説明

脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルム、積層フィルム、及び袋

【課題】 生分解性と実用物性を有すると共に、低温ヒートシール性の改善された脂肪族ポリエステルフィルム、該脂肪族ポリエステルフィルムを最外層に有する積層フィルム、及びこれらからなる袋を提供する。
【解決手段】 分子鎖が、脂肪族ジカルボン酸37.5〜50モル%、脂肪族ジオール37.5〜50モル%、及び必要に応じて加えられる脂肪族ヒドロキシカルボン酸25〜0モル%からなり、重量平均分子量が30,000以上である脂肪族ポリエステル共重合体(a)95〜60重量%、及び他の生分解性樹脂(b)5〜40重量%からなる脂肪族ポリエステル樹脂組成物をフィルム成形してなる厚さが5〜800μmの脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルムであって、該フィルムの結晶化エネルギーが、同一条件で脂肪族ポリエステル共重合体(a)単独をフィルム化したフィルムの結晶化エネルギーの75%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族ジカルボン酸残基、脂肪族ジオール残基及び必要に応じて加えられる脂肪族ヒドロキシカルボン酸残基に基づく特定の脂肪族ポリエステル共重合体(a)の特定量と他の生分解性樹脂(b)の特定量とからなり、生分解性を有すると共に、特に結晶化温度が低下した脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルム及びその積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自然環境中で生分解可能なプラスチックとして、汎用性の高い脂肪族ポリエステルが注目されており、ポリ乳酸(PLA)、ポリ(ブチレン−サクシネート)(PBS)、ポリ(エチレン−サクシネート)(PES)、ポリ(ブチレン−サクシネート/アジペート)(PBSA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(ブチレン−サクシネート−(δ−オキシカプロエート))(PBSC)などが上市されている。
これら生分解性脂肪族ポリエステルの用途の一つとして包装用、農業用、食品用などのフィルム分野があり、用途に応じた高強度、耐熱性および生分解性が、基本性能として要求されている。
【0003】
上記脂肪族ポリエステルの中で、PLAは、延伸あるいは高結晶化させたフィルムあるいは成形品は、高いものでは170℃付近に融点を持ち高耐熱性であるが、硬くあるいは脆いために成形品の伸度は低く、また土中で分解しにくいためコンポスト化設備が必要である。PBSおよびPESは融点が100℃付近で十分な耐熱性を有するが、生分解速度が小さく、実用的には不充分であり、また機械的性質では柔軟性に欠ける。PCLは柔軟性に優れるものの、融点60℃と耐熱性が低いために用途が限定されているが、生分解速度は非常に速い。
このように、脂肪族ポリエステルのホモポリマーでは上記課題を解決するのは困難であるが、例えば特許2997756号公報記載のポリブチレンサクシネート−ポリカプロラクトン共重合体(PBSC)のように、脂肪族ポリエステル共重合体中にカプロラクトンユニットを導入することにより、実用的な柔軟性と適度な生分解性を実現することができ、また、カプロラクトンユニットの含有量を制御することにより、融点を80℃以上として十分な耐熱性を保持することと、生分解性を制御することが可能であることが見出されている(特許文献1)。
【0004】
また、生分解性高分子量脂肪族ポリエステルの改良については、数多くの提案がある。例えば、特開平8−311181号公報には、脂肪族ジカルボン酸又はそのエステルと、脂肪族ジオールと、ヒドロキシカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸エステル又はラクトンを触媒の存在下で重縮合反応させることにより数平均分子量が15,000〜80,000である生分解性高分子量脂肪族ポリエステル共重合体が開示されている(特許文献2)。
特開平9−272789号公報には、脂肪族ジオール、脂肪族ジカルボン酸、及び脂肪族ヒドロキシカルボン酸を共重合して数平均分子量が1〜30万である脂肪族ポリエステルと、数平均分子量が3万以上のポリ乳酸を溶融ブレンドした樹脂組成物が開示されている(特許文献3)。
【0005】
WO 02−44249号公報には、脂肪族ジオール、脂肪族ジカルボン酸、及び脂肪族ヒドロキシカルボン酸またはその無水環状化合物(ラクトン類)の3成分からなる混合物の重縮合反応により合成した重量平均分子量40,000以上の高分子量脂肪族ポリエステル共重合体と他の生分解性樹脂を使用することにより、フィルム等の成形時の分子量安定性が良く、成形が良好であることが開示されている(特許文献4)。
【0006】
しかしながら、上記各技術では、フィルムの低温ヒートシール性が不十分であるという問題があった。
【0007】
【特許文献1】特許2997756号公報(請求項1〜3、実施例1〜5)
【特許文献2】特開平8−311181号公報(請求項、実施例)
【特許文献3】特開平9−272789号公報(請求項、実施例)
【特許文献4】WO 02−44249号公報(請求項、発明の開示の項の最終段落、表VII−1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、生分解性と実用物性を有すると共に、低温ヒートシール性の改善された脂肪族ポリエステルフィルム、該脂肪族ポリエステルフィルムを最外層に有する積層フィルム、及びこれらからなる袋を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、脂肪族ジカルボン酸残基、脂肪族ジオール残基及び必要に応じて加えられる脂肪族ヒドロキシカルボン酸残基に基づくエステル結合を有する特定の脂肪族ポリエステル共重合体(a)の特定量と他の生分解性樹脂(b)の特定量とからなる脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルムが、樹脂(a)、(b)それぞれ単独の場合よりも、低温ヒートシール性が改善されたフィルムが得られることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明の第1は、分子鎖が、下記一般式(1)および(2)で示される繰返し重合単位各37.5〜50モル%((1)および(2)で示される繰返し重合単位の量は実質的に同じである)、
−CO−R1−CO− (1)
(式中、R1は炭素数1〜12の二価脂肪族基を表す。)
−O−R2−O− (2)
(式中、R2は炭素数2〜12の二価脂肪族基を表す。)
及び必要に応じて加えられる下記一般式(3)で示される繰返し重合単位25〜0モル%((1)、(2)および(3)の繰返し重合単位の合計は100モル%である。)
−CO−R3−O− (3)
(式中、R3は炭素数1〜10の二価脂肪族基を表す。)
からなり、重量平均分子量が30,000以上である脂肪族ポリエステル共重合体(a)95〜60重量%、及び
他の生分解性樹脂(b)5〜40重量%
((a)および(b)の合計は100重量%である。)からなる脂肪族ポリエステル樹脂組成物(p)をフィルム成形してなる厚さd=5〜800μmの脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルム(Fp)であって、脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルムの下記条件で測定される結晶化エネルギーHc(Fp)が、上記と同一条件で脂肪族ポリエステル共重合体(a)単独をフィルム化したフィルム(Fa)の結晶化エネルギーHC(Fa)の75%以下であることを特徴とする脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルムを提供する。
ここで、上記結晶化エネルギーは、示差走査熱量計(DSC)を用い、フィルムを220℃まで加熱し、20℃/分の降温速度で測定した際に、100℃以下で観察される発熱ピークのエネルギー量。
本発明の第2は、DSCを用い、昇温速度20℃/分で加熱した際に、50℃〜70℃の温度領域において0.2J/g以上の吸熱ピークが観察される本発明の第1記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルムを提供する。
本発明の第3は、DSCを用い、220℃まで加熱し、20℃/分の降温速度で測定した際に、100℃以下で観察される主発熱ピークのピークトップ温度(Tmp)に関して、フィルム(Fp)のピークトップ温度(Tmp(Fp))が、フィルム(Fa)のピークトップ温度(Tmp(Fa))より0.1〜10℃低い本発明の第1又は2に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルムを提供する。
