説明

絶縁転がり軸受用試験装置

【課題】諸性能の測定作業を能率良く行なえて信頼性の高い測定値を得る事ができ、測定作業に伴って絶縁層6を損傷しにくい構造を実現する。
【解決手段】この絶縁層6により外周面及び軸方向両端面を覆われた外輪3を、下側、上側、外径側各電極16、20、27により保持する。これら各電極16、20、27と上記外輪3との間に、上記絶縁層6を介して電圧を印加する。上記各電極16、20、27のうちの外径側電極27は、円筒形で、拡縮機構24により内径を拡縮される。絶縁転がり軸受9を試験装置に着脱する際に、上記絶縁層6が相手面と強く擦れ合う事はなく、測定作業の際には、この絶縁層6と上記各電極16、20、37とが確実に当接する。この為、上記課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、汎用或いは鉄道車両用の電動モータの回転軸、或いは発電機の回転軸の様に、電流が流れる可能性がある回転支持部に組み込む、電食防止用の絶縁転がり軸受の絶縁性能を試験する為の試験装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
電動モータや発電機等、各種電気機器等の回転軸を支承する為の転がり軸受の場合、対策を講じないと、転がり軸受自体に、帰路電流、モータ軸電流等の電流が流れてしまう。転がり軸受に電流が流れた場合、電流の通路となる部分の腐食が進む、所謂電食が発生して、転がり軸受を損傷してしまう。この様な電食の発生を防止する為、転がり軸受を構成する外輪や内輪の表面に絶縁層を形成する事で、転がり軸受に電流が流れない様にする電食防止用絶縁転がり軸受が、例えば特許文献1〜7に記載されている様に、従来から知られている。
【0003】
これら各特許文献に記載された絶縁型の転がり軸受は何れも、転がり軸受を構成する軌道輪のうちで、相手部材の嵌合支持する部分に、セラミックス、合成樹脂等の絶縁層を形成して成るもので、例えば図5に示す様に構成されている。転がり軸受は、内輪1の外周面に形成した内輪軌道2と外輪3の内周面に形成した外輪軌道4との間に複数の転動体5、5を設ける事で、上記内輪1と外輪3との相対的回転を自在としている。そして、この外輪3の外周面及び軸方向両端面に、絶縁層6を形成している。この絶縁層6としては、ポリフェニレンサルファイド等の合成樹脂製被膜、或いはアルミナ等のセラミックス製の溶射層等が使用可能である。この様な電食防止用絶縁転がり軸受の場合、上記外輪3を金属製のハウジングに内嵌支持した状態では、上記絶縁層6が、これら外輪3とハウジングとを絶縁する。この結果、これら外輪3とハウジングとの間に電流が流れなくなり、上記転がり軸受の構成各部材1、3、5に、上述した様な電食が発生しなくなる。
【0004】
上述の様な絶縁型の転がり軸受に必要な性能を発揮させる為には、この転がり軸受の絶縁性能(抵抗値)、耐電圧性能、静電容量、インピーダンス等を正確に測定する必要がある。これら各性能は、上記絶縁層6の厚さ寸法を大きくすれば良好になるが、単に厚さ寸法を大きくすると、製造コストが嵩むだけでなく、絶縁層6を設けた軌道輪を相手部材に嵌合固定(図5に示した構造では、外輪3をハウジングに内嵌固定)する際に、上記絶縁層6が剥離し易くなる。勿論、この絶縁層6が剥離した場合には、必要とする絶縁性能を得られないので、この絶縁層6の厚さ寸法を過大にする事はできない。これらの事を考慮すれば、この絶縁層6の厚さ寸法は、この絶縁層6の材質や使用時に加わる電圧等の条件を考慮して、適正範囲に規制する必要がある。又、絶縁型の転がり軸受は個々の性能保証が重要である為、各製品毎に性能試験を行なってから出荷する場合もある。
【0005】
