説明

筒状分子構造およびその製造方法、並びに前処理基板およびその製造方法

【課題】 高感度のセンサなどを実現できる筒状分子構造およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 カーボンナノチューブ(CNT)11と基板10との間にはシリサイド層13が存在し、CNT11は、基板10上の金属触媒粒子12を基点として基板10に対して垂直方向に成長している。CNT11に多くの酵素を立体的に捕捉させることにより酵素センサとして利用することができる。この筒状分子構造1は、有機膜形成工程において3−APMS等のシラン基を有する化合物を用いて形成されるもので、シリコン基板以外の基板を用いても作製される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属触媒粒子を基点として成長した筒状炭素分子(以下,カーボンナノチューブともいう)を有する筒状分子構造およびその製造方法に係り、特に筒状炭素分子が基板に対して高配向で垂直方向に成長した筒状分子構造およびその製造方法、並びにその筒状分子を製造するための前処理基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のナノテクノロジーの進歩は著しく,なかでもカーボンナノチューブ(Carbon Nanotub;CNT)等の分子構造体は、熱伝導性,電気伝導性,機械的強度などで優れた特性を持つ安定した材料であることから、トランジスタ,メモリ,電界電子放出素子など幅広い用途への応用が期待されている。また、酵素センサなど、物理的もしくは化学的な変化を電気信号に置き換えて物質の検出を行うセンサとしての利用などについても多くの研究がなされている。
【0003】
更に、カーボンナノチューブの高集積化およびセンサとしての感度の向上を図るために、例えば、フェリチンに内包されている鉄(Fe)粒子をカーボンナノチューブの成長の触媒として利用し、この鉄粒子を基点として成長させる方法が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。しかし、この方法では、基板上の所定の位置に触媒である鉄粒子を固定化することが難しく、カーボンナノチューブを基板の所定の位置に配置することが困難であるなどの問題があった。
【0004】
そこで、ポリペプチド等からなる有機膜を予め基板上に形成し、ポリペプチドの有するアミノ基を利用してシリコン基板の表面に正電荷を帯電させておいてから負電荷を帯びている鉄粒子を内包するフェリチンを静電的に吸着させたのち、その鉄粒子を基板上に固定化する方法等が提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平11−45990号公報
【特許文献2】特開2001−181842号公報
【非特許文献1】イミング.リー(Yiming.Li )、外5名,ジャーナル・フィジカル・ケミストリー・B(Journal of Physical chemistry B ),(米国),2001年,第105巻,p11424−11431
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のポリペプチドを用いる方法では、成長基板としてシリコン基板を用いた場合にはシリサイドが形成されることからカーボンナノチューブを基板に対して垂直方向に成長させることが可能である。しかしながら、この方法では、シリコン基板以外の基板上に対しては、基板とカーボンナノチューブ(あるいは触媒)との間にシリサイドを形成することができず、カーボンナノチューブを基板に対して垂直方向に成長させることができないという問題があった。カーボンナノチューブが垂直に成長したとしても、基板がシリコン基板やガラスなどの半導体性あるいは非導電性の基板では、物理的あるいは化学的変化を感度よく電気信号に変換することは困難であり、センサとして用いるには十分ではない。
【0007】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その第1の目的は、導電性基板など基板の種類を問わず、炭素分子を基板に対して垂直方向に成長させることができ、炭素分子の集積度を向上させることができると共に、感度のよいセンサ等を実現することのできる筒状分子構造の製造方法、およびその方法により得られる筒状分子構造を提供することにある。
【0008】
また、本発明の第2の目的は、このような筒状炭素分子の成長に適した前処理基板およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による筒状分子構造の製造方法は、シラン基を有する化合物を用いて基板の表面に有機膜を形成する有機膜形成工程と、有機膜上に金属触媒粒子を配置する触媒配置工程と、基板に対して熱処理またはオゾン酸化処理を行うことにより、金属触媒粒子を基板上に固定化すると共に基板と金属触媒粒子との間にシリサイド層を形成するシリサイド形成工程と、金属触媒粒子を活性化させると共にこの金属触媒粒子を基点として筒状炭素分子を基板に対して垂直方向に成長させる成長工程と、を含むものである。なお、本発明において「基板」とは、平板状のものに限らず、少なくとも表面(カーボンナノチューブの成長面)が平坦であればよく、その他の面の形状は任意のものであり、また、その材質は半導体,絶縁体,導電体のいずれも含むものである。
【0010】
より具体的には、以下のようにして上記筒状分子構造が作製される。
【0011】
本発明の筒状分子構造の製造方法では、有機膜形成工程に先立ち、基板の洗浄を行うことが望ましい。すなわち、アルカピラニア溶液等を用いて基板を洗浄し、基板の表面において水酸基終端化させると共に、広範囲において表面粗度が0.07nm以下の原子レベル的に平滑な表面となるようにする。これにより、カーボンナノチューブの成長に必要な基板の平坦性が得られる。
【0012】
有機膜形成工程では、例えば、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(3−APMS)等のシラン基を有する化合物を用いることが好ましく、0.01nm以上の厚みの有機膜が基板上に形成される。なお、3−APMSに含まれるアミノ基によって基板表面に正電荷が帯電する。
【0013】
触媒配置工程では、例えば、フェリチンをリン酸緩衝液に添加して調製したフェリチン溶液中に、有機膜が成膜された基板を浸漬することにより、有機膜を構成する3−APMSの正電荷を帯びたアミノ基とフェリチンに含まれる負電荷を帯びた鉄イオンとが引き付け合い、これによりフェリチンが静電的に吸着される。なお、フェリチンを配置するには、基板をフェリチン溶液に浸漬させる方法の他、塗布法あるいは蒸着法等も利用することができる。また、有機膜上に分子ナノワイヤー配設し、この分子ナノワイヤーに沿ってフェリチンを配置するようにしてもよい。分子ナノワイヤーとしては、合成高分子や、ポリペプチドまたはDNA(DeoxyriboNucleic Acid )を由来とする高分子等を利用することができる。
【0014】
ここで、触媒配置工程では、金属触媒粒子をキレート溶液と反応させることにより金属触媒粒子の粒径が所望の大きさに形成される。キレート溶液に含めるキレート剤としては、例えばニトリロ三酢酸(NTA)が利用可能である。
【0015】
また、上述のキレート溶液による粒径の制御方法と共に、導電性を有する基板上の金属触媒粒子に対して電気化学法による酸化還元反応させる制御方法を併用し、金属触媒粒子の酸化された状態と還元された状態とでキレート剤との錯形成定数やその溶解度が異なることを利用することにより、金属触媒粒子の粒径をより容易に制御することができる。更に、金属触媒粒子12を酸化したり還元したりすることにより、金属触媒粒子12を溶出させたり析出させたりすることも可能であるので、その粒径を小さくするだけではなく、大きくすることも可能である。更に、有機膜に互いに膜厚の異なる領域を設け、それぞれの領域に金属触媒粒子を配置して電位を印加した場合には、同一基板上に粒径の異なる金属触媒粒子が形成される。また、金属触媒粒子がフェリチンに内包されている鉄ナノ粒子である場合、フェリチンのタンパク質部分および有機膜を熱処理により除去することにより鉄ナノ粒子が固定された基板が得られる。
【0016】
シリサイド形成工程では、例えば、フェリチンが配置された基板に対して大気中400℃で1時間の加熱処理を行うことにより、フェリチンのタンパク質部分が焼却除去されてフェリチンに内包されている金属触媒粒子(鉄ナノ粒子)が基板上に固定化される。さらに700℃程度の加熱処理により基板と金属触媒粒子との間にシリサイド層が形成される。これにより、基板上の所望の位置に金属触媒粒子が高集積度で配設されるが、シリサイド層はカーボンナノチューブの触媒機能を有していないことからカーボンナノチューブの配向性は基板に対して垂直方向のみとなる。ここで、金属触媒粒子は熱処理後において酸化鉄(FeO,Fe2 3 )等の状態で存在していてもよい。成長工程でこの酸化鉄に対して還元処理を行うことにより触媒機能を活性化させることができるからである。また、シリサイド層は、有機膜を構成する3−APMSのシラン基と金属触媒粒子とが熱反応することにより形成されるものである。このようにシラン基の原料は、有機膜の構成材料でもあるシラン基を有する化合物(3−APMS)であるので、シリコン基板以外の基板でもシリサイド層を形成することができ、例えば、高配向カーボン基板、金基板あるいは透明基板などが利用可能となる。
