説明

絶縁性皮膜付導線及び回転電機

【課題】コイル巻線用の絶縁性皮膜付導線において、効率よくコイル巻線を冷却できる構成とすることである。
【解決手段】回転電機のステータコア32のスロット38内では、1本のコイル巻線50が順次積み重ねられて挿入される。1本のコイル巻線50は、銅線等で構成される導体部52と、その上に、ポリアミド(PA)等の熱可塑性樹脂から構成される絶縁性皮膜部54を有する。絶縁性皮膜部54の外表面には、冷媒流通用の凹部溝56,58が設けられ、2つのコイル巻線50がスロット38の中で重ね合わせられると、この2つの凹部溝56,58が一体的な穴60となって、この中を冷媒が流通できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁性皮膜付導線及び回転電機に係り、特に、導体部の上に絶縁性皮膜部を形成して構成されるコイル巻線用の絶縁性皮膜付導線及びこれを用いる回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機の固定子には、固定子巻線あるいは電機子巻線と呼ばれるコイル巻線が配置される。固定子は、周方向に沿って複数のティースと呼ばれる突出部が配置されるステータコアと、巻線部とを含んで構成される。巻線部は、ステータコアの隣接するティースの間のスロットと呼ばれる空間にコイル巻線を挿入し、ティースに所定の方式でこのコイル巻線を巻回するスロット巻線と、巻回が終るとそのスロットからステータコアの外に引き出されるコイルエンド部とを含む。
【0003】
回転電機に用いられるコイル巻線は、回転電機の駆動に伴って電流が流されるので発熱する。コイル巻線の発熱によって回転電機の温度も上昇し、その性能が温度によって変化するので、回転電機の冷却が行なわれる。
【0004】
例えば、特許文献1には、ステータのスロット内に冷媒を流す回転電機として、ステータのスロットのロータ側開口部をアンダープレートで閉塞し、スロットの中央部に通路断面積調整部材を配置する構成が開示されている。これによってスロット内の冷媒通路断面積を小さくして冷媒速度を速くできるので、冷却効率を高めることができると述べられている。
【0005】
特許文献2には、回転電機機械用巻線として、巻線を形成し電流により発熱する線材の軸方向に沿った中空部と、中空部から線材外表面に向かって開口する連通孔を設ける構造、線材の軸方向に沿って線材の外表面にらせん溝等の溝を形成する構造が開示されている。これらの溝を用いて冷却媒体を流し、発熱する線材を直接冷却し、ロータやステータを効率よく冷却できると述べられている。
【0006】
特許文献3には、絶縁外被ケーブルが固定子のスロットに配置される回転電機において、スロット内に配置される複数の絶縁外被ケーブルのそれぞれの間に軸方向に延びる冷却管を配置する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−186205号公報
【特許文献2】特開平6−150739号公報
【特許文献3】特開平11−355992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
回転電機を冷却するには、発熱する導体部に冷媒通路を設けて、その冷媒通路に冷媒を流せば、最も冷却効率がよくなることが考えられる。しかし、導体部に冷媒通路を設けると、導体部の断面積が減少する。導体部の断面積を変えないで導体部に冷媒通路を設けると、導体部の外径が大きくなり、回転電機の大型化を招く。
【0009】
本発明の目的は、導体部の断面積を変えることなく、効率よくコイル巻線を冷却できる絶縁性皮膜付導線及びこれを用いる回転電機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る絶縁性皮膜付導線は、巻線枠に順次巻線されるコイル巻線用の絶縁性皮膜付導線であって、導体部と、導体部の上に設けられ熱可塑性樹脂で構成される絶縁皮膜部と、外表面に軸方向に延びる冷媒流通用凹部溝と、を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る絶縁性皮膜付導線において、絶縁皮膜部は、膜厚の厚い凸部と、膜厚の薄い凹部とを有することが好ましい。
【0012】
また、本発明に係る絶縁性皮膜付導線において、導体部は、断面形状が凹凸形状を有することが好ましい。
【0013】
