説明

腐食保護鋼板を製造する方法

本発明は、腐食保護され、そして、有機コーティング剤でコーティングされる鋼板(1)を製造する方法に関する。本発明によると、亜鉛又は亜鉛合金コーティングにより腐食保護される鋼板(1)を、少なくとも1つの追加金属又は金属合金を用いて真空中でコーティングし、熱拡散処理を施し、そして、次に冷却する。本発明の方法は、鋼板を水溶冷却媒体によって冷却することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、亜鉛又は亜鉛合金の層で腐食保護される鋼板を、少なくとも1つの追加金属又は金属合金で真空コーティングし、次に熱拡散処理を施し、最後に冷却して、有機コーティング剤コーティング(Beschichtung)用の腐食保護される鋼板を製造する方法に関する。
【0002】
自動車産業では、優れた作業性と同時に高い腐食抵抗を有する材料に対する高い需要がある。腐食保護のための車体鋼板のガルバナイジング(Verzinkung;例えば、どぶ漬け加工(Schmelztauchverfahren)又は電解コーティング(elektrolytische Beschichtung)は、過去数十年にわたって標準方法となってきた。どぶ漬け加工、又は、電解蒸着(electrolytischer Abscheidung)によりガルバナイズされた鋼板は、鋼板に対する亜鉛層の優れた接着と、優れた作業性(特に、成形性)とを特徴とする。
【0003】
しかしながら、有機コーティング剤(特に、塗装コーティング;Lackschicht)が、処理された鋼板の表面に対する十分な接着性を有していないという問題が恒常的に生じる。塗装膜を突き抜けて酸素と湿気が金属表面に達し、前記金属表面が湿気と反応し、そして、表面の劣化が進行する。このことを防ぐために、そして、十分なペイント接着を保証するために、鋼板に追加の中間処理(例えば、クロメート処理)を施すが、それによって、追加コストがかかり、CrVI含有物質を使用するので或る程度環境を汚染する。
【0004】
前記種類の加工は、当業界で公知である。DE10039375A1は、腐食保護鋼板を製造する方法を記載しており、そこでは、亜鉛又は亜鉛合金の層を備えた鋼板上に、連続法中で真空コーティングにより金属(特に、アルカリ土類金属、マグネシウム又はアルミニウム、あるいはそれらの合金)の層を付与する。その後、コーティングされたシートメタルに熱処理を施す。加熱及び熱保持相からなるこの熱処理間に、表面のセクション中で溶融浸透が局所的に生じ、ここで、真空コーティングの間に、溶融温度(亜鉛又は亜鉛合金の層と比べて温度が低い)で、亜鉛又は亜鉛合金の層と蒸着(Aufgedampften)層との間に多相合金(Mehrphasige)が形成されている。この場合に、蒸着金属又は蒸着合金は亜鉛コーティングのより深い層中にも浸透することができる。熱処理後に、鋼板を不変の低酸素雰囲気中で冷却することによって、溶融浸透物(Aufschmelzungen)が固体になる。
【0005】
溶融浸透により亜鉛コーティングへ入った蒸着金属の安定した効果を通じて、亜鉛コーティングの分解が非常に遅れる結果となり、ガルバナイズされた鋼板の腐食抵抗が前記方法により積極的に効果を現す。
【0006】
DE19527515C1は、腐食保護鋼板を製造する更なる方法を記載している。この場合に、1つ又は複数の金属(亜鉛以外)、特に、Fe,Mn,Cu,Ni及びMg又はそれらの合金を、亜鉛含有層を備えた鋼板上へ真空コーティングによって付与し、そして、次に、その間に酸化性雰囲気へさらすことなく熱拡散処理を施し、その後に、不活性気体雰囲気中で冷却する。拡散処理の過程において、ジンクリッチ(zinkreichen)合金の層と、真空で付与される1つ又は複数の金属での混合相の層とが表面上に形成される。前記方法によって、優れた表面品質及び腐食抵抗を有するガルバナイズされた鋼板の製造が可能になる。
【0007】
しかしながら、先行技術からの公知方法の場合に、熱処理だけでなく、その後に続く冷却処理を、不活性気体雰囲気中で実施しなければならないことから、明らかに費用が高い。
【0008】
従って、本発明の目的は、有機コーティング剤によるコーティング用での腐食保護鋼板を製造する方法を示すものであり、当技術分野の包括的な均等技術水準と比較すると、前記鋼板は、鋼板のコーティングされた状態においても、有機コーティング剤の優れた付着性及び高い腐食抵抗を特徴とする。
【0009】
本発明によると、前記目的は、標準大気条件下で水系冷却液を用いて冷却を実施する、本明細書の特許請求項1の前提部に記載の方法によって達成される。
【0010】