【0017】
成長工程では、例えば、化学気相成長(Chemical Vapor Deposition ;CVD)法を用いると共にメタンを含む反応ガスの温度を600℃以上1200℃以下、更には900℃以上1200℃以下とすることが好ましい。この温度範囲においてはカーボンナノチューブが良好に成長するが、600℃程度より温度が低くなると、煤状のものが生成し、カーボンナノチューブの生成が困難となる。また、反応ガスに20g/m3 以下の水蒸気を含めることが好ましい。この水蒸気が金属触媒粒子の表面に堆積するアモルファスカーボンを除去することにより、金属触媒粒子の触媒としての機能が持続され、より高密度でカーボンナノチューブが生成される。ここで、成長工程に用いる方法としてCVD法の他、アーク放電法あるいはレーザー蒸着法等も用いることができるが、純度が高いカーボンナノチューブを大量合成することができるCVD法を用いることが好ましい。
【0018】
このようにして作成される本発明の筒状分子構造では、金属触媒粒子を基点としてカーボンナノチューブが成長しているが、カーボンナノチューブと基板との間にシリサイド層が形成されているためカーボンナノチューブは基板に対して垂直方向に成長している。
【0019】
このような筒状分子構造は、筒状炭素分子に酵素を立体的に捕捉させることにより例えば酵素センサとして利用可能である。具体的には、例えば、グルコースオキシダーゼなどの酵素を立体的に固定化することができることから、従来の筒状分子構造よりも多くのグルコースなどの基質を感知することが可能となり、また、微量の基質が酵素に捕捉されたときの微小の電気化学的な電子授受をも感知することができる。ここで、基板上に形成された筒状炭素分子の密度(集積度)は1015本/cm2 以下であることが好ましい。これにより、更に多くの酵素の固定化が可能となる。なお、このようなセンサとして用いる場合には、基板を導電性基板とすることが好ましい。
【0020】
その他、本発明の筒状炭素構造は、種々のセンサ等として利用することができる。例えば、成長工程の後に金属粒子担持工程を設けることにより、筒状炭素分子に金属粒子を立体的に捕捉させてガスセンサ、触媒担持体もしくはキャパシタとすることができる。更には、成長工程の後に金属粒子担持工程、あるいは金属粒子および色素担持工程を設けて筒状炭素分子に金属粒子、あるいは金属粒子および色素を立体的に捕捉させることにより、太陽電池を作成することも可能になる。
【0021】
また、本発明による前処理基板の製造方法は、シラン基を有する化合物を用いて基板の表面に有機膜を形成する有機膜形成工程と、有機膜上に金属触媒粒子を配置する触媒配置工程と、基板に対して熱処理またはオゾン酸化処理を行うことにより、金属触媒粒子を基板上に固定化すると共に基板と金属触媒粒子との間にシリサイド層を形成するシリサイド形成工程と、を含むものである。なお、「前処理基板」とは、少なくとも上記処理が施されているものであればよく、上記の洗浄工程など、筒状炭素分子を成長させる前の処理であれば、その他の処理が施されていてもよい。また、「基板」については前述と同様である。
【0022】
このようにして作成される本発明の前処理基板では、基板と金属触媒粒子との間にシリサイド層が形成されており、金属触媒粒子の上側のみがカーボンナノチューブを成長させるための触媒として機能することにより、基板に対して垂直方向にカーボンナノチューブを成長させることが可能である。
【発明の効果】
【0023】
本発明の筒状分子構造およびその製造方法によれば、シラン基を有する化合物を用いて基板上に有機膜を形成するようにしたので、シリコン基板以外の導電性基板などにもシリサイド層を形成することができ、よって基板の種類によらず高配向で垂直方向にカーボンナノチューブを成長させることができ、炭素分子の集積度を向上させることができると共に、感度のよいセンサ等を実現することができる。
【0024】
また、本発明の前処理基板およびその製造方法によれば、基板と金属触媒粒子との間に予めシリサイド層を形成するようにしたので、カーボンナノチューブの高配向の垂直成長に好適な基板を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0026】
図1は、本発明の一実施の形態に係る筒状分子構造1の概略構成を模式的に表すものであり、図2はその一部を拡大して示したものである。
【0027】
本実施の形態に係る筒状分子構造1は、基板10と、この基板10上に当該基板に対して垂直方向に延在するカーボンナノチューブ(以下,CNTともいう)11を有するものである。
【0028】
CNT11は、基板10上の所定の位置に固定化された金属触媒粒子12上に成長し、CNT11の成長部分より下側の金属触媒粒子12と基板10との間にはシリサイド層13が形成されている。
【0029】
基板10は、シリコン基板の他、導電性基板も適用でき、例えば高配向カーボン基板、金基板、あるいはITO(Indium Tin Oxide)などの透明基板等が利用可能である。これは、後述の製造工程で詳細に説明するように、シラン基を有する化合物を用いて基板10上にシリサイド層13が形成されるからである。
【0030】
CNT11は、炭素原子(C)からなると共に、微小で細長く先端が尖った円筒状の物質である。このCNT11には、グラファイト層1層からなるもの(SWNT;Single Wall carbon nanotube )と、多層の同心円筒からなるもの(MWNT;Multi Wall carbon nanotube)と2つの種類があるが、本実施の形態ではいずれのものでもよい。また、このCNT11の機械的強度は、鋼鉄などよりも強靭であり、10Gpa以上である。このCNT11は、外壁側の表面だけではなく、内壁側の表面にも水素などの気体やイオンなどを付着(吸着)可能なものであり、また、カイラリティを変化させることにより導体あるいは半導体になるものである。例えば、導体の特性を有している場合には、銅(Cu)よりも電気抵抗が小さく、このような金属よりも低電圧でCNT11の先端から電子を放出可能なものである。
【0031】
金属触媒粒子12は、CNT11の成長の基点(触媒)となっており、その直径は、例えば、4nm以上7nm以下であり、CNT11の内径あるいは外形を所定の大きさにするものである。具体的には、鉄貯蔵機能を有するフェリチンに内包された鉄イオン(Fe2+,Fe3+)などが酸化されて、例えば、酸化鉄(FeO,Fe2 3 )等の状態で存在するものである。また、金属触媒粒子12は、フェリチンに由来の鉄イオンだけでなく、例えば、コバルトなど人工的に調整された金属粒子など、CNTの成長の触媒機能を有するものであればよい。
【0032】
シリサイド層13は、有機膜を構成する3−APMSなどの化合物が有するシラン基と金属触媒粒子12とが熱処理されることにより形成されるものであり、例えば、ここではFeSi2 などにより構成されている。このシリサイド層13は、基板10としてシリコン基板以外の基板が用いられる場合には、上記のように金属触媒粒子12と化合物(3−APMS)を構成するシラン基との合金であるが、基板10としてシリコン基板が用いられる場合には、この基板のシリコンと金属触媒粒子12とにより形成されるものを含んでいてもよい。
【0033】
以上の筒状分子構造1は、CNT11に例えば酵素20を立体的に担持させることにより、グルコースセンサなどの酵素センサ2として有効に用いることができる。
【0034】
図3は、その概略構成を表すもので、垂直に成長した多数のCNT11に酵素(ここでは、グルコースオキシダーゼGOD)20が立体的に担持された様子を示している。図4はその反応状態を表すもので、GOD20の触媒反応により、基質である感知対象物(ここではグルコース)30からグルコノラクトン30Aと過酸化水素(H2 2)が生成され、さらに生じたH2 2 の酸化還元反応により電子(e- )が放出される。本実施の形態の酵素センサ2では、この電子放出によってCNT11および導電性の基板11を通じて流れる電流が変化するもので、これによりグルコース濃度を感知することができる。
【0035】
なお、ここではグルコースセンサとして説明しているが、その他、酵素として例えばペルオキシダーゼ(POD)やカタラーゼ(CAT)などを用いてコレステロールセンサとしてもよく、酵素の種類の応じて種々のセンサとして利用することができるものである。
【0036】
次に、上記筒状分子構造1、および酵素センサ2の製造方法について説明する。
【0037】
図5は筒状分子構造1、および酵素センサ2の製造方法を表す流れ図である。また、図6ないし図12は筒状分子構造1の製造方法を工程順に示したものである。
【0038】
まず、洗浄工程S1では、図6に示したように、例えば、60℃の温度のアルカピラニア溶液および純水を用いて基板10を洗浄し、更に、超音波洗浄機などを用いて例えば10分間のソニケーションを行うことにより、基板10の表面を水酸基終端化すると共に広範囲において表面粗度が0.07nm以下の原子レベル的に平滑な表面を得る。アルカリピラニア溶液については、例えば、過酸化水素水(30%H2 2 ):アンモニア水(25%NH4 OH):水(H2 O)=1:1:5の体積比で混合して調製したものを用いることができる。
【0039】
