管体の残留応力改善方法及び残留応力改善装置
【課題】加熱しすぎること無く、確実に残留応力を改善できる管体の残留応力改善方法及び装置を提供する。
【解決手段】管体への照射開始角度θsから第1所定角度θ1までの間は、レーザ光の出力を、0.5から徐々に増加して、定常出力である出力比1.0とし(出力増加工程)、第1所定角度θ1から第2所定角度θ2までの間は、レーザ光の出力を出力比1.0とし(定常出力工程)、第2所定角度θ2から照射終了角度θeまでの間は、レーザ光の出力を、出力比1.0から徐々に減少して、0.5とし(出力減少工程)、照射終了角度θeで、レーザ光の出力を0として(出力停止工程)、これらの全工程を1周の周回で行う管体の残留応力改善方法及び装置。
【解決手段】管体への照射開始角度θsから第1所定角度θ1までの間は、レーザ光の出力を、0.5から徐々に増加して、定常出力である出力比1.0とし(出力増加工程)、第1所定角度θ1から第2所定角度θ2までの間は、レーザ光の出力を出力比1.0とし(定常出力工程)、第2所定角度θ2から照射終了角度θeまでの間は、レーザ光の出力を、出力比1.0から徐々に減少して、0.5とし(出力減少工程)、照射終了角度θeで、レーザ光の出力を0として(出力停止工程)、これらの全工程を1周の周回で行う管体の残留応力改善方法及び装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配管等の管体の残留応力を改善する管体の残留応力改善方法及び残留応力改善装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所、大型プラント等において、大型の配管等の管体を設置する場合、溶接した際に配管に残留する応力の除去が問題となる。溶接が行われると配管には残留応力が発生し、その残留応力によって配管の寿命が短くなるおそれがあるため、溶接によって発生した残留応力は、除去することが望ましい。
【0003】
配管に残留する応力の除去方法として、高周波加熱残留応力改善法(Induction Heating Stress Improvement Process;以降、IHSI法と呼ぶ。)が提案されている。このIHSI法は、配管の応力腐食割れ(Stress Corrosion Cracking;以降、SCCと呼ぶ。)条件を満たしている部分近傍の厚み方向に温度勾配ができるように、管内面を流水により強制冷却しながら外面側から高周波誘導加熱コイルを利用して誘導加熱で昇温した後、加熱を停止し、配管の厚み方向が略均一な温度となるまで内面に水を流すことで冷却し続け、結果として、溶接部近傍の引張状態の残留応力を低減又は圧縮状態にするものである(特許文献1〜3)。
【0004】
又、配管に残留する応力の除去方法として、レーザ照射を用いて、ステンレス鋼等の配管の表面を溶体化温度加熱あるいは溶融することにより、裏面の残留応力を低減する方法も提案されている(特許文献4〜7)。
【0005】
【特許文献1】特開昭57−70095号公報
【特許文献2】特開2001−150178号公報
【特許文献3】特開平10−272586号公報
【特許文献4】特開2003−004890号公報
【特許文献5】特開平8−5773号公報
【特許文献6】特開2000−254776号公報
【特許文献7】特開2004−130314号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
IHSI法においては、加熱終了時に管外周面と管内周面との間には一定以上の温度差が必要である。このため、既に据え付けられ、内部を水流による冷却が可能な配管に対しては実施しやすいが、管内部に流水状態を確保できない管体に対しては実施が困難である。又、IHSI法は、管の厚み方向に温度勾配をつけるために高周波誘導加熱を行うものであるが、高周波誘導コイルによる加熱の場合、管体の材質(誘電率)によって、熱が伝わる深さ及び範囲が異なり、その加熱範囲の限定が難しい。又、装置も大掛かりでエネルギー消費量も大きく、更に、異材継手等、誘電率が異なる部材が混じっている場合には、厚み方向に一定の温度勾配をつけるのが難しい。
【0007】
又、上述した、レーザ照射を用いて、ステンレス鋼等の配管の表面を溶体化温度加熱あるいは溶融することにより、裏面の残留応力を低減する方法おいては、加熱が不足したり、加熱しすぎたりする可能性がある。加熱不足の場合には、残留応力を十分改善することができず、SCCを確実に防止できないおそれがある。又、加熱しすぎた場合、加熱領域の近傍に鋭敏化温度に晒される領域が発生し、材料自体に悪影響を与えてしまう。この場合、加熱面に酸化スケールが形成され、スケールを除去する必要が生じ、原子力発電所内での施工では、被ばくが増加するおそれがある。特に、配管同士を溶接した際には、その溶接部分の外面を周方向に移動しながら線状にレーザ照射して、残留応力を低減しているが、レーザ照射の開始角度と終了角度においては、レーザ照射による加熱領域が重複することにより加熱しすぎてしまい、配管を鋭敏化温度に晒して、材料自体に悪影響を与えるおそれがあった。
【0008】
例えば、レーザ照射の開始角度を周方向位置の0度とし、終了角度を360度とし、一定のレーザ照射の出力(ここでは、所定の周回速度において所望の加熱温度が得られる出力を1.0とする。)を用いた場合、図12に示すように、レーザ照射の開始角度、終了角度において、所望の温度より100℃以上高いオーバーヒートとなる領域が発生していた。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みなされたもので、加熱しすぎること無く、確実に残留応力を改善できる管体の残留応力改善方法及び残留応力改善装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する第1の発明に記載の管体の残留応力改善方法は、
レーザ光を円筒状管体の溶接部分の外周面に局所的に照射すると共に、前記レーザ光の照射領域を所定の周回速度で前記管体の外周上を周回させることにより、前記溶接部分全周を加熱して、前記溶接部分全周の残留応力を改善する管体の残留応力改善方法において、
前記管体への照射開始角度から第1所定角度までの間は、前記レーザ光の出力を、0、若しくは、前記所定の周回速度において所望の加熱温度が得られる定常出力より小さい出力から徐々に増加して、前記定常出力とする出力増加工程と、
前記第1所定角度から、前記照射開始角度と同じ位置である照射終了角度に対して手前の位置にある第2所定角度までの間は、前記レーザ光の出力を前記定常出力とする定常出力工程と、
前記第2所定角度から前記照射終了角度までの間は、前記レーザ光の出力を、前記定常出力から徐々に減少して、0、若しくは、前記定常出力より小さい出力とする出力減少工程と、
前記照射終了角度で、前記レーザ光の出力を0とする出力停止工程とを有し、
前記全工程を1周の周回で行うことを特徴とする。
【0011】
上記課題を解決する第2の発明に記載の管体の残留応力改善方法は、
レーザ光を円筒状管体の溶接部分の外周面に局所的に照射すると共に、前記レーザ光の照射領域を所定の周回速度で前記管体の外周上を周回させることにより、前記溶接部分全周を加熱して、前記溶接部分全周の残留応力を改善する管体の残留応力改善方法において、
前記管体への照射開始角度から第1所定角度までの間は、前記レーザ光の出力を、0、若しくは、前記所定の周回速度において所望の加熱温度が得られる定常出力より小さい出力から徐々に増加して、前記定常出力とする出力増加工程と、
前記第1所定角度から前記照射開始角度と同じ位置である照射終了角度までの間は、前記レーザ光の出力を前記定常出力とする定常出力工程と、
前記照射終了角度で、前記レーザ光の出力を0とする出力停止工程とを有し、
前記全工程を1周の周回で行うことを特徴とする。
【0012】
上記課題を解決する第3の発明に記載の管体の残留応力改善方法は、
レーザ光を円筒状管体の溶接部分の外周面に局所的に照射すると共に、前記レーザ光の照射領域を所定の周回速度で前記管体の外周上を周回させることにより、前記溶接部分全周を加熱して、前記溶接部分全周の残留応力を改善する管体の残留応力改善方法において、
前記管体への照射開始角度で、前記レーザ光の出力を、前記所定の周回速度において所望の加熱温度が得られる定常出力とし、前記照射開始角度から、前記照射開始角度と同じ位置である照射終了角度に対して手前の位置にある第2所定角度までの間は、前記レーザ光の出力を前記定常出力とする定常出力工程と、
前記第2所定角度から前記照射終了角度までの間は、前記レーザ光の出力を、前記定常出力から徐々に減少して、0、若しくは、前記定常出力より小さい出力とするする出力減少工程と、
前記照射終了角度で、前記レーザ光の出力を0とする出力停止工程とを有し、
前記全工程を1周の周回で行うことを特徴とする。
【0013】
上記課題を解決する第4の発明に記載の管体の残留応力改善方法は、
レーザ光を円筒状管体の溶接部分の外周面に局所的に照射すると共に、前記レーザ光の照射領域を所定の周回速度で前記管体の外周上を周回させることにより、前記溶接部分全周を加熱して、前記溶接部分全周の残留応力を改善する管体の残留応力改善方法において、
前記管体への照射開始角度から第1所定角度までの間は、前記レーザ光の出力を、0から徐々に増加して、前記所定の周回速度において所望の加熱温度が得られる定常出力とする出力増加工程と、
前記第1所定角度から前記開始角度に対して手前の位置にある第2所定角度までの間は、前記レーザ光の出力を前記定常出力とする定常出力工程と、
前記第2所定角度から、前記開始角度を通過した照射終了角度までの間は、前記レーザ光の出力を、前記定常出力から徐々に減少して、0とする出力減少工程とを有し、
前記管体における前記出力増加工程の角度の範囲と前記出力減少工程の角度の範囲を一部重ねると共に、前記重なる角度の範囲では、該各工程における前記レーザ光の出力の和を、前記定常出力の0.8〜0.9の比率として、前記全工程を1周以上2周未満の周回で行うことを特徴とする。
【0014】
上記課題を解決する第5の発明に記載の管体の残留応力改善方法は、
上記第1〜第4の発明に記載の管体の残留応力改善方法において、
前記全工程からなる周回を2回以上行い、且つ、加熱された前記管体を周回毎に雰囲気温度まで冷却すると共に、
前記管体の照射開始角度及び照射終了角度を、周回毎に異なる角度とすることを特徴とする。
【0015】
上記課題を解決する第6の発明に記載の管体の残留応力改善方法は、
上記第5の発明に記載の管体の残留応力改善方法において、
全ての周回において前記定常出力工程が行われる管体の角度の範囲であって、該角度の範囲の端部の角度位置のみに、前記管体の温度を測定する温度センサを設置し、
前記周回の際、前記温度センサにより前記管体の最高到達温度を監視することを特徴とする。
【0016】
上記課題を解決する第7の発明に記載の管体の残留応力改善装置は、
前記周回移動手段に支持され、前記管体の溶接部分の外周面に局所的にレーザ光を照射するレーザ光照射手段と、
前記レーザ光照射手段によるレーザ光の出力を制御すると共に、前記周回移動手段によるレーザ光照射手段の周回角度位置及び周回速度を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、
前記管体への照射開始角度から第1所定角度までの間は、前記レーザ光の出力を、0、若しくは、前記所定の周回速度において所望の加熱温度が得られる定常出力より小さい出力から徐々に増加して、前記定常出力とする出力増加工程と、
前記第1所定角度から、前記照射開始角度と同じ位置である照射終了角度に対して手前の位置にある第2所定角度までの間は、前記レーザ光の出力を前記定常出力とする定常出力工程と、
前記第2所定角度から前記照射終了角度までの間は、前記レーザ光の出力を、前記定常出力から徐々に減少して、0、若しくは、前記定常出力より小さい出力とする出力減少工程と、
前記照射終了角度で、前記レーザ光の出力を0とする出力停止工程とを有し、
前記全工程を1周の周回で行うことにより、前記レーザ光の照射領域を前記管体の外周上を周回させ、前記溶接部分全周を加熱して、前記溶接部分全周の残留応力を改善することを特徴とする。
【0017】
上記課題を解決する第8の発明に記載の管体の残留応力改善装置は、
円筒状管体の外周を所定の周回速度で周回移動可能な周回移動手段と、
前記周回移動手段に支持され、前記管体の溶接部分の外周面に局所的にレーザ光を照射するレーザ光照射手段と、
前記レーザ光照射手段によるレーザ光の出力を制御すると共に、前記周回移動手段によるレーザ光照射手段の周回角度位置及び周回速度を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、
前記管体への照射開始角度から第1所定角度までの間は、前記レーザ光の出力を、0、若しくは、前記所定の周回速度において所望の加熱温度が得られる定常出力より小さい出力から徐々に増加して、前記定常出力とする出力増加工程と、
前記第1所定角度から前記照射開始角度と同じ位置である照射終了角度までの間は、前記レーザ光の出力を前記定常出力とする定常出力工程と、
前記照射終了角度で、前記レーザ光の出力を0とする出力停止工程とを有し、
前記全工程を1周の周回で行うことにより、前記レーザ光の照射領域を前記管体の外周上を周回させ、前記溶接部分全周を加熱して、前記溶接部分全周の残留応力を改善することを特徴とする。
【0018】
上記課題を解決する第9の発明に記載の管体の残留応力改善装置は、
円筒状管体の外周を所定の周回速度で周回移動可能な周回移動手段と、
前記周回移動手段に支持され、前記管体の溶接部分の外周面に局所的にレーザ光を照射するレーザ光照射手段と、
前記レーザ光照射手段によるレーザ光の出力を制御すると共に、前記周回移動手段によるレーザ光照射手段の周回角度位置及び周回速度を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、
前記管体への照射開始角度で、前記レーザ光の出力を、前記所定の周回速度において所望の加熱温度が得られる定常出力とし、前記照射開始角度から、前記照射開始角度と同じ位置である照射終了角度に対して手前の位置にある第2所定角度までの間は、前記レーザ光の出力を前記定常出力とする定常出力工程と、
前記第2所定角度から前記照射終了角度までの間は、前記レーザ光の出力を、前記定常出力から徐々に減少して、0、若しくは、前記定常出力より小さい出力とするする出力減少工程と、
前記照射終了角度で、前記レーザ光の出力を0とする出力停止工程とを有し、
前記全工程を1周の周回で行うことにより、前記レーザ光の照射領域を前記管体の外周上を周回させ、前記溶接部分全周を加熱して、前記溶接部分全周の残留応力を改善することを特徴とする。
【0019】
上記課題を解決する第10の発明に記載の管体の残留応力改善装置は、
円筒状管体の外周を所定の周回速度で周回移動可能な周回移動手段と、
前記周回移動手段に支持され、前記管体の溶接部分の外周面に局所的にレーザ光を照射するレーザ光照射手段と、
前記レーザ光照射手段によるレーザ光の出力を制御すると共に、前記周回移動手段によるレーザ光照射手段の周回角度位置及び周回速度を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、
前記管体への照射開始角度から第1所定角度までの間は、前記レーザ光の出力を、0から徐々に増加して、前記所定の周回速度において所望の加熱温度が得られる定常出力とする出力増加工程と、
前記第1所定角度から、前記開始角度に対して手前の位置にある第2所定角度までの間は、前記レーザ光の出力を前記定常出力とする定常出力工程と、
