説明

結晶育成用るつぼ及び結晶の育成方法

【課題】 種結晶と結晶方位がそろった結晶を歩留りよく育成することができ、大型の結晶を効率的に育成する。
【解決手段】 一方向凝固法による結晶育成に用いる結晶育成用るつぼ30であって、結晶原料を収納し、かつ結晶を成長させる容器部分である結晶成長部32と、結晶成長部32とネック部38を介して連通して設けられた種子結晶40の収納部34とを備え、ネック部28は、種子結晶40の収納部34よりも細く形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は一方向凝固法による単結晶の育成に使用する結晶育成用るつぼ及びこのるつぼを用いる結晶の育成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、白色LED用GaNヘテロエピタキシャル薄膜用下地基板として、大型、高品質、低価格のサファイア基板が必須となっている。このLED用サファイア基板はサファイア単結晶の結晶対称性の視点から、基板面がc面({0001}面)である必要がある。c面サファイア基板は、一般にはc軸方位成長の単結晶ブールから円形基板をスライス、ラッピング、ポリシングして得られる。
【0003】
電子材料応用として工業的に採用されているサファイア結晶育成法としては、縁端限定成長(Edge-defined,Film-fed Growth:EFG)法、チョコラルスキー(Czochralski:CZ)法、カイロポーラス(Kyropulos:KP)法などが公知である。
このうちEFG法は大型基板を多量生産する観点からは生産性が悪く展望が拓けていない。一方、CZ法、KP法何れの方法でも、直径3-inch以上のc軸方位成長では小傾角境界、大傾角境界、結晶粒界など結晶品質を著しく劣化させるマクロな構造欠陥の抑制が実現できていない。そのため、a軸方位成長の単結晶を育成し、その結晶からc軸方位結晶ブ−ルを刳りぬく方法を採用せざるを得ないのが現状である。この場合、刳りぬく余分な工程が必要であり、また利用できない結晶端材が多量に発生し基板の収率が著しく低下するなど、基板の低価格化が困難である大きな課題を抱えている。
【0004】
発明者は、従来のCZ法でc軸方位成長が困難な理由について考察し、サファイア結晶は方位によって(c軸に平行とc軸に垂直)熱膨張係数が大きく異なり、結晶成長時のc軸方向の温度勾配が大きいと結晶内部に大きな熱応力が発生し、単結晶成長が不可能となるサファイア結晶固有の問題であると考察した。この問題解決には、これまでGaAsやInP半導体結晶やLN、LGT酸化物結晶育成で実績があり、低温度勾配下結晶成長法である垂直ブリッジマン(Vertical Bridgman:VB)法の適用が有効であると考えた。
【0005】
VB法においては、図8(a)に示す上部側が高温となる温度分布1を有する結晶育成炉2内で、種子結晶3と結晶原料4を充填したるつぼ5を、温度の高い炉内上部へ徐々に押し上げ(図8(b))、結晶原料4を融解して融液6とし(図8(c))、融液6が結晶3に接する位置までさらにるつぼ5を押し上げ、図8(d)の種子付けプロセスで種子結晶3の一部を融解して種子付けを行い、その後、図8(e)に示すように、るつぼ5を徐々に引き下げて結晶7を徐々に成長させる。VB法では一定形状のるつぼ5の中で結晶7を成長させるため、直径制御が不要であり、非常に小さい温度勾配中でも結晶成長が可能であるという特徴がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−42560号公報
【特許文献2】特開平10ー130090号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】K. Hoshikawa, H. Nakanishi, H. Kohda, M. Sasaura: Liquid encapsulated,vertical Bridgman growth of large diameter low dislocation density,semi-insulating GaAs, J. Crystal Growth, Vol.94,pp.643-650, 1989
