説明

翼、気流発生装置、熱交換装置、マイクロマシンおよびガス処理装置

【課題】放電プラズマによる気流誘起現象により高温下や含塵環境下においても安定して気流を発生させることができ、空気力学的特性の制御などを行うことが可能な翼、気流発生装置、熱交換装置、マイクロマシンおよびガス処理装置を提供する。
【解決手段】実施形態の翼は、固体からなる誘電体41を介して配置された電極42、43との間に電圧を印加して放電させることにより気流を発生させる気流発生ユニットを翼面の所定の位置に備える。誘電体41が、ブロック状の誘電体ブロックで構成され、一方の電極42が、誘電体ブロックの一方の表面から露出して設けられ、他方の電極43が、一方の電極42から誘電体ブロックの表面と水平な方向にずらして一方の電極42と離間され、かつ誘電体ブロックに埋設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電プラズマの作用により気流を発生させる翼、気流発生装置、熱交換装置、マイクロマシンおよびガス処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
対向金属電極の間に生成させた放電プラズマの作用により気流が誘起される現象は、イオン風と呼ばれ、その原理と応用については電気集塵機の分野等で従来から研究されている(例えば、非特許文献1参照。)。しかしながら、従来用いられているイオン風の発生方法は、金属平板電極に対し、金属針電極または金属線状電極を用いるものであり、放電を発生させる環境によっては放電が不安定になる。例えば、高温ガス中や含塵ガス中においては、放電がアークに移行して過剰な電力が投入されたり、気流誘起効率が低下したり、さらには発熱により機器を損傷する危険もあるため、アークが生成した場合には電圧の印加を停止する必要があった。そのため、イオン風の効果は限定されたものとなり、その適用用途は広がっていない。
【0003】
一方、例えば、翼などの物体表面における空気力学的特性の制御方法として、これまでは、翼型を最適化して、使用空気条件における翼表面の流れの剥離を抑制する、翼の構造的な観点からのアプローチがなされてきた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】電気学会論文誌第97巻 第5号(1977年),p259−p266
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した、例えば、従来の翼などの空気力学的特性に関する翼の構造的な最適化は、特定範囲の空気条件における特性を最適化することはできるが、例えば温度や風量が広い範囲で変化する場合に、その範囲に対応して特性を最適化することは不可能であった。また、機械的駆動部によって最適化の範囲を広げる試みもなされているが、駆動部の制御時定数以下の急激な変動には追随することが不可能であった。
【0006】
一方、上記したイオン風のような気流を微細な空間に発生できれば、物体表面のごく近傍の気流を変化させることができ、広い制御範囲をもち非常に制御時定数の短い空気力学的特性の制御手段として利用することができる。また、翼以外にも、流体の流れを利用して所定の機能を発揮させている装置等に、空気力学的特性の制御手段や、気流発生手段等として利用することもできる。
【0007】
そこで、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、放電プラズマによる気流誘起現象により高温下や含塵環境下においても安定して気流を発生させることができ、空気力学的特性の制御などを行うことが可能な翼、気流発生装置、熱交換装置、マイクロマシンおよびガス処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の翼は、固体からなる誘電体を介して配置された第1の電極と第2の電極との間に電圧を印加して放電させることにより気流を発生させる気流発生ユニットを翼面の所定の位置に備え、揚力を発生する。
【0009】
そして、前記誘電体が、ブロック状の誘電体ブロックで構成され、前記第1の電極が、前記誘電体ブロックの一方の表面から露出して設けられ、または前記誘電体ブロックに埋設され、前記第2の電極が、前記第1の電極から前記誘電体ブロックの表面と水平な方向にずらして前記第1の電極と離間され、かつ前記誘電体ブロックに埋設されている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1の実施の形態の気流発生装置を模式的に示した斜視図である。
【図2】図1に示す電極に正電圧を印加した場合の放電の様子を説明するための模式断面図である。
【図3】第2の実施の形態の気流発生装置を模式的に示した斜視図である。
【図4】図3のA−A断面図である。
【図5】翼上面側に気流発生装置を備えた翼を模式的に示した斜視図である。
【図6A】翼上面の気流の流れを説明するために、翼の断面を模式的に示した図である。
【図6B】翼上面の気流の流れを説明するために、翼の断面を模式的に示した図である。
【図6C】翼上面の気流の流れを説明するために、翼の断面を模式的に示した図である。
【図7】前方側面に気流発生装置を備えた移動体の一部の断面を模式的に示した図である。
【図8】伝熱面に気流発生装置を備えた熱交換装置を模式的に示した斜視図である。
【図9】側面および上面に気流発生装置を備えたマイクロマシンを模式的に示した斜視図である。
【図10】気流発生装置を備えたガス処理装置の活性種生成部を模式的に示した斜視図である。
【図11A】圧力条件を変えたときの放電の形態を観察するための気流発生装置を模式的に示した平面図である。
【図11B】圧力条件を変えたときの放電の形態を示す図である。
【図11C】圧力条件を変えたときの放電の形態を示す図である。
【図12】各ガス種における火花電圧を示す図である。
【図13A】気流発生装置を模式的に示した断面図である。
【図13B】一様流の高さ方向の流速分布をスモークワイヤ法にて観測した結果を示す図である。
【図13C】一様流中において、気流発生装置で発生した気流の高さ方向の流速分布をスモークワイヤ法にて観測した結果を示す図である。
【図14A】気流発生装置を模式的に示した断面図である。
【図14B】気流発生装置で発生した気流の速度分布を示す図である。
【図15】翼表面上における流れの剥離の現象を説明するための断面図である。
【図16】翼表面上の所定位置における翼面圧力を計測した結果を示す図である。
【図17】電圧波高値を一定にして電圧周波数を変化させたときの速度分布の最大値を示す図である。
【図18】電圧波高値および電圧周波数を一定としたときの立ち上がり時間比を変化させたときの速度分布の最大値を示す図である。
【図19】電圧波高値、電圧周波数および電圧波形を一定とし、電圧を断続的に印加してデューティ比を変化させたときの速度分布の最大値を示す図である。
【図20】トランスを有する高圧電源を本発明に係る気流発生装置に用いたときの放電の電流電圧波形を示す図である。
【図21】電極の幅L1と誘電体の厚さt3の比L1/t3と、エネルギ変換効率との関係を示す図である。
【図22】比誘電率εと誘電体20の厚さt3との比ε/t3と、エネルギ変換効率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施の形態について図面を参照して説明する。
【0012】
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態の気流発生装置10を模式的に示した斜視図である。
【0013】
図1に示すように、気流発生装置10は、誘電体20と、この誘電体20を介して対向配置された一対の電極21、22と、ケーブル23を介して電極21、22間に電圧を印加する放電用電源24とから主に構成されている。
【0014】
誘電体20は、公知な固体の誘電材料で構成される。誘電体20を構成する材料として具体的には、電気的絶縁材料である、アルミナやガラス、マイカなどの無機絶縁物、ポリイミド、ガラスエポキシ、ゴム、テフロン(登録商標)等の有機絶縁物などが挙げられるが、これらに限られるものではなく、気流発生装置10が使用される環境下において公知な固体の誘電材料から適宜に選択される。なお、少なくとも電極21側の誘電体20の表面は平面であることが好ましい。
【0015】
ここで、誘電体20の厚さをt、比誘電率をεとすると、ε/tが20以下となることが好ましい。なお、ε/tをこの範囲とすることが好ましい理由については後に述べる。
【0016】
電極21は棒状の電極で構成され、電極22は平板状の電極で構成されている。また、電極21は、誘電体20の表面に設けられ、電極22は、電極21から気流を発生させる方向にずらした誘電体20の裏面に設けられている。ここで、電極21は、誘電体20の表面から所定の間隔をおいて配置されてもよいし、誘電体20内に埋設されてもよい。また、電極22は、誘電体20の裏面から所定の間隔をおいて配置されてもよいし、誘電体20内に埋設されてもよい。なお、電極21および電極22を誘電体20内に埋設する場合には、それぞれの電極が、直接接触することなく誘電体20を介して配設される。また、電極21および/または電極22を誘電体20内に埋設する場合は、誘電体20の表面(平面)と平行に埋設されることが好ましい。これらの電極は、公知な導電性の材料で構成され、気流発生装置10が使用される環境に応じて、公知な導電性の材料から適宜に電極21、22を構成する材料が選択される。これらの電極間で誘電体20を介して誘電体バリア放電させることにより、電子およびイオン(正イオン・負イオン)が生成される。
【0017】
ここで、電極21を棒状とした場合の直径、または電極21を平板状とした場合の幅(気流が発生する方向の長さ)は、誘電体20の厚さをtとする場合、20t以下であることが好ましく、さらに好ましのは2t以下である。一方、電極22を平板状とした場合における幅は、その電圧、圧力、温度での気体の平行平板における絶縁破壊距離の3倍以上であることが好ましい。なお、電極21、22の幅を上記した範囲とすることが好ましい理由については後に述べる。
【0018】
放電用電源24は、電圧印加機構として機能し、電極21、22間に電圧を印加するものである。放電用電源24からの出力電圧は、例えば、パルス状(正極性、負極性、正負の両極性(交番電圧))や交流状(正弦波、断続正弦波)の波形を有する出力電圧などである。
【0019】
放電用電源24としては、例えば、特開2004−278369号公報に記載されているような、トランスを有する高圧電源を用い、トランスの1次巻線からトランスの漏れインダクタンスと放電部(電極間部)の静電容量を含んで形成される共振回路にステップ電圧を与えることにより放電部に共振電圧を印加する方式を用いるものが好ましい。この方式によれば、トランスの1次側に正弦波形の交流電圧を印加する方式に比べてトランスを小型化することができる。特に、電源の小型化、低コスト化を実現したい場合にはこのような電源を用いることが好ましい。
【0020】
