説明

等速自在継手の品質管理方法

【課題】 等速自在継手の品質管理方法を提供する。また、トレーサビリティの程度を高め、鍛造・旋削工程、熱処理工程、研削工程等の加工条件情報の確認が、出荷後あるいは客先納入後においても容易に行えるようにする。
【解決手段】 等速自在継手1につき、非接触で情報の記録および読取りが可能なICタグ9を用い、所定情報を記録して管理する。等速自在継手1にICタグ9を取付ける過程と、そのICタグ9に情報を記録する過程と、出荷後の任意時に、ICタグ9の記録情報を読み取って行う利用過程とを含む。ICタグ9は、等速自在継手1を構成する外側継手部材14,内側継手部材15,軸12,ブーツ18等の要素品のいずれかに対して取付ける。このICタグ9に、識別番号、製造年、製造場所の情報等を記録する。また、要素品についての製造に関する情報を記録する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車や機械設備に用いられる等速自在継手につき、ICタグを用いて管理し、トレーサビリティや、定期点検対応の容易化を可能とした等速自在継手の品質管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、トレーサビリティの要求、つまり考慮の対象となっているものの履歴、適用または所在の追跡ができることの要求が高くなってきている。等速自在継手等の機械要素商品の品質管理では、材料受入から製造完了までの各製造工程(材料受入、鍛造工程、熱処理工程、研削工程等)の品質,ロット等の製造履歴が、各機械要素商品と1対1、またはロット単位で分かるようにすることが望まれる。
自動車において、一般品の場合は、ロット管理となり、ロット単位で抜き取り検査等が行われるため、ロット単位で製造履歴が求められる。製造履歴がわかることで、将来の改善等の対処が容易となり、寿命診断も容易となる。また類似品の混入判別等も容易となる。特殊品では、個別に検査がなされており、1対1に対応して製造履歴がわかるようにすることが求められる。
このような製造履歴を明確にする品質管理方法として、従来は、工程毎に発生した情報を、伝票に記入したり、データベースの端末への入力を行う等して対処している。
【0003】
一方、物流管理や在庫管理で、ICタグが用いられつつあり、自動車等の物品の製造においてもICタグを用いた製造から廃棄までの管理が提案されている(例えば特許文献1)。ICタグは、非接触で交信が可能であり、また記憶容量が大きいことから、高度の管理が期待されている。歯車等の機械部品においても、ICタグを取付け、IDコードやこれに関連付けた各種の情報を記憶させて製品情報の管理を行うことが提案されている(例えば特許文献2)。
【特許文献1】特開2002−169858号公報
【特許文献2】特開2002−49900号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動車等に組付けられる等速自在継手において車検等の定期点検を行う時、等速自在継手に刻印等に表示されている製造番号、あるいは製造年や製造場所の情報が必要な場合がある。
しかし、等速自在継手に刻印等で付された製造番号や製造年や製造場所等の表示は、等速自在継手を分解して見ないとわからない。そのため、分解および再組立の作業に手間がかかる。一般的には、等速自在継手を取り外して製造番号等の情報を確認しなくてはならず、多大な手間と費用がかかる。
【0005】
また、従来のICタグを用いた品質管理方法の提案例では、歯車等の機械要素商品に取付けられたICタグに機械要素商品に関する各種の情報を直接に記録し、またはICタグには識別情報を記録しておいて、データベースと照合することで、機械要素商品の材質やロット管理情報、各種履歴データ等がわかるようにされている。しかし、機械要素商品に関する上記の情報だけでは、機械要素商品に生じた支障の原因が解明できない場合がある。例えば各工程の加工条件の違い等によっても、品質に差が生じることがあり、このような加工条件の違いによる差は、検査結果からでは認識することができないことがある。
等速自在継手は、外側継手部材,内側継手部材,転動体,保持器等の複数の要素品で構成されており、組立後の等速自在継手自体の検査結果等が分かっても、個々の要素品の品質の違いによるトレーサビリティまでは特定できない。等速自在継手では、わずかな材質や精度の違いが大きな性能の差となるため、従来のICタグを用いた品質管理方法の提案例では対応が難しい。
【0006】
また、工程管理においても、従来の工程毎に伝票記入や端末入力を行う管理方法では、記入や入力に手間がかかるため、多数の情報をきめ細かく記録することが難しい。特に、等速自在継手のように複数の要素品を組み立ててなる機械要素商品であって、各要素品が材料受入から鍛造工程、熱処理工程、および研削工程を経て、工程毎にロット生産されるものでは、各要素品の製造工程における管理が煩雑であり、情報の手書きによる記録や入力操作に手間がかかる。そのため、機械要素商品の詳細な履歴情報の要求に十分に応じることが難しく、また管理にコストがかかる。
【0007】
そのためICタグの適用を考えたが、等速自在継手では、自動車自体のような管理を適用することができない。上記特許文献1の提案例では、管理対象となる物品である自動車にICタグを取付け、各工程の情報を記録している。ICタグはフレーム等に取付ける。しかし、等速自在継手では、自動車におけるフレーム等のように完成した基準となる要素品がなく、製造過程では各要素品が鍛造や熱処理等を経て製造されるため、等速自在継手自体にICタグを取付けることができない。また、等速自在継手では、外側継手部材,内側継手部材,保持器等のそれぞれが、材料受入、鍛造工程、熱処理工程、研削工程等を経て管理されるため、ICタグを品質管理に適用しようとした場合に、具体的にどのように用いるかが問題であり、効率的なICタグの適用が難しい。
【0008】
この発明の目的は、等速自在継手を、分解することなく簡単にかつ即座に分かり、車検等の定期点検に対して迅速かつ適切に対処できる等速自在継手の品質管理方法を提供することである。
この発明の他の目的は、トレーサビリティの程度を高めて、鍛造・旋削工程、熱処理工程、研削工程等の加工条件情報を、出荷後あるいは客先納入後においても容易に確認することのできる等速自在継手の品質管理方法を提供することである。
この発明のさらに他の目的は、個別に検査される等速自在継手であって、鍛造・旋削工程や熱処理工程等を経てそれぞれが製造される複数の要素品を組み立てなる等速自在継手につき、各要素品の材料受入から等速自在継手の完成後の検査内容まで、詳細な履歴情報を、等速自在継手と1対1の関係で容易に管理することのできる等速自在継手の品質管理方法を提供することである。
この発明のさらに他の目的は、ロット別に検査される等速自在継手であって、鍛造・旋削工程や熱処理工程等を経てそれぞれが製造される複数の要素品を組み立てなる等速自在継手につき、各要素品の材料受入から機械要素商品の完成後の検査内容まで、詳細な履歴情報を、等速自在継手の製造ロット別に容易に管理することのできる等速自在継手の品質管理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の等速自在継手の品質管理方法は、等速自在継手につき、非接触で交信が可能なICタグを用い、等速自在継手に関する所定情報を記録して管理する等速自在継手の品質管理方法であって、等速自在継手にICタグを取付ける過程と、この等速自在継手に取付けられたICタグに、その等速自在継手についての情報を記録する過程と、出荷後の任意時に、上記ICタグの記録情報を読み取ってその読み取り情報から、所定情報の確認を行う過程とを含む。
この発明において、上記等速自在継手が、自動車に用いられるものである場合に、上記利用過程のICタグの読み取りは、等速自在継手が自動車に組付けられた状態のままで、タグリーダを用いて行い、このタグリーダに一体化された情報処理手段または上記タグリーダに有線または無線で接続された情報処理手段により、処理を含むものとしても良い。
【0010】
この方法によると、等速自在継手に取付けられたICタグに、その等速自在継手についての情報を記録しておくため、出荷後の任意時に、等速自在継手にタグリーダを近づけることで、ICタグの記録情報を読み取り、所定情報の確認が行える。等速自在継手の範囲等の情報を持っておけば、読み取り情報から、等速自在継手のトレーサビリティの情報入手も行える。そのため、等速自在継手を自動車や機械設備から分解することなく、例えばサービスマンが客先に伺ったり、ガソリンスタンド等で給油の合間等に等速自在継手の情報を得ることも可能となる。
この発明の等速自在継手の品質管理方法は、次の第1ないし第5の等速自在継手の品質管理方法を含む。
【0011】
この発明における第1の等速自在継手の品質管理方法は、等速自在継手につき、非接触で交信が可能なICタグを用い、等速自在継手に関する所定情報を記録して管理する等速自在継手の品質管理方法であって、
等速自在継手にICタグを、この等速自在継手を構成する複数の要素品のいずれかに対して取付ける過程と、
この等速自在継手に取付けられたICタグに、その等速自在継手についての製造工程における情報を記録する過程と、
出荷後の任意時に、上記ICタグの記録情報を読み取ってその読み取り情報から、所定情報の確認を行う過程とを含む。
【0012】
この発明における第2の等速自在継手の品質管理方法は、等速自在継手につき、等速自在継手の識別情報に関連付けてその等速自在継手に関する所定の製造情報を記憶し、記憶内容を上記識別情報により抽出可能なデータベースと、非接触で交信が可能なICタグとを用いる等速自在継手の品質管理方法であって、
等速自在継手にICタグを、この等速自在継手を構成する複数の要素品のいずれかに対して取付ける過程と、
上記ICタグに、上記データベースに従い出荷時、または客先納入時までに、その等速自在継手についての識別情報を記録し、かつその等速自在継手についての製造工程における情報を記録する過程と、
出荷後の任意時に、上記ICタグの記録情報を読み取ってその読み取り情報から、または読み取り情報を上記データベースと照合して得られた情報から、前記製造工程における情報の確認を行う情報読取り利用過程とを含む。
【0013】
この発明における第3の等速自在継手の品質管理方法は、等速自在継手につき、所定の製造情報を記憶し、その記憶内容を抽出可能なデータベースと、非接触で交信が可能なICタグとを用いた等速自在継手の品質管理方法であって、
等速自在継手にICタグを、この等速自在継手を構成する複数の要素品のいずれかに対して取付ける過程と、
上記等速自在継手に取付けられたICタグに、上記データベースに従いその等速自在継手についての所定の出荷情報を書き込む過程と、
出荷後の任意時に、上記ICタグの記録情報を読み取ってその読み取り情報から、または読み取り情報を上記データベースと照合して得られた情報から、等速自在継手についての情報を確認する過程とを含む。
【0014】
上記第1の等速自在継手の品質管理方法は、より具体的には、等速自在継手にICタグを取付け、このICタグの記録情報だけから品質管理に関するトレーサビリティを可能にした方法であって、次の過程を含む。
この品質管理方法は、等速自在継手につき、非接触で交信が可能なICタグを用い、等速自在継手に関する材料受入から、鍛造および旋削のうちの少なくとも一方の工程、熱処理工程、研削工程等の各製造工程、並びに検査に至る所定の製造情報を記録して等速自在継手を管理する品質管理方法であって、
等速自在継手の製造時または製造完了時にICタグを、この等速自在継手を構成する複数の要素品のいずれかに取付ける過程と、
この等速自在継手に取付けられたICタグに、出荷時または客先納入時までに、その等速自在継手についての前記各製造工程のうちの少なくとも一つの工程における加工条件情報および材料情報の少なくとも一方を記録する過程と、
