説明

耐熱鋼から作られる構造部材の腐食防止法

【課題】 耐熱鋼から作られる構造部材の改良された腐食防止法、特にクロム鋼から作られるボイラー管の腐食防止法を提供する。
【解決手段】 本発明の方法は、耐熱鋼から作られる構造部材の腐食防止法、特にP91などのクロム鋼で構成されるボイラー管の腐食防止法である。非酸化雰囲気において、1000℃〜1200℃の温度で、SiClを含むガスを用いて、CVD法により保護すべき表面を処理する。SiClを用いる処理は、処理サイクル(26)の間に拡散サイクル(28)を有する、複数の連続する処理サイクル(26)において実行される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱鋼から作られる構造部材の腐食防止法に関し、特にクロム鋼から作られるボイラー管腐食防止法に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気発電所の石炭燃焼ボイラー中の過熱管は、上流酸化に曝されている。酸化層は蒸気と管との間の熱伝達効率を低下させ、それにより金属温度が上昇し、クリープによる管の初期故障を引き起こす。エチレン分解炉で使用される管は、前述のように、熱の伝達を悪くする作用を持つCの析出により、時々洗浄する必要がある。エチレンからの炭素は、管の基材中に拡散して、管を劣化させる、すなわち、材料の強度を低下させる。両方の影響により、管に初期故障が起きたり、維持費用が増加したり、使用時間が減少したりする。
【0003】
従来、高クロム含量により酸化特性を改善した鋼は、管用の材料として用いられていた、あるいは上記の効果が起きないように蒸気温度は最高550℃に限定されていた。しかし、600℃を超える高い蒸気温度のみを用いる現代の高容量発電所においては、高い効率を達成可能である。この理由により、クロム含量を減らして疲労強度を改善するばかりでなく、それと関連する酸化挙動を十分に低下させた鋼を用いる必要がある。改善された合金組成を用いることにより所望の酸化安定性を達成する可能性は、酸化安定性を改善する元素が同時に疲労強度を低下させるので、技術的に制限されている。580℃を超える温度においてボイラー管として使用するために現在市場で入手可能なすべての等級の鋼は、上流酸化に対して十分な耐性がない
従って、そのような鋼の腐食安定性を増加させることが可能な方法に対するニーズがある。
【0004】
欧州特許第0509907B号は、鋼表面が洗浄され、研磨され、脱ガスされた、鋼の表面上にシリコン拡散コーティングまたは保護コーティングを塗布する方法を開示している。
【0005】
その後、650℃〜1000℃の温度でCVD法により、シラン(SiH)を用いて、鋼をシリコン拡散処理する。シランは、アルゴン、ヘリウムおよび/または水素などのキャリアガス中に希釈されてもよいし、あるいは希釈されずに使用してもよい。この工程のより、カバー層中のシリコン濃度は7重量パーセント〜約14.5重量パーセントの範囲になる。
【0006】
自己点灯型の材料であるシランの必要量が多いため、そのような方法は、工業規模でのみ、非常に高価に使用可能である。表面の領域にこの方法により生成された高濃度のシリコン層は脆性を引き起こし、特に温度負荷が変化する影響下では、連続運転中に層が容易に剥離することがある。この種の方法は、特に、ボイラー管用の低クロム鋼を上流の腐食から保護するためには不適である。
【0007】
米国特許第5089061A号には、5〜35モルパーセントのSiClを含む非酸化性ガス雰囲気において1023℃〜1200℃の温度でCVDを用いて鋼ストリップが処理される連続工程により、高シリコン鋼ストリップを製造する方法が開示されている。その後、シリコンを拡散させるために、非酸化性雰囲気においてさらに高温でシートに拡散処理を行う。その処理の際に、腐食防止の観点から好ましくなく、かつ腐食感受性を増加させる塩化第一鉄が生成される。この方法は、管の内面を処理するのには適していない。
【0008】
K.Maile,K.Berreth,A.Lyutovich:“Modifizierung der Stahloberflache mittels CVD und chemischer Konversion zum Schutz von Kesselrohren vor wasserseitiger Korrosion(CVDによる鋼表面の改質および上流の腐食からボイラー管を保護するための化学変換)”,VGB Conference“Materials and Quality Assurance”,March 10 and 11,2004,Zeche Zollern II,/IV,Dortmundによれば、等級X10CrMoVNb9−1の鋼により構成される管の内面をCVD処理により保護することが公知である。鋼の表面とSiClとHの反応の際に、1050℃の工程温度で、シリコンは鋼中に拡散する。酸化およびスケーリング特性が向上した、Siで強化された層が、表面付近に形成された。過剰のSiは、NHと結合してSiを形成する。フェライト相は表面層において形成されるといわれており、シリコン濃度は約5パーセントまで置換するといわれているが、クロムの含量はほとんど変わらない。
