説明

脆質部材の転着装置

【課題】硬質部材に貼付られた脆質部材に必要以上のストレスを加えることなく、硬質部材を剥離することができ、また剥離ミスによる脆質部材の破損等を効果的に防止しうる、脆質部材の転着装置を提供する
【解決手段】硬質部材の上面に両面接着シートを介して脆質部材を貼付してなる貼付構造体から硬質部材を剥離して接着シートに脆質部材を転着させるのにあたり、貼付構造体の脆質部材側に接着シートを貼付してフレームと一体化した後、その硬質部材側をテーブル8上に位置決め固定し、かつ、フレーム6を該テーブル8の表面に対し斜め上方に立ち上げる。このとき、フレーム6は、トルク制御モータ12により、所定のトルクで回転軸13を支点として、テーブル8の表面に対し斜め上方に立ち上げ、このフレーム6の立ち上がる力、すなわち上記所定のトルクで脆質部材から硬質部材が剥離されるものとする。また、硬質部材の剥離の際に、2つの反射型センサ38−1、38−2からなる剥離確認手段37により、その剥離動作の確認が行われるものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脆質部材、例えば半導体ウエハ等を硬質部材、例えばガラス等に貼付した状態で、極薄の厚みに加工した後、脆質部材から硬質部材を剥離してダイシングシート等の接着シートに脆質部材を転着させるときに用いられる、脆質部材の転着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の脆質部材の転着装置としては、例えば、特許文献1に記載の構造のものが知られている。同文献の転着装置は、図11に示す剥離対象物1、すなわち硬質部材2とその上面に両面接着シート3を介して貼付された脆質部材4とからなる貼付構造体5の脆質部材4側に、ダイシングシート7等の接着シートを介してフレーム6と一体化したものから、硬質部材2を剥離して接着シート側に脆質部材4を転着させるものである。
【0003】
この剥離・転着の方式として、同文献の転着装置では、剥離対象物1の硬質部材2側をテーブル上に位置決め固定した上で、カム機構を使って前記フレーム6を該テーブルの表面に対し斜め上方に立ち上げると、脆質部材4から硬質部材2が剥離されてダイシングシート7等の接着シート側に脆質部材4が転着されるという方式を採用している。
【0004】
しかしながら、上記のような従来の転着装置によると、簡単なカム機構だけでフレーム6を立ち上げる構造を採っているため、そのフレーム6を立ち上げる力が一定でなく、脆質部材4に必要以上のストレスが加わることがあり、脆質部材4を無理なく剥離することができないことが分かった。
【0005】
また、この従来の転着装置によると、正常に硬質部材2の剥離が開始されたかどうかも分からず、剥離ミスが生じているにも拘らず、フレーム6が立ち上がろうとすることにより、脆質部材4に無理な力が加わり、剥離ミスによる脆質部材4の破損等が生じるおそれがあることも判明した。
【特許文献1】特開2003−338534号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、脆質部材に必要以上のストレスを加えることなく、硬質部材を剥離することができ、また、剥離ミスによる脆質部材の破損等を効果的に防止しうる、脆質部材の転着装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、硬質部材とその上面に貼付された脆質部材とからなる貼付構造体の脆質部材側に、接着シートを介してフレームと一体化し、その後、前記硬質部材側をテーブル上に位置決め固定し、かつ、前記フレームを前記テーブルの表面に対し斜め上方に立ち上げることにより、前記脆質部材から前記硬質部材を剥離して前記接着シート側に前記脆質部材を転着させる装置において、前記硬質部材と前記脆質部材との間に剥離の切っ掛けを形成する剥離切っ掛け形成手段と、前記剥離切っ掛け形成手段で形成した前記切っ掛けからの前記硬質部材の剥離を確認する剥離確認手段と、前記剥離確認手段で剥離の確認を行いながら、前記フレーム全体を所定のトルクで前記テーブルの表面に対し斜め上方に立ち上げるフレーム駆動手段とを有することを特徴とする。
【0008】
本発明では、フレーム駆動手段がフレーム全体を所定のトルクでテーブルの表面に対し斜め上方に立ち上げ、このフレームの立ち上がる力、すなわち前記所定のトルクで脆質部材から硬質部材が剥離される。この際、剥離確認手段で剥離の確認が行われる。