上記出荷後の任意時に、上記ICタグの記録情報を読み取ってその読み取り情報から、上記加工条件情報および材料情報の少なくとも一方の確認を行う情報読取り利用過程とを含む。
【0015】
この方法によると、上記出荷後の任意時の情報読取り利用過程で、鍛造・旋削工程、熱処理工程、研削工程等のいずれかの加工条件情報または材料情報を確認することができる。加工条件情報等まで確認できるため、厳しい品質,精度が求められる等速自在継手においても、トレーサビリティ確保等を容易に行うことができる。この方法の場合、別のデータベースを用いることなく、ICタグのみで情報を管理することができるため、加工条件情報等を確認する施設において、データベースへの通信設備やアクセス権限等の有無にかかわらずに加工条件情報等の読み取りが行える。
【0016】
上記第2の等速自在継手の品質管理方法は、より具体的には、等速自在継手に取付けられたICタグとデータベースとを用いて品質管理に関するトレーサビリティを可能にした方法であって、次の過程を含む。
この品質この管理方法は、等速自在継手につき、識別情報に関連付けてその等速自在継手に関する材料受入から、鍛造および旋削のうちの少なくとも一方の工程、熱処理工程、研削工程等の各製造工程、および検査に至る所定の製造情報を記憶し、記憶内容を上記識別情報により抽出可能なデータベースと、非接触で交信が可能なICタグとを用いて等速自在継手を管理する品質管理方法であって、
等速自在継手の製造時または製造完了時にICタグを、この等速自在継手を構成する複数の要素品のいずれかに取付ける過程と、
上記等速自在継手に取付けられたICタグに、上記データベースに従い出荷時、または客先納入時までに、その等速自在継手についての識別情報を記録し、かつその等速自在継手についての前記各製造工程のうちの少なくとも一つの工程における加工条件情報および材料情報の少なくとも一方を記録する過程と、
上記出荷後の任意時に、上記ICタグの記録情報を読み取ってその読み取り情報から、または読み取り情報を上記データベースと照合して得られた情報から、受入材料の確認、製造工程の確認、その加工条件情報および材料情報の少なくとも一方の確認、および検査成績の確認のいずれかを行う情報読取り利用過程とを含む。
【0017】
この管理方法においても、出荷後の任意時の情報読取り利用過程で、鍛造工程、熱処理工程、研削工程等のいずれかの加工条件情報または材料情報を確認することができる。そのため、厳しい品質,精度が求められる等速自在継手においても、トレーサビリティ確保を容易に行うことができる。また等速自在継手に取付けられたICタグには、識別情報を記録し、データベースに上記識別情報と対応して各種の情報を記録するため、限りあるICタグの記憶容量に頼らずに、多量の情報をデータベースから引き出すことができる。またICタグの残りの記憶容量を、出荷後や客先納入後の各種の履歴管理等に利用することができる。
【0018】
上記第3の等速自在継手の品質管理方法は、等速自在継手に取付けられたICタグとデータベースとを用いて品質管理に関するトレーサビリティを可能にした方法であって、次の各過程を含む。
この品質管理方法は、等速自在継手につき、識別情報に関連付けてその等速自在継手に関する材料受入から、鍛造および旋削のうちの少なくとも一方の工程、熱処理工程、研削工程等の各製造工程、並びに検査に至る所定の製造情報を記憶し、記憶内容を上記識別情報により抽出可能なデータベースと、非接触で交信が可能なICタグとを用いて等速自在継手を管理する品質管理方法であって、
等速自在継手の製造時または製造完了時にICタグを、この等速自在継手を構成する複数の要素品のいずれかに取付ける過程と、
上記等速自在継手に取付けられたICタグに、上記データベースに従い出荷時、または客先納入時までに、その等速自在継手についての識別情報を書き込み、かつその等速自在継手についての製造年月日、製造場所、封入グリース銘柄、要素品間隙間、品質保証期間、取扱いに関する注意事項のうち、少なくとも一つの情報を記録する過程と、
上記出荷後の任意時に、上記ICタグの記録情報を読み取ってその読み取り情報から、または読み取り情報を上記データベースと照合して得られた情報から、受入材料の確認、製造工程の確認、その加工条件および材料情報の少なくとも一方の確認、および検査成績の確認のいずれかを行う情報読取り利用過程とを含む。
【0019】
この方法の場合、上記出荷後の任意時における情報読取り利用過程で、ICタグの記録情報を読み取ってその読み取り情報から、または読み取り情報をキーとして上記データベースと照合してその照合により得られた情報から、受入材料の確認、製造工程の確認、その加工条件の確認、および検査成績の確認のいずれかを行うことができる。また、ICタグに記録された製造年月日、製造場所、封入グリース銘柄、要素品間隙間、品質保証期間、取扱いに関する注意事項のいずれかが確認できる。これら製造年月日、製造場所、封入グリース銘柄、要素品間隙間、品質保証期間、取扱いに関する注意事項等は、各種の場面において即座に知りたいことが多く、データベースと照合することなく、ICタグから直接に読み取れることが、設備面や手間の面で便利である。グリースには、高温用や低温用等、用途に応じた各種のものがあり、外見からでは分かり難いため、ICタグから読み採れると便利である。
【0020】
この発明において、上記第1ないし第3のいずれの等速自在継手の品質管理方法においても、次の過程を含めても良い。すなわち、上記等速自在継手の上記要素品の材料受入から鍛造および旋削のうちの少なくとも一方の工程、熱処理工程、および研削工程に至る所定の製造情報を、要素品のロット番号別に準備された製造過程用のICタグに各工程毎に記録する過程と、この記録した情報を読み取ってその読み取り情報の一部または全体を上記等速自在継手に取付けられたICタグに記録する過程とを含み、上記製造過程用のICタグに記録する製造情報として、前記各製造工程のうちの少なくとも一つの工程における加工条件情報および材料情報の少なくとも一方を含む方法とする。
【0021】
このように、要素品毎の製造過程で、その製造過程用のICタグに、材料受入から鍛造工程、熱処理工程、および研削工程に至る製造情報を、要素品のロット番号別に準備された製造過程用のICタグに各工程毎に記録するようにすると、手書き伝票に記録する場合に比べて詳細な情報の記録が行え、また例えば端末からデータベースに入力する場合と異なり、情報を入力するべき箇所がICタグであるために視覚的に認識できて、入力作業が明確となり、誤りが生じにくい。また、要素品の材料受入から研削工程の各工程にわたる種々雑多な全ての情報をデータベースに記録するものと異なり、これらの記録情報をICタグで持っておくため、データベースの負担が軽く、管理が容易になる。このため、容易に、より詳細な情報の管理することができる。上記要素品のロット番号別に準備されるICタグは、工程毎にロット区分が変わる場合は、その変わる各ロット毎に準備する。
【0022】
要素品の製造時における製造情報の記録は、データベースに行うようにしても良い。すなわち、この発明において、上記第1ないし第3のいずれの等速自在継手の品質管理方法においても、上記等速自在継手の上記要素品の材料受入から鍛造および旋削のうちの少なくとも一方の工程、熱処理工程、研削工程、および検査に至る所定の製造情報を、製造時管理用のデータベースに要素品のロット番号または要素品個別の識別番号に関連付けて記録する過程と、この記録した情報を、上記等速自在継手に取付けられたICタグに記録する過程とを含むようにしても良い。
【0023】
要素品の製造過程における製造情報の管理にロット番号別に準備された製造過程用のICタグを用いる管理方法としては、次の方法が採用でき、より具体的には次の第4,第5の各方法が採用できる。
このロット別にICタグを用いる等速自在継手の品質管理方法は、等速自在継手を構成する外側継手部材および内側継手部材等の各要素品について、材料受入から完成,検査完了までの一連の各工程につき、その工程のロット毎にICタグを準備し、この各工程のロット毎に準備されるICタグは、一つ上流側の工程に対応するロットと同じICタグ、または一つ上流側の工程の対応するロットのICタグの情報を引き継いだICタグとし、上記各工程のロット毎に準備されたICタグに、その工程のロット番号およびその工程における情報を記録する方法である。
この方法の場合、下流側の工程でロット分かれしても、新たなICタグには、上流の工程での記録情報が引き継がれることになる。そのため、全ての要素品についての製造完了時のロットのICタグは、全ての工程の情報を持つものとなる。
【0024】
この発明における第4の等速自在継手の品質管理方法は、個別に検査される等速自在継手の品質管理方法である。この等速自在継手の品質管理方法は、材料受入から鍛造および旋削のうちの少なくとも一方の工程である鍛造・旋削工程、熱処理工程、および研削工程を経て製造される要素品を複数種類含んで組み立てられる等速自在継手の品質管理方法であって、上記各要素品について、次の各過程(1) 〜(4) を含み、各要素品を組み立てた等速自在継手について、後述の過程を採る。
【0025】
(1) .各要素品の材料受入時に、材料ロット別に準備されたICタグに、対応する材料ロットについての材料ロット番号および受入材料に関する情報を記録する過程。
(2) .上記鍛造・旋削工程で、上記材料ロット別のICタグまたはこの材料ロット別のICタグの記録情報を引き継いだICタグを鍛造・旋削ロット別に準備し、これらのICタグに、対応する鍛造・旋削ロットについての鍛造・旋削ロット番号および鍛造・旋削工程で得られる情報を記録する過程。
(3) .上記熱処理工程で、鍛造・旋削ロット別のICタグまたはこの鍛造・旋削ロット別のICタグの記録情報を引き継いだICタグを熱処理ロット別に準備し、これらのICタグに、対応する熱処理ロットについての熱処理ロット番号および熱処理工程で得られる情報を記録する過程。
【0026】
(4) .上記研削工程の後の検査工程で、熱処理ロット別のICタグまたはこの熱処理ロット別のICタグの記録情報を引き継いだICタグを、要素品毎または検査の単位となる同種類の要素品の組毎に準備し、これらICタグに、対応する研削ロット番号および検査工程で得られる情報を記録する過程。
上記各要素品を組み立てた各等速自在継手には、組立前から組立後に至る間にICタグを取付け、この等速自在継手に取付けられたICタグに、個別の等速自在継手特有の製造番号、および上記等速自在継手に用いられた各要素品の上記検査工程後のICタグの記録情報のうち、少なくとも製造番号を記録する。データベースには上記製造番号と対応して、上記等速自在継手に用いられた各要素品の上記検査工程後のICタグの記録情報、および等速自在継手の完成後の検査情報を記録する。
【0027】
なお、上記材料受入、鍛造・旋削工程、熱処理工程、および研削工程の各工程は、材料受入から要素品の完成までを、大別した各区分のことであり、上記各工程が複数の工程からなる場合や、さらに工程名称に該当しない工程を含むものであっても良い。例えば、鍛造後に旋削し、熱処理を行うような場合、旋削工程は上記鍛造工程に含むものとする。また、上記(2) 〜(4) の鍛造・旋削工程、熱処理工程、および研削工程の各工程で得られる情報を記録する過程では、これら鍛造・旋削工程、熱処理工程、および研削工程の加工条件情報を含めて記録しても良い。また、上記(2) 〜(4) の鍛造・旋削工程、熱処理工程、および研削工程の各工程で得られる情報を記録する過程では、これら鍛造・旋削工程、熱処理工程、および研削工程の加工条件情報を含めて記録しても良い。
【0028】
この品質管理方法によると、各要素品の材料受入から等速自在継手の完成後の検査内容までの履歴情報が、データベースに記憶され、等速自在継手に取付けられたICタグには製造番号が記録されているため、製造番号をデータベースと照合することで、上記履歴情報を等速自在継手と1対1の関係管理することができる。各要素品の工程毎に発生する情報は、工程毎にその工程のロット別に準備したICタグにロット番号と共に記録するため、詳細な履歴情報を管理することができる。
