説明

経路探索システム及び方法、搬送システム、並びにコンピュータプログラム

【課題】経路探索システムにおいて、取り扱うデータ数及び演算負荷を低減しつつ、最適経路を探索する。
【解決手段】経路探索システム(100)は、被搬送物を搬送するための搬送車(2)を該搬送車の経路上で出発地点から目標地点まで移動させる際の最適経路を探索する。経路探索システムは、複数の作業装置を含んで構成される集合を少なくとも一つ含む複数の集合の各々をノードとし且つ該複数の集合の相互間をリンクとして規定される、搬送車の移動コストを格納する格納手段(9)と、格納された移動コストに基づいて、最適経路の少なくとも一部を、複数の集合を結ぶ単位で探索する経路探索手段(6)と、探索された少なくとも一部と、複数の集合のうち前記探索された少なくとも一部に含まれる一又は複数の集合の内部に存在する前記経路の部分とを統合することで、最適経路を特定する経路特定手段(7)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、半導体装置製造用の各種基板などの被搬送物を、工場内に敷設された軌道上を移動するビークル等の搬送車で搬送する搬送システムにおいて、最適経路を探索する経路探索システム及び方法の技術分野に関する。本発明は更に、かかる搬送システム及びコンピュータをこのような経路探索システムとして機能させるコンピュータプログラムの技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の経路探索システムとして、例えば特許文献1には、複数の分岐や合流を含んで張り巡らされた軌道上で出発地点から目的地点までの最適な経路を探索するのに、所謂“ダイクストラ法”を利用した技術が開示されている。この技術では、全経路の各々が、最適経路の候補とされる。該各々の候補を構成するリンクにおける移動コスト(即ち、分岐点や合流点に相当するノード間を走行するのにかかる時間或いは時間に対応する評価値)が、出発地点から目標地点までについて積算される。その後、候補のうち出発地点から目的地点までの移動コストが最小となるものが、最適経路として決定される。
【0003】
【特許文献1】特開平10−320047号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の背景技術によれば、作業装置を夫々ノードとし且つ作業装置間に位置する経路部分を夫々リンクとして、移動コストが設定されている。このため、経路探索において取り扱うデータ数が膨大となり、特に近時における経路の複雑高度化或いは作業装置数の増大に伴って、コンピュータにかかる負荷は膨大となるという技術的問題点がある。
【0005】
本発明は、例えば、上述した問題点に鑑みなされたものであり、取り扱うデータ数及び演算負荷を低減しつつ、最適経路を探索可能である経路探索システム及び方法、これを備えた搬送システム、並びにコンピュータをこのような経路探索システムとして機能させるコンピュータプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の経路探索システムは上記課題を解決するために、被搬送物を搬送するための搬送車を該搬送車の経路上で出発地点から目標地点まで移動させる際の最適経路を探索する経路探索システムであって、前記被搬送物に対して各種処理を施すと共に前記経路に沿って並ぶ複数の作業装置を含んで構成される集合を少なくとも一つ含む複数の集合の各々をノードとし且つ該複数の集合の相互間をリンクとして規定される、前記搬送車の移動コストを格納する格納手段と、前記格納された移動コストに基づいて、前記最適経路の少なくとも一部を、前記複数の集合を結ぶ単位で探索する経路探索手段と、前記探索された少なくとも一部と、前記複数の集合のうち前記探索された少なくとも一部に含まれる一又は複数の集合の内部に存在する前記経路の部分とを統合することで、前記最適経路を特定する経路特定手段とを備える。
【0007】
本発明の経路探索システムによれば、実際の経路探索の動作に先立って、例えばデータベース、メモリ等の格納手段に、経路上における搬送車の移動コストが格納される。ここに「経路」とは、例えばレールなど、被搬送物が搭載された又はされない状態で搬送車が移動可能である、経路を意味する。「搬送車」とは、例えばビークル等の経路上を移動すると共に被搬送物を積載可能に構成された台車等の車を意味する。
【0008】
本発明では特に、移動コストは、複数の作業装置を含んで構成される集合を少なくとも一つ含む複数の集合の各々をノードとし且つ該複数の集合の相互間をリンクとして規定される。ここに「作業装置」とは、例えば半導体基板などの被搬送物に対して、成膜、加熱、配線、エッチング等を行う製造装置や、被搬送物の一時的な格納を行うストッカを含む、被搬送物に対して各種処理を施す装置を意味する。作業装置は、経路の脇に並んでいるか、又は経路の一部をなすように並んでいる。経路の一部をなす場合としては、例えば、単一の作業装置における搬入口と搬出口との経路における位置が相互に異なることで、経路の一部をなすように並ぶ場合がある。本発明に係る「集合」は、このような作業装置を複数含んで構成される集合を含む。但し、作業装置の一つから構成される集合を含んでもよい。集合の間には、搬送車が移動される経路(以下適宜「集合間経路」と呼ぶ)が存在し、集合の内部にも、搬送車が移動される経路(以下適宜「集合内経路」)が存在する。例えば、個々の集合は、個々の製造ラインに対応してもよいし、複数の集合が単一の製造ラインの中に存在していてもよい。
【0009】
本発明に係る「移動コスト」は、このように複数の作業装置を含んでなる集合の相互間の経路部分が夫々リンクとされると共に集合が夫々ノードとされた上で、規定されている。「リンク」は、経路において、分岐点、合流点、交差点などの間を直接結んでおり、移動の仕方について単純に進むことしか選択枝がない、一本の直線又は曲線状若しくは屈曲状の経路部分に対応する。「ノード」は、経路において、リンクの端に位置しており、典型的には、分岐点、合流点、交差点、行き止り点、更にはストッカの搬出搬入箇所など、搬送経路における移動の仕方についての選択枝が複数存在する点或いは箇所に対応する。「移動コスト」とは、このような集合をノードとし且つ集合間をリンクとする経路探索を行う際に、一つのノードからこれに隣接するノードまで一つのリンクを介して移動するのにかかる時間若しくは時間に比例する指標であるコストを意味する。例えば、同一の距離でも、混雑等により移動時間が長ければ、移動コストの値は大きくなる。このような移動コストを用いれば、次に説明するように、典型的には、上述の如く集合に対応した移動コストを用いてのダイクストラ法によって、複数の集合を結ぶ単位での経路探索を行える。
【0010】