この為従来から、例えば特許文献8に記載された様な試験装置により、絶縁転がり軸受の諸性能(絶縁性能、耐電圧性能、静電容量、インピーダンス)を測定する事が行なわれている。上記特許文献8に記載される等により従来から知られている試験装置の2例に就いて、図6〜8に示す。先ず、図6〜7に示した従来構造の第1例の試験装置は、有底円筒状のケース本体7と円輪状の蓋体8とを備える。これらケース本体7と蓋体8とは、使用時に絶縁転がり軸受9を保持するハウジングと同種の金属により造っている。又、上記ケース本体7の内径は、このハウジングの内径と同じにしている。使用時には、上記ケース本体7に上記絶縁転がり軸受9を構成する外輪3を締り嵌めで内嵌すると共に、この外輪3を、上記ケース本体7の底面と上記蓋体8との間で挟持する。この状態で、これら外輪3とケース本体7及び蓋体8とが、この外輪3に被覆された絶縁層6により絶縁される。そこで、導線10a、10bにより、上記ケース本体7と上記絶縁転がり軸受9を構成する内輪1との間に所定の電圧を印加して、上記絶縁転がり軸受9の諸性能、即ち、絶縁性能、耐電圧性能、静電容量、インピーダンスを測定する。
【0006】
上述の様な従来構造の第1例の場合、使用状態に準じて、上記ケース本体7の内周面と上記絶縁層6の外周面とを確実に密着させる為に、このケース本体7に上記外輪3を締り嵌めで内嵌している。この内嵌作業及び試験後の取り外し作業は、プレス機等を使用して行なう必要があり、面倒で、試験作業の能率を低下させる原因となる。又、内嵌作業や取り外し作業に伴って、上記外輪3の絶縁層6を損傷する可能性がある。絶縁層6を損傷した絶縁転がり軸受9は、不良品として廃棄しなければならず、製品の歩留り悪化によるコスト上昇の原因となる。
【0007】
これに対して、図8に示した、従来構造の第2例の試験装置の場合には、2分割型のケース11により、絶縁転がり軸受9の外輪3を抑え付ける様にしている。そして、この外輪3を抑え付けた状態で、上記ケース11と上記絶縁転がり軸受9の内輪1との間に電圧を印加し、この絶縁転がり軸受9の諸性能を測定する様にしている。この様な構造によれば、上記外輪3を上記ケース11に着脱する作業を容易に行なえ、この外輪3の外周面及び軸方向両端面に被覆した絶縁層を損傷する事を防止できる。但し、上記従来構造の第2例の場合には、上記ケース11を構成する1対のケース素子12a、12bの組み付け不良、即ち、これら両ケース素子12a、12bの円周方向両端部に形成した結合フランジ13a、13bの合わせ面のずれ等が発生する可能性がある。この様な組付け不良が発生すると、これら両周面同士の接触面圧が不均一になり、一部で浮き上がり(面圧ゼロの状態)が発生する。この様な状態では、上記諸性能を正確に測定する事はできない。
【0008】
前記特許文献8に記載された構造の場合には、外輪表面の絶縁層を、導電ゴム製の皮膜接触体により抑え付ける事で、試験装置のケースと外輪表面の絶縁層との接触状態を改善する事を意図している。但し、ゴム中にカーボン等の導電性フィラーを分散させた導電ゴムの場合には、外輪表面と導電材との接触面積が、連続した金属表面に接触させる場合に比べて狭くなる為、測定値の信頼性確保の面から問題がある。
【0009】
【特許文献1】特開平1−182621号公報
【特許文献2】特開平5−52223号公報
【特許文献3】特開平5−312216号公報
【特許文献4】実開昭60−85626号公報
【特許文献5】実公平6−2030号公報
【特許文献6】特開2005−133876号公報
【特許文献7】特開2003−183806号公報
【特許文献8】特開2005−17251号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述の様な事情に鑑み、諸性能の測定作業を能率良く行なえて、しかも信頼性の高い測定値を得る事ができ、測定作業に伴って絶縁層を損傷しにくい絶縁転がり軸受用試験装置を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の絶縁転がり軸受用試験装置は、前述した従来から知られている絶縁転がり軸受用試験装置と同様に、絶縁転がり軸受を試験する為に使用する。
この絶縁転がり軸受は、金属製の内輪の外周面に形成した内輪軌道と金属製の外輪の内周面に形成した外輪軌道との間に金属製の転動体を設けると共に、上記内輪の内周面と上記外輪の外周面とのうちの少なくとも一方の周面を絶縁層で被覆して成る。そして、この絶縁層で被覆した周面を相手部材に嵌合した状態で使用される。