【0009】
基本的に上記の方法はボイラー管の内面を腐食から保護することが可能であるが、腐食防止に有害な影響を及ぼす、放出された塩素の問題が依然として存在する。上記刊行物では、所望の腐食防止を実際に達成する詳細な方法を開示していない。
【特許文献1】欧州特許第0509907B号
【特許文献2】米国特許第5089061A号
【非特許文献1】K.Maile,K.Berreth,A.Lyutovich:“Modifizierung der Stahloberflache mittels CVD und chemischer Konversion zum Schutz von Kesselrohren vor wasserseitiger Korrosion(CVDによる鋼表面の改質および上流の腐食からボイラー管を保護するための化学変換)”,VGB Conference“Materials and Quality Assurance”,March 10 and 11,2004,Zeche Zollern II,/IV,Dortmund
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明の目的は、耐熱鋼で構成される構造部材の改良された腐食防止法、特にクロム鋼から作られるボイラー管の腐食防止法を提供することであり、それにより、簡単かつ信頼性の高い方法で、安全な防食を達成することができる。本方法は、特に、発電所の運転において600℃あるいはそれ以上の温度のボイラー管に使用される耐熱鋼に対する最高の品質需要に適合する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、耐熱鋼で作られる構造部材の腐食防止法、特にクロム鋼から作られるボイラー管の腐食防止法において、少なくとも1つのプロセスガスを含むガスを用いて、好適には非酸化雰囲気において、好適には1000℃〜1200℃の温度で、気相析出工程、特にCVD法により、保護すべき表面を処理し、プロセスガスを用いる処理は、処理サイクルの間に拡散サイクルを有する、複数の連続する処理サイクルにおいて実行され、プロセスガスは、IIb、IIIb、IVa、およびIVb族から選択される元素の塩化物により構成されるグループから選択される。さらに、プロセスガスは、SiCl、TiCl、AlCl、およびZnClにより構成されるグループから好適に選択される。このような方法により目的を達成する。
【0012】
それにより、本発明の目的は完全に達成される。
【発明の実施の形態】
【0013】
拡散サイクルがそれに続く処理サイクルにおいて、パルスを用いてシリコンなどのプロセス媒体をプロセスガスから放出することにより、十分に高い温度においてプロセス媒体の作用が短時間で可能になり、鋼中の十分な拡散速度を確保できる。各処理サイクルに引き続いて、「塩素除去」による次の拡散サイクルの際に、プロセス媒体の拡散と塩素の再拡散が生じる。その拡散サイクルにより、一定のクロム濃度と所望の腐食防止に有害な塩素の除去がもたらされる。
【0014】
好適に、プロセスガスとして用いるガスはSiClであり、それによりシリコンがプロセス媒体として放出される。あるいは、TiCl、AlCl、および/またはZnClを用いることも可能であり、それにより、シリコンと同様な効果を有するチタン、アルミニウム、あるいは亜鉛が放出される。さらに、IIb、IIIb、IVa、およびIVb族元素のその他の塩化物を用いることも同様に可能である。
【0015】
本発明による方法は、鋼、例えば等級P91の鋼の有利な溶接性と曲げ特性を保持することを保証する。溶接線や折曲げ(冷間加工)部品でも、本発明による方法を用いて、処理可能である。
【0016】
本発明の優れたさらなる展開によれば、処理サイクルに続く拡散サイクルは、処理サイクルと少なくとも同じ長さであり、好適には処理サイクルよりも長い。
【0017】
処理サイクルは、例えば約5〜120秒の継続期間、好適には約10〜30秒の継続期間を有してもよい。
【0018】
拡散サイクルは、処理サイクルの長さの1.0倍〜3.0倍の継続期間であり、好適には1.5倍〜2.5倍、すなわち、例えば2倍の継続期間を有してもよい。
【0019】