特に、このように複数の作業装置を含んでなる集合をノードとして、移動コストが規定されるので、作業装置をノードとする場合と比較して、複数の作業装置を集合にまとめた分だけ、経路探索に供される移動コストの総数は、削減される。即ち、格納手段に格納される移動コストのデータ量は、先ず低減される。また、作業装置等の設備が新規に設置される場合に、その新規設備は何れかのノードに設置される。この何れかのノードを含んでなる経路における移動コストの修正では、その新規設備が設置されたノードのみにおいて、移動コストが算出されればよく、既に使用されている規定済みの移動コストは、該経路において流用可能である。このため、新規設備を立ち上げる時間を短縮することができる。
【0011】
尚、以上のような移動コストは、例えば過去における各集合に関しての平均移動時間から予め特定して、格納手段に格納してもよい。或いは、実際の経路探索の動作を行う際に先ず、経路における混雑状況等を考慮して、かかる移動コストを検出或いは算出し、格納手段に新たに格納したり、その格納内容を更新してもよい。或いは、搬送作業の際に、搬送車が各集合を移動するのに要した移動時間が実測され、搬送作業が終了されると直ちに、その経路についてのコスト計算が実行或いは再実行されることで、格納手段の格納内容が新設或いは更新されてもよい。この場合に、移動コストは、最新の経路の混雑状況を反映させたものとなる。
【0012】
その後、実際の経路探索の動作時には、例えばプロセッサ、メモリ等を備えてなる経路探索手段によって、上述の如く格納手段に格納された移動コストに基づいて、最適経路の少なくとも一部が、複数の集合を結ぶ単位で探索される。例えば、複数の集合のうち出発地点を含む出発集合から、複数の集合のうち目的地点を含む目標集合までの経路が、出発集合から目標集合まで複数の集合を結ぶ形で探索される。言い換えれば、先ずは、少なくとも最適経路の一部について、経路探索手段によって、例えば製造ライン単位など、集合を結ぶ単位での大まかな経路探索が行われる。
【0013】
このように経路探索手段による経路探索では、少なくとも最適経路の一部について、集合の内部において個々の作業装置間を結ぶ経路部分が、夫々リンクとして扱われるのではなく、集合の相互間を結ぶ経路部分が夫々リンクとして扱われる。これと共に、個々の作業装置が夫々ノードとして扱われるのではなく、集合が夫々ノードとして扱われる。従って、個々の作業装置間を結ぶ経路部分が夫々リンクとして扱われ、個々の作業装置が夫々ノードとして扱われる場合における、経路探索と比べて、データ量及び演算量が飛躍的に低減される。特に、格納手段に格納される移動コストの総数の削減に対して、移動コストに基づく経路探索におけるデータ量及び演算量の削減は、極めて顕著となる。経路探索で用いる移動コストの総数の小規模な削減であっても、経路探索においては大規模なデータ量及び演算量の削減に繋がる。
【0014】
このような経路探索手段による探索と相前後して又は並列に、例えばプロセッサ、メモリ等を備えてなる経路特定手段によって、探索された最適経路の少なくとも一部と、この少なくとも一部に含まれる一又は複数の集合の内部に存在する経路の部分とが統合されることで、最適経路の全体が特定される。ここに「統合する」とは、探索された集合を結ぶ集合間経路と、探索された集合の各々の内部に存在する集合内経路とを、一本の道筋に結び合わせて最適経路とすることを意味する。例えば、経路探索手段による探索の後に、探索された集合の内部の夫々について、経路特定手段によってダイクストラ法による集合内経路の探索が行われる。或いは、経路探索手段による探索の以前に、任意の集合の内部の夫々について、経路特定手段によってダイクストラ法による集合内経路の探索が行われて、探索された集合内経路が集合に対応付けられて格納手段等に格納され、その後、経路探索手段により探索された集合に対応する集合内経路が格納手段等から呼び出されてもよい。
【0015】
ここで特に、本願発明者の研究によれば、全体として複雑高度化された経路であっても、一つの集合についてみれば、その内部における経路及び経路を介しての移動は、相対的に単純であり、移動にかかる時間は、短時間であることが判明している。言い換えれば、同一集合内であれば、目標地点がどの作業装置であったとしても、時間的に或いはコスト的に大差がないことが判明している。よって、上述の経路特定手段による集合内経路の探索或いは決定は、例えば同一製造ライン内における経路の探索であれば、複数の製造ラインに跨る経路の探索或いは決定と比べて、飛躍的に単純なもので足りる。例えば、ダイクストラ法を用いても、個々の集合についてみれば、リンク及びノードの構成は単純なものであり、経路探索にかかるデータ量及び演算処理も、飛躍的に低減されることになる。従って、先ず集合を結ぶ単位で大まかな経路探索を行って、最適経路をなす集合及び集合間経路を決定した上で、各集合内における集合内経路を特定し、これらを結んで得られる最適経路は、初めから経路を最大限に細かく見てダイクストラ法により経路探索を行った場合に得られる最適経路と比べて、実践上は殆ど又は全く遜色のないものとなる。
【0016】
そこで本発明において、経路探索手段により、集合を結ぶ単位で大まかな経路探索を行うと共に、経路特定手段により、集合内での経路探索或いは経路の決定を行えば、決定される最適経路は、実践上は、理論上における真の最適経路と殆ど又は全く同じ経路となる。或いは、少なくとも、真の最適経路に相当に近いものとなる。他方で、このような適切な経路を求める際に、集合単位で経路探索するのに必要なデータ量及び演算量と集合内で経路探索或いは決定を行うのに必要なデータ量及び演算量との合算は、一段階で真の最適経路を探索する場合と比べて飛躍的に低減されている。
【0017】
以上の結果、取り扱うデータ数及び演算負荷を低減しつつ、最適経路或いは実践的な意味での最適経路を探索できる。従って、リアルタイム或いはそれに近い形で経路探索を行うことも容易となり、搬送システムにおいて迅速な搬送が可能となる。更に、これらを実践するために、経済性に見合わないような高性能のコンピュータを用いることも効果的に回避できる。
【0018】
尚、本発明で探索される最適経路の精度を高める観点からは、一集合にまとめられる複数の作業装置は、経路探索上で同一ノードとして扱っても、最終的に探索される経路に差がでないような関係にある、典型的に近くに横並びになっているような複数の作業装置とするのがよい。例えば、小規模な製造ラインであって、その製造ライン内における移動が短時間で行われ得るような製造ラインであれば、一つの集合と一つの製造ラインとを対応させるのがよい。他方、大規模な製造ラインであって、その製造ライン内における移動が長時間で行われ得るような製造ラインであれば、複数の集合と一つの製造ラインとを対応させるのがよい。
【0019】
他方で、複数の作業装置を集合にまとめる箇所が多い程、移動コストの総数は低減され、よって経路探索時におけるデータ量及び演算量の削減の効果は、より顕著に得られる。但し、集合にまとめる箇所が一箇所だけであっても、経路探索時におけるデータ量及び演算量の削減の効果は、相応に得られる。
【0020】
加えて、集合間の経路と集合との接続点、即ち、各集合の搬出口及び搬入口は、一つの集合に対して複数個所存在してもよい。一つの集合を一つのノードとして扱えば、上述の如き移動時間又は移動コストを用いた経路探索は、極めて単純化できる。或いは、搬出口及び搬入口の少なくとも一方が複数ある場合、搬出口又は搬入口別に複数の集合として扱って、即ち複数のノードであるものとして扱っても(従って、リンクもそれに応じて増えても)、移動時間又は移動コストを用いた経路探索は、全ての作業装置の各々をノードとして扱う場合と比べれば、なお顕著に単純化できる。
