説明

脂肪細胞分化抑制剤、およびその利用

【課題】副作用が少なく、脂肪細胞の分化を高く抑制し得る技術を提供すること。
【解決手段】アカザ(Chenopodiaceae)科アルトロクネヌム(Arthrocnemum)属植物抽出物を有効成分とする脂肪細胞分化抑制剤を提供する。本発明に係る脂肪細胞分化抑制剤は、前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化を抑制することにより、脂肪細胞の蓄積を抑制し、その結果、抗肥満やメタボリックシンドロームの予防または治療効果を発揮する。本発明によれば、天然植物を用いているため、副作用が比較的少ないにも関わらず、脂肪細胞の分化を高く抑制し、抗肥満やメタボリックシンドロームの予防または治療を実現することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪細胞分化抑制剤に関する。より詳しくは、天然植物由来の抽出物を用いた脂肪細胞分化抑制剤、および該脂肪細胞分化抑制剤を有効成分として用いた抗肥満剤、メタボリックシンドローム予防または治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
生活習慣病と呼ばれる疾患には、例えば、肥満症、高血圧症、糖尿病、高脂血症、心筋梗塞、脳卒中などが挙げられる。近年、これらの疾患は、個々の原因で発症するのではなく、それぞれが大きく影響し合って発症することが分かっており、このような複合生活習慣病のことは、メタボリックシンドロームとも呼ばれている。
【0003】
「メタボリック」とは「代謝」の意味で、「メタリック・シンドローム」とは、脂肪細胞、特に、内臓における脂肪細胞(内蔵脂肪)の蓄積によりインスリンの働きの低下が起こり、糖代謝異常、脂質代謝異常、高血圧などの動脈硬化の危険因子が、一個人に集積している状態をいう。
【0004】
内臓における脂肪細胞(内蔵脂肪)では、皮下における脂肪細胞(皮下脂肪)に比べ、インシュリン耐性を強く誘導する傾向が、近年の内分泌機能の研究により明らかとなりつつある。
【0005】
このように、脂肪細胞の蓄積は、肥満症、高血圧症、糖尿病、高脂血症、心筋梗塞、脳卒中などにつながることが解明されており、これらの疾病の予防および治療をするために、脂肪細胞の蓄積を防止することが、極めて重要視されている。
【0006】
脂肪細胞の蓄積を防止する技術として、特許文献1には、アカネ、アスナロ、アマチャ、オオバナサルスベリ、ガイヨウ、ハクカユマトウ、ハスナゲ、ヒキオコシ、ホウキギから選ばれる1種以上の植物抽出物を用いることで、前駆脂肪細胞の分化誘導を阻害する技術が開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、カワラタケ、カノコソウ等のキノコ植物又は植物の部位群より選ばれる少なくとも1種を用いることにより、前駆脂肪細胞の分化を抑制する技術、および局所的な脂肪細胞の肥大に起因する蜂巣炎を予防、治療する技術が開示されている。
【0008】
更に、特許文献3には、セイヨウネズ、トゲナシ、ローズヒップ、ビンロウジ、オンジ、シャゼンソウ、コロンボ、ズイコウロウドク、キンレンカ、キダチウマノスズクサ、ヤマモモ、チガヤ、コウホン、ショウヨウカンゾウ、シラカンバ、タンジン、キクバフウロ、シロガラシ、ヒマワリ、カキドオシ、クコ、エンジュ、センネンケン、イチジク、カンカットウ、ブッソウゲ、ウスバアカザ、コロハ、セイヨウグルミ、ソウズク、コニワザクラ、クチナシ、シマカンギク、アカミノアカネ、フタバムグラ、カロオウ、ケイガイ、スベリヒユ、カラビャクシ及びニワヤナギから選ばれる植物又はその抽出物を用いて、脂肪分解を促進させる技術が開示されている。
【0009】
なお、これらの技術には、アカザ科(Chenopodiaceae)に属する植物として、ホウキギ属(Kochia)植物であるホウキギ(Kochia scoparia Schrad.(=Kochia sieversiana C.A.Meyer))、双子葉植物であるパイコ(Chenopodium ambrosioides、別名ケアリタソウ)、ウスバアカザ(Chenopodium hybridum L.)が用いられているが、アカザ(Chenopodiaceae)科の中で、アルトロクネヌム(Arthrocnemum)属植物に脂肪細胞分化抑制効果があるという報告は、これまでにない。
【0010】