上記絶縁転がり軸受用試験装置は、この様な絶縁転がり軸受を試験する為に、保持部と電圧印加手段とを備える。このうちの保持部は、上記絶縁層により被覆された周面を保持面で抑え付ける事により、この絶縁層により周面を覆われた、上記内輪と上記外輪とのうちの一方である絶縁被覆軌道輪を保持する。又、上記電圧印加手段は、この絶縁被覆軌道輪と上記保持面との間に、上記絶縁層(並びに、各転動体及び他の軌道輪)を介して電圧を印加する。
特に、本発明の絶縁転がり軸受用試験装置に於いては、上記保持部が、上記保持面を径方向に拡縮する事で上記絶縁被覆軌道輪を保持するものであり、この保持面に上記電圧印加手段を構成する電極を設けている。
【0012】
上述の様な本発明の絶縁転がり軸受用試験装置を実施する場合に、好ましくは、請求項2に記載した様に、上記保持部を、電極と拡縮機構とから構成する。
このうちの各電極は、円筒形で、内径を拡縮可能としている。
又、上記拡縮機構は、上記電極の内径を拡縮させる。
【0013】
この様な請求項2に記載した絶縁転がり軸受用試験装置を実施する場合に、例えば請求項3に記載した様に、上記拡縮機構を、複数個の移動ブロックと押圧リングとにより構成する。
このうちの各移動ブロックは、試験すべき絶縁転がり軸受を上面に保持する基板の上面に、この絶縁転がり軸受の径方向に移動可能に支持されており、この径方向に関してこの絶縁転がり軸受と反対側の面を、被押圧側傾斜面としている。
又、上記押圧リングは、上記径方向に関して上記絶縁転がり軸受と反対側でこれら各移動ブロックに隣接して設けられたもので、周面に押圧側傾斜面を設けている。そして、この押圧側傾斜面と、上記各移動ブロック側に設けた上記各被押圧側傾斜面との係合に基づき、上記各移動ブロックを上記絶縁転がり軸受に向け押圧する。
【0014】
或いは、上述の様な請求項2に記載した絶縁転がり軸受用試験装置を実施する場合に、例えば請求項4に記載した様に、上記拡縮機構を、ケースと膨張容器とにより構成する。
このうちのケースは、試験すべき絶縁転がり軸受の絶縁層に径方向に対向する状態で設けられている。
又、上記膨張容器は、弾性材製で、上記ケースと上記絶縁転がり軸受を構成する絶縁被覆軌道輪の周面との間に設けられ、圧縮気体の送り込みに伴って膨張する。
又、本発明を実施する場合に好ましくは、請求項5に記載した様に、前記電極を、弾性材製の基材の表面に、金属製で薄肉の電極膜を被覆したものとする。
【発明の効果】
【0015】
上述の様に構成する本発明の絶縁転がり軸受用試験装置によれば、諸性能の測定作業を能率良く行なえて、しかも、信頼性の高い測定値を得る事ができる。又、測定作業に伴って絶縁層を損傷しにくい。
先ず、径方向に拡縮する保持部により電極を、絶縁被覆軌道輪に被覆した絶縁層に押し付けるので、試験装置に絶縁転がり軸受を着脱する際には、この電極と絶縁層とが強く擦れ合わない様にして、この着脱作業、延ては上記諸性能の測定作業の能率化を図れる。又、着脱作業の際に、上記絶縁層を損傷する事もない。
又、測定作業時には、上記電極と上記絶縁層とを、ほぼ全周に亙って均一に、且つ、隙間なく当接させる事ができる。この為、上記諸性能(特に静電容量)に関して、信頼性の高い測定値を得る事ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
[実施の形態の第1例]
図1は、請求項1〜3、5に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。基板14の中央部上面に固定した、金属製の支持ブロック15の上面外径寄り部分に、鉄系合金、アルミニウム系合金等の金属製の下側電極16を、全周に亙って設けている。この下側電極16の上面は、全周に亙って平坦面としている。そして、この下側電極16の上面に、供試体である絶縁転がり軸受9を構成する外輪3の軸方向一端面(図1の下端面)を突き当てて、この絶縁転がり軸受9を上記支持ブロック15の上面に、上記下側電極16を介して載置している。一方、上記絶縁転がり軸受9を構成する内輪1には、絶縁材製の内径側ガイドブロック17、17を内嵌して、上記絶縁転がり軸受9の径方向に関する位置決めを図っている。これら両内径側ガイドブロック17、17は、それぞれ、上記支持ブロック15の上面中央部、次記抑え板18の下面中央部に固定している。