説明

肥満治療効果及び抗酸化活性を有する酵母加水分解物を含む組成物及びその製造方法

【課題】肥満治療及び予防用組成物並びに抗酸化活性を有する組成物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】酵母をKH−15等のタンパク質分解酵素で分解した酵母加水分解物を有効成分として含み、体重減少効果及び抗酸化活性を有する組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体内脂肪の蓄積阻害活性及び抗酸化活性を有する酵母加水分解物を含む組成物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
肥満は、摂取した熱量のうち消耗して残った部分が脂肪に転換され、体内の様々な部分、特に皮下組織と腹腔内に蓄積される現象である。中性脂肪(TG, triglyceride)はグリセリンと3分子の脂肪酸がエステル結合した化合物であり、炭水化物から合成される中性脂肪として動物の脂肪組織に貯蔵されるため酵素による加水分解により遊離脂肪酸を血液中に放出する。脂肪組織に貯蔵された中性脂肪は糖がエネルギー源として、不十分になると非エステル化脂肪酸(nonesterifide fatty acid, NEFA)とグリセロール(glycerol)に分解されて血中に放出される。エネルギー源として用いられて残った非エステル化脂肪酸は、肝で再び中性脂肪に変わる。これが再び血中に流入すれば、これを内因性中性脂肪という。中性脂肪の量が過多であると、粥状硬化症、冠状動脈疾患等と密接な関係がある。
【0003】
肥満患者は脂肪組織の機能に必要な脂肪量より非常に多くの脂肪が体内に蓄積されている状態であり、これが原因となり人体内の正常な生化学的及び生理的機能に障害を有する者である。肥満は、様々な疾患、特に糖尿病、高脂血症、高血圧及び冠状動脈疾患、そして関節疾患等の多様な疾病の原因となるだけでなく、正常な社会生活を不可能にすることもある。
【0004】
また、肥満は人間だけでなく動物、特にペットの健康にも致命的な危険を及ぼし、過多な飼料の摂取や偏重した栄養の摂取により、ペット、特に犬や猫、ハムスターが肥満になったり栄養不均衡が発生する場合が多い。
【0005】
動物に必要な栄養成分は主に飼料に依存し、飼料の中に含まれている脂質は、加工、貯蔵中、酸敗による品質低下が起きて不快な味や臭いを有するようになる。また、酸化生成物によりDNAが損傷したり体内の酵素を不活性化させて代謝異常を誘発又は様々な疾病の原因となっている。従って、脂質の酸化を抑制するために、BHT, BHA, TBHQ等の酸化防止剤を添加するが、これらは抗酸化効果は優れるが、変異原性及び発癌性等が問題視され、消費者の拒否反応によりその使用が減少している傾向である。従って、抗酸化能が高くて安全性が確保された天然抗酸化剤に対する多くの研究が必要であるが、天然抗酸化剤の開発と産業化が難しいので、食品業界では合成抗酸化剤を主に用いている。
【0006】
したがって、本発明者は食欲や身体代謝を調節して肥満を治療、予防できる方案を研究していたところ、酵母を特定酵素で加水分解する場合、得られた酵母加水分解物が脂肪の蓄積を妨げるだけでなく体内脂肪を分解することにより肥満治療及び予防に効果が大きいことを確認して本発明を完成した。
【0007】
しかも本発明の酵母加水分解物は、組織及び細胞の酸化的損傷も予防及び緩和させることを見出した。すなわち、本発明の酵母加水分解物は肥満及び酸化的損傷を治療、予防する効果がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3930808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、肥満を治療する肥満治療及び予防用組成物を提供することである。
【0010】
本発明の目的は、抗酸化活性を有する組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、酵母を特定酵素で加水分解した酵母加水分解物を提供する。
【0012】
本発明は、酵母を酵素で分解した酵母加水分解物を有効成分として含み、体重減少効果及び抗酸化活性を有することを特徴とする組成物を提供する。
【0013】
また、本発明は、酵母を酵素で分解した酵母加水分解物を動物に投与する段階を含む動物の動脈硬化、内臓肥満、腹部肥満、高脂血症、脂肪肝、肥満の予防又は治療方法を提供する。
【0014】
また、本発明は、酵母に酵素を加える段階を含む、体重減少効果及び抗酸化活性を有する組成物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の酵母加水分解物は、体内脂肪の蓄積の阻害及び脂肪分解を通じて体重を減少、肥満を治療及び予防できる。また、本発明の酵母加水分解物は抗酸化活性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、多様な酵素で加水分解した酵母加水分解物のタンパク質回収率を示す。
【図2】図2は、酵母加水分解物が3T3−L1脂肪細胞のグリセロール及びレプティン分泌量に及ぼす影響を示す。
【図3】図3は、MTT方法で測定した、3T3−L1脂肪細胞株に対する酵母加水分解物の細胞毒性を示す。
【図4】図4は、酵母KH−15加水分解物のラットのDPPH及びABTSラジカル消去能を示す。
【図5】図5は、酵母KH−15加水分解物がSDラットの体重に及ぼす影響を示す。
【図6】図6は、酵母KH−15加水分解物がSDラットの脂肪の蓄積を抑制する効果を示す。
【図7】図7は、酵母KH−15加水分解物が犬の体重に及ぼす影響を示す。
【図8】図8は、酵母KH−15加水分解物が犬の腹囲に及ぼす影響を示す。
