説明

結晶性ITO薄膜の成膜方法、結晶性ITO薄膜及びフィルム、並びに抵抗膜式タッチパネル

【解決手段】シングルカソードパルススパッタリング法によるITO薄膜の成膜方法において、ターゲット電極に印加する印加電力のデューティ比を60%以下としたこと、又はデュアルカソードパルススパッタリング法によるITO薄膜の成膜方法において、2つのターゲット電極にそれぞれ印加する印加電力のデューティ比を40%以下としたことを特徴とする結晶性ITO薄膜の成膜方法。
【効果】本発明によれば、シングルカソードパルススパッタリング法、又はデュアルカソードパルススパッタリング法において、低温あるいは無加熱の基板11上へ結晶性ITO薄膜12を形成する成膜方法を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シングルカソードパルススパッタリング法、又はデュアルカソードパルススパッタリング法により、低温あるいは無加熱の基板上へ結晶性ITO薄膜を形成する成膜方法、それにより得られた結晶性ITO薄膜及びフィルム、並びに抵抗膜式タッチパネルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、スパッタリング法は、薄膜形成手段として広く用いられており、真空蒸着法やCVD法等の他の成膜手段に対して、緻密で平滑な薄膜が比較的低温のプロセスで得られるという長所がある。一方、スパッタリング法で形成した薄膜はアモルファスとなることが多く、結晶性膜を得るには、一般に基板を高温に加熱しながらスパッタリングすることが必要である。このため、高分子フィルムなど耐熱性の低い基板を用いる場合や、基板に耐熱性の低い材料が使用される場合、その上から成膜する際、それぞれの耐熱温度を上回る加熱ができず、結果として結晶性の高い薄膜を形成することが困難であった。
【0003】
特にDCスパッタリング法に対して、放電をより安定に長時間維持することを目的に、パルススパッタリング法が開発され、広く用いられるようになった。パルススパッタリング法は、一定の周期でターゲットに印加する印加電力のオン/オフを繰り返すもので、1周期中のオンの時間の比率であるデューティ比は70%以上で使用されることが多い。この場合、アーキングの回避など放電安定性が増し、成膜時のピンホールが低減されるが、その他の薄膜物性としては、DCスパッタリング法で成膜した場合と大きく変わらず、特に低温あるいは無加熱の基板上への成膜では結晶性の高い薄膜は得られないものであった。
【0004】
また、従来より2つのカソードを配置し、これらカソードに交互に電力を印加し、この際、電力としてパルス電力を付加するデュアルカソードパルススパッタリング法も知られているが、従来の方法では同様に結晶性薄膜は得られないものであった。
【0005】
ITO薄膜を形成する方法としてもスパッタリングが採用されているが、通常、スパッタリングにて結晶性が良好なITO薄膜を得るには200℃を超える温度での基板加熱が必要である。特にタッチパネル用の場合にはITO薄膜は20nm程度に抑える必要があり、このような薄い領域での無加熱成膜での結晶化は困難であり、成膜後に150℃程度の温度レベルでアニールをすることが必要となっている。
【0006】
なお、本発明に関連する先行文献としては次のものが挙げられる。
【特許文献1】特開2003−117404号公報
【特許文献2】特開2004−143535号公報
【特許文献3】特開2005−141981号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、シングルカソードパルススパッタリング法、又はデュアルカソードパルススパッタリング法において、低温あるいは無加熱の基板上へ結晶性ITO薄膜の形成を可能とする結晶性ITO薄膜の成膜方法、これによって得られる結晶性ITO薄膜及び結晶性ITOフィルム、並びに抵抗膜式タッチパネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行なった結果、結晶性の高いITO薄膜をパルススパッタリングで得るには、プラズマ密度を高め、プラズマ中の活性な粒子密度を上げることが重要であること、この場合、デューティ比を低下させることにより、瞬間的に大きな放電電流が流れ、それに伴いプラズマ中の活性粒子密度が向上し、結晶性の高いITO薄膜が得られること、このようにデューティ比を低下させたパルススパッタリングは低温で行うことができ、低温あるいは無加熱基板への結晶性ITO薄膜の形成が可能となることを知見し、本発明をなすに至った。
【0009】