続いて、有機膜形成工程S2では、図7(A)に示したように、シラン基を有する化合物を用いて基板10の表面に有機膜14を形成する。有機膜14の形成には、化合物を含む液に基板10を浸漬する方法、上記液を基板上に塗布する方法または化合物を基板上に蒸着させる方法などを用いることができる。また、シラン基だけではなく、更にアミノ基を有する化合物を用いて基板10の表面をアミノ基の正電荷を利用して正電荷を帯電させることが好ましい。具体的には、例えば、基板10を純水およびエタノールの順でリンスしたあと、200mlのナス型フラスコに投入し、圧力10-2torrで10分間、室温にて真空引きを行ったのち、0.5mlの3−APMS(3-APMS ;3-A 分opropyltrimethoxysilane )をナス型フラスコに注入して6時間浸漬することにより、基板10の表面に有機膜(3−APMS)14を形成する。この後、純水に投入してソニケーションしてもよい。なお、有機膜14としては、シラン基を含むものであれば、3−APMS以外のものであってもよく、例えば、カルボキシル基を有する3−カルボキシプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0040】
続いて、触媒配置工程S3では、図7(B)に示したように、有機膜14上にフェリチン15に内包されている金属触媒粒子12または人工的に調製された金属触媒粒子12を配置する。フェリチン15を用いる場合には、フェリチン15をリン酸緩衝液に添加して調製したフェリチン溶液中に有機膜14が成膜された基板を浸漬することにより、有機膜14を構成する化合物(3−APMS)の正電荷を帯びたアミノ基とフェリチンに含まれる負電荷を帯びた金属触媒粒子とを引き付けさせること(静電的相互作用)によりフェリチン15を静電的に吸着させる。その際、フェリチン15をサブモノレイヤー状に配置することが好ましい。また、人工的に調製された金属触媒粒子12を用いる場合には、例えば、この金属触媒粒子12を塗布して物理的吸着、化学的吸着あるいは静電的吸着させることにより配置する。人工的に調製された金属触媒粒子12としては鉄粒子あるいはコバルト粒子等を用いることができる。
【0041】
フェリチン溶液としては、以下のようにして調製したものを用いることができる。すなわち、例えば、リン酸二水素ナトリウム・二水和物(NaH2 PO4 ・2H2 O)とリン酸水素二ナトリウム・12水(Na2 HPO4 ・12H2 O)とを50mlの純水に溶解することにより、pH7.0のリン酸緩衝液(Phosphate buffer solution:PB)を調製する。この後、予め精製された既知の濃度のフェリチン溶液を上記リン酸緩衝液と混合することにより上記フェリチン溶液が得られる。
【0042】
ここで、図8にはフェリチン15を模式的に示した。フェリチン15は動植物からバクテリアにまで普遍的に存在し、生態あるいは細胞中の鉄元素のホメオスタシスに深く関わっているものである。フェリチン15は、例えば、外径D1が13nm、内径D2が6nmの中空の球状形状のシェル(タンパク質部分)15Aを有し、鉄イオンを選択的にセンシングし、フェリハライド形状でシェル中に貯蔵する機能(鉄貯蔵機能)を有するものである。このシェル中の鉄(III)イオン(Fe3+)12Aの量は最大で約4500個貯蔵可能であり、電気化学的な酸化還元によりその量を制御することが可能であり、例えば鉄(II)イオン(Fe2+)12Bに還元してシェルから放出することにより貯蔵量が調整される。また、タンパク質の自己組織化を利用し、フェリチン15を自発的に配列することができる。
【0043】
続いて、シリサイド形成工程S4では、図9に示したように、熱処理またはオゾン酸化処理を行うことにより、金属触媒粒子(鉄ナノ粒子)12を基板10上に固定化する。具体的には、例えば、フェリチン15を熱処理する場合、電気マッフル炉を用いて、フェリチン15が固定化された基板10に対して大気中400℃で1時間の加熱処理を行うことにより、フェリチン15のタンパク質部分を焼却除去してフェリチン15に内包されている金属触媒粒子(鉄ナノ粒子)12を基板10上に固定化する。更に、700℃程度に加熱することにより基板10と金属触媒粒子12との間にシリサイド層13(図示せず)を形成する。また、オゾン酸化処理を用いる場合には、700℃程度の温度で加熱することにより金属触媒粒子12の固定化およびシリサイド層13の形成を行う。人工的に調製された金属触媒粒子12を用いた場合も同様である。これにより、基板10上の所望の位置に金属触媒粒子12を高集積度で配置することが可能となる。ここで、金属触媒粒子12は熱処理後において酸化鉄(FeO,Fe2 3 )等の状態で存在していてもよい。後述の成長工程S5でこの酸化鉄に対して還元処理を行うことにより触媒機能を活性化させることができるからである。また、シリサイド層13は、有機膜14を構成する3−APMSのシラン基と金属触媒粒子12とが熱反応することにより形成されるものであるので、シリコン基板以外の基板でもシリサイド層13の形成が可能となる。これにより、前処理基板が完成する。
【0044】
続いて、成長工程S5では、図10に示したように、例えば、電気炉中の石英チャンバに金属触媒粒子12を固定化した基板10を載置し、CVD(Chemical Vapor Deposition ;化学気相成長)法等を用いて、温度を600℃以上1200℃以下、好ましくは900℃以上1200℃以下にし、この金属触媒粒子12を基点(触媒)としてCNT11を基板10に対して垂直方向に成長させる。具体的には、例えば、電気炉中に水素ガスを流量0.3l/分で流しながら900℃まで加熱したのち、更に水素ガスを5分間流して金属触媒粒子12を還元し、このあと、温度900℃に保ちながら水素ガスおよびメタンガスをそれぞれ0.3l/分で120分間流したのち、メタンガスのフローを停止すると共に再び水素ガスを5分間流し、最後に水素ガスのフローを停止して石英チャンバを常温になるまで放置する。ここで、シリサイド層13はCNT11の触媒機能を有していないことからCNT11の配向性を基板10の垂直方向のみにすることができる(図1)。
【0045】
ここで、成長工程に用いる方法としてCVD法の他、アーク放電法あるいはレーザー蒸着法等も用いることができる。
【0046】
また、成長工程S5を次のように行ってもよい。
【0047】
金属触媒粒子12を固定化した基板10を石英チャンバに載置し、水素ガスおよび水蒸気を含むメタンガス(CH4 )をそれぞれ0.3l/分で流しながら900℃の温度になるまで加熱し、更にこの温度を保ちながら120分間流す。そののち、水蒸気を含むメタンガスのフローを停止すると共に再び900℃の温度で水素ガスを5分間流す。最後に加熱を停止して石英チャンバを常温になるまで放置する。ここで、石英チャンバに水蒸気を20g/m3 以下で流すことが好ましい。CNT11をより高集積度で生成させることができるからである。
【0048】
また、触媒配置工程S3では、フェリチン15の代わりに分子ナノワイヤー16を用いることができる。分子ナノワイヤー16によってもフェリチン15を静電的に配置することができるからである。
【0049】
図7(A)に示した工程に続いて、図11に示したように、有機膜14上の所定の位置に分子ナノワイヤー16を配設する。分子ナノワイヤー16としては、プラス荷電を全体として有する合成高分子、ポリペプチドまたはDNAを由来とする高分子などの分子状高分子などを用いることができる。具体的には、ポリ−L−リジン、ポリ−L−アルギニン等が挙げられる。また、上記分子ナノワイヤーはフェリチンに限定されず、分子状高分子に結合した金属触媒粒子でもよい。
【0050】
続いて、シリサイド形成工程S4では上述した方法を用いて、図12(A)に示したように、基板10上に金属触媒粒子12を固定化する。
【0051】
続いて、成長工程S5では上述した方法を用いて、図12(B)に示したように、基板10上にCNT11を作製する。ここで、図13ないし図15には分子ナノワイヤー16を用いて作製したCNT11の表面の原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope;AFM )による写真を示した。このように基板10の所定の位置に配列させてCNT11作製することができる。これにより、図1に示した筒状分子構造1が完成する。
【0052】
成長工程S5に続いて、例えば、酵素担持工程S6を設けることにより、酵素センサ2を作製することができる。
【0053】
具体的には、CNT11が形成された基板10を酵素溶液に浸漬することにより、酵素を立体的に担持させる。また、オゾン酸化法、酸処理法、プラズマ処理法あるいは加熱処理法を用いてCNT11の表面を酸化処理することにより、CNT11の表面上に様々な官能基を生成させ、その官能基もしくはその官能基と間接的に結合した化合物との化学結合もしくは静電的結合などを用いて酵素を立体的に担持させる。これにより、図3に示した酵素センサ2が完成する。
【0054】
このように本実施の形態では、シラン基を有する3−アミノプロピルトリメトキシシラン(3−APMS)を用いて基板10上に有機膜14を形成するようにしたので、シリコン基板以外の基板10にもシリサイド層13 を形成することができると共に、フェリチン等を静電的に高密度で吸着させることができ、よってCNT11を基板10に対して垂直に成長させることができと共に集積度が向上する。
【0055】
