繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物及び繊維強化複合材料
【課題】室温で低粘度であり、低温で速やかに硬化するとともに、硬化収縮が生じず、しかも耐熱性に優れた硬化物が得られる繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を得る。
【解決手段】繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、ハロゲン原子、酸素原子若しくはハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基、又は置換基を有していてもよいアルコキシ基で置換されてもよい3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシル化合物であって、該化合物の異性体の含有量が、該化合物とその異性体の総和に対して、ガスクロマトグラフィーによるピーク面積の割合として20%以下である脂環式ジエポキシ化合物と、加熱によりカチオンを発生する重合開始剤を含有することを特徴とする。
【解決手段】繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、ハロゲン原子、酸素原子若しくはハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基、又は置換基を有していてもよいアルコキシ基で置換されてもよい3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシル化合物であって、該化合物の異性体の含有量が、該化合物とその異性体の総和に対して、ガスクロマトグラフィーによるピーク面積の割合として20%以下である脂環式ジエポキシ化合物と、加熱によりカチオンを発生する重合開始剤を含有することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物、該エポキシ樹脂組成物を用いた繊維強化複合材料および該繊維強化複合材料で構成されている構造物に関する。より詳細には、室温で低粘度で含浸性に優れ、低温で速やかに硬化し、かつ硬化時に体積膨脹する特徴を有する繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物と、該エポキシ樹脂組成物を用いた繊維強化複合材料および該繊維強化複合材料で構成されている構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化複合材料は、強化繊維とマトリックス樹脂とからなる複合材料であり、強化繊維とマトリックス樹脂の利点を活かした材料設計ができるため、航空宇宙分野をはじめ、スポーツ分野、一般産業分野等に広く用途が拡大されている。強化繊維としては、ガラス繊維、アラミド繊維、炭素繊維、ボロン繊維等が用いられる。マトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれも用いられるが、強化繊維への含浸が容易な熱硬化性樹脂が用いられることが多い。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、マレイミド樹脂、シアネート樹脂等が用いられるが、なかでも優れた耐熱性、弾性率、耐薬品性を有し、かつ硬化収縮が小さいエポキシ樹脂が最もよく用いられる。
【0003】
繊維強化複合材料の製造には、プリプレグ法、ハンドレイアップ法、フィラメントワイディング法、RTM(Resin Transfer Molding)法等の方法が適用される。このうち、RTM法は型内に配置した強化繊維基材に液状の熱硬化性樹脂組成物を含浸し、加熱硬化する方法であり、複雑な形状を有する繊維強化複合材料を成形できるという特長を有する。
【0004】
前記RTM法に用いられる樹脂に要求される特性としては、機械特性、耐熱性はもちろんのこと、強化繊維基材への含浸を容易にするために、低粘度であることが必要である。また、樹脂含浸時の粘度変化が大きいと、得られる繊維強化複合材料に未含浸部が生じ、所望の特性が得られないという問題が生じる。さらに、RTM法では型内で樹脂の硬化が行われるが、100℃以下の低い硬化温度において、短時間で硬化が可能であると、型の材質、副資材、熱源に安価なものを使用できるので経済性、生産性に有利である。すなわち、含浸時は低粘度で、粘度変化が小さく、かつ100℃以下の低温で速やかに硬化することが要求されている。
【0005】
特開平6−329763号公報には、低粘度で、かつ粘度変化の小さい樹脂組成物として、エポキシ樹脂、および該エポキシ樹脂のエポキシ当量から算出される化学量論量に基づいて80〜200%の量のジエチルトルエンジアミンからなるエポキシ樹脂組成物が開示されている。しかし、このエポキシ樹脂組成物は含浸性、成形物の機械特性は良好であるが、硬化には150℃以上で7時間以上の加熱が必要であり、経済性、生産性の点で不十分である。
【0006】
特開2004−285148号公報には、低粘度で、かつ粘度変化の小さい樹脂組成物として、エポキシ当量165以下のビスフェノールF型エポキシ樹脂、およびポリアミンからなるエポキシ樹脂組成物が開示されている。また、このエポキシ樹脂組成物の硬化時間を短縮させるため、任意の成分として酸型の硬化促進剤の配合が示唆されている。しかし、この文献には、硬化促進剤の具体的構成は特に開示されておらず、100℃以下の低温で硬化が可能な具体的な硬化促進剤の種類や配合量については何ら例示されていない。
【0007】
特開平7−268067号公報には、低温で硬化が可能な樹脂組成物として、エポキシ当量200以下のビスフェノールF型エポキシ樹脂、常温で液体の酸無水物系硬化剤、およびイミダゾール化合物からなるエポキシ樹脂組成物が開示されている。しかし、このエポキシ樹脂組成物は、硬化には依然として120℃の高温の加熱が必要であり、100℃程度の比較的低温での硬化性が不十分であった。
【0008】
特開2006−265434号公報には、低粘度で、100℃程度で硬化が可能な樹脂組成物として、エポキシ当量200以下のビスフェノールF型エポキシ樹脂、室温で液状の芳香族ポリアミン、ルイス酸と塩基の錯体からなるエポキシ樹脂組成物が開示されている。しかし、このエポキシ樹脂組成物は、硬化には依然として100℃の高温の加熱が必要であり、炭素繊維へ含浸させる際には70℃程度に加温しなければ、低粘度を達成できず、硬化収縮も生じるものであった。
【0009】
このように、従来、室温で低粘度で、100℃程度の加熱がなくとも容易に硬化し、硬化収縮が生じることのない、炭素繊維強化複合材料に適したエポキシ樹脂組成物は知られていなかった。
【0010】
【特許文献1】特開平6−329763号公報
【特許文献2】特開2004−285148号公報
【特許文献3】特開平7−268067号公報
【特許文献4】特開2006−265434号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、室温で低粘度であり、低温で速やかに硬化するとともに、硬化収縮が生じず、しかも耐熱性に優れた硬化物が得られる繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物と、該エポキシ樹脂組成物を用いて形成された繊維強化複合材料、及び該繊維強化複合材料で構成された構造物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、化合物の構造とその異性体比率を特定した脂環式ジエポキシ化合物と、加熱によりカチオンを発生する重合開始剤とを含有するエポキシ樹脂組成物によって、上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は、下記式(1)
【化1】
(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17及びR18は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、酸素原子若しくはハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基、又は置換基を有していてもよいアルコキシ基を示す)
で表される3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシル化合物であって、該3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシル化合物の異性体の含有量が、3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシル化合物とその異性体の総和に対して、ガスクロマトグラフィーによるピーク面積の割合として20%以下である脂環式ジエポキシ化合物と、加熱によりカチオンを発生する重合開始剤を含有することを特徴とする繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を提供する。
【0014】
本発明は、また、下記式(2)
【化2】
(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17及びR18は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、酸素原子若しくはハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基、又は置換基を有していてもよいアルコキシ基を示す)
で表されるビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物であって、該ビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物の異性体の含有量が、ビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物とその異性体の総和に対して、ガスクロマトグラフィーによるピーク面積の割合として20%未満である脂環式ジエン化合物をエポキシ化することにより得られる脂環式ジエポキシ化合物と、加熱によりカチオンを発生する重合開始剤を含有することを特徴とする繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を提供する。
【0015】
前記式(1)、式(2)中のR1〜R18はすべて水素原子であってもよい。
【0016】
前記繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物において、25℃での粘度は500mPa・s以下であるのが好ましい。また、50℃以下の温度で5時間加熱することによりガラス転移温度が90℃以上の硬化物を形成可能であるのが好ましい。
【0017】
本発明は、さらに、前記の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を用いて形成された繊維強化複合材料を提供する。
【0018】
本発明は、さらにまた、前記の繊維強化複合材料で構成されている構造物を提供する。該構造物として、航空機の胴体、主翼、尾翼、動翼、フェアリング、カウル、ドア、宇宙機のモーターケース、主翼、人工衛星の構体、自動車のシャシー、鉄道車両の構体、自転車の構体などが挙げられる。
【0019】
なお、本明細書において、エポキシ樹脂とは、1分子内に1個以上のエポキシ基を有する化合物を指し、エポキシ樹脂組成物とは、該エポキシ樹脂を含む未硬化の組成物を指し、例えばエポキシ樹脂と硬化剤、必要に応じてさらに他の添加剤を含む組成物を指す。
【発明の効果】
【0020】
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、室温で低粘度且つ安定であり、低温、例えば50℃以下の温度で速やかに硬化するとともに、耐熱性に優れ、硬化収縮しない硬化物を与える。このため、高い生産性、経済性で、優れた特性を有する繊維強化複合材料、及び該繊維強化複合材料で構成された構造物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、(I)(i)前記式(1)で表される3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシル化合物であって、該3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシル化合物の異性体の含有量が、3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシル化合物とその異性体の総和に対して、ガスクロマトグラフィーによるピーク面積の割合として20%以下である脂環式ジエポキシ化合物(以下、「脂環式ジエポキシ化合物(A)」と称する場合がある)、又は、(ii)前記式(2)で表されるビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物であって、該ビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物の異性体の含有量が、ビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物とその異性体の総和に対して、ガスクロマトグラフィーによるピーク面積の割合として20%未満である脂環式ジエン化合物をエポキシ化することにより得られる3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシル化合物(以下、「脂環式ジエポキシ化合物(A′)」と称する場合がある)と、(II)加熱によりカチオンを発生する重合開始剤とを含有する。
【0022】
[脂環式ジエポキシ化合物(A)、(A′)]
前記式(1)中、R1〜R18におけるハロゲン原子には、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素原子が含まれる。「酸素原子若しくはハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基」における炭化水素基には、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、これらが2以上結合した基が挙げられる。脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、デシル基等の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基(例えば、炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜5程度のアルキル基);ビニル、アリル基等のアルケニル基(例えば、炭素数2〜10、好ましくは炭素数2〜5程度のアルケニル基);エチニル基等のアルキニル基(例えば、炭素数2〜10、好ましくは炭素数2〜5程度のアルキニル基)などが挙げられる。脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロペンチル、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;シクロアルケニル基;橋架け環式基などが挙げられる。芳香族炭化水素基としては、フェニル、ナフチル基等が挙げられる。酸素原子を有する炭化水素基としては、例えば、前記炭化水素基の炭素鎖中に酸素原子が介在している基(例えば、メトキシメチル基、エトキシメチル基等のアルコキシアルキル基等)などが挙げられる。ハロゲン原子を有する炭化水素基としては、例えば、クロロメチル基、トリフルオロメチル基、クロロフェニル基等の前記炭化水素基の有する水素原子の1又は2以上がハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素又はヨウ素原子)により置換された基が挙げられる。「置換基を有していてもよいアルコキシ基」におけるアルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ、プロピルオキシ、イソプロピルオキシ、ブチルオキシ基等の炭素数1〜10(好ましくは炭素数1〜5)程度のアルコキシ基などが挙げられる。アルコキシ基の置換基としては、例えば、前記ハロゲン原子などが挙げられる。
【0023】
式(1)で表される3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシル化合物のなかでも、R1〜R18がすべて水素原子である3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシルが特に好ましい。
【0024】
3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシル化合物とその異性体とは、沸点等の物性が近似しているため、一般的なガスクロマトグラフィーの装置では分離できないことが多い。そのため、3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシル化合物とその異性体の定量分析は、より分離能が高いキャピラリーカラムを用いたガスクロマトグラフィーにより行うのが望ましい。3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシル化合物及びその異性体のガスクロマトグラフィーによる定量分析は下記の測定条件で行うことができる。なお、3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシル化合物とその異性体の構造は、例えば、NMR、GC−MS、GC−IR等によって確認することができる。
測定装置:HP6890(ヒューレットパッカード社製)
カラム:HP−5、長さ30m、膜厚0.25μm、内径0.32mm
液相 5%−ジフェニル−95%−ジメチルポリシロキサン
キャリアガス:窒素
キャリアガス流量:1.0ml/分
検出器:FID
注入口温度:250℃
検出器温度:300℃
昇温パターン(カラム):100℃で2分保持、5℃/分で300℃まで昇温、30 0℃で10分保持
スプリット比:100
サンプル:1μl(エポキシ化合物:アセトン=1:40)
【0025】
式(1)で表される3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシル化合物において、不純物として含まれている3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシル化合物の異性体の含有量は、3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシル化合物(主化合物)とその異性体の総和に対して、ガスクロマトグラフィーによるピーク面積の割合として20%以下であり、好ましくは18%以下、さらに好ましくは16%以下である。このような脂環式ジエポキシ化合物は、前記異性体の含有量が20%を超えるものと比較して、室温(例えば25℃)での粘度が低く含浸性に優れ、安定性が高い上、硬化反応速度が著しく速い。また、硬化後の硬化物のガラス転移温度が大幅に高くなり、耐熱性等の物性が著しく向上する。また、他の脂環式エポキシ化合物と比較して、耐水性、耐熱性、密着性、強靱性等に優れた硬化物及び繊維強化複合材料を得ることができる。
【0026】
このような脂環式ジエポキシ化合物は、例えば、前記式(2)で表されるビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物であって、該ビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物の異性体(二重結合の位置の異なる異性体)の含有量が、ビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物とその異性体の総和に対して、ガスクロマトグラフィーによるピーク面積の割合として20%未満(例えば19.5%以下、好ましくは15%以下)の脂環式ジエン化合物をエポキシ化することにより製造できる。式(2)中、R1〜R18は前記に同じである。