即ち、本発明は下記結晶性ITO薄膜の成膜方法、結晶性ITO薄膜及びフィルム、並びに抵抗膜式タッチパネルを提供する。
[1]シングルカソードパルススパッタリング法によるITO薄膜の成膜方法において、ターゲット電極に印加する印加電力のデューティ比を60%以下としたことを特徴とする結晶性ITO薄膜の成膜方法。
[2]1パルスに対応するピーク電流が、同一印加電力密度におけるデューティ比80%の場合のピーク電流値の1.5倍以上であることを特徴とする[1]記載の結晶性ITO薄膜の成膜方法。
[3]ターゲット電極に印加する印加電力の周波数が1〜200kHzであることを特徴とする[1]又は[2]記載の結晶性ITO薄膜の成膜方法。
[4]2つのターゲット電極に交互に電力を印加するデュアルカソードパルススパッタリング法によるITO薄膜の成膜方法において、前記2つのターゲット電極にそれぞれ印加する印加電力のデューティ比を40%以下としたことを特徴とする結晶性ITO薄膜の成膜方法。
[5]1パルスに対応するピーク電流が、同一印加電力密度におけるデューティ比45%の場合のピーク電流値の1.3倍以上であることを特徴とする[4]記載の結晶性ITO薄膜の成膜方法。
[6]ターゲット電極に印加する印加電力の周波数が1〜200kHzであることを特徴とする[4]又は[5]記載の結晶性ITO薄膜の成膜方法。
[7]ターゲットとしてSnO2の質量割合が0.5〜13%であるITOセラミックスターゲットを用いた[1]乃至[6]のいずれか1項記載の結晶性ITO薄膜の成膜方法。
[8]ターゲットとしてSnの質量割合が0.5〜13%であるInSnの合金ターゲットを使用すると共に、酸素ガスを導入して反応性スパッタリングにて成膜する[1]乃至[6]のいずれか1項記載の結晶性ITO薄膜の成膜方法。
[9]基板上にITO薄膜を成膜するに際し、基板を200℃以下の低温で加熱するか又は無加熱でスパッタリングを行う[1]乃至[8]のいずれか1項記載の結晶性ITO薄膜の成膜方法。
[10]高分子基板上にITO薄膜を成膜するに際し、高分子基板を150℃以下の低温で加熱するか又は無加熱でスパッタリングを行う[1]乃至[8]のいずれか1項記載の結晶性ITO薄膜の成膜方法。
[11][1]乃至[10]のいずれか1項記載の方法によって成膜された結晶性ITO薄膜。
[12]基板上に[11]記載の結晶性ITO薄膜が成膜されてなる結晶性ITOフィルム。
[13]タッチパネル用である[12]記載の結晶性ITOフィルム。
[14][12]記載の結晶性ITOフィルムを備えた抵抗膜式タッチパネル。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、低温あるいは無加熱基板への結晶性ITO薄膜の形成が可能となり、200℃以下の基板加熱に制限される基材(曲がりガラスなど)へも良好な結晶性ITO薄膜が形成可能であり、抵抗率や光学特性、耐久性の点でメリットがある。また、高分子フィルム等の高分子基板上にも150℃以下の低温基板加熱あるいは基板無加熱にて結晶性ITO薄膜が形成でき、得られた薄膜を結晶化のために熱処理しなくてもよい。特に、タッチパネル用ITOフィルムでは、結晶化により大幅にペン摺動耐久性が向上するために、後アニールなどが不要な生産性の高い結晶性ITOフィルムの生産につながる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のスパッタリングによる結晶性ITO薄膜の成膜方法は、シングルカソードパルススパッタリング法又はデュアルカソードパルススパッタリング法によって行なうものである。パルススパッタリングは、図1に示したように、DCスパッタリングが一定の電力を印加し、一定の電圧・電流にてスパッタリングを行う(図4参照)ものであるのに対し、パルス電圧(パルス電力)を与えてスパッタリングを行うもので、シングルカソードパルススパッタリングの場合、電流をオン/オフする1周期の時間に対する電流をオンにしている時間の割合をデューティ比とすると、
デューティ比=[オン時間/(オン時間+オフ時間)]×100(%)
と表され、このデューティ比を60%以下にすることで、結晶性ITO薄膜を形成し得るものである。
【0012】
一方、デュアルカソードパルススパッタリングは、図2に示したように、2つのカソードA,Bを配置し、これらカソードA,Bに交互にパルス電圧(パルス電力)を印加するもので、この場合、一方がカソード(陰極)として放電している時、他方はアノード(陽極)として作用するものであり、通常はデポレート(成膜速度)を稼ぐためにカソードA,Bのデューティ比を合わせると100%に近い設定をするものであるが、図3(a),(b)に示すカソードA,Bにおけるそれぞれの1周期の時間に対するオン時間の割合であるデューティ比、即ち、