したがって、将来の技術的な改善等の対処が容易となり、寿命診断等も容易となる。上記工程毎の情報は、その工程のロット毎に準備したICタグに記録するため、手書き伝票に記録する場合に比べて詳細な情報の記録が行え、また例えば端末からコンピュータに入力する場合と異なり、情報を入力するべき箇所がICタグであるために視覚的に認識できて、入力作業が明確となり、誤りが生じにくい。また、要素品の材料受入から研削工程の各工程にわたる種々雑多な全ての情報をコンピュータに記録するものと異なり、これらの記録情報をICタグで持っておくため、コンピュータの負担が軽く、管理が容易になる。このため、容易に、かつより詳細な情報の管理することができる。また、等速自在継手の製造番号は、等速自在継手に取付けらたICタグに記録するので、このICタグを、製造後の各種の用途、例えば出荷管理、流通管理、顧客管理、メンテナンス管理等に用いることができる。
【0029】
この発明における第5の等速自在継手の品質管理方法は、ロット別に検査される等速自在継手の品質管理方法である。この等速自在継手の品質管理方法は、材料受入から鍛造および旋削の少なくとも一方の工程である鍛造・旋削工程、熱処理工程、および研削工程を経て製造される要素品を複数種類含んで組み立てられ、上記各要素品について、次の各過程(1) 〜(3) ,(4) ′を含み、各要素品を組み立てた等速自在継手について、後述の過程を採る。上記(1) 〜(3) の過程は、上記第4の等速自在継手の品質管理方法と同じであるが、再度示す。
【0030】
(1) .これら各要素品の材料受入時に、材料ロット別に準備されたICタグに、対応する材料ロットについての材料ロット番号および受入材料に関する情報を記録する過程。
(2) .上記鍛造・旋削工程で、上記材料ロット別のICタグまたはこの材料ロット別のICタグの記録情報を引き継いだICタグを鍛造・旋削ロット別に準備し、これらのICタグに、対応する鍛造・旋削ロットについての鍛造・旋削ロット番号および鍛造・旋削工程で得られる情報を記録する過程。
(3) .上記熱処理工程で、鍛造・旋削ロット別のICタグまたはこの鍛造ロット別のICタグの記録情報を引き継いだICタグを熱処理ロット別に準備し、これらICタグに、対応する熱処理ロットについての熱処理ロット番号および熱処理工程で得られる情報を記録する過程。
【0031】
(4) ′.上記研削工程の後の検査工程で、熱処理ロット別のICタグまたはこの熱処理ロット別のICタグの記録情報を引き継いだICタグを研削ロット別に準備し、これらICタグに、対応する研削ロットについての研削ロット番号および検査工程で得られる情報を記録する過程。
上記各要素品を組み立てた各等速自在継手に、組立前から組立後に至る間にICタグを取付け、この等速自在継手に取付けられたICタグに、製造ロット番号、および上記等速自在継手に用いられた各要素品の上記検査工程後のICタグの記録情報のうち、少なくとも製造ロット番号を記録し、データベースに上記製造ロット番号と対応して、上記等速自在継手に用いられた各要素品の検査工程後のICタグの記録情報、および等速自在継手の完成後の検査情報を記録する。
【0032】
なお、上記(2) ′〜(4) ′の鍛造・旋削工程、熱処理工程、および研削工程の各工程で得られる情報を記録する過程では、これら鍛造・旋削工程、熱処理工程、および研削工程の加工条件情報を含めて記録しても良い。
【0033】
この品質管理方法の場合、等速自在継手の製造ロット別の管理となり、1対1の管理とはならないが、その他の事項については、上記第1の等速自在継手の品質管理方法で説明した各作用,効果が得られる。データベースに対する照合は、等速自在継手に取付けられたICタグから得られるロット番号で行う。
【0034】
この発明において、各工程のロット毎に準備されるICタグは、同じロットの材料ないし製造過程の要素品を入れた容器類にそれぞれ取付けても良い。例えば、上記材料ロット別に準備されるICタグ、鍛造ロット別に準備されるICタグ、および熱処理工程別に準備されるICタグは、同じ材料ロットの材料を複数入れた容器類、同じ鍛造ロットの要素品を複数入れた容器類、および同じ熱処理ロットの要素品を入れた容器類にそれぞれ取付けても良い。
ICタグの容器類への取付は、直接に行っても良く、また容器に取付けられて視覚的に認識させるためのタグに取付けても良い。ICタグの容器類への取付は着脱自在な取付であっても良い。
ICタグを容器類に取付けておくことで、ロット毎に準備されるICタグを、常に要素品と共に移動させることができ、ICタグの取扱が容易である。また、要素品の搬送経路でICタグへの情報の記録を行うことができる。
【0035】
この発明において、前記等速自在継手は、要素品としてブーツを有し、少なくともこのブーツにICタグを取付けるようにしても良い。
一般のICタグは、電波の反射等のため、金属面に直接に取付けることができないが、ブーツは、ゴムまたは樹脂製とされるため、ICタグを直接に取付けても、反射の問題がなく、優れた交信性が得られる。また、ブーツは、等速自在継手において、最も外側に配置される部品であるため、これにICタグを取付けると、交信の障害物が介在せず、良好に交信できる。これらのため、等速自在継手の識別情報や、製造完了後の検査情報、あるいは物流過程や保守情報等は、このブーツに取付けられたICタグに記録することが便利である。ブーツ自体の情報も、このブーツに取付けられたICタグに記録しておいても良い。
【0036】
上記等速自在継手は、組み立て時にグリースが封入されるものであっても良く、その場合、上記等速自在継手に取付けられたICタグに、その等速自在継手の組み立て年月日を記録することが好ましい。
グリースは、経時的に劣化するため、組み立て年月日が分かれば管理が容易になる。
【0037】
この発明において、上記等速自在継手に取付けられたICタグに、その等速自在継手の出荷から客先納入までの所在等の情報を記録しても良い。これにより、出荷管理、流通管理、顧客管理、メンテナンス管理等が容易になる。
【発明の効果】
【0038】
この発明の等速自在継手の品質管理方法は、等速自在継手につき、非接触で交信が可能なICタグを用い、等速自在継手に関する所定情報を記録して管理する等速自在継手の品質管理方法であって、等速自在継手にICタグを取付ける過程と、この等速自在継手に取付けられたICタグに、その等速自在継手についての情報を記録する過程と、出荷後の任意時に、上記ICタグの記録情報を読み取ってその読み取り情報から、所定情報の確認を行う利用過程とを含む方法であるため、車検等の定期点検に迅速かつ適切に対処できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
この発明の実施形態を図面と共に説明する。図1は一対の等速自在継手を含む車両用ドライブシャフトを示し、図2,図3はその各等速自在継手をそれぞれ拡大して示す。図1において、車両用ドライブシャフト11は、中間軸となる軸12と、その一端に装着された固定式の等速自在継手13と、他端に装着されたスライド式の等速自在継手13Aを具備して構成される。固定式の等速自在継手13は、車両の車輪用軸受(図示せず)に結合され、スライド式の等速自在継手13Aはエンジンからの駆動伝達系(図示せず)に結合される。
【0040】
図2に示すように、固定式の等速自在継手13は、外側継手部材14と、内側継手部材15と、転動体である複数のボール16と、保持器17とが主要な要素品とされ、いずれも鋼製の要素品とされる。この他にブーツ18を有している。外側継手部材14は、カップ状のマウス部14aと軸状のステム部14bとで構成され、マウス部14aの内周面に複数の案内溝14cが軸方向に形成されている。内側継手部材15は、外周面に複数の案内溝15cを軸方向に形成した部材である。上記複数のボール16は、両継手部材14,15の案内溝14c,15cにより形成される各ボールトラックにそれぞれ介在している。案内溝14c,15cは、軸方向に沿う断面が円弧状とされている。保持器17は、各ボール16を同一平面内に保持する部材であり、周方向の複数箇所に設けられたポケット内にボール16を保持している。内側継手部材15は、内周にセレーションまたはスプライン等の凹凸部を有する中央孔を備え、上記軸12がトルク伝達可能に嵌合している。
【0041】
ブーツ18は、外側継手部材14の開口部を覆うゴムまたは合成樹脂性の弾性材からなり、蛇腹部18aと、その両端に続く大径側および小径側の固定部18b,18cとを有する。大径側の固定部18bは、外側継手部材14の開口部の外周に嵌合し、ブーツバンド19Aで外側継手部材14に固定される。小径側の固定部18cは、軸12に設けられたブーツ固定部12dの外周に嵌合し、ブーツバンド19Bで固定される。
【0042】
図3において、スライド型の等速自在継手13Aは、外側継手部材14および内側継手部材15の案内溝14c,15cの底面が、いずれも直線状とされ、外側継手部材14と内側継手部材15とが互いにスライド自在とされている。その他の構成は、図2に示す固定型の等速自在継手13と同様であるので、対応する箇所に同一符号を付してその説明を省略する。
【0043】
図1のスライド型の等速自在継手13Aとして、図14に示すトリボード型の等速自在継手13Bを用いても良い。トリボード型の等速自在継手13Bは、内側継手部材15Bが、トラニオン軸15Baを有するトリボード部材からなり、転動体としてトラニオン軸15Baに支持されたローラ16Bが設けられる。その他の構成は図3の等速自在継手13Aと同様である。
【0044】
図1の各等速自在継手13,13AにICタグ9を取付ける取付箇所の例を説明する。トリボード型の等速自在継手13Bの場合も、上記各等速自在継手13,13Aと同様にICタグ9が取付けられるが、その説明は省略する。
【0045】
等速自在継手13,13AにICタグ9を取付ける場合、そのブーツ18か、外側継手部材14か、または軸12に取付けることが好ましい。この取付位置であると、外部にICタグ9が露出して交信の妨げが生じない。特にブーツ18は、ゴムまたは樹脂製であるため、ICタグ9として金属上に直接に配置することのできない一般的なものを用いても、電波等による交信が妨げられることなく、交信を行うことができる。また、ICタグ9を金属上に設置する場合の処置が不要となる。
等速自在継手13,13AにICタグ9を取付けることで、この等速自在継手13,13Aに情報を記録することができ、またその情報を非接触で読み取ることができて、等速自在継手13,13Aの識別や、その他の管理を行うことができる。
【0046】
図4,図5は、それぞれ固定側の等速自在継手13およびスライド型の等速自在継手13Aにおいて、ブーツ18にICタグ9を取付ける例を示す。ブーツ13にICタグ9を取付ける場合は、蛇腹部18aにおける大径側固定部18bに隣接する外径部18a1に取付けることが好ましい。
蛇腹部18aは、その大部分が、伸縮や曲げ動作を繰り返し生じるため、取付の確実の面で、ICタグ9を取付けることはあまり好ましくない。また、固定部18b,18cの外周は、金属製のバンド19A,19B(図2,図3)で締め付けられて隠れる位置となるため、交信が困難である。しかし、蛇腹部18aにおける大径側固定部18bに隣接する外径部18a1は、等速自在継手13,13Aの屈曲による影響を受けない箇所であるため、この箇所に取付けることで、繰り返し生じる屈曲動作に係わらずに、ICタグを長期間に渡って脱落しないように堅固に固定することができる。
【0047】
図4(B),図5(B)に示すように、ICタグ9は、ブーツ18の小径側の固定部18cの端面に取付けても良い。また、大径側の固定部18bの端面に取付けても良い。これら固定部18b,18cの端面も、等速自在継手13,13Cの屈曲による影響を受けない箇所であるため、この箇所に取付けることで、繰り返し生じる屈曲動作に係わらずにICタグ9を長期間に渡って脱落しないように堅固に固定することができる。
