説明

膜分離型反応器及び水素の製造方法

【課題】パラジウム−銅合金膜の特性を活かした、水蒸気改質反応と水素の分離精製を効率良く行うことが可能な膜分離型反応器を提供する。
【解決手段】パラジウムと銅を含み、平均銅含有率が38〜48質量%の水素分離膜2と、炭化水素を水蒸気改質する水蒸気改質触媒からなり、前記水素分離膜2の外周側に配設された水蒸気改質触媒層3とを具え、前記水素分離膜2は、炭化水素と水蒸気の入口部を上流として、上流側半分2Aと下流側半分2Bとの平均銅含有率の差が4〜10質量%であることを特徴とする、膜分離型反応器1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜分離型反応器及びそれを用いた水素の製造方法に関し、特には、炭化水素等の原料を水蒸気改質し、水素を含む改質ガスを生成させる水蒸気改質触媒層と、該改質ガスから水素を選択的に透過及び分離するパラジウムと銅を主成分とする水素分離膜とを有する膜分離型反応器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境対策、温室効果ガス対策として、水素をエネルギーとする燃料電池や水素エンジンなどの技術開発が注目されている。そのため、効率よく安価に水素を製造することが環境問題の解決に役立つことになる。
【0003】
これまで、水素の製造方法としては、水素を含む混合ガスより水素だけを選択的に透過する水素透過膜を使用する方法が知られている。例えば、特許文献1(特開昭63−295402号公報)に記載されているようなメッキ法により形成したパラジウムを主成分とする薄膜や、特許文献2(特開2003−135943号公報)に記載されているようなCVD法により形成したパラジウムを主成分とする薄膜は、従来から、高温かつ高純度で混合ガスより水素を分離する膜材料として広く利用されている。これら膜材料の中でも、パラジウムと銅を主成分とする合金膜は、耐硫黄性に優れ、また、水素脆化にも優れた膜であり、銅含有率が40質量%のパラジウム−銅合金膜が広く利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−295402号公報
【特許文献2】特開2003−135943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、銅含有率が40質量%のパラジウム−銅合金膜は、350〜450℃の温度領域での水素透過性能がパラジウム単体膜並みに優れているものの、450℃以上の温度領域では水素透過性能が著しく低下することが知られており、450℃以上の温度では効率的に水素を得ることが困難である。
【0006】
これに対して、銅含有率を40質量%より高くしたパラジウム−銅合金膜は、350〜450℃の温度領域での水素透過性能が銅含有率40質量%のパラジウム−銅合金膜より劣るものの、450℃〜600℃の温度領域では、水素透過性能が銅含有率40質量%の膜よりも優れている。
【0007】
このように、パラジウムと銅を主成分とする合金膜は、その組成により、水素透過性能の最大を示す温度が変わってくることが解ってきた。
【0008】
一方、水蒸気改質反応においては、温度が高いほど熱化学的な平衡組成から水素分圧が高くなり、水素の透過及び分離には有利な条件となる。
【0009】
そこで、本発明の目的は、このようなパラジウム−銅合金膜の特性を活かした、水蒸気改質反応と水素の分離精製を効率良く行うことが可能な膜分離型反応器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、パラジウム及び銅を含む水素分離膜と水蒸気改質触媒層を具える膜分離型反応器において、水素分離膜の上流側と下流側で銅含有率を変化させ、水蒸気改質触媒層の上流側と下流側の内、平均温度が高くなる方に、水素分離膜の内、銅含有率が高い方を配置することで、水蒸気改質反応と水素の分離精製を効率良く行うことが可能になることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
即ち、本発明の膜分離型反応器は、
パラジウムと銅を含み、平均銅含有率が38〜48質量%の水素分離膜と、
炭化水素を水蒸気改質する水蒸気改質触媒からなり、前記水素分離膜の外周側に配設された水蒸気改質触媒層とを具え、
前記水素分離膜は、炭化水素と水蒸気の入口部を上流として、上流側半分と下流側半分との平均銅含有率の差が4〜10質量%であることを特徴とする。
