説明

細胞への薬剤導入方法および細胞への薬剤導入装置

【課題】単一施行で多数の細胞へ高効率に外来分子を導入することができる薬剤導入方法及び薬剤導入装置の提供。
【解決手段】薬剤と相互作用して薬剤と複合体を形成し得る正電荷を有する物質で薬剤を化学修飾し、該化学修飾した薬剤を細胞の近傍に集積させ、該細胞の近傍に配置した光吸収体へレーザー光を照射し誘起された応力波を細胞へ適用することを含む、薬剤を細胞内に導入する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤を標的細胞に導入する方法および標的細胞への薬剤導入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子導入に代表されるように、近年細胞内への外来分子導入技術は医学および生物学において重要な技術である。細胞に外来分子を導入する手法は数多く報告されているが、ウイルスを用いない化学的又は物理的外来分子導入法はウイルス法と比較して生体への安全性に優れていることから注目を集めている。特にレーザーを用いた方法は、ビーム径を変化させることによる高い空間制御性や光ファイバーの利用による内視鏡又はカテーテルヘの適用が期待されている。
【0003】
レーザーによる薬剤導入法の具体例として、下記の(a)微小孔形成による方法、(b)レーザー光と色素の相互作用による方法、(c)液中へのパルスレーザー照射による方法が開発されている。
(a)微小孔形成による方法
細胞膜にレーザー光を集光し、一時的に微小な孔を形成することで濃度勾配により外来分子を導入する方法(非特許文献1参照)。
(b)レーザー光と色素の相互作用による方法
色素を含む液中に細胞を配置し、レーザー光を細胞膜付近の色素に照射することで局所的に温度上昇をさせ、細胞膜を変性させる方法(非特許文献2参照)。
(c)液中へのパルスレーザー照射による方法
細胞を導入目的物質の存在する液中、ゲル中若しくはゲル表面に配置し、前記液中若しくはゲル又は細胞にパルスレーザーを集光させて照射し、それにより生じた衝撃波により細胞膜を変化させる方法(特許文献1参照)。
【0004】
この他に(d)固体材料へのパルスレーザー照射により誘起した応力波(圧力波)を用いた方法が開発されている。
(d)固体材料へのパルスレーザー照射により誘起した応力波(圧力波)を用いた方法
パルスレーザーを吸収固体に照射することにより応力波を発生させ、単一処理で多数の細胞へ外来分子を導入させる方法(非特許文献3および4、ならびに特許文献2から4を参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2005-168495号公報
【特許文献2】米国特許第5,658,892号公報
【特許文献3】米国特許第6,689,094号公報
【特許文献4】米国特許第6,562,004号公報
【非特許文献1】U. K. Tirlapur and K. Konig, Nature, 2002年7月 Vol.418, pp.290-291
【非特許文献2】G. Palumbo et al., Journal of Photochemistry and Photobiology B, 1996年10月 Vol.36, No.1, pp.41-46
【非特許文献3】S. Lee and A. G. Doukas, IEEE Journal of Selected Topics in Quantum Electronics, 1999年 Vol.5, No.4, pp.997-1003
【非特許文献4】M. Terakawa et al., Optics Letters, 2004年6月, Vol.29, No.11, pp.1227-1229
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の外来分子導入方法には以下のような問題点がある。まず、前記(a)微小孔形成による方法、(b)レーザー光と色素の相互作用による方法、および(c)液中へのパルスレーザー照射による方法では、レーザー光を細胞よりも小さな径または同等の径に集光するため、単一施行回数で処理できる細胞数は単一またはごく少数に限定され、多数の細胞を対象とすることが困難である。前記(d)の固体材料へのパルスレーザー照射により誘起した応力波(圧力波)を用いた方法は単一施行で多数の細胞を処理することが可能である。しかし、特に遺伝子等の巨大分子の導入においては、外来分子が導入される細胞はそのごく一部であり、効率が低いという問題があった。
【0007】
本発明は、前記問題点に鑑み、前記固体材料へのパルスレーザー照射により誘起した応力波を用いた方法の外来分子導入効率を向上させることにより、単一施行で多数の細胞へ高効率に外来分子を導入することができる薬剤導入方法及び薬剤導入装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、光吸収体へのレーザー光照射により誘起された応力波(圧力波)を用いて薬剤類を標的細胞中または細胞含有生体組織中に輸送・導入する方法において、薬剤に化学修飾を施し細胞膜近傍へ薬剤を集積させることにより細胞内導入を高効率化できることを見出した。ここで、前記化学修飾等は脂質、ペプチド等のポリマー、受容体結合蛋白を持つ外被膜等であり、細胞膜集積性を高めることができる。
【0009】
前記レーザー光は、500fs〜500nsのパルス幅のパルスレーザー光であり、このため、効率的にレーザーエネルギーを応力に変換することができる。
【0010】
本発明の薬剤導入装置は、180nm〜20μmの波長、0.1mJ/cm2〜1OJ/cm2のレーザーフルエンス、500fs〜500nsのパルス幅のパルスレーザー光を発生するレーザー発振器ならびに無機材料もしくは有機材料からなる光吸収固体を具備し、ヒトを含む動物細胞および植物細胞等に薬剤を導入することができる。