【0021】
本発明の経路探索システムの一態様では、前記経路特定手段は、前記複数の作業装置間を夫々結ぶ前記経路の部分を夫々リンクとすると共に前記複数の作業装置を夫々ノードとする前記搬送車の移動コストに基づいて、前記経路の部分を探索し、前記探索された少なくとも一部と前記探索された経路の部分とを統合することで、最適経路を特定する。
【0022】
この態様によれば、各集合内における経路探索は、作業装置をノードとし且つ作業装置間をリンクとする移動コストを用いて、典型的にはダイクストラ法によって行われるが、例えば同一製造ラインなど、同一集合の内部での経路の探索である。このため、経路特定手段による経路探索に必要なデータ量及び演算負荷が、過度に増大することはない。
【0023】
或いは本発明の経路探索システムの他の態様では、前記格納手段は、前記ノード及び前記リンクに対応付けて、前記集合の内部における前記経路の部分を示す集合内経路情報を更に格納しており、前記経路特定手段は、前記格納された集合内経路情報を参照することで、前記探索された少なくとも一部に接続される経路の部分を決定し、前記探索された少なくとも一部と前記決定された経路の部分とを統合することで、最適経路を特定する。
【0024】
この態様によれば、各集合内における経路の決定は、格納手段に格納された集合内経路情報を参照することで行われるが、例えば同一製造ラインなど、同一集合の内部での経路の決定である。このため、経路特定手段による経路の決定に必要なデータ量及び演算負荷が、過度に増大することはない。
【0025】
本発明の経路探索システムの他の態様では、前記搬送車が移動する際の移動状況を検出する状態検出手段を更に備え、前記経路探索手段は、前記検出された移動状況に対応して、前記経路を再探索する。
【0026】
この態様によれば、例えばプロセッサ、センサ等を有する状態検出手段によって、例えば各集合内を移動する際の平均移動速度、混雑状態や、集合間を移動する際の平均移動速度、混雑状態などの、搬送車が移動する際の移動状況が検出される。すると、経路探索手段によって、検出された移動状況に対応して、経路が再探索される。従って、特定の集合で或いは特定の集合間で平均移動速度が変化したり、故障や搬送量の過多に起因して混雑やデッドロックが発生したり、回復や搬送量の低下に起因して混雑やデッドロックが解消した場合に、最適経路が探索され直される。従って、リアルタイム的に各時点に見合った最適経路が探索されることとなり、実践上極めて便利である。特に、演算負荷が低減されているので、このように再探索を行う場合に特に有利である。仮に頻繁に再探索を行っても特に問題は生じない。
【0027】
尚、このような経路探索手段による再探索に加えて又は代えて、経路特定手段による最適経路による再特定が、状態検出手段により検出された移動状況に対応して、行われてもよい。
【0028】
本発明の経路探索システムの他の態様では、前記経路の一部を、前記経路探索手段により前記最適経路を探索する上で、使用不可能に設定する設定手段を更に備え、前記経路探索手段は、前記使用不可能に設定された一部を除外して、前記経路を探索する。
【0029】
この態様によれば、例えばキーボード、マウス、プロセッサ等を備えてなる設定手段によって、経路の一部が、ユーザによって、経路探索手段により最適経路を探索する上で、使用不可能に設定される。或いは、経路の一部が、故障診断を行う手段若しくは混雑診断を行う手段による診断結果に応じて、又はメンテナンスが行われている箇所を特定する手段による特定結果に応じて、経路探索手段により最適経路を探索する上で、使用不可能に設定される。例えば、前述の状況検出手段の検出結果により、移動状況の異常が検出された場合に、これに対応する経路に使用不可能フラグを立てることで、実質的に使用不可能に設定されてもよい。すると、経路探索手段によって、このように実質的に使用不可能に設定された一部が除外された上で、経路が探索される。或いは、既に経路が設定されていた場合に、設定手段によって、経路の一部がこのように実質的に使用不可能に設定されると、経路探索手段によって、このように実質的に使用不可能に設定された一部が除外された上で、経路が再探索される。従って、経路探索におけるデータ量及び演算負荷は、経路の一部を除外して計算する分だけ、飛躍的に低減されると共に、使用不可能な一部を含む最適経路が決定されるのを未然防止できる。
【0030】
尚、このような経路探索手段による、使用不可能に設定された一部を除外しての経路探索に加えて又は代えて、経路特定手段による、使用不可能に設定された一部を除外しての最適経路の特定が、行われてもよい。
【0031】
或いは本発明の経路探索システムの他の態様では、前記経路の一部を使用可能に設定する又は前記経路に対して使用可能な一部を追加する設定手段を更に備え、前記経路探索手段は、前記使用可能に設定された又は追加された一部を入れて、前記経路を探索する。
【0032】
この態様によれば、例えばキーボード、マウス、プロセッサ等を備えてなる設定手段によって、経路の一部が、ユーザによって使用可能に設定される。或いは、経路の一部が、故障診断を行う手段若しくは混雑診断を行う手段による診断結果に応じて、又はメンテナンスが行われている箇所を特定する手段による特定結果に応じて、使用可能に設定される。例えば、前述の状況検出手段の検出結果に応じて、使用可能に設定されてもよい。すると、経路探索手段によって、このように使用可能に設定された又は追加された一部が入れられた上で、経路が探索される。或いは、既に経路が設定されていた場合に、設定手段によって、経路の一部が使用可能に設定される又は追加されると、経路探索手段によって、使用可能に設定された又は追加された一部が入れられた上で、経路が再探索される。従って、使用可能な一部を除外するが故に、不適切な経路(即ち、コストが最小でない経路)が、最適経路として決定されるのを未然防止できる。
【0033】
尚、このような経路探索手段による、使用可能に設定された一部を入れての経路探索に加えて又は代えて、経路特定手段による、使用可能に設定された一部を入れての最適経路の特定が、行われてもよい。
【0034】
本発明の経路探索システムの他の態様では、前記移動コストを前記リンク毎に算出するコスト算出手段を更に備え、前記格納手段は、前記算出された移動コストを格納する。
【0035】
この態様によれば、経路探索手段による経路探索に先立って、例えばプロセッサ、メモリ等を備えてなるコスト算出手段によって、移動コストが、算出され、例えばデータベース等の格納手段に格納される。
【0036】
この態様では、前記コスト算出手段は、前記搬送車が実際の搬送作業に要した実績時間データから前記搬送車が実際に搬送した前記経路について前記移動コストを算出し、前記格納手段は、前記算出された移動コストで格納内容を更新するように構成してもよい。
【0037】