【0012】
本発明の膜分離型反応器の好適例において、前記水素分離膜は、上流側半分と下流側半分の一方の平均銅含有率が44〜48質量%であり、他の一方の平均銅含有率が38〜44質量%である。
【0013】
また、本発明の水素の製造方法は、上記の膜分離型反応器を用いる水素の製造方法であって、
前記水蒸気改質触媒層の上流側半分と下流側半分の内、平均温度が高い方に、前記水素分離膜の上流側半分と下流側半分の内、平均銅含有率が高い方を配置し、炭化水素と水蒸気の混合ガスを水蒸気改質触媒層に供給して、水蒸気改質反応により水素を主成分とする改質ガスを生成させるとともに、前記水素分離膜により水素を選択的に透過させて水素を取り出すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、パラジウム及び銅を含む水素分離膜と水蒸気改質触媒層を具え、水素分離膜の上流側と下流側で平均銅含有率が異なる膜分離型反応器を用い、水蒸気改質触媒層の上流側と下流側の内、平均温度が高くなる方に、水素分離膜の内、平均銅含有率が高い方を配置することで、水蒸気改質反応と水素の分離精製を効率良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の膜分離型反応器の一例を示す模式図である。
【図2】本発明の膜分離型反応器の他の一例を示す模式図である。
【図3】本発明の膜分離型反応器の別の一例を示す模式図である。
【図4】本発明の膜分離型反応器に用いる水素分離膜の好適例の部分断面図である。
【図5】Pd−Cu合金膜の水素透過度の温度依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の膜分離型反応器を、図1を用いて詳細に説明する。図1は、本発明の膜分離型反応器の一例を示す模式図である。図1に示す膜分離型反応器1は、パラジウムと銅を主成分とする水素分離膜2と、該水素分離膜2の半径方向外周側に配設された水蒸気改質触媒層3とを具える。また、図示例の膜分離型反応器1は、炭化水素と水蒸気の入口部4と、水素分離膜2を透過しなかった非透過ガスの出口部5が設けられており、更に水素分離膜2に連通する製品水素の出口部6を具える。炭化水素と水蒸気の入口部4は、水蒸気改質触媒層3に連通しており、炭化水素と水蒸気とを入口部4を通して水蒸気改質触媒層3に供給して、水蒸気改質反応により改質ガスを生成させることができる。生成した改質ガスは、水素分離膜2を透過して製品水素として、出口部6を通して反応器の外に取り出される。また、水素分離膜2を透過しなかった改質ガスは、非透過ガスとして出口部5から反応器の外に排出される。
【0017】
また、図示例の膜分離型反応器1は、水蒸気改質触媒層3の半径方向外側に加熱用シェル7を具え、加熱用シェル7には、加熱ガス用の入口部8と加熱ガス用の出口部9が連結されており、加熱ガスを、入口部8を通して加熱用シェル7内に導入することで、水蒸気改質触媒層3を加熱することができ、一方、水蒸気改質触媒層3に熱を供与して温度が下がった加熱ガスは、出口部9を通して加熱用シェル7の外に排出される。
【0018】
また、水素分離膜2は、炭化水素と水蒸気の入口部4を上流として、上流側半分2Aと下流側半分2Bとの平均銅含有率が異なり、水蒸気改質触媒層3の上流側半分3Aと下流側半分3Bの内、平均温度が高い方に、水素分離膜の上流側半分2Aと下流側半分2Bの内、平均銅含有率が高い方が配置されている。ここで、本発明の膜分離型反応器においては、水素分離膜の上流側半分2Aと下流側半分2Bとの平均銅含有率の差を4〜10質量%とする。平均銅含有率の差が4質量%未満では、水蒸気改質反応と水素の膜分離を効率良く行うことが難しく、一方、10質量%を超えると、水素分離膜の上流側半分2Aと下流側半分2Bの少なくとも一方の平均銅含有率が38〜48質量%の範囲を外れ、パラジウム−銅合金膜は水素透過性能の低い膜となってしまい水素の分離回収効率が低下する。
【0019】
