粗さ測定装置
【課題】非接触且つ非光学方式の簡便な構成で、大きな凹凸で構成された非常に粗い表面の粗さを、測定対象表面の湿気の影響を受けることなく、かつ短時間で測定することができる粗さ測定装置を提供する。
【解決手段】
被測定物体2の表面粗さを測定する粗さ測定装置1aにおいて、被測定物体2の表面上の所定領域を測定エリアとすると共に、測定エリア内の表面粗さに対応する信号を出力する粗さセンサと、粗さセンサの出力に基づいて、測定エリアの表面粗さの測定値を出力する粗さ検出部と、を備えるように構成する。このように構成された粗さ測定装置1aは、被測定物体2の表面粗さを非接触且つ非光学方式で測定することができる。
【解決手段】
被測定物体2の表面粗さを測定する粗さ測定装置1aにおいて、被測定物体2の表面上の所定領域を測定エリアとすると共に、測定エリア内の表面粗さに対応する信号を出力する粗さセンサと、粗さセンサの出力に基づいて、測定エリアの表面粗さの測定値を出力する粗さ検出部と、を備えるように構成する。このように構成された粗さ測定装置1aは、被測定物体2の表面粗さを非接触且つ非光学方式で測定することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性物質の表面の粗さを、光学方式を用いず非接触で定量的に測定する粗さ測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
物体表面に存在している微少な凹凸の状態を、物体の表面粗さとして評価する手法が、従来より存在する。その代表的な手法として、触針式表面粗さ測定、光波干渉式表面粗さ測定、及び電気容量式表面粗さ測定などがある。
触針式表面粗さ測定は、日本工業規格JIS B0601などで規定されているように、触針を被測定面にほぼ垂直となるように接触させて一定方向に移動させ、被測定面の凹凸によって上下に変位する触針の変位量を検出し、検出した変位量から被測定面の表面粗さを求める測定手法である。
【0003】
光波干渉式表面粗さ測定は、JIS B0652などで規定されており、半透明の標準反射面を被測定面の近くに配置して得られる繰り返し反射干渉縞を利用する繰返し干渉方式、及び予め設けられた標準反射面と被測定面で反射した2つの光線の干渉縞を利用する二光線干渉方式がある。いずれかの方式によって、被測定面の表面粗さが求められる。
電気容量式表面粗さ測定としては、例えば特許文献1に示すものがある。
【0004】
特許文献1に開示の電気容量式表面あらさ測定器は、電極面表面に絶縁層を備えた測定電極を有するものであり、前記測定電極の電極面を一定の圧力で被測定物の被測定面に押し当て、前記測定電極の電極面を被測定面との間に形成される空隙により生じる電気容量の変化を電気信号として検出して被測定物の表面あらさを測定する。
この測定電極は、電極基体と、合成樹脂フィルム絶縁膜の一方の面に金属膜を薄膜形成してなる電極形成部材とを有し、前記電極形成部材の合成樹脂フィルム面が被測定物に対する接触面となるように、前記電極形成部材を非導電性の弾性部材を介して前記電極基体に取付けて成ることを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭61−34405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来の表面粗さ測定は、主に、滑らかな面、例えば鏡面加工された面に存在する微少な凹凸を測定することを念頭に置いているものであり、滑らかな被測定面の表面粗さを規定・評価するために用いられている。
しかし現実には、物体表面を意図的に粗面加工し、サンドペーパのような粗い面を形成することはよく行われており、その加工処理工程では、加工面の粗さが所望の程度となっているか否かを評価することが求められる。
【0007】
このような場合、JISで規定された触針式表面粗さ測定で用いられる装置では、例えば、上述のサンドペーパのような、大きな凹凸で構成された非常に粗い面の表面粗さの測定及び評価において、大きな凹凸に触針が追従できなかったり、変位可能な範囲(測定レンジ)を超えてしまうという問題がある。
言うまでもなく、触針式表面粗さ測定は1次元での変位量を検出するものであるので、測定場所によって粗さにばらつきがある非常に粗い表面では、多くの測定回数が必要となり、測定対象全体の表面粗さを評価するには、非常に長時間を要するという問題もある。
【0008】
また、特許文献1に開示の電気容量式表面あらさ測定器のような、電気容量式表面粗さ測定で用いられる装置は、測定対象に接触して表面粗さを測定するので、測定対象表面の凹凸によってセンサ面が劣化及び損傷するという問題がある。
さらに、測定対象表面が水で濡れていると、水の著しく高い誘電率が、測定電極の動作に大きな影響を及ぼしてしまい、正確な表面粗さの測定ができなくなる。ところが、工場などの生産現場においては、湿気などの環境を管理することは難しく、当然に、このような場所での測定は困難となる。
【0009】
上述の光波干渉式表面粗さ測定は、すでに述べた接触式の表面粗さ測定とは異なり、非接触式であるが、意図的に粗面加工された非常に粗い表面に測定光を照射すると、当該表面で測定光が乱反射して散乱してしまい、表面粗さの測定が非常に困難になる。
そこで本発明は、上記問題点に鑑み、非接触且つ非光学方式の簡便な構成で、大きな凹凸で構成された非常に粗い表面の粗さを、測定対象表面の湿気の影響を受けることなく、かつ短時間で測定することができる粗さ測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
本発明の粗さ測定装置は、被測定物体の表面粗さを非接触且つ非光学方式で測定する粗さ測定装置であって、前記被測定物体の表面上の所定領域を測定エリアとすると共に、前記測定エリア内の表面粗さに対応する信号を出力する粗さセンサと、前記粗さセンサの出力に基づいて、前記測定エリアの表面粗さの測定値を出力する粗さ検出部と、を備えることを特徴とする。
【0011】
ここで、前記粗さセンサは、前記測定エリア内の表面粗さの平均値に対応する信号を出力するものであってもよい。
好ましくは、前記粗さセンサは、前記表面粗さに対応するインピーダンス変化を出力する渦電流式のセンサであってもよい。
好ましくは、前記粗さセンサは、前記表面粗さに対応するキャパシタンス変化を出力する電気容量式のセンサであってもよい。
【0012】
ここで、前記被測定物体の表面と前記粗さセンサのセンサ面との離間距離であるリフトオフ量が一定となるように、前記粗さセンサを保持する接触治具を備えていてもよい。
ここで、本発明の粗さ測定装置は、前記被測定物体の表面と前記粗さセンサのセンサ面との離間距離であるリフトオフ量を検出する少なくとも1つの位置検出センサと、前記位置検出センサが検出したリフトオフ量を基に、前記粗さ検出部から出力された表面粗さの測定値を補正するリフトオフ補正部と、を備えていてもよい。
【0013】
また、日本工業規格で規定された粗さパラメータの値と前記表面粗さの測定値との関係を予め有しており、前記粗さ検出部から出力された表面粗さの測定値を、日本工業規格で規定された粗さパラメータの値に換算して出力する粗さパラメータ補正換算部を備えていてもよい。
さらに、本発明の粗さ測定装置は、前記粗さセンサを被測定物体の表面に沿って移動させるセンサ移動手段を備えていて、前記粗さ検出部は、前記センサ移動手段によって移動する粗さセンサからの出力に基づいて、被測定物体における連続した複数の測定エリアでの表面粗さの測定値を出力するように構成されていてもよい。
【0014】
好ましくは、前記粗さ検出部は、被測定物体における複数の測定エリアでの表面粗さの測定値を移動平均し、その結果を出力する移動平均粗さ算出部を備えていてもよい。
好ましくは、前記移動平均粗さ算出部は、移動平均を計算するための移動平均区間長を有しており、前記移動平均粗さ算出部は、移動平均区間長内に存在する複数の表面粗さの測定値の平均値を算出し、得られた平均値を移動平均粗さとして出力するように構成されていてもよい。
【0015】
好ましくは、前記移動平均粗さのばらつきが所定値以内となるように、前記移動平均区間長の長さが設定されていてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、非接触且つ非光学方式の簡便な構成で、大きな凹凸で構成された非常に粗い表面の粗さを確実に測定することができる粗さ測定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態による粗さ測定装置の使用態様の一例を示す模式図である。
【図2】被測定面の粗さの程度と粗さ測定用プローブのインピーダンス変化との関係を示す概念図である。
【図3】第1実施形態による粗さ測定装置の構成を示す図であり、(a)は位置検出センサを1つだけ備えた粗さ測定装置の構成を示す図、(b)は位置検出センサを2つ備えた粗さ測定用プローブの構成を示す図である。
【図4】本発明の第1実施形態において、リフトオフ量と粗さ検出部が出力する粗さ測定値との関係を示すグラフである。
【図5】本発明の第2実施形態による粗さ測定装置の使用態様の一例を示す模式図である。
【図6】第3実施形態による粗さ測定装置の構成を示す図である。
【図7】本発明の第3実施形態による粗さ測定装置の粗さ測定値とJISによる触針式表面粗さ測定器の測定結果との関係を示す図であり、(a)はJISによる算術平均粗さRaとの関係、(b)はJISによる十点平均粗さRzJISとの関係、(c)は各測定結果間の相関係数を示すものである。
【図8】本発明の第4実施形態による粗さ測定装置を示す模式図である。
【図9】本発明の第4実施形態による粗さ測定装置を示すブロック図である。
【図10】第4実施形態のセンサ移動手段の一例を示す模式図である。
【図11】表面粗さの測定値と移動平均区間長との関係を示す図である。
【図12】平均粗さの算出結果を、算出に用いる移動平均区間長毎に整理した図である。
【図13】移動平均区間長と平均粗さの標準偏差との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を、図を基に説明する。
(第1実施形態)
図1〜図4を参照しながら、以下に、本発明の第1実施形態による粗さ測定装置1aについて説明する。
例えば、被測定物体2の表面に金属や樹脂などを溶射して皮膜を形成する場合、表面が粗面加工されていると、被測定物体2の表面と皮膜との界面の面積が大きくなるとともに、粗面を構成する大きな凹凸と皮膜との間で機械的なアンカー効果が発揮される。これによって、被測定物体2の表面と皮膜との間で強固な接着が実現される。
【0019】
本実施形態において粗さ測定装置1aは、上述のようにブラスト加工等により意図的に粗面加工された導電物質の皮膜形成前の表面を被測定面3として、被測定面3の粗さである表面粗さを測定する。
図1には、本実施形態の粗さ測定装置1aで粗さ測定を行う被測定物体2が示されている。この被測定物体2は、金属等の導電物質からなり、その上面が大きな凹凸を有する粗い面となるように、ブラスト加工等により粗面化(粗面加工)されている。
【0020】
図3(a)に示す如く、本実施形態による粗さ測定装置1aは、被測定物体2の表面粗さを非接触且つ非光学方式で測定する粗さ測定装置1aである。