【0009】
本発明において、前記剥離確認手段については、前記切っ掛けから始まる前記硬質部材の初期剥離を検知する第1のセンサを具備する構成を採用することができる。
【0010】
本発明において、前記剥離確認手段については、さらに、前記硬質部材の剥離完了を検知する第2のセンサを具備するように構成してもよい。
【0011】
前記フレーム駆動手段としては、設定したトルクと等しくなるように出力トルクが制御されるトルク制御可能なモータと、当該トルク制御可能なモータの出力軸に連結された回転軸と、前記回転軸に固定されるとともに、前記フレームを支持する一対の支持アームとからなり、前記トルク制御可能なモータが作動し、前記回転軸が所定角度で回転動作することによって前記両支持アームが前記回転軸を支点として前記テーブルの表面に対し斜め上方に立ち上がる構造を採用することができる。
【0012】
本発明において、前記剥離切っ掛け形成手段については、前記硬質部材と前記脆質部材との間に向かってスライドして入り込む刃物からなるものとしてよい。
【0013】
また、本発明において、前記脆質部材は、両面粘着シートを介して前記硬質部材の上面に貼付されてなるものとしてよい。この場合、前記剥離切っ掛け形成手段については、前記両面粘着シートの両粘着剤層のうち、その硬質部材側の粘着剤層に向かってスライド可能に設けられた刃物を備えるとともに、当該刃物の刃先が前記硬質部材側の粘着剤層の外周から内部に向けて所定の深さ入り込んで剥離の切っ掛けを作る構造とすることができる。
【0014】
上記のような剥離切っ掛け形成手段の構造を採用した場合は、刃物の刃先が硬質部材側の粘着剤層の内部にスムーズに入り込んで剥離の切っ掛けを形成するから、切っ掛けの形成ミスが減る等の利点がある。
【0015】
本発明において、前記剥離切っ掛け形成手段については、前記刃物が所定位置に入り込まなかったことを検知する検知手段を備えてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明にあっては、以下の作用効果を奏する。
(1)フレーム駆動手段がフレーム全体を所定のトルクでテーブルの表面に対し斜め上方に立ち上げられ、このフレームの立ち上がる力、すなわち前記所定のトルクで脆質部材から硬質部材が剥離されるから、脆質部材に必要以上のストレスが加わることを効果的に防止することができ、無理なく硬質部材を剥離することができる。
(2)硬質部材の剥離の際に剥離確認手段によりその剥離の確認が行われるから、剥離ミスによる脆質部材の破損等を効果的に防止しうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
図1は本発明の一実施形態である脆質部材の転着装置全体の概略斜視図、図2は図1の転着装置における剥離動作途中の概略斜視図、図3は図1の転着装置を構成する剥離切っ掛け形成手段の拡大斜視図、図4は図1中のA−A線での転着装置の断面図、図5は図2中のA−A線での転着装置の断面図、図6は図1中のB−B線での転着装置の断面図、図11は図1の転着装置等にセットされる剥離対象物(ダイシングシート7を介してフレームと一体化された貼付構造体)の断面図である。
【0019】
まず、本実施形態に使用する剥離対象物について簡単に説明する。前記剥離対象物は、図11に示すように硬質部材2(ガラス板)とその上面に両面粘着シート3を介して貼付された脆質部材4(半導体ウエハ)とからなる貼付構造体5を有し、さらに、この貼付構造体5の脆質部材4側に、ダイシングシート7(接着シート)を介してフレーム6と一体化された構造となっている(以下「剥離対象物1」という)。前記両面粘着シート3の両粘着剤層3a、3bのうち、硬質部材側の粘着剤層3aについては紫外線で硬化し、粘着力が著しく低下する粘着剤が用いられ、脆質部材側の粘着剤層3bについては弱粘性の接着剤が用いられている。また、前記硬質部材2については脆質部材4と略同形状の透明ガラス板が採用され、前記脆質部材4については、硬質部材2に貼付した状態で極薄の厚みに研削加工された半導体ウエハが採用されている。尚、本実施形態では、ダイシングシート7を接着シートとして用いるが、ダイシングシート以外のシートを接着シートとして用いることもできる。
【0020】
本実施形態の転着装置Mは、剥離対象物1の脆質部材4(半導体ウエハ)から硬質部材2(ガラス板)を剥離して脆質部材4(半導体ウエハ)をダイシングシート7側に転着させる装置である。