従って、本実施の形態の筒状分子構造では、基板10として良導体基板を用い、これにCNT11を成長させると共に、グルコースオキシダーゼなどの酵素を立体的に捕捉固定化することにより、従来のものよりも多くの酵素を担持した酵素センサを実現することができる。これにより微小の電気化学的な電子授受をも感知することができるようになり、測定レンジが広くなり、かつ、感度を向上させることができる。従って、グルコース濃度(血糖値)やコレステロール濃度を精度よく検出することができるようになり、糖尿病等の診断に有効に用いることができる。なお、CNT11に補足させる酵素を適宜選択することにより、グルコース以外の感知対象物も高精度で検出することができる。
【0056】
また、この筒状分子構造は、CNT11に金属粒子を立体的に捕捉させることによりガスセンサ、触媒担持体またはキャパシタを実現することができ、更には、CNT11に金属粒子、あるいは金属粒子および色素を立体的に捕捉させることにより太陽電池を実現することもできる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明の具体的な実施例について、詳細に説明する。
【0058】
(実施例1)
実施例1では、基板10としてシリコン基板を用いて筒状分子構造1を作製すると共に、各工程後の基板10の表面観察を行った。
【0059】
(洗浄工程)
まず、基板10(0.5cm×0.5cm)を、例えば,60℃の温度のアルカリピラニア溶液に浸漬したのち、純水でリンスしたあと別途アルカリピラニア溶液で10分間ソニケーションを行い、さらに、純水でリンスしたあと純水で10分間ソニケーションを行うことにより、基板10の洗浄(平坦化)を行った。アルカリピラニア溶液については、過酸化水素水(30%H2 2 ,和光純薬株式会社製):アンモニア水(25%NH4 OH,和光純薬株式会社製):水(H2 O)=1:1:5の体積比で混合したものを用いた。
【0060】
洗浄後の基板10の表面について、Tappping-mode のAFMを用いて平滑性の評価を行った。また、探針(Cantilever)は必要に応じて逐次交換した。
【0061】
図16には洗浄工程後の基板10の表面のAFM像を示した。この結果から、洗浄後の基板10は、広範囲において平滑な表面を有していることが明らかとなり、具体的には、表面粗度が0.07nm以下であり、原子レベルで平滑な表面を有していることが分かった。
【0062】
(有機膜形成工程)
洗浄後の基板10を、純水およびエタノールの順でリンスしたあと、200mlのナス型フラスコに投入し、圧力10-2Torrで10分間、室温にて真空引きを行ったのち、0.5mlの3−APMS(アズマックス株式会社製)をナス型フラスコに注入して6時間浸漬することにより、基板10の表面に有機膜14を形成した。更にこの後、有機膜14が形成された基板10を純水に投入してソニケーションを行った。
【0063】
基板10上に成膜した有機膜14の表面について、洗浄工程後の評価と同様にして平滑性の評価を行った。
【0064】
図17には、有機膜14の表面のAFM像を示した。この結果から、有機膜14は、広範囲において平滑な表面を有していることが明らかとなり、具体的には、表面粗度が0.1nm以下であり、原子レベルで平滑な表面を有していることが分かった。
【0065】
(触媒配置工程)
続いて、有機膜14の形成後の基板10を0.2μMのフェリチン溶液に10秒間浸漬させたのち、純水およびエタノールの順で基板10の表面をリンスすることにより、有機膜14上にフェリチン15を静電(静電的相互作用)的にサブモノレイヤー状に配置した。フェリチン溶液は以下のようにして調製したものを用いた。
【0066】
まず、0.1560gのリン酸二水素ナトリウム・二水和物(NaH2 PO4 ・2H2 O,Assay 99.0%〜102.0%,和光純薬工業株式会社製)と、0.4710gのリン酸水素二ナトリウム・12水(Na2 HPO4 ・12H2 O,Assay 99.0%〜1020.5%,和光純薬工業株式会社製)とを純水(50ml)に溶解することにより、pH7.0でイオン強度μが0.1のリン酸緩衝液を調製した。この後、予め精製された既知の濃度のフェリチン(from horse spleen ;SIGMA 社製)溶液を上記リン酸緩衝液と混合して上記濃度(0.2μM)に調製した。
【0067】
フェリチン15が配置された基板10の表面について、洗浄工程後の評価と同様にしてフェリチン配置の評価を行った。
【0068】
図18にはフェリチン15を配置した基板10の表面のAFM像を示した。この結果から、基板10に成膜された有機膜14上のフェリチン(フェリチン分子)15の高さは10nm〜12nmであり、X線解析により得られたフェリチン分子の外径とほぼ同じであった。これにより、フェリチン15が有機膜14上に単分子レベルに近い状態で配置されていることが明らかとなった。
【0069】
(シリサイド形成工程)
続いて、基板10に配置されたフェリチン15を、例えば、電気マッフル炉(KM-100, 東洋製作所(株)社製)を用いて、大気存在下400℃の温度で60分間の加熱処理することにより、フェリチン15のタンパク質部分を焼却除去すると共に、基板10上にフェリチン15に内包されている金属触媒粒子(鉄ナノ粒子)12を基板10上に固定化した。なお、これと同時に基板10と金属触媒粒子12との間にシリサイド層13を形成した。
【0070】
金属触媒粒子12を固定化した基板10の表面について、洗浄工程後の評価と同様にして作製した金属触媒粒子12の評価を行った。
【0071】
図19には金属触媒粒子12を固定化した基板10の表面のAFM像を示した。この結果から、基板10に形成された金属触媒粒子12の高さは3nm〜5nmであり、フェリチン15の内径よりも小さく、フェリチン15のタンパク質部分が除去され、フェリチン15に内包されていた金属触媒粒子(鉄ナノ粒子)12が固定化されていることが明らかとなった。また、赤外分光法でもフェリチン15のタンパク質部分由来の振動が熱処理後に消滅したことからも、フェリチン15に内包されていた鉄ナノ粒子12が固定化されていることが確認できた。
【0072】
(成長工程)
続いて、CVD法を用いて、金属触媒粒子12を固定化した基板10を電気炉中の石英チャンバに載置することにより、CNT11を作製した。その際、電気炉中に水素ガス(高純度水素(H2 )99.999%以上,内村酸素工業(株)製)を流量0.3l/分で流しながら900℃まで加熱したのち、更に水素ガスを5分間流して金属触媒粒子12を還元し、このあと、温度900℃に保ちながら水素ガスおよびメタンガス(高純度水素(CH4 )99.999%以上,内村酸素工業(株)製)をそれぞれ0.3l/分で120分間流したのち、メタンガスのフローを停止すると共に再び水素ガスを5分間流し、最後に水素ガスのフローを停止して石英チャンバを常温になるまで放置した。
【0073】
CNT11作製後の基板10の表面について、洗浄工程後の評価と同様にしてCNT11の評価を行った。
【0074】
図20および図21には、成長工程後の基板10の表面のAFM像を示した。この結果から、CNT11は基板10に対して垂直方向に成長していることが明らかとなった。これは、フェリチン15の配置のために用いた3−APMSのケイ素が金属触媒粒子12の基板側の部分(下部)とシリサイド層13を形成したため、金属触媒粒子12の上部のみがCNT11の成長の触媒として機能したからである。すなわちシリサイド層13ではCNT11は成長しないことが確められた。
【0075】
(実施例2)
実施例2では、成長工程において、水素ガスと共に水蒸気を含めたメタンガスを電気炉中に流してCNT11を作製したことを除き、他の工程は実施例1と同様にして筒状分子構造1を作製した。
【0076】
(成長工程)
金属触媒粒子12を固定化した基板10を石英チャンバに載置し、水素ガスおよび14g/m3 の水蒸気を含むメタンガス(CH4 )をそれぞれ0.3l/分で流しながら900℃の温度になるまで加熱し、更にこの温度を保ちながら120分間流した。そののち、水蒸気を含むメタンガスのフローを停止すると共に再び900℃の温度で水素ガスを5分間流した。最後に加熱を停止して石英チャンバを常温になるまで放置した。
【0077】
実施例2のCNT11作製後の基板10の表面について、実施例1と同様にしてCNT11の評価を行った。
【0078】
図22および図23には実施例2の成長工程後の基板10の表面のAFM像を示した。この結果から、メタンガスに14g/m3 の水蒸気を含ませると、水蒸気を含まない場合(実施例1)に比べて高密度109 〜1015本/cm2 のCNT11を作製することができることが明らかとなった。これは、水蒸気が金属触媒粒子12の表面に堆積するアモルファスカーボンを除去することにより、金属触媒粒子12の触媒としての機能が持続され、CNT11の成長を促進するためと考えられる。
【0079】
(実施例3)
実施例3では、有機膜形成工程において、アミノ基を有する3−APMSに代えて、カルボキシル基を有する3−カルボキシプロピルトリメトキシシランを用いて有機膜14を形成したのち、触媒配置工程において有機膜14上にフェリチン15を配置した。有機膜形成工程および触媒配置工程の条件は実施例1と同様である。
【0080】
実施例3のフェリチン15が配置された基板10の表面について、実施例1と同様にしてフェリチン配置の評価を行った。
【0081】
