説明

置換金めっき液及び接合部の形成方法

【課題】ニッケル層、パラジウム層、金層を順次積層してなる接合部を形成する際に、均一な膜厚を実現できる置換金めっき液及びめっき処理技術を提供する。
【解決手段】導電性金属からなる導体層上に、ニッケル層、パラジウム層、金層を順次積層してなる接合部を形成するための置換金めっき液であって、置換金めっき液は、シアン化金塩、錯化剤、銅化合物を含有するものであり、置換金めっき液中の錯化剤と銅化合物とのモル比が錯化剤/銅イオン=1.0〜500の範囲であり、錯化剤と銅化合物とから形成される化合物のpH4〜6における安定度定数が8.5以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、置換金めっき液に関し、特に、半田やワイヤボンディングなどによる接合を行うために、電子部品や半導体部品などの接合部を形成する置換金めっき処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部品若しくは半導体部品として、印刷回路基板やパッケージなど様々なものが存在する。いわゆるパッケージとしては、リードフレーム、BGA(ボール グリッド アレー)、LGA(ランド グリッド アレイ パッケージ)、QFP(クオード フラット パッケージ)、ミニモールド パッケージなどが挙げられる。このようなパッケージは、高密度実装の要求から小型化、多ピン化に日々改良され、その要求特性はますます厳しくなる傾向である。
【0003】
このような電子部品や半導体部品においては、従来より、その接合材料として半田やワイヤボンディングが用いられており、パッケージをプリント配線板などの印刷回路基板に実装する際に不可欠な接合技術として確立している。
【0004】
この電子部品等の実装技術に関しては、ワイヤボンディングや半田などで接合する場合、配線回路やランド、端子などを構成する導電性金属表面に接合部が形成される。例えば、銅などの導電性金属表面に、ニッケルめっき、パラジウムめっき、金めっきによる処理を行い、ニッケル層、パラジウム層、金層を順次積層してなる接合部を形成する技術が知られている(特許文献1参照)。このような接合部は、導電性金属の表面に、無電解ニッケル液を用いてニッケル層を形成し、そして、無電解パラジウム液を用いてパラジウム層を形成し、さらに、無電解金めっき液を用いて金層が形成される。
【0005】
この金層を形成する無電解金めっき液として、例えば、シアン化金化合物と、アルカンスルホン酸、ピリジンスルホン酸、オキシカルボン酸などのカルボン酸と、リン酸塩とを含む置換金めっき液が提案されている(特許文献2参照)。また、シアン化金塩、分子内に窒素原子を3個以上有するπ電子過剰芳香族ヘテロ環化合物、及び、亜硫酸及び亜リン酸並びにそれらの塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種の緩衝剤を含有する置換型無電解めっき液も知られている(特許文献3参照)。
【0006】
これらの置換金めっき液は、下地金属との置換反応によって金を析出するものであり、下地金属の適当な置換反応ができない場合、均一な金めっき処理が実現できない場合がある。特許文献2の置換金めっき液では、下地の銅やニッケル素材を過剰に腐食しないように、均一な金めっき処理が実現できる。また、特許文献3の置換金めっき液で、下地のニッケルめっき被膜における粒界部の局部腐食を抑制して金めっき処理ができる。しかし、特許文献2や特許文献3の置換金めっき液は、下地金属との置換反応が抑制される傾向があるため、十分な膜厚の金めっきが得られない場合がある。
【0007】
さらに、ニッケル層、パラジウム層、金層を順次積層してなる接合部は、例えば、大小様々な面積のパッド表面に形成する場合、金層の膜厚に大きなバラツキが生じることが指摘されている。最近の印刷回路基板を例にすると、接合部を形成するためのパッドとして、一辺の長さが0.1mm〜3mmの矩形状の大小様々なパッドを備えたものがあり、このような基板のパッド表面に、接合部を形成すると、そのめっき面積の違いにより、各パッドに形成された金層の膜厚にかなりのバラツキが生じてしまう。また、面積の大きなパッドには、置換金めっきによるめっき被膜が薄くなる傾向があるため、基板上のすべてのパッドにおいて、実用的な接合特性を確保するため、面積の大きなパッドに形成される接合部の金層を厚くすることが行われる。この場合、面積の小さなパッドには、必要以上の膜厚の金めっきの被膜が形成されることになり、製造コストの増加につながることも指摘されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−8438号公報
