説明

精子運動性を阻害するための形質膜カルシウムATPアーゼ(PMCA)インヒビターの使用

本発明は、避妊効果を達成するために精子運動性を阻害するための、形質膜カルシウムATPアーゼ(PMCA)インヒビターの使用に関する。本発明はさらに、1以上のPMCAインヒビターを含む避妊剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、避妊効果を達成するために精子運動性を阻害するための、形質膜カルシウムATPアーゼ(PMCA)インヒビターの使用に関する。本発明はさらに、1以上のPMCAインヒビターを含む避妊剤に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の分野
社会的、地理的および宗教的/倫理的条件に依存して、以下の異なる避妊方法が、現在、様々な信頼度をもって用いられている:1)機械的または化学的作用因子を使用しない避妊(「自然方法」);2)コンドーム、閉鎖性ペッサリーおよび膣用ペッサリーの使用を含む、障害式方法による避妊;3)殺精子剤のような局所的に作用する物質による避妊;4)所定の計画に従って摂取されるエストロゲンおよび/またはプロゲステロンを含む製剤の定期的な摂取による女性におけるホルモン避妊;5)子宮内ペッサリーの使用による子宮内避妊、ならびに6)男性および/または女性の外科的不妊化。
【0003】
上記技術のうち、ホルモン避妊が最もよく用いられている方法である。この方法は確実に妊娠を防ぎ、ほとんどの場合、その避妊効果は可逆性である。すなわち、子どもを持つことを望む人々について、そのような避妊製剤の使用を中止した後は、大多数の場合において妊娠が起こる。しかしながら、残念なことに、ホルモン避妊の多数の絶対的および相対的禁忌症が知られている。ホルモン避妊の絶対的禁忌症としては、血栓症、塞栓症、血栓塞栓性疾患、急性および進行性肝疾患、ホルモン依存性悪性腫瘍、胆汁分泌疾患、鎌状赤血球貧血、血管損傷を含む真性糖尿病、治療困難な高血圧症、ならびに他の臨床症状が挙げられる。相対的禁忌症の例としては、腎臓損傷、心不全、レイノー症候群、末梢血循環疾患、浮腫、ニコチン摂取に関連する障害、および他の関連疾患が挙げられる。
【0004】
ホルモン避妊と比較して、「自然避妊」方法には禁忌症はない。しかし、それはたいてい信頼できず、また、受け入れがたいほど高い失敗率を特徴とする。
【0005】
ペッサリーおよび不妊化のような機械的方法もまた、より高い合併症発生率のため(ペッサリー)、またはほとんど不可逆性であるため(不妊化)、少なからぬ欠点を有する。
【0006】
要約すれば、従来公知の避妊方法の多くは、少なからぬ欠点を被る。さらなる欠点は、一般社会の意見では避妊は両方のパートナーにより共有される中心的な責任であるのに、これまで最も信頼性がありかつ一般的に用いられている避妊方法であるホルモン避妊が女性によってのみ使用可能であるという事実である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
それゆえに、本発明は、女性と男性のどちらによっても使用可能であり、経口的もしくは非経口的に投与される製剤としての、または殺精子物質としての新規な非ホルモン避妊剤を提供する課題に基づいている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の詳細な説明
本発明は、精子運動性を抑制するための形質膜カルシウムATPアーゼ(PMCA)インヒビターの使用に関し、それにより避妊効果が達成される。
【0009】
さらに、本発明は、1以上のPMCAインヒビターを含む避妊剤に向けられる。これらの避妊剤はまた、PMCAインヒビターに加えてさらなる従来の避妊剤を含んでいてもよい。
【0010】
本発明の他の実施形態は、形質膜カルシウムATPアーゼインヒビターが哺乳動物に投与される避妊のための方法に関する。
【0011】