【0027】
ここで原料として用いられる異性体含有量の少ない式(2)で表されるビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物は、例えば、下記式(3)
【化3】
(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17及びR18は前記に同じ)
で表される4,4′−ジヒドロキシビシクロヘキシル化合物を、有機溶媒中、脱水触媒の存在下、副生する水を留去しながら脱水反応を行うことにより得られる。
【0028】
より詳細には、例えば、前記式(3)で表される4,4′−ジヒドロキシビシクロヘキシル化合物を、(i)有機溶媒中、反応条件下において液状又は反応液に溶解する脱水触媒の存在下、20Torr(2.67kPa)を超える圧力下で130〜200℃の温度に加熱し、副生する水を留去しながら脱水反応を行う工程と、(ii)前記工程(i)に続いて、反応混合液を200Torr(26.7kPa)以下の圧力下で100〜220℃の温度に加熱して、生成した式(2)で表されるビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物を留出させる工程とを経ることにより製造することができる。この方法について、以下に説明する。
【0029】
式(3)で表される化合物の代表的な例として、4,4′−ジヒドロキシビシクロヘキシル(水添ビフェノール)が挙げられる。
【0030】
前記工程(i)で使用する有機溶媒としては、反応条件下で不活性な溶媒であれば特に限定されないが、25℃において液体であって、沸点が120〜200℃程度のものが好ましい。好ましい有機溶媒の代表的な例として、例えば、キシレン、クメン、プソイドクメンなどの芳香族炭化水素;ドデカン、ウンデカンなどの脂肪族炭化水素などが挙げられる。有機溶媒として、副生水を簡易に分離除去するため、水と共沸し且つ水と分液可能な有機溶媒を用いてもよい。ケトンやエステル等の酸の存在下で反応する溶媒は沸点が上記範囲であっても好ましくない。また、アルコールは脱水反応を起こす可能性があるため好ましくない。
【0031】
有機溶媒の使用量は、操作性や反応速度等を考慮して適宜選択できるが、通常、基質である4,4′−ジヒドロキシビシクロヘキシル化合物100重量部に対して、50〜1000重量部程度であり、好ましくは80〜800重量部程度、さらに好ましくは100〜500重量部程度である。
【0032】
工程(i)で用いる脱水触媒としては、脱水活性を有し、反応条件下において液状のもの又は反応液に溶解するもの(後述する使用量で完全に溶解するもの)であれば特に限定されないが、反応溶媒に対して活性が無いか又はできるだけ低いものが好ましい。反応条件下において液状である脱水触媒は反応液中に微分散するものが好ましい。脱水触媒としては、通常、リン酸や硫酸等の無機酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸等のスルホン酸類などの酸、又はそれらの塩、特に前記酸の有機塩基による完全中和塩又は部分中和塩が使用される。脱水触媒は単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0033】
酸の有機塩基による中和塩を使用する場合、酸と有機塩基とを反応させて得られる反応混合物から中和塩(完全中和塩又は部分中和塩)を単離精製して用いることもできるが、酸と有機塩基とを反応させて得られる反応混合物(完全中和塩及び/又は部分中和塩を含んでいる)をそのまま使用することもできる。後者の場合、この反応混合物中には遊離の酸が含まれていてもよい。また、後者の場合、酸と有機塩基との混合割合は、例えば、酸1当量に対して、有機塩基が0.01〜1当量程度、好ましくは0.05〜0.5当量程度、さらに好ましくは0.1〜0.47当量程度である。特に、硫酸と有機塩基との反応混合物を使用する場合、硫酸と有機塩基との混合割合は、硫酸1モルに対して、有機塩基が好ましくは0.02〜2モル、さらに好ましくは0.1〜1.0モル、特に好ましくは0.2〜0.95モル程度である。また、酸の有機塩基による中和塩を使用する場合、酸と有機塩基とを別々に添加して、系内で中和塩を形成してもよい。
【0034】
前記有機塩基としては塩基性を示す有機化合物であればよく、例えば、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7(DBU)、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン−5(DBN)、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、ピペリジン、N−メチルピペリジン、ピロリジン、N−メチルピロリジン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン、ベンジルジメチルアミン、4−ジメチルアミノピリジン、N,N−ジメチルアニリンなどのアミン類(特に、第3級アミン類);ピリジン、コリジン、キノリン、イミダゾールなどの含窒素芳香族複素環化合物;グアニジン類;ヒドラジン類などが挙げられる。これらの中でも、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7(DBU)、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン−5(DBN)、トリエチレンジアミン、トリエチルアミン等の第3級アミン類(特に、環状アミン類)、グアニジン類、ヒドラジン類が好ましく、特に、DBU、DBN、トリエチレンジアミン、トリエチルアミンが好ましい。また、有機塩基としては、pKa11以上のものが好ましく、また沸点が150℃以上のものが好ましい。
【0035】
脱水触媒として硫酸水素カリウム等の硫酸のアルカリ金属塩を用いると、ビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物の異性体の含有量が、ビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物とその異性体の総和に対して、ガスクロマトグラフィーによる面積の割合として20%未満のものが得られない。なお、脱水触媒として硫酸水素アンモニウムを用いた場合には、ビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物の異性体の含有量が、ビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物とその異性体の総和に対して、ガスクロマトグラフィーによるピーク面積の割合として19%程度のものが得られる。
【0036】
したがって、脱水触媒としては、スルホン酸類(p−トルエンスルホン酸等)、リン酸、硫酸、スルホン酸類(p−トルエンスルホン酸等)の有機塩基による完全中和塩又は部分中和塩、リン酸の有機塩基による完全中和塩又は部分中和塩、硫酸の有機塩基による完全中和塩又は部分中和塩が好ましい。なかでも、スルホン酸類(特に、p−トルエンスルホン酸)、該スルホン酸類の有機塩基による完全中和塩又は部分中和塩、硫酸の有機塩基による完全中和塩又は部分中和塩が好ましく、特に、硫酸の有機塩基による完全中和塩又は部分中和塩(とりわけ部分中和塩)が好ましい。
【0037】
脱水触媒の使用量は、原料である式(3)で表される4,4′−ジヒドロキシビシクロヘキシル化合物1モルに対して、例えば0.001〜0.5モル、好ましくは0.001〜0.3モル、さらに好ましくは0.005〜0.2モルである。
【0038】
前記工程(i)と工程(ii)とでは圧力が異なる。工程(i)の反応液中には、未反応の4,4′−ジヒドロキシビシクロヘキシル化合物、該4,4′−ジヒドロキシビシクロヘキシル化合物におけるヒドロキシル基が結合した2つのシクロヘキサン環のうち1つのみが分子内脱水してシクロヘキセン環に変化した反応中間体、目的のビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物、副生水、脱水触媒、及び反応溶媒が共存している。この工程(i)においては副生水を留出させるが、このとき前記反応中間体を留出させることは以下の点から望ましくない。すなわち、(1)前記反応中間体は、さらに分子内脱水することにより目的化合物に変換できるため、これを留出させると目的化合物の収率の低下を招く、(2)前記反応中間体は一般に昇華性の固体であるため、蒸留塔を使用する場合には、副生水の留出経路に固体が析出することによって該留出経路が閉塞して反応器内部の圧力上昇を招き、反応容器の破裂、破損、反応液の飛散等のトラブルの原因となる。したがって、工程(i)では、前記反応中間体が留出しないように、20Torr(2.67kPa)を超える圧力下で、副生水を留去しながら脱水反応を行う。圧力は、好ましくは20Torrより高く常圧以下(2.67kPaより高く0.1MPa以下)、より好ましくは100Torrより高く常圧以下(13.3kPaより高く0.1MPa以下)、さらに好ましくは200Torrより高く常圧以下(26.7kPaより高く0.1MPa以下)であり、操作性の点からは、特に常圧が好ましい。工程(i)における温度(反応温度)は130〜200℃であり、好ましくは140〜195℃、さらに好ましくは150〜195℃である。温度が高すぎると副反応が起こり収率が低下する。また温度が低すぎると反応速度が遅くなる。反応時間は、例えば3L程度の合成スケールであれば、1〜10時間、好ましくは2〜6時間程度である。
【0039】
一方、工程(ii)では、副生水を留出させた後の反応混合液から目的のビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物を留出させる。なお、工程(i)で得られた反応混合液は、そのまま工程(ii)に供してもよいが、必要に応じて、前記反応混合液に対して抽出、水洗、液性調整等の適宜な処理を施した後に工程(ii)に供してもよい。また、反応に用いた有機溶媒の沸点が目的のビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物の沸点より低い場合には、通常、該有機溶媒を留去した後にビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物を留出させる。
【0040】
この工程(ii)では、前記反応中間体はほとんど存在しないので圧力を低くしても留出経路の閉塞等の問題は起こらず、また圧力が高いと目的化合物の留出に時間を要するため、200Torr(26.7kPa)以下の圧力で操作する。工程(ii)の圧力は、工程(i)の圧力より低くするのが好ましい。例えば、工程(i)の圧力と工程(ii)の圧力の差(前者−後者)は、例えば100Torr以上(13.3kPa以上)、好ましくは200Torr以上(26.7kPa以上)、さらに好ましくは500Torr以上(66.7kPa以上)である。工程(ii)の圧力は、好ましくは3〜200Torr(0.40〜26.7kPa)、より好ましくは3〜100Torr(0.40〜13.3kPa)、さらに好ましくは3〜20Torr(0.40〜2.67kPa)程度である。工程(ii)の温度は100〜220℃であり、好ましくは120〜180℃、さらに好ましくは130〜150℃未満程度である。温度が高すぎると副反応が起こりやすくなりビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物の回収率が低下する。また温度が低すぎると留出速度が遅くなる。
【0041】
ビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物などを留出させるため、例えば反応器等に蒸留装置を付随させる場合には、該蒸留装置として、充填塔、オールダーショウ型蒸留装置など一般に使用されている蒸留装置で還流比の取れるものであれば特に限定されることなく使用できる。
【0042】
工程(ii)で留出したビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物は、必要に応じてさらに精製することができる。精製法としては、微量の水を含む場合は比重差を利用して分離することも可能であるが、一般には蒸留による精製が好ましい。
【0043】
このような方法によれば、原料の4,4′−ジヒドロキシビシクロヘキシル化合物を有機溶媒中、反応条件下において液状又は反応液に溶解する脱水触媒の存在下、特定の反応条件で副生水を留去しつつ反応させた後、生成したビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物を特定の条件で留出させるので、比較的低い温度で且つ比較的短時間で反応を行うことができ、異性化等の副反応を抑制できるとともに、反応中間体の留出によるロス・昇華による閉塞等を防止できるため、不純物含量の少ない高純度のビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物を簡易に且つ高い収率で効率よく得ることができる。すなわち、式(2)で表されるビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物の異性体の含有量が、ビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物とその異性体の総和に対して、ガスクロマトグラフィーによるピーク面積の割合として20%未満(例えば19.5%以下、好ましくは15%以下)の脂環式ジエン化合物を得ることができる。
【0044】
なお、従来の方法、例えば、特開2000−169399号公報に記載の方法では、長い反応時間を必要とするので、異性化等の副反応により望ましくない副生物が多量に生成する。副生した異性体は沸点や溶媒溶解性等の物性が目的化合物と近似しているので、一旦生成すると分離が極めて困難となる。このような副生物を多量に含む環状オレフィン化合物を、エポキシ化して硬化性樹脂として使用すると、硬化の際に反応性が低い上、耐熱性等の物性に優れる硬化物が得られない。なお、ビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物とその異性体とは、沸点等の物性が極めて近似しているため、一般的なガスクロマトグラフィーの装置では分離できず、これまでの文献ではビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物の収率及び純度が高めに記載されている。ビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物とその異性体の分析は、分離能が高いキャピラリーカラムを用いたガスクロマトグラフィーにより行うのが望ましい。
【0045】
ビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物及びその異性体のガスクロマトグラフィーによる定量分析は下記の測定条件で行うことができる。なお、ビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物とその異性体の構造は、例えば、NMR、GC−MS、GC−IR等によって確認することができる。
測定装置:HP6890(ヒューレットパッカード社製)
カラム:HP−5、長さ60m、内径0.32mm
液相 5%−ジフェニル−95%−ジメチルポリシロキサン
キャリアガス:窒素
キャリアガス流量:2.6ml/分
検出器:FID
注入口温度:250℃
検出器温度:250℃
昇温パターン(カラム):60℃で5分保持、10℃/分で300℃まで昇温
スプリット比:100
サンプル:1μl
【0046】
ビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物のエポキシ化法は特に制限はなく、例えば、酸化剤(エポキシ化剤)として有機過カルボン酸を用いる方法、t−ブチルハイドロパーオキシド等のハイドロパーオキシドとモリブデン化合物等の金属化合物とを用いる方法等の何れであってもよいが、安全性、経済性、収率等の観点から有機過カルボン酸を用いる方法が好ましい。以下、この方法について説明する。
【0047】
有機過カルボン酸としては、例えば、過ギ酸、過酢酸、過安息香酸、過イソ酪酸、トリフルオロ過酢酸などを使用できる。有機過カルボン酸のうち、特に過酢酸は、反応性が高く、しかも安定度が高いことから好ましいエポキシ化剤である。なかでも、実質的に水分を含まない、具体的には、水分含有量0.8重量%以下、好ましくは0.6重量%以下の有機過カルボン酸を使用することが高いエポキシ化率を有する化合物が得られるという点で好ましい。実質的に水分を含まない有機過カルボン酸は、アルデヒド類、例えば、アセトアルデヒドの空気酸化により製造されるものであり、例えば、過酢酸についてはドイツ公開特許公報1418465号や特開昭54−3006に記載された方法により製造される。この方法によれば、過酸化水素から有機過カルボン酸を合成し、溶媒により抽出して有機過カルボン酸を製造する場合に比べて、連続して大量に高濃度の有機過カルボン酸を合成できるために、実質的に安価に得ることができる。
【0048】
エポキシ化剤の量には厳密な制限がなく、それぞれの場合における最適量は、使用する個々のエポキシ化剤やビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物の反応性等によって決まる。エポキシ化剤の量は、例えば、不飽和基1モルに対して、1.0〜3.0モル、好ましくは1.05〜1.5モル程度である。経済性及び副反応の問題から、3.0倍モルを超えることは通常不利である。
【0049】
エポキシ化反応は、装置や原料物性に応じて溶媒使用の有無や反応温度を調節して行う。溶媒としては、原料粘度の低下、エポキシ化剤の希釈による安定化などの目的で使用することができ、過酢酸の場合であればエステル類、芳香族化合物、エーテル類などを用いることができる。特に好ましい溶媒は、酢酸エチル、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、ベンゼン等であり、とりわけ、酢酸エチルが好ましい。反応温度は用いるエポキシ化剤とビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物の反応性によって定まる。例えば、過酢酸を使用する場合の反応温度は20〜70℃が好ましい。20℃未満では反応が遅く、70℃を超える温度では過酢酸が発熱を伴って分解するので、好ましくない。
【0050】
反応で得られた粗液の特別な操作は必要なく、例えば粗液を1〜5時間撹拌し、熟成させればよい。得られた粗液からのエポキシ化合物の単離は適当な方法、例えば貧溶媒で沈殿させる方法、エポキシ化合物を熱水中に撹拌下で投入し溶媒を蒸留除去する方法、直接脱溶媒する方法、蒸留精製により単離する方法などにより行うことができる。
【0051】
このようにして、式(1)で表される3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシル化合物の異性体の含有量(異性体比率)が、式(1)で表される3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシル化合物とその異性体の総和に対して、ガスクロマトグラフィーによるピーク面積の割合として20%以下(好ましくは18%以下、さらに好ましくは16%以下)である脂環式ジエポキシ化合物を得ることができる。
【0052】
[他のエポキシ化合物]