【図9】図9は、酵母KH−15加水分解物投与時における、犬の血液内のMDA及びGSH含量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明の酵母は、食品として用いられる酵母であれば良く、その種類は特に限定されない。例えば、本発明の酵母にはサッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロマイセス カールスベルゲンシス(Sacch.carlsbergensis)、サッカロマイセス ファーメンティー(Sacch.fermentati)、サッカロマイセス バヤナス(Sacch.bayanus)、サッカロマイセス サケ(Sacch.sake)、サッカロマイセス マンドシュリコス(Sacch.mandshuricus)、サッカロマイセス アナメンシス(Sacch.anamensis)、サッカロマイセス フォルモセンシス(Sacch.formosensis)、サッカロマイセス エリプソイデュウス(Sacch.ellipsoideus)、サッカロマイセス コレアヌス(Sacch.coreanus)等が用いられ、望ましくはサッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)である。
【0019】
本発明の酵素は、タンパク質分解酵素であることが望ましい。より望ましくは上記タンパク質分解酵素は、プロタメックス(Protamex)(登録商標)、プロレザーFG−F(Proleather FGF)(登録商標)、フレーバーザイム(Flavourzyme)(登録商標)、プロテアーゼA(Protease A)、アロアーゼAP−10(Aroase AP-10)(登録商標)、ペスカラーゼ(Pescalase)、パパイン(Papain)、配列番号1のアミノ酸配列を含むKH−15、ブロメライン(Bromelain)、フィシン(Ficin)及びニュートラーゼ(Neutrase)で構成される群から選択されるいずれかであり、さらに望ましくは上記タンパク質分解酵素は、プロタメックス、フレーバーザイム及びKH−15である。最も望ましくは上記タンパク質分解酵素はKH−15である。しかし、本発明の特徴は酵母を加水分解して食餌摂取量の減少なしに体重を減少させて抗酸化活性を有する酵母加水分解物を製造することにあるところ、このような特徴を有するように酵母を加水分解するタンパク質分解酵素であればいずれかの本発明の範囲に含まれるといえる。
【0020】
上記組成物は、食品組成物、飼料組成物、薬学的組成物及び化粧料組成物から選択されるいずれか一つである。
【0021】
本発明の食品組成物、飼料組成物、薬学的組成物及び化粧料組成物は、体内活性酸素を除去することにより、体内脂肪、コレステロールと活性酸素が反応して過酸化脂質を生成することを妨げ、これによって、過酸化脂質が血栓、塞栓を生成することを予防できる。また、本発明の食品組成物、飼料組成物、薬学的組成物は、活性酸素を除去することにより、活性酸素と関連する血栓、塞栓、過酸化脂質による血液循環障害、脳卒中、中風、脳血栓、心筋梗塞、動脈硬化を予防及び治療し、活性酸素によるDNA、細胞、組織の変性を妨げることにより、アトピー、アレルギー、腫瘍、関節炎、白内障、皮膚腫瘍を予防及び治療し、老化の進行を妨げる。
【0022】
また、本発明の食品、飼料又は薬学的組成物は、動脈硬化、内臓肥満、腹部肥満、高脂血症、脂肪肝及び肥満で構成された群から選択される疾患を予防及び/又は治療し、糖尿を予防する。また、本発明の食品、飼料又は薬学的組成物は、上記疾患の他に血中脂質濃度の増加、中性脂肪の蓄積等と関連する疾患に複合的な効果を奏し、長期間投与時に体重管理、抗酸化を通じた老化遅延、健康改善効果を奏する。
【0023】
また、本発明は、酵母加水分解物を有効成分として含む食品組成物を提供する。上記食品とは、健康補助食品、健康機能食品、機能性食品等であるがこれに制限されるものではなく、天然食品、加工食品、一般的な食資材等に本発明の酵母加水分解物を添加したものも含まれる。
【0024】
本発明の酵母加水分解物を有効成分として含む食品組成物は、上記組成物をそのまま添加したり他の食品又は食品組成物と共に用いられ、通常の方法により適宜用いられる。有効成分の混合量は、その使用目的(予防、健康又は治療的処置)により適切に決定される。一般に、本発明の健康機能食品を食品又は飲料の製造時に原料に対して0.01〜70.00質量%、望ましくは0.01〜30.00質量%の量で添加することができ、より望ましくは0.01〜10.00質量%の量で添加することができる。食品組成物の上記酵母加水分解物の有効容量は、上記薬学的組成物の有効容量に準じて用いることができるが、健康及び衛生を目的としたり又は健康調節を目的とする長期間の摂取の場合には、上記範囲以下であってもよく、有効成分は安全性面で何ら問題がないため、上記範囲以上の量で用いることもできる。
【0025】
上記食品の種類には特別な制限はない。上記酵母加水分解物を有効成分として含む食品組成物は、錠剤、硬質又は軟質カプセル剤、液剤、懸濁剤等のような経口投与用製剤の形態で用いられ、これら製剤は許容可能な通常の担体、例えば、経口投与用製剤の場合には、賦形剤、結合剤、崩解剤、滑沢剤、可溶化剤、懸濁化剤、保存剤又は増量剤等を用いて調製することができる。
【0026】
上記酵母加水分解物を添加できる食品の例としては、肉類、ソーセージ、パン、チョコレート、キャンディ類、スナック類、菓子類、ピザ、ラーメン、その他麺類、ガム類、アイスクリーム類を含む酪農製品、各種スープ、飲料水、お茶、ドリンク剤、アルコール飲料及びビタミン複合剤等を挙げることができるが、これら種類の食品に制限されるわけではない。
【0027】
本発明の酵母加水分解物を有効成分として含む飼料組成物は、通常の飼料と共に配食でき、本発明の飼料組成物を通常の飼料組成物に添加して機能性飼料組成物を製造して用いることもできる。また、本発明の飼料組成物は本発明の酵母加水分解物以外の機能性成分をさらに含むことができる。上記通常の飼料組成物と本発明の酵母加水分解物が混合された機能性飼料組成物の製造時に、本発明の酵母加水分解物は総飼料組成物に対して0.01〜30.00質量%、望ましくは0.01〜20.00質量%の量で添加することができる。飼料組成物の上記酵母加水分解物の有効容量は、上記食品組成物の有効容量に準じて用いることができるが、持続的な体重管理を目的としたり、又は健康調節を目的とする長期間の摂取の場合には、上記範囲以下であってもよく、有効成分は安全性面で何ら問題がないため、高度肥満等の場合には、上記範囲以上の量でも用いられる。
【0028】