【非特許文献2】干川圭吾: 液体封止垂直ブリッジマン法によるGaAs単結晶成長, 半導体研究 工業調査会 西澤潤一編 pp.3-34 1991
【非特許文献3】T. Taishi T. Hayashi, T. Fukami, K. Hoshikawa, I. Yonenaga: Single-crystal growth of langasite(La3Ga5SiO14 ) by the vertical Bridgman(VB) method in air and in Ar atomosphere, J. CrystalGrowth, Vol.304, pp.4-6, 2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
VB法はGaAsやInP半導体結晶やLN、LGT酸化物結晶育成で実績が示され、従来のCZ法やKP法では困難であったc軸方位成長のサファイア結晶育成に好適に適用される。しかしながら、VB法で成長した結晶中には、小傾角境界と称される角度にして1゜以下の僅かではあるが、種子結晶の方位からずれた方位の結晶部分を含む結晶がしばしば成長してしまうという課題が明らかになった。
【0009】
図9は小傾角境界が発生した例を示すもので、育成した結晶インゴットの成長方向に垂直な切断面におけるX線トポグラフ写真を示す。図9は、サファイア基板の外周部8が中心部9の方位から約0.1〜0.5゜傾いている場合で、直径約80mmの円形基板の外周部20mm程度の部分がX線の反射が弱く、黒くなっていることから、小傾角境界が発生したことがわかる。
【0010】
このような小傾角境界の発生原因を調査検討した結果、小傾角境界の発生原因は、図8(d)に示すVB法単結晶育成プロセスの種子付けプロセスにあることが判明した。
図10は図9の結晶インゴットの種子付け界面近傍を結晶成長方向に平行に切断した切断面におけるX線トポグラフ写真である。図10は、種子付け界面の外周部10に小傾角境界の発生源があることを示す。
【0011】
図11は、図10と図9の関係を説明する模式図である。結晶成長開始の種子付け時に、アルミナの融液が、種子結晶とるつぼとの僅かな間隙に流れ込むことに起因して、種子付け界面の外周部10に種子結晶3とは異なった方位の結晶部分11が発生し、この結晶部分がその後の成長結晶部に引き継がれ、やがて小傾角境界8となり、結晶成長とともに小傾角境界が結晶上部に継承され、小傾角境界8を含む結晶インゴットに成長する。
【0012】
育成した結晶の外周囲に発生した、種子結晶とは結晶方位が異なる部分については、電子部品用の下地基板として使用できず、歩留まりを低下させることになる。電子部品の量産に用いられるサファイア結晶は製造効率を向上させるためにますます大型化しているから、結晶の外周面に種子結晶とは結晶方位が異なる部分が存在することは、製造効率上大きな問題である。
本発明は、育成した結晶の結晶方位を種子結晶の結晶方位に完全に一致させ、結晶の製造効率及び品質の向上を可能とする結晶育成用るつぼ及び結晶の育成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本出願に係る結晶育成用るつぼは、一方向凝固法による結晶育成に用いる結晶育成用るつぼであって、結晶原料を収納し、かつ結晶を成長させる容器部分である結晶成長部と、該結晶成長部とネック部を介して連通して設けられた種子結晶の収納部とを備え、前記ネック部は、前記種子結晶の収納部よりも細く形成されていることを特徴とする。
【0014】
また、前記ネック部と前記種子結晶の収納部の内面とが、一体面として形成され、該内面が、前記結晶成長部に向けて縮径するテーパ面に形成されていることを特徴とする。なお、縮径するテーパ面とは、内面の断面形状が円形の場合に限らず、楕円形や多角形状で縮寸する場合を含む意である。前記ネック部と前記種子結晶の収納部の内面とが円形で縮径するテーパ面である場合は、円錐台状に整形した種子結晶を収納部に装填して結晶成長させる。テーパ面は結晶成長部に接続する側が縮径するから、種子結晶から成長する結晶はネック部で種子結晶にくらべて細くしぼられ、種子結晶の外周部から発生する小傾角境界が結晶成長部に入り込むことを抑制し、結晶成長部では種子結晶の結晶方位と結晶全体が完全に一致する単結晶が得られる。
