説明

細菌シグナリング経路のレギュレーター

本発明は、式IIで示される化合物の調製方法を提供する。本発明はまた、式IIで示される新規な化合物と、医学的、科学的、および/または生物学的な用途におけるそれらの使用と、を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な合成方法と、そのような新規な方法の生成物と、これらの生成物の使用とに関する。特に、本発明は、置換型もしくは無置換型の二臭素化4-オキソアルカン酸類を脱カルボキシル化する方法を提供し、そのような方法の生成物に関する。本発明はまた、新規な化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
Bonnemaisoniaceae科は、熱帯および温帯のいずれの水域にも広く分布し、草食動物がかなり集中して生息する地域で繁茂する。この科のメンバー(Asparagopsis、Delisea、Ptilonia、Leptophyllis、Bonnemaisonia)は、一般的には、草食動物の好む味ではなく、より普遍的な属の3つ(Delisea、Asparagopsis、およびBonnemaisonia)、さらにはAsparagopsisおよびBonnemaisoniaのそれぞれの世代交代する異形四分胞子体期(それぞれFalkenbergiaおよびTrailliella)は、in vitroでいくつかの病原体の増殖を阻害することが明らかにされている。これらの属は、多種多様なハロゲン含有化合物を産生する。たとえば、Asparagopsisは、低分子揮発性ポリハロゲン化化合物を産生し;一方、Bonnemaisonea属、Delisea属、およびPtilonia属は、C7およびC9の組成を有するハロゲン含有化合物を産生する。これらとしては、フィンブロリド類、ポリハロゲン化1-オクテン-3-オン類、ハロメタン類、ハロアセトアルデヒド類、ハロアセトン類、ハロブテノン類、ハロ酢酸類、およびハロアクリル酸類が挙げられる。
【化1】

【0003】
これらの化合物は、強力な抗微生物活性を有し、自然界で摂食阻害物質として作用する。低分子揮発性化合物、たとえば、ハロメタン類、ハロアセトアルデヒド類、およびハロアセトン類は、一般に有毒であるので、可能性のあるいかなる抗微生物用途にも適さない。一方、ハロブテノン類、ポリハロゲン化1-オクテン-3-オン類、およびハロアクリル酸類は、それ自体で抗生物質として作用する可能性を有する。
【0004】
我々は、近縁の紅色海藻Delisea pulchraに由来する新規な抗微生物剤の開発に従事してきた(特許文献1および特許文献2(それらの開示内容はその全体が相互参照により本明細書に組み入れられるものとする)を参照されたい)。この研究の過程で、我々は、式IIで示されるさまざまなハロメチレン置換型アルカノン類を高収率で生成する反応を開発した。
【化2】

〔式中、R1、R2、およびR3は、同一であっても異なっていてもよく、独立して、H、ハロゲン、アルキル、アルコキシ、アルケニル、アルキニル、アリール、アリールアルキル、カルボキシル、アシル、アシルオキシ、アシルアミノ、ホルミル、およびシアノから選択され、無置換型か置換型か、場合により1個以上のヘテロ原子が介在するか否か、直鎖状か分枝鎖状か、親水性か疎水性か親フッ素性かを問わず、そしてXは、ハロゲンである〕
【0005】
ハロメチレンアルカノン類は、天然ハロブテノン類の類似体であり、カルボニルに対してα位にあるハロゲン基がアルキル基で置き換えられている。そのほかに、ハロメチレンアルカノン類はまた、天然ハロゲン化1-オクテン-3-オン類の可能性のある類似体であると考えることも可能であり、天然化合物中に存在するジハロメチレン末端基がハロメチレン基で置き換えられ、カルボニル基に対してα位にある臭素原子がアルキル基で置き換えられている。
【0006】
強力な生物学的活性があるにもかかわらず、ハロブテノン類、ハロゲン化1-オクテン-3-オン類、およびハロアクリル酸類の親構造に関連付けられるごくわずかな化合物が、文献に報告されているにすぎない。特に、これらの化合物の臭素化類似体に関する情報は、かなり少なく、海洋天然産物は、大半が臭素化されている。文献に報告されているブロモメチレンアルカノンのごくわずかな例の大部分は、ヒドロキシベンジル置換基を含有するものであり、これらの化合物の抗微生物活性については調べられていない。
【0007】
特許文献3、特許文献4、および特許文献5には、式IIで示される一般構造が開示されており、しかも、この構造の化合物は、潜在的に抗菌性を有し得る。しかしながら、これらの文献には、これらの化合物の調製方法が開示されておらず、そのうえ、式IIで示される一般構造を有する1つまたは2つのメンバーが例示されているにすぎない。
【0008】
我々の知るかぎり、現時点では、これらの類似体の合成に好適な一般的方法は存在しない。これらの化合物のわずかな報告された合成では、アセチレン性ケトン類の改変Baylis Hillman反応が利用される。しかしながら、この反応では、p-ニトロベンズアルデヒドなどの高反応性芳香族アルデヒドを使用する必要があるので、この反応の範囲は、ヒドロキシメチルフェニル置換クロロメチレンアルカノン類の合成のみに限定される。
【0009】
ハロメチレンアルカノン類中に存在するアセチルメチル基およびアリル性アルキル基は、標準的な遊離基ハロゲン化反応および遊離基酸化反応によりさらに官能基化できるはずなので、ハロメチレンアルカノン類は、ハロブテノン類およびハロゲン化1-オクテン-3-オン類のさらなる類似体の調製における主要な中間体であると考えることが可能である。
【特許文献1】国際公開第96/29392号パンフレット
【特許文献2】国際公開第99/53915号パンフレット
【特許文献3】国際公開第01/043739号パンフレット
【特許文献4】国際公開第02/047681号パンフレット
【特許文献5】国際公開第02/102370号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
我々は、驚くべきことに、温和な塩基性条件下で2,3-ジハロ-4-オキソアルカン酸類の脱カルボキシル化を介してハロメチレンアルカノン類を合成しうる条件を見いだした。この方法は、ブロモメチレン(bromethylene)アルカノン類の合成に特に有用である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
したがって、第1の態様において、本発明は、式II
【化3】