本発明の第4は、フィルム(Fp)のピークトップ温度(Tmp(Fp))が、40〜80℃である本発明の第3に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルムを提供する。
本発明の第5は、無延伸ないし縦及び/又は横延伸倍率が1.1倍以下である本発明の第1〜4いずれか一項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルムを提供する。
本発明の第6は、フィルム(Fp)が未延伸フィルム、ないし、125℃シリコンバス中でのTD方向最大熱収縮応力SFTDが0.01MPa以下、且つMD方向最大熱収縮応力SFMDが0.05MPa以下の一軸延伸フィルムである本発明の第1〜5いずれか一項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルムを提供する。
本発明の第7は、フィルム(Fp)同士のみを、100℃、0.1MPa、1秒間の条件でヒートシールしたときのヒートシール強度が1000gf/15mm以上であることを特徴とする本発明の第1〜6いずれか一項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルムを提供する。
本発明の第8は、フィルム(Fp)同士のみを、95℃以上100℃未満、0.2MPa、2秒間の条件でヒートシールしたときのヒートシール強度が1000gf/15mm以上であることを特徴とする本発明の第1〜7いずれか一項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルムを提供する。
本発明の第9は、フィルム(Fp)同士のみを、90℃以上95℃未満、0.2MPa、2秒間の条件でヒートシールしたときのヒートシール強度が500gf/15mm以上であることを特徴とする本発明の第1〜7いずれか一項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルムを提供する。
本発明の第10は、Tダイ押出し成形されてなる本発明の第1〜9のいずれか1項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルムを提供する。
本発明の第11は、一般式(1)が、コハク酸残基及び/又はアジピン酸残基である本発明の第1〜10のいずれか1項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルムを提供する。
本発明の第12は、一般式(2)が、エチレングリコール残基及び/又は1,4−ブタンジオール残基である本発明の第1〜11のいずれか1項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルムを提供する。
本発明の第13は、一般式(3)が、ε−カプロラクトン、4−メチルカプロラクトン、3,5,5−トリメチルカプロラクトン、3,3,5−トリメチルカプロラクトン、β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトンおよびエナントラクトンからなる群から選ばれた少なくとも1種に基づく基である本発明の第1〜12のいずれか1項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルムを提供する。
本発明の第14は、脂肪族ポリエステル共重合体(a)が、ポリ(ブチレン−サクシネート)、ポリ(ブチレン−サクシネート/アジペート)、ポリ(ブチレン−サクシネート−(δ−オキシカプロエート))及び/又はポリ(ブチレン−サクシネート/アジペート−(δ−オキシカプロエート))である本発明の第1〜13のいずれか1項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルムを提供する。
本発明の第15は、脂肪族ポリエステル共重合体(a)中に含まれる繰返し重合単位(3)が、1〜25モル%である本発明の第1〜14のいずれか1項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルムを提供する。
本発明の第16は、他の生分解性樹脂(b)が、分子鎖が、下記一般式(4)で示される繰返し重合単位:
−CO−R4−O− (4)
(式中、R4は炭素数1〜3の二価脂肪族基を表す。)
からなり、重量平均分子量が30,000以上である脂肪族ポリエステルである本発明の第1〜15のいずれか一項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルムを提供する。
本発明の第17は、一般式(4)が、グリコール酸、乳酸および3−ヒドロキシ酪酸からなる群から選ばれた少なくとも1種の残基である本発明の第16に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルムを提供する。
本発明の第18は、脂肪族ポリエステル(b)がポリ乳酸である本発明の第16に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルムを提供する。
本発明の第19は、製袋用原反フィルムである本発明の第1〜18のいずれか1項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルムを提供する。
本発明の第20は、本発明の第1〜18記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルムを最表層の少なくとも片面に配してなる積層フィルムを提供する。
本発明の第21は、最表層の設けられる下層のフィルムの材質が生分解性ポリエステル、酢酸セルロース、及び酢酸セルロース誘導体からなる群から選ばれた少なくとも一種である本発明の第20記載の積層フィルムを提供する。
本発明の第22は、製袋原反フィルムである本発明の第21に記載の積層フィルムを提供する。
本発明の第23は、本発明の第1〜19のいずれかに記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルム、及び/又は、本発明の第20〜22のいずれかに記載の積層フィルムを製袋して得られた袋を提供する。
本発明の第24は、買い物袋、包装袋又はごみ袋である本発明の第23記載の袋を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、生分解性と実用物性を有すると共に、脂肪族ポリエステル共重合体(a)および脂肪族ポリエステル(b)の各単独よりも低温ヒートシール性が改善されたフィルムが得られる。これを用いて、低温ヒートシール性の良い各種用途のフィルム及びそれを2次加工して袋が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について、詳細に説明する。
本発明に係る高分子量の脂肪族ポリエステル共重合体(a)は、分子鎖が、下記一般式(1)および(2)で示される繰返し重合単位各37.5〜50モル%((1)および(2)で示される繰返し重合単位の量は実質的に同じである)、
−CO−R1−CO− (1)
(式中、R1は炭素数1〜12の二価脂肪族基を表す。)
−O−R2−O− (2)
(式中、R2は炭素数2〜12の二価脂肪族基を表す。)
及び必要に応じて加えられる下記一般式(3)で示される繰返し重合単位25〜0モル%((1)、(2)および(3)の合計は100モル%である。)
−CO−R3−O− (3)
(式中、R3は炭素数1〜10の二価脂肪族基を表す。)
からなり、重量平均分子量が30,000以上である。
【0013】
本発明に係る脂肪族ポリエステル共重合体(a)は、また、上記組成からなり、重量平均分子量5,000以上の低分子量脂肪族ポリエステル共重合体(a’)が、共重合体(a’)100重量部に対し、0.1〜5重量部の下記一般式(7)で表される2官能性の連結剤(e)により連結されて、重量平均分子量が30,000以上となるようにしたものであってもよい。
1−R7−X2 (7)
(式中、X1、X2は水酸基またはカルボキシル基と作用して共有結合を形成可能な反応基、R7は単結合、炭素数1〜20の脂肪族基又は芳香族基を表し、X1、X2は同一の化学構造であってもよいし、異なってもよい。)
【0014】
又は、グリコール酸、乳酸、3−ヒドロキシ酪酸のようなヒドロキシカルボン酸もしくはグリコリド、ラクチドのようなそれらの環状2量体エステル、又は、ε−カプロラクトン、4−メチルカプロラクトン、3,5,5−トリメチルカプロラクトン、3,3,5−トリメチルカプロラクトン、β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、エナントラクトン等のヒドロキシカルボン酸の環状エステルを、2重量%以下を連結剤として共重合させて高分子量化したものであってもよい。
【0015】
(A)成分
式(1)の脂肪族ジカルボン酸残基を与える(A)成分としては、脂肪族ジカルボン酸、その無水物、又はそのモノまたはジエステル体が挙げられ、下記一般式(1’)で表される。
4−OCO−R1−COO−R5 (1’)