また、本発明に係る絶縁性皮膜付導線において、冷媒流通用凹部溝は、2つのコイル巻線を重ね合わせたときに、一体化して1つの冷媒流通穴を形成するように、コイル巻線の断面形状について一方側側面とそれに背向する他方側側面のそれぞれの同じ位置に設けられることが好ましい。
【0014】
また、本発明に係る回転電機は、ロータ軸に取り付けられる回転子であるロータと、ロータの外周側に設けられ、コイル巻線用の絶縁性皮膜付導線を含む固定子であるステータと、を備え、絶縁性皮膜付導線は、導体部と、導体部の上に設けられ熱可塑性樹脂で構成される絶縁皮膜部と、外表面に軸方向に延びる冷媒流通用凹部溝と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
上記構成により、コイル巻線用の絶縁性皮膜付導線は、導体部の上に設けられ熱可塑性樹脂で構成される絶縁皮膜部の外表面に軸方向に延びる冷媒流通用凹部溝を備える。これにより、導体部に穴を設ける等によって導体部の断面積を変える方法によらず、効率よくコイル巻線を冷却できる。
【0016】
また、絶縁性皮膜付導線において、絶縁皮膜部は、膜厚の厚い凸部と、膜厚の薄い凹部とを有する。ここでは、絶縁皮膜部に凹凸部を設けるので、その凹部を冷媒流通用凹部溝として用いることができる。
【0017】
また、絶縁性皮膜付導線において、導体部は、断面形状が凹凸形状を有するので、絶縁皮膜部を均一な厚さとして、一様な絶縁性能を確保しながら、外表面に現れる凹凸の凹部を冷媒流通用凹部溝として用いることができる。
【0018】
また、絶縁性皮膜付導線において、冷媒流通用凹部溝は、2つのコイル巻線を重ね合わせたときに、一体化して1つの冷媒流通穴を形成するように、コイル巻線の断面形状について一方側側面とそれに背向する他方側側面のそれぞれの同じ位置に設けられるので、重ね合わされたときでも効率的にコイル巻線を冷却できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る実施の形態のコイル巻線用絶縁皮膜付導線が用いられる回転電機の様子を示す図である。
【図2】図1における固定子を抜き出して示す図である。
【図3】図2におけるA部を内径側から見た様子を示す図である。
【図4】図3のS−S線に沿った断面の様子を示す図である。
【図5】本発明に係る実施の形態のコイル巻線用絶縁皮膜付導線の断面形状を説明する図である。
【図6】本発明に係る実施の形態のコイル巻線用絶縁皮膜付導線の別の断面形状を説明する図である。
【図7】本発明に係る実施の形態のコイル巻線用絶縁皮膜付導線のさらに別の断面形状を説明する図である。
【図8】本発明に係る実施の形態のコイル巻線用絶縁皮膜付導線の他の断面形状を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき詳細に説明する。以下では、回転電機として、永久磁石型ロータとステータ巻線を有するステータとの組み合わせを説明するが、ロータは永久磁石型以外の形式でもよく、例えば、リラクタンス型ロータであってもよい。また、以下では、ロータコアもステータコアも電磁鋼板を積層して形成されたものを説明するが、電磁鋼板以外の材料であってもよく、例えば、粉末成形等で形成されるものであってもよい。
【0021】
以下では、絶縁性皮膜部は、導体部の上に熱可塑性樹脂で形成されるものとして説明するが、熱可塑性樹脂を複数層で構成されるものとしてもよく、また、導体部と熱可塑性樹脂との間にエナメル層等の中間層を設けるものとしてもよく、熱可塑性樹脂の表面に接着層を設けるものとしてもよい。
【0022】
以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
【0023】
図1は、回転電機10の構成を示す図である。回転電機10は三相同期型であって、モータケース12に出力軸であるロータ軸14が支持され、ロータ軸14に回転子であるロータ20が固定され、ロータ20の外周側に固定子であるステータ30が配置される。
【0024】
ロータ20は、上記のようにロータ軸14に固定された回転子で、電磁鋼板を積層して形成されるロータコア22と、ロータコア22に埋め込み型で配置される複数の永久磁石24を含んで構成される。なお、永久磁石24は、ロータコア22に埋め込まずに、ステータ30に直接向かい合うように配置されてもよい。
【0025】
ステータ30は、ロータ20に対し回転磁界を与える機能を有し、この回転磁界とロータ20の永久磁石24との電磁的協働作用によって、ロータ20に回転エネルギを与える固定子である。ステータ30は、電磁鋼板を積層して形成されるステータコア32と、ステータコアに巻回される巻線部とで構成される。