粗さ測定装置1aは、被測定物体2の表面上の所定領域を測定エリアとすると共に、測定エリア内の表面粗さに対応する信号を出力する粗さ測定用プローブ(粗さセンサ)4と、粗さ測定用プローブの出力に基づいて、測定エリアの表面粗さの測定値(粗さ測定値)を出力するインピーダンス変化検出部(粗さ検出部)6と、を備えている。
【0021】
これに加えて、粗さ測定装置1aは、被測定物体2の表面と粗さ測定用プローブのセンサ面との離間距離であるリフトオフ量を検出する少なくとも1つの位置検出センサ5と、位置検出センサ5が検出したリフトオフ量を基に、前記インピーダンス変化検出部から出力された表面粗さの測定値を補正するリフトオフ補正部と、インピーダンス変化検出部6から出力された表面粗さの測定値、及びリフトオフ補正部で補正された表面粗さの測定値を表示する表示部8aと、を備えている。
【0022】
粗さ測定用プローブ4(以下、プローブ4という)は、一般的な渦流探傷に用いられるプローブと略同様の構成を有しており、略円柱状の筐体を備え、当該筐体内に、例えば、巻径約10mm程度のコイルを有するものである。コイルは、コイルの巻方向に略垂直な長さ方向が、筐体の長手方向に沿うように配置されている。
このように配置されたコイルに、数100kHzから数MHzの周波数の交流電流を加えて励磁すると、コイルの軸芯方向に沿って、略円柱状の筐体の両端の底面を貫く磁束が発生する。この磁束が貫く両端の底面のうち、一方の底面がセンサ面(図示せず)として用いられ、プローブ4は、このセンサ面が被測定物体2の被測定面3に対向するように配置される。このとき、被測定面3上でセンサ面と対向する領域は、表面粗さが測定される測定エリアとなる。
【0023】
センサ面は、例えば0.1mm程度の所定間隔だけ離れて被測定面3に対向するので、粗さ測定用プローブ4は被測定物体2とは接触しない(非接触)。このように、センサ面が被測定面3から離れていることをリフトオフといい、このときのセンサ面から被測定面3までの距離をリフトオフ量という。
センサ面を貫く磁束によって、導体である被測定面3近傍の磁界が変化すると、その磁界変化を打ち消す磁界が被測定面3近傍で発生し、被測定面3に渦電流が流れる。被測定面3を流れる渦電流は、同じく被測定面3近傍の磁界変化を生み、この渦電流による磁界変化よってコイルのインピーダンスが変化する。
【0024】
図2に示すように、リフトオフ量が一定となるようにプローブ4を配置する。このときの被測定面3が平滑で、傷も凹凸も少ない粗さがほぼゼロといえる状態であれば、被測定面3上にプローブ4を配備した際、コイルのインピーダンス変化は小さいものとなる。
このインピーダンス変化は、被測定面3の粗さが大きくなるにつれて大きくなる。図2では、被測定面3の粗さが「小」のときはインピーダンス変化は「中」となり、被測定面3の粗さが「大」のときはインピーダンス変化も「大」となるとして、表面粗さの程度とインピーダンス変化の程度の関係を定性的に示している。これは、渦電流が流れる2次元の測定エリアに存在する凹凸表面での凹(凸)から凸(凹)にかけての高さ変化についても、見かけ上の変位量として検出するためである。
【0025】
つまり、被測定面3上にプローブ4を配備した際、又はプローブ4を移動させた際のコイルのインピーダンス変化を基にすれば、被測定面3の表面粗さを検出することができる。
図2では、リフトオフ量が一定となるようにプローブ4を配置した。しかし、インピーダンス変化はリフトオフ量の変化にも依存しているので、リフトオフ量を一定に保つことができず変化する場合、リフトオフ量の変化に応じてインピーダンス変化を補正する必要がある。
【0026】
なお、被測定面3が約0.1mmほどの大きさの凹凸で構成されており、且つ粗さ測定用プローブ4のセンサ面がコイルの直径とほぼ等しい約10mmである場合、センサ面に対向する測定エリアには、直径方向に沿って約100個の凹凸が並ぶ。これにより、測定エリアには多数の凹凸が含まれるので、コイルが示すインピーダンス変化は、測定エリアに含まれる凹凸の平均を示していると考えることができる。
【0027】
図3(a)に示すように、位置検出センサ5は、粗さ測定用プローブ4の側部に設けられたレーザ式の変位センサである。位置検出センサ5は、被測定面3に20μm程度のスポット径のレーザを照射して、位置検出センサ5の距離検出面から被測定面3までの距離を検出する。
位置検出センサ5は、この距離検出面とプローブ4のセンサ面が同一面上で揃うように配置されており、これによって、被測定面3からプローブ4のセンサ面までの距離であるリフトオフ量を検出することができる。
【0028】
インピーダンス変化検出部6は、例えばブリッジ回路などで構成されている。インピーダンス変化検出部6は、プローブ4におけるコイルのインピーダンス変化を検出し、検出したインピーダンス変化を表面の凹凸の落差を表す粗さ測定値に変換して、後述する表示部8aに出力するものである。
インピーダンス変化検出部6は、粗さ測定値だけでなく、検出したインピーダンス変化を表示部8aに直接出力してもよい。
【0029】
リフトオフ補正部7aは、例えばパソコンなどで構成されており、位置検出センサ5が検出したリフトオフ量とインピーダンス変化検出部6が検出した粗さ測定値とを基に、受信した粗さ測定値に対してリフトオフ量に基づいた補正をするものである。
図4に例示するように、リフトオフ補正部7aは、リフトオフ量の変化に対する粗さ測定値の変化特性を予め有している。この変化特性は、リフトオフ量を様々に変化させて粗さ測定値を測定し、各リフトオフ量に対する粗さ測定値を得ることで把握することができる。
【0030】
図4において、位置検出センサ5が検出したリフトオフ量が実測値LRであり、測定において基準とするリフトオフ量が設定値LSであった場合、実測値LRに対する粗さ測定値が値VRとなり、設定値LSに対する粗さ測定値が値VSとなる線形関係が示されている。
この線形の変化特性に基づけば、位置検出センサ5が検出したリフトオフ量が実測値LRであるとき、インピーダンス変化検出部6から出力された粗さ測定値を、図4に例示する変化特性を基にして、設定値LSにおける粗さ測定値として補正することができる。
【0031】
リフトオフ補正部7aは、上述のように補正した粗さ測定値や位置検出センサ5が検出したリフトオフ量を、後述する表示部8aに出力する。
表示部8aは、例えばCRTや液晶のモニタである。インピーダンス変化検出部6が出力した粗さ測定値やインピーダンス変化と、リフトオフ補正部7aが出力した粗さ測定値やリフトオフ量をユーザに対して表示する。
【0032】
このように構成された粗さ測定装置1aの動作態様について、以下に説明する。
まず、プローブ4を垂直方向及び水平方向に移動可能となるように被測定面3上で保持する保持部材を用意し、当該保持部材でプローブ4を保持する。その上で、位置検出センサ5が出力するリフトオフ量を参照しつつ保持部材を移動させ、プローブ4のセンサ面が、予め設定したリフトオフ量だけ被測定面3から離れるようにプローブ4を配置する。このとき位置検出センサ5は、数mm程度水平方向に移動して、移動範囲において最小となる距離LM(凹凸のピークとの距離)を見つけ、この距離LMが予め設定したリフトオフ量となるようにプローブ4が配置される。
【0033】
位置検出センサ5は、プローブ4が次の被測定エリア上へ移動する度に上述の動作を繰り返して、リフトオフ量を計測する。
その後、プローブ4のコイルに、所定周波数で一定の大きさの交流電流を供給すると、コイルは、供給された交流電流に応じた磁界を発生する。発生した磁界は被測定面3近傍の磁界を変化させるため、その磁界変化を打ち消す磁界が被測定面3近傍で発生する。これによって、被測定面3の測定エリアに渦電流が流れる。
【0034】
測定エリアを流れる渦電流は、同じく被測定面3近傍の磁界変化を生み、この渦電流による磁界変化の影響を受けてコイルのインピーダンスが変化する。この状態から、リフトオフ量を維持しつつプローブ4を移動させると、被測定面3の状態に応じてコイルのインピーダンスが変化する。
インピーダンス変化検出部6は、プローブ4が出力したインピーダンス変化を受信して粗さ測定値に変換し、粗さ測定値をリフトオフ補正部7aに出力し、インピーダンス変化と粗さ測定値を表示部8aに出力する。
【0035】
リフトオフ補正部7aは、位置検出センサ5が出力したリフトオフ量と上述した粗さ測定値の変化特性とを基にして、インピーダンス変化検出部6から受信した粗さ測定値を補正する。リフトオフ補正部7aは、この補正された粗さ測定値と補正の基としたリフトオフ量を表示部8aに出力する。
表示部8aは、インピーダンス変化検出部6が出力したインピーダンス変化と粗さ測定値を表示し、リフトオフ補正部7aが出力した補正された粗さ測定値とリフトオフ量を表示する。
【0036】
上述の実施形態では、位置検出センサ5を1つだけ用いてリフトオフ量を計測したが、位置検出センサ5は1つに限らなくてもよい。
図3(b)に示すように、プローブ4の直径方向における両側部に2つの位置検出センサ5を備えてもよい。一方の位置検出センサ5が、上述の位置検出センサ5と同様の方法でリフトオフ量を測定し、リフトオフ量L1とする。また、他方の位置検出センサ5が、上述に位置検出センサ5と同様の方法でリフトオフ量を測定し、リフトオフ量L2とする。このように得られたリフトオフ量L1とリフトオフ量L2の平均を算出して、リフトオフ量L3を得る。
【0037】
このように得られたリフトオフ量L3を、位置検出センサ5を1つだけ用いた場合におけるリフトオフ量として扱うことで、プローブ4のリフトオフ量をより正確に計測することができる。
尚、本実施形態では、インピーダンス変化検出部6が出力した粗さ測定値を、位置検出センサ5によって検出されたリフトオフ量を基にして、リフトオフ補正部7aが補正した。しかし、位置検出センサ5がリフトオフ量を計測する度に、プローブ4のリフトオフ量が設定値となるように保持部材を垂直移動させることができれば、常にリフトオフ量を設定値に保つことができるので、粗さ測定値を補正しなくてもよい。
【0038】
リフトオフ補正部7aを用いるか否かは、粗さ測定装置1aの実際の使用態様にあわせて選択すればよい。
上述のように構成された粗さ測定装置1aによって、非接触且つ非光学方式の簡便な構成で、大きな凹凸で構成された非常に粗い表面の粗さを、測定対象表面の湿気の影響を受けることなく、かつ短時間で測定することができる。
(第2実施形態)
図5を参照しながら、本発明の第2実施形態による粗さ測定装置1bについて説明する。
【0039】
本実施形態による粗さ測定装置1bは、第1実施形態による粗さ測定装置1aから、位置検出センサ5とリフトオフ補正部7aを除いた構成となっている。
しかし、本実施形態においても第1実施形態と同じく、リフトオフ量が一定となるように粗さ測定用プローブ4(以下、プローブ4という)を保持する手段が必要である。そこで、本実施形態による粗さ測定装置1bは、プローブ4を保持する接触治具9を備えている。
【0040】
図5に示すように、接触治具9は、正面視で「門型」の部材であり、プローブ4を保持する保持部と、被測定面3に当接して保持部の両端を支持する支持部とからなるものである。
保持部は、被測定面3上に配置された際に、水平方向に延びる角柱状の部位であり被測定面3から所定距離だけ離間するものとなっており、その中央部にプローブ4を保持する保持孔が設けられている。この保持部の両端から垂下状にほぼ同じ四角柱形状の2つの支持部を設けることで、門型の接触治具9が構成されている。この接触治具9において、2つの支持部はほぼ同じ四角柱形状であるので、保持部は、被測定面3に対して略平行となるように支持される。