図24には実施例3の触媒配置工程後の基板10の表面のAFM像を示した。この結果から、カルボキシル基を有する3−カルボキシプロピルトリメトキシシランを用いて形成された有機膜14上にフェリチン15が配置されていることが明らかとなった。これは、3−カルボキシプロピルトリメトキシシランが有するカルボキシル基とフェリチン15との化学的吸着によって配置されるためと考えられる。よって、静電的作用を利用する方法の他、他の吸着等を利用する方法によっても好適にフェリチン15等を配置させることができることが分かった。
【0082】
(実施例4)
実施例4では、基板10として、シリコン基板に代えて、ケイ素を含まない高配向性グラファイト(High Orientated Pyrolytic Graphite ; HOPG )基板を用いたことを除き、他は実施例1と同様にして筒状分子構造1を作製した。その際、実施例4のフェリチン15が配置された基板10の表面におけるフェリチン配置の評価、およびCNT11を作製した後の基板10の表面におけるCNT11の評価を行った。それぞれの評価の条件は実施例1と同様である。
【0083】
図25ないし図27には、実施例4の触媒配置工程後の基板10の表面のAFM像を示した。この結果から、基板10に成膜された有機膜14上のフェリチン(フェリチン分子)15の高さは9nm〜12nmであり、X線解析により得られたフェリチン分子の外径とほぼ同じであった。これにより、フェリチン15が有機膜14上に単分子レベルに近い状態で配置されていることが明らかとなった。よって、シリコン基板以外の基板を用いた場合においてもフェリチン15等を平坦に配置させることができることが分かった。
【0084】
また図28には、実施例4の成長工程後の基板10の表面のAFM像を示した。この結果から、CNT11は基板10に対して垂直方向に成長していることが明らかとなった。これは、実施例1で説明した理由と同様であると考えられる。よって、シリコン基板以外の基板を用いた場合であっても、シラン基を有する化合物を用いて有機膜を形成することにより、シリサイド層12を形成することができ、これにより、筒状分子構造1を作製することができることが分かった。
【0085】
以上、CNT11の製造工程について説明したが、次に、上記金属触媒粒子12の粒径制御について説明する。
【0086】
第1の方法は、基板10上の有機膜14に金属触媒粒子12を配置した状態あるいは基板10上に固定した状態で、基板10をキレート剤を含む溶液(以降、キレート溶液という)に浸漬させるものである(ウェットプロセス)。これにより、金属触媒粒子12とキレート剤とが反応し、容易に金属触媒粒子12の粒径を小さくすることができる。すなわち、所望の粒径の金属触媒粒子12およびそれを備えた基板を作製することが可能になる。キレート剤としては、例えばニトリロ三酢酸(NTA)等を用いることができる。
【0087】
第2の方法は、上述のキレート溶液による制御方法に加えて、基板10として導電性を有するものを用い、その基板10上の金属触媒粒子12を電気化学法により酸化還元反応させる方法を併用するものである。すなわち、金属触媒粒子12の酸化された状態と還元された状態とでキレート剤との錯形成定数やその溶解度が異なることを利用することにより、金属触媒粒子12の粒径をより容易に制御する。更に、金属触媒粒子12を酸化あるいは還元することにより、金属触媒粒子12を溶出あるいは析出させることも可能であるので、その粒径を小さくするだけではなく、大きくすることも可能である。
【0088】
更には、有機膜14を膜厚が厚い部位と膜厚が薄い部位とにより構成し、それぞれの部位に金属触媒粒子12を配置したのち、この基板10に対して電位印加を行う。これにより、膜厚が厚い部位上の金属触媒粒子12は電位の印加の影響を受け難いことから金属触媒粒子12の粒径が保持され、膜厚が薄い部位上の金属触媒粒子12は電位の印加の影響を受け易いことからその粒径のみが変化する。つまり、同一基板上に、粒径の異なる金属触媒粒子を配置することができる。従って、このことを利用し、例えば、基板10として導電性のシリコン基板を用いた場合には、金属触媒粒子12の粒径の大きさに従った所望の直径サイズのCNT11を作製することができる。
【0089】
上述した2つの方法を適宜選択して用いることにより、必要なときに必要な量だけ極めて容易に効率良く、所望の粒径の金属触媒粒子12およびそれを備えた基板10を作製することができる。
【0090】
以下、その具体的な実施例について、詳細に説明する。
【0091】
(実施例5−1〜5−6)
実施例5−1〜5−6では、金属触媒粒子(鉄ナノ粒子)12の粒径の制御方法について検討を行った。本実施例の各工程の条件等については実施例1と相違する点について詳細に説明する。
【0092】
(触媒配置工程)
まず、図29(A)に示したように、フェリチン15を静電的に有機膜14上に配置した。続いて、このフェリチン15を配置した基板10を、10μMのキレート溶液に各実施例ごとに時間(浸漬時間)を変えて浸漬した。浸漬時間についてはそれぞれ、実施例5−1では0分(浸漬せず),実施例5−2では5分,実施例5−3では10分,実施例5−4では15分,実施例5−5では20分,実施例5−6では30分とした。また、キレート溶液としては、キレート剤41としてニトリロ三酢酸(N(CH2 COOH)3 ,NTA)を用い、このニトリロ三酢酸をpH7.0のリン酸緩衝液と混合して上記濃度(10μM)に調製したものを用いた。これにより、図29(B)に示したように、フェリチン15に内包されている鉄(III)イオン12Bがキレート剤41と反応してキレート化合物41Aとなってフェリチン15の外部に放出され、フェリチン15の内部の鉄ナノ粒子12が所望の粒径に形成される。
【0093】
(熱処理工程)
次に、図29(C)に示したように、有機膜14上に配置されたフェリチン15を、例えば、電気マッフル炉を用いて、大気存在下400℃の温度で60分間の加熱処理することにより、フェリチン15のタンパク質部分15Aおよび有機膜14を焼却除去すると共に、鉄ナノ粒子12を基板10上に固定した。
【0094】
このように作製した実施例5−1の基板10の表面について、各工程の終了後にXPS(X-ray photoelectron spectroscopy;X線光電子分光法)を用いて炭素(1s)および窒素(1s)の測定を行った。
【0095】
図30には炭素(1s)のスペクトルを、図31には窒素(1s)のスペクトルをそれぞれ示した。図30および図31において、(a)は洗浄工程後、(b)は有機膜(3−APMS)形成工程後、(c)は触媒配置工程後(3−APMSで修飾した基板10を0.2μMのフェリチン溶液に10秒間浸漬して触媒を配置したもの)、(d)は熱処理工程後((c)の基板10を400℃で60分間熱処理したもの)、それぞれの基板10(実施例5−1)の表面を表すものであり、各図の(a)をピーク強度のコントロールレベル(バックグランド)とした。図30の(a)〜(d)における285eV付近のピークP1a〜P1dは炭素の存在を、図31の400eV付近のピークP2は窒素の存在をそれぞれ示すものである。なお、図30(a)のピークP1aについては、大気中の汚れ(炭素)が測定前の基板10に付着したことによるものと思われる。
【0096】
まず、図30(b)および図31(b)の結果から、3−APMSによる有機膜14が基板10上に成膜されたことが確められた。また、図31(c)のピークP2cの強度が図31(b)のピークP2bの強度に比べて増大したことから、フェリチン15が有機膜14上に配置されたことが確められた。更に図30(d)および図31(d)においてピークP1dおよびピークP2dが減少したことから、フェリチン15のタンパク質部分15Aおよび有機膜14が熱により大気中の酸素と反応して酸化除去されたことが確められた。
【0097】
更に、各工程後の基板10の表面について、実施例1と同様にしてAFMによる表面観察を行った。
【0098】
図32には有機膜形成工程後、図33には触媒配置工程後(キレート溶液に浸漬する前)、それぞれの基板10の表面のAFM像を示した。この結果から、有機膜14を成膜した基板10の表面は非常に平坦であったのに対し、図33において観察された粒子は、その粒径が11nm前後であり、X線解析により得られるフェリチンの粒径(12nm)とほぼ一致することから、フェリチン15であることが確められた。
【0099】
更に、図34ないし図39には、フェリチン15を配置した基板をキレート溶液に各浸漬時間浸漬したのち熱処理した後の実施例5−1〜5−6の基板10の表面のAFM像を示した。
【0100】
これらの結果から、キレート溶液への浸漬時間が長くなるにつれて鉄ナノ粒子12の粒径が小さくなることが確められた。更に、浸漬時間が30分経過後(実施例5−6)では、5nm程度の鉄ナノ粒子12のみが観測された。この理由としては、キレート剤(NTA)41と反応した鉄イオン12BがAFMでは観測できない0.25nm以下の粒径になったからであると考えられる。
【0101】
更に、図40には浸漬時間に対する鉄ナノ粒子12の粒径の関係を示した。この結果から、キレート剤への浸漬時間を調整することにより、鉄ナノ粒子(酸化鉄)12の粒径を±0.75nm以下の粒径の分布幅で制御可能であることが分かった。また、浸漬時間を長くして粒径を小さくした場合には粒径の分布幅が狭くなる、すなわち、より均一に鉄ナノ粒子12の粒径を制御することができることも分かった。