本発明の飼料組成物は、家畜又は家禽を対象とする。上記家畜又は家禽は、牛、豚、鶏、馬、羊、ロバ、ラバ、猪、うさぎ、ウズラ、アヒル、雄鳥、闘鶏用鶏、鳩、七面鳥、犬、猫、猿、ハムスター、マウス、ラット、九官鳥、オウム、インコ、カナリア等であるが、これらに制限されるわけではなく、家庭内で飼育可能な人間以外の哺乳動物又は鳥類であれば本発明の飼料組成物の対象といえる。
【0029】
本発明の酵母加水分解物を有効成分として含む薬学的組成物は、血栓、塞栓、過酸化脂質による血液循環障害、脳卒中、中風、脳血栓、心筋梗塞、動脈硬化を予防及び治療し、活性酸素によるDNA、細胞、組織の変性を妨げることにより、アトピー、アレルギー、腫瘍、関節炎、白内障、皮膚腫瘍を予防及び治療し、老化進行を妨げる。また、本発明の酵母加水分解物を有効成分として含む薬学的組成物は、高脂血症、脂肪肝、内臓肥満、腹部肥満等、部分的肥満及び肥満(即ち、一般的な肥満)を予防及び治療する。
【0030】
本発明の酵母加水分解物を有効成分として含む薬学的組成物は、経口又は非経口投与が可能で、一般的な医薬品製剤の形態で用いられる。望ましい薬剤学的製剤は、錠剤、硬質又は軟質カプセル剤、液剤、懸濁剤等のような経口投与用製剤があり、これら薬剤学的製剤は薬剤学的に許容可能な通常の担体、例えば経口投与用製剤の場合には、賦形剤、結合剤、崩解剤、滑沢剤、可溶化剤、懸濁化剤、保存剤又は増量剤等を用いて調製することができる。
【0031】
本発明の酵母加水分解物を有効成分として含む薬学的組成物の投与容量は、患者の状態、年齢、性別及び合併症等の多様な要因によって専門家により決定され得るが、一般には、成人1kg当り0.1mg〜10g、望ましくは10mg〜1gの容量で投与され得る。また、単位剤形当り上記薬学的組成物の1日用量又はこの1/2, 1/3又は1/4の用量が含まれるようにし、一日に1〜6回投与され得る。しかし、健康及び衛生を目的としたり、又は健康調節を目的とする長期間の摂取の場合には、上記量は上記範囲以下であってもよく、有効成分は安全性面で何ら問題がないため、上記範囲以上の量でも用いられる。
【0032】
また、本発明は、上記製造方法により製造された酵母加水分解物を有効成分として含む化粧料組成物を提供し、上記酵母加水分解物の製造段階を含む上記化粧料組成物の生産方法を提供する。上記化粧料組成物の製造方法において、化粧品製造に許容される担体は本発明の化粧料組成物の剤形により異なり得る。本発明の化粧料組成物の剤形としては、溶液、懸濁液、乳濁液、ペースト、ゲル、クリーム、ローション、石鹸、シャンプー、界面活性剤-含有クレンジング、オイル、粉末ファウンデーション、リキッドファウンデーション、クリームファウンデーション及びスプレイ等に剤形化されることができ、本発明の抗酸化用化粧料組成物は、より詳細には柔軟化粧水(スキン、トナー)、収れん化粧水、栄養化粧水、乳液(ローション)、栄養クリーム、マッサージクリーム、エッセンス、ゲル、皮膚接着用パッチ、パウダー、皮膚外用軟膏、貼布剤、懸濁液、エマルジョンスプレイ、アイクリーム、クレンジングクリーム、クレンジングフォーム、クレンジングウォーター、パック、ヘアーエッセンス又は美容液等の通常の化粧料形態で製造され得る。
【0033】
上記本発明の製造方法により製造された化粧料組成物の剤形がペースト、クリーム又はゲルの場合、担体成分としては、動物性油、植物性油、ワックス、パラフィン、澱粉、トラカント、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコーン、ベントナイト、シリカ、タルク又は酸化亜鉛等が望ましい。
【0034】
上記本発明の製造方法により製造された酵母加水分解物を有効成分として含む化粧料組成物の剤形が溶液又は乳濁液の場合、担体成分としては、溶媒、溶媒化剤又は乳濁化剤が用いられ得、その例としては、水、エタノール、イソプロパノール、エチルカルボネート、エチルアセテート、ベンジルアルコール、ベンジルベンゾエート、プロピレングリコール、1, 3-ブチルグリコールオイル、グリセロール脂肪族エステル、ポリエチレングリコール又はソルビタンの脂肪酸エステル等が望ましい。
【0035】
上記本発明の製造方法により製造された酵母加水分解物の剤形が懸濁液の場合、担体成分としては、水、エタノール又はプロピレングリコールのような液状の希釈剤、エトキシル化イソステアリルアルコール、アルミニウムメタヒドロキシド、ベントナイト、アガー又はトラカント等が望ましい。
【0036】
上記本発明の製造方法により製造された化粧料組成物の剤形が界面活性剤含有クレンジングである場合には、担体成分としては、脂肪族アルコールサルフェート、脂肪族アルコールエーテルサルフェート、スルホ琥珀酸モノエステル、イセチオネート、イミダゾリニウム誘導体、メチルタウレイト、サルコシネート、脂肪酸アミドエーテルサルフェート、アルキルアミドベタイン、脂肪族アルコール、脂肪酸グリセリド、脂肪酸ジエタノールアミド、植物性油、ラノリン誘導体エトキシル化グリセロール、又は脂肪酸エステル等が望ましい。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を次の実施例によりさらに詳細に説明する。ただし、下記実施例は、本発明の内容を例示するもので、発明の範囲が実施例により限定されるわけではない。以下の各例において、%、部及び比率はとくにことわらない限り質量基準である。
【0038】
実施例1:材料
タンパク質分解酵素
タンパク質分解酵素KH−15は、高麗大学食品栄養学科で味噌から分離して保存中のバチルス属菌(Bacillus sp.)KH−15をタンパク質分解酵素の生産菌株に用いて得た。即ち、タンパク質分解酵素の生産のためにLB培地(tryptone10 g/L、酵母エキス5 g/L、NaCl 10 g/L)にスキムミルク 1%を添加した液体培地をタンパク質分解酵素生産用培地として用いた。タンパク質分解酵素生産用培地はpH 6.5に調整後、121℃、15分間加圧殺菌し、30℃で24時間培養し、上澄液を遠心分離して回収し、粗酵素液として用いた。このように得たタンパク質分解酵素KH−15のアミノ酸配列は配列番号1の通りである。
【0039】
<配列番号1>
