説明

絶縁性シート基板の製造方法、及び多層回路基板の製造方法

【課題】液滴を用いて形成するパターンの加工精度を向上させた絶縁性シート基板の製造方法、及び多層回路基板の製造方法を提供することである。
【解決手段】液状パターンに応じた転写用パターン45Pを塗布面45aに有するキャリヤシート45を用い、キャリヤシート45の塗布面45aにセラミックスラリーCSを供給してキャリヤシート45の塗布面45aにセラミックグリーンシート32の描画面を形成し、キャリヤシート45からセラミックグリーンシート32を剥がすことによって、セラミックグリーンシート32の描画面に、描画領域を囲む保護パターンを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁性シート基板の製造方法、及び多層回路基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
低温焼成セラミック(LTCC:Low Temperature Co-fired Ceramics )技術は、セラミック粉末と金属微粒子との一括焼成を可能にすることから、セラミックの層間に各種の受動素子を組み込んだ素子内蔵基板を具現できる。システム・オン・パッケージ(SOP)の実装技術においては、電子部品の複合化や表面実装部品に発生する寄生効果の最小化を図るため、この素子内蔵基板(以下単に、LTCC多層基板と言う。)に関わる製造方法が鋭意開発されている。
【0003】
LTCC多層基板の製造方法では、セラミッグ粉末と有機バインダとを含む複数のグリーンシートの上に受動素子や配線等のパターンを描画する描画工程と、該パターンを有する複数のグリーンシートを積層する積層工程と、積層体を一括焼成する焼成工程とが順に実施される。
【0004】
描画工程においては、各種パターンの高密度化を図るため、導電性微粒子を含む液状体(以下単に、導電性インクと言う。)を微小な液滴にして吐出する、いわゆるインクジェット法が提案されている(例えば、特許文献1)。インクジェット法は、数ピコリットル〜数十ピコリットルの液滴を用い、液滴の吐出位置を変更することによって、パターンの微細化や狭ピッチ化を可能にする。
【特許文献1】特開2005−57139号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図10(a)は描画工程におけるパターン101の平面図であり、図10(b)は図10(a)のA−A断面図である。図11(a)は積層工程におけるパターン101の平面図であり、図11(b)は図11(a)のA−A断面図である。
【0006】
インクジェット法に利用される導電性インクは、導電性微粒子の分散系であり、導電性粒子の粒径としては、一般的に、数ナノメートル〜数十ナノメートルが用いられる。図10(a)、(b)に示すように、グリーンシート103の主面(描画面103a)には、描画工程を経ることにより描画領域104にパターン101が形成される。パターン101は、導電性微粒子102の集合体であり、焼成工程によって焼成されるまで、その状態を維持し続ける。
【0007】
上記積層工程においては、パターン101を挟むように、複数のグリーンシート103が所定の圧力で押圧される。焼成前の導電性微粒子102は、グリーンシート103との密着力や粒子間の結合力が弱いため、図11(a)、(b)に示すように、積層時の押圧によって容易に押し潰されてしまう。この結果、上記積層工程では、パターン101がグリーンシート103の描画面103aに沿って延びるように変形し、所望の描画領域104(図10及び図11における二点鎖線)から食み出し、隣のパターン101との接触によりショートしてしまう問題があった。
【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、その目的は、液滴を用いて形成するパターンの加工精度を向上させた縁性シート基板の製造方法、及び多層回路基板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明における絶縁性シート基板の製造方法は、導電性微粒子を含む液状体からなる液滴を受ける主面を備え、前記液滴を前記主面で受けることにより前記主面に前記液状体からなる液状パターンを形成可能にする絶縁性シート基板の製造方法であって、前記液状パターンに応じた凹状の転写用パターンが表面に形成された転写基材を用い、前記転写基材の表面にシート材料を供給して前記転写基材の表面に前記絶縁性シート基板の主面を形成し、前記転写基材から前記絶縁性シート基板を剥がすことによって、前記主面における前記液状パターンの形成領域の外側に、前記液状パターンに応じた凸状の保護パターンを形成する。
【0010】