【0041】
このように構成された接触治具9の保持部にプローブ4を取り付ける。プローブ4は、センサ面が下方に向くように保持部に設けられた保持孔に挿入され、リフトオフ量が設定値(一定値)となる位置で固定される。
このようにプローブ4を取り付けた接触治具9を用いれば、複雑な機構を設けることなく非常に簡便に、被測定面3上の任意の位置で常にリフトオフ量を設定値に保つことができる。
(第3実施形態)
図6及び図7を参照しながら、本発明の第3実施形態による粗さ測定装置1cについて説明する。
【0042】
図6に示すように、本実施形態による粗さ測定装置1cは、第1実施形態による粗さ測定装置1aに、校正用粗さパラメータ記憶部10と、粗さパラメータ補正換算部11とを加えた構成となっていると共に、リフトオフ補正部7bの動作が、第1実施形態におけるリフトオフ補正部7aとは若干異なる。これら校正用粗さパラメータ記憶部10、粗さパラメータ補正換算部11は、パソコンなどで構成されている。
【0043】
リフトオフ補正部7bは、第1実施形態におけるリフトオフ補正部7aと同様に、位置検出センサ5が検出したリフトオフ量とインピーダンス変化検出部6が検出した粗さ測定値とを受信して、リフトオフ量に基づいて受信した粗さ測定値を補正するものである。
リフトオフ補正部7bは、第1実施形態におけるリフトオフ補正部7aと同様に、図4に示すようなリフトオフ量の変化に対する粗さ測定値の変化特性に基づいて、インピーダンス変化検出部6から受信した粗さ測定値を補正する。
【0044】
リフトオフ補正部7bは、上述のように補正した粗さ測定値や位置検出センサ5が検出したリフトオフ量を、後に説明する粗さパラメータ補正換算部11に出力する。
校正用粗さパラメータ記憶部10は、日本工業規格JISで規定された粗さパラメータの値と被測定面の粗さ測定値との相関関係を示す情報を有している。
図7(a)は、触針式表面粗さ測定器または光波干渉式表面粗さ測定器によって得られた粗さパラメータRa(算術平均粗さ)の値と、同一範囲を本実施形態の粗さ測定装置1cによって測定して得られた表面粗さの測定値との相関関係を示すグラフである。この図から明らかなように、粗さパラメータRaと粗さ測定装置1cの粗さ測定値(インピーダンス変化検出部6の出力)とは、ほぼ1次関数で近似できる相関関係がある。
【0045】
図7(b)は、触針式表面粗さ測定器または光波干渉式表面粗さ測定器によって得られた粗さパラメータRzJIS(十点平均粗さ)の値と、同一範囲をプローブ4によって測定して得られた表面粗さの測定値との相関関係を示すグラフである。この図から明らかなように、粗さパラメータRzJISと粗さ測定装置1cの粗さ測定値(インピーダンス変化検出部6の出力)とは、ほぼ1次関数で近似できる相関関係がある。
【0046】
図7(a)、図7(b)に示す関係は、次の手順で求めることができる。
表面粗さの異なる複数の被測定物体(サンプル)を用意し、本実施形態による粗さ測定装置1cのプローブ4を用いて、サンプル表面の粗さを測定する。その後、触針式表面粗さ測定器を用いて、同一のサンプル表面において、プローブ4による測定と同じ測定範囲の粗さを測定する。
【0047】
このように、異なるサンプルに対して、粗さ測定装置1cのプローブ4による測定と、触針式表面粗さ測定器による測定とを繰り返し、両方の測定値に対応する点をプロットすることで、図7(a)、図7(b)のグラフに示す関係を得ることができる。
粗さパラメータ補正換算部11は、図7(a)または図7(b)に示す校正用粗さパラメータ記憶部10から読み込んだ相関関係に基づいて、リフトオフ補正部7bから受信した粗さ測定値をJISで規定された粗さパラメータに変換し、表示部8bに出力する。
【0048】
図7(a)または図7(b)で、1次関数で近似された関係に基づいて、リフトオフ補正部7bから受信した粗さ測定値に対応する粗さパラメータRaやRzJISの値を出力する。
表示部8bは、第1実施形態と同様に、例えばCRTや液晶のモニタである。インピーダンス変化検出部6が出力した粗さ測定値やインピーダンス変化と、粗さパラメータ補正換算部11が出力した粗さパラメータRaやRzJISの値をユーザに対して表示する。
【0049】
図7(c)を参照し、本実施形態による粗さ測定と触針式表面粗さ測定との相関について、考察する。
まず、表面粗さの異なる複数のサンプルに対して、触針式表面粗さ測定器を用い、サンプルの被測定面の縦横2方向に沿って十字方向に粗さパラメータRaを測定した。その後、本実施形態による粗さ測定装置1c(図7(c)ではセンサと示す)を用いて、同一範囲の粗さを測定し粗さ測定値を得た。
【0050】
測定した結果について、触針式表面粗さ測定器による縦方向の粗さパラメータRaと横方向の粗さパラメータRaの平均値と、粗さ測定値とを図7(a)または図7(b)の如くプロットし相関係数を求めた。このときの両者の相関係数は0.93であった。
同様に、縦方向の粗さパラメータRaと粗さ測定値とをプロットしたときの相関係数は0.9であった。横方向の粗さパラメータRaと粗さ測定値とをプロットしたときの相関係数は0.91であった。また、縦方向の粗さパラメータRaと横方向の粗さパラメータRaとをプロットしたときの相関係数は0.88であった。
【0051】
この結果が示すように、粗さパラメータRaの平均を考慮しない場合の相関係数は0.88〜0.91であるのに対して、粗さパラメータRaの平均を考慮した場合の相関係数は0.93と高いものになっている。よって、本実施形態による粗さ測定装置1cは、渦電流が流れる測定エリア内の粗さの平均である2次元の粗さ情報を反映した評価が可能であるといえる。
【0052】
つまり、図7(a)及び図7(b)に示すように1次関数で関係を近似して、粗さ測定値を粗さパラメータRaやRzJISに換算しても、測定エリア内の粗さの平均である2次元情報を正確に反映したものであると見なすことができる。
上述のように構成された本実施形態による粗さ測定装置1cを用いれば、非接触且つ非光学方式の簡便な構成で、大きな凹凸で構成された非常に粗い表面の粗さを測定し、従来、触針式表面粗さ測定器または光波干渉式表面粗さ測定器で測定していた日本工業規格JISによる粗さパラメータの値を得ることができる。
【0053】
上記各実施形態において、粗さ測定用プローブ4として、コイルに代えて、例えば、コンデンサなどを用いた電気容量式のセンサを用いることができる。電気容量式のセンサを用いれば、表面の粗さに応じたキャパシタンス変化を出力することができるので、粗さ測定用プローブ4の機能を実現することが可能である。
(第4実施形態)
図8及び図9を参照しながら、本発明の第4実施形態による粗さ測定装置1dについて説明する。
【0054】
本実施形態による粗さ測定装置1dは、粗さセンサ(粗さ測定用プローブ4)を被測定物体2の表面に沿って移動させるセンサ移動手段12を備えている。そして、このセンサ移動手段12によって移動する粗さセンサ4からの出力に基づいて、被測定物体2における(連続した)複数の測定エリアでの表面粗さの測定値を出力するように粗さ検出部13が構成されていることを特徴としている。
【0055】
このようにセンサ移動手段12を設けなくてはならない理由を、図8の模式図を用いて説明する。
例えば、粗さ測定用プローブ4の測定面が、粗さを測定しようとする表面(被測定面3)の凹凸に比して十分な面積を備えている場合、言い換えれば、測定面の大きさが表面の凹凸構造の大きさに対応したものとなっている場合は、上述した第1〜第3実施形態の粗さ測定装置1a〜1cを用いても十分な粗さの測定は可能である。
【0056】
しかし、測定対象表面の粗さを実際に計測する場合には、粗さ測定用プローブ4の測定面に比して測定エリアの凹凸の方が大きい場合がある。
例えば、図8に示すように周期の大きな凹凸構造が測定対象表面に存在する場合であっても、図の左側の大型のセンサを用いるのであれば測定対象表面の粗さを1回測定するだけでも精確な測定結果が得られる可能性はある。しかし、用いる粗さ測定用プローブ4が図右側に示すような小型のセンサの場合には、1回測定するだけでは十分な測定結果は得られることはなく、複数回に亘って測定を行ってより広範な領域分の測定結果を集める必要がある。
【0057】
そこで、本発明の粗さ測定装置1dでは、粗さ測定用プローブ4(粗さセンサ)を被測定物体2の表面に沿って移動させるセンサ移動手段12を設けて、より広範な領域に対して粗さの測定を可能としているのである。
具体的には、粗さ測定装置1dには、上述したセンサ移動手段12で移動した粗さ測定用プローブ4の移動量を計測する移動量計測手段14が設けられている。そして、粗さ検出部13は、この移動量計測手段14で計測された移動量を基に、被測定物体2における複数の測定エリアでの表面粗さの測定値を移動平均し、その結果を移動平均粗さとして出力するように構成されている。そして、この粗さ検出部13には移動平均を計算するための移動平均粗さ算出部15が設けられており、この移動平均粗さ算出部15では予め入力された移動平均区間長に基づいて移動平均粗さを算出する構成とされている。
【0058】
次に、粗さ測定装置1dを構成する各部材、すなわちセンサ移動手段12、移動量計測手段14、粗さ検出部13及びこの粗さ検出部13に設けられた移動平均粗さ算出部15について、詳しく説明する。
図9及び図10に示すように、センサ移動手段12は、粗さ測定用プローブ4を固定可能なセンサホルダ16と、このセンサホルダ16を左右方向(水平方向)に沿って案内可能なガイド溝17を備えたセンサガイド18とを有している。
【0059】
センサホルダ16は、その表面を水平方向に向けるように配備された板状の本体を有している。このセンサホルダ16の本体の中央には、この本体を上下方向に貫通するように粗さ測定用プローブ4が固定されている。
センサホルダ16本体は、上側と下側とで幅が異なるような段付き構造となっていて、上側は下側に比べて広幅に形成されている。このセンサホルダ16本体の下側はガイド溝17に入り込むことができる幅に形成されているが、この下側より広幅のセンサホルダ16の本体の上側はガイド溝17の幅よりも広幅に形成されており、ガイド溝17に入り込むことができない。それゆえ、センサホルダ16は、センサホルダ16本体の下側のみがガイド溝17内に差し込まれた状態(下方移動を規制された状態)で、このガイド溝17に沿って水平方向に移動する。
【0060】
センサガイド18は、水平方向に長い板状の部材であり、その中央にはガイド溝17が上方から見た場合に左右方向に長い長方形状の開口形状となるように形成されている。このガイド溝17は、センサガイド18の表面に左右方向に向かって伸びており、上述したセンサホルダ16を左右方向に案内できるようになっている。これらのセンサホルダ16とセンサガイド18との間には、粗さ測定用プローブ4(センサホルダ16)の移動量を計測する移動量計測手段14が設けられている。
【0061】
移動量計測手段14は、一般的に磁気スケールと言われるものであって、S極及びN極の磁石(磁性体)とがセンサガイド18の表面に一定間隔毎に格子縞のように繰り返し配備された磁気目盛部19と、センサホルダ16に設けられて磁気目盛部19の磁気目盛を読み取る磁気センサ20(位置検出センサ)とで構成されている。この移動量計測手段14では、磁気センサ20が磁気目盛を読み取ることで粗さ測定用プローブ4の移動量を算出するようになっており、算出された移動量は後述する粗さ検出部13に出力される。
