説明

胃腸障害改善・予防作用を有する飲食品

【課題】安価な材料から得られ、副作用がなく、長期にわたって服用でき効果的に胃腸障害の改善作用及び/又は予防作用を発揮し得る飲食品を提供する。
【解決手段】アスパラガスから得られる組成物、好ましくはアスパラガス若茎からの抽出物と、メチルメチオニン及び/又はその誘導体、ナイアシン及び/又はその誘導体、ビタミンB2、アロエ、ムチン及び乳酸菌からなる群から選ばれる1又は2以上の物質とを含有することを特徴とする胃腸障害改善・予防作用を有する飲食品であって、前記アスパラガスから得られる組成物にはγ−アミノ酪酸が1質量%〜40質量%含まれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胃腸障害改善作用及び/又は胃腸障害予防作用を有する飲食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の高ストレス社会、食生活の欧米化等によって、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃癌、大腸癌等の胃腸障害が増加している。一般に胃潰瘍は胃粘膜の働きが弱まった時に胃液の刺激により起こり、十二指腸潰瘍は胃液が強力になりすぎるために起こるといわれている。これらの潰瘍は放置しておくと痛みが続くだけでなく、悪性腫瘍の出現など重大な事態にも発展する可能性があることから早期に改善すると共に日頃から予防を行うことが必要である。このような中、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム等の制酸剤、臭化プロパンテリン、臭化メチルベナクチジウム、臭化ブチルスコポラミン、臭化ブトロピウム、ヨウ化イソプロパミド等の抗コリン剤、プログルミド、オキセサゼイン等の抗ガストリン剤、シメチジン、ラニチジン、ファモチジン、ロキサチジン等のH2ブロッカー、オメプラゾール、ランソプラゾール等のプロトンポンプ阻害剤といった胃腸障害を改善する種々の医薬品が開発され使用されている。
【0003】
また、日常からの食生活に気をつけて胃腸障害を改善及び/又は予防することが好ましいとの観点から、食品素材や食品素材に含まれる成分の中からも胃腸障害を改善及び/又は予防する物が見出されている。かかる例としては、キャベツやアスパラガスに多く含まれるメチルメチオニン及び/又はその誘導体(ビタミンU)、ナイアシン及び/又はその誘導体、ビタミンB2、アロエ、ムチン、乳酸菌などが挙げられる。
【0004】
一方、アスパラガスは、繊維質が豊富でカロリーの低い野菜であり、全国で年間約28000tが収穫されている他、海外からの輸入も盛んである。国内で収穫量の多い都道府県としては、長野県、北海道、佐賀県、福島県、香川県、長崎県、秋田県などが挙げられる。これまで、アスパラガスには食物繊維の他、アスパラギン酸、ビタミンU(メチルメチオニン)、ルチン、葉酸、サポニン類、グルタチオンなどの有用成分が多く含まれていることが知られており、例えば美白作用(特許文献1参照)などが報告されていた。また、γ−アミノ酪酸(以下、GABAと略す。)も比較的多量に含有されていることが報告されていた。
【特許文献1】特開平5−271045号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、胃腸障害改善及び/又は予防を目的とした上記の医薬品において、制酸剤は単に胃酸を中和するのみの医薬品であり、その他の医薬品は副作用が避けられない問題があり、長期にわたっての服用は好ましくなかった。また、副作用がなく胃腸障害改善作用や胃腸障害予防作用を有する上記のような食品素材が種々開発されているが、いずれも効果は必ずしも満足いくものではなかった。
【0006】