【0015】
前記種子結晶の収納部の内面が、円筒面に形成されている場合は、円柱体状とした種子結晶を種子結晶の収納部に装填して結晶成長させる。種子結晶の外周部から発生する種子結晶とは結晶方位が異なる結晶部分はネック部によって結晶成長部に入り込むことが抑制され、結晶成長部では種子結晶の結晶方位と完全に一致する単結晶が得られる。
前記円筒面と前記ネック部との接続部に、内面がネック部に向けて縮径するテーパ面となるテーパ部を設けた場合は、種子結晶を収納部に装填する際に、種子結晶の端面をテーパ面に当接させることにより、種子付け時に、ネック部から融液が漏出することを防止することができる。
前記種子結晶の収納部を、前記結晶成長部に接続する側と反対側の、るつぼの外面において開口するように設けることにより、収納部に種子結晶を挿入するようにして種子結晶を装填することができ、種子結晶の装着、取出し操作が容易になる。
【0016】
また、結晶原料を収納し、かつ結晶を成長させる容器部分である結晶成長部と、該結晶成長部とネック部を介して連通して設けられた種子結晶の収納部とを備え、前記ネック部は、前記種子結晶の収納部よりも細径に形成された結晶育成用るつぼを使用し、一方向凝固法により結晶を育成する方法であって、前記ネック部を空き空間として前記種子結晶の収納部に種子結晶を装填し、前記結晶成長部に結晶原料を収納したるつぼを、るつぼの移動方向に温度勾配を設けた育成炉中にセットする工程と、育成炉の高温側にるつぼを移動させて前記結晶原料を溶融し、結晶原料の融液を前記ネック部を介して前記種子結晶に接触させ種子結晶を部分的に融解して種子付けする工程と、種子付け工程後、るつぼを高温側から低温側へ移動させ、前記ネック部から前記結晶成長部内に単結晶を成長させる工程とを備えることを特徴とする。
この結晶の育成方法は、前記結晶原料としてアルミナ原料を使用し、前記種子結晶として前記種子結晶の収納部に合わせて整形したサファイア単結晶を使用することによりサファイア単結晶の育成に好適に利用することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の結晶育成用るつぼ及び結晶の育成方法によれば、種子結晶の収納部よりも細径としたネック部を設けたるつぼを使用することにより、結晶成長部において成長させる結晶に、種子結晶とは異なる結晶方位となる結晶部分が生じることを防止し、単結晶全体を製品に利用することができ、製造歩留まりを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】サファイア結晶の育成炉の概略構成を示す説明図である。
【図2】サファイア単結晶の育成に使用するるつぼの構成を示す断面図である。
【図3】サファイア結晶の育成方法を示す説明図である。
【図4】結晶が成長する作用を示す説明図である。
【図5】サファイア単結晶の育成に使用するるつぼの他の構成を示す断面図である。
【図6】育成したサファイア結晶の成長結晶部及び種子結晶(図6(b))の写真、及び図6(b)のA−B線位置におけるX線トポグラフ写真(図6(a))である。
【図7】サファイア単結晶の育成に使用するるつぼのさらに他の構成を示す断面図である。
【図8】垂直ブリッジマン法による従来の結晶育成方法を示す説明図である。
【図9】サファイア単結晶のX線トポグラ写真である。
【図10】サファイア結晶のX線トポグラフ写真である。
【図11】小傾角境界が発生する作用を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(結晶育成炉)
図1は、本発明に係る結晶育成用るつぼを用いてサファイア単結晶の育成に使用する育成炉の例を示す。
図示例の育成炉は、結晶を育成する環境を外部から遮蔽した状態に保持する気密容器20と、気密容器20内に軸線方向を鉛直向きに配置した円筒ヒータ22と、円筒ヒータ22を包囲する配置に設けた断熱材24と、るつぼサポート26及びるつぼ軸28に支持されて円筒ヒータ22内を昇降移動する結晶育成用るつぼ(るつぼ)30とを備える。
【0020】