本発明における絶縁性シート基板の製造方法によれば、絶縁性シート基板の本体を形成するときに、液状パターンに応じた凸状の保護パターンを形成できる。したがって、この絶縁性シート基板の製造方法によれば、保護パターンが液状パターンの外側で突出することから、導電性微粒子からなるパターンの潰れを防ぐことができる。したがって、この絶縁性シート基板の製造方法によれば、液滴を用いて形成するパターンの加工精度を向上できる。
【0011】
この絶縁性シート基板の製造方法は、前記保護パターンが前記液状パターンの形成領域の外側に離散して配設された複数の凸部であっても良い。
この絶縁性シート基板の製造方法によれば、保護パターンが離散して配設されることから、液状パターンの設計の自由度を確保できる。ひいては、複雑な形状からなるパターンにおいても、その加工精度を向上できる。
【0012】
この絶縁性シート基板の製造方法は、前記絶縁性シート基板の前記主面を、前記液滴を吐出するか否かを規定するための複数の格子に仮想分割し、前記複数の凸部の各々を、前記格子へ選択的に配設するようにしても良い。
【0013】
この絶縁性シート基板の製造方法によれば、複数の保護パターンがそれぞれ液滴の吐出・非吐出を規定した格子ごとに配設されることから、液状パターンの設計の自由度を、さらに向上できる。ひいては、複雑な形状からなるパターンにおいても、その加工精度を向上できる。
【0014】
この絶縁性シート基板の製造方法は、前記シート材料がセラミック粒子とバインダとを含むスラリーであり、前記絶縁性シート基板がセラミックグリーンシートであり、前記転写基材の表面に前記スラリーを塗布して前記スラリーからなる塗布膜を乾燥することにより前記転写基材の表面に前記セラミックグリーンシートの主面を形成する構成であっても良い。
【0015】
この絶縁性シート基板の製造方法によれば、流動体を用いて保護パターンを形成することから、保護パターンの形状が、より確実に、液状パターンに応じた形状になる。したがって、この絶縁性シート基板の製造方法は、保護パターンの形状を、より液状パターンに応じた形状で形成できることから、セラミックグリーンシートにおける液状パターンの加工精度を、より確実に向上できる。
【0016】
この絶縁性シート基板の製造方法は、前記転写基材が前記塗布膜を搬送するキャリヤシートであっても良い。
この絶縁性シート基板の製造方法によれば、塗布膜を搬送するキャリヤシートの上で保護パターンを形成することから、転写基材を別途用いる場合に比べて、保護パターンの形状を、より確実に、液状パターンに応じた形状に形成できる。
【0017】
本発明における多層回路基板の製造方法は、絶縁性のシート材料からなる絶縁性シート基板を形成する工程と、絶縁性シート基板の主面に導電性微粒子を含む液状体からなる液滴を吐出して前記絶縁性シート基板の表面に前記液状体からなる液状パターンを描画する工程と、前記液状パターンを乾燥して乾燥パターンを形成する工程と、前記乾燥パターンを有する複数の前記絶縁性シート基板を積層して圧着することにより多層回路基板を形成する工程とを備えた多層回路基板の製造方法であって、前記絶縁性シート基板を形成する工程は、前記液状パターンに応じた凹状の転写用パターンが表面に形成された転写基材を用い、前記転写基材の表面にシート材料を供給して前記転写基材の表面に前記絶縁性シート基板の主面を形成し、前記転写基材から前記絶縁性シート基板を剥がすことによって、前記主面における前記液状パターンの形成領域の外側に、前記液状パターンに応じた凸状の保護パターンを形成し、前記描画する工程は、前記主面の形成領域へ前記液滴を吐出して前記液状パターンを描画する。
【0018】
本発明における多層回路基板の製造方法によれば、絶縁性シート基板の本体を形成するときに、液状パターンに応じた凸状の保護パターンを形成できる。したがって、この多層回路基板の製造方法によれば、保護パターンが液状パターンの外側で突出することから、導電性微粒子からなるパターンの潰れを防ぐことができる。したがって、この多層回路基板の製造方法によれば、液滴を用いて形成するパターンの加工精度を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(第一実施形態)
以下、本発明を具体化した第一実施形態を図1〜図7に従って説明する。図1は、多層回路基板を有する回路モジュールの断面図である。図1において、回路モジュール10は、多層回路基板としての低温焼成セラミック(LTCC:Low Temperature Co-fired Ceramics )多層基板11と、LTCC多層基板11に接続された半導体チップ12とを有する。
【0020】
LTCC多層基板11は、積層された複数のLTCC基板13を有する。各LTCC基板13は、それぞれグリーンシートの焼結体であって、厚みが数十マイクロメートル〜数百マイクロメートルで形成されている。各LTCC基板13の層間には、それぞれ抵抗素子、容量素子、コイル素子等の各種の内部素子14と、各内部素子14に電気的に接続する内部配線15とが内蔵され、各LTCC基板13には、それぞれスタックビア構造やサーマルビア構造を成すビア配線16が形成されている。内部素子14、及び内部配線15は、それぞれ導電性微粒子の焼結体であり、導電性微粒子を含む液状体を用いるインクジェット法によって形成される。