アカザ(Chenopodiaceae)科アルトロクネヌム(Arthrocnemum)属植物の薬理作用に関する唯一の報告としては、非特許文献1に、ラットにChenopodiaceae Arthrocnemum glaucumを投与した場合に、血糖降下作用が認められた旨の報告がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−138044号公報
【特許文献2】特表2004−075640号公報
【特許文献3】特開2005−060366号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Medicinal plants with potential antidiabetic activity - A review of ten years of herbal medicine research (1990-2000). Int J Diabetes & Metabolism (2006) 14: 1-25
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前述の通り、脂肪細胞の蓄積を防止することは、肥満症のみならず、高血圧症、糖尿病、高脂血症、心筋梗塞、脳卒中など、種々の疾病の予防または治療への効果が期待できる。前記のように、前駆脂肪細胞の分化誘導を阻害する種々の技術が提案されているが、まだまだ十分な効果が得られていないのが現状である。
【0014】
また、肥満症の治療には長い期間を有することが多く、それに伴い治療薬を長期に投与する必要があり、副作用が問題になる。更に、前述のように、肥満症は、種々の疾病と併発することが多いため、他の疾病に用いる薬との併用にも注意する必要がある。
【0015】
そこで、本発明は、副作用が少なく、脂肪細胞の分化を高く抑制し得る技術を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、脂肪細胞分化抑制効果を有する種々の物質を探索した結果、アカザ(Chenopodiaceae)科アルトロクネヌム(Arthrocnemum)属植物に着目することにより、該植物が高い脂肪細胞分化抑制効果を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0017】
即ち、本発明では、まず、アカザ(Chenopodiaceae)科アルトロクネヌム(Arthrocnemum)属植物抽出物を有効成分とする脂肪細胞分化抑制剤を提供する。
本発明に係る脂肪細胞分化抑制剤に用いる前記植物は、アカザ(Chenopodiaceae)科アルトロクネヌム(Arthrocnemum)属に属する植物であれば、その種は特に限定されないが、一例としては、Chenopodiaceae Arthrocnemum glaucumを挙げることができる。
本発明に係る脂肪細胞分化抑制剤に有効成分として用いることができるChenopodiaceae Arthrocnemum glaucum抽出物は、Chenopodiaceae Arthrocnemum glaucumのあらゆる部位から抽出することができるが、本発明においては、葉より得られた抽出物を用いることが好ましい。
本発明に係る脂肪細胞分化抑制剤に有効成分として用いることができる前記抽出物は、下記化学式(1)および/または下記化学式(2)の化学構造式で示されたイソラムネチン化合物を含む抽出物であることが好ましい。
【化1】

【化2】

以上説明した本発明に係る脂肪細胞分化抑制剤は、これを有効成分として用いることにより、抗肥満やメタボリックシンドロームの予防または治療に有用である。
また、本発明に係る脂肪細胞分化抑制剤は、薬理学的に許容され得る添加剤を加え、医薬品組成物または化粧料組成物として用いることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、天然植物を用いているため、副作用が比較的少ないにも関わらず、脂肪細胞の分化を高く抑制し、抗肥満やメタボリックシンドロームの予防または治療を実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例1における脂肪滴染色の結果を示す図面代用写真である。
【図2】実施例2における脂肪滴染色の結果を示す図面代用写真である。
【図3】実施例2において脂肪滴量を定量した結果を示す図面代用グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための好適な形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0021】