【0021】
かかる転着の方式として、本実施形態の転着装置Mは、上記のような剥離対象物1に対して、その硬質部材2側をテーブル8上に位置決め固定し、かつ、そのフレーム6全体をテーブル8の表面に対し斜め上方に立ち上げる方式を採用している。この方式を採用した本実施形態の転着装置Mは、具体的には以下のように構成されている。
【0022】
本実施形態の転着装置Mは、図1、図2に示したように、硬質部材2を位置決め固定する手段として、テーブル8を備えている。このテーブル8は表面が平面となっており、当該テーブル8の表面には凹部9が形成され、この凹部9は当該テーブル8の一端側が開口部9aとなっている。当該凹部9の底面にはバキューム孔10が複数形成され、(図6参照)これらのバキューム孔10は、図示しない負圧発生装置にホース等を介して接続され、前記凹部9の表面に硬質部材2を吸引固定できるように構成されている。尚、本実施形態では、硬質部材2として円形のガラス板を用いるため、この硬質部材の円形状に合わせて、複数のバキューム孔10が環状に配置される構造を採っているが、これ以外のバキューム孔10の配置構造を採用してもよい。
【0023】
テーブル8の表面から凹部9の底面までの深さは、硬質部材2の厚みに合わせて設定されている。具体的には、図11に示す剥離対象物1の硬質部材2側が凹部9の底面に吸引固定されたときに、硬質部材2の上面がテーブル8の表面と面一となるように設定される(図8(a)参照)。
【0024】
また、本実施形態の転着装置Mは、フレーム6を所定のトルクでテーブル8の表面に対し斜め上方に立ち上げる手段として、フレーム駆動手段11を備えている。このフレーム駆動手段11は、具体的にはトルク制御可能なモータ12、回転軸13、および一対の支持アーム14等から構成されている。
【0025】
トルク制御可能なモータ12(以下「トルク制御モータ12」という)は、その出力トルクが、あらかじめ設定されたトルクが出力されるように制御できるモータであって、図示しないモータ支持台を介してテーブル8の横後方に配置されている(図1参照)。
【0026】
回転軸13は、テーブル8の後方に設けられるとともに、テーブル8の表面と平行に配置されている。また、この回転軸13は、その一端13a側がカップリング15を介してトルク制御モータ12の出力軸に連結されている。尚、この回転軸13は、図示しない周知の軸受けを介して、その軸心周りに回転可能に支持されている。
【0027】
一対の支持アーム(14−1)、(14−2)は、それぞれアーム後端14a、14a側が回転軸13に固定され、互いに平行となるように設けられ、フレーム6をその下面側から支持する構造となっており、本実施形態においては、図6のように、それぞれの支持アーム14の内側上面に段部16を形成するとともに、フレーム6の外周2箇所に形成された直線部分6aが、前記両段部16上に載置される構造を採用している。
【0028】
尚、本実施形態においては、一対の支持アーム14からのフレーム6の脱落を防止するために、図2に示すように一対の支持アーム14のアーム後端14aの反対側を連結バー17で連結するとともに、この連結バー17の両側にクランプ手段18を設け、当該クランプ手段18でフレーム6を掴んで固定する構造を採用している。
【0029】
ところで、トルク制御モータ12の作動により回転軸13がその軸心周りに回転動作すると、一対の支持アーム14は、図2のように、回転軸13を支点としてテーブル8の表面に対し斜め上方に立ち上がる。従って、一対の支持アーム14上に載置されたフレーム6も一体的に同方向に立ち上がる。その際、フレーム6は所定のトルク、すなわちトルク制御モータ12の出力トルクに応じて立ち上がることとなる。所定トルクは脆質部材4の厚みや形状、大きさ等によって異なるが、オペレータが任意に設定することができる。また、剥離初期段階、剥離途中段階、剥離最終段階等に分けてトルク制御モータの出力トルクを変更しながら剥離するようにしてもよい。
【0030】
さらに、本実施形態の転着装置Mは、剥離対象物1の硬質部材2側がテーブル8の凹部9の底面に吸引固定された状態で、その硬質部材2と脆質部材4との間に剥離の切っ掛けを形成する手段(剥離切っ掛け形成手段19)を備えている。
【0031】
