説明

粉体塗装方法及びその装置

【課題】被塗布物に対して粉体塗料を効率よく塗着させるとともに、塗装ガンに対するメンテナンス頻度を低減する。
【解決手段】粉体塗装装置10は、内壁に保護材63が設けられた塗装ブース14と、該塗装ブース14を構成する側壁36、38及び天井壁40に設置された塗装ガン16a〜16eとを備える。塗装ガン16a〜16eのノズルチューブ66の終端は、側壁36、38及び天井壁40に形成された連通孔70に挿入され、この連通孔70を介して、搬送用エアに同伴された粉体塗料が塗装ブース14内に吐出・噴霧される。塗装ガン16a、16bにおける吐出パターンと塗装ガン16c、16dにおける吐出パターンとは互いに干渉し、且つ塗装ガン16eの吐出パターンは塗装ガン16a〜16dにおける吐出パターンに干渉する。この干渉によって粉体塗料の運動エネルギが相殺されることに伴い、該粉体塗料が静電作用下にワークW(被塗布物)に容易に引き寄せられるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体塗料を被塗装物に塗着させることで前記被塗装物に対して塗装を施す粉体塗装方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被塗布物に対して塗装を施す一手法として、アース接続された被塗布物を塗装ブース内に搬入し、次に、この塗装ブース内に、帯電された粉体塗料を吐出する、いわゆる粉体塗装が挙げられる。この場合、粉体塗料は、搬送用エアに同伴されて吐出された後、被塗布物と粉体塗料との間の静電作用によって被塗布物に引き寄せられ、最終的に、該被塗布物に塗着される。
【0003】
この種の従来技術として、特許文献1に記載されたものが知られている。すなわち、粉体塗料を被塗布物に向けてではなく塗装ブース内の空間に向けて吐出し、これにより、塗装ブース内の雰囲気に含まれる粉体塗料の濃度を均一化する試みである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−38527号公報(特に段落[0011]、[0012]参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1記載の従来技術においては、塗装ブース内を粉体塗料で充満する必要があるため、被塗布物に塗着されない粉体塗料が多数存在することになる。未塗着の粉体塗料は回収されて再吐出されるが、回収量が多くなることに伴い、再使用のための再生処理量も多くなる。
【0006】
さらに、この従来技術では、その図2、図3及び図6から諒解されるように、塗装ブース内に塗装ガンが設置される。この場合、粉体塗料が塗装ガンに短時間で塗着してしまうので、塗装ガンに対するメンテナンスを頻繁に行わなければならない。メンテナンスを行う間は塗装を行うことができないので、被塗布物に対する塗装作業効率も低下することになる。
【0007】
このように、特許文献1記載の従来技術には、未塗着の粉体塗料が多量に発生するために後処理に要する作業量が多くなったり、塗装ガンに対するメンテナンス頻度が高いために塗装作業効率が低下したりするという不具合がある。
【0008】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、被塗布物に対して粉体塗料を効率よく塗着させることが可能であり、しかも、塗装ガンに対するメンテナンス頻度を低減し得る粉体塗装方法及びその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するために、本発明は、帯電させた粉体塗料を複数個の塗装ツールから吐出し、塗装ブースの内部に搬入され且つアース接続された前記被塗装物に対して前記粉体塗料を塗着させることで前記被塗装物に対して塗布を施す粉体塗装方法であって、
前記複数個の塗装ツールの中の少なくとも2個を、前記粉体塗料が吐出される吐出口同士が互いに対向するように前記塗装ブースの壁に設置し、
前記対向する吐出口の各々から前記被塗装物に対して前記粉体塗料を同時に吐出するとともに、一方の前記塗装ツールから吐出されて前記塗装ブースの内部に拡散した前記粉体塗料を、他方の前記塗装ツールから前記粉体塗料とともに吐出された搬送用エアによって前記被塗装物まで移動させることを特徴とする。
【0010】
すなわち、本発明においては、一方の塗装ツールの吐出口から吐出された粉体塗料に対し、他方の塗装ツールの吐出口から粉体塗料とともに吐出された搬送用エアを干渉させるようにしている。このため、例えば、塗装ブース内において上方に拡散しようとする粉体塗料が、対向する吐出口から吐出されて上方に拡散しようとする搬送用エアとぶつかり、その結果、粉体塗料は、吐出の際に搬送エアから付与された運動エネルギが相殺された状態となり、被塗布物の周辺に分散浮遊するようになる。