【0062】
なお、移動量計測手段14としては、磁気スケール以外の手段を採用することもできる。例えば、図示は省略するが、移動量計測手段14としては、センサガイド18に直線状のラックギアを設けると共にセンサホルダ16にこのラックギアに噛み合うと小径のピニオンギアを設け、粗さ測定用プローブ4の移動量をピニオンギアの回転に変換し、その軸に取り付けたロータリーエンコーダにより移動量を検出する構成を採用することもできる。
【0063】
粗さ検出部13は、センサ移動手段12によって移動する粗さセンサ4からの出力に基づいて、表面粗さの測定値の移動平均を粗さの結果として出力する構成となっている。具体的にはこの粗さ検出部13には、予め入力されたプログラムに従って信号の処理が可能なパソコン又はプロコンのような機器が用いられ、表面粗さの測定値の移動平均を算出する移動平均粗さ算出部15を備えている。
【0064】
移動平均粗さ算出部15は、被測定物体2における(連続した)複数の測定エリアでの表面粗さの測定値を、予め与えられた移動平均区間長Lごとに移動平均するものである。この移動平均区間長Lは、移動平均を計算する際に平均化に用いられる測定値の範囲を長さ(移動量)として示すものであり、移動平均粗さのばらつきが所定の値以内となるような移動量として設定されている。
【0065】
具体的には、移動平均区間長Lは、この移動平均区間長Lを採用したときの移動平均粗さとの関係を求め、求められた移動平均粗さのバラツキ(標準偏差)が最小となるような値として設定される。なお、この移動平均区間長Lの設定方法については、後ほど詳しく述べる。
次に、粗さ検出部13(移動平均粗さ算出部15)で行われる信号処理、具体的には本発明の粗さ測定方法について説明する。
【0066】
まず、センサ移動手段12を用いて、粗さ測定用プローブ4を一方向(右方向)に移動させつつ粗さの測定を行う。具体的には、図11に示すように、粗さ測定用プローブ4を固定するセンサホルダ16を、ガイド溝17に沿って右方向に向かって水平に移動させ、この粗さ測定用プローブ4が0.5mm移動するたびに粗さの測定を行う。このようにすれば、0.5mmピッチの粗さデータが得られる。
【0067】
次に、このようにして得られた0.5mmピッチの粗さデータを、移動平均区間Lの範囲で移動平均する。すなわち、移動平均区間Lの範囲にある粗さデータの算術平均を行い、移動平均区間の中間点L/2の位置に算術平均値を対応させるようにする。
なお、図11に示すように粗さ測定用プローブ4を右方向にさらに移動させ続ければ、上述した移動平均区間L(及び移動平均区間の基準となる中間点)の範囲も右側に向かって変遷する(ずれる)。そして、この移動平均区間Lの変遷に合わせて、移動平均区間Lに含まれる複数の粗さデータに新たに測定された粗さデータが追加されると共に、このデータの追加に合わせて移動平均区間の左側にあった粗さデータが除外される。つまり、粗さ測定用プローブ4の右方向に向かう移動に対応して、移動平均区間Lに含まれる複数の粗さデータの更新が行われ、移動平均区間Lに含まれる複数の測定データを代表する移動平均粗さの算出結果も変化する。このようにすることで、測定範囲に存在する細かな凹凸変化は排除され、大きな凹凸変化の値が得られるようになる。すなわち、粗さ測定用プローブ4から得られたデータに対してローパスフィルタが施されることとなる。
【0068】
この移動平均の算出に必要な移動平均区間L(言い換えれば、ローパスフィルタのカットオフ域の設定)は、図12に示すようなやり方で設定することができる。
すなわち、図12(a)〜(h)は、移動平均区間の大きさをL=5mm→10mm→15mm→25mm→50mm→100mm→150mm→200mmの順に大きくした際に、各移動平均区間Lに含まれる粗さデータの算術平均の結果(移動平均粗さの結果)を示したものである。
【0069】
図12によれば、移動平均区間Lが5〜50mmと小さい場合には、移動平均粗さのバラツキは大きくなっており、被測定物体2の表面における局部的な凹凸の影響を受けてバラツキが大きくなっていることがわかる。しかし、移動平均区間の大きさを徐々に大きくしていくと移動平均粗さのバラツキが徐々に小さくなり、移動平均区間L≧100mmで移動平均粗さの測定結果はほぼ平坦となる。このことから、本実施形態では移動平均区間Lとして100mm以上の値を採用すれば、被測定物体2の表面における局部的な凹凸の影響を排除した測定エリアの粗さを得ることができると判断される。
【0070】
詳しくは、図13に示すように、評価値Sを用いて移動平均区間Lを設定するとよい。
例えば、移動平均区間として十分に大きな基準長さL0を設定し、その基準長さL0での移動平均の値Rm(L0)を算出する。なお、この基準長さL0は、図例では250mmとしている。
さらに、移動平均区間がXの場合の移動平均粗さR(X)を基に、その標準偏差σを求める。これら得られた値を基に式(1)により評価値Sを求める。
S=σ(R(X))/Rm(L0) ・・・(1)
上述した式(1)を用いて求められた評価値Sを、移動平均区間Xに対する変化として整理すれば、移動平均区間Xが適正かどうかを判断することができる。
【0071】
例えば、図13に示すように、面A、B、Cについては移動平均区間X≧100mmの範囲で評価値σが十分小さくなっており、移動平均区間を100mm以上とすればよいと判断される。一方、面Dについては移動平均区間X≧250mmでも評価値σは小さくならないため、移動平均区間Xとしては少なくとも250mmを選ぶ必要があると考えられる。
【0072】
なお、移動平均区間として十分に大きな基準長さL0を設定することが困難な場合には。Rm(L0)に代えて、式(2)に示すように粗さデータをプローブの全移動区間Laに亘って平均した粗さRm(La)を用いて評価値S’を得ることもできる。
S’=σ(R(X))/Rm(La) ・・・(2)
この評価値S’を上述したSの代わりに用いても、移動平均区間Xが適正かどうかを判断することができる。
【0073】
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、動作条件や測定条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
【0074】
例えば、図6に示すように、本実施形態による粗さ測定装置1cは、位置検出センサ5を1つだけ備えるように構成されていたが、第1実施形態で図3(b)を用いて説明したように、位置検出センサ5を2つ備えるように構成してもよい。位置検出センサ5を2つ備えることで、より正確にリフトオフ量を検出することができる。
また、リフトオフ補正部7aは、被測定物体2の材質によるリフトオフ特性の変化(y切片や傾きの変化)を校正するために、材質別の校正データテーブルを備えるように構成してもよい。被測定物体2の材質を変更する毎に校正データを切り替えることで、より正確にリフトオフ量を検出することができる。
【0075】
また、上述した実施形態において、粗さ測定用プローブ4のコイルの巻径を約10mm程度とした。しかし、コイルの巻径は、所望する測定エリアの大きさに合わせて任意に選択することができる。通常、測定エリアの大きさは、被測定面3の形状や粗さに合わせて選択されるので、大きな測定エリアが必要な場合はコイルの巻径を大きくし、小さな測定エリアが必要な場合は、コイルの巻径を小さくすればよい。
【0076】
なお、コイルとしては、例えばソレノイドコイルや、平面形状のコイルを用いることもできる。平面形状のコイルの場合、非常に幅の狭い溝のような狭隘部に差し込んで用いると、通常のソレノイドコイルでは測定が困難である溝の内側に存在する被測定面の表面粗さを測定することが可能となる。
【符号の説明】
【0077】
1a,1b,1c 粗さ測定装置
2 被測定物体
3 被測定面
4 粗さ測定用プローブ
5 位置検出センサ
6 インピーダンス変化検出部
7a,7b リフトオフ補正部
8a,8b 表示部
9 接触治具
10 校正用粗さパラメータ記憶部
11 粗さパラメータ補正換算部
12 センサ移動手段
13 粗さ検出部
14 移動量計測手段
15 移動平均粗さ算出部
16 センサホルダ
17 ガイド溝
18 センサガイド
19 磁気目盛部
20 磁気センサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性物質の表面の粗さを、光学方式を用いず非接触で定量的に測定する粗さ測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
物体表面に存在している微少な凹凸の状態を、物体の表面粗さとして評価する手法が、従来より存在する。その代表的な手法として、触針式表面粗さ測定、光波干渉式表面粗さ測定、及び電気容量式表面粗さ測定などがある。
触針式表面粗さ測定は、日本工業規格JIS B0601などで規定されているように、触針を被測定面にほぼ垂直となるように接触させて一定方向に移動させ、被測定面の凹凸によって上下に変位する触針の変位量を検出し、検出した変位量から被測定面の表面粗さを求める測定手法である。
【0003】
光波干渉式表面粗さ測定は、JIS B0652などで規定されており、半透明の標準反射面を被測定面の近くに配置して得られる繰り返し反射干渉縞を利用する繰返し干渉方式、及び予め設けられた標準反射面と被測定面で反射した2つの光線の干渉縞を利用する二光線干渉方式がある。いずれかの方式によって、被測定面の表面粗さが求められる。
電気容量式表面粗さ測定としては、例えば特許文献1に示すものがある。
【0004】
特許文献1に開示の電気容量式表面あらさ測定器は、電極面表面に絶縁層を備えた測定電極を有するものであり、前記測定電極の電極面を一定の圧力で被測定物の被測定面に押し当て、前記測定電極の電極面を被測定面との間に形成される空隙により生じる電気容量の変化を電気信号として検出して被測定物の表面あらさを測定する。
この測定電極は、電極基体と、合成樹脂フィルム絶縁膜の一方の面に金属膜を薄膜形成してなる電極形成部材とを有し、前記電極形成部材の合成樹脂フィルム面が被測定物に対する接触面となるように、前記電極形成部材を非導電性の弾性部材を介して前記電極基体に取付けて成ることを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭61−34405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来の表面粗さ測定は、主に、滑らかな面、例えば鏡面加工された面に存在する微少な凹凸を測定することを念頭に置いているものであり、滑らかな被測定面の表面粗さを規定・評価するために用いられている。
しかし現実には、物体表面を意図的に粗面加工し、サンドペーパのような粗い面を形成することはよく行われており、その加工処理工程では、加工面の粗さが所望の程度となっているか否かを評価することが求められる。
【0007】
このような場合、JISで規定された触針式表面粗さ測定で用いられる装置では、例えば、上述のサンドペーパのような、大きな凹凸で構成された非常に粗い面の表面粗さの測定及び評価において、大きな凹凸に触針が追従できなかったり、変位可能な範囲(測定レンジ)を超えてしまうという問題がある。
言うまでもなく、触針式表面粗さ測定は1次元での変位量を検出するものであるので、測定場所によって粗さにばらつきがある非常に粗い表面では、多くの測定回数が必要となり、測定対象全体の表面粗さを評価するには、非常に長時間を要するという問題もある。