次に気流発生装置10の作用について説明する。
【0021】
放電用電源24から電極21、22間に電圧が印加され、一定の閾値以上の電位差となると、電極21、22間に放電が起こり、放電に伴って放電プラズマが生成される。ここで、電極21、22間に誘電体20を介在させているので、高温下や含塵環境下においてもアーク放電にはいたらず、安定に維持することが可能な誘電体バリア放電が生じる。また、誘電体バリア放電は、誘電体20に沿って形成される沿面放電となる。この誘電体バリア放電によって、所定の方向に気流35を発生させることができる。
【0022】
以下に、大気圧下における誘電体バリア放電の形成過程と、それに伴う気流発生の原理について、図1および図2を参照して説明する。図2は、図1に示す電極21に正電圧を印加した場合の放電の様子を説明するための模式断面図である。
【0023】
大気圧下における誘電体バリア放電は、一般に無数のストリーマと呼ばれる放電柱を形成する。気流発生の原理は、このストリーマの進展過程における電子およびイオンの運動量が中性気体分子に伝達された結果生じる現象であると考えられる。
【0024】
電極21、22間に高電圧が印加されると、電極21、22間に遇存する電子または宇宙線などにより偶発的に電離された電子が種となり、電界中で電離増殖を起こす。この電離増殖によって正イオンと電子を生じる。この正イオンは、その密度が十分に高くなると空間電荷の作用で陰極に向かう陰極向けストリーマ30を形成する。また、電子は、密度が十分に高くなると陽極に向かう陽極向けストリーマ31を形成する。
【0025】
また、電子やイオンの中性粒子に与えられる力Fは、次の式(1)の関係を有している。
F ∝ (n+−n)×E …式(1)
ここで、n+は正イオンの密度であり、nは電子または負イオンの密度である。
【0026】
式(1)で示されるように、局所的に正イオンと電子が同密度で混在するプラズマ部分では「n+=n」となり、力Fは相殺され「0」とみなせる。ストリーマの進展過程において、「n+≠n」となる領域はストリーマ先端部分のみとなり、この部分にのみ力Fが働くと考えられる。陰極向けストリーマ30の先端には正イオンが、陽極むけストリーマ31の先端には電子または負イオンが、それぞれ多く存在する。そのため、陰極向けストリーマ30の先端では電界方向に向かう力が、陽極向けストリーマ31の先端では電界と逆方向に向かう力が誘起されることになる。
【0027】
上記した電極構成の場合、電極21近傍の電界強度が高くなるため、ストリーマの開始点は、電極21近傍(点P)となると考えられる(図2参照)。電極21に正電圧を印加した場合、電界は電極21から電極22への向きとなるため、陰極向けストリーマ30は、空間を横切って電極22に向かう。このときに正イオンが中性粒子に運動量を与える。一方、陽極向けストリーマ31は、陰極向けストリーマ30とは逆に、電極21に向かって進展するが、点Pから電極21までの距離が短く進展時間も短い。そのため、両ストリーマからの力を平均すると、電極21から電極22に向かう向きになり、その向きに気流35が発生する。
【0028】
次に、電極21に負電圧を印加した場合、電界の向きは上記した場合と逆になるため、陰極向けストリーマは、点Pから電極21への短い距離を短時間で進展する。一方、陽極向けストリーマは、点Pから電極22までの長い空間を横切って電極22に向かう。そのため、電極21に正電圧を印加した場合と同様に、両ストリーマからの力の平均は、電極21から電極22に向かう向きになり、その向きに気流35が発生する。なお、陽極向けストリーマの生成確率は、陰極向けストリーマのそれより低いため、発生する気流35の速さは、電極21に正電圧を印加した場合に比べて小さくなる。
【0029】
ここで、電極21、22間に印加する電圧によって、電子やイオンの中性粒子に与えられる力Fが変化し、それによって発生する気流35の速さも変化する。すなわち、電極21、22間に印加する電圧を調整することによって、発生する気流35の速さを調整することができる。なお、電圧の調整方法については、従来から公知である、例えば、電圧波高値、電圧周波数、電圧波形、デューティ比等を調整する方法が適用できる。気流発生装置の構造や気流制御の対象によって最適な電圧の調整方法を適宜に選択することが可能である。
【0030】
次に、ストリーマの進展過程について図2を参照して説明する。
【0031】
P点から開始したストリーマ30は、その先端に強い空間電荷をもち、後方に電離度の高いプラズマを引き連れた放電柱の形態をなし、その先端の空間電界によって空間を電離しながら空間を横切って進展し、誘電体表面に到達する。誘電体表面に輸送され蓄積された電荷は表面を帯電させ、局所的な電界を緩和させる。そこで、ストリーマは、電荷の蓄積されていない誘電体表面を目指してさらにP点から離れる方向に進展し、その部分の誘電体表面を帯電させる。このようにして順次誘電体表面を帯電させながらストリーマが伸びていく。しかし、後方に引き連れたプラズマは、有限の抵抗率を持っているので、ストリーマが所定の長さに達すると、その抵抗率による電圧降下によりストリーマ先端の電界が低下し、先端の空間電界による電離が停止する。この時点でストリーマの進展は停止し、進展経路に沿った誘電体表面上に帯電した表面電荷が残される。
【0032】
上記したように大気圧下における誘電体バリア放電において、電極21、22間に直流電圧を印加すると、ストリーマ放電の進展とともに誘電体表面に電荷が蓄積して電極21、22間の電界が緩和され、最終的には電界が空間の電離を維持できなくなり、放電が停止する。この放電の停止を防止するためには、誘電体表面に蓄電された電荷を除去することが必要であり、そのためには、電極21、22間に、パルス状の正負の両極性電圧である交番電圧や交流電圧を印加することが好ましい。このように電極21、22間に交番電圧または交流電圧を印加することで、持続的に誘電体バリア放電を行うことが可能となる。
【0033】
ストリーマ放電の開始から誘電体表面の電荷蓄積による放電停止までの間に1本のストリーマによって輸送される電荷量は、そのストリーマ放電に関与する誘電体の静電容量に比例する。静電容量が大きい場合、1回の放電において大量の電荷が輸送されることになるが、電荷量が多過ぎるとそれによる電流によって気体が加熱される。気体が加熱されると、放電入力のうちで熱エネルギに移行する割合が増加して、放電入力を有効に運動エネルギに移行させることができなくなる。すなわち、静電容量が大きくなると、運動エネルギに移行するエネルギ変換効率が悪化する。静電容量は、誘電体の比誘電率εと厚さtを用いたε/tに比例する値であるので、ε/tが大きくなると、運動エネルギに移行するエネルギ変換効率が悪化することになる。そこで、ε/tは、運動エネルギに移行するエネルギ変換効率が顕著に上昇する20以下であることが好ましい。
【0034】
また、ストリーマがP点から離れる方向に進展している過程で電極22の端部に到達すると、そこから先は外部電界が急速に低下するので放電を維持できなくなりストリーマは停止する。そこで、電極22の幅は、ストリーマが自身の抵抗率によって自己停止する距離以上に十分長いことが好ましい。電極22の幅は、少なくともその電圧、圧力、温度での気体の平行平板における絶縁破壊距離の3倍以上であることが好ましい。
【0035】
また、ストリーマ進展開始のP点における電界強度は、電極21の径が小さいほど高くなり、より低い電圧で放電を発生させることができる。電極21の径が大きくなると電界強度は弱まり、エネルギ変換効率が低下することになる。そこで、電極21を棒で構成した場合の径L1または、電極21を平板で構成した場合の平板の幅(気流が発生する方向の長さ)L1と、誘電体の厚さtとの比L1/tは、エネルギ変換効率が顕著に上昇する2以下であることが好ましい。ただし、これまでの実験でL1/tが20以下であれば十分な風速が観測されているので、L1/tが20以下であれば本発明に記載する様々な用途に適用することは可能である。
【0036】
ここで、電極21および電極22がそれぞれ面対称な形状で構成され、かつ対称面、すなわちそれぞれの電極から等しい距離に位置する面に誘電体20が配設され、電極21、22間に交番電圧が印加された場合、電極21に正電圧が印加されたときに誘起される気流の速さと、電極22に負電圧が印加されたときに誘起される気流の速さが同じになる。このため、向きが逆で同じ速さの気流が交互に誘起され、電圧の周期と同周期で振動する気流が生じる。そこで、一方向の気流を発生させる場合には、電極21および電極22がそれぞれ面対称な形状で構成されるときには、対称面に誘電体20が位置しないように誘電体20を配置すること、すなわち対称面からどちらか一方の電極側に誘電体20をずらして配置することが好ましい。
【0037】
一方、電極21および電極22がそれぞれ非対称な形状で構成、すなわち電極21および電極22がそれぞれ面対称な形状ではない構成され、電極21、22間に交番電圧が印加された場合、電極21に正電圧が印加されたときと、電極21に負電圧が印加されたときとでは、向きは同じで速さが異なる気流が誘起される。この気流を時間平均すると一定方向の気流が得られる。特に、図1に示すように、電極22に対向する電極21の電極面積を、電極22の面積に比べて小さくした場合、上述したように電極21から電極22に向かう向きに気流が発生する。
【0038】
上記したように、第1の実施の形態の気流発生装置10によれば、誘電体20を介して対向配置された一対の電極21、22間に電圧を印加し、誘電体バリア放電を生じさせることで、所定の方向に気流を発生させることができる。また、一定方向に気流を発生させたい場合であって、電極21および電極22がそれぞれ面対称な形状で構成されるときには、対称面に誘電体20が位置しないように誘電体20を配置するか、または電極21および電極22をそれぞれ非対象な形状で構成することが有効である。また、電極21、22間に印加する電圧によって、発生する気流35の速さを調整することができる。
【0039】
(第2の実施の形態)
図3は、第2の実施の形態の気流発生装置40を模式的に示した斜視図である。また、図4は、図3のA−A断面図である。なお、第1の実施の形態の気流発生装置10と同一の構成には同一の符号を付して重複する説明を省略または簡略する。
【0040】
図3および図4に示すように、気流発生装置40は、誘電体41の表面と同一面に露出された電極42と、この電極42と誘電体41の表面からの距離を異にし、かつ誘電体41の表面と水平な方向にずらして離間され、誘電体41内に埋設された電極43と、ケーブル23を介して電極42、43間に電圧を印加する放電用電源24とから主に構成されている。
【0041】
電極42は、板状の平板電極からなり、誘電体41内に固着され、一面が誘電体41の表面と同一面に露出されている。また、電極42が露出する誘電体41の表面は、平面で構成されることが好ましい。また、電極42は、誘電体41の表面に露出されずに、誘電体41内に埋没されてもよい。また、電極42は、誘電体41の表面から突出させて設けられてもよい。さらに、電極42は、誘電体41の表面に固着されてもよい。なお、誘電体41の平面上を流体が流れるときには、その流体の流れを乱さないために、電極42は、誘電体41の表面と同一面に露出されるか、誘電体41内に埋設されることが好ましい。また、電極42の形状は、板状に限らず、例えば、断面が円、矩形などの棒状などであってもよい。