約5〜60回の処理サイクル、好適には10〜50回、より好適には25〜35回の処理サイクルを行う。
【0020】
処理サイクルを短くし、それに対応して処理サイクルの回数を増やすことにより、気相の過飽和を防ぐことができる、そうでなければ、表面で結晶化が起きる。表面上に析出したプロセス媒体の結晶、例えばシリコン結晶、チタン結晶、あるいはアルミニウム結晶は、さほど有害ではないが拡散バリアとして確かに作用する。
【0021】
還元ガス、好適には水素を含むガスあるいは純水素を、SiClなどのプロセスガスを含むガス用のキャリアガスとして用いる。
【0022】
処理は、1バールより低い圧力で行われてもよい。
【0023】
水素の消費をこのように減少させることができる。一方、この場合、洗浄および/または濾過が必要であるため、用いるプロセスガスを、真空ポンプを通して排気する。
【0024】
さらに、処理は、浸炭ステップと組み合わされてもよい。完全なあるいは局所的な加炭が可能である。この場合に用いられる炭素キャリアは、メタン、アセチレン、あるいはその他のあらゆる好適な炭素キャリアである(固体炭素キャリアも同様に使用することが可能である)。
【0025】
本発明による方法は、12重量パーセント未満のクロム、すなわち、7〜11重量パーセント、あるいは基準に規定されるように、9重量パーセントのクロムを含む鋼と同じである、等級X10CrMoVNb9−1の鋼の腐食防止に特に好適である。
【0026】
そのような低クロム濃度は、560℃以上の運転温度での上流腐食を、特別な耐食処理なしに防ぐには不十分である。
【0027】
さらに、本発明による方法は、0.5〜3重量パーセントの低モリブデン、好適には0.8〜1.2重量パーセントのモリブデン、また0.05〜0.8重量パーセントのバナジウム、好適には0.1〜0.3重量パーセントのバナジウム、さらに0.01〜0.3重量パーセントのニオブ、好適には0.05〜0.15重量パーセントのニオブ、炭素含量が例えば0.05〜0.2重量パーセントの範囲にある場合に、例えば0.07〜0.15重量パーセントのニオブを含む上記鋼などの鋼に有利に適合する。
【0028】
しかし、本発明による方法は、等級X10CrcMoVNb9−1の上記鋼の腐食防止に限定されず、本発明による方法は、ある含量のクロムを含む、所望のあらゆる種類の鋼の腐食防止に用いてもよい。
【0029】
特に、本発明による方法は、12重量パーセントよりも明らかに多いクロム含量を有する等級の鋼の腐食防止に有利に用いることも出来る。
【0030】
しかし、本発明による方法を等級X10CrMoVNb9−1(1.4903、P91)の前記鋼の腐食防止に用いる場合、1040℃〜1080℃の平均温度で処理を行うことが好都合である。
【0031】
この場合、鋼を、処理すべき表面の領域において、平均工程温度よりさらに高い温度に短時間加熱することが特に好適である。
【0032】
これにより、鋼中で十分な拡散速度が可能となる十分に高い温度でプロセス媒体を放出することを保証する。これにより、システムのその他の部品を塩素による腐食から保護する。
【0033】
処理すべき表面の領域において、温度を短時間で局所的に上昇させるために、例えば、表皮効果を利用する誘導加熱、放射加熱、レーザ強化、加熱ガス、マイクロ波加熱、あるいは加熱ワイヤ等を用いてもよい。
【0034】
処理すべき表面の領域において短時間の温度上昇を達成するために用いるいかなる方法にも関係なく、長時間にわたって過度に高い温度に保持されることなく、このように拡散の増加が達成される。長時間にわたって過度に高い温度に保持すると、鋼の機械的特性、特に、高温の負荷での安定性と長期の抵抗に有害な影響を及ぼす。発電所のボイラー管に用いる等級X10CrMoVNb9−1の鋼の承認に規定されるように、1040℃〜1080℃の平均基準温度で処理を実行することが、このように可能である。短時間の局所温度上昇は、鋼の焼鈍処理に対する基準に規定される1040℃〜1080℃の範囲内であり、これはシリコン拡散を向上させることを同時に保証する。これにより、いずれにせよ硬化目的に必要な焼鈍処理と、処理サイクルとを有利に一体化でき、時間とコストを節約する助けとなる。
【0035】
シリコンなどの処理媒体を用いる処理を実行するべき領域における短時間の局所温度上昇の代わりに、あるいは付加的に、低温でのシリコン拡散を改良するためにプラズマ支援を実施することができる。例えば、プラズマ支援コーティング(PEC)、あるいは水素プラズマまたは低エネルギープラズマを用いることができる。
【0036】
さらに、シリコンの拡散を向上させるその他の公知の方法を用いることも同様に考えられる。
【0037】
本発明の優れたさらなる展開によれば、処理の後には、低い焼戻温度での第2の焼鈍処理が続く。第2の焼鈍処理を、硬化および焼戻ステップと一体にしてもよい。