【0026】
ステータコア32は、円環状の部材で、内周側に、周方向に沿って複数のティースと呼ばれる突出部が配置される。巻線部は、ステータコア32の隣接するティースの間のスロットと呼ばれる空間にコイル巻線を挿入し、ティースに所定の方式でこのコイル巻線を巻回するスロット巻線と、巻回が終るとそのスロットからステータコア32の外に引き出されるコイルエンド部とを含んで構成される。図1では、ステータコア32の内部にスロット巻線が隠れているので、コイルエンド部34のみが図示されている。
【0027】
図2は、図1のステータ30の部分を抜き出して斜視図で示す図である。ここでは、ステータコア32の内周側に複数のティース36が示され、隣接するティース36の間の隙間空間であるスロット38が僅かに示され、スロット38からステータコア32の軸方向の両側に引き出されたコイル巻線がコイルエンド部34を形成する様子が示される。
【0028】
図3は、図2のA部を内径側から見た様子を示す図、図4は、図3のS−S線に沿った断面の様子を示す図である。図3では、ステータコア32がティース36として示され、スロット38がその中に配置される絶縁シート40が見える様子が示される。図4に示されるように、この絶縁シートの中のコイル巻線50の部分が、スロット巻線33に相当する。図3では、ステータコア32の上部側および下部側のコイルエンド部34のそれぞれにおいて、2つのコイル巻線50が重なりあう様子が示されている。
【0029】
ステータコア32のスロット38内では、図4に示されるように、1本のコイル巻線50が順次積み重ねられて挿入される。つまり、回転電機10の三相の同じ相のコイル巻線50が隣接して積み重ねられて配置される。1本のコイル巻線50は、銅線等で構成される導体部52と、その上に、ポリアミド(PA)等の熱可塑性樹脂から構成される絶縁性皮膜部54を有する。絶縁性皮膜部54の外表面には、凹部溝56,58が設けられ、2つのコイル巻線50がスロット38の中で重ね合わせられると、この2つの凹部溝56,58が一体的な穴60となって、この中を冷媒が流通できる。
【0030】
導体部44の材質は、銅以外の良導体金属であってもよい。絶縁性皮膜部46の材質は、ポリアミド以外のものを用いることができる。例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエステル(PE)、ポリイミド(PI)、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン(PS)等を用いることができる。導体部44の上に絶縁性皮膜部46を形成する方法としては、樹脂と溶剤の混合物であるワニスを導体部44の上に塗布し、適当な焼付炉で焼付する方法等を用いることができる。
【0031】
図5は、図4のB部の部分拡大図であって、コイル巻線50の断面形状について、スロット38の中に配置される場合を例として説明する図である。コイル巻線50は、上記のように導体部52とその上に設けられる絶縁性皮膜部54を含んで構成される。ここでは、導体部52は矩形断面を有している。絶縁性皮膜部54は、膜厚の厚い部分と、膜厚の薄い部分とを有しており、この膜厚の薄い部分が、コイル巻線50の外表面における凹部溝56,58となっている。
【0032】
この凹部溝56,58は、コイル巻線50の軸方向に延びる。図3では、コイルエンド部34において、コイル巻線50の軸方向に延びる凹部溝56の様子が示されている。また、この2つの凹部溝56,58は、コイル巻線50の断面形状について一方側側面とそれに背向する他方側側面のそれぞれの同じ位置に設けられる。同じ位置とは、一方側側面と他方側側面に共通して接続される共通側面の位置から測って同じ距離の位置という意味である。図5で、一方側側面を凹部溝58が設けられる側面とし、他方側側面を凹部溝58が設けられる側面とすると、共通側面は、左側側面または右側側面であるが、凹部溝56,58は、この共通側面から測って同じ位置に設けられる。
【0033】
これによって、2つのコイル巻線50を重ね合わせたときに、一体化して1つの冷媒流通用の穴60が形成される。その意味で、凹部溝56,58は、冷媒流通用凹部溝である。
【0034】