【0011】
下方に拡散しようとする粉体塗料についても同様に、対向する吐出口から吐出されて下方に拡散しようとする搬送用エアとぶつかる。これにより、この粉体塗料も被塗布物の周辺に分散浮遊するようになる。
【0012】
このようにして被塗布物の周辺に分散浮遊するようになった粉体塗料は、静電作用によって被塗布物に引き寄せられる。このため、粉体塗料が該被塗布物に対して効率よく塗着する。すなわち、塗装効率が向上する。
【0013】
また、上記したように、粉体塗料が分散浮遊した後に静電作用を介して被塗布物に付着するので、被塗布物の形状に関わらず、該被塗布物の全体にわたって塗膜の厚みが略一定となる。例えば、塗装ツールを保持したロボット等を用いて静電塗装を行う場合、塗膜の厚みを略一定にするためには、それに応じた軌跡を作成するべく厳密なティーチングが必要となるが、本発明によれば、そのような厳密なティーチングも不要となる。すなわち、被塗布物への静電塗装を容易に実施することが可能となる。加えて、厚みが略均一な塗膜を得ることも容易である。
【0014】
しかも、この場合、未塗着の粉体塗料量が低減するので、粉体塗料の回収量及び再生処理量が低減する。このため、再生処理に要するコストを低減することもできる。
【0015】
なお、少なくとも2個の前記塗装ツールの吐出口を、前記塗装ブースにおける前記被塗装物の進行方向に対して略平行方向に延在する両側壁に互いに対向するように設置するとともに、前記両側壁に橋架され且つ前記被塗装物の進行方向に対して略平行方向に延在する壁に少なくとも1個の前記塗装ツールを設置することが好ましい。
【0016】
この場合、両側壁に設置された少なくとも2個の塗装ツールから吐出されて上方に拡散しようとする粉体塗料が、該両側壁に橋架された壁、すなわち、天井壁又は底壁に設置された少なくとも1個の塗装ツールから吐出された搬送用エアに衝突し、その結果、下方又は上方に流される。従って、被塗布物に向かう粉体塗料量が一層増加する一方、再生処理量が一層低減するので、塗装効率が向上するとともに、再生処理に要するコストがさらに低減する。
【0017】
いずれの場合においても、塗装ツールの本体を前記塗装ブースの外壁に設置することが好ましい。これにより塗装ツールに粉体塗料が塗着することが回避されるので、塗装ツールのメンテナンス頻度が著しく低減する。従って、塗装ツールに対してメンテナンスを行うために塗装作業を中断する頻度も低減し、この結果、塗装作業効率が向上する。
【0018】
しかも、これにより、塗装ブースの寸法、ひいては体積を小さくすることもできる。塗装ブースの内部に塗装ツールを収容する必要がなく、このため、塗装ブースに塗装ツールを収容するためのスペースを形成する必要がないからである。
【0019】
なお、この場合、前記塗装ブースの内壁に吐出口を設けるようにすればよい。
【0020】
また、本発明に係る粉体塗装装置は、アース接続された被塗装物を搬入する塗装ブースと、
前記塗装ブースに設置され、帯電させた粉体塗料を前記被塗装物に対して吐出するための複数個の塗装ツールと、
を備え、
前記複数個の塗装ツールの中の少なくとも2個が、前記粉体塗料が吐出される吐出口同士が互いに対向するように前記塗装ブースの壁に設置され、
前記対向する吐出口の各々は、前記被塗装物に対して前記粉体塗料を同時に吐出するとともに、一方の前記塗装ツールから吐出されて前記塗装ブースの内部に拡散した前記粉体塗料が、他方の前記塗装ツールから前記粉体塗料とともに吐出された搬送用エアによって前記被塗装物まで移動されることを特徴とする。
【0021】
このような構成とすることにより、被塗装物に向かう粉体塗料の量を増加させて塗装効率を向上させることができる。その一方で、未塗着の粉体塗料の回収量及び再生処理量が低減するので、コスト的に有利となる。
【0022】
また、少なくとも2個の前記塗装ツールの吐出口を、前記塗装ブースにおける前記被塗装物の進行方向に対して略平行方向に延在する両側壁に互いに対向するように設置するとともに、前記両側壁に橋架され且つ前記被塗装物の進行方向に対して略平行方向に延在する壁に少なくとも1個の前記塗装ツールを設置する構成とし、前記少なくとも1個の前記塗装ツールから吐出された粉体塗料を、前記少なくとも2個の前記塗装ツールから吐出された粉体塗料に衝突させるようにすれば、被塗装物に向かう粉体塗料の量が一層増加するとともに、未塗着の粉体塗料の回収量及び再生処理量が一層低減する。