るつぼサポート26はロッド状に形成した部材であり、ボールねじ等により軸線方向に昇降するるつぼ軸28の上端に、るつぼ軸28と軸線方向を共通に連結され、その上端に円筒ヒータ22と軸線方向を平行にるつぼ30を支持する。るつぼ軸28は気密容器20に気密にシールした状態で昇降可能に設ける。
育成炉内おけるるつぼ30の加熱温度は、円筒ヒータ22の配置、通電を制御することによって制御される。るつぼ30の加熱ゾーンは、上方側が高温に下方側が低温となる温度勾配が設定されている。
【0021】
気密容器20は減圧装置とガス供給機構に接続され、るつぼサポート26にるつぼ30をセットした後、気密容器20内を減圧し、ガス供給機構から気密容器20内に不活性ガスを供給し、気密容器20内を不活性ガス雰囲気として結晶を育成する。高温環境下において結晶を育成するサファイア単結晶を育成する場合は、純度99.999%以上の高純度Arガス雰囲気として行うことが望ましい。
【0022】
図1に示す育成炉は垂直ブリッジマン法(一方向凝固法)による結晶育成炉の例である。垂直ブリッジマン法においては、るつぼ30の移動方向における温度勾配を的確に制御する必要がある。このため、育成炉の設計にあたっては所定の育成環境が確保できるように、円筒ヒータの配置等を適宜設定するのがよい。
なお、一方向凝固法による結晶育成方法には水平ブリッジマン法(HB法)もある。水平ブリッジマン法では、るつぼを横置きとし、結晶が横方向(水平方向)に成長するように温度勾配を設定し、るつぼを横方向に移動して結晶を成長させる。
サファイア単結晶の育成に用いるるつぼ材料には、育成炉の加熱温度に耐えられる材料として、タングステン、タングステン−モリブデン合金、モリブデンが用いられる。
【0023】
(サファイア単結晶の育成例)
図2は、サファイア単結晶の育成に使用するるつぼの例を示す。このるつぼ30は、外形が円柱体状に形成され、鉛直配置した場合の上部側に結晶成長部32が設けられ、下部側に種子結晶の収納部34が設けられている。
結晶成長部32は結晶原料を収納する容器部分でもあり単結晶を成長させる容器部分でもある。本実施形態においては結晶成長部32の底部を下方(収納部34に向かう側)が徐々に縮径するテーパ部32aとし、結晶成長部32の内側面を上方(開口側)がわずかに拡径するテーパ面としている。結晶成長部32の底部をテーパ部32aとしたのは、なるべく歪を生じさせないように結晶を成長させるためである。なお、るつぼ30の底部を単なる平坦面に形成してもよい。結晶成長部32の内側面をテーパ面としているのは、結晶成長後に結晶を取出しやすくするためである。
【0024】
種子結晶の収納部34の内面は、上方(結晶成長部32に向かう側)が縮径するテーパ面に、すなわち、収納部34は、結晶成長部32側が縮径する円錐面に形成する。収納部34の下部には、収納部34の下端部よりも拡径する嵌入部36を形成する。嵌入部36には、るつぼサポート26の上端部が嵌入する。収納部34と嵌入部36とは、るつぼ30の下部側(下面)と結晶成長部32とを連通する連通孔となる。
【0025】
図3は、サファイア単結晶の育成方法を示す。図3では、育成炉内の鉛直方向の温度分布と、各工程におけるるつぼ30の位置、及びるつぼ30の内部状態を示す。
図3(a)は、結晶原料42と種子結晶40を装填したるつぼ30を、るつぼサポート26によって育成炉内にセットした状態を示す。結晶原料42には、アルミナの焼結体やサファイアの端材が用いられる。種子結晶40には収納部34の内面形状に合わせて円錐体状に整形したものを使用し、収納部34の下側の開口部から収納部34に挿入してセットする。
種子結晶40を収納部34に挿入した後、るつぼサポート26の上端部を嵌入部36に嵌入し、収納部34から種子結晶40が抜け落ちないように支持するとともに、るつぼ30を正立させて支持する。
【0026】
種子結晶の収納部34に種子結晶40をセットする際には、収納部34に種子結晶40を収納した状態で、種子結晶40の上面と収納部34の上側の開口部34aとの間に空間が生じるように種子結晶40の大きさを設定する。この空間部分は、種子結晶40よりも細くしぼった形態に結晶を成長させる部分、すなわちネック部38に相当する。
【0027】
結晶原料42と種子結晶40を収納したるつぼ30は、育成炉の加熱ゾーンのうち結晶原料42の溶融温度Tmよりも低温の領域である下側に位置させておく。