【特許文献2】特開2004−190093号公報
【特許文献3】特許3948737号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述した事情を背景になされたものであり、電子部品等の実装技術として、プリント配線板などの印刷回路基板に設けられる接合部、具体的には、ニッケル層、パラジウム層、金層を順次積層してなる接合部を形成する際に、均一な膜厚を実現できる置換金めっき処理技術を提供するものであり、接合部を形成する部分が大小様々な面積のパッドを有する基板であっても、各パッドに形成した接合部の金層膜厚のバラツキが抑制でき、均一な厚みの金めっきの被膜を実現できる置換金めっき処理技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく、ニッケル層、パラジウム層、金層を順次積層してなる接合部について、鋭意検討を行った結果、パラジウム層上に置換金めっき処理を行う際に、置換金めっき液に銅化合物を添加することで、形成される置換金めっきの被膜が均一になる現象を見出し、本発明を想到するに至った。
【0011】
本発明は、導電性金属からなる導体層上に、ニッケル層、パラジウム層、金層を順次積層してなる接合部を形成するための置換金めっき液であり、シアン化金塩、錯化剤、銅化合物を含有し、置換金めっき液中の錯化剤と銅化合物とのモル比が錯化剤/銅イオン=1.0〜500の範囲であり、錯化剤と銅化合物とから形成される化合物のpH4〜6における安定度定数が8.5以上であることを特徴とする。
【0012】
置換金めっき処理は下地金属との置換反応により金が析出するものであるが、本発明者の検討によると、本発明における接合部では、パラジウム層の下地にあるニッケルが置換反応に寄与しており、パラジウム層を形成するパラジウムめっき被膜の状態により、ニッケルとの置換反応の進行程度が変化することを突き止めた。特に、パラジウム層の膜厚が0.5μm以下になると、パラジウムめっき被膜が、いわゆるポーラスな状態(ニッケル層の全面を完全に被覆してはなく、部分的にニッケル層が露出した)になりやすい傾向があることも見出した。つまり、接合部を形成するパラジウム層の被覆状態により、置換金めっき処理における置換反応にバラツキが生じるため、均一な金めっき被膜の形成が難しいものと推測した。そこで、シアン化金塩と錯化剤とを含む置換金めっき液に銅化合物を添加した置換金めっき液を用いて、置換金めっき処理をしたところ、均一な厚みの金めっき被膜が形成できた。置換金めっき液に添加された銅化合物は、ニッケルとの置換反応を均一に進行させるものと考えられ、パラジウム層の下地であるニッケル層が多く露出した部分では、添加された銅化合物がその置換反応を促進する作用と、銅化合物が錯化剤との化合物形成による過剰析出の促進を抑制する作用とにより、均一な金めっき被膜が形成できるものと考えられる。
【0013】
錯化剤と銅化合物とのモル比が錯化剤/銅イオン=1.0〜500の範囲であると、液中の銅イオンが、金とニッケルとの置換反応を効果的にコントロールできるようになる。このモル比が1.0未満であると、膜厚のバラツキが大きくなる傾向となり、500を超えると、特性としては問題ないが必要以上の薬品を添加するため製造コストの増加につながる。そして、銅はイオン化傾向がニッケルよりも低いので金と共析するおそれがあり、金との共析を抑制するために、錯化剤と銅化合物とから形成される化合物の、pH4〜6における安定度定数が8.5以上であることを要する。また、置換金めっき液に添加する銅化合物は、銅換算量で2〜200ppmの範囲が好ましく、より好ましくは5〜100ppmの範囲である。この銅換算量が2ppm未満であると、形成される金めっき皮膜の厚みのバラツキは抑制される傾向にあるものの、金の析出速度が大幅に低下し、製造工程におけるリードタイムが長くなってしまい製造コストの増加につながる。一方、200ppmを超えると、金の析出が速く金めっき皮膜の厚みにバラツキが生じやすい傾向が強くなり、さらに必要以上の薬品を添加するため製造コストの増加につながる。