(式中、R1は炭素数1〜12の二価脂肪族基、R4およびR5は水素原子、又は炭素数1〜6の脂肪族基もしくは芳香族基を表す。R4およびR5は同一でも異なっていてもよい。)
1で示される二価脂肪族基としては、好ましくは2〜8の鎖状又は環状のアルキレン基であり、−(CH2)2−、−(CH2)4−、−(CH2)6−等の炭素数2〜6の直鎖状低級アルキレン基が挙げられる。また、R1は反応に不活性な置換基、例えば、アルコキシ基やケト基等を有することができるし、R1は酸素やイオウ等のヘテロ原子を主鎖に含有することができ、例えばエーテル結合、チオエーテル結合等で隔てられた構造を含有することもできる。
【0016】
4およびR5が水素原子であるときには脂肪族ジカルボン酸を表わす。脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、スベリン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、セバシン酸、ジグリコール酸、ケトピメリン酸、マロン酸、メチルマロン酸などが挙げられる。
4およびR5で示される脂肪族基としては、炭素数1〜6、好ましくは1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基の他、シクロヘキシル基等の炭素数5〜12のシクロアルキル基が挙げられる。
4およびR5で示される芳香族基としては、フェニル基、ベンジル基等が挙げられる。
中でも、R4およびR5は炭素数1〜6、好ましくは炭素数1〜3の低級アルキル基である。このようなジアルキルエステルとしては、例えば、コハク酸ジメチル、コハク酸ジエチル、グルタル酸ジメチル、グルタル酸ジエチル、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、ピメリン酸ジメチル、アゼライン酸ジメチル、スベリン酸ジメチル、スベリン酸ジエチル、セバシン酸ジメチル、セバシン酸ジエチル、デカンジカルボン酸ジメチル、ドデカンジカルボン酸ジメチル、ジグリコール酸ジメチル、ケトピメリン酸ジメチル、マロン酸ジメチル、メチルマロン酸ジメチル等が挙げられる。これらのものは単独で用いてもよいし2種以上組合わせて用いてもよい。
【0017】
(B)成分
式(2)の脂肪族ジオール残基を与える(B)成分としては、脂肪族ジオールが挙げられる。
脂肪族ジオールは下記一般式(2’)で表わされる。
HO−R2−OH (2’)
(式中、R2は炭素数2〜12の二価脂肪族基を表す。)
二価の脂肪族基としては、炭素数2〜12、好ましくは2〜8の鎖状又は環状のアルキレン基が挙げられる。好ましいアルキレン基は、−(CH2)2−、−(CH2)3−、−(CH2)4−等の炭素数2〜6の直鎖状低級アルキレン基である。また、二価脂肪族基R2は反応に不活性な置換基、例えば、アルコキシ基やケト基等を有することができる。R2は酸素やイオウ等のヘテロ原子を主鎖に含有することができ、例えばエーテル結合、チオエーテル結合等で隔てられた構造を含有することもできる。
脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3‐プロパンジオール、1,2‐プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ペンタメチレングリコール、へキサメチレングリコール、オクタメチレングリコール、デカメチレングリコール、ドデカメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、分子量1000以下のポリエチレングリコール等を用いることができる。これらのものは単独でも、2種以上組合せて用いてもよい。さらに1,1,1−トリス(ヒドロキシメチル)プロパン等の三官能アルコールを少量併用してもよい。
【0018】
(C)成分
式(3)の脂肪族ヒドロキシカルボン酸残基を与える(C)成分としては、下記一般式(3’)で表されるヒドロキシカルボン酸もしくはヒドロキシカルボン酸エステル、又はその環状エステルであるラクトン類が挙げられる。
6OCO−R3−OH (3’)
(式中、R3は炭素数1〜10の二価脂肪族基、R6は水素原子または炭素数1〜6の脂肪族基又は芳香族基を表す。)
式(3’)で、二価脂肪族基R3としては、炭素数2〜10、好ましくは2〜8の鎖状又は環状のアルキレン基が挙げられる。また、R3は反応に不活性な置換基、例えば、アルコキシ基やケト基等を有することができる。R3は酸素やイオウ等のヘテロ原子を主鎖に含有することができ、例えばエーテル結合、チオエーテル結合等で隔てられた構造を含有することもできる。
式(3’)で、R6は水素、又は脂肪族基もしくは芳香族基である。脂肪族基としては、炭素数1〜6、好ましくは1〜4の直鎖状又は分岐鎖状の低級アルキル基や、シクロヘキシル基等の炭素数5〜12のシクロアルキル基、芳香族基としては、フェニル基、ベンジル基等が挙げられる。
【0019】
ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、グリコール酸、L−乳酸、D−乳酸、D,L−乳酸、2−メチル乳酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−2−メチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、ヒドロキシピバリン酸、ヒドロキシイソカプロン酸、ヒドロキシカプロン酸等を挙げることができる。
前記ヒドロキシカルボン酸はその2分子が結合した環状二量体エステル(ラクチド)であることができる。その具体例としては、グリコール酸から得られるグリコリドや、乳酸から得られるもの等が挙げられる。
ヒドロキシカルボン酸エステルとしては、例えば、上記ヒドロキシカルボン酸のメチルエステル、エチルエステル等や、酢酸エステル等が挙げられる。
【0020】
ラクトン類としては、二価脂肪族基として、炭素数4〜10、好ましくは4〜8の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基のものが挙げられる。また、二価脂肪族基は反応に不活性な置換基、例えば、アルコキシ基やケト基等を有することができ、酸素やイオウ等のヘテロ原子を主鎖に含有することができ、例えばエーテル結合、チオエーテル結合等で隔てられた構造を含有することもできる。
ラクトン類の具体例としては、例えば、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、β−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、δ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、4−メチルカプロラクトン、3,5,5−トリメチルカプロラクトン、3,3,5−トリメチルカプロラクトンなどの各種メチル化カプロラクトン;β−メチル−δ−バレロラクトン、エナントラクトン、ラウロラクトン等のヒドロキシカルボン酸の環状1量体エステル;グリコリド、L−ラクチド、D−ラクチド等の上記ヒドロキシカルボン酸の環状2量体エステル;その他、1,3−ジオキソラン−4−オン、1,4−ジオキサン−3−オン、1,5−ジオキセパン−2−オン等の環状エステル−エーテル等を挙げることができる。これらは2種以上のモノマーを混合して使用してもよい。
【0021】
脂肪族ポリエステル共重合体(a)
本発明における上記(A)成分、(B)成分、及び必要に応じて加えられる(C)成分の重合反応によって得られる脂肪族ポリエステル共重合体(a)又は低分子量の脂肪族ポリエステル共重合体(a’)は、ランダムであっても、ブロックであってよい。上記モノマーの仕込は、一括仕込み(ランダム)、分割仕込み(ブロック)、あるいは、ジカルボン酸−ジオールのポリマーにラクトン類を重合させたり、あるいは、ポリラクトンにジカルボン酸とジオールを重合させてもよい。
【0022】
本発明における上記(A)、(B)および(C)の3成分の重合反応によって低分子量脂肪族ポリエステル共重合体(a’)を合成する場合には、合成工程は、使用する原料の種類によって、例えば、前半の脱水反応が主に進行するエステル化工程と、後半のエステル交換反応が主に進行する重縮合工程とに分けることができる。
エステル化工程は80℃〜250℃、好ましくは100℃〜240℃、さらに好ましくは145℃〜230℃の反応温度で、0.5〜5時間、好ましくは1〜4時間、760〜100Torrの条件下で行うことが望ましい。触媒は、必ずしも必要としないが、原料として用いられる脂肪族ジカルボン酸又はジエステル1モルに対して、10-7〜10-3モル、好ましくは10-6〜5×10-4モルの量で用いてもよい。
後半の重縮合工程は、反応系を減圧しながら反応温度を高めて2〜10時間、好ましくは3〜6時間で終了することが望ましく、最終的には180℃〜270℃、好ましくは190℃〜240℃の反応温度で減圧度3Torr以下、好ましくは1Torr以下とすることが望ましい。この工程では、一般的なエステル交換反応触媒を用いる方が好ましく、原料として用いられる脂肪族ジカルボン酸又はジエステル1モルに対して、10-7〜10-3モル、好ましくは10-6〜5×10-4モルの量で用いる。この範囲より触媒量が少なくなると反応がうまく進行せず、反応に長時間を要するようになる。一方、この範囲より多くなると重合時のポリマーの熱分解、架橋、着色等の原因となり、また、ポリマーの成形加工において熱分解等の原因となり好ましくない。