前記第2所定角度から、前記開始角度を通過した照射終了角度までの間は、前記レーザ光の出力を、前記定常出力から徐々に減少して、0とする出力減少工程とを有し、
前記管体における前記出力増加工程の角度の範囲と前記出力減少工程の角度の範囲を一部重ねると共に、前記重なる角度の範囲では、該各工程における前記レーザ光の出力の和を、前記定常出力の0.8〜0.9の比率として、前記全工程を1周以上2周未満の周回で行うことにより、前記レーザ光の照射領域を前記管体の外周上を周回させ、前記溶接部分全周を加熱して、前記溶接部分全周の残留応力を改善することを特徴とする。
【0020】
上記課題を解決する第11の発明に記載の管体の残留応力改善装置は、
上記第7〜第10の発明に記載の管体の残留応力改善装置において、
前記制御手段は、
前記全工程からなる周回を2回以上行い、且つ、加熱された前記管体を周回毎に雰囲気温度まで冷却すると共に、
前記管体の照射開始角度及び照射終了角度を、周回毎に異なる角度とすることを特徴とする。
【0021】
上記課題を解決する第12の発明に記載の管体の残留応力改善装置は、
上記第11の発明に記載の管体の残留応力改善装置において、
全ての周回において前記定常出力工程が行われる管体の角度の範囲であって、該角度の範囲の端部の角度位置のみに、前記管体の温度を測定する温度センサを設け、
前記制御手段は、
前記周回の際、前記温度センサにより前記管体の最高到達温度を監視することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、1周の周回のレーザ照射の開始角度及び終了角度において、レーザ照射の出力を適宜に増加、減少させるので、管体を加熱しすぎること無く、レーザ加熱により管体内面の溶接残留応力(引張応力)を確実に改善することができる。又、レーザ照射の開始角度及び終了角度を周回毎に異なる角度として、複数の周回の開始角度及び終了角度において、レーザ照射の出力を適宜に増加、減少させるので、管体の全周に渡って、最高到達温度を均一にすることができる。従って、原子力プラント等に設置された配管で発生するSCCを、確実に防止することができる。
【0023】
又、所定の周回速度において所望の加熱温度が得られる定常出力のレーザ光を照射する定常出力工程が全ての周回で行われる管体の角度位置のみに、温度センサを設けるので、少ない温度センサの数でも、過剰な加熱を確実に監視することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明に係る管体の残留応力改善方法及び残留応力改善装置を、図1〜図11を用いて、詳細に説明する。
【実施例1】
【0025】
図1は、本発明に係る管体の残留応力改善装置及びその原理を説明する図である。
図1(a)に示すように、残留応力改善装置1は、円筒状の管体である配管2の軸方向Lに延設されると共に、図示しない周回移動装置により配管2の外周を配管2と同軸に周回可能な支持部4と、支持部4に支持され、配管2の溶接部分の外周面の所定領域にレーザ光を照射する光学ヘッド5と、光ファイバ6により光学ヘッド5と接続され、光ファイバ6を介してレーザ光を光学ヘッド5に供給するレーザ発振器7と、周回移動装置、レーザ発振器7等を制御する制御部8とを有するものである。又、配管2の外周面のレーザ光が照射される領域には、配管2の外面の温度を測定する熱電対等の温度センサ9が設置されており、温度センサ9で測定した温度を制御部8が取得して、周回移動装置による周回速度、周回角度位置やレーザ発振器7の出力等を制御している。
【0026】
光学ヘッド5、光ファイバ6、レーザ発振器7は、レーザ光照射手段を構成しており、レーザ光による線状熱源となる加熱光学系となっている。レーザ光照射手段では、支持部4に沿って、光学ヘッド5の位置を軸方向Lに移動することにより、その照射領域を配管2の軸方向に移動可能である。そして、支持部4と共に光学ヘッド5を、配管2の周方向Rに周回移動することにより、光学ヘッド5からのレーザ光を、配管2の溶接部分の外周面を周回して照射し、配管2の外面の所定領域を周方向に均一に加熱するようにしている。光学ヘッド5においては、光学ヘッド5自体、若しくは、光学ヘッド5を構成するレンズ、ミラー等の位置変更を行うことで、周方向照射幅、軸方向照射幅を調整して、加熱する領域を調整している。なお、照射領域の大きさによっては、複数の光学ヘッド5を支持部4に設けてもよい。
【0027】
又、支持部4、周回移動装置は、周回移動手段を構成している。その具体的な構成は、例えば、その内周側が配管2を保持し、その外周側が支持部4を支持して、支持部4を周回可能とするものであればどのような構成でもよい。
【0028】
残留応力を改善する際には、本発明に係る残留応力改善装置1において、予め、光学ヘッド5の調整により加熱領域を調整し、制御部8により、レーザ発振器7の出力を制御すると共に周回移動装置を所定の移動速度に制御して周回移動させることで、光学ヘッド5から照射されるレーザ光が、配管2の外周を周回移動しながら配管2の外周面の所定領域に照射されて、配管2の外周面の所定領域が加熱されることになる。このとき、加熱時に発生する配管2の内外面の温度差を利用し、内面を引張降伏させることにより、冷却後の内面の残留応力を低減若しくは圧縮応力に改善している。なお、加熱温度としては、固溶化温度未満とすることが好ましい。又、本発明の場合、配管2の内面側を必ずしも強制冷却する必要はない。
【0029】
上記残留応力改善方法の原理を、図1(b)を参照して説明すると、残留応力を改善したい管体の所定領域において、その外面にレーザ照射を行うと、レーザ照射による加熱により、その外面と内面との間(図1(a)におけるA−A線の間)に所定の温度差が生じるような温度分布が形成される((1)参照)。このとき、外面側は圧縮応力状態、内面側は引張応力状態、更には、外面の表面側は、対象配管を構成する材料の圧縮降伏応力を越える圧縮降伏状態、内面の表面側は、対象配管を構成する材料の引張降伏応力を越える引張降伏状態となる((2)参照)。
【0030】
加熱後、上記所定領域の内面及び外面を冷却すると、その外面と内面との間の温度は一定となる((3)参照)。このとき、外面は引張応力状態になり、内面は圧縮応力状態になり、内面の残留応力を引張応力状態から圧縮応力状態に改善することが可能となる((4)参照)。このように、降伏応力相当以上の応力の大きさ(ひずみ量)をレーザ照射による加熱により発生させることにより、管体内面に生じている残留応力を引張状態から圧縮状態に改善して、管体内面の応力腐食割れを防ぐことが可能となる。従って、本発明に係る残留応力改善装置1を用いて、配管2の外周面を加熱する場合、加熱時に発生する応力が降伏応力以上のひずみとなるように、レーザ照射の条件を設定すればよい。
【0031】
ところが、レーザ照射の条件が、上記条件であれば、どのようなものでもよいわけではなく、加熱しすぎた場合、加熱領域の近傍に鋭敏化温度に晒される領域が発生し、材料自体に悪影響を与えることになる。特に、配管同士を溶接したとき、その溶接部分の外面を周方向に回転移動して線状にレーザ照射して、残留応力を低減する際には、レーザ照射の開始角度と終了角度において、レーザ照射による加熱領域が重複することにより加熱しすぎてしまい、配管を鋭敏化温度に晒して、材料自体に悪影響を与えるおそれがあった。
【0032】
そこで、本発明においては、レーザ照射の開始角度、終了角度において、そのレーザ照射の強度(レーザ発振器7の出力)を制御することにより、レーザ照射の開始角度、終了角度における加熱領域のオーバーヒートを防止して、配管2の外面の周方向における加熱温度を均一にするようにしている。
【0033】
具体的には、図2に示すように、管体へのレーザ照射の開始角度θsを周方向位置の0度とし、終了角度θeを360度とする場合、つまり、開始角度θs=終了角度θeとする場合、開始角度θs=0度から第1所定角度θ1までの間に、レーザ光の出力を出力比0.5から徐々に増加して、定常出力である出力比1.0としている(出力増加工程)。次に、第1所定角度θ1から終了角度θeに対して手前の位置にある第2所定角度θ2までの間は、レーザ光の出力として出力比1.0を維持している(定常出力工程)。次に、第2所定角度θ2から終了角度θeまでの間に、レーザ光の出力を出力比1.0から出力比0.5へ徐々に減少し(出力減少工程)、終了角度θe=360度において、レーザ光の出力を0としている(出力停止工程)。そして、管体2へのレーザ照射は、これらの全工程が1周の周回で行われている。
【0034】
本実施例においては、開始角度θs及び終了角度θeにおける出力比を0.5としているが、加熱しすぎなければ、つまり、定常出力より小さい出力であれば、例えば、開始角度θs及び終了角度θeにおける出力比を0として、レーザ光の出力を、出力比0から出力比1.0へ増加し、出力比1.0から出力比0へ減少するようにしてもよい。
【0035】
なお、本発明では、本実施例及び後述の他の実施例も含めて、所定の一定の周回速度において、配管2の外面の温度を所望の加熱温度(例えば、600℃程度)とするレーザ光の出力を、定常出力と規定して説明を行うと共に、定常出力を出力比1.0として、レーザ光の出力の変化を示している。例えば、図2では、第1所定角度θ1から第2所定角度θ2の間の出力が、定常出力の出力比1.0となり、他の角度範囲のレーザ光の出力は、定常出力の出力比1.0を基準に、その出力比が示されている。
【0036】
このように、レーザ照射の開始角度θs及び終了角度θe近傍において、レーザ光の出力を徐々に増加し、そして、レーザ光の出力を徐々に減少することにより、図2に示すように、開始角度θs及び終了角度θeにおける温度を、定常出力でレーザ照射する領域の温度と略同等として、配管2の全周において、加熱温度を略均一とすることができる。その結果、レーザ照射の開始角度θs及び終了角度θe近傍において、照射するレーザ光の重なりが有っても、図12に示すようなオーバーヒート領域が発生することを防止することができ、材料自体に悪影響を与えることなく、残留応力を改善することができる。
【0037】
なお、第1所定角度θ1、第2所定角度θ2及びレーザ光の出力の増減は、配管2の形状、大きさ、材質、レーザ照射の周回速度等の条件によって、適宜に設定される。
【実施例2】
【0038】
図3は、本発明に係る管体の残留応力改善方法の実施形態の他の一例を説明する図である。
なお、本実施例は、実施例1に示した残留応力改善装置1を前提に説明を行う。従って、残留応力改善装置1自体の構成の説明は省略する。又、以下に示す実施例3〜5においても、実施例1に示した残留応力改善装置1を前提に説明を行うため、同じく、残留応力改善装置1自体の構成の説明は省略する。
【0039】
図3に示すように、本実施例では、管体へのレーザ照射の開始角度θsを周方向位置の0度とし、終了角度θeを360度とする場合、つまり、開始角度θs=終了角度θeとする場合、開始角度θs=0度から第1所定角度θ1までの間に、レーザ光の出力を出力比0から徐々に増加して、定常出力である出力比1.0としている(出力増加工程)。次に、第1所定角度θ1から終了角度θeまでの間は、レーザ光の出力として出力比1.0を維持しており(定常出力工程)、終了角度θe=360度において、レーザ光の出力を0としている(出力停止工程)。そして、管体2へのレーザ照射は、これらの全工程が1周の周回で行われている。
【0040】
本実施例においては、開始角度θsにおける出力比を0から開始しているが、加熱しすぎなければ、つまり、定常出力より小さい出力であれば、例えば、実施例1のように、開始角度θsにおける出力比を0.5から開始して、レーザ光の出力を、出力比0.5から出力比1.0へ増加するようにしてもよい。
【0041】
このように、レーザ照射の開始角度θs近傍において、レーザ光の出力を徐々に増加し、そして、終了角度θeにおいて、レーザ光の出力を0とすることにより、開始角度θs、終了角度θe近傍における温度を、定常出力でレーザ照射する領域の温度と略同等として、配管2の全周において、加熱温度を略均一とすることができる。その結果、レーザ照射の開始角度θs、終了角度θe近傍において、照射するレーザ光の重なりが有っても、オーバーヒート領域が発生することを防止することができ、材料自体に悪影響を与えることなく、残留応力を改善することができる。
【実施例3】
【0042】
図4は、本発明に係る管体の残留応力改善方法の実施形態の他の一例を説明する図である。
【0043】
図4に示すように、本実施例では、管体へのレーザ照射の開始角度θsを周方向位置の0度とし、終了角度θeを360度とする場合、つまり、開始角度θs=終了角度θeとする場合、開始角度θs=0度で、レーザ光の出力を定常出力である出力比1.0とし、開始角度θsから終了角度θeに対して手前の位置にある第2所定角度θ2までの間は、レーザ光の出力として出力比1.0を維持している(定常出力工程)。次に、第2所定角度θ2から終了角度θeまでの間に、レーザ光の出力を出力比1.0から出力比0へ徐々に減少し(出力減少工程)、終了角度θe=360度において、レーザ光の出力を0としている(出力停止工程)。そして、管体2へのレーザ照射は、これらの全工程が1周の周回で行われている。
【0044】
本実施例においては、終了角度θeにおいて出力比を0としているが、加熱しすぎなければ、つまり、定常出力より小さい出力であれば、例えば、実施例1のように、出力比1.0から出力を減少し、終了角度θeにおけるレーザ光の出力を、出力比0.5とした後、出力比0としてもよい。
【0045】
このように、レーザ照射の終了角度θe近傍において、レーザ光の出力を徐々に減少することにより、開始角度θs及び終了角度θeにおける温度を、定常出力でレーザ照射する領域の温度と略同等として、配管2の全周において、加熱温度を略均一とすることができる。その結果、レーザ照射の開始角度θs及び終了角度θe近傍において、照射するレーザ光の重なりが有っても、オーバーヒート領域が発生することを防止することができ、材料自体に悪影響を与えることなく、残留応力を改善することができる。
【実施例4】
【0046】
図5は、本発明に係る管体の残留応力改善方法の実施形態の他の一例を説明する図である。
【0047】
図5に示すように、本実施例では、管体へのレーザ照射の開始角度θsを周方向位置の60度とし、終了角度θeを、開始角度θsを1周通過後の100度の位置としており、実施例1〜3では開始角度θsと終了角度θeの位置が一致するのに対して、本実施例では開始角度θsと終了角度θeが相違するものである。この場合、開始角度θs=60度から第1所定角度θ1までの間に、レーザ光の出力を出力比0から徐々に増加して、定常出力である出力比1.0としている(出力増加工程)。次に、第1所定角度θ1から、開始角度θsに対して手前の位置にある第2所定角度θ2までの間は、レーザ光の出力として出力比1.0を維持している(定常出力工程)。次に、第2所定角度θ2から開始角度θsを通過した終了角度θeまでの間に、レーザ光の出力を出力比1.0から出力比0へ徐々に減少している(出力減少工程)。
【0048】
