説明

耐欠損性にすぐれたダイヤモンド被覆工具

【課題】ダイヤモンド皮膜がすぐれた耐欠損性を発揮するダイヤモンド被覆工具を提供する。
【解決手段】超硬合金焼結体からなる工具基体表面に、ダイヤモンド皮膜を形成したダイヤモンド被覆工具において、ダイヤモンド結晶粒の結晶方位について、表面研磨面の法線方向に対して<111>、<110>がなす傾斜角の分布および表面研磨面の法線と直交する方向に対して<111>、<110>がなす傾斜角の分布を求めた場合、それぞれが半価幅10度以内のピークを示すような二軸配向ドメインが、ダイヤモンド結晶粒全面積の20%以上存在する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、炭化タングステン基超硬合金製の工具基体にダイヤモンド皮膜を被覆したダイヤモンド被覆工具に関し、特に、金属材料よりも比強度、比剛性の高いCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics:炭素繊維強化プラスチック)あるいは溶着性の高いAl合金等の高速切削に際し、長期の使用に亘って、シャープな切刃が維持されるとともにバリ発生が少なく、すぐれた耐欠損性とすぐれた耐摩耗性を発揮するダイヤモンド被覆工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、炭化タングステン基(WC基)超硬合金または炭窒化チタン基(TiCN基)サーメットなどの工具基体に、ダイヤモンド皮膜を被覆したダイヤモンド被覆工具が知られており、例えば、工具基体表面に、ダイヤモンドの結晶成長の起点となる核付着工程およびダイヤモンドを結晶成長させる結晶成長工程とを繰り返し行うことにより、結晶粒径が微細なダイヤモンド皮膜を被覆したダイヤモンド被覆工具が知られており、この被覆工具を用いたAl合金の切削加工で、すぐれた面精度を得られることが知られている。
また、ダイヤモンド皮膜の結晶配向性に着目し、ダイヤモンド皮膜表面の結晶面を、<111>あるいは<110>に配向させることにより、耐溶着性、耐欠損性、耐摩耗性を高めることも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2603257報明細書
【特許文献2】特開平9−71498号公報
【特許文献2】特開2006−130578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年の切削加工装置のFA化はめざましく、一方で切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴って、切削条件はますます高速化している。上記の従来ダイヤモンド被覆工具は、これを通常条件での切削加工に用いた場合には特段の問題は生じないが、これを、一般の金属材料に比して、比強度、比剛性にすぐれるCFRPの高速切削に用いた場合には、CFRPは炭素繊維とエポキシ系樹脂の複合材であるため工具摩耗が激しいばかりか欠損が生じやすく、工具寿命が短命であるという問題点があった。
また、従来ダイヤモンド被覆工具を、軟質で溶着性の高いAl合金等の高速切削に用いた場合には、切削時の高熱発生により、溶着性の高い被削材(Al合金)の切粉が、工具切刃へ溶着することにより、シャープな切刃を維持することが困難であるばかりか、欠損が生じやすくなるという問題点があった。
この結果、CFRP、Al合金等の高速切削加工に用いた場合、ダイヤモンド被覆工具の寿命は短いばかりか、さらに、被削材のバリ発生のために仕上げ面精度が粗くなり、寸法精度も劣るという問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明者らは、上述のような観点から、特に難削材であるCFRPあるいは溶着性の高いAl合金等の高速切削加工で、シャープな切刃を維持しつつ、バリの発生を抑制し、長期の使用に亘って、すぐれた耐欠損性と耐摩耗性を備えたダイヤモンド被覆工具を開発すべく鋭意研究を行った結果、以下の知見を得た。
【0006】
即ち、工具基体の表面に、例えば、ダイヤモンド気相合成法によって、
フィラメント温度:2050〜2350℃
フィラメント間隔:10〜30mm
基板温度:750〜950℃
反応圧力:2.66〜10.64kPa(20〜80Torr)
反応ガス:CH:1.0〜4.0vol% H:残