上記絶縁転がり軸受9を試験(諸性能を測定)する際に、上側のガイドブロック17は、抑え板18と共に、抑えボルト19により、上記支持ブロック15に固定される。金属製であるこの抑え板18の下面外径寄り部分に、上記下側電極16と同じ金属製の上側電極20を、全周に亙って設けている。この上側電極20の下面は全周に亙って平坦面とし、上記外輪3の軸方向他端面(図1の上面)に突き当てている。即ち、上記絶縁転がり軸受9の試験時に上記外輪3は、上記下側電極16と上記上側電極20とにより、軸方向両側から挟持される。又、これら両電極16、20と上記外輪3の軸方向両端面とは、この軸方向両端面の外周縁部に存在する面取り部を除き、全周に亙って十分な(使用時と同じ)面圧で当接する。
【0017】
又、上記基板14の上面で、上記支持ブロック15よりも外径寄り部分の円周方向等間隔複数個所(例えば3〜4個所、好ましくは3個所)にリニアガイド21、21を、それぞれ上記支持ブロック15(の上面に支持した上記絶縁転がり軸受9)の中心軸に関して、放射方向に配置している。そして、上記各リニアガイド21、21により、それぞれが金属製である複数個(例えば3〜4個、好ましくは3個)の移動ブロック22、22を、上記絶縁転がり軸受9の径方向に移動可能に支持している。これら各移動ブロック22、22は、次述する押圧リング23と共に拡縮機構24を構成するもので、上記絶縁転がり軸受9の径方向に関して外径側の側面を、それぞれ上方に向かう程外径が小さくなる方向に傾斜した部分円すい凸面である、被押圧側傾斜面25、25としている。
【0018】
又、上記押圧リング23は、上記絶縁転がり軸受9の径方向に関してこの絶縁転がり軸受9と反対側である、上記各移動ブロック22、22の外径側に、これら各移動ブロック22、22に隣接して設けられている。この様な押圧リング23は、全体が円環状で、内周面を、上方に向かう程内径が小さくなる方向に傾斜した部分円すい凹面である、押圧側傾斜面26としている。この押圧側傾斜面26の傾斜角度と、上記各移動ブロック22、22の被押圧側傾斜面25、25の傾斜角度とは、互いに等しくしている。この様な各移動ブロック22、22の内周側面には、特許請求の範囲に記載した電極に相当する、円筒形の外径側電極27を、上記移動ブロック22、22同士の間に掛け渡して設けている。この外径側電極27は、ゴム等の弾性材製の基材の表面に、前記下側、上側両電極16、20と同じ金属製の電極膜を被覆して、全体を円筒形に構成し、内径を多少拡縮可能としている。上記外径側電極27の内周側面の曲率半径は、前記外輪3の外周面に被覆した絶縁層6の曲率半径と、ほぼ同じである。従って、上記各移動ブロック22、22を上記絶縁転がり軸受9の径方向内方に変位させた状態では、上記外径側電極27の内周側面が上記絶縁層6のうちで上記外輪3の外周面を被覆した部分に、全周に亙って密に当接する。
【0019】
上述の様な構成を有する、本例の絶縁転がり軸受用試験装置により上記絶縁転がり軸受9の諸性能を測定する作業は、次の様にして行なう。
先ず、上記押圧リング23を取り外し、上記各移動ブロック22、22を外径側に移動させた状態で、上記絶縁転がり軸受9を前記支持ブロック15の上面に載置する。この際、上記外径側電極27の内径は、上記絶縁転がり軸受9を構成する外輪3を被覆した絶縁層6の外径よりも僅かに大きくなっているので、上記載置作業は、この絶縁層6を損傷する事なく、容易に行なえる。上記絶縁転がり軸受9を上記支持ブロック15の上面に載置したならば、前記抑え板18を前記抑えボルト19により上記支持ブロック15に結合固定して、上記絶縁転がり軸受9を構成する外輪3を、前記下側、上側両電極16、20同士の間で挟持する。又、上記各移動ブロック22、22を内径側に移動させて、これら各移動ブロック22、22に上記押圧リング23を外嵌し、この押圧リング23の内周面に設けた押圧側傾斜面26と、上記各移動ブロック22、22の外周側面に設けた前記各被押圧側傾斜面25、25との係合に基づき、上記各移動ブロック22、22を、上記絶縁転がり軸受9に向け押圧する。この状態で、この絶縁転がり軸受9を構成する外輪3の外周面及び軸方向両端面を被覆した絶縁層6に、上記各電極16、20、27が、この外輪3の軸方向両端部外周縁の面取り部を除き、全周に亙り密に当接する。この状態で、試験の為の準備作業が完了する。