〔式中、R1、R2、およびR3は、同一であっても異なっていてもよく、独立して、H、ハロゲン、アルキル、アルコキシ、アルケニル、アルキニル、アリール、アリールアルキル、カルボキシル、アシル、アシルオキシ、アシルアミノ、ホルミル、およびシアノから選択され、無置換型か置換型か、場合により1個以上のヘテロ原子が介在するか否か、直鎖状か分枝鎖状か、親水性か疎水性か親フッ素性かを問わず、そしてXは、ハロゲンである〕
で示される化合物の調製方法を提供する。本方法は、式I
【化4】

〔式中、R1、R2、R3、およびXは、先に定義されるとおりである〕
で示される化合物の脱カルボキシル化を含み、その脱カルボキシル化は、温和な塩基の存在下で、場合により溶媒の存在下で行われる。
【0012】
第2の態様において、本発明は、本発明の第1の態様に係る方法により生成される式IIで示される化合物を提供する。
【0013】
第3の態様において、本発明は、医学的、科学的、および/または生物学的な用途における第2の態様に係る化合物の使用方法を提供する。
【0014】
第4の態様において、本発明は、式II
【化5】

〔式中、R1、R2、およびR3は、同一であっても異なっていてもよく、独立して、H、ハロゲン、アルキル、アルコキシ、アルケニル、アルキニル、アリール、アリールアルキル、カルボキシル、アシル、アシルオキシ、アシルアミノ、ホルミル、およびシアノから選択され、無置換型か置換型か、場合により1個以上のヘテロ原子が介在するか否か、直鎖状か分枝鎖状か、親水性か疎水性か親フッ素性かを問わず、そしてXは、ハロゲンである〕
で示される化合物を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
第1の態様において、本発明は、式II
【化6】

〔式中、R1、R2、およびR3は、同一であっても異なっていてもよく、独立して、H、ハロゲン、アルキル、アルコキシ、アルケニル、アルキニル、アリール、アリールアルキル、カルボキシル、アシル、アシルオキシ、アシルアミノ、ホルミル、およびシアノから選択され、無置換型か置換型か、場合により1個以上のヘテロ原子が介在するか否か、直鎖状か分枝鎖状か、親水性か疎水性か親フッ素性かを問わず、そしてXは、ハロゲンである〕
で示される化合物の調製方法を提供する。本方法は、式I
【化7】