本発明は、安価な材料から得られ、副作用がなく、長期にわたって服用でき効果的に胃腸障害の改善作用及び/又は予防作用を発揮し得る飲食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、従来、胃腸障害を改善及び/又は予防する効果が見いだされている特定の物質に、アスパラガスから得られる組成物を加えることで強い胃腸障害改善作用及び/又は胃腸障害予防作用が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は、アスパラガスから得られる組成物と、メチルメチオニン及び/又はその誘導体、ナイアシン及び/又はその誘導体、ビタミンB2、アロエ、ムチン及び乳酸菌からなる群から選ばれる1又は2以上の物質とを含有することを特徴とする胃腸障害改善・予防作用を有する飲食品を要旨とするものであり、好ましくは、アスパラガスから得られる組成物が、アスパラガス若茎からの抽出物であるものであり、さらに好ましくは、アスパラガスから得られる組成物が、γ−アミノ酪酸を1質量%〜40質量%含有する組成物であるものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、安全に且つ効果的に胃腸障害改善作用及び/又は胃腸障害予防作用を得ることができ、従来公知の胃腸障害改善作用及び/又は胃腸障害予防作用の程度を相乗的に増強させることができたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明で用いられるアスパラガスは、本発明の効果を損なうものでない限りいかなるものでもよい。アスパラガスには日光に当てて栽培するグリーンアスパラガス、土などで遮光しながら栽培するホワイトアスパラガス、細く短いうちに刈り取りを行うミニアスパラガス、グリーンアスパラガスとは別種で紫色を呈するムラサキアスパラガスなどがあるが、これらの中ではアミノ酸やルチン等の栄養成分に富むグリーンアスパラガス、ムラサキアスパラガスが好ましく、コストが安いグリーンアスパラガスがさらに好ましい。
【0011】
アスパラガスの産地は特に限定されず、国産でも海外からの輸入品でもよい。使用する部位も特に限定されず、若茎、地上茎、貯蔵根が使用できるがこれらの中で若茎が好ましい。若茎は根元部分でも先端部分でもよいが、商品となるアスパラガスの長さを揃える時にカットされた根元部分は安価で入手できることから最も好ましい。アスパラガスはそのまま使用してもよいし、破砕、切断、凍結乾燥、脱水などの処理を行った後に使用してもよい。
【0012】
本発明で用いるアスパラガスから得られる組成物とは、以下の述べるような公知の処理をアスパラガスに施すことによって得られる処理物であって、本発明の効果を損なうものでない限りいかなるものでもよい。そのような処理としては、例えば、粉砕・切断・加熱・冷却・凍結・脱水・凍結乾燥・真空乾燥・噴霧乾燥等の公知技術のいずれか1つあるいは2つ以上組み合わせた処理、さらに、水抽出、溶媒抽出、圧搾、酵素分解、超臨界抽出、濃縮、希釈、固液分離、精製等の公知の技術を単独あるいは組み合せた処理を挙げることができる。これらのうちいくつかについて以下に説明する。
【0013】
粉砕・細断は物理的にアスパラガスを細かく破砕する方法であり、粉砕は衝撃により、細断は切断によって破砕する。粉砕・細断は乳鉢や包丁、カッターナイフ、ハサミなどを用いて手作業で行っても良いが、大量のアスパラガスを短時間で処理しようとする場合には装置を使用する。そのような装置としては、例えば、ミル、ハンマー式粉砕機、ミキサー、ブレンダーなどが挙げられ、また野菜用の細断機を用いてもよい。粉砕・細断されたアスパラガスの大きさは特に限定されないが、2cm以下が好ましく、5mm以下がより好ましい。
【0014】
脱水は、アスパラガス中の水分を除く操作であり、圧搾、濾過、静置による沈殿の分離、遠心分離、加熱蒸発、凍結乾燥、真空乾燥、噴霧乾燥等が挙げられる。このうち、成分の損失、分解、変質の可能性が少ないという点で、凍結乾燥が好ましい。
【0015】
