説明

糸条の走行監視装置

【課題】本発明の目的は、毛羽が存在しないかあるいはほとんど存在しないフィラメント糸の走行を監視することができる装置を提供することにある。
【解決手段】走行監視装置10は、走行する糸条12に光Lを照射する光源14と、糸条12に対して光源14とは反対方向に配置された差動型空間フィルタ素子16と、差動型空間フィルタ素子16の出力から糸条12の走行の有無を判断する信号処理回路18とを含む。本発明は糸条12の走行を監視するために、受光素子20a、20bのピッチを糸条12の凹凸の大きさと略同じとしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシン、編機、ワインダなどの繊維機械において糸条の走行を監視する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ミシン、編機、ワインダなどの繊維機械の稼働中に、走行する糸条の監視が行われている。衣類などの生産中に起きる目飛びなどを監視することによって、製造歩留まりを改善する目的がある。走行する糸条の糸長や糸速、糸切れあるいはミシンの目飛びの発生等を監視する場合、糸条をローラに巻きつけて行う方法がある。この方法では、糸条に連れ回りするローラの回転数を検出することによって、糸条の走行状態を監視する。
【0003】
糸条をローラに巻きつける方法では、糸条とローラとの間に不規則な滑りや摩擦が発生する。糸条の走行に対するローラの回転数が一定しないため、糸長や糸速、糸切れ、ミシンの目飛び等を正確に監視することができない。ローラを回転させるためのエネルギーを糸の走行によって得ているので、過大な張力で糸条を引っ張る必要がある。ローラには回転摺動部が存在するために、回転摺動部に綿ゴミなどがたまって回転しなくなる。
【0004】
特許文献1に差動型空間フィルタ素子を使用した巻き取り装置が開示されている。走行する糸条の毛羽の影を差動型空間フィルタ素子上に投影し、空間フィルタ素子で光電変換された光電流を信号処理する。特許文献1の装置は、糸条の毛羽の動きを検出しているために、毛羽が存在する綿糸などであれば問題ない。しかし、毛羽が存在しないかあるいはほとんど存在しないフィラメント糸の場合は走行状態を監視できず、その監視できない状態で糸条が巻き取られるという欠点があった。
【0005】
【特許文献1】特開2005−194024号公報(段落番号0015、図1など)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、毛羽が存在しないかあるいはほとんど存在しないフィラメント糸の走行を監視することができる装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の糸条の走行監視装置は、糸条に光を照射する光源と、前記糸条に対して光源とは反対方向に配置され、2系列の受光素子が糸条の走行方向に同じピッチで交互に並べられ、光が照射された糸条の影の変化に応じた光電流を出力する差動型空間フィルタ素子とを含む。糸条はフィラメント糸であり、受光素子のピッチが糸条の表面にある凹凸の凹から凹までの距離または凸から凸までの距離と略同じである。これらの距離は、糸条の表面にある複数の凹凸の凹から凹までの距離の平均値、凸から凸までの距離の平均値、またはその両方の距離の平均値を含む。
【0008】
光源と差動型空間フィルタ素子の間を糸条が走行する。光源の光によって差動型空間フィルタ素子には糸条の影が投影される。受光素子のピッチが糸条の表面にある凹凸の凹から凹までの距離または凸から凸までの距離と略同じであれば、2系列の受光素子から出力される光電流の位相が互いに180度ずれる。差動型空間フィルタ素子の出力は差動出力であるので、2系列の出力がキャンセルされずに出力される。
【0009】
走行監視装置は、差動型空間フィルタ素子の光電流の値に対応したパルスに変換する手段と、パルスの有無によって糸条の走行の有無を判断する手段とを有する信号処理回路を含む。糸条が走行することによって差動型空間フィルタ素子の出力からパルスを生成し、パルスの有無から糸条の走行の有無を判断する。
【0010】
繊維機械に糸条を走行させるための手段の動作に応じてオン・オフする近接スイッチを取り付ける。信号処理回路は、近接スイッチのオン・オフによって生成されたパルスと差動型空間フィルタ素子の光電流によって生成されたパルスとのタイミングを比較し、糸条を走行させるための手段の動作に応じて糸条が走行しているかを判定する手段とを含む。繊維機械の糸条を走行させる動作に応じて糸条が走行されているかを判断する。