このように構成すれば、コスト算出手段によって、例えば搬送車が経路上の目標地点に到達すると直ちに、搬送車が実際の搬送作業に要した実績時間データから搬送車が実際に搬送した経路について移動コストが算出される。更に、この算出された移動コストで、格納手段の格納内容が更新される。このため、経路における混雑の状況等が変化した場合に、経路探索に必要な移動コストを最新のものに更新でき、よりリアルタイム的に実際の経路状況に合致した最適経路を探索可能となる。
【0038】
本発明の搬送システムは上述の課題を解決するために、上述した本発明に係る経路探索システム(但し、その各種態様を含む)と、前記経路と、前記搬送車と、前記搬送車を前記経路上で移動させる移動手段とを備える。
【0039】
本発明の搬送システムによれば、上述した本発明に係る経路探索システムを含むので、取り扱うデータ数及び演算負荷を低減しつつ、最適経路を探索でき、リアルタイム或いはそれに近い形で経路探索を行うことも容易となる。これにより、例えばビークルの推進装置、レールなどを含んでなる移動手段によって、搬送車が、例えば同一の製造ライン内で或いは異なる製造ライン間で、迅速に移動可能となる。例えば、複数の作業装置から一つの製造ラインが構成されており、複数の製造ラインに対応して複数の搬送ラインが設けられ、更に複数の搬送ラインの相互間にも、搬送ラインが設けられている搬送システムにおいて、最適な経路を経由して移動可能にできる。
【0040】
尚、本発明の搬送システムにおいても、上述した本発明の経路探索システムにおける各種態様と同様の各種態様を採ることが可能である。
【0041】
本発明の経路探索方法は上記課題を解決するために、被搬送物を搬送するための搬送車を該搬送車の経路上で出発地点から目標地点まで移動させる際の最適経路を探索する経路探索方法であって、前記被搬送物に対して各種処理を施すと共に前記経路に沿って並ぶ複数の作業装置を含んで構成される集合を少なくとも一つ含む複数の集合の各々をノードとし且つ該複数の集合の相互間をリンクとして規定される、前記搬送車の移動コストを格納する格納手段に格納された移動コストに基づいて、前記最適経路の少なくとも一部を、前記複数の集合を結ぶ単位で探索する探索工程と、前記探索された少なくとも一部と、前記複数の集合のうち前記探索された少なくとも一部に含まれる一又は複数の集合の内部に存在する前記経路の部分とを統合することで、前記最適経路を特定する経路特定工程とを備える。
【0042】
本発明の経路探索方法によれば、上述した本発明に係る経路探索システムの場合と同様に、取り扱うデータ数及び演算負荷を低減しつつ、最適経路を探索でき、リアルタイム或いはそれに近い形で経路探索を行うことも容易となる。
【0043】
尚、本発明の経路探索方法においても、上述した本発明の経路探索システムにおける各種態様と同様の各種態様を採ることが可能である。
【0044】
本発明のコンピュータプログラムは上記課題を解決するために、被搬送物を搬送するための搬送車を該搬送車の経路上で出発地点から目標地点まで移動させる際の最適経路を探索する経路探索システムに備えられるコンピュータを、前記被搬送物に対して各種処理を施すと共に前記経路に沿って並ぶ複数の作業装置を含んで構成される集合を少なくとも一つ含む複数の集合の各々をノードとし且つ該複数の集合の相互間をリンクとして規定される、前記搬送車の移動コストを格納する格納手段と、前記格納された移動コストに基づいて、前記最適経路の少なくとも一部を、前記複数の集合を結ぶ単位で探索する経路探索手段と、前記探索された少なくとも一部と、前記複数の集合のうち前記探索された少なくとも一部に含まれる一又は複数の集合の内部に存在する前記経路の部分とを統合することで、前記最適経路を特定する経路特定手段として機能させる。
【0045】
本実施形態のコンピュータプログラムによれば、当該コンピュータプログラムを格納するCD−ROM、DVD−ROM等の記録媒体から、当該コンピュータプログラムを、経路探索システムに備えられたコンピュータに読み込んで実行させれば、或いは、当該コンピュータプログラムを通信手段を介してダウンロードさせた後に実行させれば、上述した本発明に係る経路探索システムを比較的簡単に構築できる。これにより、上述した本発明に係る経路探索システムの場合と同様に、取り扱うデータ数及び演算負荷を低減しつつ、最適経路を探索でき、リアルタイム或いはそれに近い形で経路探索を行うことも容易となる。
【0046】
尚、本発明のコンピュータプログラムにおいても、上述した本発明の経路探索システムにおける各種態様と同様の各種態様を採ることが可能である。
【0047】
本発明の作用及び他の利得は次に説明する実施するための最良の形態から明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
以下、本発明の実施形態について図を参照しつつ説明する。
【0049】
先ず、本実施形態に係る経路探索システムを含む製造システムの構成について説明する。ここに図1は、本実施形態に係る経路探索システムを含む製造システムのブロック図であり、図2は、図1の経路探索システムの搬送路を製造装置と共に示す概略平面図である。
【0050】
図1及び図2において、製造システム200は、主に、製造指示部1、ビークル2、CPU10、及び移動装置11を備えている。本実施形態に係る経路探索システム100は、CPU10として、製造システム200に組み込まれている。CPU10は、経路設定部3、走行検出部4、コスト算出部5、第1経路探索部6、経路特定部7、搬送コントローラ8、及びメモリ9を含む。移動装置11は、ビークル2を所望の製造装置21及びストッカ21bへと搬送可能に構成されている。
【0051】
図2において、移動装置11は、本発明に係る「移動手段」の一例であって、搬送路12の他、例えばリニアモータの制御ライン及び電源装置などの、ビークル2をリニアモータ方式で移動させるための機械的及び電気的な機構一式を有する。より具体的には、搬送路12は、搬送方向に延びると共にビークル2の車輪が転動する転動面を夫々有する一対のレールを有し、更に該一対のレールの間に搬送方向に複数配列された永久磁石を有する。搬送路12は、ビークル2側に設けられたリニアモータが、その上を走行するための走行路でもあり、ビークル2が走行するための電源信号やその走行を制御するための各種信号がやりとりされる有線の制御線としての機能も有する。
【0052】
移動装置11は、モジュールM1からM4を搬送路12によって接続している。ここに「モジュール」とは、一つ又は複数のベイによって構成されたOHT(工程内搬送機器)システムが搬送制御管理するための単位を意味し、「ベイ」とは、OHTシステムで搬送可能な一又は複数の製造装置の集まりである。モジュールM1からM4は、大規模OHTを構成している。大規模OHTでは、大規模OHTを構成する移動装置11の部分によって、モジュールM1からM4の各々の内部で、ビークル2が走行可能である。更に、移動装置11は、搬送路12によって、四方に配置されるモジュールM1からM4を、ストッカSTK1からSTK4を介して、相互に接続している。このモジュールM1からM4の間の搬送制御が、OHS(工程間搬送機器)システムによって管理される。OHSでは、OHSを構成する移動装置11の部分によって、モジュールM1からM4の間で、ビークル2が走行可能である。