【0048】
ICタグ9をブーツ18に取付ける場合に、ICタグ9は表面に貼り付けることにより取付けても良く、またインサート成形等により、ブーツ18に埋め込み状態に取付けても良い。
【0049】
図6,図7は、それぞれ固定側の等速自在継手13およびスライド型の等速自在継手13Aにおいて、外側継手部材14にICタグ9を取付ける例を示す。これらの例では、ICタグ9は、ステム部14bの端面に設けられた凹部31内に取付けている。凹部31は外側継手部材14の旋削や研削加工等を行うときのセンタ支持のために設けられたものである。
この凹部31は、等速自在継手13,13Aの完成時は不要となるが、この凹部31を利用してICタグ9を取付けることで、専用の加工を施すことなく、ICタグ9を埋め込み状態に設置することができる。
【0050】
図8は、軸12にICタグ9を取付ける場合の例を示す。軸12に取付ける場合に、ICタグ9は、軸12の端面に設けられた凹部32内に取付けても良い。
軸12についても、旋削等の各種の加工を行うときのセンタ支持のための凹部32が設けられることが多い。この凹部32を利用してICタグを取付けることで、専用の加工を施すことなく、ICタグ9を埋め込み状態に設置することができる。
【0051】
軸12にICタグ9を取付ける場合に、軸12の軸中間部分12aの外周面に取付けても良い。軸12は、図8の例のように、軸中間部分12aとその両側の軸端部側部分12b,12cとが同じ径に形成されたものと、図9のように軸中間部分12aを軸端部側部分12b,12cよりも大径に形成したものとがある。軸12の素材には、両側のブーツ固定部12dの形成のために必要径よりも大径の素材が用いられ、軸端部側部分12b,12cは必要径に旋削等で細く加工されるが、軸中間部分12aは略素材太さの状態とされる場合と、必要径に加工される場合とがあるためである。
【0052】
図8の例のように、軸中間部分12aが細く加工される場合は、その外周にそのままICタグ9を取付けるようにする。
図9の例のように、軸中間部分12aが軸端部側部分12b,12cよりも大径とされたものである場合は、軸中間部分12aの外周に取付溝33を設け、この取付溝33内にICタグ9を取付けても良い。このような軸12では、軸中間部分12aは強度的に過剰となっている部分であり、この部分に取付用溝33を設けてICタグを取付けることで、軸12の強度低下の問題を生じることなく、ICタグ9を埋め込み状態に取付けることができる。
また、車両用ドライブシャフト11では、軸12の軸中間部分12aにICタグ9を取付けると、周辺空間が広くてICタグ9との交信が行い易い。
【0053】
上記のように取付けられるICタグ9には、等速自在継手13,13Aについての情報を記録するが、車両用ドライブシャフト11についての情報を記録しても良い。
【0054】
等速自在継手13,13AにICタグ9を取付ける場合、上記の各例の他に、等速自在継手13,13Aを構成する外側継手部材14,内側継手部材15,保持器16等の要素品の少なくとも一つに、文字または記号を示す刻印35(図15)を施し、その刻印の近傍に取付用凹部34を刻印加工によって施し、この凹部34内にICタグ9を取付けても良い。この場合に、同図のように、文字等の刻印35の形成と、取付用凹部34の形成とは、それぞれの刻印加工を行う工具36,37を同じ工具ホルダ38に取付けるなどして同時に行う。刻印35は、例えば、外側継手部材14の外周面やそのステム部14bの端面等に施す。
【0055】
上記刻印35は、社名やロット番号等の情報を示すものであり、ICタグ9を取付けると省くこともできるが、人間による視覚的な判断のために、ICタグ9と併用することが好ましい場合がある。この刻印35の形成過程で、ICタグ9の取付用凹部34を同時に刻印で形成することにより、取付用凹部34の加工の工数を増やすことなく、ICタグ9を埋め込み状態に取付けることができる。
【0056】
図10は、図2に示す固定型の等速自在継手13の製造工程を示す。等速自在継手13を構成する各要素品である外側継手部材14、内側継手部材15、および保持器17は、それぞれ図10(A)〜(C)に示すように製造される。これら外側継手部材14、内側継手部材15、および保持器16は、いずれも概略の工程区分として、材料受入から、鍛造および旋削の少なくとも一方を行う工程である鍛造工程S2(請求項では鍛造・旋削工程と称しているが、ここでは鍛造工程と略称する)、熱処理工程S3、研削工程S4を含む。
【0057】
外側継手部材14の場合、鍛造工程S2では、鍛造、旋削、およびスプラインねじ転造を順に行う。熱処理工程S3では、高周波熱処理を行う。
内側継手部材15の場合、鍛造工程S2では、鍛造、旋削、およびスプラインブローチ加工を行う。熱処理工程S3では、例えば浸炭焼入れを行う。
保持器17の場合、鍛造工程S2では、パイプ切断、旋削、窓プレス、シェービング等を行う。熱処理工程S3では、例えば浸炭焼入れを行う。
【0058】
ボール16の製造過程は、図示は省略するが、鍛造工程として(S2)として、型打ち、ブラッシング、および生研磨の工程が含まれ、この後、熱処理工程(S3)、研削工程(S4)によって製造される。
【0059】
上記ように製造された各要素品は、同図(D)に示すように組立られる。この場合に、保持器と内輪とを組合せてカセットを構成し(a)、そのカセットを外側継手部材14に入れ(b)、ボール16を入れ(c)、グリースを封入する(d)。
【0060】
図11は、スライド型の等速自在継手13Aの製造工程を示すが、固定型の等速自在継手13と場合と略同じであるため、その説明を省略する。
【0061】
図12(A),(B)は、軸12の製造過程を示し、それぞれバー材を素材とする場合の例と、パイプ材を素材する場合の例を示す。
図12(A)の例では、バー材を所定長さに切断し、旋削し、スプライン転造し、熱処理を行う。
図12(B)の例では、パイプ材を所定長さに切断し、スェージングを行い、スプライン転造し、熱処理を施す。
【0062】
図13は、上記のように製造される等速自在継手13,13Aを、車両用ドライブシャフト11に組み立てる組立工程例を示す。
軸12に小丸グリップを圧入し(A)、等速自在継手13の内側継手部材15(図2)に軸12を挿入する(B)。軸12にブーツ18と、小バンド2個と、スライド型の等速自在継手13Aにおけるブーツ18を通す(C)。スライド型の等速自在継手13Aにおける内側継手部材15および保持器17のカセットを挿入し、スナップリングを組付け、ブーツ18にグリースを封入する(D)。スライド型の等速自在継手13Aにおける外側継手部材14にグリースを封入した後、大丸クリップを外側継手部材14に嵌め(E)、ブーツ8を被せて小バンド、大バンドを加締める(F)。スライド型側の外側継手部材14に小丸グリップを嵌め(G)、最後に外側継手部材14にダストカバーを圧入する。
【0063】
図16,図17と共に、この実施形態で用いられるICタグ9の例を説明する。なお、後の製造過程で用いられるICタグ4も、これと同様である。ICタグ4,9に対する情報の記録および読取りは、タグリーダ/ライタ20によって行われる。タグリーダ/ライタ20は、ICタグ4,9に対向させるアンテナ21を有している。タグリーダ/ライタ20は、コンピュータ等の情報処理手段23によって制御される。ICタグ4,9から情報の読み取りのみを行う場合は、タグリーダ/ライタ20の代わりに、読み取り専用のタグリーダを用いても良い。
【0064】
ICタグ4,9は、非接触で情報の記録および読取りが可能なものであり、ICチップ(集積回路のチップ)25と、アンテナ26とで構成される。これらICチップ25とアンテナ26は、樹脂(図示せず)で一体に包囲される。
ICタグは種々の形式,形状,大きさのものがあり、板状の物の他、例えば1mm未満の大きさの角状や球状の物などがあり、また記憶容量も種々異なるが、取付対象に応じて大きさや種類等に応じて適宜選択すればよい。後述の要素品2の管理に用いるICタグ4は容器類61(図22,図23)に取付けるため、比較的大きなもので良いが、等速自在継手13,13Aに取付けるICタグ9は、小さなものが好ましい。ICタグ4,9としては、例えば、RFID(無線周波数認識:Radio Frequency Identification)技術を応用したFRIDタグが利用できる。FRID形式のICタグは、伝送方式として静電結合、電磁結合、電磁誘導、マイクロ波、光などを用いる形式のものがあり、このうちいずれの形式のものを用いても良いが、例えば電磁誘導形式のものが用いられる。
ICタグは、周辺に金属があっても使用可能なものがあり、等速自在継手13,13A取付ける場合において、ブーツ18以外の箇所に取付ける場合は、このようなものが好ましい。
【0065】
図17はICタグ4,9の具体的回路例を示す。このICタグ4,9のICチップ25は、中央処理装置(CPU)27、メモリ28、送受信回路29、および電源回路30を有しており、電源回路30はアンテナ26から電源を得るものとされている。メモリ28は、情報の記憶に電源が不要なものが用いられる。
【0066】
等速自在継手13,13Aに取付けられるICタグ9は、上記のように識別情報や製造情報の管理に用いられるが、次のように、等速自在継手13,13Aの使用に係る状況を記録するようにしても良い。ICタグ9に記録される使用にかかる状況としては、総回転数、最高回転数、温度、およびトルク等があり、その少なくとも一つを記録することが好ましい。総回転数は、車両の場合、走行距離の情報であっても良い。
等速自在継手13,13Aに取付けられたICタグ9に使用の状況を記憶させることにより、等速自在継手13,13Aの実際の使用の状況を、後に読みだして確認することができる。非接触で交信が可能なICタグ9を用いるため、使用状況となる情報の読み書きを容易に行うことができる。
【0067】
等速自在継手13,13Aは、図1と共に前述したように、自動車におけるドライブシャフト11を構成するものであっても良い。その場合に、図19のように、ICタグ9に対し交信を行うリーダ/ライタ20、およびこのリーダ/ライタ20を介してICタグ9に所定の情報を書き込む書込処理手段41を自動車に搭載しておき、この書込処理手段41を介してICタグ9に前記使用に係る状況を記録するようにしても良い。書込処理手段41は、例えば自動車の全体を制御する電気制御ユニット(ECU)42に設けても良い。
ICタグ9は、情報の記憶には電源が不要なものが一般的であるが、その読み書きにはリーダ/ライタ20が必要となる。リーダ/ライタ20および書込処理手段41を車両に搭載しておくことで、等速自在継手13,13Aの使用状況の書き込みが、運転者等の操作を必要とせずに、自動的に行われるようにできる。
【0068】
この場合に、前記書込処理手段41は、前記使用に係る状況の記録を定期的に行う機能を有するものとしても良い。定期的な記録は、例えば1日1回等のように時間的に定められた所定の間隔で行うようにしても、または自動車のキーのオン時毎などのように、時間以外の定まって要件の充足時に行うようにしても良い。時間的に定められた所定の間隔で記録させるには、書込処理手段41は、タイマ43で設定された時刻に書き込み処理を行うようにする。また、エンジンキー44のオンで書込処理手段41が書き込み動作を開始するようにすれば、キーのオン毎に書き込みが行える。
これらにより、等速自在継手の使用状況のICタグへの記録が、忘れたり恣意的となったりすることなく、確実に行える。
【0069】
前記書込処理手段41は、ICタグ9に、前記使用に係る状況として走行距離および最高速度の両方またはいずれか一方を記録するものとしても良い。これら走行距離および最高速度の記録は、ICタグ9の記録内容を更新することで行うものとしても良い。走行距離および最高速度の情報は、それぞれ等速自在継手13,13Aの総回転数、最高回転数の情報に対応する。