次いで、るつぼ30を徐々に上昇させる。るつぼ30が上昇するにつれて、るつぼ30が昇温し、結晶原料42が溶融する温度領域内を上昇するにしたがって、るつぼ30の上側から下側へ徐々に結晶原料42が溶融されていく。図3(b)は、結晶原料42が結晶成長部32の最下位置まで溶融し、融液42aが収納部34にまで入り込んだ状態である。
【0028】
融液42aが種子結晶40に接触して種子結晶40がわずかに融解した時点で、るつぼ30の動きを上昇から下降に切り替える。図3(b)は、種子結晶40が部分的に融解した、いわゆる種子付け状態(種子付け工程)であり、この状態からるつぼ30を下降動作に切り替える。
図3(c)は、種子付け後、るつぼ30を徐々に下降させて結晶を成長させている工程である。結晶成長工程では、結晶成長部32内の下部側から単結晶42bが成長していく。融液42aの上部まで完全に結晶化させた後、るつぼ30を室温まで徐々に降温させ、るつぼ30から単結晶を取り出す。
るつぼ30を室温まで降下させる際に、結晶成長部32内で硬化した単結晶42bと収納部34内の結晶とは、熱応力によってネック部38で分離し、るつぼ30から単結晶を取り出すことができる。
【0029】
本実施形態のサファイア単結晶の成長方法において特徴的な作用は、結晶成長部32内で成長させる単結晶の結晶方位を種子結晶40の結晶方位に完全に一致させることができる点にある。
図4に、単結晶全体が結晶方位を一致させて成長する作用を示す。図4は、結晶を成長させる際における種子結晶の収納部34の状態を拡大して示している。種子付け工程においては、融液42aが種子結晶40の上部に接触し、種子結晶40を部分的に融解してから結晶を成長させる。このとき、融液42aが種子結晶40と収納部34の内壁面との隙間に流れ込み、種子結晶40の外周部(A部分)に種子結晶40の結晶方位とは異なった方位の結晶部分11が発生し、この結晶部分11(図4の破線部分)が結晶成長とともに成長する。
【0030】
本実施形態のるつぼ30では、種子結晶の収納部34の内側面を上方の開口部34a側が縮径するテーパ状としているから、種子結晶40とは結晶方位が異なる結晶部分11が上方に向けて成長する際に、収納部34の上部側の内側面によって結晶方位が異なる結晶部分11の成長が妨げられ、結晶成長部32内に種子結晶40と結晶方位が異なる結晶部分11が侵入することが阻止される。これによって、結晶成長部32内では、種子結晶40と結晶方位が一致する結晶のみが成長することになる。
種子結晶の収納部34をテーパ面とした場合は、収納部34の内面の傾斜角度を大きくすることによって、より確実に種子結晶40とは異なる結晶方位の結晶部分が結晶成長部32に入り込むことを阻止することができる。
【0031】
種子結晶の収納部34の傾斜角度を大きくするという意味は、種子結晶40の径寸法にくらべて、種子結晶40から成長させる結晶部分の径を細くする、いいかえれば種子結晶40から成長させる結晶部分を細くしぼった形状にするという意味である。前述したネック部38は、種子結晶40と結晶成長部32とを連通する部分に、種子結晶40よりも細くしぼった部分を設けたものであり、これによって、種子結晶40とは異なる結晶方位となる結晶部分11を結晶成長部32に侵入することを阻止し、小傾角境界が単結晶に生じないように作用する。
【0032】
(結晶育成用るつぼの他の例)
図5は、サファイア単結晶の育成に用いるるつぼの他の例を示す。このるつぼ30は、円柱状に形成した種子結晶40を使用するもので、種子結晶を収納する収納部34の内面を円筒面としている。収納部34と結晶成長部32とは収納部34よりも細径のネック部38を介して連通する。
図5は収納部34に種子結晶40を収納した状態を示している。種子結晶40は収納部34に挿入してセットするから、収納部34よりもわずかに小径の円柱状に形成する。
【0033】
本実施形態においては、種子結晶40にくらべてネック部38の径寸法を十分に小さくしておけば(1/2以下程度)、種子結晶40の外周部から種子結晶40とは異なる結晶方位の結晶部分が生じても、収納部34とネック部38との段差部分で、種子結晶40と異なる結晶方位の結晶の成長が妨げられ、結晶成長部32内においては種子結晶40の結晶方位に一致する結晶のみが成長する。
