説明

絶縁診断装置

【課題】 電気機器の絶縁物の汚損状態を容易に監視し得る絶縁診断装置を提供する。
【解決手段】 直流電圧を発生する直流電源部2と、前記直流電圧を絶縁物に印加して絶縁抵抗の経時変化を測定する絶縁抵抗測定部3と、前記絶縁抵抗の経時変化から、前記絶縁抵抗が時間経過に伴って変化する割合を算出して、前記絶縁物の汚損状態を判定する汚損状態判定部4とを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチギヤ、回転機のような電気機器に用いられる絶縁物の絶縁劣化を的確に監視し得る絶縁診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気機器には、エポキシ樹脂のような絶縁材料で成形された絶縁物が多用されている。これらの絶縁物は、塵埃などの汚損物が沿面に付着すると、絶縁抵抗が低下し、電気機器を継続して運転できなくなることがある。
【0003】
このため、従来、電気機器内に汚損測定用のパイロット絶縁物を取り付け、この絶縁物の絶縁抵抗を定期的に測定し、汚損状態を監視するものが知られている。この監視では、絶縁抵抗が所定の抵抗値(10Ω)を下回ったとき、アラームが発せられるようになっている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、絶縁抵抗を低下させる汚損物がイオン性物質であることから、絶縁物の沿面に付着した汚損物を採取して純水に溶解させ、溶解させた水溶液の電気電導度から、汚損状態を監視するものが知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開平8−220158号公報 (第2〜3ページ、図1)
【特許文献2】特開2000−356660号公報 (第3ページ、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の従来の汚損の測定においては、次のような問題がある。
【0006】
汚損による絶縁抵抗の測定においては、汚損の程度よりも測定時の湿度や電圧の印加時間によって大きく変化する。即ち、測定時の湿度が低いと(乾燥状態)、絶縁抵抗値が時間経過によって大きく変化せず、また、湿度が高いと(湿潤状態)、絶縁抵抗値が時間経過とともに大きく変化する傾向を示す。
【0007】
しかしながら、一般的には、湿度の高低に関係なく、一分間印加後の絶縁抵抗値が求められている。このため、湿度の高い状態では、絶縁抵抗を比較的容易に測定できるものの、湿度の低い状態では、汚損されているのにも関わらず、絶縁抵抗を測定することが困難であった。
【0008】
一方、汚損物を溶解させた水溶液の電気電導度の測定では、所定の純度を有する所定量の純水を準備したり、汚損物を所定の面積から採取したりしなければならなかった。このため、純水の量、その純度、汚損物を採取する面積などの管理する項目が多く、測定作業が困難なものであった。これらの項目が管理されていないと、汚損状態を正確に把握することができない。
【0009】
汚損されているのにも関わらず、その状態を把握できないと、絶縁物には微小放電が発生して絶縁劣化を起こし、最終的には絶縁破壊に到ってしまう。このため、絶縁物に付着する汚損状態を、的確に監視できる絶縁診断装置が望まれていた。
【0010】
本発明は上記問題を解決するためになされたもので、絶縁物の汚損状態を的確に監視し得る絶縁診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の絶縁診断装置は、直流電圧を発生する直流電源部と、前記直流電圧を絶縁物に印加して絶縁抵抗の経時変化を測定する絶縁抵抗測定部と、前記絶縁抵抗の経時変化から、前記絶縁抵抗が時間経過に伴って変化する割合を算出して、前記絶縁物の汚損状態を判定する汚損状態判定部とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電気機器に用いられる絶縁物の絶縁抵抗を、測定する時間経過に伴って絶縁抵抗が変化する割合を算出して汚損状態を判定しているので、汚損状態の有無を的確に判定することができ、絶縁劣化を未然に防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
【実施例】
【0014】
本発明の実施例に係る絶縁診断装置を図1乃至図3を参照して説明する。図1は、本発明の実施例に係る絶縁診断装置の構成を示す図、図2は、本発明の実施例に係る絶縁診断装置の絶縁診断のフローチャートを示す図、図3は、本発明の実施例に係る絶縁抵抗の経時変化を示す特性図である。
【0015】