走行距離および最高速度は、電気制御ユニット(ECU)42に入力される車速センサ45および走行距離計46の検出値から分かる。これを等速自在継手13,13AのICタグ9に記録しておくことで、その等速自在継手13,13Aについての記録が残る。ICタグ9は、小型化すると記憶容量が小さくなるが、走行距離および最高速度を更新して記録すると、記憶容量の不測が回避される。
【0070】
等速自在継手13,13Aに取付けられるICタグ9を出荷後における実際の使用状況の管理に用いる場合は、図20に示すように、ICタグ9に、等速自在継手13,13Aについての検出対象を検出するセンサ40を接続しても良い。この場合に、センサ40はICタグ9と一つのチップや基板上等に一体化されたものであっても良い。センサ40には、例えば温度センサや歪みゲージ等が用いられる。
センサ40を接続してその検出情報をICタグ9を記録するようにすると、等速自在継手13,13Aの温度や負荷トルク等の使用状況を記録することが可能となる。
等速自在継手13,13Aは、使用条件によっては発熱が多くなるため、温度が分かると等速自在継手の使用状況の管理に便利である。また、無理な荷重条件で使用されると、異常トルクが発生するため、トルクについても記録しておくと、各種の解明等に便利である。
【0071】
等速自在継手13,13Aにセンサ40を設けてICタグ9に記憶させることが好ましいさらに他の事項としては、車両用ドライブシャフト11の軸12に作用する曲げモーメントや軸力等がある。曲げモーメントは、軸12の起振力に影響し、車両走行時における車室内のうなり音発生の状況解明に利用できる。曲げモーメントの検出にはセンサとして歪みゲージ等を用いる。この他、スライド型の等速自在継手13A(図4)、13B(図14)では、作動角を取りつつ回転伝達を行う際に生じる誘起スラスト力やスライド抵抗をセンサで検出してICタグ9に記録しておくと、等速自在継手13A、13Bの良好な動作が得られる耐久性の判断等に役立てることができる。
【0072】
図21は、等速自在継手13の製造から廃棄までの流れの各段階と、その各段階でのICタグ9を利用した品質管理過程を示す。スライド型の等速自在継手13Aの場合も、固定型の等速自在継手13と同様に管理される。この軸継手の品質管理方法は、等速自在継手13にICタグ9を取付け、このICタグ9に等速自在継手13に関する材料購入から、鍛造工程、熱処理工程、研削工程および検査に至る所定の製造情報を記録し、ICタグ9から読み取った記録情報から、等速自在継手13の品質管理に関するトレーサビリティを可能にする方法である。上記材料購入の代わりに他の材料受入方法を採る場合も、材料購入の場合と同様な管理を行う。上記鍛造過程は、鍛造の後に旋削を含む過程であっても良く、鍛造せずに素材から旋削を行う過程であっても良い。特許請求の範囲では「鍛造・旋削工程」と呼んでいるが、ここでは単に「鍛造工程」と称する。ICタグ9は、非接触で情報の記録および読取りが可能なものである。
また、以下の説明において、等速自在継手13を構成する外側継手部材14,内側継手部材15,ボール16,保持器17,軸12,およびブーツ18等の要素品につき、特に区別の必要のないときは、単に要素品2として符号を付し、総称する。
この軸継手の品質管理方法は、次のICタグ取付過程R1、製造情報の記録過程R2、および記録情報の読取り利用過程R3を含む。
【0073】
(ICタグ取付過程R1)
この過程では、等速自在継手13の製造時または製造完了時にICタグ9を等速自在継手13に取付ける。この場合に、等速自在継手13を構成する外側継手部材14や、軸12、ブーツ18等の要素品2の一つにICタグ9を取付けてから、等速自在継手13を組み立てても良く、また等速自在継手13の組立が完了してから等速自在継手13にICタグ9を取付けても良い。
【0074】
(製造情報の記録過程R2)
この過程では、この等速自在継手13に取付けられたICタグ9に、出荷時または客先納入時までに、その等速自在継手13についての材料購入から、鍛造工程、熱処理工程、研削工程、および検査に至る所定の製造情報を記録する。この記録する製造情報には、鍛造工程、熱処理工程、研削工程のうちの少なくとも一つの工程における加工条件情報を含ませる。上記等速自在継手13についての材料購入、鍛造工程、熱処理工程、および研削工程は、等速自在継手13の各要素品2についての材料購入、鍛造工程、熱処理工程、および研削工程のことである。加工条件情報は、例えば鍛造工程ではプレス圧やサイクルタイム等であり、熱処理工程では熱処理温度、熱処理時間、熱処理方法等であり、研削工程では砥石回転速度や切り込み速度、送り速度等である。上記製造情報として、加工条件の他に、その等速自在継手13についての製造年月日、製造場所、封入グリース銘柄、要素品間隙間、品質保証期間、取扱いに関する注意事項のうち、少なくとも一つの情報を記録することが好ましい。また各種検査結果も記録することが好ましい。各種検査結果には各要素品2毎の検査結果と、完成品としての検査結果とが含まれる。また、これらの製造情報の他に、等速自在継手13の識別情報を記録することが好ましい。等速自在継手13の識別情報は、個々の等速自在継手13に個別の識別情報、例えば製造番号であっても、また等速自在継手13のロット別の識別情報、例えばロット番号であっても良い。製造情報の記録は、一度に行っても、また何回かに分けて行っても良い。例えば、等速自在継手13の組立が完了して完成品検査をしたときに、検査結果や検査条件にかかる情報を記録し、後に残りの製造情報を記録しても良く、また上記検査の情報を含めて全ての製造情報を一度に記録しても良い。
【0075】
(情報読取り利用過程R3)
この過程は、出荷後の任意時に、上記ICタグ9の記録情報を読み取ってその読み取り情報から、少なくとも上記加工条件情報の確認を行う過程である。
等速自在継手13の完成から廃棄までの流れとしては、自動車用の等速自在継手13の場合、一般的には図1のように、等速自在継手13の組立完成から、完成品検査、出荷、倉庫での保管、営業所での保管、客先納入(顧客自動車メーカーによる購入、自動車への等速自在継手13の組み込み)、顧客または販売会社における自動車の販売ルート(または自動車のリースのルート)と、自動車の使用者での購入および使用、廃棄、という流れとなる。特注品の場合は、出荷後に直接に客先に納入されることもある。
機械設備用の等速自在継手13の場合は、図1の過程で、顧客での購入の後、顧客機械のへの組付け、使用を行い、廃棄に至る。
【0076】
ICタグ9に記録された情報の読取りおよび利用は、出荷後の任意の段階で、必要に応じて行われ、その読取り情報から必要な情報の確認が行われる。
【0077】
ICタグ9の情報読み取りに際して、自動車に取付けられている等速自在継手13は、自動車に取付けたままで、例えば図18に示すように自動車にタグリーダ/ライタ20を近づけることで行える。そのため、簡単かつ迅速に、等速自在継手13についての情報が得られる。
例えば、タグリーダ/ライタ20に設けられた情報処理手段20bに、ICタグ9の読み取り情報を出力させるようにしてもよい。図18の例は、タグリーダ/ライタ20は携帯型のものであって、タグリーダ/ライタ部20aと情報処理手段20bとを有するものを用いている。タグリーダ/ライタ20は、読み取り専用のタグリーダであっても良い。
【0078】
図21において、情報読取り利用過程R3における付加的な利用として、等速自在継手13に取付けられたICタグ9におけるメモリの空き容量部分が、出荷管理や在庫管理、流通管理、メンテナンス管理等に適宜用いられる。また、等速自在継手13の最高回転数等の使用状況の管理に用いられる。なお、使用状況の管理用のICタグ9は、製造情報の管理用のICタグ9とは別に設けても良い。
【0079】
この等速自在継手の品質管理方法によると、出荷後の任意時の情報読取り利用過程R3で、鍛造工程、熱処理工程、研削工程等のいずれかの加工条件情報を確認することができる。そのため厳しい品質,精度が求められる等速自在継手13においても、技術的な解明等を容易に行うことができる。また、この方法の場合、別のデータベースを用いることなく、ICタグ9のみで情報を管理することができるため、加工条件情報を確認する施設において、データベースへの通信設備やアクセス権限等の有無にかかわらずに加工条件情報の読み取りが行える。
【0080】
上記実施形態は、ICタグ9にできるだけの製造情報を記録しておいて、その記録情報により品質管理を行う方法であるが、データベース50と併用しても良い。
すなわち、データベース50として、等速自在継手13の識別情報に関連付けてその等速自在継手13に関する材料購入から、鍛造工程、熱処理工程、研削工程および検査に至る所定の製造情報を記憶し、記憶内容を上記識別情報により抽出可能なものを準備しておく。このデータベース50と、等速自在継手13に取付けられたICタグ9とを用いて品質管理を行う。この場合、上記各過程R1〜R3では次の処理を行う。
【0081】
(ICタグ取付過程R1)
この過程R1は、上記実施形態と同じである。
(製造情報の記録過程R2)
この過程では、等速自在継手13に取付けられたICタグ9に、上記データベース50に従い、出荷時、または客先納入時までに、その等速自在継手13についての製造番号またはロット番号等の識別情報を記録し、かつその等速自在継手13についての製造情報を記録する。この記録する製造情報には、各要素品2の鍛造工程、熱処理工程、研削工程のうちの少なくとも一つの工程における加工条件情報を含ませる。データベース50を併用するため、ICタグ9へ記録する製造情報は、ICタグ9から直接に読取ることが便利な情報だけに限っても良い。例えば、等速自在継手13についての製造年月日、製造場所、封入グリース銘柄、要素品間隙間、品質保証期間、取扱いに関する注意事項などは、ICタグ9に記録しておくことが好ましい。
【0082】
(情報読取り利用過程R3)
この過程では、上記出荷後の任意時に、ICタグ9の記録情報を読み取って、その読み取り情報から、または読み取られた識別情報を上記データベース50と照合してその照合により得られた情報から、購入材料の確認、製造工程の確認、その加工条件情報の確認、および検査成績の確認等のいずれかを行う。ICタグ9やデータベース50に記録されているその他の各種の利用を行っても良い。
【0083】
この管理方法においても、出荷後の任意時の情報読取り利用過程R1で、鍛造工程、熱処理工程、研削工程等のいずれかの加工条件情報を確認することができる。そのため、厳しい品質,精度が求められる等速自在継手13においても、技術的な解明等を容易に行うことができる。また、等速自在継手13に取付けられたICタグ9には、識別情報を記録し、データベース50に上記識別情報と対応して各種の情報を記録するため、限りあるICタグ9の記憶容量に頼らずに、多量の情報をデータベース50から引き出すことができる。またICタグ9の残りの記憶容量を、出荷後や客先納入後の各種の履歴管理等に利用することができる。
この管理方法、およびデータベース50の詳細は、後に図22以降の各図と共に説明する。
【0084】
上記各実施形態において、製造情報の記録過程R2で記録するための各種の製造情報の収集は、製造時管理用のデータベース54に記録しておいて、等速自在継手13のICタグ9に記録するようにしても良く、また等速自在継手13に取付けられるICタグ9とは別の製造過程用のICタグ4を利用して行っても良い。
製造時管理用のデータベース54に記録しておく方法では、等速自在継手13の要素品2の材料購入から、鍛造工程、熱処理工程、研削工程、および検査に至る所定の製造情報を、製造時管理用のデータベース54に要素品2のロット番号または要素品個別の識別番号に関連付けて記録する過程と、この記録した情報を、上記等速自在継手13に取付けられたICタグに記録する過程とを含む。なお、製造時管理用のデータベース54は、例えばコンピュータネットワークにおける1台または複数台のコンピュータ(図示せず)に設けられる。