【0034】
図6は、本実施形態のるつぼ30を用いて育成したサファイア単結晶の写真(図6(b))と、図6(b)のA−B線位置におけるX線トポグラフ写真(図6(a))を示す。図6(a)に示すように、成長結晶部には小傾角境界が見られず、結晶全体が種子結晶40の結晶方位と完全に一致して育成されていることがわかる。種子結晶40は成長結晶部とネック部38で分離される。分離した種子結晶40は、単結晶育成用の種子結晶として再利用することもできるし、破砕して結晶原料に使うこともできる。
【0035】
本実施形態においては、円柱形に形成した種子結晶40を使用するから、前述した実施形態におけるように、円錐台状(円錐状)に種子結晶40を整える場合とくらべて、種子結晶40を簡単に用意できるという利点がある。一方、円錐台状の種子結晶40を使用する場合は、種子結晶40のテーパ面により、結晶原料を溶融した融液42aが収納部34の下方に漏出することが阻止できるのに対して、円柱状の種子結晶40を使用した場合は、収納部34の下方に融液42aが漏出する可能性がある。この場合は、融液の漏出を防止して種子結晶40を保持する治具を使用する、あるいは、るつぼサポート26で融液42aの漏出を防止するようにして種子結晶40を支持するのがよい。
【0036】
図7は、サファイア単結晶の育成に用いるるつぼのさらに他の例を示す。このるつぼ30は、種子結晶の収納部34の上部に内面がテーパ面となるテーパ部34bを設け、テーパ部34bよりも下部側を内面が円筒面となる円筒部34cとした例である。
テーパ部34bの上端はネック部38に接続し、ネック部38はテーパ部34bの下部開口径にくらべて十分に小径となるように設定されている。
【0037】
図7に示すように、種子結晶40は円柱状に形成し、種子結晶40を収納部34内に装填する際は、種子結晶40の上端をテーパ部34bの内面に当接させてセットする。図示例では、るつぼサポート26の上端を嵌入部36に嵌入して、種子結晶40を収納部34内に支持しているが、種子結晶40を支持する治具を用いてもよい。
【0038】
本実施形態においても、種子結晶40から結晶を成長させる際に、種子結晶40の外周部に種子結晶40の結晶方位と異なる結晶部分が生じても、テーパ部34bの内面によって、結晶方位が異なる結晶部分が結晶成長部32に入り込むことが阻止され、ネック部38からは種子結晶40と同一の結晶方位となる結晶が成長し、結晶成長部32で育成される単結晶全体を種子結晶40の結晶方位と同一にすることができる。
【0039】
本実施形態においては、種子結晶40の上端を収納部34のテーパ部34bの内面に当接させて配置したことにより、種子付け工程の際に結晶原料の融液42aがテーパ部34bに流入しても、下方に融液42aが漏出することを防止することができる。また、種子結晶40も円柱状に整えればよいから種子結晶40を用意することも容易である。
【0040】
以上のように、上述したサファイア結晶の育成方法においては、結晶成長部32において育成する結晶全体の結晶方位を、種子結晶の結晶方位に完全に一致させることができることから、製品用としての歩留まりを効果的に向上させることが可能となる。とくに大型の結晶を育成する場合や、結晶方位を問題とする結晶を育成する場合には、本発明方法は歩留まりを向上させる上できわめて有効である。
【0041】
また、るつぼの容器部分の底部に種子結晶を配置して単結晶を育成する従来方法と比較して、使用する種子結晶の小型化を図ることができ、これによって種子結晶を効率的に使用することができる。また、種子結晶はるつぼの底部側から種子結晶の収納部34に挿入するようにしてセットすればよいから、種子結晶を配置する操作が容易になるという利点もある。
【0042】
なお、上記実施形態においては、るつぼ30を一体物として形成したが、種子結晶の収納部34とネック部38とを、結晶成長部32を設けたるつぼの本体とは別部材により形成し、種子結晶の収納部34とネック部38とを設けた部分を、るつぼの本体部分から分離可能とすることも可能である。このように、種子結晶の収納部34とネック部38とを別部材とすることで、種子結晶を装填する部分を交換して使用することができ、種子結晶の取り外しを容易にし、種子結晶を装填する部分の材質をるつぼの本体部分とは異なる材質とすることもできる。
