説明

繊維コードの異常部検出装置及び繊維コードの加工システム

【課題】簡易な構造で安価な装置により、確実にジョイントなどのコード異常部を検出することができる繊維コードの異常部検出装置、及びそれを利用した繊維コードの加工システムを提供する。
【解決手段】走行する処理コード正常部12を通過させ、前記コード正常部12よりも径大のジョイント31を通過させないスリット23を設けたスリット板22と、前記ジョイント31が前記スリット板22に接触することで該スリット板22をコード走行方向に回動させる回動部材24と、前記スリット板22の回動により前記ジョイント31を検知し、検知信号を発信する検知センサー25と近接スイッチ26からなる検出部とを備えた繊維コードの異常部検出装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維コードの異常部検出装置、及びそれを利用した繊維コードの加工システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、空気入りタイヤの補強材として使用されるナイロン、ポリエステル等の有機繊維コードは、耐久性、耐摩耗性等のタイヤ性能を維持、向上する上で、コード材料とゴム間との接着性、コード特性が重要であり、これらの特性を付与するため接着処理液(ディップ液)に生コードを浸漬した後熱処理を施す、いわゆるディップ処理が行われている。
【0003】
シングルコードを連続ディップ処理する場合、図5に示すようなディッピングマシン100により、まず、レットオフ装置109に搭載された繰り出しボビン103から引き出された生コード101をディップ液を貯留したディップタンク104中で浸漬ロール105を通してディップ液中を通過させディッピングすることによって、ディップ液を生コード101に付着させる。ディッピングによりディップ液を含浸された生コード101は絞りロール106によって引き上げられ、長さ方向に張力をかけた状態で乾燥、熱処理工程107に搬送され、ベーキングされ接着性が付与され、目的のコード特性に調整された処理コード102となり、ワインダー110により巻き取りボビン108にロール状に巻き取られる。
【0004】
従来、繰り出しボビン103の生コード101が無くなると、ボビン103を交換し新たな生コード101をジョイントしディップ処理を継続していた。ジョイント部がタイヤ中に混入すると、その部分の強度などが低下するため、ジョイント混入を避けるようにワインダー110にジョイント部が到達するまで人目で監視し、巻き取りボビン108を交換する作業が不可欠となっていた。
【0005】
また、生コード製造時に発生したジョイントは、ディップ処理時にはジョイント位置が不明となるので、コード製造時に極力ジョイントが発生しないようにする、或いはジョイントを含まないようにするため短尺コードが発生するなどの作業性、コスト面で問題があった。
【0006】
そこで、コードのジョイント除去方法として、コードのジョイント部の有無及び位置を簡単に検出することができるコードのジョイント検出方法及びその装置が提案されている(特許文献1)が、該文献1によると、タッチプーリ51に進入する直前のコード経路には、コード7のジョイント部を検出するジョイント検出センサ64を配設し、ジョイント検出センサ64によるジョイント部の検出により、ジョイント位置演算手段65が、巻き始めからの位置(ジョイント位置)を演算し、書き込み手段66を介して、搬送ベース4上に着脱可能に載置され金型1と一緒に搬送される磁気記録手段5に書き込む、という複雑な構成によるもので、多額の設備費用を要すると考えられる。
【特許文献1】特開平10−258464号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑み、簡易な構造で安価な装置により、確実にジョイントなどのコード異常部を検出することができる繊維コードの異常部検出装置、及びそれを利用した繊維コードの加工システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、走行する繊維コード正常部を通過させ、前記コード正常部よりも径大のコード異常部を通過させないスリットを設けたスリット板と、前記コード異常部が前記スリット板に接触することで該スリット板をコード走行方向に回動させる回動部材と、前記スリット板の回動により前記コード異常部を検知し、検知信号を発信する検出部とを備えたことを特徴とする繊維コードの異常部検出装置である。
【0009】
本発明において、前記スリット板のスリット間隔は可変とすることができ、また、前記スリット板のスリット間隔が、前記コード正常部径の1.1〜3.0倍であることが好ましい。
【0010】
本発明においては、前記回動部材が、前記繊維コード走行方向と交わる角度で前記スリット板に設けた回動軸からなるものとすることができる。
【0011】
また、前記コード異常部の接触により回動したスリット板が、該スリット板の自重により元の位置に復帰することが好ましい。
【0012】
また、前記コード異常部は、コードジョイントであるとその検知能力を向上し、ジョイントを確実に検知することができる。