上記出力増加工程→定常出力工程→出力減少工程により、配管2に対するレーザ照射において、出力増加工程の角度の範囲(開始角度θs→第1所定角度θ1間)と出力減少工程の角度の範囲(第2所定角度θ2→終了角度θe間)が一部重なるようにしている。つまり、実施例1〜3とは異なり、開始角度θs→終了角度θe間に、レーザ照射の重なる範囲が存在しており、管体2へのレーザ照射は、これらの全工程(1回の周回工程)が1周以上2周未満で行われている。そして、レーザ照射が重なる角度の範囲(開始角度θs→終了角度θe間)では、出力増加工程におけるレーザ光の出力と出力減少工程におけるレーザ光の出力の和が、定常出力の出力比1.0に対して、出力比0.8〜0.9となるように、レーザ光の出力を制御している。これは、定常出力(第1所定角度θ1→第2所定角度θ2間)における加熱温度に対して、出力制限時(開始角度θs→終了角度θe)における加熱温度が、高くなりすぎず、かつ、低くなりすぎないようにするために行うものである。
【0049】
このように、レーザ照射が重なる角度の範囲を設けると共に、その角度の範囲におけるレーザ照射の出力を適宜に制限することにより、その角度の範囲における温度を、定常出力でレーザ照射する領域の温度と略同等として、配管2の全周において、加熱温度を略均一とすることができる。その結果、レーザ照射の開始角度θs及び終了角度θe近傍において、オーバーヒート領域が発生することを防止することができ、材料自体に悪影響を与えることなく、残留応力を改善することができる。又、レーザ照射の開始角度θs及び終了角度θe近傍において、レーザ照射の重なる範囲を設けることにより、配管2の全周を均一な最高到達温度に加熱することができ、全周に同等の残留応力改善を施すことができる。
【実施例5】
【0050】
図6は、本発明に係る管体の残留応力改善方法の実施形態の他の一例を説明する図であり、周方向移動に伴うレーザ光の出力の変化を、レーダーチャートとして記載したものである。
【0051】
上記実施例1〜4においては、1周若しくは2周未満の周回におけるレーザ照射により、配管2の残留応力改善を図るものであるが、加熱しすぎることがなければ、1回の周回に限定する必要はなく、2回以上の複数の周回におけるレーザ照射により、配管2の残留応力改善を図るようにしてもよい。ここでは、具体的な例として、実施例1に示した残留応力改善方法を適用した方法を説明するが、同様に、実施例2〜4に示した残留応力改善方法も適用可能である。
【0052】
図6に示すように、本実施例では、複数の周回として、2回(=2周)の周回を行うものであり、周回毎に開始角度、終了角度を180度変えて行うものである。
【0053】
具体的には、1回目の周回として、レーザ照射の開始角度θs1を135度とし、終了角度θe1を同じく135度としている。最初に、開始角度θs1=135度から第1所定角度θ11までの間に、レーザ光の出力を出力比0から徐々に増加して、定常出力である出力比1.0としている(出力増加工程)。次に、第1所定角度θ11から終了角度θe1に対して手前の位置にある第2所定角度θ21までの間は、レーザ光の出力として出力比1.0を維持している(定常出力工程)。次に、第2所定角度θ21から終了角度θe1までの間に、レーザ光の出力を出力比1.0から出力比0へ徐々に減少し(出力減少工程)、終了角度θe2=135度において、レーザ光の出力を0としている(出力停止工程)。
【0054】
そして、加熱した配管2を雰囲気温度まで冷却した後、2回目の周回として、レーザ照射の開始角度θs2を315度とし、終了角度θe2を同じく315度として、つまり、1回目の周回の開始角度θs1、終了角度θe1から180度移動した位置としている。最初に、開始角度θs2=315度から第1所定角度θ12までの間に、レーザ光の出力を出力比0から徐々に増加して、定常出力である出力比1.0としている(出力増加工程)。次に、第1所定角度θ12から終了角度θe2に対して手前の位置にある第2所定角度θ22までの間は、レーザ光の出力として出力比1.0を維持している(定常出力工程)。次に、第2所定角度θ22から終了角度θe2までの間に、レーザ光の出力を出力比1.0から出力比0へ徐々に減少し(出力減少工程)、終了角度θe2=315度において、レーザ光の出力を0としている(出力停止工程)。
【0055】
つまり、出力増加工程→定常出力工程→出力減少工程→出力停止工程からなる周回を2回(=2周)行うと共に、加熱された管体2を周回毎に雰囲気温度まで冷却しており、更に、開始角度及び終了角度を、周回毎に異なる角度としている。
【0056】
なお、図6においては、1回目の周回(1ラン)と2回目の周回(2ラン)におけるレーザ光の出力の変化がわかるように、少しずらして記載しているが、1ランの第1所定角度θ11〜第2所定角度θ21間のレーザ光の出力と、2ランの第1所定角度θ12〜第2所定角度θ22間のレーザ光の出力は、共に、出力比1.0である。
【0057】
このように、各周回のレーザ照射の開始角度θs及び終了角度θe近傍において、レーザ光の出力を徐々に増加し、そして、レーザ光の出力を徐々に減少することにより、開始角度θs及び終了角度θeにおける温度を、定常出力でレーザ照射する領域の温度と略同等として、配管2の全周において、加熱温度を略均一とすることができる。その結果、レーザ照射の開始角度θs及び終了角度θe近傍において、オーバーヒート領域が発生することを防止することができ、材料自体に悪影響を与えることなく、残留応力を改善することができる。
【0058】
更に、上記実施例1〜4においては、又は、本実施例の1回だけの周回においては、レーザ照射の条件、レーザ照射対象である配管2の状態によっては、全周に渡って、最高加熱温度を均一とすることが難しい場合もあり得る。しかしながら、本実施例の場合、1回目の周回と2回目の周回の開始角度、終了角度を、互いに180度ずらすことにより、1回目の周回の開始角度、終了角度の近傍の領域は、2回目の周回においては、定常出力でレーザ照射する領域となる。その結果、最高到達温度の温度履歴としては、配管2の全周に渡って均一とすることができ、全周に渡って均一な残留応力改善を施すことができる。又、1回目の周回後、配管2の温度が室温まで冷却した後、2回目の周回を行うので、オーバーヒート領域が発生することはなく、材料自体に悪影響を与えることなく、残留応力を改善することができる。
【0059】
なお、レーザ照射の周回は、2回と限定する必要はなく、例えば、3回、4回等の複数回としてもよい。例えば、3回の場合には、1回目の周回、2回目の周回、3回目の周回の開始角度、終了角度を、互いに120度ずつずらし、4回の場合には、1回目の周回、2回目の周回、3回目の周回、4回目の周回の開始角度、終了角度を、互いに90度ずつずらして、レーザ照射の周回を行う。これらの場合でも、上記と同等の効果を得られ、配管2の全周に渡って、均一な最高到達温度に加熱することができ、全周に渡って均一な残留応力改善を施すことができ、又、各周回後、配管2の温度が室温まで冷却した後、次の周回を行うので、オーバーヒート領域が発生することはなく、材料自体に悪影響を与えることなく、残留応力を改善することができる。
【0060】
本実施例の効果を確認するため、1回目の周回における出力比の変化と配管2の溶接部中央外面における最高到達温度のグラフを図7に、又、1回目、2回目の周回における出力比の変化と、加熱前後における配管2の溶接部中央内面の周方向残留応力分布の変化を図8に示した。なお、図7においては、0度と180度の位置における配管2の軸方向での最高到達温度も併記した。又、本実施例においては、内面に手直し溶接を行っているため、図8における315度付近には施工前に大きな残留応力(引張応力)が生じており、この引張応力が大きい箇所を、2回目の周回の開始角度=終了角度とすることで、本実施例の効果を確認している。更に、図8には、比較のため、従来方法(一定出力による1周一括のレーザ照射)による残留応力を示した。又、本実施例において、レーザ照射の対象となる配管2は、低合金鋼とステンレス鋼(SUS316)を、ニッケルクロム鉄合金で溶接した異材継ぎ手であり、その形状は、板厚22mm×外径149mmである。又、レーザ光は、周方向に約100mm、軸方向に約150mmの範囲に照射され、移動速度6mm/sで施工している。
【0061】
図7に示すように、周方向移動と共にレーザ光の出力を変化させることにより、1回目の周回の開始角度、終了角度である135度近傍においては、配管2の外面の最高到達温度が、定常出力によるレーザ照射の最高到達温度より低いが、少なくともオーバーヒートは発生しておらず、オーバーヒートを確実に防止できることがわかる。なお、定常出力によるレーザ照射の最高到達温度は、周方向だけでなく、軸方向においても、その最高到達温度が均一であることがわかる。
【0062】
そして、このようなレーザ照射を、2回目の周回の開始角度、終了角度を180度ずらして行えば、全周に渡って、均一な最高到達温度の加熱が可能となる。つまり、1回目の周回において、最高到達温度が低い領域が有っても、2回目の周回のレーザ照射により、その領域の最高到達温度も、定常出力時の最高到達温度と同等にすることが可能となる。その結果、図8に示すように、溶接後(レーザ照射による加熱前)引張応力であった残留応力を、本実施例のレーザ照射による加熱により、全周で圧縮応力となり、残留応力の改善が行われることが確認できた。この結果を、従来の1周一括のレーザ照射の加熱による残留応力と比較しても、略同等の結果、若しくは、周回の開始角度、終了角度(135度近傍)においては、よりよい結果が得られている。
【0063】
本実施例では、開始角度θs1=終了角度θe1及び開始角度θs2=終了角度θe2において、レーザ光の出力0としているが、図7の最高到達温度の測定結果を参照すると、定常出力(155度→105度間)における最高到達温度に対して、出力制限時(105度→155度間)における最高到達温度が低くなりすぎないようにすることが、より望ましい。従って、実施例1と同様に、このときの出力を定常出力における出力の半分程度としてもよい。
【0064】
又、本実施例は、レーザ照射時に何らかのトラブルが発生して、所定のレーザ照射が完了しなかった場合でも、その照射履歴(例えば、開始角度、終了角度、レーザ光の出力)を確認し、次周回のレーザ照射において、前周回のレーザ照射の開始角度、終了角度と異なる角度から開始して、上記レーザ照射を行えば、何の問題もなく、残留応力の改善を行うことが可能である。
【実施例6】
【0065】
図9は、本発明に係る管体の残留応力改善方法の実施形態の他の一例を説明する図である。ここでは、実施例4に示した残留応力改善方法を上記実施例5に適用した方法である。
【0066】
本実施例では、図9に示すように、複数の周回として、2回(2周以上)の周回を行うと共に、周回毎にレーザ照射の開始角度及び終了角度が180度異なり、かつ、各周回におけるレーザ照射の開始角度と終了角度も相違し、開始角度と終了角度の近傍において、レーザ照射の重なる範囲を設けることにより、配管2の残留応力改善を図るようにするものである。
【0067】
具体的には、1回目の周回として、レーザ照射の開始角度θs1を340度とし、終了角度θe1を、開始角度θs1を1周通過後の20度としている。最初に、開始角度θs1=340度から第1所定角度θ11までの間に、レーザ光の出力を出力比0から徐々に増加して、定常出力である出力比1.0としている(出力増加工程)。次に、第1所定角度θ11から開始角度θs1に対して手前の位置にある第2所定角度θ21までの間は、レーザ光の出力として出力比1.0を維持している(定常出力工程)。次に、第2所定角度θ21から終了角度θe1までの間に、レーザ光の出力を出力比1.0から出力比0へ徐々に減少し(出力減少工程)、終了角度θe2=20度において、レーザ光の出力を0としている(出力停止工程)。ここでは、上記出力増加工程→定常出力工程→出力減少工程→出力停止工程により、配管2に対するレーザ照射において、出力増加工程の角度の範囲(開始角度θs1→第1所定角度θ11間)と出力減少工程の角度の範囲(第2所定角度θ21→終了角度θe1間)が一部重なるようにしている。
【0068】
そして、加熱した配管2を雰囲気温度まで冷却した後、2回目の周回として、レーザ照射の開始角度θs2を160度とし、終了角度θe2を、開始角度θs2を1周通過後の200度として、開始角度θs2、終了角度θe2を、1回目の周回の開始角度θs1、終了角度θe1から180度移動した位置としている。最初に、開始角度θs2=160度から第1所定角度θ12までの間に、レーザ光の出力を出力比0から徐々に増加して、定常出力である出力比1.0としている(出力増加工程)。次に、第1所定角度θ12から開始角度θs2に対して手前の位置にある第2所定角度θ22までの間は、レーザ光の出力として出力比1.0を維持している(定常出力工程)。次に、第2所定角度θ22から終了角度θe2までの間に、レーザ光の出力を出力比1.0から出力比0へ徐々に減少し(出力減少工程)、終了角度θe2=200度において、レーザ光の出力を0としている(出力停止工程)。ここでも、上記出力増加工程→定常出力工程→出力減少工程→出力停止工程により、配管2に対するレーザ照射において、出力増加工程の角度の範囲(開始角度θs2→第1所定角度θ12間)と出力減少工程の角度の範囲(第2所定角度θ22→終了角度θe2間)が一部重なるようにしている。
【0069】
つまり、出力増加工程→定常出力工程→出力減少工程→出力停止工程からなる周回を2回(2周以上)行うと共に、加熱された管体2を周回毎に雰囲気温度まで冷却しており、更に、開始角度及び終了角度を、周回毎に異なる角度とし、加えて、1回目のレーザ照射の開始角度θs1、終了角度θe1近傍(開始角度θs1→終了角度θe1間)及び2回目のレーザ照射の開始角度θs2、終了角度θe2近傍(開始角度θs2→終了角度θe2間)において、レーザ照射の重なる範囲を設けている。
【0070】
なお、レーザ照射が重なる角度の範囲(開始角度θs2→第1所定角度θ12間、第2所定角度θ22→終了角度θe2間)では、出力増加工程におけるレーザ光の出力と出力減少工程におけるレーザ光の出力の和が、定常出力の出力比1.0に対して、出力比0.8〜0.9となるように、レーザ光の出力を制御している。これは、定常出力(第1所定角度θ11→第2所定角度θ21間、第1所定角度θ12→第2所定角度θ22間)における加熱温度に対して、出力制限時(開始角度θs2→第1所定角度θ12間、第2所定角度θ22→終了角度θe2間)における加熱温度が、高くなりすぎず、かつ、低くなりすぎないようにするために行うものである。
【0071】
このように、各周回において、レーザ照射が重なる角度の範囲を設けると共に、その角度の範囲におけるレーザ照射の出力を制限することにより、その角度の範囲における温度を、定常出力でレーザ照射する領域の温度と略同等、若しくは、それ以下とすることが可能である。その結果、レーザ照射の開始角度(θs1、θs2)及び終了角度(θe1、θe2)近傍において、オーバーヒート領域が発生することを防止することができ、材料自体に悪影響を与えることなく、残留応力を改善することができる。又、レーザ照射の開始角度(θs1、θs2)及び終了角度(θe1、θe2)近傍において、レーザ照射の重なる範囲を設けると共にレーザ照射の出力を適宜に制限することにより、配管2の全周を均一な最高到達温度に加熱することができ、全周に同等の残留応力改善を施すことができる。
【0072】
又、本実施例の場合、1回目の周回と2回目の周回の開始角度、終了角度を、互いに180度ずらすことにより、1回目の周回の開始角度、終了角度の近傍の領域は、2回目の周回においては、定常出力でレーザ照射する領域となる。その結果、最高到達温度の温度履歴としては、配管2の全周に渡って均一とすることができ、全周に渡って均一な残留応力改善を施すことができる。又、1回目の周回後、配管2の温度が室温まで冷却した後、2回目の周回を行うので、オーバーヒート領域が発生することはなく、材料自体に悪影響を与えることなく、残留応力を改善することができる。
【0073】