凍結乾燥、真空乾燥は、気圧を低下させて沸点を低下させ、水分を気化させる方法である。噴霧乾燥は、溶液を微粒化して熱風と接触させる事で短時間での乾燥を可能にする操作である。
【0016】
上記した処理の組み合わせの好ましい例としては、アスパラガスを加熱処理し、凍結乾燥した後、ミル等で粉砕したものが好ましい。
【0017】
水抽出は、水を加えてそこに成分を溶出させる方法である。加える水の量は特に限定されないが、アスパラガスに対して0.01〜100倍量が好ましく、0.5〜5倍量がより好ましい。水の量が0.01倍より少ないと抽出効率が落ち、100倍より多いと薄い抽出液しか得られず後に濃縮操作が必要になる場合がある。また、使用する水の温度は0℃〜100℃が好ましく、10℃〜80℃がより好ましい。水の温度が0℃より低い場合には抽出効率が低下する傾向があり、抽出温度が100℃より高い場合にはGABA以外の有効成分が分解してしまうおそれが生じる。
【0018】
溶媒抽出は、アルコール類、炭化水素類、脂質類等の有機溶媒を用いて抽出する方法であり、使用する有機溶媒は本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、単独で用いてもよいし、他の溶媒と混合して使用してもよいし、水と混合して使用してもよい。好ましい有機溶媒の例としては、エタノール、メタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサン、アセトン、グリセリン、プロピレングリコール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチルエーテル、メチルエチルケトン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)が挙げられ、さらに好ましくは、エタノール、ヘキサン、アセトン、DMSO、グリセリンが挙げられる。加える有機溶媒の量は有機溶媒の種類にもより特に限定されないが、アスパラガスに対して0.01〜100倍量が好ましく、0.5倍〜5倍がより好ましい。有機溶媒の量が0.01倍より少ないと抽出効率が落ち、100倍より多いと薄い抽出液しか得られず後に濃縮操作が必要になる場合がある。また、使用する有機溶媒の温度は−20℃〜200℃が好ましく、0℃〜120℃がより好ましい。有機溶媒の温度が−20℃より低い場合には抽出効率が低下する傾向があり、抽出温度が200℃より高い場合には有効成分が分解してしまうおそれが生じる。
【0019】
圧搾とは、アスパラガスに物理的な圧力をかけて、液を搾り出し、GABAを搾汁に移行せしめる方法である。圧力は一方向のみにかけてもよいし、二以上の方向からかけてもよく、せん断力を伴わせることもできる。圧搾の操作は市販の圧搾機を用いれば容易であるが、手搾り、足踏み搾りなど機械を用いない方法で行ってもよい。このとき、アスパラガスに水や湯を加えて圧搾してもよい。
【0020】
酵素分解は、アスパラガスに酵素を作用させた後、固液分離してGABAをろ液に移行せしめる方法である。ここで酵素としては、本発明の効果を損なわない限り、特に限定されないが、食品用途として使用することを考慮すれば、食品用に使用できる酵素が好ましい。酵素の種類としては、特に限定されないが、アスパラガスの繊維質、ペクチン、多糖類などを分解し、効率良くGABAを取り出せるために、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ、キシラナーゼ、アラビナーゼ、アラバナーゼ、アミラーゼ、グルカナーゼ、デキストラナーゼなどが、蛋白質を分解し、遊離アミノ酸を多く回収するために、プロテアーゼ、ペプチダーゼなどが、グルタミン酸をGABAに変換するために、グルタミン酸デカルボキシラーゼなどが、グルタミンをグルタミン酸に変換するために、グルタミナーゼなどが使用できる。本発明における酵素分解においては、上記した酵素を一種類だけ用いてもよいし、二種以上を同時に又は連続して用いてもよい。