【0008】
また、特許文献1に開示の電気容量式表面あらさ測定器のような、電気容量式表面粗さ測定で用いられる装置は、測定対象に接触して表面粗さを測定するので、測定対象表面の凹凸によってセンサ面が劣化及び損傷するという問題がある。
さらに、測定対象表面が水で濡れていると、水の著しく高い誘電率が、測定電極の動作に大きな影響を及ぼしてしまい、正確な表面粗さの測定ができなくなる。ところが、工場などの生産現場においては、湿気などの環境を管理することは難しく、当然に、このような場所での測定は困難となる。
【0009】
上述の光波干渉式表面粗さ測定は、すでに述べた接触式の表面粗さ測定とは異なり、非接触式であるが、意図的に粗面加工された非常に粗い表面に測定光を照射すると、当該表面で測定光が乱反射して散乱してしまい、表面粗さの測定が非常に困難になる。
そこで本発明は、上記問題点に鑑み、非接触且つ非光学方式の簡便な構成で、大きな凹凸で構成された非常に粗い表面の粗さを、測定対象表面の湿気の影響を受けることなく、かつ短時間で測定することができる粗さ測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
本発明の粗さ測定装置は、被測定物体の表面粗さを非接触且つ非光学方式で測定する粗さ測定装置であって、前記被測定物体の表面上の所定領域を測定エリアとすると共に、前記測定エリア内の表面粗さに対応する信号を出力する粗さセンサと、前記粗さセンサの出力に基づいて、前記測定エリアの表面粗さの測定値を出力する粗さ検出部と、を備えることを特徴とする。
【0011】
ここで、前記粗さセンサは、前記測定エリア内の表面粗さの平均値に対応する信号を出力するものであってもよい。
好ましくは、前記粗さセンサは、前記表面粗さに対応するインピーダンス変化を出力する渦電流式のセンサであってもよい。
好ましくは、前記粗さセンサは、前記表面粗さに対応するキャパシタンス変化を出力する電気容量式のセンサであってもよい。
【0012】
ここで、前記被測定物体の表面と前記粗さセンサのセンサ面との離間距離であるリフトオフ量が一定となるように、前記粗さセンサを保持する接触治具を備えていてもよい。
ここで、本発明の粗さ測定装置は、前記被測定物体の表面と前記粗さセンサのセンサ面との離間距離であるリフトオフ量を検出する少なくとも1つの位置検出センサと、前記位置検出センサが検出したリフトオフ量を基に、前記粗さ検出部から出力された表面粗さの測定値を補正するリフトオフ補正部と、を備えていてもよい。
【0013】
また、日本工業規格で規定された粗さパラメータの値と前記表面粗さの測定値との関係を予め有しており、前記粗さ検出部から出力された表面粗さの測定値を、日本工業規格で規定された粗さパラメータの値に換算して出力する粗さパラメータ補正換算部を備えていてもよい。
さらに、本発明の粗さ測定装置は、前記粗さセンサを被測定物体の表面に沿って移動させるセンサ移動手段を備えていて、前記粗さ検出部は、前記センサ移動手段によって移動する粗さセンサからの出力に基づいて、被測定物体における連続した複数の測定エリアでの表面粗さの測定値を出力するように構成されていてもよい。
【0014】
好ましくは、前記粗さ検出部は、被測定物体における複数の測定エリアでの表面粗さの測定値を移動平均し、その結果を出力する移動平均粗さ算出部を備えていてもよい。
好ましくは、前記移動平均粗さ算出部は、移動平均を計算するための移動平均区間長を有しており、前記移動平均粗さ算出部は、移動平均区間長内に存在する複数の表面粗さの測定値の平均値を算出し、得られた平均値を移動平均粗さとして出力するように構成されていてもよい。
【0015】
好ましくは、前記移動平均粗さのばらつきが所定値以内となるように、前記移動平均区間長の長さが設定されていてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、非接触且つ非光学方式の簡便な構成で、大きな凹凸で構成された非常に粗い表面の粗さを確実に測定することができる粗さ測定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態による粗さ測定装置の使用態様の一例を示す模式図である。
【図2】被測定面の粗さの程度と粗さ測定用プローブのインピーダンス変化との関係を示す概念図である。
【図3】第1実施形態による粗さ測定装置の構成を示す図であり、(a)は位置検出センサを1つだけ備えた粗さ測定装置の構成を示す図、(b)は位置検出センサを2つ備えた粗さ測定用プローブの構成を示す図である。
【図4】本発明の第1実施形態において、リフトオフ量と粗さ検出部が出力する粗さ測定値との関係を示すグラフである。
【図5】本発明の第2実施形態による粗さ測定装置の使用態様の一例を示す模式図である。
【図6】第3実施形態による粗さ測定装置の構成を示す図である。
【図7】本発明の第3実施形態による粗さ測定装置の粗さ測定値とJISによる触針式表面粗さ測定器の測定結果との関係を示す図であり、(a)はJISによる算術平均粗さRaとの関係、(b)はJISによる十点平均粗さRzJISとの関係、(c)は各測定結果間の相関係数を示すものである。
【図8】本発明の第4実施形態による粗さ測定装置を示す模式図である。
【図9】本発明の第4実施形態による粗さ測定装置を示すブロック図である。
【図10】第4実施形態のセンサ移動手段の一例を示す模式図である。
【図11】表面粗さの測定値と移動平均区間長との関係を示す図である。
【図12】平均粗さの算出結果を、算出に用いる移動平均区間長毎に整理した図である。
【図13】移動平均区間長と平均粗さの標準偏差との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を、図を基に説明する。
(第1実施形態)
図1〜図4を参照しながら、以下に、本発明の第1実施形態による粗さ測定装置1aについて説明する。
例えば、被測定物体2の表面に金属や樹脂などを溶射して皮膜を形成する場合、表面が粗面加工されていると、被測定物体2の表面と皮膜との界面の面積が大きくなるとともに、粗面を構成する大きな凹凸と皮膜との間で機械的なアンカー効果が発揮される。これによって、被測定物体2の表面と皮膜との間で強固な接着が実現される。
【0019】
本実施形態において粗さ測定装置1aは、上述のようにブラスト加工等により意図的に粗面加工された導電物質の皮膜形成前の表面を被測定面3として、被測定面3の粗さである表面粗さを測定する。
図1には、本実施形態の粗さ測定装置1aで粗さ測定を行う被測定物体2が示されている。この被測定物体2は、金属等の導電物質からなり、その上面が大きな凹凸を有する粗い面となるように、ブラスト加工等により粗面化(粗面加工)されている。
【0020】
図3(a)に示す如く、本実施形態による粗さ測定装置1aは、被測定物体2の表面粗さを非接触且つ非光学方式で測定する粗さ測定装置1aである。
粗さ測定装置1aは、被測定物体2の表面上の所定領域を測定エリアとすると共に、測定エリア内の表面粗さに対応する信号を出力する粗さ測定用プローブ(粗さセンサ)4と、粗さ測定用プローブの出力に基づいて、測定エリアの表面粗さの測定値(粗さ測定値)を出力するインピーダンス変化検出部(粗さ検出部)6と、を備えている。
【0021】
これに加えて、粗さ測定装置1aは、被測定物体2の表面と粗さ測定用プローブのセンサ面との離間距離であるリフトオフ量を検出する少なくとも1つの位置検出センサ5と、位置検出センサ5が検出したリフトオフ量を基に、前記インピーダンス変化検出部から出力された表面粗さの測定値を補正するリフトオフ補正部と、インピーダンス変化検出部6から出力された表面粗さの測定値、及びリフトオフ補正部で補正された表面粗さの測定値を表示する表示部8aと、を備えている。
【0022】
粗さ測定用プローブ4(以下、プローブ4という)は、一般的な渦流探傷に用いられるプローブと略同様の構成を有しており、略円柱状の筐体を備え、当該筐体内に、例えば、巻径約10mm程度のコイルを有するものである。コイルは、コイルの巻方向に略垂直な長さ方向が、筐体の長手方向に沿うように配置されている。
このように配置されたコイルに、数100kHzから数MHzの周波数の交流電流を加えて励磁すると、コイルの軸芯方向に沿って、略円柱状の筐体の両端の底面を貫く磁束が発生する。この磁束が貫く両端の底面のうち、一方の底面がセンサ面(図示せず)として用いられ、プローブ4は、このセンサ面が被測定物体2の被測定面3に対向するように配置される。このとき、被測定面3上でセンサ面と対向する領域は、表面粗さが測定される測定エリアとなる。
【0023】
センサ面は、例えば0.1mm程度の所定間隔だけ離れて被測定面3に対向するので、粗さ測定用プローブ4は被測定物体2とは接触しない(非接触)。このように、センサ面が被測定面3から離れていることをリフトオフといい、このときのセンサ面から被測定面3までの距離をリフトオフ量という。
センサ面を貫く磁束によって、導体である被測定面3近傍の磁界が変化すると、その磁界変化を打ち消す磁界が被測定面3近傍で発生し、被測定面3に渦電流が流れる。被測定面3を流れる渦電流は、同じく被測定面3近傍の磁界変化を生み、この渦電流による磁界変化よってコイルのインピーダンスが変化する。
【0024】
図2に示すように、リフトオフ量が一定となるようにプローブ4を配置する。このときの被測定面3が平滑で、傷も凹凸も少ない粗さがほぼゼロといえる状態であれば、被測定面3上にプローブ4を配備した際、コイルのインピーダンス変化は小さいものとなる。
このインピーダンス変化は、被測定面3の粗さが大きくなるにつれて大きくなる。図2では、被測定面3の粗さが「小」のときはインピーダンス変化は「中」となり、被測定面3の粗さが「大」のときはインピーダンス変化も「大」となるとして、表面粗さの程度とインピーダンス変化の程度の関係を定性的に示している。これは、渦電流が流れる2次元の測定エリアに存在する凹凸表面での凹(凸)から凸(凹)にかけての高さ変化についても、見かけ上の変位量として検出するためである。
【0025】
つまり、被測定面3上にプローブ4を配備した際、又はプローブ4を移動させた際のコイルのインピーダンス変化を基にすれば、被測定面3の表面粗さを検出することができる。
図2では、リフトオフ量が一定となるようにプローブ4を配置した。しかし、インピーダンス変化はリフトオフ量の変化にも依存しているので、リフトオフ量を一定に保つことができず変化する場合、リフトオフ量の変化に応じてインピーダンス変化を補正する必要がある。
【0026】
なお、被測定面3が約0.1mmほどの大きさの凹凸で構成されており、且つ粗さ測定用プローブ4のセンサ面がコイルの直径とほぼ等しい約10mmである場合、センサ面に対向する測定エリアには、直径方向に沿って約100個の凹凸が並ぶ。これにより、測定エリアには多数の凹凸が含まれるので、コイルが示すインピーダンス変化は、測定エリアに含まれる凹凸の平均を示していると考えることができる。
【0027】
図3(a)に示すように、位置検出センサ5は、粗さ測定用プローブ4の側部に設けられたレーザ式の変位センサである。位置検出センサ5は、被測定面3に20μm程度のスポット径のレーザを照射して、位置検出センサ5の距離検出面から被測定面3までの距離を検出する。
