自動ブレーキ制御装置
【課題】 自動ブレーキ制御中におけるブレーキ操作(ブレーキオーバーライド)がなされた場合において違和感の少ないブレーキフィーリングを得ること。
【解決手段】 この自動ブレーキ制御装置は、マスタシリンダから吐出されたブレーキ液を吸収可能なリザーバと、同リザーバ内へのブレーキ液の導入を許容・禁止可能なカット弁とを備えた自動ブレーキ装置に適用される。この装置は、自動ブレーキ制御中においてカット弁を開状態とする。これにより、ブレーキオーバーライド時、ブレーキペダルストロークStに応じてマスタシリンダから吐出されるブレーキ液がリザーバの最大容量分(値S2,S3に相当)だけ同リザーバ内に吸収される。よって、ブレーキオーバーライド時におけるブレーキペダルストロークStとホイールシリンダ液圧Pwとの関係(破線B等)を、自動ブレーキ制御が実行されていない場合の関係(実線A)に近づけることができる。
【解決手段】 この自動ブレーキ制御装置は、マスタシリンダから吐出されたブレーキ液を吸収可能なリザーバと、同リザーバ内へのブレーキ液の導入を許容・禁止可能なカット弁とを備えた自動ブレーキ装置に適用される。この装置は、自動ブレーキ制御中においてカット弁を開状態とする。これにより、ブレーキオーバーライド時、ブレーキペダルストロークStに応じてマスタシリンダから吐出されるブレーキ液がリザーバの最大容量分(値S2,S3に相当)だけ同リザーバ内に吸収される。よって、ブレーキオーバーライド時におけるブレーキペダルストロークStとホイールシリンダ液圧Pwとの関係(破線B等)を、自動ブレーキ制御が実行されていない場合の関係(実線A)に近づけることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動ブレーキ装置を制御するための自動ブレーキ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、運転者によるブレーキペダル等のブレーキ操作部材の操作とは独立してホイールシリンダ液圧を自動制御する自動ブレーキ装置が広く知られている。例えば、下記特許文献1に記載の自動ブレーキ装置は、運転者によるブレーキ操作部材の操作とは独立して、同ブレーキ操作部材の操作に応じて発生するマスタシリンダ液圧よりも高いホイールシリンダ液圧を発生させるための加圧用液圧を発生可能な液圧ポンプと、上記液圧ポンプによる加圧用液圧を利用してマスタシリンダ液圧に対する加圧量を調整可能な常開リニア電磁弁とを備えている。
【0003】
この装置は、例えば、この装置を搭載した自車両と同自車両の前方を走行する前方車両との車間距離を検出し、同検出された車間距離が所定の基準値を下回った場合に、上記液圧ポンプ及び上記常開リニア電磁弁を制御する。そして、この装置は、これにより発生する「マスタシリンダ液圧に前記加圧量を加えた液圧」を利用してホイールシリンダ液圧を自動制御する自動ブレーキ制御を行うことで、運転者によるブレーキ操作部材の操作とは独立して自車両に自動的に制動力を付与するようになっている。
【特許文献1】特開2004−9914号公報
【0004】
ところで、一般の車両では、上述のような自動ブレーキ制御が実行されていない状態で運転者がブレーキペダルを操作した場合(以下、係るブレーキ操作を「通常のブレーキ操作」と呼ぶこともある。)、ブレーキペダルのストロークとホイールシリンダ液圧との関係は図14に実線で示すようになる。即ち、先ず、ブレーキペダルストロークが「0」から或る値SOに達するまでの初期段階では、ブレーキペダルストロークが増大してもホイールシリンダ液圧が殆ど増大せず、従って、この初期段階では車両の制動に寄与し得る程度のホイールシリンダ液圧が実質的に発生し得ない。
【0005】
これは、この初期段階では、ブレーキペダルストロークに応じてブレーキパッドがホイールシリンダ液圧が「0」のときに対応するブレーキディスクに接触していない位置からブレーキディスクに接触する位置(ブレーキディスクを押圧可能な位置)まで移動するからである。即ち、ブレーキペダルストロークに応じてマスタシリンダから吐出されるブレーキ液量の殆どが、上記ブレーキパッドの移動に伴うホイールシリンダ内のピストンの移動のために消費される。
【0006】
以下、上述したブレーキパッドの移動に伴うホイールシリンダ内のピストンの移動距離に相当するブレーキ液量を「無効液量」と称呼し、係る無効液量の全量がマスタシリンダから吐出される時点(従って、車両の制動に寄与し得る程度のホイールシリンダ液圧が実質的に発生開始する時点)に対応するブレーキペダルストローク(即ち、上記値S0)を「無効ストローク」と称呼することもある。
【0007】
そして、ブレーキペダルストロークが無効ストロークSOを超えた段階では、ブレーキパッドがブレーキディスクに既に接触している。この段階では、ブレーキペダルストロークの増大に応じて車両の制動に実質的に寄与し得るホイールシリンダ液圧が比較的大きな増加勾配をもって増大していく。この段階でのホイールシリンダ液圧の増加特性は、主として、ブレーキペダルとマスタシリンダとの間に介装された倍力装置(例えば、バキュームブースタ等)の作動特性、ホイールシリンダの弾性特性、ブレーキ配管の弾性特性、ブレーキパッドの弾性特性等に依存して決定される。
【0008】
一方、上述のような自動ブレーキ制御が既に実行されていてホイールシリンダ液圧が車両の制動に実質的に寄与し得る程度の値に維持されている状態で運転者がブレーキペダルを操作開始する場合を考える。以下、このような操作を「ブレーキオーバーライド」と呼ぶこともある。
【0009】
ブレーキオーバーライドがなされた場合、ブレーキペダルストロークが「0」の段階からブレーキパッドがブレーキディスクに既に接触しているから、上述した無効液量がホイールシリンダ内のピストンの移動のために消費されることがない。以下、例えば、自動ブレーキ制御により上記加圧量が値P0に維持され、この結果、ブレーキペダル操作開始時点(ブレーキオーバーライド開始時点)、即ち、ブレーキペダルストロークが「0」の時点でホイールシリンダ液圧が値P0になっている場合を例に採って説明する。
【0010】
この場合、ブレーキペダルストロークの「0」からの増大に対応するホイールシリンダ液圧の増加特性は、通常のブレーキ操作の場合におけるブレーキペダルストロークの値Sz(図14を参照)からの増大に対応するホイールシリンダ液圧の増加特性(図14の実線において点zから上の部分を参照)と一致する。
【0011】
即ち、この場合におけるブレーキペダルのストロークとホイールシリンダ液圧との関係(静的な関係)は、図14の実線におけるホイールシリンダ液圧が値P0以上に対応する部分(図14において点zから上の部分)をブレーキペダルストロークSzに相当する分だけ図14において左方向へ平行移動して得られる線(図14における破線を参照)で示される関係となる。
【0012】
このように、ブレーキペダルストロークとホイールシリンダ液圧との関係は、通常のブレーキ操作がなされた場合(図14における実線)と、ブレーキオーバーライドがなされた場合(図14における破線)とで大きく異なる。より具体的には、ブレーキオーバーライドがなされた場合、上記通常のブレーキ操作がなされた場合に比して、同一のブレーキペダルストロークに対するホイールシリンダ液圧(従って、車両に働く制動力)が相当に大きくなる。
【0013】
以上のことから、運転者が感じるブレーキフィーリングが、ブレーキオーバーライドがなされた場合と通常のブレーキ操作がなされた場合とで大きく異なることになり、この結果、ブレーキオーバーライドがなされた場合においてブレーキフィーリングに相当の違和感が発生するという問題があった。
【発明の開示】
【0014】
本発明は係る問題に対処するためになされたものであって、その目的は、ブレーキオーバーライドがなされた場合において違和感の少ないブレーキフィーリングを得ることができる自動ブレーキ制御装置を提供することにある。
【0015】
本発明に係る自動ブレーキ制御装置は、運転者によるブレーキ操作部材(例えば、ブレーキペダル)の操作とは独立して同ブレーキ操作部材の操作に応じて発生するマスタシリンダ液圧よりも高いホイールシリンダ液圧を発生させるための加圧用液圧を発生可能な加圧手段(例えば、液圧ポンプ)と、前記加圧手段による前記加圧用液圧を利用して前記マスタシリンダ液圧に対する加圧量を調整可能な調圧手段(例えば、リニア電磁弁)と、前記加圧手段、及び前記調圧手段を制御することにより発生する、前記マスタシリンダ液圧に前記加圧量を加えた液圧を利用して、前記運転者による前記ブレーキ操作部材の操作とは独立して前記ホイールシリンダ液圧を自動制御する自動ブレーキ制御を実行する自動ブレーキ制御手段とを備えた自動ブレーキ装置に適用される。
【0016】
本発明に係る自動ブレーキ制御装置の特徴は、前記自動ブレーキ制御手段により前記自動ブレーキ制御が実行されている場合、前記運転者による前記ブレーキ操作部材の操作ストロークと前記ホイールシリンダ液圧との関係を前記自動ブレーキ制御が実行されていない場合における同ブレーキ操作部材の操作ストロークと同ホイールシリンダ液圧との関係に近づけるための特定処理を実行する特定処理実行手段を備えたことにある。
【0017】
これによれば、自動ブレーキ制御が実行されている場合、運転者によるブレーキ操作部材の操作ストロークとホイールシリンダ液圧との関係(即ち、ブレーキオーバーライドがなされた場合における静的な関係)が、自動ブレーキ制御が実行されていない場合におけるブレーキ操作部材の操作ストロークとホイールシリンダ液圧との関係(即ち、通常のブレーキ操作がなされた場合における関係)に近づけられる。
【0018】
この結果、ブレーキオーバーライドがなされた場合におけるブレーキフィーリングが通常のブレーキ操作がなされた場合におけるものに近づけられ得るから、ブレーキオーバーライドがなされた場合において違和感の少ないブレーキフィーリングを得ることができる。
【0019】
より具体的には、上記本発明に係る自動ブレーキ制御装置が適用される前記自動ブレーキ装置は、マスタシリンダから吐出された前記マスタシリンダ液圧を有するブレーキ液を吸収可能なリザーバと、前記マスタシリンダ液圧を有するブレーキ液の前記リザーバ内への導入を許容・禁止可能な電磁弁とを更に備え、前記特定処理実行手段は、前記自動ブレーキ制御が実行されていない場合、前記マスタシリンダ液圧を有するブレーキ液の前記リザーバ内への導入が禁止されるように前記電磁弁を制御し、同自動ブレーキ制御が実行されている場合、前記特定処理として同ブレーキ液の同リザーバ内への導入が許容されるように同電磁弁を制御するよう構成されることが好適である。
【0020】
ここにおいて、「電磁弁」は、例えば、常閉電磁開閉弁等であってこれに限定されない。また、「リザーバ」が吸収し得るブレーキ液の最大量(リザーバの最大容量)は、例えば、上述した無効液量と同等程度の量に設定されることが好ましい。
【0021】
これによれば、自動ブレーキ制御が実行されている場合において運転者によるブレーキ操作部材の操作が開始された場合(即ち、ブレーキオーバーライドが開始された場合)、係る操作(操作ストローク)に応じてマスタシリンダから吐出されるマスタシリンダ液圧を有するブレーキ液がリザーバ内へ吸収され得る。即ち、リザーバの最大容量に相当するブレーキ液が、主として、ホイールシリンダ液圧の増大のためではなくリザーバ内への移動のために消費され得る。
【0022】
このことは、例えば、上述した図14の破線で示した例の場合(即ち、自動ブレーキ制御により上記加圧量が値P0に維持され、ブレーキペダルストロークが「0」の時点(ブレーキオーバーライド開始時点)でホイールシリンダ液圧が値P0になっている場合)、ブレーキペダルのストロークとホイールシリンダ液圧との静的な関係が、図14の破線をリザーバの最大容量に相当するブレーキペダルストロークだけ図14において右方向へ移動して得られる線で示される関係になる(近づく)ことを意味する。
【0023】
この結果、ブレーキオーバーライドがなされた場合におけるブレーキペダルのストロークとホイールシリンダ液圧との静的な関係が、図14の実線で示される関係(即ち、通常のブレーキ操作がなされた場合における関係)に近づけられ得るから、ブレーキオーバーライドがなされた場合におけるブレーキフィーリングが通常のブレーキ操作がなされた場合におけるものに近づけられ得る。
【0024】
この場合、前記リザーバは、同リザーバ内に吸収されたブレーキ液量の増加に応じて同リザーバ内のブレーキ液圧を増大させる液圧調整機構を備えることが好適である。これによれば、ブレーキオーバーライドがなされている場合において、ブレーキ操作部材の操作ストロークが「0」からリザーバの最大容量に相当する値に達するまでの初期段階において、マスタシリンダ液圧(従って、ホイールシリンダ液圧)を任意の増加勾配をもって増大させることができる。
【0025】
ここで、図14の実線から理解できるように、通常のブレーキ操作がなされた場合においても、ブレーキ操作部材の操作ストロークが「0」から上記無効ストロークに達するまでの初期段階では、車両の制動に寄与し得ない範囲内でホイールシリンダ液圧が徐々に増大していく。
【0026】
以上のことから、上記構成のようにリザーバに液圧調整機構を備えることで、ブレーキオーバーライドがなされた場合における初期段階でのホイールシリンダ液圧の増加勾配を通常のブレーキ操作がなされた場合における初期段階でのホイールシリンダ液圧の増加勾配に近づけることができる。この結果、ブレーキオーバーライドがなされた場合における初期段階でのブレーキフィーリングを通常のブレーキ操作がなされた場合におけるものにより一層近づけることができる。
【0027】
この液圧調整機構は、例えば、前記リザーバ内のブレーキ液圧に応じた力を受ける弾性部材の弾性力を利用することで簡易に構成することができる。
【0028】
上記リザーバと電磁弁とを備えた自動ブレーキ装置に適用される本発明に係る自動ブレーキ制御装置において同自動ブレーキ装置が、2系統のブレーキ液圧回路を備えるとともに前記リザーバと前記電磁弁とを系統毎に備えている場合、前記特定処理実行手段は、前記自動ブレーキ制御が実行されていない場合、前記マスタシリンダ液圧を有するブレーキ液の対応する前記リザーバ内への導入が禁止されるように前記2系統の電磁弁をそれぞれ制御するとともに、前記自動ブレーキ制御が実行されている場合、前記マスタシリンダ液圧を有するブレーキ液の対応する前記リザーバ内への導入が許容されるように一方の前記電磁弁を常に制御し、前記運転者による前記ブレーキ操作部材の操作が開始された時点での前記ホイールシリンダ液圧が大気圧よりも高い所定液圧以上になっていた場合にのみ同ブレーキ液の対応する前記リザーバ内への導入が許容されるように他方の前記電磁弁を制御するよう構成されることが好適である。
【0029】
自動ブレーキ制御が開始された時点以降、同自動ブレーキ制御が実行されている間に亘って前記マスタシリンダ液圧を有するブレーキ液の対応する前記リザーバ内への導入が常に許容されるように上記2系統の電磁弁をそれぞれ制御する場合について考える。いま、自動ブレーキ制御が実行されている場合において前記運転者による前記ブレーキ操作部材の操作が開始された時点(即ち、ブレーキオーバーライド開始時点)でのホイールシリンダ液圧(即ち、ブレーキオーバーライド開始時点での上記加圧量。図14における値P0に相当する。)が比較的低く、且つ、2系統のリザーバのそれぞれの最大容量の和が比較的大きい場合を想定する。
【0030】
そうすると、ブレーキペダルストロークに対するホイールシリンダ液圧が図14に実線で示した通常のブレーキ操作がなされた場合よりも小さくなる場合が発生し得る。即ち、ブレーキペダルストロークとホイールシリンダ液圧との関係を示す線(図14における破線に相当する。)が図14における実線よりも図14において下方(或いは、右方)に偏移する場合が発生し得る。
【0031】
ブレーキペダルストロークに対するホイールシリンダ液圧が通常のブレーキ操作がなされた場合よりも小さくなる事態が発生することは、運転者が期待する制動力が得られないことに繋がり、従って、ブレーキフィーリングに相当の違和感を発生させることになるから好ましくない。
【0032】
以上のことから、ブレーキオーバーライド開始時点でのホイールシリンダ液圧が比較的低い場合、ブレーキ液の対応するリザーバ内への導入が許容開始されるように上記2系統の電磁弁をそれぞれ制御することは好ましくない。
【0033】
これに対し、上記構成のように、ブレーキオーバーライド開始時点でのホイールシリンダ液圧が大気圧よりも高い所定液圧以上になっていた場合にのみブレーキ液の対応するリザーバ内への導入が許容されるように他方の電磁弁を制御すれば、ブレーキオーバーライド開始時点でのホイールシリンダ液圧が上記所定液圧未満の場合においてブレーキ液の上記一方の電磁弁に対応するリザーバのみへの導入が許容される。
【0034】
これにより、ブレーキオーバーライド開始時点でのホイールシリンダ液圧が上記所定液圧未満の場合、ブレーキ液の上記2系統のリザーバへのそれぞれの導入が許容される場合に比してブレーキペダルストロークに対するホイールシリンダ液圧を大きくすることができる。この結果、ブレーキペダルストロークに対するホイールシリンダ液圧が通常のブレーキ操作がなされた場合よりも小さくなる事態の発生を防止することができ、従って、ブレーキフィーリングにおける上記相当の違和感の発生を防止することができる。
【0035】
また、上記本発明に係る自動ブレーキ制御装置が適用される前記自動ブレーキ装置は、前記ホイールシリンダ液圧を前記マスタシリンダ液圧に前記加圧量を加えた液圧よりも低い液圧に調整するための減圧弁を更に備えるとともに、前記運転者による前記ブレーキ操作部材の操作ストロークを取得するストローク取得手段と、前記自動ブレーキ制御が実行されている場合、前記自動ブレーキ制御が実行されていない場合における前記運転者による前記ブレーキ操作部材の操作ストロークと前記ホイールシリンダ液圧との関係に少なくとも基づいて同ブレーキ操作部材の操作ストロークと同ホイールシリンダ液圧との関係の目標を決定する目標決定手段とを更に備え、前記特定処理実行手段は、前記自動ブレーキ制御が実行されている場合であって前記運転者による前記ブレーキ操作部材の操作がなされている場合、前記取得された操作ストロークと、前記決定された関係の目標とから前記ホイールシリンダ液圧の目標値を決定するとともに、前記ホイールシリンダ液圧が同目標値に一致するように、前記特定処理として前記減圧弁を制御するよう構成されることが好適である。
【0036】
これによれば、ブレーキオーバーライドがなされている場合、自動ブレーキ制御が実行されていない場合における運転者によるブレーキ操作部材の操作ストロークとホイールシリンダ液圧との関係(即ち、図14の実線に示す関係)に少なくとも基づいてブレーキ操作部材の操作ストロークと同ホイールシリンダ液圧との関係の目標が決定される。そして、ブレーキオーバーライドがなされている場合におけるブレーキ操作部材の操作ストロークとホイールシリンダ液圧との関係が上記関係の目標と一致するように上記減圧弁が制御される。
【0037】
従って、ブレーキオーバーライドがなされた場合におけるブレーキペダルのストロークとホイールシリンダ液圧との静的な関係を、図14の実線で示される関係(即ち、通常のブレーキ操作がなされた場合における関係)に近づけることができる。このように、上記リザーバ及び電磁弁に代えて上記減圧弁を使用しても、ブレーキオーバーライドがなされた場合におけるブレーキフィーリングを通常のブレーキ操作がなされた場合におけるものに近づけることができる。
【0038】
また、この減圧弁としては、周知の自動ブレーキ装置に使用されているホイールシリンダ液圧制御用の減圧弁がそのまま使用され得る。従って、この場合、周知の自動ブレーキ装置をそのまま本発明に係る自動ブレーキ制御装置に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明による自動ブレーキ制御装置の各実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る自動ブレーキ制御装置が適用される自動ブレーキ装置10を搭載した車両の概略構成を示している。
【0040】
(第1実施形態)
この自動ブレーキ装置10は、各車輪にブレーキ液圧による制動力を発生させるためのブレーキ液圧制御装置30を含んで構成されている。
【0041】