【0011】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] 薬剤と相互作用して薬剤と複合体を形成し得る正電荷を有する物質で薬剤を化学修飾し、該化学修飾した薬剤を細胞の近傍に集積させ、該細胞の近傍に配置した光吸収体へレーザー光を照射し誘起された応力波を細胞へ適用することを含む、薬剤を細胞内に導入する方法。
[2] 薬剤がDNA、RNA、タンパク質、糖類、ポリペプチド及びこれらの誘導体からなる群から選択される[1]の薬剤を細胞内に導入する方法。
[3] 薬剤を化学修飾する物質がカチオニックポリマーまたはカチオニックリポソームである[1]または[2]の薬剤を細胞内に導入する方法。
[4] 光吸収体が、照射するレーザー光を吸収し、応力波を発生し得る物質でできた光吸収固体である[1]〜[3]のいずれかの薬剤を細胞内に導入する方法。
[5] 光吸収体が、ゴム、樹脂および金属からなる群から選択される[4]の薬剤を細胞内に導入する方法。
【0012】
[6] レーザー光が500fs〜500nsのパルス幅のパルスレーザー光である[1]〜[5]のいずれかの薬剤を細胞内に導入する方法。
[7] レーザー光が0.1mJ/cm2〜10J/cm2のレーザーフルエンスを有する[1]〜[6]のいずれかの薬剤を細胞内に導入する方法。
[8] レーザー光の波長が180nm〜20μmである[1]〜[7]のいずれかの薬剤を細胞内に導入する方法。
[9] in vitroで行う[1]〜[8]のいずれかの薬剤を細胞内に導入する方法。
[10] in vivoで非ヒト動物細胞または植物細胞に薬剤を導入する、[1]〜[8]のいずれかの薬剤を細胞内に導入する方法。
【0013】
[11] 薬剤と相互作用して薬剤と複合体を形成し得る正電荷を有する物質で化学修飾した薬剤および細胞を収納する容器、光吸収体およびレーザ光照射手段を含む、細胞に薬剤を導入するための薬剤導入装置であって、レーザ光を光吸収体に照射し、光吸収体から応力波を発生させ、該応力波を細胞に適用し、細胞に薬剤を導入する薬剤導入装置。
[12] 薬剤がDNA、RNA、タンパク質、糖類、ポリペプチド及びこれらの誘導体からなる群から選択される[11]の薬剤導入装置。
[13] 薬剤を化学修飾する物質がカチオニックポリマーまたはカチオニックリポソームである[11]または[12]の薬剤導入装置。
[14] 光吸収体が、照射するレーザー光を吸収し、応力波を発生し得る物質でできた光吸収固体である[11]〜[13]のいずれかの薬剤導入装置。
[15] 光吸収体が、ゴム、樹脂および金属からなる群から選択される[14]の薬剤導入装置。
【0014】
[16] レーザー光が500fs〜500nsのパルス幅のパルスレーザー光である[11]〜[15]のいずれかの薬剤導入装置。
[17] レーザー光が0.1mJ/cm2〜10J/cm2のレーザーフルエンスを有する[11]〜[16]のいずれかの薬剤導入装置。
[18] レーザー光の波長が180nm〜20μmである[11]〜[17]のいずれかの薬剤導入装置。
[19] [11]〜[18]のいずれかの装置および薬剤と相互作用して薬剤と複合体を形成し得る正電荷を有する物質で化学修飾した薬剤を含む、細胞へ薬剤を導入するための薬剤導入システム。
[20] 生体内の細胞に薬剤を導入するための装置であって、レーザー光を照射するレーザー光照射手段およびレーザー光を吸収し応力波を発生する光吸収体を含み、生体の管腔を通して、生体内の標的細胞にレーザー光を送達させることができる、カテーテル状の薬剤導入装置。
【0015】
[21] レーザー光照射手段がレーザー発生手段およびレーザー伝送手段を含む[20]のカテーテル状の薬剤導入装置。
[22] 光吸収体がレーザー伝送手段の遠位端部に設置されており、伝送されたレーザー光が光吸収体に照射される、[20]または[21]のカテーテル状の薬剤導入装置。
[23] 薬剤がDNA、RNA、タンパク質、糖類、ポリペプチド及びこれらの誘導体からなる群から選択される[20]〜[22]のいずれかのカテーテル状の薬剤導入装置。
[24] 薬剤を化学修飾する物質がカチオニックポリマーまたはカチオニックリポソームである[20]〜[23]のいずれかのカテーテル状の薬剤導入装置。
[25] 光吸収体が、照射するレーザー光を吸収し、応力波を発生し得る物質でできた光吸収固体である[20]〜[24]のいずれかのカテーテル状の薬剤導入装置。
【0016】
[26] 光吸収体が、ゴム、樹脂および金属からなる群から選択される[25]の薬剤導入装置。
[27] 光吸収体が色素であり、該色素が薬剤導入装置に含まれる色素投与手段により生体内の細胞近傍に供給される[20]、[21]、[23]および[24]のいずれかの薬剤導入装置。
[28] レーザー光が500fs〜500nsのパルス幅のパルスレーザー光である[20]〜[27]のいずれかのカテーテル状の薬剤導入装置。
[29] レーザー光が0.1mJ/cm2〜10J/cm2のレーザーフルエンスを有する[20]〜[28]のいずれかのカテーテル状の薬剤導入装置。
[30] レーザー光の波長が180nm〜20μmである[20]〜[29]のいずれかのカテーテル状の薬剤導入装置。
[31] さらに、生体内の細胞近傍に、薬剤と相互作用して薬剤と複合体を形成し得る正電荷を有する物質で化学修飾した薬剤を投与する手段を含む[20]〜[30]のいずれかのカテーテル状の薬剤導入装置。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、標的細胞に目的とする薬剤を極めて効率良く導入できる。このため、例えば、薬剤として遺伝子を用いた場合、形質転換細胞の生成率が向上する。また、レーザーのビーム径を調節することで単一試行で多数の細胞または細胞含有生体組織に適用できる方法であるため、単位時間あたりの処理能力を高めることができる。また、レーザーパルスはファイバーによる伝送が可能であるため、内視鏡またはカテーテル的薬剤導入装置が実現できる。また、本発明の薬剤導入装置により、特に局所的疾患を対象とした遺伝子治療の有効率も飛躍的に向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、光吸収体へのレーザー光照射により誘起された応力波(圧力波、laser-induced stress wave(LISW))を用いて薬剤を標的細胞または細胞含有生体組織に輸送・導入する方法において、薬剤に化学修飾等を施し目的細胞の細胞膜近傍へ薬剤を集積させることにより細胞内導入を高効率化することを特徴とする。