<脂肪細胞分化抑制剤・抗肥満剤・メタボリックシンドローム予防または治療剤>
本発明に係る脂肪細胞分化抑制剤、抗肥満剤、およびメタボリックシンドローム予防または治療剤は、アカザ(Chenopodiaceae)科アルトロクネヌム(Arthrocnemum)属植物抽出物を有効成分とする。本発明に係る脂肪細胞分化抑制剤は、前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化を抑制することにより、脂肪細胞の蓄積を抑制し、その結果、抗肥満やメタボリックシンドロームの予防または治療効果を発揮する。
【0022】
本発明において、アカザ(Chenopodiaceae)科アルトロクネヌム(Arthrocnemum)属植物抽出物とは、アカザ(Chenopodiaceae)科アルトロクネヌム(Arthrocnemum)属植物の種子、根茎、茎、葉、花などを、適当な溶媒で抽出して得られる抽出物を言い、通常、抽出した溶媒の濃厚溶液として使用する。また、該濃厚溶液を凍結乾燥させたものも、本発明に係る脂肪細胞分化抑制剤、抗肥満剤、およびメタボリックシンドローム予防または治療剤に用いることが可能である。
【0023】
本発明に係る脂肪細胞分化抑制剤、抗肥満剤、およびメタボリックシンドローム予防または治療剤に用いることができる前記植物は、アカザ(Chenopodiaceae)科アルトロクネヌム(Arthrocnemum)属に属する植物であれば、その種は特に限定されず、アカザ(Chenopodiaceae)科アルトロクネヌム(Arthrocnemum)属に属する植物を1種または2種以上、自由に選択して用いることが可能である。例えば、Chenopodiaceae Arthrocnemum glaucum、Arthrocnemum fruticosum、Arthrocnemum macrostachylum、Arthrocnemum indicum、Arthrocnemum perenne、Arthrocnemum halocue、Arthrocnemum moides staptを挙げることができる。
【0024】
抽出に用いるアカザ(Chenopodiaceae)科アルトロクネヌム(Arthrocnemum)属植物の具体的部位は、本発明の目的を損なわなければ特に限定されず、各種の性質にオ応じて、種子、根茎、茎、葉、花などあらゆる部位を自由に選択して用いることができる。また、それぞれの部位を湯通しして乾燥させた乾燥物などを用いて抽出を行うことも可能である。例えば、本発明において、Chenopodiaceae Arthrocnemum glaucumを用いる場合には、葉を乾燥させた乾燥物を適当な大きさに粉砕して用いることが好ましい。
【0025】
抽出に用いる溶媒も特に限定されず、通常、植物抽出に用いることができる溶媒を1種または2種以上自由に選択して用いることができる。例えば、水、アルコール類、グリコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、ハロゲン化炭素類などを挙げることができる。アルコール類としては、エタノール、メタノール、プロパノール、ブタノールなどが挙げられる。グリコール類としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブチレングリコール及びプロピレングリコール等が挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。エステル類としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、ギ酸エチルなどが挙げられる。これらの溶媒は単独或いは水溶液として用いても良く、任意の2種または3種以上の混合溶媒として用いても良い。この中でも本発明においては、特に、水、ブタノールをそれぞれ単独、もしくはこれらを組み合わせて用いることが好ましい。
【0026】
抽出方法も特に限定されず、通常の抽出方法を自由に選択して用いることができる。例えば、前記溶媒にアカザ(Chenopodiaceae)科アルトロクネヌム(Arthrocnemum)属植物の任意の部位を所定時間浸漬した後に濾過する方法、溶媒の沸点以下の温度で加温、攪拌等しながら抽出した後に濾過する方法、などが挙げられる。
【0027】