【0013】
本発明は、前記繊維コードの異常部検出装置からの検知信号を受けて作動する自動装置を有することを特徴とする繊維コードの加工システムであり、特に、繊維コードの巻き取り装置であって、前記検知信号に基づき該繊維コードの巻き取り軸を交換するものに有用である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高価な部品を用いることなく簡易な構造で安価、かつ確実にジョイントなどの正常部よりも径大のコード異常部を自動的に検出することができる。これにより、例えば、異常部の検知によりワインダーのコード巻き取り軸を交換することで異常部の巻き取りボビン内への混入を防止し、タイヤなどの製品内への異常部混入を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明を実施するための形態を、添付の図面を用いて説明する。本実施形態においては、タイヤ用シングルコードのディップ処理加工の例に従い説明するが、本発明は本例に限定されるものではない。
【0016】
タイヤコードのディップ処理工程は、図1に示すように、ディッピングマシン10により、レットオフ装置19に搭載された繰り出しボビン13から引き出された生コード11をディップ液を貯留したディップタンク14中で浸漬ロール15を通してディップ液中を通過させディッピングすることによって、ディップ液を生コード11に付着させる。ディッピングによりディップ液を含浸された生コード11は絞りロール16によって引き上げられ、長さ方向に張力をかけた状態で乾燥、熱処理工程17に搬送され、ベーキングされ接着性が付与され目的のコード特性に調整された処理コード12となり、ワインダー20により巻き取りボビン18にロール状に巻き取られる。図1において、乾燥、熱処理工程17とワインダー20の間に、本発明に係る繊維コードの異常部検出装置21が設けられている。なお、異常部検出装置21の設置位置は、図1に示す位置に限定されない。
【0017】
図2は、繊維コードの異常部検出装置21の1例を示すものである。
【0018】
繊維コードの異常部検出装置21は、図2に示すように、乾燥、熱処理工程17を終えて走行する処理コード12の正常部を通過させ、前記処理コード12正常部よりも径大のコード異常部31を通過させないスリット23を設けたスリット板22を有している。
【0019】
ここで、コード正常部とは、コードジョイント、フィラメントの飛び出しなどの撚り不良、コードの捻れなどがない、いわゆる正常なコード径の範囲にあるものを指し、コード異常部とは、前記コードジョイント、フィラメントの飛び出しなどの撚り不良、コードの捻れなどの発生によってコード径が正常部よりも大となった部分を指し、具体的には、正常部コード径の1.1倍以上のコード径にある部分を言う。
【0020】
繊維コードの異常部検出装置21は、図3に示すように、コード異常部(ジョイント)31(以下、ジョイントと言う)がスリット板22に到達すると、ジョイント31はスリット23の間隙を通過することができず、ジョイント31がスリット23を引っ掛けるようにしてスリット板22を回動軸24を支点にしコード走行方向にドアー状に回動させる。
【0021】
回動軸24としては、例えば、ディップ処理装置10に設けた固定柱40に対して、異常部検出装置21を回動自在に接続する蝶番などが挙げられる。
【0022】
図4は、スリット板22の1例を示す側面図(a)及び正面図(b)である。スリット板22は、スリット基板32とスリット23の間隔Sを設定する一対のスリット形成板33からなり、スリット23の間隔Sを設定したスリット形成板33がスリット基板32にネジ34により固定される。そして、スリット23の間隔Sを任意に設定するためのバカ穴がスリット形成板33に開けられている。
【0023】
また、スリット23の間隔Sを固定した上記スリット基板32とスリット形成板33を一体に形成したスリット板を使用することもできる。
【0024】
前記スリット形成板33の素材としては、特に限定されないが、金属、セラミック、プラスチックなどが挙げられる。また、スリット23を走行する生コード11が毛羽立ちなど損傷を発生しないように、スリット面は滑らかに加工されることが好ましい。
【0025】
スリット23の間隔Sは、特に限定されないが、コード正常部のコード径の1.1〜3.0倍であることが好ましく、より好ましくは1.3〜2.0倍である。間隔Sがコード正常部のコード径の1.1倍未満であると、走行中のコード振動により誤作動するおそれが多くなり作業性が低下し、3.0倍を超えるとジョイント31を通過させるようになり異常部の検出感度が低下しジョイントなどを混入させてしまう。
【0026】
また、ジョイント31の接触により回動したスリット板22は、スリット板22を縦型配置として自重により元の位置に復帰することが好ましい。また、前記蝶番をスプリング式蝶番としたり、バネ、ゴム紐などの利用により復帰させるものでもよい。
【0027】
繊維コードの異常部検出装置21は、スリット板22の回動によりジョイント31を検知し、その検知信号を発信する検出部とを備えている。
【0028】