【0021】
超臨界抽出とは、二酸化炭素や水を気液臨界点以上の圧力、温度にし、分子運動の盛んな超臨界流体とせしめ、これを抽出溶媒として使用するものである。本発明においては、超臨界流体は二酸化炭素が好ましい。超臨界抽出を行う際の温度は、31℃〜150℃が好ましく、31℃〜100℃がより好ましい。温度がこの範囲より高い場合、有用成分が分解する可能性があり、この範囲より低い場合、抽出効率が低下する問題がある。また、超臨界抽出を行う際の圧力は、7MPa〜50MPaが好ましく、7MPa〜30MPaがより好ましい。圧力がこの範囲より高い場合、有用成分の分解やコスト高、安全性に問題があり、圧力がこの範囲より低い場合には抽出効率が低下する傾向がある。
【0022】
濃縮は、他の成分を減少させること無く水分量を減らす操作であり、減圧濃縮、加熱濃縮、濾過膜を用いた濃縮などいかなる方法で行ってもよいが、20℃〜60℃の範囲での減圧濃縮を行うことが好ましい。
【0023】
固液分離とは、溶媒およびそこに溶解している成分と、不溶性の固形分を分離する方法であり、分離方法としては、例えばフィルターろ過、圧搾ろ過、遠心分離、デカンテーションなどあらゆる方法が使用できる。清澄な組成物を得る場合には、珪藻土などのろ過助剤を使用したフィルターろ過を行うことが好ましい。また、さらに清澄な液を得る場合や微生物の除去を行う場合には、これをさらに1μm未満の孔径のメンブランフィルターろ過を行うことが好ましい。
【0024】
精製とは、目的の成分を他の成分と分離する操作であり、方法としては、電気泳動分離、密度勾配遠心分離、逆浸透・限外濾過・透析等の膜分離、ゲル濾過・イオン交換・アフィニティー等のクロマトグラフィーが挙げられる。これら精製方法は本発明の効果を損なわない限りいかなるものでもよいが、強酸性陽イオン交換樹脂を用いたクロマトグラフィーが収率の高さ、簡便性といった点から望ましい。
【0025】
以上のような処理により得られる、本発明におけるアスパラガスから得られる組成物の形態としては、水溶液、クリーム、懸濁液、ゲル、粉末、錠剤、カプセルなどが挙げられる。これらの中で好ましい例としては、切断後水抽出を行い得られた抽出液を濃縮又は粉末化したものが挙げられる。
【0026】
また、本発明で用いるアスパラガスから得られる組成物としては、GABAの含有量を増加させたものも含まれる。GABAの含有量を増加させる方法は本発明の効果を損なう物でない限り特に限定されず、飲食品に使用できるGABAを添加する方法や、グルタミン酸及び/又はグルタミン酸塩からアスパラガスの持つ内在酵素によってGABAに変換する方法、グルタミン酸及び/又はグルタミン酸塩から微生物によってGABAに変換する方法が挙げられる。これらの中では、安全性の高い食品添加物であるグルタミン酸及び/又はグルタミン酸塩から微生物によってGABAに変換する方法が好ましい。かかる微生物としては、乳酸菌、酵母、テンペ菌等いくつかのものが、GABA産生微生物として知られているが、特に乳酸菌が好ましい。詳しくは、アスパラガスから得られた水抽出物に、グルタミン酸及び/又はグルタミン酸ナトリウム塩を0.1〜20質量%添加し、GABAを産生する能力のある乳酸菌を添加して、25〜35℃、pH4.0〜6.0を維持して、2〜70時間発酵し、GABAを富化させる方法が挙げられる。
【0027】
本発明において用いるアスパラガスから得られる組成物に含まれるGABAの含量としては、1〜40質量%が好ましく、より好ましくは1〜20質量%、更に好ましくは5〜20質量%である。GABAが1質量%を下回ると、本発明の効果を発揮するためにはアスパラガスから得られる組成物を多量に使用する必要があり、また、40質量%を上回ると、胃腸障害改善・予防作用に相乗相加効果をもたらすアスパラガスから得られる組成物に含まれるGABA以外の成分の含有量が低くなり、好ましくない。
【0028】