前記剥離切っ掛け形成手段19は、具体的には、硬質部材2と脆質部材4との間に介在する両面粘着シート3の両粘着剤層3a、3bのうち、その硬質部材と粘着剤層3aとの界面に向かってスライド可能に設けた刃物20を備えるとともに、その刃物20の刃先が硬質部材2側の粘着剤層3aの外周から内部に向けて所定の深さ入り込んで剥離の切っ掛け(図9の符号40で示す部位を参照)を作る。
【0032】
前記刃物20は、テーブル8の正面8a側に位置し、テーブル後方の回転軸13と対向するように配置されるとともに、その位置から後述の刃物スライド駆動手段21を介してスライド駆動される。この際、当該刃物20は、テーブル8の表面に対し所定の角度で傾斜しつつ、テーブル8上を滑るようにスライド移動して、硬質部材2と粘着剤層3aの界面に到達する(図8(b)参照)。
【0033】
刃物スライド駆動手段21は、図3に示したように、スライドユニット22のスライダー23上にリニアレール24を介して刃物位置微調整ユニット25を積層設置し、かつ、その刃物位置微調整ユニット25の上部に設けられている刃物取付け台26上に前記刃物20を取り付けた構造となっている。
【0034】
スライドユニット22のスライダー23は、周知のボールネジ機構等により、テーブル8の正面に対して前後方向にスライド可能に構成されている。
【0035】
リニアレール24は、スライダー23上に取り付けたスライドベース板27と刃物位置微調整ユニット25の下面に取り付けたユニット設置板28との間に設けられ、スライダー23側と刃物位置微調整ユニット25側とをY軸方向に移動可能となるように取り付けられている。また、本実施形態における前記刃物スライド駆動手段21は、スライドベース板27に設けられたピン33と、ユニット設置板28に設けられたピン32とが引っ張りバネ31によりお互いを引き合うように連結されるとともに、ユニット設置板28側に設けられた突出片29がスライドベース板27に取り付けられた係止部30に当接して静止するように構成されている。
【0036】
上記のような構造からなる刃物スライド駆動手段21において、スライドユニット22の作動によりスライダー23をテーブル8の正面8a方向に前進させると、通常は、引っ張りバネ31の作用により、スライドベース板27側の係止部30とユニット設置板28側の突出片29とが当接した状態のままリニアレール24上の全部品(刃物20、刃物位置微調整ユニット25、ユニット設置板28等)がスライダー23に追従して該スライダーと同方向に同速度で前進する。
【0037】
ところで、本装置Mの場合、テーブル8の凹部9底面に硬質部材2が吸引固定されたときは、その硬質部材2の上に位置する両面粘着シート3の硬質部材側の粘着剤層3aと硬質部材2との界面がテーブル8の表面と面一となるように設定されている。このため、通常は、硬質部材2の上部側がテーブル8の表面より上に飛び出ることはない。しかし、硬質部材2の厚みにバラツキが生じることは避けられず、硬質部材2の厚みのバラツキが大きい場合は、硬質部材2の上部側がテーブル8の表面より上に飛び出る場合もある(図12(a)参照)。この場合、刃物20がテーブル8上を滑るように前進して硬質部材側の粘着剤層3aに近づく構成を採ると、上記のように硬質部材2の飛び出た部位に刃物20が衝突し引っ掛かってしまう。このような状態のままスライダー23が前進し続けると、図12(b)に示すように、リニアレール24より下側の部品、すなわちスライドベース板27とスライダー23だけが引っ張りバネ31の作用に逆らいながら引き続き前進し、そのリニアレール24上の全部品、すなわちユニット設置板28、刃物位置調整ユニット25、刃物20は、その場で停止してスライダー23のスライド動作に追従しなくなる。このような症状は、硬質部材2の厚みが凹部9の深さより小さい場合も同様で、刃物20が両面粘着シート3又は、脆質部材4に引っ掛かってスライダー23のスライド動作に追従しなくなる。
【0038】
そこで、刃物スライド駆動手段21には異常検知手段34が設けられている。この異常検知手段34は、上記のようにリニアレール24より下側の部品だけが引っ張りバネ31の作用に逆らいながら引き続き前進するという異常動作、すなわち刃物20が所定位置(硬質部材2と粘着剤層3aの界面)に入り込まなかったことを検知する手段である。
【0039】
かかる異常検知手段34は、発光素子35−1、この発光素子からの光線を受光する受光素子35−2とを一定の隙間を隔てて配置してなるセンサ35、および、その発光素子35−1から受光素子35−2への光路を遮断するための遮光板36を具備する。