検出部は、図2、3に示すように、本例の場合、検知センサー25と近接スイッチ26とで構成されている。
【0029】
検知センサー25は前記スリット板22と回動軸24を介して接続され、ジョイント31を検知しスリット板22が回動すると、同時に回動軸24を支点に逆方向に回動する。
【0030】
また、近接スイッチ26は通常は検知センサー25と接触状態にあるが、検知センサー25の回動により非接触状態になると電流が遮断され、ディップ処理装置10の各部にジョイント検知信号を発信するものであり、例えば後工程のワインダー20に信号を発信し運転停止、運転方法変換などを自動作動させることができる。
【0031】
そして、本発明は、前記繊維コードの異常部検出装置21がジョイント31を検知したことで発信する検知信号を受けて作動する自動装置を有する繊維コードの加工システムである。
【0032】
自動装置としては、ディップ処理装置10の変速や停止、ワインダー20の停止などが例示できる。
【0033】
特に、自動装置としては、ディップ処理装置10の最終工程である処理コード12のワインダー20を多軸ワインダーとし、前記検知信号に基づき多軸ワインダーの巻き取り軸を自動変換し、巻き取りボビンを自動交換するものに有用である。これにより、タイヤなど製品中へのジョイント混入の防止が容易となる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明に係る繊維コードの異常部検出装置及び繊維コードの加工システムは、上記実施形態で説明したシングルコードのディップ処理の他に、複数本のシングルコードを同時処理するコードセッター、シングルコードのゴム糊ディップ処理、シングルコードの未加硫ゴム被覆処理などに適用することができ、また対象コードとしては、ナイロン、ポリエステルなどの有機繊維の他に、炭素繊維、ガラス繊維等の無機繊維コードが挙げられ、空気入りタイヤ、コンベヤベルト、空気バネ、免震ゴムなどの各種ゴム製品の補強材に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施形態のディッピング工程を示す概略図である。
【図2】実施形態の異常部検出装置の概略図である。
【図3】実施形態の異常部検出装置の回動時の概略図である。
【図4】実施形態のスリット板の概略図である。
【図5】従来のディッピング工程を示す概略図である。
【符号の説明】
【0036】
12……処理コード正常部
21……異常部検出装置
22……スリット板
23……スリット
24……回動部材
25……検知センサー
26……近接スイッチ
31……ジョイント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行する繊維コード正常部を通過させ、前記コード正常部よりも径大のコード異常部を通過させないスリットを設けたスリット板と、
前記コード異常部が前記スリット板に接触することで該スリット板をコード走行方向に回動させる回動部材と、
前記スリット板の回動により前記コード異常部を検知し、検知信号を発信する検出部とを備えた
ことを特徴とする繊維コードの異常部検出装置。
【請求項2】
前記スリット板のスリット間隔が可変である
ことを特徴とする請求項1に記載の繊維コードの異常部検出装置。
【請求項3】
前記スリット板のスリット間隔が、前記コード正常部径の1.1〜3.0倍である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の繊維コードの異常部検出装置。
【請求項4】
前記回動部材が、前記繊維コード走行方向と交わる角度で前記スリット板に設けた回動軸からなる
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の繊維コードの異常部検出装置。
【請求項5】
前記コード異常部の接触により回動したスリット板が、該スリット板の自重により元の位置に復帰する
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の繊維コードの異常部検出装置。
【請求項6】
前記コード異常部が、コードジョイントである
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の繊維コードの異常部検出装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の繊維コードの異常部検出装置からの検知信号を受けて作動する自動装置を有する
ことを特徴とする繊維コードの加工システム。
【請求項8】
前記自動装置が繊維コードの巻き取り装置であって、前記検知信号に基づき該繊維コードの巻き取り軸を交換する
ことを特徴とする請求項7に記載の繊維コードの加工システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−67532(P2009−67532A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−237924(P2007−237924)
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】