【0023】
さらに、塗装ツールの本体を前記塗装ブースの外壁に設置する構成を採用することにより、上記したように、塗装ツールに対するメンテナンス頻度を低減することが可能となる。勿論、この場合、吐出口を前記塗装ブースの内壁に設けるようにすればよい。
【0024】
上記した構成においては、塗装ブースを絶縁体で構成することが好ましい。又は、塗装ブースの内壁に絶縁体からなる保護材を設けるようにしてもよい。
【0025】
上述の通り、粉体塗料は静電作用を介して被塗布物に引き寄せられる。これに対し、絶縁体からなる塗装ブース、又は絶縁体からなる保護材では、粉体塗料との間に静電作用が惹起されることが防止される。従って、塗装ツールから吐出された粉体塗料や、被塗布物に付着せずに浮遊した未塗着の粉体塗料等が塗装ブースに引き寄せられることが回避される。このため、被塗布物に付着する粉体塗料の割合が上昇するとともに、未塗着の粉体塗料の回収効率が向上する。
【0026】
しかも、この場合、塗装ブースないしは保護材に粉体塗料が付着し難いので、塗装ブースの内部を清掃することが著しく容易となる。このため、塗装色を変更する際の清掃時間が短縮されるので、サイクルタイムも短縮される。
【0027】
絶縁体の好適な例としては、発泡ポリエステルを挙げることができる。発泡ポリエステルには気泡が多く含まれるので、高い絶縁性を示すからである。すなわち、この場合、粉体塗料が塗装ブースに引き寄せられることを一層回避し得るようになる。
【0028】
いずれの場合においても、塗装ブースの上部の壁を、被塗装物から離間するに従って互いに接近する方向に屈曲又は湾曲形成することが好ましい。塗装ツールから吐出された粉体塗料は、このように屈曲又は湾曲された壁に対して付着し難いからである。従って、例えば、塗装色を変更する際の塗装ブースないし保護材の清掃時間が一層短縮され、その結果、サイクルタイムがさらに短縮される。
【0029】
また、塗装ブースの内部に向かって圧縮気体を吐出する吐出口を形成することが好ましい。これにより、例えば、塗装色を変更する際、該吐出口から圧縮気体を吐出することで、塗装ブースないし保護材に付着した粉体塗料を容易に除去することができるようになる。又は、塗装ツールから粉体塗料を吐出して塗装作業を行っている最中に該吐出口から圧縮気体を塗装ブースの内壁に向かって吐出し、いわゆるエアブローを行うことで清掃を同時に行うようにしてもよい。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、吐出口同士を対向させるようにしているので、一方の吐出口から吐出されて塗装ブース内を拡散しようとする粉体塗料が、他方の吐出口から粉体塗料とともに吐出された搬送用エアにぶつかる。これに伴って粉体塗料が運動エネルギを喪失し、分散浮遊した状態となる。この状態の粉体塗料は、静電作用によって被塗布物に容易に引き寄せられ、該被塗布物に付着する。以上のような理由から、被塗布物の塗装効率が向上する。
【0031】
その一方で、未塗着の粉体塗料量が低減するので、その回収量、及び再使用のための再生処理量が低減する。従って、再生処理に要するコストが低減するので、コスト的に有利である。
【0032】
さらに、ガン本体を塗装ブースの外方に配設した場合、塗装ツールのメンテナンス頻度が低減する。従って、塗装作業効率が向上する。
【0033】
その上、粉体塗料が分散浮遊した後に静電作用を介して前記被塗布物に付着するので、被塗布物の形状に関わらず、該被塗布物の全体にわたって塗膜の厚みが略一定となる。このため、ロボットに対する厳密なティーチング等が不要となり静電塗装作業が容易となるとともに、厚みが略均一な塗膜を得ることも容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本実施の形態に係る粉体塗装装置の全体概略斜視図である。
【図2】図1の粉体塗装装置の概略正面縦断面図である。
【図3】図1の粉体装置を構成する塗装ガンの全体概略側面図である。
【図4】別の実施の形態に係る粉体塗装装置の概略正面縦断面図である。
【図5】また別の実施の形態に係る粉体塗装装置の概略正面縦断面図である。
【図6】さらに別の実施の形態に係る粉体塗装装置の概略正面縦断面図である。
【図7】さらにまた別の実施の形態に係る粉体塗装装置の概略正面縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明に係る粉体塗装方法につき、それを実施する装置との関係で好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0036】