デューティ比(A)=[Xa/(Xa+Ya)]×100(%)
デューティ比(B)=[Xb/(Xb+Yb)]×100(%)
(Xa:カソードAのオン時間、Ya:カソードAのオフ時間)
(Xb:カソードBのオン時間、Yb:カソードBのオフ時間)
において、それぞれのカソードでのデューティ比を40%以下とすることにより、結晶性ITO薄膜が形成されるものである。
【0013】
更に詳述すると、本発明の結晶性ITO薄膜の成膜方法は、上述した通り、ターゲット電極(カソード)に印加する電力を間欠的に変化させるパルススパッタリング法、更に、このパルススパッタリング法に複数のカソード配置を基本構成としたデュアルカソードパルススパッタリング法が用いられる。これらのスパッタリング法は、よりよい真空度でのプラズマ放電にも対応させるため、マグネトロンスパッタリング法を用いることが好ましく、また安定したパルス電流の発生と条件設定の自由度をもたせるため、パルス発生ユニットにはバイポーラ型又はユニポーラ型を用いることが好ましい。
【0014】
図5は本発明に従って基板上に結晶性ITO薄膜を形成した状態の一例を示す断面図である。
図5において、11は基板であり、その上に結晶性ITO薄膜層12が設けられている。
なお、上記基板11としては、ガラス基板、高分子フィルム等の高分子基板などが使用される。
【0015】
この高分子フィルムとしては、本発明のITOフィルムの用途により異なるが、タッチパネル用途の透明導電性フィルムにおいて、高分子フィルムの樹脂材料としては、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルサルフォン(PES)、アクリル樹脂、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール、金属イオン架橋エチレン−メタクリル酸共重合体、ポリウレタン、セロファン等が挙げられるが、特に強度面でPET、PEN、PES、PC、TACが好ましい。
【0016】
このような高分子フィルムの厚さは、タッチパネルの上部電極としての用途には、通常の場合75〜300μm程度とされる。この高分子フィルムの厚さが75μm未満では上部電極としての十分な耐久性を得ることができず、300μmを超えると得られるタッチパネルの厚肉化を招き、また、上部電極としての柔軟性も損なわれるおそれがある。
【0017】
一方、透明導電性フィルムをタッチパネルの下部電極として用いる場合、高分子フィルムの厚さは、上記範囲よりも厚く、0.5〜2mm程度とすることもできるが、プラスチック板等の別の基板に貼り合わせることにより、上部電極として用いる場合と同等の厚さを採用することもできる。
【0018】
本発明の透明導電性フィルムを、タッチパネルの上部電極として用いる場合、高分子フィルムの透明導電膜としてのITO膜を成膜する面とは反対側の面にハードコート層を形成してもよい。このハードコート層としては、アクリル樹脂層、エポキシ樹脂層、ウレタン樹脂層、シリコーン樹脂層等が挙げられ、通常その厚さは1〜50μm程度である。
【0019】
また、高分子フィルムと透明導電膜としてのITO膜との間に下地層を介在させてもよく、このような下地層を形成することにより、高分子フィルムに対するITO膜の密着性を高め、繰り返し変形によるITO膜の剥離を防止することができる。更に、下地層を形成することによる透明導電性フィルムの強度向上で耐擦傷性を高めることもできる。
この場合、下地層の形成材料としては、アクリル系、ウレタン系、エポキシ系などの樹脂層や、有機珪素化合物の加水分解物等、あるいはスパッタリングや蒸着、イオンプレーティング等により形成されるSiO2に代表される無機透明薄膜等が挙げられる。SiO2等の下地層の形成は、透明導電性フィルムの光学特性(透過率)の向上にも寄与し、様々な用途において好適である。
【0020】
また、高分子フィルムにITO膜を成膜するに先立ち、形成される薄膜の接着強度を高めるために、高分子フィルムの表面に常法に従ってプラズマ処理、コロナ処理や溶剤洗浄等の処理を施してもよい。
更に、透明導電性フィルムの光学特性の向上を目的として、ITO膜の下地層を低屈折率膜と高屈折率膜の2層膜、あるいはこれらの交互積層膜としたり、ハードコート層の表面をアンチグレア加工したり、AR(反射防止)処理したりしてもよい。
【0021】
上記本発明の結晶性ITO薄膜層12は、シングルカソードパルススパッタリング法、又はデュアルカソードパルススパッタリング法を用いてターゲットをスパッタリングすることにより形成される。