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、前記脂環式ジエポキシ化合物(A)又は(A′)とともに、他のエポキシ化合物を含んでいてもよい。他のエポキシ化合物としては、特に限定されないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量が200よりも大きいビスフェノールF型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂等が挙げられ、これらの変性物を使用することもできる。この中で、高いガラス転移温度と弾性率をもつ硬化物を得るためには、3官能以上の芳香族エポキシ樹脂の配合が有効である。
【0053】
好ましい3官能以上の芳香族エポキシ樹脂としては、例えば、N,N,N′,N′−テトラグリシジル−4,4′−ジアミノジフェニルメタン、N,N,O−トリグリシジル−m−アミノフェノール、N,N,O−トリグリシジル−p−アミノフェノール等が挙げられる。
【0054】
N,N,N′,N′−テトラグリシジル−4,4′−ジアミノジフェニルメタンの市販品としては、住友化学工業社製の「スミエポキシ(登録商標)ELM434」、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製の「アラルダイト (登録商標)MY−720」、「アラルダイト (登録商標)MY−721」等がある。
【0055】
N,N,O−トリグリシジル−m−アミノフェノールの市販品としては、住友化学工業社製の「スミエポキシ(登録商標)ELM120」、また、N,N,O−トリグリシジル−p−アミノフェノールの市販品としては、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製の「アラルダイト(登録商標)MY0500」、「アラルダイト(登録商標)MY0510」、ジャパンエポキシレジン社製の「エピコート(登録商標)630」等がある。
【0056】
脂環式ジエポキシ化合物(A)又は(A′)以外のエポキシ化合物は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物には、室温で固体のエポキシ化合物を含んでもよいが、繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物としては室温(例えば25℃)で液体であることが好ましい。
【0057】
脂環式ジエポキシ化合物(A)又は(A′)以外のエポキシ化合物の使用量は、例えば、全エポキシ化合物100重量%に対して、50重量%未満(例えば、0.1重量%以上50重量%未満)、好ましくは0〜30重量%(例えば、1〜30重量%)、さらに好ましくは0〜10重量%(例えば、2〜10重量%)である。エポキシ化合物として、実質的に脂環式ジエポキシ化合物(A)[又は(A′)]のみを用いてもよい。
【0058】
[加熱によりカチオンを発生する重合開始剤]
加熱によりカチオンを発生する重合開始剤(熱カチオン重合開始剤)は、加熱によりカチオン重合を開始させる物質を放出する物質である。このような重合開始剤の好ましい例として下記の化合物が挙げられる。
【0059】
【化4】
【0060】
式(4)中、R19は水素原子、アセチル基またはメトキシカルボニル基を示す。R20とR21は、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子またはC1〜C4のアルキル基を示す。R22は水素原子、メチル基、メトキシ基またはハロゲン原子を示す。R23はC1〜C4のアルキル基を示す。X-はSbF6-、AsF6-、PF6-又はBF4-を示す。
【0061】
【化5】
【0062】
式(5)中、R24は水素原子、アセチル基、メトキシカルボニル基、メチル基、エトキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基、ベンゾイル基、フェノキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、9−フルオレニルメトキシカルボニル基またはp−メトキシベンジルカルボニル基を示す。R25とR26は、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子またはC1〜C4のアルキル基を示す。R27とR28は、それぞれ、水素原子、メチル基、メトキシ基またはハロゲン原子を示す。X-は上記と同じ意味を示す。
【0063】
【化6】
【0064】
式(6)中、R29はエトキシ基、フェニル基、フェノキシ基、ベンジルオキシ基、クロルメチル基、ジクロルメチル基、トリクロルメチル基またはトリフルオロメチル基を示す。R30とR31は、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子またはC1〜C4のアルキル基を示す。R32は水素原子、メチル基、メトキシ基またはハロゲン原子を示す。R33はC1〜C4のアルキル基を示す。X-は上記と同じ意味を示す。
【0065】
【化7】
【0066】
式(7)中、R34は水素原子、アセチル基、メトキシカルボニル基、メチル基、エトキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基、ベンゾイル基、フェノキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、9−フルオレニルメトキシカルボニル基またはp−メトキシベンジルカルボニル基を示す。R35とR36は、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子またはC1〜C4のアルキル基を示す。R37とR38は、それぞれ、メチル基又はエチル基を示す。X-は上記と同じ意味を示す。
【0067】
また、カチオン重合開始剤として、例えば、アリールジアゾニウム塩[例えば、PP−33(旭電化工業社製)]、アリールヨードニウム塩、アリールスルホニウム塩[例えば、FC−509(3M社製)、UVE1014(G.E.社製)、CP−66、CP−77など(旭電化工業社製)]、SI−60L、SI−80L、SI−100L、SI−110L(三新化学工業社製)、アレン−イオン錯体[例えば、CG−24−61(チバガイギー社製)]などを用いることができる。
【0068】
さらに、硬化剤として、アルミニウム又はチタンなどの金属とアセト酢酸エステル又はジケトン類のキレート化合物と、シラノール又はフェノール類との系も用いることができる。前記キレート化合物としては、アルミニウムアセチルアセトナートなどが挙げられる。前記シラノールまたはフェノール類としては、トリフェニルシラノールやビスフェノールS等が挙げられる。
【0069】
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、25℃における粘度が1000mPa・s以下(例えば1〜1000mPa・s)、特に500mPa・s以下(例えば1〜500mPa・s)であるのが好ましい。25℃における初期粘度がこの範囲内であると、強化繊維への含浸性に優れ、特に強化繊維含有率の高い、機械特性に優れた繊維強化複合材料が得られる。また、25℃で1時間保持した時の粘度(さらには、25℃で3時間保持したときの粘度)が500mPa・s以下(例えば1〜500mPa・s、好ましくは5〜200mPa・s、特に好ましくは10〜100mPa・s)であると、大型の繊維強化複合材料の成形が可能である。
【0070】
ここでいう粘度とは、JIS Z8803(1991)における、円すい−平板型回転粘度計を使用した粘度の測定により求められる粘度のことである。JIS Z8803(1991)における、円すい−平板型回転粘度計を使用した粘度の測定には、例えば、東機産業社製粘度計(TVE−33H型)等を用いることができる。また、初期粘度とは測定を開始してから30秒経過した後の粘度を指す。
【0071】
樹脂硬化物の耐熱性は、繊維強化複合材料の耐熱性と正の相関があるため、高耐熱性の繊維強化複合材料を得るためには、高耐熱性の樹脂硬化物を用いることが重要である。ガラス転移温度は、雰囲気の温度がガラス転移温度を上回ると、樹脂硬化物、ひいては繊維強化複合材料の機械強度が大きく低下することから、耐熱性の指標としてよく用いられる。
【0072】
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物としては、50℃以下の温度(例えば50℃)で5時間硬化して得られる硬化物のガラス転移温度が90℃以上(特に130℃以上、とりわけ145℃以上)であるのが好ましい。
【0073】
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、必要に応じて、界面活性剤、内部離型剤、色素、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの適宜な添加剤を含んでいてもよい。
【0074】
[繊維強化複合材料]
本発明の繊維強化複合材料は、前記繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を用いて形成されたものであり、該繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物の硬化物と強化繊維とからなる。
【0075】
本発明の繊維強化複合材料の製造方法としては、ハンドレイアップ法、プリプレグ法、RTM法、プルトルージョン法、フィラメントワインディング法、スプレーアップ法などの公知の方法がいずれも好ましく適用できる。好ましい製造法の一つであるRTM法とは、型内に設置した強化繊維基材に液状の熱硬化性樹脂を注入し、硬化して繊維強化複合材を得る方法である。強化繊維基材としては、強化繊維からなる織物、ニット、マット、ブレイドなどをそのまま用いてもよく、これらの基材を積層、賦形し、結着剤やステッチなどの手段で形態を固定したプリフォームを用いてもよい。
【0076】
型は、剛体からなるクローズドモールドを用いてもよく、剛体の片面型と可撓性のフィルム(バッグ)を用いる方法も可能である。後者の場合、強化繊維基材は剛体片面型と可撓性フィルムの間に設置する。剛体の型材としては、例えば金属(鉄、スチール、アルミニウムなど)、FRP、木材、石膏など既存の各種のものが用いられる。可撓性のフィルムとしては、ナイロン、フッ素樹脂、シリコーン樹脂などのフィルムが用いられる。剛体のクローズドモールドを用いる場合は、加圧して型締めし、液状エポキシ樹脂組成物を加圧して注入することが通常行われる。このとき、注入口とは別に吸引口を設け、真空ポンプに接続して吸引することも可能である。吸引を行い、かつ、特別な加圧手段を用いず、大気圧のみで液状エポキシ樹脂を注入することも可能である。
【0077】
剛体の片面型と可撓性フィルムを用いる場合は、通常、吸引と大気圧による注入を用いる。大気圧による注入で、良好な含浸を実現するためには、米国特許第4902215号公報に示されるような、樹脂拡散媒体を用いることが有効である。また、型内には、強化繊維基材以外にフォームコア、ハニカムコア、金属部品などを設置し、これらと一体化した複合材を得ることも可能である。特にフォームコアの両面に炭素繊維基材を配置して成型して得られるサンドイッチ構造体は、軽量で大きな曲げ剛性を持つので、例えば自動車や航空機などの外板材料として有用である。さらに、強化繊維基材の設置に先立って、剛体型の表面に後述のゲルコートを塗布することも好ましく行われる。
【0078】
樹脂注入が終了した後、適切な加熱手段を用いて加熱硬化を行い、脱型する。脱型後にさらに高温で後硬化を行うことも可能である。
【0079】
本発明の繊維強化複合材料は、RTM法以外にもフィラメントワインディング法や、プルトルージョン法などの液状エポキシ樹脂組成物を用いる公知の繊維強化複合材料の製造法により製造することができる。
【0080】
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を用いることで、軽量、高強度、高剛性で耐熱性に優れた繊維強化複合材料を経済的に製造することができる。
【0081】
本発明の繊維強化複合材料は、航空機の胴体、主翼、尾翼、動翼、フェアリング、カウル、ドアなど、宇宙機のモーターケース、主翼など、人工衛星の構体、自動車のシャシー、鉄道車両の構体、自転車の構体などの構造物に好適に用いることができる。
【実施例】
【0082】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0083】
[分析法]
(1)ビシクロヘキシル−3,3′−ジエン及びその異性体のガスクロマトグラフィー(GC分析)
測定装置:HP6890(ヒューレットパッカード社製)
カラム:HP−5、長さ60m、内径0.32mm
液相 5%−ジフェニル−95%−ジメチルポリシロキサン
キャリアガス:窒素
キャリアガス流量:2.6ml/分
検出器:FID
注入口温度:250℃
検出器温度:250℃
昇温パターン(カラム):60℃で5分保持、10℃/分で300℃まで昇温
スプリット比:100
サンプル:1μl
ビシクロヘキシル−3,3′−ジエンとその異性体との比は次のようにして求めた。すなわち、上記条件でGC分析を行い、保持時間20.97分付近に出る最大ピーク(ビシクロヘキシル−3,3′−ジエン)の面積と、その直前に現れる20.91分付近のピーク(異性体)の面積に基づいて、ビシクロヘキシル−3,3′−ジエンに対する異性体の含有比を求めた。すなわち、異性体比率(%)は、異性体面積÷(異性体面積+ビシクロヘキシル−3,3′−ジエン面積)×100で算出される。
【0084】
(2)3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシル及びその異性体のガスクロマトグラフィー(GC分析)
測定装置:HP6890(ヒューレットパッカード社製)
カラム:HP−5、長さ30m、膜厚0.25μm、内径0.32mm
液相 5%−ジフェニル−95%−ジメチルポリシロキサン
キャリアガス:窒素
キャリアガス流量:1.0ml/分
検出器:FID
注入口温度:250℃
検出器温度:300℃
昇温パターン(カラム):100℃で2分保持、5℃/分で300℃まで昇温、30 0℃で10分保持
スプリット比:100
サンプル:1μl(エポキシ化合物:アセトン=1:40)
3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシルとその異性体との比は次のようにして求めた。すなわち、上記条件でGC分析を行い、保持時間19.8分から20.0分付近に出る最大ピーク2本[3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシル(2本のピークは立体異性体の存在による)]の合計面積と、その直前に現れる19.1分から19.5分付近のピーク3本(異性体)の合計面積に基づいて、3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシルに対する異性体の含有比を求めた。すなわち、異性体比率(%)は、異性体合計面積÷(異性体合計面積+3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシル合計面積)×100で算出される。
【0085】
(3)3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシル及びその異性体のGC−MS分析
測定装置:ヒューレットパッカード社製、HP6890(GC部)、5973(MS 部)
カラム:HP−5MS、長さ30m、膜厚0.25μm、内径0.25mm
液相 5%−ジフェニル−95%−ジメチルポリシロキサン
昇温パターン(カラム):100℃で2分保持、5℃/分で300℃まで昇温、30 0℃で18分保持
注入口温度:250℃
MSDトランスファーライン温度:280℃
キャリアガス:ヘリウム
キャリアガス流量:0.7ml/分(コンスタントフロー)
スプリット比:スプリットレス
サンプル注入量:1.0μl
測定モード:EI
イオン源温度:230℃
四重極温度:106℃
MS範囲:m/z=25〜400
サンプル調製:サンプル0.1gをアセトン3.0gに溶解
合成例1で得られた脂環式ジエポキシ化合物をGC−MS分析に付した。その結果(ガスクロマトグラムと各成分のMSスペクトル)を図5〜14に示す。保持時間17.73分、17.91分、18.13分のピークが3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシルの異性体のピークであり、18.48分、18.69分のピークが3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシルのピークである。上記GC分析の場合と分析条件が若干異なるので各ピークの保持時間は異なるが、出現する順序は同じである。図5はガスクロマトグラムと保持時間17.73分のピークのMSスペクトルであり、図6はその拡大図である。図7はガスクロマトグラムと保持時間17.91分のピークのMSスペクトルであり、図8はその拡大図である。図9はガスクロマトグラムと保持時間18.13分のピークのMSスペクトルであり、図10はその拡大図である。図11はガスクロマトグラムと保持時間18.48分のピークのMSスペクトルであり、図12はその拡大図である。図13はガスクロマトグラムと保持時間18.69分のピークのMSスペクトルであり、図14はその拡大図である。MSスペクトルによれば、上記何れの成分もm/z=194の分子イオンピークを有している。
【0086】
合成例1(異性体比率9%)
95重量%硫酸70g(0.68モル)と1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7(DBU)55g(0.36モル)を撹拌混合して脱水触媒を調製した。
撹拌機、温度計、および脱水管を備え且つ保温された留出配管を具備した3リットルのフラスコに、下記式(3a)
【化8】
で表される水添ビフェノール(=4,4′−ジヒドロキシビシクロヘキシル)1000g(5.05モル)、上記で調製した脱水触媒125g(硫酸として0.68モル)、プソイドクメン1500gを入れ、フラスコを加熱した。内温が115℃を超えたあたりから水の生成が確認された。さらに昇温を続けてプソイドクメンの沸点まで温度を上げ(内温162〜170℃)、常圧で脱水反応を行った。副生した水は留出させ、脱水管により系外に排出した。なお、脱水触媒は反応条件下において液体であり反応液中に微分散していた。3時間経過後、ほぼ理論量の水(180g)が留出したため反応終了とした。反応終了液を10段のオールダーショウ型の蒸留塔を用い、プソイドクメンを留去した後、内部圧力10Torr(1.33kPa)、内温137〜140℃にて蒸留し、731gのビシクロヘキシル−3,3′−ジエンを得た。GC分析の結果、得られたビシクロヘキシル−3,3′−ジエン中にはその異性体が含まれており(GC−MS分析により確認)、下記式(2a)
【化9】
で表されるビシクロヘキシル−3,3′−ジエンとその異性体の含有比は91:9であった(図4参照)。
得られたビシクロヘキシル−3,3′−ジエン(異性体を含む)243g、酢酸エチル730gを反応器に仕込み、窒素を気相部に吹き込みながら、かつ、反応系内の温度を37.5℃になるようにコントロールしながら約3時間かけて30重量%過酢酸の酢酸エチル溶液(水分率0.41重量%)274gを滴下した。過酢酸溶液滴下終了後、40℃で1時間熟成し反応を終了した。さらに30℃で反応終了時の粗液を水洗し、70℃/20mmHgで低沸点化合物の除去を行い、脂環式エポキシ化合物270gを得た。このときの収率は93%であった。粘度(25℃)を測定したところ、84mPa・sであった。得られた脂環式エポキシ化合物のオキシラン酸素濃度は15.0重量%であった。また1H−NMRの測定では、δ4.5〜5ppm付近の内部二重結合に由来するピークが消失し、δ3.1ppm付近にエポキシ基に由来するプロトンのピークの生成が確認され、下記式(1a)
【化10】