図1は、本実施の形態に係る粉体塗装装置10の全体概略斜視図である。この粉体塗装装置10は、被塗布物であるワークWを搬送するための搬送機構12と、前記ワークWが搬入される塗装ブース14と、該塗装ブース14に設置された塗装ガン16a〜16e(塗装ツール)とを備える。
【0037】
搬送機構12は、略逆T字状の支持部材18に支持された搬送用案内レール20と、該搬送用案内レール20に変位自在に支持されたワーク固定台22とを有する。この中、搬送用案内レール20の一側面には凸部24が突出形成され、該凸部24は、前記ワーク固定台22を構成するベース部材26の一側面に形成された係合溝28に係合されている。
【0038】
ベース部材26の他側面には、円柱状部材30が連結されている。さらに、この円柱状部材30の先端部には図示しない載置固定台が設けられ、ワークWはこの載置固定台上に固定されている。
【0039】
ベース部材26は、図示しない駆動機構の作用下に前記搬送用案内レール20に沿って変位する。この変位に伴い、未塗装のワークWが塗装ブース14に対して接近して搬入される一方、塗装済のワークWが塗装ブース14から露呈して離間する。なお、本実施の形態では、ベース部材26は常時変位しており、このため、ワークWは、塗装ブース14内への搬入から搬出に至るまで継続的に移動する。
【0040】
フレーム部材32a〜32dによって支持された塗装ブース14は、図1及び図2に示すように、底壁34と、前記底壁34から略垂直方向に立ち上げられ且つワークWの進行方向に対して略平行方向に延在する側壁36、38と、天井壁40と、ワークWの進行方向上流側及び下流側をそれぞれ閉塞する上流側壁42及び下流側壁44とを有する。この中、底壁34及び天井壁40は、側壁36、38同士に橋架され、且つ、側壁36、38同様にワークWの進行方向に対して略平行方向に延在する。この場合、塗装ブース14は金属、換言すれば、導電体からなる。
【0041】
勿論、上流側壁42には、ワークWを塗装ブース14に搬入するための開口46が形成されており、同様に、下流側壁44には、ワークWを塗装ブース14から露呈するための開口48が形成されている。
【0042】
図2に示すように、底壁34と側壁36、38の各々との間には若干のクリアランスが形成されており、各クリアランスを閉塞するようにしてフード部49、50がそれぞれ設けられる。これらフード部49、50からは、略円筒形状のダクトホース接続部51、52が若干上向きに傾斜して突出形成されている。これらダクトホース接続部51、52には、図示しないダクトホースがそれぞれ接続される。勿論、前記それぞれのダクトホースは、図示しない粉体塗料回収機構にわたって橋架される。
【0043】
また、底壁34には、略水平方向に延在する水平部53、54と、該水平部53、54から屈曲して天井壁40に向かうように傾斜した2箇所の傾斜部55、56が形成されている。傾斜部55、56同士の間は互いに離間してクリアランス58を形成しており、このクリアランス58に前記円柱状部材30が通される。
【0044】
図1から諒解されるように、この場合、上流側壁42及び下流側壁44の高さ方向寸法及び幅方向寸法は、該上流側壁42及び下流側壁44が側壁36、38及び天井壁40から突出するように設定されている。また、上流側壁42及び下流側壁44の底部端面は前記底壁34と面一に設定され、さらに、上流側壁42及び下流側壁44には、前記傾斜部55、56の端面に当接するととともに前記開口46、48を囲繞するフード部60、62が形成されている。
【0045】
以上のように構成された塗装ブース14の内壁には、図2に示すように、保護材63が接合されている。保護材63の材質は、絶縁体であれば特に限定されるものではないが、気泡を含み、このために絶縁性が高い発泡ポリエステルを好適な例として挙げることができる。
【0046】
この場合、側壁36には2個の塗装ガン16a、16bが設置され、側壁38には、前記塗装ガン16a、16bの位置に対応する位置に、塗装ガン16c、16dが設置されている。さらに、天井壁40には1個の塗装ガン16eが設置されている。なお、塗装ガン16a〜16eは全て同一構成であるが、説明の便宜上、互いに別の参照符号を付している。
【0047】
ここで、側壁38に設置された塗装ガン16cの全体概略側面図を図3に示す。この場合、塗装ガン16cは、ガン本体64と、該ガン本体64から放射状に分岐して延在する11本のノズルチューブ66とを有する。ガン本体64及びノズルチューブ66の材質は、これらガン本体64及びノズルチューブ66の内部を摩擦しながら通過する粉体塗料に対して摩擦帯電を生じさせるようなものが選定され、好適な例としては、テトラフルオロエチレンが挙げられる。