本発明の方法の場合において、最初に、公知の方法で、亜鉛又は亜鉛合金の層を鋼板に提供する。これは、どぶ漬け方法(どぶ漬けガルバナイジング)あるいは、電解蒸着のそれ自体公知の方法で実行する。次に、ガルバナイズされた鋼板を追加の金属で真空コーティングする。その後、熱拡散処理を実施し、真空で付与された金属層の原子をその下にある亜鉛又は亜鉛合金の層中へ拡散させる。熱拡散処理の間に、真空中に残留気体が残っているので、コーティングされた鋼板の表面上に天然酸化膜が形成され、前記膜が表面を不動態化し、そして、その腐食抵抗を高める。本発明によると、熱拡散処理後に、処理された鋼板を水系冷却液で冷却することが提案されている。
【0011】
単純な水系冷却液を使用するので、先行技術からの公知方法と比較すると、製造投資及び発生するコストが、実質的に減少する。この場合に、驚くべきことに、本発明による研究が示すように、腐食抵抗及び塗装付着についての少なくとも同等の結果が得られた。水を使用する処理では、酸化の問題が生じるものと予想される。驚くべきことに、追加金属ではネガティブな反応が発生しなかった。本発明による更なる実験が示すように、有機コーティング剤を付与する前に必要であると当業界で考えられている中間処理を完全に省略することができる。しかしながら、これは、従来製品で混合されるビルドアップ(Mischbauweisen)の場合でも可能である。
【0012】
標準大気条件下で水系冷却液により冷却を実施するので、冷却を実施する作業ステーションのカプセル化、あるいは、処理ガスによる作業ステーションの充填が不要である。
【0013】
水系冷却液を使用する冷却の更なる利点は、コーティングされた表面(天然酸化膜を形成しない、つまり、前記表面上で金属コーティングがそのままさらされている)のいくつかのセクションにおいて、冷却液の水分子が分解して、腐食抵抗水酸化物(可溶性でないことがある)を形成するという事実にある。その後の乾燥の間で、それらから生じる水酸化物又は酸化物が、鋼板の表面上への有機コーティング剤の付着を実質的に改良する。
【0014】
ガルバナイズされたシートメタル上へ真空により付与される層は、1つ又は複数の金属から形成される。好ましくは、亜鉛又は亜鉛合金の層の亜鉛と混合相を形成する、前記金属を使用する。結果として、層を良好に接着させ、そして腐食抵抗を高める。反応性金属(例えば、マグネシウム、アルミニウム、鉄、又はそれらの合金)が、特に有利であることが示されている。
【0015】
冷却の初めでの処理された鋼板の規定された開始温度という意味での、所定の温度進行の結果として、冷却液の設定された温度と特定の冷却期間とが、処理時間を減少させ、そして、高い腐食抵抗という意味での腐食保護層の質を高める。
【0016】
冷却の初めでの鋼板の開始温度は、好ましくは250〜350℃であり、特に、290〜310℃である。開始温度は異なる方法で技術的に得ることができる。従って、気体冷却の使用と同様に、冷却ローラーの使用も可能である。この場合において、冷却期間は、好ましくは1〜10秒である。この場合において、鋼板の金属コーティングが冷却液によりかなりの作用をうけるので、冷却液の温度があまり高く選択されないことが好ましい。冷却液の温度は、42℃を超えないことが好ましい。
【0017】
冷却後の鋼板の最終温度は、好ましくは、20〜120℃であり、特に40〜60℃である。結果として、追加の製造段階が生じる。最終温度を120℃よりも高く増加させることは好ましくない、なぜなら、冷却液を除去するその後のゴム引きローラー(gummierter Rollen)に損傷が生じることがあるからである。
【0018】
表面上に形成される可視パターンを防ぐために、冷却のはじめに、コーティングされた鋼板を直接に水系冷却液で完全に濡らすことを考慮することができる。この目的のために、冷却を浸漬タンク中で実施することができる。同様に、好ましくは高圧で噴霧を実施し、コーティングされた鋼板を噴霧して、この場合に、特に速い冷却と表面の不動態化(Passivierung)を達成することができる。また、金属表面が非常に熱い場合には、表面上に直接形成され、そして、鋼板と冷却液との間の熱の移行を大幅に減少させる、蒸着した層がこの方法で崩壊される(ライデンフロスト効果)。
【0019】
実用的には、コーティングされた鋼板の表面が冷却された直後に、水系冷却液を除去することが好ましい。結果として、処理された鋼板の表面上にある自然酸化膜が安定する。例えば、絞りローラーか、又は、気体噴射により、冷却液を除去することができる。
【0020】
腐食抵抗及び付与される有機コーティングの接着を、その他の手段によって更に改良することができる。従って、可溶性塩を水系冷却液へ添加することができる。これらは、有利な2価金属イオン又は水酸化物イオンを放出し、そして、従って、方程式:
M−酸化物+HO⇔M(OH)⇔M2++2OH
M:金属原子
により、解離していない酸化物に対して溶解平衡を移動させる。
結果として、保護天然金属酸化膜の分解を減少させ、そして、これを安定させることができる。
【0021】