【0019】
化学修飾を施した薬剤を、細胞培養液中または細胞含有生体組織に集積させ、近傍に配置した光吸収体にパルスレーザー光を照射する。パルスレーザー光は光吸収体に吸収され、応力波(圧力波)が誘起される。これにより細胞膜の透過性を増大させる。このとき薬剤に施した化学修飾により、標的細胞内への薬剤導入が促進される。
【0020】
本発明において、薬剤は、DNAやRNA等の核酸、タンパク質、糖類、ポリペプチド及びこれらの誘導体であり、これら以外の有機化合物および無機化合物も用いることができる。本発明において、用いる薬剤は細胞内で医薬効果等の効果を発揮し得る物質である。例えば、DNAやRNA等の核酸は遺伝子治療に用い得るDNAやRNAであり、生理活性物質をコードするDNA、短鎖のDNA又はRNAのアンチセンスもしくはその活性誘導体、リボザイム、および短鎖の2本鎖RNA(dsRNA;double stranded RNA)等が含まれる。短鎖の2本鎖RNAとしては、例えば、small interfering RNA(siRNA)と称される15〜30塩基対(bp)、好ましくは21〜29bpのリボ核酸等が挙げられる。また、タンパク質は生理活性物質等を用い得る。また、公知のあらゆる医薬化合物を本発明の薬剤として細胞に導入することができる。
【0021】
本発明において、薬剤の化学修飾とは、細胞内に導入しようとする薬剤と正味電荷が正電荷である複合体を形成し得る化学物質との複合体を形成させることをいう。複合体が正電荷を有していると、複合体は細胞の周囲に集積し、レーザー誘起応力波を適用したときに細胞に導入しようとする薬剤が効率的に細胞に導入される。ここで、薬剤を細胞の周囲に集積させるとは、細胞膜の透過性が増加したときに薬剤が細胞中に容易に導入される状態にあることをいい、薬剤が細胞膜に接触している状態も、接触せずにごく近傍に存在している状態も含む。化学修飾に用いる化学物質として、脂質、ペプチド等のポリマー、受容体結合蛋白を持つ外被膜等が挙げられる。前記の脂質、ペプチド等のポリマーは、正電荷を持つ物質であり、正電荷を持ち、導入しようとする薬剤と相互作用して複合体を形成できるものであればよく、遺伝子導入試薬として知られている物質を用いることができる。これらの物質は、正電荷を有するポリマーであり、カチオニックポリマーと呼ぶこともできる。また、陽電荷をもつ脂質を構成成分とする脂質二重膜小胞(カチオニックリポソーム)も用いることができる。具体的には、ポリエチエレンイミン(PEI、直鎖型もしくは分岐型)や市販の遺伝子導入試薬が挙げられる。市販の遺伝子導入試薬として、Lipofectamine(登録商標)、Lipofectamine plus(登録商標)、jet PEI(登録商標)、Oligofectamine(登録商標)、siLentFect(登録商標)、DMRIE-C(登録商標)、Transfectin-Lipid(登録商標)、Effectene(登録商標)などを挙げることができる。このうち、ポリエチレンイミン(PEI)には、直鎖PEIと1級、2級、3級アミンを含む分岐PEIとが存在するがいずれも用いることができる。また、PEIの分子量も限定されない。さらに脱アシル化等の化学修飾されたPEIも用いることができる。その他、アルギニン、ポリアルギニン、ポリ-L-リジン、キトサンなどの塩基性物質を挙げることができる。さらに、Tatなどの細胞透過性ペプチドおよびその誘導体や、NF-κβなどの核移行シグナルを挙げることができる。鎖受容体結合タンパク質を持つ外被膜を用いることにより、外被膜が有するタンパク質が結合する受容体を表面に有する細胞に薬剤を導入することができる。
【0022】
本発明において、化学修飾を施した薬剤を、薬剤の名称および化学修飾に用いた化学物質の名称を用いて、DNA-カチオニックリポソーム、DNA-ポリエチレンイミン(PEI)のように表わすことがある。
【0023】
また、上記の正電荷を持つ化学物質の複数を組み合わせて用いてもよい。
薬剤の化学物質による化学修飾の方法は特に制限されず、物理的吸着、化学結合、イオン結合等が挙げられる。また、カチオニックリポソームの場合は、細胞に導入しようとする薬剤をリポソーム内に封入してもよい。
【0024】
これらの化学物質で化学修飾をした薬剤を細胞に適用することにより、該化学修飾薬剤は静電的な相互作用により細胞の周囲に集積し得る。
【0025】
本発明において、薬剤を導入する対象である細胞は動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、細菌や真菌等の微生物細胞である。細胞の状態は特に制限されず、例えば、接着細胞、浮遊細胞、生体組織内の細胞などが挙げられる。細胞への導入はin vitroでもin vivoでも行うことができる。例えば、生体から細胞を採取し、本発明の方法により遺伝子等の特定の薬剤を導入し、該細胞を生体に再投与することによりexo vivo治療が可能になる。また、in vivoでの導入の際には、化学修飾した薬剤を導入しようとする細胞が存在する組織、器官等に投与し、該組織、器官等に応力波を誘起し得るレーザーを照射すればよい。この場合、レーザーはカテーテル内に設置した光ファイバーを通して生体外のレーザー発生装置から生体内に伝送することが可能である。
【0026】
光吸収体は、レーザー光を吸収し、応力波を発生させるために用いる。光吸収体は、固体状の光吸収固体が好ましく、ゴムや樹脂等のポリマーやモノマー、金属、アモルファス金属、アモルファス合金等のアモルファス物質、結晶等でできた固体であり、光吸収性の高いものが好ましい。光吸収体は黒色のものを用いてもよい。光吸収体は、用いるレーザー光が吸収されやすい材質のものを用いることが好ましく、用いるレーザー光の波長と適切な光吸収体との組合せとして、532nmまたは694nmのレーザー光とゴム(黒色天然ゴム)との組合わせ、532nm、1064nmまたは2100nmのレーザー光と金属(アルミニウム、ステンレス、真鍮、ニッケル等)の組合せならびに193nm、213nm、247nm、266nm、308nmまたは355nmのレーザー光と樹脂の組合せを挙げることができる。