【0011】
受光素子のピッチは50〜500μmである。また、フィラメント糸は化学合繊糸を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、受光素子のピッチを微細凹凸の大きさと略同じとすることにより、2系列の受光素子の出力がキャンセルされず、微細凹凸による出力を取り出すことができる。糸条に毛羽が無くても糸条の凹凸から差動型空間フィルタ素子の出力が得られるため、従来は監視できなかったフィラメント糸の走行を監視できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の糸条の走行監視装置について図面を使用して説明する。本発明の走行監視装置は、繊維機械の糸条の走行経路の途中に取り付けられる。走行を監視される糸条は、毛羽が無いかあるいはほとんど毛羽が無いフィラメント糸である。フィラメント糸は、天然糸としては絹糸、化学合成糸としてはナイロン糸やポリエステル糸などが挙げられる。以下、説明に使用するフィラメント糸は主として化学合成糸とする。
【0014】
糸条(フィラメント糸)は、複数の長繊維がより合わさっている。長繊維の表面は、目視観察では凹凸がなく滑らかな表面のように見えるが、顕微鏡等によって拡大観察すると、その表面に微細凹凸を持っている(図4参照)。微細凹凸は、長繊維が紡糸される際の製造条件や環境条件や原料の物性等によって、ある一定の大きさの範囲で存在している。すなわち、糸条12の表面には、長繊維が持つ微細凹凸26がある一定の大きさの範囲で存在している。
【0015】
図1に示す本発明の走行監視装置10は、走行する糸条12に光Lを照射する光源14と、糸条12に対して光源14とは反対方向に配置された差動型空間フィルタ素子16と、差動型空間フィルタ素子16の出力から糸条12の走行の有無を判断する信号処理回路18とを含む。
【0016】
光源14は、発光ダイオードやレーザダイオードを使用する。光源14が発光する光Lは、差動型空間フィルタ素子16の上に糸条12の微細凹凸26による影の明暗を投影させることができる輝度である。例えば、発光出力が10mW以上の高出力が良い。
【0017】
差動型空間フィルタ素子16は、複数の受光素子20a、20bを有する。受光素子20a、20bとしては、pnフォトダイオードやpinフォトダイオード等が挙げられるが、これに限定されない。複数の受光素子20a、20bは2系列A,Bに分かれており、各系列A,Bごとに複数の受光素子20a、20bを有する。図2に示すように、2系列A,Bの受光素子20a、20bは糸条12の走行方向zに同じピッチd1で交互に並べられている。差動型空間フィルタ素子16の等価回路は図3に示され、各系列A,Bごとに受光素子20a、20bのカソードは全て短絡されて櫛歯型になっている。差動型空間フィルタ素子16は、両系列A,Bのアノードから光電流が系列A出力と系列B出力として出力され、差動増幅回路22に送られる。差動増幅回路22では、系列A出力と系列B出力とを更に差動増幅し、信号処理回路18に送る。
【0018】
本発明はフィラメント糸12の走行を監視するために、受光素子20a、20bのピッチd1をフィラメント糸12の表面の微細凹凸26の大きさと略同じとしている。このことについて以下説明する。
【0019】
(1)差動型空間フィルタ素子16は、2系列A、Bの受光素子20a、20bが交互に等ピッチd1で並んでいる。(2)差動型空間フィルタ素子16の出力は、受光素子20a、20bに投影される糸条12の微細凹凸26の影に影響される。(3)差動型空間フィルタ素子16の出力は差動出力である。以上の(1)〜(3)より、系列Aと系列Bの両方の受光素子20a、20bが同一の受光量であれば、受光素子20a、20bの出力はキャンセルされる。系列Aと系列Bの受光素子20a、20bが異なる受光量となれば、差動出力が生じる。なお、各系列A,Bでの受光量は平均あるいは全て加算されたものである。
【0020】
糸条12の微細凹凸26が、ピッチd1に対して異なる大きさであれば、両系列A,Bの受光素子20a、20bの受光量が同じかほぼ同じになってしまう。具体的には、隣り合う受光素子20a、20bで異なる受光量であっても、系列A,Bごとに受光素子20a、20bの受光量を加算すると同じかほぼ同じになる。両系列A,Bの出力は同じかほぼ同じになり、差動型空間フィルタ素子16の差動出力は0かほぼ0となる。