ブレーキ液圧制御装置30は、その概略構成を表す図2に示すように、ブレーキペダルBPの操作力に応じたブレーキ液圧を発生するブレーキ液圧発生部32と、車輪RR,FL,FR,RLにそれぞれ配置されたホイールシリンダWrr,Wfl,Wfr,Wrlに供給するブレーキ液圧をそれぞれ調整可能なRRブレーキ液圧調整部33,FLブレーキ液圧調整部34,FRブレーキ液圧調整部35,RLブレーキ液圧調整部36と、還流ブレーキ液供給部37と、ブレーキオーバーライド時ブレーキ液吸収部38を含んで構成されている。
【0042】
ブレーキ液圧発生部32は、ブレーキペダルBPの作動により応動するバキュームブースタVBと、同バキュームブースタVBに連結されたマスタシリンダMCとから構成されている。バキュームブースタVBは、図示しないエンジンの吸気管内の空気圧力(負圧)を利用してブレーキペダルBPの操作力を所定の割合で助勢し同助勢された操作力をマスタシリンダMCに伝達するようになっている。
【0043】
マスタシリンダMCは、第1ポート、及び第2ポートからなる2系統の出力ポートを有していて、リザーバRSからのブレーキ液の供給を受けて、前記助勢された操作力に応じた第1マスタシリンダ液圧Pmを第1ポートから発生するようになっているとともに、同第1マスタシリンダ液圧と略同一の液圧である前記助勢された操作力に応じた第2マスタシリンダ液圧Pmを第2ポートから発生するようになっている。
【0044】
これらマスタシリンダMC及びバキュームブースタVBの構成及び作動は周知であるので、ここではそれらの詳細な説明を省略する。このようにして、マスタシリンダMC及びバキュームブースタVB(ブレーキ液圧発生手段)は、ブレーキペダルBPの操作力に応じた第1マスタシリンダ液圧及び第2マスタシリンダ液圧をそれぞれ発生するようになっている。
【0045】
マスタシリンダMCの第1ポートと、RRブレーキ液圧調整部33の上流部及びFLブレーキ液圧調整部34の上流部の各々との間には、常開リニア電磁弁PC1が介装されている。同様に、マスタシリンダMCの第2ポートと、FRブレーキ液圧調整部35の上流部及びRLブレーキ液圧調整部36の上流部の各々との間には、常開リニア電磁弁PC2が介装されている。係る常開リニア電磁弁PC1,PC2(調圧手段)の作動の詳細については後述する。
【0046】
RRブレーキ液圧調整部33は、2ポート2位置切換型の常開電磁開閉弁である増圧弁PUrrと、2ポート2位置切換型の常閉電磁開閉弁である減圧弁PDrrとから構成されている。増圧弁PUrrは、RRブレーキ液圧調整部33の上流部と後述するホイールシリンダWrrとを連通、或いは遮断できるようになっている。減圧弁PDrrは、ホイールシリンダWrrとリザーバRS1とを連通、或いは遮断できるようになっている。この結果、増圧弁PUrr、及び減圧弁PDrrを制御することでホイールシリンダWrr内のブレーキ液圧(ホイールシリンダ液圧Pwrr)が増圧・保持・減圧され得るようになっている。
【0047】
加えて、増圧弁PUrrにはブレーキ液のホイールシリンダWrr側からRRブレーキ液圧調整部33の上流部への一方向の流れのみを許容するチェック弁CV1が並列に配設されていて、これにより、操作されているブレーキペダルBPが開放されたときホイールシリンダ液圧Pwrrが迅速に減圧されるようになっている。
【0048】
同様に、FLブレーキ液圧調整部34,FRブレーキ液圧調整部35、RLブレーキ液圧調整部36は、それぞれ、増圧弁PUfl及び減圧弁PDfl,増圧弁PUfr及び減圧弁PDfr,増圧弁PUrl及び減圧弁PDrlから構成されており、これらの増圧弁及び減圧弁が制御されることにより、ホイールシリンダWfl,ホイールシリンダWfr及びホイールシリンダWrl内のブレーキ液圧(ホイールシリンダ液圧Pwfl,Pwfr,Pwrl)をそれぞれ増圧、保持、減圧できるようになっている。また、増圧弁PUfl,PUfr及びPUrlの各々にも、上記チェック弁CV1と同様の機能を達成し得るチェック弁CV2,CV3及びCV4がそれぞれ並列に配設されている。
【0049】
還流ブレーキ液供給部37は、直流モータMTと、同モータMTにより同時に駆動される2つの液圧ポンプ(ギヤポンプ)HP1,HP2(加圧手段)を含んでいる。液圧ポンプHP1は、減圧弁PDrr,PDflから還流されてきたリザーバRS1内のブレーキ液を汲み上げ、同汲み上げたブレーキ液をチェック弁CV8を介してRRブレーキ液圧調整部33及びFLブレーキ液圧調整部34の上流部に供給するようになっている。
【0050】
同様に、液圧ポンプHP2は、減圧弁PDfr,PDrlから還流されてきたリザーバRS2内のブレーキ液を汲み上げ、同汲み上げたブレーキ液をチェック弁CV11を介してFRブレーキ液圧調整部35及びRLブレーキ液圧調整部36の上流部に供給するようになっている。
【0051】
ブレーキオーバーライド時ブレーキ液吸収部38は、マスタシリンダMCの第1ポートと常開リニア電磁弁PC1との間の液圧回路に接続されたリザーバRA1と、マスタシリンダMCの第1ポートと常開リニア電磁弁PC1との間の液圧回路からリザーバRA1へのブレーキ液の導入を許容・禁止可能な常閉電磁開閉弁であるカット弁PA1と、マスタシリンダMCの第2ポートと常開リニア電磁弁PC2との間の液圧回路に接続されたリザーバRA2と、マスタシリンダMCの第2ポートと常開リニア電磁弁PC2との間の液圧回路からリザーバRA2へのブレーキ液の導入を許容・禁止可能な常閉電磁開閉弁であるカット弁PA2とを備えている。
【0052】
リザーバRA1,RA2には、内部のブレーキ液圧に応じた力を受けて縮むコイルスプリングSP1,SP2(弾性部材、液圧調整機構)が底部においてそれぞれ配設されている。これにより、リザーバRA1,RA2の容量は、内部のブレーキ液圧(即ち、マスタシリンダ液圧Pm)の増加に応じて増大するようになっている。換言すれば、リザーバRA1,RA2の内部のブレーキ液圧(即ち、第1、第2マスタシリンダ液圧Pm)は、内部に吸収されたブレーキ液の量の増加に応じて、コイルスプリングSP1,SP2のバネ定数(及び、底部の受圧面積)により決定される勾配をもって増大するようになっている。なお、リザーバRA1,RA2の諸元(バネ定数、最大容量等)は互いに全て等しい。
【0053】
次に、常開リニア電磁弁PC1について説明する。常開リニア電磁弁PC1の弁体には、図示しないコイルスプリングからの付勢力に基づく開方向の力が常時作用しているとともに、RRブレーキ液圧調整部33の上流部及びFLブレーキ液圧調整部34の上流部の圧力Pw1から第1マスタシリンダ液圧Pmを減じることで得られる差圧(以下、単に「実差圧ΔP」と云うこともある。)に基づく開方向の力と、常開リニア電磁弁PC1への通電電流(従って、指令電流Id)に応じて比例的に増加する吸引力に基づく閉方向の力が作用するようになっている。
【0054】
この結果、図3に示したように、上記吸引力に相当する指令差圧ΔPdが指令電流Idに応じて比例的に増加するように決定される。ここで、I0はコイルスプリングの付勢力に相当する電流値である。そして、常開リニア電磁弁PC1は、係る指令差圧ΔPdが上記実差圧ΔPよりも大きいときに閉弁してマスタシリンダMCの第1ポートと、RRブレーキ液圧調整部33の上流部及びFLブレーキ液圧調整部34の上流部との連通を遮断する。
【0055】
一方、常開リニア電磁弁PC1は、指令差圧ΔPdが実差圧ΔPよりも小さいとき開弁してマスタシリンダMCの第1ポートと、RRブレーキ液圧調整部33の上流部及びFLブレーキ液圧調整部34の上流部とを連通する。この結果、(液圧ポンプHP1から供給されている)RRブレーキ液圧調整部33の上流部及びFLブレーキ液圧調整部34の上流部のブレーキ液が常開リニア電磁弁PC1を介してマスタシリンダMCの第1ポート側に流れることで実差圧ΔPが指令差圧ΔPdに一致するように調整され得るようになっている。なお、マスタシリンダMCの第1ポート側へ流入したブレーキ液はリザーバRS1へと還流される。
【0056】
換言すれば、モータMT(従って、液圧ポンプHP1,HP2)が駆動されている場合、常開リニア電磁弁PC1への指令電流Idに応じて上記実差圧ΔP(の許容最大値)が制御され得るようになっている。このとき、上記圧力Pw1は、第1マスタシリンダ液圧Pmに実差圧ΔP(従って、指令差圧ΔPd)を加えた値(Pm+ΔPd)となる。
【0057】
他方、常開リニア電磁弁PC1を非励磁状態にすると(即ち、指令電流Idを「0」に設定すると)、常開リニア電磁弁PC1はコイルスプリングの付勢力により開状態を維持するようになっている。このとき、実差圧ΔPが「0」になって、上記圧力Pw1が第1マスタシリンダ液圧Pmと等しくなる。
【0058】
常開リニア電磁弁PC2も、その構成・作動について常開リニア電磁弁PC1のものと同様である。従って、モータMT(従って、液圧ポンプHP1,HP2)が駆動されている場合、常開リニア電磁弁PC2への指令電流Idに応じて、FRブレーキ液圧調整部35の上流部、及びRLブレーキ液圧調整部36の上流部の圧力Pw2は、第2マスタシリンダ液圧Pmに指令差圧ΔPd(加圧量)を加えた値(Pm+ΔPd)となる。他方、常開リニア電磁弁PC2を非励磁状態にすると、上記圧力Pw2が第2マスタシリンダ液圧Pmと等しくなる。
【0059】
加えて、常開リニア電磁弁PC1には、ブレーキ液の、マスタシリンダMCの第1ポートから、RRブレーキ液圧調整部33の上流部及びFLブレーキ液圧調整部34の上流部への一方向の流れのみを許容するチェック弁CV5が並列に配設されている。これにより、常開リニア電磁弁PC1への指令電流Idに応じて実差圧ΔPが制御されている間においても、ブレーキペダルBPが操作されることで第1マスタシリンダ液圧Pmが上記圧力Pw1よりも高い圧力になったとき、ブレーキペダルBPの操作力に応じたブレーキ液圧(即ち、第1マスタシリンダ液圧Pm)そのものがホイールシリンダWrr,Wflに供給され得るようになっている。また、常開リニア電磁弁PC2にも、上記チェック弁CV5と同様の機能を達成し得るチェック弁CV6が並列に配設されている。
【0060】
以上、説明したように、ブレーキ液圧制御装置30は、右後輪RRと左前輪FLとに係わる系統と、左後輪RLと右前輪FRとに係わる系統の2系統の液圧回路から構成されている。ブレーキ液圧制御装置30は、全ての電磁弁が非励磁状態にあるときブレーキペダルBPの操作力に応じたブレーキ液圧(即ち、マスタシリンダ液圧Pm)をホイールシリンダW**にそれぞれ供給できるようになっている。即ち、「Pw1,Pw2,Pw**=Pm」が成立する。
【0061】
なお、各種変数等の末尾に付された「**」は、同各種変数等が各車輪FR等のいずれに関するものであるかを示すために同各種変数等の末尾に付される「fl」,「fr」等の包括表記であって、例えば、ホイールシリンダW**は、左前輪用ホイールシリンダWfl,
右前輪用ホイールシリンダWfr, 左後輪用ホイールシリンダWrl, 右後輪用ホイールシリンダWrrを包括的に示している。
【0062】
他方、この状態において、モータMT(従って、液圧ポンプHP1,HP2)を駆動するとともに、常開リニア電磁弁PC1,PC2を指令電流Idをもってそれぞれ励磁すると、マスタシリンダ液圧Pmよりも指令電流Idに応じて決定される指令差圧ΔPdだけ高いブレーキ液圧をホイールシリンダW**にそれぞれ供給できるようになっている。即ち、「Pw1,Pw2,Pw**=Pm+ΔPd」が成立する。
【0063】
これにより、ブレーキ液圧制御装置30は、後述する電気式制御装置50からの指示により、マスタシリンダ液圧Pmに指令差圧ΔPd(加圧量)を加えた液圧を利用して、運転者によるブレーキペダルBPの操作にかかわらず、自動ブレーキ制御(低速走行時車間距離制御)を達成できるようになっている。
【0064】
加えて、ブレーキ液圧制御装置30は、増圧弁PU**、及び減圧弁PD**を制御することでホイールシリンダ液圧Pw**を個別に調整できるようになっている。特に、減圧弁PD**を制御することにより、ホイールシリンダ液圧Pw**をマスタシリンダ液圧Pmに指令差圧ΔPd(加圧量)を加えた液圧よりも低い液圧に調整することができる。即ち、ブレーキ液圧制御装置30は、運転者によるブレーキペダルBPの操作にかかわらず、各車輪に付与される制動力を車輪毎に個別に調整できるようになっている。
【0065】
再び図1を参照すると、この自動ブレーキ装置10は、車輪FL,FR,RL及びRRの車輪速度に応じた周波数を有する信号をそれぞれ出力する電磁ピックアップ式の車輪速度センサ41fl,41fr,41rl及び41rrと、ブレーキペダルBPの操作の有無に応じてオン状態又はオフ状態になる信号を出力するブレーキスイッチ42と、自車両の前方を走行する前方車両と自車両との車間距離を検出し、同車間距離Lを示す信号を出力するレーダセンサ43と、(第1)マスタシリンダ液圧を検出し、マスタシリンダ液圧Pmを示す信号を出力するマスタシリンダ液圧センサ44(図2を参照)と、RRブレーキ液圧調整部33とFLブレーキ液圧調整部34の上流部の圧力、及びFRブレーキ液圧調整部35とRLブレーキ液圧調整部36の上流部の圧力をそれぞれ検出し、ホイールシリンダ液圧Pw1及びPw2を示す信号をそれぞれ出力するホイールシリンダ液圧センサ45−1,45−2(図2を参照)とを備えている。
【0066】
また、自動ブレーキ装置10は電気式制御装置50を備えている。電気式制御装置50は、互いにバスで接続されたCPU51、CPU51が実行するルーチン(プログラム)、テーブル(ルックアップテーブル、マップ)、定数等を予め記憶したROM52、CPU51が必要に応じてデータを一時的に格納するRAM53、電源が投入された状態でデータを格納するとともに同格納したデータを電源が遮断されている間も保持するバックアップRAM54、及びADコンバータを含むインターフェース55等からなるマイクロコンピュータである。インターフェース55は、前記センサ等41〜45と接続され、センサ等41〜45からの信号をCPU51に供給するとともに、同CPU51の指示に応じてブレーキ液圧制御装置30の各電磁弁及びモータMTに駆動信号を送出するようになっている。
【0067】
(自動ブレーキ制御の概要)
次に、上記構成を有する本発明の第1実施形態に係る自動ブレーキ制御装置が適用される自動ブレーキ装置10(以下、「本装置」と云うこともある。)が実行する自動ブレーキ制御(低速走行時車間距離制御)の概要について説明する。この自動ブレーキ制御は、渋滞時等、車両が比較的低速で走行している場合において、自車両と自車両の前方を走行する前方車両との車間距離Lが所定基準値以下となる等の後述する自動ブレーキ制御開始条件が成立すると、適切な車間距離Lを維持するために運転者のブレーキペダル操作とは独立して車両に所定の制動力を自動的に発生させる制御である。
【0068】
具体的には、本装置は、自動ブレーキ制御開始条件が成立すると、上記実差圧ΔP(加圧量)の目標値である目標差圧ΔPt(下限値PwL≦ΔPt≦上限値PwH)を後述するように決定し、実差圧ΔPが目標差圧ΔPtと一致するようにモータMT、及び常開リニア電磁弁PC1,PC2を制御する。これにより、ホイールシリンダ液圧Pw1,Pw2(=Pw**)がマスタシリンダ液圧Pmよりも目標差圧ΔPtだけ高い圧力に制御され、この結果、車両に目標液圧ΔPtに応じた制動力が自動的に発生する。以上が、自動ブレーキ制御の概要である。
【0069】
(ブレーキオーバーライド時におけるブレーキフィーリングの向上)
次に、上述した自動ブレーキ制御が既に実行されている状態で運転者によるブレーキペダル操作(即ち、ブレーキオーバーライド)がなされた場合における、上記ブレーキオーバーライド時ブレーキ液吸収部38の作用によるブレーキフィーリングの向上について説明する。
【0070】
本装置では、上述した自動ブレーキ制御が実行されていない状態で運転者がブレーキペダルを操作した場合(即ち、上述した「通常のブレーキ操作」がなされた場合)、ブレーキペダルBPのストロークStとホイールシリンダ液圧Pwとの関係(静的な関係)は、上述した図14に示した実線と同様、図4に実線Aで示すようになる。
【0071】
即ち、先ず、ブレーキペダルストロークStが「0」から無効ストロークSOに達するまでの初期段階では、上述した無効液量の消費により、ブレーキペダルストロークStが増大してもホイールシリンダ液圧Pwが殆ど増大しない。従って、車両の制動に寄与し得る程度のホイールシリンダ液圧Pwが実質的に発生し得ない。換言すれば、上記下限値PwLは、実線Aにおける無効ストロークS0に対応するホイールシリンダ液圧Pwよりも高い値である。
【0072】
ブレーキペダルストロークが無効ストロークSOを超えた段階では、ブレーキパッドがブレーキディスクに既に接触している。この段階では、ブレーキペダルストロークStの増大に応じて車両の制動に実質的に寄与し得るホイールシリンダ液圧Pwが実線Aに示すように比較的大きな増加勾配をもって増大していく。この段階でのホイールシリンダ液圧Pwの増加特性は、主として、バキュームブースタVB(図2を参照)の作動特性、並びに、ホイールシリンダW**、ブレーキ配管、ブレーキパッドの弾性特性等に依存して決定される。
【0073】
次に、ブレーキオーバーライドがなされた場合におけるブレーキペダルBPのストロークStとホイールシリンダ液圧Pwとの関係(静的な関係)について考える。先ず、本装置において上記ブレーキオーバーライド時ブレーキ液吸収部38が配設されていないものと仮定した場合について説明する。
【0074】
以下、上記自動ブレーキ制御により上記目標差圧ΔPt(従って、実差圧ΔP)が或る値PwC(PwL<PwC<PwH)に維持され、この結果、運転者によるブレーキペダル操作開始時点(即ち、オーバーライド開始時点。St=0)でホイールシリンダ液圧Pwが上記値PwCに制御されている場合を例に採って説明する。
【0075】
ブレーキオーバーライドがなされる場合、ブレーキペダルストロークStが「0」の段階からブレーキパッドがブレーキディスクに既に接触しているから上記無効液量の消費が発生しない。この結果、ブレーキペダルストロークStの「0」からの増大に対応するホイールシリンダ液圧Pwの増加特性は、通常のブレーキ操作の場合におけるブレーキペダルストロークStの「ホイールシリンダ液圧Pw=PwC」となる場合に対応する値S1(図4を参照)からの増大に対応するホイールシリンダ液圧Pwの増加特性(即ち、実線Aにおいて点aから上の部分)と一致する。
【0076】
換言すれば、この場合におけるブレーキペダルBPのストロークStとホイールシリンダ液圧Pwとの関係(静的な関係)は、図4に破線Bで示すように、実線Aにおけるホイールシリンダ液圧Pwが値PwC以上に対応する部分(実線Aにおける点aから上の部分)をブレーキペダルストロークS1に相当する分だけ図4において左方向へ平行移動して得られる線で示される関係と一致する。
【0077】
このように、上記ブレーキオーバーライド時ブレーキ液吸収部38が配設されていないものと仮定すると、ブレーキオーバーライドがなされた場合(図4の破線B)、通常のブレーキ操作がなされた場合(図4の実線A)に比して、同一のブレーキペダルストロークStに対するホイールシリンダ液圧Pw(従って、車両に働く制動力)が相当に大きくなる。この結果、ブレーキオーバーライドがなされた場合において運転者が感じるブレーキフィーリングに相当の違和感が発生する。
【0078】
これに対し、本装置は、上述したように、実際には上記ブレーキオーバーライド時ブレーキ液吸収部38を備えている。そして、本装置は、上記自動ブレーキ制御が実行されていない場合、上記カット弁PA1,PA2を非励磁状態(従って、閉状態)に維持する。一方、自動ブレーキ制御が実行されている場合、先ず、カット弁PA1,PA2が共に励磁状態(従って、開状態)に維持される場合について考える。
【0079】
この場合、例えば、上述した図4の破線Bで示した例の場合と同様、自動ブレーキ制御により目標差圧ΔPtが値PwCに維持されてブレーキペダルストロークStが「0」の時点でホイールシリンダ液圧Pwが値PwCになっている場合を例に採って説明すると、ブレーキオーバーライドがなされた場合におけるブレーキペダルストロークStとホイールシリンダ液圧Pwとの静的な関係は、図5に破線Bで示すようになる。
【0080】