図1に示す膜分離型反応器1においては、炭化水素と水蒸気の混合ガスが、膜分離型反応器1の上部から下部に向けて流れ、更に、加熱ガスが膜分離型反応器1の下部から上部に向けて流れる。ここで、水蒸気改質触媒層3における水蒸気改質反応は吸熱反応であり、上流側で吸熱反応が急激に起こり、また、加熱ガスは、入口部8での温度が出口部9での温度よりも高いため、膜分離型反応器1は、下部で高温、上部では低温となる。従って、図1に示す膜分離型反応器1においては、水蒸気改質触媒層3の上流側半分3Aよりも、下流側半分3Bの平均温度の方が高くなるので、水素分離膜の上流側半分2Aよりも、下流側半分2Bの平均銅含有率を高くする。例えば、水素分離膜の上流側半分2Aの平均銅含有率を38〜44質量%とし、下流側半分2Bの平均銅含有率を44〜48質量%とすることが好ましい。
【0020】
一般に、炭化水素を水蒸気改質して得られる水素を含んだ改質ガスから水素分離膜を用いて、水素の分離回収を行う場合、水素の回収量を多くするためには、水素分離膜の面積を大きくすることが有利である。しかしながら、水素分離膜の面積を大きくした場合、図に示すように、水素分離膜のガスの流れ方向の長さが長くなり、加熱用シェル7内での温度勾配が大きくなる。そのため、水素分離膜にも温度勾配が発生し、最も水素透過性能が良いとされる銅含有率40質量%のパラジウム−銅合金膜を配しても、温度の高いところ低いところが発生してしまい、温度の高いところでは水素透過性能が低下してしまい、十分な水素回収量が得られなくなる。これに対して、本発明では、水素分離膜の上流側2Aと下流側2Bで平均銅含有率を変え、水蒸気改質触媒層の上流側3Aと下流側3Bの内、平均温度が高くなる方に、水素分離膜の内、平均銅含有率が高い方を配置することで、水蒸気改質反応と水素の膜分離を効率良く行うことが可能となる。
【0021】
図2は、本発明の膜分離型反応器の他の一例を示す模式図である。図2に示す膜分離型反応器1は、図1に示す膜分離型反応器1とほぼ同様の構成を有するが、加熱用シェル7の上部に加熱ガス用の入口部8を設け、加熱用シェル7の下部に加熱ガス用の出口部9を設けている点で異なる。そのため、図2に示す膜分離型反応器1においては、加熱ガスが膜分離型反応器1の上部から下部に向けて流れ、加熱用シェル7内においては、上部の温度が、下部の温度よりも高くなる。ここで、例えば、入口部4の更に上流側に、予備改質器(図示せず)を設け、予備改質後の高温ガスを入口部4から膜分離型反応器1内に導入した場合、水蒸気改質触媒層3における水蒸気改質反応は吸熱反応であるものの、緩やかに吸熱反応が起こる。この場合は、水蒸気改質反応による吸熱が加熱ガスからの熱の供与で十分に補われるため、水蒸気改質触媒層3の上流側半分3Aよりも、下流側半分3Bの平均温度の方が低くなる。そのため、図2においては、水素分離膜の上流側半分2Aよりも、下流側半分2Bの平均銅含有率を低くする。例えば、水素分離膜の上流側半分2Aの平均銅含有率を44〜48質量%とし、下流側半分2Bの平均銅含有率を38〜44質量%とすることが好ましい。
【0022】
なお、本発明の膜分離型反応器において、水素分離膜は、上流側から下流側にかけて、銅含有率を連続的に変えてもよいし、銅含有率の異なる複数の水素分離膜を連結して、上流側と下流側の平均銅含有率を変えてもよい。ここで、水素分離膜の銅含有率を連続的に変える方法としては、支持体にパラジウム−銅合金膜をメッキで形成する際に、メッキ浴より支持体をゆっくり引き上げつつメッキを行うことでパラジウムのメッキを行いパラジウムのメッキ膜の厚みに傾斜をつけ、次に銅をメッキする際には支持体を逆にして同様にメッキ浴より引き上げつつ銅メッキを行うことで膜厚を均一としながらもパラジウム−銅の組成を連続的に変化させる手法などが挙げられる。一方、銅含有率の異なる複数の水素分離膜モジュールを連結する場合は、例えば、銅含有率の異なる水素分離膜モジュールを溶接して連結する手法や、支持体にパラジウム−銅合金膜をメッキで形成する際に、メッキ膜の各部分ごとに異なる組成のメッキを行うなどの手法が挙げられる。なお、特に制限はないが、上記支持体の形状は、平板状でもよいし、筒状(管状)でもよく、例えば円筒状が好ましく用いられる。
【0023】
図3は、本発明の膜分離型反応器の別の一例を示す模式図である。図3に示す膜分離型反応器1は、図1に示す膜分離型反応器1とほぼ同様の構成を有するが、水素分離膜2が、炭化水素と水蒸気の入口部4を上流として、最も銅含有率が低い部分2aが上流側に位置し、最も銅含有率が高い部分2cが下流側に位置し、銅含有率がそれらの間にある部分2bがそれらの間に配置されている点で異なる。この構成の水素分離膜2は、上述のように、各部分2a,2b,2cを溶接等により連結して準備してもよいし、支持体にパラジウム−銅合金膜をメッキで形成する際に、各部分2a,2b,2cに対応する合金膜をメッキするための各部分毎に組成を変化させてメッキを行ってもよい。ここで、例えば、水素分離膜の上流側1/3の部分2aの銅含有率を38〜41質量%とし、下流側1/3の部分2cの銅含有率を45〜48質量%とし、それらの間の中流1/3の部分2bの銅含有率を41〜45質量%とすることで、水蒸気改質反応と水素の分離精製を更に効率良く行うことが可能となる。