【0042】
電極43は、板状の平板電極からなり、図4に示すように、電極42と誘電体41の表面からの距離を異にして、かつ誘電体41の表面側から見たときに電極42と重ならないように、すなわち、気流を流す誘電体41の表面と水平な方向に電極42とはずらして、電極42と対向配置されている。なお、電極42、43は、両電極間に印加される電圧の範囲で、絶縁破壊を生じない程度に離隔されている。また、電極43の形状は、板状の限らず、例えば、断面が円、矩形などの棒状などであってもよい。また、電極42と同じ形状であってもよい。なお、電極42、43および誘電体41を構成する材料は、第1の実施の形態の場合と同じである。
【0043】
ここで、誘電体41をブロックで構成し、上記した電極構成を備える気流発生ユニットとしてもよい。気流発生ユニット構造にすることで、この気流発生ユニットを、例えば、気流を発生させたい部位に埋め込むなどして使用することができ、取り扱いが容易であり、使用用途の幅を広げることができる。
【0044】
次に気流発生装置40の作用について説明する。
【0045】
放電用電源24から電極42、43間に電圧が印加され、一定の閾値以上の電位差となると、電極42、43間に誘電体バリア放電を生じる。ここで、電界の方向は、誘電体41の表面に沿っているため、発生する気流45は、誘電体41の表面に沿った方向で、電極42から電極43に向かう方向に流れる。
【0046】
上記したように、第2の実施の形態の気流発生装置40によれば、誘電体41の表面に沿った所定の方向に気流を発生させることができる。また、電極42、43を誘電体41と一体化することで、電極42、43の剛性を高めることができ、様々な応用に耐え得る強度を有する電極を構成することができる。
【0047】
次に、上記した第2の実施の形態の気流発生装置40を用いた応用例を以下に示す。ここでは、気流発生装置40を、翼、移動体、熱交換装置、マイクロマシン、ガス処理装置に用いた場合の一例を示す。なお、本発明の気流発生装置の使用用途は、これらに限られるものではない。また、気流発生装置40の代わりに、それをユニット化した気流発生ユニットを備えてもよい。
【0048】
ここで、例えば翼などの表面の流れに影響を与えるために用いることが可能な装置として、上記した本発明の気流発生装置の他にも、ピエゾ素子等の圧電素子等や音波発生装置によって構成された機械的振動装置、ニクロム線等による発熱装置や冷却装置等による熱的振動装置、表面にあけた微細孔からの空気の噴出または吸込みや音波の放出や吸収を行なう装置などが挙げられる。しかしながら、機械的駆動部を持つ機構は、劣化や故障の問題が避けられない、熱的振動発生装置は、駆動の時定数が遅いため気流の変動に追随できない、細孔から噴出または吸込み等を行なう装置は、構造物内部に空洞や流路を形成する必要があり構造が複雑になる等の問題があり、いずれも本発明の放電を利用した気流発生装置に比べて実用性に欠ける。
【0049】
(翼50への応用)
ここでは、気流発生装置40を翼50の空気力学的特性を制御する手段として用いた場合の一例を示す。図5は、翼上面側に気流発生装置40を備えた翼50を模式的に示した斜視図である。また、図6A〜図6Cは、翼上面の気流の流れを説明するために、翼50の断面を模式的に示した図である。なお、翼には、例えば、風車の翼、飛行機の翼やプロペラ、タービン翼、送風機の翼などが含まれる。
【0050】
図5に示すように、気流発生装置40は、電極42の表面、すなわち気流発生装置40の表面が翼上面と同一面になるように、翼50に固着されている。このように気流発生装置40を配設することで、翼50の表面に誘電体バリア放電を生じさせ、気流51を発生させることができる。ここで、気流発生装置40は、翼50の翼上面を流れる流体(空気)と平行にかつ同方向に気流51を発生させるように配設されている。また、気流発生装置40は、その表面が翼上面と同一面になるように配設されているので、気流発生装置40本体によって翼上面を流れる流体が乱されることはない。
【0051】
図6に示すように、翼50においては、翼50が空気の流れに対して所定の迎え角を持つとき、翼上面の流速が増大し、ベルヌーイの定理によって静圧が下がり、翼上面は吸い上げられる。また、翼下面の流速は低下し、静圧が増大して、翼下面は押し上げられる。そのため翼50は、流れに直角方向に対して揚力Lを受けることになる。この揚力Lは、次の式(2)で示される。
L=1/2・ρ・V・C・S …式(2)
【0052】
ここで、ρは気体の密度、Vは気体の流速、Sは翼面積、Cは揚力係数である。Cは、迎え角αに比例して増大していくが、所定の迎え角を超えると翼上面で気流が剥離するので(図6B参照)、それ以上迎え角を増大させるとCは減少する。この気流の剥離を抑制することができれば、Cの低下を抑えながら高揚力が得られるため、高効率な翼が実現可能となる。
【0053】
そこで、図5に示すように、気流発生装置40を電極42の表面が翼上面と同一面になるように翼50に設けて駆動させると、翼上面を流れる流体(空気)の境界層付近に高速の気流51を発生させることができる。これにより、境界層の速度分布を変化させ、流体(空気)の剥離を抑制することが可能となり、揚力係数を増大することができる。
【0054】
このように気流発生装置40によって境界層に気流を発生させ、例えば、翼上面と気流との境界層の流れの構造を変化させることで、翼50の構造を変えることなく、翼上面における揚力係数や抗力係数などの空気力学的特性を制御することができる。また、気流発生装置40の電極42、43間に印加する電圧を制御することで、発生する気流の速さを任意に制御することができる。これによって、流体(空気)の流れの状態に追随して、リアルタイムで空気力学的特性の制御をすることが可能となり、革新的な空気力学的特性制御技術が実現可能となる。
【0055】
なお、物体表面に微細な突起を設けて層流から乱流に遷移させることで、剥離を抑制するリブレット等の技術も開発されているが、表面に突起を設けることは抵抗の増加に繋がり、さらに固定式の突起のため能動制御が不可能であるなどの欠点がある。これに対して、上記した気流発生装置40を用いて翼上の流れを制御する場合には、上記したリブレット等の問題点を解決するとともに、表面の流れに擾乱を与えることで層流から乱流に遷移させる乱流遷移機能を発揮させることができる。これによって、翼等の形状を変えずに電気的制御のみで自由度の高い流れの制御が可能となる。
【0056】
また、例えば翼の表面における流れの剥離は、表面上でランダムに発生する微小渦を起点に、渦が成長して大規模な剥離に至ることが知られている。そこで、翼の表面に、それぞれを独立に制御可能な複数の気流発生装置40を配置し、同様に表面上に複数配置された表面圧力センサ、速度センサ、渦度センサ等のセンサや、表面に塗った感圧力塗料からの蛍光を遠隔カメラで撮影し、撮影された画像に基づいて感知する方法などにより、局所的にランダムに発生する渦を検知して、その近傍の気流発生装置40を作動させ、気流を発生させてもよい。これによって、微小渦の成長を阻害し、大規模な剥離が発生するのを防止することができる。この場合、複数の気流発生装置は、それぞれ個々に制御されてもよいし、ある一定の表面領域に位置する気流発生装置を群として、群ごとに制御されてもよい。これらの制御方式は、表面に存在する流れの組織構造のスケールに応じて任意に設定され、電気的制御によって気流を発生できる本発明の気流発生装置においては、容易に上記制御を行なうことができる。なお、渦を検知する方法は、具体的にセンサ等を用いて計測された情報に基づいて判定する他にも、例えば予めデータベース等に作動条件などに基づいて記憶された情報を用いて判定してもよい。
【0057】
また、気流発生装置40は、フラップ等の本発明に係る技術以外の流体制御装置と組み合わせて利用してもよい。例えば、時定数の長い変動に対しては、機械的駆動部を持つ流体制御装置で対応し、それより時定数の短い変動に対しては、放電による気流発生装置40で対応することで、双方の特性を有効に利用した制御を実現することができる。
【0058】
また、上記した翼への応用の他にも、気流発生装置40は、翼により流れに偏向を与えることにより、流体のエネルギとそれ以外のエネルギとの間の転換の機能を果たす流体機器一般に適用可能である。例えば、気流発生装置40を流体機器であるターボ型流体機器に適用することが可能である。ターボ型流体機器には原動機と被動機があるが、原動機としては、ガスタービン、蒸気タービン、風車等、被動機としては、ポンプ(遠心ポンプや軸流ポンプ等)、送風機、圧縮機(遠心圧縮機や軸流圧縮機等)等の機器への応用が可能である。例えば、これらの機器の一部を構成する翼の表面の所定位置に気流発生装置40を備え、翼面における揚力係数や抗力係数などの空気力学的特性を制御することができる。
【0059】
(移動体60への応用)
ここでは、気流発生装置40を移動体60の空気力学的特性を制御する手段として用いた場合の一例を示す。なお、移動体には、航空機、ミサイル、鉄道、自動車などの気体中を移動する任意の物体が含まれる。図7は、前方側面に気流発生装置40を備えた移動体60の一部の断面を模式的に示した図である。
【0060】
図7に示すように、気流発生装置40は、電極42の表面、すなわち気流発生装置40の表面が移動体60の側面と同一面になるように、移動体60の左右の側面に固着されている。このように気流発生装置40を配設することで、移動体60の側面に誘電体バリア放電を生じさせ、気流61を発生させることができる。ここで、気流発生装置40は、移動体60の側面を流れる流体(空気)と平行にかつ同方向に気流61を発生させるように配設されている。また、気流発生装置40は、その表面が移動体60の側面と同一面になるように配設されているので、気流発生装置40本体によって移動体60の側面を流れる流体が乱されることはない。
【0061】
気体中を推進する移動体60の表面には、気体との摩擦による抗力が生じる。移動体60の側面の一部で流れが剥離するなどして抗力に不均衡が生じると、進行方向に対して横方向(左右方向)の安定性を損なう。そこで、図7に示すように、移動体60の側面に気流発生装置40を設けて駆動させると、移動体60の側面を流れる気体の境界層付近に高速の気流61を発生させることができる。これにより、境界層の速度分布を変化させ、気体の剥離を抑制することが可能となり、抗力係数を変化させることができる。この作用により、移動体60の進行方向に対して左右の抗力差を減じるように、気流発生装置40によって気流を発生させることで、移動体60の横方向の安定性を維持することができる。また、気流発生装置40によって移動体60の進行方向に対して左右の抗力差を制御することで、移動体60の進路を変更することも可能となる。