【0038】
第2の焼鈍処理は、例えば650℃〜850℃の温度、好適には730℃〜780℃の温度で実行してもよい。
【0039】
第2の焼鈍処理は、水素の放出を容易にする窒素などの雰囲気下で優位に実行される。
【0040】
それらの特徴により、水素雰囲気でSiClを用いる処理の後の水素濃度がその前よりも高くならないように、鋼から水素を除去するという優位性が実現される。これは、脆性破壊挙動を伴う、懸念される「水素脆性」の影響を弱める。
【0041】
第2の焼鈍ステップは、焼戻ステップと優位に一体化してもよく、等級P91の鋼の場合、例えば730℃〜780℃の温度で実行される。
【0042】
本発明の優れたさらなる展開によれば、好適には水素などの還元ガスを用いて、処理の前に洗浄ステップを実行する。
【0043】
場合によってはプロセスSiOが形成される際に、シリコンが基材中に拡散可能でかつスケール層をある程度封止することが可能であるように、管がシリコンに対して十分に多孔質になるまで、継目なし鋼管上に存在する自然スケール層をこのように除去または洗浄可能である。
【0044】
本発明の好ましいさらなる実施形態によれば、窒素を含むガス、特にアンモニアを含むガスを、処理サイクルまたは拡散サイクルの終了後に導入する。
【0045】
これにより、表面にまだ存在するすべてのシリコンをSiに変換することを確実に行うことができる。表面上のそのような窒化シリコン層は、非常に薄いが、所望の腐食防止をさらに向上させるために役立つことができる。
【0046】
本発明の別の実施形態によれば、処理サイクルまたは拡散サイクル、または窒素を含むガスの導入後に、好適には温度を依然上昇させた状態で、排気ステップを実行することがさらに可能である。
【0047】
これは、同様に前の工程ステップにおいて材料中に拡散した水素の放出を支援する。
【0048】
前述のように、本発明による方法は、管の内面を処理するのに特に好適である。しかし、管の外面も処理可能であり、またその他の形状や平らな鋼の部品も同様に処理可能であることを理解すべきである。
【0049】
さらに、本発明による方法は、繊維で包まれた管のインナーチューブを処理するために、優位に用いてもよい。この場合には、疲労強度は、本発明により処理されたインナー鋼管により気密性と安全性が保証される状態で、繊維強化により部分的にもたらされる。
【0050】
このように、発電所(いわゆる700℃発電所)の高い工程温度を達成することが可能であることが理解できる。
【0051】
上記本発明の特徴および以下に説明される特徴は、本発明の範囲内において、示されるそれぞれの組合せばかりでなく、その他の組合せや単独で用いることも可能である。
【0052】
本発明のさらなる特徴および優位性は、添付図面とともに与えられる好適な実施形態の詳細な説明から明らかになるであろう。
【0053】
図1は、適用規格の規定どおりの等級X10CrMoVNb9−1(1.4903;P91;T91)の鋼に、鋼が発電所のボイラー管に使用される程度に熱処理を示す図である。
【0054】
それらの基準によれば、鋼は、1040℃〜1080℃で30〜60分間焼鈍され、その後通風により急冷される。それに続く熱処理は、材料が60分間730℃〜780℃の温度にまで加熱される焼戻ステップからなる。
【0055】
例えば等級P91の鋼から構成される管の内側をコーティングするために用いる、本発明による方法を、上記の処理ステップ、すなわち、1040℃〜1080℃での第1の焼鈍処理10と730℃〜780℃での第2の焼鈍処理14と一体化することができる。
【0056】
基材の優れた特性(高い耐久強さ)は、その処理により損なわれることはない。
【0057】
図2は、処理の一般操作を概略的に示す。
【0058】
この図によれば、第1のステップは、排気ステップ20である。このステップに続いて、処理すべき表面を洗浄するため水素を連続的な流れで導入する洗浄ステップ22がある。洗浄ステップ22の際に、工程温度を1040℃〜1080℃にまで加熱することが既に開始されている(加熱ステップ24)。水素を用いる洗浄ステップは、鋼上の自然スケール層を破砕して除去するように作用する。これは、SiClを用いる次のCVD処理用の予備ステップとしての機能を果たす。最後に、SiClを用いるCVD処理サイクル26を、この場合1040℃〜1080℃である工程温度における水素雰囲気下で、多数回実行する。約30〜120秒、例えば好適に約1分の長さを有する各処理サイクルに続いて、先行する処理サイクルの継続期間と好適に少なくとも同じ継続期間の拡散サイクル28を実行する。塩素の除去、シリコンの拡散、およびクロムの再拡散のために、各処理サイクルに続いて実行される拡散サイクルが必要である。これには、CVD法による先の処理サイクル中に放出したシリコンが、表面付近の鋼の層中に拡散するのに十分な時間を与える一方で、所望の腐食防止に対しては一般に不都合な塩素を再び放出するという作用がある。