【0021】
微細凹凸26の凹部同士または凸部同士の間隔が、ピッチd1と同じか略同じであれば、系列Aの受光素子20aと系列Bの受光素子20bで受光される光量の位相が180度ずれることとなる。例えば、受光素子20aに糸条12の凹による影が投影されたとき、受光素子20bに糸条12の凸による影が投影され、それに応じた受光量が受光される。例えば、微細凹凸26の形状がほぼ均一なものであれば、系列Aと系列Bとで、交互にほぼ同じ受光量となる。したがって、差動型空間フィルタ素子16は、系列Aまたは系列Bの受光素子20a、20bの光電流のほぼ倍に対応した差動出力をおこなう。
【0022】
また、微細凹凸26の形状が多少不均一であったとしても、それぞれの系列A,Bに複数の受光素子20a、20bがあるため、系列A,Bごとの総受光量は交互にほぼ同じになる。したがって、この場合も差動型空間フィルタ素子16は、系列Aまたは系列Bの受光素子20a、20bの光電流のほぼ倍に対応した差動出力をおこなう。
【0023】
以上のように、糸条12の微細凹凸26の影によって生じる受光素子20a、20bの光電流を差動出力させるためには、各受光素子20a、20bのピッチd1を糸条12の微細凹凸26の大きさと略同じとし、受光素子20aと20bを交互に等間隔に並べれば良い。そこで、ピッチd1が糸条12の表面にある微細凹凸26の凹から凹までの距離d2または凸から凸までの距離d3と略同じにする。例えば、ピッチd1は50〜500μmであり、その中でも50〜300μmが好ましい。距離d2,d3は、後述するように平均値などを使用しても良い。
【0024】
差動型空間フィルタ素子16の出力は、オペアンプや抵抗、コンデンサなどの回路素子で構成された信号処理回路18によって処理される。信号処理回路18は、差動型空間フィルタ素子16の光電流の値に対応したパルスに変換する回路と、パルスの有無によって糸条の走行の有無を判断する回路が含まれる。具体的には、差動増幅回路22からの出力信号を入力し、バンドバスフィルタを通して波形整形し、更に増幅して予め記憶しておいた閾値以上の波形をパルス列に変換し、パルス列のパルス数を計数する。所定時間に所定数のパルスがあれば糸条12の走行があり、無ければ糸条12が走行していないと判断する。所定時間内に所定パルスがあるかどうかのパルスの有無だけで、簡単に糸条12の走行の有無を判定することができる。
【0025】
糸条12の走行がないと判定されれば、信号処理回路18から警報装置に信号を送り、警報を発するようにしても良い。また、信号処理回路18から繊維機械の動作を制御するシーケンサに信号を送り、繊維機械の動作を停止させても良い。
【0026】
信号処理回路18は、運転時間中のパルスの総数から糸条12の走行糸長、単位時間当たりのパルスの数から糸速を算出する回路を含むようにしても良い。糸条12の走行の有無だけでなく、糸条12の走行状態がわかる。算出された糸条12の走行糸長、糸速のデータを繊維機械の動作を制御するシーケンサにフィードバックするようにしても良い。フィードバックされたデータから、シーケンサが繊維機械の動作を修正することができる。
【0027】
繊維機械の糸条12を走行させる手段の付近に近接スイッチ24などを取り付ける。例えば、一定のタイミングで動作するミシン針の柄やその柄を動かす機構などの付近に近接スイッチ24を取り付ける。近接スイッチ24はミシン針の柄などの動作に応じてオン・オフの信号を発する。信号処理回路18は、近接スイッチ24のオン・オフによって生成されたパルスと差動型空間フィルタ素子16の光電流によって生成されたパルスとのタイミングを比較し、糸条12を走行させるための手段の動作に応じて糸条12が走行しているか否かを判定する回路を含む。パルスのタイミングが一致しているか否かをチェックするだけで、糸条12の走行と繊維機械の動作とが一致しているか否かをチェックすることができる。例えば、正常に糸条12が走行していれば、図5のように近接スイッチ24のオン・オフによるパルスと差動型空間フィルタ素子18の出力によるパルス列とが略同時間で且つ同じ時間間隔でオンになっている。
【0028】
