて、その表面に絶縁性樹脂層を表面の凹凸なく形成する点に特徴がある。
【0031】
基本的には、その他の構成については従来の立体的回路基板と同様であるから、基本構造については簡潔に説明するにとどめ、上記の特徴を中心に説明する。
【0032】
本発明に適用されるフィルム回路基板(6)は、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの絶縁性フィルム(61)と、その片面に銅層から所定のパターンで形成された回路配線(62)とを備える。絶縁性フィルム(61)と配線(62)の厚さは、用途などに応じて適宜選択されるが、たとえば、複写機で用いられる電子部品の場合、絶縁性フィルム(61)の厚さは12〜50μm程度であり、後の工程で絶縁性フィルムを研磨する場合には、これよりも厚い25〜75μm程度の厚さとし、配線の厚さは1〜10μm程度とする。
【0033】
基材となる円筒状の筺体(11)の大きさについても、用途などに応じて適宜選択されるが、たとえば、複写機で用いられる電子部品の場合、外径φ8〜32mm、長さ20〜40cm程度の大きさである。
【0034】
フィルム回路基板(6)は、円筒状の筺体(11)の大きさに応じて、フィルム状から切断により、適切なサイズに切断され、接着剤を介して、配線(62)が表面側となるように、円筒状の筺体(1)の表面上に貼着される。この場合、接着剤層(5)は、フィルム回路基板(6)の絶縁性フィルム(61)上に形成してもよく、筺体(11)の表面上に形成してもよい。いずれにせよ、貼着の直前に、接着剤層(5)を構成する接着剤の接着力を発揮させ、フィルム回路基板(6)を、その端部間が重ならないようにして、筺体(11)の表面に貼着する。
【0035】
なお、貼着の方法については、何らの制限はなく、公知の任意の手段を採りうるが、たとえば、特許文献4に記載の自動化された手段などにより、フィルム回路基板(6)を円筒状の筺体(11)の表面に貼着させることが好ましい。
【0036】
これにより、円筒状の筺体(11)の表面に接着剤層(5)を介してフィルム回路基板が(6)貼着された、絶縁性樹脂層を形成する前の立体的回路基板(1)が得られる。この状態の立体的回路基板(1)では、表面に回路配線(62)が露出しており、フィルム回路基板(6)の端部間に周方向の隙間(7)が形成されている。
【0037】
なお、通常、この隙間(7)は、0.5mm以下となるように、貼着時の伸びを考慮した上で、フィルム回路基板(6)の大きさが選定されているため、隙間(7)の幅は0.5mm以下となっている。ただし、本発明はこの幅に限定されることなく、立体的回路基板の大きさによって、これ以上の幅も許容される。
【0038】
次に、上記のようにして形成された立体的回路基板(1)の表面に、絶縁性樹脂(4)を付着させる。絶縁性樹脂(4)を付着させる方法としては、公知の塗布手段、浸漬手段、その他の、樹脂を被塗布面に付着させることができる適切な手段を採用することができる。また、絶縁性樹脂(4)を、周方向に関しては、立体的回路基板(1)の全周にわたって付着させる必要があるが、軸方向(長手方向)に関しては、その必要はなく、所定量を一方端部に付着させて、これを長手方向にスキージで均すことにより全体に絶縁性樹脂(4)を行きわたらせることができる。ただし、全体にわたって所定量の絶縁性樹脂(4)を付着させてもよい。
【0039】
ここで、絶縁性樹脂としては、円筒状の筺体に付着させることから、その状態で、流れたり垂れ落ちたりしない程度の粘度、具体的には、室温状態での付着時に、100dPa・s程度の粘度が必要である。また、粘度が高すぎると、樹脂が隙間(7)に入り込まなくなるので、粘度は最大で1500dPa・s程度までとする。
【0040】
本発明では、この状態において、従来の平板状スキージ(24)ではなく、新規な円形スキージを用いて、この円形スキージを円筒状の筺体(11)に外嵌させ(もしくは、円筒状の筺体(11)を、この円形スキージに内嵌させ)、これらを円筒状の筺体(11)の軸方向に相対移動させることにより、円筒状の筺体(11)の表面上に付着する絶縁性樹脂(4)を均して、所定の厚さで均一に絶縁性樹脂(4)を塗布する。
【0041】
このような円形スキージの具体例としては、たとえば、図1および図2に示すリング状の円形スキージ(21)と、図3〜図5に示すカット型の円形スキージ(22、23)を挙げることができる。
【0042】