で表される3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシルであることが確認された。GC分析の結果、得られた脂環式エポキシ化合物中には3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシルとその異性体が含まれており、異性体比率は9%であった(図1参照)。なお、異性体比率は次式により算出した。
異性体比率=(2262+1715+5702)÷(2262+1715+5702 +28514+74587)×100=9%
【0087】
合成例2(異性体17%)
撹拌機、20段のオールダーショウ型蒸留塔、温度計を備えている5リットルのフラスコに、水添ビフェノール1000g(5.05モル)、硫酸水素アンモニウム40g(0.265モル)、クメン2800gを入れ、フラスコを加熱した。内温が115℃を超えたあたりから水の生成が確認された。さらに昇温を続け、蒸留塔の塔頂より副生水を留出させながら反応を続けてクメンの沸点まで温度を上げ(内温165〜170℃)、常圧で脱水反応を行った。なお、硫酸水素アンモニウムは反応条件下において固体であり、大部分が反応液に溶解していなかった。6時間半経過後、理論量の94%の水(170.9g)が留出したため反応終了とした。反応終了後、系内を減圧にしてクメンを留去した後、10Torr(1.33kPa)まで減圧し、内温137〜141℃にて蒸留し、590gのビシクロヘキシル−3,3′−ジエンを得た。GC分析の結果、得られたビシクロヘキシル−3,3′−ジエン中には異性体が含まれており、ビシクロヘキシル−3,3′−ジエンと異性体の含有比は81:19であった。
得られたビシクロヘキシル−3,3′−ジエン(異性体を含む)243g、酢酸エチル730gを反応器に仕込み、窒素を気相部に吹き込みながら、かつ、反応系内の温度を37.5℃になるようにコントロールしながら約3時間かけて30重量%過酢酸の酢酸エチル溶液(水分率0.41重量%)274gを滴下した。過酢酸溶液滴下終了後、40℃で1時間熟成し反応を終了した。さらに30℃で反応終了時の粗液を水洗し、70℃/20mmHgで低沸点化合物の除去を行い、脂環式エポキシ化合物269gを得た。このときの収率は92%であった。粘度(25℃)を測定したところ、69mPa・sであった。得られた脂環式エポキシ化合物のオキシラン酸素濃度は14.9重量%であった。また1H−NMRの測定では、δ4.5〜5ppm付近の内部二重結合に由来するピークが消失し、δ3.1ppm付近にエポキシ基に由来するプロトンのピークの生成が確認され、3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシルであることが確認された。GC分析の結果、得られた脂環式エポキシ化合物には3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシルとその異性体が含まれており、異性体比率は17%であった(図2参照)。異性体比率は次式により算出した。
異性体比率=(3668+2724+9033)÷(3668+2724+9033 +20413+53424)×100=17%
【0088】
比較合成例1
撹拌機、20段の蒸留塔、温度計を備えている10リットルの四つ口フラスコに、水添ビフェノール6kgと硫酸水素カリウム620gを加えた。続いて、フラスコを180℃に加熱し、水添ビフェノールを融解後、撹拌を開始した。蒸留塔の塔頂より副生水を留出させながら反応を続け、3時間経過後、反応系内を10Torr(1.33kPa)に減圧し、水とビシクロヘキシル−3,3′−ジエンを蒸留塔の最上段より連続的に系外に留出させた。系外に留去させた水とビシクロヘキシル-3,3′−ジエンはデカンターで二層に分離させ、上層液のみを取り出した。その後、4時間かけて反応温度を220℃まで上げ、水とビシクロヘキシル−3,3′−ジエンの留去が無くなった時点で反応終了とした。ビシクロヘキシル−3,3′−ジエンの留出粗液の収量は4507gであった。上記ビシクロヘキシル−3,3′−ジエンの留出粗液4500gを撹拌機、20段の蒸留塔、温度計を備えている5リットルの四つ口フラスコに入れ、オイルバスで180℃に昇温した。その後、反応系内を10Torr(1.33kPa)に減圧し、水を留去してから蒸留塔の最上段の温度を145℃に維持し、還流比1で5時間かけてビシクロヘキシル−3,3′−ジエンを蒸留精製し、無色透明の液体を得た。収量は4353gであった。前記液体についてGC分析を行った結果、得られたビシクロヘキシル−3,3′−ジエン中には異性体が含まれており、ビシクロヘキシル−3,3′−ジエンと異性体の含有比は80:20であった。
得られたビシクロヘキシル−3,3′−ジエン(異性体を含む)406g、酢酸エチル1217gを反応器に仕込み、窒素を気相部に流しながら、かつ、反応系内の温度を37.5℃になるようにコントロールしながら約3時間かけて30重量%過酢酸の酢酸エチル溶液(水分率0.41重量%)1523gを滴下した。過酢酸溶液滴下終了後、40℃で1時間熟成し反応を終了した。続いて反応器を30℃まで冷却し、反応粗液を水洗した。その後、70℃/20mmHgで反応粗液から低沸点成分を除去し、脂環式エポキシ化合物415gを得た。このときの収率は92%であった。E型粘度計を用いて粘度(25℃)を測定したところ、72mPa・sであった。得られた脂環式エポキシ化合物のオキシラン酸素濃度は15.1重量%であった。また、得られた脂環式エポキシ化合物を1H−NMRを用いて分析したところ、δ4.5〜5ppm付近の内部二重結合に由来するピークが消失し、δ2.9〜3.1ppm付近にエポキシ基に由来するプロトンのピークの生成が確認され、3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシルであることが確認された。GC分析の結果、得られた脂環式エポキシ化合物には3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシルとその異性体が含まれており、異性体比率は21%であった(図3参照)。異性体比率は次式により算出した。
異性体比率=(5404+3923+13067)÷(5404+3923+130 67+23563+60859)×100=21%
【0089】
実施例1
合成例2の方法で合成した脂環式ジエポキシ化合物100重量部に、スルホニウム塩系カチオン重合開始剤(「サンエイドSI−60L」三新化学社製)1.0重量部を添加し、20℃で30分間均一に混合してエポキシ樹脂組成物を調製した。
【0090】
比較例1
比較合成例1の方法で合成した脂環式ジエポキシ化合物100重量部に、スルホニウム塩系カチオン重合開始剤(「サンエイドSI−60L」三新化学社製)1.0重量部を添加し、20℃で30分間均一に混合してエポキシ樹脂組成物を調製した。
【0091】
比較例2
「エピキュア(登録商標)W」(ジャパンエポキシレジン社製)28.1重量部に、三フッ化ホウ素・ピペリジン錯体(ステラケミファ社製)1.0重量部を添加し、70℃で30分間均一に混合した。これに、「エピコート(登録商標)1750」(エポキシ当量156〜163、ジャパンエポキシレジン社製)100重量部を添加し、均一に混合してエポキシ樹脂組成物を調製した。
【0092】
比較例3
「エピキュア(登録商標)W」(ジャパンエポキシレジン社製)28.1重量部に、三フッ化ホウ素・ピペリジン錯体(ステラケミファ社製)3.0重量部を添加し、70℃で30分間均一に混合した。これに、「エピコート(登録商標)1750」(エポキシ当量156〜163、ジャパンエポキシレジン社製)100重量部を添加し、均一に混合してエポキシ樹脂組成物を調製した。
【0093】
比較例4
「エピキュア(登録商標)W」(ジャパンエポキシレジン社製)28.1重量部に、三フッ化ホウ素・ピペリジン錯体(ステラケミファ社製)5.0重量部を添加し、70℃で30分間均一に混合した。これに、「エピコート(登録商標)1750」(エポキシ当量156〜163、ジャパンエポキシレジン社製)100重量部を添加し、均一に混合してエポキシ樹脂組成物を調製した。
【0094】
比較例5
「エピキュア (登録商標)W」(ジャパンエポキシレジン社製)33.5重量部に、三フッ化ホウ素・ピペリジン錯体3.0重量部を添加し、70℃で30分間均一に混合した。これに、「エピコート(登録商標)1750」(エポキシ当量156〜163、ジャパンエポキシレジン社製)70重量部と、「エピコート(登録商標)630」(ジャパンエポキシレジン社製)30重量部を添加し、均一に混合してエポキシ樹脂組成物を調製した。
【0095】
実施例及び比較例で調製したエポキシ樹脂組成物について、物性の評価を行った。サンプルの作製、物性の評価は以下のようにして行った。結果を表1に示す。
【0096】
1.粘度測定
JIS Z 8803(1991)における、円すい−平板形回転粘度計を使用した粘度の測定方法に従い、25℃(初期及び3時間後)及び70℃(初期及び1時間後)にて、エポキシ樹脂組成物の粘度(mPa・s)を測定した。粘度計は、東機産業社製粘度計(TVE−33H型)を用いて測定した。粘度計のローターは、角度1°34’、半径24mmのものを使用した。
エポキシ樹脂組成物の室温での安定性を、以下の基準で評価した。
○:初期粘度からの変化率が10%以内である
△:初期粘度からの変化率が10%超、50%以内である
×:初期粘度からの変化率が50%超である
【0097】
2.エポキシ樹脂の樹脂硬化板の作製
セロハンフィルム(フタムラ化学製「PHT#400」)をセロハンテープで張り付けたガラス板を2枚用意し、80℃のオーブンで30分加熱し、セロハンフィルム中の水分を加熱除去し、ガラス板とセロハンを密着させる。厚さ2mmのテフロン(登録商標)製スペーサーをセロハンフィルムと密着したガラス2枚ではさみ、Wクリップで固定した。
実施例1及び比較例1のエポキシ樹脂組成物については、各エポキシ樹脂組成物をスペーサーを有する型に注入し、オーブン中で20℃から40℃まで速度1℃/分で昇温し、40℃で4時間加熱硬化した後、20℃まで速度2℃/分で冷却し、厚み2mmの樹脂硬化板を得た。
また、比較例2〜5のエポキシ樹脂組成物については、各エポキシ樹脂組成物を厚み2mmのスペーサーを有する型に注入し、オーブン中で30℃から100℃まで速度1.5℃/分で昇温し、100℃で4時間加熱硬化した後、30℃まで速度2.5℃/分で降温し、厚み2mmの樹脂硬化板を得た。
【0098】
(エポキシ樹脂組成物及び硬化物の評価)
3.ガラス転移温度の測定
上述の方法により得られた樹脂硬化板を幅12.7mm×長さ55mmに切断してガラス転移温度測定用の試料とした。Rheometric Scientific社製の粘弾性測定装置ARESにより、Rectangular Torsionモードにおいて、昇温速度5℃/min、周波数1Hzで測定を行い、貯蔵弾性率G’の変曲点からガラス転移温度を求めた。
樹脂硬化物の耐熱性を、以下の基準で評価した。
○:ガラス転移温度が150℃以上である
△:ガラス転移温度が120℃より高く150℃未満である
×:ガラス転移温度が120℃以下である
【0099】
4.吸水率の測定
上述の方法により得られた樹脂硬化板を幅10mm×長さ60mmに切断し、70℃の温水中に2日間浸漬した。樹脂硬化板の浸漬前後の重量から、以下の式により吸水率を求めた。
吸水率=(W2−W1)/W1×100
W1:70℃の温水中に浸漬する前の樹脂硬化物重量(g)
W2:70℃の温水中に2日間浸漬した後の樹脂硬化物重量(g)
樹脂硬化物の吸水性を、以下の基準で評価した。
○:吸水率が1.5%以下である
△:吸水率が1.5%超、2.0%以下である
×:吸水率が2.0%超である
【0100】
5.硬化収縮率の測定
エポキシ樹脂組成物の密度を測定し、ρ1とした。次いで、樹脂硬化物試験片の密度を水中置換法で測定し、ρ2とした。以下の式により硬化収縮率を求めた。
硬化収縮率(%)=(1−ρ2/ρ1)×100
硬化収縮性を、以下の基準で評価した。
○:硬化収縮率が2%未満である
△:硬化収縮率が2%超、4%未満である
×:硬化収縮率が4%超である
【0101】
6.総合評価
下記の基準で総合評価を行った。
○:試験項目4項目中、○が3項目以上で、×の項目がないこと
△:試験項目4項目中、○が1又は2項目で、×の項目がないこと
×:上記以外の場合
【0102】
(繊維強化複合材料の評価)
7.炭素繊維織物の製造
炭素繊維T800S−24K−10C(東レ(株)製)をタテ糸とし、ガラス繊維ECE2251/01Z (日東紡(株)製)をヨコ糸として実質的に炭素繊維が一方向に配列された平織組織の織物を作製した。タテ糸密度は7.2本/25mmとし、ヨコ糸密度は7.5本/25mmとした。織物の炭素繊維目付は190g/m2であった。
【0103】
8.繊維強化複合材料の作製
繊維強化複合材料をRTM成形法で作製した。炭素繊維の長手方向を0°とした強化繊維基材(上記織物;一方向強化繊維基材)を積層し、プリフォームを作製した。基材の積層枚数は11枚あるいは21枚とした。得られたプリフォームに、実施例及び比較例で得られたエポキシ樹脂組成物を注入含浸した後、実施例1及び比較例1のエポキシ樹脂組成物については、20℃から40℃まで速度1℃/分で昇温し、40℃で4時間加熱硬化した後、20℃まで速度2℃/分で冷却した。また、比較例2〜5のエポキシ樹脂組成物については、30℃から100℃まで速度1.5℃/分で昇温し、100℃で4時間加熱硬化した後、30℃まで速度2.5℃/分で冷却した。予備硬化品をRTM型から取り出して、150℃で2時間加熱硬化して試験体とした。
【0104】
9.複合材料の0度圧縮強度の測定
一方向強化繊維基材を11枚積層した複合材料の板から、ASTM D695に従い、幅12.7mm、長さ79.4mmの試験片を作成し、圧縮強度を測定した。圧縮強度を以下の基準で評価した。
○:0度圧縮強度が1.80GPa以上である
△:0度圧縮強度が1.70GPa以上、1.80GPa未満である
×:0度圧縮強度が1.70GPa未満である
【0105】
10.複合材料の90度引張伸度の測定
一方向強化繊維基材を21枚枚積層して得た繊維強化複合材料の板から、ASTM D3039に従い、幅25.4mm、長さ38.1mmの試験片を作成し、引張試験を行い、伸度を求めた。引張伸度を以下の基準で評価した。
○:90度引張伸度が1.0%以上である
×:90度引張伸度が1.0%未満である
【0106】
【表1】
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】合成例1で得られた脂環式ジエポキシ化合物のGC分析のチャートである。
【図2】合成例2で得られた脂環式ジエポキシ化合物のGC分析のチャートである。
【図3】比較合成例1で得られた脂環式ジエポキシ化合物のGC分析のチャートである。
【図4】合成例1において得られたビシクロヘキシル−3,3′−ジエンのGC分析のチャートである。
【図5】合成例1で得られた脂環式ジエポキシ化合物のGC−MS分析におけるガスクロマトグラム(上図)と保持時間17.73分のピークのMSスペクトル(下図)である。
【図6】合成例1で得られた脂環式ジエポキシ化合物のGC−MS分析におけるガスクロマトグラムの拡大図(上図)と保持時間17.73分のピークのMSスペクトルの拡大図(下図)である。
【図7】合成例1で得られた脂環式ジエポキシ化合物のGC−MS分析におけるガスクロマトグラム(上図)と保持時間17.91分のピークのMSスペクトル(下図)である。
【図8】合成例1で得られた脂環式ジエポキシ化合物のGC−MS分析におけるガスクロマトグラムの拡大図(上図)と保持時間17.91分のピークのMSスペクトルの拡大図(下図)である。
【図9】合成例1で得られた脂環式ジエポキシ化合物のGC−MS分析におけるガスクロマトグラム(上図)と保持時間18.13分のピークのMSスペクトル(下図)である。
【図10】合成例1で得られた脂環式ジエポキシ化合物のGC−MS分析におけるガスクロマトグラムの拡大図(上図)と保持時間18.13分のピークのMSスペクトルの拡大図(下図)である。
【図11】合成例1で得られた脂環式ジエポキシ化合物のGC−MS分析におけるガスクロマトグラム(上図)と保持時間18.48分のピークのMSスペクトル(下図)である。
【図12】合成例1で得られた脂環式ジエポキシ化合物のGC−MS分析におけるガスクロマトグラムの拡大図(上図)と保持時間18.48分のピークのMSスペクトルの拡大図(下図)である。
【図13】合成例1で得られた脂環式ジエポキシ化合物のGC−MS分析におけるガスクロマトグラム(上図)と保持時間18.69分のピークのMSスペクトル(下図)である。
【図14】合成例1で得られた脂環式ジエポキシ化合物のGC−MS分析におけるガスクロマトグラムの拡大図(上図)と保持時間18.69分のピークのMSスペクトルの拡大図(下図)である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物、該エポキシ樹脂組成物を用いた繊維強化複合材料および該繊維強化複合材料で構成されている構造物に関する。より詳細には、室温で低粘度で含浸性に優れ、低温で速やかに硬化し、かつ硬化時に体積膨脹する特徴を有する繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物と、該エポキシ樹脂組成物を用いた繊維強化複合材料および該繊維強化複合材料で構成されている構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化複合材料は、強化繊維とマトリックス樹脂とからなる複合材料であり、強化繊維とマトリックス樹脂の利点を活かした材料設計ができるため、航空宇宙分野をはじめ、スポーツ分野、一般産業分野等に広く用途が拡大されている。強化繊維としては、ガラス繊維、アラミド繊維、炭素繊維、ボロン繊維等が用いられる。マトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれも用いられるが、強化繊維への含浸が容易な熱硬化性樹脂が用いられることが多い。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、マレイミド樹脂、シアネート樹脂等が用いられるが、なかでも優れた耐熱性、弾性率、耐薬品性を有し、かつ硬化収縮が小さいエポキシ樹脂が最もよく用いられる。
【0003】
繊維強化複合材料の製造には、プリプレグ法、ハンドレイアップ法、フィラメントワイディング法、RTM(Resin Transfer Molding)法等の方法が適用される。このうち、RTM法は型内に配置した強化繊維基材に液状の熱硬化性樹脂組成物を含浸し、加熱硬化する方法であり、複雑な形状を有する繊維強化複合材料を成形できるという特長を有する。
【0004】
前記RTM法に用いられる樹脂に要求される特性としては、機械特性、耐熱性はもちろんのこと、強化繊維基材への含浸を容易にするために、低粘度であることが必要である。また、樹脂含浸時の粘度変化が大きいと、得られる繊維強化複合材料に未含浸部が生じ、所望の特性が得られないという問題が生じる。さらに、RTM法では型内で樹脂の硬化が行われるが、100℃以下の低い硬化温度において、短時間で硬化が可能であると、型の材質、副資材、熱源に安価なものを使用できるので経済性、生産性に有利である。すなわち、含浸時は低粘度で、粘度変化が小さく、かつ100℃以下の低温で速やかに硬化することが要求されている。
【0005】
特開平6−329763号公報には、低粘度で、かつ粘度変化の小さい樹脂組成物として、エポキシ樹脂、および該エポキシ樹脂のエポキシ当量から算出される化学量論量に基づいて80〜200%の量のジエチルトルエンジアミンからなるエポキシ樹脂組成物が開示されている。しかし、このエポキシ樹脂組成物は含浸性、成形物の機械特性は良好であるが、硬化には150℃以上で7時間以上の加熱が必要であり、経済性、生産性の点で不十分である。
【0006】