位置検出センサ5は、この距離検出面とプローブ4のセンサ面が同一面上で揃うように配置されており、これによって、被測定面3からプローブ4のセンサ面までの距離であるリフトオフ量を検出することができる。
【0028】
インピーダンス変化検出部6は、例えばブリッジ回路などで構成されている。インピーダンス変化検出部6は、プローブ4におけるコイルのインピーダンス変化を検出し、検出したインピーダンス変化を表面の凹凸の落差を表す粗さ測定値に変換して、後述する表示部8aに出力するものである。
インピーダンス変化検出部6は、粗さ測定値だけでなく、検出したインピーダンス変化を表示部8aに直接出力してもよい。
【0029】
リフトオフ補正部7aは、例えばパソコンなどで構成されており、位置検出センサ5が検出したリフトオフ量とインピーダンス変化検出部6が検出した粗さ測定値とを基に、受信した粗さ測定値に対してリフトオフ量に基づいた補正をするものである。
図4に例示するように、リフトオフ補正部7aは、リフトオフ量の変化に対する粗さ測定値の変化特性を予め有している。この変化特性は、リフトオフ量を様々に変化させて粗さ測定値を測定し、各リフトオフ量に対する粗さ測定値を得ることで把握することができる。
【0030】
図4において、位置検出センサ5が検出したリフトオフ量が実測値LRであり、測定において基準とするリフトオフ量が設定値LSであった場合、実測値LRに対する粗さ測定値が値VRとなり、設定値LSに対する粗さ測定値が値VSとなる線形関係が示されている。
この線形の変化特性に基づけば、位置検出センサ5が検出したリフトオフ量が実測値LRであるとき、インピーダンス変化検出部6から出力された粗さ測定値を、図4に例示する変化特性を基にして、設定値LSにおける粗さ測定値として補正することができる。
【0031】
リフトオフ補正部7aは、上述のように補正した粗さ測定値や位置検出センサ5が検出したリフトオフ量を、後述する表示部8aに出力する。
表示部8aは、例えばCRTや液晶のモニタである。インピーダンス変化検出部6が出力した粗さ測定値やインピーダンス変化と、リフトオフ補正部7aが出力した粗さ測定値やリフトオフ量をユーザに対して表示する。
【0032】
このように構成された粗さ測定装置1aの動作態様について、以下に説明する。
まず、プローブ4を垂直方向及び水平方向に移動可能となるように被測定面3上で保持する保持部材を用意し、当該保持部材でプローブ4を保持する。その上で、位置検出センサ5が出力するリフトオフ量を参照しつつ保持部材を移動させ、プローブ4のセンサ面が、予め設定したリフトオフ量だけ被測定面3から離れるようにプローブ4を配置する。このとき位置検出センサ5は、数mm程度水平方向に移動して、移動範囲において最小となる距離LM(凹凸のピークとの距離)を見つけ、この距離LMが予め設定したリフトオフ量となるようにプローブ4が配置される。
【0033】
位置検出センサ5は、プローブ4が次の被測定エリア上へ移動する度に上述の動作を繰り返して、リフトオフ量を計測する。
その後、プローブ4のコイルに、所定周波数で一定の大きさの交流電流を供給すると、コイルは、供給された交流電流に応じた磁界を発生する。発生した磁界は被測定面3近傍の磁界を変化させるため、その磁界変化を打ち消す磁界が被測定面3近傍で発生する。これによって、被測定面3の測定エリアに渦電流が流れる。
【0034】
測定エリアを流れる渦電流は、同じく被測定面3近傍の磁界変化を生み、この渦電流による磁界変化の影響を受けてコイルのインピーダンスが変化する。この状態から、リフトオフ量を維持しつつプローブ4を移動させると、被測定面3の状態に応じてコイルのインピーダンスが変化する。
インピーダンス変化検出部6は、プローブ4が出力したインピーダンス変化を受信して粗さ測定値に変換し、粗さ測定値をリフトオフ補正部7aに出力し、インピーダンス変化と粗さ測定値を表示部8aに出力する。
【0035】
リフトオフ補正部7aは、位置検出センサ5が出力したリフトオフ量と上述した粗さ測定値の変化特性とを基にして、インピーダンス変化検出部6から受信した粗さ測定値を補正する。リフトオフ補正部7aは、この補正された粗さ測定値と補正の基としたリフトオフ量を表示部8aに出力する。
表示部8aは、インピーダンス変化検出部6が出力したインピーダンス変化と粗さ測定値を表示し、リフトオフ補正部7aが出力した補正された粗さ測定値とリフトオフ量を表示する。
【0036】
上述の実施形態では、位置検出センサ5を1つだけ用いてリフトオフ量を計測したが、位置検出センサ5は1つに限らなくてもよい。
図3(b)に示すように、プローブ4の直径方向における両側部に2つの位置検出センサ5を備えてもよい。一方の位置検出センサ5が、上述の位置検出センサ5と同様の方法でリフトオフ量を測定し、リフトオフ量L1とする。また、他方の位置検出センサ5が、上述に位置検出センサ5と同様の方法でリフトオフ量を測定し、リフトオフ量L2とする。このように得られたリフトオフ量L1とリフトオフ量L2の平均を算出して、リフトオフ量L3を得る。
【0037】
このように得られたリフトオフ量L3を、位置検出センサ5を1つだけ用いた場合におけるリフトオフ量として扱うことで、プローブ4のリフトオフ量をより正確に計測することができる。
尚、本実施形態では、インピーダンス変化検出部6が出力した粗さ測定値を、位置検出センサ5によって検出されたリフトオフ量を基にして、リフトオフ補正部7aが補正した。しかし、位置検出センサ5がリフトオフ量を計測する度に、プローブ4のリフトオフ量が設定値となるように保持部材を垂直移動させることができれば、常にリフトオフ量を設定値に保つことができるので、粗さ測定値を補正しなくてもよい。
【0038】
リフトオフ補正部7aを用いるか否かは、粗さ測定装置1aの実際の使用態様にあわせて選択すればよい。
上述のように構成された粗さ測定装置1aによって、非接触且つ非光学方式の簡便な構成で、大きな凹凸で構成された非常に粗い表面の粗さを、測定対象表面の湿気の影響を受けることなく、かつ短時間で測定することができる。
(第2実施形態)
図5を参照しながら、本発明の第2実施形態による粗さ測定装置1bについて説明する。
【0039】
本実施形態による粗さ測定装置1bは、第1実施形態による粗さ測定装置1aから、位置検出センサ5とリフトオフ補正部7aを除いた構成となっている。
しかし、本実施形態においても第1実施形態と同じく、リフトオフ量が一定となるように粗さ測定用プローブ4(以下、プローブ4という)を保持する手段が必要である。そこで、本実施形態による粗さ測定装置1bは、プローブ4を保持する接触治具9を備えている。
【0040】
図5に示すように、接触治具9は、正面視で「門型」の部材であり、プローブ4を保持する保持部と、被測定面3に当接して保持部の両端を支持する支持部とからなるものである。
保持部は、被測定面3上に配置された際に、水平方向に延びる角柱状の部位であり被測定面3から所定距離だけ離間するものとなっており、その中央部にプローブ4を保持する保持孔が設けられている。この保持部の両端から垂下状にほぼ同じ四角柱形状の2つの支持部を設けることで、門型の接触治具9が構成されている。この接触治具9において、2つの支持部はほぼ同じ四角柱形状であるので、保持部は、被測定面3に対して略平行となるように支持される。
【0041】
このように構成された接触治具9の保持部にプローブ4を取り付ける。プローブ4は、センサ面が下方に向くように保持部に設けられた保持孔に挿入され、リフトオフ量が設定値(一定値)となる位置で固定される。
このようにプローブ4を取り付けた接触治具9を用いれば、複雑な機構を設けることなく非常に簡便に、被測定面3上の任意の位置で常にリフトオフ量を設定値に保つことができる。
(第3実施形態)
図6及び図7を参照しながら、本発明の第3実施形態による粗さ測定装置1cについて説明する。
【0042】
図6に示すように、本実施形態による粗さ測定装置1cは、第1実施形態による粗さ測定装置1aに、校正用粗さパラメータ記憶部10と、粗さパラメータ補正換算部11とを加えた構成となっていると共に、リフトオフ補正部7bの動作が、第1実施形態におけるリフトオフ補正部7aとは若干異なる。これら校正用粗さパラメータ記憶部10、粗さパラメータ補正換算部11は、パソコンなどで構成されている。
【0043】
リフトオフ補正部7bは、第1実施形態におけるリフトオフ補正部7aと同様に、位置検出センサ5が検出したリフトオフ量とインピーダンス変化検出部6が検出した粗さ測定値とを受信して、リフトオフ量に基づいて受信した粗さ測定値を補正するものである。
リフトオフ補正部7bは、第1実施形態におけるリフトオフ補正部7aと同様に、図4に示すようなリフトオフ量の変化に対する粗さ測定値の変化特性に基づいて、インピーダンス変化検出部6から受信した粗さ測定値を補正する。
【0044】
リフトオフ補正部7bは、上述のように補正した粗さ測定値や位置検出センサ5が検出したリフトオフ量を、後に説明する粗さパラメータ補正換算部11に出力する。
校正用粗さパラメータ記憶部10は、日本工業規格JISで規定された粗さパラメータの値と被測定面の粗さ測定値との相関関係を示す情報を有している。
図7(a)は、触針式表面粗さ測定器または光波干渉式表面粗さ測定器によって得られた粗さパラメータRa(算術平均粗さ)の値と、同一範囲を本実施形態の粗さ測定装置1cによって測定して得られた表面粗さの測定値との相関関係を示すグラフである。この図から明らかなように、粗さパラメータRaと粗さ測定装置1cの粗さ測定値(インピーダンス変化検出部6の出力)とは、ほぼ1次関数で近似できる相関関係がある。
【0045】
図7(b)は、触針式表面粗さ測定器または光波干渉式表面粗さ測定器によって得られた粗さパラメータRzJIS(十点平均粗さ)の値と、同一範囲をプローブ4によって測定して得られた表面粗さの測定値との相関関係を示すグラフである。この図から明らかなように、粗さパラメータRzJISと粗さ測定装置1cの粗さ測定値(インピーダンス変化検出部6の出力)とは、ほぼ1次関数で近似できる相関関係がある。
【0046】
図7(a)、図7(b)に示す関係は、次の手順で求めることができる。
表面粗さの異なる複数の被測定物体(サンプル)を用意し、本実施形態による粗さ測定装置1cのプローブ4を用いて、サンプル表面の粗さを測定する。その後、触針式表面粗さ測定器を用いて、同一のサンプル表面において、プローブ4による測定と同じ測定範囲の粗さを測定する。
【0047】
このように、異なるサンプルに対して、粗さ測定装置1cのプローブ4による測定と、触針式表面粗さ測定器による測定とを繰り返し、両方の測定値に対応する点をプロットすることで、図7(a)、図7(b)のグラフに示す関係を得ることができる。
粗さパラメータ補正換算部11は、図7(a)または図7(b)に示す校正用粗さパラメータ記憶部10から読み込んだ相関関係に基づいて、リフトオフ補正部7bから受信した粗さ測定値をJISで規定された粗さパラメータに変換し、表示部8bに出力する。
【0048】
図7(a)または図7(b)で、1次関数で近似された関係に基づいて、リフトオフ補正部7bから受信した粗さ測定値に対応する粗さパラメータRaやRzJISの値を出力する。
表示部8bは、第1実施形態と同様に、例えばCRTや液晶のモニタである。インピーダンス変化検出部6が出力した粗さ測定値やインピーダンス変化と、粗さパラメータ補正換算部11が出力した粗さパラメータRaやRzJISの値をユーザに対して表示する。
【0049】