なお、本実施例の場合も、実施例5と同様に、レーザ照射の周回は、2回と限定する必要はなく、例えば、3回、4回等の複数回としてもよく、これらの場合でも、上記と同等の効果を得られる。
【0074】
本実施例の効果を確認するため、1回目の周回における配管2の溶接部中央外面における最高到達温度のグラフを図10に、又、加熱前後における配管2の溶接部中央内面の残留応力分布の変化を図11に示した。本実施例において、レーザ照射の対象となる配管2は、板厚13.5mm×外径114.3mmのステンレス(SUS316)の鋼管を突合わせ溶接したものである。レーザ光は、周方向に約80mm、軸方向に約100mmの範囲に照射され、移動速度27mm/sで施工している。
【0075】
図10に示すように、周方向移動と共にレーザ光の出力を変化させることにより、1回目の周回の開始角度、終了角度近傍においては、配管2の外面の最高到達温度が、定常出力によるレーザ照射の最高到達温度より低いが、少なくともオーバーヒートは発生しておらず、オーバーヒートを確実に防止できることがわかる。なお、定常出力によるレーザ照射の最高到達温度は、周方向において、その最高到達温度が均一であり、狙い通りの550℃であることがわかる。
【0076】
そして、このようなレーザ照射を、2回目の周回の開始角度、終了角度を180度ずらして行えば、全周に渡って、均一な最高到達温度の加熱が可能となる。つまり、1回目の周回において、最高到達温度が低い領域が有っても、2回目の周回のレーザ照射により、その領域の最高到達温度も、定常出力時の最高到達温度と同等にすることが可能となる。その結果、図11に示すように、溶接後(レーザ照射による加熱前)、溶接中央部内面において、周方向応力で200MPaの引張応力、軸方向応力で280MPaの引張応力であった残留応力を、本実施例のレーザ照射による加熱により、溶接中央部内面の周方向応力、軸方向応力共に、全周で圧縮応力となり、残留応力の改善が行われることが確認できた。
【実施例7】
【0077】
本実施例は、実施例1に示した残留応力改善装置1を前提に、実施例4に示した残留応力改善方法を行う場合に適用するものである。従って、図1(a)、図6を参照すると共に重複する説明は省略して、本実施例を説明する。
【0078】
本実施例は、複数回の周回によりレーザ照射を行う際、温度の計測点を少なくしても、配管2の温度、特に、最高到達温度を確実に把握できるように、レーザ照射の出力の変化に応じて、図1(a)に示す温度センサ9を配管2の外面の適切な周方向位置に取り付けるようにしたものである。
【0079】
具体的には、図6に示すように、1回目の周回の開始角度、終了角度を135度とし、2回目の周回の開始角度、終了角度を315度として、2回目の周回で、周回の開始角度、終了角度を互いに180度ずらす場合には、温度センサ9を90度ピッチで周方向4点として、例えば、図6では、0度、90度、180度、270度を設置位置としている。これらの設置位置は、1回目の周回及び2回目の全ての周回において、定常出力におけるレーザ照射(定常出力工程)が行われる管体2の角度の範囲であって、この範囲の端部の角度位置あるため、オーバーヒートが発生する可能性がある位置の温度を計測することとなり、4点の温度計測であっても、レーザ照射の際、全周における最高到達温度を確実に把握し、監視することができる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明に係る管体の残留応力改善装置及びその原理を説明する図である。
【図2】本発明に係る管体の残留応力改善方法の実施形態の一例(実施例1)を説明する図である。
【図3】本発明に係る管体の残留応力改善方法の実施形態の他の一例(実施例2)を説明する図である。
【図4】本発明に係る管体の残留応力改善方法の実施形態の他の一例(実施例3)を説明する図である。
【図5】本発明に係る管体の残留応力改善方法の実施形態の他の一例(実施例4)を説明する図である。
【図6】本発明に係る管体の残留応力改善方法の実施形態の他の一例(実施例5)を説明する図である。
【図7】実施例5の管体の残留応力改善方法において、1ランにおけるレーザ光の出力及び加熱温度を説明するグラフである。
【図8】実施例5の管体の残留応力改善方法における残留応力の改善効果を検証したグラフである。
【図9】本発明に係る管体の残留応力改善方法の実施形態の他の一例(実施例6)を説明する図である。
【図10】実施例6の管体の残留応力改善方法において、1ランにおける加熱温度を説明するグラフである。
【図11】実施例6の管体の残留応力改善方法における残留応力の改善効果を検証したグラフである。
【図12】従来の管体の残留応力改善装置におけるレーザ光の出力及び加熱温度を説明するグラフである。
【符号の説明】
【0081】
1 残留応力改善装置
2 配管
4 支持部
5 光学ヘッド
6 光ファイバ
7 レーザ発振器
8 制御部
9 温度センサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、配管等の管体の残留応力を改善する管体の残留応力改善方法及び残留応力改善装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所、大型プラント等において、大型の配管等の管体を設置する場合、溶接した際に配管に残留する応力の除去が問題となる。溶接が行われると配管には残留応力が発生し、その残留応力によって配管の寿命が短くなるおそれがあるため、溶接によって発生した残留応力は、除去することが望ましい。
【0003】
配管に残留する応力の除去方法として、高周波加熱残留応力改善法(Induction Heating Stress Improvement Process;以降、IHSI法と呼ぶ。)が提案されている。このIHSI法は、配管の応力腐食割れ(Stress Corrosion Cracking;以降、SCCと呼ぶ。)条件を満たしている部分近傍の厚み方向に温度勾配ができるように、管内面を流水により強制冷却しながら外面側から高周波誘導加熱コイルを利用して誘導加熱で昇温した後、加熱を停止し、配管の厚み方向が略均一な温度となるまで内面に水を流すことで冷却し続け、結果として、溶接部近傍の引張状態の残留応力を低減又は圧縮状態にするものである(特許文献1〜3)。
【0004】
又、配管に残留する応力の除去方法として、レーザ照射を用いて、ステンレス鋼等の配管の表面を溶体化温度加熱あるいは溶融することにより、裏面の残留応力を低減する方法も提案されている(特許文献4〜7)。
【0005】
【特許文献1】特開昭57−70095号公報
【特許文献2】特開2001−150178号公報
【特許文献3】特開平10−272586号公報
【特許文献4】特開2003−004890号公報
【特許文献5】特開平8−5773号公報
【特許文献6】特開2000−254776号公報
【特許文献7】特開2004−130314号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
IHSI法においては、加熱終了時に管外周面と管内周面との間には一定以上の温度差が必要である。このため、既に据え付けられ、内部を水流による冷却が可能な配管に対しては実施しやすいが、管内部に流水状態を確保できない管体に対しては実施が困難である。又、IHSI法は、管の厚み方向に温度勾配をつけるために高周波誘導加熱を行うものであるが、高周波誘導コイルによる加熱の場合、管体の材質(誘電率)によって、熱が伝わる深さ及び範囲が異なり、その加熱範囲の限定が難しい。又、装置も大掛かりでエネルギー消費量も大きく、更に、異材継手等、誘電率が異なる部材が混じっている場合には、厚み方向に一定の温度勾配をつけるのが難しい。
【0007】
又、上述した、レーザ照射を用いて、ステンレス鋼等の配管の表面を溶体化温度加熱あるいは溶融することにより、裏面の残留応力を低減する方法おいては、加熱が不足したり、加熱しすぎたりする可能性がある。加熱不足の場合には、残留応力を十分改善することができず、SCCを確実に防止できないおそれがある。又、加熱しすぎた場合、加熱領域の近傍に鋭敏化温度に晒される領域が発生し、材料自体に悪影響を与えてしまう。この場合、加熱面に酸化スケールが形成され、スケールを除去する必要が生じ、原子力発電所内での施工では、被ばくが増加するおそれがある。特に、配管同士を溶接した際には、その溶接部分の外面を周方向に移動しながら線状にレーザ照射して、残留応力を低減しているが、レーザ照射の開始角度と終了角度においては、レーザ照射による加熱領域が重複することにより加熱しすぎてしまい、配管を鋭敏化温度に晒して、材料自体に悪影響を与えるおそれがあった。
【0008】
例えば、レーザ照射の開始角度を周方向位置の0度とし、終了角度を360度とし、一定のレーザ照射の出力(ここでは、所定の周回速度において所望の加熱温度が得られる出力を1.0とする。)を用いた場合、図12に示すように、レーザ照射の開始角度、終了角度において、所望の温度より100℃以上高いオーバーヒートとなる領域が発生していた。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みなされたもので、加熱しすぎること無く、確実に残留応力を改善できる管体の残留応力改善方法及び残留応力改善装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する第1の発明に記載の管体の残留応力改善方法は、
レーザ光を円筒状管体の溶接部分の外周面に局所的に照射すると共に、前記レーザ光の照射領域を所定の周回速度で前記管体の外周上を周回させることにより、前記溶接部分全周を加熱して、前記溶接部分全周の残留応力を改善する管体の残留応力改善方法において、
前記管体への照射開始角度から第1所定角度までの間は、前記レーザ光の出力を、0、若しくは、前記所定の周回速度において所望の加熱温度が得られる定常出力より小さい出力から徐々に増加して、前記定常出力とする出力増加工程と、
前記第1所定角度から、前記照射開始角度と同じ位置である照射終了角度に対して手前の位置にある第2所定角度までの間は、前記レーザ光の出力を前記定常出力とする定常出力工程と、
前記第2所定角度から前記照射終了角度までの間は、前記レーザ光の出力を、前記定常出力から徐々に減少して、0、若しくは、前記定常出力より小さい出力とする出力減少工程と、
前記照射終了角度で、前記レーザ光の出力を0とする出力停止工程とを有し、
前記全工程を1周の周回で行うことを特徴とする。
【0011】
上記課題を解決する第2の発明に記載の管体の残留応力改善方法は、
レーザ光を円筒状管体の溶接部分の外周面に局所的に照射すると共に、前記レーザ光の照射領域を所定の周回速度で前記管体の外周上を周回させることにより、前記溶接部分全周を加熱して、前記溶接部分全周の残留応力を改善する管体の残留応力改善方法において、
前記管体への照射開始角度から第1所定角度までの間は、前記レーザ光の出力を、0、若しくは、前記所定の周回速度において所望の加熱温度が得られる定常出力より小さい出力から徐々に増加して、前記定常出力とする出力増加工程と、
前記第1所定角度から前記照射開始角度と同じ位置である照射終了角度までの間は、前記レーザ光の出力を前記定常出力とする定常出力工程と、
前記照射終了角度で、前記レーザ光の出力を0とする出力停止工程とを有し、
前記全工程を1周の周回で行うことを特徴とする。
【0012】
上記課題を解決する第3の発明に記載の管体の残留応力改善方法は、
レーザ光を円筒状管体の溶接部分の外周面に局所的に照射すると共に、前記レーザ光の照射領域を所定の周回速度で前記管体の外周上を周回させることにより、前記溶接部分全周を加熱して、前記溶接部分全周の残留応力を改善する管体の残留応力改善方法において、
前記管体への照射開始角度で、前記レーザ光の出力を、前記所定の周回速度において所望の加熱温度が得られる定常出力とし、前記照射開始角度から、前記照射開始角度と同じ位置である照射終了角度に対して手前の位置にある第2所定角度までの間は、前記レーザ光の出力を前記定常出力とする定常出力工程と、
前記第2所定角度から前記照射終了角度までの間は、前記レーザ光の出力を、前記定常出力から徐々に減少して、0、若しくは、前記定常出力より小さい出力とするする出力減少工程と、
前記照射終了角度で、前記レーザ光の出力を0とする出力停止工程とを有し、
前記全工程を1周の周回で行うことを特徴とする。
【0013】
上記課題を解決する第4の発明に記載の管体の残留応力改善方法は、
レーザ光を円筒状管体の溶接部分の外周面に局所的に照射すると共に、前記レーザ光の照射領域を所定の周回速度で前記管体の外周上を周回させることにより、前記溶接部分全周を加熱して、前記溶接部分全周の残留応力を改善する管体の残留応力改善方法において、
前記管体への照射開始角度から第1所定角度までの間は、前記レーザ光の出力を、0から徐々に増加して、前記所定の周回速度において所望の加熱温度が得られる定常出力とする出力増加工程と、
前記第1所定角度から前記開始角度に対して手前の位置にある第2所定角度までの間は、前記レーザ光の出力を前記定常出力とする定常出力工程と、
前記第2所定角度から、前記開始角度を通過した照射終了角度までの間は、前記レーザ光の出力を、前記定常出力から徐々に減少して、0とする出力減少工程とを有し、
前記管体における前記出力増加工程の角度の範囲と前記出力減少工程の角度の範囲を一部重ねると共に、前記重なる角度の範囲では、該各工程における前記レーザ光の出力の和を、前記定常出力の0.8〜0.9の比率として、前記全工程を1周以上2周未満の周回で行うことを特徴とする。
【0014】
上記課題を解決する第5の発明に記載の管体の残留応力改善方法は、
上記第1〜第4の発明に記載の管体の残留応力改善方法において、
前記全工程からなる周回を2回以上行い、且つ、加熱された前記管体を周回毎に雰囲気温度まで冷却すると共に、
前記管体の照射開始角度及び照射終了角度を、周回毎に異なる角度とすることを特徴とする。
【0015】
上記課題を解決する第6の発明に記載の管体の残留応力改善方法は、
上記第5の発明に記載の管体の残留応力改善方法において、
全ての周回において前記定常出力工程が行われる管体の角度の範囲であって、該角度の範囲の端部の角度位置のみに、前記管体の温度を測定する温度センサを設置し、
前記周回の際、前記温度センサにより前記管体の最高到達温度を監視することを特徴とする。
【0016】
上記課題を解決する第7の発明に記載の管体の残留応力改善装置は、
前記周回移動手段に支持され、前記管体の溶接部分の外周面に局所的にレーザ光を照射するレーザ光照射手段と、
前記レーザ光照射手段によるレーザ光の出力を制御すると共に、前記周回移動手段によるレーザ光照射手段の周回角度位置及び周回速度を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、
前記管体への照射開始角度から第1所定角度までの間は、前記レーザ光の出力を、0、若しくは、前記所定の周回速度において所望の加熱温度が得られる定常出力より小さい出力から徐々に増加して、前記定常出力とする出力増加工程と、
前記第1所定角度から、前記照射開始角度と同じ位置である照射終了角度に対して手前の位置にある第2所定角度までの間は、前記レーザ光の出力を前記定常出力とする定常出力工程と、
前記第2所定角度から前記照射終了角度までの間は、前記レーザ光の出力を、前記定常出力から徐々に減少して、0、若しくは、前記定常出力より小さい出力とする出力減少工程と、
前記照射終了角度で、前記レーザ光の出力を0とする出力停止工程とを有し、