合成工程において、脱水反応が主に進行するエステル化工程と、後半のエステル交換反応が主に進行する重縮合工程との両者において用いることのできる触媒としては、以下のような具体例を挙げることができるが、これらの触媒は単独で用いても、2種以上組合せて用いてもよい。
触媒としては、WO 02-44249号公報に記載のものが使用可能である。
また、必要に応じて前記の3官能以上の多価カルボン酸、多価アルコール、多価ヒドロキシカルボン酸類の原料を用いることもできる。
【0023】
脂肪族ポリエステル共重合体(a)又は(a’)を合成する工程において、原料(A)成分および(B)成分の仕込み比は、以下の条件式(i)に合致するように選択することが望ましい。
1.0≦[B]/[A]≦2.0 (i)
(式中、[A]は(A)成分のモル数、[B]は(B)成分のモル数を表す。)
[B]/[A]の値が1より小さいと、過剰の酸の存在によって加水分解反応が進行し、所望の分子量の脂肪族ポリエステル共重合体(a)又は(a’)を得ることが難しく、また[B]/[A]の値が2より大きい場合は前半のエステル化工程終了時点での分子量が過度に小さく、後半の重縮合工程に長時間の反応時間が必要となる。
本発明では、最終的に実用的な強度を有する脂肪族ポリエステル共重合体(a)を得るために、溶融状態の低分子量脂肪族ポリエステル共重合体(a’)に前記式(7)で表される2官能性の連結剤(e)を加えて重量平均分子量を40,000以上に高めるようにしてもよい。
重合工程で得られる共重合体(a’)は、重量平均分子量が5,000以上、好ましくは10,000以上であり、酸価と水酸基価の値の合計が1.0から45の間であり、さらに酸価が30以下であることが望ましい。
共重合体(a’)の酸価と水酸基価の値の合計は、共重合体(a’)の末端基の濃度に比例しており、分子量は重量平均分子量が5,000以上の場合、実質上酸価と水酸基価の値の合計は45以下である。酸価と水酸基価の値の合計が45より大きい場合、共重合体(a’)の分子量が低く、連結剤の添加によって所望の分子量まで高めようとするのに、多量の連結剤が必要となる。連結剤の使用量が多い場合には、ゲル化などの問題が生じやすい。酸価と水酸基価の値の合計が1.0以下の場合には、共重合体(a’)の分子量が高いために溶融状態の粘度が高くなる。この場合は、連結剤の使用量も極少量となるために均一に反応させることが困難で、やはりゲル化などの問題が生じやすい。また、均一に反応させることを目的として溶融温度を上げるとポリマーの熱分解、架橋、着色等の問題が生じる。
本発明に用いる連結剤(e)は前記式(7)によって表される。連結剤(e)の反応基X1、及びX2としては、実質上水酸基とのみ反応して共有結合を形成可能な式(9)〜(11):
【0024】
【化1】

【0025】
で表される反応基群及び/又は、実質上カルボキシル基とのみ反応して共有結合を形成可能な一般式(12)〜(15)
【0026】
【化2】

【0027】
で表される3〜8員環の環状反応基群から選ぶことができる。R8〜R10は2価の脂肪族基または芳香族基を表し、環に直接結合している水素は脂肪族基及びまたは芳香族基で置換されていてもよい。X1とX2は同一の化学構造であってもよいし、異なってもよい。
連結剤(e)としては、一連のジイソシアネート化合物のような、WO 02-44249号公報に記載の各種の連結剤が使用可能である。
連結剤(e)の反応基X1とX2を、実質上水酸基とのみ反応して共有結合を形成可能な前記式(9)〜(11)で表される反応基群から選ぶ場合、前駆体となる低分子量脂肪族ポリエステル共重合体(a’)の酸価は2.0以下、好ましくは1.0以下である。酸価が2.0より大きい場合は、共重合体(a’)の水酸基末端濃度が小さく、連結反応が効率的に行えなかったり、連結反応後、すなわち最終生成物の酸価が大きく、成形加工時の分子量低下が起こり易いなどの問題が生じる。
連結剤(e)の反応基X1とX2を、実質上カルボキシル基とのみ反応して共有結合を形成可能な前記式(12)〜(15)で表される3〜8員環の環状反応基群から選ぶ場合、共重合体(a’)の酸価は0.5以上30以下であることが好ましい。酸価が0.5より小さい場合は、連結剤の使用量も極少量となるために均一に反応させることが困難となる。酸価が30より大きいと、最終生成物の酸価を低くすることがで出来なかったり、多量の連結剤を用いてゲル化が生じる危険があるなどの問題が生じる。
上記ジイソシアネート化合物としては、好ましくは脂肪族ジイソシアネート化合物であり、具体的にはヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネートメチルエステル{OCN-(CH24-CH(-NCO)(-COOCH3)}、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等が例示されるが、中でもヘキサメチレンジイソシアネートが好ましい。またウレタン結合を含む脂肪族ポリエステル樹脂は、重量平均分子量40,000以上、通常10万〜25万、好ましくは12万〜20万の範囲のものである。
連結剤(e)と低分子量脂肪族ポリエステル共重合体(a’)の反応は、共重合体(a’)が均一な溶融状態又は少量の溶剤を含有した状態で、容易に攪拌可能な条件下で行われることが望ましい。用いる連結剤(e)の量は、共重合体(a’)100重量部に対し、0.1〜5重量部であることが望ましい。これより連結剤(e)の量が少ないと、所望の分子量の最終生成物を得ることが困難であり、多いと、ゲル化などの問題が生じやすい。
連結剤(e)を用いて高分子量化する反応は、共重合体(a’)の融点以上で行い、270℃以下、好ましくは250℃以下、さらに好ましくは、230℃以下で行うことができる。この反応は、低分子量脂肪族ポリエステルを製造した反応器に連結剤(e)を添加することにより、重縮合反応と同じ反応器内で実施することができる。また、低分子量脂肪族ポリエステルと連結剤を、通常の押出機あるいはスタティックミキサー等を用いて混合することにより実施することもできる。
【0028】
本発明において、成分(C)が用いられる場合は、分子鎖が、下記一般式:
−(−CO−R1−COO−R2−O−)−
(式中、R1は炭素数1〜12の二価脂肪族基、R2は炭素数2〜12の二価脂肪族基を表す。)
で表される繰り返し単位(P)、及び下記一般式:
−(−CO−R3−O−)−
(式中、R3は炭素数1〜10の二価脂肪族基を表す。)
で表される繰り返し単位(Q)から構成される場合も含めて、原料(A)成分および(C)成分の仕込み比は以下の条件式(ii)に合致するように選択することが好ましい。
0.02≦[C]/([A]+[C])≦0.40 (ii)
(式中、[A]は(A)成分の使用モル数、[C]は(C)成分の使用モル数を示す。)
上記式中の[C]/([A]+[C])は、脂肪族ポリエステル共重合体(a)又は(a’)中に含まれる成分(C)のモル分率を表し、繰り返し単位(P)および繰り返し単位(Q)から構成される場合には、繰り返し単位Qのモル分率を表している。上記範囲は、好ましくは0.02〜0.30、更に好ましくは0.02〜0.25の範囲である。この値が0.02より小さい場合は、得られるポリマーは結晶性が高く柔軟性のない硬いものとなり、さらに生分解性の点でも速度が遅く不十分のものとなる。また、0.40より大きい場合は、得られるポリマーの融点が低く、さらに結晶性が極端に低下するために耐熱性が無く実用に不向きである。
本発明において、原料(A)成分、(B)成分および(C)成分の仕込み比は以下の条件式(ii’)に合致するように選択することが好ましい。
0.01≦[C]/([A]+[B]+[C])≦0.25 (ii')
(式中、[A]、[B]、[C]は、それぞれ(A)成分、(B)成分、(C)成分の使用モル数を示す。)
上記式中の[C]/([A]+[B]+[C])は、脂肪族ポリエステル共重合体(a)又は(a’)中に含まれる成分(C)のモル分率を表し、この値が0.01より小さい場合は、得られるポリマーは結晶性が高く柔軟性のない硬いものとなり、さらに生分解性の点でも速度が遅く不十分のものとなる場合が、成分(C)の種類等によってはある。また、0.25より大きい場合は、得られるポリマーの融点が低く、さらに結晶性が極端に低下するために耐熱性が無く実用に不向きである場合が、成分(C)の種類等によってはある。
成分(C)のモル分率は、好ましくは1〜18、特に好ましくは1〜14である。
【0029】
本発明に係る脂肪族ポリエステル共重合体(a)は、重量平均分子量が30,000以上、通常、50,000〜350,000、好ましくは70,000〜250,000の範囲である。また、融点は、通常80℃以上と高く、しかもその融点と分解温度との差は100℃以上と大きく、熱成形も容易である。