の範囲に含まれる特定の条件でダイヤモンド皮膜を形成した場合には、このダイヤモンド被覆工具は、シャープな切刃を維持しつつ、バリの発生が少なく、長期の使用に亘って、すぐれた耐欠損性と耐摩耗性を発揮するようになることを見出したのである。
【0007】
そして、上記ダイヤモンド皮膜について、電子線後方散乱回折装置(EBSD)を用いて、表面研磨面の測定範囲内に存在するダイヤモンド結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶方位<111>、<110>がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、前記法線方向となす角度が0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分して各区分内に存在する度数を集計し、また、同様に、表面研磨面の法線と直交する任意の方向に対するダイヤモンド層の結晶粒の結晶方位<111>、<110>がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、前記法線と直交する方向となす角度が0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分して各区分内に存在する度数を集計したとき、ダイヤモンド皮膜の表面研磨面の法線に対する結晶方位<111>、<110>の測定傾斜角の分布は、特定傾斜角区分に分布のピークが存在し、かつ、該ピークの半価幅は10度以内であり、また、表面研磨面の法線と直交する任意の方向に対する結晶方位<111>、<110>の測定傾斜角の分布も、ある特定傾斜角区分に分布ピークが存在し、該ピークの半価幅は10度以内であり、しかも、このような条件を同時に満たす幅0.1〜1μmの二軸配向ドメインが、ダイヤモンド結晶粒全面積の20%以上存在していることを見出したのである。
【0008】
さらに、このような二軸配向ドメインを有するダイヤモンド皮膜を被覆形成してなるダイヤモンド被覆工具は、難削材であるCFRP或いは溶着性の高いAl合金等の高速切削加工で、シャープな切刃を維持しつつ、バリの発生を抑制し、長期の使用に亘って、すぐれた耐欠損性と耐摩耗性を発揮することを見出したのである。
【0009】
この発明は、上記知見に基づいてなされたものであって、
「 超硬合金焼結体からなる工具基体の表面に、10〜30μmの膜厚のダイヤモンド皮膜が被覆されたダイヤモンド被覆工具において、
電子線後方散乱回折装置を用いて個々のダイヤモンド結晶粒の結晶方位を解析した場合、
(a)表面研磨面の法線方向に対する前記結晶粒の結晶方位<111>がなす傾斜角および表面研磨面の法線と直交する方向に対する前記結晶粒の結晶方位<111>がなす傾斜角を測定し、それぞれの測定傾斜角の分布を求めた時、特定傾斜角区分に半価幅10度以内のピークが存在し、かつ、
(b)表面研磨面の法線方向に対する前記結晶粒の結晶方位<110>がなす傾斜角および表面研磨面の法線と直交する方向に対する前記結晶粒の結晶方位<110>がなす傾斜角を測定し、それぞれの測定傾斜角の分布を求めた時、特定傾斜角区分に半価幅10度以内のピークが存在し、
上記(a)、(b)を同時に満足する幅0.1〜1μmの二軸配向ドメインが、ダイヤモンド結晶粒全面積の20%以上存在することを特徴とするダイヤモンド被覆工具。」
に特徴を有するものである。
【0010】
つぎに、この発明のダイヤモンド被覆工具の被覆層について説明する。
【0011】
結晶方位<111>の配向性を有するダイヤモンド皮膜は、例えば、
フィラメント温度 2200〜2400℃、
フィラメント−基板間隔 10〜30mm、
基板温度 850〜1000℃、
反応圧力 1.33〜13.3kPa(10〜100Torr)、
反応ガス CH:0.5〜3.0vol%,H:残、
という条件の化学蒸着で形成することができる。
また、結晶方位<110>の配向性を有するダイヤモンド皮膜は、例えば、
フィラメント温度 2000〜2200℃、
フィラメント−基板間隔 10〜30mm、
基板温度 700〜850℃、
反応圧力 1.33〜13.3kPa(10〜100Torr)、
反応ガス CH:2.0〜6.0vol%,H:残、
という条件の化学蒸着で形成することができる。
【0012】
しかし、本発明は、電子線後方散乱回折装置を用いて個々のダイヤモンド結晶粒の結晶方位を解析した場合、
