説明

粉体製造装置および粉体製造方法

【課題】粒子形状の均一な粉体を製造できる粉体製造装置および粉体製造方法を提供する。
【解決手段】ミスト発生手段6によって原料液のミストを生成し、ミストを気流によって搬送し、乾燥装置2によって気流を加熱することでミストを乾燥して原料粉体を生成し、プラズマ加熱装置3のプラズマ発生手段8が形成する超高温のプラズマ空間で原料粉体を熱分解して融合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体製造装置および粉体製造方法、特に、ナノ粉体の製造に適する粉体製造装置および粉体製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば2次電池や半導体などの材料となる粉体の製造に適用される従来の粉体製造装置として、特許文献1に、プラズマ放電を行う電極を有する粉体生成塔内に、原料水溶液を噴霧し、プラズマ放電によって形成する超高温のプラズマ空間で、原料水溶液を乾燥、熱分解して融合させるものが開示されている。
【0003】
図6に、例として、従来の粉体製造装置で製造したLaGaO系酸化物粉体の電子顕微鏡写真を示す。従来の粉体製造装置で製造した粉体粒子は、形状がいびつで、不均一である。これは、原料水溶液の液滴が超高温のプラズマ空間で瞬間的に加熱され、粒子内の水分が一瞬のうちに気化膨張することで、粒子が水蒸気爆発して破壊されるためである。
【特許文献1】特開2004−263257号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記問題点に鑑みて、本発明は、粒子形状の均一な粉体を製造できる粉体製造装置および粉体製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために、本発明による粉体製造装置は、原料液のミストを生成するミスト発生手段と、前記ミストを乾燥させて原料粉体を生成する乾燥装置と、超高温のプラズマ空間を形成するプラズマ発生手段を備え、前記プラズマ空間において前記原料粉体を熱分解して融合させるプラズマ加熱装置とを有するものとする。
【0006】
この構成によれば、原料液のミストを乾燥装置で乾燥して粉体にしてから、乾燥した粉体をプラズマ空間で熱変成させる。これによって、原料の水蒸気爆発を防止して、原料液のミスト形状を破壊せずに所定の粉体に変性させることができ、粒子形状の均一な粉体を製造することができる。
【0007】
前記乾燥装置の乾燥温度は、100℃以上200℃以下であるのがよい。
【0008】
この構成によれば、原料液のミスト形状を破壊せずに水分を蒸発させて、形状の均一な乾燥した原料粉体を生成できる。これによって、プラズマ空間において水蒸気爆発が防止される。
【0009】
また、本発明による粉体の製造方法は、原料液のミストを生成し、前記ミストを気流によって搬送し、前記気流を加熱することで前記ミストを乾燥して原料粉体を生成し、前記原料粉体を超高温のプラズマ空間で熱分解して融合させる方法とする。
【0010】
この方法によれば、原料液のミストを搬送する気流を加熱してミストを乾燥するので、略球形の乾燥した原料粉体が得られ、乾燥した原料粉体を高温のプラズマ空間で熱変性させるので水蒸気爆発することなく、略球形の均一な粉体を生成できる。
【0011】
また、本発明による粉体の製造方法において、前記原料液をモル比に換算してLa:Sr:Ga:Mgが8:2:8:2の水溶液にすれば、前記プラズマ空間でLaGaO系酸化物の粉体を生成することができる。
【0012】
また、本発明による粉体の製造方法において、前記原料液をモル比に換算してLi:Ni:Co:Mnが3:1:1:1の水溶液にすれば、前記プラズマ空間でLi(Co1/3Ni1/3Mn1/3)Oの粉体を生成することができる。
【0013】
また、本発明による粉体の製造方法において、モル比に換算してBa:Tiが1:1の酢酸またはクエン酸の水溶液にすれば、前記プラズマ空間でBaTiOの粉体を生成することができる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、原料液のミストを乾燥してからプラズマ空間で熱変成させるので、ミストの粒子を破壊せずに乾燥、熱変性して球形の粉体を生成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
これより、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の第1実施形態の粉体製造装置1を示す。粉体製造装置1は、乾燥塔(乾燥装置)2、プラズマ加熱炉(プラズマ加熱装置)3およびバグフィルタ4を直列に接続し、排気ファン5で空気を引き抜くことで、乾燥塔2からプラズマ加熱炉3を経てバグフィルタ4を通過する気流を発生させるものである。