MNQKAMIVIA AGSMLFGGAG VYAGINLLEM DKPQTAAVPA TAQADSERDK AMDKIEKAYE
LISNEYVEKV DREKLLEGAI QGMLSTLNDP YSVYMDKQTA KGGSDSLDSS FEGIGAEVGM
EDGKIIIVSP FKKSPAEKAG LKPLSTIISI NGESMAGKDL NHAVLKIRGK KGSSVSMKIQ
RPGTKKQLSF RIKRAEIPLE TVFASEKKVQ GHSVGYIAIS TFSEHTAEDF AKALRELEKK
EIEGLVIDVR GNPGGYLQSV EEILKHFVTK DQPYIQIAER NGDKKRYFST LTHKKAYPVN
VITDKGSASA SEILAGALKE AGHYDVVGDT SFGKGTVQQA VPMGDGSNIK LTLYKWLTPN
GNWIHKKGIE PTIAIKQPDY FSAGPLQLKE PLKVDMNNED VKHAQVLLKG LSFDPGREDG
YFSKDMKKAV MAFQDQNKLN KTGVIDTRTA ETLNQQIEKK KSDEKNDLQL QTALKASFVN
【0040】
プロタメックス(Protamex)とフレーバーザイム(Flavourzyme)はNovo Korea(Seoul, South Korea)、プロレザーFG−F(Proleather FG-F)とプロテアーゼA(Protease A)はAmano Enzyme USA Co.(Lombard, IL, USA)、アロアーゼAP−10(Aroase AP-10)とペスカラーゼ(Pescalase)はYakult(Yakult Pharmaceutical Ind. Co., Tokyo, Japan)とDSM Gist(Netherlands)でそれぞれ購入して用い、その特性は表1の通りである。
【0041】
【表1】

【0042】
統計分析
実験結果はSPSS programを用いて平均と誤差を提示し、各処理別有意性はDuncans multiple range testでp<0.05水準で検定した。
【0043】
実施例2:酵母加水分解物の活性
【0044】
<実験例1>酵母加水分解物の製造
Saccharomyces cerevisiae (ATCC4126)を2%モラセス(廃糖蜜)、0.6%(NH4)2SO4、0.1%MgSO4・7H2O、0.2%KH2PO4、0.03%K2HPO4と0.1%NaClを含有した液体培地を用いて30℃で3日間培養した。培養後、3,000 rpmで20分間遠心分離して菌体を回収し、20 mMリン酸塩緩衝溶液(pH 7.0)を用いて10%懸濁液を作った。懸濁液にプロタメックス(Protamex)、フレーバーザイム(Flavourzyme)、プロテアーゼA(Protease A)、アロアーゼAP−10(Aroase AP-10)、ペスカラーゼ(Pescalase)、パパイン(Papain)及びKH−15をそれぞれ0.5%ずつ添加し、35℃で6時間加水分解後、95℃で10分間加熱処理し、遠心分離して上澄液を回収した。酵母加水分解物は10kDa分離膜(Satocon cassette, Sartorius, Germany)を用いて処理し凍結乾燥して製造した。
【0045】
<実験例2>酵母加水分解物のタンパク質回収率
商業用酵素とバチルス属菌KH−15が生産したタンパク質分解酵素KH−15を用いて酵母加水分解物を製造してタンパク質回収率を測定した(図1、式1)。
【0046】
<式1>
タンパク質回収率(%)=(加水分解後のタンパク質/加水分解前のタンパク質)×100
【0047】
プロタメックス、フレーバーザイムによる加水分解物は、それぞれ52.3%と54.5%の回収率を示し、endo-typeタンパク質分解酵素であるプロレザー、プロテアーゼAとペスカラーゼによる酵母加水分解物のタンパク質回収率は、それぞれ46.7%、44.5%と50.4%で多少低くなった一方、KH−15は53.9%でendoとexo-typeの混合であるcomplex-typeと類似のタンパク質回収率を示した(表2)。
【0048】
【表2】

【0049】
<実験例3>酵母加水分解物の脂肪の蓄積阻害の効果
脂肪細胞での脂肪分解効果
3T3−L1前駆脂肪細胞(preadipocytes)(ATCC#F8979, Manassas, VA)を10%ウシ胎児血清、100 unit/mL ペニシリン、100mg/mL ストレプトマイシンが含まれたDMEM培養液を用いて5%CO下にインキュベーターで培養した。3, 4日後に細胞が融合するようになると、0.05%トリプシン/EDTAで処理して細胞を分離した後、遠心分離(1,000rpm, 5分)して細胞を集め、細胞密度が3.3×103cell/cmになるように懸濁溶液を作って12ウェルプレートに1 mlずつ分注して2次培養した。3, 4日後に細胞を増殖させた後、分化培地(DMEM培養液に5μg/mlインスリン、0.25 μMデキサメタゾン及び0.5 mM IBMX(3−イソブチル−1−メチルキサンチン)が添加された培地)を添加して分化を誘導した。
【0050】
2日間隔で処理培地(DMEM培養液に5μg/mlのインスリンのみ含まれた培地)に培地を取り替えながら脂肪細胞に分化させた。分化培地処理後、約10日が経過すると90%以上が脂肪細胞に分化するようになる。酵母加水分解物は0.1%の濃度になるように処理培地に溶かした後、0.2μmフィルターで濾過して完全に分化された脂肪細胞に処理した。
【0051】
グリセロール濃度は酵素反応法で測定した。37℃に予め加温しておいた遊離グリセロール試薬1 mLに収集された培養液10μLを添加して37℃の水浴槽で5分間培養した。グリセロール定量のためには、グリセロール標準溶液(Sigma)12.5μgと25μgを試料と同一の方法で反応させた後、96ウェルプレートに200μLを採り540 nmで吸光度を測定した。
【0052】
その結果、脂肪分解時に生成されるグリセロール濃度は、対照群(酵母加水分解物未添加群)と比較時にプロタメックス、フレーバーザイム及びKH−15による各酵母加水分解物添加群でそれぞれ109.3%、114.5%及び116.8%と、他の酵母加水分解物に比べて増加した。一方、プロレザー、プロテアーゼA、アロアーゼ、ペスカラーゼ及びパパインによる各酵母加水分解物投与群の場合、対照群と大きな差はなかった(図2)。