特開2004−285148号公報には、低粘度で、かつ粘度変化の小さい樹脂組成物として、エポキシ当量165以下のビスフェノールF型エポキシ樹脂、およびポリアミンからなるエポキシ樹脂組成物が開示されている。また、このエポキシ樹脂組成物の硬化時間を短縮させるため、任意の成分として酸型の硬化促進剤の配合が示唆されている。しかし、この文献には、硬化促進剤の具体的構成は特に開示されておらず、100℃以下の低温で硬化が可能な具体的な硬化促進剤の種類や配合量については何ら例示されていない。
【0007】
特開平7−268067号公報には、低温で硬化が可能な樹脂組成物として、エポキシ当量200以下のビスフェノールF型エポキシ樹脂、常温で液体の酸無水物系硬化剤、およびイミダゾール化合物からなるエポキシ樹脂組成物が開示されている。しかし、このエポキシ樹脂組成物は、硬化には依然として120℃の高温の加熱が必要であり、100℃程度の比較的低温での硬化性が不十分であった。
【0008】
特開2006−265434号公報には、低粘度で、100℃程度で硬化が可能な樹脂組成物として、エポキシ当量200以下のビスフェノールF型エポキシ樹脂、室温で液状の芳香族ポリアミン、ルイス酸と塩基の錯体からなるエポキシ樹脂組成物が開示されている。しかし、このエポキシ樹脂組成物は、硬化には依然として100℃の高温の加熱が必要であり、炭素繊維へ含浸させる際には70℃程度に加温しなければ、低粘度を達成できず、硬化収縮も生じるものであった。
【0009】
このように、従来、室温で低粘度で、100℃程度の加熱がなくとも容易に硬化し、硬化収縮が生じることのない、炭素繊維強化複合材料に適したエポキシ樹脂組成物は知られていなかった。
【0010】
【特許文献1】特開平6−329763号公報
【特許文献2】特開2004−285148号公報
【特許文献3】特開平7−268067号公報
【特許文献4】特開2006−265434号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、室温で低粘度であり、低温で速やかに硬化するとともに、硬化収縮が生じず、しかも耐熱性に優れた硬化物が得られる繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物と、該エポキシ樹脂組成物を用いて形成された繊維強化複合材料、及び該繊維強化複合材料で構成された構造物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、化合物の構造とその異性体比率を特定した脂環式ジエポキシ化合物と、加熱によりカチオンを発生する重合開始剤とを含有するエポキシ樹脂組成物によって、上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は、下記式(1)
【化1】
(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17及びR18は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、酸素原子若しくはハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基、又は置換基を有していてもよいアルコキシ基を示す)
で表される3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシル化合物であって、該3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシル化合物の異性体の含有量が、3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシル化合物とその異性体の総和に対して、ガスクロマトグラフィーによるピーク面積の割合として20%以下である脂環式ジエポキシ化合物と、加熱によりカチオンを発生する重合開始剤を含有することを特徴とする繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を提供する。
【0014】
本発明は、また、下記式(2)
【化2】
(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17及びR18は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、酸素原子若しくはハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基、又は置換基を有していてもよいアルコキシ基を示す)
で表されるビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物であって、該ビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物の異性体の含有量が、ビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物とその異性体の総和に対して、ガスクロマトグラフィーによるピーク面積の割合として20%未満である脂環式ジエン化合物をエポキシ化することにより得られる脂環式ジエポキシ化合物と、加熱によりカチオンを発生する重合開始剤を含有することを特徴とする繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を提供する。
【0015】
前記式(1)、式(2)中のR1〜R18はすべて水素原子であってもよい。
【0016】
前記繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物において、25℃での粘度は500mPa・s以下であるのが好ましい。また、50℃以下の温度で5時間加熱することによりガラス転移温度が90℃以上の硬化物を形成可能であるのが好ましい。
【0017】
本発明は、さらに、前記の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を用いて形成された繊維強化複合材料を提供する。
【0018】
本発明は、さらにまた、前記の繊維強化複合材料で構成されている構造物を提供する。該構造物として、航空機の胴体、主翼、尾翼、動翼、フェアリング、カウル、ドア、宇宙機のモーターケース、主翼、人工衛星の構体、自動車のシャシー、鉄道車両の構体、自転車の構体などが挙げられる。
【0019】
なお、本明細書において、エポキシ樹脂とは、1分子内に1個以上のエポキシ基を有する化合物を指し、エポキシ樹脂組成物とは、該エポキシ樹脂を含む未硬化の組成物を指し、例えばエポキシ樹脂と硬化剤、必要に応じてさらに他の添加剤を含む組成物を指す。
【発明の効果】
【0020】
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、室温で低粘度且つ安定であり、低温、例えば50℃以下の温度で速やかに硬化するとともに、耐熱性に優れ、硬化収縮しない硬化物を与える。このため、高い生産性、経済性で、優れた特性を有する繊維強化複合材料、及び該繊維強化複合材料で構成された構造物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、(I)(i)前記式(1)で表される3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシル化合物であって、該3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシル化合物の異性体の含有量が、3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシル化合物とその異性体の総和に対して、ガスクロマトグラフィーによるピーク面積の割合として20%以下である脂環式ジエポキシ化合物(以下、「脂環式ジエポキシ化合物(A)」と称する場合がある)、又は、(ii)前記式(2)で表されるビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物であって、該ビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物の異性体の含有量が、ビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物とその異性体の総和に対して、ガスクロマトグラフィーによるピーク面積の割合として20%未満である脂環式ジエン化合物をエポキシ化することにより得られる3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシル化合物(以下、「脂環式ジエポキシ化合物(A′)」と称する場合がある)と、(II)加熱によりカチオンを発生する重合開始剤とを含有する。
【0022】
[脂環式ジエポキシ化合物(A)、(A′)]
前記式(1)中、R1〜R18におけるハロゲン原子には、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素原子が含まれる。「酸素原子若しくはハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基」における炭化水素基には、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、これらが2以上結合した基が挙げられる。脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、デシル基等の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基(例えば、炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜5程度のアルキル基);ビニル、アリル基等のアルケニル基(例えば、炭素数2〜10、好ましくは炭素数2〜5程度のアルケニル基);エチニル基等のアルキニル基(例えば、炭素数2〜10、好ましくは炭素数2〜5程度のアルキニル基)などが挙げられる。脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロペンチル、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;シクロアルケニル基;橋架け環式基などが挙げられる。芳香族炭化水素基としては、フェニル、ナフチル基等が挙げられる。酸素原子を有する炭化水素基としては、例えば、前記炭化水素基の炭素鎖中に酸素原子が介在している基(例えば、メトキシメチル基、エトキシメチル基等のアルコキシアルキル基等)などが挙げられる。ハロゲン原子を有する炭化水素基としては、例えば、クロロメチル基、トリフルオロメチル基、クロロフェニル基等の前記炭化水素基の有する水素原子の1又は2以上がハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素又はヨウ素原子)により置換された基が挙げられる。「置換基を有していてもよいアルコキシ基」におけるアルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ、プロピルオキシ、イソプロピルオキシ、ブチルオキシ基等の炭素数1〜10(好ましくは炭素数1〜5)程度のアルコキシ基などが挙げられる。アルコキシ基の置換基としては、例えば、前記ハロゲン原子などが挙げられる。
【0023】
式(1)で表される3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシル化合物のなかでも、R1〜R18がすべて水素原子である3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシルが特に好ましい。
【0024】
3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシル化合物とその異性体とは、沸点等の物性が近似しているため、一般的なガスクロマトグラフィーの装置では分離できないことが多い。そのため、3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシル化合物とその異性体の定量分析は、より分離能が高いキャピラリーカラムを用いたガスクロマトグラフィーにより行うのが望ましい。3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシル化合物及びその異性体のガスクロマトグラフィーによる定量分析は下記の測定条件で行うことができる。なお、3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシル化合物とその異性体の構造は、例えば、NMR、GC−MS、GC−IR等によって確認することができる。
測定装置:HP6890(ヒューレットパッカード社製)
カラム:HP−5、長さ30m、膜厚0.25μm、内径0.32mm
液相 5%−ジフェニル−95%−ジメチルポリシロキサン
キャリアガス:窒素
キャリアガス流量:1.0ml/分
検出器:FID
注入口温度:250℃
検出器温度:300℃
昇温パターン(カラム):100℃で2分保持、5℃/分で300℃まで昇温、30 0℃で10分保持
スプリット比:100
サンプル:1μl(エポキシ化合物:アセトン=1:40)
【0025】
式(1)で表される3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシル化合物において、不純物として含まれている3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシル化合物の異性体の含有量は、3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシル化合物(主化合物)とその異性体の総和に対して、ガスクロマトグラフィーによるピーク面積の割合として20%以下であり、好ましくは18%以下、さらに好ましくは16%以下である。このような脂環式ジエポキシ化合物は、前記異性体の含有量が20%を超えるものと比較して、室温(例えば25℃)での粘度が低く含浸性に優れ、安定性が高い上、硬化反応速度が著しく速い。また、硬化後の硬化物のガラス転移温度が大幅に高くなり、耐熱性等の物性が著しく向上する。また、他の脂環式エポキシ化合物と比較して、耐水性、耐熱性、密着性、強靱性等に優れた硬化物及び繊維強化複合材料を得ることができる。
【0026】
このような脂環式ジエポキシ化合物は、例えば、前記式(2)で表されるビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物であって、該ビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物の異性体(二重結合の位置の異なる異性体)の含有量が、ビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物とその異性体の総和に対して、ガスクロマトグラフィーによるピーク面積の割合として20%未満(例えば19.5%以下、好ましくは15%以下)の脂環式ジエン化合物をエポキシ化することにより製造できる。式(2)中、R1〜R18は前記に同じである。
【0027】
ここで原料として用いられる異性体含有量の少ない式(2)で表されるビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物は、例えば、下記式(3)
【化3】
(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17及びR18は前記に同じ)
で表される4,4′−ジヒドロキシビシクロヘキシル化合物を、有機溶媒中、脱水触媒の存在下、副生する水を留去しながら脱水反応を行うことにより得られる。
【0028】
より詳細には、例えば、前記式(3)で表される4,4′−ジヒドロキシビシクロヘキシル化合物を、(i)有機溶媒中、反応条件下において液状又は反応液に溶解する脱水触媒の存在下、20Torr(2.67kPa)を超える圧力下で130〜200℃の温度に加熱し、副生する水を留去しながら脱水反応を行う工程と、(ii)前記工程(i)に続いて、反応混合液を200Torr(26.7kPa)以下の圧力下で100〜220℃の温度に加熱して、生成した式(2)で表されるビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物を留出させる工程とを経ることにより製造することができる。この方法について、以下に説明する。
【0029】
式(3)で表される化合物の代表的な例として、4,4′−ジヒドロキシビシクロヘキシル(水添ビフェノール)が挙げられる。
【0030】
前記工程(i)で使用する有機溶媒としては、反応条件下で不活性な溶媒であれば特に限定されないが、25℃において液体であって、沸点が120〜200℃程度のものが好ましい。好ましい有機溶媒の代表的な例として、例えば、キシレン、クメン、プソイドクメンなどの芳香族炭化水素;ドデカン、ウンデカンなどの脂肪族炭化水素などが挙げられる。有機溶媒として、副生水を簡易に分離除去するため、水と共沸し且つ水と分液可能な有機溶媒を用いてもよい。ケトンやエステル等の酸の存在下で反応する溶媒は沸点が上記範囲であっても好ましくない。また、アルコールは脱水反応を起こす可能性があるため好ましくない。
【0031】
有機溶媒の使用量は、操作性や反応速度等を考慮して適宜選択できるが、通常、基質である4,4′−ジヒドロキシビシクロヘキシル化合物100重量部に対して、50〜1000重量部程度であり、好ましくは80〜800重量部程度、さらに好ましくは100〜500重量部程度である。
【0032】
工程(i)で用いる脱水触媒としては、脱水活性を有し、反応条件下において液状のもの又は反応液に溶解するもの(後述する使用量で完全に溶解するもの)であれば特に限定されないが、反応溶媒に対して活性が無いか又はできるだけ低いものが好ましい。反応条件下において液状である脱水触媒は反応液中に微分散するものが好ましい。脱水触媒としては、通常、リン酸や硫酸等の無機酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸等のスルホン酸類などの酸、又はそれらの塩、特に前記酸の有機塩基による完全中和塩又は部分中和塩が使用される。脱水触媒は単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0033】
酸の有機塩基による中和塩を使用する場合、酸と有機塩基とを反応させて得られる反応混合物から中和塩(完全中和塩又は部分中和塩)を単離精製して用いることもできるが、酸と有機塩基とを反応させて得られる反応混合物(完全中和塩及び/又は部分中和塩を含んでいる)をそのまま使用することもできる。後者の場合、この反応混合物中には遊離の酸が含まれていてもよい。また、後者の場合、酸と有機塩基との混合割合は、例えば、酸1当量に対して、有機塩基が0.01〜1当量程度、好ましくは0.05〜0.5当量程度、さらに好ましくは0.1〜0.47当量程度である。特に、硫酸と有機塩基との反応混合物を使用する場合、硫酸と有機塩基との混合割合は、硫酸1モルに対して、有機塩基が好ましくは0.02〜2モル、さらに好ましくは0.1〜1.0モル、特に好ましくは0.2〜0.95モル程度である。また、酸の有機塩基による中和塩を使用する場合、酸と有機塩基とを別々に添加して、系内で中和塩を形成してもよい。
【0034】