【0014】
本発明の置換金めっき液における錯化剤としては、エチレンジアミン四酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、プロパンジアミン四酢酸、1,3−ジアミノ-2-ヒドロキシプロパン四酢酸、シクロヘキサンジアミン四酢酸、エチレンジアミン二コハク酸、または、これらのナトリウム塩、カリウム塩またはアンモニウム塩、からなる群から選ばれた少なくとも1種以上であることが好ましい。これらの錯化剤は、pH4〜6において、錯化剤と銅化合物とから形成される化合物の安定度定数が8.5以上であり、均一な金めっき被膜を形成しやすい。
【0015】
錯化剤と銅化合物とから形成される化合物のpH4〜6における安定度定数は、エチレンジアミン四酢酸において10.4〜14.2、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸において10.1〜13.4、ジエチレントリアミン五酢酸において9.4〜13.9、プロパンジアミン四酢酸において9.0〜13.0、1,3−ジアミノ-2-ヒドロキシプロパン四酢酸において8.7〜12.7、シクロヘキサンジアミン四酢酸において11.4〜15.2、エチレンジアミン二コハク酸において10.0〜13.7が挙げられる。なお、pH4〜6における錯化剤の銅化合物とから形成される化合物の安定度定数は、簡易的には、一般的に知られている錯化剤の安定度定数に、錯化剤の酸解離定数とpH値を用いて計算した濃度分率を乗じることにより算出することができる。このような安定度定数である化合物を、錯化剤と銅化合物とから形成する場合には、均一な金めっき被膜を安定して形成する。
錯化剤の種類によっては、pH4〜6での安定度定数が8.5未満のものもあるが、このような8.5未満の安定度定数の錯化剤を用いると、形成される金めっき被膜の厚みにバラツキが生じやすい傾向が強くなる。
【0016】
本発明の置換金めっき液における銅化合物は、シアン化銅、硫酸銅、硝酸銅、塩化銅、臭化銅、シアン化銅カリウム、チオシアン酸銅、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム銅四水和物、ピロリン酸銅、シュウ酸銅からなる群から選ばれた少なくとも1種以上であることが好ましい。これらの銅化合物は銅イオンを供給する水溶性の銅化合物である。
【0017】
本発明の置換金めっき液において、シアン化金塩として、シアン化第一金カリウム、シアン化第二金カリウムを用いることができる。特に好ましくは、シアン化第一金カリウムである。シアン化金塩の濃度としては、金の金属換算で0.5〜10g/Lの範囲が好ましく、1〜5g/Lがより好ましい。金濃度が0.5g/L未満であるとめっきの進行が遅くなり、10g/Lを超えると製造コストの増加になり、実用的でない。また、本発明の置換金めっき液には、公知のpH調整剤、緩衝剤などを添加することも可能である。
【0018】
本発明の置換金めっき液は、置換金めっき液の液温が70〜95℃、pH4〜6として、置換金めっき処理することが好ましい。液温が70℃未満であると、めっきの進行が遅くなり、95℃を超えると、生産ラインでの実現が難しくなる。また、pHが、pH4未満になると、水溶性金塩が不安定になり、pH6を超えるとめっきの進行が遅くなる。
【0019】
そして、本発明は、導電性金属からなる導体層上に、ニッケル層、パラジウム層、金層を順次積層してなる接合部を形成する方法において、金層は、シアン化金塩と錯化剤とを含み、銅化合物が添加された、上記本発明に係る置換金めっき液を用いて、該置換金めっき処理により形成する形成方法に関する。
【0020】
本発明の接合部の形成方法によれば、接合部を形成する部分が大小様々な面積のパッドを有するような基板であっても、各パッドに形成した接合部の金層膜厚のバラツキを抑制でき、均一な厚みの金めっきの被膜が形成できる。パッドの面積が異なると、各パッドにおけるパラジウム層の被覆状態にバラツキが生じるが、本発明であれば、大小様々な面積のパッドに対しても、均一な厚みの金めっきの被膜が形成できる。そのため、必要以上の膜厚の金めっきの被膜を形成することが回避でき、製造コストの抑制を図ることができる。
