説明

精錬副成物からの有価元素の回収方法

【課題】精錬の際に生成した精錬副成物Sに含まれる有価元素を簡単に回収することができるようにする。
【解決手段】精錬の際に生成した精錬副成物Sから有価元素を回収する方法であって、精錬副成物Sに含有される回収目的とする有価元素の化合物の一部又は全部が溶融した状態で、当該化合物との間で固溶体を生成する化合物を含み、且つ空隙率が15%以上となる固体物6と接触させることで有価元素を回収する。精錬副成物Sは製鋼工程における脱りん処理若しくは脱炭処理で生成したスラグであり、スラグSと主成分がMgOの固体物6を1350℃〜1400℃で接触させることによりFe及びMnを回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精錬の際に生成した精錬副成物から有価元素を回収する有価元素の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の製鋼工程では、スラグ量低減を目的として、従来の転炉での脱炭・脱りん工程を分離し、高炉から出銑した溶銑に対して脱りん処理を行った後、脱りん処理後の溶銑を転炉に装入して脱炭処理を行うのが一般的である。脱りん処理時や脱炭処理時には、精錬の副成物としてスラグが生成されるが、このようなスラグを利用しようとする技術が開発されている(例えば、特許文献1、特許文献2)。
【0003】
特許文献1では、スラグをMg−Mnフェライト相、Mg−Mnウスタイト相及びカリシウムシリケート相を主成分とするスラグに改善するにあたり、溶融状態のスラグに冷却固化した状態における2価鉄が全鉄量の50%以下となるように酸化処理をすると共に、CaO/SiO2が1.5〜2.5になるようにSiO2含有物質を添加して塩基度調整を行っている。
【0004】
特許文献2では、固化した転炉滓(スラグ)を酸化雰囲気中にて400〜1000℃で酸化処理することにより、スラグのウスタイト相を強磁性体であるMg−Mnフェライト相にして磁選する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭54−056996号公報
【特許文献2】特開昭54−087605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、特許文献2では、スラグ中の鉄やマンガンを回収するにあたり、スラグに対して酸化処理をしたり、スラグを強磁性体に変化させたりすることによって、有価元素を回収している。スラグを強磁性体に変化させるためには、様々な処理を行わなければならず、処理が大変であり、実操業にて行うのは難しいのが実情である。
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、精錬の際に生成した精錬副成物に含まれる有価元素を簡単に回収することができる精錬副成物からの有価元素の回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明は、次の手段を講じた。
即ち、本発明における課題解決のための技術的手段は、精錬の際に生成した精錬副成物から有価元素を回収する方法であって、前記精錬副成物に含有される回収目的とする有価元素の化合物の一部又は全部が溶融した状態で、当該化合物との間で固溶体を生成する化合物を含み、且つ空隙率が15%以上となる固体物と接触させる点にある。言い換えれば、当該固体物は、空隙率が15%以上のものであって、前記精錬副成物に含有される回収目的とする有価元素の化合物が溶融している状態で接触させたときに、当該精錬副成物内の化合物との間で固溶体を生成するものである。
【0008】
前記精錬副成物は製鋼工程における脱りん処理若しくは脱炭処理で生成したスラグであり、前記スラグと主成分がMgOの固体物を1350℃〜1400℃で接触させることによりFe及びMnを回収することが好ましい。
前記固体物によって回収した有価元素を転炉における精錬に使用することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、精錬の際に生成した精錬副成物に含まれる有価元素を簡単に回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】精錬副成物からの有価元素の回収方法と、回収した有価元素を転炉の精錬に使用する際の流れを示した図である。