なお、ミシン針の柄を動かす機構の動作に対して一定の遅れで糸条12が走行する場合もある。そのような場合でも、近接スイッチ24のオン・オフによるパルスが1つ生成されれば、差動型空間フィルタ素子18の出力によるパルス列が1つ生成される。信号処理回路18は、パルスとパルス列の一定のタイミングのズレを考慮して判定する。図5では、差動型空間フィルタ素子18の出力がパルス列となっているが、パルス列を1つのパルスとして判断する。また、図5ではパルスとパルス列になっているが、近接スイッチ24が検知する機構の動作や糸条12の凹凸26の大きさによってはパルスとパルスになる場合もある。
【0029】
以上、本発明の実施形態を上述したが本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。図4に示す糸条12は、ある一定の範囲の大きさの微細凹凸26を有するが、実際の糸条12は必ずある一定の範囲の大きさの微細凹凸26ができるとは限らない。そこで、上述した距離d2,d3は、糸条12の表面にある複数の微細凹凸26の凹から凹までの距離の平均値、凸から凸までの距離の平均値、またはその両方の距離の平均値を含むようにする。また、平均値を使用せず、複数ある距離d2,d3の中から代表的な値を使用しても良い。
【0030】
図4に示すように複数の長繊維がより合わさった糸条12を使用して説明したが、毛羽が無く表面に凹凸がある単線であっても良い。
【0031】
信号処理回路18は、オペアンプなどの回路素子だけではなく、必要に応じてソフトウェアを含めた回路であっても良い。糸条12を走行させる機構の動作に応じて電気信号を発するのであれば、近接スイッチ24以外の非接触センサを使用しても良い。
【0032】
その他、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づき種々の改良、修正、変更を加えた態様で実施できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】糸条の走行監視装置の構成を示す図である。
【図2】受光素子が同じピッチで並んでいる様子を示す図である。
【図3】差動型空間フィルタ素子の等価回路である。
【図4】毛羽のない糸条の拡大図である。
【図5】信号処理回路でのパルスを示す図であり、上が近接スイッチによるパルス列であり、下が差動型空間フィルタ素子の出力によるパルスである。
【符号の説明】
【0034】
10:糸条の走行監視装置
12:糸条(フィラメント糸)
14:光源
16:差動型空間フィルタ素子
18:信号処理回路
20a,20b:受光素子
22:差動増幅回路
24:近接スイッチ
26:微細凹凸
L:光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸条に光を照射する光源と、
前記糸条に対して光源とは反対方向に配置され、2系列の受光素子が糸条の走行方向に同じピッチで交互に並べられ、光が照射された糸条の影の変化に応じた光電流を出力する差動型空間フィルタ素子と、
を含む糸条の走行監視装置であって、
前記糸条がフィラメント糸であり、前記ピッチが糸条の表面にある凹凸の凹から凹までの距離または凸から凸までの距離と略同じである走行監視装置。
【請求項2】
前記凹から凹までの距離または凸から凸までの距離が、糸条の表面にある複数の凹凸の凹から凹までの距離の平均値、凸から凸までの距離の平均値、またはその両方の距離の平均値を含む請求項1の走行監視装置。
【請求項3】
前記差動型空間フィルタ素子の光電流の値に対応したパルスに変換する手段と、
前記パルスの有無によって糸条の走行の有無を判断する手段と、
を含む請求項1または2の走行監視装置。
【請求項4】
糸条を走行させるための手段の動作に応じて信号を発する手段と、
前記信号を発する手段によって生成されたパルスと差動型空間フィルタ素子の光電流によって生成されたパルスとのタイミングを比較し、糸条を走行させるための手段の動作に応じて糸条が走行しているか否かを判定する手段と、
を含む請求項3の走行監視装置。
【請求項5】
前記ピッチが50〜500μmである請求項1乃至4のいずれかの走行監視装置。
【請求項6】
前記フィラメント糸が化学合繊糸を含む請求項1乃至5のいずれかの走行監視装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−179410(P2009−179410A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−17422(P2008−17422)
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】