(a)表面研磨面の法線方向に対する前記結晶粒の結晶方位<111>がなす傾斜角および表面研磨面の法線と直交する方向に対する前記結晶粒の結晶方位<111>がなす傾斜角を測定し、それぞれの測定傾斜角の分布を求めた時、特定傾斜角区分に半価幅10度以内のピークが存在し、かつ、
(b)表面研磨面の法線方向に対する前記結晶粒の結晶方位<110>がなす傾斜角および表面研磨面の法線と直交する方向に対する前記結晶粒の結晶方位<110>がなす傾斜角を測定し、それぞれの測定傾斜角の分布を求めた時、特定傾斜角区分に半価幅10度以内のピークが存在し、
上記(a)、(b)を同時に満足する幅0.1〜1μmの二軸配向ドメインが、ダイヤモンド結晶粒全面積の20%以上存在するダイヤモンド皮膜を形成するものであって、このために、例えば、
結晶方位<111>の配向性を有する皮膜であれば、
フィラメント温度 2250〜2350℃、
フィラメント−基板間隔 15〜25mm、
基板温度 850〜950℃、
反応圧力 2.66〜10.64kPa(20〜80Torr)、
反応ガス CH:1.0〜2.5vol%,H:残、
という限定された条件でダイヤモンド皮膜を蒸着形成する。
【0013】
そして、上記特定の条件で形成されたダイヤモンド皮膜について、電子線後方散乱回折装置(EBSD)を用いて個々の結晶粒の結晶方位を解析した。
すなわち、表面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶方位<111>がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、前記法線方向となす角度が0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分して各区分内に存在する度数を集計し、また、同様に、表面研磨面の法線と直交する任意の方向に対する前記ダイヤモンド結晶粒の結晶方位<111>がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、前記法線と直交する任意の方向となす角度が0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分して各区分内に存在する度数を集計したとき、ダイヤモンド結晶粒の表面研磨面の法線に対する結晶方位<111>の測定傾斜角の分布は、特定傾斜角区分に分布ピークが存在し、該分布ピークは半価幅10度以内であり、さらに、表面研磨面の法線と直交する方向に対する結晶方位<111>の測定傾斜角の分布も、ある特定傾斜角区分にやはり半価幅10度以内の分布ピークが存在し、しかも、このような測定傾斜角分布を示す幅0.1〜1μmの二軸配向ドメインが、ダイヤモンド結晶粒全面積の20%以上存在している。
【0014】
さらに、上記ダイヤモンド皮膜について、前記<111>の場合と同様に、表面研磨面の法線方向およびこれと直交する方向に対して、各結晶粒の結晶方位<110>がなす傾斜角を電子線後方散乱回折装置(EBSD)を用いて測定したところ、表面研磨面の法線方向およびこれと直交する方向に対する測定傾斜角は、いずれも、特定傾斜角区分に半価幅10度以内の分布ピークが存在し、しかも、このような測定傾斜角分布を示す幅0.1〜1μmの二軸配向ドメインが、ダイヤモンド結晶粒全面積の20%以上存在していることがわかった。
このことから、本発明のダイヤモンド皮膜は、二軸配向ドメインを有していることから、優れた靭性を備えることがわかる。
【0015】
本発明では、ダイヤモンド皮膜の膜厚を、10〜30μmとしているが、ダイヤモンド皮膜の膜厚が10μm未満では長期の使用に亘っての耐摩耗性を確保することができないばかりか、厚膜化されていないために長寿命化を図ることもできず、一方、膜厚が30μmを超えると、ダイヤモンド皮膜の強度が低下するとともに、皮膜表面の平滑性も低下するため、切刃の欠損や切削時のバリが発生しやすくなるので、ダイヤモンド皮膜の膜厚を、10〜30μmと定めた。
【発明の効果】
【0016】
この発明のダイヤモンド被覆工具は、ダイヤモンド結晶粒が20%以上の二軸配向ドメインを有し、その結果、CFRP、Al合金等の高速切削加工に用いた場合であっても、シャープな切刃を維持したまま、バリを発生することもなく、すぐれた耐欠損性および耐摩耗性を長期の使用に亘って発揮するものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
つぎに、この発明のダイヤモンド被覆工具を実施例により具体的に説明する。