前記全工程を1周の周回で行うことにより、前記レーザ光の照射領域を前記管体の外周上を周回させ、前記溶接部分全周を加熱して、前記溶接部分全周の残留応力を改善することを特徴とする。
【0017】
上記課題を解決する第8の発明に記載の管体の残留応力改善装置は、
円筒状管体の外周を所定の周回速度で周回移動可能な周回移動手段と、
前記周回移動手段に支持され、前記管体の溶接部分の外周面に局所的にレーザ光を照射するレーザ光照射手段と、
前記レーザ光照射手段によるレーザ光の出力を制御すると共に、前記周回移動手段によるレーザ光照射手段の周回角度位置及び周回速度を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、
前記管体への照射開始角度から第1所定角度までの間は、前記レーザ光の出力を、0、若しくは、前記所定の周回速度において所望の加熱温度が得られる定常出力より小さい出力から徐々に増加して、前記定常出力とする出力増加工程と、
前記第1所定角度から前記照射開始角度と同じ位置である照射終了角度までの間は、前記レーザ光の出力を前記定常出力とする定常出力工程と、
前記照射終了角度で、前記レーザ光の出力を0とする出力停止工程とを有し、
前記全工程を1周の周回で行うことにより、前記レーザ光の照射領域を前記管体の外周上を周回させ、前記溶接部分全周を加熱して、前記溶接部分全周の残留応力を改善することを特徴とする。
【0018】
上記課題を解決する第9の発明に記載の管体の残留応力改善装置は、
円筒状管体の外周を所定の周回速度で周回移動可能な周回移動手段と、
前記周回移動手段に支持され、前記管体の溶接部分の外周面に局所的にレーザ光を照射するレーザ光照射手段と、
前記レーザ光照射手段によるレーザ光の出力を制御すると共に、前記周回移動手段によるレーザ光照射手段の周回角度位置及び周回速度を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、
前記管体への照射開始角度で、前記レーザ光の出力を、前記所定の周回速度において所望の加熱温度が得られる定常出力とし、前記照射開始角度から、前記照射開始角度と同じ位置である照射終了角度に対して手前の位置にある第2所定角度までの間は、前記レーザ光の出力を前記定常出力とする定常出力工程と、
前記第2所定角度から前記照射終了角度までの間は、前記レーザ光の出力を、前記定常出力から徐々に減少して、0、若しくは、前記定常出力より小さい出力とするする出力減少工程と、
前記照射終了角度で、前記レーザ光の出力を0とする出力停止工程とを有し、
前記全工程を1周の周回で行うことにより、前記レーザ光の照射領域を前記管体の外周上を周回させ、前記溶接部分全周を加熱して、前記溶接部分全周の残留応力を改善することを特徴とする。
【0019】
上記課題を解決する第10の発明に記載の管体の残留応力改善装置は、
円筒状管体の外周を所定の周回速度で周回移動可能な周回移動手段と、
前記周回移動手段に支持され、前記管体の溶接部分の外周面に局所的にレーザ光を照射するレーザ光照射手段と、
前記レーザ光照射手段によるレーザ光の出力を制御すると共に、前記周回移動手段によるレーザ光照射手段の周回角度位置及び周回速度を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、
前記管体への照射開始角度から第1所定角度までの間は、前記レーザ光の出力を、0から徐々に増加して、前記所定の周回速度において所望の加熱温度が得られる定常出力とする出力増加工程と、
前記第1所定角度から、前記開始角度に対して手前の位置にある第2所定角度までの間は、前記レーザ光の出力を前記定常出力とする定常出力工程と、
前記第2所定角度から、前記開始角度を通過した照射終了角度までの間は、前記レーザ光の出力を、前記定常出力から徐々に減少して、0とする出力減少工程とを有し、
前記管体における前記出力増加工程の角度の範囲と前記出力減少工程の角度の範囲を一部重ねると共に、前記重なる角度の範囲では、該各工程における前記レーザ光の出力の和を、前記定常出力の0.8〜0.9の比率として、前記全工程を1周以上2周未満の周回で行うことにより、前記レーザ光の照射領域を前記管体の外周上を周回させ、前記溶接部分全周を加熱して、前記溶接部分全周の残留応力を改善することを特徴とする。
【0020】
上記課題を解決する第11の発明に記載の管体の残留応力改善装置は、
上記第7〜第10の発明に記載の管体の残留応力改善装置において、
前記制御手段は、
前記全工程からなる周回を2回以上行い、且つ、加熱された前記管体を周回毎に雰囲気温度まで冷却すると共に、
前記管体の照射開始角度及び照射終了角度を、周回毎に異なる角度とすることを特徴とする。
【0021】
上記課題を解決する第12の発明に記載の管体の残留応力改善装置は、
上記第11の発明に記載の管体の残留応力改善装置において、
全ての周回において前記定常出力工程が行われる管体の角度の範囲であって、該角度の範囲の端部の角度位置のみに、前記管体の温度を測定する温度センサを設け、
前記制御手段は、
前記周回の際、前記温度センサにより前記管体の最高到達温度を監視することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、1周の周回のレーザ照射の開始角度及び終了角度において、レーザ照射の出力を適宜に増加、減少させるので、管体を加熱しすぎること無く、レーザ加熱により管体内面の溶接残留応力(引張応力)を確実に改善することができる。又、レーザ照射の開始角度及び終了角度を周回毎に異なる角度として、複数の周回の開始角度及び終了角度において、レーザ照射の出力を適宜に増加、減少させるので、管体の全周に渡って、最高到達温度を均一にすることができる。従って、原子力プラント等に設置された配管で発生するSCCを、確実に防止することができる。
【0023】
又、所定の周回速度において所望の加熱温度が得られる定常出力のレーザ光を照射する定常出力工程が全ての周回で行われる管体の角度位置のみに、温度センサを設けるので、少ない温度センサの数でも、過剰な加熱を確実に監視することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明に係る管体の残留応力改善方法及び残留応力改善装置を、図1〜図11を用いて、詳細に説明する。
【実施例1】
【0025】
図1は、本発明に係る管体の残留応力改善装置及びその原理を説明する図である。
図1(a)に示すように、残留応力改善装置1は、円筒状の管体である配管2の軸方向Lに延設されると共に、図示しない周回移動装置により配管2の外周を配管2と同軸に周回可能な支持部4と、支持部4に支持され、配管2の溶接部分の外周面の所定領域にレーザ光を照射する光学ヘッド5と、光ファイバ6により光学ヘッド5と接続され、光ファイバ6を介してレーザ光を光学ヘッド5に供給するレーザ発振器7と、周回移動装置、レーザ発振器7等を制御する制御部8とを有するものである。又、配管2の外周面のレーザ光が照射される領域には、配管2の外面の温度を測定する熱電対等の温度センサ9が設置されており、温度センサ9で測定した温度を制御部8が取得して、周回移動装置による周回速度、周回角度位置やレーザ発振器7の出力等を制御している。
【0026】
光学ヘッド5、光ファイバ6、レーザ発振器7は、レーザ光照射手段を構成しており、レーザ光による線状熱源となる加熱光学系となっている。レーザ光照射手段では、支持部4に沿って、光学ヘッド5の位置を軸方向Lに移動することにより、その照射領域を配管2の軸方向に移動可能である。そして、支持部4と共に光学ヘッド5を、配管2の周方向Rに周回移動することにより、光学ヘッド5からのレーザ光を、配管2の溶接部分の外周面を周回して照射し、配管2の外面の所定領域を周方向に均一に加熱するようにしている。光学ヘッド5においては、光学ヘッド5自体、若しくは、光学ヘッド5を構成するレンズ、ミラー等の位置変更を行うことで、周方向照射幅、軸方向照射幅を調整して、加熱する領域を調整している。なお、照射領域の大きさによっては、複数の光学ヘッド5を支持部4に設けてもよい。
【0027】
又、支持部4、周回移動装置は、周回移動手段を構成している。その具体的な構成は、例えば、その内周側が配管2を保持し、その外周側が支持部4を支持して、支持部4を周回可能とするものであればどのような構成でもよい。
【0028】
残留応力を改善する際には、本発明に係る残留応力改善装置1において、予め、光学ヘッド5の調整により加熱領域を調整し、制御部8により、レーザ発振器7の出力を制御すると共に周回移動装置を所定の移動速度に制御して周回移動させることで、光学ヘッド5から照射されるレーザ光が、配管2の外周を周回移動しながら配管2の外周面の所定領域に照射されて、配管2の外周面の所定領域が加熱されることになる。このとき、加熱時に発生する配管2の内外面の温度差を利用し、内面を引張降伏させることにより、冷却後の内面の残留応力を低減若しくは圧縮応力に改善している。なお、加熱温度としては、固溶化温度未満とすることが好ましい。又、本発明の場合、配管2の内面側を必ずしも強制冷却する必要はない。
【0029】
上記残留応力改善方法の原理を、図1(b)を参照して説明すると、残留応力を改善したい管体の所定領域において、その外面にレーザ照射を行うと、レーザ照射による加熱により、その外面と内面との間(図1(a)におけるA−A線の間)に所定の温度差が生じるような温度分布が形成される((1)参照)。このとき、外面側は圧縮応力状態、内面側は引張応力状態、更には、外面の表面側は、対象配管を構成する材料の圧縮降伏応力を越える圧縮降伏状態、内面の表面側は、対象配管を構成する材料の引張降伏応力を越える引張降伏状態となる((2)参照)。
【0030】
加熱後、上記所定領域の内面及び外面を冷却すると、その外面と内面との間の温度は一定となる((3)参照)。このとき、外面は引張応力状態になり、内面は圧縮応力状態になり、内面の残留応力を引張応力状態から圧縮応力状態に改善することが可能となる((4)参照)。このように、降伏応力相当以上の応力の大きさ(ひずみ量)をレーザ照射による加熱により発生させることにより、管体内面に生じている残留応力を引張状態から圧縮状態に改善して、管体内面の応力腐食割れを防ぐことが可能となる。従って、本発明に係る残留応力改善装置1を用いて、配管2の外周面を加熱する場合、加熱時に発生する応力が降伏応力以上のひずみとなるように、レーザ照射の条件を設定すればよい。
【0031】
ところが、レーザ照射の条件が、上記条件であれば、どのようなものでもよいわけではなく、加熱しすぎた場合、加熱領域の近傍に鋭敏化温度に晒される領域が発生し、材料自体に悪影響を与えることになる。特に、配管同士を溶接したとき、その溶接部分の外面を周方向に回転移動して線状にレーザ照射して、残留応力を低減する際には、レーザ照射の開始角度と終了角度において、レーザ照射による加熱領域が重複することにより加熱しすぎてしまい、配管を鋭敏化温度に晒して、材料自体に悪影響を与えるおそれがあった。
【0032】
そこで、本発明においては、レーザ照射の開始角度、終了角度において、そのレーザ照射の強度(レーザ発振器7の出力)を制御することにより、レーザ照射の開始角度、終了角度における加熱領域のオーバーヒートを防止して、配管2の外面の周方向における加熱温度を均一にするようにしている。
【0033】
具体的には、図2に示すように、管体へのレーザ照射の開始角度θsを周方向位置の0度とし、終了角度θeを360度とする場合、つまり、開始角度θs=終了角度θeとする場合、開始角度θs=0度から第1所定角度θ1までの間に、レーザ光の出力を出力比0.5から徐々に増加して、定常出力である出力比1.0としている(出力増加工程)。次に、第1所定角度θ1から終了角度θeに対して手前の位置にある第2所定角度θ2までの間は、レーザ光の出力として出力比1.0を維持している(定常出力工程)。次に、第2所定角度θ2から終了角度θeまでの間に、レーザ光の出力を出力比1.0から出力比0.5へ徐々に減少し(出力減少工程)、終了角度θe=360度において、レーザ光の出力を0としている(出力停止工程)。そして、管体2へのレーザ照射は、これらの全工程が1周の周回で行われている。
【0034】
本実施例においては、開始角度θs及び終了角度θeにおける出力比を0.5としているが、加熱しすぎなければ、つまり、定常出力より小さい出力であれば、例えば、開始角度θs及び終了角度θeにおける出力比を0として、レーザ光の出力を、出力比0から出力比1.0へ増加し、出力比1.0から出力比0へ減少するようにしてもよい。
【0035】
なお、本発明では、本実施例及び後述の他の実施例も含めて、所定の一定の周回速度において、配管2の外面の温度を所望の加熱温度(例えば、600℃程度)とするレーザ光の出力を、定常出力と規定して説明を行うと共に、定常出力を出力比1.0として、レーザ光の出力の変化を示している。例えば、図2では、第1所定角度θ1から第2所定角度θ2の間の出力が、定常出力の出力比1.0となり、他の角度範囲のレーザ光の出力は、定常出力の出力比1.0を基準に、その出力比が示されている。
【0036】
このように、レーザ照射の開始角度θs及び終了角度θe近傍において、レーザ光の出力を徐々に増加し、そして、レーザ光の出力を徐々に減少することにより、図2に示すように、開始角度θs及び終了角度θeにおける温度を、定常出力でレーザ照射する領域の温度と略同等として、配管2の全周において、加熱温度を略均一とすることができる。その結果、レーザ照射の開始角度θs及び終了角度θe近傍において、照射するレーザ光の重なりが有っても、図12に示すようなオーバーヒート領域が発生することを防止することができ、材料自体に悪影響を与えることなく、残留応力を改善することができる。
【0037】
なお、第1所定角度θ1、第2所定角度θ2及びレーザ光の出力の増減は、配管2の形状、大きさ、材質、レーザ照射の周回速度等の条件によって、適宜に設定される。
【実施例2】
【0038】
図3は、本発明に係る管体の残留応力改善方法の実施形態の他の一例を説明する図である。
なお、本実施例は、実施例1に示した残留応力改善装置1を前提に説明を行う。従って、残留応力改善装置1自体の構成の説明は省略する。又、以下に示す実施例3〜5においても、実施例1に示した残留応力改善装置1を前提に説明を行うため、同じく、残留応力改善装置1自体の構成の説明は省略する。
【0039】
図3に示すように、本実施例では、管体へのレーザ照射の開始角度θsを周方向位置の0度とし、終了角度θeを360度とする場合、つまり、開始角度θs=終了角度θeとする場合、開始角度θs=0度から第1所定角度θ1までの間に、レーザ光の出力を出力比0から徐々に増加して、定常出力である出力比1.0としている(出力増加工程)。次に、第1所定角度θ1から終了角度θeまでの間は、レーザ光の出力として出力比1.0を維持しており(定常出力工程)、終了角度θe=360度において、レーザ光の出力を0としている(出力停止工程)。そして、管体2へのレーザ照射は、これらの全工程が1周の周回で行われている。
【0040】
本実施例においては、開始角度θsにおける出力比を0から開始しているが、加熱しすぎなければ、つまり、定常出力より小さい出力であれば、例えば、実施例1のように、開始角度θsにおける出力比を0.5から開始して、レーザ光の出力を、出力比0.5から出力比1.0へ増加するようにしてもよい。
【0041】