【0053】
ビークル2は、本発明に係る「搬送車」の一例として、リニアモータにより搬送路12に沿って走行し、半導体装置製造における各種基板等の被搬送物が格納されたキャリアを搬送する。ビークル2には、図示しない、個々のビークルを独立制御するためのコントローラ、及び位置情報を発信するための位置情報発信部が内蔵されている。
【0054】
製造装置21は、本発明に係る「作業装置」の一例として、製造装置コントローラ22による制御下で、ビークル2により搬送された被搬送物に対して、製品に至る各種処理を行う。
【0055】
ストッカ21bは、本発明に係る「作業装置」の一例として、ストッカコントローラ23による制御下で、ビークル2により搬送されたキャリア(例えば、搬送用の容器)或いは被搬送物に対して一部処理が実施されたキャリアを、内部の収容庫へ搬入する又は外部へ搬出するように構成されている。ストッカ21bは、搬送路12の一部から搬入すると共に搬送路12の他部へ搬出することで、移動装置11と共に搬送手段の一部を構成してもよい。
【0056】
ストッカ21bの各々には、キャリアの搬入又は搬出を行うために、OHTに対する搬入出口STK−1、及びOHSに対する搬入出口STK−2が夫々備えられている。これらの2つの搬入出口STK−1及びSTK−2は、OHTからOHSに、或いはその逆にOHSからOHTに移動手段を切り替えるために備えられている。ストッカ21bには、図示しない、ストッカロボットも備えられている。ストッカロボットは、ストッカ21bの内部で、キャリアを移動させ、所望の搬入出口STK−1又はSTK−2からキャリアを搬出することで、OHT及びOHSの移動手段を切り替える。具体的に、OHTによって移動されるビークル2がグループG3のストッカ21b(STK1)に差し掛かると、ビークル2によって搬送されるキャリアが、ストッカロボットによって、ストッカSTK1の内部に、搬入出口STK−1から搬入された後、搬入出口STK−2から搬出される。これにより、ビークル2の移動手段がOHTからOHSに切り替えられ、ビークル2は、OHSによって移動されることになる。
【0057】
図2に示すように、搬送路12には、複数の製造装置21やストッカ21bからなるグループG1からG10が設定されている。モジュールM1からM4の各々は、グループG3及びG4、グループG5及びG6、グループG7及びG8、グループG9及びG10に夫々対応している。モジュールM1のストッカSTK1及びモジュールM2のストッカSTK2は、グループG1に対応し、モジュールM3のストッカSTK3及びモジュールM4のストッカSTK4は、グループG2に対応している。このようなグループG1からG10の各々が、本発明に係る「集合」の一例とされた場合、グループG1からG10の各々が「ノード」として扱われ、グループG1からG10の相互間が「リンク」として扱われて、リンク毎にコストが算出される。コストは、本発明に係る「移動コスト」の一例として、各グループG1からG10において、例えば過去に測定された移動時間の平均値から算出される。或いは、この平均値に対して、経路の現状に応じた修正が施されることで設定される。
【0058】
各グループG1からG10は、グループを結ぶ単位での大まかな最適経路を、探索する際の区分けとなる。更に、そのように大まかな最適経路が決定された後のグループ内部における最適経路を決定する際の範囲となる。即ち、各グループG1からG10は、2段階で経路探索を行う際に、段階を隔てる基本的な区分けである。
【0059】
再び図1において、製造指示部1は、製造工程のスケジュールに従って、製造を指示する旨の製造指示データを、CPU10、製造装置コントローラ22及びストッカコントローラ23に入力することで、半導体装置製造の指示を行う。
【0060】
CPU10は、製造指示部1によって入力される製造指示データに対応して、半導体装置製造の処理を実行しつつ、ビークル2を、例えば後に詳述する最適経路を介して目標地点に到達させるように、各部を制御する。
【0061】
経路設定部3は、本発明に係る「設定手段」の一例であって、半導体装置製造が開始されるよりも前に、製造指示部1及び走行検出部4の指示により、搬送路12の部分、即ち部分経路のいずれかを使用可能又は使用不可能に設定する。具体的に、経路設定部3は、該設定を行う部分経路に対して、予め設定されているフラグを、使用可能及び使用不可能のどちらかに変更する。この部分経路の設定変更のデータは、コスト算出部5に入力される。
【0062】
走行検出部4は、本発明に係る「状態検出手段」の一例として、経路設定部3と同様に、半導体装置製造が開始されるよりも前に、製造指示部1の指示により、搬送路12を走行する複数のビークル2から発信される位置情報に基づいて、ビークル2の走行状況を検出する。具体的に、走行検出部4は、該位置情報に基づいて、例えばビークル2の走行が異常に遅いことや、走行すべき搬送路12で走行が止まっていることを検出する。この検出のデータは、経路設定部3及びコスト算出部5に入力される。
【0063】
コスト算出部5は、本発明に係る「コスト算出手段」の一例として、基本的に、半導体装置製造が開始されるよりも前に、製造指示部1の指示により、グループG1からG10の相互間の経路、即ちリンク毎のコストを算出する。
【0064】
図2に示すように、グループG1は、ストッカSTK1及びストッカSTK2、グループG2は、ストッカSTK3及びストッカSTK4から夫々構成される。グループG3は、ビークル2が走行する順に、製造装置EQ11,EQ12、ストッカSTK1、グループG4は、製造装置EQ14,EQ13、グループG5は、製造装置EQ21,EQ22、ストッカSTK2、グループG6は、製造装置EQ24,EQ23、グループG7は、ストッカSTK3、製造装置EQ31,EQ32、グループG8は、製造装置EQ34,EQ33、グループG9は、ストッカSTK4、製造装置EQ41,EQ42、グループG10は、製造装置EQ44,EQ43から夫々構成される。
【0065】
具体的には、コスト算出部5は、移動装置11によって、コスト算出用の所定のビークル2を、グループG1からG10の相互間において所定回数移動させる。この移動に要した時間の平均値が、コストとして算出され、予めメモリ9に格納される。或いは、過去に搬送作業を行った一又は複数のビークル2がグループG1からG10の相互間の夫々で移動する際に要した移動時間の平均値が、コストとして算出されて、予めメモリ9に格納される。或いは、経験的な又は理論計算に基づくデフォールトの値が、コストとして、予めメモリ9に格納される。
【0066】
コスト算出部5は、半導体装置製造が開始されてからも、経路設定部3から入力される部分経路の設定変更、及び走行検出部4から入力される走行状況の検出結果に応じて、リンク毎のコストを再度算出し、メモリ9に格納されているコストのデータを更新する。
【0067】
最適経路の探索方法について、本実施形態では、第1経路探索部6及び第2経路探索部7aによる2段階の探索が行われる。