抽出したアカザ(Chenopodiaceae)科アルトロクネヌム(Arthrocnemum)属植物抽出物は、そのままでも本発明に係る脂肪細胞分化抑制剤、抗肥満剤、およびメタボリックシンドローム予防または治療剤の有効成分として用いることができるが、当該抽出物を更に、適当な分離手段(例えば、分配抽出、ゲル濾過法、シリカゲルクロマト法、逆相若しくは順相の高速液体クロマト法など)により活性の高い画分を分画して用いることも可能である。
【0028】
アカザ(Chenopodiaceae)科アルトロクネヌム(Arthrocnemum)属植物抽出物の活性の高い画分には、前記化学式(1)および/または前記化学式(2)の化学構造式で示されたイソラムネチン化合物を含む抽出物が含有されている。
【0029】
<医薬品組成物>
本発明に係る脂肪細胞分化抑制剤、抗肥満剤、およびメタボリックシンドローム予防または治療剤は、その優れた脂肪細胞分化抑制効果、抗肥満効果およびメタボリックシンドローム予防または治療効果を利用して、医薬品組成物に好適に用いることができる。該医薬品組成物は、あらゆる剤型の医薬品に適用することができる。例えば、外用液剤、外用ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤、スプレー剤、点鼻液剤、リニメント剤、ローション剤、ハップ剤、硬膏剤、噴霧剤、エアゾール剤、などの外用剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン剤、シロップ剤、エキス剤、丸剤、などの経口剤、または注射剤に適用することができる。
【0030】
本発明に係る医薬品組成物には、薬理学的に許容される添加剤を1種または2種以上自由に選択して含有させることができる。例えば、本発明に係る医薬品組成物を外用剤に適用させる場合、基剤、界面活性剤、保存剤、乳化剤、着色剤、矯臭剤、香料、安定化剤、防腐剤、酸化防止剤、潤沢剤、溶解補助剤、懸濁化剤等の、医薬製剤の分野で通常使用し得る全ての添加剤を含有させることができる。
【0031】
また、本発明に係る医薬品組成物を経口剤に適用させる場合、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、保存剤、着色剤、矯味剤、香料、安定化剤、防腐剤、酸化防止剤等の、医薬製剤の分野で通常使用し得る全ての添加剤を含有させることができる。また、ドラックデリバリーシステム(DDS)を利用して、徐放性製剤等にすることもできる。
【0032】
また、本発明に係る医薬品組成物を注射剤に適用させる場合、例えば、溶剤、安定剤、溶解補助剤、懸濁化剤、保存剤、等張化剤、防腐剤、酸化防止剤等の、医薬製剤の分野で通常使用し得る全ての添加剤を含有させることができる。
【0033】
本発明に係る脂肪細胞分化抑制剤、抗肥満剤、およびメタボリックシンドローム予防または治療剤は、その有効成分が天然植物由来の化合物であるため、多剤との併用を注意する必要性が低い。そのため、既存のあらゆる薬剤を1種または2種以上自由に選択して、合剤とすることもできる。例えば、抗菌剤、消炎鎮痛剤、ステロイド剤、麻酔剤、抗真菌剤、気管支拡張剤、鎮咳剤、冠血管拡張剤、抗高血圧剤、降圧利尿剤、抗ヒスタミン剤、催眠鎮静剤、精神安定剤、ビタミン剤、性ホルモン剤、抗うつ剤、脳循環改善剤、制吐剤、抗腫瘍剤など、あらゆる薬剤を配合することができる。
【0034】
本発明に係る脂肪細胞分化抑制剤、抗肥満剤、およびメタボリックシンドローム予防または治療剤は、経皮投与、経口投与、皮内投与、皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与、などにより全身又は局所においてその効果を発揮したり、あるいは投与部位において、局所的に効果を発揮したりする。
【0035】
本発明に係る医薬品組成物において、脂肪細胞分化抑制剤、抗肥満剤、およびメタボリックシンドローム予防または治療剤の含有量は特に限定されず、目的に応じて自由に設定することが可能である。
【0036】
以上説明した本発明に係る医薬品組成物を用いた医薬品は、その有効成分が天然植物由来の化合物であるため、種々の疾患を罹患した患者に対しても安心して投与できる可能性も高い。また、長期間、連続的に投与しても副作用を心配する必要性も少ない。
【0037】
<化粧料組成物>