【0020】
そこで、導線10aにより上記各電極16、20、27に、ぞれぞれが金属製である、上記支持ブロック15と前記抑え板18と上記各移動ブロック22、22とを介して、電圧を印加する。同時に、上記抑え板18に設けた通孔28を挿通した導線10bにより、上記絶縁転がり軸受9を構成する内輪1に電圧を印加する。この状態で、この絶縁転がり軸受9を構成する外輪3の表面に被覆した絶縁層6の両側に所定の電圧が印加された状態になるので、上記絶縁転がり軸受9の諸性能、即ち、絶縁性能、耐電圧性能、静電容量、インピーダンスを測定する。上記各電極16、20、27と上記絶縁層6とは、全周に亙り密接しているので、上記諸性能に関して、信頼性を有する測定値を得られる。特に、上記各電極16、20、27と上記絶縁層6とが、それぞれ全周に亙って当接するので、当接面積を広く、且つ、安定して得られる。この為、従来装置の様に絶縁抵抗及び耐電圧を求められるだけでなく、静電容量及びインピーダンスも、より正確に測定できる。測定後は、上記準備作業と逆の手順で、上記絶縁転がり軸受9を取り出す。これら準備作業と取り出し作業との間、上記外輪3の表面に被覆した絶縁層6が相手部材と強く擦れ合う事はない為、これら準備作業と取り出し作業を容易に行なえるし、上記絶縁層6が損傷する事もない。
【0021】
尚、本例(及び次述する第2例)の構造を実施する場合に、上記各電極16、20、27は、前述した様に、上記絶縁転がり軸受9を構成する外輪3を収納するハウジングと同材質である、鉄系合金、アルミニウム系合金等の金属製とする事もできる。このうちの外径側電極27全体を金属製とする場合には、この外径側電極27を円周方向に分割して、それぞれが円弧形の素子とする。但し、上記各電極16、20、27として、図2に示す様な、ゴム、ビニルの如きエラストマー等の弾性材製の基材32の表面に、金属製で薄肉の電極膜33を被覆したものを使用すれば、上記外径側電極27を含めて、一体形の電極を作用できる。この場合に、この電極膜33は、金属箔を上記基材32に貼着する事で構成しても良いし、スパッタリングや蒸着等の方法によりこの基材32の表面に金属膜を形成する事で構成しても良い。上記電極膜33の厚さは、上記絶縁層6への追従性を確保できる程度に撓み易く、しかも十分な強度、耐電圧性、耐摩耗性を得られる範囲に設定する。
【0022】
上述の様な、基材32と電極膜33とを組み合わせたものを上記各電極16、20、27として使用すれば、これら各電極16、20、27の表面と上記外輪3の表面に被覆した絶縁層6とを、全面に亙って、より均一に当接させる事ができる。この場合に於いて、この絶縁層6と当接する電極膜33は、薄肉である為、上記絶縁層6に追従する状態で撓むが、全面に亙り連続した金属である為、前記諸性能に関して、実際の使用状態に則した条件下で測定できる。特に、外径側電極27として、上述の様な弾性材製の基材32と金属製の電極膜33とを組み合わせたものを使用すれば、全周に亙り連続した一体型の構造を実現できる。そして、分割した場合に生じる隙間をなくして、上記外径側電極27と上記絶縁層の外周面との接触面積を、広く且つ安定させて、測定値の信頼性向上を図れる。尚、上記基材32として、弾性材中に金属等の導電材製の短繊維を混入したものを使用すれば、仮に上記電極膜33の一部が破れた様な場合にも、上記各電極16、20、37としての機構が低下する事を最小限に抑えられて、測定値の信頼性を保てる。
【0023】
[実施の形態の第2例]
図3は、請求項1、2、4に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の場合には、円筒状の外径側電極27の内径を拡縮させる拡縮機構24aを、ケース29と膨張容器30とにより構成している。
【0024】
このうちのケース29は、抑えボルト19により支持ブロック15に結合される抑え板18の外周縁部に、この抑え板18と一体に設けられている。この抑え板18を上記支持ブロック15に結合固定した状態で上記ケース29は、この支持ブロック15に支持された上記絶縁転がり軸受9の周囲に配置されて、上記絶縁層6に径方向に対向する状態になる。この様なケース29は、断面コ字形で、内径側が開口している。