【0068】
第1経路探索部6は、半導体装置製造が開始されると、製造指示部1の指示により、ビークル2が出発地点から目標地点までキャリアを搬送するための、グループを結ぶ単位での最適経路を探索する。ここでは先ず、かかるグループを結ぶ単位での最適経路の複数の候補として、搬送元を含むグループから搬送先を含むグループに至るものが複数特定される。更に、第1経路探索部6は、これら複数の候補のうち、合計コスト(即ち、総コスト)が小さいものを、グループを結ぶ単位での最適経路として決定する。このため、第1経路探索部6は、メモリ9から、各候補に相当するグループ単位のコストを読み出し、読み出した複数のコストを合計して、各候補の合計コストを算出する。経路特定部7は、算出された合計コストのうち最小のものを有する候補を選択する。ここでの合計コストは、図2に示した各候補を構成する一連のグループのコストを合計或いは積算したものであり、各候補を経路として採用した場合における、搬送元を含むグループから搬送先を含むグループまで移動するのにかかる時間の概ねの指標となる。
【0069】
本実施形態では特に、第1経路探索部6は、コスト算出部5によるコストデータの更新に応答して、グループを結ぶ単位での最適経路を再度探索する。具体的には、第1経路探索部6は、経路設定部3によって部分経路のいずれかが使用不可能に設定された場合に、その使用不可能に設定された経路を除いて、グループを結ぶ単位での最適経路を再度探索する。また、経路設定部3によって部分経路のいずれかが使用可能に設定されたり、使用可能な部分経路が追加された場合に、その使用可能に設定された、又は追加された部分経路を含めて、グループを結ぶ単位での最適経路を再度探索する。更に、走行検出部4によって検出される走行状況に応じて、グループを結ぶ単位での最適経路を再度探索する。
【0070】
次に、経路特定部7は、第1経路探索部6から入力されたグループを結ぶ単位での最適経路における各グループの内部を通過する経路を特定する。このため、経路特定部7は、第2経路探索部7aを備える。第2経路探索部7aは、グループ内を結ぶ単位の最適経路を構成するグループG1からG10のうちいずれか複数のグループの各々の内部を、短時間で通過する経路(即ち、グループ内最適経路)を、第1経路探索部6と同様のダイクストラ法を、グループ内部の移動に係るコスト(即ち、グループ内部に存在する製造装置やストッカをノードとし且つこれらの間をリンクとして定義されるコスト)を用いて行うことで、探索される。この結果、個々のグループの内部に存在する複数の製造装置21又はストッカ21bを結ぶグループ内最適経路が特定される。
【0071】
尚、グループ内の経路は、単純な場合もある。よって、このようなグループ内最適経路は、コスト計算による探索を行わなくても、例えば、予め設定された製造装置間やポート間を素直に連絡する順路として特定されてもよい。或いはコストに代えて単純に経路長や、右回り又は左回りなどの単純なルールに従って、特定されてもよい。
【0072】
経路特定部7は、このように第2経路探索部7aによって探索された個々のグループの内部にあるグループ内最適経路と、第1経路探索部6から入力されたグループを結ぶ単位での最適経路とを統合することで得られる一筋の経路を、最終的に最適経路として特定し、これを示す最適経路データを、搬送コントローラ8に入力する。
【0073】
搬送コントローラ8は、経路特定部7から入力された最適経路データに基づいて、ビークル2を制御する。この制御により、ビークル2に搬送されるキャリアが、最短時間で目標地点に到達する。
【0074】
メモリ9は、本発明に係る「格納手段」の一例として、グループ別のコスト及びグループ内経路情報を格納している。コストは、コスト算出部5によって、グループを結ぶリンク毎に予め算出されると共に、経路設定部3による設定変更、及び走行検出部4により検出される走行状況に応じて、更新される。グループ内経路情報は、グループG1からG10の各々の内部におけるグループ内経路を示し、第2経路探索部7aにより適宜参照される。
【0075】
次に、最適経路を特定する動作処理について説明する。ここに図3は、本実施形態に係る経路探索システムを含む製造システムのグループ別のコスト表の一具体例であり、図4は、図3の経路探索システムにおける最適経路の合計コストの対比表の一具体例である。
【0076】
図3において、グループ別のコストが示されている。各コストは、1つの製造装置21、ストッカ21b、OHT、及びOHS別に設定される、搬送元(即ち、搬送当初の出発地点又は搬送途中の中継地点)及び搬送先(即ち、搬送途中の中継地点又は最終的な目標地点)の組み合わせに対応している。即ち、搬送元及び搬送先を夫々ノードとして、これらにより結ばれるリンクに対応する形で、各コストは定義されている。具体的には、作業装置がストッカSTK1である場合に、搬送元として、搬送されるキャリアがストッカSTK1の内部にあることを示す「SHELF」、キャリアがOHSの搬入出口STK−2にあることを示す「OHSin」、及びキャリアがOHTの搬入出口STK−1にあることを示す「OHTin」が示されている。この搬送元に対する搬送先として、搬送されるキャリアがOHSに向かうことを示す「OHSout」、キャリアがOHTに向かうことを示す「OHTout」、及びキャリアがストッカSTK1の内部に向かうことを示す「SHELF」が示されている。例えば、ストッカSTK1の内部にあるキャリアがOHTに向かう場合に、搬送元として「SHELF」、搬送先として「OHTout」が選択され、図3に示すように、コストが「10」となる。
【0077】
更に、作業装置が移動手段であるOHT及びOHSである場合に、搬送元及び搬送先として、グループG1からG10のいずれかが示されている。即ち、OHT及びOHSの場合には特に、グループを夫々ノードとして、これらにより結ばれるリンクに対応する形で、各コストは定義されている。例えば、OHSに対するグループG1とグループG2との間を、キャリアが搬送される場合に、搬送元として「G1」、搬送先として「G2」が選択され、コストが「40」となる。経路網上における移動時間に大差がないような隣接した又は近接した複数の作業装置は、同一グループに属するように、ここでのグループ分けは行われる。
【0078】
再び図2において、製造指示部1によって、ストッカ21b(STK1)内部に収容されているキャリアを、製造装置21(EQ44)に搬送する指示がなされると、第1経路探索部6は、ストッカSTK1から製造装置EQ44までの最適経路の探索を行う。この探索では、グループを結ぶ単位での最適経路の候補として4つの候補TRである、第1候補(図4における搬送経路No.1)〜第4候補(図4における搬送経路No.4)についての、コスト比較が行われる。図3では、第4の最適経路の候補TR4を構成するグループのコストが示される。
【0079】