ここでは、ダイヤモンド被覆工具をエンドミルに適用した場合について述べるが、本発明はこれに限定されるものではなく、インサート、ドリル等の各種切削工具に適用することが可能である。
【実施例】
【0018】
原料粉末として、平均粒径:5.5μmを有する中粗粒WC粉末、同0.8μmの微粒WC粉末、同1.3μmのTaC粉末、同1.2μmのNbC粉末、同1.2μmのZrC粉末、同2.3μmのCr粉末、同1.5μmのVC粉末、同1.0μmの(Ti,W)C[質量比で、TiC/WC=50/50]粉末、および同1.8μmのCo粉末を用意し、これら原料粉末をそれぞれ表1に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、100MPaの圧力で所定形状の各種の圧粉体にプレス成形し、これらの圧粉体を、6Paの真空雰囲気中、7℃/分の昇温速度で1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に昇温し、この温度に1時間保持後、炉冷の条件で焼結して、直径が13mmの工具基体形成用丸棒焼結体を形成し、さらに前記の丸棒焼結体から、研削加工にて、切刃部の直径×長さが10mm×22mmの寸法、並びにねじれ角30度の2枚刃スクエア形状をもったWC基超硬合金製の工具基体(エンドミル)C−1〜C−10をそれぞれ製造した。
【0019】
ついで、これらの工具基体(エンドミル)C−1〜C−10の表面をアセトン中で超音波洗浄し、乾燥した後、酸溶液によるエッチングおよび/またはアルカリ溶液によるエッチング処理を行い、さらに、ダイヤモンド粉末スラリー液を用いて超音波洗浄器で超音波処理を行なった後、<111>配向の皮膜は、
フィラメント温度 2250〜2350℃、
フィラメント−基板間隔 15〜25mm、
基板温度 850〜950℃、
反応圧力 2.66〜10.64kPa(20〜80Torr)、
反応ガス CH:1.0〜2.5vol%,H:残、
【0020】
また、<110>配向の皮膜は、
フィラメント温度 2050〜2150℃、
フィラメント−基板間隔 15〜25mm、
基板温度 750〜850℃、
反応圧力 2.66〜10.64kPa(20〜80Torr)、
反応ガス CH:2.0〜4.0vol%,H:残、
という条件で、表2に示される目標膜厚のダイヤモンド皮膜を成膜することによ
り、本発明のダイヤモンド被覆エンドミル(以下、本発明エンドミルという)1〜10をそれぞれ製造した。
【0021】
比較の目的で、上記の工具基体(エンドミル)C−1〜C−5の表面に上記と同様のコーティング前処理を施した状態で、以下の条件で、
フィラメント温度 2200〜2400℃、
フィラメント−基板間隔 10〜30mm、
基板温度 850〜1000℃、
反応圧力 1.33〜13.3kPa(10〜100Torr)、
反応ガス CH:0.5〜3.0vol%,H:残、
上記工具基体(エンドミル)の表面に、表3に示される目標膜厚及び<111>配向のダイヤモンド結晶粒のみからなるダイヤモンド皮膜を成膜することにより、比較ダイヤモンド被覆エンドミル(以下、比較エンドミルという)1〜5をそれぞれ製造した。
【0022】
さらに比較の目的で、上記の工具基体(エンドミル)C−6〜C−10の表面に上記と同様のコーティング前処理を施した状態で、以下の条件で、
フィラメント温度 2000〜2200℃、
フィラメント−基板間隔 10〜30mm、
基板温度 700〜850℃、
反応圧力 1.33〜13.3kPa(10〜100Torr)、
反応ガス CH:2.0〜6.0vol%,H:残、
上記工具基体(エンドミル)の表面に、表3に示される目標膜厚及び<110>配向のダイヤモンド結晶粒のみからなるダイヤモンド皮膜を成膜することにより、比較ダイヤモンド被覆エンドミル(以下、比較エンドミルという)6〜10をそれぞれ製造した。
【0023】
つぎに、上記本発明エンドミル1〜10および上記比較エンドミル1〜10のダイヤモンド皮膜について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、基体表面に対し垂直な皮膜断面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、前記基体表面の法線に対して、また、基体表面の法線と直交する方向に対して、前記結晶粒の結晶方位<111>および<110>がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフを作成した。また、該分布ピーク傾斜角区分と分布ピークの半価幅度を求め、これらの値を、二軸配向ドメインの面積率とともに、表2、3に示した。