前記本発明に使用される脂肪族ポリエステル共重合体において、特に、前記一般式(1)におけるR1およびR2が(CH22または(CH24で、R3が(CH25であるものは、融点が高くかつ結晶性の高いものである。
【0030】
他の生分解性樹脂(b)
他の生分解性樹脂(b)とは上記脂肪族ポリエステル共重合体(a)以外の生分解性樹脂をいう。他の生分解性樹脂(b)としては、合成及び/又は天然高分子が使用される。
合成高分子としては、脂肪族ポリエステル、ポリアミド、ポリアミドエステル、生分解性セルロースエステル、ポリペプチド、ポリビニルアルコール、又はこれらの混合物が挙げられる。
以下、合成脂肪族ポリエステル樹脂を、単に、脂肪族ポリエステル樹脂と略称し、天然に産出されるものの場合にはその旨明記する。
【0031】
(b)成分の脂肪族ポリエステルとしては、ポリ(ヒドロキシアルキレン(炭素数1〜10)カルボン酸)、好ましくはポリ乳酸;前述した脂肪族ポリエステル共重合体(a)に部分的に芳香族ジカルボン酸が一部共重合されたもの、例えばポリブチレンアジペート/テレフタレートやポリエチレンサクシネート/テレフタレート;前述した脂肪族ポリエステル共重合体(a)に部分的にカーボネート結合が含まれるもの、例えばポリブチレンサクシネートカーボネート変性などが挙げられる。
【0032】
ポリ乳酸(PLA)
他の生分解性樹脂(b)として脂肪族ポリエステル樹脂、好ましくはポリ(ヒドロキシアルキレン(炭素数1〜10)カルボン酸)、特にポリ乳酸が使用される。
上記ポリ乳酸としては、MFR(ASTM D−1238による。荷重2160g、温度190℃)が0.1〜100g/10分、好ましくは1〜50g/10分、特に好ましくは2〜10g/10分のものが使用される。
また、ポリ乳酸の種類としては、L−ポリ乳酸、D−ポリ乳酸、D,L−ポリ乳酸共重合体、好ましくはD,L−ポリ乳酸共重合体であり、さらに好ましくはD体含有率が5〜50%、特に好ましくは10〜20%の範囲にあるポリ乳酸共重合体である。ポリ乳酸としてかかる範囲の共重合体を用いることにより、脂肪族ポリエステル共重合体(a)との組成物から得られるT−ダイフィルム(無延伸フィルム)やインフレーションフィルムで横方向(TD)の伸びが50%以上ある靭性に富んだフィルムが得られる。
ポリ乳酸(共重合体)の融点は好ましくは160℃以下、さらに好ましくは非晶質のものである。
【0033】
本発明では、他の生分解性樹脂(b)として、上記のようにポリ乳酸単独でもよいが、ポリ乳酸とポリカプロラクトンを併用することができる。
ポリ乳酸とポリカプロラクトンの重量比率は、ポリ乳酸:ポリカプロラクトンが、100:0〜0:100、好ましくは90:10〜50:50、更に好ましくは80:20〜60:40である。
【0034】
他の生分解性樹脂(b)として使用できる生分解性セルロースエステルとしては、酢酸セルロース、セルロースブチレート、セルロースプロピオネート等の有機酸エステル;硝酸セルロース、硫酸セルロース、リン酸セルロース等の無機酸エステル;セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、硝酸酢酸セルロース等の混成エステルが例示できる。これらのセルロースエステルは、単独で又は二種以上混合して使用できる。これらのセルロースエステルのうち有機酸エステル、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートが好ましいが、さらに、可塑剤を配合した酢酸セルロースが好ましい。酢酸セルロースの酢化度は、40.03〜62.55%のもの、つまりセルロースの繰り返し単位当りのアセチル置換度が1.5〜3.0のものが有用なものとして知られているが、可塑剤を配合した酢酸セルロースを使用する場合、酢化度48.8〜62.5、特に酢化度50〜62.5%の酢酸セルロースが有用である。
また、ポリペプチドとしては、ポリメチルグルタミン酸等のポリアミノ酸及びポリアミドエステル等が例示できる。
ポリアミドエステルとしては、ε−カプロラクトンとε−カプロラクタムより合成される樹脂等が挙げられる。
天然高分子としては、澱粉、セルロース、紙、パルプ、綿、麻、毛、絹、皮革、カラギーナン、キチン・キトサン質、天然直鎖状ポリエステル系樹脂、又はこれらの混合物が挙げられる。
上記澱粉としては、天然物由来の澱粉、加工(変性)澱粉又は両者の混合物が使用できる。具体的には、馬鈴薯澱粉、トウモロコシ澱粉、甘藷澱粉、小麦澱粉、米澱粉、タピオカ澱粉、サゴ澱粉、キャッサバ澱粉、マメ澱粉、クズ澱粉、ワラビ澱粉、ハス澱粉、ヒシ澱粉等の天然澱粉及びこれらの分解物、アミロース分解澱粉及びアミロペクチン分解澱粉等が挙げられる。
澱粉は必要により可溶化して使用することができる。例えば、澱粉に水を加えて加温し、粘稠な液状にして使用することができる。更には水の代りにエチレングリコールやグリセリンなどで可塑化され液状になったものも使用することができる。
加工澱粉としては、天然澱粉に種々の物理的変性を行ったもの、例えば、α−澱粉、分別アミロース、湿熱処理澱粉等、天然澱粉に種々の酵素変性を行った澱粉、例えば、加水分解デキストリン、酵素分解デキストリン、アミロース分解澱粉、アミロペクチン分解澱粉等、天然澱粉に種々の化学処理をしたもの、例えば、酸処理澱粉、次亜塩素酸酸化澱粉、酸化処理を行ったジカルボン酸澱粉、アシル化を行ったアセチル澱粉、その他の化学変性澱粉誘導体、例えば、エステル化処理を行ったエステル澱粉、エーテル化処理を行ったエーテル化澱粉、架橋剤で処理した架橋澱粉、2−ジメチルアミノエチルクロライドでアミノ化したようなカチオン化澱粉などが挙げられる。
好ましい澱粉は、粒状澱粉、水及び/又は可塑剤により可塑化された可塑化澱粉、粒状澱粉と、水及び/又は可塑剤により可塑化された可塑化澱粉の混合物である。
【0035】
本発明では脂肪族ポリエステル樹脂組成物(p)を構成する脂肪族ポリエステル共重合体(a)/他の生分解性樹脂(b)の重量比は95/5〜60/40であり、好ましくは90/10〜70/30、更に好ましくは85/15〜70/30である。他の生分解性樹脂(b)の重量比率が上記範囲より少なすぎると融点降下や機械的物性や生分解遅延効果が認められず、上記範囲を超えると脂肪族ポリエステル共重合体(a)本来の特徴である柔軟性が失われ、脆いフィルムとなる場合がある。
【0036】
樹脂添加剤
樹脂添加剤としては可塑剤、熱安定剤、滑剤、ブロッキング防止剤、核剤、光分解剤、生分解促進剤、酸化防止剤、紫外線安定剤、帯電防止剤、難燃剤、流滴剤、抗菌剤、防臭剤、充填材、着色剤、又はこれらの混合物が挙げられる。
可塑剤としては、脂肪族二塩基酸エステル、フタル酸エステル、ヒドロキシ多価カルボン酸エステル、ポリエステル系可塑剤、脂肪酸エステル、エポキシ系可塑剤、又はこれらの混合物が例示される。具体的には、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(DOP)、フタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ジイソデシル(DIDP)等のフタル酸エステル、アジピン酸−ジ−2−エチルヘキシル(DOA)、アジピン酸ジイソデシル(DIDA)等のアジピン酸エステル、アゼライン酸−ジ−2−エチルヘキシル(DOZ)等のアゼライン酸エステル、アセチルクエン酸トリ−2−エチルヘキシル、アセチルクエン酸トリブチル等のヒドロキシ多価カルボン酸エステル、ポリプロピレングリコールアジピン酸エステル等のポリエステル系可塑剤であり、これらは一種または二種以上の混合物で用いられる。
これら可塑剤の添加量としては、フィルムであると、5〜15重量部の範囲が好ましい。3重量部未満であると、破断伸びや衝撃強度が低くなり、また30重量部を超えると、破断強度や衝撃強度の低下を招く場合がある。
熱安定剤としては、脂肪族カルボン酸塩がある。脂肪族カルボン酸としては、特に脂肪族ヒドロキシカルボン酸が好ましい。脂肪族ヒドロキシカルボン酸としては、乳酸、ヒドロキシ酪酸等の天然に存在するものが好ましい。
塩としては、ナトリウム、カルシウム、アルミニウム、バリウム、マグネシウム、マンガン、鉄、亜鉛、鉛、銀、銅等の塩が挙げられる。これらは、一種または二種以上の混合物として用いることができる。
添加量としては、脂肪族ポリエステル樹脂組成物100重量部に対して、0.5〜10重量部の範囲である。上記範囲で熱安定剤を用いると、衝撃強度(アイゾット衝撃値)が向上し、破断伸び、破断強度、衝撃強度のばらつきが小さくなる効果がある。
滑剤としては、内部滑剤、外部滑剤として一般に用いられるものが使用可能である。例えば、脂肪酸エステル、炭化水素樹脂、パラフィン、高級脂肪酸、オキシ脂肪酸、脂肪酸アミド、アルキレンビス脂肪酸アミド、脂肪族ケトン、脂肪酸低級アルコールエステル、脂肪酸多価アルコールエステル、脂肪酸ポリグリコールエステル、脂肪族アルコール、多価アルコール、ポリグリコール、ポリクリセロール、金属石鹸、変性シリコーンまたはこれらの混合物が挙げられる。好ましくは、脂肪酸エステル、炭化水素樹脂等が挙げられる。