このように、レーザ照射の開始角度θs近傍において、レーザ光の出力を徐々に増加し、そして、終了角度θeにおいて、レーザ光の出力を0とすることにより、開始角度θs、終了角度θe近傍における温度を、定常出力でレーザ照射する領域の温度と略同等として、配管2の全周において、加熱温度を略均一とすることができる。その結果、レーザ照射の開始角度θs、終了角度θe近傍において、照射するレーザ光の重なりが有っても、オーバーヒート領域が発生することを防止することができ、材料自体に悪影響を与えることなく、残留応力を改善することができる。
【実施例3】
【0042】
図4は、本発明に係る管体の残留応力改善方法の実施形態の他の一例を説明する図である。
【0043】
図4に示すように、本実施例では、管体へのレーザ照射の開始角度θsを周方向位置の0度とし、終了角度θeを360度とする場合、つまり、開始角度θs=終了角度θeとする場合、開始角度θs=0度で、レーザ光の出力を定常出力である出力比1.0とし、開始角度θsから終了角度θeに対して手前の位置にある第2所定角度θ2までの間は、レーザ光の出力として出力比1.0を維持している(定常出力工程)。次に、第2所定角度θ2から終了角度θeまでの間に、レーザ光の出力を出力比1.0から出力比0へ徐々に減少し(出力減少工程)、終了角度θe=360度において、レーザ光の出力を0としている(出力停止工程)。そして、管体2へのレーザ照射は、これらの全工程が1周の周回で行われている。
【0044】
本実施例においては、終了角度θeにおいて出力比を0としているが、加熱しすぎなければ、つまり、定常出力より小さい出力であれば、例えば、実施例1のように、出力比1.0から出力を減少し、終了角度θeにおけるレーザ光の出力を、出力比0.5とした後、出力比0としてもよい。
【0045】
このように、レーザ照射の終了角度θe近傍において、レーザ光の出力を徐々に減少することにより、開始角度θs及び終了角度θeにおける温度を、定常出力でレーザ照射する領域の温度と略同等として、配管2の全周において、加熱温度を略均一とすることができる。その結果、レーザ照射の開始角度θs及び終了角度θe近傍において、照射するレーザ光の重なりが有っても、オーバーヒート領域が発生することを防止することができ、材料自体に悪影響を与えることなく、残留応力を改善することができる。
【実施例4】
【0046】
図5は、本発明に係る管体の残留応力改善方法の実施形態の他の一例を説明する図である。
【0047】
図5に示すように、本実施例では、管体へのレーザ照射の開始角度θsを周方向位置の60度とし、終了角度θeを、開始角度θsを1周通過後の100度の位置としており、実施例1〜3では開始角度θsと終了角度θeの位置が一致するのに対して、本実施例では開始角度θsと終了角度θeが相違するものである。この場合、開始角度θs=60度から第1所定角度θ1までの間に、レーザ光の出力を出力比0から徐々に増加して、定常出力である出力比1.0としている(出力増加工程)。次に、第1所定角度θ1から、開始角度θsに対して手前の位置にある第2所定角度θ2までの間は、レーザ光の出力として出力比1.0を維持している(定常出力工程)。次に、第2所定角度θ2から開始角度θsを通過した終了角度θeまでの間に、レーザ光の出力を出力比1.0から出力比0へ徐々に減少している(出力減少工程)。
【0048】
上記出力増加工程→定常出力工程→出力減少工程により、配管2に対するレーザ照射において、出力増加工程の角度の範囲(開始角度θs→第1所定角度θ1間)と出力減少工程の角度の範囲(第2所定角度θ2→終了角度θe間)が一部重なるようにしている。つまり、実施例1〜3とは異なり、開始角度θs→終了角度θe間に、レーザ照射の重なる範囲が存在しており、管体2へのレーザ照射は、これらの全工程(1回の周回工程)が1周以上2周未満で行われている。そして、レーザ照射が重なる角度の範囲(開始角度θs→終了角度θe間)では、出力増加工程におけるレーザ光の出力と出力減少工程におけるレーザ光の出力の和が、定常出力の出力比1.0に対して、出力比0.8〜0.9となるように、レーザ光の出力を制御している。これは、定常出力(第1所定角度θ1→第2所定角度θ2間)における加熱温度に対して、出力制限時(開始角度θs→終了角度θe)における加熱温度が、高くなりすぎず、かつ、低くなりすぎないようにするために行うものである。
【0049】
このように、レーザ照射が重なる角度の範囲を設けると共に、その角度の範囲におけるレーザ照射の出力を適宜に制限することにより、その角度の範囲における温度を、定常出力でレーザ照射する領域の温度と略同等として、配管2の全周において、加熱温度を略均一とすることができる。その結果、レーザ照射の開始角度θs及び終了角度θe近傍において、オーバーヒート領域が発生することを防止することができ、材料自体に悪影響を与えることなく、残留応力を改善することができる。又、レーザ照射の開始角度θs及び終了角度θe近傍において、レーザ照射の重なる範囲を設けることにより、配管2の全周を均一な最高到達温度に加熱することができ、全周に同等の残留応力改善を施すことができる。
【実施例5】
【0050】
図6は、本発明に係る管体の残留応力改善方法の実施形態の他の一例を説明する図であり、周方向移動に伴うレーザ光の出力の変化を、レーダーチャートとして記載したものである。
【0051】
上記実施例1〜4においては、1周若しくは2周未満の周回におけるレーザ照射により、配管2の残留応力改善を図るものであるが、加熱しすぎることがなければ、1回の周回に限定する必要はなく、2回以上の複数の周回におけるレーザ照射により、配管2の残留応力改善を図るようにしてもよい。ここでは、具体的な例として、実施例1に示した残留応力改善方法を適用した方法を説明するが、同様に、実施例2〜4に示した残留応力改善方法も適用可能である。
【0052】
図6に示すように、本実施例では、複数の周回として、2回(=2周)の周回を行うものであり、周回毎に開始角度、終了角度を180度変えて行うものである。
【0053】
具体的には、1回目の周回として、レーザ照射の開始角度θs1を135度とし、終了角度θe1を同じく135度としている。最初に、開始角度θs1=135度から第1所定角度θ11までの間に、レーザ光の出力を出力比0から徐々に増加して、定常出力である出力比1.0としている(出力増加工程)。次に、第1所定角度θ11から終了角度θe1に対して手前の位置にある第2所定角度θ21までの間は、レーザ光の出力として出力比1.0を維持している(定常出力工程)。次に、第2所定角度θ21から終了角度θe1までの間に、レーザ光の出力を出力比1.0から出力比0へ徐々に減少し(出力減少工程)、終了角度θe2=135度において、レーザ光の出力を0としている(出力停止工程)。
【0054】
そして、加熱した配管2を雰囲気温度まで冷却した後、2回目の周回として、レーザ照射の開始角度θs2を315度とし、終了角度θe2を同じく315度として、つまり、1回目の周回の開始角度θs1、終了角度θe1から180度移動した位置としている。最初に、開始角度θs2=315度から第1所定角度θ12までの間に、レーザ光の出力を出力比0から徐々に増加して、定常出力である出力比1.0としている(出力増加工程)。次に、第1所定角度θ12から終了角度θe2に対して手前の位置にある第2所定角度θ22までの間は、レーザ光の出力として出力比1.0を維持している(定常出力工程)。次に、第2所定角度θ22から終了角度θe2までの間に、レーザ光の出力を出力比1.0から出力比0へ徐々に減少し(出力減少工程)、終了角度θe2=315度において、レーザ光の出力を0としている(出力停止工程)。
【0055】
つまり、出力増加工程→定常出力工程→出力減少工程→出力停止工程からなる周回を2回(=2周)行うと共に、加熱された管体2を周回毎に雰囲気温度まで冷却しており、更に、開始角度及び終了角度を、周回毎に異なる角度としている。
【0056】
なお、図6においては、1回目の周回(1ラン)と2回目の周回(2ラン)におけるレーザ光の出力の変化がわかるように、少しずらして記載しているが、1ランの第1所定角度θ11〜第2所定角度θ21間のレーザ光の出力と、2ランの第1所定角度θ12〜第2所定角度θ22間のレーザ光の出力は、共に、出力比1.0である。
【0057】
このように、各周回のレーザ照射の開始角度θs及び終了角度θe近傍において、レーザ光の出力を徐々に増加し、そして、レーザ光の出力を徐々に減少することにより、開始角度θs及び終了角度θeにおける温度を、定常出力でレーザ照射する領域の温度と略同等として、配管2の全周において、加熱温度を略均一とすることができる。その結果、レーザ照射の開始角度θs及び終了角度θe近傍において、オーバーヒート領域が発生することを防止することができ、材料自体に悪影響を与えることなく、残留応力を改善することができる。
【0058】
更に、上記実施例1〜4においては、又は、本実施例の1回だけの周回においては、レーザ照射の条件、レーザ照射対象である配管2の状態によっては、全周に渡って、最高加熱温度を均一とすることが難しい場合もあり得る。しかしながら、本実施例の場合、1回目の周回と2回目の周回の開始角度、終了角度を、互いに180度ずらすことにより、1回目の周回の開始角度、終了角度の近傍の領域は、2回目の周回においては、定常出力でレーザ照射する領域となる。その結果、最高到達温度の温度履歴としては、配管2の全周に渡って均一とすることができ、全周に渡って均一な残留応力改善を施すことができる。又、1回目の周回後、配管2の温度が室温まで冷却した後、2回目の周回を行うので、オーバーヒート領域が発生することはなく、材料自体に悪影響を与えることなく、残留応力を改善することができる。
【0059】
なお、レーザ照射の周回は、2回と限定する必要はなく、例えば、3回、4回等の複数回としてもよい。例えば、3回の場合には、1回目の周回、2回目の周回、3回目の周回の開始角度、終了角度を、互いに120度ずつずらし、4回の場合には、1回目の周回、2回目の周回、3回目の周回、4回目の周回の開始角度、終了角度を、互いに90度ずつずらして、レーザ照射の周回を行う。これらの場合でも、上記と同等の効果を得られ、配管2の全周に渡って、均一な最高到達温度に加熱することができ、全周に渡って均一な残留応力改善を施すことができ、又、各周回後、配管2の温度が室温まで冷却した後、次の周回を行うので、オーバーヒート領域が発生することはなく、材料自体に悪影響を与えることなく、残留応力を改善することができる。
【0060】
本実施例の効果を確認するため、1回目の周回における出力比の変化と配管2の溶接部中央外面における最高到達温度のグラフを図7に、又、1回目、2回目の周回における出力比の変化と、加熱前後における配管2の溶接部中央内面の周方向残留応力分布の変化を図8に示した。なお、図7においては、0度と180度の位置における配管2の軸方向での最高到達温度も併記した。又、本実施例においては、内面に手直し溶接を行っているため、図8における315度付近には施工前に大きな残留応力(引張応力)が生じており、この引張応力が大きい箇所を、2回目の周回の開始角度=終了角度とすることで、本実施例の効果を確認している。更に、図8には、比較のため、従来方法(一定出力による1周一括のレーザ照射)による残留応力を示した。又、本実施例において、レーザ照射の対象となる配管2は、低合金鋼とステンレス鋼(SUS316)を、ニッケルクロム鉄合金で溶接した異材継ぎ手であり、その形状は、板厚22mm×外径149mmである。又、レーザ光は、周方向に約100mm、軸方向に約150mmの範囲に照射され、移動速度6mm/sで施工している。
【0061】
図7に示すように、周方向移動と共にレーザ光の出力を変化させることにより、1回目の周回の開始角度、終了角度である135度近傍においては、配管2の外面の最高到達温度が、定常出力によるレーザ照射の最高到達温度より低いが、少なくともオーバーヒートは発生しておらず、オーバーヒートを確実に防止できることがわかる。なお、定常出力によるレーザ照射の最高到達温度は、周方向だけでなく、軸方向においても、その最高到達温度が均一であることがわかる。
【0062】
そして、このようなレーザ照射を、2回目の周回の開始角度、終了角度を180度ずらして行えば、全周に渡って、均一な最高到達温度の加熱が可能となる。つまり、1回目の周回において、最高到達温度が低い領域が有っても、2回目の周回のレーザ照射により、その領域の最高到達温度も、定常出力時の最高到達温度と同等にすることが可能となる。その結果、図8に示すように、溶接後(レーザ照射による加熱前)引張応力であった残留応力を、本実施例のレーザ照射による加熱により、全周で圧縮応力となり、残留応力の改善が行われることが確認できた。この結果を、従来の1周一括のレーザ照射の加熱による残留応力と比較しても、略同等の結果、若しくは、周回の開始角度、終了角度(135度近傍)においては、よりよい結果が得られている。
【0063】
本実施例では、開始角度θs1=終了角度θe1及び開始角度θs2=終了角度θe2において、レーザ光の出力0としているが、図7の最高到達温度の測定結果を参照すると、定常出力(155度→105度間)における最高到達温度に対して、出力制限時(105度→155度間)における最高到達温度が低くなりすぎないようにすることが、より望ましい。従って、実施例1と同様に、このときの出力を定常出力における出力の半分程度としてもよい。
【0064】
又、本実施例は、レーザ照射時に何らかのトラブルが発生して、所定のレーザ照射が完了しなかった場合でも、その照射履歴(例えば、開始角度、終了角度、レーザ光の出力)を確認し、次周回のレーザ照射において、前周回のレーザ照射の開始角度、終了角度と異なる角度から開始して、上記レーザ照射を行えば、何の問題もなく、残留応力の改善を行うことが可能である。
【実施例6】
【0065】
図9は、本発明に係る管体の残留応力改善方法の実施形態の他の一例を説明する図である。ここでは、実施例4に示した残留応力改善方法を上記実施例5に適用した方法である。
【0066】
本実施例では、図9に示すように、複数の周回として、2回(2周以上)の周回を行うと共に、周回毎にレーザ照射の開始角度及び終了角度が180度異なり、かつ、各周回におけるレーザ照射の開始角度と終了角度も相違し、開始角度と終了角度の近傍において、レーザ照射の重なる範囲を設けることにより、配管2の残留応力改善を図るようにするものである。
【0067】
具体的には、1回目の周回として、レーザ照射の開始角度θs1を340度とし、終了角度θe1を、開始角度θs1を1周通過後の20度としている。最初に、開始角度θs1=340度から第1所定角度θ11までの間に、レーザ光の出力を出力比0から徐々に増加して、定常出力である出力比1.0としている(出力増加工程)。次に、第1所定角度θ11から開始角度θs1に対して手前の位置にある第2所定角度θ21までの間は、レーザ光の出力として出力比1.0を維持している(定常出力工程)。次に、第2所定角度θ21から終了角度θe1までの間に、レーザ光の出力を出力比1.0から出力比0へ徐々に減少し(出力減少工程)、終了角度θe2=20度において、レーザ光の出力を0としている(出力停止工程)。ここでは、上記出力増加工程→定常出力工程→出力減少工程→出力停止工程により、配管2に対するレーザ照射において、出力増加工程の角度の範囲(開始角度θs1→第1所定角度θ11間)と出力減少工程の角度の範囲(第2所定角度θ21→終了角度θe1間)が一部重なるようにしている。
【0068】