【0053】
脂肪細胞での脂肪の蓄積阻害効果
レプティンは、脂肪細胞の肥満遺伝子により生成されるホルモンで、視床下部に作用して飲食物の摂取を抑制させてエネルギー消費を増加させ、肥満を調節するタンパク質で(Caro et al., 1996)、レプティンは体脂肪量と密接な関連関係があり(Considine et al., 1996)、血中レプティン濃度は体脂肪量を示す指標として知られ、最近の肥満研究で多く適用されている。レプティンは脂肪細胞内の脂肪の蓄積量が増加するほどレプティンの分泌量が増加すると知られている(Considine et al., 1996)。従って、レプティン量の減少は脂肪蓄積が少ないということを意味する。
【0054】
脂肪細胞から分泌されたレプティンの量はEnzyme Linked Immunosorbent Assay(ELISA)方法を用いて測定した。ラット抗マウスレプティン IgG 2μg/mLをMaxiSorp(登録商標) ELISAプレート(Nunc)に入れて一夜培養した後、PBS−T(0.05%のTween 20(登録商標)を含むPBS)緩衝液で3回洗浄したプレートに脂肪細胞から収集した培養上清100μLを培地に添加して1時間培養した。再びPBS−Tで3回洗浄した後、ビオチン化ウサギ抗マウスレプティン IgG 200μg/mLを入れて1時間常温に置いた後、再度PBS−Tで3回洗浄した。その後、ExtrAvidinホースラディッシュペルオキシダーゼを常温で1時間培養した後、3回洗浄した。免疫活性を測定するために各ウェルに100μLの3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン二塩酸塩基質(TMB)を入れて30分間反応させた後、50μLの2M H2SO4を添加して反応を終了させて吸光度を450nmで測定した。酵母加水分解物のレプティン分泌量は対照群と比較して相対的な値で示した。
【0055】
酵母加水分解物による脂肪細胞でのレプティン含量を測定した結果(図2)、KH−15による酵母加水分解物処理時に23.5%として最も低いレプティン含量を示し、プロタメックスとフレーバーザイム加水分解物は58.7%と35.7%の含量を示した。
【0056】
KH−15による酵母加水分解物添加によるグリセロール濃度が有意的に増加し、レプティンの分泌量が大幅に減少したことから見て、KH−15、プロタメックス及びフレーバーザイム酵母加水分解物は、脂肪分解効果とは別途に脂肪の蓄積を抑制する効果があり、両者は互いに異なる機作によりなされるものと確認された。また、他の酵母加水分解物に比べて、特にKH−15酵母加水分解物の肥満抑制効果が優れると判断される。
【0057】
【表3】

【0058】
<実験例4>酵母加水分解物の細胞毒性
試料に対する細胞生存率は、MTT〔3-(4,5-メチルチアゾ-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロマイド〕比色法で実験した(Camichael et al., 1978)。細胞は1×105 cell/200μLの濃度で96ウェル プレートに分注して24時間培養後に培地を除去した。ここで新たなDMEM培地200μLに濃度別に希釈した試料をそれぞれ添加して24時間培養した後、2.5mg/mLで製造したMTT溶液20μLを各ウェルに加えて4時間培養した。培養終了後、上澄液を除去して各ウェルに100μLのDMSOを添加して生成されたformazan結晶を溶解させてマイクロプレートリーダーを用いて550nmで吸光度を測定した。この時、細胞生存率は次の通り計算して示した。
【0059】
<式2>
細胞生存率(%)={100−(対照群の吸光度−試料処理群の吸光度)/対照群の吸光度}×100
【0060】
脂肪に分化された3T3−L1細胞株(adipocyte)に対して異なる濃度(50,100μg/mL)の酵母加水分解物で24時間処理して細胞毒性を観察した結果、処理濃度区間内では毒性が観察されず、100μg/mLの処理時に550nmでの吸光度の増加は試料自体が有する色によるもので、細胞の増殖促進効果はないことが確認された。従って、以後肥満細胞の処理濃度は100μg/mLに設定した(図3)。酵母加水分解物間の若干の差はあったが、この結果から酵母加水分解物は100μg/mLの濃度で脂肪細胞に対する細胞毒性がなく、脂肪細胞を増殖させたり肥満を誘導しないということを確認することができた。
【0061】
【表4】

【0062】
実施例3:酵母KH−15加水分解物の活性
【0063】
<実験例1>材料
酵母KH−15加水分解物
実施例2で抗肥満効果が最も優れていたBacillus sp. KH−15が生産したタンパク質分解酵素であるKH−15を用いて製造した酵母加水分解物(以下、Eatlessということがある)をもって生理活性を測定した。
【0064】
実験動物及び実験食餌
実験動物は体重180−185g程度のS/D雄ラットを大韓実験動物センター(忠清北道陰城)から購入して用いた。食餌(表5)と水は自由に摂取するようにし、飼育場温度は22℃、そして湿度は40−60%に維持し、照明は12時間明暗周期とした。
【0065】
ラットは2つの群に分けて、実験群1は高脂肪食餌群(対照群)、実験群2は高脂肪食餌及び酵母KH−15加水分解物の経口投与群(100mg/kg)に分けて各群ごとに8匹ずつ分けて実験を進めた。経口投与は24日間実施した。
【0066】
【表5】

【0067】
<実験例2>酵母KH−15加水分解物がラットの血中脂質に及ぼす影響
血清中の総コレステロール、HDL−コレステロール、中性脂質濃度は酵素法による測定キット試薬で分析した。
【0068】
酵母KH−15加水分解物を24日間経口投与した後、血清中の脂質の変化を測定した結果(表6)、体脂肪蓄積の原因物質である中性脂質は対照群である高脂肪食餌群が96.28mg/dlであるのに対し、酵母KH−15加水分解物を投与した場合、80.07 mg/dlと差を示したが、統計的に有意差を示さなかった。
【0069】