【0024】
[原料炭化水素]
改質反応により水素を製造するための原料となる炭化水素としては、沸点が300℃以下の炭化水素及びそれらの混合物を用いることができる。例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、天然ガス、LPガスなどの常温で気体状態の炭化水素の他、ナフサ留分、ガソリン留分、灯油留分、軽油留分などの常温で液体状態の石油系炭化水素を用いることができる。
【0025】
ナフサ留分は、原油や天然ガスコンデンセートなどを蒸留分離して得られる留分のうち、沸点範囲として30℃〜180℃の範囲内の沸点を有する留分である。ナフサ留分としては、例えば、沸点範囲が30℃〜80℃程度の軽質ナフサ留分、沸点範囲が80℃〜180℃程度の重質ナフサ留分、沸点範囲が30℃〜180℃程度のホールナフサ留分などが含まれる。
【0026】
ガソリン留分は、沸点範囲として30℃〜200℃の範囲内の沸点を有する留分であり、市販の自動車ガソリン、工業ガソリンの他、自動車ガソリンの調合に用いられる沸点が上記の範囲内である中間製品(基材とも呼ばれる)、沸点範囲が上記の範囲にある中間製品や自動車ガソリンに相当する留分も含まれる。
【0027】
灯油留分は、原油や天然ガスコンデンセートなどを蒸留分離して得られる留分のうち、沸点範囲として140℃〜270℃の範囲内の沸点を有する留分であり、灯火用、暖房用、ちゅう房用などの市販の灯油の他に、上記の範囲内の沸点範囲を有する灯油相当の留分が含まれる。
【0028】
軽油留分は、沸点範囲160℃〜370℃の範囲内の沸点を有する留分であり、ディーゼルエンジンに使用する市販の軽油の他、上記の範囲内の沸点範囲を有する軽油相当の留分が含まれる。
【0029】
製品の流通面、コスト、入手の容易性から、メタン、LPGなどのガス状炭化水素、ナフサ、ガソリン、灯油、軽油並びにそれらに相当する留分などの液状炭化水素が好ましく、特には灯油及びそれに相当する留分が好ましい。また、これら炭化水素は、水蒸気改質触媒に対する被毒の観点から、含有する硫黄分が低いものが好ましく、特には硫黄分が50質量ppb以下のものが好ましい。
【0030】
[水蒸気改質触媒、水蒸気改質触媒層]
本発明に用いる水蒸気改質触媒としては、通常の水蒸気改質触媒を用いることができる。例えば、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Ir、Ptのうちから選ばれる少なくとも1種の触媒活性成分を、Mg、Al、Si、Ti、Zr、Ba、Laの酸化物および/または水和酸化物から選ばれた少なくとも1種の担体成分を含む担体に担持したものを使用することができる。コーキングの発生を抑制する点から、触媒活性成分としてRuやRhの使用が好ましい。
【0031】
これらの水蒸気改質触媒を、水素分離膜2の外側に充填して水蒸気改質触媒層3とする。水蒸気改質触媒層3に含ませる水蒸気改質触媒の量は、原料である炭化水素の種類、改質反応温度、スチーム/カーボン比などにより適宜決定することができる。
【0032】
[水素分離膜]
本発明の膜分離型反応器の水素分離膜としては、パラジウム−銅の合金膜を使用する。該水素分離膜は、パラジウムと銅を含み、平均銅含有率が38〜48質量%であり、また、平均パラジウム含有率は、52〜62質量%の範囲が好ましい。平均銅含有率が38質量%未満では、高温での水素の回収効率が低下し、一方、48質量%を超えると、低温での水素の回収効率が低下する。また、該水素分離膜はパラジウム−銅の合金膜からなっていてもよいし、支持体の外表面にパラジウム−銅の合金膜が形成されたものであってもよい。なお、本発明の水素透過膜は、膜厚が0.5〜50μmの範囲であることが好ましい。
【0033】