これらのスパッタリング法は、不活性ガスの存在下で行うか、又は不活性ガス及び酸素ガス等の反応性ガスの存在下で行うことができる。
その際、1周期中のオンの時間の比率であるデューティ比を低下させることにより、瞬間的に大きな放電電流が流れ、それに伴いプラズマ中の活性粒子密度が向上し、結晶性の高いITO薄膜層が得られる。
【0022】
この大電流放電誘発と活性粒子密度向上の効果は、シングルカソードパルススパッタリング法では、デューティ比60%以下で現れ、このときのピーク電流は、同一印加電力密度(通常2〜10W/cm2の範囲)において、通常同方法で用いられているデューティ比80%のときのピーク電流の1.5倍以上となる。従って、同方法においては、デューティ比60%以下で、同一印加電力密度(通常2〜10W/cm2の範囲)において、通常同方法で用いられているデューティ比80%のときのピーク電流の1.5倍以上となるように実施することが好ましい。
【0023】
一方、この大電流放電誘発と活性粒子密度向上の効果は、デュアルカソードパルススパッタリング法では、デューティ比40%以下で現れ、このときのピーク電流は、同一印加電力密度(通常2〜25W/cm2の範囲)において、通常同方法で用いられているデューティ比45%のときのピーク電流の1.3倍以上となる。従って、同方法においては、デューティ比40%以下で、同一印加電力密度(通常2〜25W/cm2の範囲)において、通常同方法で用いられているデューティ比45%のときのピーク電流の1.3倍以上となるように実施することが好ましい。
【0024】
しかし、一方で過度にデューティ比を低下させることは、放電の不安定化を招き、また成膜速度の低下も招くおそれがあり、このため、本発明のデューティ比としては、シングルカソードパルススパッタリング法の場合、60〜15%、より好ましくは55〜20%であり、デュアルカソードパルススパッタリング法の場合、40〜10%、より好ましくは35〜15%である。
【0025】
なお、デュアルカソードパルススパッタリング法ではアーキングが極めて生じにくく、ターゲットへ大電力を投入できるため、成膜速度を大きくできると共に、ターゲットを複数用いて交互に放電することで、このデューティ比下限値をより低く設定でき、好適である。
【0026】
シングルカソードパルススパッタリング法、デュアルカソードパルススパッタリング法のいずれの場合も、ターゲット電極に印加するパルスの周波数は1〜200kHz、更に好ましくは20〜80kHzである。1kHz未満では、パルス化によるアーキング防止などの効果が低くなるおそれがあり、200kHzを超えても通常それ以上の効果が得られない。
【0027】
本発明のITO薄膜は、導電性および結晶化度の点からSnO2含有割合が13質量%以下、特に6質量%以下であることが好ましい。
かかる点から、本発明におけるターゲットとしては、SnO2の質量割合が0.5〜13%、特に1〜6%のITOセラミックスターゲットを使用することができる。また、Snの質量割合が0.5〜13%、特に1〜6%のInSnの合金ターゲットを使用することもできる。InSn合金ターゲットを用いる場合は、酸素ガスを用いて反応性スパッタリングを行い、ITO膜を形成する。
【0028】
上記スパッタリングを行う際、成膜圧力は0.1〜5Pa、特に0.2〜3Paが好ましく、不活性ガスに加えて所望により酸素ガスを導入することが好ましい。
【0029】
投入電力も適宜選定されるが、高い投入電力とすることが好ましく、この場合、ターゲットへの投入電力密度を一般に2W/cm2以上、特に3W/cm2以上とすることが好ましい。この場合、投入電力密度が2W/cm2未満であると、結晶性が高く、均質な膜を得ることができなくなる場合がある。
【0030】
なお、形成される結晶性ITO薄膜の膜厚は、用途によっても異なるが、タッチパネル用途にあっては、10〜100nmであることが一般的であり、10〜40nmがより好ましい。また、この場合、本発明によれば、低温、高速でかつ結晶性の高いITO薄膜を得ることができることから、例えば、基板として連続フィルムを用いて巻き取りながら、結晶性ITO薄膜を形成することも可能である。
【0031】
本発明に係る上記結晶性ITO薄膜がガラス、プラスチックフィルム等の基板に成膜されてなる結晶性ITOフィルム(基板−ITO薄膜複合体)は、タッチパネル用、特に抵抗膜式タッチパネル用として好適に用いられる。この場合、抵抗膜式タッチパネルとしては公知の構成のものでよく、例えば特開2005−141981号公報(特許文献3)の図1に示されている抵抗膜式タッチパネルが典型的な例として挙げられ、その透明導電膜として本発明の結晶性ITO薄膜を使用することができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0033】