本発明の胃腸障害改善・予防作用を有する飲食品は、アスパラガスから得られる組成物とともに、他の成分を含ませることが必要である。他の成分としては、メチルメチオニン及び/又はその誘導体、ナイアシン及び/又はその誘導体、ビタミンB2、アロエ、ムチン及び乳酸菌からなる群から選ばれる1又は2以上の物質である。
【0029】
メチルメチオニン及び/又はその誘導体は、メチルメチオニン、メチルメチオニンスルホニウムクロリド等を用いることができ、またメチルメチオニンを高含有するキャベツ抽出物、興和(株)が販売するキャベジンシリーズを用いることもできる。これらの中で特に好ましいのはメチルメチオニンスルホニウムクロリドである。これらのメチルメチオニン及び/又はその誘導体は、アスパラガスから得られる組成物が液体であればそこに溶解させて用いれば良いし、アスパラガスから得られる組成物が粉末であれば、そこに混合しても良いし水に溶解させて混合して用いても良い。
【0030】
ナイアシン及び/又はその誘導体は、ニコチン酸、ニコチン酸アミド等を用いることができ、またナイアシンの前駆物質であるトリプトファンを添加しても良い。これらはアスパラガスから得られる組成物が液体であればそこに溶解させて用いれば良いし、アスパラガスから得られる組成物が粉末であれば、そこに混合しても良いし水に溶解させて混合して用いても良い。
【0031】
ビタミンB2は、リボフラビンを配合することができるが、補酵素型であるフラビンヌクレオチド、フラビンアデニンヌクレオチドとして配合することもできる。これらはアスパラガスから得られる組成物が液体であればそこに溶解させて用いれば良いし、アスパラガスから得られる組成物が粉末であれば、そこに混合しても良いし水に溶解させて混合して用いても良い。
【0032】
アロエは、ユリ科アロエ属の多肉植物であり、約300種類が知られているが食用となるものであればいずれの種類を用いてもよい。これらの中で好ましいものとしては、キダチアロエ、アロエベラ、アロエフェニックス、不夜城、アロエムタビリス、シャボンアロエなどが好ましく、キダチアロエ、アロエベラが特に好ましい。アロエを配合する形態は限定されず、葉をそのまま使用しても良いし煮沸してアク抜き後使用しても良い。また、エキス、乾燥粉末等を配合することもできる。これらはアスパラガスから得られる組成物が液体であればそこに溶解または懸濁させて用いれば良いし、アスパラガスから得られる組成物が粉末であれば、そこにそのまま混合しても良いし水に溶解または懸濁させて混合して用いても良い。
【0033】
ムチンは、糖タンパク質の一種であり、気管、胃腸などの消化管、生殖腺などの内腔を覆う粘液となっていることが知られている。本発明では豚や牛等の動物から回収したムチンを使用しても良いし、オクラ、納豆、山芋等から回収したムチンを使用しても良い。また、ムチンは精製されたものでも良いし、混合物として含まれているものでも良い。ムチンを配合する形態は限定されず、エキス、乾燥粉末等の形態で配合することもできる。これらはアスパラガスから得られる組成物が液体であればそこに溶解または懸濁させて用いれば良いし、アスパラガスから得られる組成物が粉末であれば、そこにそのまま混合しても良いし水に溶解または懸濁させて混合して用いても良い。
【0034】
乳酸菌は、食品に用いても安全であるものであれば使用することができ、例えばラクトバチルス属、ラクトコッカス属、ストレプトコッカス属、エンテロコッカス属、ビフィドバクテリウム属等が挙げられる。