〔式中、R1、R2、R3、およびXは、先に定義されるとおりである〕
で示される化合物の脱カルボキシル化を含み、その脱カルボキシル化は、温和な塩基の存在下で、場合により溶媒の存在下で行われる。
【0016】
式IIにおいて、特定の幾何配置が指定されたものとみなされるわけではない。たとえば、式は、E異性体およびZ異性体の両方を包含する。
【0017】
式Iで示される出発化合物および式IIで示されるハロメチレンアルカノンの置換基は、好ましくは、次のとおりである:
R1、R2、およびR3は、同一であっても異なっていてもよく、独立して、H、ハロゲン、アルキル、アルコキシ、オキソアルキル、アルケニル、アリール、またはアリールアルキルから選択され、無置換型か置換型か、場合により1個以上のヘテロ原子が介在するか否か、直鎖状か分枝鎖状か、親水性か疎水性か親フッ素性かを問わず;
Xは、ハロゲンである。
【0018】
より好ましくは、式Iで示される出発化合物および式IIで示されるハロメチレンアルカノンは、次の置換基を含む:
R1、R2、およびR3は、独立して、H、ハロゲン、アルキル、アルコキシ、オキソアルキル、アルケニル、アリール、またはアリールアルキルであり、無置換型か置換型か、場合により1個以上のヘテロ原子が介在するか否か、直鎖状か分枝鎖状か、親水性か疎水性か親フッ素性かを問わず;そして
Xは、Br、F、またはIである。
【0019】
最も好ましくは、式Iで示される出発ジハロ酸および式IIで示されるハロメチレンアルカノンは、次の置換基を含む:
R1、R2、およびR3は、同一であっても異なっていてもよく、独立して、H、ハロゲン、アルキル、アルコキシ、オキソアルキル、アルケニル、アリール、またはアリールアルキルから選択され、無置換型か置換型か、場合により1個以上のヘテロ原子が介在するか否か、直鎖状か分枝鎖状か、親水性か疎水性か親フッ素性かを問わず;そして
Xは、Brである。
【0020】
好ましくは、R1、R2、R3のうちの少なくとも1つは、アルキル基である。最も好ましくは、R1およびR2のうちの少なくとも1つはアルキルであり、かつR3はHである。
【0021】
本発明に係る方法は、Xが臭素であるときの式Iで示される化合物の脱カルボキシル化に特に適用される。
【0022】
好ましくは、本発明に係る方法により生成される式IIで示される化合物は、ハロメチレンアルカノン類から選択される。
【0023】
本明細書中で使用される「アルキル」という用語は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、第三級ブチルなどのようないずれの直鎖状アルキル基をも意味するものとする。好ましくは、アルキル基は、1〜10個の炭素原子、好ましくは1〜6個の炭素原子の低級アルキルである。アルキル基は、場合により、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、ハロ、ハロアルキル、ハロアルキニル、ヒドロキシ、アルコキシ、アルケニルオキシ、ハロアルコキシ、ハロアルケニルオキシ、ニトロ、アミノ、ニトロアルキル、ニトロアルケニル、ニトロアルキニル、ニトロヘテロシクリル、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アルケニルアミン、アルキニルアミノ、アシル、アルケノイル、アルキノイル、アシルアミノ、ジアシルアミノ、アシルオキシ、アルキルスルホニルオキシ、ヘテロシクリル、ヘテロシクロオキシ、ヘテロシクロアミノ、ハロヘテロシクリル、アルキルスルフェニル、アルキルカルボニルオキシ、アルキルチオ、アシルチオ、リン含有基(たとえばホスホノおよびホスフィニル)から選択される1個以上の基で置換されていてもよい。
【0024】
本明細書中で使用される「アルコキシ」という用語は、直鎖状もしくは分枝状のアルキルオキシ、好ましくはC1〜10アルコキシを表す。例としては、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ、およびさまざまなブトキシ異性体が挙げられる。
【0025】
本明細書中で使用される「アルケニル」という用語は、直鎖状、分枝状、または単環式もしくは多環式のアルケンおよびポリエンから形成される基を表す。置換基としては、先に定義されるモノ不飽和もしくはポリ不飽和のアルキル基またはシクロアルキル基、好ましくはC2〜10アルケニルが挙げられる。アルケニルの例としては、ビニル、アリル、1-メチルビニル、ブテニル、イソ-ブテニル、3-メチル-2-ブテニル、1-ペンテニル、シクロペンテニル、1-メチル-シクロペンテニル、1-ヘキセニル、3-ヘキセニル、シクロヘキセニル、1-ヘプテニル、3-ヘプテニル、1-オクテニル、シクロオクテニル、1-ノネニル、2-ノネニル、3-ノネニル、1-デセニル、3-デセニル、1,3-ブタジエニル、1,4-ペンタジエニル、1,3-シクロペンタジエニル、1,3-ヘキサジエニル、1,4-ヘキサジエニル、1,3-シクロヘキサジエニル、1,4-シクロヘキサジエニル、1,3-シクロヘプタジエニル、1,3,5-シクロヘプタトリエニル、または1,3,5,7-シクロオクタテトラエニルが挙げられる。
【0026】
本明細書中で使用される「ハロゲン」という用語は、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素、好ましくは臭素またはフッ素を表す。
【0027】
本明細書中で使用される「ヘテロ原子」という用語は、O、N、またはSを表す。
【0028】
単独でまたは「アシルオキシ」、「アシルチオ」、「アシルアミノ」、もしくは「ジアシルアミノ」のような複合語中で使用される「アシル」という用語は、脂肪族アシル基およびヘテロ環式環含有アシル基(ヘテロ環式アシルと呼ばれる)、好ましくはC1〜10アルカノイルを表す。アシルの例としては、カルバモイル;直鎖状もしくは分枝状のアルカノイル、たとえば、ホルミル、アセチル、プロパノイル、ブタノイル、2-メチルプロパノイル、ペンタノイル、2,2-ジメチルプロパノイル、ヘキサノイル、ヘプタノイル、オクタノイル、ノナノイル、デカノイル;アルコキシカルボニル、たとえば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、t-ブトキシカルボニル、t-ペンチルオキシカルボニル、またはヘプチルオキシカルボニル;シクロアルカンカルボニル、たとえば、シクロプロパンカルボニル、シクロブタンカルボニル、シクロペンタンカルボニル、またはシクロヘキサンカルボニル;アルカンスルホニル、たとえば、メタンスルホニルまたはエタンスルホニル;アルコキシスルホニル、たとえば、メトキシスルホニルまたはエトキシスルホニル;ヘテロシクロアルカンカルボニル;ヘテロシクリルアルカノイル(heterocyclyoalkanoyl)、たとえば、ピロリジニルアセチル、ピロリジニルプロパノイル、ピロリジニルブタノイル、ピロリジニルペンタノイル、ピロリジニルヘキサノイル、またはチアゾリジニルアセチル;ヘテロシクリルアルケノイル、たとえば、ヘテロシクリルプロペノイル、ヘテロシクリルブテノイル、ヘテロシクリルペンテノイル、またはヘテロシクリルヘキセノイル;あるいはヘテロシクリルグリオキシロイル、たとえば、チアゾリジニルグリオキシロイルまたはピロリジニルグリオキシロイルが挙げられる。
【0029】
本明細書中で使用される「アルキニル」という用語は、1個以上の三重結合を含有する直鎖状もしくは分枝状の炭化水素基を意味する。好適なアルキニル基としては、エチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、およびヘキセニルが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
本明細書中で使用される「アリール」という用語は、C6〜C10芳香族炭化水素基、たとえばフェニルまたはナフチルを意味する。
【0031】
「アリールアルキル」という用語は、たとえば、ベンジルを包含する。
【0032】
「親フッ素性」という用語は、特定の基間の高引力相互作用、たとえば、C4〜C10鎖長の高フッ素化アルキル基がペルフルオロアルカンおよびペルフルオロアルカンポリマーに対して有するような高引力相互作用を示すために使用される。
【0033】
温和な塩基性触媒は、反応媒体に不溶の触媒または反応媒体に可溶の触媒から選択されうる。不溶性塩基性触媒の例としては、塩基性樹脂、塩基性塩、および塩基性ポリマーが挙げられる。可溶性塩基性触媒の例としては、トリエチルアミン、ピリジン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、4-(ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP)、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク-7-エン(DBU)が挙げられる。
【0034】
好ましくは、脱カルボキシル化は、トリエチルアミンまたはDBUを単独でまたは他の塩基と混合して用いることにより行われる。より好ましくは、脱カルボキシル化は、トリエチルアミンを用いて行われる。
【0035】
脱カルボキシル化は、溶媒の存在下または不在下で温和な塩基を用いて実施可能である。溶媒は、任意の好適な溶媒でありうる。本発明における好ましい溶媒としては、アルキルアセテート、芳香族炭化水素、塩素化アルカン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、およびジオキサンが挙げられる。より好ましくは、溶媒は、アルキルアセテートおよび塩素化アルカンである。最も好ましくは、溶媒は、ジクロロメタンさらにはジクロロエタンおよびトリクロロエタンである。
【0036】
反応は、好ましくは、温和な温度で行われる。好ましくは、反応は、約-20〜150℃の範囲内の温度で行われる。
【0037】
反応時間は、約2時間〜12時間の範囲内またはそれ以上でありうるが、典型的には約2時間またはそれ以上である。反応条件が個々の基質特性および所望の反応速度に依存して異なりうることは理解されよう。
【0038】
本発明で使用される臭素化ケト酸類は、国際公開第02/00639号パンフレットとして公開された我々の国際特許出願PCT/AU01/00781号(その開示内容はその全体が相互参照により本明細書に組み入れられるものとする)に記載されるような対応する4-オキソ-2-アルケン酸類に臭素を付加することにより取得可能である。
【0039】
本発明者らは、塩基触媒および溶媒を慎重に選択することにより、副生成物をほとんど伴うことなく高収率で対応するハロメチレンアルカノン類を生じる臭素化ケト酸類の脱カルボキシル化を行いうることを見いだした。特に、ジクロロメタン中でトリエチルアミンを使用することにより、2,3-ジブロモケト酸類からブロモメチレンアルカノン類への非常に効率的な脱カルボキシル化を提供した。
【0040】
本発明に記載されるハロメチレンアルカノン類は安定であることが見いだされ、より長時間にわたり反応を継続させても、ハロメチレンアルカノン類のさらなる反応は観測されなかった。この反応は、きわめて一般的であると思われるので、数グラムスケールで反復して行った。
【0041】
第2の態様において、本発明は、本発明の第1の態様に係る方法により生成された式IIで示される化合物を提供する。好ましくは、式IIで示される化合物は、ハロメチレンアルカノンである。
【0042】
第3の態様において、本発明は、医学的、科学的、および/または生物学的な用途における式IIで示される化合物の使用方法を提供する。
【0043】
第3の態様の好ましい形態では、医学的、科学的、および/または生物学的な用途としては、家庭および産業の場で用いられる清浄剤;ファウリング防止ペイント、水処理用製品;哺乳動物の治療で用いられる抗菌剤;医療用もしくは外科用の器具で用いられる抗菌添加剤および保存剤、消毒剤、石鹸製剤、シャンプー製剤、手洗い用製剤、脱窒素(dentrification)用製剤、洗濯用および食器洗い用の洗剤、コンタクトレンズを処理するように設計された溶液などの局所使用に供される洗浄・処理溶液;機器および器具たとえばコンタクトレンズ;ならびに他の消毒用製剤および抗菌製剤から選択される製品における式IIで示される化合物の使用が挙げられる。
【0044】
第4の態様において、本発明は、式II
【化8】