なお、図5において、値S2は、リザーバRA1,RA2の各最大容量の和に対応するブレーキペダルストロークStであり、本例では、先の図4の値S1と等しい。また、図5における実線Aは、図4と同様、通常のブレーキ操作がなされた場合におけるブレーキペダルストロークStとホイールシリンダ液圧Pwとの関係を示している。以下、図5の破線Bについて説明する。
【0081】
先ず、ブレーキペダルストロークStが「0」から値S2に達するまでの初期段階では、ブレーキペダルストロークStの増加に応じてマスタシリンダMCから吐出されるブレーキ液の総てがリザーバRA1,RA2に吸収されていく(従って、リザーバRA1,RA2の容量が最小容量(例えば、「0」)から増大していく)。
【0082】
この結果、上述したように、リザーバRA1,RA2内部のブレーキ液圧(即ち、マスタシリンダ液圧Pm)がコイルスプリングSP1,SP2のバネ定数(及び、リザーバ底部の受圧面積)により決定される勾配をもって「0」から増大していく。これに伴い、図5の破線Bに示すように、ホイールシリンダ液圧Pw1,Pw2(=Pm+ΔPt)も、目標差圧ΔPtが値PwCで一定に維持されていることに起因して、値PwCから点b(図5を参照)に対応する値まで同じ勾配をもって増大していく。
【0083】
ブレーキペダルストロークStが値S2に達すると、リザーバRA1,RA2の容量が最大容量となるからリザーバRA1,RA2は更なるブレーキ液を吸収することができなくなる。従って、ブレーキペダルストロークStの値S2からの増大に対応するホイールシリンダ液圧Pwの増加特性は、通常のブレーキ操作の場合(図5における実線A)におけるブレーキペダルストロークStの「ホイールシリンダ液圧Pwが点bに対応する値」となる場合に対応する値からの増大に対応するホイールシリンダ液圧Pwの増加特性(即ち、実線Aにおいて点b’から上の部分)と一致する。
【0084】
換言すれば、ブレーキペダルストロークStが値S2を越える場合におけるブレーキペダルストロークStとホイールシリンダ液圧Pwとの関係(静的な関係)は、図5に破線Bで示すように、実線Aにおける点b’から上の部分を点b’が点bに一致するまで図5において左方向へ平行移動して得られる線で示される関係と一致する。
【0085】
ここで、図5の破線Bと図4の破線Bとを比較すれば明らかなように、図5の破線Bで示される関係は、図4の破線Bで示される関係よりも、通常のブレーキ操作がなされた場合に対応する関係(実線Aで示される関係)により近い関係となる。即ち、自動ブレーキ制御が実行されている場合にカット弁PA1,PA2を共に開状態とすることで、ブレーキオーバーライドがなされた場合において違和感の少ないブレーキフィーリングを得ることができる。
【0086】
また、自動ブレーキ制御における目標差圧ΔPtが上限値PwHに維持されてブレーキペダルストロークStが「0」の時点でホイールシリンダ液圧Pwが同上限値PwHになっている場合、ブレーキペダルストロークStとホイールシリンダ液圧Pwとの関係(静的な関係)は、図5の一点鎖線Cで示されるようになる。
【0087】
即ち、ブレーキペダルストロークStが「0」から値S2に達するまでの初期段階では、ブレーキペダルストロークStの増加に応じてホイールシリンダ液圧Pw1,Pw2(=Pm+ΔPt)が値PwHから点c(図5を参照)に対応する値まで破線Bと同じ勾配をもって増大していく。
【0088】
ブレーキペダルストロークStが値S2を超えると、ブレーキペダルストロークStとホイールシリンダ液圧Pwとの関係(静的な関係)は、実線Aにおける点c’から上の部分を点c’が点cに一致するまで図5において左方向へ平行移動して得られる線で示される関係となる。
【0089】
同様に、自動ブレーキ制御における目標差圧ΔPtが下限値PwLに維持されてブレーキペダルストロークStが「0」の時点でホイールシリンダ液圧Pwが同下限値PwLになっている場合、ブレーキペダルストロークStとホイールシリンダ液圧Pwとの関係(静的な関係)は、図5の二点鎖線Dで示されるようになる。
【0090】
即ち、ブレーキペダルストロークStが「0」から値S2に達するまでの初期段階では、ブレーキペダルストロークStの増加に応じてホイールシリンダ液圧Pw1,Pw2(=Pm+ΔPt)が値PwLから点d(図5を参照)に対応する値まで破線Bと同じ勾配をもって増大していく。
【0091】
ブレーキペダルストロークStが値S2を超えると、ブレーキペダルストロークStとホイールシリンダ液圧Pwとの関係(静的な関係)は、実線Aにおける点d’から上の部分を点d’が点dに一致するまで図5において右方向へ平行移動して得られる線で示される関係となる。
【0092】
以上のことから、自動ブレーキ制御が実行されている場合(即ち、目標差圧ΔPtが下限値PwL以上、上限値PwH以下の或る値に設定されている場合)、カット弁PA1,PA2を共に開状態とすることで、ブレーキペダルストロークStとホイールシリンダ液圧Pwとの関係(静的な関係)を、図5の一点鎖線Cと二点鎖線Dとで挟まれた領域内(図5において微細なドットで示される領域を参照。)に置くことができる。
【0093】
従って、図5の一点鎖線Cと二点鎖線Dとで挟まれた領域内と図4の破線Bとの比較から明らかなように、自動ブレーキ制御中における目標差圧ΔPt(加圧量)が下限値PwLと上限値PwHとの間で変動しても、ブレーキペダルストロークStとホイールシリンダ液圧Pwとの関係は、図4の破線Bで示される関係よりも、通常のブレーキ操作がなされた場合に対応する関係(実線Aで示される関係)により近い関係となり得る。即ち、自動ブレーキ制御中における目標差圧ΔPt(加圧量)にかかわらず、ブレーキオーバーライドがなされた場合において違和感の少ないブレーキフィーリングを得ることができる。
【0094】
また、図5の一点鎖線Cと二点鎖線Dとで挟まれた領域は、ブレーキペダルストロークStが「0」から値S2に達するまでのホイールシリンダ液圧Pwの増加勾配(従って、コイルスプリングSP1,SP2のバネ定数)、及び値S2(従って、リザーバRA1,RA2の各最大容量)に基づいて決定される。従って、リザーバRA1,RA2の各最大容量、及びコイルスプリングSP1,SP2のバネ定数を適宜調整することで、ブレーキオーバーライドがなされた場合においてより違和感の少ないブレーキフィーリングを得ることが可能となる。
【0095】
(ブレーキペダルストロークに対するホイールシリンダ液圧が通常のブレーキ操作がなされた場合よりも小さくなる事態の発生の防止)
上述した図5の一点鎖線Cと二点鎖線Dとで挟まれた領域には、図5の実線Aよりも図5において下方(或いは、右方)に位置する部分が存在している。換言すれば、ブレーキペダルストロークStに対するホイールシリンダ液圧Pwが通常のブレーキ操作がなされた場合よりも小さくなる場合が発生している。
【0096】
このことは、運転者が期待する制動力が得られないことに繋がり、従って、ブレーキフィーリングに相当の違和感を発生させることになるから好ましくない。即ち、ブレーキペダルストロークStに対するホイールシリンダ液圧Pwが通常のブレーキ操作がなされた場合よりも小さくなる事態の発生を防止する必要がある。
【0097】
このため、図6に示すように、所定液圧Pwaを導入し、オーバーライド開始時点でのホイールシリンダ液圧Pw(PwL≦Pw≦PwH)が所定液圧Pwa以上の場合(即ち、Pwa≦Pw≦PwHの場合)、上述と同様、同オーバーライド中に亘ってカット弁PA1,PA2を共に励磁状態(従って、開状態)に維持する一方、オーバーライド開始時点でのホイールシリンダ液圧Pw(PwL≦Pw≦PwH)が所定液圧Pwa未満の場合(即ち、PwL≦Pw<Pwaの場合)、同オーバーライド中に亘ってカット弁PA1のみを励磁状態(従って、開状態)に維持することを考える。
【0098】
ここで、所定液圧Pwaは、上述した図5の実線Aと同一の図6の実線A上の点であってブレーキペダルストロークStが上記値S2となる点である点aを通り、傾きが、ブレーキペダルストロークStが「0」から値S2に達するまでの初期段階における図6における破線B(図5における破線Bと同一)の傾きと同じである直線上の点であってブレーキペダルストロークStが「0」となる点に対応する値(大気圧よりも高い圧力)である(図6を参照)。
【0099】
この場合、自動ブレーキ制御における目標差圧ΔPtが下限値PwLに維持されていてブレーキオーバーライド開始時点でホイールシリンダ液圧Pwが同下限値PwLになっている状態でブレーキオーバーライドが実行されると、ブレーキペダルストロークStとホイールシリンダ液圧Pwとの関係(静的な関係)は、図6の二点鎖線Dで示されるようになる。
【0100】
即ち、ブレーキペダルストロークStが「0」からリザーバRA1のみの最大容量に対応するブレーキペダルストロークである値S3(=(1/2)・S2)に達するまでの初期段階では、ブレーキペダルストロークStの増加に応じてホイールシリンダ液圧Pw1,Pw2(=Pm+ΔPt)が値PwLから点d(図6を参照)に対応する値まで破線Bと略同一の勾配(より正確には、コイルスプリングSP1のバネ定数(及び、リザーバRA1の底部の受圧面積)のみにより決定される勾配)をもって増大していく。
【0101】
ブレーキペダルストロークStが値S3を超えると、ブレーキペダルストロークStとホイールシリンダ液圧Pwとの関係(静的な関係)は、実線Aにおける点d’から上の部分を点d’が点dに一致するまで図6において左方向へ平行移動して得られる線で示される関係となる。
【0102】
以上のことから、オーバーライド開始時点でのホイールシリンダ液圧Pw(PwL≦Pw≦PwH)が所定液圧Pwa未満の場合(即ち、PwL≦Pw<Pwaの場合)、ブレーキペダルストロークStとホイールシリンダ液圧Pwとの関係(静的な関係)を、図6の実線Aよりも図6において上方(或いは、左方)の領域内に必ず置くことができる。また、図6から理解できるように、オーバーライド開始時点でのホイールシリンダ液圧Pw(PwL≦Pw≦PwH)が所定液圧Pwa以上の場合(即ち、Pwa≦Pw≦PwHの場合)も、ブレーキペダルストロークStとホイールシリンダ液圧Pwとの関係(静的な関係)を、図6の実線A上、或いは、同実線Aよりも図6において上方(或いは、左方)の領域内に必ず置くことができる。
【0103】
換言すれば、自動ブレーキ制御が実行されている場合(即ち、目標差圧ΔPtが下限値PwL以上、上限値PwH以下の或る値に設定されている場合)、ブレーキペダルストロークStとホイールシリンダ液圧Pwとの関係(静的な関係)を、図6において微細なドットで示される領域内に置くことができる。従って、ブレーキペダルストロークStに対するホイールシリンダ液圧Pwが通常のブレーキ操作がなされた場合よりも小さくなる事態の発生を防止することができる。
【0104】
以上のことから、本装置は、特定処理として、オーバーライド開始時点でのホイールシリンダ液圧Pw(PwL≦Pw≦PwH)が上記所定液圧Pwa以上の場合(即ち、Pwa≦Pw≦PwHの場合)、同オーバーライド中に亘ってカット弁PA1,PA2を共に励磁状態(従って、開状態)に維持する一方、オーバーライド開始時点でのホイールシリンダ液圧Pw(PwL≦Pw≦PwH)が同所定液圧Pwa未満の場合(即ち、PwL≦Pw<Pwaの場合)、同オーバーライド中に亘ってカット弁PA1のみを励磁状態(従って、開状態)に維持する。
【0105】
以上、上記ブレーキオーバーライド時ブレーキ液吸収部38の作用によるブレーキオーバーライド時におけるブレーキフィーリングの向上について説明した。
【0106】
(実際の作動)
次に、以上のように構成された本発明の第1実施形態に係る自動ブレーキ制御装置の実際の作動について、電気式制御装置50のCPU51が実行するルーチンをフローチャートにより示した図7〜図10を参照しながら説明する。
【0107】
<車輪速度等の算出>
CPU51は、図7に示した車輪速度等の算出を行うルーチンを所定時間(実行間隔時間Δt。例えば、6msec)の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU51はステップ700から処理を開始し、ステップ705に進んで、車輪**の現時点での車輪速度(車輪**の外周の速度)Vw**をそれぞれ算出する。具体的には、CPU51は車輪速度センサ41**の出力値の変動周波数に基づいて車輪速度Vw**をそれぞれ算出する。
【0108】
次いで、CPU51はステップ710に進み、上記求めた車輪速度Vw**に基づいて推定車体速度Vsoを算出する。この推定車体速度Vsoは、例えば、車両が駆動状態にある場合には車輪速度Vw**のうちの最小値に設定され、車両が制動状態にある場合には車輪速度Vw**のうちの最大値に設定される。
【0109】
次いで、CPU51はステップ715に進み、レーダセンサ43の出力に基づいて自車両と前方車両との間の車間距離Lを算出し、続くステップ720にて、ステップ720内に記載の式に基づいて相対接近速度dLを算出する。この相対接近速度dLは、後述する自動ブレーキ制御開始・終了判定の際に使用される。
【0110】
ここで、車間距離Lとしては先のステップ715にて算出した値が使用される。また、Lbは前回の車間距離であって、前回の車間距離Lbとしては前回の本ルーチン実行時にて次のステップ725にて設定されている値が使用される。即ち、CPU71はステップ725にて前回の車間距離Lbを先のステップ715にて算出した(今回の)車間距離Lの値に設定する。そして、CPU51は、ステップ795に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0111】
(自動ブレーキ制御の開始・終了判定)
また、CPU51は、図8に示した自動ブレーキ制御の開始・終了判定を行うルーチンを所定時間(例えば、6msec)の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU51はステップ800から処理を開始し、ステップ805に進んで、自動ブレーキ制御実行フラグCONTの値が「0」になっているか否かを判定する。ここで、自動ブレーキ制御実行フラグCONTは、その値が「1」のとき自動ブレーキ制御が実行されていることを示し、その値が「0」のとき自動ブレーキ制御が実行されていないことを示す。
【0112】
いま、自動ブレーキ制御が実行されていないもの(CONT=0)とすると、CPU51はステップ805にて「Yes」と判定してステップ810に進み、先のステップ710にて求めた推定車体速度Vsoの最新値、ステップ715にて求めた車間距離Lの最新値、及びステップ720にて求めた相対接近速度dLに基づいて、自動ブレーキ制御の開始条件が成立しているか否かの判定を行う。
【0113】
この自動ブレーキ制御の開始条件は、例えば、推定車体速度Vsoが所定範囲内にあって、車間距離が所定値以下であって、且つ、相対接近速度dLが所定値以上である場合等に成立する。
【0114】
いま、自動ブレーキ制御の開始条件が成立していないものとすると、CPU51はステップ815に進んで、「No」と判定してステップ895に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。以降、CPU51は自動ブレーキ制御の開始条件が成立するまでの間、ステップ815に進む毎に「No」と判定する。従って、自動ブレーキ制御実行フラグCONTの値は「0」に維持される。
【0115】
次に、この状態から自動ブレーキ制御の開始条件が成立した場合について説明する。この場合、CPU51はステップ815に進んだとき「Yes」と判定してステップ820に進み、自動ブレーキ制御実行フラグCONTの値を「0」から「1」に変更する。
【0116】
以降、自動ブレーキ制御実行フラグCONTの値が「1」になっているから、CPU51はステップ805に進んだとき「No」と判定してステップ825に進んで、先のステップ810と同様、推定車体速度Vsoの最新値、車間距離Lの最新値、及び相対接近速度dLに基づいて、自動ブレーキ制御の終了条件が成立しているか否かの判定を行う。
【0117】
この自動ブレーキ制御の終了条件は、例えば、推定車体速度Vsoが所定範囲内にない場合、或いは、車間距離が所定値以上である場合、或いは、相対接近速度dLが所定値以下である場合等に成立する。
【0118】
現時点は、自動ブレーキ制御の開始条件が成立した直後であるから自動ブレーキ制御の終了条件が成立していない。従って、CPU51はステップ830に進んで、「No」と判定してステップ895に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。以降、CPU51は自動ブレーキ制御の終了条件が成立するまでの間、ステップ830に進む毎に「No」と判定する。即ち、自動ブレーキ制御の開始条件が成立した後、自動ブレーキ制御の終了条件が成立するまでの間、自動ブレーキ制御実行フラグCONTの値は「1」に維持される。
【0119】
(自動ブレーキ制御の実行)
また、CPU51は、図9に示した自動ブレーキ制御を実行するルーチンを所定時間(例えば、6msec)の経過毎に繰り返し実行している。なお、この図9のルーチンの実行により自動ブレーキ制御手段の機能が達成される。
【0120】
従って、所定のタイミングになると、CPU51はステップ900から処理を開始し、ステップ905に進んで、自動ブレーキ制御実行フラグCONTの値が「1」になっているか否かを判定する。
【0121】
いま、自動ブレーキ制御の開始条件が成立した直後であるものとすると、先のステップ820の処理により自動ブレーキ制御実行フラグCONTの値が「0」から「1」に変更された直後である。従って、CPU51はステップ905にて「Yes」と判定してステップ910に進み、先のステップ710にて求めた推定車体速度Vsoの最新値、ステップ715にて求めた車間距離Lの最新値、ステップ720にて求めた相対接近速度dL、及びVso,L,dLを引数とする所定のテーブルに基づいて、目標差圧ΔPtを決定する。
【0122】
続いて、CPU51はステップ915に進んで、実差圧ΔPが上記決定された目標差圧ΔPtに一致するように、モータMT(従って、液圧ポンプHP1,HP2)、及び常開リニア電磁弁PC1,PC2に対して制御指示を行った後、ステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了する。これにより、自動ブレーキ制御が開始され、この結果、実差圧ΔPが目標差圧ΔPtに向けて増大していき、車両に目標差圧ΔPtに応じた制動力が付与される。
【0123】
以降、CPU51は、自動ブレーキ制御実行フラグCONTの値が「1」に維持されている限りにおいてステップ905〜915を繰り返し実行し、この結果、自動ブレーキ制御が継続される。
【0124】
(カット弁の開・閉制御の実行)
更に、CPU51は、図10に示したカット弁PA1,PA2の開・閉制御を実行するルーチンを所定時間(例えば、6msec)の経過毎に繰り返し実行している。なお、この図10のルーチンの実行により特定処理実行手段の機能が達成される。
【0125】
従って、所定のタイミングになると、CPU51はステップ1000から処理を開始し、ステップ1005に進んで、自動ブレーキ制御実行フラグCONTの値が「1」になっているか否かを判定する。
【0126】
いま、自動ブレーキ制御が継続中であって、ブレーキ操作がなされていないものとすると、先のステップ820の処理により自動ブレーキ制御実行フラグCONTの値が「1」になっている。従って、CPU51はステップ1005にて「Yes」と判定してステップ1010に進み、ブレーキスイッチ42がオフ状態となっているか否かを判定する。
【0127】
現時点では、ブレーキ操作がなされていないから、CPU51はステップ1010にて「Yes」と判定してステップ1015に進み、カット弁PA1のみを開状態とする指示を行う。続いて、CPU51はステップ1020に進んでホイールシリンダ液圧センサ45−2から得られるホイールシリンダ液圧Pw2が上記所定液圧Pwa以上であるか否かを判定する。
【0128】
ここで、先のステップ910にて決定されている目標差圧ΔPtの値が上記所定液圧Pwa以上となっている場合、ホイールシリンダ液圧Pw2が上記所定液圧Pwa以上となっているから、CPU51はステップ1020にて「Yes」と判定してステップ1025に進み、カット弁PA2をも開状態とする指示を行う。これにより、カット弁PA1、PA2共に開状態となる。
【0129】