【図2】精錬の際に生成したスラグのSEM図である。
【図3】スラグの温度に対するT−Feの回収率を示した図である。
【図4】多孔質の固体MgOをスラグに浸漬した際のスラグの温度に対する有価元素のそれぞれの回収率を示した図である。
【図5】スラグの温度に対するT−Fe及びCaOの重量を示した図である。
【図6】スラグの温度に対するSiO2、P25、MnOの重量(回収した重量)を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき説明する。
図1は、本発明の精錬副成物からの有価元素の回収方法と、回収した有価元素を転炉容器の精錬に使用する際の流れを示したものである。なお、説明の便宜上、溶銑や溶鋼のことを溶湯という。
図1に示すように、一般的に、製鋼工程においては、まず、高炉1から溶湯2を出湯した後、溶湯2を鍋7等にて脱硫処理を行う。その後、溶湯2を転炉容器3に装入して溶湯2に対して脱りん処理を行い、次いで、他の転炉容器4に装入して脱炭処理を行う。脱炭処理を行った溶湯2に対しては、脱ガスや成分調整を行う。
【0012】
脱りん処理や脱炭処理では、処理の際に精錬副成物Sが生成する。例えば、脱りん処理や脱炭処理では、当該処理を行う際に副原料等(焼石灰、フラックス、造滓材、鉄鉱石)を投入することによって、精錬副成物としてスラグSが生じることになる。
本発明では、まず、精錬の際に生成した精錬副成物S(製鋼工程における脱りん処理若しくは脱炭処理で生成したスラグS)の一部又は全部が溶融した状態にてスラグポット5に排滓した後、このスラグポット5にMgOを主成分とする固体物6を挿入して固体物6を溶融状態のスラグSに接触(浸漬)させ、スラグS中の有価元素を固体物6に付着させることにより、有価元素を回収する。ここで、溶融状態のスラグSに浸漬させる固体物6とは、MgOが主成分となる耐火物(MgOが70質量%以上含有している耐火物)で構成されたもので、この固体物6は棒状に形成されたものである。ここで、主成分とは、70質量%以上のものを含有する場合を意味している。
【0013】
そして、有価元素が付着した固体物6は、例えば、脱炭処理の際に溶湯2に投入する副原料として使用する。詳しく説明すると、有価元素が付着した固体物6を粉砕して、粉砕した物を、脱炭処理の際、主にMgO源として回収した有価元素と共に溶湯2に投入する。
以下、精錬副成物Sからの有価元素の回収方法を詳しく説明する。
【0014】
図2に示すように、精錬の際に生成した精錬副成物(スラグS)を、SEM(Scanning Electron Microscope)にて観察すると、主に、CaO−SiO2−P25系、CaO−FeO系、FeO−MnO−MgO系の鉱物相が存在する。このようなスラグSを高温で固体物6に接触させると、CaO−SiO2−P25系の鉱物相は高融点のためスラグS内に留まり、CaO−FeO系の鉱物相は、低融点のため固体物6に染み込む。FeO−MnO−MgO系の鉱物相は、高融点であるが、この鉱物相は固溶体を造る性質があるため、固体物6に染み込む。
【0015】
よって、溶融したスラグSに固体物6を接触(浸漬)させることによって、CaO−FeO系の鉱物相及びFeO−MnO−MgO系の鉱物相が当該固体物6に染み込む一方でCaO−SiO2−P25系の鉱物相はスラグS内に留まるため、FeO、MnOを多く回収することができると共に、SiO2、P25といった物質は出来るだけ回収しないようにすることができる。
【0016】
このように、SiO2、P25といった物質が少なく、且つ、FeO、MnOが多く含まれる回収後の固体物6a(回収物)は、転炉容器3における精錬での副原料として用いることができる。つまり、転炉容器3における吹錬において、スラグS中にはP25が多く含まれると脱りん効率が低下することから、P25が少ない固体物6a(回収物)を、脱りん処理等の副原料として用いることは、脱りん処理を阻害することなく有効にスラグS(回収した有価元素)を活用することができる。
【0017】