滑剤を選択する場合には、ラクトン樹脂やその他の生分解性樹脂の融点に応じて、その融点以下の滑剤を選択する必要がある。例えば、脂肪族ポリエステル樹脂の融点を考慮して、脂肪酸アミドとしては160℃以下の脂肪酸アミドが選ばれる。
配合量は、フィルムとして、脂肪族ポリエステル樹脂組成物100重量部に対し、滑剤を0.05〜5重量部を添加する。0.05重量部未満であると効果が充分でなく、5重量部を超えるとロールに巻きつかなくなり、物性も低下する。
フィルム用として、環境汚染を防止する観点から、安全性が高く、且つFDA(米国食品医薬品局)に登録されているエチレンビスステアリン酸アミド、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミドが好ましい。
上記光分解促進剤としては、例えば、ベンゾイン類、ベンゾインアルキルエーテル類、ベンゾフェノン、4,4−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノンなどのベンゾフェノンとその誘導体;アセトフェノン、α,α−ジエトキシアセトフェノンなどのアセトフェノンとその誘導体;キノン類;チオキサントン類;フタロシアニンなどの光励起材、アナターゼ型酸化チタン、エチレン−ー酸化炭素共重合体、芳香族ケトンと金属塩との増感剤などが例示される。これらの光分解促進剤は、1種又は2種以上併用できる。
上記生分解促進剤には、例えば、オキソ酸(例えば、グリコール酸、乳酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸などの炭素数2〜6程度のオキソ酸)、飽和ジカルボン酸(例えば、修酸、マロン酸、コハク酸、無水コハク酸、グルタル酸などの炭素数2〜6程度の低級飽和ジカルボン酸など)などの有機酸;これらの有機酸と炭素数1〜4程度のアルコールとの低級アルキルエステルが含まれる。好ましい生分解促進剤には、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸などの炭素数2〜6程度の有機酸、及び椰子殻活性炭等が含まれる。これらの生分解促進剤は1種又は2種以上併用できる。
上記充填剤(増量剤、ブロッキング防止剤を含む)としては、種々の充填剤、例えば炭酸カルシウムやタルクの他に、マイカ、珪酸カルシウム、微粉末シリカ(無水物)、ホワイトカーボン(含水物)、石綿、陶土(焼成)、麦飯石、各種の酸化チタン、ガラス繊維等の無機充填剤や、天然素材の粒子等の有機充填剤を挙げることができる。
ブロッキングを防止する場合には、粒子径は0.1〜7μmのものが好ましい。
無機充填剤としての微粉末シリカは、湿式法でつくられたシリカや、四塩化ケイ素の酸水素焔中での高温加水分解により製造されたシリカでもよい。
無機充填材を添加することにより生分解性が更に向上すると共に溶融強度(粘度)が大きくなるので、溶融成形時のドローダウンが防がれ、真空成形、ブロー成形、インフレーション成形等の成形性が向上する。
充填剤の添加量は特に限定するものではないが、脂肪族ポリエステル樹脂組成物に対して、充填剤/脂肪族ポリエステル樹脂組成物の重量比が5〜50/95〜50、好ましくは10〜45/90〜55、更に好ましくは20〜40/80〜60、特に好ましくは25〜35/75〜65である。
有機充填剤としては、直径が50ミクロン以下の、紙より製造した微粉末粒子が挙げられる。有機充填剤の添加量や粒径は上記無機充填剤の場合と同じである。
増量剤としては、木粉、ガラスバルーン等が挙げられる。増量剤の添加量は無機充填剤の場合と同じである。
【0037】
脂肪族ポリエステル共重合体(a)と他の生分解性樹脂(b)及び/又はその他添加剤とは混練しても混練せずにフィルム成形してもよい。混練方法は、一般的な方法が好ましく使用でき、具体的には原料樹脂ペレットや粉体、固体の細片等をヘンシェルミキサーやリボンミキサーで乾式混合し、単軸や2軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ミキシングロールなどの公知の溶融混合機に供給して溶融混練することができる。
【0038】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルム(Fp)は、上記脂肪族ポリエステル樹脂組成物(p)をT−ダイフィルム成形方法、インフレーションフィルム成形、カレンダーフィルム成形方法等によりフィルム成形して得られる。
【0039】
脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルム(Fp)の厚さdは5〜800μm、好ましくは10〜200μmであって、脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルムの下記条件で測定される結晶化エネルギーHc(Fp)が、上記と同一条件で脂肪族ポリエステル共重合体(a)単独をフィルム化したフィルム(Fa)の結晶化エネルギーHC(Fa)の75%以下、好ましくは30〜75%であることを特徴とする。
ここで、上記結晶化エネルギーは、示差走査熱量計(DSC)を用い、フィルムを220℃まで加熱し、20℃/分の降温速度で測定した際に、100℃以下で観察される発熱ピークのエネルギー量である。
【0040】
脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルム(Fp)は、DSCを用い、昇温速度20℃/分で加熱した際に、図1に示すように、50℃〜70℃の温度領域において0.2J/g以上、好ましくは0.25〜0.6J/gの吸熱ピークが観察される。
【0041】
脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルム(Fp)は、DSCを用い、220℃まで加熱し、20℃/分の降温速度で測定した際に、図2に示すように、100℃以下で観察される主発熱ピークのピークトップ温度(Tmp)に関して、フィルム(Fp)のピークトップ温度(Tmp(Fp))が、フィルム(Fa)のピークトップ温度(Tmp(Fa))より0.1〜10℃低く、好ましくは0.2〜5℃低い。
【0042】
脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルム(Fp)のピークトップ温度(Tmp(Fp))は、40〜75℃、好ましくは45〜65℃の範囲にある。
【0043】
脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルム(Fp)は、無延伸ないし縦及び/又は横延伸倍率が1.1倍以下、好ましくは1.0〜1.1倍である。
フィルム(Fp)は未延伸フィルム、ないし、125℃シリコンバス中での最大熱収縮応力がTD方向最大熱収縮応力SFTDが0.01MPa以下且つMD方向最大熱収縮応力SFMDが0.05MPa以下、好ましくは0.04MPa以下の一軸延伸フィルムである。
【0044】
上記で得られたフィルムは、アニール処理を行ってもよい。
アニール処理温度としては、組成比にもよるが、通常、30〜60℃、好ましくは35〜50℃、さらに好ましくは35〜45℃の範囲にある。
60℃より高すぎるとフィルムが軟かくなりすぎてブロッキングするおそれがある。
アニール処理時間としては、温度にもよるが、通常、10時間以上、好ましくは24〜480時間、さらに好ましくは72〜360時間である。上限は特には限定されないが、480時間を超えると効果の発現が飽和する。
【0045】
フィルム(Fp)同士のみを、ヒートシールする場合のヒートシール条件は以下の通りである。
ヒートシール温度:70〜160℃、好ましくは75〜120℃、更に好ましくは85〜110℃である。
ヒートシール圧力:0.05〜1MPa、好ましくは0.1〜0.8MPa、更に好ましくは0.1〜0.5MPaである。
ヒートシール時間:0.2〜5秒、好ましくは0.5〜4秒、更に好ましくは1〜3秒である。
【0046】
フィルム(Fp)同士のみを、ヒートシールしたときのヒートシール強度は、100℃、0.2MPa、2秒間の条件では、1000gf/15mm以上、好ましくは1100gf/15mm以上、さらに好ましくは1200gf/15mm以上であり、95℃以上100℃未満で、0.2MPa、2秒間の条件では、500gf/15mm以上、好ましくは800gf/15mm以上であり、さらに好ましくは1000gf/15mm以上であり、90℃以上95℃未満で、0.2MPa、2秒間の条件では、100gf/15mm以上、好ましくは300gf/15mm以上であり、さらに好ましくは500gf/15mm以上である。
フィルム(Fp)同士のみをヒートシールするとは、接着剤を用いずにヒートシールすることを意味する。
フィルム(Fp)の表面はコロナ処理などの物理的処理はされていてもよい。
本発明のフィルムの脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルム面側同士の少なくとも一部を、上記条件でヒートシールして得られたヒートシール体は、従来にないほど、低温条件で高強度にヒートシールされたものである。