一方、先のステップ910にて決定されている目標差圧ΔPtの値が上記所定液圧Pwa未満となっている場合、ホイールシリンダ液圧Pw2も上記所定液圧Pwa未満となっているから、CPU51はステップ1020にて「No」と判定してステップ1030に進み、カット弁PA2のみを閉状態とする指示を行う。これにより、カット弁PA1のみが開状態となる。
【0130】
以降、自動ブレーキ制御が継続中(CONT=1)であってブレーキ操作がなされていない状態が継続される限りにおいて、CPU51はステップ1005〜1030の処理を繰り返し実行する。この結果、ホイールシリンダ液圧Pw2が上記所定液圧Pwa以上になっているとカット弁PA1、PA2共に開状態となり、一方、ホイールシリンダ液圧Pw2が上記所定液圧Pwa未満となっているとカット弁PA1のみが開状態となる。
【0131】
次に、この状態にてブレーキ操作が実行された場合(即ち、ブレーキオーバーライドがなされた場合)について説明する。この場合、CPU51はステップ1010に進んだとき「No」と判定してステップ1095に直ちに進むようになる。以降、ブレーキオーバーライドが継続される限りにおいて、CPU51はステップ1005、1010の処理を繰り返し実行する。この結果、カット弁PA1、PA2の状態は、ブレーキオーバーライド開始時点での状態に維持される。
【0132】
即ち、ブレーキオーバーライド開始時点でのホイールシリンダ液圧Pw2が上記所定液圧Pwa以上になっているとカット弁PA1、PA2共に開状態に維持され、一方、ブレーキオーバーライド開始時点でのホイールシリンダ液圧Pw2が上記所定液圧Pwa未満となっているとカット弁PA1のみが開状態に維持される。これにより、ブレーキオーバーライドがなされた場合におけるブレーキフィーリングが向上する。
【0133】
次に、自動ブレーキ制御が実行されている場合(CONT=1)において自動ブレーキ制御の終了条件が成立した場合について説明する。この場合、図8のルーチンを繰り返し実行しているCPU51は、ステップ830に進んだとき「Yes」と判定してステップ835に進むようになり、自動ブレーキ制御実行フラグCONTの値を「1」から「0」に変更する。
【0134】
これにより、CPU51は、ステップ805に進んだとき「Yes」と判定するようになり、ステップ810、815にて自動ブレーキ制御の開始条件が成立しているか否かを再びモニタするようになる。
【0135】
また、これにより、図9のルーチンを繰り返し実行しているCPU51は、ステップ905に進んだとき「No」と判定してステップ920に進むようになり、総ての電磁弁を非励磁状態とし、且つ、モータMTを非駆動状態とする指示を行う。これにより、自動ブレーキ制御が終了する。
【0136】
更には、図10のルーチンを繰り返し実行しているCPU51は、ステップ1005に進んだとき「No」と判定してステップ1035に進み、ブレーキスイッチ42がオフ状態となっているか否かを判定し、「No」と判定する場合はステップ1095に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0137】
一方、ブレーキスイッチ42がオフ状態となっている場合(即ち、ブレーキ操作がなされておらず、マスタシリンダ液圧Pmが「0」となっている場合)、CPU51はステップ1035にて「Yes」と判定して上述したステップ1040に進んでカット弁PA1,PA2を閉状態にする指示を行う。即ち、自動ブレーキ制御の終了条件が成立してもブレーキペダル操作がなされている間は、カット弁PA1,PA2を閉状態にする指示がなされない。
【0138】
これにより、リザーバRA1,RA2の容量が最小容量(例えば、「0」)となった状態でカット弁PA1,PA2が閉弁されることが保証されるから、次に自動ブレーキ制御が開始されてブレーキオーバーライドがなされる場合においてリザーバRA1,RA2内に同リザーバの最大容量のブレーキ液がそれぞれ吸収され得ることが保証される。従って、ブレーキオーバーライド時において違和感の少ないブレーキフィーリングを安定して得ることができる。
【0139】
以上、説明したように、本発明の第1実施形態に係る自動ブレーキ制御装置は、マスタシリンダMCから吐出されたブレーキ液を吸収可能なリザーバRA1,RA2と、同リザーバRA1,RA2内へのブレーキ液の導入を許容・禁止可能なカット弁PA1,PA2とを備えた自動ブレーキ装置に適用される。この自動ブレーキ制御装置によれば、自動ブレーキ制御(本例では、低速走行時車間距離制御)が実行されている場合、ホイールシリンダ液圧Pw2が上記所定液圧Pwa以上になっているとカット弁PA1、PA2が共に開状態とされ、ホイールシリンダ液圧Pw2が上記所定液圧Pwa未満となっているとカット弁PA1のみが開状態とされる。そして、ブレーキオーバーライドが開始されると、カット弁PA1、PA2の状態が保持される。
【0140】
これにより、ブレーキオーバーライドがなされた場合、ホイールシリンダ液圧Pw2が上記所定液圧Pwa以上になっていると、ブレーキペダルストロークStに応じてマスタシリンダMCから吐出されるブレーキ液がリザーバRA1,RA2の最大容量分(ブレーキペダルストロークS2に相当)だけ同リザーバRA1,RA2内に吸収される。一方、ホイールシリンダ液圧Pw2が上記所定液圧Pwa未満になっていると、ブレーキペダルストロークStに応じてマスタシリンダMCから吐出されるブレーキ液がリザーバRA1のみの最大容量分(ブレーキペダルストロークS3に相当)だけ同リザーバRA1内に吸収される。
【0141】
よって、ブレーキオーバーライドがなされた場合におけるブレーキペダルストロークStとホイールシリンダ液圧Pwとの関係を図6に微細なドットで示した領域内に置くことができる。この結果、ブレーキペダルストロークStに対するホイールシリンダ液圧Pwが通常のブレーキ操作がなされた場合よりも小さくなる事態の発生を防止することができるとともに、ブレーキオーバーライドがなされた場合において違和感の少ないブレーキフィーリングを得ることができる。
【0142】
本発明は上記第1実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記第1実施形態においては、ブレーキオーバーライド開始時点でのホイールシリンダ液圧Pw2が上記所定液圧Pwa以上になっているか否かによってカット弁PA2の開閉状態が決定されるようになっているが、ブレーキオーバーライド開始時点でのホイールシリンダ液圧Pw1が上記所定液圧Pwa以上になっているか否かによってカット弁PA2の開閉状態が決定されるように構成してもよい。
【0143】
また、上記実施形態においては、リザーバRA1,RA2の最大容量が等しくなっているが、リザーバRA1,RA2の最大容量を異ならせてもよい。これにより、図6に微細なドットで示した領域をより一層自由に調整することができ、ブレーキオーバーライドがなされた場合においてより違和感の少ないブレーキフィーリングを得ることができる。
【0144】
また、上記第1実施形態においては、ブレーキオーバーライド時ブレーキ液吸収部38は、リザーバ(RA1,RA2)と電磁弁(PA1,PA2)とを系統毎に備えているが(図2を参照)、図11に示すように、何れか一方の系統のみにリザーバ(RA1)と電磁弁(PA1)とを備えるように構成してもよい。
【0145】
この場合、リザーバ(RA1)の最大容量は、上記第1実施形態におけるリザーバRA1,RA2の各最大容量の合計量とすることが好適である。また、この場合、リザーバ(RA1)が備えられる系統のマスタシリンダ容積を、上記第1実施形態におけるものよりも大きめに設定することが好ましい。
【0146】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る自動ブレーキ制御装置について説明する。この自動ブレーキ制御装置は、リザーバRA1,RA2、及びカット弁PA1,PA2に代えて減圧弁PD**を制御することで、ブレーキオーバーライドがなされた場合におけるブレーキストロークStとホイールシリンダ液圧Pwとの静的な関係を通常のブレーキ操作がなされた場合の関係に近づける点で第1実施形態と異なっている。従って、以下、係る相違点を中心に説明する。
【0147】
図12は、この第2実施形態に係る自動ブレーキ制御装置が適用される自動ブレーキ装置10が備えるブレーキ液圧制御装置30の概略構成を示している。この自動ブレーキ装置10は、ブレーキオーバーライド時ブレーキ液吸収部38を省略した点、ホイールシリンダ液圧センサ45−1,45−2を省略した点、各車輪のホイールシリンダ液圧Pw**を個別に検出するホイールシリンダ液圧センサ45**を新たに追加した点、ブレーキペダルストロークStを検出するブレーキペダルストロークセンサ46(ストローク取得手段。図1を参照)を新たに追加した点においてのみ、図1、及び図2に示した自動ブレーキ装置10と異なる。
【0148】
(第2実施形態の実際の作動)
以下、第2実施形態に係る自動ブレーキ制御装置の実際の作動について説明する。この装置のCPU51は、第1実施形態のCPU51が実行する図7〜図9に示した各ルーチンをそのまま実行するとともに、図10に示したルーチンに代えて図13にフローチャートにより示したルーチンを実行する。以下、第2実施形態に特有の図13に示したルーチンについて説明する。
【0149】
CPU51は、図13に示した減圧弁PD**の制御するためのルーチンを所定時間(例えば、6msec)の経過毎に繰り返し実行している。なお、この図13のルーチンの実行により特定処理実行手段の機能が達成される。
【0150】
従って、所定のタイミングになると、CPU51はステップ1300から処理を開始し、ステップ1305に進んで、自動ブレーキ制御実行フラグCONTの値が「1」になっていて、且つ、ブレーキスイッチ42がオン状態となっているか否か(即ち、ブレーキオーバーライドがなされているか否か)を判定し、「No」と判定する場合、ステップ1395に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0151】
いま、ブレーキオーバーライドがなされているものとすると、CPU51はステップ1305にて「Yes」と判定してステップ1310に進み、図9のステップ910にて設定されている目標差圧ΔPtに基づいて目標とする「ブレーキペダルストローク−ホイールシリンダ液圧特性」(目標St−Pw特性)を決定する。
【0152】
目標St−Pw特性としては、例えば、第1実施形態により得られる図6に示したブレーキオーバーライド時におけるSt−Pw特性が使用される。即ち、目標St−Pw特性は、例えば、目標差圧ΔPtが値PwCに設定されている場合には図6における破線Bで示される特性に設定され、目標差圧ΔPtが値PwHに設定されている場合には図6における一点鎖線Cで示される特性に設定され、目標差圧ΔPtが値PwLに設定されている場合には図6における二点鎖線Dで示される特性に設定される。
【0153】
このように、目標St−Pw特性は、図6の実線Aで示される通常のブレーキ操作がなされた場合におけるSt−Pw特性に近づくように、少なくとも通常のブレーキ操作がなされた場合におけるSt−Pw特性に基づいて決定される。このステップ1310は、目標決定手段に相当する。
【0154】
続いて、CPU51はステップ1315に進んで、ブレーキペダルストロークセンサ46から得られる現時点でのブレーキペダルストロークStと、上記決定された目標St−Pw特性とに基づいて目標液圧Ptを決定する。
【0155】
そして、CPU51はステップ1320に進み、各ホイールシリンダ液圧Pw**が上記決定された目標液圧Ptと一致するように減圧弁PD**に開・閉制御指示を与え、ステップ1395に進んで本ルーチンを一旦終了する。以降、ブレーキオーバーライドがなされている限りにおいて、CPU51は1305にて「Yes」と判定し、この結果、係る減圧弁PD**の制御が継続される。
【0156】
これにより、目標差圧ΔPtが値PwCに設定されている場合を例に採ると、ブレーキオーバーライド時におけるSt−Pw特性は、係る減圧弁PD**の制御が実行されない場合(減圧弁PD**が閉状態に維持される場合)は図4の破線Bで示す特性になるのに対し、係る減圧弁PD**の制御が実行される場合(第2実施形態の場合)には図6の破線Bで示す特性になる。即ち、第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、ブレーキオーバーライドがなされた場合において違和感の少ないブレーキフィーリングを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0157】
【図1】本発明の第1実施形態に係る自動ブレーキ制御装置を搭載した車両の概略構成図である。
【図2】図1に示したブレーキ液圧制御装置の概略構成図である。
【図3】図2に示した常開リニア電磁弁についての指令電流と指令差圧との関係を示したグラフである。
【図4】ブレーキペダルストロークとホイールシリンダ液圧との関係を、通常のブレーキ操作がなされた場合とブレーキオーバーライドがなされた場合とで比較しながら示したグラフである。
【図5】本発明の適用により得られる、ブレーキオーバーライドがなされた場合におけるブレーキペダルストロークとホイールシリンダ液圧との静的な関係を示したグラフである。
【図6】図5に示したブレーキオーバーライドがなされた場合におけるブレーキペダルストロークとホイールシリンダ液圧との静的な関係を更に改良した関係を示したグラフである。
【図7】図1に示したCPUが実行する車輪速度等を算出するためのルーチンを示したフローチャートである。
【図8】図1に示したCPUが実行する自動ブレーキ制御の開始・終了判定を行うためのルーチンを示したフローチャートである。
【図9】図1に示したCPUが実行する自動ブレーキ制御を行うためのルーチンを示したフローチャートである。
【図10】図1に示したCPUが実行するカット弁の開・閉制御を行うためのルーチンを示したフローチャートである。
【図11】本発明の第1実施形態の変形例に係る自動ブレーキ制御装置が適用される自動ブレーキ装置が備えるブレーキ液圧制御装置の概略構成図である。
【図12】本発明の第2実施形態に係る自動ブレーキ制御装置が適用される自動ブレーキ装置が備えるブレーキ液圧制御装置の概略構成図である。
【図13】本発明の第2実施形態に係る自動ブレーキ制御装置のCPUが実行する減圧弁の制御を行うためのルーチンを示したフローチャートである。
【図14】ブレーキペダルストロークとホイールシリンダ液圧との関係を、通常のブレーキ操作がなされた場合とブレーキオーバーライドがなされた場合とで比較しながら示したグラフである。
【符号の説明】
【0158】
10…車両の運動制御装置、30…ブレーキ液圧制御装置、41**…車輪速度センサ、42…ブレーキスイッチ、43…レーダセンサ、44…マスタシリンダ液圧センサ、45−1,45−2,45**…ホイールシリンダ液圧センサ、46…ブレーキペダルストロークセンサ、50…電気式制御装置、51…CPU、PA1,PA2…カット弁、RA1,RA2…リザーバ、SP1,SP2…コイルスプリング、PD**…減圧弁
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動ブレーキ装置を制御するための自動ブレーキ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、運転者によるブレーキペダル等のブレーキ操作部材の操作とは独立してホイールシリンダ液圧を自動制御する自動ブレーキ装置が広く知られている。例えば、下記特許文献1に記載の自動ブレーキ装置は、運転者によるブレーキ操作部材の操作とは独立して、同ブレーキ操作部材の操作に応じて発生するマスタシリンダ液圧よりも高いホイールシリンダ液圧を発生させるための加圧用液圧を発生可能な液圧ポンプと、上記液圧ポンプによる加圧用液圧を利用してマスタシリンダ液圧に対する加圧量を調整可能な常開リニア電磁弁とを備えている。
【0003】
この装置は、例えば、この装置を搭載した自車両と同自車両の前方を走行する前方車両との車間距離を検出し、同検出された車間距離が所定の基準値を下回った場合に、上記液圧ポンプ及び上記常開リニア電磁弁を制御する。そして、この装置は、これにより発生する「マスタシリンダ液圧に前記加圧量を加えた液圧」を利用してホイールシリンダ液圧を自動制御する自動ブレーキ制御を行うことで、運転者によるブレーキ操作部材の操作とは独立して自車両に自動的に制動力を付与するようになっている。
【特許文献1】特開2004−9914号公報
【0004】
ところで、一般の車両では、上述のような自動ブレーキ制御が実行されていない状態で運転者がブレーキペダルを操作した場合(以下、係るブレーキ操作を「通常のブレーキ操作」と呼ぶこともある。)、ブレーキペダルのストロークとホイールシリンダ液圧との関係は図14に実線で示すようになる。即ち、先ず、ブレーキペダルストロークが「0」から或る値SOに達するまでの初期段階では、ブレーキペダルストロークが増大してもホイールシリンダ液圧が殆ど増大せず、従って、この初期段階では車両の制動に寄与し得る程度のホイールシリンダ液圧が実質的に発生し得ない。
【0005】
これは、この初期段階では、ブレーキペダルストロークに応じてブレーキパッドがホイールシリンダ液圧が「0」のときに対応するブレーキディスクに接触していない位置からブレーキディスクに接触する位置(ブレーキディスクを押圧可能な位置)まで移動するからである。即ち、ブレーキペダルストロークに応じてマスタシリンダから吐出されるブレーキ液量の殆どが、上記ブレーキパッドの移動に伴うホイールシリンダ内のピストンの移動のために消費される。
【0006】
以下、上述したブレーキパッドの移動に伴うホイールシリンダ内のピストンの移動距離に相当するブレーキ液量を「無効液量」と称呼し、係る無効液量の全量がマスタシリンダから吐出される時点(従って、車両の制動に寄与し得る程度のホイールシリンダ液圧が実質的に発生開始する時点)に対応するブレーキペダルストローク(即ち、上記値S0)を「無効ストローク」と称呼することもある。
【0007】
そして、ブレーキペダルストロークが無効ストロークSOを超えた段階では、ブレーキパッドがブレーキディスクに既に接触している。この段階では、ブレーキペダルストロークの増大に応じて車両の制動に実質的に寄与し得るホイールシリンダ液圧が比較的大きな増加勾配をもって増大していく。この段階でのホイールシリンダ液圧の増加特性は、主として、ブレーキペダルとマスタシリンダとの間に介装された倍力装置(例えば、バキュームブースタ等)の作動特性、ホイールシリンダの弾性特性、ブレーキ配管の弾性特性、ブレーキパッドの弾性特性等に依存して決定される。
【0008】
一方、上述のような自動ブレーキ制御が既に実行されていてホイールシリンダ液圧が車両の制動に実質的に寄与し得る程度の値に維持されている状態で運転者がブレーキペダルを操作開始する場合を考える。以下、このような操作を「ブレーキオーバーライド」と呼ぶこともある。
【0009】
ブレーキオーバーライドがなされた場合、ブレーキペダルストロークが「0」の段階からブレーキパッドがブレーキディスクに既に接触しているから、上述した無効液量がホイールシリンダ内のピストンの移動のために消費されることがない。以下、例えば、自動ブレーキ制御により上記加圧量が値P0に維持され、この結果、ブレーキペダル操作開始時点(ブレーキオーバーライド開始時点)、即ち、ブレーキペダルストロークが「0」の時点でホイールシリンダ液圧が値P0になっている場合を例に採って説明する。
【0010】
この場合、ブレーキペダルストロークの「0」からの増大に対応するホイールシリンダ液圧の増加特性は、通常のブレーキ操作の場合におけるブレーキペダルストロークの値Sz(図14を参照)からの増大に対応するホイールシリンダ液圧の増加特性(図14の実線において点zから上の部分を参照)と一致する。
【0011】
即ち、この場合におけるブレーキペダルのストロークとホイールシリンダ液圧との関係(静的な関係)は、図14の実線におけるホイールシリンダ液圧が値P0以上に対応する部分(図14において点zから上の部分)をブレーキペダルストロークSzに相当する分だけ図14において左方向へ平行移動して得られる線(図14における破線を参照)で示される関係となる。
【0012】