さて、溶融状態のスラグSに浸漬させる固体物6は、空隙率が15%以上となる多孔質である。
図3は、スラグSの温度(処理温度ということがある)に対するT−Feの回収率を示したものである。
図3に示すように、固体物6を浸漬させた際のスラグSの温度が、上昇するにしたがってT−Feの回収率(%)は上昇する。しかしながら、空隙率が15%未満であって、例えば、空隙率が6%となる緻密質により構成されている固体物を浸漬させた場合は、T−Feの回収率は、最大でも20%程度である。
【0018】
一方、空隙率が20%であって多孔質となる固体物6をスラグSに浸漬させた場合は、T−Feの回収率は、緻密質に比べ大幅に上昇するため、固体物6は多孔質である必要がある。固体物6の空隙率の上限は、実用上40%以下、望ましくは、30%以下、さらに望ましくは20%以下であるのがよい。
なお、図3の回収率とは、スラグSに含まれるT−Feの重量(重量%)に対しての、固体物6を浸漬させて当該固体物6に有価元素を付着させたときの重量(重量%)の割合である(スラグSに含まれるT−Feの重量/回収したT−Feの重量)。以下、T−Fe以外の有価元素の回収率は、T−Feと同様の方法で求める(スラグSに含まれる有価元素の重量/回収した有価元素の重量)。
【0019】
図4は、多孔質の固体物6をスラグSに浸漬した際のスラグSの温度(処理温度)に対する有価元素のそれぞれの回収率を示したものである。
固体物6を浸漬させたときのスラグSの温度が、1300℃以下の場合、T−Fe、CaO、MnOの有価元素の回収率の回収率が低く、1300℃を超えて1350℃以上になると、温度が高くなるにつれて、T−Fe、CaO、MnOの回収率が増加する。
【0020】
また、スラグSの温度が1300℃の場合は、P25の回収率が高くなる傾向があるが、スラグSの温度が1350℃になると、P25の回収率が激減する。
そのため、固体物6を浸漬するときのスラグSの温度は、T−Fe、CaO、MnOの回収率が増加すると共に、P25の回収率が激減する傾向がある1350℃以上とする必要がある。なお、図5は、スラグSの温度に対するT−Fe及びCaOの重量を示したものである。図5に示すように、スラグSの温度が1300℃から1350℃に変化したときの状況を考えると、1350℃になったときにT−Feの回収した重量は増加しているため、この点からもスラグSの温度は、1350℃以上にすることが好ましい。
【0021】
図6は、スラグSの温度に対するSiO2、P25、MnOの重量(回収した重量)を示したものである。図6に示すように、スラグSの温度が1350℃のときや1400℃のときは、SiO2及びP25の回収した重量はあまり変化しないが、スラグSの温度が1400℃を超えて1450℃や1500℃になると、SiO2及びP25の回収した重量は増加する傾向になる。
【0022】
上述したように、P25は、回収物6aの利用を考えたときに、出来る限り回収量が少ない、即ち、回収した重量は少ないことがよい、これらのことを考えると、固体物6をスラグSに浸漬した際のスラグSの温度は、1350℃以上1400℃以下であることが好ましい。即ち、スラグSと主成分がMgOの固体物6を1350℃〜1400℃で接触させることにより少なくともFe及びMnを回収することができる。
【0023】
以上のように、固体物6は空隙率が15%以上のものであって、この固体物6は、スラグSに含有される回収目的とする有価元素の化合物(例えば、CaO−FeO系の鉱物相、FeO−MnO−MgO系の鉱物相FeO、MnO)の一部又は全部が溶融した状態で、当該化合物との間で固溶体を生成するMgOを含有していると言える。言い換えれば、固体物6は、空隙率が15%以上のものであって、精錬副成物Sに含有される回収目的とする有価元素の化合物が溶融している状態で接触させたときに、精錬副成物S内の化合物との間で固溶体を生成するものである。
【0024】
表1及び表2は、本発明の回収方法によって有価元素を回収した実施例と、本発明とは異なる他の方法によって有価元素を回収した比較例とを示したものである。
詳しくは、実施例では、空隙率が15%以上であって20%となる多孔質の固体物6(多孔質のMgO坩堝)に、1〜3mmのスラグSの粉末を150g投入し、そのMgO坩堝を1300℃〜1500℃にて1時間保持し、当該坩堝内のスラグSを排出して組成・重量を測定した。