【0085】
製造過程用のICタグ4を利用する方法は、後に図22以降の各図と共に詳述するが、概略を示すと次のとおりである。この方法では、等速自在継手13の要素品2の材料購入から鍛造工程、熱処理工程、および研削工程に至る所定の製造情報を、要素品2のロット番号別に準備された製造過程用のICタグ4に各工程毎に記録する過程と、この記録した情報を読み取ってその読み取り情報の一部または全体を上記等速自在継手13に取付けられたICタグ9に記録する過程とを含む。製造過程用のICタグ4に記録する製造情報として、鍛造工程、熱処理工程、および研削工程のうちの少なくとも一つの工程における加工条件情報を含むようにする。
【0086】
製造過程用のICタグ4を利用する方法は、特注品などのように個別に検査される等速自在継手13の場合と、一般品などのようにロット別に検査される等速自在継手13の場合とがある。一般的にはロット別検査とされる。図22は個別検査品(特注品)の場合を示し、図23はロット別検査品(一般品)の場合を示す。個別検査品(特注品)とロット別検査品(一般品)とで、研削工程後の検査、および組立後の検査が個別検査かロット別検査かで異なる他は、同じであるため、まず、個別検査品(特注品)について説明し、ロット別検査品(一般品)については、個別検査品(特注品)との違いを説明する。
【0087】
この品質管理方法の管理対象とする等速自在継手13は、複数種類の要素品2((1) 〜(n) )を組み立てたものであって、それら複数種類の要素品2((1) 〜(n) )が、材料購入S1から、鍛造工程S2、熱処理工程S3、および研削工程S4を経て製造されるものである。これらの工程S1〜S4を経て製造される要素品2には、外側継手部材14、内側継手部材15、保持器17、および軸12が該当する。
等速自在継手13は、上記材料購入S1から、鍛造工程S2、熱処理工程S3、および研削工程S4を経て製造される要素品2とは別の要素品2を含んでいる。別要素品2としては、ブーツ18等がある。
上記材料購入S1から、鍛造工程S2、熱処理工程S3、および研削工程S4の各工程は、材料購入から要素品2の完成までを、大別した各区分のことであり、上記各工程が複数の工程からなる場合や、さらに工程名称に該当しない工程を含むものであっても良い。各工程S1〜S4の名称は、その区分した工程を代表する処理の名称である。
【0088】
この管理方法は、上記の各要素品2((1) 〜(n))について、次の各過程(1) 〜(4) を含み、各要素品2を組み立てた等速自在継手13について、後述の過程を採る。なお、各工程のロットは、製造工程の下流側で分かれることがあるが、併合はしない。
(1) .材料購入(S1)時の管理過程。
各要素品2の材料購入時に、材料ロット5別に準備されたICタグ4に、対応する材料ロット5についての材料ロット番号、および購入材料に関する情報を記録する。
(2) .鍛造工程(S2)の管理過程。
材料ロット5別のICタグ4、またはこの材料ロット5別のICタグ4の記録情報を引き継いだICタグ4を鍛造ロット6別に準備し、これらICタグ4に、対応する鍛造ロット6についての鍛造ロット番号、および鍛造工程で得られる情報を記録する。
(3) .熱処理工程(S3)の管理過程。
鍛造ロット6別のICタグ4、またはこの鍛造ロット6別のICタグ4の記録情報を引き継いだICタグ4を熱処理ロット7別に準備し、これらのICタグ4に、対応する熱処理ロット7についての熱処理ロット番号、および熱処理工程で得られる情報を記録する。
(4) .研削工程(S4)およびその後の検査工程時の管理過程。
熱処理ロット7別のICタグ4、またはこの熱処理ロット7別のICタグ4の記録情報を引き継いだICタグ4を、研削ロット8別に準備し、これらのICタグ4に、対応する研削ロット8についての加工条件の記録を行う。また、研削ロット8別のICタグ4、またはこの研削ロット8別のICタグ4の記録情報を引き継いだICタグ4を、要素品2毎または検査の単位となる同種類の要素品2の組毎に準備し、これらICタグ4に、対応する研削ロット番号、および検査工程で得られる情報を記録する。
【0089】
上記各要素品2((1) 〜(n) )を組み立てた各等速自在継手13には、組立前から組立後に至る間に、完成後使用のためのICタグ9を取付け、この等速自在継手13に取付けられたICタグ9に、個別の等速自在継手13に特有の製造番号、および上記等速自在継手13に用いられた各要素品2((1) 〜(n) )の上記検査工程後のICタグ4の記録情報のうち、少なくとも製造番号を記録する。データベース50には上記製造番号と対応して、上記等速自在継手13に用いられた各要素品2((1) 〜(n) )の上記検査工程後のICタグ4の記録情報、および等速自在継手13の完成後の検査情報を記録する。
【0090】
上記各工程(S1)〜(S4)で用いられるICタグ4は、各工程を通じて同じものであっても良く、工程によって別のICタグ4を用い、前工程のICタグの記録情報の転記をしても良い。下流側の工程でロットが別れる場合は、新たなICタグ4を準備し、前の工程の記録情報の転記をしても良く、また予め、ロット分かれるロット数分だけICタグ4を準備しておき、各工程を通じて同じICタグ4に情報を追加記録するようにしても良い。
各工程(S1)〜(S4)において、ICタグ4に記録される各ロット番号および各工程の情報は、図4のように工程毎に追加されることになる。
【0091】
各工程において、ICタグ4は、例えば要素品2を入れる運搬用の容器類61に取付けておく。容器類61は、例えば、かご、箱、またはパレット等である。この場合に、ICタグ4の容器類61への取付は、直接に行っても良く、また図27に示すように、容器類61に取付けられる視覚による識別用のタグ62に取付けても良い。ICタグ4の容器類61への取付は着脱自在な取付であっても良い。ICタグ4を容器類61に取付けておくことで、ロット毎に準備されるICタグ4を、常に要素品2と共に移動させることができ、ICタグ4の取扱が容易である。また、要素品2のコンベヤ等による搬送経路63でICタグへの情報の記録を行うことができる。
【0092】
上記各管理過程の詳細を説明する。
(1) .材料購入(S1)時の管理過程。
材料は、鋼材の塊、鋼板、鋼管、鋼線等の形態で購入される。購入した材料は例えば材料ロット単位で各種の品質検査を行う。この管理過程でICタグ4に記録する購入材料の情報は材料の出所情報と品質情報とに分けられる。出所情報としては、販売元の会社名や、その会社の工場所在地等である。品質情報は、組織硬さ、非金属介在物の情報等である。品質情報は、材料購入後に行った材料検査の結果をICタグに記録するが、販売元から得た情報を記録しても、両方を記録しても良い。この過程でのICタグ4への情報の記録方法は、例えば購入管理コンピュータ(図示せず)等から得た情報を記録用の端末を介して行う。
【0093】
(2) .鍛造工程(S2)の管理過程。
鍛造工程(S2)は、等速自在継手13の種類やその要素品2の種類によって種々の形態がある。また、ここで言う鍛造工程(S2)には、例えば図10等と共に前述したように、要素品2の粗形状に形成する冷間鍛造と、その鍛造品を旋削する工程と、その他の工程とを含む。
いずれの要素品2の場合においても、鍛造工程(S2)でのICタグ4への情報の記録は、鍛造工程(S2)の全体で1回としても良く、また鍛造工程(S2)の中の各工程毎に行うようにしても良い。例えば、要素品2が外側継手部材14,内側継手部材15,保持器17,軸12のいずれかであって、図10または図12のように鍛造および旋削、または鍛造無しに旋削が行われる場合、旋削後に測定した各部の寸法等の情報をICタグ4に記録する。要素品2がボールである場合は、例えば、型打ちの後に寸法、歪、外観等の情報を記録し、ブラッシング後、および生研磨の後に、それぞれ測定を行って寸法、真球度、外観等の情報を記録する。また、加工条件情報を記録する。
【0094】
この過程でのICタグ4への情報の記録方法は、例えばこれらの鍛造工程(S2)等の各工程毎に用いられる工程管理用または検査管理用等の製造時管理用のデータベース54により、端末55を介して行うようにする。オペレータによる手入力が必要な情報については、図25に示すようにキーボード等の入力手段56により、製造時管理用のデータベース54を介して、または直接に端末55から記録する。
前工程の材料ロット5よりも鍛造ロット6の方が多くなる場合は、新たなICタグ4を準備し、これにICタグ複製手段57を用いて材料ロット5のICタグ4の記録情報を転記し、この転記よって情報を受け継いだICタグ4に対して鍛造工程の情報を記録する。以下の各工程においても、ロット数が増える場合は、上記と同様にして新たなICタグ4に転記する。
【0095】
(3) .熱処理工程(S3)の管理過程。
熱処理を行ったときは、後に検査を行う。要素品2が外側継手部材14または内側継手部材15の場合は、硬さ、変形、組織等の検査を行う。要素品2がボール16である場合は、硬さ、組織等の検査を行う。熱処理工程の情報としては、これらの検査結果を記録する。この他に熱処理条件等を記録しても良い。
【0096】
(4) .研削工程(S4)およびその後の検査工程時の管理過程。
研削工程(S4)は、等速自在継手13の種類やその要素品2の種類によって種々の形態がある。要素品2がボール16である場合は、粗研磨、中研磨、精研磨、ラッピング等を行う。これらの各工程では、その工程の完了品の検査を行う。ICタグ4に記録する情報は、研削工程(S4)における上記の各工程毎の加工条件の情報等である。この加工条件の情報は、例えば砥石の種類や加工速度等である。 研削工程が完了した後に、検査を行い、その結果をICタグ4に記録する。検査結果情報としては、各種の寸法、外観等である。要素品2がボール16等の転動体の場合は、研削工程(S4)における粗研削やその他の各工程後の検査結果の寸法や真円度等、研削工程(S4)の完了品である完成状態の要素品2の検査結果となる外観、寸法、真球度、径の相互差、硬さ、音響、顕微鏡検査結果等である。
研削工程(S4)では、特注品等の場合は全数検査である。全数検査の場合は、ICタグ4は要素品2の個数だけ準備され、そのICタグ4に対応する要素品2の研削ロット番号と、個々の検査結果等の情報を記録する。研削ロット番号に加えて、個々の要素品2を識別する番号を付加して記録しても良い。要素品2がボール16等のように一つの等速自在継手13に多数用いられる場合は、一つの等速自在継手13に用いられる要素品2の組を一つの要素品2とみなして一つのICタグ4を準備し、その組毎の情報を記録しても良い。
【0097】
等速自在継手13の組立、およびその後の管理過程。
上記のように製造された各要素品2は、組立工程で一つの等速自在継手13に組み立てられる。この等速自在継手13に、組立前から組立後に至る間にICタグ9を取付ける。すなわち、要素品2の単独の状態でICタグ9を取付けても、組立の完了後に取付けても良い。
【0098】
各等速自在継手13は、組立が完了すると、完成品検査として各種の検査を行う。この検査は、例えば上記ICタグ9の取付後に行うが、取付形態によっては取付前に行っても良い。完成品検査は、特注品等の個別検査品の場合は、等速自在継手13の全数につき行う。
【0099】
等速自在継手13を組み立てる過程で、その等速自在継手13を構成する各要素品2のICタグ4の記録情報は、図26のように、データベース50により製造番号に対応して記録される。また、完成品検査の検査結果についても、製造番号に対応して記録される。製造番号は個別の等速自在継手特有の番号であり、例えばシリアル番号とされる。等速自在継手13における上記のような工程を経過しない別要素品(例えばブーツ18)2についての情報も、データベース50に記録する。