本発明に係る脂肪細胞分化抑制剤、抗肥満剤、およびメタボリックシンドローム予防または治療剤は、その優れた脂肪細胞分化抑制効果、抗肥満効果およびメタボリックシンドローム予防または治療効果を利用して、化粧料組成物に好適に用いることができる。該化粧料組成物は、あらゆる形態の化粧料に適用することができる。例えば、ローション、乳液、クリーム、美容液などのスキンケア化粧料、ファンデーション、コンシーラー、化粧下地、口紅、頬紅、アイシャドウ、アイライナーなどのメイクアップ化粧料、日焼け止め化粧料などに適用することができる。
【0038】
本発明に係る化粧料組成物には、本発明に係る脂肪細胞分化抑制剤、抗肥満剤、およびメタボリックシンドローム予防または治療剤に加え、通常化粧料に用いることができる成分を、1種または2種以上自由に選択して配合することが可能である。例えば、基材、保存剤、乳化剤、着色剤、防腐剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、保湿剤、紫外線吸収剤、香料、防腐防黴剤、体質顔料、着色顔料、アルコール、水などの、化粧品分野で通常使用し得る全ての添加剤を含有させることができる。
【0039】
また、本発明に係る脂肪細胞分化抑制剤、抗肥満剤、およびメタボリックシンドローム予防または治療剤は、その有効成分が天然植物由来の化合物であるため、他の有効成分との併用を注意する必要性が低い。そのため、本発明に係る化粧料組成物には、本発明に係る脂肪細胞分化抑制剤、抗肥満剤、およびメタボリックシンドローム予防または治療剤に加え、他の有効成分を必要に応じて自由に配合することができる。
【0040】
本発明に係る化粧料組成物において、脂肪細胞分化抑制剤、抗肥満剤、およびメタボリックシンドローム予防または治療剤の含有量は特に限定されず、目的に応じて自由に設定することが可能である。
【0041】
以上説明した本発明に係る化粧料組成物を用いた化粧料は、その有効成分が天然植物由来の化合物であるため、安全性が高く、長期間、連続的な使用が可能である。
【0042】
<飲食物>
本発明に係る脂肪細胞分化抑制剤、抗肥満剤、およびメタボリックシンドローム予防または治療剤は、その優れた脂肪細胞分化抑制効果、抗肥満効果およびメタボリックシンドローム予防または治療効果を利用して、飲食物に好適に含有させることができる。例えば、牛乳、ジュース、スポーツ飲料、お茶、コーヒー、紅茶などの飲料、醤油などの調味料、スープ類、クリーム類、各種乳製品類、アイスクリームなどの冷菓、各種粉末食品(飲料を含む)、保存用食品、冷凍食品、パン類、菓子類などの加工食品など、あらゆる飲食物に用いることができる。また、保健機能食品(特定保健機能食品、栄養機能食品、飲料を含む)や、いわゆる健康食品(飲料を含む)、濃厚栄養剤、流動食、乳児・幼児食にも用いることができる。あるいは、口中に一時的に含むもの、例えば、歯磨剤、染口剤、チューインガム等に含有させることもできる。更に、牛、馬、豚などの家畜用哺乳類、鶏、ウズラなどの家禽類、爬虫類、鳥類あるいは小型哺乳類などのペット類、養殖魚類などの飼料にも使用することが可能である。
【0043】
本発明に係る飲食物には、本発明に係る脂肪細胞分化抑制剤、抗肥満剤、およびメタボリックシンドローム予防または治療剤に加え、通常飲食物に用いることができる成分を、1種または2種以上自由に選択して配合することが可能である。例えば、各種調味料、保存剤、乳化剤、安定剤、香料、着色剤、防腐剤、pH調整剤などの、食品分野で通常使用し得る全ての添加剤を含有させることができる。
【0044】
また、本発明に係る脂肪細胞分化抑制剤、抗肥満剤、およびメタボリックシンドローム予防または治療剤は、その有効成分が天然植物由来の化合物であるため、他の有効成分との併用を注意する必要性が低い。そのため、飲食物には、本発明に係る脂肪細胞分化抑制剤、抗肥満剤、およびメタボリックシンドローム予防または治療剤に加え、他の有効成分を必要に応じて自由に配合することができる。
【0045】
飲食物における脂肪細胞分化抑制剤、抗肥満剤、およびメタボリックシンドローム予防または治療剤の含有量は特に限定されず、目的に応じて自由に設定することが可能である。
【0046】
以上説明した本発明に係る脂肪細胞分化抑制剤、抗肥満剤、およびメタボリックシンドローム予防または治療剤を含む飲食物は、その有効成分が天然植物由来の化合物であるため、安全性が高く、長期間、連続的な摂取が可能である。
【実施例1】
【0047】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0048】