【0040】
前記異常検知手段34のセンサ35は、スライドベース板27上に取り付けられるとともに、そのセンサ35を構成する発光素子35−1と受光素子35−2がスライドベース板27のスライド方向と直交する線上に並んで配置される。また、前記遮光板36は、ユニット設置板28側に取り付けられるとともに、前記発光素子35−1と受光素子35−2との隙間G1の前方に配置され、正常な動作では遮光板36は前記センサの光路を遮断することはなく、ON状態となっている。しかし、上記のような異常動作により、スライドベース板27のみが前進すると、発光素子35−1と受光素子35−2の隙間G1が遮光板36によって遮光され、センサ35のセンサ出力は、ONからOFF状態となって異常を検知する。
【0041】
刃物位置微調整ユニット25には4つの摘み25a〜25dが設けられている。これら4つの摘み25a〜25dは、刃物取付け台26に取り付けられている刃物20の位置や傾斜角度を微調整する手段である。例えば、3つの摘み25a〜25cをそれぞれ個別に操作すると、X、Y、Zの三軸方向に刃物20の位置を個別に微調整できる。また、残りの1つの摘み25dを操作すると、テーブル8の表面に対する刃物20の傾斜角度を微調整できる。この種の摘み25a〜25dの操作により刃物20の位置や傾斜角度を微調整する機構については周知の手段が適用されるため、その機構の詳細説明は省略する。
【0042】
また、本実施形態の転着装置Mは、前記刃物20で形成した切っ掛けからの脆質部材4の剥離を確認する手段(剥離確認手段37)を有している。図4に示したように、この剥離確認手段37は、第1および第2のセンサとして2つの反射型センサ38−1、38−2を備え、それぞれ個別にテーブル8の凹部9の底面に設けた窪み39内に収容されている。一方の反射型センサ38−1(以下「第1反射型センサ」という)は、刃物20で形成された切っ掛けから始まる硬質部材2の初期剥離を検知するために、その切っ掛けが作られる部位付近、具体的には刃物20が接近するテーブル8上の正面8a側に配置されている。他方の反射型センサ38−2(以下「第2反射型センサ」という)は、硬質部材2の剥離完了を検知するために、硬質部材2の剥離が完了する部位付近、具体的にはテーブル8上の回転軸13寄りに配置されている。
【0043】
前記第1および第2反射型センサ38−1、38−2としては、いずれも、投受光素子を有する公知の限定反射型のセンサにより構成され、硬質部材2を透過して脆質部材4で反射した光線を受光することによってその距離を監視する。
【0044】
ここで、一対の支持アーム14により支持されたフレーム6は、トルク制御モータ12の所定出力トルクで、回転軸13を支点としてテーブル8の表面に対し斜め上方に立ち上がろうとする。硬質部材2が正常に剥離し始めると、第1反射型センサ38−1がONからOFF状態となり正常に剥離されていると判断する。そこで、トルク制御モータ12の作動によりフレーム6を斜め上方に立ち上げる動作が開始されてから所定時間経過しても、第1反射型センサ38−1のセンサ出力がONからOFF状態に切り換わらないときは、硬質部材2の初期剥離ミスが生じていることが確認できる。
【0045】
以上の説明は、第1反射型センサ38−1による硬質部材2の剥離検知方式についての説明であるが、第2反射型センサ38−2も、第1反射型センサ38−1と同様の方式で硬質部材2の剥離完了を検知する構成となっている。
【0046】
次に、上記の如く構成された本実施形態の転着装置Mの動作について、図7乃至図10を基に詳細に説明する。
【0047】
本実施形態の転着装置Mにおいて、図11に示すような貼付構造体5から硬質部材2を剥離する際は、まず、その段取り作業として、同図のように、貼付構造体5の脆質部材4側に、ダイシングシート7を介してフレーム6と一体化させておく。これが転着装置Mへの剥離対象物1となる。
【0048】
尚、前記剥離対象物1において、その両面粘着シート3の硬質部材側の粘着剤層3aについては、あらかじめ硬質部材2(透明のガラス板)側からの紫外線照射により硬化し、その粘着力が著しく低下しているものとする。
【0049】