同様の緩衝物質(特に、アセテート、ホスフェート、ボレート、カーボネート、又はシトレートのイオン)を、水系冷却液に添加し、両性天然金属酸化物(amphoterer nativer Metalloxide)の最小限の加水分解という意味での、最適なpH値を得ることができる。従って、pH値は、低い酸性範囲(pH<5)又は高い塩性範囲(pH>12.5)でのどちらにもない。
【0022】
緩衝物質として炭素イオンを使用することにより、不溶性炭酸塩の形成を通して、シートメタル表面の更なる安定を達成することができる。
【0023】
本発明によると、腐食保護鋼板の製造における冷却工程を特に単純に実行するために、連続法中に、ストリップとしての鋼板を、問題なくコーティングし、拡散処理し、そして、その後に、冷却することができる。従って、本発明の方法によると、ストリップコーティング取り付けでの大規模作業用にも適当である。
【0024】
コーティングされ、拡散処理され、そして、その後に、冷却された鋼板の表面の優れた塗装接着特性のために、有機コーティング剤が付与される前の前記鋼板を中間処理する必要ないので、水系冷却液を除去した直後に有機コーティング剤を付与することができる。従って、製造方法を実質的に加速させ、更にコストを節約することができる。
【0025】
実施態様を示す図面に基づいて、本発明を以下に詳しく述べる。図面は、連続方法用の設備及びその後の鋼板の塗装仕上げを示す。
【0026】
図面によると、鋼板1の形態における基板を、最初に1つ以上のセル2を通過させて搬送し、そして、電解蒸着方法によって、亜鉛層でコーティングする。亜鉛蒸着は、どぶ漬け方法(どぶ漬けガルバナイジング)を使用することもできる。次に、鋼ストリップ1が真空室3へ入る。ここで、ストリップ1は、当業技術により公知のコーティング方法(例えば、PVDによる)によって、追加金属(マグネシウムが好ましい)でコーティングされる。更に、適当な金属は、例えば、アルミニウム及びマンガンである。
【0027】
真空室3中の残留気体の結果として、マグネシウムコーティング上に天然酸化膜が直ちに形成される。真空室3の残留気体大気におけるO又はHOの部分的圧力を調節することによって、前記天然酸化膜を制御することができる。
【0028】
コーティングされガルバナイズされた鋼ストリップ1は、真空室3を離れた後で、加熱デバイス4aを備えている加熱室4へ入る。次に、前記加熱室4中で熱拡散処理を実施し、それを標準大気で行うことができる。拡散処理の過程で、真空で塗布されるマグネシウム層が、その下にある亜鉛層中へ拡散して、亜鉛とマグネシウムとからなる金属間相を形成する。
【0029】
加熱室4からの回収後に、鋼ストリップ1を少なくとも1つの冷却セル5の周りに導き、そして、規定された温度までそこで冷却する。このことが、同時に、今度は次の冷却の開始温度となり、好ましくは250〜350℃であり、特に290〜310℃である。
【0030】
制御された冷却のために、鋼ストリップ1を更なる室6へ搬送する。前記室では標準大気条件が広がっており、拡散処理された表面へ水系冷却液を高圧で噴霧する。噴霧付与の代わりに、浸漬タンク中で冷却を実施することもできる。水系冷却液は、純水であることもできる。しかしながら、冷却液中に塩を溶解させて、溶解平衡を解離していない酸化物の方へ移動させることもできる。同様に、冷却液は、例えば、アセテート、ホスフェート、ボレート、カーボネート、又はシトレートのイオンの緩衝物質を含有することができ、それを通して、両性天然金属酸化物の最小限の加水分解という意味での、最適なpH値を得ることができる。
【0031】
水系冷却液を用いる冷却の初めで、コーティングされた鋼板を直接に、完全に湿らせて、表面上での可視パターンの形成を防止する態様で、噴霧デバイスを設計することが好ましい。室6における冷却を、設定された温度進行で実施する。この場合に、冷却液の温度は最高で42℃である。鋼ストリップ1上での冷却液の作業期間は、1〜10秒の間である。
【0032】
室6から回収した直後で、絞りローラー7によってストリップ表面から冷却液を除去する。この場合において、ストリップ1の残留熱が、蒸発による冷却液の除去に役立つ。あるいは、気体噴射によって冷却液を除去することもできる。
【0033】
次に、中間処理することなく、乾燥鋼ストリップ1を塗装マシン(Lackiereinheit)8へ搬送し、そこで、連続圧延コーティング作業においてオンラインで鋼ストリップ1をコーティングする。あるいは、オフラインで、圧延コーティング、噴霧、又は浸漬によって、塗装仕上げを付与することもできる。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛又は亜鉛合金の層を用いて腐食保護される鋼板を、少なくとも1つの追加金属又は金属合金で真空コーティングし、次に、熱拡散処理を施し、そして、最後に、冷却して、
有機コーティング剤コーティング用の腐食保護鋼板(1)を製造する方法であって、
標準大気条件下に、水系冷却液を用いて冷却を実施することを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