図7(c)を参照し、本実施形態による粗さ測定と触針式表面粗さ測定との相関について、考察する。
まず、表面粗さの異なる複数のサンプルに対して、触針式表面粗さ測定器を用い、サンプルの被測定面の縦横2方向に沿って十字方向に粗さパラメータRaを測定した。その後、本実施形態による粗さ測定装置1c(図7(c)ではセンサと示す)を用いて、同一範囲の粗さを測定し粗さ測定値を得た。
【0050】
測定した結果について、触針式表面粗さ測定器による縦方向の粗さパラメータRaと横方向の粗さパラメータRaの平均値と、粗さ測定値とを図7(a)または図7(b)の如くプロットし相関係数を求めた。このときの両者の相関係数は0.93であった。
同様に、縦方向の粗さパラメータRaと粗さ測定値とをプロットしたときの相関係数は0.9であった。横方向の粗さパラメータRaと粗さ測定値とをプロットしたときの相関係数は0.91であった。また、縦方向の粗さパラメータRaと横方向の粗さパラメータRaとをプロットしたときの相関係数は0.88であった。
【0051】
この結果が示すように、粗さパラメータRaの平均を考慮しない場合の相関係数は0.88〜0.91であるのに対して、粗さパラメータRaの平均を考慮した場合の相関係数は0.93と高いものになっている。よって、本実施形態による粗さ測定装置1cは、渦電流が流れる測定エリア内の粗さの平均である2次元の粗さ情報を反映した評価が可能であるといえる。
【0052】
つまり、図7(a)及び図7(b)に示すように1次関数で関係を近似して、粗さ測定値を粗さパラメータRaやRzJISに換算しても、測定エリア内の粗さの平均である2次元情報を正確に反映したものであると見なすことができる。
上述のように構成された本実施形態による粗さ測定装置1cを用いれば、非接触且つ非光学方式の簡便な構成で、大きな凹凸で構成された非常に粗い表面の粗さを測定し、従来、触針式表面粗さ測定器または光波干渉式表面粗さ測定器で測定していた日本工業規格JISによる粗さパラメータの値を得ることができる。
【0053】
上記各実施形態において、粗さ測定用プローブ4として、コイルに代えて、例えば、コンデンサなどを用いた電気容量式のセンサを用いることができる。電気容量式のセンサを用いれば、表面の粗さに応じたキャパシタンス変化を出力することができるので、粗さ測定用プローブ4の機能を実現することが可能である。
(第4実施形態)
図8及び図9を参照しながら、本発明の第4実施形態による粗さ測定装置1dについて説明する。
【0054】
本実施形態による粗さ測定装置1dは、粗さセンサ(粗さ測定用プローブ4)を被測定物体2の表面に沿って移動させるセンサ移動手段12を備えている。そして、このセンサ移動手段12によって移動する粗さセンサ4からの出力に基づいて、被測定物体2における(連続した)複数の測定エリアでの表面粗さの測定値を出力するように粗さ検出部13が構成されていることを特徴としている。
【0055】
このようにセンサ移動手段12を設けなくてはならない理由を、図8の模式図を用いて説明する。
例えば、粗さ測定用プローブ4の測定面が、粗さを測定しようとする表面(被測定面3)の凹凸に比して十分な面積を備えている場合、言い換えれば、測定面の大きさが表面の凹凸構造の大きさに対応したものとなっている場合は、上述した第1〜第3実施形態の粗さ測定装置1a〜1cを用いても十分な粗さの測定は可能である。
【0056】
しかし、測定対象表面の粗さを実際に計測する場合には、粗さ測定用プローブ4の測定面に比して測定エリアの凹凸の方が大きい場合がある。
例えば、図8に示すように周期の大きな凹凸構造が測定対象表面に存在する場合であっても、図の左側の大型のセンサを用いるのであれば測定対象表面の粗さを1回測定するだけでも精確な測定結果が得られる可能性はある。しかし、用いる粗さ測定用プローブ4が図右側に示すような小型のセンサの場合には、1回測定するだけでは十分な測定結果は得られることはなく、複数回に亘って測定を行ってより広範な領域分の測定結果を集める必要がある。
【0057】
そこで、本発明の粗さ測定装置1dでは、粗さ測定用プローブ4(粗さセンサ)を被測定物体2の表面に沿って移動させるセンサ移動手段12を設けて、より広範な領域に対して粗さの測定を可能としているのである。
具体的には、粗さ測定装置1dには、上述したセンサ移動手段12で移動した粗さ測定用プローブ4の移動量を計測する移動量計測手段14が設けられている。そして、粗さ検出部13は、この移動量計測手段14で計測された移動量を基に、被測定物体2における複数の測定エリアでの表面粗さの測定値を移動平均し、その結果を移動平均粗さとして出力するように構成されている。そして、この粗さ検出部13には移動平均を計算するための移動平均粗さ算出部15が設けられており、この移動平均粗さ算出部15では予め入力された移動平均区間長に基づいて移動平均粗さを算出する構成とされている。
【0058】
次に、粗さ測定装置1dを構成する各部材、すなわちセンサ移動手段12、移動量計測手段14、粗さ検出部13及びこの粗さ検出部13に設けられた移動平均粗さ算出部15について、詳しく説明する。
図9及び図10に示すように、センサ移動手段12は、粗さ測定用プローブ4を固定可能なセンサホルダ16と、このセンサホルダ16を左右方向(水平方向)に沿って案内可能なガイド溝17を備えたセンサガイド18とを有している。
【0059】
センサホルダ16は、その表面を水平方向に向けるように配備された板状の本体を有している。このセンサホルダ16の本体の中央には、この本体を上下方向に貫通するように粗さ測定用プローブ4が固定されている。
センサホルダ16本体は、上側と下側とで幅が異なるような段付き構造となっていて、上側は下側に比べて広幅に形成されている。このセンサホルダ16本体の下側はガイド溝17に入り込むことができる幅に形成されているが、この下側より広幅のセンサホルダ16の本体の上側はガイド溝17の幅よりも広幅に形成されており、ガイド溝17に入り込むことができない。それゆえ、センサホルダ16は、センサホルダ16本体の下側のみがガイド溝17内に差し込まれた状態(下方移動を規制された状態)で、このガイド溝17に沿って水平方向に移動する。
【0060】
センサガイド18は、水平方向に長い板状の部材であり、その中央にはガイド溝17が上方から見た場合に左右方向に長い長方形状の開口形状となるように形成されている。このガイド溝17は、センサガイド18の表面に左右方向に向かって伸びており、上述したセンサホルダ16を左右方向に案内できるようになっている。これらのセンサホルダ16とセンサガイド18との間には、粗さ測定用プローブ4(センサホルダ16)の移動量を計測する移動量計測手段14が設けられている。
【0061】
移動量計測手段14は、一般的に磁気スケールと言われるものであって、S極及びN極の磁石(磁性体)とがセンサガイド18の表面に一定間隔毎に格子縞のように繰り返し配備された磁気目盛部19と、センサホルダ16に設けられて磁気目盛部19の磁気目盛を読み取る磁気センサ20(位置検出センサ)とで構成されている。この移動量計測手段14では、磁気センサ20が磁気目盛を読み取ることで粗さ測定用プローブ4の移動量を算出するようになっており、算出された移動量は後述する粗さ検出部13に出力される。
【0062】
なお、移動量計測手段14としては、磁気スケール以外の手段を採用することもできる。例えば、図示は省略するが、移動量計測手段14としては、センサガイド18に直線状のラックギアを設けると共にセンサホルダ16にこのラックギアに噛み合うと小径のピニオンギアを設け、粗さ測定用プローブ4の移動量をピニオンギアの回転に変換し、その軸に取り付けたロータリーエンコーダにより移動量を検出する構成を採用することもできる。
【0063】
粗さ検出部13は、センサ移動手段12によって移動する粗さセンサ4からの出力に基づいて、表面粗さの測定値の移動平均を粗さの結果として出力する構成となっている。具体的にはこの粗さ検出部13には、予め入力されたプログラムに従って信号の処理が可能なパソコン又はプロコンのような機器が用いられ、表面粗さの測定値の移動平均を算出する移動平均粗さ算出部15を備えている。
【0064】
移動平均粗さ算出部15は、被測定物体2における(連続した)複数の測定エリアでの表面粗さの測定値を、予め与えられた移動平均区間長Lごとに移動平均するものである。この移動平均区間長Lは、移動平均を計算する際に平均化に用いられる測定値の範囲を長さ(移動量)として示すものであり、移動平均粗さのばらつきが所定の値以内となるような移動量として設定されている。
【0065】
具体的には、移動平均区間長Lは、この移動平均区間長Lを採用したときの移動平均粗さとの関係を求め、求められた移動平均粗さのバラツキ(標準偏差)が最小となるような値として設定される。なお、この移動平均区間長Lの設定方法については、後ほど詳しく述べる。
次に、粗さ検出部13(移動平均粗さ算出部15)で行われる信号処理、具体的には本発明の粗さ測定方法について説明する。
【0066】
まず、センサ移動手段12を用いて、粗さ測定用プローブ4を一方向(右方向)に移動させつつ粗さの測定を行う。具体的には、図11に示すように、粗さ測定用プローブ4を固定するセンサホルダ16を、ガイド溝17に沿って右方向に向かって水平に移動させ、この粗さ測定用プローブ4が0.5mm移動するたびに粗さの測定を行う。このようにすれば、0.5mmピッチの粗さデータが得られる。
【0067】
次に、このようにして得られた0.5mmピッチの粗さデータを、移動平均区間Lの範囲で移動平均する。すなわち、移動平均区間Lの範囲にある粗さデータの算術平均を行い、移動平均区間の中間点L/2の位置に算術平均値を対応させるようにする。
なお、図11に示すように粗さ測定用プローブ4を右方向にさらに移動させ続ければ、上述した移動平均区間L(及び移動平均区間の基準となる中間点)の範囲も右側に向かって変遷する(ずれる)。そして、この移動平均区間Lの変遷に合わせて、移動平均区間Lに含まれる複数の粗さデータに新たに測定された粗さデータが追加されると共に、このデータの追加に合わせて移動平均区間の左側にあった粗さデータが除外される。つまり、粗さ測定用プローブ4の右方向に向かう移動に対応して、移動平均区間Lに含まれる複数の粗さデータの更新が行われ、移動平均区間Lに含まれる複数の測定データを代表する移動平均粗さの算出結果も変化する。このようにすることで、測定範囲に存在する細かな凹凸変化は排除され、大きな凹凸変化の値が得られるようになる。すなわち、粗さ測定用プローブ4から得られたデータに対してローパスフィルタが施されることとなる。
【0068】
この移動平均の算出に必要な移動平均区間L(言い換えれば、ローパスフィルタのカットオフ域の設定)は、図12に示すようなやり方で設定することができる。
すなわち、図12(a)〜(h)は、移動平均区間の大きさをL=5mm→10mm→15mm→25mm→50mm→100mm→150mm→200mmの順に大きくした際に、各移動平均区間Lに含まれる粗さデータの算術平均の結果(移動平均粗さの結果)を示したものである。
【0069】
図12によれば、移動平均区間Lが5〜50mmと小さい場合には、移動平均粗さのバラツキは大きくなっており、被測定物体2の表面における局部的な凹凸の影響を受けてバラツキが大きくなっていることがわかる。しかし、移動平均区間の大きさを徐々に大きくしていくと移動平均粗さのバラツキが徐々に小さくなり、移動平均区間L≧100mmで移動平均粗さの測定結果はほぼ平坦となる。このことから、本実施形態では移動平均区間Lとして100mm以上の値を採用すれば、被測定物体2の表面における局部的な凹凸の影響を排除した測定エリアの粗さを得ることができると判断される。