図1に示すように、絶縁診断装置1は、直流電圧を発生する直流電源部2、絶縁抵抗を測定する絶縁抵抗測定部3、および絶縁抵抗から汚損状態を判定する汚損状態判定部4から構成されている。
【0016】
直流電源部2には、数十Vから数千Vの直流電圧を発生し、絶縁抵抗を測定し得る容量(電流数μA)を有する直流電源が設けられている。
【0017】
絶縁抵抗測定部3には、電気機器の主回路と対地間、もしくは電気機器内から取り外した絶縁物、もしくは電気機器内に設置した絶縁抵抗測定用のパイロット絶縁物の絶縁抵抗を測定する絶縁抵抗測定器が設けられている。また、測定時には、湿度を測定する。
【0018】
絶縁抵抗の測定では、直流電圧を数十秒間連続して印加し、一秒毎の経時変化を求める。なお、測定時間を数百秒としてもよいが、絶縁抵抗を正確に測定できる訳でなく、六十秒程度が好ましい。ただし、三十秒以下では、短時間すぎて好ましくない。
【0019】
電気機器の主回路の全体や、絶縁物を取り外しての絶縁抵抗の測定においては、電気機器を停電させて行うが、パイロット絶縁物においては、運転時においても測定が可能である。
【0020】
このパイロット絶縁物は、電気機器の通風孔近傍に設置すれば、過酷な汚損状態を把握することができる。更には、主回路の電界分布に大きく影響を与えない電界が集中する部分に設置すれば、集塵効果による汚損状態を把握することができる。汚損による絶縁破壊は、最も過酷に汚損物が付着した絶縁物から起きるので、上記のような過酷な状態を得ることは電気機器を良好に運転する上からも好ましい。これら電気機器の中で最も過酷な汚損状態を得ることを、過酷汚損取得状態と定義する。
【0021】
汚損状態判定部4には、測定された絶縁抵抗の経時変化から抵抗分電流の変化を取り出し、汚損状態を判定する演算器が設けられている。
【0022】
以下、汚損状態判定部4での汚損状態の判定方法を図2、図3を参照して説明する。
【0023】
図2に示すように、絶縁抵抗測定部3で測定された絶縁抵抗データを取り込む(st1)。取り込んだ絶縁抵抗の経時変化から、先ず、絶縁抵抗Rと測定した時間tとの両者をR=R1×R2/(R1+R2)で近似する。ここで、R1=A×t、R2=B×exp(C×t)である。A、n、BおよびCは、定数である(st2)。
【0024】
そして、定数Cから汚損の判定を行う(st3)。定数Cが敷居値βよりも大きければ(Y)、汚損あり(st4)として、終了する。また、定数Cが敷居値βよりも小さければ(N)、汚損なし(st5)として、終了する。汚損ありと判定された場合には、当該絶縁物を清掃し、継続して使用することができる。
【0025】
ここで、敷居値βは、β=0.001以上としている。これは、汚損度0.03mg/cm以下の軽汚損で湿度60%の常湿状態のときの定数CがC=0.001程度となり、湿度が高くなると、定数Cがこの値よりも大きくなるためである。そして、軽汚損であっても、湿度が60%以上と高くなれば、定数Cが大きくなるので汚損状態と判定する。逆に、湿度が60%以下と低くなれば、定数Cが小さくなるので、汚損状態であっても汚損の影響を受けないと判定する。
【0026】
汚損状態において、定数Cが変化することは、絶縁抵抗測定の時間経過に伴って、電極間でのイオンの移動やジュール熱による乾燥などが起きるためである。即ち、時間経過に伴って絶縁抵抗が変化する。そして、汚損状態にあって、その汚損度が大きくなるほど、絶縁抵抗が大きく変化し、定数Cが大きくなる。なお、定数CがC=0.1以上と桁違いに大きくなると、超重汚損の湿潤状態であるが、抵抗値がキロオームオーダとなり、メグオームオーダで表示する絶縁抵抗とは言えない領域となる。
【0027】
このような汚損状態の判定は、絶縁抵抗を低下させるイオン性物質からなる汚損物が付着すると、絶縁抵抗の経時変化が、液体絶縁物に近似した傾向を示し、また、汚損物が付着されていないと、固体絶縁物自身の絶縁抵抗の経時変化を示すことから行われている。即ち、液体絶縁物の絶縁性能を表示する絶縁抵抗R2=B×exp(C×t)の式を用いることで、絶縁抵抗が時間経過に伴って変化する割合を定数Cで算出でき、汚損状態を的確に把握することができる。また、絶縁抵抗の経時変化を求めているので、湿度の高低に影響され難いものとなる。
【0028】
図3に10年間使用した絶縁物(エポキシ樹脂)の測定例を示す。特性曲線(a)は、温度20℃−湿度65%の雰囲気中で測定したもの、特性曲線(b)は、温度20℃−湿度80%の雰囲気中で測定したものである。また、特性曲線(c)は、汚損物を純水で洗浄して乾燥させた後、温度20℃−湿度65%の雰囲気中で測定したもの、特性曲線(d)は、同様に汚損物を洗浄して乾燥させた後、温度20℃−湿度80%の雰囲気中で測定したものである。