このように、ブレーキペダルストロークとホイールシリンダ液圧との関係は、通常のブレーキ操作がなされた場合(図14における実線)と、ブレーキオーバーライドがなされた場合(図14における破線)とで大きく異なる。より具体的には、ブレーキオーバーライドがなされた場合、上記通常のブレーキ操作がなされた場合に比して、同一のブレーキペダルストロークに対するホイールシリンダ液圧(従って、車両に働く制動力)が相当に大きくなる。
【0013】
以上のことから、運転者が感じるブレーキフィーリングが、ブレーキオーバーライドがなされた場合と通常のブレーキ操作がなされた場合とで大きく異なることになり、この結果、ブレーキオーバーライドがなされた場合においてブレーキフィーリングに相当の違和感が発生するという問題があった。
【発明の開示】
【0014】
本発明は係る問題に対処するためになされたものであって、その目的は、ブレーキオーバーライドがなされた場合において違和感の少ないブレーキフィーリングを得ることができる自動ブレーキ制御装置を提供することにある。
【0015】
本発明に係る自動ブレーキ制御装置は、運転者によるブレーキ操作部材(例えば、ブレーキペダル)の操作とは独立して同ブレーキ操作部材の操作に応じて発生するマスタシリンダ液圧よりも高いホイールシリンダ液圧を発生させるための加圧用液圧を発生可能な加圧手段(例えば、液圧ポンプ)と、前記加圧手段による前記加圧用液圧を利用して前記マスタシリンダ液圧に対する加圧量を調整可能な調圧手段(例えば、リニア電磁弁)と、前記加圧手段、及び前記調圧手段を制御することにより発生する、前記マスタシリンダ液圧に前記加圧量を加えた液圧を利用して、前記運転者による前記ブレーキ操作部材の操作とは独立して前記ホイールシリンダ液圧を自動制御する自動ブレーキ制御を実行する自動ブレーキ制御手段とを備えた自動ブレーキ装置に適用される。
【0016】
本発明に係る自動ブレーキ制御装置の特徴は、前記自動ブレーキ制御手段により前記自動ブレーキ制御が実行されている場合、前記運転者による前記ブレーキ操作部材の操作ストロークと前記ホイールシリンダ液圧との関係を前記自動ブレーキ制御が実行されていない場合における同ブレーキ操作部材の操作ストロークと同ホイールシリンダ液圧との関係に近づけるための特定処理を実行する特定処理実行手段を備えたことにある。
【0017】
これによれば、自動ブレーキ制御が実行されている場合、運転者によるブレーキ操作部材の操作ストロークとホイールシリンダ液圧との関係(即ち、ブレーキオーバーライドがなされた場合における静的な関係)が、自動ブレーキ制御が実行されていない場合におけるブレーキ操作部材の操作ストロークとホイールシリンダ液圧との関係(即ち、通常のブレーキ操作がなされた場合における関係)に近づけられる。
【0018】
この結果、ブレーキオーバーライドがなされた場合におけるブレーキフィーリングが通常のブレーキ操作がなされた場合におけるものに近づけられ得るから、ブレーキオーバーライドがなされた場合において違和感の少ないブレーキフィーリングを得ることができる。
【0019】
より具体的には、上記本発明に係る自動ブレーキ制御装置が適用される前記自動ブレーキ装置は、マスタシリンダから吐出された前記マスタシリンダ液圧を有するブレーキ液を吸収可能なリザーバと、前記マスタシリンダ液圧を有するブレーキ液の前記リザーバ内への導入を許容・禁止可能な電磁弁とを更に備え、前記特定処理実行手段は、前記自動ブレーキ制御が実行されていない場合、前記マスタシリンダ液圧を有するブレーキ液の前記リザーバ内への導入が禁止されるように前記電磁弁を制御し、同自動ブレーキ制御が実行されている場合、前記特定処理として同ブレーキ液の同リザーバ内への導入が許容されるように同電磁弁を制御するよう構成されることが好適である。
【0020】
ここにおいて、「電磁弁」は、例えば、常閉電磁開閉弁等であってこれに限定されない。また、「リザーバ」が吸収し得るブレーキ液の最大量(リザーバの最大容量)は、例えば、上述した無効液量と同等程度の量に設定されることが好ましい。
【0021】
これによれば、自動ブレーキ制御が実行されている場合において運転者によるブレーキ操作部材の操作が開始された場合(即ち、ブレーキオーバーライドが開始された場合)、係る操作(操作ストローク)に応じてマスタシリンダから吐出されるマスタシリンダ液圧を有するブレーキ液がリザーバ内へ吸収され得る。即ち、リザーバの最大容量に相当するブレーキ液が、主として、ホイールシリンダ液圧の増大のためではなくリザーバ内への移動のために消費され得る。
【0022】
このことは、例えば、上述した図14の破線で示した例の場合(即ち、自動ブレーキ制御により上記加圧量が値P0に維持され、ブレーキペダルストロークが「0」の時点(ブレーキオーバーライド開始時点)でホイールシリンダ液圧が値P0になっている場合)、ブレーキペダルのストロークとホイールシリンダ液圧との静的な関係が、図14の破線をリザーバの最大容量に相当するブレーキペダルストロークだけ図14において右方向へ移動して得られる線で示される関係になる(近づく)ことを意味する。
【0023】
この結果、ブレーキオーバーライドがなされた場合におけるブレーキペダルのストロークとホイールシリンダ液圧との静的な関係が、図14の実線で示される関係(即ち、通常のブレーキ操作がなされた場合における関係)に近づけられ得るから、ブレーキオーバーライドがなされた場合におけるブレーキフィーリングが通常のブレーキ操作がなされた場合におけるものに近づけられ得る。
【0024】
この場合、前記リザーバは、同リザーバ内に吸収されたブレーキ液量の増加に応じて同リザーバ内のブレーキ液圧を増大させる液圧調整機構を備えることが好適である。これによれば、ブレーキオーバーライドがなされている場合において、ブレーキ操作部材の操作ストロークが「0」からリザーバの最大容量に相当する値に達するまでの初期段階において、マスタシリンダ液圧(従って、ホイールシリンダ液圧)を任意の増加勾配をもって増大させることができる。
【0025】
ここで、図14の実線から理解できるように、通常のブレーキ操作がなされた場合においても、ブレーキ操作部材の操作ストロークが「0」から上記無効ストロークに達するまでの初期段階では、車両の制動に寄与し得ない範囲内でホイールシリンダ液圧が徐々に増大していく。
【0026】
以上のことから、上記構成のようにリザーバに液圧調整機構を備えることで、ブレーキオーバーライドがなされた場合における初期段階でのホイールシリンダ液圧の増加勾配を通常のブレーキ操作がなされた場合における初期段階でのホイールシリンダ液圧の増加勾配に近づけることができる。この結果、ブレーキオーバーライドがなされた場合における初期段階でのブレーキフィーリングを通常のブレーキ操作がなされた場合におけるものにより一層近づけることができる。
【0027】
この液圧調整機構は、例えば、前記リザーバ内のブレーキ液圧に応じた力を受ける弾性部材の弾性力を利用することで簡易に構成することができる。
【0028】
上記リザーバと電磁弁とを備えた自動ブレーキ装置に適用される本発明に係る自動ブレーキ制御装置において同自動ブレーキ装置が、2系統のブレーキ液圧回路を備えるとともに前記リザーバと前記電磁弁とを系統毎に備えている場合、前記特定処理実行手段は、前記自動ブレーキ制御が実行されていない場合、前記マスタシリンダ液圧を有するブレーキ液の対応する前記リザーバ内への導入が禁止されるように前記2系統の電磁弁をそれぞれ制御するとともに、前記自動ブレーキ制御が実行されている場合、前記マスタシリンダ液圧を有するブレーキ液の対応する前記リザーバ内への導入が許容されるように一方の前記電磁弁を常に制御し、前記運転者による前記ブレーキ操作部材の操作が開始された時点での前記ホイールシリンダ液圧が大気圧よりも高い所定液圧以上になっていた場合にのみ同ブレーキ液の対応する前記リザーバ内への導入が許容されるように他方の前記電磁弁を制御するよう構成されることが好適である。
【0029】
自動ブレーキ制御が開始された時点以降、同自動ブレーキ制御が実行されている間に亘って前記マスタシリンダ液圧を有するブレーキ液の対応する前記リザーバ内への導入が常に許容されるように上記2系統の電磁弁をそれぞれ制御する場合について考える。いま、自動ブレーキ制御が実行されている場合において前記運転者による前記ブレーキ操作部材の操作が開始された時点(即ち、ブレーキオーバーライド開始時点)でのホイールシリンダ液圧(即ち、ブレーキオーバーライド開始時点での上記加圧量。図14における値P0に相当する。)が比較的低く、且つ、2系統のリザーバのそれぞれの最大容量の和が比較的大きい場合を想定する。
【0030】
そうすると、ブレーキペダルストロークに対するホイールシリンダ液圧が図14に実線で示した通常のブレーキ操作がなされた場合よりも小さくなる場合が発生し得る。即ち、ブレーキペダルストロークとホイールシリンダ液圧との関係を示す線(図14における破線に相当する。)が図14における実線よりも図14において下方(或いは、右方)に偏移する場合が発生し得る。
【0031】
ブレーキペダルストロークに対するホイールシリンダ液圧が通常のブレーキ操作がなされた場合よりも小さくなる事態が発生することは、運転者が期待する制動力が得られないことに繋がり、従って、ブレーキフィーリングに相当の違和感を発生させることになるから好ましくない。
【0032】
以上のことから、ブレーキオーバーライド開始時点でのホイールシリンダ液圧が比較的低い場合、ブレーキ液の対応するリザーバ内への導入が許容開始されるように上記2系統の電磁弁をそれぞれ制御することは好ましくない。
【0033】
これに対し、上記構成のように、ブレーキオーバーライド開始時点でのホイールシリンダ液圧が大気圧よりも高い所定液圧以上になっていた場合にのみブレーキ液の対応するリザーバ内への導入が許容されるように他方の電磁弁を制御すれば、ブレーキオーバーライド開始時点でのホイールシリンダ液圧が上記所定液圧未満の場合においてブレーキ液の上記一方の電磁弁に対応するリザーバのみへの導入が許容される。
【0034】
これにより、ブレーキオーバーライド開始時点でのホイールシリンダ液圧が上記所定液圧未満の場合、ブレーキ液の上記2系統のリザーバへのそれぞれの導入が許容される場合に比してブレーキペダルストロークに対するホイールシリンダ液圧を大きくすることができる。この結果、ブレーキペダルストロークに対するホイールシリンダ液圧が通常のブレーキ操作がなされた場合よりも小さくなる事態の発生を防止することができ、従って、ブレーキフィーリングにおける上記相当の違和感の発生を防止することができる。
【0035】
また、上記本発明に係る自動ブレーキ制御装置が適用される前記自動ブレーキ装置は、前記ホイールシリンダ液圧を前記マスタシリンダ液圧に前記加圧量を加えた液圧よりも低い液圧に調整するための減圧弁を更に備えるとともに、前記運転者による前記ブレーキ操作部材の操作ストロークを取得するストローク取得手段と、前記自動ブレーキ制御が実行されている場合、前記自動ブレーキ制御が実行されていない場合における前記運転者による前記ブレーキ操作部材の操作ストロークと前記ホイールシリンダ液圧との関係に少なくとも基づいて同ブレーキ操作部材の操作ストロークと同ホイールシリンダ液圧との関係の目標を決定する目標決定手段とを更に備え、前記特定処理実行手段は、前記自動ブレーキ制御が実行されている場合であって前記運転者による前記ブレーキ操作部材の操作がなされている場合、前記取得された操作ストロークと、前記決定された関係の目標とから前記ホイールシリンダ液圧の目標値を決定するとともに、前記ホイールシリンダ液圧が同目標値に一致するように、前記特定処理として前記減圧弁を制御するよう構成されることが好適である。
【0036】
これによれば、ブレーキオーバーライドがなされている場合、自動ブレーキ制御が実行されていない場合における運転者によるブレーキ操作部材の操作ストロークとホイールシリンダ液圧との関係(即ち、図14の実線に示す関係)に少なくとも基づいてブレーキ操作部材の操作ストロークと同ホイールシリンダ液圧との関係の目標が決定される。そして、ブレーキオーバーライドがなされている場合におけるブレーキ操作部材の操作ストロークとホイールシリンダ液圧との関係が上記関係の目標と一致するように上記減圧弁が制御される。
【0037】
従って、ブレーキオーバーライドがなされた場合におけるブレーキペダルのストロークとホイールシリンダ液圧との静的な関係を、図14の実線で示される関係(即ち、通常のブレーキ操作がなされた場合における関係)に近づけることができる。このように、上記リザーバ及び電磁弁に代えて上記減圧弁を使用しても、ブレーキオーバーライドがなされた場合におけるブレーキフィーリングを通常のブレーキ操作がなされた場合におけるものに近づけることができる。
【0038】
また、この減圧弁としては、周知の自動ブレーキ装置に使用されているホイールシリンダ液圧制御用の減圧弁がそのまま使用され得る。従って、この場合、周知の自動ブレーキ装置をそのまま本発明に係る自動ブレーキ制御装置に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明による自動ブレーキ制御装置の各実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る自動ブレーキ制御装置が適用される自動ブレーキ装置10を搭載した車両の概略構成を示している。
【0040】
(第1実施形態)
この自動ブレーキ装置10は、各車輪にブレーキ液圧による制動力を発生させるためのブレーキ液圧制御装置30を含んで構成されている。
【0041】
ブレーキ液圧制御装置30は、その概略構成を表す図2に示すように、ブレーキペダルBPの操作力に応じたブレーキ液圧を発生するブレーキ液圧発生部32と、車輪RR,FL,FR,RLにそれぞれ配置されたホイールシリンダWrr,Wfl,Wfr,Wrlに供給するブレーキ液圧をそれぞれ調整可能なRRブレーキ液圧調整部33,FLブレーキ液圧調整部34,FRブレーキ液圧調整部35,RLブレーキ液圧調整部36と、還流ブレーキ液供給部37と、ブレーキオーバーライド時ブレーキ液吸収部38を含んで構成されている。
【0042】
ブレーキ液圧発生部32は、ブレーキペダルBPの作動により応動するバキュームブースタVBと、同バキュームブースタVBに連結されたマスタシリンダMCとから構成されている。バキュームブースタVBは、図示しないエンジンの吸気管内の空気圧力(負圧)を利用してブレーキペダルBPの操作力を所定の割合で助勢し同助勢された操作力をマスタシリンダMCに伝達するようになっている。
【0043】
マスタシリンダMCは、第1ポート、及び第2ポートからなる2系統の出力ポートを有していて、リザーバRSからのブレーキ液の供給を受けて、前記助勢された操作力に応じた第1マスタシリンダ液圧Pmを第1ポートから発生するようになっているとともに、同第1マスタシリンダ液圧と略同一の液圧である前記助勢された操作力に応じた第2マスタシリンダ液圧Pmを第2ポートから発生するようになっている。
【0044】
これらマスタシリンダMC及びバキュームブースタVBの構成及び作動は周知であるので、ここではそれらの詳細な説明を省略する。このようにして、マスタシリンダMC及びバキュームブースタVB(ブレーキ液圧発生手段)は、ブレーキペダルBPの操作力に応じた第1マスタシリンダ液圧及び第2マスタシリンダ液圧をそれぞれ発生するようになっている。
【0045】
マスタシリンダMCの第1ポートと、RRブレーキ液圧調整部33の上流部及びFLブレーキ液圧調整部34の上流部の各々との間には、常開リニア電磁弁PC1が介装されている。同様に、マスタシリンダMCの第2ポートと、FRブレーキ液圧調整部35の上流部及びRLブレーキ液圧調整部36の上流部の各々との間には、常開リニア電磁弁PC2が介装されている。係る常開リニア電磁弁PC1,PC2(調圧手段)の作動の詳細については後述する。
【0046】
RRブレーキ液圧調整部33は、2ポート2位置切換型の常開電磁開閉弁である増圧弁PUrrと、2ポート2位置切換型の常閉電磁開閉弁である減圧弁PDrrとから構成されている。増圧弁PUrrは、RRブレーキ液圧調整部33の上流部と後述するホイールシリンダWrrとを連通、或いは遮断できるようになっている。減圧弁PDrrは、ホイールシリンダWrrとリザーバRS1とを連通、或いは遮断できるようになっている。この結果、増圧弁PUrr、及び減圧弁PDrrを制御することでホイールシリンダWrr内のブレーキ液圧(ホイールシリンダ液圧Pwrr)が増圧・保持・減圧され得るようになっている。
【0047】
加えて、増圧弁PUrrにはブレーキ液のホイールシリンダWrr側からRRブレーキ液圧調整部33の上流部への一方向の流れのみを許容するチェック弁CV1が並列に配設されていて、これにより、操作されているブレーキペダルBPが開放されたときホイールシリンダ液圧Pwrrが迅速に減圧されるようになっている。
【0048】
同様に、FLブレーキ液圧調整部34,FRブレーキ液圧調整部35、RLブレーキ液圧調整部36は、それぞれ、増圧弁PUfl及び減圧弁PDfl,増圧弁PUfr及び減圧弁PDfr,増圧弁PUrl及び減圧弁PDrlから構成されており、これらの増圧弁及び減圧弁が制御されることにより、ホイールシリンダWfl,ホイールシリンダWfr及びホイールシリンダWrl内のブレーキ液圧(ホイールシリンダ液圧Pwfl,Pwfr,Pwrl)をそれぞれ増圧、保持、減圧できるようになっている。また、増圧弁PUfl,PUfr及びPUrlの各々にも、上記チェック弁CV1と同様の機能を達成し得るチェック弁CV2,CV3及びCV4がそれぞれ並列に配設されている。
【0049】
還流ブレーキ液供給部37は、直流モータMTと、同モータMTにより同時に駆動される2つの液圧ポンプ(ギヤポンプ)HP1,HP2(加圧手段)を含んでいる。液圧ポンプHP1は、減圧弁PDrr,PDflから還流されてきたリザーバRS1内のブレーキ液を汲み上げ、同汲み上げたブレーキ液をチェック弁CV8を介してRRブレーキ液圧調整部33及びFLブレーキ液圧調整部34の上流部に供給するようになっている。
【0050】
同様に、液圧ポンプHP2は、減圧弁PDfr,PDrlから還流されてきたリザーバRS2内のブレーキ液を汲み上げ、同汲み上げたブレーキ液をチェック弁CV11を介してFRブレーキ液圧調整部35及びRLブレーキ液圧調整部36の上流部に供給するようになっている。
【0051】
ブレーキオーバーライド時ブレーキ液吸収部38は、マスタシリンダMCの第1ポートと常開リニア電磁弁PC1との間の液圧回路に接続されたリザーバRA1と、マスタシリンダMCの第1ポートと常開リニア電磁弁PC1との間の液圧回路からリザーバRA1へのブレーキ液の導入を許容・禁止可能な常閉電磁開閉弁であるカット弁PA1と、マスタシリンダMCの第2ポートと常開リニア電磁弁PC2との間の液圧回路に接続されたリザーバRA2と、マスタシリンダMCの第2ポートと常開リニア電磁弁PC2との間の液圧回路からリザーバRA2へのブレーキ液の導入を許容・禁止可能な常閉電磁開閉弁であるカット弁PA2とを備えている。
【0052】
リザーバRA1,RA2には、内部のブレーキ液圧に応じた力を受けて縮むコイルスプリングSP1,SP2(弾性部材、液圧調整機構)が底部においてそれぞれ配設されている。これにより、リザーバRA1,RA2の容量は、内部のブレーキ液圧(即ち、マスタシリンダ液圧Pm)の増加に応じて増大するようになっている。換言すれば、リザーバRA1,RA2の内部のブレーキ液圧(即ち、第1、第2マスタシリンダ液圧Pm)は、内部に吸収されたブレーキ液の量の増加に応じて、コイルスプリングSP1,SP2のバネ定数(及び、底部の受圧面積)により決定される勾配をもって増大するようになっている。なお、リザーバRA1,RA2の諸元(バネ定数、最大容量等)は互いに全て等しい。
【0053】
次に、常開リニア電磁弁PC1について説明する。常開リニア電磁弁PC1の弁体には、図示しないコイルスプリングからの付勢力に基づく開方向の力が常時作用しているとともに、RRブレーキ液圧調整部33の上流部及びFLブレーキ液圧調整部34の上流部の圧力Pw1から第1マスタシリンダ液圧Pmを減じることで得られる差圧(以下、単に「実差圧ΔP」と云うこともある。)に基づく開方向の力と、常開リニア電磁弁PC1への通電電流(従って、指令電流Id)に応じて比例的に増加する吸引力に基づく閉方向の力が作用するようになっている。
【0054】