等速自在継手13に上記のように取付けられたICタグ9には、少なくとも上記の製造番号を記録する。このICタグ9には、製造番号の他に、各要素品2のICタグ4の記録情報や、完成品検査の結果等を記録しても良い。等速自在継手13に取付けられたICタグ9に、完成品検査の結果を記録する場合、検査工程でICタグ9に検査結果を記録し、このICタグ9からデータベース50に情報を転記しても良い。また、等速自在継手13だけでなく、等速自在継手13の梱包70(図21)にもこのICタグ9を取付け、製造番号等を記録しても良い。
【0100】
データベース50は、図26のようにコンピュータネットワーク58上に設けられた管理コンピュータシステム59に設けられる。このデータベース50の記憶部50aに、各等速自在継手13についての上記の記録情報Fが記録される。コンピュータネットワーク58は、例えばインターネット等の広域ネットワークや、この広域ネットワークに工場内のローカルエリアネットワークが結合したものである。データベース50は、記憶部50aとこの記憶部50aに対する入出力や検索の管理を行うデータベース管理部50bとでなる。データベース50は、概念的に一つの品質管理用のデータベースとして認識できるものであれば良く、物理的には複数に分かれたデータベースの集まりであっても、また他の各種の目的のデータベースと情報を共有するものであっても良い。例えば、データベース50は、コンピュータネットワーク58上に分散して設けられた複数のコンピュータで構成されるものであっても、また上記製造時管理用のデータベース54や技術情報管理用等のデータベースと記録情報を共有するものであっても良い。
データベース50は、ネットワーク58を介して、等速自在継手製造工場内の各情報処理機器の他に、技術部門や、倉庫、営業所、顧客企業の事業所の情報処理機器60、および携帯端末等に接続されたものである。
【0101】
この品質管理方法によると、各要素品2の材料購入から等速自在継手13の完成後の検査内容までの履歴情報が、データベース50に記憶され、等速自在継手13に取付けられたICタグ9には製造番号が記録されているため、製造番号をデータベース50と照合することで、上記履歴情報を等速自在継手と1対1の関係管理することができる。例えば、出荷後の任意の段階で、その等速自在継手13の使用者や、保守サービスを行うもの等が、等速自在継手13の履歴情報を知ることができる。等速自在継手13の各要素品2の製造工程毎に発生する情報は、工程毎にその工程のロット別に準備したICタグ4にロット番号と共に記録するため、詳細な履歴情報を管理することができる。
上記工程毎の情報は、その工程のロット毎に準備したICタグ4に記録するため、手書き伝票に記録する場合に比べて詳細な情報の記録が行え、また例えば端末からコンピュータに入力する場合と異なり、情報を入力するべき箇所がICタグ4であるために視覚的に認識できて、入力作業が明確となり、誤りが生じにくい。また、要素品2の材料購入から研削工程の各工程にわたる種々雑多な全ての情報をコンピュータに記録するものと異なり、生産工程ではこれらの記録情報をICタグ4で持っておくため、コンピュータの負担が軽く、管理が容易になる。このため容易に、より詳細な情報を管理することができる。
【0102】
また、等速自在継手13の製造番号は、等速自在継手13に取付けられたICタグ9に記録するので、このICタグ9の残った記憶領域を自由に使用できて、製造後の各種の用途、例えば出荷管理、流通管理、顧客管理、メンテナンス管理等に用いることができる。 すなわち等速自在継手13は、自動車用の等速ジョイントの場合、図21と共に前述したように、組立完成、検査、出荷の後、一般的に倉庫に配送され、営業所から顧客自動車メーカーへ納品される。特注品の場合は、出荷の後、直接に顧客に納品されることもある。顧客自動車メーカーでは、等速自在継手13を自動車に組み込んで販売し、自動車を購入した自動車保有者が自動車の使用により等速自在継手13を使用し、耐久年数等で廃棄することになる。このような各過程で、等速自在継手13に取付けられたICタグ9の製造番号を読み取って履歴情報を知る他に、ICタグ9の残りの記憶領域を利用した各種の利用が図れる。
【0103】
つぎに、等速自在継手13が一般品のようにロット別検査品である場合につき、図23と共に説明する。ロット別検査品の管理では、各要素品2((1) 〜(n) )について、次の各過程(1) 〜(3) ,(4) ′を含み、各要素品2を組み立てた等速自在継手13について、後述の過程を採る。材料購入から熱処理工程までの管理過程(1) 〜(3) は、ロット別検査品についても個別検査品と同じであるため、これらの管理過程(1) 〜(3) の説明は省略する。
(1) .材料購入(S1)時の管理過程。
(2) .鍛造工程(S2)の管理過程。
(3) .熱処理工程(S3)の管理過程。
(4) ′.研削工程(S4)およびその後の検査工程時の管理過程。
研削工程(S4)の後の検査工程で、熱処理ロット7別のICタグ4、またはこの熱処理ロット7別のICタグ4の記録情報を引き継いだICタグ4を、研削ロット8別に準備し、これらのICタグ4に、対応する研削ロット8についての研削ロット番号および検査工程で得られる情報を記録する。研削工程(S4)における加工は、ロット別検査品も個別検査品も同じである。この管理過程(4) ′で記録する情報は研削ロット8別の検査結果の情報あるが、要素品2についても検査項目はロット別検査品も個別検査品も同じであり、それらの検査結果を記録する。検査項目をロット別検査品と個別検査品とで異ならせても良いが、それらの検査結果のICタグ4への記録は、検査項目にかかわらずに同様に行う。
【0104】
等速自在継手13の組立、およびその後の管理過程。
各要素品2を組み立てた各等速自在継手13に、組立前から組立後に至る間にICタグ9を取付け、この等速自在継手13に取付けられたICタグ9に、製造ロット番号、および上記等速自在継手13に用いられた各要素品2((1) 〜(n) )の上記検査工程後のICタグ4の記録情報のうち、少なくとも製造ロット番号を記録し、データベース50に上記製造ロット番号と対応して、上記等速自在継手13に用いられた各要素品2((1) 〜(3) )の上記検査工程後のICタグ4の記録情報、および等速自在継手13の完成後の検査情報を記録する。
なお、ロット別検査品の管理は、特に説明した事項の他は、個別検査品について説明した内容と同じ管理である。
【0105】
この管理方法の場合、等速自在継手13の製造ロット別の管理となり、1対1の管理とはならないが、その他の事項については、上記第1の等速自在継手の品質管理方法で説明した個別検査品についての場合と同じ各作用,効果が得られる。管理コンピュータ10に対する照合は、等速自在継手13に取付けられたICタグ9から得られるロット番号で行う。
【0106】
なお、上記各実施形態は、車両用ドライブシャフト11に用いられる等速自在継手の場合を主に説明したが、この発明は、自動車のプロぺラシャフトに用いられる等速自在継手の場合にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】この発明の第1の実施形態にかかる等速自在継手の品質管理方法を適用する等速自在継手を用いた車両用ドライブシャフトの断面図である。
【図2】その固定式の等速自在継手の断面図である。
【図3】そのスライド型の等速自在継手の断面図である。
【図4】同固定式等速自在継手のブーツの拡大正面図および端面図である。
【図5】同スライド式等速自在継手のブーツの拡大正面図および端面図である。
【図6】同固定式等速自在継手の外側継手部材の拡大正面図およびその部分拡大図である。
【図7】同スライド式等速自在継手の外側継手部材の拡大正面図および部分拡大図である。
【図8】同車両用ドライブシャフトの軸の拡大正面図およびその部分拡大図である。
【図9】同車両用ドライブシャフトの軸の他の例の拡大正面図およびその部分拡大図である。
【図10】固定式等速自在継手の製造工程の説明図である。
【図11】スライド式等速自在継手の製造工程の説明図である。
【図12】車両用ドライブシャフトの軸の製造工程を2種示した説明図である。
【図13】車両用ドライブシャフトの組立工程の説明図である。
【図14】トリボード型の等速自在継手の断面図である。
【図15】等速自在継手の要素品への刻印方法の説明図である。
【図16】ICタグとタグリーダ/ライタの関係を示す説明図である。
【図17】ICタグの回路図である。
【図18】自動車に組み込み状態の等速自在継手に対してタグリーダでICタグの記憶内容を読み取る例の説明図である。
【図19】車両用ドライブシャフトのICタグとこれに対する書込処理手段の関係を示すブロック図である。
【図20】ICタグとこれに接続したセンサのブロック図である。
【図21】この発明の第1の実施形態に係る等速自在継手の品質管理方法の説明図である。
【図22】同等速自在継手の品質管理方法における要素品の管理にかかる説明図である。
【図23】同等速自在継手の品質管理方法における要素品の他の方法による管理にかかる説明図である。
【図24】各ICタグの記録内容の変化を示す説明図である。
【図25】要素品の製造工程中におけるICタグへの記録形態の概念説明図である。
【図26】データベースとICタグの関係を示す説明図である。
【図27】等速自在継手の組立構成の説明図である。
【符号の説明】
【0108】
1…等速自在継手
2…要素品
3…別要素品
4…ICタグ
5…材料ロット
6…鍛造ロット
7…熱処理ロット
8…研削ロット
9…ICタグ
11…車両用ドライブシャフト
12…軸
13,13A…等速自在継手
14…外側継手部材
14b…ステム部
15…内側継手部材
16…ボール
17…保持器
18…ブーツ
18a…蛇腹部
18b,18c…固定部
20…タグリーダ/ライタ
31,32…凹部
40…センサ
41…書込処理手段
50…データベース
70…梱包

【特許請求の範囲】
【請求項1】
等速自在継手につき、非接触で交信が可能なICタグを用い、等速自在継手に関する所定情報を記録して管理する等速自在継手の品質管理方法であって、等速自在継手にICタグを取付ける過程と、この等速自在継手に取付けられたICタグに、その等速自在継手についての情報を記録する過程と、出荷後の任意時に、上記ICタグの記録情報を読み取ってその読み取り情報から、所定情報の確認を行う利用過程とを含む等速自在継手の品質管理方法。
【請求項2】
請求項1において、上記等速自在継手は、自動車に用いられるものであり、上記利用過程のICタグの読み取りは、等速自在継手が自動車に組付けられた状態のままで、タグリーダを用いて行い、このタグリーダに一体化された情報処理手段または上記タグリーダに有線または無線で接続された情報処理手段により、等速自在継手に関する情報を入手する等速自在継手の品質管理方法。
【請求項3】
等速自在継手につき、非接触で交信が可能なICタグを用い、等速自在継手に関する所定情報を記録して管理する等速自在継手の品質管理方法であって、
等速自在継手にICタグを、この等速自在継手を構成する複数の要素品のいずれかに対して取付ける過程と、
この等速自在継手に取付けられたICタグに、その等速自在継手についての製造工程における情報を記録する過程と、
出荷後の任意時に、上記ICタグの記録情報を読み取ってその読み取り情報から、所定情報の確認を行う過程とを含む、
等速自在継手の品質管理方法。
【請求項4】
等速自在継手につき、等速自在継手の識別情報に関連付けてその等速自在継手に関する所定の製造情報を記憶し、記憶内容を上記識別情報により抽出可能なデータベースと、非接触で交信が可能なICタグとを用いる等速自在継手の品質管理方法であって、
等速自在継手にICタグを、この等速自在継手を構成する複数の要素品のいずれかに対して取付ける過程と、
上記ICタグに、上記データベースに従い出荷時、または客先納入時までに、その等速自在継手についての識別情報を記録し、かつその等速自在継手についての製造工程における情報を記録する過程と、