【0016】
乾燥塔2は、直立筒状をしており、頂部にミスト発生手段であるスプレーノズル6が配置され、胴部を外側から加熱する電熱ヒータ7を有している。スプレーノズル6は、乾燥塔2内に原料液を噴霧して原料液のミスト(液滴)を生成することができる。また、電熱ヒータ7は、乾燥塔2内の気流を設定した温度に加熱するようにコントロールされる。
【0017】
プラズマ加熱炉3は、直立筒状に形成され、乾燥塔2の直下に設置されており、胴部に複数のプラズマ電極8が配置されている。プラズマ電極8は、それぞれの間でプラズマ放電をすることによって、プラズマ加熱炉3内に2000℃を超える超高温のプラズマ空間を形成する。
【0018】
バグフィルタ4は、濾布9によってプラズマ加熱炉3の下部から流出する気流から粉体を分離する。
【0019】
続いて、粉体製造装置1における粉体製造について説明する。
スプレーノズル6で生成された原料液のミストは、排気ファン5による気流に乗って乾燥塔2内を下方に搬送される。電気ヒータ7は、原料液のミストを搬送する気流の温度を100℃から200℃に加熱する。これによって、原料液のミストは、各液滴の形状を維持したまま水分が蒸発し、略球形の乾燥した微粒子からなる原料粉体になる。気流の温度が100℃より低いと乾燥が不十分になるおそれがあり、200℃を超えると水分が爆発的に気化して液滴を分裂させるおそれがある。
【0020】
乾燥塔2内で乾燥された原料粉体は、気流に乗ってプラズマ加熱炉3内に搬送され、プラズマ電極8が形成する超高温のプラズマ空間に到達する。原料微粒子は、プラズマ空間において瞬間的に加熱され、熱分解して融合することで、目的の粉体に変性される。この工程においては、乾燥した原料粉体をさらに加熱するので、原料粉体に瞬間的に大きな熱を与えても水蒸気爆発によって粒子が破壊される心配がない。このため、原料粉体を破壊することなく変性して、略球形の微粒子からなる粉体を得ることができる。また、スプレーノズル6が生成したミストの液滴を分裂させることなくそのまま熱変性するので、得られる粉体の粒度のバラツキが小さくなる。
【0021】
さらに、図2に、本発明の第2実施形態の粉体製造装置1’を示す。本実施形態において、前記第1実施形態と同じ構成要素には同じ符号を付して説明を省略する。
粉体製造装置1’は、スプレーノズル6に換えて、ミスト発生手段として、ミストボックス10と挿気ファン11とが設けられている。
【0022】
ミストボックス10は、底部に超音波振動子12を備える水槽であり、所定量の原料液を貯留するようになっている。超音波振動子12によって振動させられた原料液からは、挿気ファン11が送り込んだ気流中に微細な液滴が飛び出してミストを生成し、原料液のミストは、そのまま気流に乗って乾燥塔2内に搬送される。
【0023】
本実施形態では、超音波振動によって液径数μmの微細なミストを生成でき、形状が均一で微細な粉体を製造することができる。なお、第1実施形態においても、スプレーノズル6を超音波振動子を有する超音波スプレーノズルにすれば、数十μm以下の微細なミストを発生させることができる。
【実施例1】
【0024】
続いて、本発明の実施例を説明する。
実施例1として、第2実施形態の粉体製造装置1’により、燃料電池の固体電解質材料に用いられるLaGaO系酸化物(La0.8Sr0.2Ga0.8Mg0.2)を製造した。
【0025】
原料として、硝酸ランタン、硝酸ストロンチウム、硝酸ガリウムおよび硝酸マグネシウムの各硝酸塩を用い、モル比に換算してLa:Sr:Ga:Mgが8:2:8:2になるように各硝酸塩を秤量し、各硝酸塩のモル比が等しくなるように秤量して0.1mol/dmの濃度になるように蒸留水に溶解したものを原料液とした。
【0026】
ミストボックス10において液滴径2〜3μmのミストを発生させ、乾燥塔2において200℃で乾燥し、プラズマ加熱炉3において7000℃で熱分解して融合した。こうして得られたLSCMの粉体は、LaSrGaおよびLaSrGaOを含んでいたが、さらにこの粉体を1300℃で10時間2次焼成することで、純度の高いLaGaO系酸化物を得ることができた。
【0027】
図3に、本実施例で得られた粉体粒子の電子顕微鏡写真を示す。本実施例では、平均粒子径が930nmで幾何標準偏差が1.36の粉体を得ることができた。図6に示す従来の製造方法によって得られた粉体と比較すると、本実施例の粉体は、粒子形状が均一な球形で、粒度の均一性も高いことが分かる。
【実施例2】
【0028】
さらに、実施例2として、第2実施形態の粉体製造装置1’により、リチウムイオン2次電池の正極材料に用いられるLi(Co1/3Ni1/3Mn1/3)Oを製造した。
【0029】
原料として、硝酸リチウム、硝酸ニッケル、硝酸コバルトおよび硝酸マンガンの各硝酸塩を用い、モル比に換算してLi:Ni:Co:Mnが3:1:1:1になるように各硝酸塩を秤量し、0.5mol/dmの濃度になるように蒸留水に溶解したものを原料液とした。