【0102】
(実施例6−1〜6−4)
実施例6−1〜6−4では、金属触媒粒子(鉄ナノ粒子)12の粒径の他の制御方法について検討を行った。本実施例の各工程の条件等については実施例1と相違する点について詳細に説明する。
【0103】
(アニール工程)
まず、図41(A)に示したように、基板として導電性を有する基板10(金フィルム基板)を用い、この基板10をガスバーナ42を用いてアニールした。
【0104】
(有機膜形成工程)
次に、図41(B)に示したように、アニール後の基板10を、シャーレ43に注がれた1mMのアミノヘキサンチオール(AHT)溶液L1に20分間浸漬することにより、基板10の表面に有機膜14を形成した。
【0105】
(触媒配置工程)
次に、図41(C)に示したように、有機膜形成工程を経た基板10を2μMのフェリチン溶液L2に1分間浸漬した。これにより、図42(A)に示したように、有機膜14上にフェリチン15をサブモノレイヤー状に配置した。ここで、図42(B)には有機膜14を構成するAHTの分子構造44を模式的に示した。有機膜14は、基板10とAHTのチオール基(硫黄)44Aとの相互作用によって形成される自己組織化単分子膜となっている。これにより、AHTのアミノ基44Bによって基板10の表面に正電荷が帯電してフェリチン15が静電的に配置される。
【0106】
続いて、実施例6−2〜6−4では、図43に示したように、1μMのキレート溶液L3が充填された電解槽45に、フェリチン15が配置された基板10(W.E)、白金からなる対極46(C.E)およびAg/AgClからなる参照極47(R.E)を取り付けた。その後、参照極47に対して−0.5Vの電位を基板10に印加することにより鉄ナノ粒子12の粒径を所望の大きさに形成した。そのときの電解時間を、実施例6−2では5分、実施例6−3では15分、実施例6−4では30分とした。キレート溶液としては、キレート剤としてニトリロ三酢酸を用い、このニトリロ三酢酸をpH7.0のリン酸緩衝液と混合して上記濃度(1μM)に調製したものを用いた。なお、実施例6−1のフェリチン15が配置された基板10に対しては、キレート溶液への浸漬および電位の印加を行わなかった。
【0107】
(熱処理工程)
次に、基板10に配置されたフェリチン15を、例えば、電気マッフル炉を用いて、大気存在下400℃の温度で60分間の加熱処理することにより、フェリチン15のタンパク質部分15Aおよび有機膜14を焼却除去すると共に、鉄ナノ粒子12を基板10上に固定した。
【0108】
本実施例では、触媒配置工程後および熱処理工程後の基板10の表面について、実施例1と同様にしてAFMによる表面観察を行った。
【0109】
図44には実施例6−1、図45には実施例6−4のそれぞれの触媒配置工程後における基板10のAFM像を示した。これらの結果から、電位印加後でもフェリチン15が吸着しており、また、フェリチン15自身の大きさについては電位印加前後で変化していないことが確められた。
【0110】
また、図46ないし図49には実施例6−1〜6−4の熱処理工程後における基板10のAFM像を示した。図46は実施例6−1に、図47は実施例6−2に、図48は実施例6−3に、図49は実施例6−4にそれぞれ対応している。これらの結果から、フェリチン15に由来の酸化鉄(Fe2 3 等)を含む鉄ナノ粒子12が観測された。また、電位印加時間が長くなるに従って、観測される鉄ナノ粒子12の粒径が小さくなることが確められた。ここで、鉄ナノ粒子12の量を故意的に少量にしているが、基板10のほぼ全面を鉄ナノ粒子12で覆うことも可能である。
【0111】
更に、図50ないし図53には、実施例6−1〜6−4の熱処理工程後における基板10上の鉄ナノ粒子12の粒径の分布を百分率を用いて示した。図50は実施例6−1に、図51は実施例6−2に、図52は実施例6−3に、図53は実施例6−4にそれぞれ対応している。これらの結果から、電位印加時間が長くなるにつれて、粒径の分布の中心が、電位印加前(実施例6−1)の5nm前後から30分の電位印加(実施例6−4)の1nm前後に推移していくことが分かった。なお、実施例6−4(図53)において5nm付近に観測された分布は、電気化学反応し得なかったフェリチン15が僅かに存在していることを示している。
【0112】
(実施例7−1〜7−4)
実施例7−1〜7−4では、有機膜14の構成材料としてアミノヘキサンチオール(AHT)の他、他のアミノアルカンチオールの利用可能性について検討を行った。実施例7−1ではアミノエタンチオール(AET)を、実施例7−2ではアミノヘキサンチオールを、実施例7−3ではアミノオクタンチオール(AOT)を、実施例7−4ではアミノウンデカンチオール(AUT)をそれぞれ用いた。本実施例の各工程の条件等については実施例6と相違する点について詳細に説明する。
【0113】
まず、アニール後の基板10(金フィルム基板)を、1mMに調製した各アミノアルカンチオール溶液に20分間浸漬することにより、基板10の表面にそれぞれのアミノアルカンチオールからなる有機膜14を形成した。その後、有機膜14が形成された基板10を2μMのフェリチン溶液に60分間浸漬することにより有機膜14上にフェリチン15を配置した。
【0114】
この後、実施例7−1〜7−4の有機膜14上にフェリチン15が配置された基板10のAFMによる表面観察を行った。
【0115】
図54ないし図57には実施例7−1〜7−4の触媒配置工程後(電位印加はせず)における基板10のAFM像を示した。図54は実施例7−1に、図55は実施例7−2に、図56は実施例7−3に、図57は実施例7−4にそれぞれ対応している。これらの結果から、フェリチン15は各アミノアルカンチオールのアルキル鎖長に関係なく、有機膜14上に配置されることが明らかとなった。
【0116】
更に、実施例7−1〜7−4の有機膜14上にフェリチン15が配置された基板10について、サイクリックボルタンメトリーによる電気化学測定を行った。その際、電解液としてはpH7.0のリン酸緩衝液を、対極として白金を、参照極としてAg/AgClをそれぞれ用い、電位掃引速度を50mVs-1とした。これ以降に示す電位は全て上記参照極を基準とするものである。
【0117】
図58ないし図61には実施例7−1〜7−4のサイクリックボルタモグラムを示した。図58は実施例7−1に、図59は実施例7−2に、図60は実施例7−3に、図61は実施例7−4にそれぞれ対応している。これらの結果から、実施例7−1〜7−3では、−0.2V〜−0.4V付近にフェリチン15に由来する酸化還元波が観測された。すなわち、基板10に−0.4V程度の電位を印加することにより、フェリチン15に内包された鉄ナノ粒子12を還元することができることが明らかとなった。一方、実施例7−4では酸化還元波が観測されなかったことから、AUT等のようなアルキル鎖長の長いアミノアルカンチオールを用いて形成された有機膜14上のフェリチン15は電位印加の影響を受け難いことが分かった。
【0118】
よって、例えば、図62(A),(B)に示したように、膜厚が厚い部位(アルキル鎖長の長いアミノアルカンチオールからなる有機膜)14Aおよび膜厚が薄い部位(アルキル鎖長の短いアミノアルカンチオールからなる有機膜)14Bからなる有機膜14を基板10の表面に形成して互いに導電性の異なる部位14A,14Bにフェリチン15を配置する。この後、この基板10に対して電位印加を行うと、図63(A),(B)に示したように、部位14A上のフェリチン15に内包された鉄ナノ粒子12の粒径を保持しつつ、部位14B上のフェリチン15に内包された鉄ナノ粒子12の粒径のみをを変化させることができる。つまり、同一基板上に、粒径の異なる金属触媒粒子を配置することができる。ここで、鉄(II)イオン12Aに対して酸化反応する電位を印加したときにはフェリチン15の内部に鉄(III)イオン12Bが入り込んで鉄ナノ粒子12の粒径が大きくなり、一方、鉄(III)イオン12Bが還元反応する電位を印加したとき(図62)にはフェリチン15の内部の鉄(III)イオン12Bが鉄(II)イオン12Aとなってフェリチン15の外部に放出されてフェリチン15に内包された鉄ナノ粒子12の粒径が小さくなる。このような粒径の制御は、鉄イオンに限らず、酸化還元が可能な他の金属触媒粒子に対しても適用可能である。
【0119】
ここで、互いに膜厚の異なる領域(部位14A,14B)を設けることにより導電性を異ならせた有機膜14の代わりに、上述のアミノアルカンチオールのうちのいずれかと、該アミノアルカンチオールとほぼ同じ分子の長を有すると共にそれとは導電性の異なる構成材料(以降、導電性の異なる構成材料という)とを併用してほぼ同一の厚さの有機膜14を形成するようにしてもよい。これにより、有機膜14表面の凹凸が減少することからフェリチン15が均一に配置され、より良好に同一基板上に粒径の異なる金属触媒粒子12を配置することができる。導電性の異なる構成材料としては、上記アミノアルカンチオールと同様の金(Au)に結合可能なチオール基および正電荷を帯びたアミノ基を備えると共に、アルキル鎖よりも高い導電性を有するベンゼン核および複素環のうち少なくとも1種を備えた化合物が好ましい。具体的には例えば、5−アミノー2−メルカプトベンズイミダゾール(5-amino-2-mercaptobenzimidazole )あるいは3−アミノー5−メルカプトー1,2、4−トリアゾール(3-amino-5-mercapto-1,2,4-triazole )などが挙げられる。