出荷後の任意時に、上記ICタグの記録情報を読み取ってその読み取り情報から、または読み取り情報を上記データベースと照合して、前記製造工程における情報の確認を行う情報読取り利用過程とを含む、
等速自在継手の品質管理方法。
【請求項5】
等速自在継手につき、所定の製造情報を記憶し、その記憶内容を抽出可能なデータベースと、非接触で交信が可能なICタグとを用いた等速自在継手の品質管理方法であって、 等速自在継手にICタグを、この等速自在継手を構成する複数の要素品のいずれかに対して取付ける過程と、
上記等速自在継手に取付けられたICタグに、上記データベースに従いその等速自在継手についての所定の出荷情報を書き込む過程と、
出荷後の任意時に、上記ICタグの記録情報を読み取ってその読み取り情報から、または読み取り情報を上記データベースと照合して得られた情報から、等速自在継手についての情報を確認する過程とを含む、
等速自在継手の品質管理方法。
【請求項6】
請求項5において、上記ICタグに書き込む等速自在継手についての上記所定の出荷情報は、その等速自在継手についての識別情報を含み、上記データベースは、等速自在継手の識別情報に関連付けてその等速自在継手に関する所定の製造情報を記憶し、記憶内容を上記識別情報により抽出可能なものである等速自在継手の品質管理方法。
【請求項7】
請求項5または請求項6において、上記ICタグに書き込む等速自在継手についての所定の出荷情報として、製造年についての情報を含む等速自在継手の品質管理方法。
【請求項8】
請求項5ないし請求項7のいずれか1項において、上記ICタグに書き込む等速自在継手についての所定の出荷情報として、製造場所について情報を含む等速自在継手の品質管理方法。
【請求項9】
等速自在継手につき、非接触で交信が可能なICタグを用い、等速自在継手に関する材料受入から、鍛造および旋削のうちの少なくとも一方の工程、熱処理工程、研削工程等の各製造工程、並びに検査に至る所定の製造情報を記録して等速自在継手を管理する品質管理方法であって、
等速自在継手の製造時または製造完了時にICタグを、この等速自在継手を構成する複数の要素品のいずれかに取付ける過程と、
この等速自在継手に取付けられたICタグに、出荷時または客先納入時までに、その等速自在継手についての前記各製造工程のうちの少なくとも一つの工程における加工条件情報および材料情報の少なくとも一方を記録する過程と、
上記出荷後の任意時に、上記ICタグの記録情報を読み取ってその読み取り情報から、上記加工条件情報および材料情報の少なくとも一方の確認を行う情報読取り利用過程とを含む、
等速自在継手の品質管理方法。
【請求項10】
等速自在継手につき、識別情報に関連付けてその等速自在継手に関する材料受入から、鍛造および旋削のうちの少なくとも一方の工程、熱処理工程、研削工程等の各製造工程、および検査に至る所定の製造情報を記憶し、記憶内容を上記識別情報により抽出可能なデータベースと、非接触で交信が可能なICタグとを用いて等速自在継手を管理する品質管理方法であって、
等速自在継手の製造時または製造完了時にICタグを、この等速自在継手を構成する複数の要素品のいずれかに取付ける過程と、
上記等速自在継手に取付けられたICタグに、上記データベースに従い出荷時、または客先納入時までに、その等速自在継手についての識別情報を記録し、かつその等速自在継手についての前記各製造工程のうちの少なくとも一つの工程における加工条件情報および材料情報の少なくとも一方を記録する過程と、
上記出荷後の任意時に、上記ICタグの記録情報を読み取ってその読み取り情報から、または読み取り情報を上記データベースと照合して得られた情報から、受入材料の確認、製造工程の確認、その加工条件情報および材料情報の少なくとも一方の確認、および検査成績の確認のいずれかを行う情報読取り利用過程とを含む、
等速自在継手の品質管理方法。
【請求項11】
等速自在継手につき、識別情報に関連付けてその等速自在継手に関する材料受入から、鍛造および旋削のうちの少なくとも一方の工程、熱処理工程、研削工程等の各製造工程、並びに検査に至る所定の製造情報を記憶し、記憶内容を上記識別情報により抽出可能なデータベースと、非接触で交信が可能なICタグとを用いて等速自在継手を管理する品質管理方法であって、
等速自在継手の製造時または製造完了時にICタグを、この等速自在継手を構成する複数の要素品のいずれかに取付ける過程と、
上記等速自在継手に取付けられたICタグに、上記データベースに従い出荷時、または客先納入時までに、その等速自在継手についての識別情報を書き込み、かつその等速自在継手についての製造年月日、製造場所、封入グリース銘柄、要素品間隙間、品質保証期間、取扱いに関する注意事項のうち、少なくとも一つの情報を記録する過程と、
上記出荷後の任意時に、上記ICタグの記録情報を読み取ってその読み取り情報から、または読み取り情報を上記データベースと照合して得られた情報から、受入材料の確認、製造工程の確認、その加工条件および材料情報の少なくとも一方の確認、および検査成績の確認のいずれかを行う情報読取り利用過程とを含む、
等速自在継手の品質管理方法。
【請求項12】
請求項9ないし請求項11のいずれか1項において、上記等速自在継手の上記要素品の材料受入から鍛造および旋削のうちの少なくとも一方の工程、熱処理工程、および研削工程に至る所定の製造情報を、要素品のロット番号別に準備された製造過程用のICタグに各工程毎に記録する過程と、この記録した情報を読み取ってその読み取り情報の一部または全体を上記等速自在継手に取付けられたICタグに記録する過程とを含み、上記製造過程用のICタグに記録する製造情報として、前記各製造工程のうちの少なくとも一つの工程における加工条件情報および材料情報の少なくとも一方を含む等速自在継手の品質管理方法。
【請求項13】
請求項9ないし請求項11のいずれかに1項において、上記等速自在継手の上記要素品の材料受入から鍛造および旋削のうちの少なくとも一方の工程、熱処理工程、研削工程等の各製造工程、並びに検査に至る所定の製造情報を、製造時管理用のデータベースに要素品のロット番号または要素品個別の識別番号に関連付けて記録する過程と、この記録した情報を、上記機械要素商品に取付けられたICタグに記録する過程とを含む等速自在継手の品質管理方法。
【請求項14】
請求項1ないし請求項13のいずれか1項において、等速自在継手を構成する外側継手部材および内側継手部材等の各要素品について、材料受入から完成,検査完了までの一連の各工程につき、その工程のロット毎にICタグを準備し、この各工程のロット毎に準備されるICタグは、一つ上流側の工程に対応するロットと同じICタグ、または一つ上流側の工程の対応するロットのICタグの情報を引き継いだICタグとし、上記各工程のロット毎に準備されたICタグに、その工程のロット番号およびその工程における情報を記録する等速自在継手の品質管理方法。
【請求項15】
材料受入から、鍛造および旋削の少なくとも一方の工程である鍛造・旋削工程、熱処理工程、および研削工程を経て製造される要素品を複数種類含んで組み立てられ、個別に検査される等速自在継手の品質管理方法であって、上記各要素品について、
これら各要素品の材料受入時に、材料ロット別に準備されたICタグに、対応する材料ロットについての材料ロット番号および受入材料に関する情報を記録する過程と、
上記鍛造・旋削工程で、上記材料ロット別のICタグまたはこの材料ロット別のICタグの記録情報を引き継いだICタグを鍛造・旋削ロット別に準備し、これらのICタグに、対応する鍛造・旋削ロットについての鍛造・旋削ロット番号および鍛造・旋削工程で得られる情報を記録する過程と、
上記熱処理工程で、鍛造ロット別のICタグまたはこの鍛造ロット別のICタグの記録情報を引き継いだICタグを熱処理ロット別に準備し、これらのICタグに、対応する熱処理ロットについての熱処理ロット番号および熱処理工程で得られる情報を記録する過程と、
上記研削工程の後の検査工程で、熱処理ロット別のICタグまたはこの熱処理ロット別のICタグの記録情報を引き継いだICタグを、要素品毎または検査の単位となる同種類の要素品の組毎に準備し、これらICタグに、対応する研削ロット番号および検査工程で得られる情報を記録する過程とを含み、かつ
上記各要素品を組み立てた各等速自在継手に、組立前から組立後に至る間にICタグを取付け、この等速自在継手に取付けられたICタグに、個別の等速自在継手特有の製造番号、および上記等速自在継手に用いられた各要素品の上記検査工程後のICタグの記録情報のうち、少なくとも製造番号を記録し、データベースには上記製造番号と対応して、上記等速自在継手に用いられた各要素品の上記検査工程後のICタグの記録情報、および等速自在継手の完成後の検査情報を記録する過程、
とを含む等速自在継手の品質管理方法。
【請求項16】
材料受入から、鍛造および旋削の少なくとも一方の工程である鍛造・旋削工程、熱処理工程、および研削工程を経て製造される要素品を複数種類含んで組み立てられ、ロット別に検査される等速自在継手の品質管理方法であって、上記各要素品について、
これら各要素品の材料受入時に、材料ロット別に準備されたICタグに、対応する材料ロットについての材料ロット番号および受入材料に関する情報を記録する過程と、
上記鍛造・旋削工程で、上記材料ロット別のICタグまたはこの材料ロット別のICタグの記録情報を引き継いだICタグを鍛造・旋削ロット別に準備し、これらのICタグに、対応する鍛造・旋削ロットについての鍛造・旋削ロット番号および鍛造・旋削工程で得られる情報を記録する過程と、
上記熱処理工程で、鍛造・旋削ロット別のICタグまたはこの鍛造・旋削ロット別のICタグの記録情報を引き継いだICタグを熱処理ロット別に準備し、これらICタグに、対応する熱処理ロットについての熱処理ロット番号および熱処理工程で得られる情報を記録する過程と、
上記研削工程の後の検査工程で、熱処理ロット別のICタグまたはこの熱処理ロット別のICタグの記録情報を引き継いだICタグを研削ロット別に準備し、これらICタグに、対応する研削ロットについての研削ロット番号および検査工程で得られる情報を記録する過程とを含み、かつ
上記各要素品を組み立てた各等速自在継手に、組立前から組立後に至る間にICタグを取付け、この等速自在継手に取付けられたICタグに、製造ロット番号、および上記等速自在継手に用いられた各要素品の上記検査工程後のICタグの記録情報のうち、少なくとも製造ロット番号を記録し、データベースに上記製造ロット番号と対応して、上記等速自在継手に用いられた各要素品の上記検査工程後のICタグの記録情報、および等速自在継手の完成後の検査情報を記録する過程、
とを含む等速自在継手の品質管理方法。
【請求項17】
請求項14ないし請求項17のいずれか1項において、各工程のロット毎に準備されるICタグは、同じロットの材料ないし製造過程の要素品を入れた容器類にそれぞれ取付ける等速自在継手の品質管理方法。
【請求項18】
請求項1ないし請求項16のいずれか1項において、前記等速自在継手は、要素品としてブーツを有し、少なくともこのブーツにICタグを取付ける等速自在継手の品質管理方法。
【請求項19】
請求項1ないし請求項18のいずれか1項において、上記等速自在継手は、組み立て時にグリースが封入されるものであり、上記等速自在継手に取付けられたICタグに、その等速自在継手の組み立て年月日を記録する等速自在継手の品質管理方法。
【請求項20】
請求項1ないし請求項19のいずれか1項において、上記等速自在継手に取付けられたICタグに、その等速自在継手の出荷から客先納入までの所在等の情報を記録する等速自在継手の品質管理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2006−48101(P2006−48101A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−223746(P2004−223746)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】