しかし、総コレステロールの場合、対照群が酵母KH−15加水分解物投与群に比べて高い数値を示し、HDL−コレステロールの場合には、酵母KH−15加水分解物投与群が高脂肪食餌群に比べて34%程度高い数値を示した。従って、酵母KH−15加水分解物投与群は総コレステロールの数値が低く、HDL−コレステロールの数値が高いことにより動脈硬化発病率を低くすることができる。
【0070】
以上の実験結果によると、酵母KH−15加水分解物は体重減少、体脂肪減少効果を奏することにより肥満抑制又は治療効果を奏していることを確認した。
【0071】
【表6】

【0072】
スチューデントt-検定(Students t-test)によると、対照群に対して有意な差を示す(*p<0.05, **p<0.01)。
(※)HTR = HDLコレステロール/総コレステロール
【0073】
<実験例3>酵母KH−15加水分解物の抗酸化活性
酵母KH−15加水分解物のDPPHラジカルとABTSラジカル消去能
DPPHラジカル消去能の測定は、Cheung等(2003)の方法を用いた。1,1-ジフェニル-2-ピクリルヒドラジルをエタノールに溶解させた0.2mM DPPH溶液0.4mLと試料0.1mLを暗所で10分間反応させた後、520nmで吸光度を測定した。
【0074】
ABTSラジカル消去能の測定は、Re等(1999)の方法を用いた。7mM 2,2’-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)二アンモニウムに2.45mM過硫酸カリウムを添加して暗所で室温で12−16時間放置した後、414 nmで吸光度が1.4−1.5になるように蒸留水で希釈させた。肝組織試料12.5μLに希釈されたABTSラジカル溶液250μLを入れて暗所で60分間反応させて414nmで吸光度を測定した。DPPH及びABTSラジカル消去能(%)は次の通り計算した。
【0075】
<式3>
ラジカル消去活性(%)=(1-Asample/A対照群)×100
Asample:試料添加時の吸光度、 A対照群:試料未添加時の吸光度
【0076】
酵母KH−15加水分解物のDPPHラジカルとABTSラジカル消去能は、図4のように濃度依存的に増加する傾向を示し、ラジカルの50%消去に必要なIC50値は19.1 mg/mlと9.0 mg/mlであり、比較的高い水準のラジカル消去能を有していることを確認した。従って、酵母KH−15加水分解物を飼料に添加時に抗酸化活性を期待することができる。
【0077】
酵母KH−15加水分解物が還元型グルタチオン及び過酸化脂質に及ぼす影響
酸素遊離基(酸素フリーラジカル、活性酸素)は酸素を用いて生存する細胞内で生成される毒性が強い物質で、細胞のDNAや細胞膜脂質及びタンパク質等を損傷させるので、細胞内ではスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ等の抗酸化酵素とグルタチオン、尿酸等の様々な非酵素的抗酸化物質があり、酸素遊離基による酸化的損傷から各種細胞構造物を保護する。SODは遊離酸素をHとOに転換し、生成されたHはカタラーゼとグルタチオンペルオキシダーゼにより消去されるが、グルタチオンペルオキシダーゼは還元型グルタチオン(GSH)を酸化型グルタチオン(GSSG)に酸化させながらHを除去し、GSSGはグルタチオンリダクターゼにより再びGSHに還元され、人体内でグルタチオンはGSHとGSSGの2つの形態で均衡をなしながら存在するようになる。もし、細胞内に毒性又は酸化的損傷が生じた場合には、GSSGが徐々に増加するようになって、GSH/GSSGの不均衡をもたらすようになり防御機作としての役割が消失する。GSHは酸素遊離基による細胞の損傷を防止し、細胞内解毒作用を担当する重要な物質とみなされている。従って、健康な個体の細胞は酸化的細胞損傷を引き起こし得る酸素遊離基を消去する防御機作により十分に保護を受けることができる(De Haan et al., 1995)。
【0078】
Tietz(1969)の方法を用いて血液中の還元型グルタチオン含量を測定した。血漿に同量の5%スルホサリチル酸を添加し、4℃、2,000×gで10分間遠心分離をした。上澄液100μLに0.3mM Na2HPO4 800μLと0.1%クエン酸ナトリウムに0.04%になるように5,5’-ジチオビス2-ニトロ安息香酸(DTNB)を混ぜた溶液100μLを添加して5分後412nmで吸光度を測定し、還元型グルタチオンを標準物質にして定量した。
【0079】
Quintanilha等(1982)の方法を用いて血液中の過酸化脂質レベルを測定した。血漿100μLに10%トリクロロ酢酸 200μLを入れて15分間室温で放置した後、4℃、2,200×gで15分間遠心分離をした。上澄液200μLに0.67%チオバルビツール酸 200μLを添加して混合した後、100℃の恒温水槽で10分間反応させて冷却し、532nmで吸光度を測定し、マロンジアルデヒド(MDA)を標準物質にして定量した。
【0080】
酵母KH−15加水分解物を経口投与させたSDラットの肝と血液中のGSH量を測定した結果は表7の通りである。血液中に存在する脂質が酸化して生成される酸化生成物であるMDA(マロンジアルデヒド)の含量が高いほど酸化ストレスが大きいが、対照群と酵母KH−15加水分解物投与群でのMDA含量を測定した結果、12.0と9.0μmol/gであり、酵母KH−15加水分解物の経口投与時に酸化生成物であるMDAが少なく生成されることを確認した。また、血液と肝での抗酸化活性に関与する還元型GSH(グルタチオンサルフェート)含量は、対照群に比べて酵母KH−15加水分解物経口投与群が437.4μmol/Lと6.7mmol/Lとして高い含量を示した。酵母KH−15加水分解物を経口投与することにより抗酸化に関与するGSHの含量の増加と共に酸化生成物であるMDAの減少を確認した。これは酵母KH−15加水分解物が抗肥満効果だけでなく、様々な疾病の原因物質であるラジカル消去能があるということを意味する。
【0081】
【表7】

【0082】
<実験例3>酵母KH−15加水分解物が脂肪の蓄積及び肥満に及ぼす影響
体重増加量及び食餌摂取率