次に、図7(a)のように、前記剥離対象物1の硬質部材2がテーブル8の凹部9に入り込むように載置する。この際、水平となっている一対の支持アーム14上に剥離対象物1のフレーム6部分が載置され、その状態のまま剥離対象物1を矢印の方向にスライドさせることによって、図7(b)に示すように硬質部材2の円弧部が凹部9の円弧部内壁面に当接することによりテーブル8上の定位置に位置決めセットされる。ここまでの動作は人手によって行われてもよいが、多間接ロボット等によって自動化してもよい。
【0050】
そして、位置決めセット作業が完了すると、凹部9の底面からバキューム孔10を介して貼付構造体5の硬質部材2側を吸引する動作が行われる。この吸引動作によって、図8(a)のように、貼付構造体5全体が凹部9底面側に向かって下降し、これに応じてダイシングシート7が撓み、貼付構造体5の硬質部材2が凹部9底面に密着するように吸引固定される。これにより、硬質部材2の上に位置する両面粘着シート3の硬質部材側の粘着剤層3aと硬質部材2との界面がテーブル8の表面と面一となる。
【0051】
上記のような吸引固定の動作が完了すると、次に、硬質部材2の剥離の切っ掛けを形成する動作が行われる。すなわち、トルク制御モータ12を作動させ、回転軸13を支点として、図8(b)のように一対の支持アーム14が少しだけ斜め上方に立ち上がる。これにより、一対の支持アーム14の先端側を連結している連結バー17の下部側に、刃物20が入り込める微小な隙間G2が形成される。そして、スライドユニット22のスライダー23をテーブル8の正面8aに向かってスライド前進させ、テーブル8の正面8a側から刃物20が前進して前記隙間G2に入り込む。
【0052】
前記隙間G2に入り込んだ刃物20は、さらに前進して両面粘着シート3の硬質部材側の粘着剤層3aと硬質部材2との界面に向かう。このとき、当該刃物20は、テーブル8の表面に対し所定の角度で傾斜しつつ、テーブル8上を滑るようにしてスライド移動する。そして、当該刃物20の刃先が硬質部材側の粘着剤層3aの外周から内部に所定の深さで入り込む。これにより、硬質部材側の粘着剤層3aの外周には、図10に示すような刃物20の切り込みからなる剥離の切っ掛け40が形成される。剥離の切っ掛け形成後は、スライドユニット22のスライダー23をスライド後退させ、刃物20を元の位置に戻す。
【0053】
上記のようにして刃物20による剥離の切っ掛け40が形成されると、次に剥離・転着動作が行われる。すなわち、回転軸13を支点として、図9(b)のように、更に一対の支持アーム14が斜め上方に立ち上がることによって、貼付構造体5の硬質部材2がテーブル8側に吸引固定されたまま、同貼付構造体5の脆質部材4はフレーム6やダイシングシート7と一緒に一対の支持アーム14で斜め上方に立ち上がり、これにより、前記剥離の切っ掛け40からの硬質部材2の剥離が始まる。
【0054】
そして、この硬質部材2の剥離は、更に支持アーム14が斜め上方に立ち上がることで、図10に破線で示すような波紋のように広がる。最終的に、剥離の切っ掛け40から最も遠い位置まで硬質部材2の剥離が進行すると、第2反射型センサ38−2の上方でも、貼付構造体5の脆質部材4がフレーム6やダイシングシート7と一緒に支持アーム14で斜め上方に立ち上がるため、第2反射型センサ38−2のセンサ出力がONからOFFに切り換わり、このセンサ出力の切り換わりを監視することにより硬質部材2の剥離の完了が確認される。このように完全に剥離した脆質部材4は硬質部材2から離れてダイシングシート7側に残る形で転着されている。
【0055】
以上のようにしてダイシングシート7側に転着された脆質部材4(半導体ウエハ)は、その後ダイシングが行われてチップ化される。尚、ダイシング装置やダイシング後のチップをダイシングシートからピックアップする装置等については、周知の装置が適用される。
【0056】
ところで、上記のように刃物20で剥離の切っ掛け40を形成しても、その切っ掛け40から硬質部材2の剥離が始まらず、剥離ミスが生じる場合も想定される。例えば、両面粘着シート3の硬質部材側の粘着剤層3aへの紫外線照射不良のため、粘着剤層3aの粘着力が所望の値まで低下していないときや、剥離切っ掛け形成手段19の刃物20が脆質部材4と脆質部材側粘着剤層3bとの界面に入り込んだにもかかわらず、異常検知手段34が異常を検知しなかった場合等に、剥離ミスが発生する可能性がある。剥離ミスが発生すると、脆質部材である半導体ウエハ等に不要なストレスが加わり蓄積されるため、剥離ミスはなるべく早めに検知するのが望ましい。
【0057】