〔式中、R1、R2、およびR3は、同一であっても異なっていてもよく、独立して、H、ハロゲン、アルキル、アルコキシ、アルケニル、アルキニル、アリール、アリールアルキル、カルボキシル、アシル、アシルオキシ、アシルアミノ、ホルミル、およびシアノから選択され、無置換型か置換型か、場合により1個以上のヘテロ原子が介在するか否か、直鎖状か分枝鎖状か、親水性か疎水性か親フッ素性かを問わず、そしてXは、ハロゲンである〕
で示される化合物を提供する。
【0045】
好ましい形態では、R1は、アルキルであり;R2は、アルキルまたはアリールであり;R3は、Hであり;Xは、BrまたはFである。
【0046】
より好ましくは、R1がメチルである場合、R2は、C10アルキル、メチル、CH2CH2CO2CH3、CH2CH2NO2、CH2CH2CH2OC(O)Phのいずれでもない。
【0047】
好ましくは、R1はC2〜10アルキルである。より好ましくは、R1はエチルである。
【0048】
好ましくは、XはBrである。
【0049】
実施例の化合物が好ましい。特に好ましいのは、化合物2-(ブロモメチレン)-3-ペンタノン(化合物123)である。
【0050】
興味深いのは、(ブロモメチレン)アルカノン類であり、その理由は、これらの化合物が重要な生物学的活性を示すことにある(図1〜6を参照されたい)。たとえば、3-(ブロモメチレン)-2-ブタノンおよび2-(ブロモメチレン)-3-ペンタノンは、二成分シグナルトランスダクション系の阻害剤として作用することが判明した(β-ガラクトシダーゼ活性を示す図1および2を参照されたい)。そのほかに、3-(ブロモメチル)-2-ヘキサノンおよび2-(ブロモメチレン)-3-ペンタノンは、Pseudomonas aeruginosa(PA01 DO)の付着を減少させる(図5)。
【0051】
さらに、(ブロモメチレン)アルカノン類は、特に興味深い。なぜなら、そのような化合物は、細菌の増殖に対してはごくわずかな効果しか有していないと思われるが、表面への細菌の付着を有意に制限することが明らかにされたからである。たとえば、化合物123は、Pseudomonas aeruginosaおよびPorphyromonas canorisの増殖に対してはそれほど有意な効果を示さないが、表面へのこれらの細菌の付着を有意に制限することが明らかにされる実施例9および10を参照されたい。
【実施例】
【0052】
以下の実施例により本発明についてさらに説明し例証する。実施例は、なんら本発明を限定するものと解釈すべきものではない。
【0053】
実施例1: ジブロモオキソアルカン酸類の一般的合成方法
無水ジクロロメタン(8ml)中の臭素(0.06mol)の溶液を無水ジクロロメタン(30ml)中の4-オキソ-2-アルケン酸(0.03mol)の氷冷溶液に徐々に添加した。混合物を氷浴中で0.5時間、次に室温で0.5時間攪拌した。得られた溶液をメタ重亜硫酸ナトリウム水溶液(0.5M, 30ml)およびブライン(30ml)で洗浄した。溶液を硫酸ナトリウムで脱水し、蒸発乾固させ、淡褐色の油である粗製の2,3-ジブロモ-4-オキソアルカン酸を得た(60〜65%)。
さらなる精製を行うことなく粗生成物を脱カルボキシル化工程に使用した。
【0054】
実施例2: 3-(ブロモメチレン)-2-アルカノン類および2-ブロモ-4-オキソ-2-アルケン酸類の一般的合成方法
ジクロロメタン(5ml)中のトリエチルアミン(8.7mmol)の溶液を無水ジクロロメタン(10ml)中のジブロモ-4-オキソアルカン酸(3.5mmol)の氷冷溶液に攪拌しながら滴下により加えた。混合物を氷中で2時間、次に室温で一晩攪拌した。得られた混合物を希塩酸(50ml, 2M)中に注ぎ、ジクロロメタン(3×20ml)で抽出した。合わせたジクロロメタン抽出物をブライン(100ml)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで脱水し、エバポレートし、明褐色の油として3-(ブロモメチレン)-2-アルカノンを得た。溶出液としてジクロロメタンを用いて粗生成物をシリカゲルのクロマトグラフィーにかけ、無色の油として3-(ブロモメチレン)-2-アルカノンを得た(52〜70%)。
ジクロロメタン/エチルアセテート(3:1)を用いてカラムのさらなる溶出を行って、室温で放置すると固化する油として2-ブロモ-4-オキソ-2-アルケン酸を得た(20〜30%)。
【0055】
実施例3:
以上に記載の一般的手順を用いて、(ブロモメチレン)アルカノン類および2-ブロモ-4-オキソ-2-アルケン酸類の以下の実施例を調製した。
【0056】
3-(ブロモメチレン)-2-ブタノン(180)
化合物80は既に開示されているが、本出願人の知るかぎり、その合成については報告されていない。
収率62%. νmax 3090, 2820, 1670, 1595, 1425, 1360, 1300, 1220, 1095, 1010, 800 cm 1. 1H n.m.r. δ(CDCl3) 1.96, s, 3H, CH3; 2.33, s, 3H, COCH3; 7.49, s, 1H, 3 CHBr. 13C n.m.r. δ(CDCl3): 14.7, C4;, 25.9, C1; 124.2, 3 CHBr; 143.2, C3; 195.2, C2. 質量スペクトル: m/z 164 (M (81Br), 10%); 162 (M (79Br), 20%); 149 (20); 147 (20); 121 (10), 119 (10).
【0057】
2-ブロモ-3-メチル-4-オキソ-2-ペンテン酸
収率27%. νmax 3250, 2900, 2850, 1740, 1650, 1450, 1370, 1300, 1270, 1190, 1110, 1010, 900, 870, 800, 760 cm-1. 1H n.m.r. δ(CDCl3) 1.69, s, 3H, CH3; 2.08, s, 3H. 質量スペクトル: m/z 208 (M (81Br), 10%); 206 (M (79Br), 10%); 193 (20); 191 (20); 163 (100); 165 (100).
【0058】
3-(ブロモメチレン)-2-ヘキサノン(化合物122)
収率58%. νmax 3090, 2950, 2850, 1670, 1590, 1460, 1420, 1360, 1310, 1210, 1120, 1020, 1010, 940, 800. 740 cm-1. 1H n.m.r. δ(CDCl3) 0.94, t, J 7.2 Hz, CH3; 1.42, m, 2H, CH2; 2.28, s, 3H, COCH3; 2.43, t, J 7.2 Hz, CH2; 7.48, s, 1H, 3 CHBr. 13C n.m.r. δ(CDCl3): 14.0, C6; 21.0, C5; 26.2, C1; 30.7, C4; 124.3, 3 CHBr; 147.5, C3; 195.2, C2. 質量スペクトル: m/z 192 (M (81Br), 10%); 190 (M (79Br), 10%); 177 (100); 175 (100); 149 (30), 147 (30), 121 (70), 119 (70), 111 (100), 93 (100).
【0059】
3-(ブロモメチレン)-2-ヘプタノン(化合物101)