実施例1では、アカザ(Chenopodiaceae、以下同じ)科アルトロクネヌム(Arthrocnemum、以下同じ)属植物抽出物の脂肪細胞分化抑制効果を調べた。なお、本実施例では、アカザ科アルトロクネヌム属植物の一例として、Chenopodiaceae Arthrocnemum glaucumを用いた。
【0049】
(1)アカザ科アルトロクネヌム属植物抽出物(サンプル)の調製
Chenopodiaceae Arthrocnemum glaucumの葉100gを、エタノールを用いて3日間抽出し濾過を行った。この作業を2回繰り返し、アカザ科アルトロクネヌム属植物抽出物(サンプル)を得た。
【0050】
(2)細胞培養およびサンプル処理
前駆脂肪細胞である3T3−L1細胞を、10%牛胎児血清(FBS)を含むDMEM培地を用いて37℃、5%COの条件下で培養した。
【0051】
分化誘導実験開始日を0日として、以下に示す方法で培養を行った。
0日:3T3−L1細胞(2×105cells/ml)を、24穴のマイクロプレートに0.5ml/wellずつ植えた。細胞密集状態に達するまで37℃、5%COの条件下で培養した。
2日:デキサメタゾン、3−イソブチル−1−メチルキサンチン(IBMX)、インスリンを含む分化促進培地で0.5ml/wellずつ培地交換した。各分画(×1/10、×1/10、×1/10、×1/10、×1/10、以下同じ)のサンプルが含まれる培地で処理を行った。コントロールはデキサメタゾン、3−イソブチル−1−メチルキサンチン、インスリンのみを含む培地で培地交換をした。
4日:インスリンのみを含む培地を用いて、0.5ml/wellずつ培地交換した。前記各分画のサンプルが含まれる培地で処理を行った。コントロールはインスリンのみを含む培地で培地交換をした。
7日:4日と同様に培地交換を行った。顕微鏡にて脂肪細胞の分化進行状況を観察した。
11日:4日と同様に培地交換を行った。顕微鏡にて脂肪細胞の分化進行状況を観察した。
【0052】
(3)染色
分化した3T3−L1脂肪細胞を10%ホルマリン/PBSで固定した。その後、0.5%オイルレッドO/イソプロピルアルコール溶液と蒸留水を3:2の割合で混合した染色液を細胞に加え、1時間染色した。
脂肪滴の染色後、蒸留水で2回よく洗浄した。
【0053】
(4)結果
結果を図1に示す。図1に示す通り、前記各画分のサンプルで処理したものは、コントロールに比べ、脂肪滴(染色部分)が明らかに少ないことが分かった。この結果から、アカザ科アルトロクネヌム属植物抽出物は、前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化を抑制することが分かった。
【実施例2】
【0054】
実施例2では、種々の溶媒を用いて分画した場合の各層における脂肪細胞分化抑制効果を、定量的に判定した。溶媒としては、メタノール、酢酸エチル、ブタノール、水を用いた。
【0055】
(1)各層の調製
Chenopodiaceae Arthrocnemum glaucumの葉100gを、メタノールを用いて3日間抽出し濾過を行った。この作業を2回繰り返し、メタノール抽出物(Me層)を得た。
【0056】
得られたメタノール抽出物(Me層)を、酢酸エチル(500ml×3)と水(500ml)で分配し、酢酸エチル層(EA層)を得た。
【0057】
前記で得られた水層を、ブタノール(500ml×3)で更に分配し、ブタノール層(BU層)と水層(W層)を得た。
【0058】
(2)細胞培養およびサンプル処理
前記実施例1と同様の方法を用いて、細胞培養および前記各層からなる各サンプルを用いた処理を行った。
【0059】
(3)染色
前記実施例1と同様の方法を用いて、コントロールおよび各サンプル処理を行った細胞の染色を行った。
【0060】
(4)吸光度の測定
3T3−L1細胞の脂肪細胞分化抑制効果を定量的に判定するため、オイルレッドOで染色した細胞から下記の手順で色素を抽出し、マイクロプレートリーダにより色素量(脂肪滴)を定量した。
【0061】
まず、染色した3T3−L1細胞に2−プロパノールを0.5ml/wellずつ加え、染色液の抽出を行った。その後、96穴のマイクロプレートに、抽出した染色液を200μl/wellずつ移し、595nmにて吸光度を測定した。
【0062】
(5)結果
細胞の染色状態を示す結果を図2に、色素量(脂肪滴量)を定量した結果を図3にそれぞれ示す。なお、図2中、メタノール層(Me層)を用いたものを「AGMe」、酢酸エチル層(EA層)を用いたものを「AGEA」、ブタノール層(BU層)を用いたものを「AGBU」、水層(W層)を用いたものを「AGW」と表記した。