【0021】
次に、LTCC多層基板11の製造方法を図2〜図5に従って説明する。図2はLTCC多層基板11の製造方法を示すフローチャートであり、図3はLTCC多層基板11の製造方法における描画工程を示す工程図である。図4(a)はセラミックグリーンシート32の描画面32aを示す平面図であり、図4(b)は図4(a)のA‐A断面図である。図5はLTCC多層基板11の製造方法における積層工程を示す工程図である。
【0022】
図2において、LTCC多層基板11の製造方法では、まず、LTCC基板13の前駆体である絶縁性シート基板としてのグリーンシートに液状パターンを描画する描画工程(ステップS11)が実行される。次いで、液状パターンを乾燥する乾燥工程(ステップS12)と、複数のグリーンシートを積層する積層工程(ステップS13)と、積層体を焼成する焼成工程(ステップS14)とが順に実行される。
【0023】
図3において、描画工程には、液滴吐出装置20が用いられる。液滴吐出装置20は、
吐出対象物を保持するステージ21と、導電性微粒子を含む液状体(以下単に、導電性インクIkと言う。)を貯留するインクタンク22と、インクタンク22からの導電性インクIkを液滴Dにして吐出対象物へ吐出する吐出ヘッド23とを有する。
【0024】
導電性インクIkは、導電性微粒子Sを分散媒Fに分散させた導電性微粒子Sの分散系であり、微小な液滴Dを吐出可能にするために、その粘度が20cP以下に調整されている。導電性微粒子Sは、数ナノメートル〜数十ナノメートルの粒径を有する微粒子であり、例えば金、銀、銅、白金、パラジウム、ロジウム、オスミウム、ルテニウム、イリジウム、鉄、錫、コバルト、ニッケル、クロム、チタン、タンタル、タングステン、インジウム等の金属、あるいは、これらの合金を用いることができる。分散媒Fは、導電性微粒子Sを均一に分散させるものであれば良く、例えば水、水を主成分とする水溶液系、あるいはテトラデカン等の有機溶剤を主成分とする有機系を用いることができる。
【0025】
吐出ヘッド23は、インクタンク22に連通するキャビティ24と、キャビティ24に連通するノズル25と、キャビティ24に連結される圧力発生素子26とを有する。キャビティ24は、インクタンク22からの導電性インクIkを受け、ノズル25に導電性インクIkを供給する。ノズル25は、数十マイクロメートルの開口を有するノズルであり、インクタンク22からの導電性インクIkを用いて開口に気液界面(メニスカス)を形成する。圧力発生素子26は、キャビティ24の容積を変更する圧電素子や静電容量素子、あるいはキャビティ24の温度を変更する抵抗加熱素子であり、キャビティ24の内部に所定圧力を発生させる。圧力発生素子26が駆動するとき、ノズル25は、導電性インクIkからなるメニスカスを振動させて、導電性インクIkを数ピコリットル〜数十ピコリットルの液滴Dにして吐出する。
【0026】
本実施形態における吐出対象物は、支持シート31と、支持シート31に積層されたセラミックグリーンシート32とからなる積層シート33である。支持シート31は、描画工程や乾燥工程においてセラミックグリーンシート32を支持するためのシートであり、セラミックグリーンシート32に対する剥離性を有すると共に、描画工程における機械的耐性に優れた高分子材料からなる。支持シート31としては、例えばポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルムを用いることができる。
【0027】
セラミックグリーンシート32は、ガラスセラミック粉末や有機バインダ等を含むガラスセラミック組成物からなるシートである。セラミックグリーンシート32の膜厚は、内部素子14としてコンデンサ素子を形成する場合に数十マイクロメートルで形成され、他の層においては100マイクロメートル〜200マイクロメートルで形成される。
【0028】
ガラスセラミック粉末は、0.1マイクロメートル〜5マイクロメートルの平均粒径を有する粉末であり、例えばアルミナやフォルステライト等のセラミック粉末にホウ珪酸系ガラスを混合したガラス複合セラミックを用いることができる。また、ガラスセラミック粉末としては、ZnO−MgO−Al−SiO系の結晶化ガラスを用いた結晶化ガラスセラミック、BaO−Al−SiO系セラミック粉末やAl−CaO−SiO−MgO−B系セラミック粉末等を用いた非ガラス系セラミックを用いても良い。
【0029】