【0059】
このように、5〜25回、好適には約10〜12回の一連の処理サイクルを、等級P91の鋼に対して、好適には1040℃〜1080℃の処理温度で連続して実行する。各処理サイクルに続いて、少なくとも同じ継続期間、好適にはやや長い継続期間、例えば、60秒の先行する処理サイクルに対して90秒の拡散サイクルを実行する。
【0060】
CVD処理の終了後、あるいは最後の拡散サイクルの後で各々、表面に存在する自由シリコンを窒化シリコンに変換するために、必要によりアンモニアを用いる短時間の処理を付加的に実行する。しかし、NHを用いるその処理ステップ30の継続期間は、非常に短いため、付加的な耐食効果を有する窒化シリコンの薄い表面層のみが形成できる。その後、排気ステップ32を処理温度(この場合、1040℃〜1080℃)において実行する。
【0061】
これにより、水素の放出が増進される。次に、加熱電源を単に切ることにより、材料を室温に冷却する。このステップは、同時に鋼を硬化させるように作用する。次のステップは第2の焼鈍処理34から成る。図1に示すように、第2の焼鈍処理34は好ましくは、730℃〜780℃で60分間実行される。このステップは、水素の放出を増進する雰囲気、例えば窒素雰囲気中で、行われる。鋼を同時に熱処理するように作用する焼鈍ステップの際に、すべての工程の最後に、鋼は処理を開始したときよりも多くの水素を含まず、それにより水素脆性を安全に防ぐように、以前に吸収した水素を完全に鋼から除去する。
【0062】
図2は、単に概略を示すものであり、また単に本発明による方法の基本原理を説明するために意図されたものであることを理解すべきである。
【0063】
好適に、表面付近の領域で約4〜5重量パーセントのシリコン濃度を鋼が吸収することが確実に起こるように、水素雰囲気中に導入されるSiClの濃度、処理サイクルと拡散サイクルの回数および継続期間、および処理の温度を、制御する。
【0064】
図3の状態図から明らかなように、フェライトガンマ相への相変態が起きる。その後鋼を冷却すると、残留含量のみがマルテンサイトに変換される。次の温度処理(第2の焼鈍ステップ)の際に、腐食防止作用を有するソフトフェライト層が保持される。研究によれば、シリコンが溶解したフェライト境界層は、マルテンサイト基構造にまで拡がっていることがわかっている。これは、シリコンは、表面付近のフェライト境界層中にのみ含まれており、鋼のマルテンサイト基構造中には移動しないという特別な優位性である。鋼のマルテンサイト基構造中にシリコンが含まれると、鋼の脆化と溶接中のひび形成を引き起こすことがある。
【0065】
表面付近の領域で約4〜5重量パーセントのシリコン濃度が得られるように上記の方法で工程を制御すると、ソフトフェライトケイ質層が形成されることにより、最適な腐食防止が実現される。
【0066】
さらに、低シリコン濃度、例えば1〜3パーセントの範囲でも、効果的な腐食防止が達成できることがわかっている。
【0067】
SiClを用いるCVD処理サイクルの温度が、平均温度より局所的に短時間上昇すると、工程の特に優位性のある操作が達成される。これにより、SiClの分解、従ってシリコンの放出が充分に高い温度で起きて鋼中でシリコンが高速で拡散可能となるという特別な優位性が実現される。シリコンは、充分に高速で、表面付近の鋼の境界領域中に拡散するが、放出された塩素は拡散ステップにおいて排出され、いかなる塩素腐食も回避される。
【0068】
表皮効果の優位性がありそれにより幾分高い温度が内面に局所的に発生する誘導加熱を用いることにより、等級P91の鋼に対する基準に規定される、1080℃の平均温度より局所的に短時間高温にすることが達成できる。
【0069】
原理的にその他のあらゆる望ましい手段を用いて処理中のシリコン拡散を増加させてもよいことを理解すべきである。例えば、放射加熱、レーザパルス、予熱前駆体ガス、あるいは管内部の加熱ワイヤなどを、この目的のために付加的に用いることができる。また、プラズマ(プラズマ支援コーティング)の助けを受けるCVD法を強化することも可能である。例えば、水素プラズマあるいは低エネルギープラズマを、この目的のために用いてもよい。
【0070】