収率68%. νmax 3090, 2959, 2860, 1679, 1595, 1465, 1364, 1308, 1206, 1118, 1015, 945, 800, 742 cm-1. 1H n.m.r. δ(CDCl3) 0.91, t, J 6.4 Hz, CH3; 1.34, m, 4H, (CH2)2; 2.32, s, 3H, COCH3; 2.46, t, J 7.4 Hz, CH2; 7.46, s, 1H, 3 CHBr. 13C n.m.r. δ(CDCl3): 13.7, C7; 22.6, C6; 26.1, C1; 28.5, C3; 29.7, C4; 123.9, 3 CHBr; 147.6, C3; 195.1, C2. 質量スペクトル: m/z 206 (M (81Br), 5%); 204 (M (79Br), 5%); 191 (100); 189 (100); 177 (30), 175 (30), 164 (40), 162 (40), 149 (100), 147 (100), 125 (70), 107 (70).
【0060】
3-(ブロモメチレン)-2-ノナノン
収率56%. νmax 3090, 2928, 2858, 1680, 1595, 1458, 1364, 1312, 1220 cm-1. 1H n.m.r. δ(CDCl3) 0.88, t, J 6.4 Hz, CH3; 1.30, m, 4H, (CH2)4; 2.32, s, 3H, COCH3; 2.44, t, J 7.4 Hz, CH2; 7.45, s, 1H, 3 CHBr. 13C n.m.r. δ(CDCl3): 13.9, C9; 22.4, C8; 26.2, C1; 27.5, C4; 28.7, C6; 29.1, C7; 31.4, C5; 123.9, 3 CHBr; 147.6, C3; 195.1, C2. 質量スペクトル: m/z 234 (M (81Br), 5%); 232 (M (79Br), 5%); 219 (25); 217 (25); 177 (15), 175 (15), 164 (40), 162 (40), 149 (100), 147 (100), 135 (100), 107 (70).
【0061】
3-(ブロモメチレン)-2-デカノン
収率71%. νmax 3090, 2926, 2856, 1680, 1594, 1465, 1432, 1363, 1301, 1220, 1127, 1055, 1028, 950, 802, 742 cm-1. 1H n.m.r. δ(CDCl3) 0.88, t, J 6.4 Hz, CH3;
1.30, m, 4H, (CH2)5; 2.31, s, 3H, COCH3; 2.45, t, J 7.2 Hz, CH2; 7.45, s, 1H, 3 CHBr. 13C n.m.r. δ(CDCl3): 14.1, C10; 22.6, C9; 26.3, C1; 27.7, C4; 28.8, C5; 29.0, C6; 29.6, C7; 31.8, C8; 124.1, 3 CHBr; 147.7, C3; 195.2, C2. 質量スペクトル: m/z 249 (M (81Br), 5%); 247 (M (79Br), 5%); 233 (20); 231 (20); 167 (100), 149 (100), 147 (100), 123 (80), 109 (100).
【0062】
3-(ブロモメチレン)-2-トリデカノン(化合物124)
化合物124は既に開示されているが、本出願人の知るかぎり、その合成については報告されていない。
収率52%. νmax 3090, 2925, 2854, 1680, 1594, 1465, 1363, 1297, 1217, 1127, 1045, 951, 802, 742 cm-1. 1H n.m.r. δ(CDCl3) 0.88, t, J 6.4 Hz, CH3; 1.26, m, 4H, (CH2)8; 2.32, s, 3H, COCH3; 2.45, t, J 6.8 Hz, CH2; 7.45, s, 1H, 3 CHBr. 13C n.m.r. δ(CDCl3): 14.5, C13; 23.1 C12; 26.6, CH3; 28.0, CH2; 29.2, CH2; 29.7, CH2; 29.8, CH2; 29.9, CH2; 30.0, CH2; 32.3, CH2; 124.4, 3 CHBr; 148.1, C3; 195.5, C2. 質量スペクトル: m/z 290 (M (81Br), 3%); 288 (M (79Br), 3%); 275 (10); 273 (10); 209 (100), 191 (40), 165 (30), 151 (90), 135 (50), 111 (100).
【0063】
2-(ブロモメチレン)-3-ペンタノン(化合物123)
一般的方法に記載されるように、4-オキソ-3-メチル-2-ヘキセン酸の臭素化に続いて脱カルボキシル化を行うことにより、2-(ブロモメチレン)-3-ペンタノンを調製した。
収率58%. νmax 3090, 2955, 2910, 1665, 1590, 1450, 1410, 1370, 1350, 1280, 1190, 1080, 1040, 980, 930, 770. 720 cm-1. 1H n.m.r.δ (CDCl3) 1.11, t, J 7.2 Hz, (H5)3; 1.97, s, (H1)3; 2.66, q, J 7.2 Hz, (H4)2; 7.47, s, 1H, 2 CHBr. 13C n.m.r. δ(CDCl3): 8.2, C5; 15.0, C4; 31.2, C1; 122.9, 2 CHBr; 142.5, C2; 198.2, C3. 質量スペクトル: m/z 178 (M (81Br), 60%); 176 (M (79Br), 60%); 149 (100); 147 (100); 121 (70), 119 (70).
【0064】
実施例4: 4-ブロモ-3-フェニルブト-3-エン-2-オン
ジクロロメタン(2ml)中の臭素(1g, 0.3ml)の溶液に、DBU(0.07g, 5.79mmol)を含有するジクロロメタン(20ml)中のケト酸(1g, 5.26mmol)の氷冷溶液を攪拌しながら滴下して加えた。溶液を室温で1時間攪拌し、メタ重亜硫酸ナトリウムの飽和溶液を注意深く添加することにより、過剰の臭素を破壊した。有機相を分離し、ブラインで洗浄し、無水硫酸ナトリウムで脱水し、減圧下でエバポレートした。残留粘性油をジクロロメタン/軽質石油で摩砕し、白色の固体(軽質石油から無色の顆粒)としてブロモメチレン化合物(0.74g, 62.5%)を得た。m.p. 97-100℃. υmax (ヌジョール) 3279, 1727, 1450, 137, 1295, 1124, 1087, 890 777 and 751 cm-1. λmax 275 (ε 26286), 221 (14377) および214 (17992) nm. 1H nmr (CDCl3) 7.78-7.80 (m, 2H, ArH); 7.44 (m, 3H, ArH); 6.24 (s, 1H, CH=Br); 1.80 (s, 3H, Me).
【0065】
実施例5: 二成分シグナルトランスダクション系(β-ガラクトシダーゼ活性)の阻害剤としての3-(ブロモメチレン)-2-ブタノン(80)および2-(ブロモメチレン)-3-ペンタノン(123)の作用
【化9】