本発明によれば、形質膜カルシウムATPアーゼの1以上のインヒビターが、避妊効果を達成するために用いられる。ATPアーゼ酵素は、カルシウムをサイトゾルから出して、細胞外環境へ輸送する。さらに、ATPアーゼ酵素は、SERCA ATPアーゼおよびナトリウム/K+ポンプを含む他のATPアーゼとの相同性を示す。PMCAは、4つの異なる遺伝子(PMCA1〜4)によりコードされている;一次遺伝子産物の選択的スプライシングによるPMCAのいくつかのアイソフォームの存在が、研究により実証されている。PMCA遺伝子産物1および4は、組織の大部分において転写されるが、PMCA遺伝子産物2および3は、より組織特異的な様式で発現される。これらの遺伝子産物についてのPMCAスプライスバリアントの転写もまた、組織特異的である。このように、例えば、膵臓のβ細胞は4bアイソフォームのみを発現しているが、αおよびγ細胞は、4aおよび4bアイソフォームの両方を発現している。異なるスプライスバリアントがカルシウムおよびカルモジュリンへの異なる親和性を有することも、証明可能であった。
【0012】
本発明は、マウスPMCAのアイソフォーム4を欠損している雄マウス(「ノックアウト」マウスとして知られている)が不妊になるという観察に基づいている。その動物は、他の点では、生存して正常に発育する。さらに、これらの動物の場合において、勃起障害は観察されない。しかしながら、驚くべきことに、これらのPMCA4−「ノックアウト」マウスについての精子の運動性が卵細胞の受精が起こることができないほどまでに制限され、その結果、その動物は繁殖することができないことが、実証可能であった。それゆえ、これらの精細胞に限定された高度に特異的な効果がある。
【0013】
PMCA4はまた、ヒト精子で発現している。PMCA4−「ノックアウト」マウスをもって得られた結果は、ヒト精子の運動性が、女性の卵細胞の受精がもはや起こり得ないほどまでに、PMCAインヒビターを用いて制限されうることを示唆している。
【0014】
精子機能に対するPMCAの特異的な生理学的重要性は、以前には知られていなかった。さらに、今まで、PMCAインヒビターの使用が精子の運動性を抑制するという指摘はなかった。したがって、避妊効果を達成するために精子運動性を抑制するためのPMCAインヒビターの使用が、ここで初めて実証される。
【0015】
避妊活性、すなわち、精子の卵細胞との融合の阻止は、PMCAインヒビターによる精子運動性の抑制に基づいており、それにより精子がもはや卵子を受精させることができない状況へ導かれる。
【0016】
本発明により、開示されたPMCAインヒビターの使用を通して避妊効果が達成される。
【0017】
本発明の好ましい実施形態では、前記インヒビターは、形質膜カルシウムATPアーゼすなわちPMCAの4つのアイソフォームの1つに対するものである。この点において、PMCA4アイソフォームに関するインヒビターが、特に好ましい。
【0018】
従来から知られているPMCAインヒビターは、2つの主なカテゴリー、すなわち、細胞内で作用するインヒビター、および細胞外で作用するインヒビター、に分類されうる。本発明では、単独または組み合わせでの、細胞外または細胞内のインヒビターのどちらの使用も記載されている。この点において、細胞内インヒビターまたは細胞外インヒビターのいずれかを別々に含む組み合わせ、および細胞外インヒビターと共に細胞内インヒビターを含む組み合わせ、を用いることができる
【0019】
本発明における使用に適した公知のPMCAインヒビターとしては、5−(および−6)−カルボキシエオシンジアセテートスクシニミジルエステル(5-(and-6)-carboxyeosindiacetate succinimidyl ester)(PMCAの細胞膜インヒビター)、細胞外でPMCAに作用するペプチドであるカロキシン−2A1(Caloxin-2A1)、およびポリカチオンであるスペルミン(spermin)が挙げられる。
【0020】
本発明の1つの実施形態においては、5−(および−6)−カルボキシエオシンジアセテートスクシニミジルエステル(150347−60−7/2,5−ピロリジンジオン,1−[[[3’,6’−ビス(アセチルオキシ)−2’,4’,5’,7’−テトラブロモスピロ[イソベンゾフラン−1(3H),9’−[9H]キサンテン]−5(または6)−イル]カルボニル]オキシ](2,5-pyrrolidinedione, 1-[[[3',6'-bis(acetyloxy)-2',4',5',7'-tetrabromospiro [isobenzofuran-1(3H),9'-[9H]xanthene]-5(or 6)-yl]carbonyl]oxy]))、またはその誘導体が、精子におけるPMCAのインヒビターとして用いられる。
【0021】
対応するエオシン(eosin)誘導体およびフルオレセイン(fluorescein)誘導体(Gatto, C.およびMilanik, M.A. (1993)、American Journal of Physiology 264、C1577-1586)は、このインヒビターの特に好ましい誘導体である。