【0027】
また、光吸収体の形状およびサイズは、限定されず、薬剤を導入しようとする細胞の状態に応じて適宜設計することができる。例えば、in vitroで細胞に薬剤を導入する場合、板状またはシート状のもの等を用いることができる。光吸収体は薬剤を導入しようとする標的細胞の近傍に配置する。光吸収体は標的細胞から0mm〜50mm、好ましくは0mm〜10mm、より好ましくはOmm〜5mm離れた位置に配置するのが好ましい。この距離は、薬剤を導入しようとする細胞や組織とレーザー光を照射する位置との距離でもある。光吸収体の厚さは、例えば、0.1〜数mmである。
【0028】
さらに、レーザー光を吸収し得る色素を光吸収体として用いることもできる。この場合、薬剤を導入しようとする標的組織に色素を適用し、組織を色素で着色し、着色部分にレーザー光を照射すればよい。
【0029】
光吸収体は、光吸収体がレーザーを吸収した際に発生するプラズマを閉じ込めるために、用いる波長のレーザー光を透過させ得る透明部材と組み合わせて用いてもよい。プラズマを該透明部材に閉じ込めることにより、レーザーにより誘起される応力波のエネルギーが大きくなり、より効率的に薬剤を細胞に導入することが可能になる。透明部材は光吸収体と重ねて用いればよい。例えば、板状またはシート状の光吸収体と板状またはシート状の透明部材を、それぞれ光吸収層および透明層として接着して用いればよい。透明部材の材質は透明でプラズマを閉じ込めることができるものならば、限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、PMMA、ポリメタクリルアクリルアミド等の透明樹脂、石英ガラス等のガラスなどが挙げられる。透明部材の形状およびサイズは、光吸収体に合わせて適宜設計することができる。透明部材の厚さは、例えば、0.1〜数mmである。透明部材は、必須の材料ではなく、プラズマを閉じ込めるものとして水等を用いることもできる。例えば、図1に示す装置の場合、光吸収体4に透明部材を接着して用いてもよいが、細胞培養ディッシュ2内に水を入れておけば水が透明部材の代わりの作用をし、プラズマを閉じ込め強い応力波を発生させることができる。
【0030】
本発明において、薬剤を標的細胞内または細胞含有生体組織に導入するために、光吸収体に照射するレーザーのパルス幅、波長、強度等の選択が重要である。過度の圧力の適用は、細胞へ損傷を与える。許容範囲内での条件設定が必要である。
【0031】
レーザー光としては、光吸収体に吸収されて応力波を誘起し得るものであれば、限定されない。例えば、固体レーザーは、レーザーを発生させる元素のイオンと該イオンを保持する母材の種類で表されるが、元素として希土類に属するHo(ホロニウム)、Tm(ツリウム)、Er(エルビウム)、Nd(ネオジム)等が挙げられる。母材としてはYAG、YSGG、YVO等が挙げられる。例えば、Nd:YAGレーザー、Ho:YAGレーザー、Tm:YAGレーザー、Ho:YSGGレーザー、Tm:YSGGレーザー、Ho:YVOレーザーおよびTm:YVOレーザー等を用いることができる。また、気体レーザーとしてXeClレーザーを用いることもできる。レーザー光はレーザー発生装置により発生させることができる。
【0032】
(1)パルス幅:光吸収体に照射するレーザー光のパルス幅は、レーザーエネルギーから応力への変換効率に影響を与える。500nsより長いパルス幅では、レーザーエネルギーから応カヘの変換効率が低い。また500nsより短いパルス幅では、光吸収体にレーザー光が照射された際に発生するプラズマを膨張させることができず、応力波は短時間のみ発生する。以上から前記レーザー光は、500fs〜500nsのパルス幅のパルスレーザー光が適している。
【0033】
(2)波長:光吸収体に照射するレーザー光の波長は、レーザーエネルギーから応力への変換効率に影響を与える。用いる吸収体の吸収が高いレーザー光の波長が望ましい。ポリマー、金属等を吸収固体として用いる場合には180nm〜20μmが適している。
【0034】
(3)強度:光吸収体に照射するレーザー光の強度は主に薬剤導入効率および細胞安全性に影響を与える。一般にレーザー波長は選択が限定的であるため、所望の効果を期待する場合、主にレーザーフルエンスを制御する。しかし、過剰なレーザーフルエンスは細胞損傷を引き起こしてしまう。そのため、本方法では、0.1mJ/cm2〜10J/cm2のレーザーフルエンスが適している。
【0035】
レーザー光を照射するスポットの大きさ(面積)は、薬剤を導入しようとする細胞の数や組織の大きさ等により適宜決定することができる。照射スポットは点状でもよく、円形でもよい。照射スポットの大きさは、レーザー光のビーム径を変えることにより適宜調節することができる。この際、レーザー光をレンズ等の集光系を通して照射してもよく、集光系を用いることにより、レーザーの照射位置や照射スポットの大きさを適宜調節することができる。レーザー光を照射する際、細胞や組織の損傷を防ぐためレーザ光が直接細胞や組織に照射されずに応力波だけが細胞や組織に接触するようにすることが好ましい。レーザー光の照射位置や照射スポットの大きさを変えることにより、単一細胞のみに薬剤を導入することもできるし、一度に複数の細胞に薬剤を導入することもできる。
【0036】
本発明の方法においては、薬剤を導入しようとする細胞懸濁液に化学修飾した薬剤の溶液を混合し、化学修飾した薬剤を細胞周囲に集積させ、薬剤を導入しようとする細胞から0mm〜50mm、好ましくは0mm〜10mm、より好ましくはOmm〜5mm離れた位置に配置された光吸収体に上記レーザー光を照射して、応力波を発生させる。発生した応力波が細胞に当たり、細胞膜の透過性が増加し、細胞の周囲に集積した化学修飾した薬剤が細胞内に導入される。