上記水素分離膜としては、図4に示すような、焼結フィルター部41を有する金属管42の焼結フィルター部41上にバリア層43を設け、該バリア層43の上にパラジウム−銅合金膜44を配した水素分離膜を用いることが好ましい。ここで、焼結フィルター部41及び金属管42は、ステンレス製であることが好ましく、バリア層43は、ジルコニア、アルミナなどからなることが好ましい。なお、バリア層43は、焼結フィルター部41の金属成分がパラジウム−銅合金膜44へ拡散して膜44の水素透過性能が劣化することを防止するとともに、表面の平滑度を上げてパラジウム−銅合金膜44に欠陥が生じることを防止する作用を有する。なお、パラジウム−銅合金膜44は、例えば、メッキなどにより、形成することができる。
【0034】
[水素製造方法]
本発明の膜分離型反応器を用いた水素の製造方法は、次のように行う。まず、本発明の水素の製造方法においては、予め、膜分離型反応器および水素製造装置の構造および設計や運転条件より水蒸気改質触媒層の上流側半分3Aと下流側半分3Bの平均反応温度をそれぞれ想定もしくは設定する。そして、上流側半分3Aの平均温度が下流側半分3Bの平均温度よりも高い場合は、水素分離膜の上流側半分2Aの平均銅含有率が下流側半分2Bの平均銅含有率よりも高くなるように、水素分離膜2を配置する。逆に、上流側半分3Aの平均温度が下流側半分3Bの平均温度よりも低い場合は、水素分離膜の上流側半分2Aの平均銅含有率が下流側半分2Bの平均銅含有率よりも低くなるように、水素分離膜2を配置する。次に、上記の炭化水素と水蒸気の混合ガスを、水蒸気改質触媒層3に供給し、水蒸気改質反応を行い、水素を主成分とする改質ガスを生成させる。ここで、炭化水素と水蒸気の比率は、スチーム/カーボン比(S/C比)として2.5〜4.0の範囲が好ましく、2.8〜3.5の範囲がより好ましい。S/C比が低い状態ではコーキングが発生し、水蒸気改質触媒の活性を低下させてしまう。また、S/C比が必要以上に高い場合は、改質ガスの水素濃度が低下し、効率を低下させてしまう。
【0035】
水蒸気改質触媒層3の温度、すなわち改質反応の温度としては、450〜800℃が好ましく、500〜700℃がより好ましく、500〜600℃が特に好ましい。ここではPd−Cu合金膜の特性から、改質反応温度の上限は600℃が好ましい。改質反応の温度が450℃未満の場合は、水素分率が13vol%以下(メタン原料で反応圧0.9MPaGの条件下で)となり十分な水素透過量が得られず、一方、700℃を超える場合は、反応管の材質などとして耐熱材料(カンタル、インコネル、ハステロイなど)が必要となり、コストが高くなる。なお、予備改質器を設ける場合は、反応温度の上限600℃は関係なく600〜700℃が特に好ましい条件となる。
【0036】
改質反応の圧力としては、0.5〜1.5MPaGが好ましく、0.7〜1.2MPaGがより好ましい。反応圧力が低過ぎると水素透過量が十分得られず、また、反応圧力が高過ぎると炭化水素の反応(水素生成側への反応)が進みにくくなる。
【0037】
原料炭化水素として灯油を用いた場合、SV(灯油ベースのLHSV)としては、現状の触媒において0.3〜3.0h-1の範囲が好ましく、0.3〜1.7h-1の範囲がより好ましい。
【0038】
水蒸気改質触媒層3で生成した改質ガスは、水蒸気改質触媒層3を流れると共に、水素分離膜2により水素が分離精製される。水素分離膜2による水素分離に好ましい温度は、600℃未満、特には350℃以上600℃未満である。本発明においては、水素分離膜2の温度が高くなる部分は銅含有率が高く、一方、水素分離膜2の温度が低くなる部分は銅含有率が低いため、水素分離膜2により効率的に水素を分離することができる。
【0039】
以下に、本発明の知見の基礎をなすパラジウム−銅合金膜の水素透過度の測定結果を示す。
【0040】
(参考例)
管状ステンレス製焼結金属フィルター(フィルター長5cm、フィルター直径1cm)の外表面にイットリウム安定化ジルコニア粒子をコーティングして、平均細孔径0.1μmのセラミックス多孔体薄膜(多孔性セラミックス膜)を成膜した多孔性支持体を作製した。この管状の焼結金属フィルター(多孔性セラミックス支持体)を市販の無電解パラジウムめっき液中に浸漬し、多孔性セラミックス膜表面にパラジウムをメッキした(膜厚1〜2μmになるように調整)。多孔性セラミック支持体の外表面をパラジウムでメッキした後、メッキしたパラジウムの量をメッキ重量(または、メッキ液濃度変化)から、測定した。次に、所定のパラジウム−銅組成比(銅含有率:38〜48質量%)になるように市販の銅メッキ液によりパラジウム薄膜上に銅メッキを行い、パラジウム薄膜上に銅薄膜を形成した。メッキ後のメッキ重量(またはメッキ液濃度変化)を測定し確認した。