【0047】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルム(Fp)は、積層フィルムとしても使用可能であり、好ましくは積層フィルムの最表層の少なくとも片面に設けられ、両面に設けられてもよい。
積層フィルムのフィルム(Fp)より内側の層ないしフィルム(Fp)が片面に設けられ場合の反対面の外層(これらを基材層という)は、材質がポリ乳酸、脂肪族ポリエステル、芳香族ポリエステル、それらの発泡体、ガラス、金属、アルミニウム箔、紙等である。基材層は、フィルムの他に、シート、カップ、トレー状物であってもよい。本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルム又は積層フィルムと基材層とを接着する場合には接着剤を用いても用いないでもよい。
基材が熱可塑性樹脂からなるフィルムの場合は、無延伸であっても一軸あるいは二軸延伸フィルムであってもよい。勿論、基材は1層でも2層以上としてもよい。
【0048】
積層フィルムを得る場合には、本発明に係る樹脂組成物(p)から得られる熱融着性を有するフィルムと他の基材とを多層ダイを用いて共押出フィルムとしてもよい。また予め得られた基材に該樹脂組成物を押出しラミネートして積層フィルムとしてもよいし、あるいは夫々別個に得たフィルム等を貼り合わせて積層フィルムとしてもよい。
【0049】
本発明のフィルムは透明性及び機械的物性に優れており、脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルム同士及び/又は脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルムと積層フィルム、積層フィルム同士から2次加工品を得ることができる。
【0050】
2次加工品としては、買い物袋、包装袋、ごみ袋等の袋類、ラベル用フィルム等が挙げられる。
脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルムや積層フィルムは上記2次加工品用の原反として使用することもできる。
【0051】
(実施例)
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0052】
[製造例1]
攪拌機、分留コンデンサー、温度調節装置を備えた重合反応器に、コハク酸を100.3g、アジピン酸を21.9g、1,4−ブタンジオールを103.1g、酸化ゲルマニウムをあらかじめ1重量%溶解させた90%乳酸水溶液6.3gを仕込んだ。容器内容物を攪拌下、窒素ガスを導入し、窒素ガス雰囲気下185℃に昇温し、0.5時間反応させた後、220℃に昇温し、0.5時間反応した。引き続いて0.5Torrの減圧下において4時間重合をおこなった。得られたポリエステルの組成は1,4−ブタンジオール単位48.8モル%、コハク酸単位38.7モル%、アジピン酸単位10.3モル%、乳酸単位2.2モル%であり、ポリスチレン換算Mw18.5万、MFR(190℃)7.5g/10分、Tm87℃であった。
【0053】
フィルム原料
脂肪族ポリエステル共重合体(a)
ダイセル(株)社製ブタンジオール−コハク酸−カプロラクトン三元共重合体、PBSC−17(ポリスチレン換算Mw20.8万、MFR(190℃)1.8、Tm93℃)
昭和高分子(株)社製ブタンジオール−コハク酸/アジピン酸三元共重合体、#3001
製造例1のブタンジオール−コハク酸/アジピン酸/乳酸四元共重合体、PBSAL
(ポリスチレン換算Mw18.5万、MFR(190℃)7.5、Tm87℃)
【0054】
脂肪族ポリエステル(b)
ポリ乳酸(PLA)としては三井化学社製、レイシアH100を使用した。
【0055】
フィルム成形:
実施例1〜4、比較例1〜2では、Tダイ押出機を用い、下記条件で厚み約100μmのフィルムを得た。
押出機設定温度:170℃
フィルム引取り速度:8m/分
リップ幅:1.0mm
フィルム幅:20cm
【0056】
また、比較例3及び4では、インフレーションフィルム成形機を用い、下記条件で厚み40μmのフィルムを得た。
押出機設定温度:170℃
フィルム引取速度:8.5m/分
リップ幅:2.5mm
フィルム幅:800mm
フィルム厚み:40μm
【0057】
ヒートシール:
フィルムからMD方向に20mm×100mmの短冊状サンプルを切り出し、この短冊状サンプルを2枚重ね合わせ、10mm幅のシールバーを有するヒートシール機に、シールバーの幅方向と、短冊状サンプルの幅方向が一致するようにセットし、下記条件でヒートシールした。
シール温度:70〜120℃、シール圧力:0.2MPa、シール時間:2秒
【0058】
本発明における各種測定方法は以下の通りである。
(1)重量平均分子量:GPCにより測定し、標準ポリスチレン換算で求めた。
(2)低温融解エネルギー
フィルムを3mm×3mmの小片にして、その4〜8mgをアルミニウム製のパンに取り、アルミニウム製の蓋をして示差走査熱量計(DSC)測定に供した。以下の測定条件にて測定を行い一回目の昇温時に50〜70℃の温度領域で観測された吸熱ピークのエネルギー量を低温融解エネルギーとした。
使用機器:セイコーインスツル(株)製DSC6200R
昇温速度:20℃/分
測定温度域:23〜220℃
窒素還流:40ml/分
(3)結晶化エネルギー
(2)と同様にして得たサンプルを、220℃に加温し、下記条件で降温時に100℃以下の温度領域で観察された発熱ピークのエネルギー量を結晶化エネルギーとした。
使用機器:セイコーインスツル(株)製DSC6200R
降温速度:20℃/分
測定温度域:220〜23℃
窒素還流:40ml/分
(4)ヒートシール強度
上記ヒートシールして得られたサンプルを、JIS K−6854に準拠して、下記条件でT型剥離法を用いてヒートシール強度を測定した。得られた強度を1.5倍することにより幅15mm換算のヒートシール強度を得た。
使用機器:オリエンテック社製テンシロン万能試験機RTA−500
クロスヘッドスピード:300mm/分、チャック間距離:35mm
(5)熱収縮応力
所定厚みのフィルム状試験片を幅1cm、長さ10cmの短冊状に切り出し、合計厚みが100〜300μmの範囲になるよう複数枚重ねたものを測定サンプルとして使用する。東洋精機(株)製伸張粘度計を用いて、チャック間距離を10cmとして、125℃のオイルバス中に浸漬した際にチャック間発生する応力を測定し、応力が最大になった点を以って熱収縮応力とする。
【0059】
[実施例1及び2]
上記脂肪族ポリエステル共重合体(a)PBSC−17及び脂肪族ポリエステル(b)としてPLAを表1に示す割合で用い、Tダイ押出機を使用して厚さ約100μmのフィルムを得た。フィルムの組成及び物性を表1に示す。
【0060】
[実施例3及び4]
上記脂肪族ポリエステル共重合体(a)#3001及び脂肪族ポリエステル(b)としてPLAを表1に示す割合で用い、Tダイ押出機を使用して厚さ約100μmのフィルムを得た。フィルムの組成及び物性を表1に示す。
【0061】
[実施例5及び6]
上記脂肪族ポリエステル共重合体(a)PBSAL及び脂肪族ポリエステル(b)としてPLAを表1に示す割合で用い、Tダイ押出機を使用して厚さ約100μmのフィルムを得た。フィルムの組成及び物性を表1に示す。
【0062】
[比較例1]
上記脂肪族ポリエステル共重合体(a)PBSC−17を用い、Tダイ押出機を使用して厚さ約100μmのフィルムを得た。フィルムの組成及び物性を表1に示す。
【0063】
[比較例2]
上記脂肪族ポリエステル共重合体(a)#3001を用い、Tダイ押出機を使用して厚さ約100μmのフィルムを得た。フィルムの組成及び物性を表1に示す。
【0064】
[比較例3及び4]
上記脂肪族ポリエステル共重合体(a)PBSC−17及び脂肪族ポリエステル(b)としてPLAを表3に示す割合で用い、インフレーション成形機を使用して厚さ約40μmのフィルムを得た。フィルムの組成及び物性を表1に示す。
【0065】
[比較例5]
上記脂肪族ポリエステル共重合体(a)PBSALを用い、Tダイ押出機を使用して厚さ約100μmのフィルムを得た。フィルムの組成及び物性を表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】低温融解ピーク(50℃〜70℃)と吸熱エネルギー量を求める際のDSCチャートの一例である。図1(a)の上段は実施例2、下段は比較例1の各TダイフィルムのDSC、図1(b)の上段は実施例4、下段は比較例2の各TダイフィルムのDSC、図1(c)の上段は比較例4、下段は比較例3の各インフレフィルムのDSC、図1(d)の上段は実施例6、下段は比較例5の各TダイフィルムのDSC、の各チャートを示す。
【図2】発熱エネルギー量を求める際のDSCチャートの一例である。図2(a)の上段は実施例2、下段は比較例1の各TダイフィルムのDSC、図2(b)の上段は実施例4、下段は比較例2の各TダイフィルムのDSC、図2(c)の上段は比較例4、下段は比較例3の各インフレフィルムのDSC、図2(d)の上段は実施例6、下段は比較例5の各TダイフィルムのDSC、の各チャートを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子鎖が、下記一般式(1)および(2)で示される繰返し重合単位各37.5〜50モル%((1)および(2)で示される繰返し重合単位の量は実質的に同じである)、