図6は、他の断面形状を有するコイル巻線70を示す図である。このコイル巻線70は、矩形断面形状を有する導体部72と、その上に形成される絶縁性皮膜部74とを含んで構成され、絶縁性皮膜部74の外表面の4つの各側面にそれぞれ凹部溝76,78,80,82が設けられる。これらの凹部溝76,78,80,82は、コイル巻線70の軸方向に延び、2つのコイル巻線50を重ね合わせたときに、一体化して1つの冷媒流通用の穴60が形成されるような位置にそれぞれ配置される。
【0035】
図6では、図の縦方向にコイル巻線70が重ねられる様子が示され、その場合に2つの凹部溝76,78が1つに一体化して形成される穴60が図示されている。ここでは、残りの凹部溝80,82はスロット38の内壁との間に冷媒流通用の通路を形成する。また、図6の横方向にコイル巻線70が配置されることを考えると、その場合には、2つの凹部溝80,82が一体化して1つの穴が形成されることになる。
【0036】
図5、図6では、導体部52,72が矩形形状の断面形状を有しているが、図7、図8は、導体部が凹凸形状の断面形状を有し、絶縁性皮膜部が一様の厚さを有するコイル巻線90,100を示す図である。図7のコイル巻線90は、略H字形状の断面形状を有する導体部92と、その上に一様な厚さで形成される絶縁性皮膜部94を有する。導体部92の凹凸形状によって、コイル巻線90の外形は、凹部溝96,98を有し、外観上は図5で説明したコイル巻線50と同じである。
【0037】
図8のコイル巻線100は、矩形の四隅から突き出し部をそれぞれ有する凹凸形状の断面形状を有する導体部102と、その上に一様な厚さで形成される絶縁性皮膜部104を有する。導体部102の凹凸形状によって、コイル巻線100の外形は、4つの凹部溝106,108,110,112を有し、外観上は図6で説明したコイル巻線70とほぼ同じである。
【0038】
このように、導体部とその上の絶縁皮膜部とを有するコイル巻線において、その外表面、すなわち、絶縁皮膜部の外表面に、軸方向の凹部溝を形成することができ、この凹部溝を、冷媒流通用溝として用いることで、コイル巻線を効果的に冷却できる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明に係る絶縁性皮膜付導線は、回転電機の固定子巻線等に利用できる。
【符号の説明】
【0040】
10 回転電機、12 モータケース、14 ロータ軸、20 ロータ、22 ロータコア、24 永久磁石、30 ステータ、32 ステータコア、33 スロット巻線、34 コイルエンド部、36 ティース、38 スロット、40 絶縁シート、50,70,90,100 コイル巻線、52,72,92,102,104 導体部、54,74,94 絶縁性皮膜部、56,58,76,78,80,82,96,98,106,108,110,112 凹部溝、60 穴。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻線枠に順次巻線されるコイル巻線用の絶縁性皮膜付導線であって、
導体部と、
導体部の上に設けられ熱可塑性樹脂で構成される絶縁皮膜部と、
外表面に軸方向に延びる冷媒流通用凹部溝と、
を備えることを特徴とする絶縁性皮膜付導線。
【請求項2】
請求項1に記載の絶縁性皮膜付導線において、
絶縁皮膜部は、膜厚の厚い凸部と、膜厚の薄い凹部とを有することを特徴とする絶縁性皮膜付導線。
【請求項3】
請求項1に記載の絶縁性皮膜付導線において、
導体部は、断面形状が凹凸形状を有することを特徴とする絶縁性皮膜付導線。
【請求項4】
請求項1に記載の絶縁性皮膜付導線において、
冷媒流通用凹部溝は、2つのコイル巻線を重ね合わせたときに、一体化して1つの冷媒流通穴を形成するように、コイル巻線の断面形状について一方側側面とそれに背向する他方側側面のそれぞれの同じ位置に設けられることを特徴とする絶縁性皮膜付導線。
【請求項5】
ロータ軸に取り付けられる回転子であるロータと、
ロータの外周側に設けられ、コイル巻線用の絶縁性皮膜付導線を含む固定子であるステータと、
を備え、
絶縁性皮膜付導線は、
導体部と、
導体部の上に設けられ熱可塑性樹脂で構成される絶縁皮膜部と、
外表面に軸方向に延びる冷媒流通用凹部溝と、
を備えることを特徴とする回転電機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−100433(P2012−100433A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−245885(P2010−245885)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】