第1候補は、先ず、ストッカSTK1の搬入出口STK−1を出発し、OHTを介して、グループG10の製造装置EQ44に到達する経路を示す。この第1候補は、グループG3に対応するグループ間経路(STK1:SHELF → STK1:OHTout)、及びOHTにおけるグループG3からグループG10のグループ間のグループ間経路(STK1:OHTout → EQ44)の2つのグループ間経路から構成されている。
【0080】
第2候補は、先ず、ストッカSTK1の搬入出口STK−2を出発し、OHSにおけるグループG1を介して、ストッカSTK2の搬入出口STK−2に達した後、その内部を経て、ストッカSTK2の搬入出口STK−1から、OHTを介して、グループG10の製造装置EQ44に到達する経路を示す。この第2候補は、グループG3に対応するグループ間経路(STK1:SHELF → STK1:OHSout)、OHSにおけるグループG1に対応するグループ間経路(STK1:OHSout → STK2:OHSin)、グループG5に対応するグループ間経路(STK2:OHSin → STK2:OHTout)、及びOHTにおけるグループG5からグループG10のグループ間のグループ間経路(STK2:OHTout → EQ44)の4つのグループ間経路から構成されている。
【0081】
第3候補は、先ず、ストッカSTK1の搬入出口STK−2を出発し、OHSにおけるグループG1及びG2を介して、ストッカSTK3の搬入出口STK−2に達した後、その内部を経て、ストッカSTK3の搬入出口STK−1から、OHTを介して、グループG7を経て、グループG10の製造装置EQ44に到達する経路を示す。この第3候補は、グループG3に対応するグループ間経路(STK1:SHELF → STK1:OHSout)、OHSにおけるグループG1及びG2に対応するグループ間経路(STK1:OHSout → STK3:OHSin)、グループG7に対応するグループ間経路(STK3:OHSin → STK3:OHTout)、及びOHTにおけるグループG7からG10のグループ間のグループ間経路(STK3:OHTout → EQ44)の4つのグループ間経路から構成されている。
【0082】
第4候補は、先ず、ストッカSTK1の搬入出口STK−2を出発し、OHSにおけるグループG1及びG2を介して、ストッカSTK4の搬入出口STK−2に達した後、その内部を経て、ストッカSTK4の搬入出口STK−1から、OHTを介して、グループG10の製造装置EQ44に到達する経路を示す。この第4候補は、グループG3のグループ間経路(STK1:SHELF → STK1:OHSout)、OHSにおけるグループG1及びG2に対応するグループ間経路(STK1:OHSout → STK4:OHSin)、グループG9に対応するグループ間経路(STK4:OHSin → STK4:OHTout)、及びOHTにおけるグループG9からG10のグループ間のグループ間経路(STK4:OHTout → EQ44)の4つのグループ間経路から構成されている。
【0083】
こうして、4つの候補についてのグループを結ぶ単位での合計コストは、メモリ9から読み取られたグループ別のコストが積算されることで算出される。第1候補から第4候補の合計コストは夫々、図4に「合計コスト」として示したように、「125」、「205」、「185」、「95」となる。これにより、合計コストが、最小値「95」となる第4候補が、最適経路TR4として選択される。
【0084】
このようにグループを結ぶ単位での最適経路TR4が特定されると、これを構成するグループの各々の内部に存在するグループ内経路とが結び合わされて、一本の道筋になることで、最終的に、最適経路が特定される。
【0085】
次に、本実施形態に係る経路探索システムの動作処理である経路特定処理について、図5を参照して説明する。
(経路特定処理)
図5は、本実施形態に係る経路探索システムの経路特定処理を示すフローチャートである。
【0086】
具体的には、図5において、先ず、第1経路探索部6によって、グループを結ぶ単位で、最適経路の複数の候補が探索される(ステップS11)。続いて、探索された複数の候補を構成する、部分経路のいずれかについて、経路設定部3によって使用可能又は使用不可能とする経路変更、或いは走行検出部5によってビークル2の故障等の走行異常があったか否かが判定される(ステップS12)。
【0087】
ここで、経路変更及び走行異常のいずれかがあったと判定された場合には(ステップS12:YES)、経路変更の対象となる部分経路、及び走行異常とされるビークル2が存在するために通過できないと想定される部分経路が、使用不可能に設定される(ステップS13)。具体的には、この実質的に使用不可能な部分経路を含む候補については、次に行われる候補毎のコスト算出の対象から除外される。或いは、この使用不可能な部分経路に対する移動コストについては、非常に高い値に設定される。これにより、次に行われる候補毎のコスト算出における合計コストが大きくなるが故に、早期に候補から除外される。
【0088】
他方で、経路変更及び走行異常のいずれもないと判定された場合には(ステップS12:NO)、ステップS13における部分経路を使用不可能とする設定が行われることなく、次の処理へ進む。
【0089】
続いて、コスト算出部5によって、グループ単位でのコストが算出され、メモリ9に格納されているコストデータが更新される(ステップS14)。続いて、第1経路探索部6によって、更新後における合計コストが最小となる候補が、選択される。即ち、グループ単位での最適経路が、この段階で完了する。
【0090】
続いて、この特定されたグループ単位での最適経路を構成するグループの各々の内部のグループ内経路情報がメモリ9から読み出され、読み出されたグループ内経路情報に基づくグループ内経路が特定される。更に、これらの特定されたグループ内経路とグループを結ぶ単位での最適経路とが統合されることで、最終的に最適経路が特定される(ステップS15)。
【0091】
その後、搬送コントローラ8によって、特定された最適経路に沿って、ビークル2が制御され、ビークル2に搬送されるキャリアが目標地点に到達される(ステップS16)。これにより、一連の経路特定処理が終了される。
【0092】
尚、ステップS16で実際にビークル2が目標地点に到達すると直ちに、走行した最適経路を構成するリンクを搬送するのにかかった時間から、これら各リンクについての移動コストが、算出される。更に、この算出された移動コストで、メモリ9内の格納内容が更新されて、その後における最適経路探索に利用される。
【0093】
このように、実施形態の経路特定システムによれば、グループを結ぶ単位でコストが算出されるので、コストを用いての経路探索に必要とされるデータ数が極端に少なくなる。これにより、取り扱うデータ数及び演算負荷を低減しつつ、最適経路或いは実践的な意味での最適経路を探索できる。
【0094】
また、搬送経路の変更や、ビークル2の走行異常に対応して、再度、リンク毎にコストを算出するので、常に最新のコストに基づいて最適経路が選択される。このため、搬送車の故障や、搬送経路の混雑を要因とする搬送時間のロスを無くすことができ、パフォーマンスを更に向上させることができる。