【0037】
図1に本発明の細胞に薬剤を導入するための装置の概念図を示す。図1に示す装置は接着細胞および浮遊細胞のいずれにも用いることができるが、図1では接着細胞を用いる場合の一例を示してある。装置は細胞培養用ディッシュ2の底部に細胞3を入れるための凸部を有している。該凸部に細胞を入れ、化学修飾した細胞に導入しようとする薬剤を添加する。この際、細胞は細胞培養用培地、生理食塩水等に懸濁すればよく、化学修飾した薬剤を細胞培養用培地、生理食塩水等に混合すればよい。該凸部には光吸収体4がかぶせられる。この際、光吸収体4に石英ガラス版等の透明部材を接着させてもよい。この際、透明部材を光吸収材と細胞の間に位置するように接着してもよいし、光吸収体の細胞の反対側に接着してもよい。また、細胞培養用ディッシュに水を入れ透明部材の代わりにしてもよい。該装置はパルスレーザー発生装置を含んでいてもよく、レーザー発生装置で発生したレーザーは、レンズ6を通して光吸収体に照射される。次いで、光吸収体から応力波が発生し、細胞に当たり、細胞膜の透過性が増加し、細胞の周囲に集積した化学修飾した薬剤が細胞内に導入される。
【0038】
図2に本発明の薬剤導入装置の構成を示す。上記方法を実現するために、本薬剤導入装置は、パルスレーザー発振器7、照射面積を制御するレンズ8、光吸収体9、化学修飾を施した薬剤10を具備する。パルスレーザー発振器7は上記の波長及びパルス幅のパルスレーザーを発振して出射する。
【0039】
本発明は生体内の細胞にin vivoで化学修飾を施した薬剤を導入する装置をも包含する。該装置は、カテーテル状の装置であり、生体内にレーザー光を照射するレーザー光照射手段を含む。カテーテルは本発明の装置の一部を血管等の生体内の管腔内に挿入するための筒であり、装置の一部を目的の部位に移動させるときのガイドとして用いられる。前記レーザー光照射手段は、レーザー光発生手段(レーザー光源)、レーザー光を生体内に伝送する手段、レーザー光を生体内で照射する手段等を含み、レーザー光を伝送する部分は光伝送用ファイバーである。レーザー光を生体内に照射する手段は、光伝送用ファイバーの遠位端にレーザー光照射部として設けられる。「遠位端部付近」とは、高強度パルス光発生装置と連結された端部(近位端部)の反対側の端部に近い部分を意味し、遠位端部および遠位端部から数十cm程度の部分を指す。また、レーザー光照射部には、光吸収体が設けられていることが好ましい。さらに、該光吸収体に接触するように透明部材を設けてもよい。本発明の装置が含むカテーテルは、通常用いられている血管カテーテル等を使用することができ、その径等は限定されず、挿入しようとする管腔の太さに応じて適宜設計することができる。好ましくは、本発明の装置は血管内に挿入され、細胞に薬剤を導入しようとする目的の部位にレーザー照射部位が到達する。レーザー光を伝送する光ファイバーは、その一端でレーザー光発生装置と連結し、もう一端でレーザー光照射手段と連結している。本発明で用いられる光ファイバーは、直径0.05〜0.3mm程度のきわめて細いものから、可視的な太さのものまで、種々のものを用いることができる。
【0040】
さらに、本発明のカテーテル状の装置は化学修飾した薬剤を、薬剤を導入しようとする細胞の組織に送達させるための薬剤投与手段を含んでいてもよい。該薬剤投与手段は、カテーテル内に設けられた送液流路、送液流路の遠位端に設けられた注入口、流路とつながった液リザーバー、送液用ポンプ等から構成される。送液流路は、例えばカテーテル内にルーメンを設け該ルーメンを送液流路としてもよいし、またカテーテル内に別途流路用チューブを設けてもよい。
【0041】
本発明のカテーテル状の装置は以下のようにして用いる。最初に薬剤を導入しようとする組織部分に化学修飾した薬剤を投与する必要がある。化学修飾した薬剤を予め注射等により直接標的組織等に投与してもよいし、本発明の装置に含まれる薬剤投与手段を用いて標的組織等に投与してもよい。化学修飾した薬剤を標的組織の標的細胞に集積させた後に、本発明の装置で標的組織等の近傍で装置遠位端部の光吸収体にレーザー光を照射する。レーザー光を吸収した光吸収体から応力波が発生し、発生した応力波が標的組織の標的細胞に当たり、細胞膜の透過性が増加し、細胞周囲に集積した化学修飾した薬剤が細胞内に導入される。
【0042】
図9に、具体的なカテーテル状の装置の概略図を例示する。図9は、カテーテル状の装置の先端部に近い部分の断面図を示す。本発明のカテーテル状の装置は、図9の装置には限定されるものではない。
【0043】
該装置は、カテーテル21、光ファイバー22、光ファイバー用ルーメン24、薬剤投与用ルーメン25、薬剤投与器(薬剤投与手段)26、光吸収体(ターゲット)・光ファイバー支持スリーブ27、光吸収体(ターゲット)29等を含む。また、ビーム調整光学系23を含んでいてもよい。レーザー光28を光吸収体(ターゲット)29に照射すると、光吸収体(ターゲット)29からレーザー誘起応力波が発生する。
【0044】
該装置において、光吸収体(ターゲット)・光ファイバー支持スリーブに光吸収体(ターゲット)を装着し、光ファイバーを挿入・固定する。ファイバーの出射端には必要に応じビーム径を調整するための光学系(レンズ等)を配置する。カテーテルには、上記光ファイバーを挿入するためのルーメン(内腔)と薬剤投与器(先端部はニードルとなっている)を挿入するためのルーメンを有する。図9には示していないが、通常は照明および観察用のルーメンも含まれ、光ファイバーを通して照明用光を照射することができ、また光ファイバーにより標的部位の観察を行うことができる。前記装置において、光ファイバーおよび薬剤投与器はルーメン内をスライドすることができる(図9の矢印はスライド可能であることを表わしている)。
【0045】
図9の薬剤導入装置は、以下のように使用することができる。
(1)薬剤投与器の先端(ニードル)を標的部位に刺して導入薬剤(遺伝子等)を投与する。
(2)投与部位に光吸収体(ターゲット)を接触させ、光吸収体(ターゲット)にレーザー光を照射し応力波を発生させて、上記薬剤を細胞内に導入する。