前記有機塩基としては塩基性を示す有機化合物であればよく、例えば、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7(DBU)、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン−5(DBN)、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、ピペリジン、N−メチルピペリジン、ピロリジン、N−メチルピロリジン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン、ベンジルジメチルアミン、4−ジメチルアミノピリジン、N,N−ジメチルアニリンなどのアミン類(特に、第3級アミン類);ピリジン、コリジン、キノリン、イミダゾールなどの含窒素芳香族複素環化合物;グアニジン類;ヒドラジン類などが挙げられる。これらの中でも、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7(DBU)、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン−5(DBN)、トリエチレンジアミン、トリエチルアミン等の第3級アミン類(特に、環状アミン類)、グアニジン類、ヒドラジン類が好ましく、特に、DBU、DBN、トリエチレンジアミン、トリエチルアミンが好ましい。また、有機塩基としては、pKa11以上のものが好ましく、また沸点が150℃以上のものが好ましい。
【0035】
脱水触媒として硫酸水素カリウム等の硫酸のアルカリ金属塩を用いると、ビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物の異性体の含有量が、ビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物とその異性体の総和に対して、ガスクロマトグラフィーによる面積の割合として20%未満のものが得られない。なお、脱水触媒として硫酸水素アンモニウムを用いた場合には、ビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物の異性体の含有量が、ビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物とその異性体の総和に対して、ガスクロマトグラフィーによるピーク面積の割合として19%程度のものが得られる。
【0036】
したがって、脱水触媒としては、スルホン酸類(p−トルエンスルホン酸等)、リン酸、硫酸、スルホン酸類(p−トルエンスルホン酸等)の有機塩基による完全中和塩又は部分中和塩、リン酸の有機塩基による完全中和塩又は部分中和塩、硫酸の有機塩基による完全中和塩又は部分中和塩が好ましい。なかでも、スルホン酸類(特に、p−トルエンスルホン酸)、該スルホン酸類の有機塩基による完全中和塩又は部分中和塩、硫酸の有機塩基による完全中和塩又は部分中和塩が好ましく、特に、硫酸の有機塩基による完全中和塩又は部分中和塩(とりわけ部分中和塩)が好ましい。
【0037】
脱水触媒の使用量は、原料である式(3)で表される4,4′−ジヒドロキシビシクロヘキシル化合物1モルに対して、例えば0.001〜0.5モル、好ましくは0.001〜0.3モル、さらに好ましくは0.005〜0.2モルである。
【0038】
前記工程(i)と工程(ii)とでは圧力が異なる。工程(i)の反応液中には、未反応の4,4′−ジヒドロキシビシクロヘキシル化合物、該4,4′−ジヒドロキシビシクロヘキシル化合物におけるヒドロキシル基が結合した2つのシクロヘキサン環のうち1つのみが分子内脱水してシクロヘキセン環に変化した反応中間体、目的のビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物、副生水、脱水触媒、及び反応溶媒が共存している。この工程(i)においては副生水を留出させるが、このとき前記反応中間体を留出させることは以下の点から望ましくない。すなわち、(1)前記反応中間体は、さらに分子内脱水することにより目的化合物に変換できるため、これを留出させると目的化合物の収率の低下を招く、(2)前記反応中間体は一般に昇華性の固体であるため、蒸留塔を使用する場合には、副生水の留出経路に固体が析出することによって該留出経路が閉塞して反応器内部の圧力上昇を招き、反応容器の破裂、破損、反応液の飛散等のトラブルの原因となる。したがって、工程(i)では、前記反応中間体が留出しないように、20Torr(2.67kPa)を超える圧力下で、副生水を留去しながら脱水反応を行う。圧力は、好ましくは20Torrより高く常圧以下(2.67kPaより高く0.1MPa以下)、より好ましくは100Torrより高く常圧以下(13.3kPaより高く0.1MPa以下)、さらに好ましくは200Torrより高く常圧以下(26.7kPaより高く0.1MPa以下)であり、操作性の点からは、特に常圧が好ましい。工程(i)における温度(反応温度)は130〜200℃であり、好ましくは140〜195℃、さらに好ましくは150〜195℃である。温度が高すぎると副反応が起こり収率が低下する。また温度が低すぎると反応速度が遅くなる。反応時間は、例えば3L程度の合成スケールであれば、1〜10時間、好ましくは2〜6時間程度である。
【0039】
一方、工程(ii)では、副生水を留出させた後の反応混合液から目的のビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物を留出させる。なお、工程(i)で得られた反応混合液は、そのまま工程(ii)に供してもよいが、必要に応じて、前記反応混合液に対して抽出、水洗、液性調整等の適宜な処理を施した後に工程(ii)に供してもよい。また、反応に用いた有機溶媒の沸点が目的のビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物の沸点より低い場合には、通常、該有機溶媒を留去した後にビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物を留出させる。
【0040】
この工程(ii)では、前記反応中間体はほとんど存在しないので圧力を低くしても留出経路の閉塞等の問題は起こらず、また圧力が高いと目的化合物の留出に時間を要するため、200Torr(26.7kPa)以下の圧力で操作する。工程(ii)の圧力は、工程(i)の圧力より低くするのが好ましい。例えば、工程(i)の圧力と工程(ii)の圧力の差(前者−後者)は、例えば100Torr以上(13.3kPa以上)、好ましくは200Torr以上(26.7kPa以上)、さらに好ましくは500Torr以上(66.7kPa以上)である。工程(ii)の圧力は、好ましくは3〜200Torr(0.40〜26.7kPa)、より好ましくは3〜100Torr(0.40〜13.3kPa)、さらに好ましくは3〜20Torr(0.40〜2.67kPa)程度である。工程(ii)の温度は100〜220℃であり、好ましくは120〜180℃、さらに好ましくは130〜150℃未満程度である。温度が高すぎると副反応が起こりやすくなりビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物の回収率が低下する。また温度が低すぎると留出速度が遅くなる。
【0041】
ビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物などを留出させるため、例えば反応器等に蒸留装置を付随させる場合には、該蒸留装置として、充填塔、オールダーショウ型蒸留装置など一般に使用されている蒸留装置で還流比の取れるものであれば特に限定されることなく使用できる。
【0042】
工程(ii)で留出したビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物は、必要に応じてさらに精製することができる。精製法としては、微量の水を含む場合は比重差を利用して分離することも可能であるが、一般には蒸留による精製が好ましい。
【0043】
このような方法によれば、原料の4,4′−ジヒドロキシビシクロヘキシル化合物を有機溶媒中、反応条件下において液状又は反応液に溶解する脱水触媒の存在下、特定の反応条件で副生水を留去しつつ反応させた後、生成したビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物を特定の条件で留出させるので、比較的低い温度で且つ比較的短時間で反応を行うことができ、異性化等の副反応を抑制できるとともに、反応中間体の留出によるロス・昇華による閉塞等を防止できるため、不純物含量の少ない高純度のビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物を簡易に且つ高い収率で効率よく得ることができる。すなわち、式(2)で表されるビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物の異性体の含有量が、ビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物とその異性体の総和に対して、ガスクロマトグラフィーによるピーク面積の割合として20%未満(例えば19.5%以下、好ましくは15%以下)の脂環式ジエン化合物を得ることができる。
【0044】
なお、従来の方法、例えば、特開2000−169399号公報に記載の方法では、長い反応時間を必要とするので、異性化等の副反応により望ましくない副生物が多量に生成する。副生した異性体は沸点や溶媒溶解性等の物性が目的化合物と近似しているので、一旦生成すると分離が極めて困難となる。このような副生物を多量に含む環状オレフィン化合物を、エポキシ化して硬化性樹脂として使用すると、硬化の際に反応性が低い上、耐熱性等の物性に優れる硬化物が得られない。なお、ビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物とその異性体とは、沸点等の物性が極めて近似しているため、一般的なガスクロマトグラフィーの装置では分離できず、これまでの文献ではビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物の収率及び純度が高めに記載されている。ビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物とその異性体の分析は、分離能が高いキャピラリーカラムを用いたガスクロマトグラフィーにより行うのが望ましい。
【0045】
ビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物及びその異性体のガスクロマトグラフィーによる定量分析は下記の測定条件で行うことができる。なお、ビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物とその異性体の構造は、例えば、NMR、GC−MS、GC−IR等によって確認することができる。
測定装置:HP6890(ヒューレットパッカード社製)
カラム:HP−5、長さ60m、内径0.32mm
液相 5%−ジフェニル−95%−ジメチルポリシロキサン
キャリアガス:窒素
キャリアガス流量:2.6ml/分
検出器:FID
注入口温度:250℃
検出器温度:250℃
昇温パターン(カラム):60℃で5分保持、10℃/分で300℃まで昇温
スプリット比:100
サンプル:1μl
【0046】
ビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物のエポキシ化法は特に制限はなく、例えば、酸化剤(エポキシ化剤)として有機過カルボン酸を用いる方法、t−ブチルハイドロパーオキシド等のハイドロパーオキシドとモリブデン化合物等の金属化合物とを用いる方法等の何れであってもよいが、安全性、経済性、収率等の観点から有機過カルボン酸を用いる方法が好ましい。以下、この方法について説明する。
【0047】
有機過カルボン酸としては、例えば、過ギ酸、過酢酸、過安息香酸、過イソ酪酸、トリフルオロ過酢酸などを使用できる。有機過カルボン酸のうち、特に過酢酸は、反応性が高く、しかも安定度が高いことから好ましいエポキシ化剤である。なかでも、実質的に水分を含まない、具体的には、水分含有量0.8重量%以下、好ましくは0.6重量%以下の有機過カルボン酸を使用することが高いエポキシ化率を有する化合物が得られるという点で好ましい。実質的に水分を含まない有機過カルボン酸は、アルデヒド類、例えば、アセトアルデヒドの空気酸化により製造されるものであり、例えば、過酢酸についてはドイツ公開特許公報1418465号や特開昭54−3006に記載された方法により製造される。この方法によれば、過酸化水素から有機過カルボン酸を合成し、溶媒により抽出して有機過カルボン酸を製造する場合に比べて、連続して大量に高濃度の有機過カルボン酸を合成できるために、実質的に安価に得ることができる。
【0048】
エポキシ化剤の量には厳密な制限がなく、それぞれの場合における最適量は、使用する個々のエポキシ化剤やビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物の反応性等によって決まる。エポキシ化剤の量は、例えば、不飽和基1モルに対して、1.0〜3.0モル、好ましくは1.05〜1.5モル程度である。経済性及び副反応の問題から、3.0倍モルを超えることは通常不利である。
【0049】
エポキシ化反応は、装置や原料物性に応じて溶媒使用の有無や反応温度を調節して行う。溶媒としては、原料粘度の低下、エポキシ化剤の希釈による安定化などの目的で使用することができ、過酢酸の場合であればエステル類、芳香族化合物、エーテル類などを用いることができる。特に好ましい溶媒は、酢酸エチル、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、ベンゼン等であり、とりわけ、酢酸エチルが好ましい。反応温度は用いるエポキシ化剤とビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物の反応性によって定まる。例えば、過酢酸を使用する場合の反応温度は20〜70℃が好ましい。20℃未満では反応が遅く、70℃を超える温度では過酢酸が発熱を伴って分解するので、好ましくない。
【0050】
反応で得られた粗液の特別な操作は必要なく、例えば粗液を1〜5時間撹拌し、熟成させればよい。得られた粗液からのエポキシ化合物の単離は適当な方法、例えば貧溶媒で沈殿させる方法、エポキシ化合物を熱水中に撹拌下で投入し溶媒を蒸留除去する方法、直接脱溶媒する方法、蒸留精製により単離する方法などにより行うことができる。
【0051】
このようにして、式(1)で表される3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシル化合物の異性体の含有量(異性体比率)が、式(1)で表される3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシル化合物とその異性体の総和に対して、ガスクロマトグラフィーによるピーク面積の割合として20%以下(好ましくは18%以下、さらに好ましくは16%以下)である脂環式ジエポキシ化合物を得ることができる。
【0052】
[他のエポキシ化合物]
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、前記脂環式ジエポキシ化合物(A)又は(A′)とともに、他のエポキシ化合物を含んでいてもよい。他のエポキシ化合物としては、特に限定されないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量が200よりも大きいビスフェノールF型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂等が挙げられ、これらの変性物を使用することもできる。この中で、高いガラス転移温度と弾性率をもつ硬化物を得るためには、3官能以上の芳香族エポキシ樹脂の配合が有効である。
【0053】
好ましい3官能以上の芳香族エポキシ樹脂としては、例えば、N,N,N′,N′−テトラグリシジル−4,4′−ジアミノジフェニルメタン、N,N,O−トリグリシジル−m−アミノフェノール、N,N,O−トリグリシジル−p−アミノフェノール等が挙げられる。
【0054】
N,N,N′,N′−テトラグリシジル−4,4′−ジアミノジフェニルメタンの市販品としては、住友化学工業社製の「スミエポキシ(登録商標)ELM434」、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製の「アラルダイト (登録商標)MY−720」、「アラルダイト (登録商標)MY−721」等がある。
【0055】
N,N,O−トリグリシジル−m−アミノフェノールの市販品としては、住友化学工業社製の「スミエポキシ(登録商標)ELM120」、また、N,N,O−トリグリシジル−p−アミノフェノールの市販品としては、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製の「アラルダイト(登録商標)MY0500」、「アラルダイト(登録商標)MY0510」、ジャパンエポキシレジン社製の「エピコート(登録商標)630」等がある。
【0056】
脂環式ジエポキシ化合物(A)又は(A′)以外のエポキシ化合物は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物には、室温で固体のエポキシ化合物を含んでもよいが、繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物としては室温(例えば25℃)で液体であることが好ましい。
【0057】
脂環式ジエポキシ化合物(A)又は(A′)以外のエポキシ化合物の使用量は、例えば、全エポキシ化合物100重量%に対して、50重量%未満(例えば、0.1重量%以上50重量%未満)、好ましくは0〜30重量%(例えば、1〜30重量%)、さらに好ましくは0〜10重量%(例えば、2〜10重量%)である。エポキシ化合物として、実質的に脂環式ジエポキシ化合物(A)[又は(A′)]のみを用いてもよい。
【0058】
[加熱によりカチオンを発生する重合開始剤]
加熱によりカチオンを発生する重合開始剤(熱カチオン重合開始剤)は、加熱によりカチオン重合を開始させる物質を放出する物質である。このような重合開始剤の好ましい例として下記の化合物が挙げられる。
【0059】
【化4】
【0060】
式(4)中、R19は水素原子、アセチル基またはメトキシカルボニル基を示す。R20とR21は、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子またはC1〜C4のアルキル基を示す。R22は水素原子、メチル基、メトキシ基またはハロゲン原子を示す。R23はC1〜C4のアルキル基を示す。X-はSbF6-、AsF6-、PF6-又はBF4-を示す。
【0061】
【化5】
【0062】
式(5)中、R24は水素原子、アセチル基、メトキシカルボニル基、メチル基、エトキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基、ベンゾイル基、フェノキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、9−フルオレニルメトキシカルボニル基またはp−メトキシベンジルカルボニル基を示す。R25とR26は、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子またはC1〜C4のアルキル基を示す。R27とR28は、それぞれ、水素原子、メチル基、メトキシ基またはハロゲン原子を示す。X-は上記と同じ意味を示す。
【0063】
【化6】
【0064】
式(6)中、R29はエトキシ基、フェニル基、フェノキシ基、ベンジルオキシ基、クロルメチル基、ジクロルメチル基、トリクロルメチル基またはトリフルオロメチル基を示す。R30とR31は、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子またはC1〜C4のアルキル基を示す。R32は水素原子、メチル基、メトキシ基またはハロゲン原子を示す。R33はC1〜C4のアルキル基を示す。X-は上記と同じ意味を示す。
【0065】
【化7】
【0066】