有機バインダは、ガラスセラミック粉末の結合剤としての機能を有し、焼成工程で分解して容易に除去できる高分子材料である。有機バインダとしては、例えばブチラール系、アクリル系、セルロース系等の有機バインダ樹脂を用いることができる。アクリル系の有機バインダ樹脂としては、例えばアルキル(メタ)アクリレート、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、シクロアルキル
(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート化合物の単独重合体を用いることができる。また、アクリル系の有機バインダ樹脂としては、該(メタ)アクリレート化合物の2種以上から得られる共重合体、あるいは(メタ)アクリレート化合物と不飽和カルボン酸類等の他の共重合性単量体から得られる共重合体を用いることができる。なお、有機バインダは、例えばアジピン酸エステル系可塑剤、ジオクチルフタレート(DOP)、ジブチルフタレート(DBP)フタル酸エステル系可塑剤、グリコールエステル系可塑剤等の可塑剤を含有しても良い。
【0030】
セラミックグリーンシート32には、打ち抜き加工やレーザ加工によって、数十マイクロメートル〜数百マイクロメートルの孔径からなる円形孔や円錐孔(以下単に、ビアホール32hという。)が貫通形成されている。ビアホール32hには、導体性ペーストを用いたスキージ法や導電性インクを用いたインクジェット法等によって、銀、金、銅、パラジウム等の導電材料が前工程で充填されている。
【0031】
図4(a)、(b)において、セラミックグリーンシート32の上面(以下単に、描画面32aと言う。)には、描画面32aから突出する凸部としての保護パターン32Pが形成されている。保護パターン32Pは、描画面32aにおける凸状のパターンであって、描画工程にて形成する液状パターンに応じた形状を呈する。
【0032】
本実施形態における保護パターン32Pは、描画工程にて形成する液状パターンの領域(図4(a)における二点鎖線:以下単に、形成領域としての描画領域PSと言う。)の外側に形成されている。また、保護パターン32Pは、描画領域PSを囲うように、描画領域PSから所定の距離だけ離れた位置に形成されている。保護パターン32Pは、描画領域PSから所定の距離だけ離間することにより、描画領域PSに吐出される液滴Dとの接触を抑えられる。そして、導電性インクIkが保護パターン32Pに対して高い濡れ性を有する場合には、導電性インクIkと保護パターン32Pとが離間する分だけ、導電性インクIkの描画領域PSからの食み出しを回避できる。なお、保護パターン32Pが描画領域PSの外縁に沿って形成される場合には、導電性インクIkが保護パターン32Pに沿って流動することから、描画領域PSにおける導電性インクIkの偏在を招き易い。すなわち、導電性インクIkの描画領域PSからの食み出しを来たし易く、隣接する描画領域PSの間の短絡を招く虞がある。
【0033】
描画工程では、積層シート33と吐出ヘッド23とが描画面32aの面方向に沿って相対移動し、ノズル25からの複数の液滴Dがそれぞれ描画面32aにおける描画領域PSに着弾する。描画領域PSに着弾する複数の液滴Dは、それぞれ描画領域PSの内部で合一し、保護パターン32Pによって囲まれた液状パターンPLを描画面32aに形成する。
【0034】
乾燥工程においては、描画工程後の積層シート33が乾燥炉等の乾燥装置に搬入され、液状パターンPLを有する状態で乾燥温度に加熱される。これによって、液状パターンPLに含まれる分散媒Fの殆どが蒸発し、導電性微粒子Sの集合体からなる乾燥パターンPDが保護パターン32Pに囲まれるように形成される。なお、乾燥温度が過剰に高くなると、支持シート31とセラミックグリーンシート32とが熱変形を来たし、積層工程時における他の積層シート33との位置精度が損なわれてしまう。そこで、乾燥温度は、例えば40℃〜80℃であり、積層工程時の位置精度を確保できるように、積層シート33の組成や導電性インクIkの組成に応じて適宜選択される。
【0035】
図5において、積層工程では、まず、複数の積層シート33の各々から支持シート31が剥がされる。複数のセラミックグリーンシート32の各々は、乾燥パターンPDを有する状態で順に積層され、複数のセラミックグリーンシート32からなる積層体を形成する
。複数のセラミックグリーンシート32からなる積層体は、静水圧プレス法等を用いることによって圧着される。この際、各乾燥パターンPDは、それぞれ保護パターン32Pに囲まれる分だけ、圧着に伴う応力変形を抑えられる。すなわち、各乾燥パターンPDは、セラミックグリーンシート32の面方向に沿う潰れを抑えられることから、圧着に伴う断線や線間の短絡等を防ぐことができる。
【0036】