【0062】
このように気流発生装置40によって境界層に気流を発生させ、例えば、移動体60の側面と気流との境界層の流れの構造を変化させることで、移動体60の構造を変えることなく、移動体60における抗力係数などの空気力学的特性を制御することができる。また、気流発生装置40の電極42、43間に印加する電圧を制御することで、発生する気流の速さを任意に制御することができる。これによって、流体(空気)の流れの状態に追随して、リアルタイムで空気力学的特性の制御をすることが可能となり、革新的な空気力学的特性制御技術が実現可能となる。
【0063】
ここで、移動体60として、高速航空機、短距離離着陸機を一例とし、本発明に係る気流発生装置40が、気流制御装置として機能する一例を説明する。
【0064】
(1)高速航空機への応用(剥離抑制、摩擦低減機能の利用)
例えば、遷音速域を飛行する航空機においては、空気が圧縮性を有する気体となり、航空機の表面の様々な位置で衝撃波が発生する。このため、航空機の安定性や操縦性に様々な障害が生じる。
【0065】
そこで、航空機の表面の様々な位置、特に、衝撃波が発生し易い部分に、本発明に係る気流発生装置40を備え、さらに、各気流発生装置40に対応して衝撃波が発生したことを検知する表面圧力センサ等の検知装置を備える。そして、衝撃波の発生が検知された部分に対応する気流発生装置40を作動させることで、衝撃波の発生を抑えたり、衝撃波の伝播方向を変えたりすることができる。このように、衝撃波による不安定な気流の変動に応じて、空気力学的特性を即座に制御することができるので、安定した飛行が可能になる。
【0066】
また、超音速、極超音速の移動体においては、飛行速度の増加とともに空気との摩擦による熱の障害が次第に大きくなり、特に機械的に稼動する稼動部を有する気流制御装置は、その稼動部の潤滑性や断熱性に問題が生じて利用不可能となる。航空機の抵抗は、形状抵抗(圧力抵抗)、誘導抵抗、造波抵抗、摩擦抵抗に分けられるが、それらの中でも摩擦抵抗がほぼ半分の割合を占めている。この摩擦抵抗を低減することは、上記した摩擦による熱の発生を抑制し、さらに航空機の燃料消費率を向上させることに繋がる。
【0067】
このような熱の障害、すなわち高温となる場合でも、誘電体41をセラミックス等の耐熱材料で構成し、電極42、43をステンレスやインコネル(インコ社製)等の耐熱金属で構成することで本発明に係る気流発生装置40を適用することができる。また、気流発生装置40を作動し、翼の表面において、気流が、滑らかで摩擦抵抗の少ない層流から摩擦抵抗の大きい乱流へ遷移するのを抑制または遅らせることができるので、抵抗全体を大幅に低減することができる。さらに、上記したように、超音速機の主翼、水平尾翼、垂直尾翼などの翼の表面の所定位置に、気流発生装置40を設け、境界層に気流を発生させ、例えば、気体の剥離の抑制等により翼上面と気流との境界層の流れの構造を変化させることで、翼の構造を変えることなく、翼における揚力係数や抗力係数などの空気力学的特性を制御することができる。
【0068】
(2)短距離離着陸機への応用(剥離抑制、摩擦低減機能の利用)
短距離離着陸機等は、プロペラまたはジェットの後流や抽気を利用する強力な高揚力装置を備えているため、これらの装置の重量が大きくなり、経済性を損なっている場合が多い。
【0069】
そこで、本発明に係る気流発生装置40を翼面や機体表面の所定位置に設置する。これによって、揚力を向上させ、高揚力装置における負担を低減させ、機器を小型化することが可能になる。この気流発生装置40は、上記した短距離離着陸機(STOL機)(QTOL機を含む)以外にも、垂直離着陸機(VTOL機)、通常離着陸機(CTOL機)などの航空機の翼面や機体表面の所定位置に設置してもよい。
【0070】
これによって、離陸着陸時に大きな揚力を要する短距離離着陸機等の揚力向上を図ることができる。また、上記したように、航空機の主翼、水平尾翼、垂直尾翼などの翼の表面の所定位置に、気流発生装置40を設け、境界層に気流を発生させ、例えば、気体の剥離の抑制等により翼上面と気流との境界層の流れの構造を変化させることで、翼の構造を変えることなく、翼における揚力係数や抗力係数などの空気力学的特性を制御することができる。
【0071】
上記した気流発生装置40では、表面の流れを制御することを特徴とし、上記した移動体以外にも、表面の流れから影響を受ける様々な機器に適用が可能である。
【0072】
例えば、流体機器の中でもモータやシリンダ等の原動機、ポンプや圧縮機等の被動機を含む容積型流体機器において、容積内部の気流の流動や循環を制御したり、渦の発生する部位での流れの整流等の用途に利用することができる。
【0073】
ここでは、エンジンのシリンダ内の流れ制御を例として具体的に説明する。内燃機関であるエンジンの性能を向上させるために、シリンダ内へ送り込む混合気の気流の最適化が必要である。気流性状は、吸気管やバルブの形状等により左右され、燃焼効率や圧力損失に影響を与える。
【0074】
例えば、吸気管からシリンダ内部へ流入する場所には管径が急に拡大する部分があり、その部分における渦の生成は圧力損失を増加させ、効率を低下させる。また、混合気がシリンダ表面に偏って流れると、シリンダ中央部での燃焼効率が低下するため、シリンダ内部では、均一に混合される流れを生成することが好ましい。そこで、本発明の気流発生装置を、シリンダの急拡大部分に設置して渦の生成を抑制したり、シリンダ内壁面に設置して壁面付近の変流をかく乱させるように気流を生成したりすることで、燃焼効率や圧力損失を最適に制御することができる。特に、シリンダ内部のように時々刻々と変化する複雑な流れに対する気流制御には、電気的因子のみで流れを制御できる本発明の気流発生装置が優れている。
【0075】
また、気流発生装置40は、流体機器以外にも、流れの中に存在するため流れから影響を受ける機器一般に適用することができる。例えば、移動体であれば閉鎖的空間内を移動するエレベータ等の昇降機器、不動体であれば橋梁、鉄塔、ビル等の建築物に適用することができる。これらの機器や建築物において複雑に変化する走行風や自然風から受ける力学的な影響を、本気流発生装置にて緩和することができる。
【0076】
ここでは、高層建築物への適用を例として具体的に説明する。高層建築物の回りには、時間も方向も全くランダムな自然風が吹いており、建築物はそれらの風から風荷重を受けている。風は、建築物の角部や突起部で剥離を起こして渦流を形成したり、外壁面に沿って流れることにより発生する摩擦力により、建物にねじれ力を作用する。このような風によって、建物の揺れ、構造体への荷重の付加、ビル風の発生、風鳴り音等の騒音が生じる。そこで、本発明の気流発生装置40を建築物の角部や突起部に設置して、角部や突起部での自然風の剥離を抑えることで、構造体への荷重を抑えることができる。また、本発明の気流発生装置を外壁表面に設置することで、建物へのねじれ力の発生を防止することができ、しかも時間的にも空間的にもランダムに発生する風に応じた流れの制御が可能となる。
【0077】
さらに、気流発生装置40を物質輸送用の管路やダクト管の表面に設け、管路やダクト管を流れる流体の流れを制御してもよい。このように気流発生装置40を備えることで、例えば管路入口での渦の発生を抑制することが可能となる。
【0078】
ここでは、管路の入口の助走区間に適用する場合を例として具体的に説明する。広い空間からノズルを通って管路に入るときの速度分布は、入口付近の速度分布はほぼ一様で、境界層は非常に薄い。この境界層は、下流へ至るに伴って厚みを増す。この助走区間においては、管壁付近の速度勾配が大きいために摩擦応力が大きくなり大きな圧力損失が生じる。そこで、この助走区間の管壁に本発明の気流発生装置40を設け、速度勾配を緩和するように気流を制御すると、管摩擦係数を低減させることができる。例えば、管壁に誘電体と電極からなる円筒状の気流発生装置40を備え、カバー部(金属)と電極との間に高周波電圧を印加する。気流発生装置から発生する気流によって、壁面付近の速度を向上させ、速度勾配を緩和することで、摩擦係数を低減することができる。
【0079】
また、例えば空調機器のような、外部に対して流れを生成する機器に、気流発生装置40を適用してもよい。空調機器の噴出し口などに、流路の壁面ではなく流路の中央に位置して整流作用を生み出す整流羽根等を備える空調機器がある。例えば、この整流羽根の表面の所定位置に気流発生装置40を備えることで、整流羽根の表面からの流れの剥離を防止することができ、効率的な整流効果が得られる。また、空調機器である冷房機器において、上記のような整流羽根を用いた場合、整流羽根部分でできた渦による逆流により、室内空気が整流羽根に向かって引き込まれ、低温となった部分に触れて結露する場合がある。そこで、上記したように整流羽根の表面の所定位置に本発明の気流発生装置40を備えることで、渦の発生を防止し、冷房機器の吹き出し口における結露を防ぐことができる。
【0080】
(熱交換装置70への応用)
ここでは、気流発生装置40を熱交換装置70の伝熱特性を制御する手段として用いた場合の一例を示す。具体的には、気流発生装置40を乱流を促進させる手段として用いた一例を示す。図8は、伝熱面71に気流発生装置40を備えた熱交換装置70を模式的に示した斜視図である。
【0081】
図8に示すように、気流発生装置40は、電極42の表面、すなわち気流発生装置40の表面が熱交換装置70の伝熱面71と同一面になるように、熱交換装置70に固着されている。このように気流発生装置40を配設することで、熱交換装置70の伝熱面71に誘電体バリア放電を生じさせ、気流72を発生させることができる。ここで、気流発生装置40は、熱交換装置70の伝熱面71を流れる気体73と平行にかつ逆方向に気流72を発生させるように配設されている。なお、気流発生装置40を熱交換装置70の伝熱面71を流れる気体73と平行にかつ同方向に気流72を発生させるように配設することもできる。
【0082】
この熱交換装置70は、伝熱面71を介して、伝熱面71の外側を流れる気体73と熱交換装置70の内部に流れる冷媒74との間で熱量を交換するものである。気流発生装置40によって発生した気流72は、伝熱面71を流れる気体73の流れ方向と逆向きに流れ、気体73と衝突することで、伝熱面71付近の境界層に擾乱が生じ、熱伝達を促進することができる。
【0083】
このように気流発生装置40によって境界層に気流を発生させ、例えば、熱交換装置70の伝熱面71と気流との境界層の流れの構造を変化させることで、熱交換装置70の構造を変えることなく、伝熱面71における伝熱特性を向上させることができる。また、気流発生装置40の電極42、43間に印加する電圧を制御することで、伝熱特性を任意に制御することができる。
【0084】
上記した、気流発生装置40を乱流を促進させる手段として用いる用途としては、熱交換装置に限らず、熱伝達の促進を図ることが好ましい、加熱、冷却、凝縮、沸騰等の機能を利用する伝熱機器一般に利用可能である。気流発生装置40を伝熱特性制御手段として、例えば、コンピュータの素子を冷却する冷却フィンや、空調機の熱交換フィン等の所定の位置に設置して利用することができる。これによって、冷却フィンや熱交換フィン等の伝熱特性の向上を図ることができる。