高脂肪食餌をしたラットと酵母KH−15加水分解物を経口投与(100mg/kg, 24日投与)したラット間の体重増加量を測定した結果、経口投与12日以後から高脂肪食餌群と酵母KH−15加水分解物投与群との間に体重増加量が有意的差を示し、酵母KH−15加水分解物投与群の体重増加量が少ないことが確認された(図5)。
【0083】
一方、一日平均体重増加量を測定した結果(表8)、酵母KH−15加水分解物を経口投与した場合、対照群に比べて体重増加量が5.63 gと少なく増加した。また、酵母KH−15加水分解物経口投与群が対照群に比べて食餌摂取量が多少少ないと確認されたが、有意的なレベルではなかった。従って、酵母KH−15加水分解物摂取群の体重増加量が少なく、飼料摂取効率が減少することが確認された。
【0084】
酵母KH−15加水分解物を24日間経口投与した結果、対照群に比べて体重増加量が明確に少なく、一日平均体重増加量でも明確な差を示すことにより肥満予防効果が非常に優れていると予想された。
【0085】
【表8】

【0086】
体脂肪減少の効果
各実験群の臓器の重さの変化を測定した結果、肝、脾臓と腎臓の臓器間の重量変化は有意的差がなかったが、副睾丸周辺の脂肪(epididymal fat pad)と腎臓周辺の脂肪(perirenal fat pad)は対照群の場合、5.38 gと3.78 gである一方、酵母KH−15加水分解物経口投与群の場合、4.38 gと3.05 gの脂肪含量を示した。
【0087】
また、体重で脂肪が占める比率を測定した結果(図6)、副睾丸周辺の脂肪(epididymal fat pad)と腎臓周辺の脂肪(perirenal fat pad)は高脂肪食餌をした群の場合、1.46%と1.03%の脂肪含量を示したのに対し、酵母KH−15加水分解物を経口投与した群の場合、1.21%と0.85%の脂肪含量を示すことにより酵母KH−15加水分解物を経口投与した場合、対照群に比べて副睾丸周辺の脂肪と腎臓周辺の脂肪含量が17.1%と17.5%減少した。
【0088】
従って、肥満の最も大きな原因物質である脂肪の蓄積が酵母KH−15加水分解物を投与した場合、相当多くの量が減少することを確認した。
【0089】
実施例4:酵母KH−15加水分解物の活性
【0090】
<実験例1>材料
酵母KH−15加水分解物
以上の結果により、抗肥満効果が最も優れたバチルス属菌KH−15が生産したタンパク質分解酵素KH−15を用いて製造した酵母KH−15加水分解物(Eatless)を用いて生理活性を測定した。
【0091】
実験動物及び実験食餌
犬(ビーグル(beagle))(2〜5年)を標準飼料(ピュリナ(登録商標))と水は自由に摂取するようにし、飼育場温度は24℃、そして湿度は40−60%に維持し、照明は12時間明暗周期とした。酵母加水分解物が入っているカプセルを100mg/kgに該当する量を経口投与した。ビーグルを3群(対照群、実験群1、実験群2)に分類し、群当り5匹を用いた。対照群は標準飼料を給餌、実験群1は30日間標準試料及び酵母KH−15加水分解物を経口投与し(100 mg/kg)、実験群2は初期10日間は標準飼料、11−20日の間には、標準飼料及び酵母KH−15加水分解物を(100 mg/kg)、21−30日の間には、標準飼料をそれぞれ給餌した。各群間の飼料摂取は次の通りであり(表9)、酵母KH−15加水分解物に対して犬の最初の食いつき(嗜好性)が相当良かったことから、飼料添加物に適するものと見られる。
【0092】
【表9】

【0093】
<実験例2>酵母KH−15加水分解物が脂肪の蓄積及び肥満に及ぼす影響
体重増加
30日間標準飼料、酵母KH−15加水分解物をそれぞれ経口投与し、実験前、実験開始10,20,30日後に体重増加量を測定した結果(図7)、対照群は実験期間が経過するほど体重が増加する傾向を示し、10,20,30日での体重増加量はそれぞれ0.88, 1.46, 3.06 kgの増加量を示した。一方、実験群1(Eatless-A)では30日経過後に0.2 kgの体重増加量を示し、実験群2(Eatless-B)ではむしろ1.64 kgの体重減少量を示した。
【0094】
腹囲
腹囲を測定した結果(図8)、標準飼料のみ摂取した対照群では体重の増加量と共に腹囲も10日目は2.2 cm、20日と30日目は2.86と3.43 cmの増加を示した一方、実験群1では30日目1.8 cm減少し、実験群2では30日目に腹囲の変化がなかった。
【0095】
以上の結果によると、投与方法により若干の差はあるが、酵母KH−15加水分解物の経口投与時に体重の増加を防止して体重減少を誘導できる機能を有していることを確認した。
【0096】
<実験例3>酵母KH−15加水分解物投与後の血中指標測定
前述した通り、酵母KH−15加水分解物の経口投与は体重増加を抑制又はむしろ減少させる効果があることを確認したが、これは酵母KH−15加水分解物が有する毒性による可能性があるので、血液を採取してペットの健康点検時に測定するいくつかの血液中の成分を測定した(表10, 11)。
【0097】
酵素法によりキット試薬で血清中の総コレステロール、HDL−コレステロール、中性脂質濃度を分析した。血液中での赤血球、白血球及びヘモグロビンの数値を測定した結果(表10)、対照群と酵母KH−15加水分解物経口投与群である実験群1, 2で指標は正常な数値を示していることを確認した。
【0098】
【表10】

【0099】
また、血漿でのコレステロール、アルブミン、ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)等を測定した(表11)。血漿中の指標成分等を測定した結果、コレステロール、アルブミン、タンパク質の含量は各群いずれも正常数値を示した。特に肝損傷の指標であるALT数値も各群とも正常水準であることを確認した。これは酵母KH−15加水分解物を経口投与時に体重減少を示した実験群2の場合、酵母KH−15加水分解物投与群の毒性による効果ではないとのことを間接的に確認できる結果で、表7, 8で測定された他の数値と比較時、複数の指標が正常範囲内に属するので、このような体重減少は酵母KH−15加水分解物の抗肥満活性よるものと見られる。
【0100】
【表11】

【0101】
<実験例4>酵母KH−15加水分解物の抗酸化活性