式(7)中、R34は水素原子、アセチル基、メトキシカルボニル基、メチル基、エトキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基、ベンゾイル基、フェノキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、9−フルオレニルメトキシカルボニル基またはp−メトキシベンジルカルボニル基を示す。R35とR36は、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子またはC1〜C4のアルキル基を示す。R37とR38は、それぞれ、メチル基又はエチル基を示す。X-は上記と同じ意味を示す。
【0067】
また、カチオン重合開始剤として、例えば、アリールジアゾニウム塩[例えば、PP−33(旭電化工業社製)]、アリールヨードニウム塩、アリールスルホニウム塩[例えば、FC−509(3M社製)、UVE1014(G.E.社製)、CP−66、CP−77など(旭電化工業社製)]、SI−60L、SI−80L、SI−100L、SI−110L(三新化学工業社製)、アレン−イオン錯体[例えば、CG−24−61(チバガイギー社製)]などを用いることができる。
【0068】
さらに、硬化剤として、アルミニウム又はチタンなどの金属とアセト酢酸エステル又はジケトン類のキレート化合物と、シラノール又はフェノール類との系も用いることができる。前記キレート化合物としては、アルミニウムアセチルアセトナートなどが挙げられる。前記シラノールまたはフェノール類としては、トリフェニルシラノールやビスフェノールS等が挙げられる。
【0069】
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、25℃における粘度が1000mPa・s以下(例えば1〜1000mPa・s)、特に500mPa・s以下(例えば1〜500mPa・s)であるのが好ましい。25℃における初期粘度がこの範囲内であると、強化繊維への含浸性に優れ、特に強化繊維含有率の高い、機械特性に優れた繊維強化複合材料が得られる。また、25℃で1時間保持した時の粘度(さらには、25℃で3時間保持したときの粘度)が500mPa・s以下(例えば1〜500mPa・s、好ましくは5〜200mPa・s、特に好ましくは10〜100mPa・s)であると、大型の繊維強化複合材料の成形が可能である。
【0070】
ここでいう粘度とは、JIS Z8803(1991)における、円すい−平板型回転粘度計を使用した粘度の測定により求められる粘度のことである。JIS Z8803(1991)における、円すい−平板型回転粘度計を使用した粘度の測定には、例えば、東機産業社製粘度計(TVE−33H型)等を用いることができる。また、初期粘度とは測定を開始してから30秒経過した後の粘度を指す。
【0071】
樹脂硬化物の耐熱性は、繊維強化複合材料の耐熱性と正の相関があるため、高耐熱性の繊維強化複合材料を得るためには、高耐熱性の樹脂硬化物を用いることが重要である。ガラス転移温度は、雰囲気の温度がガラス転移温度を上回ると、樹脂硬化物、ひいては繊維強化複合材料の機械強度が大きく低下することから、耐熱性の指標としてよく用いられる。
【0072】
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物としては、50℃以下の温度(例えば50℃)で5時間硬化して得られる硬化物のガラス転移温度が90℃以上(特に130℃以上、とりわけ145℃以上)であるのが好ましい。
【0073】
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、必要に応じて、界面活性剤、内部離型剤、色素、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの適宜な添加剤を含んでいてもよい。
【0074】
[繊維強化複合材料]
本発明の繊維強化複合材料は、前記繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を用いて形成されたものであり、該繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物の硬化物と強化繊維とからなる。
【0075】
本発明の繊維強化複合材料の製造方法としては、ハンドレイアップ法、プリプレグ法、RTM法、プルトルージョン法、フィラメントワインディング法、スプレーアップ法などの公知の方法がいずれも好ましく適用できる。好ましい製造法の一つであるRTM法とは、型内に設置した強化繊維基材に液状の熱硬化性樹脂を注入し、硬化して繊維強化複合材を得る方法である。強化繊維基材としては、強化繊維からなる織物、ニット、マット、ブレイドなどをそのまま用いてもよく、これらの基材を積層、賦形し、結着剤やステッチなどの手段で形態を固定したプリフォームを用いてもよい。
【0076】
型は、剛体からなるクローズドモールドを用いてもよく、剛体の片面型と可撓性のフィルム(バッグ)を用いる方法も可能である。後者の場合、強化繊維基材は剛体片面型と可撓性フィルムの間に設置する。剛体の型材としては、例えば金属(鉄、スチール、アルミニウムなど)、FRP、木材、石膏など既存の各種のものが用いられる。可撓性のフィルムとしては、ナイロン、フッ素樹脂、シリコーン樹脂などのフィルムが用いられる。剛体のクローズドモールドを用いる場合は、加圧して型締めし、液状エポキシ樹脂組成物を加圧して注入することが通常行われる。このとき、注入口とは別に吸引口を設け、真空ポンプに接続して吸引することも可能である。吸引を行い、かつ、特別な加圧手段を用いず、大気圧のみで液状エポキシ樹脂を注入することも可能である。
【0077】
剛体の片面型と可撓性フィルムを用いる場合は、通常、吸引と大気圧による注入を用いる。大気圧による注入で、良好な含浸を実現するためには、米国特許第4902215号公報に示されるような、樹脂拡散媒体を用いることが有効である。また、型内には、強化繊維基材以外にフォームコア、ハニカムコア、金属部品などを設置し、これらと一体化した複合材を得ることも可能である。特にフォームコアの両面に炭素繊維基材を配置して成型して得られるサンドイッチ構造体は、軽量で大きな曲げ剛性を持つので、例えば自動車や航空機などの外板材料として有用である。さらに、強化繊維基材の設置に先立って、剛体型の表面に後述のゲルコートを塗布することも好ましく行われる。
【0078】
樹脂注入が終了した後、適切な加熱手段を用いて加熱硬化を行い、脱型する。脱型後にさらに高温で後硬化を行うことも可能である。
【0079】
本発明の繊維強化複合材料は、RTM法以外にもフィラメントワインディング法や、プルトルージョン法などの液状エポキシ樹脂組成物を用いる公知の繊維強化複合材料の製造法により製造することができる。
【0080】
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を用いることで、軽量、高強度、高剛性で耐熱性に優れた繊維強化複合材料を経済的に製造することができる。
【0081】
本発明の繊維強化複合材料は、航空機の胴体、主翼、尾翼、動翼、フェアリング、カウル、ドアなど、宇宙機のモーターケース、主翼など、人工衛星の構体、自動車のシャシー、鉄道車両の構体、自転車の構体などの構造物に好適に用いることができる。
【実施例】
【0082】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0083】
[分析法]
(1)ビシクロヘキシル−3,3′−ジエン及びその異性体のガスクロマトグラフィー(GC分析)
測定装置:HP6890(ヒューレットパッカード社製)
カラム:HP−5、長さ60m、内径0.32mm
液相 5%−ジフェニル−95%−ジメチルポリシロキサン
キャリアガス:窒素
キャリアガス流量:2.6ml/分
検出器:FID
注入口温度:250℃
検出器温度:250℃
昇温パターン(カラム):60℃で5分保持、10℃/分で300℃まで昇温
スプリット比:100
サンプル:1μl
ビシクロヘキシル−3,3′−ジエンとその異性体との比は次のようにして求めた。すなわち、上記条件でGC分析を行い、保持時間20.97分付近に出る最大ピーク(ビシクロヘキシル−3,3′−ジエン)の面積と、その直前に現れる20.91分付近のピーク(異性体)の面積に基づいて、ビシクロヘキシル−3,3′−ジエンに対する異性体の含有比を求めた。すなわち、異性体比率(%)は、異性体面積÷(異性体面積+ビシクロヘキシル−3,3′−ジエン面積)×100で算出される。
【0084】
(2)3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシル及びその異性体のガスクロマトグラフィー(GC分析)
測定装置:HP6890(ヒューレットパッカード社製)
カラム:HP−5、長さ30m、膜厚0.25μm、内径0.32mm
液相 5%−ジフェニル−95%−ジメチルポリシロキサン
キャリアガス:窒素
キャリアガス流量:1.0ml/分
検出器:FID
注入口温度:250℃
検出器温度:300℃
昇温パターン(カラム):100℃で2分保持、5℃/分で300℃まで昇温、30 0℃で10分保持
スプリット比:100
サンプル:1μl(エポキシ化合物:アセトン=1:40)
3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシルとその異性体との比は次のようにして求めた。すなわち、上記条件でGC分析を行い、保持時間19.8分から20.0分付近に出る最大ピーク2本[3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシル(2本のピークは立体異性体の存在による)]の合計面積と、その直前に現れる19.1分から19.5分付近のピーク3本(異性体)の合計面積に基づいて、3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシルに対する異性体の含有比を求めた。すなわち、異性体比率(%)は、異性体合計面積÷(異性体合計面積+3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシル合計面積)×100で算出される。
【0085】
(3)3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシル及びその異性体のGC−MS分析
測定装置:ヒューレットパッカード社製、HP6890(GC部)、5973(MS 部)
カラム:HP−5MS、長さ30m、膜厚0.25μm、内径0.25mm
液相 5%−ジフェニル−95%−ジメチルポリシロキサン
昇温パターン(カラム):100℃で2分保持、5℃/分で300℃まで昇温、30 0℃で18分保持
注入口温度:250℃
MSDトランスファーライン温度:280℃
キャリアガス:ヘリウム
キャリアガス流量:0.7ml/分(コンスタントフロー)
スプリット比:スプリットレス
サンプル注入量:1.0μl
測定モード:EI
イオン源温度:230℃
四重極温度:106℃
MS範囲:m/z=25〜400
サンプル調製:サンプル0.1gをアセトン3.0gに溶解
合成例1で得られた脂環式ジエポキシ化合物をGC−MS分析に付した。その結果(ガスクロマトグラムと各成分のMSスペクトル)を図5〜14に示す。保持時間17.73分、17.91分、18.13分のピークが3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシルの異性体のピークであり、18.48分、18.69分のピークが3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシルのピークである。上記GC分析の場合と分析条件が若干異なるので各ピークの保持時間は異なるが、出現する順序は同じである。図5はガスクロマトグラムと保持時間17.73分のピークのMSスペクトルであり、図6はその拡大図である。図7はガスクロマトグラムと保持時間17.91分のピークのMSスペクトルであり、図8はその拡大図である。図9はガスクロマトグラムと保持時間18.13分のピークのMSスペクトルであり、図10はその拡大図である。図11はガスクロマトグラムと保持時間18.48分のピークのMSスペクトルであり、図12はその拡大図である。図13はガスクロマトグラムと保持時間18.69分のピークのMSスペクトルであり、図14はその拡大図である。MSスペクトルによれば、上記何れの成分もm/z=194の分子イオンピークを有している。
【0086】
合成例1(異性体比率9%)
95重量%硫酸70g(0.68モル)と1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7(DBU)55g(0.36モル)を撹拌混合して脱水触媒を調製した。
撹拌機、温度計、および脱水管を備え且つ保温された留出配管を具備した3リットルのフラスコに、下記式(3a)
【化8】
で表される水添ビフェノール(=4,4′−ジヒドロキシビシクロヘキシル)1000g(5.05モル)、上記で調製した脱水触媒125g(硫酸として0.68モル)、プソイドクメン1500gを入れ、フラスコを加熱した。内温が115℃を超えたあたりから水の生成が確認された。さらに昇温を続けてプソイドクメンの沸点まで温度を上げ(内温162〜170℃)、常圧で脱水反応を行った。副生した水は留出させ、脱水管により系外に排出した。なお、脱水触媒は反応条件下において液体であり反応液中に微分散していた。3時間経過後、ほぼ理論量の水(180g)が留出したため反応終了とした。反応終了液を10段のオールダーショウ型の蒸留塔を用い、プソイドクメンを留去した後、内部圧力10Torr(1.33kPa)、内温137〜140℃にて蒸留し、731gのビシクロヘキシル−3,3′−ジエンを得た。GC分析の結果、得られたビシクロヘキシル−3,3′−ジエン中にはその異性体が含まれており(GC−MS分析により確認)、下記式(2a)
【化9】
で表されるビシクロヘキシル−3,3′−ジエンとその異性体の含有比は91:9であった(図4参照)。
得られたビシクロヘキシル−3,3′−ジエン(異性体を含む)243g、酢酸エチル730gを反応器に仕込み、窒素を気相部に吹き込みながら、かつ、反応系内の温度を37.5℃になるようにコントロールしながら約3時間かけて30重量%過酢酸の酢酸エチル溶液(水分率0.41重量%)274gを滴下した。過酢酸溶液滴下終了後、40℃で1時間熟成し反応を終了した。さらに30℃で反応終了時の粗液を水洗し、70℃/20mmHgで低沸点化合物の除去を行い、脂環式エポキシ化合物270gを得た。このときの収率は93%であった。粘度(25℃)を測定したところ、84mPa・sであった。得られた脂環式エポキシ化合物のオキシラン酸素濃度は15.0重量%であった。また1H−NMRの測定では、δ4.5〜5ppm付近の内部二重結合に由来するピークが消失し、δ3.1ppm付近にエポキシ基に由来するプロトンのピークの生成が確認され、下記式(1a)
【化10】
で表される3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシルであることが確認された。GC分析の結果、得られた脂環式エポキシ化合物中には3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシルとその異性体が含まれており、異性体比率は9%であった(図1参照)。なお、異性体比率は次式により算出した。
異性体比率=(2262+1715+5702)÷(2262+1715+5702 +28514+74587)×100=9%
【0087】
合成例2(異性体17%)
撹拌機、20段のオールダーショウ型蒸留塔、温度計を備えている5リットルのフラスコに、水添ビフェノール1000g(5.05モル)、硫酸水素アンモニウム40g(0.265モル)、クメン2800gを入れ、フラスコを加熱した。内温が115℃を超えたあたりから水の生成が確認された。さらに昇温を続け、蒸留塔の塔頂より副生水を留出させながら反応を続けてクメンの沸点まで温度を上げ(内温165〜170℃)、常圧で脱水反応を行った。なお、硫酸水素アンモニウムは反応条件下において固体であり、大部分が反応液に溶解していなかった。6時間半経過後、理論量の94%の水(170.9g)が留出したため反応終了とした。反応終了後、系内を減圧にしてクメンを留去した後、10Torr(1.33kPa)まで減圧し、内温137〜141℃にて蒸留し、590gのビシクロヘキシル−3,3′−ジエンを得た。GC分析の結果、得られたビシクロヘキシル−3,3′−ジエン中には異性体が含まれており、ビシクロヘキシル−3,3′−ジエンと異性体の含有比は81:19であった。
得られたビシクロヘキシル−3,3′−ジエン(異性体を含む)243g、酢酸エチル730gを反応器に仕込み、窒素を気相部に吹き込みながら、かつ、反応系内の温度を37.5℃になるようにコントロールしながら約3時間かけて30重量%過酢酸の酢酸エチル溶液(水分率0.41重量%)274gを滴下した。過酢酸溶液滴下終了後、40℃で1時間熟成し反応を終了した。さらに30℃で反応終了時の粗液を水洗し、70℃/20mmHgで低沸点化合物の除去を行い、脂環式エポキシ化合物269gを得た。このときの収率は92%であった。粘度(25℃)を測定したところ、69mPa・sであった。得られた脂環式エポキシ化合物のオキシラン酸素濃度は14.9重量%であった。また1H−NMRの測定では、δ4.5〜5ppm付近の内部二重結合に由来するピークが消失し、δ3.1ppm付近にエポキシ基に由来するプロトンのピークの生成が確認され、3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシルであることが確認された。GC分析の結果、得られた脂環式エポキシ化合物には3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシルとその異性体が含まれており、異性体比率は17%であった(図2参照)。異性体比率は次式により算出した。
異性体比率=(3668+2724+9033)÷(3668+2724+9033 +20413+53424)×100=17%
【0088】
比較合成例1
撹拌機、20段の蒸留塔、温度計を備えている10リットルの四つ口フラスコに、水添ビフェノール6kgと硫酸水素カリウム620gを加えた。続いて、フラスコを180℃に加熱し、水添ビフェノールを融解後、撹拌を開始した。蒸留塔の塔頂より副生水を留出させながら反応を続け、3時間経過後、反応系内を10Torr(1.33kPa)に減圧し、水とビシクロヘキシル−3,3′−ジエンを蒸留塔の最上段より連続的に系外に留出させた。系外に留去させた水とビシクロヘキシル-3,3′−ジエンはデカンターで二層に分離させ、上層液のみを取り出した。その後、4時間かけて反応温度を220℃まで上げ、水とビシクロヘキシル−3,3′−ジエンの留去が無くなった時点で反応終了とした。ビシクロヘキシル−3,3′−ジエンの留出粗液の収量は4507gであった。上記ビシクロヘキシル−3,3′−ジエンの留出粗液4500gを撹拌機、20段の蒸留塔、温度計を備えている5リットルの四つ口フラスコに入れ、オイルバスで180℃に昇温した。その後、反応系内を10Torr(1.33kPa)に減圧し、水を留去してから蒸留塔の最上段の温度を145℃に維持し、還流比1で5時間かけてビシクロヘキシル−3,3′−ジエンを蒸留精製し、無色透明の液体を得た。収量は4353gであった。前記液体についてGC分析を行った結果、得られたビシクロヘキシル−3,3′−ジエン中には異性体が含まれており、ビシクロヘキシル−3,3′−ジエンと異性体の含有比は80:20であった。