【0021】
本発明の接合部の形成方法では、パラジウム層を0.05μm〜0.5μmとし、金層を0.05μm〜0.2μmとすることが好ましい。パラジウム層が0.05μm未満であると、ニッケル層表面の酸化を防止する効果が不十分となり、銅の拡散、ニッケルの酸化及び拡散などが生じて、ワイヤボンディングや鉛フリーはんだ接合特性が低下するおそれがある。一方、0.5μmを超えると、半田接合を行なった際に良好な金属間化合物が得られず、接合特性の低下の原因となる。また、金層が0.05μm未満であると、ワイヤボンディング時に金ワイヤーとの良好な金―金接合が実現できず接合特性が低下する。金層の上限値は経済的な理由によって制限され、通常は0.2μmまでとするのが好ましい。
【0022】
本発明の置換金めっき液により形成した金層の純度は99質量%以上であることが好ましい。99質量%未満であれば、接合の信頼性が低下する場合もあることから、金層の純度は99質量%以上であることが好ましい。
【0023】
本発明の接合部の形成方法では、ニッケル層はその組成に特に制限はないが、ニッケル−リン合金、ニッケル−ホウ素合金なども適用できる。ニッケル層としてニッケル−リン合金を採用する場合は、3〜10重量%のリンを含有することが好ましい。また、ニッケル層を形成する方法についても特に制限はない。このニッケル層の形成は公知の手法を採用できる。ニッケル層の形成方法としては、例えば無電解ニッケルめっきによることができる。このニッケル層の膜厚は、0.1〜20μmであることが好ましく、0.1μm未満では、下地金属の拡散抑制効果が低くなり接合の信頼性が向上せず、20μmを超えても、下地金属の拡散抑制効果がそれ以上に向上せず、経済的でないので好ましくない。
【0024】
パラジウム層についてもその組成に特に制限はないが、純パラジウム、パラジウム−リン合金などが適用できる。パラジウム層としてパラジウム−リン合金を採用する場合、7重量%以下のリンを含有していることが好ましい。また、パラジウム層の形成は公知の手法を採用できる。パラジウム層の形成方法としては、例えば、無電解パラジウムめっきによることができる。
【0025】
本発明に係る接合部の形成方法において、接合部を形成する導電性金属には特に制限はなく、銅や銅合金、タングステン、モリブテン、アルミニウム等に適用できる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、プリント配線板などの印刷回路基板に設けられる、ニッケル層、パラジウム層、金層を順次積層してなる接合部を形成する際に、均一な膜厚の置換金めっき処理が可能となる。また、接合部を形成する部分が大小様々な面積のパッドを有する基板であっても、各パッドに形成した接合部の金層膜厚のバラツキが抑制でき、均一な厚みの金めっきの被膜を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】Pd膜厚と電流値との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に、本発明の実施形態について説明する。
【0029】
第一実施形態:本実施形態では、錯化剤としてエチレンジアミン四酢酸2ナトリウム、銅化合物として硫酸銅を用い、銅化合物の添加効果を確認した結果について説明する。この第一実施形態では、種々の面積を有したパッドを複数形成した評価基板に、ニッケル層、パラジウム層を形成し、置換金めっき処理を行って、各パッドにおける金めっきの厚みを測定して、評価を行った。置換金めっき液の組成は、以下のとおりである。
【0030】
シアン化第一金カリウム 2.9g/L(金換算で2g/L)
エチレンジアミン四酢酸2ナトリウム 30g/L
硫酸銅 銅換算で0〜500ppm
クエン酸 25g/L
水酸化カリウム(pH調整剤) 適宜
pH 4〜6
液温 85 ℃
【0031】