【0085】
(マイクロマシン80への応用)
ここでは、気流発生装置40をマイクロマシン80の駆動機構に用いた場合の一例を示す。具体的には、気流発生装置40を推力発生手段として用いた一例を示す。図9は、側面および上面に気流発生装置40を備えたマイクロマシン80を模式的に示した斜視図である。
【0086】
図9に示すように、気流発生装置40は、電極42を有する表面がマイクロマシン80の各側面81a、81b、81c、81d、または上面82と同一面になるように、マイクロマシン80に固着されている。また、側面81a、81b、81c、81dにおいて、気流発生装置40は、鉛直下方に向けて気流を発生させるように、各側面81a、81b、81c、81dの下部に設けられている。また、上面82において、少なくとも4つの気流発生装置40が設けられ、各気流発生装置40は、上面82に水平方向に、かつマイクロマシン80の外側に向けて、それぞれ異なる垂直な方向に気流を発生させるように配置されている。
【0087】
また、マイクロマシン80に設けられた気流発生装置40の電極42、43への電圧の印加は、上記したように放電用電源24からケーブル23を介して行ってもよいが、図9に示すように、外部から非接触で印加されることが好ましい。この非接触で電極42、43に電圧を印加する方法として、例えば、マイクロマシン80の側面などに光電変換素子87を設置し、その光電変換素子87にレーザ発生装置85から出射されたレーザ光86を照射することによりエネルギを供給して、電極42、43に電圧を印加する方法などが挙げられる。これによって、ケーブルなどによる拘束を受けずに、マイクロマシン80を駆動することができる。
【0088】
また、非接触で電極42、43に電圧を印加する他の方法として、例えば、マイクロマシン80の側面などに熱電変換素子を設置し、その熱電変換素子に赤外線を照射したり、雰囲気温度を上昇させることで、電極42、43に電圧を印加する方法などが挙げられる。さらに、マイクロマシン80の側面などにコイルやアンテナを備え、そのコイルやアンテナにマイクロ波やミリ波等その他の電磁波を与え、コイルやアンテナに生じた誘起電圧を電極42、43間に印加してもよい。
【0089】
上記したように、気流発生装置40が設けられたマイクロマシン80において、例えば、側面81a、81b、81c、81dに設けられた各気流発生装置40を駆動させると、浮上用の気流83が発生してマイクロマシンが浮上する。また、マイクロマシン80が浮上している際に、例えば、上面82に設けられた気流発生装置40の1つを駆動させると、その気流84の流れ方向とは逆の方向にマイクロマシンが移動する。なお、マイクロマシン80が浮上している際に、上面82に設けられた各気流発生装置40を適宜に駆動することで、あらゆる方向にマイクロマシンを移動することができる。また、気流発生装置40の電極42、43間に印加する電圧を制御することで、マイクロマシンを移動させる速さなどを任意に制御することができる。
【0090】
上記した、推力発生手段として機能する気流発生装置40は、マイクロマシンに限らず、気流を推力として利用する一般機器に利用可能である。気流発生装置40を推力発生手段として、例えば、ロケットやミサイル等の飛翔体、無人航空機の表面の所定の位置等に設置して利用することができる。これによって、ロケットやミサイル等の飛翔体に推力を付加したり、操舵する際の推力を付加したりすることができる。
【0091】
(ガス処理装置90への応用)
ここでは、気流発生装置40をガス処理装置90の活性種生成機構、送風機構および拡散・混合機構に用いた場合の一例を示す。図10は、気流発生装置40を備えたガス処理装置90の活性種生成部を模式的に示した斜視図である。このガス処理装置90には、例えば、放電で生成するオゾンによって悪臭物質を処理する脱臭装置や殺菌装置、放電で生成するNOによって煤を燃焼させる粒子状物質減少装置などが含まれる。
【0092】
図10に示すように、ガス処理装置90の活性種生成部100には、所定の間隔をおいて、複数の気流発生装置40が積層配置されている。ここで、各気流発生装置40は、活性種生成部100内において一方向に気流101を発生させるように配設されている。この活性種生成部100内に誘電体バリア放電によって生成された活性種は、誘電体バリア放電によって発生した気流101によって、非処理ガスを処理するガス処理部(図示しない)に導かれる。上記したように、気流発生装置40は、放電により活性種を生成する活性種生成機構と、活性種をガス処理部に送風する送風機構の双方の機能を有する。
【0093】
従来のガス処理装置においては、放電で生成した活性種をファン等でガス処理部まで導く構造が用いられてきたが、本発明に係るガス処理装置90を備えることで、上記したように活性種生成部100が、活性種生成機能および送風機能の双方の機能を備えるので、装置のコンパクト化、省電力化、さらには製作コストの削減を図ることができる。
【0094】
上記したように、気流発生装置40を活性種生成機能や送風機能して用いることで、流体中に存在するガス分子に何らかの化学反応を起こさせる化学反応装置一般に気流発生装置40を利用可能である。さらに、気流発生装置40を拡散・混合機構として用いることもできる。例えば、流体の流れを制御することで拡散速度や混合速度を変化させ、化学反応トータルの反応速度を制御する目的で気流発生装置40を使用することもできる。具体的には、燃焼器、ガス混合機器、殺菌消毒装置、化学プロセス反応器等に利用が可能である。
【0095】
燃焼器に気流発生装置40を用いる場合には、例えば燃焼場における流れをの一部を制御する機構として使用することができる。火炎の安定化を図るためには、燃料と酸化剤の混合比を量論比(当量比が1)付近で燃焼させることが好ましいが、排ガス中に含まれるNOx等の有害成分を抑制するために、近年では、全体として(オーバオールで)希薄燃焼させる燃焼方式を用いた燃焼器が主流となっている。例えば、燃料と酸化剤を個々に燃焼領域に供給し、燃焼領域において燃料と酸化剤を燃焼させる拡散燃焼では、運転条件に応じて形成される燃焼器内の流れ場において、局所的に当量比が1付近となる領域が存在することがある。このような領域は、火炎温度が高くなりNOxの生成が促進される。このような領域が燃焼器の壁面近傍等に存在する場合には、気流発生装置40を燃焼器の壁面に設ける。そして、運転条件に応じて気流発生装置40を作動させ、その当量比が1付近となる領域に周囲の酸化剤を巻き込むように流れを形成し、燃料濃度を減少させた状態、すなわち当量比を小さくした希薄な状態で燃焼させることができる。また、気流発生装置40を燃焼器の壁面に、乱流を促進するように、すなわち流れを乱すように設けることで、燃料と酸化剤の混合が促進され難い壁面近傍における混合を促進することができる。
【0096】
さらに、放電は、燃料物質をクラッキングして、より低分子の可燃性物質を生成できるので、これらの物質が燃焼に寄与することによって燃焼が促進される。これによって、燃焼器の小型化や高い燃焼効率が得られる燃焼器が実現できる。なお、燃焼器内に気流発生装置40を用いる場合には、 高温となるので、誘電体41をセラミックス等の耐熱材料で構成し、電極42、43を耐熱金属で構成することが好ましい。
【0097】
ガス混合機器に気流発生装置40を用いる場合には、例えば渦や乱流を生成することによるガス混合の促進機構として使用することができる。例えば、燃料と空気を混合する目的で構成された同軸二重管のノズルにおいて、従来は混合の促進を図るために、外側ノズルの内部に旋回流形成用のガイド羽根を設ける等の方法が主流であった。しかしながら、機械的構造の混合装置は、予め定められた流量条件でのみ有効に機能しない。そこで、外側ノズルの内壁側または内側ノズルの外壁側等に、本発明の気流発生装置40を設け、壁面付近で乱流や縦渦を生成するように気流を発生させる。これにより、内側と外側の境界付近に渦や乱流が発生し、両者間の隔壁がなくなったところで、これらの渦の作用により急激に2流体間で混合が生じる。特に、渦はその軸方向に物質を輸送する機能を有するので、2流体の境界面に垂直な軸を有する渦の生成により、一方の流体が他方の流体中へ効率的に輸送され、混合が促進される。
【0098】
殺菌消毒装置に気流発生装置40を用いる場合にも、上記したガス混合機器に気流発生装置40を用いる場合と同様の構成により、例えば渦や乱流を生成することによる混合促進機構として使用することができる。ガス混合機器では、燃料と空気を混合する場合について説明したが、殺菌消毒装置では、例えば、燃料の代わりに殺菌作用を有するオゾンが、空気の代わりに殺菌処理される気体が同軸二重管のノズルの各流路を流れて混合される。
【0099】
化学プロセス反応器に気流発生装置40を用いる場合には、上記したガス混合機器に気流発生装置40を用いる場合と同様の構成により、従来、物質どうしの拡散が律速条件となっていた化学プロセス反応器において、渦や乱流による強制的混合により化学反応を促進させることができる。また、一般に化学プロセス反応器は、巨大な反応層内で反応を起こさせる場合が多いが、その容器の角部や壁面付近によどみや滞留が生じて全体の反応効率を低下させる場合がある。そのような場合には、よどみや滞留近傍に気流発生装置40を設けることで、化学反応を促進させることができる。また、放電により化学物質から化学反応活性種を生成することができるので、従来の化学プロセスにおいて考慮されてきた入口物質を変化させることができ、例えば触媒反応の低温活性化等が実現可能となる。なお、化学プロセス反応器内に気流発生装置40を用いる場合には、対象の化学物質によって腐食等の化学反応を受け難くするために、誘電体41をセラミックス等の耐蝕材料で構成し、電極42、43を耐食金属等で構成することが好ましい。
【0100】
なお、送風機能は、ガスを搬送するのみでなく、粉体等の輸送に用いることも可能である。
【0101】
(他の機器への応用)
上記したように、本発明に係る気流発生装置40は、翼への応用においては、例えば剥離抑制機能、移動体への応用においては例えば摩擦低減機能、熱交換器においては例えば乱流促進機能、マイクロマシンにおいては例えば推力機能、ガス処理装置においては例えば活性種生成機能、送風機能および拡散・混合機能を備えることについて説明した。ここでは、本発明に係る気流発生装置40を備えることで、騒音や振動の低減、流体の漏洩等を抑制する効果が得られること、さらに気流発生装置40の他の機器への適用について説明する。
【0102】
例えば、自動車の騒音においては、フロントピラーおよびミラーで発生する渦が車室内騒音の主要因であるといわれている。フロントピラーおよびミラーの表面の所定位置に気流発生装置40を設け、車速に応じて気流発生装置40により発生する気流を制御することで、剥離を抑えたり、フロントピラーからの流れとミラーからの流れの方向を制御して両者の干渉を抑えることができる。これによって、フロントピラーおよびミラーで発生する渦による騒音を低減することが可能となる。