【0029】
これらの特性曲線を絶縁抵抗R1およびR2で近似したときの各定数を表1に示す。
【表1】

【0030】
表1より、特性曲線(a)および(b)では、定数CがC=0.001以上であり汚損状態にあると判定できる。これを洗浄し、汚損を除去した特性曲線(c)および(d)では、定数CがC=0.001以下(表1ではマイナス)であり、汚損されていないと判定できる。定数nは、n=0.2以上であり、絶縁物自体の劣化は見られない。
【0031】
なお、絶縁抵抗R1とR2が並列に存在する定数A、n、B、Cを求めたが、R2=B×exp(C×t)のみに近似し、定数B、Cを求めて定数Cから汚損の判定を行うことも簡易的な方法として可能である。
【0032】
一般的に、絶縁抵抗を低下させる汚損物は、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウムなどがあり、これらは大気中の湿度により潮解し、絶縁抵抗を低下させる。潮解する湿度は、それぞれ異なり、塩化ナトリウムで湿度約75%、塩化マグネシウムで湿度約33%、塩化カルシウムで湿度約35%である。このため、いずれの汚損物であっても潮解して絶縁抵抗を低下させる物質であれば、汚損状態にあると判定できる。
【0033】
これらのことから、汚損物と電気機器の設置場所とを特定することもできる。即ち、絶縁抵抗の測定時の湿度を測定しておき、湿度約75%を境にして定数Cが異なると、汚損物としては塩化ナトリウムが付着しており、電気機器が沿岸地域に設置されていることになる。表1がこれに近似している。また、湿度約35%を境にして定数Cが異なると、汚損物としては塩化カルシウムが付着しており、浄水場のような塩素ガスが発生する地域に電気機器が設置されていることになる。なお、浄水場の絶縁物には、耐塩素ガスとしてカルシウム化合物が多用されている。
【0034】
上記実施例の絶縁診断装置によれば、絶縁物に付着した汚損物による絶縁抵抗R2の経時変化を、絶縁抵抗測定部3で測定し、これを絶縁状態判定部4で絶縁抵抗R2=B×exp(C×t)の式に近似し、定数Cの値を求めているので、定数Cから絶縁抵抗R2の経時変化が汚損によるものか否かを的確に判定でき、絶縁物の絶縁劣化を未然に防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施例に係る絶縁診断装置の構成を示す図。
【図2】本発明の実施例に係る絶縁診断装置の絶縁診断のフローチャートを示す図。
【図3】本発明の実施例に係る絶縁抵抗の経時変化を示す特性図。
【符号の説明】
【0036】
1 絶縁診断装置
2 直流電源部
3 絶縁抵抗測定部
4 汚損状態判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電圧を発生する直流電源部と、
前記直流電圧を絶縁物に印加して絶縁抵抗の経時変化を測定する絶縁抵抗測定部と、
前記絶縁抵抗の経時変化から、前記絶縁抵抗が時間経過に伴って変化する割合を算出して、前記絶縁物の汚損状態を判定する汚損状態判定部とを備えたことを特徴とする絶縁診断装置。
【請求項2】
前記絶縁抵抗Rの経時変化を、測定時間をt、定数をA、B、Cおよびnとしたとき、
R1=A×t、R2=B×exp(C×t)として、
R=R1×R2/(R1+R2)で近似し、
前記定数Cが、C=0.001以上のとき、汚損状態と判定することを特徴とする請求項1に記載の絶縁診断装置。
【請求項3】
前記絶縁抵抗Rの経時変化を、測定時間をt、定数をBおよびCとしたとき、
R=B×exp(C×t)で近似し、前記定数Cが、C=0.001以上のとき、汚損状態と判定することを特徴とする請求項1に記載の絶縁診断装置。
【請求項4】
前記絶縁物を過酷汚損取得状態とすることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の絶縁診断装置。
【請求項5】
前記絶縁抵抗の測定時に、湿度を測定して汚損物質を特定することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の絶縁診断装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−292379(P2006−292379A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−109116(P2005−109116)
【出願日】平成17年4月5日(2005.4.5)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】