銅化合物量は、銅換算濃度で5ppm(実施例1)、20ppm(実施例2)、50ppm(実施例3)、80ppm(実施例4)、100ppm(実施例5)の各置換金めっき液と、比較としての銅換算濃度0ppm(比較例1、銅化合物の無添加の代わりにタリウムを5ppm添加)、銅換算濃度で500ppm(比較例2)の置換金めっき液について評価した。
【0032】
評価基板は、市販の銅張積層板の不要な銅をエッチング除去後、ソルダーレジストを用いて回路を形成した基板を用いた。そして、この評価基板には、一辺が0.1mm〜3.0mmの正方形状のパッドが複数設けられている。この評価基板に、以下に示す無電解ニッケルめっき液、無電解パラジウムめっき液を用いて、各パッド表面にニッケル層、パラジウム層を順次積層したものを準備した。
【0033】
無電解ニッケルめっき液:
硫酸ニッケル 21g/L
ホスフィン酸ナトリウム 25g/L
乳酸 27g/L
プロピオン酸 2.2g/L
鉛イオン 1ppm
液pH pH4.6
めっき液温 85℃
めっき時間 18分
目標膜厚 6μm
【0034】
無電解パラジウムめっき液:
塩化パラジウム 2g/L
エチレンジアミン 7g/L
ホスフィン酸ナトリウム 5g/L
液pH pH7
めっき液温 50℃
めっき時間 8分
目標膜厚 0.1μm
【0035】
準備した評価基板について、各置換金めっき液(実施例1〜5、比較例1、2)を用いて、目標金めっき厚み0.15μm(めっき時間 20分)の置換金めっき処理をした。そして、正方形状の各パッドにおける置換金めっきの厚みを蛍光X線測定装置(SFT−9550:エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)社製)により測定した。厚みを測定したパッドは、パッド同士が独立(導通されていない)したもので一辺が0.4mm(No.1)、0.8mm(No.2)、3.0mm(No.3)と、パッド同士が回路により導通されているもので一辺が0.4mm(No.4)、0.8mm(No.5)、3.0mm(No.6)との6個所について行った。No.1〜6の各パッドの測定値から、平均膜厚値と、被膜厚みの均一性を示す変動係数CV(Coefficient of variation)値(%)を算出した。その結果を表1に示す。尚、表1の最左欄の数値は、測定した各パッドのNo.であり、各測定値の単位はμmである。
【0036】
【表1】

【0037】
表1の結果より、銅化合物を添加していない比較例1では、CV値が27.3%と非常にバラツキがあったが、実施例1〜5では、CV値が15%以下となり、各パッドの金めっき被膜の膜厚均一性が向上していることが判明した。また、比較例2の結果より、あまり多くの銅化合物を添加すると、膜厚均一性が悪くなる傾向が認められた。
【0038】
ここで、評価基板に形成するパラジウム層の厚みとその被覆状態の関係を調査した結果について説明する。調査方法は、厚み0.3mm、5cm×7cmの銅板上に、厚み6μmのニッケルめっき被覆をし、そのニッケル表面に、各厚みのパラジウムめっき被膜を形成した陽極を作製し、この陽極板とPt/Ti電極を陰極にして、1%クエン酸溶液に両極板を対向して浸漬し、一定の電圧を負荷し、10min後の電流値を測定した。ニッケルめっき被膜、パラジウムめっき被膜を形成した各めっき液は上記したものと同様である。また、パラジウムめっき被膜の厚みのコントロールは、めっき時間を制御することにより行った。パラジウム(Pd)の膜厚は、0.2μm〜3.0μmを目標厚みとしてめっき時間を調整した。1%クエン酸溶液に浸漬し、一定の電圧を負荷し、10min後の電流値を測定した結果を、図1に示す。図1の横軸に示すPd膜厚は、めっき時間により算出された目標めっき厚み値である。
【0039】
図1に示すように、パラジウムの厚みが0.5μm以下になると、電流値が急激に上昇してくることが確認された。この現象は、パラジウムめっき皮膜が0.5μm以下の薄いものになると、いわゆるポーラスな状態が多くなる、つまり、部分的にニッケル層が露出した部分が多く存在していることと相関しており、パラジウム層の下層に設けられたニッケルの溶出量に比例したものである。そして、このニッケルの溶出により、金とニッケルとの置換反応が進行し、パラジウム層上に金層が形成されると考えられる。そのため、パラジウムの厚みが0.5μmを超えると、ニッケルの十分な溶出が得られず、所定の膜厚の金層を形成することが難しくなる傾向となる。