そのような乳酸菌としては、ラクトバチルス・ブレビス、ラクトバチルス・ヒルガルディー、ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・ヘルベチカス、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・パラカゼイ、ラクトバチルス・ブルガリクス、ラクトバチルス・ブルガリカス、ラクトバチルス・アシドフィルス、ストレプロコッカス・ラクティス、ストレプトコッカス・サーモフィルス、エンテロコッカス・フェカリス、エンテロコッカス・カッセリフラバス、ラクトコッカス・クレモリス、ラクトコッカス・ラクティス、ペディオコッカス・ダムノーシス、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス等が挙げられ、これらの中でラクトバチルス・ブレビス、ラクトバチルス・ヒルガルディー、ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・ヘルベチカス、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・パラカゼイ、ストレプトコッカス・サーモフィルス、エンテロコッカス・フェカリス、ラクトコッカス・クレモリス、ラクトコッカス・ラクティス、ビフィドバクテリウム・ビフィダムが好ましく、GABAの産生能を有するラクトバチルス・ブレビス、ラクトバチルス・ヒルガルディー、ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・パラカゼイがさらに好ましい。これらの乳酸菌は、培養液の状態で用いてもよいし、凍結乾燥粉末等粉末状に加工したものを用いてもよい。また、加熱殺菌等によって殺菌された死菌を添加しても良い。ただし腸内でプロバイオティクスとしての効果を期待する場合には生菌を使用したほうが好ましい。乳酸菌を配合する形態は限定されず、アスパラガスから得られる組成物が液体であればそこに懸濁させて用いれば良いし、アスパラガスから得られる組成物が粉末であれば、そこにそのまま混合しても良いし水に懸濁させて混合して用いても良い。
【0035】
また、上記した物質を2以上含むもの、例えば、キャベツ、アスパラガス、ウコン、ケール、モロヘイヤ、セロリ、オクラ、ブロッコリー、トウガラシ、ソラマメ、落花生、大豆、納豆、テンペ、トウモロコシ、レンコン、サトイモ、エノキダケ、マイタケ、マツタケ、ナメコ、干ししいたけ、ソバ、黒米、アオノリ、ノリ、イワシ、ブリ、サバ、トビウオ、フグ、タイ、カキ、アサリ、シジミ、鮭、牛レバー、豚レバー、ヨーグルト、牛乳、卵、チーズ等の飲食品類を使用することもできる。
【0036】
本発明の飲食品において、アスパラガスから得られる組成物の含有量は、そこに含まれるGABAの量が5mg〜2000mg/日/人、好ましくは10mg〜1000mg/日/人、さらに好ましくは10mg〜100mg/日/人となるように、調節すればよい。この範囲内にあれば、十分な胃腸障害改善作用及び/又は胃腸障害予防作用を得ることができる。
【0037】
なお、GABAは、哺乳類の脳や脊髄に存在する抑制性の神経伝達物質であり、経口摂取することで血圧を降下させることが多くの哺乳類で確認されている。この血圧降下作用は高血圧症を発症している者に対してのみ効果があり、健常者に対しては血圧を降下させず、低血圧症を引き起こすことがない。また、GABAは哺乳類の脳や脊髄以外にも、発芽玄米や茶葉等の植物、キムチやたくあん等の発酵食品中にも含有され食経験が豊富であり、また、医薬品としてグラム単位の静脈注射等が行われているが、GABA摂取による副作用の報告は無い。
【0038】
一方、他の成分であるメチルメチオニン及び/又はその誘導体、ナイアシン及び/又はその誘導体、ビタミンB2、アロエ、ムチン及び乳酸菌からなる群から選ばれる1又は2以上の物質は、本発明の効果を損なわない限りいかなる比率で含有させてもよいが、アスパラガスから得られる組成物に対して質量比で0.01〜1000倍量であり、好ましくは0.05〜100倍量であり、さらに好ましくは0.1〜20倍量である。この範囲より少ない場合には添加の効果を十分に発揮できない可能性があり、この範囲より多い場合にももはや本発明の効果を得られない可能性がある。
【0039】