図1(b)には、リング状の円形スキージ(21)を、支持治具であるホルダ(3)に固定した様子を示している。スキージ(21)は、断面円形状のウレタンゴム製のものを例示しているが、形状としては、断面矩形状のもの(角スキージ)なども採用でき、材質についても、ウレタン製などのスキージを採用できる。
【0043】
円形スキージ(21)は、円周方向の少なくとも一部をホルダ(3)により支持し、該ホルダ(3)もしくは立体的回路基板(1)、またはその両方を、立体的回路基板(1)の軸方向に移動させる手段(図示せず)に接続し、これらの相対移動を可能とする。たとえば、図1の例では、立体的回路基板(1)が固定されており、円形スキージ(21)を外嵌させた状態で、ホルダ(3)をAで示される方向に移動させる。
【0044】
このような相対移動により、図2に示すように、立体的回路基板(1)の表面上に付着した絶縁性樹脂(4)は円形スキージ(21)の移動に伴って均され、所定の厚さで、均一に絶縁性樹脂(4)が塗布され、絶縁性樹脂層を形成することができる。
【0045】
図3には、円形スキージの代替例を示している。この態様では、円形スキージは、矩形状の平板からなり、その中央に、円形状の開口が形成されている、カット型の円形スキージ(22)からなる。
【0046】
この円形スキージ(22)も、同様に支持治具であるホルダ(3)に少なくとも外縁部の一部をホルダ(3)によって支持している。この円形スキージ(22)としては、図3および図4に示すように、ウレタンゴム、ニトリルゴム、シリコーンゴムなどの軟質材料のものを利用できるし、また、図5に示すように、セラミックなどの硬質の材料により構成することも可能である。また、形状についても、図示の例では、断面剣状の剣スキージを示しているが、ホルダ(3)を斜めに配置し、断面矩形状の平スキージのような形状も採用できる。
【0047】
図3および図4に示すように、軟質の円形スキージの場合、先端部に変形を生じて絶縁性樹脂層を形成する。ただし、図4に示すように、立体的回路基板(1)の表面全体にわたって、所定の粘度を有する樹脂が付着していることから、軟質のスキージがその下の回路配線(62)と直接接触することはない。
【0048】
一方、図5に示すように、硬質の円形スキージを用いる場合には、円形スキージ(23)が回路配線(62)と接触すると、配線にダメージを与えるおそれがある。したがって、スキージ(23)の内径は、立体的回路基板(1)の外径に対して、所望とする絶縁性樹脂層(4)の厚み分だけのクリアランスをもって設計される。なお、後の工程で絶縁性樹脂層(4)を研磨する場合には、その分の厚みがクリアランスに加えられる。
【0049】
これらのカット型の円形スキージ(22、23)の場合も同様に、円形スキージ(22、23)と立体的回路基板(1)を、該基板(1)の軸方向に相対移動させることにより、所定の厚さで、均一に絶縁性樹脂(4)の塗布を行い、絶縁性樹脂層を均一な厚さに形成することができる。
【0050】
なお、円形スキージ(21、22、23)の硬度、開口の直径、スキージを移動させる速度、塗布する絶縁性樹脂の粘度は、それぞれの組合せで条件を決定する必要はあるが、従来の平板状スキージと円筒形の立体回路基板との関係のように、立体的回路基板の幅方向にわたって、スキージの形状(直進性)を精緻に構築する必要はなくなる。たとえば、伸縮性のある軟質材料で円形の開口形状のスキージを形成すれば、立体的回路基板(1)の円筒形状に追随して、均一に絶縁性樹脂層(4)を形成することが可能となるし、硬質材料製のスキージを用いる場合も、円形の開口形状を立体的回路基板(1)の断面形状に合わせて形成するだけでよいという利点がある。
【0051】
なお、軟質材料の場合、開口の直径は、立体的回路基板(1)の外周面の外径と実質的に同じとするか、好ましくは、わずかに小さく、たとえばシメシロが0.1mm〜1mm程度、好ましくは0.3mm以下、すなわち、フィルム回路基板(6)の貼着前の円筒状の筺体(11)の外径と同じ程度もしくはこれよりも小さくなるようにする。いずれにせよ、軟質材料製の場合、図2および図4に示すように、スキージもしくはスキージの先端が拡張ないしは変形することによって、適度な転写力により、絶縁性樹脂(4)の塗布が可能となる。一方、上述の通り、硬質材料の場合には、回路配線(62)への影響を排除するため、配線を含む立体的回路基板(1)の外周面の外径に絶縁性樹脂層(4)の厚さの2倍を追加した内径とする必要がある。ただし、後の工程で研磨を行う場合には、この絶縁性樹脂層の厚みをある程度持たせることができるので、立体的回路基板(1)と円形スキージ(23)の相対移動の精緻さにある程度の余裕を持たせることは可能となる。