【0041】
次にメッキされた多孔性支持体を洗浄・乾燥し、更にメッキされた多孔性支持体の一方を封止し、水素透過性能の測定装置に設置し、窒素またはアルゴンの不活性ガス気流下で400℃まで昇温し、引き続き、水素雰囲気下400℃で24時間、加熱処理して多孔性セラミックス膜を支持体とするパラジウム−銅合金薄膜からなる水素分離膜を得た。パラジウム−銅合金からなる水素分離膜の評価は、水素分離膜を所定の温度(400〜600℃)にし、水素を投入、所定圧0.6MPaGでの水素透過量を測定し、更に、圧力を0.5MPaG、0.4MPaG、0.3MPaG、0.2MPaG、0.1MPaG、0.0MPaGとして各圧力での水素透過量を測定し、水素透過係数を算出した。また、窒素においても同様に圧をかけて、透過しないことを確認した。更に、測定終了後、支持体よりパラジウム−銅膜を剥離させて、元素分析を行い、パラジウム−銅組成比を確認した。結果を図5に示す。
【0042】
図5から、パラジウムと銅を主成分とする合金膜は、その組成により、水素透過性能の最大を示す温度が異なり、上述した本発明のように、水蒸気改質触媒層の上流側と下流側の内、平均温度が高くなる方に、水素分離膜の内、銅含有率が高い方を配置することで、水蒸気改質反応と水素の膜分離を効率良く行うことが可能となることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、水蒸気改質反応と水素の膜分離を効率良く行うことが可能な膜分離型反応器及びそれらを用いた水素の製造方法を提供することができる。なお、本発明の膜分離型反応器は、高純度の水素ガスを高効率かつ高回収量で製造できるので、高分子電解質形燃料電池(PEFC)用の水素製造装置、或いは水素ステーションで用いるオンサイト型の水素製造装置として好適に使用できる。
【符号の説明】
【0044】
1 膜分離型反応器
2 水素分離膜
2A 水素分離膜の上流側半分
2B 水素分離膜の下流側半分
2a 上流側1/3の部分
2b 中流1/3の部分
2c 下流側1/3の部分
3 水蒸気改質触媒層
3A 水蒸気改質触媒層の上流側半分
3B 水蒸気改質触媒層の下流側半分
4 炭化水素と水蒸気の入口部
5 非透過ガスの出口部
6 製品水素の出口部
7 加熱用シェル
8 加熱ガス用の入口部
9 加熱ガス用の出口部
41 焼結フィルター部
42 金属管
43 バリア層
44 パラジウム−銅合金膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラジウムと銅を含み、平均銅含有率が38〜48質量%の水素分離膜と、
炭化水素を水蒸気改質する水蒸気改質触媒からなり、前記水素分離膜の外周側に配設された水蒸気改質触媒層とを具え、
前記水素分離膜は、炭化水素と水蒸気の入口部を上流として、上流側半分と下流側半分との平均銅含有率の差が4〜10質量%であることを特徴とする、
膜分離型反応器。
【請求項2】
前記水素分離膜は、上流側半分と下流側半分の一方の平均銅含有率が44〜48質量%であり、他の一方の平均銅含有率が38〜44質量%であることを特徴とする請求項1に記載の膜分離型反応器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の膜分離型反応器を用いる水素の製造方法であって、
前記水蒸気改質触媒層の上流側半分と下流側半分の内、平均温度が高い方に、前記水素分離膜の上流側半分と下流側半分の内、平均銅含有率が高い方を配置し、炭化水素と水蒸気の混合ガスを前記水蒸気改質触媒層に供給して、水蒸気改質反応により水素を主成分とする改質ガスを生成させるとともに、前記水素分離膜により水素を選択的に透過させて水素を取り出すことを特徴とする、
水素の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−206612(P2011−206612A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−73734(P2010−73734)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【出願人】(590000455)一般財団法人石油エネルギー技術センター (249)
【Fターム(参考)】