本実施形態の転着装置Mにおいては、上記のような剥離ミスを早期に発見検知する手段として、第1反射型センサ38−1からのセンサ出力が利用される。すなわち、第1反射型センサ38−1からのセンサ出力は、図示しない本装置Mの制御部へ出力される。
【0058】
本装置Mの制御部は、第1反射型センサ38−1からのセンサ出力の監視と、トルク制御モータ12の動作時間のカウントを行い、これらのデータに基づいてトルク制御モータ12の運転を制御する。
【0059】
すなわち、トルク制御モータ12の作動によりフレーム6を斜め上方に立ち上げる動作が開始されてから所定時間経過しても、第1反射型センサ38−1からのセンサ出力がONからOFFに切り換わらないときは、前述の通り、切っ掛け40からの硬質部材2の初期剥離ミスが発生していると判断し、これ以上剥離動作は続行させないようにする。そこで、本装置Mの制御部は、フレーム6の立ち上げ動作を一旦停止するために、トルク制御モータ12に対し運転停止の指示を出力する。これにより、トルク制御モータ12が停止し、フレーム6の立ち上げ動作が一時中断される。
【0060】
その後、本装置Mの制御部は、フレーム6の立ち上げ動作を再実行するために、トルク制御モータ12に対し運転再開の指示を出力する。これにより、トルク制御モータ12が再起動し、フレーム6の立ち上げ動作が再実行される。
【0061】
上記のような再実行動作を数回繰り返しても、第1反射型センサ38−1からのセンサ出力がONからOFFに切り換わらず、依然として切っ掛け40からの初期剥離ミスが発生する場合には、脆質部材4を保護するため、剥離・転着処理を中止したり、ブザーやランプ点灯等により、オペレータに知らせる等の対策をとるようにしてもよい。
【0062】
また、脆質部材4の初期剥離に成功すると、第1反射型センサ38−1のセンサ出力がONからOFFになるが、このOFFになった時点から所定時間経過しても、第2反射型センサ38−2のセンサ出力がONからOFFに切り換わらないときは、脆質部材4の剥離が完了しておらず、初期剥離の成功後に何らかの剥離ミスが生じていることになる。この場合も、本装置Mの制御部は、剥離動作を停止させたり、上記と同様にブザーやランプ点灯等により、オペレータに知らせることによって、脆質部材に損傷を与える前に対策をとることができる。
【0063】
本実施形態の転着装置Mにあっては、フレーム駆動手段11のトルク制御モータ12がフレーム6全体を所定のトルクでテーブル8の表面に対し斜め上方に立ち上げ、このフレーム6の立ち上がる力、すなわち上記所定のトルクで脆質部材4から硬質部材2が剥離されるから、脆質部材4に必要以上のストレスが加わることを効果的に防止することができ、無理なく硬質部材を剥離することができる。
【0064】
また、本実施形態の転着装置Mによると、硬質部材2の剥離の際に剥離確認手段37によりその剥離の確認が行われるから、剥離ミスによる脆質部材4の破損等を効果的に防止しうる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の一実施形態である脆質部材の転着装置全体の概略斜視図。
【図2】図1の転着装置における剥離動作途中の概略斜視図。
【図3】図1の転着装置を構成する剥離切っ掛け形成手段の拡大斜視図。
【図4】図1中のA−A線での転着装置の断面図。
【図5】図2中のA−A線での転着装置の断面図。
【図6】図1中のB−B線での転着装置の断面図。
【図7】図1の転着装置への位置決め載置動作説明図であり、(a)は図11の剥離対象物をテーブルに配置した状態の説明図、(b)は(a)のように配置した剥離対象物を位置決め載置した状態の説明図である。
【図8】図1の転着装置の動作説明図であり、(a)は貼付構造体の硬質部材側が凹部底面に吸引固定された状態の説明図、(b)は、刃物がテーブルの表面に対し所定の角度で傾斜しつつテーブル上を滑るようにしてスライド移動する状態と、その刃物が剥離の切っ掛けを形成する状態の説明図である。
【図9】図1の転着装置の動作説明図であり、(a)は刃物により形成された剥離の切っ掛けの説明図、(b)は剥離の切っ掛けから始まった脆質部材の初期剥離段階の説明図である。
【図10】剥離の進行状態の説明図。
【図11】図1の転着装置等にセットされる剥離対象物(ダイシングシートを介してフレームと一体化された貼付構造体)の断面図。
【図12】図3の剥離切っ掛け形成手段の動作説明図であって、(a)は硬質部材の上部側がテーブルの表面より上に飛び出た状態の説明図、(b)は(a)の状態のままスライダーが前進し続けたときの動作説明図である。