[比較例1]
デュアルカソードパルススパッタリング装置の2つのカソードにそれぞれITOセラミックスターゲット(SnO2:5質量%、放電面積270cm2/1個)を設置し、基板としてITO成膜とは逆面に5μmのUV硬化型アクリル樹脂系ハードコート、ITO成膜面に30nmの蒸着SiO2が成膜された188μm厚みのPETフィルムをセットした。一旦5×10-4Paまで真空引きした後に、真空槽内に100sccmのArガスと1sccmの酸素ガスを導入し、0.5Paとし、電力3kW、デューティ比45%のパルス電力を50kHzの周波数でそれぞれ交互に各ターゲット電極に印加し、基板加熱なしでパルススパッタリングを行い、約20nmのITO薄膜を成膜した。表面抵抗は350Ω/Sqであった。この薄膜を公知のX線回折法に基づき分析した結果、基材であるPET由来のピークのみであり、ITO結晶由来のピークは得られず、ITO薄膜はアモルファスであった。
【0034】
[実施例1]
比較例1と同様に準備を行い、電力3kW、デューティ比20%のパルス電力を50kHzの周波数でそれぞれ交互に各ターゲット電極に印加し、基板加熱なしでパルススパッタリングを行い、約20nmのITO薄膜を成膜した。表面抵抗は330Ω/Sqであった。この薄膜を公知のX線回折法に基づき分析した結果、基材であるPET由来のピーク以外に、回折角(2θ)で約31度付近にITO(222)面のピークが観察され、アズデポジッション状態において(結晶化のための加熱処理を施すことなく)結晶化していることがわかった。
【0035】
[比較例2]
シングルカソードパルススパッタリング装置のカソードにITOセラミックスターゲット(SnO2:5質量%、放電面積270cm2)を設置し、基板としてITO成膜とは逆面に5μmのUV硬化型アクリル樹脂系ハードコート、ITO成膜面に30nmの蒸着SiO2が成膜された188μm厚みのPETフィルムをセットした。一旦5×10-4Paまで真空引きした後に、真空槽内に100sccmのArガスと1sccmの酸素ガスを導入し、0.5Paとし、電力1.5kW、デューティ比80%のパルス電力を80kHzの周波数でターゲット電極に印加し、基板加熱なしでパルススパッタリングを行い、約20nmのITO薄膜を成膜した。表面抵抗は320Ω/Sqであった。この薄膜を公知のX線回折法に基づき分析した結果、基材であるPET由来のピークのみであり、ITO結晶由来のピークは得られず、ITO薄膜はアモルファスであった。
【0036】
[実施例2]
比較例2と同様に準備を行い、電力1.5kW、デューティ比40%のパルス電力を80kHzの周波数でターゲット電極に印加し、基板加熱なしでパルススパッタリングを行い、約20nmのITO薄膜を成膜した。表面抵抗は360Ω/Sqであった。この薄膜を公知のX線回折法に基づき分析した結果、基材であるPET由来のピーク以外に、回折角(2θ)で約31度付近にITO(222)面のピークが観察され、アズデポジッション状態において(結晶化のための加熱処理を施すことなく)結晶化していることがわかった。
【0037】
上記比較例1,2、実施例1,2で作製したITOフィルムについて、タッチパネルを作製し、ペン入力に対する摺動耐久試験を実施した。比較例、実施例の透明導電性フィルムの導電面をマイクロドットスペーサ付きの透明導電ガラス(旭硝子製、FTOガラス、S03)と対向させて貼り合わせ、導電面の裏面、つまりハードコート面をポリアセタール樹脂ペン(先端0.8R)に450gfの荷重をかけて300mm/sの速度で同一ライン上に往復筆記する試験を行い、一定の回数を摺動し終わるたびにフィルムの電気特性を測定し、耐久評価判定を行った。リニアリティが1.5%以内の場合を耐久OKとし、1.5%を超える場合をNGとした。
【0038】
なお、リニアリティは、透明導電フィルムの抵抗値の均一性を表す指標であり、リニアリティは次のようにして求めることができる。
【0039】
透明導電フィルムの対向する2辺に銀ペースト等で電極を設け、両電極間に直流電圧を印加する。このときの両電極間の距離をL、印加電圧をVとする。次に、透明導電フィルム上の任意の点について、マイナス電極からの距離lとその点におけるマイナス電極との電位差vを測定する。
【0040】
リニアリティは下記式
リニアリティ(%)=|l/L−v/V|×100