得られたビシクロヘキシル−3,3′−ジエン(異性体を含む)406g、酢酸エチル1217gを反応器に仕込み、窒素を気相部に流しながら、かつ、反応系内の温度を37.5℃になるようにコントロールしながら約3時間かけて30重量%過酢酸の酢酸エチル溶液(水分率0.41重量%)1523gを滴下した。過酢酸溶液滴下終了後、40℃で1時間熟成し反応を終了した。続いて反応器を30℃まで冷却し、反応粗液を水洗した。その後、70℃/20mmHgで反応粗液から低沸点成分を除去し、脂環式エポキシ化合物415gを得た。このときの収率は92%であった。E型粘度計を用いて粘度(25℃)を測定したところ、72mPa・sであった。得られた脂環式エポキシ化合物のオキシラン酸素濃度は15.1重量%であった。また、得られた脂環式エポキシ化合物を1H−NMRを用いて分析したところ、δ4.5〜5ppm付近の内部二重結合に由来するピークが消失し、δ2.9〜3.1ppm付近にエポキシ基に由来するプロトンのピークの生成が確認され、3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシルであることが確認された。GC分析の結果、得られた脂環式エポキシ化合物には3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシルとその異性体が含まれており、異性体比率は21%であった(図3参照)。異性体比率は次式により算出した。
異性体比率=(5404+3923+13067)÷(5404+3923+130 67+23563+60859)×100=21%
【0089】
実施例1
合成例2の方法で合成した脂環式ジエポキシ化合物100重量部に、スルホニウム塩系カチオン重合開始剤(「サンエイドSI−60L」三新化学社製)1.0重量部を添加し、20℃で30分間均一に混合してエポキシ樹脂組成物を調製した。
【0090】
比較例1
比較合成例1の方法で合成した脂環式ジエポキシ化合物100重量部に、スルホニウム塩系カチオン重合開始剤(「サンエイドSI−60L」三新化学社製)1.0重量部を添加し、20℃で30分間均一に混合してエポキシ樹脂組成物を調製した。
【0091】
比較例2
「エピキュア(登録商標)W」(ジャパンエポキシレジン社製)28.1重量部に、三フッ化ホウ素・ピペリジン錯体(ステラケミファ社製)1.0重量部を添加し、70℃で30分間均一に混合した。これに、「エピコート(登録商標)1750」(エポキシ当量156〜163、ジャパンエポキシレジン社製)100重量部を添加し、均一に混合してエポキシ樹脂組成物を調製した。
【0092】
比較例3
「エピキュア(登録商標)W」(ジャパンエポキシレジン社製)28.1重量部に、三フッ化ホウ素・ピペリジン錯体(ステラケミファ社製)3.0重量部を添加し、70℃で30分間均一に混合した。これに、「エピコート(登録商標)1750」(エポキシ当量156〜163、ジャパンエポキシレジン社製)100重量部を添加し、均一に混合してエポキシ樹脂組成物を調製した。
【0093】
比較例4
「エピキュア(登録商標)W」(ジャパンエポキシレジン社製)28.1重量部に、三フッ化ホウ素・ピペリジン錯体(ステラケミファ社製)5.0重量部を添加し、70℃で30分間均一に混合した。これに、「エピコート(登録商標)1750」(エポキシ当量156〜163、ジャパンエポキシレジン社製)100重量部を添加し、均一に混合してエポキシ樹脂組成物を調製した。
【0094】
比較例5
「エピキュア (登録商標)W」(ジャパンエポキシレジン社製)33.5重量部に、三フッ化ホウ素・ピペリジン錯体3.0重量部を添加し、70℃で30分間均一に混合した。これに、「エピコート(登録商標)1750」(エポキシ当量156〜163、ジャパンエポキシレジン社製)70重量部と、「エピコート(登録商標)630」(ジャパンエポキシレジン社製)30重量部を添加し、均一に混合してエポキシ樹脂組成物を調製した。
【0095】
実施例及び比較例で調製したエポキシ樹脂組成物について、物性の評価を行った。サンプルの作製、物性の評価は以下のようにして行った。結果を表1に示す。
【0096】
1.粘度測定
JIS Z 8803(1991)における、円すい−平板形回転粘度計を使用した粘度の測定方法に従い、25℃(初期及び3時間後)及び70℃(初期及び1時間後)にて、エポキシ樹脂組成物の粘度(mPa・s)を測定した。粘度計は、東機産業社製粘度計(TVE−33H型)を用いて測定した。粘度計のローターは、角度1°34’、半径24mmのものを使用した。
エポキシ樹脂組成物の室温での安定性を、以下の基準で評価した。
○:初期粘度からの変化率が10%以内である
△:初期粘度からの変化率が10%超、50%以内である
×:初期粘度からの変化率が50%超である
【0097】
2.エポキシ樹脂の樹脂硬化板の作製
セロハンフィルム(フタムラ化学製「PHT#400」)をセロハンテープで張り付けたガラス板を2枚用意し、80℃のオーブンで30分加熱し、セロハンフィルム中の水分を加熱除去し、ガラス板とセロハンを密着させる。厚さ2mmのテフロン(登録商標)製スペーサーをセロハンフィルムと密着したガラス2枚ではさみ、Wクリップで固定した。
実施例1及び比較例1のエポキシ樹脂組成物については、各エポキシ樹脂組成物をスペーサーを有する型に注入し、オーブン中で20℃から40℃まで速度1℃/分で昇温し、40℃で4時間加熱硬化した後、20℃まで速度2℃/分で冷却し、厚み2mmの樹脂硬化板を得た。
また、比較例2〜5のエポキシ樹脂組成物については、各エポキシ樹脂組成物を厚み2mmのスペーサーを有する型に注入し、オーブン中で30℃から100℃まで速度1.5℃/分で昇温し、100℃で4時間加熱硬化した後、30℃まで速度2.5℃/分で降温し、厚み2mmの樹脂硬化板を得た。
【0098】
(エポキシ樹脂組成物及び硬化物の評価)
3.ガラス転移温度の測定
上述の方法により得られた樹脂硬化板を幅12.7mm×長さ55mmに切断してガラス転移温度測定用の試料とした。Rheometric Scientific社製の粘弾性測定装置ARESにより、Rectangular Torsionモードにおいて、昇温速度5℃/min、周波数1Hzで測定を行い、貯蔵弾性率G’の変曲点からガラス転移温度を求めた。
樹脂硬化物の耐熱性を、以下の基準で評価した。
○:ガラス転移温度が150℃以上である
△:ガラス転移温度が120℃より高く150℃未満である
×:ガラス転移温度が120℃以下である
【0099】
4.吸水率の測定
上述の方法により得られた樹脂硬化板を幅10mm×長さ60mmに切断し、70℃の温水中に2日間浸漬した。樹脂硬化板の浸漬前後の重量から、以下の式により吸水率を求めた。
吸水率=(W2−W1)/W1×100
W1:70℃の温水中に浸漬する前の樹脂硬化物重量(g)
W2:70℃の温水中に2日間浸漬した後の樹脂硬化物重量(g)
樹脂硬化物の吸水性を、以下の基準で評価した。
○:吸水率が1.5%以下である
△:吸水率が1.5%超、2.0%以下である
×:吸水率が2.0%超である
【0100】
5.硬化収縮率の測定
エポキシ樹脂組成物の密度を測定し、ρ1とした。次いで、樹脂硬化物試験片の密度を水中置換法で測定し、ρ2とした。以下の式により硬化収縮率を求めた。
硬化収縮率(%)=(1−ρ2/ρ1)×100
硬化収縮性を、以下の基準で評価した。
○:硬化収縮率が2%未満である
△:硬化収縮率が2%超、4%未満である
×:硬化収縮率が4%超である
【0101】
6.総合評価
下記の基準で総合評価を行った。
○:試験項目4項目中、○が3項目以上で、×の項目がないこと
△:試験項目4項目中、○が1又は2項目で、×の項目がないこと
×:上記以外の場合
【0102】
(繊維強化複合材料の評価)
7.炭素繊維織物の製造
炭素繊維T800S−24K−10C(東レ(株)製)をタテ糸とし、ガラス繊維ECE2251/01Z (日東紡(株)製)をヨコ糸として実質的に炭素繊維が一方向に配列された平織組織の織物を作製した。タテ糸密度は7.2本/25mmとし、ヨコ糸密度は7.5本/25mmとした。織物の炭素繊維目付は190g/m2であった。
【0103】
8.繊維強化複合材料の作製
繊維強化複合材料をRTM成形法で作製した。炭素繊維の長手方向を0°とした強化繊維基材(上記織物;一方向強化繊維基材)を積層し、プリフォームを作製した。基材の積層枚数は11枚あるいは21枚とした。得られたプリフォームに、実施例及び比較例で得られたエポキシ樹脂組成物を注入含浸した後、実施例1及び比較例1のエポキシ樹脂組成物については、20℃から40℃まで速度1℃/分で昇温し、40℃で4時間加熱硬化した後、20℃まで速度2℃/分で冷却した。また、比較例2〜5のエポキシ樹脂組成物については、30℃から100℃まで速度1.5℃/分で昇温し、100℃で4時間加熱硬化した後、30℃まで速度2.5℃/分で冷却した。予備硬化品をRTM型から取り出して、150℃で2時間加熱硬化して試験体とした。
【0104】
9.複合材料の0度圧縮強度の測定
一方向強化繊維基材を11枚積層した複合材料の板から、ASTM D695に従い、幅12.7mm、長さ79.4mmの試験片を作成し、圧縮強度を測定した。圧縮強度を以下の基準で評価した。
○:0度圧縮強度が1.80GPa以上である
△:0度圧縮強度が1.70GPa以上、1.80GPa未満である
×:0度圧縮強度が1.70GPa未満である
【0105】
10.複合材料の90度引張伸度の測定
一方向強化繊維基材を21枚枚積層して得た繊維強化複合材料の板から、ASTM D3039に従い、幅25.4mm、長さ38.1mmの試験片を作成し、引張試験を行い、伸度を求めた。引張伸度を以下の基準で評価した。
○:90度引張伸度が1.0%以上である
×:90度引張伸度が1.0%未満である
【0106】
【表1】
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】合成例1で得られた脂環式ジエポキシ化合物のGC分析のチャートである。
【図2】合成例2で得られた脂環式ジエポキシ化合物のGC分析のチャートである。
【図3】比較合成例1で得られた脂環式ジエポキシ化合物のGC分析のチャートである。
【図4】合成例1において得られたビシクロヘキシル−3,3′−ジエンのGC分析のチャートである。
【図5】合成例1で得られた脂環式ジエポキシ化合物のGC−MS分析におけるガスクロマトグラム(上図)と保持時間17.73分のピークのMSスペクトル(下図)である。
【図6】合成例1で得られた脂環式ジエポキシ化合物のGC−MS分析におけるガスクロマトグラムの拡大図(上図)と保持時間17.73分のピークのMSスペクトルの拡大図(下図)である。
【図7】合成例1で得られた脂環式ジエポキシ化合物のGC−MS分析におけるガスクロマトグラム(上図)と保持時間17.91分のピークのMSスペクトル(下図)である。
【図8】合成例1で得られた脂環式ジエポキシ化合物のGC−MS分析におけるガスクロマトグラムの拡大図(上図)と保持時間17.91分のピークのMSスペクトルの拡大図(下図)である。
【図9】合成例1で得られた脂環式ジエポキシ化合物のGC−MS分析におけるガスクロマトグラム(上図)と保持時間18.13分のピークのMSスペクトル(下図)である。
【図10】合成例1で得られた脂環式ジエポキシ化合物のGC−MS分析におけるガスクロマトグラムの拡大図(上図)と保持時間18.13分のピークのMSスペクトルの拡大図(下図)である。
【図11】合成例1で得られた脂環式ジエポキシ化合物のGC−MS分析におけるガスクロマトグラム(上図)と保持時間18.48分のピークのMSスペクトル(下図)である。
【図12】合成例1で得られた脂環式ジエポキシ化合物のGC−MS分析におけるガスクロマトグラムの拡大図(上図)と保持時間18.48分のピークのMSスペクトルの拡大図(下図)である。
【図13】合成例1で得られた脂環式ジエポキシ化合物のGC−MS分析におけるガスクロマトグラム(上図)と保持時間18.69分のピークのMSスペクトル(下図)である。
【図14】合成例1で得られた脂環式ジエポキシ化合物のGC−MS分析におけるガスクロマトグラムの拡大図(上図)と保持時間18.69分のピークのMSスペクトルの拡大図(下図)である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】
(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17及びR18は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、酸素原子若しくはハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基、又は置換基を有していてもよいアルコキシ基を示す)
で表される3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシル化合物であって、該3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシル化合物の異性体の含有量が、3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシル化合物とその異性体の総和に対して、ガスクロマトグラフィーによるピーク面積の割合として20%以下である脂環式ジエポキシ化合物と、加熱によりカチオンを発生する重合開始剤を含有することを特徴とする繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
下記式(2)
【化2】
(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17及びR18は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、酸素原子若しくはハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基、又は置換基を有していてもよいアルコキシ基を示す)
で表されるビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物であって、該ビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物の異性体の含有量が、ビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物とその異性体の総和に対して、ガスクロマトグラフィーによるピーク面積の割合として20%未満である脂環式ジエン化合物をエポキシ化することにより得られる脂環式ジエポキシ化合物と、加熱によりカチオンを発生する重合開始剤を含有することを特徴とする繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
式(1)中のR1〜R18がすべて水素原子である請求項1記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
式(2)中のR1〜R18がすべて水素原子である請求項2記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
25℃での粘度が500mPa・s以下である請求項1〜4の何れかの項に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
50℃以下の温度で5時間加熱することによりガラス転移温度が90℃以上の硬化物を形成可能な請求項1〜5の何れかの項に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかの項に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を用いて形成された繊維強化複合材料。
【請求項8】
請求項7記載の繊維強化複合材料で構成されている構造物。
【請求項9】
航空機の胴体、主翼、尾翼、動翼、フェアリング、カウル、ドア、宇宙機のモーターケース、主翼、人工衛星の構体、自動車のシャシー、鉄道車両の構体、及び自転車の構体から選択された何れかである請求項8記載の構造物。
【請求項1】
下記式(1)
【化1】
(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17及びR18は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、酸素原子若しくはハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基、又は置換基を有していてもよいアルコキシ基を示す)
で表される3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシル化合物であって、該3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシル化合物の異性体の含有量が、3,4,3′,4′−ジエポキシビシクロヘキシル化合物とその異性体の総和に対して、ガスクロマトグラフィーによるピーク面積の割合として20%以下である脂環式ジエポキシ化合物と、加熱によりカチオンを発生する重合開始剤を含有することを特徴とする繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
下記式(2)
【化2】
(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17及びR18は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、酸素原子若しくはハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基、又は置換基を有していてもよいアルコキシ基を示す)
で表されるビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物であって、該ビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物の異性体の含有量が、ビシクロヘキシル−3,3′−ジエン化合物とその異性体の総和に対して、ガスクロマトグラフィーによるピーク面積の割合として20%未満である脂環式ジエン化合物をエポキシ化することにより得られる脂環式ジエポキシ化合物と、加熱によりカチオンを発生する重合開始剤を含有することを特徴とする繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
式(1)中のR1〜R18がすべて水素原子である請求項1記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
式(2)中のR1〜R18がすべて水素原子である請求項2記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
25℃での粘度が500mPa・s以下である請求項1〜4の何れかの項に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
50℃以下の温度で5時間加熱することによりガラス転移温度が90℃以上の硬化物を形成可能な請求項1〜5の何れかの項に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかの項に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を用いて形成された繊維強化複合材料。
【請求項8】
請求項7記載の繊維強化複合材料で構成されている構造物。
【請求項9】
航空機の胴体、主翼、尾翼、動翼、フェアリング、カウル、ドア、宇宙機のモーターケース、主翼、人工衛星の構体、自動車のシャシー、鉄道車両の構体、及び自転車の構体から選択された何れかである請求項8記載の構造物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2008−214448(P2008−214448A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−52375(P2007−52375)
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】
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