【符号の説明】
【0066】
1 剥離対象物
2 硬質部材
3 両面粘着シート
3a 硬質部材側粘着剤層
3b 脆質部材側粘着剤層
4 脆質部材
5 貼付構造体
6 フレーム
7 ダイシングシート(接着シート)
8 テーブル
8a テーブルの正面側
9 凹部
10 バキューム孔
11 フレーム駆動手段
12 トルク制御可能なモータ
13 回転軸
14 一対の支持アーム
15 カップリング
16 段部
17 連結バー
18 クランプ手段
19 剥離切っ掛け形成手段
20 刃物
21 刃物スライド駆動手段
22 スライドユニット
23 スライダー
24 リニアレール
25 刃物位置微調整ユニット
25a〜25b 摘み
26 刃物取付け台
27 スライドベース板
28 ユニット設置板
29 突出片
30 係止部
31 引っ張りバネ
32 突出片上のピン
33 スライドベース板上のピン
34 異常検知手段
35 センサ
35−1 発光素子
35−2 受光素子
36 遮光板
37 剥離確認手段
38−1 第1反射型センサ(第1のセンサ)
38−2 第2反射型センサ(第2のセンサ)
39 窪み
40 剥離の切っ掛け

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬質部材とその上面に貼付された脆質部材とからなる貼付構造体の脆質部材側に、接着シートを介してフレームと一体化し、その後、前記硬質部材側をテーブル上に位置決め固定し、かつ、前記フレームを前記テーブルの表面に対し斜め上方に立ち上げることにより、前記脆質部材から前記硬質部材を剥離して前記接着シート側に前記脆質部材を転着させる装置において、
前記硬質部材と前記脆質部材との間に剥離の切っ掛けを形成する剥離切っ掛け形成手段と、
前記剥離切っ掛け形成手段で形成した前記切っ掛けからの前記硬質部材の剥離を確認する剥離確認手段と、
前記剥離確認手段で剥離の確認を行いながら、前記フレーム全体を所定のトルクで前記テーブル面に対し斜め上方に立ち上げるフレーム駆動手段と、
を有することを特徴とする脆質部材の転着装置。
【請求項2】
前記剥離確認手段は、前記切っ掛けから始まる前記硬質部材の初期剥離を検知する第1のセンサを具備することを特徴とする請求項1に記載の脆質部材の転着装置。
【請求項3】
前記剥離確認手段は、さらに、前記硬質部材の剥離完了を検知する第2のセンサを具備することを特徴とする請求項2に記載の脆質部材の転着装置。
【請求項4】
前記フレーム駆動手段は、
設定したトルクと等しくなるように出力トルクが制御されるトルク制御可能なモータと、
当該トルク制御可能なモータの出力軸に連結された回転軸と、
当該回転軸に固定されるとともに、前記フレームを支持する一対の支持アームとからなり、
前記トルク制御可能なモータが作動し、前記回転軸が所定角度で回転動作することによって前記両支持アームが前記回転軸を支点として前記テーブルの表面に対し斜め上方に立ち上がる構造であること
を特徴とする請求項1に記載の脆質部材の転着装置。
【請求項5】
前記剥離切っ掛け形成手段は、前記硬質部材と前記脆質部材との間に向かってスライドして入り込む刃物からなることを特徴とする請求項1に記載の脆質部材の転着装置。
【請求項6】
前記脆質部材は、両面粘着シートを介して前記硬質部材の上面に貼付されてなり、
前記剥離切っ掛け形成手段は、前記両面粘着シートの両粘着剤層のうち、その硬質部材側の粘着剤層に向かってスライド可能に設けられた刃物を備えるとともに、当該刃物の刃先が前記硬質部材側の粘着剤層の外周から内部に向けて所定の深さ入り込んで剥離の切っ掛けを作る構造であること
を特徴とする請求項1に記載の脆質部材の転着装置。
【請求項7】
前記剥離切っ掛け形成手段は、前記刃物が所定位置に入り込まなかったことを検知する検知手段を有することを特徴とする請求項5または6のいずれかに記載の脆質部材の転着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−59861(P2006−59861A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−237332(P2004−237332)
【出願日】平成16年8月17日(2004.8.17)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】