原理的に本発明による方法はSiClによりもたらされる利点を活用する、すなわち、シリコンは充分に高い温度においてのみシリコンの拡散が十分に起きるとともに、プロセスガスが一定のシラン含量あるいはその他の有機金属ドナーを含む場合にも本発明による方法は実行可能である。しかし、そのような含量はSiCl濃度で最大約10パーセントに限定され、表面コーティングの形成は所望の腐食防止に対しては不都合である。すなわち、例えば純シリコンから成る純コーティングは、時間の経過とともに剥離することがあり、さらに、そのような鋼の溶接性に有害な影響を与える。
【実施例1】
【0071】
等級P91の鋼から構成される、外形42mm、壁厚6mm、長さ100mmの鋼管を調査した。鋼管を石英管に入れて外部から気密に封止し、加熱装置において誘導加熱により加熱した。従って、誘導加熱するために試験鋼管をコイルで取り囲んだ。パイロメータおよび熱電体により温度を制御した。前駆体ガス及びその他のガスを、マスフローコントローラおよび恒温加熱のより、適切な設備を経由して導入した。再現性を工程制御システムにより確保した。
【0072】
最初に、水素を連続的なマスフローで導入する前に、3つの排気ステップを実行した。その後、水素を連続的に循環させた状態で、約1050℃の平均温度にまで設備を加熱した。この工程の際に、内面の領域では、温度が上昇し局所的に約1100℃に達した。
【0073】
SiCl前駆体を、毎分約10mlのマスフローで、毎分30〜60mlのHのマスフローに混合した(20℃)。
【0074】
次に、1バールの全圧で、その混合物を、0.3バールの分圧での処理サイクルにおいて、水素雰囲気で計量し供給した。各約60秒の処理サイクルを12回実行し、各処理サイクルに続いて60秒の拡散サイクルを行った。
【0075】
最後の拡散サイクルの後に、システムを排気する前にNHを短時間導入した。その後、加熱ヒータの電源を切って、システムを放置して室温に冷却した。全体で、約1050℃での焼鈍工程は、約45分の継続期間であった。その後、窒素を導入し、温度を750℃に上昇させて約60分間そのレベルに保持した。その後、システムの電源を切って、室温に冷却した。
【0076】
このように処理したサンプルの断面を検査した。
【0077】
図4は、鋼のシリコン濃度およびクロム濃度が内面からの距離の関数として示されるマイクロプローブ分析の結果を示す。
【0078】
表面のシリコン濃度は約5原子パーセントの範囲にあり、約70μmまでの距離にわたって、4原子パーセントよりわずかに低い濃度まで、ほぼ直線的に減少する。これに続いて、濃度がほぼ0まで急激に減少する。5〜10μmの範囲において、クロム濃度は8原子パーセントより低く、表面でのみ約7原子パーセントであり、表面から短い距離で9原子パーセント程度の値にまで上昇し、その値は、表面から約120μmの距離まで全断面においてほとんど変化せずに保持される。これは、シリコン拡散の結果として起きることが予期されるクロム濃度の降下がその領域で起きないように、鋼の内部からのクロム拡散がシリコンの存在下で容易に起きることを示す。これは、形成される拡散層の耐食性に対して優位な効果を有する。
【0079】
図5は、等級P91の未処理鋼、および上記工程で処理した後の等級P91の鋼サンプルを比較して実施した腐食試験の結果を示す。等級P91の鋼の未処理サンプルは、図1に示して説明した熱処理サイクルにより、同様に硬化し焼戻される。図5は、600℃の10パーセント水蒸気雰囲気における、時間の関数としての耐食試験後の重量増加を示す。本発明により処理したサンプルの重量増加は、未処理サンプルよりも明らかに少ないことが明らかである。重量増加の規模は、約一回り小さい。
【0080】
内面の非常に粗いスケール層では、シリコンあるいはSiOの含有物により各々、実際に密閉されるスケール層が決まる。その層の下には、約5原子パーセントのシリコン含量を有するシリコン拡散層が見られる。
【実施例2】
【0081】
その他の点では実施例1で用いた条件と同じであるが、各20秒の処理サイクル30回の全体をSiClを用いて実行し、各処理サイクルに続いて、塩素を除去するため40秒の拡散サイクルを実行した。
【0082】
図6は、工業規模での長い管の内面処理を実施するために用いる装置40の略図である。
【0083】
装置40は、第1のホルダー48と、管46の端を封止状態で受けることが可能な第2のホルダー50とから構成される。
【0084】
例えば誘導加熱型ヒータである、詳細は示さないヒータ54を、管46を加熱するために用いてもよい。
【0085】
、N、およびNH、あるいはSiClとHから成るガス前駆物質混合物などのガスを管46の入口に導入可能である。好適な回路52により、ガスは管46中を連続的に循環可能である。HClやClなどの排気ガスは、好適な排気ガス処理システム44を経由して管の出口から外へ排出可能である。
【0086】
誘導加熱の代わりに、別の加熱システム、例えば長い管の炉内での従来の加熱も同様に用いてもよいことを理解すべきである。