【0025】
又、上記膨張容器30は、ゴム等の弾性材製で、上記ケース29の内側に、上記絶縁転がり軸受9を構成する外輪3の外周面に対向する状態で収納されている。この様な膨張容器30には、吸排気口31を通じて圧縮空気を吸排する事で、膨張、収縮を自在としている。上記外径側電極27は、この様な膨張容器30の内周面に添設する事で、上記外輪3の外周面に対する遠近動を可能にしている。
【0026】
この様な構造を有する本例の試験装置により、上記絶縁転がり軸受9の諸性能を測定すべく、上記外径側電極27の内径側への上記絶縁転がり軸受9の着脱作業を行なう際には、上記膨張容器30内から圧縮空気を排出し、この膨張容器30を萎ませて、上記外径側電極27の内径を大きくする。これに対して、上記諸性能の測定作業を行なう際には、上記膨張容器30内に圧縮空気を送り込み、この膨張容器30を膨らませて、上記外径側電極27の内周側面を、上記外輪3の外周面を被覆した絶縁層6の外周面に押し付ける。
【0027】
この様な本例の構造によっても、上記諸性能に関して、信頼性を有する測定値を得られる。又、測定の為の準備作業と取り出し作業とを容易に行なえて、上記絶縁層6が損傷する事もない。上記外径側電極27の内径を拡縮させる為の機構以外の構成及び作用は、図2に示した様な電極を使用できる事も含めて、前述した実施の形態の第1例の場合と同様であるから、同等部分には同一符号を付して、重複する説明は省略する。
【0028】
[実施の形態の第3例]
図4は、請求項6に対応する、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例の場合には、前述の図2に示した様な構造を有する電極を使用する事で、外径側電極27aの内径を拡縮させる、拡縮機構を省略している。即ち、前述の図6に示した従来構造とほぼ同様の構造を有するケース本体7a及び蓋体8aと、絶縁転がり軸受9を構成する外輪3の表面を覆った絶縁層6との間に、上記図2に示した様な構造を有する、下側電極16aと、上側電極20aと、外径側電極27aとを設けている。これら各電極16a、20a、27aは、それぞれ弾性変形する為、これら各電極16a、20a、27aをそれぞれ一体で構成し、上記拡縮機構を省略しても、これら各電極16a、20a、27aを、上記絶縁層6に、全周に亙り当接させ、しかも、上記ケース本体7a内への上記絶縁転がり軸受9の着脱作業を容易に、且つ、上記絶縁層6を傷める事なく行なえる。又、諸性能の測定時には、上記各電極16a、20a、27aを構成する電極膜33(図2参照)が上記絶縁層6に、面取り部を除く全面に亙り連続して当接するので、上記諸性能に関して信頼性の高い測定値を得られる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
図示の各例は、外輪の外周面及び軸方向両端面に絶縁層を形成した絶縁転がり軸受を試験する構造に就いて示した。これに対して本発明は、内輪の内周面及び軸方向両端面に絶縁層を形成した絶縁転がり軸受を試験する場合に利用する事もできる。この場合には、上記内周面に当接させる電極の外径を、上記絶縁転がり軸受を試験装置に着脱する際には縮め、測定時には拡げる。従って、上記電極の外径を拡縮させる為の拡縮機構の構造を、図示の各例とは、径方向に関して逆にする。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す断面図。
【図2】電極の構造の別例を示す端部斜視図。
【図3】本発明の実施の形態の第2例を示す断面図。
【図4】同第3例を示す断面図。
【図5】本発明の試験装置による試験対象となる絶縁転がり軸受の1例を示す断面図。
【図6】従来の試験装置の第1例を示す断面図。
【図7】同分解斜視図。
【図8】従来の試験装置の第2例を示す断面図。
【符号の説明】
【0031】
1 内輪
2 内輪軌道
3 外輪
4 外輪軌道
5 転動体
6 絶縁層
7、7a ケース本体
8、8a 蓋体