【0120】
このことを利用し、例えば、基板10として導電性のシリコン基板を用いた場合には、図64に示したように鉄ナノ粒子12の粒径の大きさに従った所望の直径サイズのCNT11を作製することができる。
【0121】
また、基板10の全面にAUTを除くアミノアルカンチオールにより同一の厚さの有機膜14を形成した場合であっても、例えば、還元反応の電位を印加することによりフェリチン15に内包されている鉄(III)イオン12Bが鉄(II)イオン12Aに還元されてキレート(NTA)溶液に対しての溶解度が飛躍的に増大することから、鉄(II)イオン12Aとキレート剤との反応がより促進され、効率的にフェリチン15に内包された鉄ナノ粒子12の粒径を小さくすることが可能となる。逆に、酸化反応の電位を印加したときには均一に粒径を大きくすることも可能である。このような粒径の制御も、鉄イオンに限らず、酸化還元が可能な他の金属触媒粒子12に対して適用可能である。
【0122】
なお、上記金属触媒粒子12の粒径制御については、CNT11の製造に限らず、他の分野に用いられる金属触媒粒子の粒径制御にも有効である。具体的には、例えば燃料電池用の金属触媒粒子、およびシリコンと金属との反応の結果生じる多機能化素材(発光性や軟強磁性を有する素材)等のデバイス開発に必要とされる金属触媒粒子の粒径制御にも利用することができる。
【0123】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態では筒状分子構造を酵素センサや太陽電池などに適用する例について説明したが、その他、配線、高性能トランジスタ素材、プローブ顕微鏡、ディスプレイ(薄型テレビの電子放出材(FED))、燃料電池(白金触媒を微細に分散させる担持体、水素貯蔵タンク)、静電防止剤、電磁波シールド材、二次電池負極材等に適用することも可能である。
【0124】
また、上記実施の形態および実施例では、触媒配置工程において、金属触媒粒子を基板上の所望の位置に配置する方法として、静電的手法、すなわち、アミノ基を有する化合物を用いることにより正電荷を帯びた有機膜上に、フェリチンに含まれる負電荷を帯びた金属触媒粒子を電荷の吸引力を利用しての配置するようにしたが、その他、基板あるいは有機膜の表面に疎水化処理を施すことによりフェリチン等を疎水的に配置してもよく、また、単にキャスト(物理的に配置)するだけでもよい。これらの方法によっても、好適に金属触媒粒子を所望の位置に配置することができ、高密度の筒状炭素分子を形成することができるからである。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】本発明の一実施の形態に係る筒状分子構造の概略構成を模式的に表す斜視図である。
【図2】図1に示した筒状分子構造の一部を拡大して示した図である。
【図3】図1に示した筒状分子構造を酵素センサとして用いたときの概略構成を模式的に表す斜視図である。
【図4】図1に示した筒状分子構造を酵素センサとして用いたときの作用を説明するための図である。
【図5】図1に示した筒状分子構造、および図4に示した酵素センサの製造工程を表す流れ図である。
【図6】本発明の一実施の形態に係る筒状分子構造の製造工程を説明するための斜視図である。
【図7】図6に続く工程を模式的に表す斜視図である。
【図8】フェリチンを模式的に示した図である。
【図9】図7に続く工程を模式的に表す斜視図である。
【図10】図9に続く工程を模式的に表す斜視図である。
【図11】図7(A)に続く他の工程を説明するための斜視図である。
【図12】図11に続く工程を模式的に表す斜視図である。
【図13】フェリチン分子とポリ−L−リジン分子とからなる分子ナノワイヤーを用いて形成された筒状炭素分子のAFM像である。
【図14】フェリチン分子とポリ−L−リジン分子とからなる分子ナノワイヤーを用いて形成された筒状炭素分子の他のAFM像である。
【図15】フェリチン分子とポリ−L−リジン分子とからなる分子ナノワイヤーを用いて形成された筒状炭素分子の他のAFM像である。
【図16】実施例1の洗浄工程後の基板の表面のAFM像である。
【図17】実施例1の有機膜の表面のAFM像である。
【図18】実施例1のフェリチンが配置された基板の表面のAFM像である。
【図19】実施例1の金属触媒粒子が配置された基板の表面のAFM像である。
【図20】実施例1の成長工程後の基板の表面のAFM像である。
【図21】実施例1の成長工程後の基板の表面の三次元のAFM像である。
【図22】実施例2の成長工程後の基板の表面のAFM像である。
【図23】実施例2の成長工程後の基板の表面の三次元のAFM像である。
【図24】実施例3のフェリチンが配置された基板の表面のAFM像である。
【図25】実施例4のフェリチンが配置された基板の表面のAFM像である。
【図26】実施例4のフェリチンが配置された基板の表面の三次元のAFM像である。
【図27】実施例4のフェリチンが配置された基板の表面の他のAFM像である。
【図28】実施例4の成長工程後の基板の表面の三次元のAFM像である。
【図29】実施例5−1〜5−6の基板の製造工程を模式的に表す図である。
【図30】実施例5−1の各工程後の基板表面のXPSによる炭素(1s)のスペクトルである。
【図31】実施例5−1の各工程後の基板表面のXPSによる窒素(1s)のスペクトルである。
【図32】有機膜形成工程後の基板表面のAFM像である。
【図33】触媒配置工程後の基板表面のAFM像である。
【図34】実施例5−1の熱処理を行った後の基板表面のAFM像である。
【図35】実施例5−2の熱処理を行った後の基板表面のAFM像である。
【図36】実施例5−3の熱処理を行った後の基板表面のAFM像である。
【図37】実施例5−4の熱処理を行った後の基板表面のAFM像である。
【図38】実施例5−5の熱処理を行った後の基板表面のAFM像である。
【図39】実施例5−6の熱処理を行った後の基板表面のAFM像である。
【図40】実施例5−1〜5−6の浸漬時間に対する鉄ナノ粒子の粒径の関係を表す特性図である。
【図41】実施例6−1〜6−4の基板の製造工程を模式的に表す図である。
【図42】図41(B)の工程の詳細を模式的に表す図である。
【図43】図41に続く工程を模式的に表す図である。
【図44】実施例6−1の触媒配置工程後における基板のAFM像である。
【図45】実施例6−4の触媒配置工程後における基板のAFM像である。
【図46】実施例6−1の熱処理工程後における基板のAFM像である。
【図47】実施例6−2の熱処理工程後における基板のAFM像である。
【図48】実施例6−3の熱処理工程後における基板のAFM像である。
【図49】実施例6−4の熱処理工程後における基板のAFM像である。
【図50】実施例6−1の基板上の鉄ナノ粒子の粒径の分布を表す図である。
【図51】実施例6−2の基板上の鉄ナノ粒子の粒径の分布を表す図である。
【図52】実施例6−3の基板上の鉄ナノ粒子の粒径の分布を表す図である。
【図53】実施例6−4の基板上の鉄ナノ粒子の粒径の分布を表す図である。
【図54】実施例7−1の触媒配置工程後の基板のAFM像である。
【図55】実施例7−2の触媒配置工程後の基板のAFM像である。
【図56】実施例7−3の触媒配置工程後の基板のAFM像である。
【図57】実施例7−4の触媒配置工程後の基板のAFM像である。
【図58】実施例7−1のサイクリックボルタモグラムである。
【図59】実施例7−2のサイクリックボルタモグラムである。
【図60】実施例7−3のサイクリックボルタモグラムである。
【図61】実施例7−4のサイクリックボルタモグラムである。
【図62】基板上に配置されたフェリチンの内部の鉄ナノ粒子の電位印加前の状態を表す図である。
【図63】基板上に配置されたフェリチンの内部の鉄ナノ粒子の電位印加時の状態を表す図である。
【図64】鉄ナノ粒子の粒径の制御方法を利用して作製したCNTを表す図である。
【符号の説明】
【0126】
1…筒状分子構造、2…酵素センサ、10…基板、11…筒状炭素分子(カーボンナノチューブ)、12…金属触媒粒子、13…シリサイド層、14…有機膜、15…フェリチン、16…分子ナノワイヤー、20…酵素、30…感知対象物(グルコース)、41…キレート剤、41A…キレート化合物、42…ガスバーナ、43…シャーレ、44…分子構造、44A…チオール基、44B…アミノ基、45…電解槽、46…対極、47…参照極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シラン基を有する化合物を用いて基板の表面に有機膜を形成する有機膜形成工程と、
前記有機膜上に金属触媒粒子を配置する触媒配置工程と、
前記基板に対して熱処理またはオゾン酸化処理を行うことにより、前記金属触媒粒子を前記基板上に固定化すると共に前記基板と前記金属触媒粒子との間にシリサイド層を形成するシリサイド形成工程と、
前記金属触媒粒子を活性化させると共にこの金属触媒粒子を基点として筒状炭素分子を前記基板に対して垂直方向に成長させる成長工程と
を含むことを特徴とする筒状分子構造の製造方法。
【請求項2】
前記有機膜形成工程において、前記化合物を含む液に前記基板を浸漬する方法、前記液を前記基板上に塗布する方法または前記化合物を前記基板上に蒸着させる方法を用いる
ことを特徴とする請求項1記載の筒状分子構造の製造方法。
【請求項3】