【0066】
二成分シグナルトランスダクションアッセイ
【0067】
Taz-1アッセイ
Jin and Inouye (1993)の方法に準拠し次の変更を加えてTazアッセイを行った。100μg/mlアンピシリンおよび50μg/mlカナマイシンが追加された37℃のM9培地中でE. coli RU1012 (pYT0301)を一晩増殖させた。次に、この一晩培養物を用いて枝付きフラスコ中の50ml M9培地に接種し、次に、これを37℃でインキュベートし180rpmで振盪させた。増殖中の培養物のOD610を定期的にモニターし、OD610=0.2のときに培養物を氷上に配置した。3mMの最終濃度になるように枝付きフラスコに(M9塩に加えて調製されたアスパルテートストック溶液)。
【0068】
試験化合物または化合物の混合物をエタノールに溶解させ、所要の最終濃度になるように培養物に添加した。等体積のエタノールを用いて陰性対照を調製した。次に、37℃のインキュベーター中に培養物を配置し、4時間振盪させ(OD610約0.7)、その後、取り出して氷上に置いた。次に、Miller (1972)の方法に準拠してβ-ガラクトシダーゼアッセイを行うべく、サンプルを取り出した。アスパルテート(Taz系の天然インデューサー)を陽性対照として3ミリモルの濃度で使用した。
【0069】
結果からわかるように(図1および2を参照されたい)、3-(ブロモメチレン)-2-ブタノン(80)は、50μg/mlの濃度でβ-ガラクトシダーゼ活性を75%低下させた。2-(ブロモメチレン)-3-ペンタノン(123)は、25μg/mlの濃度で活性を40%低下させた。
【0070】
実施例6: Staphylococcus aureusの増殖に対する3-(ブロモメチレン)-2-ヘキサノン(122)および2-(ブロモメチレン)-3-ペンタノン(123)の影響
【化10】