そして、加熱した配管2を雰囲気温度まで冷却した後、2回目の周回として、レーザ照射の開始角度θs2を160度とし、終了角度θe2を、開始角度θs2を1周通過後の200度として、開始角度θs2、終了角度θe2を、1回目の周回の開始角度θs1、終了角度θe1から180度移動した位置としている。最初に、開始角度θs2=160度から第1所定角度θ12までの間に、レーザ光の出力を出力比0から徐々に増加して、定常出力である出力比1.0としている(出力増加工程)。次に、第1所定角度θ12から開始角度θs2に対して手前の位置にある第2所定角度θ22までの間は、レーザ光の出力として出力比1.0を維持している(定常出力工程)。次に、第2所定角度θ22から終了角度θe2までの間に、レーザ光の出力を出力比1.0から出力比0へ徐々に減少し(出力減少工程)、終了角度θe2=200度において、レーザ光の出力を0としている(出力停止工程)。ここでも、上記出力増加工程→定常出力工程→出力減少工程→出力停止工程により、配管2に対するレーザ照射において、出力増加工程の角度の範囲(開始角度θs2→第1所定角度θ12間)と出力減少工程の角度の範囲(第2所定角度θ22→終了角度θe2間)が一部重なるようにしている。
【0069】
つまり、出力増加工程→定常出力工程→出力減少工程→出力停止工程からなる周回を2回(2周以上)行うと共に、加熱された管体2を周回毎に雰囲気温度まで冷却しており、更に、開始角度及び終了角度を、周回毎に異なる角度とし、加えて、1回目のレーザ照射の開始角度θs1、終了角度θe1近傍(開始角度θs1→終了角度θe1間)及び2回目のレーザ照射の開始角度θs2、終了角度θe2近傍(開始角度θs2→終了角度θe2間)において、レーザ照射の重なる範囲を設けている。
【0070】
なお、レーザ照射が重なる角度の範囲(開始角度θs2→第1所定角度θ12間、第2所定角度θ22→終了角度θe2間)では、出力増加工程におけるレーザ光の出力と出力減少工程におけるレーザ光の出力の和が、定常出力の出力比1.0に対して、出力比0.8〜0.9となるように、レーザ光の出力を制御している。これは、定常出力(第1所定角度θ11→第2所定角度θ21間、第1所定角度θ12→第2所定角度θ22間)における加熱温度に対して、出力制限時(開始角度θs2→第1所定角度θ12間、第2所定角度θ22→終了角度θe2間)における加熱温度が、高くなりすぎず、かつ、低くなりすぎないようにするために行うものである。
【0071】
このように、各周回において、レーザ照射が重なる角度の範囲を設けると共に、その角度の範囲におけるレーザ照射の出力を制限することにより、その角度の範囲における温度を、定常出力でレーザ照射する領域の温度と略同等、若しくは、それ以下とすることが可能である。その結果、レーザ照射の開始角度(θs1、θs2)及び終了角度(θe1、θe2)近傍において、オーバーヒート領域が発生することを防止することができ、材料自体に悪影響を与えることなく、残留応力を改善することができる。又、レーザ照射の開始角度(θs1、θs2)及び終了角度(θe1、θe2)近傍において、レーザ照射の重なる範囲を設けると共にレーザ照射の出力を適宜に制限することにより、配管2の全周を均一な最高到達温度に加熱することができ、全周に同等の残留応力改善を施すことができる。
【0072】
又、本実施例の場合、1回目の周回と2回目の周回の開始角度、終了角度を、互いに180度ずらすことにより、1回目の周回の開始角度、終了角度の近傍の領域は、2回目の周回においては、定常出力でレーザ照射する領域となる。その結果、最高到達温度の温度履歴としては、配管2の全周に渡って均一とすることができ、全周に渡って均一な残留応力改善を施すことができる。又、1回目の周回後、配管2の温度が室温まで冷却した後、2回目の周回を行うので、オーバーヒート領域が発生することはなく、材料自体に悪影響を与えることなく、残留応力を改善することができる。
【0073】
なお、本実施例の場合も、実施例5と同様に、レーザ照射の周回は、2回と限定する必要はなく、例えば、3回、4回等の複数回としてもよく、これらの場合でも、上記と同等の効果を得られる。
【0074】
本実施例の効果を確認するため、1回目の周回における配管2の溶接部中央外面における最高到達温度のグラフを図10に、又、加熱前後における配管2の溶接部中央内面の残留応力分布の変化を図11に示した。本実施例において、レーザ照射の対象となる配管2は、板厚13.5mm×外径114.3mmのステンレス(SUS316)の鋼管を突合わせ溶接したものである。レーザ光は、周方向に約80mm、軸方向に約100mmの範囲に照射され、移動速度27mm/sで施工している。
【0075】
図10に示すように、周方向移動と共にレーザ光の出力を変化させることにより、1回目の周回の開始角度、終了角度近傍においては、配管2の外面の最高到達温度が、定常出力によるレーザ照射の最高到達温度より低いが、少なくともオーバーヒートは発生しておらず、オーバーヒートを確実に防止できることがわかる。なお、定常出力によるレーザ照射の最高到達温度は、周方向において、その最高到達温度が均一であり、狙い通りの550℃であることがわかる。
【0076】
そして、このようなレーザ照射を、2回目の周回の開始角度、終了角度を180度ずらして行えば、全周に渡って、均一な最高到達温度の加熱が可能となる。つまり、1回目の周回において、最高到達温度が低い領域が有っても、2回目の周回のレーザ照射により、その領域の最高到達温度も、定常出力時の最高到達温度と同等にすることが可能となる。その結果、図11に示すように、溶接後(レーザ照射による加熱前)、溶接中央部内面において、周方向応力で200MPaの引張応力、軸方向応力で280MPaの引張応力であった残留応力を、本実施例のレーザ照射による加熱により、溶接中央部内面の周方向応力、軸方向応力共に、全周で圧縮応力となり、残留応力の改善が行われることが確認できた。
【実施例7】
【0077】
本実施例は、実施例1に示した残留応力改善装置1を前提に、実施例4に示した残留応力改善方法を行う場合に適用するものである。従って、図1(a)、図6を参照すると共に重複する説明は省略して、本実施例を説明する。
【0078】
本実施例は、複数回の周回によりレーザ照射を行う際、温度の計測点を少なくしても、配管2の温度、特に、最高到達温度を確実に把握できるように、レーザ照射の出力の変化に応じて、図1(a)に示す温度センサ9を配管2の外面の適切な周方向位置に取り付けるようにしたものである。
【0079】
具体的には、図6に示すように、1回目の周回の開始角度、終了角度を135度とし、2回目の周回の開始角度、終了角度を315度として、2回目の周回で、周回の開始角度、終了角度を互いに180度ずらす場合には、温度センサ9を90度ピッチで周方向4点として、例えば、図6では、0度、90度、180度、270度を設置位置としている。これらの設置位置は、1回目の周回及び2回目の全ての周回において、定常出力におけるレーザ照射(定常出力工程)が行われる管体2の角度の範囲であって、この範囲の端部の角度位置あるため、オーバーヒートが発生する可能性がある位置の温度を計測することとなり、4点の温度計測であっても、レーザ照射の際、全周における最高到達温度を確実に把握し、監視することができる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明に係る管体の残留応力改善装置及びその原理を説明する図である。
【図2】本発明に係る管体の残留応力改善方法の実施形態の一例(実施例1)を説明する図である。
【図3】本発明に係る管体の残留応力改善方法の実施形態の他の一例(実施例2)を説明する図である。
【図4】本発明に係る管体の残留応力改善方法の実施形態の他の一例(実施例3)を説明する図である。
【図5】本発明に係る管体の残留応力改善方法の実施形態の他の一例(実施例4)を説明する図である。
【図6】本発明に係る管体の残留応力改善方法の実施形態の他の一例(実施例5)を説明する図である。
【図7】実施例5の管体の残留応力改善方法において、1ランにおけるレーザ光の出力及び加熱温度を説明するグラフである。
【図8】実施例5の管体の残留応力改善方法における残留応力の改善効果を検証したグラフである。
【図9】本発明に係る管体の残留応力改善方法の実施形態の他の一例(実施例6)を説明する図である。
【図10】実施例6の管体の残留応力改善方法において、1ランにおける加熱温度を説明するグラフである。
【図11】実施例6の管体の残留応力改善方法における残留応力の改善効果を検証したグラフである。
【図12】従来の管体の残留応力改善装置におけるレーザ光の出力及び加熱温度を説明するグラフである。
【符号の説明】
【0081】
1 残留応力改善装置
2 配管
4 支持部
5 光学ヘッド
6 光ファイバ
7 レーザ発振器
8 制御部
9 温度センサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を円筒状管体の溶接部分の外周面に局所的に照射すると共に、前記レーザ光の照射領域を所定の周回速度で前記管体の外周上を周回させることにより、前記溶接部分全周を加熱して、前記溶接部分全周の残留応力を改善する管体の残留応力改善方法において、
前記管体への照射開始角度から第1所定角度までの間は、前記レーザ光の出力を、0、若しくは、前記所定の周回速度において所望の加熱温度が得られる定常出力より小さい出力から徐々に増加して、前記定常出力とする出力増加工程と、
前記第1所定角度から、前記照射開始角度と同じ位置である照射終了角度に対して手前の位置にある第2所定角度までの間は、前記レーザ光の出力を前記定常出力とする定常出力工程と、
前記第2所定角度から前記照射終了角度までの間は、前記レーザ光の出力を、前記定常出力から徐々に減少して、0、若しくは、前記定常出力より小さい出力とする出力減少工程と、
前記照射終了角度で、前記レーザ光の出力を0とする出力停止工程とを有し、
前記全工程を1周の周回で行うことを特徴とする管体の残留応力改善方法。
【請求項2】
レーザ光を円筒状管体の溶接部分の外周面に局所的に照射すると共に、前記レーザ光の照射領域を所定の周回速度で前記管体の外周上を周回させることにより、前記溶接部分全周を加熱して、前記溶接部分全周の残留応力を改善する管体の残留応力改善方法において、
前記管体への照射開始角度から第1所定角度までの間は、前記レーザ光の出力を、0、若しくは、前記所定の周回速度において所望の加熱温度が得られる定常出力より小さい出力から徐々に増加して、前記定常出力とする出力増加工程と、
前記第1所定角度から前記照射開始角度と同じ位置である照射終了角度までの間は、前記レーザ光の出力を前記定常出力とする定常出力工程と、
前記照射終了角度で、前記レーザ光の出力を0とする出力停止工程とを有し、
前記全工程を1周の周回で行うことを特徴とする管体の残留応力改善方法。
【請求項3】
レーザ光を円筒状管体の溶接部分の外周面に局所的に照射すると共に、前記レーザ光の照射領域を所定の周回速度で前記管体の外周上を周回させることにより、前記溶接部分全周を加熱して、前記溶接部分全周の残留応力を改善する管体の残留応力改善方法において、
前記管体への照射開始角度で、前記レーザ光の出力を、前記所定の周回速度において所望の加熱温度が得られる定常出力とし、前記照射開始角度から、前記照射開始角度と同じ位置である照射終了角度に対して手前の位置にある第2所定角度までの間は、前記レーザ光の出力を前記定常出力とする定常出力工程と、
前記第2所定角度から前記照射終了角度までの間は、前記レーザ光の出力を、前記定常出力から徐々に減少して、0、若しくは、前記定常出力より小さい出力とするする出力減少工程と、
前記照射終了角度で、前記レーザ光の出力を0とする出力停止工程とを有し、
前記全工程を1周の周回で行うことを特徴とする管体の残留応力改善方法。
【請求項4】
レーザ光を円筒状管体の溶接部分の外周面に局所的に照射すると共に、前記レーザ光の照射領域を所定の周回速度で前記管体の外周上を周回させることにより、前記溶接部分全周を加熱して、前記溶接部分全周の残留応力を改善する管体の残留応力改善方法において、
前記管体への照射開始角度から第1所定角度までの間は、前記レーザ光の出力を、0から徐々に増加して、前記所定の周回速度において所望の加熱温度が得られる定常出力とする出力増加工程と、
前記第1所定角度から前記開始角度に対して手前の位置にある第2所定角度までの間は、前記レーザ光の出力を前記定常出力とする定常出力工程と、
前記第2所定角度から、前記開始角度を通過した照射終了角度までの間は、前記レーザ光の出力を、前記定常出力から徐々に減少して、0とする出力減少工程とを有し、
前記管体における前記出力増加工程の角度の範囲と前記出力減少工程の角度の範囲を一部重ねると共に、前記重なる角度の範囲では、該各工程における前記レーザ光の出力の和を、前記定常出力の0.8〜0.9の比率として、前記全工程を1周以上2周未満の周回で行うことを特徴とする管体の残留応力改善方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の管体の残留応力改善方法において、
前記全工程からなる周回を2回以上行い、且つ、加熱された前記管体を周回毎に雰囲気温度まで冷却すると共に、
前記管体の照射開始角度及び照射終了角度を、周回毎に異なる角度とすることを特徴とする管体の残留応力改善方法。
【請求項6】
請求項5に記載の管体の残留応力改善方法において、
全ての周回において前記定常出力工程が行われる管体の角度の範囲であって、該角度の範囲の端部の角度位置のみに、前記管体の温度を測定する温度センサを設置し、
前記周回の際、前記温度センサにより前記管体の最高到達温度を監視することを特徴とする管体の残留応力改善方法。
【請求項7】
円筒状管体の外周を所定の周回速度で周回移動可能な周回移動手段と、
前記周回移動手段に支持され、前記管体の溶接部分の外周面に局所的にレーザ光を照射するレーザ光照射手段と、
前記レーザ光照射手段によるレーザ光の出力を制御すると共に、前記周回移動手段によるレーザ光照射手段の周回角度位置及び周回速度を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、
前記管体への照射開始角度から第1所定角度までの間は、前記レーザ光の出力を、0、若しくは、前記所定の周回速度において所望の加熱温度が得られる定常出力より小さい出力から徐々に増加して、前記定常出力とする出力増加工程と、
前記第1所定角度から、前記照射開始角度と同じ位置である照射終了角度に対して手前の位置にある第2所定角度までの間は、前記レーザ光の出力を前記定常出力とする定常出力工程と、
前記第2所定角度から前記照射終了角度までの間は、前記レーザ光の出力を、前記定常出力から徐々に減少して、0、若しくは、前記定常出力より小さい出力とする出力減少工程と、
前記照射終了角度で、前記レーザ光の出力を0とする出力停止工程とを有し、
前記全工程を1周の周回で行うことにより、前記レーザ光の照射領域を前記管体の外周上を周回させ、前記溶接部分全周を加熱して、前記溶接部分全周の残留応力を改善することを特徴とする管体の残留応力改善装置。
【請求項8】
円筒状管体の外周を所定の周回速度で周回移動可能な周回移動手段と、
前記周回移動手段に支持され、前記管体の溶接部分の外周面に局所的にレーザ光を照射するレーザ光照射手段と、
前記レーザ光照射手段によるレーザ光の出力を制御すると共に、前記周回移動手段によるレーザ光照射手段の周回角度位置及び周回速度を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、
前記管体への照射開始角度から第1所定角度までの間は、前記レーザ光の出力を、0、若しくは、前記所定の周回速度において所望の加熱温度が得られる定常出力より小さい出力から徐々に増加して、前記定常出力とする出力増加工程と、
前記第1所定角度から前記照射開始角度と同じ位置である照射終了角度までの間は、前記レーザ光の出力を前記定常出力とする定常出力工程と、