【0046】
薬剤を表面組織に導入する場合は、薬剤をスプレーにより適用してもよい。固体の光吸収体(ターゲット)を用いず、標的部位を色素等で着色し、そこにレーザ光を照射して応力波を発生させることもでき、この場合は着色色素が光吸収体(ターゲット)となる。この場合、上記装置は光吸収体として作用する色素を導入する色素投与手段をも含む。該色素投与手段は、上記の薬剤投与器(薬剤投与手段)と同様にルーメン内に配置してもよいし、カテーテル内に別途流路用チューブを設けてもよい。
【0047】
さらに、色素も用いず、標的部位の組織に直接レーザー光を照射してもよい。例えば、血液の豊富な組織であれば、緑色レーザー光を照射することにより、血液のヘモグロビンがレーザーエネルギーを吸収し、応力波を発生し得る。緑色レーザー光として、例えば波長532nmのレーザー光が挙げられる。
【実施例】
【0048】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0049】
実施例1 化学修飾薬剤としてDNA-カチオニックリポソームを用いた場合のin vitro での細胞への薬剤の導入
本発明により培養細胞マウスNIH3T3へEGFP(Enhanced Green Fluorescent Protein)発現遺伝子プラスミドベクターの導入を試みた。本実施例において、図1に示される装置を用いた。EGFPをコードした遺伝子と市販のカチオニックリポソーム(Lipofectamine 2000TM)を混合し、DNA-カチオニックリポソーム複合体を作製した。このときDNA濃度は7.84μg/mlとなるようにした。DNA-カチオニックリポソーム1を細胞培養ディッシュ2内の細胞3の周辺に加えた後、光吸収体4を細胞の上方に設置した。光吸収体は厚さ0.5mmの黒色ゴムを用いた。設置後、QスイッチNd:YAGレーザーの第2高調波5(波長532nm、パルス幅6.0ns(FWHM))を平凸レンズ6でターゲット上に集光した。レーザーエネルギーは全てターゲットに吸収されるため、直接細胞とは相互作用しない。同一のターゲットに繰り返し周波数10Hzで20パルス照射した。結果を図3に示す。縦軸は、全細胞数中の遺伝子が導入されることによって発現したタンパク質の蛍光を有する細胞の割合である。カチオニックリポソームによる化学修飾をおこなわず、光吸収体へのレーザー照射により発生した応力波によりDNAを導入した条件をLISWとする。DNA-カチオニックリポソーム複合体を作製し、応力波を適用していない条件をCLとする。DNA-カチオニックリポソーム複合体を作製し、応力波を適用した条件をLISW+CLとする。
【0050】
LISW+CLでは遺伝子発現細胞が増大することがわかる。またLISW+CLでは、LISWとCLそれぞれの発現細胞割合を足し合わせた値よりも高いことがわかる。すなわち、本発明の方法によれば、薬剤を化学修飾した場合の効果と応力波を用いた場合の効果の相乗的な効果が得られる。
【0051】
実施例2 化学修飾薬剤としてDNA-ポリエチレンイミンを用いた場合のin vitroでの細胞への薬剤の導入
EGFPをコードした遺伝子と市販のポリエチレンイミン(jetPEITM)を混合し、DNA-ポリエチレンイミン複合体を作製した。このときDNA濃度は7.84μg/mlとなるようにした。応力波適用条件、評価方法はカチオニックリポソームを用いた実施例1と同様である。
【0052】
図4に結果を示す。図4中、LISWはレーザー誘起応力波単独による遺伝子導入効率を、LISW+PEIはDNA-ポリエチレンイミン複合体を作製し、レーザー誘起応力波を適用したときの遺伝子導入効率を示す。レーザー誘起応力波単独では遺伝子はほとんど導入されなかったが、DNA-ポリエチレンイミン複合体を用いレーザー誘起応力波を適用した場合は、効率的に導入された。
【0053】
実施例3 化学修飾薬剤としてDNA-ポリエチレンイミンを用いた場合のin vivoでの細胞への薬剤の導入
EGFPの発現プラスミドとしてpLEGFP-N1(Clontech社)を用いた。プラスミドDNA3μlと市販のポリエチレンイミン(jetPEITM)6μlを混合し、DNA-ポリエチレンイミン複合体を作製した。
【0054】
DNA導入動物として57BL6Jマウス(日本SLC社)を用いた。マウスに麻酔をかけ、頭蓋骨にドリルで小孔を開け、側脳室または海馬に26ゲージのハミルトンシリンジを挿入した。DNA溶液5μlを1μl/min.の速度で注入し(新生仔マウスの場合は2μl)、シリンジを挿入したまま5分間置き溶液を拡散させた。実験方法の概要を図5に示す。黒色の天然ゴムを脳の表面にレーザーの標的として置いた。レーザーに誘起されたプラズマを閉じ込めるため、ゴムには透明のポリエチレンテレフタレート(PET)シートを接着した。DNA溶液の注入後、7.0nsのパルスレーザー(Nd:YAGレーザー、532nm)を水晶レンズ(f=200nm)を通して照射し、レーザー誘起応力波を発生させた。照射スポットの直径は1mmであった。レーザーフルエンスは1.9J/cm2で、3回照射した。DNA溶液の投与後72時間後にマウスを犠牲死させ(新生仔マウスの場合は、24時間後)、固定し脳を除去した。除去した脳はクライオスタットマイクロトームを用いて厚さ10μmの切片とした。EGFPの発現は、蛍光顕微鏡TE-2000E(ニコン)を用いて組織化学的に観察した。
【0055】
脳の損傷を確認するため、レーザーフルエンス0.4、1.0または1.9J/cm2でレーザーを照射したが、脳への損傷は認められなかった。
【0056】
レーザー応力波の圧力を有機薄膜圧電素子(H9C、東レエンジニアリング)を用い、脳の種々の深さの部位において測定した。1.9J/cm2の場合のレーザー誘起応力波のピーク圧力は、脳の深さ0、1、2および3mmの部位でそれぞれ74、35.2、31.5および25.9MPaであった。
【0057】