【0103】
また、自動車においてサンルーフを開けて走行したときの騒音は、車室が共鳴箱の役割を果たすことで発生するヘルムホルツ共鳴音である。サンルーフの開口部付近の表面の所定位置に気流発生装置40を設け、気流発生装置40により発生する気流を制御することで、開口部付近の流れの周期構造を破壊して、騒音を低減することが可能となる。
【0104】
また、カルマン渦に代表される流体振動は、気流中におかれた構造物に対して振動を引き起こし、その共振状態によっては構造物の破壊に繋がる場合もある。構造物からの流体の剥離点近傍に気流発生装置40を設置し、気流発生装置40により発生する気流を制御することで、剥離を抑えることができる。これによって、構造物における流体振動を低減することができる。
【0105】
また、タービンの翼とケーシングとの隙間等において、作動流体等が漏洩することによる損失が無視できないため、ラビリンスシールや刷子シール等を設け、作動流体等の漏洩を抑制している。しかしながら、上記したような隙間に、ラビリンスシールや刷子シール等を設けることによる、ラビリンスシールや刷子シール等との摩擦やラビリンスシールや刷子シール等の消耗が問題となっている。そこで、気流発生装置40を、タービンの翼とケーシングとの隙間やその近傍に配置し、この隙間から流出する作動流体の方向とは逆方向に、隙間から作動流体に向けて、または隙間に向けて、気流発生装置40から気流を発生させることで、摩擦や消耗等の問題を有することなく、タービンの翼とケーシングとの隙間等からの作動流体の漏洩を抑制することができる。特に、タービンの場合は、この構成を静翼に適用することが有効である。また、気流発生装置40を備えることで、発生する気流を電気的に制御することが可能な漏れ抑制機構としての機能を発揮することができる。
【0106】
また、翼型の特性は、特に臨界レイノルズ数付近では主流の乱れ度に大きく影響を受けることが知られている。そこで、翼型試験を行う風洞等では、実機に近い条件で試験を行なうため、主流に乱れを与えるための様々な工夫がなされている。しかしながら、従来の主流に乱れを与える方法は、主に機械的駆動部を用いて行なうことが多いため、機械的駆動部の駆動時定数より短いスケールの乱れを与えることが不可能であった。そこで、例えば、風洞の上流部分に備えられる整流装置を構成するハニカムの各格子内に、それぞれ独立に制御可能な気流発生装置40を設置し、各格子点に対してランダムな気流を発生させることにより、乱れ度の高い気流を生成することができる風洞を構成することができる。これによって、気流発生装置40を、乱れ発生機構として利用することができ、電圧、周波数、波形、デューティ比などの電気的特性を制御して、最適な気流制御を実現することができる。
【0107】
また、低レイノルズ数領域等で、流れ方向の渦軸を持つ縦渦を発生させることにより、剥離流れの再付着や2次流れによる混合促進等を実現する方法が研究されている。しかしながら、これまでの縦渦発生機構は、微細孔からの噴流によるものや微小突起等の機械的な構造によるものが主流であったため、能動制御が不可能であるなどの欠点があった。そこで、表面に対して垂直な方向の気流成分を発生させるように気流発生装置40を配置することにより、対象物の形状を変えずに、電気的制御のみで自由度の高い縦渦生成機構を実現することができる。
【0108】
気流発生装置40を縦渦発生機構として利用する場合には、表面に対して垂直な方向の気流成分を発生させるように電極を配置することが有効であるが、表面に沿った流れを誘起することでも、電極端付近に上方からの流れを流引する領域ができるため、縦渦の生成が可能となる(後述する図13C参照)。
【0109】
(実施例)
次に、前述した気流発生装置40の様々な機構や作用等を具体的に実施例に基づいて説明する。
【0110】
(大気圧下以外の環境下における気流発生装置の動作)
ここでは、本発明に係る気流発生装置は、例えば減圧環境下等の大気圧下以外の環境における気流制御においても、機械的に気流を制御するよりも、自由度が大きく、最適な気流制御が可能であることについて説明する。
【0111】
減圧環境下における気流制御を必要とする機器としては、例えば宇宙機器がある。宇宙機器の中でも、例えばロケット、宇宙往還機、宇宙輸送機、地球と宇宙の間で移動する機器等においては、気体密度が大きく変化する領域を移動する必要がある。このような広い流体条件に対しての空気力学的特性を、形状の工夫のみで補うことは不可能である。しかしながら、本発明に係る気流発生装置を備え、電気的制御を行なうことでこれを可能にすることができる。
【0112】
放電の形態は、空気密度によって変化するが、各空気密度における最適な電圧制御をすることで、様々な密度条件において最適な気流制御が実現可能となる。なお、減圧環境下での利用用途は、宇宙機器に限定されるものではなく、半導体等の各種製造プロセスや、蒸気タービンの最終段等も含まれる。また、大気圧以外での気流制御には、減圧環境下に限らず、蒸気タービンの初段のように加圧環境下における気流制御も考えられるが、圧力条件で決まる放電形態に応じた電圧制御をすることで、減圧状態と同様の最適な制御が可能となる。
【0113】
図11Aは、圧力条件を変えたときの放電の形態を観察するための気流発生装置を模式的に示した平面図である。図11Bおよび図11Cは、圧力条件を変えたときの放電の形態を示す図である。なお、ここでは、気流発生装置として図1および図2に示す形態の気流発生装置10を用い、双方の電極21、22を平板で構成した。
【0114】
図11Aに示すように、気流発生装置10は、電極21として、幅L1(気流の発生方向の長さ)が10mm、横M1が80mm、厚さが0.1mmの銅箔を用い、電極22として、幅L2(気流の発生方向の長さ)が30mm、横M2が120mm、厚さが0.1mmの銅箔を用いた。そして、双方の電極の間には、誘電体20として、幅L3(気流の発生方向の長さ)が120mm、横M3が130mm、厚さが2mmのアルミナ平板を用い、電極21と電極22との気流発生方向の間の距離Nを0mmとした。また、放電部の周囲の圧力を1027hPaまたは100hPaとし、電極に3kHz(7W)の交番電圧を印加した。
【0115】
図11Bおよび図11Cに示すように、放電部の周囲の圧力が1027hPaの場合の放電120と100hPaの場合の放電120を比較すると、圧力が低い100hPaの場合の方が、放電120が広がることがわかった。
【0116】
ここで、細いひも状であった放電120は互いに集合して広がり、面状に伸びるようになる。面状の放電面の中央付近では、「n(正イオンの密度)=n(電子または負イオンの密度)」となり力は相殺されるが、放電面の境界付近はシースとよばれ、「n≠n」となるため、中性分子への運動量移行が起こり気流が発生する。
【0117】
このように本発明の電極構造を有する気流発生装置10は、放電形態の差異はあるが、大気圧以外の環境下においても、放電することができることが明らかとなった。これによって、大気圧以外の環境下においても、気流を発生させることができ、気流発生装置として機能することが明らかとなった。気流発生装置としての機能の度合い、すなわち発生させる気流の特性は、電圧、周波数、波形、デューティ比などの電気的特性のみで制御することができるため、流速のみならず圧力も複雑に変化するような流体機器に対して、有効に気流発生装置として機能することがわかった。
【0118】
(空気以外のガス環境下における気流発生装置の動作)
次に、本発明における気流発生装置は、空気以外のガス環境下においても放電を形成することができることを説明する。
【0119】
図12は、パッシェンカーブと呼ばれ、各ガス種における火花電圧を示す図である。火花電圧は、ガス種に応じて圧力Pと電極間距離dの積Pdの関数として表される。このようにガスの種類によって放電を発生させるために必要な電圧が異なる。また、ガス種によっては低気圧での放電と同様に放電が広がる形態になるものもある。本発明に係る気流発生装置では、ガスの種類に応じて電極に印加する電圧、周波数、波形、デューティ比などの電気的特性のみを変えることで、そのガス種に応じた放電をさせ、気流を発生させることができる。すなわち、流速や圧力に加えてガス成分も変化するような流体機器に対して、有効に気流発生装置として機能する。
【0120】
ここで、空気以外のガス環境下における利用用途としては、例えば半導体等の各種製造プロセス、蒸気タービン、バイオガスプロセス、地球以外の大気下で移動する宇宙機器等が挙げられる。
【0121】
(気流発生装置によって発生した気流の観測)
図13Aは、気流発生装置10を模式的に示した断面図である。図13Bは、一様流の高さ方向の流速分布をスモークワイヤ法にて観測した結果を示す図である。図13Cは、一様流中において、気流発生装置10で発生した気流の高さ方向の流速分布をスモークワイヤ法にて観測した結果を示す図である。
【0122】
図13Aに示すように、気流発生装置10は、電極21として、幅L1(気流の発生方向の長さ)が10mm、横が110mm、厚さt1が0.1mmの銅箔を用い、電極22として、幅L2(気流の発生方向の長さ)が10mm、横が100mm、厚さt2が0.1mmの銅箔を用いた。そして、双方の電極の間には、誘電体20として、幅L3(気流の発生方向の長さ)が120mm、横が120mm、厚さt3が1mmの石英ガラス平板を用い、電極21と電極22との気流発生方向の間の距離Nを0mmとした。また、電極には、3kHzで9kVの両極性パルスを印加した。
【0123】
スモークワイヤ130は、直径が0.2mmのニクロム線を用い、ニクロム線に発煙剤として流動パラフィンを塗布した。スモークワイヤ130には、250Vの電圧を10msの間印加した。そして、電圧印加から遅延時間をあけて、発光時間が25μsのストロボを発光させた。また、一様流は、流速が0.7m/sの空気流である。
【0124】
図13Bに示すように、気流発生装置10を作動させないときには、誘電体20の平板表面で速度が0になる速度分布が観測された。一方、図13Cに示すように、気流発生装置10を作動させ、プラズマ135を発生させると、誘電体20の平板表面の近傍の領域に、境界層の速度分布を十分に変化させる噴流136が形成された。また、この噴流136に流引するように、上方から下方に向かう流れ137が形成されていることがわかった。なお、ここでは図示しないが、電極21と電極22との気流発生方向の間の距離Nが0mmでなくとも、バリア放電が生成することによって、同様の流れが形成することを観測した。
【0125】
(気流発生装置によって発生した気流の速度分布の計測)
図14Aは、気流発生装置10を模式的に示した断面図である。図14Bは、気流発生装置10で発生した気流の速度分布を示す図である。
【0126】