少なくとも1つの追加金属が、亜鉛とともに混合層を形成することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1つの追加金属が、マグネシウム、アルミニウム、マンガン族の金属であるか、あるいは、金属合金が、前記族の金属少なくとも2つから形成されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
冷却が、設定された温度進行で実施されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
冷却の初めに、鋼板の開始温度が250〜350℃、好ましくは290〜310℃であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
冷却の開始温度が、冷却ローラー(5)によって得られることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
冷却の開始温度が、気体冷却によって得られることを特徴とする、請求項1〜5の一項に記載の方法。
【請求項8】
冷却期間が、1〜10秒であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
水系冷却液の温度が、最高で42℃であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
冷却の終わりで、最終温度が20〜120℃、好ましくは40〜60℃であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
冷却の初めで、コーティングされた鋼板を直接に、水系冷却液で完全に湿らせることを特徴とする、請求項1〜10いずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
冷却を浸漬タンク中で実施する、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
噴霧によって冷却を実施する、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
水系冷却液を高圧で噴霧付与することを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
コーティングされた鋼板の表面を冷却した直後に、水系冷却液を除去することを特徴とする、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
水系冷却液を絞りローラー(7)によって除去することを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
水系冷却液を気体噴射によって除去することを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
水系冷却液が、可溶性塩を含有し、前記可溶性塩が、解離していない酸化物の方へ溶解平衡を移動させる二価金属イオン又は水酸化物イオンを放出することを特徴とする、請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
水系冷却液が緩衝物質を含有することを特徴とする、請求項1〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
水系冷却液が、緩衝物質として、アセテート、ホスフェート、ボレート、カーボネート、又はシトレートのイオンを含有することを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
連続製造方法におけるライン上でのストリップとして、鋼板を、コーティング、拡散処理、冷却することを特徴とする、請求項1〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
中間処理なしで水系冷却液を除去した後、有機コーティング剤を付与することを特徴とする、請求項1〜21のいずれか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2008−518100(P2008−518100A)
【公表日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−538319(P2007−538319)
【出願日】平成17年10月24日(2005.10.24)
【国際出願番号】PCT/EP2005/011387
【国際公開番号】WO2006/045570
【国際公開日】平成18年5月4日(2006.5.4)
【出願人】(500169782)ティッセンクルップ スチール アクチェンゲゼルシャフト (45)
【氏名又は名称原語表記】ThyssenKrupp Steel AG
【Fターム(参考)】