この結果、図3に示したように、上記吸引力に相当する指令差圧ΔPdが指令電流Idに応じて比例的に増加するように決定される。ここで、I0はコイルスプリングの付勢力に相当する電流値である。そして、常開リニア電磁弁PC1は、係る指令差圧ΔPdが上記実差圧ΔPよりも大きいときに閉弁してマスタシリンダMCの第1ポートと、RRブレーキ液圧調整部33の上流部及びFLブレーキ液圧調整部34の上流部との連通を遮断する。
【0055】
一方、常開リニア電磁弁PC1は、指令差圧ΔPdが実差圧ΔPよりも小さいとき開弁してマスタシリンダMCの第1ポートと、RRブレーキ液圧調整部33の上流部及びFLブレーキ液圧調整部34の上流部とを連通する。この結果、(液圧ポンプHP1から供給されている)RRブレーキ液圧調整部33の上流部及びFLブレーキ液圧調整部34の上流部のブレーキ液が常開リニア電磁弁PC1を介してマスタシリンダMCの第1ポート側に流れることで実差圧ΔPが指令差圧ΔPdに一致するように調整され得るようになっている。なお、マスタシリンダMCの第1ポート側へ流入したブレーキ液はリザーバRS1へと還流される。
【0056】
換言すれば、モータMT(従って、液圧ポンプHP1,HP2)が駆動されている場合、常開リニア電磁弁PC1への指令電流Idに応じて上記実差圧ΔP(の許容最大値)が制御され得るようになっている。このとき、上記圧力Pw1は、第1マスタシリンダ液圧Pmに実差圧ΔP(従って、指令差圧ΔPd)を加えた値(Pm+ΔPd)となる。
【0057】
他方、常開リニア電磁弁PC1を非励磁状態にすると(即ち、指令電流Idを「0」に設定すると)、常開リニア電磁弁PC1はコイルスプリングの付勢力により開状態を維持するようになっている。このとき、実差圧ΔPが「0」になって、上記圧力Pw1が第1マスタシリンダ液圧Pmと等しくなる。
【0058】
常開リニア電磁弁PC2も、その構成・作動について常開リニア電磁弁PC1のものと同様である。従って、モータMT(従って、液圧ポンプHP1,HP2)が駆動されている場合、常開リニア電磁弁PC2への指令電流Idに応じて、FRブレーキ液圧調整部35の上流部、及びRLブレーキ液圧調整部36の上流部の圧力Pw2は、第2マスタシリンダ液圧Pmに指令差圧ΔPd(加圧量)を加えた値(Pm+ΔPd)となる。他方、常開リニア電磁弁PC2を非励磁状態にすると、上記圧力Pw2が第2マスタシリンダ液圧Pmと等しくなる。
【0059】
加えて、常開リニア電磁弁PC1には、ブレーキ液の、マスタシリンダMCの第1ポートから、RRブレーキ液圧調整部33の上流部及びFLブレーキ液圧調整部34の上流部への一方向の流れのみを許容するチェック弁CV5が並列に配設されている。これにより、常開リニア電磁弁PC1への指令電流Idに応じて実差圧ΔPが制御されている間においても、ブレーキペダルBPが操作されることで第1マスタシリンダ液圧Pmが上記圧力Pw1よりも高い圧力になったとき、ブレーキペダルBPの操作力に応じたブレーキ液圧(即ち、第1マスタシリンダ液圧Pm)そのものがホイールシリンダWrr,Wflに供給され得るようになっている。また、常開リニア電磁弁PC2にも、上記チェック弁CV5と同様の機能を達成し得るチェック弁CV6が並列に配設されている。
【0060】
以上、説明したように、ブレーキ液圧制御装置30は、右後輪RRと左前輪FLとに係わる系統と、左後輪RLと右前輪FRとに係わる系統の2系統の液圧回路から構成されている。ブレーキ液圧制御装置30は、全ての電磁弁が非励磁状態にあるときブレーキペダルBPの操作力に応じたブレーキ液圧(即ち、マスタシリンダ液圧Pm)をホイールシリンダW**にそれぞれ供給できるようになっている。即ち、「Pw1,Pw2,Pw**=Pm」が成立する。
【0061】
なお、各種変数等の末尾に付された「**」は、同各種変数等が各車輪FR等のいずれに関するものであるかを示すために同各種変数等の末尾に付される「fl」,「fr」等の包括表記であって、例えば、ホイールシリンダW**は、左前輪用ホイールシリンダWfl,
右前輪用ホイールシリンダWfr, 左後輪用ホイールシリンダWrl, 右後輪用ホイールシリンダWrrを包括的に示している。
【0062】
他方、この状態において、モータMT(従って、液圧ポンプHP1,HP2)を駆動するとともに、常開リニア電磁弁PC1,PC2を指令電流Idをもってそれぞれ励磁すると、マスタシリンダ液圧Pmよりも指令電流Idに応じて決定される指令差圧ΔPdだけ高いブレーキ液圧をホイールシリンダW**にそれぞれ供給できるようになっている。即ち、「Pw1,Pw2,Pw**=Pm+ΔPd」が成立する。
【0063】
これにより、ブレーキ液圧制御装置30は、後述する電気式制御装置50からの指示により、マスタシリンダ液圧Pmに指令差圧ΔPd(加圧量)を加えた液圧を利用して、運転者によるブレーキペダルBPの操作にかかわらず、自動ブレーキ制御(低速走行時車間距離制御)を達成できるようになっている。
【0064】
加えて、ブレーキ液圧制御装置30は、増圧弁PU**、及び減圧弁PD**を制御することでホイールシリンダ液圧Pw**を個別に調整できるようになっている。特に、減圧弁PD**を制御することにより、ホイールシリンダ液圧Pw**をマスタシリンダ液圧Pmに指令差圧ΔPd(加圧量)を加えた液圧よりも低い液圧に調整することができる。即ち、ブレーキ液圧制御装置30は、運転者によるブレーキペダルBPの操作にかかわらず、各車輪に付与される制動力を車輪毎に個別に調整できるようになっている。
【0065】
再び図1を参照すると、この自動ブレーキ装置10は、車輪FL,FR,RL及びRRの車輪速度に応じた周波数を有する信号をそれぞれ出力する電磁ピックアップ式の車輪速度センサ41fl,41fr,41rl及び41rrと、ブレーキペダルBPの操作の有無に応じてオン状態又はオフ状態になる信号を出力するブレーキスイッチ42と、自車両の前方を走行する前方車両と自車両との車間距離を検出し、同車間距離Lを示す信号を出力するレーダセンサ43と、(第1)マスタシリンダ液圧を検出し、マスタシリンダ液圧Pmを示す信号を出力するマスタシリンダ液圧センサ44(図2を参照)と、RRブレーキ液圧調整部33とFLブレーキ液圧調整部34の上流部の圧力、及びFRブレーキ液圧調整部35とRLブレーキ液圧調整部36の上流部の圧力をそれぞれ検出し、ホイールシリンダ液圧Pw1及びPw2を示す信号をそれぞれ出力するホイールシリンダ液圧センサ45−1,45−2(図2を参照)とを備えている。
【0066】
また、自動ブレーキ装置10は電気式制御装置50を備えている。電気式制御装置50は、互いにバスで接続されたCPU51、CPU51が実行するルーチン(プログラム)、テーブル(ルックアップテーブル、マップ)、定数等を予め記憶したROM52、CPU51が必要に応じてデータを一時的に格納するRAM53、電源が投入された状態でデータを格納するとともに同格納したデータを電源が遮断されている間も保持するバックアップRAM54、及びADコンバータを含むインターフェース55等からなるマイクロコンピュータである。インターフェース55は、前記センサ等41〜45と接続され、センサ等41〜45からの信号をCPU51に供給するとともに、同CPU51の指示に応じてブレーキ液圧制御装置30の各電磁弁及びモータMTに駆動信号を送出するようになっている。
【0067】
(自動ブレーキ制御の概要)
次に、上記構成を有する本発明の第1実施形態に係る自動ブレーキ制御装置が適用される自動ブレーキ装置10(以下、「本装置」と云うこともある。)が実行する自動ブレーキ制御(低速走行時車間距離制御)の概要について説明する。この自動ブレーキ制御は、渋滞時等、車両が比較的低速で走行している場合において、自車両と自車両の前方を走行する前方車両との車間距離Lが所定基準値以下となる等の後述する自動ブレーキ制御開始条件が成立すると、適切な車間距離Lを維持するために運転者のブレーキペダル操作とは独立して車両に所定の制動力を自動的に発生させる制御である。
【0068】
具体的には、本装置は、自動ブレーキ制御開始条件が成立すると、上記実差圧ΔP(加圧量)の目標値である目標差圧ΔPt(下限値PwL≦ΔPt≦上限値PwH)を後述するように決定し、実差圧ΔPが目標差圧ΔPtと一致するようにモータMT、及び常開リニア電磁弁PC1,PC2を制御する。これにより、ホイールシリンダ液圧Pw1,Pw2(=Pw**)がマスタシリンダ液圧Pmよりも目標差圧ΔPtだけ高い圧力に制御され、この結果、車両に目標液圧ΔPtに応じた制動力が自動的に発生する。以上が、自動ブレーキ制御の概要である。
【0069】
(ブレーキオーバーライド時におけるブレーキフィーリングの向上)
次に、上述した自動ブレーキ制御が既に実行されている状態で運転者によるブレーキペダル操作(即ち、ブレーキオーバーライド)がなされた場合における、上記ブレーキオーバーライド時ブレーキ液吸収部38の作用によるブレーキフィーリングの向上について説明する。
【0070】
本装置では、上述した自動ブレーキ制御が実行されていない状態で運転者がブレーキペダルを操作した場合(即ち、上述した「通常のブレーキ操作」がなされた場合)、ブレーキペダルBPのストロークStとホイールシリンダ液圧Pwとの関係(静的な関係)は、上述した図14に示した実線と同様、図4に実線Aで示すようになる。
【0071】
即ち、先ず、ブレーキペダルストロークStが「0」から無効ストロークSOに達するまでの初期段階では、上述した無効液量の消費により、ブレーキペダルストロークStが増大してもホイールシリンダ液圧Pwが殆ど増大しない。従って、車両の制動に寄与し得る程度のホイールシリンダ液圧Pwが実質的に発生し得ない。換言すれば、上記下限値PwLは、実線Aにおける無効ストロークS0に対応するホイールシリンダ液圧Pwよりも高い値である。
【0072】
ブレーキペダルストロークが無効ストロークSOを超えた段階では、ブレーキパッドがブレーキディスクに既に接触している。この段階では、ブレーキペダルストロークStの増大に応じて車両の制動に実質的に寄与し得るホイールシリンダ液圧Pwが実線Aに示すように比較的大きな増加勾配をもって増大していく。この段階でのホイールシリンダ液圧Pwの増加特性は、主として、バキュームブースタVB(図2を参照)の作動特性、並びに、ホイールシリンダW**、ブレーキ配管、ブレーキパッドの弾性特性等に依存して決定される。
【0073】
次に、ブレーキオーバーライドがなされた場合におけるブレーキペダルBPのストロークStとホイールシリンダ液圧Pwとの関係(静的な関係)について考える。先ず、本装置において上記ブレーキオーバーライド時ブレーキ液吸収部38が配設されていないものと仮定した場合について説明する。
【0074】
以下、上記自動ブレーキ制御により上記目標差圧ΔPt(従って、実差圧ΔP)が或る値PwC(PwL<PwC<PwH)に維持され、この結果、運転者によるブレーキペダル操作開始時点(即ち、オーバーライド開始時点。St=0)でホイールシリンダ液圧Pwが上記値PwCに制御されている場合を例に採って説明する。
【0075】
ブレーキオーバーライドがなされる場合、ブレーキペダルストロークStが「0」の段階からブレーキパッドがブレーキディスクに既に接触しているから上記無効液量の消費が発生しない。この結果、ブレーキペダルストロークStの「0」からの増大に対応するホイールシリンダ液圧Pwの増加特性は、通常のブレーキ操作の場合におけるブレーキペダルストロークStの「ホイールシリンダ液圧Pw=PwC」となる場合に対応する値S1(図4を参照)からの増大に対応するホイールシリンダ液圧Pwの増加特性(即ち、実線Aにおいて点aから上の部分)と一致する。
【0076】
換言すれば、この場合におけるブレーキペダルBPのストロークStとホイールシリンダ液圧Pwとの関係(静的な関係)は、図4に破線Bで示すように、実線Aにおけるホイールシリンダ液圧Pwが値PwC以上に対応する部分(実線Aにおける点aから上の部分)をブレーキペダルストロークS1に相当する分だけ図4において左方向へ平行移動して得られる線で示される関係と一致する。
【0077】
このように、上記ブレーキオーバーライド時ブレーキ液吸収部38が配設されていないものと仮定すると、ブレーキオーバーライドがなされた場合(図4の破線B)、通常のブレーキ操作がなされた場合(図4の実線A)に比して、同一のブレーキペダルストロークStに対するホイールシリンダ液圧Pw(従って、車両に働く制動力)が相当に大きくなる。この結果、ブレーキオーバーライドがなされた場合において運転者が感じるブレーキフィーリングに相当の違和感が発生する。
【0078】
これに対し、本装置は、上述したように、実際には上記ブレーキオーバーライド時ブレーキ液吸収部38を備えている。そして、本装置は、上記自動ブレーキ制御が実行されていない場合、上記カット弁PA1,PA2を非励磁状態(従って、閉状態)に維持する。一方、自動ブレーキ制御が実行されている場合、先ず、カット弁PA1,PA2が共に励磁状態(従って、開状態)に維持される場合について考える。
【0079】
この場合、例えば、上述した図4の破線Bで示した例の場合と同様、自動ブレーキ制御により目標差圧ΔPtが値PwCに維持されてブレーキペダルストロークStが「0」の時点でホイールシリンダ液圧Pwが値PwCになっている場合を例に採って説明すると、ブレーキオーバーライドがなされた場合におけるブレーキペダルストロークStとホイールシリンダ液圧Pwとの静的な関係は、図5に破線Bで示すようになる。
【0080】
なお、図5において、値S2は、リザーバRA1,RA2の各最大容量の和に対応するブレーキペダルストロークStであり、本例では、先の図4の値S1と等しい。また、図5における実線Aは、図4と同様、通常のブレーキ操作がなされた場合におけるブレーキペダルストロークStとホイールシリンダ液圧Pwとの関係を示している。以下、図5の破線Bについて説明する。
【0081】
先ず、ブレーキペダルストロークStが「0」から値S2に達するまでの初期段階では、ブレーキペダルストロークStの増加に応じてマスタシリンダMCから吐出されるブレーキ液の総てがリザーバRA1,RA2に吸収されていく(従って、リザーバRA1,RA2の容量が最小容量(例えば、「0」)から増大していく)。
【0082】
この結果、上述したように、リザーバRA1,RA2内部のブレーキ液圧(即ち、マスタシリンダ液圧Pm)がコイルスプリングSP1,SP2のバネ定数(及び、リザーバ底部の受圧面積)により決定される勾配をもって「0」から増大していく。これに伴い、図5の破線Bに示すように、ホイールシリンダ液圧Pw1,Pw2(=Pm+ΔPt)も、目標差圧ΔPtが値PwCで一定に維持されていることに起因して、値PwCから点b(図5を参照)に対応する値まで同じ勾配をもって増大していく。
【0083】
ブレーキペダルストロークStが値S2に達すると、リザーバRA1,RA2の容量が最大容量となるからリザーバRA1,RA2は更なるブレーキ液を吸収することができなくなる。従って、ブレーキペダルストロークStの値S2からの増大に対応するホイールシリンダ液圧Pwの増加特性は、通常のブレーキ操作の場合(図5における実線A)におけるブレーキペダルストロークStの「ホイールシリンダ液圧Pwが点bに対応する値」となる場合に対応する値からの増大に対応するホイールシリンダ液圧Pwの増加特性(即ち、実線Aにおいて点b’から上の部分)と一致する。
【0084】
換言すれば、ブレーキペダルストロークStが値S2を越える場合におけるブレーキペダルストロークStとホイールシリンダ液圧Pwとの関係(静的な関係)は、図5に破線Bで示すように、実線Aにおける点b’から上の部分を点b’が点bに一致するまで図5において左方向へ平行移動して得られる線で示される関係と一致する。
【0085】
ここで、図5の破線Bと図4の破線Bとを比較すれば明らかなように、図5の破線Bで示される関係は、図4の破線Bで示される関係よりも、通常のブレーキ操作がなされた場合に対応する関係(実線Aで示される関係)により近い関係となる。即ち、自動ブレーキ制御が実行されている場合にカット弁PA1,PA2を共に開状態とすることで、ブレーキオーバーライドがなされた場合において違和感の少ないブレーキフィーリングを得ることができる。
【0086】
また、自動ブレーキ制御における目標差圧ΔPtが上限値PwHに維持されてブレーキペダルストロークStが「0」の時点でホイールシリンダ液圧Pwが同上限値PwHになっている場合、ブレーキペダルストロークStとホイールシリンダ液圧Pwとの関係(静的な関係)は、図5の一点鎖線Cで示されるようになる。
【0087】
即ち、ブレーキペダルストロークStが「0」から値S2に達するまでの初期段階では、ブレーキペダルストロークStの増加に応じてホイールシリンダ液圧Pw1,Pw2(=Pm+ΔPt)が値PwHから点c(図5を参照)に対応する値まで破線Bと同じ勾配をもって増大していく。
【0088】
ブレーキペダルストロークStが値S2を超えると、ブレーキペダルストロークStとホイールシリンダ液圧Pwとの関係(静的な関係)は、実線Aにおける点c’から上の部分を点c’が点cに一致するまで図5において左方向へ平行移動して得られる線で示される関係となる。
【0089】
同様に、自動ブレーキ制御における目標差圧ΔPtが下限値PwLに維持されてブレーキペダルストロークStが「0」の時点でホイールシリンダ液圧Pwが同下限値PwLになっている場合、ブレーキペダルストロークStとホイールシリンダ液圧Pwとの関係(静的な関係)は、図5の二点鎖線Dで示されるようになる。
【0090】
即ち、ブレーキペダルストロークStが「0」から値S2に達するまでの初期段階では、ブレーキペダルストロークStの増加に応じてホイールシリンダ液圧Pw1,Pw2(=Pm+ΔPt)が値PwLから点d(図5を参照)に対応する値まで破線Bと同じ勾配をもって増大していく。
【0091】
ブレーキペダルストロークStが値S2を超えると、ブレーキペダルストロークStとホイールシリンダ液圧Pwとの関係(静的な関係)は、実線Aにおける点d’から上の部分を点d’が点dに一致するまで図5において右方向へ平行移動して得られる線で示される関係となる。
【0092】
以上のことから、自動ブレーキ制御が実行されている場合(即ち、目標差圧ΔPtが下限値PwL以上、上限値PwH以下の或る値に設定されている場合)、カット弁PA1,PA2を共に開状態とすることで、ブレーキペダルストロークStとホイールシリンダ液圧Pwとの関係(静的な関係)を、図5の一点鎖線Cと二点鎖線Dとで挟まれた領域内(図5において微細なドットで示される領域を参照。)に置くことができる。
【0093】
従って、図5の一点鎖線Cと二点鎖線Dとで挟まれた領域内と図4の破線Bとの比較から明らかなように、自動ブレーキ制御中における目標差圧ΔPt(加圧量)が下限値PwLと上限値PwHとの間で変動しても、ブレーキペダルストロークStとホイールシリンダ液圧Pwとの関係は、図4の破線Bで示される関係よりも、通常のブレーキ操作がなされた場合に対応する関係(実線Aで示される関係)により近い関係となり得る。即ち、自動ブレーキ制御中における目標差圧ΔPt(加圧量)にかかわらず、ブレーキオーバーライドがなされた場合において違和感の少ないブレーキフィーリングを得ることができる。
【0094】
また、図5の一点鎖線Cと二点鎖線Dとで挟まれた領域は、ブレーキペダルストロークStが「0」から値S2に達するまでのホイールシリンダ液圧Pwの増加勾配(従って、コイルスプリングSP1,SP2のバネ定数)、及び値S2(従って、リザーバRA1,RA2の各最大容量)に基づいて決定される。従って、リザーバRA1,RA2の各最大容量、及びコイルスプリングSP1,SP2のバネ定数を適宜調整することで、ブレーキオーバーライドがなされた場合においてより違和感の少ないブレーキフィーリングを得ることが可能となる。
【0095】
(ブレーキペダルストロークに対するホイールシリンダ液圧が通常のブレーキ操作がなされた場合よりも小さくなる事態の発生の防止)
上述した図5の一点鎖線Cと二点鎖線Dとで挟まれた領域には、図5の実線Aよりも図5において下方(或いは、右方)に位置する部分が存在している。換言すれば、ブレーキペダルストロークStに対するホイールシリンダ液圧Pwが通常のブレーキ操作がなされた場合よりも小さくなる場合が発生している。
【0096】
このことは、運転者が期待する制動力が得られないことに繋がり、従って、ブレーキフィーリングに相当の違和感を発生させることになるから好ましくない。即ち、ブレーキペダルストロークStに対するホイールシリンダ液圧Pwが通常のブレーキ操作がなされた場合よりも小さくなる事態の発生を防止する必要がある。