【0070】
詳しくは、図13に示すように、評価値Sを用いて移動平均区間Lを設定するとよい。
例えば、移動平均区間として十分に大きな基準長さL0を設定し、その基準長さL0での移動平均の値Rm(L0)を算出する。なお、この基準長さL0は、図例では250mmとしている。
さらに、移動平均区間がXの場合の移動平均粗さR(X)を基に、その標準偏差σを求める。これら得られた値を基に式(1)により評価値Sを求める。
S=σ(R(X))/Rm(L0) ・・・(1)
上述した式(1)を用いて求められた評価値Sを、移動平均区間Xに対する変化として整理すれば、移動平均区間Xが適正かどうかを判断することができる。
【0071】
例えば、図13に示すように、面A、B、Cについては移動平均区間X≧100mmの範囲で評価値σが十分小さくなっており、移動平均区間を100mm以上とすればよいと判断される。一方、面Dについては移動平均区間X≧250mmでも評価値σは小さくならないため、移動平均区間Xとしては少なくとも250mmを選ぶ必要があると考えられる。
【0072】
なお、移動平均区間として十分に大きな基準長さL0を設定することが困難な場合には。Rm(L0)に代えて、式(2)に示すように粗さデータをプローブの全移動区間Laに亘って平均した粗さRm(La)を用いて評価値S’を得ることもできる。
S’=σ(R(X))/Rm(La) ・・・(2)
この評価値S’を上述したSの代わりに用いても、移動平均区間Xが適正かどうかを判断することができる。
【0073】
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、動作条件や測定条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
【0074】
例えば、図6に示すように、本実施形態による粗さ測定装置1cは、位置検出センサ5を1つだけ備えるように構成されていたが、第1実施形態で図3(b)を用いて説明したように、位置検出センサ5を2つ備えるように構成してもよい。位置検出センサ5を2つ備えることで、より正確にリフトオフ量を検出することができる。
また、リフトオフ補正部7aは、被測定物体2の材質によるリフトオフ特性の変化(y切片や傾きの変化)を校正するために、材質別の校正データテーブルを備えるように構成してもよい。被測定物体2の材質を変更する毎に校正データを切り替えることで、より正確にリフトオフ量を検出することができる。
【0075】
また、上述した実施形態において、粗さ測定用プローブ4のコイルの巻径を約10mm程度とした。しかし、コイルの巻径は、所望する測定エリアの大きさに合わせて任意に選択することができる。通常、測定エリアの大きさは、被測定面3の形状や粗さに合わせて選択されるので、大きな測定エリアが必要な場合はコイルの巻径を大きくし、小さな測定エリアが必要な場合は、コイルの巻径を小さくすればよい。
【0076】
なお、コイルとしては、例えばソレノイドコイルや、平面形状のコイルを用いることもできる。平面形状のコイルの場合、非常に幅の狭い溝のような狭隘部に差し込んで用いると、通常のソレノイドコイルでは測定が困難である溝の内側に存在する被測定面の表面粗さを測定することが可能となる。
【符号の説明】
【0077】
1a,1b,1c 粗さ測定装置
2 被測定物体
3 被測定面
4 粗さ測定用プローブ
5 位置検出センサ
6 インピーダンス変化検出部
7a,7b リフトオフ補正部
8a,8b 表示部
9 接触治具
10 校正用粗さパラメータ記憶部
11 粗さパラメータ補正換算部
12 センサ移動手段
13 粗さ検出部
14 移動量計測手段
15 移動平均粗さ算出部
16 センサホルダ
17 ガイド溝
18 センサガイド
19 磁気目盛部
20 磁気センサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物体の表面粗さを非接触且つ非光学方式で測定する粗さ測定装置であって、
前記被測定物体の表面上の所定領域を測定エリアとすると共に、前記測定エリア内の表面粗さに対応する信号を出力する粗さセンサと、
前記粗さセンサの出力に基づいて、前記測定エリアの表面粗さの測定値を出力する粗さ検出部と、を備えることを特徴とする粗さ測定装置。
【請求項2】
前記粗さセンサは、前記測定エリア内の表面粗さの平均値に対応する信号を出力することを特徴とする請求項1に記載の粗さ測定装置。
【請求項3】
前記粗さセンサは、前記表面粗さに対応するインピーダンス変化を出力する渦電流式のセンサであることを特徴とする請求項1又は2に記載の粗さ測定装置。
【請求項4】
前記粗さセンサは、前記表面粗さに対応するキャパシタンス変化を出力する電気容量式のセンサであることを特徴とする請求項1又は2に記載の粗さ測定装置。
【請求項5】
前記被測定物体の表面と前記粗さセンサのセンサ面との離間距離であるリフトオフ量が一定となるように、前記粗さセンサを保持する接触治具を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の粗さ測定装置。
【請求項6】
前記被測定物体の表面と前記粗さセンサのセンサ面との離間距離であるリフトオフ量を検出する少なくとも1つの位置検出センサと、
前記位置検出センサが検出したリフトオフ量を基に、前記粗さ検出部から出力された表面粗さの測定値を補正するリフトオフ補正部と、を備えていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の粗さ測定装置。
【請求項7】
日本工業規格で規定された粗さパラメータの値と前記表面粗さの測定値との関係を予め有しており、前記粗さ検出部から出力された表面粗さの測定値を、日本工業規格で規定された粗さパラメータの値に換算して出力する粗さパラメータ補正換算部を備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の粗さ測定装置。
【請求項8】
前記粗さセンサを被測定物体の表面に沿って移動させるセンサ移動手段を備えていて、
前記粗さ検出部は、前記センサ移動手段によって移動する粗さセンサからの出力に基づいて、被測定物体における連続した複数の測定エリアでの表面粗さの測定値を出力するように構成されている
ことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の粗さ測定装置。
【請求項9】
前記粗さ検出部は、被測定物体における複数の測定エリアでの表面粗さの測定値を移動平均し、その結果を出力する移動平均粗さ算出部を備えていることを特徴とする請求項8に記載の粗さ測定装置。
【請求項10】
前記移動平均粗さ算出部は、移動平均を計算するための移動平均区間長を有しており、
前記移動平均粗さ算出部は、移動平均区間長内に存在する複数の表面粗さの測定値の平均値を算出し、得られた平均値を移動平均粗さとして出力するように構成されている
ことを特徴とする請求項9に記載の粗さ測定装置。
【請求項11】
前記移動平均粗さのばらつきが所定値以内となるように、前記移動平均区間長の長さが設定されていることを特徴とする請求項10に記載の粗さ測定装置。
【請求項1】
被測定物体の表面粗さを非接触且つ非光学方式で測定する粗さ測定装置であって、
前記被測定物体の表面上の所定領域を測定エリアとすると共に、前記測定エリア内の表面粗さに対応する信号を出力する粗さセンサと、
前記粗さセンサの出力に基づいて、前記測定エリアの表面粗さの測定値を出力する粗さ検出部と、を備えることを特徴とする粗さ測定装置。
【請求項2】
前記粗さセンサは、前記測定エリア内の表面粗さの平均値に対応する信号を出力することを特徴とする請求項1に記載の粗さ測定装置。
【請求項3】
前記粗さセンサは、前記表面粗さに対応するインピーダンス変化を出力する渦電流式のセンサであることを特徴とする請求項1又は2に記載の粗さ測定装置。
【請求項4】
前記粗さセンサは、前記表面粗さに対応するキャパシタンス変化を出力する電気容量式のセンサであることを特徴とする請求項1又は2に記載の粗さ測定装置。
【請求項5】
前記被測定物体の表面と前記粗さセンサのセンサ面との離間距離であるリフトオフ量が一定となるように、前記粗さセンサを保持する接触治具を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の粗さ測定装置。
【請求項6】
前記被測定物体の表面と前記粗さセンサのセンサ面との離間距離であるリフトオフ量を検出する少なくとも1つの位置検出センサと、
前記位置検出センサが検出したリフトオフ量を基に、前記粗さ検出部から出力された表面粗さの測定値を補正するリフトオフ補正部と、を備えていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の粗さ測定装置。
【請求項7】
日本工業規格で規定された粗さパラメータの値と前記表面粗さの測定値との関係を予め有しており、前記粗さ検出部から出力された表面粗さの測定値を、日本工業規格で規定された粗さパラメータの値に換算して出力する粗さパラメータ補正換算部を備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の粗さ測定装置。
【請求項8】
前記粗さセンサを被測定物体の表面に沿って移動させるセンサ移動手段を備えていて、
前記粗さ検出部は、前記センサ移動手段によって移動する粗さセンサからの出力に基づいて、被測定物体における連続した複数の測定エリアでの表面粗さの測定値を出力するように構成されている
ことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の粗さ測定装置。
【請求項9】
前記粗さ検出部は、被測定物体における複数の測定エリアでの表面粗さの測定値を移動平均し、その結果を出力する移動平均粗さ算出部を備えていることを特徴とする請求項8に記載の粗さ測定装置。
【請求項10】
前記移動平均粗さ算出部は、移動平均を計算するための移動平均区間長を有しており、
前記移動平均粗さ算出部は、移動平均区間長内に存在する複数の表面粗さの測定値の平均値を算出し、得られた平均値を移動平均粗さとして出力するように構成されている
ことを特徴とする請求項9に記載の粗さ測定装置。
【請求項11】
前記移動平均粗さのばらつきが所定値以内となるように、前記移動平均区間長の長さが設定されていることを特徴とする請求項10に記載の粗さ測定装置。
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図12】
【図13】
【図1】
【図5】
【図10】
【図11】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図12】
【図13】
【図1】
【図5】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−137473(P2012−137473A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−135315(P2011−135315)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]