【0052】
本発明において、立体的回路基板(1)と円形スキージ(21、22、23)の相対移動を可能とする手段としては、立体回路基板(1)と円形スキージ(21、22、23)とを同軸上に配置し、一方を固定し、他方を該軸方向に平行移動させる手段、あるいは、互いに反対方向に平行移動させる手段のいずれも採りうる。なお、これらの配置は、水平方向でも垂直方向でもよい。
【0053】
このような塗布手段により、本発明では、絶縁性樹脂(4)の塗布完了後の立体的回路基板(1)の表面、すなわち、絶縁性樹脂(4)の層の表面における凹凸は、最大で±5μm以下となり、最大高さRyは10μm以下であるが、好ましくは、最大高さRyを1μm以下とする。これらは、用いるスキージの材質や、移動装置の直進性の精度などにより異なってくるものである。
【0054】
また、本発明では、スキージの移動方向が、立体的回路基板(1)の周方向ではなく、軸方向であることから、移動がエンドレスになることはなく、少なくとも立体的回路基板(1)の中央部においてスキージ痕が問題となることはない。
【0055】
さらに、本発明では、円形スキージを用いて、立体的回路基板(1)の軸方向の一端から他端まで移動させることで、図7に示すように、付着した絶縁性樹脂(4)の一部をフィルム回路基板(6)の端部間に生じている隙間(7)の中に押し込むと共に、立体的回路基板(1)の全周わたってほぼ均一な厚さの絶縁性樹脂層(4)を形成することができる。
【0056】
絶縁性樹脂層を形成した後、樹脂の種類に応じた条件により、この絶縁性樹脂層を硬化させることで、絶縁性樹脂層が形成された最終的な立体的回路基板(1)が完成する。
【0057】
ただし、本発明では、さらに、図6に示すような円筒研削盤(8)を用いて、立体的回路基板(1)の全周に形成された絶縁性樹脂層を研磨することで、表面の凹凸を減少させると共に、その真円度も向上させることが好ましい。このような研磨は、公知のセンタレス円筒研削盤を用いて、容易に加工することができる。これにより、塗布工程のみでは、立体的回路基板(1)の凹凸を、最大で±0.5μm、すなわち最大高さRyを1μm以下とできない場合でも、このような表面粗さまで加工することが可能となる。
【実施例】
【0058】
厚さ25μmのポリイミドフィルムの片面に、厚さ8μmの銅層を所定のパターンとした回路配線が形成されたフィルム回路基板と、円筒状の筐体として、直径16mm、長さ300mmのアルミパイプを、それぞれ複数準備した。
【0059】
次に、アルミパイプ表面に接着剤層を形成するため、溶液タイプの変性エポキシ系接着剤(東亞合成株式会社製、アロンマイティAS−60)をトルエンで2倍希釈した溶液にディップコートを行い、熱風乾燥炉100℃×2分で乾燥した。
【0060】
その上から、約50mm×280mmの大きさに切断したフィルム回路基板を、ポリイミドフィルムが接着剤層と接合するように貼着して、表面に絶縁性樹脂層を形成する前の立体的回路基板を得た。
【0061】
得られた複数の立体的回路基板において、フィルム回路基板の貼着時に生じた、その端部間の周方向の隙間の幅は、0.055mm〜0.480mmの範囲であった。
【0062】
次に、得られたそれぞれの立体的回路基板の表面の軸方向一端部に、手動によりヘラを用いて、全周にわたってエポキシ樹脂(コニシ株式会社製、Eセット)を付着させた。エポキシ樹脂の付着後の立体的回路基板を固定治具として(寿貿易株式会社・株式会社メカニクス製、ミニ卓上旋盤FL−350E)に固定した。
【0063】
スキージとして、ニトリルゴムとシリコーンゴム製で、内径15.8mmのリング状の円形スキージを用意した。このスキージをホルダに装着し、そのホルダを、立体的回路基板の軸方向に直線移動が可能なバイトテーブル(寿貿易株式会社・株式会社メカニクス製、ミニ卓上旋盤FL−350E)に固定した。
【0064】
スキージを立体的回路基板に外嵌して、移動速度を10mm/secとして、リング状の円形スキージを移動させた。リング状の円形スキージを基板の軸方向に一端から他端まで移動させることで、塗布したエポキシ樹脂をフィルム回路基板に生じているつなぎ目に押し込むと共に、立体的回路基板の全周にほぼ均一な厚さのエポキシ樹脂層を形成した。なお、エポキシ樹脂層の厚さは、18.8μmであった。
【0065】