【0024】
つぎに、上記本発明エンドミル1〜10および上記比較エンドミル1〜10について、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:5mmの、炭素繊維と熱硬化型エポキシ系樹脂が直交積層構造を持つ炭素繊維強化樹脂複合材(CFRP)の板材、
切削速度: 240 m/min.、
切断加工: 5 mm、
テーブル送り: 1500 mm/分、
エアブロー、
の条件(切削条件A)での上記CFRPの乾式高速切断加工試験、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmの、JIS・ADC12の板材、
切削速度: 420 m/min.、
溝深さ(切り込み):径方向(ae)2.5mm,軸方向(ap)8mm、
テーブル送り: 1200 mm/分、
エアブロー、
の条件(切削条件B)での上記Al合金の乾式高速側面切削加工試験、
をそれぞれ行い、いずれの切削加工試験でも切刃部に欠損が発生するまでの切削溝長(側面加工の場合、切削長)、あるいは、被削材にバリが発生するまでの切削溝長(側面加工の場合、切削長)を測定した。
これらの測定結果を表4にそれぞれ示した。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
【表3】

【0028】
【表4】

表2〜4に示される結果から、本発明ダイヤモンド被覆工具としての本発明エンドミル1〜10は、ダイヤモンド結晶粒が20%以上の二軸配向ドメインを有していることから、ダイヤモンド皮膜全体としての硬度、強度が向上し、しかも、厚膜化が可能であり、その結果、金属材料よりも比強度、比剛性の高いCFRPあるいは溶着性の高いAl合金等の高速切削に際し、長期の使用に亘って、シャープな切刃が維持されるとともにバリ発生が少なく、すぐれた耐欠損性とすぐれた耐摩耗性を発揮するのに対して、<111>のみへの配向ダイヤモンド皮膜あるいは<110>のみへの配向ダイヤモンド皮膜を被覆した比較エンドミル1〜10においては、強度が劣りまた厚膜化ができないため、切刃の劣化、バリの発生等が生じるとともに、欠損の発生、耐摩耗性の劣化により工具寿命が短命なものであった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
上述のように、この発明のダイヤモンド被覆工具は、通常条件での切削加工は勿論のこと、金属材料よりも比強度、比剛性の高いCFRPあるいは溶着性の高いAl合金等の高速切削においても、切刃の劣化、バリの発生を防止し、長期の使用に亘って、すぐれた耐欠損性と耐摩耗性を発揮するものであるから、切削加工装置のFA化、並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超硬合金焼結体からなる工具基体の表面に、10〜30μmの膜厚のダイヤモンド皮膜が被覆されたダイヤモンド被覆工具において、
電子線後方散乱回折装置を用いて個々のダイヤモンド結晶粒の結晶方位を解析した場合、
(a)表面研磨面の法線方向に対する前記結晶粒の結晶方位<111>がなす傾斜角および表面研磨面の法線と直交する方向に対する前記結晶粒の結晶方位<111>がなす傾斜角を測定し、それぞれの測定傾斜角の分布を求めた時、特定傾斜角区分に半価幅10度以内のピークが存在し、かつ、
(b)表面研磨面の法線方向に対する前記結晶粒の結晶方位<110>がなす傾斜角および表面研磨面の法線と直交する方向に対する前記結晶粒の結晶方位<110>がなす傾斜角を測定し、それぞれの測定傾斜角の分布を求めた時、特定傾斜角区分に半価幅10度以内のピークが存在し、
上記(a)、(b)を同時に満足する幅0.1〜1μmの二軸配向ドメインが、ダイヤモンド結晶粒全面積の20%以上存在することを特徴とするダイヤモンド被覆工具。

【公開番号】特開2011−167770(P2011−167770A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−30842(P2010−30842)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】