【0025】
比較例では、空隙率が15%未満であって6%となる緻密質の固体物6(緻密質のMgO坩堝)に、1〜3mmのスラグSの粉末を150g投入し、そのMgO坩堝を1300℃〜1500℃にて1時間保持し、当該坩堝内のスラグSを排出して組成・重量を測定した。
なお、実施例及び比較例では、多孔質又は緻密質のMgO坩堝に、粉末状態であるスラグSを投入して、坩堝を高温にて保持した例であるが、坩堝を高温にするとスラグSは溶融状態となる。そのため、実施例及び比較例においても、図1にて示したように、溶融したスラグSに固体物6を接触(浸漬)と同じように考えることができる。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
比較例1では、多孔質のMgO坩堝を使用したものの、1300℃にて保持したため、処理温度(スラグSの温度)が1350℃未満となっている。そのため、T−Feの回収率が5%前後と非常に低く、また、他の有価元素(CaO、MnO)の回収率も非常に低いものとなっている(評価「×」)。
比較例2では、緻密質のMgO坩堝を使用しているが、この緻密質のMgOを使用した場合、保持した温度が1300℃、1400℃、1500℃のいずれであっても、T−Feの回収率は1/4(25%)も満たず非常に低いものとなった。また、比較例2では、他の有価元素(CaO、MnO)でも全ての回収率が、25%以下であり非常に低いものとなっている(評価「×」)。
【0029】
実施例1では、多孔質のMgO坩堝を1350℃〜1400℃に保持したので、T−Fe、CaO、MnOの回収率を高くできると共に、P25の回収率を極力抑えることができた(評価「◎」)。
実施例2では、多孔質のMgO坩堝を1350℃以上に保持しているものの、その保持の温度は実施例1よりも高く、CaO−SiO2−P25系の鉱物相の一部が溶融して多孔質のMgO坩堝に浸透した。そのため、T−Fe、CaO、MnOの回収率は、比較的高い値に維持することができたものの、P25の回収率が実施例1に比べ若干大となった(評価「○」)。実施例2に示したように、スラグSと主成分がMgOの固体物6を1350℃〜1400℃で接触させることにより、少なくともFeやMnを効率良く回収することができる。
【0030】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。従って、本発明の範囲は製鋼スラグからの鉄、マンガンの回収に限定されたものではなく、他の金属の精錬時に発生する副生物から有価成分を回収する際に、全て同様の思想を適用することを含むものである。
【符号の説明】
【0031】
1 高炉
2 溶湯
3 転炉容器
4 転炉容器
5 スラグポット
6 固体物
S スラグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
精錬の際に生成した精錬副成物から有価元素を回収する方法であって、
前記精錬副成物に含有される回収目的とする有価元素の化合物の一部又は全部が溶融した状態で、当該化合物との間で固溶体を生成する化合物を含み、且つ空隙率が15%以上となる固体物と接触させることを特徴とする精錬副成物からの有価元素の回収方法。
【請求項2】
前記精錬副成物は製鋼工程における脱りん処理若しくは脱炭処理で生成したスラグであり、前記スラグと主成分がMgOの固体物を1350℃〜1400℃で接触させることによりFe及びMnを回収するようにした請求項1に記載の精錬副成物からの有価元素の回収方法。
【請求項3】
前記固体物によって回収した有価元素を転炉における精錬に使用することを特徴とする請求項1又は2に記載の精錬副成物からの有価元素の回収方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−105971(P2011−105971A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−259978(P2009−259978)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】