9 絶縁転がり軸受
10a、10b 導線
11 ケース
12a、12b ケース素子
13a、13b 結合フランジ
14 基板
15 支持ブロック
16、16a 下側電極
17 内径側ガイドブロック
18 抑え板
19 抑えボルト
20、20a 上側電極
21 リニアガイド
22 移動ブロック
23 押圧リング
24、24a 拡縮機構
25 被押圧側傾斜面
26 押圧側傾斜面
27、27a 外径側電極
28 通孔
29 ケース
30 膨張容器
31 吸排気口
32 基材
33 電極膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の内輪の外周面に形成した内輪軌道と金属製の外輪の内周面に形成した外輪軌道との間に金属製の転動体を設けると共に、上記内輪の内周面と上記外輪の外周面とのうちの少なくとも一方の周面を絶縁層で被覆して成り、この絶縁層で被覆した周面を相手部材に嵌合した状態で使用される絶縁転がり軸受を試験する為に、上記絶縁層により被覆された周面を保持面で抑え付ける事により、この絶縁層により周面を覆われた、上記内輪と上記外輪とのうちの一方である絶縁被覆軌道輪を保持する保持部と、この絶縁被覆軌道輪と上記保持面との間に、上記絶縁層を介して電圧を印加する電圧印加手段とを備えた絶縁転がり軸受用試験装置に於いて、上記保持部が、上記保持面を径方向に拡縮する事で上記絶縁被覆軌道輪を保持するものであり、この保持面に上記電圧印加手段を構成する電極を設けている事を特徴とする絶縁転がり軸受用試験装置。
【請求項2】
保持部が、円筒形で内径を拡縮可能とした電極と、この電極の内径を拡縮させる拡縮機構とから成る、請求項1に記載した絶縁転がり軸受用試験装置。
【請求項3】
拡縮機構が、試験すべき絶縁転がり軸受を上面に保持する基板の上面に、この絶縁転がり軸受の径方向に移動可能に支持された、この径方向に関してこの絶縁転がり軸受と反対側の面を被押圧側傾斜面とした複数個の移動ブロックと、この径方向に関して上記絶縁転がり軸受と反対側でこれら各移動ブロックに隣接して設けられ、これら各移動ブロック側に設けた上記各被押圧側傾斜面と、その周面に設けた押圧側傾斜面との係合に基づき、上記各移動ブロックを上記絶縁転がり軸受に向け押圧する押圧リングとにより構成される、請求項2に記載した絶縁転がり軸受用試験装置。
【請求項4】
拡縮機構が、試験すべき絶縁転がり軸受の絶縁層に径方向に対向する状態で設けられたケースと、このケースとこの絶縁転がり軸受を構成する絶縁被覆軌道輪の周面との間に設けられ、圧縮気体の送り込みに伴って膨張する、弾性材製の膨張容器とにより構成される、請求項2に記載した絶縁転がり軸受用試験装置。
【請求項5】
電極が、弾性材製の基材の表面に、金属製で薄肉の電極膜を被覆したものである、請求項1〜4のうちの何れか1項に記載した絶縁転がり軸受用試験装置。
【請求項6】
金属製の内輪の外周面に形成した内輪軌道と金属製の外輪の内周面に形成した外輪軌道との間に金属製の転動体を設けると共に、上記内輪の内周面と上記外輪の外周面とのうちの少なくとも一方の周面を絶縁層で被覆して成り、この絶縁層で被覆した周面を相手部材に嵌合した状態で使用される絶縁転がり軸受を試験する為に、上記絶縁層により被覆された周面を保持面で抑え付ける事により、この絶縁層により周面を覆われた、上記内輪と上記外輪とのうちの一方である絶縁被覆軌道輪を保持する保持部と、この絶縁被覆軌道輪と上記保持面との間に上記絶縁層を介して電圧を印加する電圧印加手段とを備えた絶縁転がり軸受用試験装置に於いて、上記電極が、弾性材製の基材の表面に、金属製で薄肉の電極膜を被覆したものである事を特徴とする絶縁転がり軸受用試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−89407(P2008−89407A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−270638(P2006−270638)
【出願日】平成18年10月2日(2006.10.2)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】