焼成工程においては、積層工程で得られる積層体が所定の焼成炉に搬入されて焼成される。焼成温度は、例えば800℃〜1000℃であって、セラミックグリーンシート32の組成に応じて適宜変更される。焼成工程においては、有機バインダが分解されてセラミックグリーンシート32から除去される。また、セラミックグリーンシート32におけるガラスセラミック粉末が互いに焼結し、乾燥パターンPDにおける導電性微粒子Sが互いに焼結する。そして、乾燥パターンPDと保護パターン32Pとの間の空間は、セラミックグリーンシート32の収縮率と乾燥パターンの収縮率との差に応じて縮小あるいは消滅する。なお、乾燥パターンPDとしてCuを用いる場合には、Cuの酸化を防止するため、還元雰囲気中で焼成するのが好ましい。銀、金、白金、パラジウム等を用いる場合には大気中で焼成しても良い。焼成工程では、積層工程における静水圧よりも小さい圧力で積層体を加圧しながら焼成しても良い。これによれば、LTCC多層基板11の平坦性が向上され、各セラミックグリーンシート32の反りや剥離を防止できる。
【0037】
次に、セラミックグリーンシート32の製造方法を図6及び図7に従って説明する。図6はグリーンシートの製造装置を模式的に示す図であり、図7はキャリヤシートの塗布面を示す平面図である。
【0038】
セラミックグリーンシート32の製造方法では、まず、セラミックグリーンシート32の前駆体である塗布膜を形成する塗布工程が実行される。次いで、塗布膜を乾燥する乾燥工程と、乾燥後の塗布膜をキャリヤシートから剥離する剥離工程とが順に実行される。
【0039】
図6において、セラミックグリーンシートの製造装置40は、搬送系41と、塗布部42と、乾燥部43と、剥離部44とを有する。搬送系41は、転写基材としてのキャリヤシート45を搬送するための一対の搬送ローラ46と、キャリヤシート45を支持するための一対の支持ローラ47とを有する。搬送系41は、一方の搬送ローラ46から支持ローラ47に向けてキャリヤシート45を繰出し、一対の支持ローラ47の間で張設されたキャリヤシート45を、順に他方の搬送ローラ46で巻き取る。すなわち、搬送系41は、一対の搬送ローラ46から繰出すキャリヤシート45を、塗布部42、乾燥部43、剥離部44の順に搬送する。
【0040】
図7において、キャリヤシート45は、ポリエチレンテレフタレート等からなる帯状に形成された可撓性シートである。キャリヤシート45の表面(以下単に、塗布面45aと言う。)には、複数の転写用領域45Sが仮想分割され、各転写用領域45Sには、それぞれ描画領域PSに対応する仮想領域ISを囲うように、転写用パターン45Pが形成されている。各転写用パターン45Pは、それぞれ塗布面45aにおける凹状のパターンであって、描画工程にて用いる保護パターン32Pと略同じサイズに形成されている。転写用パターン45Pが塗布部42からのスラリーを受けるとき、転写用パターン45Pの外側面には、その全体にわたり、スラリーが塗布される。
【0041】
塗布部42は、スラリータンク42aと、塗布ヘッド42bとを有する。スラリータンク42aは、上記ガラスセラミック組成物をスラリー化したセラミックスラリーCSを内部に収容する。スラリータンク42aは、収容するセラミックスラリーCSを所定の圧力で塗布ヘッド42bへ供給する。塗布ヘッド42bは、キャリヤシート45の塗布面45aから所定の距離だけ離間する塗布口を有する。塗布ヘッド42bは、スラリータンク4
2aからのセラミックスラリーCSを受け、スラリータンク42aからのセラミックスラリーCSをキャリヤシート45の塗布面45aに塗布し、所定の膜厚の塗布膜FLを形成する。
【0042】
乾燥部43は、キャリヤシート45の塗布面45aに形成される塗布膜FLを加熱するためのヒータを有する。乾燥部43は、その塗布部42の側から搬送される塗布膜FLをハンドリング可能な状態へ乾燥する。剥離部44は、乾燥後の塗布膜FLを切断するための切断刃等を有し、切断した塗布膜FL(セラミックグリーンシート32)を吸着してキャリヤシート45から剥離する。
【0043】
すなわち、セラミックグリーンシートの製造装置40は、塗布部42と乾燥部43とを駆動して、各転写用領域45Sの上にそれぞれセラミックスラリーCSからなる塗布膜FLを形成し、剥離部44を駆動して、各転写用領域45Sの上から塗布膜FLを剥離する。これによって、セラミックグリーンシートの製造装置40は、塗布膜FLの下面に転写用パターン45Pを転写させ、塗布膜FLの下面に描画面32aと保護パターン32Pとを形成する。そして、セラミックグリーンシート32の一つの側面であって、保護パターン32Pと対向する側面に支持シート31を取り付けることにより、積層シート33を形成できる。
【0044】
次に、上記のように構成した第一実施形態の効果を以下に記載する。
(1)第一実施形態は、液状パターンPLに応じた転写用パターン45Pが塗布面45aに形成されたキャリヤシート45を用い、塗布面45aにセラミックスラリーCSを供給する。そして、塗布面45aにセラミックグリーンシート32の描画面32aを形成し、キャリヤシート45から塗布膜FLを剥がす。
【0045】