【0048】
11本のノズルチューブ66は、1本のチューブ支持部材68によって直列に整列するようにして集束されている。さらに、チューブ支持部材68は側壁38に当接ないし接着されており、且つチューブ支持部材68から突出したノズルチューブ66の各終端は、側壁38に形成された連通孔70に挿入されている。なお、この場合、各終端の先端面は側壁38の内壁に到達しておらず、連通孔70の途中に位置している。
【0049】
後述するように、粉体塗料は、ノズルチューブ66の終端に形成された開口から連通孔70を経て吐出される。すなわち、連通孔70は、吐出口として機能する。
【0050】
勿論、残余の塗装ガン16a、16b、16d、16eも同様に構成されている。従って、同一の構成要素には同一の参照符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0051】
塗装ガン16a、16b、16d、16eを構成する各々のノズルチューブ66の終端もまた、側壁36又は天井壁40に設けられた連通孔70に挿入されている。塗装ガン16cのノズルチューブ66の終端と同様に、各終端の先端面は側壁36又は天井壁40の内壁に到達しておらず、連通孔70の途中に位置している。
【0052】
そして、図1に示すように、塗装ガン16a、16bと塗装ガン16c、16dは、各々のガン本体64、64同士が略対向するようにして側壁36、38に設置されている。
【0053】
本実施の形態に係る粉体塗装装置10は、基本的には以上のように構成されるものであり、次に、その動作並びに作用効果について説明する。
【0054】
はじめに、ワーク固定台22を構成する前記載置固定台の各々にワークWが載置され、その後、該ワークWないしワーク固定台22がアースに対して電気的に接続される。さらに、前記搬送機構12が付勢され、この付勢に伴い、ベース部材26、ひいてはワークWが搬送用案内レール20に沿って塗装ブース14に指向して変位し始める。
【0055】
ワークW及び円柱状部材30は、塗装ブース14の上流側壁42の開口46、及び傾斜部55、56同士の間のクリアランス58をそれぞれ通過し、塗装ブース14内を所定速度で緩やかに移動する。
【0056】
塗装ブース14内では、この移動に先立ち、塗装ガン16a〜16eに予め供給されていた粉体塗料が搬送用エアに同伴されて吐出されている。なお、粉体塗料は、塗装ガン16a〜16eの各ガン本体64から各ノズルチューブ66の終端の開口に至るまでの間に、これらガン本体64及びノズルチューブ66に対して摺接し、この際の摩擦によって帯電する。すなわち、粉体塗料は、帯電した状態で前記開口を通過した後に連通孔70(吐出口)から吐出され、塗装ブース14内に噴霧される。
【0057】
上記したように、ワークWは、直接、又はワーク固定台22を介して間接的にアース接続されている。このため、帯電した状態で吐出された粉体塗料は、静電作用によってワークWに引き寄せられ、その結果、該ワークWに塗着される。
【0058】
その一方で、塗装ブース14内に噴霧された粉体塗料の一部は、搬送用エアが塗装ブース14内に拡散することに伴って拡散する。通常の粉体塗装装置では、例えば、天井壁40に向かって拡散した粉体塗料に付与された搬送用エアによる運動エネルギが、前記静電作用によってワークWに向かおうとする運動エネルギに比して大きく、このため、この拡散した粉体塗料を塗着させることは容易ではない。
【0059】
しかしながら、本実施の形態においては、塗装ガン16aに対して塗装ガン16cを略対向する位置に配設している。このため、図2に示すように、塗装ガン16aから吐出・噴霧された粉体塗料及び搬送用エアの流れが、塗装ガン16cから吐出・噴霧された粉体塗料及び搬送用エアの流れにぶつかる。換言すれば、塗装ガン16a、16cからの吐出パターン同士が干渉する。勿論、塗装ガン16b、16dにおける吐出パターン同士についても同様である。
【0060】
このため、塗装ブース14内では、天井壁40に向かって拡散した粉体塗料及び搬送用エア同士がぶつかり合い、その結果、粉体塗料が、吐出の際に搬送エアから付与された運動エネルギが相殺された状態となる。このため、粉体塗料は、ワークWの周辺で分散浮遊する。
【0061】