【0022】
例えば、5−(および−6)−カルボキシフルオレセインスクシニミジルエステル(5-(and-6)-carboxyfluorescein succinimidyl ester)(5(6)−FAM)のような5−(および−6)−カルボキシエオシンジアセテートスクシニミジルエステルに対応するエステル化合物だけでなく、細胞膜通過インヒビターである5−(および−6)−カルボキシエオシンジアセテートスクシニミジルエステルの広範囲のエオシン、フルオレセインおよびフルオレシン誘導体、ならびにそれらの塩もすでに存在している。これらの誘導体の使用もまた、本発明の好ましい実施形態である。
【0023】
本発明の他の実施形態は、PMCAインヒビターであるカロキシン2a1(Holmes, M.E. et al.、(2003)、Cell Calcium 33、241-245;Chaudary, J. et al.、(2001)、Am. J. Physiol. Cell Physiol. 280、C1027-1030)の使用に関する。
【0024】
カロキシン2a1はアミノ酸配列VSNSNWPSFPSSGGGをもつポリペプチドであり、PMCAに関して細胞外様式で作用する。このオリゴペプチドがPMCAに細胞外で結合し、PMCAの機能に阻害性の影響を及ぼすことをインビトロで示すことが可能であった。
【0025】
本発明の好ましい実施形態においては、カロキシン2a1の誘導体が、精子運動性を阻害するために用いられる。この点において、「カロキシン2a1の変異体」という表現は、該ペプチドの化学修飾された変異体を表し、すなわち、環状およびすべての他の誘導体を含む。カロキシン2a1を構成するアミノ酸は、化学修飾の様々な機会を提供する。例えば、多数のセリン(S)のOH基または2個のアスパラギン残基(N)のアミド基は、該ペプチドの親和性を調節するための適切な起始点を示し、それを通して、PMCA4への結合親和性もまた調節される。これにより、精細胞におけるPMCA4への阻害特性に影響を与え、かつ増強することができる。
【0026】
カロキシン2a1の変異体には、そのポリペプチドのアミノ酸配列の挿入、欠失および置換変異体も含まれる。この点において、挿入変異体は、配列内の単一または複数のアミノ酸残基の挿入に加えて、アミノ末端および/またはカルボキシル末端の融合を含む。典型的には、挿入変異体は、カロキシン2a1のアミノ酸配列への1個〜14個、好ましくは1個〜7個のアミノ酸の付加を含む。欠失変異体は、カロキシン2a1オリゴペプチドからの1個以上のアミノ酸残基の除去により特徴づけられる。典型的には、2個〜6個より多くない残基が除去される。置換変異体は、カロキシン2a1配列の少なくとも1個のアミノ酸が除去されて、異なるアミノ酸と交換された変異体を特徴づける。一般的に、アミノ酸は、疎水性、電気陰性度、側鎖などに関して類似した性質をもつアミノ酸と交換される。典型的には、該変異体は、修飾されていないカロキシン2a1と同じ性質を示す。
【0027】
他の実施形態において、本発明は、精子運動性を阻害するための、PMCAインヒビターであるスペルミン(Palacios, J. et al.、(2003)、Biochem. Biophys. Acta 1611、197-203)の使用に向けられる。好ましい実施形態において、本発明は、スペルミン二水和物およびスペルミン四塩酸塩を含むスペルミン誘導体の使用に向けられる。
【0028】
すべての3つの起始点物質は、PMCAの結合親和性に関係する阻害特性を調節および増強するために化学修飾の様々な可能性を提供する。
【0029】
インヒビター誘導体の精子の運動性への阻害効果がなお維持されるとの条件で、開示されたインヒビターのすべての化学修飾が考えられうる。精子の運動性の測定については実施例3に記載されている。
【0030】
PMCAインヒビターは、様々な方法で投与されうる。本発明の1つの実施形態において、インヒビターは、経口的に、非経口的に、もしくは機械的避妊手段上のコーティングとして、または、クリーム、ゲル、もしくは油の形状をもって投与される。この点において、例えば、コンドームまたは他の機械的避妊手段のPMCAインヒビターでのコーティングが特に好ましい。
【0031】