したがって、上記セラミックグリーンシートの製造方法によれば、描画面32aから突出する保護パターン32Pを、描画領域PSを囲むように形成できる。この結果、積層工程では、導電性微粒子Sからなる乾燥パターンPDが保護パターン32Pで囲まれることから、乾燥パターンPDの潰れを回避できる。ひいては、LTCC多層基板11における内部素子14や内部配線15の加工精度を向上できる。
【0046】
(2)しかも、流動体であるセラミックスラリーCSを用いて保護パターン32Pを形成することから、保護パターン32Pの形状が、より確実に、転写用パターン45Pに応じた形状、すなわち、液状パターンPLに応じた形状になる。したがって、このセラミックグリーンシート32の製造方法を用いることによって、LTCC多層基板11における内部素子14や内部配線15の加工精度を、より向上できる。
【0047】
(3)また、塗布膜FLを搬送するキャリヤシート45の上で保護パターン32Pを形成することから、転写基材を別途用いる場合に比べて、セラミックグリーンシート32の外縁と保護パターン32Pとの間の位置整合性を向上できる。ひいては、LTCC多層基板11における内部素子14や内部配線15の加工精度を、さらに向上できる。
【0048】
(4)第一実施形態における保護パターン32Pは、描画領域PSを囲うように、描画領域PSから所定の距離だけ離れた位置に形成されている。したがって、保護パターン32Pは、描画領域PSに吐出される液滴Dと保護パターン32Pとの接触を抑えられ、導電性インクIkが描画領域PSから食み出すことを回避できる。この結果、描画工程において液状パターンPLの加工精度を向上できることから、LTCC多層基板11における内部素子14や内部配線15の加工精度を、さらに向上できる。
(第二実施形態)
以下、本発明を具体化した第二実施形態を図8及び図9に従って説明する。第二実施形
態は、第一実施形態における保護パターン32Pを変更したものである。そのため、以下においては、その変更点について詳しく説明する。図8(a)は、第二実施形態の積層シート33を描画面32aから見た平面図であり、図8(b)は、図8(a)のA−A断面図である。図9(a)は、液状パターンPLが描画された積層シート33を示す平面図であり、図9(b)は、図9(a)のA−A断面図である。
【0049】
図8において、セラミックグリーンシート32の描画面32aには、液滴Dの吐出あるいは非吐出を規定する複数のドットパターン格子50が仮想分割されている。各ドットパターン格子50は、それぞれ液滴Dの吐出ピッチで区画される格子であり、選択されるドットパターン格子50の各々へ液滴Dを吐出することにより、所望するパターンが描画面32aに描画される。
【0050】
セラミックグリーンシート32の描画面32aには、凸部としての複数の保護パターン32Pが離散して配設されている。複数の保護パターン32Pの各々は、描画面32aから突出する柱状に形成され、予め選択されるドットパターン格子50(以下単に、選択格子と言う。)の内部に配設されている。
【0051】
図9において、セラミックグリーンシート32の描画面32aには、液滴Dを吐出するため描画領域PS(グラデーションを付した領域)が区画されている。描画領域PSは、複数のドットパターン格子50からなる領域であって、保護パターン32Pの領域、すなわち選択格子を除いた領域に設定されている。なお、図9においては、描画領域PSに液状パターンPLが形成された状態を示す。
【0052】
描画工程では、積層シート33と吐出ヘッド23とが描画面32aの面方向に沿って相対移動し、ノズル25からの複数の液滴Dがそれぞれ描画領域PSの各ドットパターン格子50に着弾する。描画領域PSに着弾する複数の液滴Dは、それぞれ描画領域PSの内部で合一し、離散的な保護パターン32Pによって囲まれた液状パターンPLを形成する。
【0053】
この際、保護パターン32Pは、ドットパターン格子50の内部であって、かつ、離散的に配設されることから、描画領域PSの形状やサイズを大きく左右しない。換言すると、保護パターン32Pは、描画領域PSのサイズや形状を選択可能にすることから、複数の描画領域PSに対応でき、また、描画領域PSの設計の自由度を確保できる。
【0054】
積層工程では、第一実施形態と同じく、複数のセラミックグリーンシート32の各々が乾燥パターンPDを有する状態で順に積層され、複数のセラミックグリーンシート32からなる積層体が形成される。複数のセラミックグリーンシート32からなる積層体は、静水圧プレス法等を用いることによって圧着される。この際、乾燥パターンPDが受ける押圧力は、離散した保護パターン32Pによって分散される。この結果、乾燥パターンPDは、セラミックグリーンシート32の面方向に沿う潰れを抑えられることから、圧着に伴う断線や線間の短絡等を防ぐことができる。
【0055】