【0097】
このため、図6に示すように、所定液圧Pwaを導入し、オーバーライド開始時点でのホイールシリンダ液圧Pw(PwL≦Pw≦PwH)が所定液圧Pwa以上の場合(即ち、Pwa≦Pw≦PwHの場合)、上述と同様、同オーバーライド中に亘ってカット弁PA1,PA2を共に励磁状態(従って、開状態)に維持する一方、オーバーライド開始時点でのホイールシリンダ液圧Pw(PwL≦Pw≦PwH)が所定液圧Pwa未満の場合(即ち、PwL≦Pw<Pwaの場合)、同オーバーライド中に亘ってカット弁PA1のみを励磁状態(従って、開状態)に維持することを考える。
【0098】
ここで、所定液圧Pwaは、上述した図5の実線Aと同一の図6の実線A上の点であってブレーキペダルストロークStが上記値S2となる点である点aを通り、傾きが、ブレーキペダルストロークStが「0」から値S2に達するまでの初期段階における図6における破線B(図5における破線Bと同一)の傾きと同じである直線上の点であってブレーキペダルストロークStが「0」となる点に対応する値(大気圧よりも高い圧力)である(図6を参照)。
【0099】
この場合、自動ブレーキ制御における目標差圧ΔPtが下限値PwLに維持されていてブレーキオーバーライド開始時点でホイールシリンダ液圧Pwが同下限値PwLになっている状態でブレーキオーバーライドが実行されると、ブレーキペダルストロークStとホイールシリンダ液圧Pwとの関係(静的な関係)は、図6の二点鎖線Dで示されるようになる。
【0100】
即ち、ブレーキペダルストロークStが「0」からリザーバRA1のみの最大容量に対応するブレーキペダルストロークである値S3(=(1/2)・S2)に達するまでの初期段階では、ブレーキペダルストロークStの増加に応じてホイールシリンダ液圧Pw1,Pw2(=Pm+ΔPt)が値PwLから点d(図6を参照)に対応する値まで破線Bと略同一の勾配(より正確には、コイルスプリングSP1のバネ定数(及び、リザーバRA1の底部の受圧面積)のみにより決定される勾配)をもって増大していく。
【0101】
ブレーキペダルストロークStが値S3を超えると、ブレーキペダルストロークStとホイールシリンダ液圧Pwとの関係(静的な関係)は、実線Aにおける点d’から上の部分を点d’が点dに一致するまで図6において左方向へ平行移動して得られる線で示される関係となる。
【0102】
以上のことから、オーバーライド開始時点でのホイールシリンダ液圧Pw(PwL≦Pw≦PwH)が所定液圧Pwa未満の場合(即ち、PwL≦Pw<Pwaの場合)、ブレーキペダルストロークStとホイールシリンダ液圧Pwとの関係(静的な関係)を、図6の実線Aよりも図6において上方(或いは、左方)の領域内に必ず置くことができる。また、図6から理解できるように、オーバーライド開始時点でのホイールシリンダ液圧Pw(PwL≦Pw≦PwH)が所定液圧Pwa以上の場合(即ち、Pwa≦Pw≦PwHの場合)も、ブレーキペダルストロークStとホイールシリンダ液圧Pwとの関係(静的な関係)を、図6の実線A上、或いは、同実線Aよりも図6において上方(或いは、左方)の領域内に必ず置くことができる。
【0103】
換言すれば、自動ブレーキ制御が実行されている場合(即ち、目標差圧ΔPtが下限値PwL以上、上限値PwH以下の或る値に設定されている場合)、ブレーキペダルストロークStとホイールシリンダ液圧Pwとの関係(静的な関係)を、図6において微細なドットで示される領域内に置くことができる。従って、ブレーキペダルストロークStに対するホイールシリンダ液圧Pwが通常のブレーキ操作がなされた場合よりも小さくなる事態の発生を防止することができる。
【0104】
以上のことから、本装置は、特定処理として、オーバーライド開始時点でのホイールシリンダ液圧Pw(PwL≦Pw≦PwH)が上記所定液圧Pwa以上の場合(即ち、Pwa≦Pw≦PwHの場合)、同オーバーライド中に亘ってカット弁PA1,PA2を共に励磁状態(従って、開状態)に維持する一方、オーバーライド開始時点でのホイールシリンダ液圧Pw(PwL≦Pw≦PwH)が同所定液圧Pwa未満の場合(即ち、PwL≦Pw<Pwaの場合)、同オーバーライド中に亘ってカット弁PA1のみを励磁状態(従って、開状態)に維持する。
【0105】
以上、上記ブレーキオーバーライド時ブレーキ液吸収部38の作用によるブレーキオーバーライド時におけるブレーキフィーリングの向上について説明した。
【0106】
(実際の作動)
次に、以上のように構成された本発明の第1実施形態に係る自動ブレーキ制御装置の実際の作動について、電気式制御装置50のCPU51が実行するルーチンをフローチャートにより示した図7〜図10を参照しながら説明する。
【0107】
<車輪速度等の算出>
CPU51は、図7に示した車輪速度等の算出を行うルーチンを所定時間(実行間隔時間Δt。例えば、6msec)の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU51はステップ700から処理を開始し、ステップ705に進んで、車輪**の現時点での車輪速度(車輪**の外周の速度)Vw**をそれぞれ算出する。具体的には、CPU51は車輪速度センサ41**の出力値の変動周波数に基づいて車輪速度Vw**をそれぞれ算出する。
【0108】
次いで、CPU51はステップ710に進み、上記求めた車輪速度Vw**に基づいて推定車体速度Vsoを算出する。この推定車体速度Vsoは、例えば、車両が駆動状態にある場合には車輪速度Vw**のうちの最小値に設定され、車両が制動状態にある場合には車輪速度Vw**のうちの最大値に設定される。
【0109】
次いで、CPU51はステップ715に進み、レーダセンサ43の出力に基づいて自車両と前方車両との間の車間距離Lを算出し、続くステップ720にて、ステップ720内に記載の式に基づいて相対接近速度dLを算出する。この相対接近速度dLは、後述する自動ブレーキ制御開始・終了判定の際に使用される。
【0110】
ここで、車間距離Lとしては先のステップ715にて算出した値が使用される。また、Lbは前回の車間距離であって、前回の車間距離Lbとしては前回の本ルーチン実行時にて次のステップ725にて設定されている値が使用される。即ち、CPU71はステップ725にて前回の車間距離Lbを先のステップ715にて算出した(今回の)車間距離Lの値に設定する。そして、CPU51は、ステップ795に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0111】
(自動ブレーキ制御の開始・終了判定)
また、CPU51は、図8に示した自動ブレーキ制御の開始・終了判定を行うルーチンを所定時間(例えば、6msec)の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU51はステップ800から処理を開始し、ステップ805に進んで、自動ブレーキ制御実行フラグCONTの値が「0」になっているか否かを判定する。ここで、自動ブレーキ制御実行フラグCONTは、その値が「1」のとき自動ブレーキ制御が実行されていることを示し、その値が「0」のとき自動ブレーキ制御が実行されていないことを示す。
【0112】
いま、自動ブレーキ制御が実行されていないもの(CONT=0)とすると、CPU51はステップ805にて「Yes」と判定してステップ810に進み、先のステップ710にて求めた推定車体速度Vsoの最新値、ステップ715にて求めた車間距離Lの最新値、及びステップ720にて求めた相対接近速度dLに基づいて、自動ブレーキ制御の開始条件が成立しているか否かの判定を行う。
【0113】
この自動ブレーキ制御の開始条件は、例えば、推定車体速度Vsoが所定範囲内にあって、車間距離が所定値以下であって、且つ、相対接近速度dLが所定値以上である場合等に成立する。
【0114】
いま、自動ブレーキ制御の開始条件が成立していないものとすると、CPU51はステップ815に進んで、「No」と判定してステップ895に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。以降、CPU51は自動ブレーキ制御の開始条件が成立するまでの間、ステップ815に進む毎に「No」と判定する。従って、自動ブレーキ制御実行フラグCONTの値は「0」に維持される。
【0115】
次に、この状態から自動ブレーキ制御の開始条件が成立した場合について説明する。この場合、CPU51はステップ815に進んだとき「Yes」と判定してステップ820に進み、自動ブレーキ制御実行フラグCONTの値を「0」から「1」に変更する。
【0116】
以降、自動ブレーキ制御実行フラグCONTの値が「1」になっているから、CPU51はステップ805に進んだとき「No」と判定してステップ825に進んで、先のステップ810と同様、推定車体速度Vsoの最新値、車間距離Lの最新値、及び相対接近速度dLに基づいて、自動ブレーキ制御の終了条件が成立しているか否かの判定を行う。
【0117】
この自動ブレーキ制御の終了条件は、例えば、推定車体速度Vsoが所定範囲内にない場合、或いは、車間距離が所定値以上である場合、或いは、相対接近速度dLが所定値以下である場合等に成立する。
【0118】
現時点は、自動ブレーキ制御の開始条件が成立した直後であるから自動ブレーキ制御の終了条件が成立していない。従って、CPU51はステップ830に進んで、「No」と判定してステップ895に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。以降、CPU51は自動ブレーキ制御の終了条件が成立するまでの間、ステップ830に進む毎に「No」と判定する。即ち、自動ブレーキ制御の開始条件が成立した後、自動ブレーキ制御の終了条件が成立するまでの間、自動ブレーキ制御実行フラグCONTの値は「1」に維持される。
【0119】
(自動ブレーキ制御の実行)
また、CPU51は、図9に示した自動ブレーキ制御を実行するルーチンを所定時間(例えば、6msec)の経過毎に繰り返し実行している。なお、この図9のルーチンの実行により自動ブレーキ制御手段の機能が達成される。
【0120】
従って、所定のタイミングになると、CPU51はステップ900から処理を開始し、ステップ905に進んで、自動ブレーキ制御実行フラグCONTの値が「1」になっているか否かを判定する。
【0121】
いま、自動ブレーキ制御の開始条件が成立した直後であるものとすると、先のステップ820の処理により自動ブレーキ制御実行フラグCONTの値が「0」から「1」に変更された直後である。従って、CPU51はステップ905にて「Yes」と判定してステップ910に進み、先のステップ710にて求めた推定車体速度Vsoの最新値、ステップ715にて求めた車間距離Lの最新値、ステップ720にて求めた相対接近速度dL、及びVso,L,dLを引数とする所定のテーブルに基づいて、目標差圧ΔPtを決定する。
【0122】
続いて、CPU51はステップ915に進んで、実差圧ΔPが上記決定された目標差圧ΔPtに一致するように、モータMT(従って、液圧ポンプHP1,HP2)、及び常開リニア電磁弁PC1,PC2に対して制御指示を行った後、ステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了する。これにより、自動ブレーキ制御が開始され、この結果、実差圧ΔPが目標差圧ΔPtに向けて増大していき、車両に目標差圧ΔPtに応じた制動力が付与される。
【0123】
以降、CPU51は、自動ブレーキ制御実行フラグCONTの値が「1」に維持されている限りにおいてステップ905〜915を繰り返し実行し、この結果、自動ブレーキ制御が継続される。
【0124】
(カット弁の開・閉制御の実行)
更に、CPU51は、図10に示したカット弁PA1,PA2の開・閉制御を実行するルーチンを所定時間(例えば、6msec)の経過毎に繰り返し実行している。なお、この図10のルーチンの実行により特定処理実行手段の機能が達成される。
【0125】
従って、所定のタイミングになると、CPU51はステップ1000から処理を開始し、ステップ1005に進んで、自動ブレーキ制御実行フラグCONTの値が「1」になっているか否かを判定する。
【0126】
いま、自動ブレーキ制御が継続中であって、ブレーキ操作がなされていないものとすると、先のステップ820の処理により自動ブレーキ制御実行フラグCONTの値が「1」になっている。従って、CPU51はステップ1005にて「Yes」と判定してステップ1010に進み、ブレーキスイッチ42がオフ状態となっているか否かを判定する。
【0127】
現時点では、ブレーキ操作がなされていないから、CPU51はステップ1010にて「Yes」と判定してステップ1015に進み、カット弁PA1のみを開状態とする指示を行う。続いて、CPU51はステップ1020に進んでホイールシリンダ液圧センサ45−2から得られるホイールシリンダ液圧Pw2が上記所定液圧Pwa以上であるか否かを判定する。
【0128】
ここで、先のステップ910にて決定されている目標差圧ΔPtの値が上記所定液圧Pwa以上となっている場合、ホイールシリンダ液圧Pw2が上記所定液圧Pwa以上となっているから、CPU51はステップ1020にて「Yes」と判定してステップ1025に進み、カット弁PA2をも開状態とする指示を行う。これにより、カット弁PA1、PA2共に開状態となる。
【0129】
一方、先のステップ910にて決定されている目標差圧ΔPtの値が上記所定液圧Pwa未満となっている場合、ホイールシリンダ液圧Pw2も上記所定液圧Pwa未満となっているから、CPU51はステップ1020にて「No」と判定してステップ1030に進み、カット弁PA2のみを閉状態とする指示を行う。これにより、カット弁PA1のみが開状態となる。
【0130】
以降、自動ブレーキ制御が継続中(CONT=1)であってブレーキ操作がなされていない状態が継続される限りにおいて、CPU51はステップ1005〜1030の処理を繰り返し実行する。この結果、ホイールシリンダ液圧Pw2が上記所定液圧Pwa以上になっているとカット弁PA1、PA2共に開状態となり、一方、ホイールシリンダ液圧Pw2が上記所定液圧Pwa未満となっているとカット弁PA1のみが開状態となる。
【0131】
次に、この状態にてブレーキ操作が実行された場合(即ち、ブレーキオーバーライドがなされた場合)について説明する。この場合、CPU51はステップ1010に進んだとき「No」と判定してステップ1095に直ちに進むようになる。以降、ブレーキオーバーライドが継続される限りにおいて、CPU51はステップ1005、1010の処理を繰り返し実行する。この結果、カット弁PA1、PA2の状態は、ブレーキオーバーライド開始時点での状態に維持される。
【0132】
即ち、ブレーキオーバーライド開始時点でのホイールシリンダ液圧Pw2が上記所定液圧Pwa以上になっているとカット弁PA1、PA2共に開状態に維持され、一方、ブレーキオーバーライド開始時点でのホイールシリンダ液圧Pw2が上記所定液圧Pwa未満となっているとカット弁PA1のみが開状態に維持される。これにより、ブレーキオーバーライドがなされた場合におけるブレーキフィーリングが向上する。
【0133】
次に、自動ブレーキ制御が実行されている場合(CONT=1)において自動ブレーキ制御の終了条件が成立した場合について説明する。この場合、図8のルーチンを繰り返し実行しているCPU51は、ステップ830に進んだとき「Yes」と判定してステップ835に進むようになり、自動ブレーキ制御実行フラグCONTの値を「1」から「0」に変更する。
【0134】
これにより、CPU51は、ステップ805に進んだとき「Yes」と判定するようになり、ステップ810、815にて自動ブレーキ制御の開始条件が成立しているか否かを再びモニタするようになる。
【0135】
また、これにより、図9のルーチンを繰り返し実行しているCPU51は、ステップ905に進んだとき「No」と判定してステップ920に進むようになり、総ての電磁弁を非励磁状態とし、且つ、モータMTを非駆動状態とする指示を行う。これにより、自動ブレーキ制御が終了する。
【0136】
更には、図10のルーチンを繰り返し実行しているCPU51は、ステップ1005に進んだとき「No」と判定してステップ1035に進み、ブレーキスイッチ42がオフ状態となっているか否かを判定し、「No」と判定する場合はステップ1095に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0137】
一方、ブレーキスイッチ42がオフ状態となっている場合(即ち、ブレーキ操作がなされておらず、マスタシリンダ液圧Pmが「0」となっている場合)、CPU51はステップ1035にて「Yes」と判定して上述したステップ1040に進んでカット弁PA1,PA2を閉状態にする指示を行う。即ち、自動ブレーキ制御の終了条件が成立してもブレーキペダル操作がなされている間は、カット弁PA1,PA2を閉状態にする指示がなされない。
【0138】
これにより、リザーバRA1,RA2の容量が最小容量(例えば、「0」)となった状態でカット弁PA1,PA2が閉弁されることが保証されるから、次に自動ブレーキ制御が開始されてブレーキオーバーライドがなされる場合においてリザーバRA1,RA2内に同リザーバの最大容量のブレーキ液がそれぞれ吸収され得ることが保証される。従って、ブレーキオーバーライド時において違和感の少ないブレーキフィーリングを安定して得ることができる。
【0139】
以上、説明したように、本発明の第1実施形態に係る自動ブレーキ制御装置は、マスタシリンダMCから吐出されたブレーキ液を吸収可能なリザーバRA1,RA2と、同リザーバRA1,RA2内へのブレーキ液の導入を許容・禁止可能なカット弁PA1,PA2とを備えた自動ブレーキ装置に適用される。この自動ブレーキ制御装置によれば、自動ブレーキ制御(本例では、低速走行時車間距離制御)が実行されている場合、ホイールシリンダ液圧Pw2が上記所定液圧Pwa以上になっているとカット弁PA1、PA2が共に開状態とされ、ホイールシリンダ液圧Pw2が上記所定液圧Pwa未満となっているとカット弁PA1のみが開状態とされる。そして、ブレーキオーバーライドが開始されると、カット弁PA1、PA2の状態が保持される。
【0140】
これにより、ブレーキオーバーライドがなされた場合、ホイールシリンダ液圧Pw2が上記所定液圧Pwa以上になっていると、ブレーキペダルストロークStに応じてマスタシリンダMCから吐出されるブレーキ液がリザーバRA1,RA2の最大容量分(ブレーキペダルストロークS2に相当)だけ同リザーバRA1,RA2内に吸収される。一方、ホイールシリンダ液圧Pw2が上記所定液圧Pwa未満になっていると、ブレーキペダルストロークStに応じてマスタシリンダMCから吐出されるブレーキ液がリザーバRA1のみの最大容量分(ブレーキペダルストロークS3に相当)だけ同リザーバRA1内に吸収される。
【0141】
よって、ブレーキオーバーライドがなされた場合におけるブレーキペダルストロークStとホイールシリンダ液圧Pwとの関係を図6に微細なドットで示した領域内に置くことができる。この結果、ブレーキペダルストロークStに対するホイールシリンダ液圧Pwが通常のブレーキ操作がなされた場合よりも小さくなる事態の発生を防止することができるとともに、ブレーキオーバーライドがなされた場合において違和感の少ないブレーキフィーリングを得ることができる。
【0142】
本発明は上記第1実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記第1実施形態においては、ブレーキオーバーライド開始時点でのホイールシリンダ液圧Pw2が上記所定液圧Pwa以上になっているか否かによってカット弁PA2の開閉状態が決定されるようになっているが、ブレーキオーバーライド開始時点でのホイールシリンダ液圧Pw1が上記所定液圧Pwa以上になっているか否かによってカット弁PA2の開閉状態が決定されるように構成してもよい。
【0143】
また、上記実施形態においては、リザーバRA1,RA2の最大容量が等しくなっているが、リザーバRA1,RA2の最大容量を異ならせてもよい。これにより、図6に微細なドットで示した領域をより一層自由に調整することができ、ブレーキオーバーライドがなされた場合においてより違和感の少ないブレーキフィーリングを得ることができる。