で算出され、小さいほど抵抗値の均一性が良好であり、0%であれば抵抗値は完全に均一である。一般に、抵抗膜式のアナログタッチパネルでは、このリニアリティが1.5%以下であることが好ましい。
【0041】
実施例1,2では10万回往復摺動筆記でリニアリティOK、外観変化もなかったが、比較例1,2は約5,000回でリニアリティNGとなり、摺動ライン部がITOの割れや剥離により白濁した。
以上のことから、本発明により基板無加熱にて結晶性ITO薄膜の形成が可能となり、これにより作製したITOフィルムはタッチパネル用ITOフィルムとして優れた耐久性を有することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】パルススパッタリング法における電圧と時間との関係の説明図である。
【図2】デュアルカソードパルススパッタリング法の説明図である。
【図3】デュアルカソードパルススパッタリング法における電圧と時間との関係を示し、(a)は一方のカソードAの電圧と時間との関係の説明図、(b)は他方のカソードBの電圧と時間との関係の説明図である。
【図4】従来のDCスパッタリング法における電圧と時間との関係の説明図である。
【図5】本発明に従って得られる結晶性ITO薄膜の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0043】
11 基板
12 結晶性ITO薄膜層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シングルカソードパルススパッタリング法によるITO薄膜の成膜方法において、ターゲット電極に印加する印加電力のデューティ比を60%以下としたことを特徴とする結晶性ITO薄膜の成膜方法。
【請求項2】
1パルスに対応するピーク電流が、同一印加電力密度におけるデューティ比80%の場合のピーク電流値の1.5倍以上であることを特徴とする請求項1記載の結晶性ITO薄膜の成膜方法。
【請求項3】
ターゲット電極に印加する印加電力の周波数が1〜200kHzであることを特徴とする請求項1又は2記載の結晶性ITO薄膜の成膜方法。
【請求項4】
2つのターゲット電極に交互に電力を印加するデュアルカソードパルススパッタリング法によるITO薄膜の成膜方法において、前記2つのターゲット電極にそれぞれ印加する印加電力のデューティ比を40%以下としたことを特徴とする結晶性ITO薄膜の成膜方法。
【請求項5】
1パルスに対応するピーク電流が、同一印加電力密度におけるデューティ比45%の場合のピーク電流値の1.3倍以上であることを特徴とする請求項4記載の結晶性ITO薄膜の成膜方法。
【請求項6】
ターゲットに印加する印加電力の周波数が1〜200kHzであることを特徴とする請求項4又は5記載の結晶性ITO薄膜の成膜方法。
【請求項7】
ターゲットとしてSnO2の質量割合が0.5〜13%であるITOセラミックターゲットを用いた請求項1乃至6のいずれか1項記載の結晶性ITO薄膜の成膜方法。
【請求項8】
ターゲットとしてSnの質量割合が0.5〜13%であるInSnの合金ターゲットを使用すると共に、酸素ガスを導入して反応性スパッタリングにて成膜する請求項1乃至6のいずれか1項記載の結晶性ITO薄膜の成膜方法。
【請求項9】
基板上にITO薄膜を成膜するに際し、基板を200℃以下の低温で加熱するか又は無加熱でスパッタリングを行う請求項1乃至8のいずれか1項記載の結晶性ITO薄膜の成膜方法。
【請求項10】
高分子基板上にITO薄膜を成膜するに際し、高分子基板を150℃以下の低温で加熱するか又は無加熱でスパッタリングを行う請求項1乃至8のいずれか1項記載の結晶性ITO薄膜の成膜方法。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項記載の方法によって成膜された結晶性ITO薄膜。
【請求項12】
基板上に請求項11記載の結晶性ITO薄膜が成膜されてなる結晶性ITOフィルム。
【請求項13】
タッチパネル用である請求項12記載の結晶性ITOフィルム。
【請求項14】
請求項12記載の結晶性ITOフィルムを備えた抵抗膜式タッチパネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−311040(P2007−311040A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−136081(P2006−136081)
【出願日】平成18年5月16日(2006.5.16)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】