【0040】
第二実施形態:本実施形態では、錯化剤としてエチレンジアミン四酢酸2ナトリウム、銅化合物として硫酸銅を用いた場合において、そのモル比について調査した結果について説明する。
【0041】
置換金めっき液の組成としては、上記実施例3(銅換算量で50ppm)を基準として、エチレンジアミン四酢酸2ナトリウムの添加量を変えて、そのモル比を調整した。錯化剤/銅イオンのモル比として、モル比1(実施例6)、モル比10(実施例7)、モル比50(実施例8)、モル比100(実施例9)、モル比200(実施例10)、モル比500(実施例11)の各置換金めっき液と、比較としてモル比0(比較例3)、モル比0.95(比較例4)の置換金めっき液について、その金めっきの厚みの均一性の評価を行った。モル比以外の条件である、評価基板、ニッケル層、パラジウム層、膜厚測定などの条件は、上記第一実施形態と同じである。各置換金めっき液によって形成した金めっきの厚み測定の結果を表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
表2に示すように、モル比1未満であると、CV値が15%を超え、金めっき被膜の膜厚にバラツキがあったが、モル比が1〜500では、CV値が15%以下となり、各パッドの金めっき被膜の膜厚均一性が向上していることが判明した。尚、モル比500を超えると、溶解度の点からめっき液の作製が困難となった。
【0044】
第三実施形態:本実施形態では、銅化合物として硫酸銅を用いた場合において、錯化剤と銅化合物とから形成される化合物の安定度定数が異なる錯化剤ついて調査した結果について説明する。
【0045】
置換金めっき液の組成としては、上記実施例3(銅換算量で50ppm)を基準とし、錯化剤と銅化合物とから形成される化合物の安定度定数がpH4〜6において8.5以上である錯化剤として、エチレンジアミン四酢酸2ナトリウム(錯化剤B、実施例12)、ジエチレントリアミン五酢酸(錯化剤A、実施例13、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(錯化剤C、実施例14)の各置換金めっき液と、比較として、pH4〜6における化合物の安定度定数が8.5未満の錯化剤として、ニトリロ三酢酸(錯化剤X、比較例5)、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸(錯化剤Y、比較例6)、ジヒドロキシエチルグリシン(錯化剤Z、比較例7)の各置換金めっき液について評価した。また、各置換金めっき液の錯化剤/銅イオンのモル比は100とした。評価基板、ニッケル層、パラジウム層、膜厚測定などの条件は、上記第一実施形態と同じである。各置換金めっき液によって形成した金めっきの厚み測定の結果を表3に示す。尚、表3には、各錯化剤と銅化合物とから形成される化合物の所定pHにおける安定度定数を示している。
【0046】
【表3】

【0047】
表3に示すように、pH4〜6での安定度定数が8.5未満であると、CV値が20%を超え、金めっき被膜の膜厚にかなりのバラツキがあった。これに対して、錯化剤と銅化合物とから形成される化合物の安定度定数がpH4〜6で8.5以上であると、CV値が15%以下となり、各パッドの金めっき被膜の膜厚均一性が向上していることが判明した。
【0048】
第四実施形態:本実施形態では、錯化剤としてエチレンジアミン四酢酸2ナトリウムを用い、各種の銅化合物を用いた場合の結果について説明する。
【0049】
置換金めっき液の組成としては、上記実施例3(銅換算量で50ppm)を基準とし、銅化合物として硫酸銅(銅化合物ア、実施例15)、塩化銅(銅化合物エ、実施例16)、シアン化銅(銅化合物イ、実施例17)、エチレンジアミン四酢酸2ナトリウム銅四水和物(銅化合物カ、実施例18)の各置換金めっき液について評価した。評価基板、ニッケル層、パラジウム層、膜厚測定などの条件は、上記第一実施形態と同じである。各置換金めっき液によって形成した金めっきの厚み測定の結果を表4に示す。
【0050】
【表4】

【0051】