前記照射終了角度で、前記レーザ光の出力を0とする出力停止工程とを有し、
前記全工程を1周の周回で行うことにより、前記レーザ光の照射領域を前記管体の外周上を周回させ、前記溶接部分全周を加熱して、前記溶接部分全周の残留応力を改善することを特徴とする管体の残留応力改善装置。
【請求項9】
円筒状管体の外周を所定の周回速度で周回移動可能な周回移動手段と、
前記周回移動手段に支持され、前記管体の溶接部分の外周面に局所的にレーザ光を照射するレーザ光照射手段と、
前記レーザ光照射手段によるレーザ光の出力を制御すると共に、前記周回移動手段によるレーザ光照射手段の周回角度位置及び周回速度を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、
前記管体への照射開始角度で、前記レーザ光の出力を、前記所定の周回速度において所望の加熱温度が得られる定常出力とし、前記照射開始角度から、前記照射開始角度と同じ位置である照射終了角度に対して手前の位置にある第2所定角度までの間は、前記レーザ光の出力を前記定常出力とする定常出力工程と、
前記第2所定角度から前記照射終了角度までの間は、前記レーザ光の出力を、前記定常出力から徐々に減少して、0、若しくは、前記定常出力より小さい出力とするする出力減少工程と、
前記照射終了角度で、前記レーザ光の出力を0とする出力停止工程とを有し、
前記全工程を1周の周回で行うことにより、前記レーザ光の照射領域を前記管体の外周上を周回させ、前記溶接部分全周を加熱して、前記溶接部分全周の残留応力を改善することを特徴とする管体の残留応力改善装置。
【請求項10】
円筒状管体の外周を所定の周回速度で周回移動可能な周回移動手段と、
前記周回移動手段に支持され、前記管体の溶接部分の外周面に局所的にレーザ光を照射するレーザ光照射手段と、
前記レーザ光照射手段によるレーザ光の出力を制御すると共に、前記周回移動手段によるレーザ光照射手段の周回角度位置及び周回速度を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、
前記管体への照射開始角度から第1所定角度までの間は、前記レーザ光の出力を、0から徐々に増加して、前記所定の周回速度において所望の加熱温度が得られる定常出力とする出力増加工程と、
前記第1所定角度から、前記開始角度に対して手前の位置にある第2所定角度までの間は、前記レーザ光の出力を前記定常出力とする定常出力工程と、
前記第2所定角度から、前記開始角度を通過した照射終了角度までの間は、前記レーザ光の出力を、前記定常出力から徐々に減少して、0とする出力減少工程とを有し、
前記管体における前記出力増加工程の角度の範囲と前記出力減少工程の角度の範囲を一部重ねると共に、前記重なる角度の範囲では、該各工程における前記レーザ光の出力の和を、前記定常出力の0.8〜0.9の比率として、前記全工程を1周以上2周未満の周回で行うことにより、前記レーザ光の照射領域を前記管体の外周上を周回させ、前記溶接部分全周を加熱して、前記溶接部分全周の残留応力を改善することを特徴とする管体の残留応力改善装置。
【請求項11】
請求項7乃至請求項10のいずれかに記載の管体の残留応力改善装置において、
前記制御手段は、
前記全工程からなる周回を2回以上行い、かつ、加熱された前記管体を周回毎に雰囲気温度まで冷却すると共に、
前記管体の照射開始角度及び照射終了角度を、周回毎に異なる角度とすることを特徴とする管体の残留応力改善装置。
【請求項12】
請求項11に記載の管体の残留応力改善装置において、
全ての周回において前記定常出力工程が行われる管体の角度の範囲であって、該角度の範囲の端部の角度位置のみに、前記管体の温度を測定する温度センサを設け、
前記制御手段は、
前記周回の際、前記温度センサにより前記管体の最高到達温度を監視することを特徴とする管体の残留応力改善装置。
【請求項1】
レーザ光を円筒状管体の溶接部分の外周面に局所的に照射すると共に、前記レーザ光の照射領域を所定の周回速度で前記管体の外周上を周回させることにより、前記溶接部分全周を加熱して、前記溶接部分全周の残留応力を改善する管体の残留応力改善方法において、
前記管体への照射開始角度から第1所定角度までの間は、前記レーザ光の出力を、0、若しくは、前記所定の周回速度において所望の加熱温度が得られる定常出力より小さい出力から徐々に増加して、前記定常出力とする出力増加工程と、
前記第1所定角度から、前記照射開始角度と同じ位置である照射終了角度に対して手前の位置にある第2所定角度までの間は、前記レーザ光の出力を前記定常出力とする定常出力工程と、
前記第2所定角度から前記照射終了角度までの間は、前記レーザ光の出力を、前記定常出力から徐々に減少して、0、若しくは、前記定常出力より小さい出力とする出力減少工程と、
前記照射終了角度で、前記レーザ光の出力を0とする出力停止工程とを有し、
前記全工程を1周の周回で行うことを特徴とする管体の残留応力改善方法。
【請求項2】
レーザ光を円筒状管体の溶接部分の外周面に局所的に照射すると共に、前記レーザ光の照射領域を所定の周回速度で前記管体の外周上を周回させることにより、前記溶接部分全周を加熱して、前記溶接部分全周の残留応力を改善する管体の残留応力改善方法において、
前記管体への照射開始角度から第1所定角度までの間は、前記レーザ光の出力を、0、若しくは、前記所定の周回速度において所望の加熱温度が得られる定常出力より小さい出力から徐々に増加して、前記定常出力とする出力増加工程と、
前記第1所定角度から前記照射開始角度と同じ位置である照射終了角度までの間は、前記レーザ光の出力を前記定常出力とする定常出力工程と、
前記照射終了角度で、前記レーザ光の出力を0とする出力停止工程とを有し、
前記全工程を1周の周回で行うことを特徴とする管体の残留応力改善方法。
【請求項3】
レーザ光を円筒状管体の溶接部分の外周面に局所的に照射すると共に、前記レーザ光の照射領域を所定の周回速度で前記管体の外周上を周回させることにより、前記溶接部分全周を加熱して、前記溶接部分全周の残留応力を改善する管体の残留応力改善方法において、
前記管体への照射開始角度で、前記レーザ光の出力を、前記所定の周回速度において所望の加熱温度が得られる定常出力とし、前記照射開始角度から、前記照射開始角度と同じ位置である照射終了角度に対して手前の位置にある第2所定角度までの間は、前記レーザ光の出力を前記定常出力とする定常出力工程と、
前記第2所定角度から前記照射終了角度までの間は、前記レーザ光の出力を、前記定常出力から徐々に減少して、0、若しくは、前記定常出力より小さい出力とするする出力減少工程と、
前記照射終了角度で、前記レーザ光の出力を0とする出力停止工程とを有し、
前記全工程を1周の周回で行うことを特徴とする管体の残留応力改善方法。
【請求項4】
レーザ光を円筒状管体の溶接部分の外周面に局所的に照射すると共に、前記レーザ光の照射領域を所定の周回速度で前記管体の外周上を周回させることにより、前記溶接部分全周を加熱して、前記溶接部分全周の残留応力を改善する管体の残留応力改善方法において、
前記管体への照射開始角度から第1所定角度までの間は、前記レーザ光の出力を、0から徐々に増加して、前記所定の周回速度において所望の加熱温度が得られる定常出力とする出力増加工程と、
前記第1所定角度から前記開始角度に対して手前の位置にある第2所定角度までの間は、前記レーザ光の出力を前記定常出力とする定常出力工程と、
前記第2所定角度から、前記開始角度を通過した照射終了角度までの間は、前記レーザ光の出力を、前記定常出力から徐々に減少して、0とする出力減少工程とを有し、
前記管体における前記出力増加工程の角度の範囲と前記出力減少工程の角度の範囲を一部重ねると共に、前記重なる角度の範囲では、該各工程における前記レーザ光の出力の和を、前記定常出力の0.8〜0.9の比率として、前記全工程を1周以上2周未満の周回で行うことを特徴とする管体の残留応力改善方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の管体の残留応力改善方法において、
前記全工程からなる周回を2回以上行い、且つ、加熱された前記管体を周回毎に雰囲気温度まで冷却すると共に、
前記管体の照射開始角度及び照射終了角度を、周回毎に異なる角度とすることを特徴とする管体の残留応力改善方法。
【請求項6】
請求項5に記載の管体の残留応力改善方法において、
全ての周回において前記定常出力工程が行われる管体の角度の範囲であって、該角度の範囲の端部の角度位置のみに、前記管体の温度を測定する温度センサを設置し、
前記周回の際、前記温度センサにより前記管体の最高到達温度を監視することを特徴とする管体の残留応力改善方法。
【請求項7】
円筒状管体の外周を所定の周回速度で周回移動可能な周回移動手段と、
前記周回移動手段に支持され、前記管体の溶接部分の外周面に局所的にレーザ光を照射するレーザ光照射手段と、
前記レーザ光照射手段によるレーザ光の出力を制御すると共に、前記周回移動手段によるレーザ光照射手段の周回角度位置及び周回速度を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、
前記管体への照射開始角度から第1所定角度までの間は、前記レーザ光の出力を、0、若しくは、前記所定の周回速度において所望の加熱温度が得られる定常出力より小さい出力から徐々に増加して、前記定常出力とする出力増加工程と、
前記第1所定角度から、前記照射開始角度と同じ位置である照射終了角度に対して手前の位置にある第2所定角度までの間は、前記レーザ光の出力を前記定常出力とする定常出力工程と、
前記第2所定角度から前記照射終了角度までの間は、前記レーザ光の出力を、前記定常出力から徐々に減少して、0、若しくは、前記定常出力より小さい出力とする出力減少工程と、
前記照射終了角度で、前記レーザ光の出力を0とする出力停止工程とを有し、
前記全工程を1周の周回で行うことにより、前記レーザ光の照射領域を前記管体の外周上を周回させ、前記溶接部分全周を加熱して、前記溶接部分全周の残留応力を改善することを特徴とする管体の残留応力改善装置。
【請求項8】
円筒状管体の外周を所定の周回速度で周回移動可能な周回移動手段と、
前記周回移動手段に支持され、前記管体の溶接部分の外周面に局所的にレーザ光を照射するレーザ光照射手段と、
前記レーザ光照射手段によるレーザ光の出力を制御すると共に、前記周回移動手段によるレーザ光照射手段の周回角度位置及び周回速度を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、
前記管体への照射開始角度から第1所定角度までの間は、前記レーザ光の出力を、0、若しくは、前記所定の周回速度において所望の加熱温度が得られる定常出力より小さい出力から徐々に増加して、前記定常出力とする出力増加工程と、
前記第1所定角度から前記照射開始角度と同じ位置である照射終了角度までの間は、前記レーザ光の出力を前記定常出力とする定常出力工程と、
前記照射終了角度で、前記レーザ光の出力を0とする出力停止工程とを有し、
前記全工程を1周の周回で行うことにより、前記レーザ光の照射領域を前記管体の外周上を周回させ、前記溶接部分全周を加熱して、前記溶接部分全周の残留応力を改善することを特徴とする管体の残留応力改善装置。
【請求項9】
円筒状管体の外周を所定の周回速度で周回移動可能な周回移動手段と、
前記周回移動手段に支持され、前記管体の溶接部分の外周面に局所的にレーザ光を照射するレーザ光照射手段と、
前記レーザ光照射手段によるレーザ光の出力を制御すると共に、前記周回移動手段によるレーザ光照射手段の周回角度位置及び周回速度を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、
前記管体への照射開始角度で、前記レーザ光の出力を、前記所定の周回速度において所望の加熱温度が得られる定常出力とし、前記照射開始角度から、前記照射開始角度と同じ位置である照射終了角度に対して手前の位置にある第2所定角度までの間は、前記レーザ光の出力を前記定常出力とする定常出力工程と、
前記第2所定角度から前記照射終了角度までの間は、前記レーザ光の出力を、前記定常出力から徐々に減少して、0、若しくは、前記定常出力より小さい出力とするする出力減少工程と、
前記照射終了角度で、前記レーザ光の出力を0とする出力停止工程とを有し、
前記全工程を1周の周回で行うことにより、前記レーザ光の照射領域を前記管体の外周上を周回させ、前記溶接部分全周を加熱して、前記溶接部分全周の残留応力を改善することを特徴とする管体の残留応力改善装置。
【請求項10】
円筒状管体の外周を所定の周回速度で周回移動可能な周回移動手段と、
前記周回移動手段に支持され、前記管体の溶接部分の外周面に局所的にレーザ光を照射するレーザ光照射手段と、
前記レーザ光照射手段によるレーザ光の出力を制御すると共に、前記周回移動手段によるレーザ光照射手段の周回角度位置及び周回速度を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、
前記管体への照射開始角度から第1所定角度までの間は、前記レーザ光の出力を、0から徐々に増加して、前記所定の周回速度において所望の加熱温度が得られる定常出力とする出力増加工程と、
前記第1所定角度から、前記開始角度に対して手前の位置にある第2所定角度までの間は、前記レーザ光の出力を前記定常出力とする定常出力工程と、
前記第2所定角度から、前記開始角度を通過した照射終了角度までの間は、前記レーザ光の出力を、前記定常出力から徐々に減少して、0とする出力減少工程とを有し、
前記管体における前記出力増加工程の角度の範囲と前記出力減少工程の角度の範囲を一部重ねると共に、前記重なる角度の範囲では、該各工程における前記レーザ光の出力の和を、前記定常出力の0.8〜0.9の比率として、前記全工程を1周以上2周未満の周回で行うことにより、前記レーザ光の照射領域を前記管体の外周上を周回させ、前記溶接部分全周を加熱して、前記溶接部分全周の残留応力を改善することを特徴とする管体の残留応力改善装置。
【請求項11】
請求項7乃至請求項10のいずれかに記載の管体の残留応力改善装置において、
前記制御手段は、
前記全工程からなる周回を2回以上行い、かつ、加熱された前記管体を周回毎に雰囲気温度まで冷却すると共に、
前記管体の照射開始角度及び照射終了角度を、周回毎に異なる角度とすることを特徴とする管体の残留応力改善装置。
【請求項12】
請求項11に記載の管体の残留応力改善装置において、
全ての周回において前記定常出力工程が行われる管体の角度の範囲であって、該角度の範囲の端部の角度位置のみに、前記管体の温度を測定する温度センサを設け、
前記制御手段は、
前記周回の際、前記温度センサにより前記管体の最高到達温度を監視することを特徴とする管体の残留応力改善装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−275916(P2007−275916A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−103755(P2006−103755)
【出願日】平成18年4月5日(2006.4.5)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年4月5日(2006.4.5)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
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