しかも、本実施の形態においては、天井壁40に塗装ガン16eが設置されている。この塗装ガン16eにおける吐出パターンは、塗装ガン16a〜16dから吐出されて上方に拡散しようとする粉体塗料及び搬送用エアに干渉し、該粉体塗料及び搬送用エアの天井壁40に向かうそれ以上の拡散を抑制する。この干渉によって、分散浮遊した粉体塗料がワークW側に向かって流される。
【0062】
その一方で、底壁34に向かって拡散した粉体塗料及び搬送用エア同士もぶつかり合い、これにより、粉体塗料がワークWの周辺で分散浮遊した状態となる。
【0063】
また、傾斜部55、56が、底壁34に向かって拡散する粉体塗料及び搬送用エアの流れに対していわゆる邪魔板として機能し、これによって上方のワークW側に向かう流れが生じる。
【0064】
以上のように、本実施の形態によれば、側壁36、38の連通孔70、70同士、すなわち、塗装ガン16a〜16dの吐出口同士を互いに略対向する位置に形成し、これにより該連通孔70、70を介して吐出・噴霧される吐出パターン同士が干渉するようにするとともに、天井壁40にも、その吐出パターンが塗装ガン16a〜16dの吐出パターンに干渉する塗装ガン16eを設置するようにしている。このため、粉体塗料の運動エネルギを喪失させ、静電作用によってワークW側に引き寄せられ易い状態とすることができる。
【0065】
加えて、本実施の形態においては、塗装ブース14の内壁に、発泡ポリエステル等の絶縁体からなる保護材63が設けられている。保護材63が絶縁体であるため、粉体塗料との間に静電作用が機能することが防止される。このため、粉体塗料がワークW側に一層引き寄せられ易くなる。
【0066】
すなわち、この場合、塗装ブース14内に吐出・噴霧された粉体塗料の大部分をワークWに指向して移動させることができる。従って、ワークWに対する塗装効率が向上するので、通常の塗装ブースで粉体塗装を行う場合に比して、未塗着の粉体塗料量が低減する。
【0067】
しかも、上記したように、粉体塗料が分散浮遊した後に静電作用を介して被塗布物に付着するので、被塗布物の形状に関わらず、該被塗布物の全体にわたって塗膜の厚みが略一定となる。すなわち、厚みが略均一な塗膜を得ることも容易である。
【0068】
また、例えば、塗装ツールを保持したロボット等を用いて静電塗装を行う場合に塗膜の厚みを略一定にするためには、それに応じた軌跡を作成するべく、ロボットに対して厳密なティーチングを行う必要がある。しかしながら、本実施の形態によれば、そのような厳密なティーチングを行うことなく、塗膜の厚みを略一定とすることができる。すなわち、煩雑な作業が不要となり、被塗布物への静電塗装を容易に実施することが可能となる。
【0069】
未塗着の粉体塗料は、ダクトホース接続部51、52に接続された前記図示しないダクトホースを介して前記回収機構に回収される。上記したように、未塗着の粉体塗料量が少ないので、回収すべき粉体塗料の量も少ない。このため、粉体塗料の使用効率が向上し、該粉体塗料を再使用するための再生処理量が少なくなるのでコスト的に有利である。
【0070】
ここで、ワークWに付着することなく浮遊した未塗着の粉体塗料についても上記と同様に、保護材63との間に静電作用が機能することが防止される。このため、未塗着の粉体塗料が保護材63に付着することも回避され、ダクトホース接続部51、52及び前記ダクトホースを介して前記回収機構に効率よく回収される。すなわち、未塗着の粉体塗料の回収率が向上する。
【0071】
しかも、本実施の形態においては、塗装ガン16a〜16eを構成するガン本体64やノズルチューブ66が塗装ブース14内に露呈していない。このため、粉体塗料が塗装ガン16a〜16eに塗着することがないので、塗装ガン16a〜16eのメンテナンス頻度が著しく低減する。結局、塗装ガン16a〜16eに対してメンテナンスを行うべく塗装作業を中断する頻度が低減するので、ワークWに対する塗装作業効率も向上する。
【0072】
このようにしてワークWに対する塗装がなされた後、前記ベース部材26の継続的な変位に伴い、塗装済のワークWが下流側壁44の開口48を通過して塗装ブース14から露呈する(搬出される)に至る。
【0073】
ワークWに対する塗装色を変更する場合には、それに応じた粉体塗料を選定すればよい。この際、一般的な塗装ブースでは、残留した粉体塗料が新たな粉体塗料に混入して色濁りが生じることを回避するべく、新たな粉体塗料を吐出する前に清掃を行う必要がある。これに対し、本実施の形態によれば、上記したように保護材63に対して粉体塗料が付着することが回避されるので、保護材63、ひいては塗装ブース14の内部の汚れは僅かである。従って、簡素な清掃を行うのみでよく、このため、清掃作業に要する時間も短縮される。これに伴い、サイクルタイムも短縮する。