図14Aに示すように、気流発生装置10は、電極21として、幅L1(気流の発生方向の長さ)が10mm、横M1が110mm、厚さt1が0.1mmの銅箔を用い、電極22として、幅(気流の発生方向の長さ)が10mm、横M2が100mm、厚さが0.1mmの銅箔を用いた。そして、双方の電極の間には、誘電体20として、幅L3(気流の発生方向の長さ)が120mm、横が120mm、厚さt3が1mmのアルミナ平板を用いた。また、図14Aに示すように、電極22は、電極22の気流発生方向側の端面22aが誘電体20の気流発生方向側の端面20aと同一平面となるように配置されている。一方、電極21は、電極21の気流発生方向側の端面21aが、誘電体20の端面20aから気流発生方向とは逆方向に10mmの位置となるように配置されている。
【0127】
また、図14Aに示すように、電極21の端面21aから気流発生方向に15mm下流の位置で、かつ電極22の長手方向(横M1方向)の中央に、風速素子141が電極22の長手方向と平行になるように熱線流速計140を配置し、熱線流速計140を上下方向(気流の発生方向と垂直方向)に移動させて、その方向の速度分布を測定した。なお、熱線流速計140は、風速素子141をプローブ(図示しない)内に収容した状態で構成されている。ここで、熱線流速計を、電極21の端面21aから気流発生方向に15mm下流の位置に配置したのは、電極からの電気的絶縁を保つためである。なお、電極には、周波数が3kHzで、電圧が4.5kV(電力0.97W)、5kV(電力1.04W)、6kV(電力2.93W)、7kV(電力5.09W)、8kV(電力9.6W)、9kV(電力11.6W)の交番電圧を印加した。
【0128】
図14Bに示すように、いずれの電圧条件においても、気流の速度分布は、誘電体20の平板表面から約1mmの高さにピークを有し、噴流を形成することがわかった。また、印加電圧が大きい方が、放電入力電力が増加し、発生する気流の流速が大きいことがわかった。
【0129】
(翼における剥離抑制効果)
図15は、翼表面上における流れの剥離の現象を説明するための断面図である。図15に示すように、翼面近傍における速度分布は、表面150で速度が0であり、境界層151内では粘性により速度勾配を生じ、境界層の外側では、一様な速度Uとなっている。境界層の厚さが厚くなってくると翼の表面150付近で逆流領域152が現れ、流れが剥離する。そこで、逆流領域152が現れる領域、または逆流領域152が現れる領域近傍の翼表面上に、本発明に係る気流発生装置を設けて、境界層の速度分布を変化させることにより、剥離を抑制することが可能になる。具体的には、逆流領域が形成されるのを抑制するように、逆流領域における流れの方向に対向する流れを形成するように、翼表面上に気流発生装置を設ける。
【0130】
図16は、翼表面上の所定位置における翼面圧力を計測した結果を示す図である。この翼面圧力の計測は、基準翼(NACA0015、翼弦長90mm、翼幅100mm)の表裏表面の所定の位置に静圧計測孔を複数設け、流速が20m/sの空気流の一様流中における表面の静圧分布を測定した。この基準翼の前縁部に、本発明に係る気流発生装置を配設した。配設した気流発生装置において、上流側の電極として、幅(気流の発生方向の長さ)が2mm、横が90mm、厚さが0.1mmの銅箔を用い、下流側の電極として、幅(気流の発生方向の長さ)が10mm、横が90mm、厚さが0.1mmの銅箔を用いた。また、誘電体として、幅(気流の発生方向の長さ)が35mm、横が100mm、厚さが0.1mmのポリイミドフィルムを用いた。電源は3kHzの両極性パルス電源を用い、電圧が3kV(放電入力電力が約0.4W)を印加した。なお、気流発生装置によって発生する気流は、上流側の電極から一様流の下流方向に基準翼の表面に沿って発生する。また、基準翼の迎角を20度に設定した。なお、図16において、横軸は、静圧計測孔が設けられた翼弦方向の位置Xと翼弦長Cとの比(X/C)で示している。
【0131】
図16に示すように、気流発生装置を作動し気流を発生させると(図16のONのとき)、圧力分布は変化し、特に背側(翼上面)の圧力分布は大きく変化している。また、背側の圧力分布から、気流発生装置を作動していないとき(図16のOFFのとき)には、静圧が上昇しているので流れが剥離していることがわかる。一方、気流発生装置を作動し気流を発生させたとき(図16のONのとき)には、静圧が減少しているので、流れの剥離が抑制され、流れが付着していることがわかった。
【0132】
(電圧の調整方法)
前述したように、電圧の調整方法については、例えば、電圧波高値、電圧周波数、電圧波形、デューティ比等を調整する方法が適用できる。ここでは、これらの電圧の調整を行なったときの気流発生装置から発生する気流の速度との関係について説明する。
【0133】
(1)電圧波高による制御例
前述したように、図14Bには、周波数が3kHzで、電圧が4.5kV(電力0.97W)、5kV(電力1.04W)、6kV(電力2.93W)、7kV(電力5.09W)、8kV(電力9.6W)、9kV(電力11.6W)の交番電圧を印加したときの、気流発生装置10で発生した気流の速度分布が示されている。
【0134】
図14Bに示すように、印加電圧が増加して放電入力電力が増加した方が、発生する気流の流速が大きいことがわかった。このように、周波数を一定にして電圧波高を変化させることで、発生する気流の速さを制御できることがわかった。
【0135】
この制御は、電圧を変化させるという基本的な制御方式であるため、制御シーケンスを単純化して機器コストを削減したい場合等に好適である。
【0136】
(2)電圧周波数による制御例
図17は、電圧波高値を一定にして電圧周波数を変化させたときの速度分布の最大値を示す図である。なお、ここで用いた気流発生装置は、図14Aに示した気流発生装置10と電極および誘電体のサイズ等が異なるのみであり、速度の計測方法は同じであるので、ここで使用した気流発生装置の構成を、図14Aの気流発生装置10を参照して説明する。
【0137】
気流発生装置10は、電極21として、幅L1(気流の発生方向の長さ)が2mm、横M1が110mm、厚さt1が0.1mmの銅箔を用い、電極22として、幅(気流の発生方向の長さ)が10mm、横M2が100mm、厚さが0.1mmの銅箔を用いた。そして、双方の電極の間には、誘電体20として、幅L3(気流の発生方向の長さ)が35mm、横が120mm、厚さt3が0.1mmのポリイミドフィルムを用いた。また、図14Aに示すように、電極22は、電極22の気流発生方向側の端面22aが誘電体20の気流発生方向側の端面20aと同一平面となるように配置されている。一方、電極21は、電極21の気流発生方向側の端面21aが、誘電体20の端面20aから気流発生方向とは逆方向に10mmの位置となるように配置されている。また、図14Aに示すように、電極21の端面21aから気流発生方向に15mm下流の位置で、かつ電極22の長手方向(横M1方向)の中央に、風速素子141が電極22の長手方向と平行になるように熱線流速計140を配置し、熱線流速計140を上下方向(気流の発生方向と垂直方向)に移動させて、その方向の速度分布を測定した。
【0138】
本計測では、電圧波高値(4.2、4.6、5kV)を一定にして、各電圧波高値に対して電圧周波数を2、4、6、8、10kHzに変化させたときの速度分布を計測し、その最大値を図17に示している。なお、図17の横軸は、各電圧波高値に対して電圧周波数を2、4、6、8、10kHzに変化させたときの放電入力電力値で示している。
【0139】
図17に示すように、各電圧において、電圧周波数が増加して放電入力電力が増加した方が、発生する気流の最大流速が大きいことがわかった。また、同じ放電入力電力であっても、印加される電圧が高い方が、発生する気流の最大流速が大きいことがわかった。このように、電圧波高値を一定にして電圧周波数を変化させることで、発生する気流の速さを制御することができることがわかった。
【0140】
この制御は、印加電圧を一定にした制御が可能となるため、絶縁設計の簡略化等によりコストを削減したい場合等に好適である。
【0141】
(3)電圧波形による制御例
図18は、電圧波高値および電圧周波数を一定としたときの立ち上がり時間比を変化させたときの速度分布の最大値を示す図である。
【0142】
ここで使用された気流発生装置は、上記した電圧周波数による制御例で用いた気流発生装置と同じである。また、気流発生装置から発生した気流速度の計測方法も、上記した電圧周波数による制御例の場合と同じである。なお、ここでは、電圧周波数を1kHzとし、電圧波高値を4.6(電力1.6W)、4.8(電力1.9W)、5(電力2.6W)、5.2(電力4W)とした。
【0143】
ここで、立ち上がり時間比とは、印加電圧波形の立ち上がり時間の半周期に占める割合をいい、図18に示すように、立ち上がり時間をtとしたとき、立ち上がり時間tの半周期(500ms)に対する割合(t/500)をいう。
【0144】
図18に示すように、各電圧に応じて、立ち上がり時間比を変化させると気流の速度分布の最大値が変化することがわかった。このように、電圧波高値、周波数を一定にして電圧波形を変化させることで、発生する気流の速度を制御することができることがわかった。また、交番電圧の立ち上がり時間比が小さいと発生する気流の速度が低下するので、立ち上がり時間比は0.5以上であることが好ましいことがわかった。また、この制御は、機器の絶縁設計やノイズ特性を最適化する場合に好ましい方法である。
【0145】
(4)デューティ比による制御例
図19は、電圧波高値、電圧周波数および電圧波形を一定とし、電圧を断続的に印加してデューティ比を変化させたときの速度分布の最大値を示す図である。
【0146】
ここで使用された気流発生装置は、上記した電圧周波数による制御例で用いた気流発生装置と同じである。また、気流発生装置から発生した気流速度の計測方法も、上記した電圧周波数による制御例の場合と同じである。なお、ここでは、電圧波高値を8kV、電圧周波数を3kHzとした。ここで、デューティ比とは、図19に示すように、電圧を断続的に印加する際の1周期の時間t2に対する電圧を印加している時間t1の割合(t1/t2)をいう。
【0147】
図19に示すように、電圧波高値、周波数、電圧波形を一定にしてデューティ比を変化させることで、発生する気流の最大流速を制御することができることがわかった。この制御は、電圧波高値、周波数、電圧波形を一定に制御するため、電源の低コスト化やコンパクト化を図りたい場合等に好適である。
【0148】
(電源構造)
図20は、前述した、トランスを有し、トランスの1次巻線からトランスの漏れインダクタンスと放電部の静電容量を含んで形成される共振回路にステップ電圧を与えることにより放電部に共振電圧を印加する方式の高圧電源を本発明に係る気流発生装置に用いたときの放電の電流電圧波形を示す図である。なお、この場合における電圧周波数は3kHzであり、放電入力電力は1Wとした。
【0149】
図20に示すように、この電源を用いることで、ひげ状の電流パルスの波形により、ストリーマ放電が生じていることがわかった。
【0150】
(電極構造)