【0087】
好適に、処理すべき管46の内面の領域の温度を局所的に上昇させることができる適切な手段も有する。管が十分に短ければ、例えば、付加的な輻射ヒータによりこれを達成可能である。あるいは、レーザパルスをこの目的のために用いてもよい。
【0088】
また、付加的にプラズマを用いるCVD法を強化することによっても可能である。
【0089】
上記例ではCVD処理を大気圧で実行したが、例えば約0.1〜1バールの全圧で、低圧処理を有利に実行することも可能である。低圧では反応性が高まるが、拡散はほとんど影響を受けない。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明による耐食処理と一体化可能な、等級P91の鋼の熱処理を示す図である。
【図2】本発明による方法の加熱及びガス処理サイクルの略図を示す。
【図3】鋼の表面領域にフェライト相を形成するための好適なシリコン含量を有するFe−Si状態図を示す。
【図4】本発明による方法で処理された等級P91の鋼の表面付近領域を横断する、シリコンとクロムに対する濃度分布を示す。
【図5】比較のため未処理鋼P91および本発明による方法で処理した鋼P91を用いて実施した、10パーセントの水蒸気を用いる腐食試験を示す。
【図6】工業規模での長い管の内面に、本発明による方法を実施するための装置の略図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱鋼から作られる構造部材(46)の腐食防止法、特にクロム鋼から作られるボイラー管の腐食防止法において、
少なくとも1つのプロセスガスを含むガスを用いて、好適には非酸化雰囲気において、好適には1000℃〜1200℃の温度で、気相析出工程、特にCVD法により、保護すべき表面を処理し、プロセスガスを用いる処理は、処理サイクル(26)の間に拡散サイクル(28)を有する、複数の連続する処理サイクル(26)において実行され、プロセスガスは、IIb、IIIb、IVa、およびIVb族から選択される元素の塩化物により構成されるグループから選択され、さらにプロセスガスは、SiCl、TiCl、AlCl、およびZnClにより構成されるグループから好適に選択される方法。
【請求項2】
処理サイクル(26)に続く拡散サイクルは、処理サイクルと少なくとも同じ長さであり、好適には処理サイクルよりも長い請求項1に記載の方法。
【請求項3】
処理サイクル(26)の継続期間は、約5〜120秒、好適には約10〜30秒である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
拡散サイクル(28)は、処理サイクルの長さの1.0倍〜3.0倍の継続期間であり、好適には1.5倍〜2.5倍の継続期間である請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
5〜60回の処理サイクル(26)、好適には10〜50回、より好適には25〜35回の処理サイクル(26)を行う前記請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
還元ガス、好適には水素を含むガスを、SiClを含むガス用のキャリアガスとして用いる前記請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
処理は、1040℃〜1080℃の平均温度で行われる前記請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
鋼を、処理すべき表面の領域において、平均処理温度よりさらに高い温度に、短時間加熱する前記請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
処理すべき表面の領域において、温度を局所的に上昇させるために、表皮効果を利用する誘導加熱、放射加熱、レーザ強化、マイクロ波加熱、加熱ガス、あるいは加熱ワイヤ等を用いる請求項8に記載の方法。
【請求項10】
プラズマ支援を処理に用いる前記請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
鋼を硬化させるために、SiClを含むガスを用いる処理を、第1の焼鈍処理(10)と組み合わせる前記請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
処理の後には、低い焼戻温度での第2の焼鈍処理(14)が続く前記請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
第2の焼鈍処理(14)を、硬化および焼戻ステップと一体にする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