図6にEGFPの発現を示す。図6aはPEIのみを注入し、レーザー誘起応力波を適用した場合、図6bはDNA-PEI複合体を注入したがレーザー誘起応力波を適用しなかった場合、図6cは、DNA-PEI複合体を注入しレーザー誘起応力波を適用した場合の結果を示す。図6a〜図6cに示すように、DNA-PEI複合体を注入したがレーザー誘起応力波を適用しなかった場合にはEGFPのわずかな発現が認められただけであったが、DNA-PEI複合体を注入しレーザー誘起応力波を適用した場合に強いEGFPの発現が認められた。発現は脳室の空間に近接しレーザー誘起応力波を適用した部分の細胞のみで認められた。図6中のスケールバーは500μmである。
【0058】
図7にEGFP発現プラスミドとPEIの複合体を成マウスの歯状回(Dentate Gyrus)にレーザーフルエンス1.9J/cm2で導入した結果を示す。図7aは蛍光像を示し、図7bは同じ部分の通常の観察像を示す。図7cは蛍光観察像の拡大像を示す。図7dは、レーザー照射位置を示す。EGFPを発現した細胞は、光吸収体である標的ゴムから1.5mm深い位置に存在した。図7中、図7aおよび図7bのスケールバーは200μmであり、図7cのスケールバーは100μmである。
【0059】
図8に、左半球にDNAを注入した新生仔マウスのEGFPの発現を示す。図8中、黒矢印はDNAを注入した位置を示し、白矢印は脳表面を示す。スケールバーは1mmである。図8は、EGFPが左半球のみで発現していることを示す。またEGFP発現細胞はレーザー照射スポットの直下の大脳皮質の約3.5mmの深さの位置に存在していた。右半球の海馬にはEGFPの発現は認められなかった。このことは、本発明の方法は発生中の神経系への遺伝子導入にも有効であることを示す。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の薬剤導入方法の一実施形態を示す概念図である。
【図2】本発明の薬剤導入装置の構成を示す図である。
【図3】化学修飾薬剤としてDNA-カチオニックリポソームを用いた場合のin vitro での細胞への薬剤の導入効率を示す図である。
【図4】化学修飾薬剤としてDNA-ポリエチレンイミンを用いた場合のin vitroでの細胞への薬剤の導入効率を示す図である。
【図5】in vivoでの本発明の遺伝子導入方法の概要を示す図である。
【図6】in vivoで脳中に導入した遺伝子の発現を示す図である。図6aはPEIのみを注入し、レーザー誘起応力波を適用した場合、図6bはDNA-PEI複合体を注入したがレーザー誘起応力波を適用しなかった場合、図6cは、DNA-PEI複合体を注入しレーザー誘起応力波を適用した場合の結果を示す。
【図7】in vivoで脳中の歯状回(dentate gyrus)に導入した遺伝子の発現を示す図である。図7aは蛍光像を示し、図7bは同じ部分の通常の観察像を示す。図7cは蛍光観察像の拡大像を示す。図7dは、レーザー照射位置を示す。
【図8】in vivoで新生仔マウスの脳中に導入した遺伝子の発現を示す図である。
【図9】カテーテル状の薬剤導入装置の該略図である。
【符号の説明】
【0061】
1 化学修飾した薬剤(例えば、DNA-カチオニックリポソーム複合体)
2 細胞培養ディッシュ
3 細胞
4 光吸収体
5 レーザー光
6 レンズ
7 パルスレーザー発振器
8 レンズ
9 光吸収体
10 化学修飾を施した薬剤
11 パルスレーザー光
12 レーザー誘起プラズマ
13 透明PETシート
14 黒色天然ゴム
15 シリコーングリース
16 頭蓋骨
17 LISW
18 脳
19 導入トランスジーン
20 歯状回(dentate gyrus)
21 カテーテル
22 光ファイバー
23 ビーム調整光学系
24 光ファイバー用ルーメン
25 薬剤投与用ルーメン
26 薬剤投与器
27 光吸収体(ターゲット)・光ファイバー支持スリーブ
28 レーザー光
29 光吸収体(ターゲット)
30 レーザー誘起応力波

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤と相互作用して薬剤と複合体を形成し得る正電荷を有する物質で薬剤を化学修飾し、該化学修飾した薬剤を細胞の近傍に集積させ、該細胞の近傍に配置した光吸収体へレーザー光を照射し誘起された応力波を細胞へ適用することを含む、薬剤を細胞内に導入する方法。
【請求項2】
薬剤がDNA、RNA、タンパク質、糖類、ポリペプチド及びこれらの誘導体からなる群から選択される請求項1記載の薬剤を細胞内に導入する方法。
【請求項3】
薬剤を化学修飾する物質がカチオニックポリマーまたはカチオニックリポソームである請求項1または2に記載の薬剤を細胞内に導入する方法。
【請求項4】
光吸収体が、照射するレーザー光を吸収し、応力波を発生し得る物質でできた光吸収固体である請求項1〜3のいずれか1項に記載の薬剤を細胞内に導入する方法。
【請求項5】
光吸収体が、ゴム、樹脂および金属からなる群から選択される請求項4記載の薬剤を細胞内に導入する方法。
【請求項6】
レーザー光が500fs〜500nsのパルス幅のパルスレーザー光である請求項1〜5のいずれか1項に記載の薬剤を細胞内に導入する方法。
【請求項7】
レーザー光が0.1mJ/cm2〜10J/cm2のレーザーフルエンスを有する請求項1〜6のいずれか1項に記載の薬剤を細胞内に導入する方法。
【請求項8】
レーザー光の波長が180nm〜20μmである請求項1〜7のいずれか1項に記載の薬剤を細胞内に導入する方法。
【請求項9】
in vitroで行う請求項1〜8のいずれか1項に記載の薬剤を細胞内に導入する方法。
【請求項10】
in vivoで非ヒト動物細胞または植物細胞に薬剤を導入する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の薬剤を細胞内に導入する方法。
【請求項11】
薬剤と相互作用して薬剤と複合体を形成し得る正電荷を有する物質で化学修飾した薬剤および細胞を収納する容器、光吸収体およびレーザー光照射手段を含む、細胞に薬剤を導入するための薬剤導入装置であって、レーザー光を光吸収体に照射し、光吸収体から応力波を発生させ、該応力波を細胞に適用し、細胞に薬剤を導入する薬剤導入装置。