【0074】
この際には、天井壁40に設置された塗装ガン16eからエアのみを供給し、これにより、塗装ブース14の内壁を構成する保護材63に付着した粉体塗料を除去することもできる。
【0075】
又は、塗装ブース14及び保護材63を貫通する吐出口を形成し、この吐出口から、圧縮エアや圧縮窒素等の圧縮気体を吐出して保護材63(塗装ブース14の内壁)に付着した粉体塗料を除去するようにしてもよい。なお、吐出口を設ける場合、上記した塗装作業を行うと同時に、吐出口から吐出された圧縮気体によって保護材63(塗装ブース14の内壁)に対するエアブローを行うこともできる。
【0076】
なお、上記した実施の形態においては、塗装ガン16a〜16eの各ノズルチューブ66の終端の先端面を連通孔70の途中に位置させるようにしているが、各先端面を、側壁36、38又は天井壁40の内壁と面一となるようにしてもよい。
【0077】
また、この実施の形態では、塗装ガン16a、16bのガン本体64に対して塗装ガン16c、16dのガン本体64をそれぞれ略対向させるようにしているが、連通孔70(吐出口)を対向させて吐出パターン同士を干渉させればよく、ガン本体64、64同士を対向させる必要は特にない。
【0078】
さらに、底壁34にクリアランス58を設け、このクリアランス58に通された円柱状部材30にワークWを支持することに代替し、天井壁40にクリアランスを設けるとともに、このクリアランスに通された懸吊部材にワークWを支持して塗装ガン16eを底壁34に設けるようにしてもよい。この場合は、ワークWに対する塗装色を変更する際に清掃を行うとき、該塗装ガン16eから吸引を行うことも可能である。
【0079】
いずれの場合においても、天井壁40又は底壁34に塗装ガン16eを設けることは必須ではない。すなわち、塗装ガン16eを割愛して粉体塗装装置を構成するようにしてもよい。
【0080】
さらにまた、上記の摩擦帯電に代替し、コロナ帯電によって粉体塗料を帯電させるようにしてもよい。
【0081】
そして、塗装ブース14の内壁に保護材63を設けることに代替し、図4に示すように、絶縁体からなる塗装ブース80を含むようにして粉体塗装装置10を構成するようにしてもよい。この場合においても、塗装ブース14の内壁に保護材63を設ける場合と同様の効果が得られる。勿論、絶縁体の好適な例としては発泡ポリエステル等を挙げることができる。
【0082】
なお、本発明は、塗装ブース14の内壁に保護材63を設ける場合や、絶縁体からなる塗装ブース80を設ける場合に限定されるものではない。すなわち、例えば、図5に示すように、導電体からなる塗装ブース14のみを設ける場合も本発明に含まれる。
【0083】
この場合においても、上記したように、塗装ガン16a、16bに対して塗装ガン16c、16dを略対向する位置に配設していることから、粉体塗料の運動エネルギが喪失し、その結果、該粉体塗料が静電作用によってワークW側に引き寄せられ易い状態となる。このため、塗装ブース14の内壁に粉体塗料が付着することを十分に回避することができる。
【0084】
さらにまた、塗装ブースは、図6に示すように、上部の壁が被塗装物であるワークWから離間するに従って互いに接近する方向に屈曲形成された塗装ブース90であってもよいし、図7に示すように、湾曲形成された塗装ブース92であってもよい。このような形状とした場合、該壁に対し、塗装ガン16a〜16eから吐出された粉体塗料が付着することが困難となる。従って、例えば、塗装色を変更する際の塗装ブース90、92の内壁、保護材63を設けた場合には該保護材63に対する清掃が一層容易となる。換言すれば、清掃時間が一層短縮され、その結果、サイクルタイムがさらに短縮される。
【0085】
図6及び図7においては、塗装ブース90、92を導電体で構成した場合を例示して示しているが、図1と同様に、各内壁に保護材63を設置するようにしてもよいし、図4と同様に、塗装ブース90、92を絶縁体で構成するようにしてもよいことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0086】
10…粉体塗装装置 12…搬送機構
14、80、90、92…塗装ブース 16a〜16e…塗装ガン
34…底壁 36、38…側壁
40…天井壁 46、48…開口
49、50、60、62…フード部 51、52…ダクトホース接続部
53、54…水平部 55、56…傾斜部
58…クリアランス 63…保護材
64…ガン本体 66…ノズルチューブ
68…チューブ支持部材 70…連通孔