このように、るつぼ30は、複数の部材を組み合わせて構成することができ、種子結晶40を支持するための治具を適宜設計して使用することも可能である。
【0043】
本発明に係る結晶育成用るつぼ及び結晶育成方法は、サファイア結晶の育成にのみ適用されるものではなく、他の結晶を育成する方法として利用することができる。また、上記実施例では垂直ブリッジマン法によって結晶を作成する例について説明したが、一方向凝固法による結晶育成方法である水平ブリッジマン法においても、前述した実施形態と同様に、ネック部を介して種子結晶の収納部と結晶成長部とを連通させる配置とすることにより、結晶全体として、種子結晶の結晶方位と完全に一致する結晶方位を有する単結晶を得ることが可能である。
【符号の説明】
【0044】
3 種子結晶
4 結晶原料
6 融液
7 結晶
8 小傾角境界
10 外周部
20 気密容器
22 円筒ヒータ
24 断熱材
30 るつぼ
32 結晶成長部
32a テーパ部
34 種子結晶の収納部
34b テーパ部
34c 円筒部
36 嵌入部
38 ネック部
40 種子結晶
42a 融液
42b 単結晶




【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向凝固法による結晶育成に用いる結晶育成用るつぼであって、
結晶原料を収納し、かつ結晶を成長させる容器部分である結晶成長部と、
該結晶成長部とネック部を介して連通して設けられた種子結晶の収納部とを備え、
前記ネック部は、前記種子結晶の収納部よりも細く形成されていることを特徴とする結晶育成用るつぼ。
【請求項2】
前記ネック部と前記種子結晶の収納部の内面とが、一体面として形成され、該内面が、前記結晶成長部に向けて縮径するテーパ面に形成されていることを特徴とする結晶育成用るつぼ。
【請求項3】
前記種子結晶の収納部の内面が、円筒面に形成されていることを特徴とする請求項1記載の結晶育成用るつぼ。
【請求項4】
前記円筒面と前記ネック部との接続部に、内面がネック部に向けて縮径するテーパ面となるテーパ部が設けられていることを特徴とする請求項3記載の結晶育成用るつぼ。
【請求項5】
前記種子結晶の収納部は、前記結晶成長部に接続する側と反対側の、るつぼの外面において開口することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の結晶育成用るつぼ。
【請求項6】
結晶原料を収納し、かつ結晶を成長させる容器部分である結晶成長部と、該結晶成長部とネック部を介して連通して設けられた種子結晶の収納部とを備え、前記ネック部は、前記種子結晶の収納部よりも細く形成された結晶育成用るつぼを使用し、一方向凝固法により結晶を育成する方法であって、
前記ネック部を空き空間として前記種子結晶の収納部に種子結晶を装填し、前記結晶成長部に結晶原料を収納したるつぼを、るつぼの移動方向に温度勾配を設けた育成炉中にセットする工程と、
育成炉の高温側にるつぼを移動させて前記結晶原料を溶融し、結晶原料の融液を前記ネック部を介して前記種子結晶に接触させ種子結晶を部分的に融解して種子付けする工程と、
種子付け工程後、るつぼを高温側から低温側へ移動させ、前記ネック部から前記結晶成長部内に単結晶を成長させる工程と
を備えることを特徴とする結晶の育成方法。
【請求項7】
請求項6記載の結晶の育成方法を利用してサファイア単結晶を製造する方法であって、
前記結晶原料としてアルミナ材料を使用し、
前記種子結晶として前記種子結晶の収納部に合わせて整形したサファイア単結晶を使用することを特徴とする結晶の育成方法。








【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図1】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−18678(P2013−18678A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153526(P2011−153526)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】