第2の焼鈍処理(14)は、650℃〜850℃の温度、好適には730℃〜780℃の温度で実行される請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
第2の焼鈍処理(14)は、水素の放出を容易にする窒素などの雰囲気下で実行される請求項12〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
洗浄ステップ(22)は、処理の前に、還元ガス、好適には水素を用いて実行される前記請求項1〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
処理サイクルまたは拡散サイクル(26、28)の終了後に、窒素を含むガス、特にアンモニアを含むガスを導入する前記請求項1〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
処理サイクル(26)または拡散サイクル(28)、または窒素を含むガス(30)の導入終了後に、排気ステップ(32)を実行する前記請求項1〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
直前の拡散サイクル(28)の終了後、または窒素を含むガス(30)の導入後に、温度をなお上昇させた状態で、排気ステップ(32)を実行する請求項18に記載の方法。
【請求項20】
構造部材(46)の内面および/または外面を処理する前記請求項1〜19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
使用される鋼は、12重量パーセントより少ないクロム含量、好適には7〜11重量パーセントのクロム含量を有する前記請求項1〜20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
使用される鋼は、0.5〜3重量パーセントのモリブデン、好適には0.8〜1.2重量パーセントのモリブデンを含む前記請求項1〜21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
使用される鋼は、0.05〜0.8重量パーセントのバナジウム、好適には0.1〜0.3重量パーセントのバナジウムを含む前記請求項1〜22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
使用される鋼は、0.01〜0.3重量パーセントのニオブ、好適には0.05〜0.15重量パーセントのニオブを含む前記請求項1〜23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
使用される鋼は、0.05〜0.2重量パーセントの炭素、好適には0.07〜0.15重量パーセントの炭素を含む前記請求項1〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
使用される鋼は、等級X10CrMoVNb9−1(1.4903)の鋼である前記請求項1〜25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
気相析出させるためSiClを含むガスを装置中に導入する前に、室温付近の温度、好適には10〜35℃の温度、より好適には、15〜30℃の温度に保持する前記請求項1〜26のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
処理は、1バールより低い圧力で行われる前記請求項1〜27のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
処理は、浸炭ステップと組み合わされる前記請求項1〜28のいずれかに記載の方法。
【請求項30】
メタンあるいは別の炭素供与体を、処理中に導入する前記請求項1〜29のいずれかに記載の方法。
【請求項31】
請求項1〜30のいずれか1項に記載の方法により製造される、耐熱鋼で構成される構造部材。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−518101(P2008−518101A)
【公表日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−538320(P2007−538320)
【出願日】平成17年10月24日(2005.10.24)
【国際出願番号】PCT/EP2005/011399
【国際公開番号】WO2006/045576
【国際公開日】平成18年5月4日(2006.5.4)
【出願人】(507136291)
【Fターム(参考)】