【0071】
方法および結果
化合物122および123をStaphylococcus aureusの増殖阻害に関して試験した。枝付きフラスコ中で実験を行い、12時間かけて610nmで増殖を測定した。10および25μg/mlの濃度でフラノン類を含有する10mlの増殖培地(栄養ブロス)に100μlの一晩培養物を添加した。細菌を37℃でインキュベートした。
【0072】
結果からわかるように(図3および4を参照されたい)、フラノン123は、122と比較してS. aureusに対してより増殖阻害性であった。25μg/mlのフラノン123は、4時間延長された増殖遅滞期を与えた。25μg/mlのフラノン122および10μg/mlのフラノン123を用いた場合、わずかな増殖阻害を示すことが可能であった。
【0073】
実施例7: Pseudomonas aeruginosa(PA01 DO)の付着に対する3-(ブロモメチレン)-2-ヘキサノン(122)および2-(ブロモメチレン)-3-ペンタノン(123)の影響
【化11】

【0074】
以下のプロトコルに従って、Pseudomonas aeruginosa(PA01 DO)の付着に及ぼす影響に関してハロメチレンアルカノン122および123を試験した:
【0075】
200μlの体積を用いて96ウェルマイクロタイタープレート中で実験を行った。増殖培地はM9であった。また、プレートを37℃でインキュベートした。1%の一晩接種物を使用し、試験対象の化合物の濃度は、25および50μg/mlであった。24時間後の実験の終了時点で細胞の付着をモニターした。細胞をクリスタルバイオレットで染色し、595nmで吸光度を測定した。100%に設定された対照(PAO1 Do ETO)と比較して付着の減少を測定した。
【0076】
ハロメチレンアルカノンは、Pseudomonas aeruginosa(PA01 DO)の付着を阻害することが判明した(図5参照)。たとえば、3-(ブロモメチレン)-2-ヘキサノン(122)および2-(ブロモメチレン)-3-ペンタノン(123)は、50μg/mlの濃度でPseudomonas aeruginosa(PA01 DO)の付着を50%低下させた。
【0077】
実施例8: AI-2活性を検出するためのV. harveyiバイオアッセイ
既に報告されているようにV. harveyiバイオアッセイを行った(Surette and Bassler, 1998)。V. harveyiレポーター株BB170をAB培地中で振盪させながら30℃で16時間増殖させた。30℃に予備加温されたAB培地中に細胞を1:5,000に希釈し、90μlの希釈懸濁液を上清の入ったウェルに添加した。試験対象の化合物を所望の最終濃度が得られるようにウェルに添加し、各ウェル中の最終体積を100μlになるように滅菌培地で調整した。10μlのV. harveyi BB152(AI-1-およびAI-2+)上清を陽性対照として使用し、10μlのE. coli DH5α上清または滅菌培地を陰性対照として使用した。このE. coli株は、AI-2活性を有していないトランケート型タンパク質を生じる突然変異をAI-2シンターゼ遺伝子ygaG中に保有することが既に明らかにされている(Surette et al. 1998)。マイクロタイタープレートを175rpmで振盪させながら30℃でインキュベートした。Wallac (Gaithersburg, MD) model 1450 Microbeta Plus液体シンチレーションカウンターで化学発光設定を用いて、全発光の一時間ごとの測定を定量化した。マイクロプレートリーダー(Bio Rad, Hercules, CA)を用いてV. harveyiの細胞密度をモニターした。V. harveyi BB152の無細胞上清から得られる活性に対するパーセンテージとして、活性を報告する。発光の絶対値は実験間で著しく異なっていたが、得られた結果のパターンは再現性があった。
【0078】
ハロメチレンアルカノンは、Vibrio harveyi AI-2アッセイにおいて生物発光活性をアップレギュレートすることが判明した。たとえば、3-(ブロモメチレン)-2-ヘプタノン(101)、3-(ブロモメチレン)-2-ヘキサノン(122)、および2-(ブロモメチレン)-3-ペンタノン(123)は、50μg/mlの濃度でVibrio harveyi AI-2アッセイにおいて生物発光活性の有意な増加を引き起こした(図6参照)。
【0079】
実施例9: Porphyromonas canorisの付着および増殖に及ぼす化合物123および124の影響
【化12】

【0080】
以下のプロトコルを用いて、細菌Porphyromonas canorisの増殖および付着に及ぼす化合物123および124の影響を調べた:
【0081】
100μlの体積を用いて96ウェルマイクロタイタープレート中で実験を行った。増殖培地はBHIであった。また、プレートを37℃でインキュベートした。1%の一晩接種物を使用し、試験対象の化合物の濃度は50μg/mlであった。P. canorisを用いて24時間後の実験の終了時点で細胞の増殖および付着の両方をモニターした。細胞をクリスタルバイオレットで染色し、595nmで吸光度を測定した。
図7および8は、それぞれ、増殖および付着に及ぼす各化合物の影響を示している。
【0082】
実施例10: Pseudomonas aeruginosaの付着および増殖に及ぼす化合物123の影響
【化13】

【0083】
以下のプロトコルを用いて、細菌Pseudomonas aeruginosaの増殖および付着に及ぼす化合物123の影響を調べた:
【0084】
使用した培地がTBY培地の1:9希釈物であったことおよびインキュベーション時間が6時間であったことを除けば、実施例9と同様である。
図9および10は、それぞれ、増殖および付着に及ぼす化合物124の影響を示している。
【0085】
本明細書全体を通して、「comprise(含む)」という単語または「comprises」もしくは「comprising」のような変化形は、明示された要素、整数、もしくは工程または一群の要素、整数、もしくは工程を包含することを示唆するものと解釈されるであろうが、他の要素、整数、もしくは工程または一群の要素、整数、もしくは工程をなんら除外するものではない。
【0086】
本明細書に挙げた刊行物はすべて、参照により本明細書に組み入れられるものとする。本明細書に含まれている文献、作用、材料、装置、物品などに関する議論はいずれも、単に本発明の状況を示すことを目的としているにすぎない。これらの事項のいずれかもしくはすべてが先行基礎技術の一部をなすことまたは本願の各請求の範囲の優先日前に本発明に関連する分野の一般常識としてどこかに存在していたことを容認するものと解釈してはならない。
【0087】
当業者であればわかるであろうが、広義に記述された本発明の精神または範囲から逸脱することなく、特定の実施形態に示された本発明に、多数の変更および/または修正を加えることが可能である。したがって、本発明の実施形態は、いかなる点においても、例示的なものであって限定的なものではないとみなされる。
【0088】
参考文献
Fenical, W and Mconnell, O.J. Antibiotics and antiseptics compounds from the family Bonnemaisoniaceae, Proc. Int. Seaweed. Sym., 1979, 9, 387-400.
Jin, T., and M. Inouye. 1993. Ligand binding to the receptor domain regulates the ratio of kinase to phosphatase activities of the signalling domain of the hybrid Escherichia coli transmembrane receptor, Taz1. J. Mol. Biol. 232: 484-49
McConnell, O.J., Fenical, W. Polyhalogenated 1 octen 3 ones, antibacterial metabolites from the red seaweed Bonnemaisonia Asparagoides, Tetrahedron Letts., 1977, 1851-1854.
Miller, J. H. 1972. Experiments in molecular genetics. Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor,. N.Y.
Surette, M. G., and B. L. Bassler. 1998. Quorum sensing in Escherichia coli and Salmonella typhimurium. Proc. Natl. Acad. Sci., USA 95:7046-7050.
Surette, M. G., M. B. Miller, and B. L. Bassler. 1999. Quorum sensing in Escherichia coli, Salmonella typhimurium, and Vibrio harveyi: a new family of genes responsible for autoinducer production. Proc. Natl. Acad. Sci., USA 96:1639-1644.
Wei, Han Xun, Kim, S.H., Caputo, T.D., Purkiss, D.W. and Li, G., Highly stereoselective alpha hydroxylation/chlorination of alpha,beta acetylenic ketones An efficient approach to beta halegeno Baylis Hillman adducts, Tetrahedron, 2000, 56, 2397-2401.
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】先行技術の化合物3-(ブロモメチレン)-2-ブタノン(80)のβ-ガラクトシダーゼアッセイの結果を示している。
【図2】2-(ブロモメチレン)-3-ペンタノン(123)のβ-ガラクトシダーゼアッセイの結果を示している。
【図3】Staphylococcus aureusの増殖に及ぼす3-(ブロモメチレン)-2-ヘキサノン(122)の影響を表すグラフを示している。吸光度は、細菌数に比例する。
【図4】Staphylococcus aureusの増殖に及ぼす2-(ブロモメチレン)-3-ペンタノン(123)の影響を表すグラフを示している。吸光度は、細菌数に比例する。
【図5】Pseudomonas aeruginosa(PA01 DO)の付着に対する3-(ブロモメチレン)-2-ヘキサノン(122)および2-(ブロモメチレン)-3-ペンタノン(123)の影響を示している。
【図6】Vibrio harveyi AI-2アッセイにおける生物発光活性に及ぼす3-(ブロモメチレン)-2-ヘプタノン(101)、3-(ブロモメチレン)-2-ヘキサノン(122)、および2-(ブロモメチレン)-3-ペンタノン(123)の影響を示している。
【図7】Porphyromonas canorisの増殖に及ぼす2-(ブロモメチレン)-3-ペンタノン(123)および3-(ブロモメチレン)-2-トリデカノン(化合物124)の影響を示している。
【図8】Porphyromonas canorisの付着に及ぼす2-(ブロモメチレン)-3-ペンタノン(123)および3-(ブロモメチレン)-2-トリデカノン(化合物124)の影響を示している。
【図9】Pseudomonas aeruginosaの増殖に及ぼす2-(ブロモメチレン)-3-ペンタノン(123)の影響を示している。
【図10】Pseudomonas aeruginosaの付着に及ぼす2-(ブロモメチレン)-3-ペンタノン(123)の影響を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式II
【化1】