ここでは、前述したように、電極21を棒状とした場合の直径、または電極21を平板状とした場合の幅(気流が発生する方向の長さ)は、誘電体20の厚さをtとする場合、20t以下、さらには2t以下が好適である理由について説明する。なお、ここで用いた気流発生装置は、図14Aに示した気流発生装置10と電極および誘電体のサイズ等が異なるのみであり、速度の計測方法は同じであるので、ここで使用した気流発生装置の構成を、図14Aの気流発生装置10を参照して説明する。
【0151】
気流発生装置10は、電極21として、幅L1(気流の発生方向の長さ)が2mmまたは10mm、横M1が110mm、厚さt1が0.1mmのステンレス製の平板または銅箔を用い、電極22として、幅(気流の発生方向の長さ)が10mm、横M2が100mm、厚さが0.1mmのステンレス製の平板または銅箔を用いた。そして、双方の電極の間には、誘電体20として、幅L3(気流の発生方向の長さ)が120mm、横が120mm、厚さt3が0.1〜3mmの石英、アルミナ、テフロン(登録商標)、ポリイミド製の平板を用いた。また、図14Aに示すように、電極22は、電極22の気流発生方向側の端面22aが誘電体20の気流発生方向側の端面20aと同一平面となるように配置されている。一方、電極21は、電極21の気流発生方向側の端面21aが、誘電体20の端面20aから気流発生方向とは逆方向に10mmの位置となるように配置されている。また、図14Aに示すように、電極21の端面21aから気流発生方向に15mm下流の位置で、かつ電極22の長手方向(横M1方向)の中央に、風速素子141が電極22の長手方向と平行になるように熱線流速計140を配置し、熱線流速計140を上下方向(気流の発生方向と垂直方向)に移動させて、その方向の速度分布を測定した。なお、電極には、周波数が3kHzで、電圧が5kV〜9kVの交番電圧を印加した。
【0152】
図21は、電極21の幅L1と誘電体20の厚さt3の比L1/t3と、エネルギ変換効率との関係を示す図である。ここで、エネルギ変換効率ηは、計測された速度分布に基づいて高さ方向に気流のエネルギを積分した積分値Eを、放電入力電力PWで除したもの(E/PW)である。図21に示すように、L1/t3とエネルギ変換効率との間には、相関関係があることがわかった。そして、実験を行ったL1/t3の値が20以下の範囲では、十分に利用可能なエネルギー変換効率が得られており、特にL1/t3の値が2以下でエネルギ変換効率ηが急激に増加することがわかった。
【0153】
(誘電体構造)
ここでは、前述したように、誘電体20の厚さをt3、比誘電率をεとすると、ε/t3が20以下であることが好適であることについて説明する。なお、ここで用いた気流発生装置は、図14Aに示した気流発生装置10と電極および誘電体のサイズ等が異なるのみであり、速度の計測方法は同じであるので、ここで使用した気流発生装置の構成を、図14Aの気流発生装置10を参照して説明する。
【0154】
気流発生装置10は、電極21として、幅L1(気流の発生方向の長さ)が2mm、横M1が110mm、厚さt1が0.1mmのステンレス製の平板を用い、電極22として、幅(気流の発生方向の長さ)が10mm、横M2が100mm、厚さが0.1mmのステンレス製の平板を用いた。そして双方の電極の間には、誘電体20として、幅L3(気流の発生方向の長さ)が120mm、横が120mm、厚さt3が0.1〜3mmのアルミナ、テンパックス、石英、テフロン(登録商標)、ポリイミド製の平板を用いた。また、図14Aに示すように、電極22は、電極22の気流発生方向側の端面22aが誘電体20の気流発生方向側の端面20aと同一平面となるように配置されている。一方、電極21は、電極21の気流発生方向側の端面21aが、誘電体20の端面20aから気流発生方向とは逆方向に10mmの位置となるように配置されている。また、図14Aに示すように、電極21の端面21aから気流発生方向に15mm下流の位置で、かつ電極22の長手方向(横M1方向)の中央に、風速素子141が電極22の長手方向と平行になるように熱線流速計140を配置し、熱線流速計140を上下方向(気流の発生方向と垂直方向)に移動させて、その方向の速度分布を測定した。なお、電極には、周波数が3kHzで、電圧が9kVの交番電圧を印加した。
【0155】
図22は、比誘電率εと誘電体20の厚さt3との比ε/t3と、エネルギ変換効率との関係を示す図である。ここで、エネルギ変換効率ηは、計測された速度分布に基づいて高さ方向に気流のエネルギを積分した積分値Eを、放電入力電力PWで除したもの(E/PW)である。図22に示すように、誘電体20の厚さt3と比誘電率εとの比ε/t3と、エネルギ変換効率ηとの間には、相関関係があることがわかった。そして、ε/t3の値が20以下でエネルギ変換効率ηが急激に増加することがわかった。
【0156】
以上、本発明を実施の形態により具体的に説明したが、本発明はこれらの実施の形態にのみ限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【符号の説明】
【0157】
10…気流発生装置、20…誘電体、21,22…電極、23…ケーブル、24…放電用電源、30…陰極向けストリーマ、31…陽極向けストリーマ、35…気流。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体からなる誘電体を介して配置された第1の電極と第2の電極との間に電圧を印加して放電させることにより気流を発生させる気流発生ユニットを翼面の所定の位置に備え、揚力を発生する翼であって、
前記誘電体が、ブロック状の誘電体ブロックで構成され、
前記第1の電極が、前記誘電体ブロックの一方の表面から露出して設けられ、または前記誘電体ブロックに埋設され、
前記第2の電極が、前記第1の電極から前記誘電体ブロックの表面と水平な方向にずらして前記第1の電極と離間され、かつ前記誘電体ブロックに埋設されていることを特徴とする翼。
【請求項2】
前記誘電体ブロックの比誘電率εと、前記誘電体ブロックの、気流を発生させる方向と直交する厚さt(mm)との比(ε/t)が20/mm以下であることを特徴とする請求項1記載の翼。
【請求項3】
前記第1の電極と前記第2の電極との間に印加する交番電圧の半周期の時間に対する、電圧の立ち上がりの時間の割合が0.5以上であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の翼。
【請求項4】
固体からなる誘電体を介して配置された第1の電極と第2の電極との間に電圧を印加して放電させることにより気流を発生させる気流発生装置において、
前記第1の電極が、前記誘電体の一方の表面から露出して設けられ、または前記誘電体に埋設され、
前記第2の電極が、前記第1の電極から前記誘電体の表面と水平な方向にずらして前記第1の電極と離間され、かつ前記誘電体の他方の表面から露出して設けられ、または前記誘電体に埋設され、
前記第1の電極の、気流を発生させる方向の幅Lと、前記誘電体の、気流を発生させる方向と直交する厚さtとの比(L/t)が2以下であることを特徴とする気流発生装置。
【請求項5】
固体からなる誘電体を介して配置された第1の電極と第2の電極との間に電圧を印加して放電させることにより気流を発生させる気流発生装置を、作動流体である気体と熱伝達を行う伝熱面の所定の位置に備える熱交換装置であって、
前記第1の電極が、前記誘電体の一方の表面から露出して設けられ、または前記誘電体に埋設され、
前記第2の電極が、前記第1の電極から前記誘電体の表面と水平な方向にずらして前記第1の電極と離間され、かつ前記誘電体の他方の表面から露出して設けられ、または前記誘電体に埋設されていることを特徴とする熱交換装置。
【請求項6】
固体からなる誘電体を介して配置された第1の電極と第2の電極との間に電圧を印加して放電させることにより気流を発生させる気流発生装置を、駆動機構として表面の所定の位置に備え、任意の方向に移動可能なマイクロマシンであって、
前記第1の電極が、前記誘電体の一方の表面から露出して設けられ、または前記誘電体に埋設され、
前記第2の電極が、前記第1の電極から前記誘電体の表面と水平な方向にずらして前記第1の電極と離間され、かつ前記誘電体の他方の表面から露出して設けられ、または前記誘電体に埋設されていることを特徴とするマイクロマシン。
【請求項7】
放電により活性種を生成する活性種生成機構、被処理ガスを処理するガス処理機構および前記活性種生成機構で生成された活性種を前記ガス処理機構に送風する送風機構を有し、
前記活性種生成機構および前記送風機構の双方の機構が、活性種を生成する活性種生成部に備えられた、固体からなる誘電体を介して配置された第1の電極と第2の電極との間に電圧を印加して放電させることにより気流を発生させる気流発生装置で構成されたガス処理装置であって、
前記第1の電極が、前記誘電体の一方の表面から露出して設けられ、または前記誘電体に埋設され、
前記第2の電極が、前記第1の電極から前記誘電体の表面と水平な方向にずらして前記第1の電極と離間され、かつ前記誘電体の他方の表面から露出して設けられ、または前記誘電体に埋設されていることを特徴とするガス処理装置。
【請求項8】
前記第1の電極の、気流を発生させる方向の幅Lと、前記誘電体の、気流を発生させる方向と直交する厚さtとの比(L/t)が2以下であることを特徴とする請求項5記載の熱交換装置。
【請求項9】
前記第1の電極の、気流を発生させる方向の幅Lと、前記誘電体の、気流を発生させる方向と直交する厚さtとの比(L/t)が2以下であることを特徴とする請求項6記載のマイクロマシン。
【請求項10】
前記第1の電極の、気流を発生させる方向の幅Lと、前記誘電体の、気流を発生させる方向と直交する厚さtとの比(L/t)が2以下であることを特徴とする請求項7記載のガス処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【図13C】
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【図14A】
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【図14B】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図11B】
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【図11C】
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【公開番号】特開2012−189215(P2012−189215A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−87701(P2012−87701)
【出願日】平成24年4月6日(2012.4.6)
【分割の表示】特願2007−120792(P2007−120792)の分割
【原出願日】平成19年5月1日(2007.5.1)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】