PMCAインヒビターの投与期間は調整可能である。本発明の1つの実施形態は、単回使用の避妊のためにインヒビターを用いることに向けられる。しかしながら、インヒビターはまた、反復的または常用的に投与されうる。PMCAインヒビターの用量は、従来から知られている方法を用いることにより、当業者により容易に決定されうる。
【0032】
インヒビターは、哺乳動物、好ましくはヒトに投与されうる。好ましい実施形態において、PMCAインヒビターはヒト男性に投与される。それゆえに、避妊のためのPMCAインヒビターのヒト男性への投与は、ここに記載されているように、全く新規な原理に基づいている。生理学的効果は、精子の発生に介入せず、それゆえに、それはまた、永久的不妊性、身体の「女性化」および他の望ましくない副作用のような男性用の公知ホルモン製剤の副作用をもたない。
【0033】
他の好ましい実施形態において、PMCAインヒビターは女性に投与される。PMCAインヒビターが子宮頚部の粘液にまたは子宮に蓄積している場合、精子が膣領域に入るとすぐにその運動性が阻害され、その結果、避妊効果が達成される。
【0034】
好ましくは、PMCAインヒビターは、最大限可能な阻害効果を達成するために、男性と女性の両方へ投与される。
【0035】
さらに、本発明はまた、薬学的に許容される担体と組み合わせてPMCAインヒビターを含む避妊剤に向けられる。1つの好ましい実施形態において、該避妊剤は、薬学的に許容される担体と組み合わせて、1つのPMCAインヒビターだけでなく、少なくとも2つのPMCAインヒビターの組み合わせを含む。
【0036】
公知の固体もしくは液体の担体または希釈剤、および慣習的である薬学的−技術的補助物質が、必要とされる使用の類型に適した用量での薬学的に許容される担体として適している。
【0037】
本発明の避妊剤は、また、従来の避妊手段と組み合わせて用いることができ、別の避妊用組成物を得ることができる。この点において、前記従来の避妊手段は、コンドーム、ペッサリー、避妊用発泡剤などからなる群より選択されうる。
【0038】
このように、例えば、本発明の避妊剤は、改善された避妊効果を有する改善された従来の避妊手段を得るために、コンドームをコーティングするのに用いることができる。精子が、このような様式でコーティングされた避妊剤と接触した場合には、精子運動性が明確に阻害され、避妊効果が達成される。
【0039】
さらに、本発明はまた、PMCAの分子研究、特にPMCAをコードする遺伝子に向けられる。これはまた、男性において不妊症を診断することを目的として、様々なPMCAアイソフォームおよびスプライスバリアントの特徴付け、加えて、突然変異および他の修飾、例えば翻訳後変化、を含む。
【0040】
不妊症(すなわち、子どもを望む気持ちおよび正常な性交にもかかわらず子どものいないこと)は、すべての夫婦の約15%に存在している。これらの場合の約40%において、不妊症の原因は男性パートナーに存在する。この疾患の診断はまだ難しく、特に、根底にある可能性のある遺伝的欠陥は、最小限の細部しか知られていない。
【0041】
PMCA4アイソフォームはヒト精細胞においても発現しているので、マウスモデルとの類推により、ヒトの器官においても同様に、PMCA4に影響を及ぼす遺伝子欠陥が男性の受精能力に影響をもたらすと考えるのが妥当である。それゆえに、本発明の実施形態は、男性不妊症がPMCA mRNAの発現の欠陥によるのか、それともPMCA4遺伝子における欠陥によるのかを調べることを含む診断方法に向けられる。
【0042】
PMCA4遺伝子および他のPMCAアイソフォームをコードする遺伝子における、発現レベルならびに可能性のある突然変異または多型は、PCRおよび場合によりそれに続くシーケンシング、ELISA、免疫組織学的検出、ウェスタンブロット、ならびにPMCA活性測定を用いて、射精液試料中の精細胞において測定されうる。この点において、PMCA活性の測定は、公知の方法を用いて遂行される。これらの研究からの結果は、男性不妊症を治療するための適切な治療法を開発する最初の基盤を形成しうる。
【0043】
以下の実施例は、単に本発明を例証することのみを意図するものであり、本発明の保護の範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0044】
PMCA4欠損マウス系統の確立
【0045】