〔式中、R1、R2、およびR3は、同一であっても異なっていてもよく、独立して、H、ハロゲン、アルキル、アルコキシ、アルケニル、アルキニル、アリール、アリールアルキル、カルボキシル、アシル、アシルオキシ、アシルアミノ、ホルミル、およびシアノから選択され、無置換型か置換型か、場合により1個以上のヘテロ原子が介在するか否か、直鎖状か分枝鎖状かを問わず、そしてXは、ハロゲンである〕
で示される化合物を調製する方法であって、
式I
【化2】

〔式中、R1、R2、R3、およびXは、先に定義されるとおりである〕
で示される化合物を脱カルボキシル化することを含み、
該脱カルボキシル化が、温和な塩基の存在下で、場合により溶媒の存在下で行われる、
上記方法。
【請求項2】
R1、R2、およびR3が、同一であっても異なっていてもよく、独立して、H、ハロゲン、アルキル、アルコキシ、オキソアルキル、アルケニル、アリール、またはアリールアルキルから選択され、無置換型か置換型か、場合により1個以上のヘテロ原子が介在するか否か、直鎖状か分枝鎖状かを問わず;
Xがハロゲンである;
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
R1、R2、およびR3が、独立して、H、ハロゲン、アルキル、アルコキシ、オキソアルキル、アルケニル、アリール、またはアリールアルキルであり、無置換型か置換型か、場合により1個以上のヘテロ原子が介在するか否か、直鎖状か分枝鎖状かを問わず;かつ
Xが、Br、F、またはIである;
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
R1、R2、およびR3が、同一であっても異なっていてもよく、独立して、H、ハロゲン、アルキル、アルコキシ、オキソアルキル、アルケニル、アリール、またはアリールアルキルから選択され、無置換型か置換型か、場合により1個以上のヘテロ原子が介在するか否か、直鎖状か分枝鎖状かを問わず;かつ
XがBrである;
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
R1、R2、R3のうちの少なくとも1つがアルキル基である請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
R1およびR2のうちの少なくとも1つがアルキルであり、かつR3がHである請求項5に記載の方法。
【請求項7】
XがBrである請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
温和な塩基が、場合により他の塩基の存在下で、トリエチルアミンまたはDBUから選択される請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
温和な塩基がトリエチルアミンである請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
溶媒が、ジクロロメタン、ジクロロエタン、およびトリクロロエタンよりなる群から選択される請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の方法により生成される、式IIで示される化合物。
【請求項12】
式II:
【化3】

〔式中、
R1はアルキルであり;
R2はアルキルまたはアリールであり;
R3はHであり;
XはBrまたはFである〕
で示される化合物。
【請求項13】
R1がメチルである場合、R2は、C10アルキル、メチル、CH2CH2CO2CH3、CH2CH2NO2、CH2CH2CH2OC(O)Phのいずれでもないことを条件とする請求項12に記載の化合物。
【請求項14】
R1がC2〜10アルキルである請求項12または請求項13に記載の化合物。
【請求項15】
R1がエチルである請求項14に記載の化合物。
【請求項16】
XがBrである請求項12に記載の化合物。
【請求項17】
化合物2-(ブロモメチレン)-3-ペンタノン。
【請求項18】
家庭または産業の場で使用するための清浄剤;ファウリング防止ペイント、水処理用製品;哺乳動物の治療で用いられる抗菌剤;医療用もしくは外科用の器具で用いられる抗菌添加剤または保存剤、消毒剤、石鹸製剤、シャンプー製剤、手洗い用製剤、脱窒素(dentrification)用製剤、洗濯用または食器洗い用の洗剤、局所使用に供される洗浄・処理溶液;およびコンタクトレンズから選択される製品における、請求項12〜17のいずれかに記載の式IIで示される化合物の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2008−503450(P2008−503450A)
【公表日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−515744(P2007−515744)
【出願日】平成17年6月21日(2005.6.21)
【国際出願番号】PCT/AU2005/000881
【国際公開番号】WO2005/123645
【国際公開日】平成17年12月29日(2005.12.29)
【出願人】(506188703)バイオシグナル リミテッド (3)
【Fターム(参考)】