前記触媒配置工程において、フェリチンを含む溶液中に前記有機膜が成膜された基板を浸漬することにより、前記有機膜にフェリチンを配置する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の筒状分子構造の製造方法。
【請求項4】
前記触媒配置工程において、人工的に調製された金属触媒粒子を物理的または化学的に吸着させることにより前記有機膜に配置する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の筒状分子構造の製造方法。
【請求項5】
前記触媒配置工程において、前記基板に形成された有機膜上に分子ナノワイヤーを配設し、この分子ナノワイヤーに沿って金属触媒粒子を配置する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の筒状分子構造の製造方法。
【請求項6】
前記分子ナノワイヤーは、合成高分子もしくはポリペプチドまたはDNAを由来とする高分子である
ことを特徴とする請求項5記載の筒状分子構造の製造方法。
【請求項7】
前記触媒配置工程において、前記金属触媒粒子をキレート溶液と反応させることにより前記金属触媒粒子の粒径を所望の大きさに形成する
ことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の筒状分子構造の製造方法。
【請求項8】
前記キレート溶液に含めるキレート剤としてニトリロ三酢酸(NTA)を用いる
ことを特徴とする請求項7記載の筒状分子構造の製造方法。
【請求項9】
前記触媒配置工程において、金属触媒粒子を導電性を有する基板の有機膜上に配置し、前記金属触媒粒子に対して酸化または還元される電位を印加することにより、前記金属触媒粒子の粒径を所望の大きさに形成する
ことを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載の筒状分子構造の製造方法。
【請求項10】
前記有機膜に互いに導電性の異なる領域を設け、同一基板上に粒径の異なる金属触媒粒子を形成する
ことを特徴とする請求項9記載の筒状分子構造の製造方法。
【請求項11】
前記金属触媒粒子は前記基板の有機膜上に配置されたフェリチンに内包されているものであり、前記フェリチンのタンパク質部分および前記有機膜を熱処理により除去して前記金属触媒粒子を前記基板上に固定する
ことを特徴とする請求項1ないし10のいずれか1項に記載の筒状分子構造の製造方法。
【請求項12】
前記熱処理として、前記金属触媒粒子が配置された基板に対して大気中400℃で1時間の加熱を行う
ことを特徴とする請求項1ないし11のいずれか1項に記載の筒状分子構造の製造方法。
【請求項13】
前記成長工程において、化学気相成長法を用いると共に炭素源を含む反応ガスの温度を600℃以上1200℃以下とする
ことを特徴とする請求項1ないし12のいずれか1項に記載の筒状分子構造の製造方法。
【請求項14】
前記反応ガスに20g/m3 以下の水蒸気を含める
ことを特徴とする請求項13記載の筒状分子構造の製造方法。
【請求項15】
前記成長工程ののち、前記筒状炭素分子に酵素を立体的に捕捉させて酵素センサとする ことを特徴とする請求項1ないし14のいずれか1項に記載の筒状分子構造の製造方法。
【請求項16】
前記成長工程ののち、前記筒状炭素分子に金属ナノ粒子を立体的に捕捉させてガスセンサ、触媒担持体もしくはキャパシタとする
ことを特徴とする請求項1ないし14のいずれか1項に記載の筒状分子構造の製造方法。
【請求項17】
前記成長工程ののち、前記筒状炭素分子に金属粒子、あるいは金属粒子および色素を立体的に捕捉させて太陽電池とする
ことを特徴とする請求項1ないし14のいずれか1項に記載の筒状分子構造の製造方法。
【請求項18】
筒状炭素分子を成長させるための前処理基板を製造する方法であって、
シラン基を有する化合物を用いて基板の表面に有機膜を形成する有機膜形成工程と、
前記有機膜上に金属触媒粒子を配置する触媒配置工程と、
前記基板に対して熱処理またはオゾン酸化処理を行うことにより、前記金属触媒粒子を前記基板上に固定化すると共に前記基板と前記金属触媒粒子との間にシリサイド層を形成するシリサイド形成工程と
を含むことを特徴とする前処理基板の製造方法。
【請求項19】
導電性基板と、
前記導電性基板上の所定の位置に固定化された金属触媒粒子を基点として形成されると共に前記導電性基板に対して垂直方向に延在する筒状炭素分子と、
前記基板と前記筒状炭素分子との間に形成されたシリサイド層と
を備えたことを特徴とする筒状分子構造。
【請求項20】
基板と、
前記基板上の所定の位置に、シラン基を有する有機膜を用いて配置された金属触媒粒子を基点として形成されると共に前記基板に対して垂直方向に延在する筒状炭素分子と、
前記基板と前記筒状炭素分子との間に形成されたシリサイド層と
を備えたことを特徴とする筒状分子構造。
【請求項21】
前記筒状炭素分子は複数存在すると共にその密度(集積度)が1015本/cm2 以下である
ことを特徴とする請求項20記載の筒状分子構造。
【請求項22】
前記金属触媒粒子はフェリチンに内包されていたものであり、前記フェリチンは、シラン基を有する化合物を用いて前記基板上に成膜された有機膜に固定化されたものである
ことを特徴とする請求項20または21に記載の筒状分子構造。
【請求項23】
前記金属触媒粒子はシラン基を有する化合物を用いて前記基板上に成膜された有機膜上に配設された分子ナノワイヤーに沿って固定化されたものである
ことを特徴とする請求項20または21に記載の筒状分子構造。
【請求項24】
前記金属触媒粒子はフェリチンに内包されていたものである
ことを特徴とする請求項23記載の筒状分子構造。
【請求項25】
前記基板は導電性あるいは半導体性を有する基板である
ことを特徴とする請求項20ないし24のいずれか1項に記載の筒状分子構造。
【請求項26】
前記筒状炭素分子に酵素が立体的に捕捉されて酵素センサとして用いられる
ことを特徴とする請求項19ないし25のいずれか1項に記載の筒状分子構造。
【請求項27】
前記筒状炭素分子に金属粒子または色素が立体的に配置されて太陽電池として用いられる
ことを特徴とする請求項19ないし25のいずれか1項に記載の筒状分子構造。
【請求項28】
前記筒状炭素分子に金属粒子が立体的に捕捉されて、ガスセンサ、触媒担持体、キャパシタとして用いられる
ことを特徴とする請求項19ないし25のいずれか1項に記載の筒状分子構造。
【請求項29】
筒状炭素分子を成長させるための前処理基板であって、
基板と、
前記基板上の所定の位置に配置された金属触媒粒子と、
前記基板と前記金属触媒粒子との間に形成されたシリサイド層と
を備えたことを特徴とする前処理基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図49】
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【図50】
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【図51】
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【図52】
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【図53】
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【図54】
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【図55】
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【図56】
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【図57】
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【図58】
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【図59】
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【図60】
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【図61】
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【図62】
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【図63】
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【図64】
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【公開番号】特開2006−342040(P2006−342040A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−259305(P2005−259305)
【出願日】平成17年9月7日(2005.9.7)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【Fターム(参考)】