なお、本発明における胃腸障害とは、特に制限はなく、胃痛、腹痛、胸やけ、吐き気、胃酸過多、げっぷ、胃のもたれ、胃部不快感、腹部膨満感、下痢、便秘、胃潰瘍、小腸潰瘍、十二指腸潰瘍、大腸潰瘍、胃癌、小腸癌、十二指腸癌、大腸癌等を含むものである。
【0040】
本発明の胃腸障害改善・予防作用を有する飲食品の形態は、特に限定されず、顆粒状、粒状、カプセル、ゲル状、ペースト状、乳状、懸濁状、液状、飲料等の食用に適した形態に成形すればよい。また、味質の改善のために、本発明の効果を損なわない範囲で糖類、糖アルコール、塩類、油脂類、アミノ酸類、有機酸類、果汁、野菜汁、香料、アルコール類、グリセリン等を添加することができる。
【0041】
また、通常の飲食品に必要量の有効成分を添加して本発明の飲食品とすることもできる。かかる飲食品の好ましい例としては例えば、うどんやパスタ等の加工麺、ハム・ソーセージ等の食肉加工食品、かまぼこ・ちくわ等の水産加工食品、バター・粉乳・醗酵乳等の乳加工品、ゼリー・アイスクリーム等のデザート類、パン類、菓子類、調味料類等の加工食品、および、清涼飲料水、アルコール類、果汁飲料、野菜汁飲料、乳飲料、炭酸飲料、コーヒー飲料等の飲料が挙げられる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
本発明において、GABA、アミノ酸の含有量は、以下の方法により求められた値である。すなわち、高速液体クロマトグラフィー法(HPLC法)により以下の条件で測定し、蛍光検出器を用いて検出した。
HPLC:島津製作所(株)製LC−9A
カラム:Shim−pack ISC−07/S1504
移動相:0.2規定クエン酸ナトリウム緩衝液(pH2.2)
流速:0.3ml/分
温度:55℃
反応液:オルト−フタルアルデヒド
検出波長:励起波長348nm、蛍光波長450nm
【0044】
製造例1
グリーンアスパラガス若茎1kgに水を1L加え、ミキサーで破砕し、オートクレーブで100℃、1時間熱処理を行った。得られた処理液は不織布を用いて絞ることによりアスパラガス圧搾液を回収し、さらに濾過助剤に珪藻土を用い、ろ紙(ADVANTEC東洋製No.5C)を用いて吸引濾過を行い、薄茶色の抽出液を得た。得られた抽出液は卓上エバポレーター(EYELA社製)により10倍に減圧濃縮した。この操作により、180mlのGABA含有組成物が得られた。GABA及びアミノ酸の含有量は表1に示したとおりであった。
【0045】
製造例2
グリーンアスパラガス若茎1kgに水を1L加え、ミキサーで破砕し、不織布を用いて絞ることでアスパラガス圧搾液を得た。これをさらに濾過助剤に珪藻土を用い、ろ紙(ADVANTEC東洋製No.5C)を用いて吸引濾過を行い、薄茶色の抽出液を得た。この抽出液に1質量%の酵母エキス(アサヒフードアンドヘルスケア製)を添加し、オートクレーブで121℃、15分間滅菌した。放冷後、グルタミン酸ナトリウムを2質量%添加してよく攪拌して溶解した。ここに、15mlのMRS培地(Difco製)で1日間前培養した乳酸菌(FERM P−20710)を全量添加し、30℃で24時間静置培養を行った。培養後、菌体を遠心分離機で集菌し、上清を0.45μmのメンブレンフィルターでろ過したものを卓上型エバポレーターで10倍濃縮して、茶色のGABA富化アスパラガスエキスを164ml得た。GABA及びアミノ酸の含有量は表1に示したとおりであった。
【0046】
【表1】

【0047】
実施例1
製造例2において、乳酸菌菌体を集菌せず、そのまま凍結乾燥を行った。その結果、GABA含量35質量%の茶褐色の粉末状の胃腸障害改善剤が57.0g得られた。
【0048】
実施例2
製造例2で得られたGABA富化アスパラガスエキス100mlにメチルメチオニンスルホニウムクロリド(ナカライテスク社製)2.5gを溶解させ、メチルメチオニン誘導体含有胃腸障害改善剤を作製した。
【0049】
実施例3
製造例2で得られたGABA富化アスパラガスエキス100mlにニコチン酸アミド(ナカライテスク社製)2.5gを溶解させ、ナイアシン含有胃腸障害改善剤を作製した。