【0144】
また、上記第1実施形態においては、ブレーキオーバーライド時ブレーキ液吸収部38は、リザーバ(RA1,RA2)と電磁弁(PA1,PA2)とを系統毎に備えているが(図2を参照)、図11に示すように、何れか一方の系統のみにリザーバ(RA1)と電磁弁(PA1)とを備えるように構成してもよい。
【0145】
この場合、リザーバ(RA1)の最大容量は、上記第1実施形態におけるリザーバRA1,RA2の各最大容量の合計量とすることが好適である。また、この場合、リザーバ(RA1)が備えられる系統のマスタシリンダ容積を、上記第1実施形態におけるものよりも大きめに設定することが好ましい。
【0146】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る自動ブレーキ制御装置について説明する。この自動ブレーキ制御装置は、リザーバRA1,RA2、及びカット弁PA1,PA2に代えて減圧弁PD**を制御することで、ブレーキオーバーライドがなされた場合におけるブレーキストロークStとホイールシリンダ液圧Pwとの静的な関係を通常のブレーキ操作がなされた場合の関係に近づける点で第1実施形態と異なっている。従って、以下、係る相違点を中心に説明する。
【0147】
図12は、この第2実施形態に係る自動ブレーキ制御装置が適用される自動ブレーキ装置10が備えるブレーキ液圧制御装置30の概略構成を示している。この自動ブレーキ装置10は、ブレーキオーバーライド時ブレーキ液吸収部38を省略した点、ホイールシリンダ液圧センサ45−1,45−2を省略した点、各車輪のホイールシリンダ液圧Pw**を個別に検出するホイールシリンダ液圧センサ45**を新たに追加した点、ブレーキペダルストロークStを検出するブレーキペダルストロークセンサ46(ストローク取得手段。図1を参照)を新たに追加した点においてのみ、図1、及び図2に示した自動ブレーキ装置10と異なる。
【0148】
(第2実施形態の実際の作動)
以下、第2実施形態に係る自動ブレーキ制御装置の実際の作動について説明する。この装置のCPU51は、第1実施形態のCPU51が実行する図7〜図9に示した各ルーチンをそのまま実行するとともに、図10に示したルーチンに代えて図13にフローチャートにより示したルーチンを実行する。以下、第2実施形態に特有の図13に示したルーチンについて説明する。
【0149】
CPU51は、図13に示した減圧弁PD**の制御するためのルーチンを所定時間(例えば、6msec)の経過毎に繰り返し実行している。なお、この図13のルーチンの実行により特定処理実行手段の機能が達成される。
【0150】
従って、所定のタイミングになると、CPU51はステップ1300から処理を開始し、ステップ1305に進んで、自動ブレーキ制御実行フラグCONTの値が「1」になっていて、且つ、ブレーキスイッチ42がオン状態となっているか否か(即ち、ブレーキオーバーライドがなされているか否か)を判定し、「No」と判定する場合、ステップ1395に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0151】
いま、ブレーキオーバーライドがなされているものとすると、CPU51はステップ1305にて「Yes」と判定してステップ1310に進み、図9のステップ910にて設定されている目標差圧ΔPtに基づいて目標とする「ブレーキペダルストローク−ホイールシリンダ液圧特性」(目標St−Pw特性)を決定する。
【0152】
目標St−Pw特性としては、例えば、第1実施形態により得られる図6に示したブレーキオーバーライド時におけるSt−Pw特性が使用される。即ち、目標St−Pw特性は、例えば、目標差圧ΔPtが値PwCに設定されている場合には図6における破線Bで示される特性に設定され、目標差圧ΔPtが値PwHに設定されている場合には図6における一点鎖線Cで示される特性に設定され、目標差圧ΔPtが値PwLに設定されている場合には図6における二点鎖線Dで示される特性に設定される。
【0153】
このように、目標St−Pw特性は、図6の実線Aで示される通常のブレーキ操作がなされた場合におけるSt−Pw特性に近づくように、少なくとも通常のブレーキ操作がなされた場合におけるSt−Pw特性に基づいて決定される。このステップ1310は、目標決定手段に相当する。
【0154】
続いて、CPU51はステップ1315に進んで、ブレーキペダルストロークセンサ46から得られる現時点でのブレーキペダルストロークStと、上記決定された目標St−Pw特性とに基づいて目標液圧Ptを決定する。
【0155】
そして、CPU51はステップ1320に進み、各ホイールシリンダ液圧Pw**が上記決定された目標液圧Ptと一致するように減圧弁PD**に開・閉制御指示を与え、ステップ1395に進んで本ルーチンを一旦終了する。以降、ブレーキオーバーライドがなされている限りにおいて、CPU51は1305にて「Yes」と判定し、この結果、係る減圧弁PD**の制御が継続される。
【0156】
これにより、目標差圧ΔPtが値PwCに設定されている場合を例に採ると、ブレーキオーバーライド時におけるSt−Pw特性は、係る減圧弁PD**の制御が実行されない場合(減圧弁PD**が閉状態に維持される場合)は図4の破線Bで示す特性になるのに対し、係る減圧弁PD**の制御が実行される場合(第2実施形態の場合)には図6の破線Bで示す特性になる。即ち、第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、ブレーキオーバーライドがなされた場合において違和感の少ないブレーキフィーリングを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0157】
【図1】本発明の第1実施形態に係る自動ブレーキ制御装置を搭載した車両の概略構成図である。
【図2】図1に示したブレーキ液圧制御装置の概略構成図である。
【図3】図2に示した常開リニア電磁弁についての指令電流と指令差圧との関係を示したグラフである。
【図4】ブレーキペダルストロークとホイールシリンダ液圧との関係を、通常のブレーキ操作がなされた場合とブレーキオーバーライドがなされた場合とで比較しながら示したグラフである。
【図5】本発明の適用により得られる、ブレーキオーバーライドがなされた場合におけるブレーキペダルストロークとホイールシリンダ液圧との静的な関係を示したグラフである。
【図6】図5に示したブレーキオーバーライドがなされた場合におけるブレーキペダルストロークとホイールシリンダ液圧との静的な関係を更に改良した関係を示したグラフである。
【図7】図1に示したCPUが実行する車輪速度等を算出するためのルーチンを示したフローチャートである。
【図8】図1に示したCPUが実行する自動ブレーキ制御の開始・終了判定を行うためのルーチンを示したフローチャートである。
【図9】図1に示したCPUが実行する自動ブレーキ制御を行うためのルーチンを示したフローチャートである。
【図10】図1に示したCPUが実行するカット弁の開・閉制御を行うためのルーチンを示したフローチャートである。
【図11】本発明の第1実施形態の変形例に係る自動ブレーキ制御装置が適用される自動ブレーキ装置が備えるブレーキ液圧制御装置の概略構成図である。
【図12】本発明の第2実施形態に係る自動ブレーキ制御装置が適用される自動ブレーキ装置が備えるブレーキ液圧制御装置の概略構成図である。
【図13】本発明の第2実施形態に係る自動ブレーキ制御装置のCPUが実行する減圧弁の制御を行うためのルーチンを示したフローチャートである。
【図14】ブレーキペダルストロークとホイールシリンダ液圧との関係を、通常のブレーキ操作がなされた場合とブレーキオーバーライドがなされた場合とで比較しながら示したグラフである。
【符号の説明】
【0158】
10…車両の運動制御装置、30…ブレーキ液圧制御装置、41**…車輪速度センサ、42…ブレーキスイッチ、43…レーダセンサ、44…マスタシリンダ液圧センサ、45−1,45−2,45**…ホイールシリンダ液圧センサ、46…ブレーキペダルストロークセンサ、50…電気式制御装置、51…CPU、PA1,PA2…カット弁、RA1,RA2…リザーバ、SP1,SP2…コイルスプリング、PD**…減圧弁
【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者によるブレーキ操作部材の操作とは独立して、同ブレーキ操作部材の操作に応じて発生するマスタシリンダ液圧よりも高いホイールシリンダ液圧を発生させるための加圧用液圧を発生可能な加圧手段と、
前記加圧手段による前記加圧用液圧を利用して前記マスタシリンダ液圧に対する加圧量を調整可能な調圧手段と、
前記加圧手段、及び前記調圧手段を制御することにより発生する、前記マスタシリンダ液圧に前記加圧量を加えた液圧を利用して、前記運転者による前記ブレーキ操作部材の操作とは独立して前記ホイールシリンダ液圧を自動制御する自動ブレーキ制御を実行する自動ブレーキ制御手段と、
を備えた自動ブレーキ装置に適用される自動ブレーキ制御装置であって、
前記自動ブレーキ制御手段により前記自動ブレーキ制御が実行されている場合、前記運転者による前記ブレーキ操作部材の操作ストロークと前記ホイールシリンダ液圧との関係を前記自動ブレーキ制御が実行されていない場合における同ブレーキ操作部材の操作ストロークと同ホイールシリンダ液圧との関係に近づけるための特定処理を実行する特定処理実行手段を備えた自動ブレーキ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の自動ブレーキ制御装置であって、
前記自動ブレーキ装置は、
マスタシリンダから吐出された前記マスタシリンダ液圧を有するブレーキ液を吸収可能なリザーバと、
前記マスタシリンダ液圧を有するブレーキ液の前記リザーバ内への導入を許容・禁止可能な電磁弁とを更に備え、
前記特定処理実行手段は、
前記自動ブレーキ制御が実行されていない場合、前記マスタシリンダ液圧を有するブレーキ液の前記リザーバ内への導入が禁止されるように前記電磁弁を制御し、同自動ブレーキ制御が実行されている場合、前記特定処理として同ブレーキ液の同リザーバ内への導入が許容されるように同電磁弁を制御するよう構成された自動ブレーキ制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の自動ブレーキ制御装置において、
前記リザーバは、同リザーバ内に吸収されたブレーキ液量の増加に応じて同リザーバ内のブレーキ液圧を増大させる液圧調整機構を備えた自動ブレーキ制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の自動ブレーキ制御装置において、
前記液圧調整機構は、前記リザーバ内のブレーキ液圧に応じた力を受ける弾性部材の弾性力を利用して構成されている自動ブレーキ制御装置。
【請求項5】
請求項2乃至請求項4の何れか一項に記載の自動ブレーキ制御装置において、
前記自動ブレーキ装置は、2系統のブレーキ液圧回路を備えるとともに前記リザーバと前記電磁弁とを系統毎に備え、
前記特定処理実行手段は、
前記自動ブレーキ制御が実行されていない場合、前記マスタシリンダ液圧を有するブレーキ液の対応する前記リザーバ内への導入が禁止されるように前記2系統の電磁弁をそれぞれ制御するとともに、
前記自動ブレーキ制御が実行されている場合、前記マスタシリンダ液圧を有するブレーキ液の対応する前記リザーバ内への導入が許容されるように一方の前記電磁弁を常に制御し、前記運転者による前記ブレーキ操作部材の操作が開始された時点での前記ホイールシリンダ液圧が大気圧よりも高い所定液圧以上になっていた場合にのみ同ブレーキ液の対応する前記リザーバ内への導入が許容されるように他方の前記電磁弁を制御するよう構成された自動ブレーキ制御装置。
【請求項6】
請求項1に記載の自動ブレーキ制御装置であって、
前記自動ブレーキ装置は、
前記ホイールシリンダ液圧を前記マスタシリンダ液圧に前記加圧量を加えた液圧よりも低い液圧に調整するための減圧弁を更に備えるとともに、
前記運転者による前記ブレーキ操作部材の操作ストロークを取得するストローク取得手段と、
前記自動ブレーキ制御が実行されている場合、前記自動ブレーキ制御が実行されていない場合における前記運転者による前記ブレーキ操作部材の操作ストロークと前記ホイールシリンダ液圧との関係に少なくとも基づいて同ブレーキ操作部材の操作ストロークと同ホイールシリンダ液圧との関係の目標を決定する目標決定手段と、
を更に備え、
前記特定処理実行手段は、
前記自動ブレーキ制御が実行されている場合であって前記運転者による前記ブレーキ操作部材の操作がなされている場合、前記取得された操作ストロークと、前記決定された関係の目標とから前記ホイールシリンダ液圧の目標値を決定するとともに、前記ホイールシリンダ液圧が同目標値に一致するように、前記特定処理として前記減圧弁を制御するよう構成された自動ブレーキ制御装置。
【請求項7】
運転者によるブレーキ操作部材の操作とは独立して、同ブレーキ操作部材の操作に応じて発生するマスタシリンダ液圧よりも高いホイールシリンダ液圧を発生させるための加圧用液圧を発生可能な加圧手段と、
前記加圧手段による前記加圧用液圧を利用して前記マスタシリンダ液圧に対する加圧量を調整可能な調圧手段と、
を備えた自動ブレーキ装置に適用される自動ブレーキ制御用プログラムであって、
前記加圧手段、及び前記調圧手段を制御することにより発生する、前記マスタシリンダ液圧に前記加圧量を加えた液圧を利用して、前記運転者による前記ブレーキ操作部材の操作とは独立して前記ホイールシリンダ液圧を自動制御する自動ブレーキ制御を実行する自動ブレーキ制御ステップと、
前記自動ブレーキ制御手段により前記自動ブレーキ制御が実行されている場合、前記運転者による前記ブレーキ操作部材の操作ストロークと前記ホイールシリンダ液圧との関係を前記自動ブレーキ制御が実行されていない場合における同ブレーキ操作部材の操作ストロークと同ホイールシリンダ液圧との関係に近づけるための特定処理を実行する特定処理実行ステップと、
を備えた自動ブレーキ制御用プログラム。
【請求項1】
運転者によるブレーキ操作部材の操作とは独立して、同ブレーキ操作部材の操作に応じて発生するマスタシリンダ液圧よりも高いホイールシリンダ液圧を発生させるための加圧用液圧を発生可能な加圧手段と、
前記加圧手段による前記加圧用液圧を利用して前記マスタシリンダ液圧に対する加圧量を調整可能な調圧手段と、
前記加圧手段、及び前記調圧手段を制御することにより発生する、前記マスタシリンダ液圧に前記加圧量を加えた液圧を利用して、前記運転者による前記ブレーキ操作部材の操作とは独立して前記ホイールシリンダ液圧を自動制御する自動ブレーキ制御を実行する自動ブレーキ制御手段と、
を備えた自動ブレーキ装置に適用される自動ブレーキ制御装置であって、
前記自動ブレーキ制御手段により前記自動ブレーキ制御が実行されている場合、前記運転者による前記ブレーキ操作部材の操作ストロークと前記ホイールシリンダ液圧との関係を前記自動ブレーキ制御が実行されていない場合における同ブレーキ操作部材の操作ストロークと同ホイールシリンダ液圧との関係に近づけるための特定処理を実行する特定処理実行手段を備えた自動ブレーキ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の自動ブレーキ制御装置であって、
前記自動ブレーキ装置は、
マスタシリンダから吐出された前記マスタシリンダ液圧を有するブレーキ液を吸収可能なリザーバと、
前記マスタシリンダ液圧を有するブレーキ液の前記リザーバ内への導入を許容・禁止可能な電磁弁とを更に備え、
前記特定処理実行手段は、
前記自動ブレーキ制御が実行されていない場合、前記マスタシリンダ液圧を有するブレーキ液の前記リザーバ内への導入が禁止されるように前記電磁弁を制御し、同自動ブレーキ制御が実行されている場合、前記特定処理として同ブレーキ液の同リザーバ内への導入が許容されるように同電磁弁を制御するよう構成された自動ブレーキ制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の自動ブレーキ制御装置において、
前記リザーバは、同リザーバ内に吸収されたブレーキ液量の増加に応じて同リザーバ内のブレーキ液圧を増大させる液圧調整機構を備えた自動ブレーキ制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の自動ブレーキ制御装置において、
前記液圧調整機構は、前記リザーバ内のブレーキ液圧に応じた力を受ける弾性部材の弾性力を利用して構成されている自動ブレーキ制御装置。
【請求項5】
請求項2乃至請求項4の何れか一項に記載の自動ブレーキ制御装置において、
前記自動ブレーキ装置は、2系統のブレーキ液圧回路を備えるとともに前記リザーバと前記電磁弁とを系統毎に備え、
前記特定処理実行手段は、
前記自動ブレーキ制御が実行されていない場合、前記マスタシリンダ液圧を有するブレーキ液の対応する前記リザーバ内への導入が禁止されるように前記2系統の電磁弁をそれぞれ制御するとともに、
前記自動ブレーキ制御が実行されている場合、前記マスタシリンダ液圧を有するブレーキ液の対応する前記リザーバ内への導入が許容されるように一方の前記電磁弁を常に制御し、前記運転者による前記ブレーキ操作部材の操作が開始された時点での前記ホイールシリンダ液圧が大気圧よりも高い所定液圧以上になっていた場合にのみ同ブレーキ液の対応する前記リザーバ内への導入が許容されるように他方の前記電磁弁を制御するよう構成された自動ブレーキ制御装置。
【請求項6】
請求項1に記載の自動ブレーキ制御装置であって、
前記自動ブレーキ装置は、
前記ホイールシリンダ液圧を前記マスタシリンダ液圧に前記加圧量を加えた液圧よりも低い液圧に調整するための減圧弁を更に備えるとともに、
前記運転者による前記ブレーキ操作部材の操作ストロークを取得するストローク取得手段と、
前記自動ブレーキ制御が実行されている場合、前記自動ブレーキ制御が実行されていない場合における前記運転者による前記ブレーキ操作部材の操作ストロークと前記ホイールシリンダ液圧との関係に少なくとも基づいて同ブレーキ操作部材の操作ストロークと同ホイールシリンダ液圧との関係の目標を決定する目標決定手段と、
を更に備え、
前記特定処理実行手段は、
前記自動ブレーキ制御が実行されている場合であって前記運転者による前記ブレーキ操作部材の操作がなされている場合、前記取得された操作ストロークと、前記決定された関係の目標とから前記ホイールシリンダ液圧の目標値を決定するとともに、前記ホイールシリンダ液圧が同目標値に一致するように、前記特定処理として前記減圧弁を制御するよう構成された自動ブレーキ制御装置。
【請求項7】
運転者によるブレーキ操作部材の操作とは独立して、同ブレーキ操作部材の操作に応じて発生するマスタシリンダ液圧よりも高いホイールシリンダ液圧を発生させるための加圧用液圧を発生可能な加圧手段と、
前記加圧手段による前記加圧用液圧を利用して前記マスタシリンダ液圧に対する加圧量を調整可能な調圧手段と、
を備えた自動ブレーキ装置に適用される自動ブレーキ制御用プログラムであって、
前記加圧手段、及び前記調圧手段を制御することにより発生する、前記マスタシリンダ液圧に前記加圧量を加えた液圧を利用して、前記運転者による前記ブレーキ操作部材の操作とは独立して前記ホイールシリンダ液圧を自動制御する自動ブレーキ制御を実行する自動ブレーキ制御ステップと、
前記自動ブレーキ制御手段により前記自動ブレーキ制御が実行されている場合、前記運転者による前記ブレーキ操作部材の操作ストロークと前記ホイールシリンダ液圧との関係を前記自動ブレーキ制御が実行されていない場合における同ブレーキ操作部材の操作ストロークと同ホイールシリンダ液圧との関係に近づけるための特定処理を実行する特定処理実行ステップと、
を備えた自動ブレーキ制御用プログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2006−159949(P2006−159949A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−350159(P2004−350159)
【出願日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】
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