なお、使用したエポキシ樹脂は、2液混合タイプのものであり、混合後の放置時間によって粘度が変化するため、放置時間を20分と40分の条件とした。それぞれの放置時間後の粘度は、20分で約50Pa・s、40分で約62Pa・sであった。
【0066】
その後、150℃で60分間加熱して、エポキシ樹脂を硬化させた。
【0067】
このようにして得られた立体的回路基板の表面の凹凸は、最大で±2.7μmであり、5.4μmの段差が生じていた(最大高さRy=5.4μm)。
【0068】
さらに、センタレス円筒研削盤(ミクロン精密製)を用いて、立体的回路基板の全周に形成されたエポキシ樹脂層を研磨して、その厚さを10.2μmとした。なお、砥石には粒度1500番のものを使用した。その結果、表面の凹凸は、最大で±0.25μmとなり、0.5μmの段差にまで減少させることができた(最大高さRy=0.5μm)。
【符号の説明】
【0069】
1 立体回路基板
11 円筒状の筺体
21 リング状の円形スキージ
22 カット型の円形スキージ(軟質材料)
23 カット型の円形スキージ(硬質材料)
24 平板状スキージ
3 スキージホルダ
4 絶縁性樹脂
5 接着剤層
6 フィルム状回路基板
61 絶縁性フィルム
62 配線
7 隙間
8 円筒研削盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の筐体の表面に接着剤層を介してフィルム回路基板が貼着された立体的回路基板であって、該貼着されたフィルム回路基板の端部間には隙間が存在しており、前記フィルム回路基板の表面および前記隙間の上には、所定の厚さで、かつ該隙間を充填した状態で、絶縁性樹脂の層が形成されており、該絶縁性樹脂層の表面の最大高さRyが10μm以下であることを特徴とする、立体的回路基板。
【請求項2】
円筒状の筐体の表面に接着剤層を介してフィルム回路基板が貼着された立体的回路基板の製造方法であって、該貼着されたフィルム回路基板の端部間に隙間が存在する状態で、前記フィルム回路基板の表面および前記隙間の上に、絶縁性樹脂を付着させ、その状態で該立体的回路基板を、円形に形成されたスキージに挿入し、該立体的回路基板と該円形スキージを該立体的回路基板の軸方向において相対的に移動させることにより、前記フィルム回路基板の表面および前記隙間の上に、所定の厚さで、かつ該隙間を充填した状態で、絶縁性樹脂の層を形成することを特徴とする、立体的回路基板の製造方法。
【請求項3】
前記絶縁性樹脂層を硬化させた後、該硬化後の絶縁性樹脂層を研削することにより、該絶縁性樹脂層の表面の最大高さRyを1μm以下とすることを特徴とする、請求項2に記載の立体的回路基板の製造方法。
【請求項4】
少なくとも内径を有し、円筒状の筺体の表面に接着剤層を介してフィルム回路基板が貼着された立体的回路基板を内嵌できる円形スキージであって、該円形スキージがウレタンゴム、ニトリルゴム、シリコーンゴム、またはこれらの混合材料からなり、前記内径が、前記フィルム回路基板の外径よりも0〜1mm小さいサイズを有し、前記立体的回路基板に絶縁性樹脂を付着した後、該立体的回路基板の軸と同軸上を、円形スキージまたは円形スキージの内端部の変形により、該内径が拡張しつつ、前記立体的回路基板と軸方向に相対的に移動することによって、該立体的回路基板の表面上に前記絶縁性樹脂を所定の厚さに塗布することを可能とする、円形スキージ。
【請求項5】
少なくとも内径を有し、円筒状の筺体の表面に接着剤層を介してフィルム回路基板が貼着された立体的回路基板を内嵌できる円形スキージであって、該円形スキージがセラミック材料からなり、前記内径が、前記フィルム回路基板の外径に対して、該立体的回路基板の表面に塗布される絶縁性樹脂層の厚みに相当するクリアランスを有する大きさであり、前記立体的回路基板に絶縁性樹脂を付着した後、該立体的回路基板の軸と同軸上を、前記立体的回路基板と軸方向に相対的に移動することによって、該立体的回路基板の表面上に前記絶縁性樹脂を所定の厚さに塗布することを可能とする、円形スキージ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−129258(P2012−129258A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277496(P2010−277496)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】