PMCA4遺伝子が相同組換えにより欠失したマウス系統を、2つの異なる(ヘテロ接合的PMCA4欠損性の)胚幹細胞クローンを用いて調製した。エキソン3の部分と共に、エキソン2を含む遺伝子の領域を除去した(図2)。さらに、ネオマイシン耐性カセットを挿入することにより、複数の終止コドンをすべての3つの読み枠へ挿入し、異常なタンパク質(「リードスルー産物」または「スプライシング」変異体)の可能性のある発現を排除した。合計14匹の雄および6匹の雌のキメラを作製した。雄の動物をC57B1/6動物と交配した。いくつかのキメラマウスの場合において、破壊されたPMCA4対立遺伝子の生殖系列への組み込みを実証することができた。作製された雄PMCA欠損動物は不妊であり、作製された雌マウスは正常な受精能力を示した。
【0046】
マウスおよびヒト精子におけるPMCA4の発現分析
【0047】
マウスおよびヒト精子におけるPMCA4の発現を、免疫組織化学的技術を用いて示した。結果を図1に示す。図1のパートAは、マウス精細胞が、アクロソームおよび尾部においてPMCA4の強い発現を表していることを示している(赤色、第二画像)。単離された精子の位相差画像が、比較を目的として提供されている。2つの右側の画像は、2つの精細胞の位相差写真と比較される二次抗体のみの陰性対照を示す。図1のパートBは、ヒト精細胞が、マウス精細胞と同様に、アクロソームおよび尾部の両方においてPMCA4を発現していることを示す。ただし、PMCA4を表す色付きの図のみが、例としてここに示されている。
【0048】
PMCAインヒビターによる精子運動性の抑制
【0049】
精子機能の阻害、すなわち精子運動性の阻害を、以下のようにして測定した:
【0050】
PMCA4欠損雄マウスを屠殺し、それぞれの副睾丸を調製した。これらの組織を、2mlの精子調製培地(MediCult社(Mollehaven 12, 4040 Jyllinge, Denmark)の「精子調製培地」で、以下のものを含む:アールの平衡塩類溶液、ピルビン酸ナトリウム、合成代用血清、HEPES[エタンスルホン酸ヒドロキシ−エチル−ピペラジン]、重炭酸ナトリウム、ヒト血清アルブミン、ペニシリン 50,000IU/リットルおよびストレプトマイシン 50mg/リットル;Kahn, J.A.、Human Reproduction 8/9、p1414-1419、1993;Lahteenmaki, A.、Human Reproduction 10/1、p142-147、1995)へ置き、その後、滅菌した解剖用メスを用いて切開した。すべての機能している精子を、15分間、副睾丸から泳ぎ出るようにさせておいた。これらの精子を含む上清を取り出し、各濃度の5−および6−カルボキシエオシンジアセテートスクシニミジルエステル(CE)500μlと混合した。この段階後、精子を37℃で1時間インキュベートした。CEは、この時間中、精子へと拡散する;該エステルは、細胞内レベルにおいて加水分解される。その後、残った運動性精子を、非運動性精子と関連させて数えた。以下の結果が得られた:
【表1】

【0051】
精子運動性の阻害について、medeaLAB社(Erlangen、Germany)のCASAシステム4.2を用いて自動的に評価した。この点において、精子の調製およびインヒビターの添加は、上記のように行った。以下の3つの群について、CASAシステムを用いて検討した:
【0052】
A群(未処理、正常な精子、調製後45分間、37℃);B群(PMCA欠損精子、調製後45分間、37℃);C群(正常な精子、調製後45分間、37℃、そのうちの30分間は細胞内インヒビターである5−および6−CEの20μMと接触させた)。
【0053】
以下の結果が得られた:
A群:前進運動性73%、局所的運動性または非運動性27%、n=254精子;B群:前進運動性14%、局所的運動性または非運動性86%、n=198、およびC群:前進運動性22%、局所的運動性または非運動性78%、n=217。
【0054】
上記の自動化実験プロトコールについて、(手作業の計数と比較して)インキュベーション時間は短縮され(1時間に代わって30分間のみ)、ソフトウェアはまた、試料に存在する意味のない物体を記録したが、そのような物体は手作業の計数で容易に除外することができた。
【0055】