なお、セラミックグリーンシート32の製造方法では、第一実施形態と同じく、保護パターン32Pに対応する凹状の転写用パターン45Pが形成されたキャリヤシート45を用いる。転写用パターン45Pが塗布部42からのスラリーを受けるとき、転写用パターン45Pの外側面には、その全体にわたり、スラリーが塗布させる。これによって、描画面32aから突出する柱状の保護パターン32Pが、描画面32aの全体にわたり離散的に形成される。
【0056】
次に、上記のように構成した第二実施形態の効果を以下に記載する。
(5)第二実施形態における保護パターン32Pは、描画領域PSの外側に離散して配設される。したがって、保護パターン32Pが離散して配設されることから、描画領域PSの形状やサイズに関して、その設計の自由度を確保できる。ひいては、複雑な形状からなるパターンにおいても、その加工精度を向上できる。
【0057】
(6)第二実施形態において、描画面32aは、液滴Dを吐出するか否かを規定した複数のドットパターン格子50に仮想分割され、保護パターン32Pは、それぞれ各ドットパターン格子50に選択的に配設される。したがって、選択されたドットパターン格子50ごとに保護パターン32Pが配設されることから、保護パターン32Pと描画領域PSとの間の位置整合性を、ドットパターン格子50によって得ることができる。この結果、複雑な形状からなるパターンにおいても、その加工精度を向上できる。
【0058】
尚、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態においては、転写基材をキャリヤシート45に具体化した。これに限らず、例えば転写用パターン45Pを有する基材を転写基材として用いても良い。すなわち、転写用基材は、表面に凹状の転写用パターンを有し、シート材料を受けることによって、該表面に転写用パターンに応じた保護パターン32Pを形成する基材であれば良い。
【0059】
・上記第一実施形態における保護パターン32Pは、液状パターンPL(描画領域PS)の外側であって、描画領域PSの全体を囲むように形成される。これに限らず、保護パターン32Pは、描画領域PSの一部を囲む構成であっても良い。例えば、保護パターン32Pは、線幅が比較的に細く、かつ、孤立した液状パターンPLの描画領域PSだけを囲む構成であっても良い。これによれば、積層工程時に変形し易い(潰れ易い)パターンを確実に保護でき、かつ、保護パターン32Pの数量を削減できる。すなわち、保護パターン32Pは、液状パターンPLのサイズ、形状、ピッチに応じた形状であれば良い。
【0060】
・上記第二実施形態における保護パターン32Pは、描画領域PSの外側に、離散的に配設されている。これに限らず、保護パターン32Pは、線幅が比較的に細く、かつ、孤立した液状パターンPLの描画領域PSだけを囲むように集中的に配設される構成であっても良い。この構成においても、積層工程時に変形し易いパターンを確実に保護でき、かつ、保護パターン32Pの数量を削減できる。
【0061】
・上記第二実施形態における各保護パターン32Pは、それぞれ1つのドットパターン格子50の内部に形成される。これに限らず、保護パターン32Pは、複数のドットパターン格子50に跨る形状であっても良い。すなわち、保護パターン32Pは、ドットパターン格子50で区画される領域に離散的に配設される構成であれば良い。この構成においても、保護パターン32Pと描画領域PSとの間の位置整合性がドットパターン格子50によって得られることから、描画領域PSの設計の自由度を確保できる。
【0062】
・上記実施形態において、描画領域PSにおける液滴Dの流動性が低い場合には、保護パターン32Pが描画領域PSの外縁に沿って形成されても良い。これによれば、描画領域PSにおける導電性インクIkの偏在を招き難いことから、導電性インクIkの描画領域PSからの食み出しが抑えられ、かつ、描画領域PSと液状パターンPLとの間の位置整合性が向上される。
【0063】
・上記実施形態においては、絶縁性シート基板をセラミックグリーンシート32に具体化した。これに限らず、例えばポリイミド樹脂等からなる熱可塑性基板(有機グリーンシート)を絶縁性シート基板として用いても良く、絶縁性シート基板は、導電性微粒子を含む液状体からなる液滴を受けて液状パターンを形成可能にする絶縁性のシートであれば良い。
【0064】
・上記実施形態においては、多層回路基板をLTCC多層基板として具体化した。これに限らず、例えば多層回路基板は、ポリイミド樹脂等からなる熱可塑性基板を積層した多層基板であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】回路モジュールを示す断面図。
【図2】セラミック多層基板の製造方法を示すフローチャート。
【図3】描画工程を示す工程図。
【図4】(a)、(b)は、それぞれ第一実施形態の保護パターンを示す平面図、断面図。
【図5】積層工程を示す工程図。