【0095】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う経路探索システム及び方法、搬送システム、並びにコンピュータプログラムもまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】実施形態に係る経路探索システムの構成を示すブロック図である。
【図2】実施形態に係る経路探索システムの搬送路を示す平面図である。
【図3】実施形態に係る経路探索システムのグループ別のコストを示すコスト表である。
【図4】実施形態に係る経路探索システムの最適経路の合計コストを示す合計コスト対比表である。
【図5】実施形態に係る経路探索システムの経路特定処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0097】
1…搬送路、2…ビークル、3…経路設定部、4…走行検出部、5…コスト算出部、6…第1経路特定部、7…経路特定部、7a…第2経路探索部、8…搬送コントローラ、11…移動装置、21…製造装置、21b…ストッカ、100…経路探索システム、200…製造システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被搬送物を搬送するための搬送車を該搬送車の経路上で出発地点から目標地点まで移動させる際の最適経路を探索する経路探索システムであって、
前記被搬送物に対して各種処理を施すと共に前記経路に沿って並ぶ複数の作業装置を含んで構成される集合を少なくとも一つ含む複数の集合の各々をノードとし且つ該複数の集合の相互間をリンクとして規定される、前記搬送車の移動コストを格納する格納手段と、
前記格納された移動コストに基づいて、前記最適経路の少なくとも一部を、前記複数の集合を結ぶ単位で探索する経路探索手段と、
前記探索された少なくとも一部と、前記複数の集合のうち前記探索された少なくとも一部に含まれる一又は複数の集合の内部に存在する前記経路の部分とを統合することで、前記最適経路を特定する経路特定手段と
を備えることを特徴とする経路探索システム。
【請求項2】
前記経路特定手段は、前記複数の作業装置間を夫々結ぶ前記経路の部分を夫々リンクとすると共に前記複数の作業装置を夫々ノードとする前記搬送車の移動コストに基づいて、前記経路の部分を探索し、前記探索された少なくとも一部と前記探索された経路の部分とを統合することで、前記最適経路を特定することを特徴とする請求項1に記載の経路探索システム。
【請求項3】
前記格納手段は、前記ノード及び前記リンクに対応付けて、前記集合の内部における前記経路の部分を示す集合内経路情報を更に格納しており、
前記経路特定手段は、前記格納された集合内経路情報を参照することで、前記探索された少なくとも一部に接続される経路の部分を決定し、前記探索された少なくとも一部と前記決定された経路の部分とを統合することで、前記最適経路を特定することを特徴とする請求項1に記載の経路探索システム。
【請求項4】
前記搬送車が移動する際の移動状況を検出する状態検出手段を更に備え、
前記経路探索手段は、前記検出された移動状況に対応して、前記経路を再探索する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の経路探索システム。
【請求項5】
前記経路の一部を、前記経路探索手段により前記最適経路を探索する上で、使用不可能に設定する設定手段を更に備え、
前記経路探索手段は、前記使用不可能に設定された一部を除外して、前記経路を探索することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の経路探索システム。
【請求項6】
前記経路の一部を使用可能に設定する又は前記経路に対して使用可能な一部を追加する設定手段を更に備え、
前記経路探索手段は、前記使用可能に設定された又は追加された一部を入れて、前記経路を探索することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の経路探索システム。
【請求項7】
前記移動コストを前記リンク毎に算出するコスト算出手段を更に備え、
前記格納手段は、前記算出された移動コストを格納することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の経路探索システム。
【請求項8】
前記コスト算出手段は、前記搬送車が実際の搬送作業に要した実績時間データから前記搬送車が実際に搬送した前記経路について前記移動コストを算出し、
前記格納手段は、前記算出された移動コストで格納内容を更新する
ことを特徴とする請求項7に記載の経路探索システム。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の経路探索システムと、
前記経路と、
前記搬送車と、
前記搬送車を前記経路上で移動させる移動手段と
を備えることを特徴とする搬送システム。
【請求項10】
被搬送物を搬送するための搬送車を該搬送車の経路上で出発地点から目標地点まで移動させる際の最適経路を探索する経路探索方法であって、
前記被搬送物に対して各種処理を施すと共に前記経路に沿って並ぶ複数の作業装置を含んで構成される集合を少なくとも一つ含む複数の集合の各々をノードとし且つ該複数の集合の相互間をリンクとして規定される、前記搬送車の移動コストを格納する格納手段に格納された移動コストに基づいて、前記最適経路の少なくとも一部を、前記複数の集合を結ぶ単位で探索する探索工程と、
前記探索された少なくとも一部と、前記複数の集合のうち前記探索された少なくとも一部に含まれる一又は複数の集合の内部に存在する前記経路の部分とを統合することで、前記最適経路を特定する経路特定工程と
を備えることを特徴とする経路探索方法。
【請求項11】
被搬送物を搬送するための搬送車を該搬送車の経路上で出発地点から目標地点まで移動させる際の最適経路を探索する経路探索システムに備えられるコンピュータを、
前記被搬送物に対して各種処理を施すと共に前記経路に沿って並ぶ複数の作業装置を含んで構成される集合を少なくとも一つ含む複数の集合の各々をノードとし且つ該複数の集合の相互間をリンクとして規定される、前記搬送車の移動コストを格納する格納手段と、
前記格納された移動コストに基づいて、前記最適経路の少なくとも一部を、前記複数の集合を結ぶ単位で探索する経路探索手段と、
前記探索された少なくとも一部と、前記複数の集合のうち前記探索された少なくとも一部に含まれる一又は複数の集合の内部に存在する前記経路の部分とを統合することで、前記最適経路を特定する経路特定手段と
として機能させることを特徴とするコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−20773(P2009−20773A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−183903(P2007−183903)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【出願人】(302059274)アシスト テクノロジーズ ジャパン株式会社 (146)
【Fターム(参考)】