本発明は、ここに含まれる図により例示される。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】精子におけるPMCA4の発現。A.マウス精細胞は、アクロソームおよび尾部においてPMCA4の強い発現を示している(赤色、第二画像)。単離された精子の位相差画像は、比較を目的として提供されている。2つの右側の画像は、2つの精細胞の位相差写真と比較される二次抗体のみの陰性対照を示す。B.マウス精細胞と同様に、ヒト精細胞もまた、アクロソームおよび尾部においてPMCA4を発現している。PMCA4の染色は、例としてここに示されている。
【図2】PMCA4欠損マウスにおける不妊性。A.適切な戦略により、マウスにおいてPMCA4遺伝子を除去することができた。1つの完全なエキソンおよびもう1つのエキソンの部分を、「ターゲティングベクター」として知られているものの助けを借りて、相同組換えを用いることにより除去した。B.正常なマウス(「wt」)では精子においてPMCA4を強く発現するのに対して、遺伝子操作によって作製されたPMCA4欠損マウス(「ko」)では遺伝子発現が完全に損失していた。MはRT−PCR産物のサイズを決定するためのマーカー。C.遺伝子操作後に得られた雄PMCA4欠損動物(ko)は、正常な雌と交配されようが、同じくPMCA4欠損である雌と交配されようが、にかかわらず、不妊であることが見出された。
【図3】PMCAインヒビターの作用様式の概略図。細胞外様式でPMCA(白色で表示)に結合するインヒビター(灰色で表示)は直接的に作用するが、細胞内で作用する他の物質(黒色で表示)は、それらの生物学的活性を効果的に発揮することができるように細胞膜を通過しなければならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
避妊を達成するために精子運動性を阻害するための、形質膜カルシウムATPアーゼ(PMCA)インヒビターの使用。
【請求項2】
前記インヒビターは、形質膜カルシウムATPアーゼ(PMCA)の4つのアイソフォームのいずれか1つに対するものである、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記インヒビターは、PMCA4アイソフォームに対するものである、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記インヒビターは、5−もしくは6−カルボキシエオシンジアセテートスクシニミジルエステル、エオシン、フルオレセイン、またはこれらの誘導体である、請求項1〜3に記載の使用。
【請求項5】
前記インヒビターは、カロキシン2a1またはその誘導体である、請求項1〜3に記載の使用。
【請求項6】
前記インヒビターは、スペルミンまたはその誘導体である、請求項1〜3に記載の使用。
【請求項7】
前記インヒビターは、経口的に、非経口的に、またはコーティングされた機械的避妊手段として投与される、請求項1〜6に記載の使用。
【請求項8】
前記インヒビターは、単回使用の避妊のためまたは常用的に、避妊剤として投与される、請求項1〜7に記載の使用。
【請求項9】
前記インヒビターは、哺乳類に、好ましくはヒトに投与される、請求項1〜8に記載の使用。
【請求項10】
薬学的に許容される担体と組み合わせてPCMAインヒビターを含む避妊剤。
【請求項11】
前記避妊剤は、従来の避妊手段と組み合わせて存在する、請求項10に記載の避妊剤。
【請求項12】
前記従来の避妊手段は、コンドームである、請求項11に記載の避妊剤。
【請求項13】
PCMAをコードする遺伝子の突然変異または翻訳後修飾の検出に基づいて診断する、ヒト男性において不妊診断をするための方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−513508(P2009−513508A)
【公表日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−518085(P2006−518085)
【出願日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【国際出願番号】PCT/EP2004/007168
【国際公開番号】WO2005/002495
【国際公開日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願人】(506002867)
【氏名又は名称原語表記】Ludwig Neyses
【住所又は居所原語表記】10 Heritage Garden,Wilmslow Road,Manchester M20 5hj,Great Britain
【Fターム(参考)】