【0063】
図2および図3に示す通り、前記各層からなる各サンプルで処理したものは、コントロールに比べ、脂肪滴(染色部分)が明らかに少ないことが分かった。また、ブタノール層(BU層)を用いたサンプルと水層(W層)を用いたサンプルが、特に、脂肪滴が少ないことが分かった。
【0064】
この結果から、アカザ科アルトロクネヌム属植物抽出物は、前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化を抑制することが、定量的にも証明できた。また、ブタノール層(BU層)または水層(W層)を用いた場合に、特に高い脂肪細胞分化抑制効果を発揮することが分かった。
【実施例3】
【0065】
実施例3では、実施例2において分画したブタノール層(BU層)を用いて、特に高い画分から、有効物質の単離を行った。
【0066】
(1)単離
前記実施例1で得られたブタノール溶出部1.33gを、ODSカラムクロマトグラフィー(φ1.0×37cm)で、メタノール:水を1:1、6:6、7:3、10:1と、順次展開溶媒を変えながら溶出させ、1〜17のフラクションに分離した。
【0067】
1〜17のフラクションのうち、3番目のフラクションを、TSKgel ODS−120a(φ7.8×300 mm)、2.0ml/min、メタノール:水=3:7の条件で、更に13のフラクションに分離した。そのうち、11番目のフラクションから前記化学式(1)の化学構造式で示されるイソラムネチン化合物であるIsorhamnetin-3-O-[apiosyl(1→6)]glucosyl-7-O -rhamnosideを得た。
【0068】
また、1〜17のフラクションのうち、4番目のフラクションを、Shodex OH−pak SB−802.5HQ(φ8.0×300mm)、0.8ml/min、メタノール:水=4:6の条件で、更に14のフラクションに分離した。そのうち、13番目のフラクションから前記化学式(2)の化学構造式で示されるイソラムネチン化合物であるIsorhamnetin-3-O -rutinosideを得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アカザ(Chenopodiaceae)科アルトロクネヌム(Arthrocnemum)属植物抽出物を有効成分とする脂肪細胞分化抑制剤。
【請求項2】
前記植物は、Chenopodiaceae Arthrocnemum glaucumである請求項1記載の脂肪細胞分化抑制剤。
【請求項3】
前記抽出物は、前記Chenopodiaceae Arthrocnemum glaucumの葉より得られる抽出物である請求項2記載の脂肪細胞分化抑制剤。
【請求項4】
前記抽出物は、下記化学式(1)および/または下記化学式(2)の化学構造式で示されたイソラムネチン化合物を含む請求項1から3のいずれか一項に記載の脂肪細胞分化抑制剤。
【化1】

【化2】

【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の脂肪細胞分化抑制剤を有効成分として含有する抗肥満剤。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか一項に記載の脂肪細胞分化抑制剤を有効成分として含有するメタボリックシンドローム予防または治療剤。
【請求項7】
請求項1から4のいずれか一項に記載の脂肪細胞分化抑制剤と、薬理学的に許容され得る添加剤と、を含有する医薬品組成物。
【請求項8】
請求項1から4のいずれか一項に記載の脂肪細胞分化抑制剤と、薬理学的に許容され得る添加剤と、を含有する化粧料組成物。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−6347(P2011−6347A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−150835(P2009−150835)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【出願人】(509180201)センター オブ バイオテクノロジー オブ スファックス (1)
【氏名又は名称原語表記】Center of Biotechnology of Sfax
【住所又は居所原語表記】Route Sidi Mansour Km 6, B.P.1177, 3018 Sfax, Tunisia
【Fターム(参考)】