【請求項12】
薬剤がDNA、RNA、タンパク質、糖類、ポリペプチド及びこれらの誘導体からなる群から選択される請求項11記載の薬剤導入装置。
【請求項13】
薬剤を化学修飾する物質がカチオニックポリマーまたはカチオニックリポソームである請求項11または12に記載の薬剤導入装置。
【請求項14】
光吸収体が、照射するレーザー光を吸収し、応力波を発生し得る物質でできた光吸収固体である請求項11〜13のいずれか1項に記載の薬剤導入装置。
【請求項15】
光吸収体が、ゴム、樹脂および金属からなる群から選択される請求項14記載の薬剤導入装置。
【請求項16】
レーザー光が500fs〜500nsのパルス幅のパルスレーザー光である請求項11〜15のいずれか1項に記載の薬剤導入装置。
【請求項17】
レーザー光が0.1mJ/cm2〜10J/cm2のレーザーフルエンスを有する請求項11〜16のいずれか1項に記載の薬剤導入装置。
【請求項18】
レーザー光の波長が180nm〜20μmである請求項11〜17のいずれか1項に記載の薬剤導入装置。
【請求項19】
請求項11〜18のいずれか1項に記載の装置および薬剤と相互作用して薬剤と複合体を形成し得る正電荷を有する物質で化学修飾した薬剤を含む、細胞へ薬剤を導入するための薬剤導入システム。
【請求項20】
生体内の細胞に薬剤を導入するための装置であって、レーザー光を照射するレーザー光照射手段およびレーザー光を吸収し応力波を発生する光吸収体を含み、生体の管腔を通して、生体内の標的細胞にレーザー光を送達させることができる、カテーテル状の薬剤導入装置。
【請求項21】
レーザー光照射手段がレーザー発生手段およびレーザー伝送手段を含む請求項20記載のカテーテル状の薬剤導入装置。
【請求項22】
光吸収体がレーザー伝送手段の遠位端部に設置されており、伝送されたレーザー光が光吸収体に照射される、請求項20または21に記載のカテーテル状の薬剤導入装置。
【請求項23】
薬剤がDNA、RNA、タンパク質、糖類、ポリペプチド及びこれらの誘導体からなる群から選択される請求項20〜22のいずれか1項に記載のカテーテル状の薬剤導入装置。
【請求項24】
薬剤を化学修飾する物質がカチオニックポリマーまたはカチオニックリポソームである請求項20〜23のいずれか1項に記載のカテーテル状の薬剤導入装置。
【請求項25】
光吸収体が、照射するレーザー光を吸収し、応力波を発生し得る物質でできた光吸収固体である請求項20〜24のいずれか1項に記載のカテーテル状の薬剤導入装置。
【請求項26】
光吸収体が、ゴム、樹脂および金属からなる群から選択される請求項25記載の薬剤導入装置。
【請求項27】
光吸収体が色素であり、該色素が薬剤導入装置に含まれる色素投与手段により生体内の細胞近傍に供給される請求項20、21、23および24のいずれか1項に記載の薬剤導入装置。
【請求項28】
レーザー光が500fs〜500nsのパルス幅のパルスレーザー光である請求項20〜27のいずれか1項に記載のカテーテル状の薬剤導入装置。
【請求項29】
レーザー光が0.1mJ/cm2〜10J/cm2のレーザーフルエンスを有する請求項20〜28のいずれか1項に記載のカテーテル状の薬剤導入装置。
【請求項30】
レーザー光の波長が180nm〜20μmである請求項20〜29のいずれか1項に記載のカテーテル状の薬剤導入装置。
【請求項31】
さらに、生体内の細胞近傍に、薬剤と相互作用して薬剤と複合体を形成し得る正電荷を有する物質で化学修飾した薬剤を投与する手段を含む請求項20〜30のいずれか1項に記載のカテーテル状の薬剤導入装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−284379(P2007−284379A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−113384(P2006−113384)
【出願日】平成18年4月17日(2006.4.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1. 第28回日本分子生物学会年会にて発表 主催者名:第28回日本分子生物学会年会組織委員会 開催日:2005年12月7日〜2005年12月10日 発表番号:3P−1132 講演要旨集発行年月日:2005年11月25日 2. 電子通信回線での発表 サイト名:SPIE Digital Library 掲載アドレス:http://spiedl.aip.org/dbt/dbt.jsp?KEY=JBOPFO&Volume=10&Issue=6 刊行物名:Journal of Biomedical Optics 発行所:The International Society for Optical Engineering 巻数:November/December 2005 Vol.10,issue 6 掲載番号:060501 電子通信回線掲載日:2005年11月23日 3. 第126 年会日本薬学会(仙台2006)にて発表 主催者名:第126 年会日本薬学会組織委員会 開催日:2006年3月28日〜2006年3月30日 発表日:2006年3月30日 発表番号:P30[S]am−571 要旨集発行年月日:2006年3月6日 4. The 79th Annual Meeting of The Japanese Pharmacological Societyにて発表 主催者名:The Japanese Pharmacological Society(日本薬理学会) 開催日:2006年3月8日〜2006年3月10日 刊行物名:Journal of Pharmacological Sciences 発行所: The Japanese Pharmacological Society(日本薬理学会) 巻数:Vol.100 Suppl.I 2006 刊行物発行年月日:2006年2月20日
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】