血液内で抗酸化活性の指標であるMDAとGSH含量をそれぞれ測定した結果、酸化生成物であるMDA(マロンジアルデヒド)の含量は、対照群が278.4μmol/Lと高い数値を示した一方、酵母KH−15加水分解物投与群である実験群1, 2は、それぞれ213.6と224.4 μmol/Lと低い数値を示した。また、抗酸化活性物質であるGSH含量は、対照群が2.0 mmol/Lである一方、実験群1, 2はそれぞれ2.7と2.6 mmol/Lとして多少高い含量を示した(図9)。なお、図9において、各群間で記号bの値は記号aの値に対して有意差(p<0.05)があることを示す。
【0102】
試作例1:カプセル剤
本発明の酵母KH−15 加水分解物(Eatless)170部、ミツロウ30部及びコーン油50部を約50℃に加熱混合して均質にした後、カプセル充填機に供して、常法により1粒当り内容量が250mgのゼラチン被覆ソフトカプセル製剤を試作した。このカプセル製剤は、経口摂取が可能な栄養補助食品、飼料又は医薬品として利用できる。
【0103】
試作例2:錠剤
本発明の酵母KH−15 加水分解物(Eatless)100部、化工デンプン(松谷化学工業社製、商品名:「パインフロー」(登録商標))80部、リン酸三カルシウム85部及びセルロース35部を混合機に仕込み、10分間攪拌混合した。この混合物を直打式打錠機に供して直径7mm、高さ4mm、質量150mg/個の素錠を作成し、次いでコーティング機でシェラック被膜を形成させて錠剤形状の経口摂取用組成物を試作した。
【0104】
試作例3:飲料
市販の緑茶飲料水1000部に本発明の酵母KH−15 加水分解物(Eatless)10部を加えて十分に混合し均質な飲料水を試作した。これは冷蔵庫で1週間保存しても外観及び風味に異状や違和感は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の酵母加水分解物は、体内脂肪蓄積を妨げることにより体重を調節し、肥満を予防及び治療する。また、本発明の酵母加水分解物は抗酸化活性を有する。従って、本発明の酵母加水分解物は肥満、酸化的損傷等と関連する様々な疾患を予防及び治療するのに効果的であり、これは食品、医薬、飼料等に用いられることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵母(Saccharomyces cerevisiae)をタンパク質分解酵素で分解した酵母加水分解物を有効成分として含み、体重減少効果及び抗酸化活性を有することを特徴とする組成物。
【請求項2】
上記タンパク質分解酵素は、プロタメックス(Protamex)、フレーバーザイム(Flavourzyme)、プロテアーゼA(Protease A)、アロアーゼAP−10(Aroase AP-10)、ペスカラーゼ(Pescalase)、パパイン(Papain)及び配列番号1のアミノ酸配列を含むKH−15で構成される群から選択される1つ又はそれ以上であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
上記タンパク質分解酵素は、配列番号1のアミノ酸配列を含むKH−15であることを特徴とする、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
上記組成物は、食品組成物、飼料組成物、薬学的組成物及び化粧料組成物から選択されるいずれか1つであることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
上記薬学的組成物は、動脈硬化、内臓肥満、腹部肥満、高脂血症、脂肪肝及び肥満で構成された群から選択されるいずれか1つを予防又は治療することを特徴とする、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか1項の組成物を動物に投与する段階を含む、動物の動脈硬化、内臓肥満、腹部肥満、高脂血症、脂肪肝及び肥満で構成された群から選択されるいずれか1つを予防又は治療する方法。
【請求項7】
酵母(Saccharomyces cerevisiae)にタンパク質分解酵素を加える段階を含む、体重減少効果及び抗酸化活性を有する組成物の製造方法。
【請求項8】
上記タンパク質分解酵素は、プロタメックス(Protamex)、フレーバーザイム(Flavourzyme)、プロテアーゼA(Protease A)、アロアーゼAP−10(Aroase AP-10)、ペスカラーゼ(Pescalase)、パパイン(Papain)及び配列番号1のアミノ酸配列を含むKH−15で構成される群から選択される1つ又はそれ以上であることを特徴とする、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
上記タンパク質分解酵素は、配列番号1のアミノ酸配列を含むKH−15であることを特徴とする、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
上記組成物は、食品組成物、飼料組成物、薬学的組成物及び化粧料組成物から選択されるいずれか1つであることを特徴とする、請求項7に記載の製造方法。
【請求項11】
上記薬学的組成物は、動脈硬化、内臓肥満、腹部肥満、高脂血症、脂肪肝及び肥満で構成された群から選択されるいずれか1つを予防又は治療することを特徴とする、請求項10に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−231097(P2011−231097A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233127(P2010−233127)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(510275633)ネオクレマー株式会社 (1)
【氏名又は名称原語表記】Neo Cremar Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】Rm 118 SICOX tower, 513−14 Sangdaewon−dong, Jungwon−gu, Seongnam−city,Kyounggi−do, Korea
【Fターム(参考)】