表4に示すように、各種の銅化合物を用いた場合において、CV値は15%以下となり、各パッドの金めっき被膜の膜厚の均一性が高いことが判明した。
【0052】
第五実施形態:本実施形態では、本実施形態では、各種の錯化剤と、各種の銅化合物とを組み合わせて用いた場合の結果について説明する。
【0053】
置換金めっき液の組成としては、上記実施例3(銅換算量で50ppm)を基準とし、表5に示すような、各種の錯化剤と各種の銅化合物とを組み合わせ、そのモル比を1〜500まで変化させた各置換金めっき液について評価を行った。評価基板、ニッケル層、パラジウム層、膜厚測定などの条件は、上記第一実施形態と同じである。各置換金めっき液によって形成した金めっきの厚み測定の結果を表5に示す。尚、表5には、各錯化剤と銅化合物とから形成される化合物の所定pHにおける安定度定数を示している。
【0054】
【表5】

【0055】
表5に示すように、各組み合わせの置換金めっき液において、CV値は15%以下となり、各パッドの金めっき被膜の膜厚の均一性が高いことが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、電子部品や半導体部品などの実装プロセスにおける、半田接合やワイヤボンディング接合を行う際の、良好な接合特性を実現できる接合部を印刷回路基板やパッケージなどに効率的に形成することを可能とする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性金属からなる導体層上に、ニッケル層、パラジウム層、金層を順次積層してなる接合部を形成するための置換金めっき液であって、
置換金めっき液は、シアン化金塩、錯化剤、銅化合物を含有するものであり、
置換金めっき液中の錯化剤と銅化合物とのモル比が錯化剤/銅イオン=1.0〜500の範囲であり、
錯化剤と銅化合物とから形成される化合物のpH4〜6における安定度定数が8.5以上であることを特徴とする置換金めっき液。
【請求項2】
錯化剤が、エチレンジアミン四酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、プロパンジアミン四酢酸、1,3−ジアミノ-2-ヒドロキシプロパン四酢酸、シクロヘキサンジアミン四酢酸、エチレンジアミン二コハク酸、または、これらのナトリウム塩、カリウム塩またはアンモニウム塩、からなる群から選ばれた少なくとも1種以上である請求項1に記載の置換金めっき液。
【請求項3】
銅化合物が、シアン化銅、硫酸銅、硝酸銅、塩化銅、臭化銅、シアン化銅カリウム、チオシアン酸銅、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム銅四水和物、ピロリン酸銅、シュウ酸銅からなる群から選ばれた少なくとも1種以上である請求項1または請求項2に記載の置換金めっき液。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載の置換金めっき液を用いた置換金めっき方法であって、
置換金めっき液の液温が70〜95℃、pH4〜6であることを特徴とする置換金めっき方法。
【請求項5】
導電性金属からなる導体層上に、ニッケル層、パラジウム層、金層を順次積層してなる接合部を形成する方法において、
金層は、シアン化金塩と錯化剤とを含み、銅化合物が添加された請求項1〜3いずれかに記載の置換金めっき液を用いて、該置換金めっき処理により形成することを特徴とする接合部の形成方法。
【請求項6】
パラジウム層は0.05μm〜0.5μmであり、金層が0.05μm〜0.2μmである請求項5に記載の接合部の形成方法。
【請求項7】
金層は純度99質量%以上である請求項5または請求項6に記載の接合部の形成方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−46792(P2012−46792A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−190195(P2010−190195)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(000228165)日本エレクトロプレイテイング・エンジニヤース株式会社 (29)
【Fターム(参考)】