【図6】グリーンシートの製造装置を模式的に示す図。
【図7】第一実施形態のキャリヤシートを示す平面図。
【図8】(a)、(b)は、それぞれ第二実施形態の保護パターンを示す平面図、断面図。
【図9】(a)、(b)は、それぞれ第二実施形態の描画領域を示す平面図、断面図。
【図10】従来例の多層回路基板の製造方法の描画工程を示す図であって、(a)はグリーンシートの平面図、(b)はグリーンシートの断面図。
【図11】従来例の多層回路基板の製造方法の積層工程を示す図であって、(a)はグリーンシートの平面図、(b)はグリーンシートの断面図。
【符号の説明】
【0066】
CS…シート材料としてのセラミックスラリー、D…液滴、FL…塗布膜、Ik…導電性微粒子を含む液状体、PD…乾燥パターン、PL…液状パターン、11…セラミック多層基板としてのLTCC多層基板、32…絶縁性シート基板としてのグリーンシート、32a…主面としての描画面、32P…凸部を構成する保護パターン、45…転写基材としてのキャリヤシート、45a…転写基材の表面としての塗布面、45P…転写用パターン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性微粒子を含む液状体からなる液滴を受ける主面を備え、前記液滴を前記主面で受けることにより前記主面に前記液状体からなる液状パターンを形成可能にする絶縁性シート基板の製造方法であって、
前記液状パターンに応じた凹状の転写用パターンが表面に形成された転写基材を用い、前記転写基材の表面にシート材料を供給して前記転写基材の表面に前記絶縁性シート基板の主面を形成し、前記転写基材から前記絶縁性シート基板を剥がすことによって、前記主面における前記液状パターンの形成領域の外側に、前記液状パターンに応じた凸状の保護パターンを形成することを特徴とする絶縁性シート基板の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載する絶縁性シート基板の製造方法であって、
前記保護パターンは、前記液状パターンの形成領域の外側に離散して配設された複数の凸部であることを特徴とする絶縁性シート基板の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載する絶縁性シート基板の製造方法であって、
前記絶縁性シート基板の前記主面を、前記液滴を吐出するか否かを規定するための複数の格子に仮想分割し、前記複数の凸部の各々を、前記格子へ選択的に配設するようにしたことを特徴とする絶縁性シート基板の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載する絶縁性シート基板の製造方法であって、
前記シート材料はセラミック粒子とバインダとを含むスラリーであり、
前記絶縁性シート基板はセラミックグリーンシートであり、
前記転写基材の表面に前記スラリーを塗布して前記スラリーからなる塗布膜を乾燥することにより前記転写基材の表面に前記セラミックグリーンシートの主面を形成することを特徴とする絶縁性シート基板の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載する絶縁性シート基板の製造方法であって、
前記転写基材は前記塗布膜を搬送するキャリヤシートであることを特徴とする絶縁性シート基板の製造方法。
【請求項6】
絶縁性のシート材料からなる絶縁性シート基板を形成する工程と、
絶縁性シート基板の主面に導電性微粒子を含む液状体からなる液滴を吐出して前記絶縁性シート基板の表面に前記液状体からなる液状パターンを描画する工程と、
前記液状パターンを乾燥して乾燥パターンを形成する工程と、
前記乾燥パターンを有する複数の前記絶縁性シート基板を積層して圧着することにより多層回路基板を形成する工程とを備えた多層回路基板の製造方法であって、
前記絶縁性シート基板を形成する工程は、
前記液状パターンに応じた凹状の転写用パターンが表面に形成された転写基材を用い、前記転写基材の表面にシート材料を供給して前記転写基材の表面に前記絶縁性シート基板の主面を形成し、前記転写基材から前記絶縁性シート基板を剥がすことによって、前記主面における前記液状パターンの形成領域の外側に、前記液状パターンに応じた凸状の保護パターンを形成し、
前記描画する工程は、
前記主面の形成領域へ前記液滴を吐出して前記液状パターンを描画することを特徴とする多層回路基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−182146(P2009−182146A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−19728(P2008−19728)
【出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】