【0050】
実施例4
製造例2で得られたGABA富化アスパラガスエキス100mlにビタミンB2(ナカライテスク社製)を2.5g溶解させ、ビタミンB2含有胃腸障害改善剤を作製した。
【0051】
実施例5
製造例2で得られたGABA富化アスパラガスエキス100mlにアロエ葉肉をミキサーで破砕し、珪藻土ろ過を行って得られたろ液をエバポレーターにより10倍に濃縮した液2.5gを溶解させ、アロエ汁含有胃腸障害改善剤を作製した。
【0052】
実施例6
製造例2で得られたGABA富化アスパラガスエキス100mlにブタ由来ムチン(和光純薬工業製)を2.5g溶解させ、ムチン含有胃腸障害改善剤を作製した。
【0053】
比較例1
FYP培地(D−フルクトース1%、ペプトン0.5%、酵母エキス1%、酢酸ナトリウム3水和物0.2%、ツイン80 0.05%、硫酸マグネシウム7水和物0.02%、硫酸マンガン4水和物10ppm、硫酸鉄7水和物10ppm、塩化ナトリウム10ppm)1.5Lをオートクレーブ滅菌し、15mlのMRS培地(DIFCO製)で前培養した乳酸菌(FERM P−20710)を全量添加し、30℃で24時間静置培養した。培養液はそのまま凍結乾燥し、乳酸菌粉末65.3gを得た。
【0054】
比較例2
実施例2においてGABA富化アスパラガスエキス100mlに代えて水100mlを添加して同様にしてメチルメチオニン誘導体含有組成物を製造した。
【0055】
実施例7
実施例2で得られた胃腸障害改善剤100mlに、グリコ製クラスターデキストリンを10g加えて混合し、凍結乾燥、粉砕して薄茶色の粉末24.4gを得た。
【0056】
試験例1
6週齢のドンリュウ系雄ラット(日本チャールスリバー社)を購入し、5匹ずつ11群に分け、それぞれの群に1日1回6日間連続で製造例1,2、実施例1〜6、比較例1,2に記載の組成物、及び生理食塩水を表1に記載の量で経口投与した。その後1晩絶食し、20%酢酸水溶液50μlを経口投与して酢酸潰瘍を形成させ、翌日から7日間再び各サンプルを経口投与した。最終投与の翌日にラットから胃を摘出し、潰瘍部の面積を測定した。結果を表2に示す。
【0057】
【表2】

【0058】
上記試験において、実施例1〜6の各群においていずれも潰瘍部の面積が生理食塩水のみを与えた群より低い値となっており、25%〜52%の潰瘍抑制率を示した。潰瘍抑制効果は製造例1及び2のように本発明のアスパラガスエキスのみを含有するものでも得られたが、メチルメチオニン、ナイアシン、ビタミンB2、アロエ、ムチン、乳酸菌の中から選ばれた一つとアスパラガスエキスを併用したほうが、更に大きい効果が得られた。これは、従来公知の胃腸障害改善剤とアスパラガス由来の胃腸障害改善剤との相乗効果が観察されたものと考えられる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスパラガスから得られる組成物と、メチルメチオニン及び/又はその誘導体、ナイアシン及び/又はその誘導体、ビタミンB2、アロエ、ムチン及び乳酸菌からなる群から選ばれる1又は2以上の物質とを含有することを特徴とする胃腸障害改善・予防作用を有する飲食品。
【請求項2】
アスパラガスから得られる組成物が、アスパラガス若茎からの抽出物である請求項1記載の胃腸障害改善・予防作用を有する飲食品。
【請求項3】
アスパラガスから得られる組成物が、γ−アミノ酪酸を1質量%〜40質量%含有する組成物である請求項1又は2記載の胃腸障害改善・予防作用を有する飲食品。

【公開番号】特開2008−19170(P2008−19170A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−189436(P2006−189436)
【出願日】平成18年7月10日(2006.7.10)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】