W…ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯電させた粉体塗料を複数個の塗装ツールから吐出し、塗装ブースの内部に搬入され且つアース接続された被塗装物に対して前記粉体塗料を塗着させることで前記被塗装物に対して塗布を施す粉体塗装方法であって、
前記複数個の塗装ツールの中の少なくとも2個を、前記粉体塗料が吐出される吐出口同士が互いに対向するように前記塗装ブースの壁に設置し、
前記対向する吐出口の各々から前記被塗装物に対して前記粉体塗料を同時に吐出するとともに、一方の前記塗装ツールから吐出されて前記塗装ブースの内部に拡散した前記粉体塗料を、他方の前記塗装ツールから前記粉体塗料とともに吐出された搬送用エアによって前記被塗装物まで移動させることを特徴とする粉体塗装方法。
【請求項2】
請求項1記載の粉体塗装方法において、少なくとも2個の前記塗装ツールの吐出口を、前記塗装ブースにおける前記被塗装物の進行方向に対して略平行方向に延在する両側壁に互いに対向するように設置するとともに、前記両側壁に橋架され且つ前記被塗装物の進行方向に対して略平行方向に延在する壁に少なくとも1個の前記塗装ツールを設置し、
前記少なくとも1個の前記塗装ツールから吐出された粉体塗料を、前記少なくとも2個の前記塗装ツールから吐出された粉体塗料に衝突させることを特徴とする粉体塗装方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の粉体塗装方法において、前記塗装ツールの本体を前記塗装ブースの外壁に設置するとともに、前記吐出口を前記塗装ブースの内壁に設けることを特徴とする粉体塗装方法。
【請求項4】
アース接続された被塗装物を搬入する塗装ブースと、
前記塗装ブースに設置され、帯電させた粉体塗料を前記被塗装物に対して吐出するための複数個の塗装ツールと、
を備え、
前記複数個の塗装ツールの中の少なくとも2個が、前記粉体塗料が吐出される吐出口同士が互いに対向するように前記塗装ブースの壁に設置され、
前記対向する吐出口の各々は、前記被塗装物に対して前記粉体塗料を同時に吐出するとともに、一方の前記塗装ツールから吐出されて前記塗装ブースの内部に拡散した前記粉体塗料が、他方の前記塗装ツールから前記粉体塗料とともに吐出された搬送用エアによって前記被塗装物まで移動されることを特徴とする粉体塗装装置。
【請求項5】
請求項4記載の粉体塗装装置において、少なくとも2個の前記塗装ツールの吐出口が、前記塗装ブースにおける前記被塗装物の進行方向に対して略平行方向に延在する両側壁に互いに対向するように設置されるとともに、前記両側壁に橋架され且つ前記被塗装物の進行方向に対して略平行方向に延在する壁に少なくとも1個の前記塗装ツールが設置され、
前記少なくとも1個の前記塗装ツールから吐出された粉体塗料が、前記少なくとも2個の前記塗装ツールから吐出された粉体塗料に衝突することを特徴とする粉体塗装装置。
【請求項6】
請求項4又は5記載の粉体塗装装置において、前記塗装ツールの本体が前記塗装ブースの外壁に設置され、且つ前記吐出口が前記塗装ブースの内壁に設けられていることを特徴とする粉体塗装装置。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか1項に記載の粉体塗装装置において、前記塗装ブースが絶縁体から構成されたものであることを特徴とする粉体塗装装置。
【請求項8】
請求項4〜6のいずれか1項に記載の粉体塗装装置において、前記塗装ブースの内壁に絶縁体からなる保護材が設けられたことを特徴とする粉体塗装装置。
【請求項9】
請求項4〜8のいずれか1項に記載の粉体塗装装置において、前記塗装ブースの上部の壁が前記被塗装物から離間するに従って互いに接近する方向に屈曲又は湾曲形成されたことを特徴とする粉体塗装装置。
【請求項10】
請求項4〜9のいずれか1項に記載の粉体塗装装置において、前記塗装ブースの内部に向かって圧縮気体を吐出する吐出口が形成されたことを特徴とする粉体塗装装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−167400(P2010−167400A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−98176(P2009−98176)
【出願日】平成21年4月14日(2009.4.14)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(000117009)旭サナック株式会社 (194)
【Fターム(参考)】