−CO−R1−CO− (1)
(式中、R1は炭素数1〜12の二価脂肪族基を表す。)
−O−R2−O− (2)
(式中、R2は炭素数2〜12の二価脂肪族基を表す。)
及び必要に応じて加えられる下記一般式(3)で示される繰返し重合単位25〜0モル%((1)、(2)および(3)の繰返し重合単位の合計は100モル%である。)
−CO−R3−O− (3)
(式中、R3は炭素数1〜10の二価脂肪族基を表す。)
からなり、重量平均分子量が30,000以上である脂肪族ポリエステル共重合体(a)95〜60重量%、及び
他の生分解性樹脂(b)5〜40重量%
((a)および(b)の合計は100重量%である。)からなる脂肪族ポリエステル樹脂組成物(p)をフィルム成形してなる厚さd=5〜800μmの脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルム(Fp)であって、脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルムの下記条件で測定される結晶化エネルギーHc(Fp)が、上記と同一条件で脂肪族ポリエステル共重合体(a)単独をフィルム化したフィルム(Fa)の結晶化エネルギーHC(Fa)の75%以下であることを特徴とする脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルム。
ここで、上記結晶化エネルギーは、示差走査熱量計(DSC)を用い、フィルムを220℃まで加熱し、20℃/分の降温速度で測定した際に、100℃以下で観察される発熱ピークのエネルギー量。
【請求項2】
DSCを用い、昇温速度20℃/分で加熱した際に、50℃〜70℃の温度領域において0.2J/g以上の吸熱ピークが観察される請求項1記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルム。
【請求項3】
DSCを用い、220℃まで加熱し、20℃/分の降温速度で測定した際に、100℃以下で観察される主発熱ピークのピークトップ温度(Tmp)に関して、フィルム(Fp)のピークトップ温度(Tmp(Fp))が、フィルム(Fa)のピークトップ温度(Tmp(Fa))より0.1〜10℃低い請求項1又は2に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルム。
【請求項4】
フィルム(Fp)のピークトップ温度(Tmp(Fp))が、40〜80℃である請求項3に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルム。
【請求項5】
無延伸ないし縦及び/又は横延伸倍率が1.1倍以下である請求項1〜4いずれか一項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルム。
【請求項6】
フィルム(Fp)が未延伸フィルム、ないし、125℃シリコンバス中でのTD方向最大熱収縮応力SFTDが0.01MPa以下、且つMD方向最大熱収縮応力SFMDが0.05MPa以下の一軸延伸フィルムである請求項1〜5いずれか一項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルム。
【請求項7】
フィルム(Fp)同士のみを、100℃、0.2MPa、2秒間の条件でヒートシールしたときのヒートシール強度が1000gf/15mm以上であることを特徴とする請求項1〜6いずれか一項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルム。
【請求項8】
フィルム(Fp)同士のみを、95℃以上100℃未満、0.2MPa、2秒間の条件でヒートシールしたときのヒートシール強度が1000gf/15mm以上であることを特徴とする請求項1〜7いずれか一項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルム。
【請求項9】
フィルム(Fp)同士のみを、90℃以上95℃未満、0.2MPa、2秒間の条件でヒートシールしたときのヒートシール強度が500gf/15mm以上であることを特徴とする請求項1〜7いずれか一項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルム。
【請求項10】
Tダイ押出し成形されてなる請求項1〜9のいずれか1項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルム。
【請求項11】
一般式(1)が、コハク酸残基及び/又はアジピン酸残基である請求項1〜10のいずれか1項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルム。
【請求項12】
一般式(2)が、エチレングリコール残基及び/又は1,4−ブタンジオール残基である請求項1〜11のいずれか1項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルム。
【請求項13】
一般式(3)が、ε−カプロラクトン、4−メチルカプロラクトン、3,5,5−トリメチルカプロラクトン、3,3,5−トリメチルカプロラクトン、β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトンおよびエナントラクトンからなる群から選ばれた少なくとも1種に基づく基である請求項1〜12のいずれか1項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルム。
【請求項14】
脂肪族ポリエステル共重合体(a)が、ポリ(ブチレン−サクシネート)、ポリ(ブチレン−サクシネート/アジペート)、ポリ(ブチレン−サクシネート−(δ−オキシカプロエート))及び/又はポリ(ブチレン−サクシネート/アジペート−(δ−オキシカプロエート))である請求項1〜13のいずれか1項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルム。
【請求項15】
脂肪族ポリエステル共重合体(a)中に含まれる繰返し重合単位(3)が、1〜25モル%である請求項1〜14のいずれか1項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルム。
【請求項16】
他の生分解性樹脂(b)が、分子鎖が、下記一般式(4)で示される繰返し重合単位:
−CO−R4−O− (4)
(式中、R4は炭素数1〜3の二価脂肪族基を表す。)
からなり、重量平均分子量が30,000以上である脂肪族ポリエステルである請求項1〜15のいずれか一項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルム。
【請求項17】
一般式(4)が、グリコール酸、乳酸および3−ヒドロキシ酪酸からなる群から選ばれた少なくとも1種の残基である請求項16に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルム。
【請求項18】
脂肪族ポリエステル(b)がポリ乳酸である請求項16に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルム。
【請求項19】
製袋用原反フィルムである請求項1〜18のいずれか1項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルム。
【請求項20】
請求項1〜18記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルムを最表層の少なくとも片面に配してなる積層フィルム。
【請求項21】
最表層の設けられる下層のフィルムの材質が生分解性ポリエステル、酢酸セルロース、及び酢酸セルロース誘導体からなる群から選ばれた少なくとも一種である請求項20記載の積層フィルム。
【請求項22】
製袋原反フィルムである請求項21に記載の積層フィルム。
【請求項23】
請求項1〜19のいずれかに記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物フィルム、及び/又は、請求項20〜22のいずれかに記載の積層フィルムを製袋して得られた袋。
【請求項24】
買い物袋、包装袋又はごみ袋である請求項23記載の袋。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−182808(P2006−182808A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−374556(P2004−374556)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】