【0030】
ミストボックス10において液滴径2〜3μmのミストを発生させ、乾燥塔2において200℃で乾燥し、プラズマ加熱炉3において7000℃で熱分解して融合した。
【0031】
図4に、こうして得られた粉体粒子の電子顕微鏡写真を示す。本実施例では、平均粒子径が20nmで幾何標準偏差が1.2の微細で粒度のバラツキの少ない、形状の均一な粉体を得ることができた。
【実施例3】
【0032】
さらに、実施例3として、第2実施形態の粉体製造装置1’により、セラミック積層コンデンサなどの誘電体材料やPTCRサーミスタに用いられるBaTiOを製造した。
【0033】
原料として、酢酸バリウムおよびチタンテトライソプロピルモノマーを用い、モル比に換算してBa:Tiが1:1になるように酢酸の水溶液に0.1mol/dmの濃度になるように溶解したものを原料液とした。
【0034】
ミストボックス10において液滴径2〜3μmのミストを発生させ、乾燥塔2において200℃で乾燥し、プラズマ加熱炉3において7000℃で熱分解して融合した。
【0035】
図5に、こうして得られた粉体粒子の電子顕微鏡写真を示す。本実施例では、平均粒子径が50nmで幾何標準偏差が1.2の微細で粒度のバラツキの少ない、形状の均一な粉体を得ることができた。
【0036】
本実施例の酢酸バリウムに代えて塩化バリウムまたは硝酸バリウムを用いてもよく、酢酸に代えてクエン酸の水溶液を用いても、形状の均一なBaTiOの微細な粉体が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、各実施例の粉体のみならず、多様な粉体、特にナノサイズの粉体を製造するのに適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の第1実施形態の粉体製造装置の概略図。
【図2】本発明の第2実施形態の粉体製造装置の概略図。
【図3】図2の粉体製造装置で製造した粉体の実施例の拡大写真。
【図4】図2の粉体製造装置で製造した粉体の異なる実施例の拡大写真。
【図5】図2の粉体製造装置で製造した粉体のさらに異なる実施例の拡大写真。
【図6】従来の方法で製造した粉体の拡大写真。
【符号の説明】
【0039】
1,1’ 粉体製造装置
2 乾燥塔(乾燥装置)
3 プラズマ加熱炉(プラズマ加熱装置)
6 スプレーノズル(ミスト発生手段)
7 電熱ヒータ
8 プラズマ電極(プラズマ発生手段)
10 ミストボックス(ミスト発生手段)
12 超音波振動子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料液のミストを生成するミスト発生手段と、
前記ミストを乾燥させて原料粉体を生成する乾燥装置と、
超高温のプラズマ空間を形成するプラズマ発生手段を備え、前記プラズマ空間において前記原料粉体を熱分解して融合させるプラズマ加熱装置とを有することを特徴とする粉体製造装置。
【請求項2】
前記乾燥装置の乾燥温度は、100℃以上200℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の粉体製造装置。
【請求項3】
原料液のミストを生成し、
前記ミストを気流によって搬送し、
前記気流を加熱することで前記ミストを乾燥して原料粉体を生成し、
前記原料粉体を超高温のプラズマ空間で熱分解して融合させることを特徴とする粉体製造方法。
【請求項4】
前記ミストを乾燥する際の前記気流の温度は、100℃以上200℃以下であることを特徴とする請求項3に記載の粉体製造方法。
【請求項5】
前記原料液は、モル比に換算してLa:Sr:Ga:Mgが8:2:8:2の水溶液であり、前記プラズマ空間でLaGaO系酸化物の粉体を生成することを特徴とする請求項3または4に記載の粉体製造方法。
【請求項6】
前記原料液は、モル比に換算してLi:Ni:Co:Mnが3:1:1:1の水溶液であり、前記プラズマ空間でLi(Co1/3Ni1/3Mn1/3)Oの粉体を生成することを特徴とする請求項3または4に記載の粉体製造方法。
【請求項7】
前記原料液は、モル比に換算してBa:Tiが1:1の酢酸またはクエン酸の水溶液であり、前記プラズマ空間でBaTiOの粉体を生成することを特徴とする請求項3または4に記載の粉体製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−238402(P2007−238402A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−65144(P2006−65144)
【出願日】平成18年3月10日(2006.3.10)
【出願人】(000211123)中外炉工業株式会社 (170)
【出願人】(593078567)
【Fターム(参考)】